JP5146945B2 - 抗血栓性コーティング剤及び医療用具 - Google Patents

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Description

本発明は、優れた抗血液凝固性(抗血栓性)を長期間に亘って持続することができ、生体組織に適用したり、人工臓器や人工血管などの各種医療用具の構成材料として適用が可能な抗血栓性コーティング剤と、この抗血栓性コーティング剤がコーティングされた医療用具とに関する。
血液は異物と接触した場合に、血液中の種々の成分の作用により凝固してしまう性質を有している。したがって、人工心臓、人工心臓弁、人工血管、血管カテーテル、カニューレ、人工心肺、血管バイパスチューブ、大動脈バルーンポンピング、輸血用具及び体外循環回路などの血液と接触する部位に使用される医療用具の構成材料には、高い抗血液凝固性が要求される。しかしながら、従来の医療用具の構成材料の多くは長期間に亘って使用した場合には血液凝固が生じることが避けられず、抗血液凝固性の持続力という点において充分ではない。また、上記の医療用具を患者に施用する場合には、通常、ヘパリンなどの抗血液凝固剤を医療用材料の表面に固定するか又は徐放させる技術が種々提案されていた。例えば、カチオン性残基を有したポリマー材料にヘパリンを接触させ、ヘパリンをイオン結合状に該ポリマー材料に担持させたものとして、ポリ塩化ビニルとアクリル酸又はメタクリル酸との共重合体にヘパリン又はその塩をイオン結合してなるコーティング用の抗血栓性医療材料が特許第3341503号に記載されている。
しかしながら、ウシなどの肝臓から抽出して得る生物由来物質であるヘパリンには未知ウイルス、有害プリオン、細菌が混入する問題があり、さらにその抗血栓の活性も個体ごとのバラツキや製造ロットごとのバラツキが大きく、投与量と効果の制御が困難である問題があった。そこで、生物由来物質ではなく化学合成で製造可能な合成高分子での抗血栓コーティングの技術が研究され、例えば、メトキシエチル(メタ)アクリレートと塩基性官能基を有するモノマーとのコポリマーよりなる抗血栓コーティング剤及びこれを医療用材料の表面に固定した抗血栓性医療用具が特開2002−105136号に記載されている。
特許第3341503号 特開2002−105136号
上記特開2002−105136号では、上記コポリマーを溶媒に溶解させて血液フィルター、カテーテル等の対象物に塗布している。この溶媒としては、アルコール、クロロホルム、アセトン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒が用いられている(同号公報0050段落)。
このように有機溶媒を用いる場合、再生医療で利用される細胞と合成あるいは生体材料からなるハイブリッド組織体や宿主から摘出した生体組織などの表面処理には使用できない(有機溶媒によって細胞が死滅したり傷害を受けるため)。また、材料自体に有機溶媒に弱いものもある(ニトルセルロースなど)。あるいは、薬物放出性ステントのように、薬物をコートした医療用具の表面処理の際には、有機溶媒によって薬物を担持させた高分子層を剥がすなど損傷を与える場合がある。
本発明は、上記従来の問題点を解消し、化学合成可能な抗血栓物質を活性の本体として生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度よりも高い温度では疎水性となる温度応答性を有した抗血栓コーティング剤を提供することを目的とする。
本発明の抗血栓性コーティング剤は、硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類又はその塩を担持したポリマー材料よりなる抗血栓性コーティング剤において、該ポリマー材料は、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性であり、該ポリマー材料は、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させて形成したカチオン性ポリマーブロックを有した分岐型重合体であり、該ビニル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドであることを特徴とするものである。
このカチオン性ホモポリマーの分子量は、2,000〜500,000が好ましい。
このポリマー材料の分子量は、3,000〜600,000であることが好ましい。
前記所定温度(T)は、25〜35℃の間の温度であることが好ましい。
このN,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が結合しているものが好ましい。
本発明の医療用具は、かかる本発明の抗血栓性コーティング剤がコーティングされたものである。
本発明の抗血栓性コーティング剤は、化学合成が可能な抗血栓性物質を複合体化させたものであり、上記所定温度よりも低い温度では親水性で水溶性であるため、これを水に溶解させて生体あるいは医療用具に塗布し、その後、所定温度よりも高い温度とすることにより、疎水性(水不溶性)となり、生体あるいは医療用具に付着する。
この抗血栓性コーティング剤は、生物由来物質を使用しないので、ウイルスやプリオンの混入のリスクがなく、抗血栓活性も製造ロット間で安定している。また、有機溶媒を用いていないので、ハイブリッド材料やあるいは生体に対しても適用できる。
本発明の抗血栓性コーティング剤は、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性であるポリマー材料を基材とし、これに硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類又はその塩を担持させている。
硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが例示される。
上記のポリマー材料としては、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させた分岐型重合体が好適である。
なお、本明細書において、イニファターとは、光照射によりラジカルを発生させる重合開始剤、連鎖移動剤としての機能と共に、成長末端と結合して成長を停止する機能、さらに光照射が停止すると重合を停止させる重合開始・重合停止剤として機能する分子のことである。
N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物としては、ベンゼン環に該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が3個以上分岐鎖として結合しているものが好適であり、具体的には次が例示される。即ち、3分岐鎖としては、1,3,5−トリ(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジチオカルバミル酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,3,5−トリ(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、4分岐鎖としては、1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチル)ベンゼンとN,N−ジチオカルバミル酸ナトリウム(ナトリウムN,N−ジチオカルバメート)とをエタノール中で付加反応させて得られる1,2,4,5−テトラキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンであり、6分岐鎖としては、ヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼンとナトリウムN,N−ジチオカルバメートとをエタノール中で付加反応させて得られるヘキサキス(N,N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンである。
上記のイニファターは、アルコール等の極性溶媒に対しては殆ど不溶であるが、非極性溶媒には易溶である。この非極性溶媒としては炭化水素、ハロゲン化アルキル又はハロゲン化アルキレンが好適であり、特に、ベンゼン、トルエン、クロロホルム又は塩化メチレン特にトルエンが好適である。
このイニファターに重合させるモノマーとしては、ビニル系モノマー、アクリル酸誘導体、スチレン誘導体等、とりわけビニル系モノマーが好適であり、具体的には3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドCH=CHCONHCN(CHが好ましい。
イニファターと上記モノマーとを反応させるには、イニファター及びモノマーを含んでなる原料溶液を調製し、これに光照射することによって、イニファターに対しモノマーが結合した反応生成物を生成させる。
このモノマーの該原料溶液中の濃度は0.1M以上、例えば0.5M〜2.5Mが好適である。
イニファターの濃度は0.1mM〜100mM程度が好適である。
照射する光の波長は240〜400nmが好適である。光の照射時間は照射強度にも依存するが、1〜60分程度が好適であり、1μW/cm〜10mW/cm程度の低い照射強度で1分〜30分程度が特に好適である。
なお、この光照射工程(第1の光照射工程)の後にさらに第2の光照射工程を行ってもよい。すなわち、この反応生成物を含む溶液をアルコール、好ましくは上記モノマーのアルコール溶液で希釈する。このアルコールとしてはメタノール又はエタノール、特にメタノールが好適である。アルコール溶液中のモノマー濃度としては、終濃度として、0.1M〜2.5M程度が好適である。
上記第1の光照射工程からの反応生成物含有液1体積部に対し、このアルコール溶液5〜500体積部を添加するのが好ましい。
このようにアルコール溶液で希釈した希釈液を、第2の光照射工程に供し、上記反応生成物に対しさらに上記モノマーを重合させる。この際の照射光源としては240〜400nmの波長の光を含むものであればよく、例えば低圧水銀灯や高圧水銀灯などを用いることができる。光照射時間は10分〜120分程度が好適である。
この光照射により、反応液中に目的とする分岐型重合体が生成するので、必要に応じ精製して分岐型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーを得る。
この分岐型重合体の分子量は分岐鎖の鎖数によるが、2,000〜500,000、特に2,000〜150,000、とりわけ2,000〜100,000程度が好ましい。
このようにして生成した分岐型重合体よりなるカチオン性ポリマーに対し、N−イソプロピルアクリルアミドをブロック共重合させて目的とするポリマー材料とする。このN−イソプロピルアクリルアミドのポリマー鎖は、低温度では親水性、高温では疎水性となる温度依存性を有し、これにより上記ポリマー材料が上記温度応答性を具備するようになる。
N−イソプロピルアクリルアミドをブロック共重合させるには、上記のようにして合成した分岐型重合体をメタノール等の溶媒に溶解させ、これにN−イソプロピルアクリルアミドを混合し、光を照射して重合させればよい。この重合反応を開始する際の溶液中における分岐型ポリマーの濃度は0.1mM〜100mM程度が好適であり、N−イソプロピルアクリルアミドの濃度は0.1M〜2.5M程度が好適である。光の照射条件は、光波長250〜400nm、照射時間1〜150分、照射強度100〜10,000μW/cm程度が好適である。
このブロック共重合体(ポリマー材料)の分子量は3,000〜600,000、特に3,000〜150,000であることが好ましい。
このポリマー材料に、硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類又はその塩を担持させるには、ポリマー材料の低温の水溶液に該多糖類又はその塩を添加し、混合すればよい。この際、ポリマー材料1重量部に対し硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類又はその塩を0.01〜30重量部特に0.1〜10重量部添加するのが好ましく、ブロック共重合体の分子量や分岐鎖の鎖数、コーティングしようとする材料の表面状態によって適宜調整することができる。一般には、硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類又はその塩が10重量部よりも多いと、ヒト体温付近でも硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類又はその塩の水溶性が高くなり、材料表面への固定が困難になる。一方、硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類又はその塩の添加量が0.1重量部よりも少ないと、抗血栓効果が乏しくなる。
硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類は、D−グルコースの1位及び3位の炭素に結合したOH基同士が脱水縮合したものであって、かつ6位、4位及び/又は2位の炭素に対し硫酸基(−SOH)を結合させたものであり、硫酸基の結合数としては、D−グルコース1ユニット中に平均して1個〜2個程度である。硫酸基が導入される前の1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖は、『カードラン』の名称で食品添加物などとして公知であり、微生物発酵法により製造される。この多糖への硫酸基の導入は、例えば、DMSO溶媒中でピペリジン−N−硫酸を作用させることで行うことが可能である。
この多糖類のD−グルコースの重合度(繰り返し単位の数)は数10〜数10万程度が好ましい。この多糖類の塩としては、硫酸基のHを置換したナトリウム塩、カリウム塩又はアンモニウム塩が好ましい。なお、すべての硫酸基について置換してもよく、一部の硫酸基についてのみ置換してもよいが、ヒトの体温(約36℃)付近で水不溶性とするためには、硫酸基の一部のみを塩の形態とすることが好ましい。
ポリマー材料に硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類又はその塩を0.1〜5重量部担持させてなる抗血栓コーティング剤は、約30℃よりも高い温度で水不溶性であり、約30℃よりも低い温度で水溶性である。
従って、約30℃よりも低い温度例えば10〜25℃程度の硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類又はその塩の水溶液(濃度は好ましくは、3〜150mg/mL程度)を生体あるいは医療用具に塗布などにより付着させ、30℃よりも高い温度に昇温させ、必要に応じ乾燥させることにより、水不溶性の、硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類又はその塩を担持したコーティングが形成される。生体の場合、この際の昇温は生体の体温によって行われる。
この医療用具としては、人工心臓、人工心臓弁、人工血管、血管カテーテル、血管ステント、カニューレ、人工心肺、血管バイパスチューブ、大動脈バルーンポンピング、輸血用具及び体外循環回路などの血液と接触する部位に使用される医療用具などが例示される。医療用具に適用する場合、医療用具の表面1cm当りに硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類又はその塩のコーティング剤を0.1〜30mg程度付着させるのが好ましい。
実施例1
i)イニファターの合成
下記反応式に従って、1,2,4,5−テトラキス(N−Nジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンを次のようにして合成した。
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)2.0gとN,N−ジエチルジチオカルバミル酸ナトリウム12.0gをエタノール10mL中へ加え、遮光下で室温で4日間攪拌した。沈殿物を濾過し、減圧乾燥後、クロロホルム40mLへ溶解し、50mLの水を加えて抽出分離し、臭化ナトリウムを除去した。この操作を3回繰り返した後、クロロホルム層を約10gの硫酸マグネシウムで24時間乾燥させて、濾過後、n−ヘキサンを加え、再結晶を行って精製し、微かに淡青色を帯びた1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼンの白色結晶を得た(収率90%)。
H NMR(in CDCl)の測定結果はσ7.48(s,2H,Ar−H),σ4.57(s,2H×4,Ar−CHS−),σ4.03(q,2H×4,N−CH−,J=10.7Hz),σ3.72(q,2H×4,N−CH−,J=10.7Hz),σ1.26−1.31(t,3H×8,−CH−CH,J=6.6Hz)となった。
Figure 0005146945
ii)光重合による4分岐型スター型重合体よりなるカチオン性ホモポリマーの合成
下記反応式に従い、次のようにして、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル(ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAPAAmと記載することがある。)よりなるカチオン性ホモポリマーの合成を行った。
即ち、上記i)により合成した1,2,4,5−テトラサキス(N,N−ジエチルジチオカルバミルメチル)ベンゼン0.43gを10mLのトルエンへ溶解し、3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(3−N,N−DMAPAAm)5.2gを加えて混合し、全量をトルエンで20mLに調整した。石英セル中で激しく攪拌しながら高純度窒素ガスで5分間パージした後に、200W高圧水銀灯で紫外光を30分間照射した。照射強度は照度計(UVR−1,TOPCON,Tokyo,Japan)を使用して1mW/cm(250nm)に調整した。重合溶液をエバポレーターで濃縮し、ジエチルエーテルで重合物を再沈殿させて精製し、少量の水へ溶解し、0.2μmフィルターで濾過
してから凍結乾燥させて4分岐型スター型ホモポリマー1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル(ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(pDMAPAAm)よりなるカチオン性ホモポリマーを得た(重合率40%)。分子量はGPCにより3700と測定された。
H NMR(in CDCl)の測定結果は、σ3.10−3.39(br、−NH−CH−)、σ2.25−2.42(br、−CH−N(CH)、σ2.21(br、−N(CH)、σ1.48−1.76(br,-CH−CH−,−CH−CH−CH−)となった。
Figure 0005146945
iii)カチオン性ホモポリマーへのN−イソプロピルアクリルアミドのブロック共重合によるポリマー材料(4分岐型pDMAPAAm−b−pNIPAM)の合成
下記反応式に従い、次のようにして、1,2,4,5−テトラキス[(N,N−ジエチルジチオカルバミル(ポリ(3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)−ブロック−ポリ−(N−イソプロピルアクリルアミド)−メチル]ベンゼン(以下、pDMAPAAm−b−pNIPAMと記すことがある。)の合成を行った。
即ち、上記ii)で合成した4分岐型pDMAPAAmホモポリマー645mgを10mLのメタノールへ溶解し,N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)1.2gを混合して全量をメタノールで20mLに調整した。ii)と同様の条件で光照射重合を行って、メタノール/ジエチルエーテル系で精製を行って4分岐型pDMAPAAmとポリN−イソプロピルアクリルアミド(pNIPAM)とのブロックポリマーよりなるポリマー材料を得た(重合率80%)。分子量はGPCにより9,300と測定された。
H NMR(in CDCl)の測定結果は、σ3.10−3.39(br,−NH−CH−),σ2.25−2.42(br,−CH−N(CH),σ2.21(br,−N(CH),σ1.48−1.76(br,−CH−CH−,−CH−CH−CH−),σ1.08−1.23 (br,−CH−(CH)となった。
Figure 0005146945
iv)硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類のナトリウム塩とのイオン錯体化
上記iii)で合成したポリマー材料(4分岐型pDMAPAAm−b−pNIPAM)
と硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類のナトリウム塩とを水溶液中で混合することでイオン錯体化が可能であった。この多糖類のナトリウム塩は、武田キリン食品(株)製のカードランをサイズ排除カラムクロマトグラフィーと疎水クロマトグラフィーで精製し、ピペリジン−N−硫酸で硫酸化したものであり、1,3-β-架橋型D−グルコースの重合度は平均して約1,000である。
抗血栓処理剤として水不溶性又は難溶性とするために、硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類のナトリウム塩との混合比を以下のように決定した。4分岐型pDMAPAAm−b−pNIPAMを20mg、硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類のナトリウム塩を0mg〜200mgの範囲で水2mLへ溶解した溶液の吸光度と温度の関係をプロットし、曇点を測定した。硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類のナトリウム塩の導入量が多いと低温領域に曇点がシフトすることが認められた。ヒト体温付近で水不溶性であるためには硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類のナトリウム塩の量は約50mg以下である必要があった。
v)コーティング処理
20mgの上記ポリマー材料(4分岐型pDMAPAAm−b−pNIPAMブロック共重合体)と15mgの硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類のナトリウム塩を水へ溶解し全量を2mLに調整した。この溶液10μLを2cm×3cm角のPETフィルムへ均質に流延し、ドライヤーで乾燥させることでコーティング処理した。フィルムを37℃に温調したプレート上へ乗せ、接触角を測定した。この状態での接触角は15°であり、硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類のナトリウム塩に起因すると推定されるフィルム表面の親水化現象が確認された。このフィルムを37℃の温水で洗浄で洗浄を続けると、洗浄時間とともに表面の接触角は徐々に上昇し約44°でプラトーに達した。PETフィルムの接触角74°へ近づいたが、硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類のナトリウム塩が不溶化されて固定されたことが確認された。
vi)抗血栓性の確認
ヒト抹消血を採取し、そのまま速やかにPETフィルム上へ塗布し、時間をおいて生理食塩水で軽くリンスして表面の血栓付着性を観察した。PETフィルムでは、約5分で血栓の発生が確認されたが、コーティング処理したPETフィルムでは20分後でも血栓の発生は確認されなかった。
比較例1
1,2,4,5−テトラキス(ブロモメチルベンゼン)の代わりにブロモメチルベンゼンを使用したこと以外は実施例1のi)と同様にして(N、N−ジチオカルバミルメチル)ベンゼンを合成した。精製物は無色液体で、収率は約93%であった。
H NMR(in CDCl)の測定結果はσ7.41〜7.27ppm(m、5H、Ar−H)、σ4.54ppm(s、2H、Ar−CH−S−)、σ4.08〜4.01ppm(q、2H、N−CH−)、σ3.72ppm(q、2H、N−CH−)、σ1.25−1.31ppm(m、6H、−CH−CH)となった。
次いで、上記ii)及びiii)の手法に準じて直線型ブロックポリマーpDMAPAAm
−b−pNIPAMを合成し、上記(v)のPETフィルムへのコーティング処理と水洗浄実験を行った。37℃で軽く洗浄するだけで接触角は15°から74°まで上昇し、コーティングしたポリマーが速やかにPETフィルムから剥離していることが確認された。
以上より、本発明の分岐型の構造の優位性が確認された。すなわち、本発明の抗血栓処理剤では、材料表面に疎水結合している1分子中の複数のNIPAMポリマー鎖のすべてが同時に剥離しなければ、分子を材料表面から剥離させることができず、1本が剥離しても残りのポリマー鎖が結合していれば、一度剥離したポリマー鎖も再結合することができため、より頑強に固定されているためと考えられる。これに対して、比較例1で合成した直線型のブロックポリマーでは、1分子中に1本のp−NIPAMポリマー鎖しかなく、このP−NIPAMポリマー鎖が剥離すればその分子はそのまま剥離してしまうため、洗浄処理に弱いものと考えられる。

Claims (6)

  1. 硫酸基が導入された1,3-β-架橋型D−グルコースを繰り返し単位とする多糖類又はその塩を担持したポリマー材料よりなる抗血栓性コーティング剤において、
    該ポリマー材料は、生体温度よりも低温の所定温度(T)よりも低い温度では親水性であり、該所定温度(T)よりも高い温度では疎水性であり、
    該ポリマー材料は、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物をイニファターとし、これにビニル系モノマーを光照射リビング重合させて形成したカチオン性ポリマーブロックを有した分岐型重合体であり、
    該ビニル系モノマーが3−N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドであることを特徴とする抗血栓性コーティング剤。
  2. 請求項において、カチオン性ポリマーブロックの分子量が2,000〜500,000であることを特徴とする抗血栓性コーティング剤。
  3. 請求項において、該ポリマー材料の分子量が3,000〜600,000であることを特徴とする抗血栓性コーティング剤。
  4. 請求項1ないし3のいずれか1項において、N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団を同一分子内に3個以上有する化合物は、ベンゼン環を核とし、この核に分岐鎖として3個以上の該N,N−ジアルキル−ジチオカルバミルメチル分子団が結合していることを特徴とする抗血栓性コーティング剤。
  5. 請求項1ないしのいずれか1項において、前記所定温度(T)は、25〜35℃の間の温度であることを特徴とする抗血栓性コーティング剤。
  6. 請求項1ないしのいずれか1項の抗血栓性コーティング剤がコーティングされた医療用具。
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