しかしながら、上述した運転支援装置(即ち、変速段切替制御装置)で用いられるファジィ化ニューロはその処理が非常に複雑であるので、変速段の切り替え判定を行う変速段切替制御動作において非常に多くの時間を必要とするとともに、プログラムのサイズが大きくなってしまうという問題があった。また、上述したファジィ化ニューロの学習機能においては、検出した自動車の速度、エンジン回転数、アクセル開度、及び、燃料消費量、そして、算出したギヤ比、及び、負荷係数、をそれぞれ関連づけてすべて記憶する必要があるので、変速段切替制御動作に必要な情報量が膨大になってしまうという問題があった。そのため、高速なCPUや大容量メモリが必要となり、運転支援装置のコストダウンを妨げてしまっていた。
本発明は、上記課題に係る問題を解決することを目的としている。即ち、本発明は、短時間で省燃費運転のための変速段の切り替え可否の判定ができるとともに、記憶が必要な情報量を小さくできる変速段切替制御装置、変速段切替制御方法、及び、変速段切替制御プログラムを提供することを目的としている。
本発明者らは、速度、エンジン回転数、アクセル開度、燃料消費量、ギヤ比、及び、負荷係数、の相互関係に着目して、自動車の様々な走行状態においてこれら情報を測定し鋭意検討を行った。そして、検討の結果、以下のことが明らかになった。
上述の情報のうち、速度は、[速度=ギヤ比×エンジン回転数]の関係から、エンジン回転数及びギヤ比を用いて求めることができる。また、負荷係数は自動車の負荷状態を示す指標であり、この負荷状態は「エンジンに与えたエネルギー(≒アクセル開度)当たりの駆動力(≒エンジン回転数)」で表すことができ、この値が大きい程損失が小さい、つまり負荷が小さいといえるが、「係数の大きさ=負荷の大きさ」とした方が直感的であるため、この逆数を取った値を、負荷係数としている。また、燃料消費量はアクセル開度と密接な関係があり、即ち、アクセル開度は、それが大きければエンジンに送り込まれる燃料の量が多くなり、それが小さければエンジンに送り込まれる燃料の量が少なくなり、つまり、燃料消費量とアクセル開度は正比例する関係にある。
したがって、上述の情報のうち、速度、負荷係数、及び、燃料消費量については、エンジン回転数、アクセル開度、及び、ギヤ比、を用いて導き出せることが判った。即ち、速度=ギヤ比×エンジン回転数、負荷係数=アクセル開度÷エンジン回転数、燃料消費量≒アクセル開度、として求めることができ、そのため、エンジン回転数、アクセル開度、及び、ギヤ比、のみ記憶すればよいことが判った。
また、上述のようにエンジン回転数とアクセル開度との関係は、自動車の走行状態(即ち、負荷状態)を示している。そこで、本発明者らは、これらエンジン回転数及びアクセル開度を組み合わせた度数分布表を作成して、実際に自動車を走行させて、複数の変速段毎にこの度数分布表の度数を測定したところ、エンジン回転数及びアクセル開度の組み合わせにおいて、度数が多い(即ち、使用頻度が高い)組み合わせと、度数が少ない(即ち、使用頻度が低い)組み合わせと、があることが判った。このことは、使用頻度が高い組み合わせは、適度な負荷状態にありそのエンジン回転数とアクセル開度の組み合わせを維持したまま走行が可能であることを示し、使用頻度が低い組み合わせは、負荷状態が適切でなくエンジン回転数とアクセル開度の組み合わせの変更が必要な走行状態であることを示している。
走行中の速度を維持しつつ燃料を節約する(即ち、省燃費運転)ために行う変速段の切り替えについて考えたとき、速度を維持しつつ走行中の変速段をその1つ上の変速段(以下、上位変速段)に切り替えると、ギヤ比が高くなるのでエンジン回転数が低下する。このとき、自動車の負荷状態(負荷係数)についてもそれを維持するアクセル開度を選択すると、エンジン回転数が低下しているため、アクセル開度(即ち、燃料消費量)もより小さくなり、燃料を節約することができる。しかし、その走行状態(即ち、速度及び負荷係数)を維持できなければ、変速段を元に戻したり、アクセル開度を上げたりすることになり、燃料を節約することができない。そして、上述の通り、予め設けられた上位変速段に対応する度数分布表に基づいて、上述の上位変速段に切り替えたときのエンジン回転数及びアクセル開度の組み合わせの使用頻度(即ち、度数)から、上位変速段に切り替えたときでも走行可能か否かを判定できるので、変速段に対応するエンジン回転数及びアクセル開度を組み合わせた度数分布表を用いることで、省燃費運転のための変速段切替指示ができることが明らかになった。また、この度数分布表を用いることにより、上述した情報を全て記憶する必要が無くなるとともに度数として記憶できるので、変速段の切り替え判定に必要な情報量を削減できることが明らかになった。なお、本発明において、「維持する」とは、同一の値、若しくは、おおよそ同様の値を保つことを意味している。
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明は、図1の基本構成図に示すように、変速機が備える複数の変速段が切り替えられて走行する自動車で用いられ、省燃費運転のために走行中の前記変速段をその1つ上の前記変速段に切り替えることが可能か否かを判定する変速段切替制御装置において、複数の前記変速段毎に対応して設けられた複数のギヤ比、並びに、エンジン回転数及びアクセル開度を組み合わせた複数の度数分布表が記憶された記憶手段10d1と、前記自動車の走行中の前記変速段を検出する変速段検出手段10a1と、前記自動車の走行中の速度、前記エンジン回転数、及び、前記アクセル開度を検出する走行状態情報検出手段10a2と、前記走行状態情報検出手段10a2によって検出された前記エンジン回転数及び前記アクセル開度に基づいて、走行中の負荷係数を算出する負荷係数算出手段10a3と、前記記憶手段10d1に記憶された複数の前記ギヤ比及び複数の前記度数分布表のうち前記変速段検出手段10a1によって検出された前記変速段より1つ上の前記変速段に対応した前記ギヤ比及び前記度数分布表、前記走行状態情報検出手段10a2によって検出された前記速度、並びに、前記負荷係数算出手段10a3によって算出された前記負荷係数、に基づいて、走行中の前記変速段より1つ上の前記変速段に切り替えたときに、前記速度及び前記負荷係数を維持できるか否かを判定する走行状態維持判定手段10a4と、前記走行状態維持判定手段10a4による前記速度及び前記負荷係数を維持できるか否かの判定に基づいて、走行中の前記変速段をその1つ上の前記変速段に切り替えることが可能か否かを判定する変速段切替可否判定手段10a5と、を有していることを特徴とする変速段切替制御装置である。
請求項2に記載された発明は、請求項1に記載された発明において、図1の基本構成図に示すように、前記走行状態維持判定手段10a4が、前記記憶手段10d1に記憶された複数の前記ギヤ比のうち前記変速段検出手段10a1によって検出された前記変速段より1つ上の前記変速段に対応した前記ギヤ比、及び、前記走行状態情報検出手段10a2によって検出された前記速度に基づいて、走行中の前記変速段より1つ上の前記変速段に切り替えた場合の前記エンジン回転数を算出する上位エンジン回転数算出手段10a41と、前記上位エンジン回転数算出手段10a41によって算出された前記エンジン回転数、及び、前記負荷係数算出手段10a3によって算出された前記負荷係数に基づいて、走行中の前記変速段より1つ上の前記変速段に切り替えた場合の前記アクセル開度を算出する上位アクセル開度算出手段10a42と、前記上位エンジン回転数算出手段10a41により算出された前記上位エンジン回転数及び前記上位アクセル開度算出手段10a42により算出された前記上位アクセル開度によって指定される、前記記憶手段10d1に記憶された複数の前記度数分布表のうち前記変速段検出手段10a1によって検出された前記変速段より1つ上の前記変速段に対応した前記度数分布表の度数が、所定の変速段切替範囲に含まれるとき、走行中の前記変速段より1つ上の前記変速段に切り替えても前記速度及び前記負荷係数が維持できると判定する度数判定手段10a43と、を有している手段であることを特徴とするものである。
請求項3に記載された発明は、請求項2に記載された発明において、前記変速段切替範囲が、前記上位エンジン回転数算出手段10a41により算出された前記エンジン回転数によって指定される、前記記憶手段10d1に記憶された複数の前記度数分布表のうち前記変速段検出手段10a1によって検出された前記変速段より1つ上の前記変速段に対応した前記度数分布表の前記度数の平均値以上の範囲であることを特徴とするものである。
請求項4に記載された発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載された発明において、図1の基本構成図に示すように、前記走行状態情報検出手段10a2による前記エンジン回転数及び前記アクセル開度の検出に応じて、これら前記エンジン回転数及び前記アクセル開度によって指定される、前記記憶手段10d1に記憶された複数の前記度数分布表のうち前記変速段検出手段によって検出された前記変速段に対応した前記度数分布表の前記度数を更新する度数更新手段10a6を有していることを特徴とするものである。
請求項5に記載された発明は、請求項1〜4のいずれか一項に記載された発明において、図1の基本構成図に示すように、複数の前記変速段毎に対応して設けられた前記自動車の前記負荷係数及び加速度の関係に関する複数の相関情報が記憶された相関情報記憶手段10d2と、前記走行状態情報検出手段10a2によって検出された前記速度及びその直前に検出された前記速度に基づいて、走行中の前記加速度を算出する加速度算出手段10a7と、前記負荷係数算出手段10a3によって算出された前記負荷係数、前記相関情報記憶手段10d2に記憶された複数の前記相関情報のうち前記変速段検出手段10a1によって検出された前記変速段に対応した前記相関情報、及び、前記相関情報記憶手段10d2に記憶された複数の前記相関情報のうち前記変速段検出手段10a1によって検出された前記変速段より1つ上の前記変速段に対応した前記相関情報、に基づいて、走行中の前記変速段をその1つ上の前記変速段に切り替えたときの加速度低下量を算出する加速度低下量算出手段10a8と、を有し、そして、前記変速段切替可否判定手段10a5が、前記加速度算出手段10a7によって算出された前記加速度が前記加速度低下量算出手段10a8によって算出された前記加速度低下量以下のとき、走行中の前記変速段をその1つ上の前記変速段に切り替えることができないと判定する手段であることを特徴とするものである。
請求項6に記載された発明は、請求項5に記載された発明において、図1の基本構成図に示すように、前記加速度算出手段10a7により算出された前記現加速度、及び、前記負荷係数算出手段10a3により算出された前記負荷係数に基づいて、前記相関情報記憶手段10d2に記憶された複数の前記相関情報のうち前記変速段検出手段10a1によって検出された前記変速段に対応した前記相関情報を更新する相関情報更新手段10a9を有していることを特徴とするものである。
請求項7に記載された発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載された発明において、図1の基本構成図に示すように、前記変速段切替可否判定手段10a5によって走行中の前記変速段をその1つ上の前記変速段に切り替えることが可能と判定されたとき、走行中の前記変速段からその1つ上の前記変速段に切り替えを促す指示を行う変速段切替指示手段10a10を有していることを特徴とするものである。
請求項8に記載された発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載された発明において、図1の基本構成図に示すように、前記変速段切替可否判定手段10a5によって走行中の前記変速段をその1つ上の前記変速段に切り替えることが可能と判定されたとき、走行中の前記変速段をその1つ上の前記変速段に切り替える変速段切替手段10a11を有していることを特徴とするものである。
請求項9に記載された発明は、変速機が備える複数の変速段が切り替えられて走行する自動車で用いられ、省燃費運転のために走行中の前記変速段をその1つ上の前記変速段に切り替えることが可能か否かを判定する変速段切替制御方法であって、前記自動車の走行中の前記変速段を検出する変速段検出工程と、前記自動車の走行中の速度、エンジン回転数、及び、アクセル開度を検出する走行状態情報検出工程と、前記走行状態情報検出工程で検出された前記エンジン回転数及び前記アクセル開度に基づいて、走行中の負荷係数を算出する負荷係数算出工程と、前記変速段検出工程で検出された前記変速段より1つ上の前記変速段に対応して予め定められたギヤ比、前記変速段検出工程で検出された前記変速段より1つ上の前記変速段に対応して予め定められた前記エンジン回転数及び前記アクセル開度を組み合わせた度数分布表、前記走行状態情報検出工程で検出された前記速度、並びに、前記負荷係数算出工程で算出された前記負荷係数、に基づいて、走行中の前記変速段より1つ上の前記変速段に切り替えたときに、前記速度及び前記負荷係数を維持できるか否かを判定する走行状態維持判定工程と、前記走行状態維持判定工程での前記速度及び前記負荷係数を維持できるか否かの判定に基づいて、走行中の前記変速段をその1つ上の前記変速段に切り替えることが可能か否かを判定する変速段切替可否判定工程と、を順次有していることを特徴とする変速段切替制御方法である。
請求項10に記載された発明は、図1に基本構成図に示すように、変速機が備える複数の変速段が切り替えられて走行する自動車で用いられ、省燃費運転のために走行中の前記変速段をその1つ上の前記変速段に切り替えることが可能か否かを判定する変速段切替制御装置のコンピュータを、前記自動車の走行中の前記変速段を検出する変速段検出手段10a1と、前記自動車の走行中の速度、エンジン回転数、及び、アクセル開度を検出する走行状態情報検出手段10a2と、前記走行状態情報検出手段10a2によって検出された前記エンジン回転数及び前記アクセル開度に基づいて、走行中の負荷係数を算出する負荷係数算出手段10a3と、前記変速段検出手段10a1によって検出された前記変速段より1つ上の前記変速段に対応して予め定められたギヤ比、前記変速段検出手段10a1によって検出された前記変速段より1つ上の前記変速段に対応して予め定められた前記エンジン回転数及び前記アクセル開度を組み合わせた度数分布表、前記走行状態情報検出手段10a2によって検出された前記速度、並びに、前記負荷係数算出手段10a3によって算出された前記負荷係数、に基づいて、走行中の前記変速段より1つ上の前記変速段に切り替えたときに、前記速度及び前記負荷係数を維持できるか否かを判定する走行状態維持判定手段10a4と、前記走行状態維持判定手段10a4による前記速度及び前記負荷係数を維持できるか否かの判定に基づいて、走行中の前記変速段をその1つ上の前記変速段に切り替えることが可能か否かを判定する変速段切替可否判定手段10a5と、として機能させることを特徴とする変速段切替制御プログラムである。
請求項1、9、10に記載された発明によれば、走行中の変速段、並びに、走行中の速度、エンジン回転数、及び、アクセル開度を検出する。そして、検出されたアクセル開度及びエンジン回転数に基づいて、走行中の負荷係数を算出する。そして、走行中の変速段より1つ上の変速段に対応したギヤ比及び度数分布表、検出された速度、並びに、算出された負荷係数に基づいて、走行中の変速段より1つ上の変速段に切り替えたときにこれら速度及び負荷係数を維持できるか否かを判定し、そして、この判定に基づいて、走行中の変速段をその1つ上の変速段に切り替えることが可能か否かを判定する。
請求項2に記載された発明によれば、走行中の変速段より1つ上の変速段に対応したギヤ比及び上述の検出された速度に基づいて、走行中の変速段より1つ上の変速段に切り替えた場合のエンジン回転数を算出する。そして、この算出されたエンジン回転数及び上述の算出された負荷係数に基づいて、走行中の変速段より1つ上の変速段に切り替えた場合のアクセル開度を算出する。そして、これら算出されたエンジン回転数及びアクセル開度によって指定される、走行中の変速段より1つ上の変速段に対応した度数分布表の度数が所定の変速段切替範囲に含まれるとき、走行中の変速段をその1つ上の変速段に切り替えても上述の検出された速度及び上述の算出された負荷係数、即ち、走行中の変速段のときの速度及び負荷係数が維持できると判定する。
請求項3に記載された発明によれば、変速段切替範囲を、上述の算出されたエンジン回転数によって指定される、走行中の変速段より1つ上の変速段に対応した度数分布表の度数の平均値以上の範囲とすることにより、走行中の変速段をその1つ上の変速段に切り替えても上述の検出された速度及び上述の算出された負荷係数が維持できるか否かの判定を容易に行うことができる。
請求項4に記載された発明によれば、エンジン回転数及びアクセル開度の検出に応じて、走行中の変速段に対応した度数分布表を更新する。
請求項5に記載された発明によれば、走行中の速度及びその直前に検出された速度に基づいて、走行中の加速度を算出する。そして、上述の算出された負荷係数、走行中の変速段に対応した相関情報、及び、走行中の変速段より1つ上の変速段に対応した相関情報に基づいて、加速度低下量を算出する。そして、算出された加速度が加速度低下量以下であるとき、走行中の変速段をその1つ上の変速段に切り替えることができないと判定する。
請求項6に記載された発明によれば、上述の算出された加速度及び負荷係数に基づいて、走行中の変速段に対応した相関情報を更新する。
請求項7に記載された発明によれば、走行中の変速段をその1つ上の変速段に切り替えることが可能と判定されたとき、走行中の変速段からその1つ上の変速段に切り替えを促す指示を行う。
請求項8に記載された発明によれば、走行中の変速段をその1つ上の変速段に切り替えることが可能と判定されたとき、走行中の変速段をその1つ上の変速段に切り替える。
以上説明したように請求項1、2、9、10に記載された発明によれば、省燃費運転のために走行中の変速段をその1つ上の変速段に切り替えることが可能か否かを判定する動作(処理)において、変速段の切り替え可否の判定にエンジン回転数及びアクセル開度を組み合わせた度数分布表を用いているので、簡易な処理で変速段の切り替え可否を判定することができ、且つ、変速段の切り替え可否の判定に必要な情報量を削減することができ、そのため、短時間で高速に変速段の切り替え可否の判定ができるとともに、記憶が必要な情報量を小さくできる。したがって、高速なCPUや大容量メモリが不要となり、コストダウンに貢献することができる。
請求項3に記載された発明によれば、変速段切替範囲を、走行中の変速段をその1つ上の変速段に切り替えた場合のエンジン回転数によって指定される、走行中の変速段より1つ上の変速段に対応した度数分布表の度数の平均値以上の範囲としているので、容易に算出できる数値を用いて変速段の切り替え可否を判定でき、そのため、短時間で変速段の切り替え可否を判定できるとともに、記憶が必要な情報量を小さくできる。
請求項4に記載された発明によれば、走行中のエンジン回転数及びアクセル開度の検出に応じて、これらエンジン回転数及びアクセル開度によって指定される、走行中の変速段に対応した度数分布表の度数を更新するので、現在の自動車の状態に適応した度数分布表を得ることができ、そのため、荷物の積載量や経時劣化等によって変化する自動車の状態に合わせて度数分布表を調整する必要が無くなり、また、予め度数分布表を作成する必要が無くなり、したがって、コストダウンに貢献できるとともに、汎用性が向上して自動車を選ばず搭載することができる。
請求項5に記載された発明によれば、走行中の加速度と、走行中の変速段をその1つ上の変速段に切り替えたときの加速度低下量と、を算出し、走行中の加速度が加速度低下量以下のときは、走行中の変速段をその1つ上の変速段に切り替えることができないと判定するので、つまり、自動車の現在の加速度が、走行中の変速段をその1つ上の変速段に切り替えたときに生じる加速度の低下によって0以下になると加速を継続できず、変速段を元に戻したり、アクセルを踏み込んだりすることになり、このような場合に変速段の切り替えができないと判定するので、不適切な変速段の切り替えを防止することができる。
請求項6に記載された発明によれば、走行中の加速度及び負荷係数に基づいて走行中の変速段に対応した相関情報を更新するので、現在の自動車の状態に適応した相関情報を得ることができ、そのため、荷物の積載量や経時劣化等によって変化する自動車の状態に合わせて相関情報を調整する必要が無くなり、また、予め相関情報を作成する必要が無くなり、したがって、コストダウンに貢献できるとともに、汎用性が向上して自動車を選ばず搭載することができる。
請求項7に記載された発明によれば、走行中の変速段をその1つ上の変速段に切り替えることが可能と判定されたとき、走行中の変速段からその1つ上の変速段への切り替えを促す指示を行うので、運転者に省燃費運転のための変速段の切り替えを促すことができ、運転者を支援して運転時の負担を軽減することができる。
請求項8に記載された発明によれば、走行中の変速段をその1つ上の変速段に切り替えることが可能と判定されたとき、走行中の変速段をその1つ上の変速段に切り替えるので、運転者の操作によらずに省燃費運転のための変速段の切り替えを行うことができ、運転者を支援して運転時の負担を軽減することができる。
以下、本発明の一実施形態を示す変速段切替制御装置を図2〜図13を参照して説明する。
変速段切替制御装置3は、図2に示すように、例えば、デジタルタコグラフ装置等の自動車の省燃費運転を支援する運転支援装置1内に設けられており、同様に運転支援装置1内に設けられた変速段判定装置2と接続されている。なお、本実施形態において、変速段判定装置2と変速段切替制御装置3とを別体としているが、これに限らず、例えば、同一のコンピュータを用いて変速段判定装置と変速段切替制御装置とを論理的に構成(即ち、物理的には一体に)する、又は、変速段判定処理を変速段切替制御装置内に実装する等してもよい。
変速段切替制御装置3は、自動車の走行中の速度(以下、現速度Vp)、走行中のエンジン回転数(以下、現エンジン回転数Np)、及び、走行中のアクセル開度(以下、現アクセル開度βp)、走行中の変速段(以下、現変速段Hp)、の各種走行状態情報と、複数の変速段毎に対応して設けられた複数のギヤ比、並びに、エンジン回転数及びアクセル開度を組み合わせた複数の度数分布表と、に基づいて、走行中の変速段をその1つ上の変速段に切り換えることが可能か否かを判定して、自動車の運転者に対して省燃費運転のための変速段の切り替えを促す指示を行うものである。
変速段切替制御装置3は、図3に示すように、マイクロコンピュータ(以下、MPU)10と、MPU10に接続された表示部11と、を備えている。なお、MPU10は、請求項中に記載したコンピュータに相当する。
MPU10は、組み込み機器に適した周知の小型コンピュータであり、MPU10は、図3に示すように、予め定められたプログラムにしたがって各種の処理や制御などを行う中央演算処理装置(CPU)10aと、CPU10aのためのプログラム及び制御データ等を格納した読み出し専用のメモリであるROM10bと、各種のデータを格納するとともにCPU10aの処理作業に必要な記憶エリアを有する読み出し書き込み自在のメモリであるRAM10cと、CPU10aの処理作業に必要な各種格納エリアを備えた電気的消去/書き換え可能な読み出し専用のメモリであるEEPROM10dと、を備えている。
MPU10には、図示しない入力インタフェースを介して、自動車が単位距離走行する毎に出力される車速パルスP1、クランクシャフトの回転に応じて出力される回転数パルスP2、及び、アクセルペダルに取り付けられた角度センサからの電圧値であるアクセル開度信号S1、が供給されている。また、MPU10は、変速段判定装置2から、図示しない通信インタフェースを介して現変速段Hpを通知するための変速段情報Jが、上述の車速パルスP1等の供給と同期して供給されている。
ROM10bには、図1に示す請求項中の変速段検出手段10a1、走行状態情報検出手段10a2、負荷係数算出手段10a3、走行状態維持判定手段10a4(即ち、上位エンジン回転数算出手段10a41、上位アクセル開度算出手段10a42、度数判定手段10a43)、変速段切替可否判定手段10a5、度数更新手段10a6、加速度算出手段10a7、加速度低下量算出手段10a8、相関情報更新手段10a9、及び、変速段切替指示手段10a10、として、CPU10aを機能させるための変速段切替制御プログラムなどの各種情報が格納されている。そして、CPU10aは、この変速段切替制御プログラムを実行することで、変速段検出手段10a1、走行状態情報検出手段10a2、負荷係数算出手段10a3、走行状態維持判定手段10a4(即ち、上位エンジン回転数算出手段10a41、上位アクセル開度算出手段10a42、度数判定手段10a43)、変速段切替可否判定手段10a5、度数更新手段10a6、加速度算出手段10a7、加速度低下量算出手段10a8、相関情報更新手段10a9、及び、変速段切替指示手段10a10、として機能することになる。また、ROM10bには、図1に示す請求項中の変速段切替手段10a11としてもCPU10aを機能させる変速段切替制御プログラムが格納されていてもよく、例えば、設定等に応じて、CPU10aを、変速段切替指示手段10a10及び変速段切替手段10a11のいずれか一方として機能させてもよい。
EEPROM10dは、図1に示す請求項中の記憶手段10d1、及び、相関情報記憶手段10d2、に相当し、図4に示すように、複数の変速段H毎に対応して設けられた複数の度数分布表情報D1及び複数の加速度相関情報D2を記憶している。
図5に、度数分布表情報D1の一例を示す。度数分布表情報D1は、ギヤ比G、並びに、エンジン回転数N及びアクセル開度βを組み合わせた度数分布表Tを、各変速段Hに関連づけた情報である。なお、図5に示す度数分布表情報D1については、本実施形態における一例であり、変速段切替制御装置の構成や、それが搭載される自動車の種類等に合わせて適宜変更してもよい。
ギヤ比Gは、[ギヤ比G=速度V÷エンジン回転数N]の関係を有している。なお、本実施形態において、ギヤ比Gは変速段毎に予め定められているが、走行中に検出した各種走行状態情報等に基づいて、これらギヤ比Gを更新(即ち、学習)するようにしてもよい。
度数分布表Tは、エンジン回転数Nを30rpm毎の階級、アクセル開度βを4%毎の階級、にそれぞれ分けて組み合わせたものである。図中、エンジン回転数Nが800rpmの階級は、800rpm以上且つ830rpm未満、を示し、以降の階級も同様である。また、アクセル開度βが0%の階級は、0以上且つ4%未満を示し、以降の階級も同様である。例えば、走行中の現エンジン回転数Npが840rpm、及び、現アクセル開度βpが29%、の場合は、これら値によってそれぞれエンジン回転数Nが830rpmの階級、及び、アクセル開度βが28%の階級が指定され、それら階級が交差する箇所の欄が指定されることになる。また、度数分布表情報D1は、エンジン回転数Nの各階級における度数の平均値(度数平均値X)が格納されている。この度数平均値Xは、エンジン回転数Nの階級(図5の縦の列)に属する度数の総和を、その度数の個数で除して求めた値である。度数分布表Tの各欄には、実際には度数M及び度数平均値Xが格納されるが、図5においてはその記載を省略している。
図6に、加速度相関情報D2の一例を示す。加速度相関情報D2は、請求項中の相関情報に相当する。加速度相関情報D2は、負荷係数と加速度の関係に関する相関情報を各変速段Hに関連づけた情報であり、負荷係数を10段階に分け、段階毎に平均加速度Ka及び平均加速度Kaの算出に用いた加速度(即ち、標本)の個数である標本個数nを備えている。本実施形態においては、自動車が取りうる負荷係数の最大値を0.10として、0.01毎に10段階に分け、各段階の中心値をその段階における代表値としている。この加速度相関情報D2について、X軸を負荷係数、Y軸を平均加速度として模式的にグラフ化したものが、図9に示す相関グラフである。この相関グラフは負荷係数が低い方から高い方に向かうにしたがって平均加速度が増加し、負荷係数がある飽和点を超えると平均加速度が一定となる傾向がある。加速度相関情報D2の各欄には、実際には平均加速度Ka及び標本個数nが格納されるが、図6においてはその記載を省略している。なお、図6に示す加速度相関情報D2については、本実施形態における一例であり、変速段切替制御装置の構成や、それが搭載される自動車の種類等に合わせて適宜変更してもよい。
図9に示す相関グラフは、負荷係数に対する平均加速度を示している。そして、各変速段における平均加速度の差分が、変速段を切り替えたときの加速度の変化量を示している。例えば、現変速段Hpに対応する相関グラフCpから現変速段Hpにおける加速度K1を求め、現変速段Hpより1つ上の変速段H(以下、上位変速段Hu)に対応する相関グラフCuから上位変速段Huにおける加速度K2を求め、加速度K1から加速度K2を差し引くことで、現変速段Hpから上位変速段Huに切り替えたときの平均的な加速度低下量Kgを算出することができる。
表示部11は、運転者に対して変速段の切り替えを促す指示を視覚的に提供するための部位であり、周知の液晶ディスプレイを備えている。この液晶ディスプレイは、MPU10の図示しない出力インタフェースに接続されており、MPU10からの制御信号によってその表示が制御される。表示部11には、例えば、現変速段Hpを1つ上の上位変速段Huに切り替える指示を行うとき、上向き矢印とともに「UP」の文字が表示され、現変速段Hpをその1つ下の変速段H(以下、下位変速段Hd)に切り替える指示を行うとき、下向き矢印とともに「DOWN」の文字が表示される。なお、表示部11は、音声IC及びスピーカを備え、音声を用いて変速段の切り替えを促す指示を行うものでもよい。
次に、変速段切替制御装置3のCPU10aが実行する本発明に係る変速段切替制御処理の一例を、図7、図8に示すフローチャートを参照して以下に説明する。
CPU10aは、ステップS110において、変速段判定装置2より、通信インタフェースを介して通知される変速段情報Jから現変速段Hpを検出する。そして、ステップS120に進む。
ステップS120では、車速パルスP1、回転数パルスP2、アクセル開度信号S1から、自動車の現速度Vp(km/h)、現エンジン回転数Np(rpm)、現アクセル開度βp(%)を検出する。具体的には、所定の期間内(例えば、0.5秒)に発生した車速パルスP1の個数及び回転数パルスP2の個数をカウントし、これらカウントした各パルスの個数から現速度Vp及び現エンジン回転数Npを求める。また、現アクセル開度βpについては、上述のカウントを開始する時点のアクセル開度信号S1の電圧値から求める。そして、ステップS130に進む。
ステップS130では、EEPROM10dに記憶されている複数の度数分布表情報D1のうち現変速段Hpに対応して設けられた度数分布表情報D1に含まれる度数分布表T(以下、現度数分布表Tp)の度数を更新する。具体的には、現度数分布表Tpにおいて、ステップS120で検出された現エンジン回転数Np及び現アクセル開度βpによって指定される、現度数分布表Tpのエンジン回転数Nの階級及びアクセル開度βの階級が交差する欄の度数Mを1増加する。そして、前記欄を含むエンジン回転数Nの階級における度数平均値Xを再度計算して更新する。この度数平均値Xは、現エンジン回転数Npによって指定されるエンジン回転数Nの階級における度数の総和を求め、該総和をエンジン回転数Nの階級における度数の個数で除して求める。そして、ステップS140に進む。
ステップS140では、ステップS120において検出した現アクセル開度βp及び現エンジン回転数Npから走行中の負荷係数(以下、現負荷係数γp)を算出する(γp=βp÷Np)。そして、ステップS150に進む。
ステップS150では、EEPROM10dに記憶されている複数の度数分布表情報D1のうち現変速段Hpより1つ上の上位変速段Huに対応して設けられた度数分布表情報に含まれるギヤ比G(以下、上位ギヤ比Gu)、及び、ステップS120において検出した現速度Vp、から、現速度Vpを維持したまま上位変速段Huに切り替えた場合のエンジン回転数N(以下、上位エンジン回転数Nu)を算出する(Nu=Vp÷Gu)。そして、ステップS160に進む。
ステップS160では、ステップS150で算出した上位エンジン回転数Nu、及び、ステップS140で算出した現負荷係数γp、から現負荷係数γpを維持したまま上位変速段Huに切り替えた場合のアクセル開度β(以下、上位アクセル開度βu)を算出する(βu=γp×Nu)。そして、ステップS170に進む。
ステップS170では、EEPROM10dに記憶されている複数の度数分布表情報D1のうち上位変速段Huに対応して設けられた度数分布表情報D1に含まれる度数分布表T(以下、上位度数分布表Tu)において、ステップS150で算出された上位エンジン回転数Nu、及び、ステップS160で算出された上位アクセル開度βu、によってそれぞれ指定される、上位度数分布表Tuのエンジン回転数Nの階級及びアクセル開度βの階級が交差する欄の度数Mを取得する。そして、ステップS180に進む。
ステップS180では、ステップS170で取得した度数Mと、ステップS150で算出された上位エンジン回転数Nuによって指定される上位度数分布表Tuのエンジン回転数Nの階級における度数平均値Xと、を比較して、この度数Mが度数平均値X以上である(即ち、変速段切替範囲に含まれる)とき、ステップS200に進み(S180でY)、度数Mが度数平均値X未満である(即ち、変速段切替範囲に含まれない)とき、本フローチャートの処理を終了する。
ステップS200では、現変速段Hpを上位変速段Huに切り替えた場合の加速動作可否について判定する(加速動作可否判定処理)。ステップS200は、以下のステップS210、S220、S230、S240を備えている。
ステップS210では、ステップS120で検出した現速度Vp及びその直前に検出した速度V0との差分から、走行中の加速度(以下、現加速度Kp)を算出する(Kp=Vp−V0)。そして算出に用いた現速度Vpを直前に検出した速度V0として、RAM10cに設けられた所定の格納エリアに一時的に格納する。そして、ステップS220に進む。
ステップS220では、現変速段Hpをその1つ上の上位変速段Huに切り替えた場合の加速度低下量Kgを算出する。図9に加速度低下量Kgの算出概略イメージを示す。まず、EEPROM10dに記憶されている複数の加速度相関情報D2のうち現変速段Hpに対応して設けられた加速度相関情報D2において、負荷係数中心値γcがステップS140で算出した現負荷係数γp以下となる直近の段階を検索し、その直近の段階における負荷係数中心値γcと平均加速度KaとをそれぞれX座標、Y座標とした点A1を求める。そして、上述の直近の段階より1つ上の段階における負荷係数中心値γcと平均加速度KaとをそれぞれX座標、Y座標とした点B1を求める。そして、これら点A1、点B1を通る一次関数を求め、その一次関数に現負荷係数γpを代入して、現変速段Hpにおける加速度K1を算出する。
次に、EEPROM10dに記憶されている複数の加速度相関情報D2のうち上位変速段Huに対応して設けられた加速度相関情報D2において、負荷係数の中心値がステップS140で算出した現負荷係数γp以下となる直近の段階を検索し、その直近の段階における負荷係数中心値γcと平均加速度KaとをそれぞれX座標、Y座標とした点A2を求める。そして、上述の直近の段階より1つ上の段階における負荷係数中心値γcと平均加速度KaとをそれぞれX座標、Y座標とした点B2を求める。そして、これら点A2、点B2を通る一次関数を求め、その一次関数に現負荷係数γpを代入して、上位変速段Huにおける加速度K2を算出する。
次に、現変速段Hpにおける加速度K1から、上位変速段Huにおける加速度K2を差し引いて、加速度低下量Kgを算出する(Kg=K1−K2)。そして、ステップS230に進む。
ステップS230では、現変速段Hpをその1つ上の上位変速段Huに切り替えたときに、継続して加速が可能か判定する。具体的には、ステップS210で算出した現加速度KpとステップS220で算出した加速度低下量Kgとを比較する。そして、現加速度Kpの方が加速度低下量Kgより大きければ、つまり、上位変速段Huに切り替えて現加速度Kpが加速度低下量Kg低下してもその値が0にならなければ、上位変速段Huにおいても継続して加速可能と判定し、現加速度Kpが加速度低下量Kg以下であるときは、上位変速段Huにおいて加速不可能と判定する。そして、S240に進む。
ステップS240では、現変速段Hpに対応する加速度相関情報D2において、現負荷係数γpで指定される段階の平均加速度Kaを更新する。具体的には、この平均加速度Kaと標本個数nとを積算した値に現加速度Kpを加算し、標本個数nに1加えた値で除して新たな平均加速度Kaとする。そして、この新たな平均加速度KaをEEPROM10dに記憶する。また、標本個数nに1加えた値を新たな標本個数nとして記憶する。そして、ステップS200の加速動作可否判定処理を抜けて、ステップS310に進む。
ステップS310では、ステップS200の加速動作可否判定処理において、上位変速段Huでの加速が可能と判定されたとき、上位変速段Huへの切り替えが可能と判定してステップS320に進み(S310でY)、上位変速段Huでの加速が不可能と判定されたとき、上位変速段Huへの切り替えが不可能と判定して本フローチャートの処理を終了する(S310でN)。
ステップS320では、上位変速段Huへの切り替えを促す指示を行う。具体的には、表示部11が備える液晶ディスプレイに、上向き矢印を表示するとともに「UP」の文字を表示する。そして、本フローチャートの処理を終了する。
なお、上述したステップS110が、請求項中の変速段検出手段に相当し、ステップS120が、請求項中の走行状態情報検出手段に相当し、ステップS130が、請求項中の度数更新手段に相当し、ステップS140が、請求項中の負荷係数算出手段に相当し、ステップS150、S160、S170、S180が、請求項中の走行状態維持判定手段に相当し(即ち、ステップS150が、請求項中の上位エンジン回転数算出手段に相当し、ステップS160が、請求項中の上位アクセル開度算出手段に相当し、ステップS170、S180が、請求項中の度数判定手段に相当する)、ステップS180、S310が、請求項中の変速段切替可否判定手段に相当し、ステップS320が、請求項中の変速段切替指示手段に相当し、ステップS210が、請求項中の加速度算出手段に相当し、ステップS220が、請求項中の加速度低下量算出手段に相当し、ステップS240が、請求項中の相関情報更新手段に相当する。
また、上述したステップS110が、請求項中の変速段検出工程に相当し、ステップS120が、請求項中の走行状態情報検出工程に相当し、ステップS140が請求項中の負荷係数算出工程に相当し、ステップS150、S160、S170、S180が、請求項中の走行状態維持判定工程に相当し(即ち、ステップS150が、上位エンジン回転数算出工程となり、ステップS160が、上位アクセル開度算出工程となり、ステップS170、S180が、度数判定工程となる)、ステップS180、S310が、請求項中の変速段切替可否判定工程に相当する。
なお、本実施形態において、ステップS130を備えることにより自動車の走行中における度数分布表情報D1の更新を可能としているが、これに限らず、予め作成した度数分布表情報D1を更新せずに用いる構成であってもよい。また、ステップS240を備えることにより自動車の走行中における加速度相関情報D2の更新を可能としているが、これに限らず、予め作成した加速度相関情報D2を更新せずに用いる構成であってもよい。
また、ステップS200を備えることにより、上位変速段Huに切り替えた場合の加速動作可否を判定しているが、これに限らず、ステップS200、S310の加速動作可否判定処理を省略してより簡易な変速段切替制御処理としてもよい。
また、ステップS180において、変速段切替範囲を度数平均値X以上の範囲にしているが、これに限らず、例えば、度数平均値Xに0.8を掛けた値以上の範囲や、度数Mが所定の値以上(例えば、100)の範囲とするなど、変速段切替制御装置の構成や、それが搭載される自動車等に合わせて適宜調整してもよい。
また、ステップS180において、上位エンジン回転数Nuによって指定される上位度数分布表Tuのエンジン回転数Nの階級における度数平均値Xのみ比較に用いているが、これに限らず、複数のエンジン回転数Nの階級における度数平均値Xを比較に用いてもよい。具体的には、(i)ステップS150で算出された上位エンジン回転数Nuによって指定される上位度数分布表Tuのエンジン回転数Nの階級(以下、中央階級)より1つ下の階級(以下、下階級)及び該下階級において現負荷係数γpを維持するように選択されたアクセル開度βの階級が交差する欄の度数M1と、該下階級における度数平均値X1と、を比較して、度数M1が度数平均値X1以上だったときステップS200に進む。(ii)前記比較において度数M1が度数平均値X1未満のとき、上述の度数Mと度数平均値Xとを比較して、度数Mが度数平均値X以上だったときステップS200に進む。(iii)前記比較において度数Mが度数平均値X未満のとき、上述の中央階級より1つ上の階級(以下、上階級)及び該上階級において現負荷係数γpを維持するように選択されたアクセル開度βの階級が交差する欄の度数M2と、該上階級における度数平均値X2と、を比較して、度数M2が度数平均値X2以上だったときステップS200に進み、それ以外のとき上記フローチャートの処理を終了する。このようにすることで、より広いエンジン回転数の範囲で上位変速段への切替の判定を行うことができ、変速段切替の精度を向上させることができる。
変速段判定装置2は、自動車の現速度Vp、現エンジン回転数Np、及び、現アクセル開度βpを検出して走行中のギヤ比(以下、現ギヤ比Gp)を算出したのち、この現ギヤ比Gpから走行中の変速段(即ち、現変速段Hp)を判定して、変速段切替制御装置3に、判定した現変速段Hpを通知するものである。
変速段判定装置2は、図示しないマイクロコンピュータ(以下、μCOM)を備えている。このμCOMには、それが備える入力インタフェースを介して上述の車速パルスP1及び回転数パルスP2が供給されており、また、μCOMが備える通信インタフェースを介して変速段切替制御装置3と接続されており、現変速段Hpに関する変速段情報Jを変速段切替制御装置3に向けて送信(通知)する。
このμCOMは、変速段切替制御装置3におけるMPU10と同様に、これら、車速パルスP1及び回転数パルスP2に基づいて、現速度Vp及び現エンジン回転数Npを検出したのち、現速度Vp及び現エンジン回転数Npに基づいて現ギヤ比Gpを算出する(Gp=Vp÷Np)。そして、μCOMは、各変速段に対応して予め定められた基準ギヤ比範囲と算出した現ギヤ比Gpとを比較し、基準ギヤ比範囲に現ギヤ比Gpが含まれれば、それに対応する変速段を現変速段Hpとして変速段情報Jを生成し、変速段切替制御装置3へ送信する。
なお、本実施形態においては、変速段判定装置2は、現速度Vp及び現エンジン回転数Npを検出し、それらに基づいて現変速段Hpを判定するものであったが、これに限らず、例えば、シフトノブの位置及びクラッチ接続状態を監視して現変速段Hpを判定するなど、変速段切替制御装置3に対して現変速段Hpを通知できるものであればその構成は任意である。
次に、変速段切替制御装置3における変速段切替制御動作の一例について、図10〜図13を参照して説明する。
変速段切替制御装置3は、変速段判定装置2から送信された変速段情報Jを受信して、該変速段情報Jに含まれる現変速段Hpを検出し、この検出と同期して、現速度Vp、現エンジン回転数Np、及び、現アクセル開度βpを検出する。例として、このとき検出した値をそれぞれ、現変速段Hp=3速、現速度Vp=58.8km/h、現エンジン回転数980rpm、現アクセル開度βp=28%とする。また、直前に検出された速度V0=58.0km/hとして、以下の説明を行う。
そして、EEPROM10dに記憶されている複数の度数分布表情報D1のうち検出された現変速段Hp(即ち、3速)に対応して設けられた度数分布表情報D1(図10)の度数分布表T(即ち、現度数分布表Tp)において、同じく検出された現エンジン回転数Npによって指定されるエンジン回転数Nの階級(即ち、図10のエンジン回転数980rpmの階級)及び同じく検出された現アクセル開度βpによって指定されるアクセル開度βの階級(即ち、図10のアクセル開度28%の階級)が交差する欄の度数Mを1増加する(即ち、「50」を「51」に更新する)。そして、上述のエンジン回転数Nの階級の度数平均値Xを再計算する。
そして、現アクセル開度βp及び現エンジン回転数Npから現負荷係数γpを算出する(γp=28÷980=0.0286)。そして、EEPROM10dに記憶されている複数の度数分布表情報D1のうち現変速段Hpより1つ上の上位変速段Hu(即ち、4速)に対応して設けられた度数分布表情報D1に含まれるギヤ比G(即ち、上位ギヤ比Gu=0.070)及び現速度Vpから、現速度Vpを維持したまま上位変速段Huに切り替えたときの上位エンジン回転数Nuを算出する(Nu=58.8÷0.070=840rpm)。そして、上位エンジン回転数Nu及び現負荷係数γpから、現負荷係数γpを維持したまま上位変速段Huに切り替えたときの上位アクセル開度βuを算出する(βu=0.0286×840=24.0)。
そして、EEPROM10dに記憶されている複数の度数分布表情報D1のうち現変速段Hpより1つ上の上位変速段(即ち、4速)に対応して設けられた度数分布表情報D1(図11)に含まれる度数分布表T(即ち、上位度数分布表Tu)において、算出された上位エンジン回転数Nuによって指定されるエンジン回転数Nの階級(即ち、図11のエンジン回転数830rpmの階級)及び算出された上位アクセル開度βuによって指定されるアクセル開度βの階級(即ち、図11のアクセル開度24%の階級)が交差する欄の度数M(=30)と、上位エンジン回転数Nuによって指定されるエンジン回転数Nの階級における度数平均値X(=15)とを比較する。度数Mが度数平均値X以上であるので、次の動作(加速動作可否判定動作)に移る。また、このとき度数Mが度数平均値X未満であれば、運転者に対して変速段の切り替えを指示することなく動作を終了する。
加速動作可否判定動作では、現速度Vpとその直前に検出された速度V0との差分を取って、現加速度Kpを算出する(Kp=58.8−58.0=0.80)。
そして、EEPROM10dに記憶されている複数の加速度相関情報D2のうち現変速段Hpに対応する加速度相関情報D2(図12)において、現負荷係数γpを間に挟む2つの段階(即ち、図12の段階3、4)の負荷係数中心値γc及び平均加速度Kaから、現変速段Hpにおける加速度K1を算出する。即ち、図9に模式的に示される相関グラフCpの点A1(0.025、0.75)、及び、点B1(0.035、1.28)を通る一次関数は[Y=53X−0.575]となり、この一次関数に現負荷係数γpを代入して、加速度K1を算出する(K1=0.94)。
そして、EEPROM10dに記憶されている複数の加速度相関情報D2のうち上位変速段Huに対応する加速度相関情報D2(図13)において、現負荷係数γpを間に挟む2つの段階(即ち、図13の段階3、4)の負荷係数中心値γc及び平均加速度から、上位変速段Huにおける加速度K2を算出する。即ち、図9に模式的に示される相関グラフCuの点A2(0.025、0.25)、及び、点B2(0.035、0.78)を通る一次関数は[Y=53X−1.075]となり、この一次関数に現負荷係数γpを代入して、加速度K2を算出する(K2=0.44)。
そして、加速度K1から加速度K2を引いて、加速度低下量Kgを算出し(Kg=0.94−0.44=0.50)、そして、現加速度Kpと加速度低下量Kgとを比較すると、現加速度Kpの方が大きいので、上位変速段Huに切り替えても加速が可能であるものとして、表示部11に上向き矢印と表示するとともに「UP」の文字を表示し、運転者に対して変速段の切り替え(シフトアップ)を指示する。また、このとき、現加速度Kpが加速度低下量Kg以下であるときは、運転者に対して変速段の切り替えを指示しない。そして、現変速段Hpに対応する加速度相関情報D2において、現負荷係数γpが属する段階(即ち、図12の段階3)の平均加速度Ka及び標本個数nを更新する。
また、現変速段Hpにおいて、現アクセル開度βp及び現加速度Kpを所定の間隔(例えば、0.5秒)で測定(算出)し、現アクセル開度βpが所定の切替範囲(例えば、90%以上)であり且つ現加速度Kpが負の値(Kp<0)となる状態が、所定の回数(例えば、2回)連続したとき、アクセルを踏み込んでいるにもかかわらず速度が低下しているものと判断して、表示部11に下向き矢印を表示するとともに「DOWN」の文字を表示して、運転者に対して変速段の切り替え(シフトダウン)を指示する。
以上より、本実施形態では、現変速段Hp、並びに、現速度Vp、現エンジン回転数Np、及び、現アクセル開度βpを検出する。そして、現アクセル開度βp及び現エンジン回転数Npに基づいて現負荷係数γpを算出する。そして、現変速段Hpより1つ上の上位変速段Huに対応したギ上位ギヤ比Gu及び上位度数分布表Tu、現速度Vp、並びに、現負荷係数γp、に基づいて、現変速段Hpより1つ上の上位変速段Huに切り替えたときにこれら現速度Vp及び現負荷係数γpを維持できるか否かを判定し、そして、この判定に基づいて、現変速段Hpをその1つ上の上位変速段Huに切り替えることが可能か否かを判定する。
また、現変速段Hpより1つ上の上位変速段Huに対応した上位ギヤ比Gu及び現速度Vpに基づいて、上位変速段Huに切り替えた場合の上位エンジン回転数Nuを算出する。そして、この上位エンジン回転数Nu及び現負荷係数γpに基づいて、上位変速段Huに切り替えた場合の上位アクセル開度βuを算出する。そして、これら上位エンジン回転数Nu及び上位アクセル開度βuによって指定される、上位変速段Huに対応した度数分布表情報D2に含まれる上位度数分布表Tuの度数が所定の変速段切替範囲に含まれるとき、現変速段Hpをその1つ上の上位変速段Huに切り替えても現速度Vp及び現負荷係数γpが維持できると判定する。
また、変速段切替範囲を、上位エンジン回転数Nuによって指定される、上位変速段Huに対応した度数分布表情報D2に含まれる上位度数分布表Tuの度数の平均値以上の範囲とすることにより、現変速段Hpをその1つ上の上位変速段Huに切り替えても現速度Vp及び現負荷係数γpが維持できるか否かの判定を容易に行うことができる。
また、現エンジン回転数Np及び現アクセル開度βpの検出に応じて、現変速段Hpに対応した度数分布表情報D2に含まれる現度数分布表Tpを更新する。
また、現速度Vp及びその直前に検出された現速度Vpに基づいて、現加速度Kpを算出する。そして、現負荷係数γp、現変速段Hpに対応した加速度相関情報D2、及び、上位変速段Huに対応した加速度相関情報D2、に基づいて、加速度低下量Kgを算出する。そして、現加速度Kpが加速度低下量Kg以下であるとき、現変速段Hpをその1つ上の上位変速段Huに切り替えることができないと判定する。
また、現加速度Kp及び現負荷係数γpに基づいて、現変速段Hpに対応した加速度相関情報D2を更新する。
また、現変速段Hpをその1つ上の上位変速段Huに切り替えることが可能と判定されたとき、現変速段Hpからその1つ上の上位変速段Huに切り替えを促す指示を行う。
以上より、本発明によれば、省燃費運転のために現変速段Hpをその1つ上の上位変速段Huに切り替えることが可能か否かを判定する動作において、この変速段の切り替え可否の判定にエンジン回転数N及びアクセル開度βを組み合わせた度数分布表Tを用いているので、簡易な処理で上位変速段Huへの切り替え可否を判定することができ、且つ、変速段の切り替え可否の判定に必要な情報量を削減することができ、そのため、短時間で高速に変速段の切り替え可否の判定ができるとともに、記憶が必要な情報量を小さくすることができる。したがって、高速なCPUや大容量メモリが不要となり、コストダウンに貢献することができる。
また、変速段切替範囲を、上位エンジン回転数Nuによって指定される上位度数分布表Tuの度数平均値X以上の範囲としているので、容易に算出できる数値を用いて上位変速段Huへの切り替え可否を判定でき、そのため、短時間で変速段の切り替え可否を判定できるとともに、記憶が必要な情報量を小さくすることができる。
また、現エンジン回転数Np及び現アクセル開度βpの検出に応じて、これら現エンジン回転数Np及び現アクセル開度βpによって指定される、現変速段Hpに対応する現度数分布表Tpの度数Mを更新するので、現在の自動車の状態に適応した度数分布表を得ることができ、そのため、荷物の積載量や経時劣化等によって変化する自動車の状態に合わせて度数分布表を調整する必要が無くなり、また、予め度数分布表を作成する必要が無くなり、したがって、コストダウンに貢献できるとともに、汎用性が向上して自動車を選ばず搭載することができる。
また、現加速度Kpと、上位変速段Huに切り替えたときの加速度低下量Kgと、を算出し、現加速度Kpが加速度低下量Kg以下のときは、現変速段Hpをその1つ上の上位変速段Huに切り替えることができないと判定するので、つまり、自動車の現在の加速度が、上位変速段Huに切り替えた場合に生じる加速度の低下によって0以下になると加速を継続できず、変速段を元に戻したり、アクセルを踏み込んだりすることになり、このような場合に変速段の切り替えができないと判定するので、不適切な変速段の切り替えを防止することができる。
また、現加速度Kp及び現負荷係数γpに基づいて現変速段Hpに対応する加速度相関情報D2を更新するので、現在の自動車に状態に適応した加速度相関情報D2を得ることができ、そのため、荷物の積載量や経時劣化等によって変化する自動車の状態に合わせて相関情報を調整する必要が無くなり、また、予め相関情報を作成する必要が無くなり、したがって、コストダウンに貢献できるとともに、汎用性が向上して自動車を選ばず搭載することができる。
また、現変速段Hpをその1つ上の上位変速段Huに切り替えることが可能と判定されたとき、現変速段Hpからその1つ上の上位変速段Huへの切り替えを促す指示を行うので、運転者に省燃費運転のための変速段の切り替えを促すことができ、運転者を支援して運転時の負担を軽減することができる。
なお、本実施形態においては、変速段の切り替えを促す装置であったが、これに限定するものではなく、例えば、変速機が備える変速段を自動的に上位変速段Huに切り替える装置であってもよい。このようにすることで、現変速段Hpをその1つ上の上位変速段Huに切り替えることが可能と判定されたとき、現変速段Hpを1つ上の上位変速段Huに切り替えるので、運転者の操作によらずに省燃費運転のための変速段の切り替えを行うことができ、運転者を支援して運転時の負担を軽減することができる。
本発明者らは、特許文献1に示される従来の運転支援装置が備える変速段切替制御装置と、上述の本発明に係る変速段切替制御装置と、について、それぞれの装置における変速段切替制御処理のプログラムサイズ及び処理速度について実際に比較を行った。変速段切替制御プログラムのサイズについては、従来の変速段切替制御装置では約4MByteであったが、本発明に係る変速段切替制御装置では約1MByteとなり、約4分の1に縮小することができた。また、変速段切替制御処理の処理速度については、従来の変速段切替制御装置より本発明に係る変速段切替制御装置の方が、約10倍程度高速であることが確認できた。
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。