JP5128633B2 - 灯油組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、灯油組成物、特に石油ストーブなどに用いる灯油組成物に関し、詳しくは、酸化安定性に優れる低硫黄灯油組成物に関する。
現在石油ストーブに使用されている灯油の種類と規格は、日本工業規格(JIS K2203)に示されており、その中でも1号灯油は、家庭用の暖房機器等に広く用いられている。灯油留分は主に、原油を常圧蒸留により所定の蒸留性状となるように分留することで得られる。そして、一般に、次いで水素化脱硫装置により硫黄分が所定量以下となるように水素化精製され、更に灯油製造過程において、ストリッパにより軽質分を蒸発させることにより引火点が40℃以上となるように調整される。
このようにして得られる灯油の品質は、前述したようにJIS K2203に示される規格に基づき管理されているが、実用面では規格外の品質として酸化安定性も、長期間劣化することなく安定して貯蔵(備蓄)するためなどの観点から、重要である。そして、灯油の酸化安定性を向上させる方法として、酸化防止剤を添加する技術が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。しかし、この技術は、酸化防止剤の作用に依存するものであって、灯油そのもの自体の酸化安定性の改善が望まれる。また、灯油の臭気や燃焼性を良好にする技術に関する提案もあるが(例えば、特許文献3、特許文献4参照)、この提案も灯油そのもの自体の酸化安定性の向上には至っていない。
また、近年、環境保全の観点から、環境負荷の少ない低硫黄の灯油が求められるようになっている。
特開2004−182744号公報 特開2004−182745号公報 特公平7−103384号公報 特開平3−182594号公報
本発明の目的は、上記従来の状況に鑑み、灯油組成物自体の酸化安定性を改善した低硫黄灯油組成物を提供することにある。
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、灯油の酸化安定性には、灯油に含まれる特定の成分が大きく影響することを突き止め、組成を適正化することにより灯油自体の酸化安定性を改善することができるという知見を得て本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、上記目的を達成するために、原油を常圧蒸留して得られる灯油留分を水素化脱硫装置により脱硫した留分であって、初留点135〜170℃、50%留出温度165〜220℃、70%留出温度170〜240℃、90%留出温度215〜265℃、95%留出温度230〜270℃の蒸留性状を有し、硫黄分が10質量ppm以下であり、芳香族分含有量が16〜25容量%であり、その内2環芳香族分含有量が2.5容量%以下、3環以上芳香族分含有量が0.5容量%以下である組成を有し、下記の式(I)で表される酸化安定性指数Yが10以下であり、酸化防止剤を配合しないことを特徴とする灯油組成物を提供するものである。
Y=1.63×〔ナフテンベンゼン類含有量(容量%)〕+0.30×〔2環ナフテン類含有量(容量%)〕−0.57×〔ナフタレン類含有量(容量%)〕‥‥‥‥‥式(I)
本発明の灯油組成物は、酸化安定性に優れ、例えばポリタンクで1年間貯蔵した際にパーオキサイドが発生せず、長期間劣化することなく安定して貯蔵することができ、また低硫黄であって、実用上有用である。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明における灯油組成物の蒸留性状は、初留点135〜170℃、50%留出温度165〜220℃、70%留出温度170〜240℃、90%留出温度215〜265℃、95%留出温度230〜270℃であり、好ましくは、初留点140〜165℃、50%留出温度170〜220℃、70%留出温度175〜240℃、90%留出温度215〜260℃、95%留出温度235〜270℃である。初留点が170℃以内であることで着火性が優れる。初留点が135℃以上であることで、引火点が高く保て、JIS K2203で定められる灯油の引火点規格値である40℃を下回る可能性が少ない。
また、50%留出温度が220℃以内、70%留出温度が240℃以内、90%留出温度が265℃以内、95%留出温度が270℃以内であれば、着火しやすいため定常燃焼に至るまでに時間がかからない。また、50%留出温度が165℃以上、70%留出温度が170℃以上、90%留出温度が215℃以上、95%留出温度が230℃以上であれば、芯式・放射形石油ストーブ使用時において、炎を燃焼筒の上部から出さずに、燃焼筒を赤熱した状態に保つという安定した燃焼状態を保つことができ、また消火の際も鎮火しやすい。
なお、本発明において、蒸留性状は、JIS K2254の常圧法蒸留試験により測定される。
本発明における灯油組成物に含まれる硫黄分は、50質量ppm以下、好ましくは10質量ppm以下である。硫黄分を50質量ppm以下とすることで、硫黄分に由来する臭気等を少なくすることができる。
なお、本発明において、硫黄分は、JIS K2541の微量電量滴定式酸化法により測定される。
本発明における灯油組成物の組成は、芳香族分含有量が25容量%以下、好ましくは20容量%以下である。芳香族分が25容量%以内とすることで、煙点が高いことによる燃焼性不良、煤の発生につながる可能性が少ない。
なお、本発明において、芳香族分の含有割合(組成割合)は、JPI−5S−49−97「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法(HPLC)」に基づいて求められる。
本発明における灯油組成物は、上記芳香族分25容量%の内、2環芳香族分含有量が2.5容量%以下、好ましくは2.3容量%以下、3環以上芳香族分含有量が0.5容量%以下、好ましくは0.3容量%以下である。2環芳香族分含有量が2.5容量%以下であり、3環以上芳香族分含有量が0.5容量%より少なければ、臭気が弱く、更に燃焼性が良好なため、煤の発生につながる可能性が少ない。
なお、本発明において、2環芳香族分及び3環以上芳香族分の含有割合は、JPI−5S−49−97に基づき求められる。
更に、本発明における灯油組成物は、上記式(I)で表される酸化安定性指数Yが10以下、好ましくは5以下である。この酸化安定度指数Yは、灯油組成物の酸化反応における酸素消費量の度合いを示すものであり、上記式(I)中の各係数は、ナフテンベンゼン類、2環ナフテン類、ナフタレン類の各酸化安定性から算出された値である。そして、これらの係数の値は、ナフテンベンゼン類は灯油組成物の酸化安定性に大きく影響を与え、2環ナフテン類は灯油組成物の酸化安定性に与える影響がナフテンベンゼン類よりは軽微であり、ナフタレン類は灯油組成物の酸化安定性の向上に貢献することを示している。酸化安定度指数Yが10を超えないようにすることで、酸化安定性に優れ、例えばポリタンクで1年間貯蔵してもパーオキサイドの発生を抑制することができる。
なお、本発明において、上記2環ナフテン類含有割合は、高速液体クロマトグラフ法(HPLC)により燃料油組成物を芳香族分と飽和分に分画採取した後、飽和分をガスクロマトグラフ法−質量分析法(GC−MS)で分析し、ASTMD 2786に従って解析を行い飽和分中の2環ナフテン類割合を算出し、ここで得られた割合を、JPI−5S−49−97「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」により求めた飽和分割合に乗ずることで求められる。
また、ナフテンベンゼン類及びナフタレン類含有割合は、高速液体クロマトグラフ法(HPLC)により分画採取した芳香族分を、ガスクロマトグラフ法−質量分析法(GC−MS)で分析し、ASTMD 3239に従って解析を行い芳香族分中のナフテンベンゼン類割合とナフタレン類割合を算出し、ここで得られた割合を、JPI−5S−49−97により求めた芳香族分割合に乗ずることで求められる。
また、ここで言う2環ナフテン類とは、デカリン及びデカリンのアルキル置換基誘導体等を示す。またナフテンベンゼン類とは、テトラリン及びそのアルキル置換基誘導体や、インダン及びそのアルキル置換基誘導体等を示し、ナフタレン類とはナフタレン及びそのアルキル置換基誘導体等を示す。
本発明における灯油組成物の製造方法は、特に制限されるものではなく種々の製造方法によることができて、市販溶剤の混合、あるいは本発明で規定する性状を有するように種々の原料を精製することなどで得ることができる。例えば、本発明の灯油組成物の製造に、原油を常圧蒸留して得られる灯油留分やそれらを脱硫した脱硫灯油を用いることができる。更に、直接脱硫装置から得られる直接脱硫灯油留分、及び重油や残油の水素化分解により得られる灯油留分等が使用可能であり、製造原料は特に限定されない。
また、本発明の灯油組成物においては、必要に応じて種々の燃料油添加剤を適宜添加することができる。この燃料油添加剤としては、シッフ型化合物やチオアミド型化合物等の金属不活性剤、有機りん系化合物等の表面着火防止剤、琥珀酸イミド、ポリアルキルアミン、ポリエーテルアミン等の清浄分散剤、多価アルコール及びそのエーテル等の氷結防止剤、有機酸のアルカリ金属やアルカリ土類金属塩、高級アルコールの硫酸エステル等の助燃剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤等の帯電防止剤、アルケニル琥珀酸エステル等の錆止め剤等の公知の燃料油添加剤が挙げられる。また、本発明の灯油組成物には、本発明の効果を阻害しない程度にフェノール系、アミン系等の公知の酸化防止剤を添加することができる。上記各種添加剤は、1種添加することも複数種組み合わせて添加することもできる。また、これらの添加剤の添加量は必要に応じて適宜設定することができる。
本発明の灯油組成物は、所謂民生用暖房機器、例えば各種石油ストーブ類、石油ファンヒーター類、あるいは石油式給湯器等に好ましく用いることができ、更には直火式の食品乾燥用燃料、工業用燃料、石油発動機用燃料、ソルベント等各種用途にも好ましく使用できる。
次に、本発明を実施例、比較例により更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
以下の実施例、比較例において、引火点、蒸留性状、硫黄分、煙点は、JIS K2203に定められる方法に準拠して測定を行なった。
貯蔵試験は、10Lの赤色ポリタンクに3Lの試料を張込み、屋内・常温において1年間貯蔵を行なった。また、貯蔵試験後のパーオキサイド測定は、JPI−5S−46−96に準拠して行なった。
飽和分、芳香族分の割合と、芳香族分の環数別割合は、JPI−5S−49−97に基づいて測定を行った。HPLCの装置構成及び分析条件を以下に示す。
装置:Agilent 1100 Series(ALS:G1329A,Bin Pump:G1312A,Degasser:G1379A,Rid:G1362A,Colcom:G1316A)
移動相:n−ヘキサン
流量:1.0ml/min
カラム:硝酸銀含浸シリカカラム(4.6mml.D.*70mmL.センシュー科学製 AgNO−1071−Y):アミン修飾カラム(4.0mml.D.*250mmL.2本 センシュー科学製 LICHROSORB−NH
カラム温度:35℃
試料濃度:10vol%
注入量:5μl
また、飽和分、芳香族分のタイプ分析は下記方法で行なった。
まず、試料をHPLCにより飽和分と芳香族分に分画後、飽和分、芳香族分それぞれについて、GC−MSによりタイプ分析を行なった。ここで得られた分析結果を基に、飽和分はASTMD 2786に、芳香族分はASTM D 3239に従って解析を行い、飽和分中のナフテン類割合と環数別ナフテン類割合、及び芳香族分中のナフテンベンゼン類割合とナフタレン類割合を求めた。分析条件を以下に示す。
装置:HP−6890 HP5973 四重極質量分析計
カラム:DB−1:30m×0.25mmI.D.×0.25μm
オーブン温度:40℃(1min)→10℃/min→280℃(5min)
注入口温度:43℃ Oven track mode ON
インターフェース温度:300℃
キャリアーガス:He:55KPa Constant flow mode ON
Solvent Delay:4.5min
質量範囲:50〜500 Threshold=100 Sampling♯3
イオン化電圧:70eV
注入方法:オンカラム注入 3.0μl(芳香族分)、1.0μl(飽和分)
<実施例1>
原油を常圧蒸留することで得られた沸点範囲149〜271℃、硫黄分0.19質量%の直留灯油留分を、反応温度(WABT)320℃、水素分圧4.5MPa、液空間速度(LHSV)5.2h−1の条件下で脱硫処理して、沸点範囲149〜269℃、硫黄分9質量ppmの灯油組成物を得た。得られた灯油組成物の性状、及び貯蔵試験結果を表1に示す。
<実施例2>
原油を常圧蒸留することで得られた沸点範囲149〜271℃、硫黄分0.19質量%の直留灯油留分を、反応温度(WABT)328℃、水素分圧4.5MPa、液空間速度(LHSV)5.2h−1の条件下で脱硫処理して、沸点範囲145〜265℃、硫黄分4質量ppmの灯油組成物を得た。得られた灯油組成物の性状、及び貯蔵試験結果を表1に示す。
<実施例3>
原油を常圧蒸留することで得られた沸点範囲140〜278℃、硫黄分0.23質量%の直留灯油留分を、反応温度(WABT)295℃、水素分圧4.3MPa、液空間速度(LHSV)1.3h−1の条件下で脱硫処理して、沸点範囲149〜274℃、硫黄分4質量ppmの灯油組成物を得た。得られた灯油組成物の性状、及び貯蔵試験結果を表1に示す。
参考例1
1.純度98.0容量%以上の市販n−パラフィン溶剤(n−C8〜n−C15)を用いて沸点範囲が145〜258℃になるように調整したn−パラフィン溶剤を15容量%、2.沸点範囲が166〜219℃である純度98.0容量%以上の市販イソパラフィン溶剤を11.5容量%、3.沸点範囲が202〜262℃である純度98.0容量%以上の市販イソパラフィン溶剤を3.5容量%、4.沸点範囲が157〜179℃である純度99.0容量%以上の市販ナフテン系溶剤を35.0容量%、5.沸点範囲が201〜217℃である純度99.0容量%以上の市販ナフテン系溶剤を5.0容量%、6.沸点範囲が221〜240℃である純度99.0容量%以上の市販ナフテン系溶剤を10.0容量%、7.沸点範囲が160〜180℃である純度99.0容量%以上の市販芳香族系溶剤を17.5容量%、及び8.市販の特級ナフタレンを2.5容量%混合することで、沸点範囲162〜253℃、硫黄分1質量ppmの灯油組成物を得た。得られた灯油組成物の性状及び貯蔵試験結果を表1に示す。
比較例1
原油を常圧蒸留することで得られた沸点範囲139〜289℃、硫黄分0.29質量%の直留灯油留分を、反応温度(WABT)315℃、水素分圧5.5MPa、液空間速度(LHSV)3.0h−1の条件下で脱硫処理して、沸点範囲146〜291℃、硫黄分5質量ppmの灯油組成物を得た。得られた灯油組成物の性状、及び貯蔵試験結果を表2に示す。
比較例2
1.純度98.0容量%以上の市販n−パラフィン溶剤(n−C8〜n−C15)を用いて沸点範囲が145〜258℃になるように調整したn−パラフィン溶剤を15容量%、2.沸点範囲が166〜219℃である純度98.0容量%以上の市販イソパラフィン溶剤を11.5容量%、3.沸点範囲が202〜262℃である純度98.0容量%以上の市販イソパラフィン溶剤を3.5容量%、4.沸点範囲が157〜179℃である純度99.0容量%以上の市販ナフテン系溶剤を35.0容量%、5.沸点範囲が201〜217℃である純度99.0容量%以上の市販ナフテン系溶剤を5.0容量%、6.沸点範囲が221〜240℃である純度99.0容量%以上の市販ナフテン系溶剤を10.0容量%、7.沸点範囲が180〜209℃である純度99.0容量%以上の市販芳香族系溶剤を12.0容量%、及び8.市販の特級テトラリンを8.0容量%混合することで、沸点範囲164〜245℃、硫黄分1質量ppmの灯油組成物を得た。得られた灯油組成物の性状、及び貯蔵試験結果を表2に示す。
Figure 0005128633
Figure 0005128633
上記表1、2に示すとおり、ナフテン類含有割合、特に2環ナフテンが相対的に多い比較例1、そしてナフテンベンゼン類含有割合が相対的に多い比較例2は、それぞれ酸化安定性指数Yが本発明で規定する範囲を超えており、ポリタンクで1年間貯蔵した際にパーオキサイドが発生した。一方、酸化安定性指数Yが本発明で規定する範囲に入る実施例1〜は、いずれも酸化安定性に優れ、ポリタンクで1年間貯蔵した際にパーオキサイドは発生しない結果となった。

Claims (1)

  1. 原油を常圧蒸留して得られる灯油留分を水素化脱硫装置により脱硫した留分であって、初留点135〜170℃、50%留出温度165〜220℃、70%留出温度170〜240℃、90%留出温度215〜265℃、95%留出温度230〜270℃の蒸留性状を有し、硫黄分が10質量ppm以下であり、芳香族分含有量が16〜25容量%であり、その内2環芳香族分含有量が2.5容量%以下、3環以上芳香族分含有量が0.5容量%以下である組成を有し、下記の式(I)で表される酸化安定性指数Yが10以下であり、酸化防止剤を配合しないことを特徴とする灯油組成物。
    Y=1.63×〔ナフテンベンゼン類含有量(容量%)〕+0.30×〔2環ナフテン類含有量(容量%)〕−0.57×〔ナフタレン類含有量(容量%)〕‥‥‥‥‥式(I)
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