JP4482470B2 - 軽油組成物の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、軽油組成物、特にディーゼル自動車用の燃料油に用いる軽油組成物に関し、詳しくは、酸化安定性に優れる低硫黄軽油組成物に関する。
ディーゼル車から排出されるNOxや粒子状物質を低減することは社会的要請であり、ディーゼル車用燃料油に用いる軽油には、粒子状物質の一成分であるサルフェートを低減し、かつ排出ガスの後処理装置における触媒被毒を抑制し、後処理効率を向上させるために、低硫黄化することが求められている。軽油の低硫黄化の手段としては、軽油留分を水素化脱硫処理することが一般的に挙げられるが、水素化脱硫においては、軽油留分中の硫黄分のみならず、軽油留分中に元々含有されている抗酸化性物質(例えば、アミン類、フェノール類等)も水素化処理される場合もあり、水素化脱硫の進んだ低硫黄軽油では、酸化安定性に劣り、過酸化物が生成する場合があることが知られている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照)。
また、軽油の酸化安定性は、重要な実用性能の一つであり、軽油において、特に酸化安定性の低下した低硫黄化軽油において、過酸化物の生成などを抑制することは重要な課題である。酸化安定性の向上には、酸化防止剤を添加することが有効であるが、酸化防止剤を添加することは経済的に不利である(例えば、非特許文献3参照)。
田口裕久、出光技報39巻2号(1996) T.Russell and D.Brown,World Refining, p.40,April(2000) K.Owen and T.Coley,Automotive Fuels Reference Book 2nd Edition,p.504(1995)
本発明は、このような状況下で、酸化防止剤を添加することなしに、酸化安定性に優れた低硫黄軽油組成物を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、低硫黄軽油の酸化安定性について鋭意検討した結果、ナフテンベンゼン類とフルオレン類の含有量、及びナフタレン類の含有量が一定範囲であり、且つそれらの含有量がある一定の関係にある場合に酸化安定性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、上記目的を達成するために、次の軽油組成物の製造方法を提供するものである。
(1)ナフテンベンゼン類およびフルオレン類を含み、沸点範囲182〜367℃の直留軽油留分を、硫黄分が10質量ppm以下、ナフテンベンゼン類とフルオレン類の含有量の和が5.62容量%以下となるように水素化脱硫して得た脱硫軽油と、
ナフテンベンゼン類およびフルオレン類を含み、沸点範囲148〜271℃の直留灯油を、硫黄分が10質量ppm以下、ナフテンベンゼン類とフルオレン類の含有量の和が3.84容量%以下となるように水素化脱硫して得た脱硫灯油とを混合し、
硫黄分の含有量が10質量ppm以下であり、ナフテンベンゼン類とフルオレン類の含有量の和が8.0容量%以下であり、ナフタレン類の含有量が0.5容量%以上3.0容量%以下であり、下記式(I)で表される酸化安定度指数Yが3以下であり、フルオレン類とナフタレン類の含有量の比が1以下であり、フルオレン類とナフテンベンゼン類の含有量の比が0.2以下である軽油組成物を調製することを特徴とする、酸化安定性に優れた軽油組成物の製造方法
Y=2.9×〔フルオレン類含有量(容量%)〕
+0.016×〔ナフテンベンゼン類含有量(容量%)〕 式(I)
−0.73×〔ナフタレン類含有量(容量%)〕
(2)前記脱硫軽油を80容量%、前記脱硫灯油を20容量%配合したことを特徴とする、上記(1)に記載の軽油組成物の製造方法
本発明によれば、酸化防止剤を添加することなしに、酸化安定性に優れた低硫黄軽油組成物を提供することができる。
以下、本発明の内容を更に詳しく説明する。
本発明の軽油組成物において、硫黄分の含有量は50質量ppm以下であり、好ましくは10質量ppm以下である。硫黄分の含有量が50質量ppm以下であれば、ディーゼルエンジンから排出される粒子状物質の成分であるサルフェートの排出量が少なくなり、更に排ガス後処理装置の性能に悪影響を及ぼすことなく、なお更にはその他の好ましからざる排出ガス成分の増加が抑制される。硫黄分の含有量は、JIS K 2541の微量電量滴定式酸化法により測定できる。
本発明の軽油組成物においては、ナフテンベンゼン類とフルオレン類の含有量の和が8.0容量%以下であり、好ましくは7.5容量%以下、更に好ましくは7.0容量%以下である。ナフテンベンゼン類とフルオレン類の含有量の和が8.0容量%以下であれば、酸化安定性に優れ、長期保存中に過酸化物などが生成することもない。
ナフテンベンゼン類とは、テトラリン、アルキル基置換テトラリン、インダン、アルキル基置換インダンなどを示す。また、フルオレン類とは、フルオレン、アルキル基置換フルオレンなどを示す。
また、本発明の軽油組成物においては、ナフタレン類の含有量が0.5容量%以上3.0容量%以下であり、好ましくは0.6容量%以上3.0容量%以下である。ナフタレン類の含有量がこの範囲にあれば、酸化安定性に優れ、長期保存中に過酸化物などが生成することもなく、また、ディーゼルエンジンから排出される粒子状物質が少なくなる。
ナフタレン類とは、ナフタレン、アルキル基置換ナフタレンなどを示す。
更に、本発明の軽油組成物においては、上記式(I)で表される酸化安定度指数Yが3以下であり、好ましくは2.8以下である。この酸化安定度指数Yは、軽油組成物の酸化反応における酸素消費量の度合いを示すものであり、上記式(I)中の各係数は、フルオレン類、ナフテンベンゼン類、ナフタレン類の各酸化安定性から算出された値である。
これらの係数の値は、フルオレン類は軽油組成物の酸化安定性に大きく悪影響を与え、ナフテンベンゼン類は軽油組成物の酸化安定性に与える悪影響がフルオレン類よりは軽微であり、ナフタレン類は軽油組成物の酸化安定性の向上に貢献することを示している。例えば、フルオレン類の含有量とナフタレン類の含有量を調整して、酸化安定度指数Yが3を超えないようにすることが、酸化安定性に優れ、長期保存しても過酸化物などが生成しない低硫黄軽油組成物を得る上で好ましい。
なお更に、本発明の軽油組成物においては、フルオレン類とナフタレン類の含有量の比、すなわちフルオレン類の含有量/ナフタレン類の含有量比が1以下であり、好ましくは0.95以下である。この含有量比が1を超えないようにすることが、酸化安定性に優れ、長期保存しても過酸化物などが生成しない低硫黄軽油組成物を得る上で好ましい。
なお更に、本発明の軽油組成物においては、フルオレン類とナフテンベンゼン類の含有量の比、すなわちフルオレン類の含有量/ナフテンベンゼン類の含有量比が0.2以下であり、好ましくは0.19以下である。この含有量比が0.2を超えないようにすることが、酸化安定性に優れ、長期保存しても過酸化物などが生成しない低硫黄軽油組成物を得る上で好ましい。
本発明の実施に当たり、ナフテンベンゼン類、フルオレン類、ナフタレン類の含有量は以下の方法により測定できる。すなわち、まず、高速液体クロマトグラフ(HPLC)により軽油組成物を芳香族分と飽和分に分画して各分画物を採取した後、その各分画物を、ガスクロマトグラフ装置(GC)と質量分析装置(MS)を複合したガスクロマトグラフ質量分析装置(GC−MS)で測定し、飽和分はASTM D 2786に従って、芳香族分はASTM D 3239に従って解析を行い、各分画物中のタイプ別組成割合を容量%で算出する。次に、軽油組成物中に占める各分画物の割合を、JPI−5S−49−97「石油製品−炭化水素タイプ試験方法−高速液体クロマトグラフ法」に基づいて求め、各分画物の割合に、GC−MSで求めた分画物中のタイプ別組成割合を乗じて、軽油組成物中のナフテンベンゼン類、フルオレン類、ナフタレン類の含有量を求める。
本発明の軽油組成物は、最終的に得られる軽油組成物が上記に規定する特定の性状を有するように、一種又は二種以上の軽油基材を混合して調製できる。
本発明の軽油組成物の調製に用いる軽油基材としては、最終的に得られる軽油組成物が上記に規定する特定の性状を有する限りにおいて、種々の軽油基材を適宜用いることができる。例えば、原油を常圧蒸留して得られる灯油留分や軽油留分、及びそれらを脱硫した脱硫灯油や脱硫軽油を用いることができる。また、直接脱硫装置から得られる直接脱硫軽油、間接脱硫装置から得られる間接脱硫軽油、流動接触分解装置から得られる軽質サイクルオイル、及びそれらを常圧蒸留装置から得られる軽油留分と混合して更に脱硫処理した基材などを用いることができて、通常軽油組成物の基材として使用されるものを適宜用いることができる。その他に、フィシャートロプシュ合成およびそれに付随する各種二次処理プロセスにより得られる各種炭化水素の軽油相当留分や含酸素化合物などを基材として用いることもできる。また、最終的に得られる軽油組成物が上記に規定する特定の性状を有するようにすることは、用いる軽油基材の硫黄分、ナフテンベンゼン類、フルオレン類、ナフタレン類の各含有量を考慮してその配合割合を選択することによって達成し得る。中でも、脱硫灯油や脱硫軽油を基材として用いることにより本発明の軽油組成物を好適に調製することができる。
また、本発明の軽油組成物には、必要に応じて各種の添加剤を適宜配合することができる。このような添加剤としては、セタン価向上剤、界面活性剤、流動性向上剤、防腐剤、防錆剤、泡消剤、清浄剤、色相改善剤、潤滑性向上剤など公知の燃料添加剤が挙げられる。これらを一種又は二種以上組み合わせて添加することができる。
また、本発明は、酸化防止剤を添加することなしに、酸化安定性に優れた低硫黄軽油組成物を提供するものであるが、本発明に酸化防止剤を添加した場合は更に酸化安定性を向上させることが可能となる。
以下に本発明の内容を実験例及び比較例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
ここでは、表1に示すような基材を用いて各軽油組成物を調製した。さらに各基材の性状を表2に示した。
Figure 0004482470
Figure 0004482470
参考例
沸点範囲186℃〜377.5℃の直留軽油留分を硫黄分50質量ppm以下に脱硫処理した脱硫軽油(基材1)を80容量%と、沸点範囲147℃〜281℃の直留灯油留分を硫黄分50質量ppm以下に脱硫処理した脱硫灯油(基材3)を20容量%の割合で混合し、表4に示す性状の軽油組成物を得た。
参考例
沸点範囲182℃〜367℃の直留軽油留分を硫黄分10質量ppm以下に脱硫処理し(基材2)、表4に示す軽油組成物を得た。
実施例3
基材2を80容量%と、沸点範囲148℃〜271℃の直留灯油を硫黄分10質量ppm以下に脱硫処理した脱硫灯油(基材4)を20容量%の割合で混合し、表4に示す性状の軽油組成物を得た。
参考例
沸点範囲164℃〜365℃の直留軽油留分を硫黄分10質量ppm以下に脱硫処理し(基材5)、表4に示す軽油組成物を得た。
比較例1
基材2を19.8容量%と、基材4を79.2容量%の割合で混合したものにフルオレンを1.0容量%添加し、表5に示す性状の軽油組成物を得た。
比較例2
常圧蒸留装置から留出する直留軽油留分に流動接触分解装置から留出する軽質サイクルオイルを6容量%配合し沸点範囲193℃〜368℃とした軽油留分を、硫黄分50質量ppm以下に脱硫処理し(基材6)、表5に示す軽油組成物を得た。
比較例3
常圧蒸留装置から留出する直留軽油留分に流動接触分解装置から留出する軽質サイクルオイルを6容量%配合し沸点範囲193℃〜368℃とした軽油留分を、硫黄分20質量ppm以下に脱硫処理したもの(基材7)97.9容量%に対してフルオレンを0.5容量%、α−メチルナフタレンを1.6容量%添加し、表5に示す軽油組成物を得た。
比較例4
沸点範囲164℃〜365℃の直留軽油留分を硫黄分50質量ppm以下に脱硫処理したもの(基材8)98.8容量%に対してフルオレンを0.2容量%、テトラリンを1.0容量%添加し、表5に示す軽油組成物を得た。
上記のように調製した、各軽油組成物の配合割合を表3にまとめた。
Figure 0004482470
参考例、2、実施例3、参考例4および比較例1〜4の各軽油組成物について、硫黄分を微量電量滴定式酸化法により測定した。軽油組成物中に占めるナフテンベンゼン類、フルオレン類、ナフタレン類は、以下に示した装置、条件により測定した。
飽和分と芳香族分の割合:
Agilent 1100 Series(ALS:G1329A, Bin Pump: G1312A, Degasser: G1379A, Rid: G1362A, Colcom: G1316A)により、移動相:n−ヘキサン、流量1.0ml/min、カラム:硝酸銀含浸シリカカラム(4.6mml.D.*70mmL. センシュー科学製 AgNO3-1071-Y)、アミン修飾カラム(4.0mml.D.*250mmL. 2本 センシュー科学製 LICHROSORB-NH2)、カラム温度:35℃、試料濃度:10vol.%、注入量5μlの条件で測定した。
芳香族分中のタイプ別組成割合:
試料をHPLCにより飽和分と芳香族分により分画後、芳香族分について、HP−6890シリーズII HP5973 四重極質量分析計により、
カラム:DB−1:30m×0.25mmI.D.×0.25um、
オーブン温度:40℃(1min)→10℃/min→280℃(5min)、
注入口温度:43℃ Oven track mode ON、
インターフェース温度:300℃、
キャリアーガス:He:55KPa Constant flow mode ON、
Solvent Delay:4.5min、
質量範囲:50〜500 Threshold=100 Sampling♯3、
イオン化電圧:70eV、
注入方法:オンカラム注入 3.0ul、
メソッドファイル:TYPE−ANA.M(芳香族分)、
の条件で測定し、芳香族分中に占めるナフテンベンゼン類、フルオレン類、ナフタレン類の割合を求めた。
軽油組成物中のナフテンベンゼン類、フルオレン類、ナフタレン類の含有量:
軽油組成物中に占める芳香族分の割合に、芳香族分中のタイプ別組成割合を乗じて、軽油組成物中のナフテンベンゼン類、フルオレン類、ナフタレン類の含有量を求めた。
参考例、2、実施例3、参考例4および比較例1〜4の各軽油組成物について、JIS K 2287に記載のガソリン酸化安定度試験装置を用いて、軽油組成物50mlに対して酢酸銅(0.20mgCu/ml)を2ml添加したサンプルをボンベに入れ、酸素を689〜703kPaまで圧入し100℃で48時間貯蔵した。ボンベの圧力変化を測定し、48時間後の圧力降下値を測定した。圧力降下値は貯蔵中に消費された酸素量を示しており、この値が大きいほど酸素がサンプルと反応したことになり、すなわち酸化安定性に劣ることを示す。また、酸化安定性は、軽油組成物に含有する硫黄分、ナフテンベンゼン類、フルオレン類、ナフタレン類と密接な関係がある。過酸化物の生成原因となりやすいナフテンベンゼン類とフルオレン類の含有量とこれら各物質の酸化安定性から算出された酸化安定度係数Y、およびフルオレン類とナフタレン類の含有量の比、更にフルオレン類とナフテンベンゼン類を本発明のように規定した場合、圧力降下値が5.0×100kPa以上になると長期貯蔵中に過酸化物が生成しやすくなる傾向が強くなることを確認している。ナフテンベンゼン類、フルオレン類、ナフタレン類はそれぞれ酸化安定性が異なるため、これらの配合量が特定の関係にある場合、つまり酸化安定度係数Yを満足する軽油組成物は酸化安定性が優れたものとなる。また、フルオレン類はナフタレン類に比べて酸化安定性が劣り、ナフテンベンゼン類に対しても酸化安定性が劣るため、これらが特定の範囲にある場合、軽油組成物は酸化安定性に優れたものとなる。このような酸化安定性に優れる軽油組成物を提供するためには、圧力降下値は5.0×100kPa以下であることが好ましい。
実施例の結果を表4に、比較例の結果を表5に示す。
Figure 0004482470
Figure 0004482470
表4、5に示す結果から、本発明の範囲外である比較例1〜4の軽油組成物は高い圧力降下値を示しているのに対し、本発明の実施例の軽油組成物は低い圧力降下値を示しており、酸化安定性に優れていることが分かる。

Claims (2)

  1. ナフテンベンゼン類およびフルオレン類を含み、沸点範囲182〜367℃の直留軽油留分を、硫黄分が10質量ppm以下、ナフテンベンゼン類とフルオレン類の含有量の和が5.62容量%以下となるように水素化脱硫して得た脱硫軽油と、
    ナフテンベンゼン類およびフルオレン類を含み、沸点範囲148〜271℃の直留灯油を、硫黄分が10質量ppm以下、ナフテンベンゼン類とフルオレン類の含有量の和が3.84容量%以下となるように水素化脱硫して得た脱硫灯油とを混合し、
    硫黄分の含有量が10質量ppm以下であり、ナフテンベンゼン類とフルオレン類の含有量の和が8.0容量%以下であり、ナフタレン類の含有量が0.5容量%以上3.0容量%以下であり、下記式(I)で表される酸化安定度指数Yが3以下であり、フルオレン類とナフタレン類の含有量の比が1以下であり、フルオレン類とナフテンベンゼン類の含有量の比が0.2以下である軽油組成物を調製することを特徴とする、酸化安定性に優れた軽油組成物の製造方法
    Y=2.9×〔フルオレン類含有量(容量%)〕
    +0.016×〔ナフテンベンゼン類含有量(容量%)〕 式(I)
    −0.73×〔ナフタレン類含有量(容量%)〕
  2. 前記脱硫軽油を80容量%、前記脱硫灯油を20容量%配合したことを特徴とする、請求項1に記載の軽油組成物の製造方法
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