JP5125287B2 - 磁気デバイス及び周波数アナライザ - Google Patents

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Description

本発明は、磁気デバイス及び周波数アナライザに関する。
従来、磁気抵抗効果素子として、磁化の向きが固定された固定層と、磁化の向きが自由に変化するフリー層との間に非磁性導電層を介在させてなるGMR(Giant Magnetoresistive)素子が知られている。また、別の磁気抵抗効果素子として、固定層とフリー層との間に非磁性絶縁層を介在させてなるTMR(Tunnel Magnetoresistive)素子が知られている。これらの磁気抵抗効果素子に電流を流すと、スピン偏極電流が流れ、フリー層内に蓄積されたスピンとの相互作用によりトルクが発生し、スピン偏極電流の極性に応じて、フリー層の磁化の向きが変更する。一定の磁場内に配置されたフリー層では、その磁化の向きを変更しようとしても、磁場によって拘束される安定な方向へ復元するように、磁化の向きにトルクが働く。この磁化の向きの運動は、重力によって引っ張られた振り子の重りが、特定の力で揺らされると、ゆらゆらと振動するのに似ており、歳差運動と呼ばれる。
近年、この磁化の向きの歳差運動の振動数と、フリー層に流れる交流電流の周波数とが一致すると、共振が生じる現象が発見された(非特許文献1参照)。TMR素子の磁気抵抗は、フリー層の磁化の向きと、固定層の磁化の向きの相違によって決定される。フリー層において磁化の向きの共振が生じると、フリー層の磁化の向きは大きく振動し、磁気抵抗が周期的に大きく変動する。一方、入力される交流電流に同期して磁気抵抗が大きく変動すると、TMR素子の両端間を流れる交流電流がゼロレベルに対して非対称に変動し、直流成分を有するようになり、変動分を出力として取り出すことができる。
TMR素子に上述の現象を発生させるためには、TMR素子に大きな磁場を印加しておく必要があるが、通常は、TMR素子を磁場印加装置内に配置し、実験を行っている。
Nature, Vol.438, 17 November,2005, pp.339-342
しかしながら、上述のような磁気抵抗効果素子の現象が知られつつも、このような現象を工業的に利用できる磁気デバイスは知られておらず、発見の応用が期待されている。
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、磁気抵抗効果素子の磁化の向きの共振現象を工業的に利用した磁気デバイス及び周波数アナライザを提供することを目的とする。
上述の課題を解決するため、本発明に係る磁気デバイスは、磁気抵抗効果素子と、磁気抵抗効果素子に磁場を与えるように設けられた磁気ヨークと、磁気ヨークを介してTMR素子のフリー層に磁場を与える磁場印加用配線と、磁気抵抗効果素子に交流信号を供給する入力端子と、磁気抵抗効果素子から出力電圧を取り出す出力端子と、磁場印加用配線を流れる電流を制御する電流制御回路とを備え、前記磁場印加用配線に流れる電流を時系列に変化させることにより、前記交流信号に含まれる複数の特定の周波数成分に対応する直流電圧を時系列に出力することを特徴とする。
GMR素子やTMR素子などの磁気抵抗効果素子のフリー層の磁化の向きの振動数と、磁気抵抗効果素子を流れる交流電流の周波数が一致した場合、磁化の向きの振動が共振し、磁気抵抗が急激に変動し、出力電圧が急激に変動する。ここで、共振周波数は、磁気抵抗効果素子に印加される磁場の大きさに依存して上昇する。磁場の大きさは、磁場印加用配線を流れる電流に依存して増加する。したがって、磁場印加用配線を流れる電流を電流制御回路によって増加させると、共振周波数が上昇する。すなわち、磁場印加用の電流に依存して共振周波数が決定され、入力された交流信号のうち、決定された共振周波数の成分に対応する特定の周波数の信号の電圧が選択的に出力される。
このような磁気デバイスにおいては、通常のSi半導体技術では得られないGHz帯の周波数検波が可能となり、工業的な応用が可能となる。特に、磁気ヨークは、従来の大型の磁場印加装置に代えて設けられるものであり、磁気デバイスの小型化を達成している。
また、磁気抵抗効果素子は、固定層と、フリー層と、固定層とフリー層との間に配置された非磁性層とを備え、上記交流信号は、磁気抵抗効果素子の膜面に対して垂直な方向に流れることを特徴とする。この素子では共振現象が好適に生じている。
また、本発明の磁気デバイスは、磁場印加用配線に流れる電流を制御することにより、交流信号と磁気抵抗効果素子の共振周波数を変化させることを特徴とする。磁気ヨークに流れる電流(制御電流)を制御することにより、共振周波数を制御することが確認できた。すなわち、特定の周波数を制御電流によって選択することができる。
換言すれば、本発明の磁気デバイスは、磁場印加用配線に流れる電流を制御することにより、交流信号に含まれる特定の周波数成分を選択するものである。
また、上述のように、本発明の磁気デバイスは、磁場印加用配線に流れる電流を時系列に変化させることにより、交流信号に含まれる複数の特定の周波数成分に対応する直流電圧を時系列に出力することを特徴とする。本願発明者よれば、制御電流は、共振周波数に対して比例することが判明した。すなわち、ランプ回路などを用いて制御電流を一次関数的に増加又は減少させれば、複数の周波数成分のそれぞれに対応する直流電圧を時系列に出力することができる。
また、フリー層の磁化の向きを振動させるためには、磁場の向きと固定層の磁化の向きとが一致していないことが好ましい。すなわち、これらが一致している場合には、固定層の磁化の向きに関連づけられるフリー層の磁化の向きの振動が生じ難いからである。固定層の磁化向きに対して平行にフリー層の容易磁化軸を設定した場合には、固定層の磁化の向きと磁気ヨークの磁場の向きの相対関係は、フリー層の容易磁化軸の磁化の向きと磁気ヨークの磁場の向きの相対関係に一致する。固定層の磁化向きに対して垂直にフリー層の容易磁化軸を設定した場合においても、フリー層の磁化の向きの安定な容易磁化軸に対して磁気ヨークによる磁場の向きがずれることになるので、フリー層の磁化の向きの振動を生ぜしめることが可能である。
本発明の磁気デバイスでは、磁気ヨークによって磁気抵抗効果素子に与えられる磁場の向きと、固定層の磁化の向きが、膜面内において5度以上の角度で交差するよう、磁気ヨークと固定層の磁化方向との相対位置関係が決定されている。膜面は、各層の表面で規定される。
磁気ヨークによってフリー層に与えられる磁場の向きは、膜面からずれている場合には、5度以上とは、この磁場の向きの膜面への投影ベクトルと、固定層の磁化の向きの成す角度が膜面内において、5度以上であることを意味するものとする。
また、本発明に係る周波数アナライザは、上記磁気デバイスを備え、電流制御回路から出力される直流電流を掃引しつつ、出力端子から出力される電圧をモニタするモニタ回路を更に備えることを特徴とする。
電流制御回路から出力される電流を直流とし、この直流電流を掃引すると、特定の共振周波数毎の電圧がモニタ回路によって検出される。すなわち、交流信号に含まれる特定の周波数毎のスペクトルが得られ、この装置は周波数アナライザとして機能する。
また、本発明の周波数アナライザは、モニタ回路と磁気抵抗効果素子との間に介在するローパスフィルタを更に備えることが好ましい。磁気抵抗効果素子の両端間には交流信号が印加されているため、磁気抵抗効果素子の磁気抵抗(共振周波数)に応じた直流電圧のみを選択的に取り出すために、ローパスフィルタを設けている。ローパスフィルタは、磁気抵抗効果素子からの直流成分のみを透過させてモニタ回路に入力させる。簡単なローパスフィルタは、コイルから構成することができる。
本発明の磁気デバイス及び周波数アナライザによれば、磁気抵抗効果素子の磁化の向きの共振現象を工業的に利用することが可能となる。
以下、実施の形態に係る磁気デバイス及び周波数アナライザについて説明する。なお、同一要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
図1は、本発明に係る磁気デバイス1を備えた周波数アナライザ100の斜視図である。図2は、磁気抵抗効果素子1Aのフリー層1Aの近傍の拡大斜視図である。
本例の磁気抵抗効果素子1Aは、TMR素子であるとする。磁気デバイス1は、磁気抵抗効果素子1Aと、磁気抵抗効果素子1Aに磁場を与えるように設けられた磁気ヨーク1Bと、磁気ヨーク1Bを介して磁気抵抗効果素子1Aのフリー層1Aに磁場を与える磁場印加用配線1Cと、磁気抵抗効果素子1Aの両端間に交流信号を供給する一対の入力端子INPUT1,INPUT2と、磁気抵抗効果素子1Aの両端間出力電圧Vを取り出す一対の出力端子OUTPUT1,OUTPUT2と、磁場印加用配線1Cを流れる直流電流(制御電流)Iを制御する電流制御回路1Dとを備えている。なお、入力端子INPUT2及び出力端子OUTPUT2は、基準端子VREFであり、グランドに接続されている。
磁気抵抗効果素子1Aの厚み方向をZ軸方向とし、これに直交する2軸をそれぞれX軸及びY軸とする。磁場印加用配線1CはY軸に沿って延びており、磁気抵抗効果素子1Aと磁気ヨーク1Bの頂部磁性体1BTOPとの間の空間内に位置している。磁気抵抗効果素子1AのZ軸方向の両端には、それぞれ上部電極(配線)1A及び下部電極(配線)1Aが接触し、磁気抵抗効果素子1Aに電気的に接続されている。上部電極1A及び下部電極1Aは、共にY軸方向に沿って延びている。なお、上部電極1Aは、磁気抵抗効果素子1Aと磁場印加用配線1Cとの間の空間内に位置している。
磁気ヨーク1Bは、頂部磁性体1BTOPと、下部磁性体1BLOWと、頂部磁性体1BTOP及び下部磁性体1BLOWに連続し、これらを接続する中部磁性体1Bとを備えており、下部磁性体1BLOWの下面には一対の底部磁性体1B,1Bが接触し、底部磁性体1B,1Bは、X軸方向に沿って磁気抵抗効果素子1Aのフリー層1Aに向けて延びている。なお、上部及び下部なる用語は、それぞれZ軸の正側の位置及び負側の位置を意味するものであり、重力の方向とは無関係である。
上部電極1Aと下部電極1Aとの間には、入力端子INPUT1,INPUT2を介して信号源Sから交流信号が印加される。上部電極1Aと下部電極1Aに直流が印加されないように、一方の入力端子INPUT1と上部電極1Aとの間の配線には、キャパシタCが直列に挿入されている。
交流電流iを磁気抵抗効果素子1Aに供給すると、磁気抵抗効果素子1Aのフリー層1A内に特定の極性のスピンが注入され、この注入量に応じて、フリー層1Aの磁化の向きが変化する。フリー層1Aの磁化の向きは、固定層1AFMの磁化の向きFに一致している、又は、XY平面内において、固定層1AFMの磁化の向きFに対して直交している。磁気抵抗効果素子1Aの固定層1AFM側からフリー層1Aに偏極スピンが注入される場合、この固定層の磁化の向きFに、その磁化の向きが揃う向きの極性のスピンがフリー層1Aに注入され、これとは逆向きにフリー層1Aに電子を注入した場合には、固定層1AFMの磁化の向きに揃った極性のスピンはフリー層1A内には注入されないので、上記とは逆の極性のスピンがフリー層1Aに注入され、フリー層1Aのスピンとの相互作用により磁化反転が生じる。
交流電流iの極性は時間と共に変化するので、フリー層1Aの磁化の向きは、交流電流iの大きさと周波数に影響を受けて振動する。磁気抵抗効果素子1Aのフリー層1Aの磁化の向きの振動数fと、磁気抵抗効果素子1Aを流れる交流電流iの周波数fが一致した場合(f=f=f)、フリー層1Aの磁化の向きの振動が共振し、磁気抵抗効果素子1Aの磁気抵抗Rが急激に変動し、出力端子OUTPUT1,OUTPUT2の間の電圧が増加する。共振周波数fは、磁気抵抗効果素子1Aのフリー層1Aに印加される磁場Hの大きさに依存して上昇する。
磁場Hの大きさは、磁場印加用配線1Cを流れる電流Iに依存して増加する。すなわち、磁場印加用配線1Cを流れる電流Iを囲むように磁場が発生するが、この磁場は磁気ヨーク1B内を通って、底部磁性体1B,1B間の空間内にも発生する。この空間内には、フリー層1Aが配置されているので、フリー層1Aは定常的に一定の磁場H内に配置されていることになる。但し、磁場Hの大きさは、電流制御回路1Dから供給される電流Iによって適宜変更される。
したがって、磁場印加用配線1Cを流れる電流Iを電流制御回路1Dによって増加させると、磁場Hの大きさが増大し(H1<H2<H3)、共振(共鳴)周波数fが上昇する(図5参照)。すなわち、磁場印加用の電流Iに依存して共振周波数fが決定され、入力された交流信号(交流電流i)のうち、決定された共振周波数fの成分に対応する電圧Vが選択的に出力端子OUTPUT1,OUTPUT2の間に現れる(図6参照)。
また、本実施形態の周波数アナライザ100は、磁気デバイス1を備えており、電流制御回路1Dから出力される直流電流Iを掃引しつつ、出力端子OUTPUT1,OUTPUT2から出力される電圧Vをモニタするモニタ回路2を更に備えている。なお、直流電流Iの掃引には、例えばランプ回路を用いることができ、これを電流制御回路1D内に内蔵すればよい。電流制御回路1Dから出力される電流Iを直流とし、この直流電流Iの大きさを掃引すると、特定の共振周波数毎の電圧Vがモニタ回路2によって検出される(図6参照)。すなわち、交流信号iに含まれる特定の周波数毎のスペクトルが得られ、この装置は周波数アナライザとして機能する。
このように、本例の磁気デバイス1は、磁場印加用配線1Cに流れる電流Iを制御することにより、入力される交流信号と磁気抵抗効果素子1Aの共振周波数を変化させている。磁気ヨーク1Bに流れる電流(制御電流)を制御することにより、共振周波数を制御することが確認された。本例では、特定の周波数を制御電流によって選択することができる。換言すれば、この磁気デバイス1は、磁場印加用配線1Cに流れる電流を制御することにより、交流信号に含まれる特定の周波数成分を選択するものである。
また、磁気デバイス1は、磁場印加用配線1Cに流れる電流を時系列に変化させることにより、交流信号に含まれる複数の特定の周波数成分に対応する直流電圧を時系列に出力する。後述のように、制御電流Iは、共振周波数に対して比例することが判明した。すなわち、ランプ回路などを用いて制御電流Iを一次関数的に増加又は減少させれば、複数の周波数成分のそれぞれに対応する直流電圧Vを時系列に出力することができる。
また、周波数アナライザ100は、モニタ回路2と磁気抵抗効果素子1Aとの間に介在するローパスフィルタLを更に備えている。これは、磁気抵抗効果素子1Aの両端間には、一対の入力端子INPUT1,INPUT2と、一対の出力端子OUTPUT1,OUTPUT2が接続されているが、入力端子INPUT1,INPUT2には交流信号iが印加されているため、出力端子OUTPUT1,OUTPUT2からは磁気抵抗効果素子1Aの磁気抵抗(共振周波数)に応じた直流電圧Vのみを選択的に取り出すためである。ローパスフィルタLは、磁気抵抗効果素子1Aからの直流成分のみを透過させてモニタ回路2に入力させる。本例では、ローパスフィルタLは、上部電極1AUと出力端子OUTPUT1との間に介在するコイルから構成されている。
また、フリー層1Aの磁化の向きを振動させるためには、フリー層1Aの位置においてX軸に沿った磁場Hの向きと固定層1AFMの磁化の向きFとが一致していないことが好ましい。すなわち、これらが一致している場合には、固定層1AFMの磁化の向きFに関連づけられるフリー層1Aの磁化の向きの振動が生じ難いからである。固定層1AFMの磁化向きFに対して平行にフリー層1Aの容易磁化軸を設定した場合には、固定層1AFMの磁化の向きFと磁気ヨーク1Bの磁場の向きHの相対関係は、フリー層1Aの容易磁化軸の磁化の向きと磁気ヨーク1Bの磁場の向きの相対関係に一致する。固定層1AFMの磁化の向きFに対して垂直にフリー層1Aの容易磁化軸を設定した場合においても、フリー層1Aの磁化の向きの安定な容易磁化軸に対して磁気ヨーク1Bによる磁場Hの向きがずれることになるので、フリー層1Aの磁化の向きの振動を容易に生ぜしめることが可能である。
本発明の磁気デバイス1では、磁気ヨーク1Bによって磁気抵抗効果素子1Aに与えられる磁場の向きHと、固定層1AFMの磁化の向きFが、膜面(XY平面)内において5度以上の角度θで交差するよう、磁気ヨーク1Bと固定層1AFMの磁化方向との相対位置関係が決定されている。膜面は、各層の表面で規定される。
磁気ヨーク1Bによってフリー層1Aに与えられる磁場の向きHは、膜面からずれている場合には、5度以上とは、この磁場の向きHの膜面への投影ベクトルと、固定層1AFMの磁化の向きFの成す角度θが膜面内において、5度以上であることを意味するものとする。
上述の磁気デバイス1においては、通常のSi半導体技術では得られないGHz帯の周波数検波が可能となる。したがって、磁気デバイス1の工業的な応用が可能となる。特に、磁気ヨーク1Bは、従来の大型の磁場印加装置に代えて設けられるものであり、磁気デバイス1の小型化を達成している。また、磁気ヨーク1Bは、磁場印加用の電流Iを大幅に小さくできる。さらに、その外部への磁場の漏れを抑制するため、隣接素子への影響を抑制している。
磁気ヨーク1Bは、磁気抵抗効果素子1Aの形成後、底部磁性層1B,1Bを下部電極1A上に絶縁層を介して積層し、次に、磁気抵抗効果素子1A上のみに別の絶縁層を積層し、続いて、この上に磁場印加配線1Cを形成して、更に別の絶縁層を堆積して磁場印加用配線1Cをこの絶縁層内に埋め込んだ後、底部磁性層1B,1Bに接触するように、下部磁性体1BLOW、中部磁性体1B及び頂部磁性体1BTOPを順次積層することで堆積する。これらの堆積にはスパッタ法などを用いることができるが、この堆積領域の設定には適当なホトレジストを用いればよい。
図3は、図1に示した磁気デバイス1のIII−III矢印断面図である。
磁気ヨーク1Bは、磁場印加用配線1C、上部電極1A及び磁気抵抗効果素子1Aを囲んでいる。磁気ヨーク1Bは、磁気抵抗効果素子1Aの周囲に設けられており、部分的にこれを囲む形状を有しているが、磁場Hが磁気抵抗効果素子1Aに与えられる構造であれば、これは磁気抵抗効果素子1Aを完全に囲む形状とすることも可能である。なお、磁場印加用配線1Cを流れる電流によって発生した磁場Hの磁力線は軟磁性の磁性体からなる磁気ヨーク1B内を通っており、底部磁性体1B,1B間の磁場Hの強度を高めている。なお、磁気ヨーク1Bは、フリー層1Aと同様に軟磁性の強磁性体からなる。
磁気抵抗効果素子1Aの構造は公知のものでよく、特に限定されないが、以下に説明する。
図4は、磁気抵抗効果素子1Aの縦断面図である。
磁気抵抗効果素子1Aは、フリー層1Aを含む素子である。具体的には、磁気抵抗効果素子1Aは、強磁性体の感磁層である第1磁性層(フリー層1A)と、Cuなどの導電性金属からなる非磁性層1Aを介して逆向きの磁化方向が固定された一対の強磁性層(固定層:ピンド層)1AFM(1AFM1,1AFM2)と、下部の強磁性層1AFM2に交換結合した反強磁性層1AAFと、フリー層1A及び固定層1AFMに挟まれた非磁性層1Aとを含んで構成される。なお、強磁性層1AFM1,1AFM2の磁化の向きは、厚み方向Zに垂直な方向に沿っている。
なお、磁気抵抗効果素子1AがTMR素子からなる場合には、非磁性層1Aは、非磁性絶縁層(トンネルバリア層:好適厚み1nm以下)からなることとし、磁気抵抗効果素子1AがCPP(Current Perpendicular Plane)型のGMR素子からなる場合には、非磁性層1Aは、Cuなどの非磁性導電層からなるが、いずれの構造であっても、電流は膜面に垂直に流れ、これらの素子で共振現象が好適に生じている。
これらの各層は、下部電極1A上に順次積層されている。なお、強磁性とは、隣り合うスピンが同一の方向を向いて整列し、全体として大きな磁気モーメントを持つ物質の磁性であり、強磁性体は外部磁場が無い場合においても自発磁化を有する。室温で強磁性を示す物質としては、Fe、Co、Ni及びGdがある。強磁性体としては、Co、Ni−Fe合金、Co−Fe合金等を好適に用いることができる。反強磁性層1AAFを構成する反強磁性体としては、FeMn、IrMn、PtMn、NiMn等を適用することができる。非磁性層1AをTMR素子用の絶縁層から構成する場合には、絶縁層としてトンネル効果の生じる厚みのMgO、AlやTiOなどのトンネルバリア層を用いることができる。
ここで、上述の周波数分離について更に説明する。
図5は、交流電流iの周波数fと出力電圧Vとの関係を示すグラフである。
交流電流iの周波数fが上昇すると、この周波数fと共振する周波数fを与える磁場H1,H2,H3が大きくなる(H1<H2<H3)。磁場が一定であれば、電圧Vは、特定の共振周波数fにおいてピークを有することになる。
図6は、磁場Hと電圧Vとの関係を示すグラフである。
交流電流iは、例えば、高速通信に用いられる信号であり、各種の周波数成分を含んでいる。特定の周波数成分が大きい場合には、これに共振する周波数を与える磁場における電圧Vの大きさが高くなる。なお、特定の周波数成分が小さい場合には、これに共振する周波数を与える磁場における電圧Vの大きさが小さくなることはいうまでもない。すなわち、入力された交流電流iの大きさは、周波数毎に分離され、図1に示したモニタ回路2によってモニタされる。
図7は、図1に示した磁気抵抗効果素子1Aとして、TMR素子を用いた場合の外部磁場(Oe)と、出力電圧(μV)の関係を、入力される高周波信号の周波数(GHz)毎に示すグラフであり、図8は、図7のグラフのデータを示す表であり、最上行と最左列を除く表内の数値は出力電圧(μV)を示している。
このグラフからも明らかように、共振周波数に対応する外部磁場の大きさが存在しており、周波数が高くなるほど、必要とされる外部磁場が大きくなることが分かる。外部磁場は、磁場印加用配線1Cを流れる制御電流の大きさに比例する。
図9は、この制御電流(mA)と共振周波数(GHz)の関係を示すグラフであり、図10は、図9に示したグラフのデータを示す表である。
制御電流が増加するに伴って、直線的に共振周波数が増加していることが分かる。すなわち、制御電流と共振周波数は比例している。これにより、制御電流の制御によって、容易に共振周波数を選択することができることが判明した。
なお、TMR素子の代わりにCPP型のGMR素子を用いた場合も、スピン振動の共鳴の原理を考慮すると、磁化の向きの振動に応じてTMR素子と同様に作用する。CPP型のGMR素子を用いて同様の実験を行った場合、TMR素子の場合と同様の結果が得られた。すなわち、例えば印加電圧周波数を4.5Gzとした場合、4.5GHzにおいて出力電圧のピークが観察され、その電圧値は230μVを超えるものが観察された。
上述のように、スピンデバイスの共振を用いれば、GHz帯の周波数解析を行うことができるため、通信技術の更なる発展を期待することができる。
磁気デバイス1を備えた周波数アナライザ100の斜視図である。 磁気抵抗効果素子1Aのフリー層1AFの近傍の拡大斜視図である。 図1に示した磁気デバイス1のIII−III矢印断面図である。 磁気抵抗効果素子1Aの縦断面図である。 交流電流iの周波数fと出力電圧Vとの関係を示すグラフである。 磁場Hと電圧Vとの関係を示すグラフである。 図1に示した磁気抵抗効果素子1Aとして、TMR素子を用いた場合の外部磁場(Oe)と、出力電圧(μV)の関係を、入力される高周波信号の周波数(GHz)毎に示すグラフである。 図7のグラフのデータを示す表である。 制御電流(mA)と共振周波数(GHz)の関係を示すグラフである。 図9に示したグラフのデータを示す表である。
符号の説明
1・・・磁気デバイス、1A・・・磁気抵抗効果素子、1B・・・磁気ヨーク、1A・・・フリー層、1C・・・磁場印加用配線、INPUT1,INPUT2・・・入力端子、OUTPUT1,OUTPUT2・・・出力端子、1D・・・電流制御回路。

Claims (5)

  1. 磁気抵抗効果素子と、
    前記磁気抵抗効果素子に磁場を与えるように設けられた磁気ヨークと、
    前記磁気ヨークを介して前記磁気抵抗効果素子に磁場を与える磁場印加用配線と、
    前記磁気抵抗効果素子に交流信号を供給する入力端子と、
    前記磁気抵抗効果素子から出力電圧を取り出す出力端子と、
    前記磁場印加用配線を流れる電流を制御する電流制御回路と、
    を備え
    前記磁場印加用配線に流れる電流を時系列に変化させることにより、前記交流信号に含まれる複数の特定の周波数成分に対応する直流電圧を時系列に出力する、
    ことを特徴とする磁気デバイス。
  2. 前記磁気抵抗効果素子は、
    固定層と、
    フリー層と、
    前記固定層と前記フリー層との間に配置された非磁性層と、
    を備え、
    前記交流信号は、前記磁気抵抗効果素子の膜面に対して垂直な方向に流れることを特徴とする請求項1に記載の磁気デバイス。
  3. 前記磁気ヨークによって前記磁気抵抗効果素子に与えられる磁場の向きと、前記固定層の磁化の向きが、その膜面内において5度以上の角度で交差するよう、前記磁気ヨークと前記固定層の磁化方向との相対位置関係が決定されている、
    ことを特徴とする請求項2に記載の磁気デバイス。
  4. 請求項1に記載の磁気デバイスを備え、
    前記電流制御回路から出力される直流電流を掃引しつつ、前記出力端子から出力される電圧をモニタするモニタ回路を更に備える、
    ことを特徴とする周波数アナライザ。
  5. 前記モニタ回路と前記磁気抵抗効果素子との間に介在するローパスフィルタを更に備える、ことを特徴とする請求項4に記載の周波数アナライザ。
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