熱可塑性樹脂製のプリフォームを二軸延伸ブロー成形することにより得られる樹脂容器は、機械強度、耐熱性、透明性、ガスバリヤー性、衛生性等に優れており、飲料などの食品容器等に多用されている。
そして、上記したような優れた性質を生かして、コーヒー、乳飲料等80〜90℃程度での殺菌のための高温充填を要する用途向けの熱間充填用カップ状容器も普及している。そして、この熱間充填用カップ状容器には、開口部外周に水平な鍔状のフランジ部が設けられ、該フランジの上面を利用してアルミ箔などの蓋材を接着して容器を密封するようにして利用される。
このような樹脂容器を製造する方法として、たとえば、特許文献1に記載されたような、PET樹脂製の広口カップ状容器の2軸延伸ブロー成形方法による方法がある。2軸延伸ブロー成形は、特許文献1の図7の概略説明図に示されるようなものであり、上端にフランジを設けた小型カップ状のプリフォーム(中間成形体)のフランジ部分を固定してブロー成形することにより、樹脂材料が2軸延伸されながら、カップ状の樹脂容器が成形される。
ここで、2軸延伸ブロー成形された成形品において、2軸延伸された部分は延伸により2軸方向に配向し、配向結晶が形成されており、前記プリフォームにおけるフランジ部あるいは首部(フランジ部との接続部近傍)は無延伸状態、あるいは低い延伸倍率状態となっている。このような成形品では、70℃程度の耐熱性はあるものの上記したような高温充填の際の温度では熱により変形してしまう。
従って、上記のようなプリフォームから成形される樹脂容器を高温充填で使用する際には、耐熱性を向上させる必要がある。ここで、2軸延伸された部分については、ブロー成形の際に、熱結晶化温度以上の温度で比較的短時間の熱処理(熱固定処理)を施すことにより、透明性を維持したままで耐熱性を付与することができる。これは、ブロー成形で形成された配向結晶の隙間に存在する非結晶状態の樹脂を熱結晶化する(球晶化する)ことにより耐熱性を向上させるものである。このとき、配向結晶の隙間に形成される熱結晶(球晶)は大きく成長することがないので、熱処理後も光を透過することができ、透明性を維持して耐熱性を付与することができる。ところが、フランジ部や首部等は無延伸状態で配向結晶が形成されておらず、このような熱処理(熱固定処理)によって耐熱性を付与することができない。そのため、プリフォームの状態で、あるいは最終成形品の状態で、これらの部分だけを加熱して熱結晶化処理を施すことが行われている(特許文献1参照)。たとえば、断熱板等で樹脂容器の口首部を、それよりも下方の肩部、胴部から仕切った状態とし、熱風を吹き付けたり、赤外線、遠赤外線、レーザー光等をフランジ部および首部に照射する方法が採用されている。このように、フランジ部および首部を加熱する設備が必要となるため、製造コストが増加するという問題があった。
さらに、このような熱結晶化を行った場合、耐熱性は向上するものの熱結晶(球晶)が大きく成長することにより、熱結晶化された部分が白色に変色し、不透明になるという問題があった。したがって、高温充填用の容器においては、フランジ部および首部を透明とした容器の外観デザインを採用することができなかった。特に、首部は、側方から容器を見た時に、フランジ部に比べて広い面積を占める部分であり、この部分が白化されることは容器外観をデザインする上で大きな制約となっており、首部が透明で耐熱性を有する容器が望まれていた。
また、このように白化した部分を有する容器では、例えば、容器に内容物を充填する際に、光を投射して充填量を検出する充填量検出装置や異物の有無を検出する異物検査装置等を用いることができない。すなわち、容器の白化部分が投射された光を遮るので、透明な容器で使用されるこのような装置が正常に動作せず、高温充填用容器に対して別方式の設備を設ける必要があり、設備コストが増加する問題があった。
特開2006−150767号公報
本発明は、上記の様な従来技術の問題点を解消し、高温充填用に使用される容器を製造する場合であっても、首部を熱結晶化させる必要がなく、耐熱性を有していて、透明性を維持した首部を有する樹脂容器を製造する為に用いられるプリフォームおよびその製造方法を提供することにある。
本発明の請求項1に記載の発明は、結晶化可能な熱可塑性樹脂から成り、ブロー成形により容器を製造するために用いるブロー成形用樹脂製プリフォームにおいて、下端に環状のフランジ部を有し、前記フランジ部の上方には、前記フランジ部の内周端部に接続する首部が設けられ、前記首部の上方には、前記首部に接続し、上端が閉じたブロー成形予定部が設けられており、前記首部は、下記式(1)で表される相対結晶化度Xrの値が、0.6≦Xr≦1.0となるように配向結晶化され、かつ前記ブロー成形予定部は配向結晶化されていないことを特徴とするブロー成形用樹脂製プリフォームである。
式(1)Xr=(ΔHm−ΔHc)/ΔHm
ここで、Xr:相対結晶化度
ΔHm:結晶融解時の吸熱量
ΔHc:熱結晶化時の発熱量
請求項2に記載の発明は、前記首部は、下記式(2)で表される圧縮加工率Y[%]が、40%以上であることを特徴とする請求項1に記載のブロー成形用樹脂製プリフォームである。
式(2)Y=(To−Tn)/To×100[%]
ここで、To:成形前の熱可塑性樹脂板の板厚
Tn:成形された前記プリフォームの首部の壁厚
請求項3に記載の発明は、前記フランジ部を水平とした時に、前記首部が垂直方向に対してなす傾斜角度が、0°以上15°以下であることを特徴とする請求項1から2のいずれかに記載のブロー成形用樹脂製プリフォームである。
また、請求項4に記載の発明は、前記熱可塑性樹脂板を構成する樹脂のうち最も高いガラス転移点を有する樹脂のガラス転移点以上に加熱する加熱工程と、前記加熱工程を経て加熱された前記樹脂板を雄型と雌型との間に挟み込み、圧縮することにより前記プリフォームの形状を成形する型締め工程と、前記雄型と前記雌型に挟み込まれた部分を前記樹脂板から押し抜いて切断する切断工程とを含み、前記雄型および雌型には、前記首部に対応する部分に前記雄型の移動方向に対して平行または平行に近い傾斜角度の成形面が形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のプリフォームを製造するためのプリフォーム製造方法である。
また、請求項5に記載の発明は、前記型締め工程で、前記フランジ部の厚さが前記熱可塑性樹脂板の厚さよりも薄くなるように圧縮した後、前記切断工程を行うことを特徴とする請求項4に記載のプリフォームの製造方法である。
本発明は上記した構成のプリフォームであり、以下に示す効果を奏する。
請求項1の発明によれば、前記首部は前記相対結晶化度Xrの値が、0.6≦Xr≦1.0となるように配向結晶化されていることにより、配向結晶が密に形成され、非結晶部が少ない為、加熱によっても変形し難く、熱結晶化温度以上に加熱しても白化することがなく透明であり、熱間充填用の容器に使用できる耐熱性を有する首部となっている。そのため、このプリフォームから成形される樹脂容器については、首部を熱結晶化する必要がなく、熱処理に必要な時間を短縮でき、生産コストを低減できる。また、首部より下方のブロー成形予定部は配向結晶化されていない為、プリフォームとしてブロー成形された際の成形性が良好である。
請求項2の発明によれば、請求項1に記載のブロー成形用樹脂製プリフォームにおいて、前記首部における前記式(2)で表される圧縮加工率Y[%]が、40%以上となるように構成したことにより、成形加工による首部の配向結晶化がすすみ、十分な耐熱性が付与された透明なプリフォームとすることができる。
請求項3の発明によれば、前記首部は、垂直方向に対してなす傾斜角度を0°以上15°以下としたことにより、熱可塑性樹脂板を圧縮成形してプリフォームを製造する際に、前記プリフォームの首部がずり応力(せん断応力)によるしごきの作用を受けながら成形されるので首部が容易に配向結晶化される効果を有する。
また、本発明は上記した構成のプリフォームを製造するための製造方法であり、以下に示す効果を奏する。
請求項4の発明によれば、前記雄型および雌型に、前記首部に対応する部分に前記雄型の移動方向に対して平行または平行に近い傾斜角度の成形面が形成されていて、雄型の前記成形面と雌型の前記成形面との距離が前記熱可塑性樹脂板の板厚よりも小さくなっていることにより、前記型締め工程において、前記首部の壁厚が前記熱可塑性樹脂板の板厚より薄くなるように形成されていることにより、前記プリフォームの製造の際、前記型締め工程において、ずり応力(せん断応力)を首部に作用させながら成形することができるため、前記首部の相対結晶化度Xrが0.6以上となるように配向結晶化することが可能となり、前記首部は、配向結晶が密に形成された状態となり耐熱性が付与される。なお、一般的には、延伸配向しただけでは耐熱性は付与されず、熱固定処理を行うことによって耐熱性を付与することができるが、本発明によれば、ずり応力(せん断応力)を作用させながら成形を行うことによって相対結晶化度が0.6以上になり、2軸延伸によって形成される配向結晶よりも密に配向結晶が形成され、熱固定処理されたのと同様の効果が得られる為、プリフォームのブロー成形時あるいはブロー成形後に別工程で首部の熱固定処理を行うことなく首部に耐熱性を付与することができる。また、雄型および雌型に所定の成形面を形成するのみで首部に配向結晶を形成することができ、プリフォームの成形装置の機構には何ら変更を加える必要がなく、コストを抑制することができる。
また、請求項5の発明によれば、前記型締め工程で、前記フランジ部の厚さが前記熱可塑性樹脂板の厚さよりも薄くなるように圧縮するように構成したことにより、前記切断工程において、切断面を滑らかに切断することができ、バリの発生や切断部の美観が損なわれることが防止される。さらに、フランジ部を圧縮することにより、フランジ部が金型の間に挟み付けられ、首部への樹脂の流動が抑えられた状態で、ずり応力(せん断応力)が首部に作用することとなり、圧縮しない場合と比較してより大きなずり応力(せん断応力)を作用させることができるので、前記首部の配向結晶化を進めることができ、良好な耐熱性と透明性を有する首部をもったプリフォームを製造することができる。
以下、図面を参照して、本発明を実施する為の最良の形態について説明する。図1は、本発明に係るプリフォームを示す図である。前記プリフォーム1は、熱可塑性樹脂により、フランジ部2、首部3、ブロー成形予定部4が一体的に接続されて構成され、開口部5が形成されている。前記フランジ部2は、前記開口部5の周囲に位置し、半径方向外方に向けて水平に突き出した環状に形成されている。前記首部3は、前記フランジ部2の内周端に接続し、実質的に垂直な円筒状に形成されている。そして、前記首部3の上方には、ブロー成形予定部4が、所定の曲率半径で屈曲した接続部を介して接続している。前記ブロー成形予定部4は前記プリフォーム1の縦断面において、垂直方向に対し前記首部3よりも大きな傾斜角度となるように傾斜して形成され、上端が閉じた椀状の底部を形成している。
前記プリフォーム1に使用される結晶化可能な熱可塑性樹脂としては、ポリエステル系樹脂が好適に用いられる。ポリエステル系樹脂材料としては、主にPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂が価格、透明性、安全性の面からも使用されるが、PET樹脂の特長を損なわない範囲において、他のモノマー成分を含む共重合ポリエステル樹脂も使用できる。
他のモノマー成分としては、例えばイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等のジカルボン酸成分、またジエチレングリコール、1,2−プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、1,4−シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール等のジオール成分が使用できるが、これらの例に限定されるものではない。また、熱可塑性樹脂板は延伸配向されていないことが好ましい。無延伸の樹脂板を使用することにより、プリフォームをブロー成形する際のブロー成形予定部の成形性がより良好となる。
本発明に係るプリフォーム1は、前記首部3が、相対結晶化度Xrの値が0.6以上、1.0以下となるように配向結晶が形成されており、フランジ部2およびブロー成形予定部4は配向結晶化されていない状態である。したがって、前記プリフォーム1全体が透明性を維持しつつ、首部3は耐熱性を有しており、加熱によって白く変色することがない。
また、前記首部3は、前記プリフォーム1の縦断面において、垂直または垂直に近い傾斜角度を持つように構成されている。前記傾斜角度は垂直方向に対して0°〜15°が好ましい。このような傾斜角度とすることにより、前記プリフォーム1を成形する際に、首部3部分にずり応力を加えて延伸させ配向結晶を形成させるので、前記首部3を容易に配向結晶化することができる。この傾斜角度が15°を超える角度とした場合には、首部3を成形する際に、首部3部分を僅かしか延伸させることができず、配向結晶を十分に形成することができないので、後述する相対結晶化度が低下し、十分に配向結晶化することができず、良好な耐熱性が得られなくなる。
本発明において、配向結晶化の程度を示す相対結晶化度Xrは、前記首部3において0.6以上1.0以下とされる。この相対結晶化度Xrは、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定される発熱・吸熱曲線(DSC曲線)から求めることができる。図6に示すように、DSC曲線から、熱結晶化温度Tcのピーク部分の面積として求められる熱結晶化時の発熱量ΔHcと融点Tcのピーク部分の面積として求められる結晶融解時の吸熱量ΔHmを求め、下記式(1)から求めることができる。
式(1)Xr=(ΔHm−ΔHc)/ΔHm
また、成形前の熱可塑性樹脂板の厚さからどの程度まで薄肉化されているかを示す指標である圧縮加工率Yは下記の式(2)で求めることができる。
式(2)Y=(To−Tn)/To×100[%]
ここで、To:成形前の熱可塑性樹脂板の板厚
Tn:成形された前記プリフォームの首部の壁厚
本発明においては、このYの値を40%以上とすることにより首部に良好な耐熱性を付与することができる。
前記ブロー成形予定部4は、前記首部3の上端に一体的に接続し、椀状の底部を形成している。ブロー成形予定部4は未配向であることからブロー成形により容易に変形することができ、樹脂容器を成形する際に良好な成形性を示す。
前記フランジ部2は、開口部5の周囲に位置し、開口部5の半径方向外方に向かう水平な環状に形成されている。フランジ部2の厚さは、成形前の熱可塑性樹脂板の厚さよりも薄くなっている。このようにフランジ部2の厚みを薄くすることで、プリフォーム1の目付量を減少することができ、容器を軽量化することができる。また、型締め工程の後、前記プリフォーム1を前記熱可塑性樹脂板から打ち抜いて切断する切断工程において、切断に要する荷重を小さくすることができる。さらに、切断面を滑らかに形成することができるので、フランジ部2の外周の美観を損ねることがない。フランジ部2の厚さは、プリフォーム1から成形される容器の形状等に応じて適宜定めることができるが、フランジ部2の厚さが厚すぎると、目付量が増加するので経済性に劣り、また切断に必要な荷重が大きくなるので製造設備が大型化して設備コストが増加する。さらに、前記切断工程においてバリが発生したり、ざらついた切断面が形成されることがあり、美観が損なわれる場合があるので好ましくない。逆に薄すぎると、フランジ部2の強度が不十分となるので好ましくない。本発明におけるフランジ部2の厚さは、1.0mm以上1.5mm以下が好適である。また、プリフォーム1を圧縮する際に加えられる荷重は、材料の性質やプリフォーム1の形状、成形条件等により異なるが、9.8kNから14.7kN程度が好ましい。
また、本発明は上記の構成を有するプリフォーム1を製造するための製造方法であり、以下にその実施の為の最良の形態について説明する。
本発明に係るプリフォーム1の製造方法では、熱可塑性樹脂板からプリフォーム1を製造する。本発明に用いる熱可塑性樹脂板は、前記ポリエステル系樹脂材料を単独で使用した単層シートでも、ガスバリア性や耐熱性等、包装容器としての性能向上を鑑みて他の機能性樹脂材料と積層した多層シートでも良い。また、前記機能性樹脂材料を前記ポリエステル系樹脂材料に一定量ブレンドして積層することもできる。
図2(a)〜(e)は本発明の第一の実施形態の製造方法を示す工程図である。まず、図2(a)に示すように、熱可塑性樹脂板の両面に熱風を吹き付けて加熱する熱風加熱手段、熱可塑性樹脂板の両面に赤外線を照射して加熱する赤外線加熱手段、熱可塑性樹脂板を加熱したロールで挟んで加熱する課ロール加熱手段等、適宜の加熱手段(図示せず)により前記熱可塑性樹脂板6をガラス転移点以上で熱結晶化温度未満の温度に加熱する。複数の樹脂を積層した多層の樹脂板や複数の樹脂を混合したブレンド樹脂を使用した樹脂板の場合には、それらの樹脂の中で最も高いガラス転移点を持つ樹脂のガラス転移点以上で、それらの樹脂のうち最も低い熱結晶化温度を持つ樹脂の熱結晶化温度未満に加熱する。樹脂板の温度が高いほど、成形後のプリフォームに残留応力が残らないので好ましいが、熱結晶化温度を超えるとシートが白く変色するため、好ましくない。そして、加熱された該熱可塑性樹脂板6を金型内へと搬送する。本実施形態で用いる金型は熱可塑性樹脂板6の下方に配置された雄型7と上方に配置された雌型8により構成されていて、雄型7は雌型8に向かって進退自在に移動可能となっている。また、雄型7は前記プリフォーム1を排出するために水平に近い状態で横倒しとなった排出位置9と、雄型7を垂直方向に向けた成形位置10の2つの姿勢を取ることができるように構成されており、加熱された前記熱可塑性樹脂板6が搬送された状態では、成形位置の姿勢を取っている。金型内へ前記熱可塑性樹脂板6が搬送されたら、図2(b)に示すように、雄型7を雌型8側に向かって移動させ、前記熱可塑性樹脂板6は雄型7に接触して変形しながら雄型7と共に雌型8側へ移動し、雄型7の上死点で雌型8と接触して雄型7と雌型8の間に挟み込まれ、プリフォーム1の形状が附形される。雄型7および雌型8の内部には、金型を冷却する為、冷却水を循環させる流路が形成されている。該流路には冷却水が循環しており、金型の表面温度を一定に保っている。冷却水の温度は成形温度や熱可塑性樹脂板の厚さ等により適宜設定されるが、5℃〜15℃程度が好ましい。型締めに要する時間は、製造条件により適宜定められるが、1秒〜2.5秒程度であり、この間にプリフォームが所定の温度まで冷却される。金型内に形成される流路は、要求される冷却能力に応じて適宜設定できるが、金型の首部成形面から比較的距離の離れた位置に流路を設けることにより、プリフォームの首部の冷却速度を小さくするように構成することもできる。首部の冷却速度を小さくすることにより、首部はガラス転移点以上の温度域で徐冷されることとなり、首部の成形で配向結晶化していない部分の樹脂を熱結晶化させることができるとともに首部の成形により生じた内部の残留応力を緩和することができ、耐熱性をさらに高めることができる。一般に、熱結晶化温度以下の温度では、熱結晶(球晶)は生成しにくいが、本発明においては、相対結晶化度Xrが高く、配向結晶が密に形成していることにより、配向結晶が核剤のように結晶生成の核の役割を果たし、熱結晶化を促進すると推測される。このとき形成される熱結晶(球晶)は配向結晶の隙間に形成されるので、大きく成長することはなく透明性は維持される。型締めが終了した時点では、プリフォーム1のフランジ部2となる部分が元の板厚よりも薄くなるまで圧縮されているが、樹脂板とは接続した状態であり、まだ完全には切断されていない。この状態で所定の温度まで熱可塑性樹脂板6が冷却され、雄型7と雌型8がプリフォーム1を挟んだ状態で上昇し、熱可塑性樹脂板6からプリフォーム1が切断される。冷却されたプリフォーム1の温度は熱結晶化温度以下、好ましくはガラス転移点以下まで低下していることが好ましい。このように、所定温度まで冷却してからプリフォーム1が熱可塑性樹脂板6から切断されるので、切断後の熱収縮の影響によって生じるプリフォーム1の寸法のばらつきが抑制され、良好な寸法精度でプリフォーム1を製造することができる。プリフォームが切断された後、雄型7が雌型8側と逆方向へ移動して、横倒しとなった排出位置9の姿勢を取った雄型7から前記プリフォーム1が排出され、次工程へと搬送される。
本実施形態の型締め工程及び切断工程について図3(a)〜(e)を参照して詳細に説明する。図3(a)に示すように、雄型7および雌型8のプリフォーム首部3に対応する位置には、前記雄型7の移動方向に対して平行となるように首部成型面11が形成されている。すなわち、本実施形態では雄型7が垂直方向に移動するので、縦断面が垂直となるような首部成型面11が形成されている。雄型および雌型の内部には、冷却水を循環させる為に、図示しない流路が形成されている。冷却水は、所定の温度に冷却されて図示しない流入口から金型内部の流路を通って金型を冷却し、温度の上昇した冷却水が図示しない流入口から金型外へ流出する。金型外へ排出された冷却水は再度、所定の温度に冷却され、再度流入口から金型内部の流路へ供給される。このように成形中は常時、冷却水が循環し、金型を一定の温度に保つように構成されている。本実施形態では、金型内部の流路が首部成形面の近傍には形成されないように構成されており、首部の冷却速度を下げて、徐冷することが可能となっている。図3(b)に示すように、下側の雄型7が上昇して雌型8側へ移動し、図3(c)でこれらの首部成型面11に挟み込まれた熱可塑性樹脂板6には、雄型7の移動によって垂直方向にずり応力(せん断応力)が作用するため、首部3が配向結晶化する。本発明においては、このように金型の移動方向にずり応力(せん断応力)を加え、しごき加工の効果によって首部3を配向結晶化するので、金型の移動方向、すなわち、首部3の高さ方向に樹脂が配向する。したがって、高さ方向にのみ配向結晶が生成され、首部の周方向に配向した配向結晶はほとんど生成されない。このことにより、本発明におけるプリフォームの首部においては、高さ方向に配向した配向結晶が密に形成され、非結晶の部分がほとんど存在しないか、存在しても配向結晶と比較して少ない量である為、耐熱性がさらに向上していると考えられる。このような、首部3が高さ方向に配向するように構成されたプリフォームは、熱可塑性樹脂板6を圧縮成形して製造する場合、プリフォームの製造装置の駆動機構等には何ら変更を加えることなく、雄型7および雌型8の形状を、前記首部成型面11が設けられた形状へと僅かに変更するだけで製造できることから、設備コストが抑制され、低コストでの生産が可能となる。また、十分な耐熱性を得られる程度に配向結晶化するため、雄型7と雌型8の首部成型面11の距離(クリアランス)は、前記式(2)で示される圧縮加工率Yが40%以上となるような間隔とする。圧縮加工率Yが大きいほど配向結晶化が進むが、首部3の板厚が薄すぎると十分な強度を得られなくなるので、首部3は1mm以上の厚さを有することが好ましい。なお、本発明で使用する熱可塑性樹脂板6について、成形前の厚さについてとくに制限はないが、樹脂板が厚すぎるとプリフォームの成形に必要な荷重が大きくなり過ぎるので好ましくなく、また、熱可塑性樹脂板6の生産性を考慮すると10mm以下とするのが好ましい。従って、圧縮加工率Yの上限としては90%以下が好ましい。また、プリフォーム1の成形性から見て、熱可塑性樹脂板6の元板厚が厚すぎると加工がし難くなることから、圧縮加工率Yを80%以下とするのがより好ましい。
また、図4に示すように雄型7及び雌型8に形成される首部成形面11は垂直方向に対して傾斜していても良い。この場合には、傾斜した首部3を有するプリフォーム1が成形される。この首部成型面11が垂直方向に対してなす傾斜角度αは、0°以上15°以下が好ましい。αが15°を超えると熱可塑性樹脂板6に作用するずり応力(せん断応力)が小さくなるので、首部3の配向結晶化が不十分となり、所望のプリフォーム1が得られなくなる。
そして、図3(d)に示すように、雄型7が上死点まで移動して停止し、前記熱可塑性樹脂板6が雌型8との間に挟み込まれる。このとき、前記熱可塑性樹脂板6のうちフランジ部2となる領域が元の板厚よりも薄くなるまで圧縮される。このように圧縮することにより、成形後のプリフォーム1の切断が容易になり、切断面の美観を損ねることなく切断することができる。すなわち、熱可塑性樹脂板6を圧縮することにより、切断工程において、切断のために金型が移動する距離が小さくなり、また、圧縮によって、その後の切断工程で切断される部分に対し予めせん断力が作用するので、切断し易い状態になりバリの発生や切断面のざらつきを抑制することができる。次いで、図3(e)に示すように、雄型7と雌型8が、前記熱可塑性樹脂板6を挟み込んだ状態のまま上昇して雌型8側へ移動する。すると、前記プリフォーム1がフランジ部2の外周で雌型側切刃12と雄型側切刃13によって切断され、雄型7と雌型8に挟み込まれた状態で押し抜かれることによりプリフォーム1は前記熱可塑性樹脂板6から分離する。
その後、図2(e)に示すように、雄型7は雌型8から離れるように移動して、雄型7が横倒しになる排出位置9の状態でプリフォーム1が雄型7から排出され、次工程へと搬送される。
本発明の型締め工程及び切断工程における第二の実施形態を図5(a)〜(d)に示す。図5に示す金型では、雄型7が上側に配置され、雌型8が下側に配置されており、雄型7側には円筒状のフランジ押さえ部材14が雄型7の周囲を囲むように上下動自在に配置されている点が第一の実施形態と異なっている。この型締め工程について説明すると、まず、図5(a)に示すように、このフランジ押さえ部材14と雌型側切刃12の上端面で、熱可塑性樹脂板6のうちフランジ部2となる部分(フランジ形成予定部)を挟み込んで元の熱可塑性樹脂板6の厚さよりも薄くなるように圧縮する。そして、図5(b)に示すように、雄型7が雌型8側へ移動して熱可塑性樹脂板6にプリフォーム1の形状を附形していく。このとき、熱可塑性樹脂板6のフランジ形成予定部がフランジ押さえ部材14により圧縮されているため、その周辺では熱可塑性樹脂板6の素材が流動しにくくなっている。従って、首部3が形成される領域に引っ張り力が作用するため、この段階から首部3の配向結晶化が開始される。そして雄型7が雌型8側へ更に移動し、垂直に形成された雄型7の首部成形面11と雌型8の首部成形面11の間に挟み込まれ、ずり応力(せん断応力)が作用して、配向結晶化された首部3が形成される。このように、フランジ押さえ部材14によってフランジ形成予定部を挟み込んだ状態で、首部成形面11によりずり応力を作用させながら成形することにより、首部3の配向結晶化をより促進することができる。
そして、雄型7が更に雌型8側へ移動し、図5(c)に示すように、下死点で雄型7が移動を停止し、熱可塑性樹脂板6が金型に挟み込まれることにより、型締め工程が完了する。この状態で所定の温度まで樹脂が冷却され、その後、プリフォーム1の形状が附形された熱可塑性樹脂板6を挟んだ状態のまま、雄型7と雌型8が同時に雄型7側へ移動することにより、図5(d)に示すようにフランジ部外周が雄型側切刃13と雌型側切刃12によりせん断されて前記プリフォーム1が熱可塑性樹脂板6から切断される。プリフォーム1が切断された後、雄型7が雌型8側と逆方向へ移動して前記プリフォーム1が金型から排出され、次工程へと搬送される。
[実験1]
以下に実施例と比較例を挙げて本発明を説明する。熱可塑性樹脂板6に用いるポリエステル系樹脂としてガラス転移点が約70℃、熱結晶化温度が約140℃のポリエチレンテレフタレートを使用した。板厚は2.5mm,2.0mm,1.0mmの3種とした。
製造方法としては、前述したフランジ押さえ部材14を使用しない第一の実施形態の成形方法によりプリフォーム1の製造を行った。金型内部に冷却水を循環させ、金型表面が10℃になるように金型を冷却し、成形時に熱可塑性樹脂板6を熱風加熱手段により約130℃に加熱して、成形を行った。雌型8の形状としては、雌型8の上端面からプリフォーム1の底部に対応する雌型8内面の上端までの高さを約30mm、雌型8の首部成型面11の直径を64.5mmとした。これに対し、雄型7は、フランジ部に接触する面から雄型8の上端までの高さを約29mmとし、首部成形面11の外周直径が62.5mmのものと63.5mmのものを作成した。従って、雄型7と雌型8の首部成形面11の距離(クリアランス)は首部成形面11の直径が62.5mmの雄型7を使用すると1.0mmとなり、63.5mmの雄型7を使用すると0.5mmとなった。雌型側切刃12および雄型側切刃13の外周直径はともに70.5mmとした。従って、首部成形面11の直径が62.5mmの雄型を使用するとフランジ幅(プリフォーム内面からフランジ部2の外周端面までの距離)は4mmとなり、首部成形面11の直径が63.5mmの雄型を使用するとフランジ幅は3.5mmとなった。板厚2.5mmと2.0mmの熱可塑性樹脂板6に対してはクリアランスを1.0mmとした金型を用い、また、板厚が1.0mmの熱可塑性樹脂板6に対してはクリアランスを0.5mmとした金型を用いて、フランジ部2の厚さが約1mm、首部3の高さが約7mmとなる前記プリフォーム1を製造した。また、比較例として、クリアランスを1.0mmとした金型を用い、雄型7と雌型8の首部成型面11のクリアランスよりも薄い0.9mmの板厚の熱可塑性樹脂板6を用いて同様にプリフォーム1を成形した。
製造したプリフォーム1のフランジ部2の首部側の平面から高さ5mmまでの範囲、フランジ部2の首部側の平面から高さ10mmの近傍、フランジ部2の首部側の平面から高さ15mmの近傍に位置する部位からそれぞれ約7.5mgの熱可塑性樹脂板6を測定用に採取し、示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製・熱流束型DSC−6220)を使用して、図6に示すような、室温から300℃まで、昇温速度10℃/分で加温した際の発熱・吸熱曲線(DSC曲線)を測定により得た。得られたDSC曲線から結晶融解時の吸熱量ΔHmと熱結晶化時の発熱量ΔHcを算出した。ΔHmは、DSC曲線において融点Tmのピーク部分の面積として求められ、同様にΔHcは熱結晶化温度Tcのピーク部分の面積として求められる。このようにして求めたΔHmとΔHcより、前記式(1)により相対結晶化度を算出した。同時に、それぞれの板厚の熱可塑性樹脂板6から製造されたプリフォーム1の首部3の壁厚を測定し、前記式(2)から圧縮加工率を算出した。
また、それぞれのプリフォーム1を熱風加熱手段により熱結晶化温度である140℃に加熱して3分間その温度を維持し、各部位の加熱による白化の状態を観察した。その結果を表1に示す。
実施例について、前記プリフォーム1の首部3にあたるフランジ部の首部側の平面から5mmまでの領域では、全ての樹脂板厚で相対結晶化度が0.6以上となっており、十分に配向結晶化されていることから加熱後も透明な状態を維持していた。板厚2.5mmの場合のフランジ部の首部側の平面から10mmの位置では、相対結晶化度が0.68となっているが、これは、板厚2.0mmの熱可塑性樹脂板6と同じ金型を使用して成形を行ったので、板厚の厚い2.5mmの熱可塑性樹脂板6には、より大きなずり応力(せん断応力)が作用し、首部3下端の接続部までが配向結晶化されたものと考えられる。その他の部位では相対結晶化度が0.6を下回り、十分に配向結晶化されておらず、加熱後に白化した。また、比較例として雄型7と雌型8の首部成型面11のクリアランスよりも薄い0.9mmの板厚の樹脂板を用いて成形したプリフォーム1では、首部3にずり応力(せん断応力)が作用せず、十分に配向結晶化されない為、加熱によってフランジ部端面から5mmまでの領域も白化した。
[実験2]
次に、首部3の傾斜角度を変化させたプリフォームを製造した実施例を示す。熱可塑性樹脂板6としては、実験1で用いた板厚2.5mmの樹脂板を使用した。金型は、雄型7及び雌型8の首部成型面11の傾斜角度が異なる金型を製作し、首部3の傾斜角度が0°、15°、22°、30°となるプリフォーム1を製作した。そして、それぞれのプリフォーム1について、実験1と同様の方法でフランジ部端面から5mmの位置における相対結晶化度を求めた。また、雄型7及び首部成型面11のクリアランスが1.0mmとなるようにした。製造したプリフォーム1を熱風加熱手段により熱結晶化温度である140℃に加熱して3分間その温度を維持し、白化の状態を観察した。その結果を表2に示す。
上記の様に、傾斜角度が0°の場合に相対結晶化度が1.00を示し、加熱後の透明性および耐熱性は最も良好であった。また、15°以下では相対結晶化度が0.6以上であり、首部3は加熱後も透明な状態を維持し、十分な耐熱性を有していた。傾斜角度が22°、30°のプリフォームでは相対結晶化度が0.6を下回り、首部3は加熱後に白化した。このように首部3の傾斜角度を垂直方向に対して15°以下とすることにより、首部3が配向結晶化され、加熱による白化を防止することができる。また、首部の傾斜角度が0°以上15°以下で良好な耐熱性および加熱後の透明性を示すことから、雄型、雌型の首部成形面の傾斜角度も0°以上15°以下が好ましく、傾斜角度が0°すなわち雄型の移動方向と平行に首部成形面を形成するのが最も好ましい。