JP5101779B2 - 高臨界電流超伝導テープ用構造物 - Google Patents

高臨界電流超伝導テープ用構造物 Download PDF

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Description

【0001】
本発明は、2000年6月21日出願の仮特許出願連続番号60/231,111による利益を主張するものである。
【0002】
(連邦政府の権利に関する説明)
本発明は、米国エネルギー省により付与された契約番号W−7405−ENG−36の下、政府の援助をうけてなされたものである。政府は、本発明に関する所定の権利を有する。
【0003】
[発明の分野]
本発明は、超伝導薄膜テープにおいて高臨界電流密度を達成するための複合構造物に関する。そのような複合構造物は、高臨界電流超伝導テープ用の多層構造物またはアーキテクチャとすることができる。
【0004】
[発明の背景]
開発当初から、コーティング導体の研究は、長尺の材料を製造すること、それとともに全臨界電流容量を増やすことに重点が置かれてきた。複数の研究グループが、いくつかのコーティング導体製造技術を開発してきた。どの技術をコーティング導体に使用するにせよ、高度に配向した組織をもつ厚い超伝導薄膜(たとえばYBa2Cu37-x(YBCO))を、高い超伝導電流保持能力で、金属基材上に形成するという最終目標は変わらない。コーティング導体に厚い超伝導薄膜を使用することは理にかなっている。というのも、全臨界電流と実効臨界電流密度(エンジニアリング臨界電流密度)(全臨界電流のテープ断面積に対する比で定義)の両方が、超伝導薄膜の厚みに直接相関しているからである。
【0005】
このことは知られて久しいが、YBCO薄膜の臨界電流密度は、単結晶ウェハまたは多結晶ニッケル合金基材上に形成された薄膜の膜厚の関数になる。より高い臨界電流密度が、約100〜約400ナノメートル(nm)の範囲のYBCO膜厚で得られている。一方、臨界電流密度は、YBCO膜厚が増加するにつれ減少する傾向にある。たとえば、フォルチン他(Foltyn et al.),Appl.Phys.Lett.,63,1848−1850,1993は、単結晶基材上、2マイクロメートル(μm)を超える厚みのYBCO薄膜において、臨界電流密度値は約1メガアンペア/平方センチメートル(MA/cm2)で飽和することを示している。多結晶金属基材上で、YBCOの臨界電流密度はより低くなる。これは主に、YBCO薄膜の面内配向性がそれほど上がらないためである。問題なのは、通常の製造条件を用いて2μmを超えて金属基材上にYBCO材料をさらに積み重ねても全超伝導電流容量に寄与しないということである。このことは、金属基材上、そのように厚いYBCO薄膜において、臨界電流は膜厚全体にわたり均一に分布していないことを示唆する。現在のところ、厚いYBCO薄膜の表層領域にある高密度の欠陥が、そのような問題の原因であると考えられている。
【0006】
超伝導テープ製造の最近の進歩にもかかわらず、臨界電流特性の大きさについて、引き続き改良が望まれている。
【0007】
本発明の一つの目的は、高臨界電流値を有する超伝導テープを提供することである。
【0008】
本発明のさらなる目的は、たとえば、YBCOと、CeO2等の絶縁性材料または酸化ストロンチウムルテニウム等の導電性材料とを、交互に積層する多層構造物を使用して、高臨界電流値を有する超伝導テープを提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、たとえば、YBCOと、SmBCO等の第2の超伝導材料とを、交互に積層する多層構造物を使用して、高臨界電流値を有する超伝導テープを提供することである。
【0010】
[発明の概要]
上記および他の目的を達成するため、本発明の目的にしたがって、以下に具体的かつ包括的に示すとおり、本発明による超伝導構造物は、基材と、該基材上の希土類元素−バリウム−銅酸化物超伝導体の薄膜とを含むものであり、該薄膜は、厚さ約0.2ミクロン〜約2ミクロンの希土類元素−バリウム−銅酸化物超伝導体からなる第一の層と、酸化セリウム、チタン酸ストロンチウム、酸化イットリウム、酸化マグネシウムおよびイットリア安定化ジルコニアよりなる群から選ばれる絶縁性材料層またはたとえば酸化ランタンストロンチウムコバルトや酸化ストロンチウムルテニウムのような導電性材料からなる層と、厚さ約0.2ミクロン〜約2ミクロンの希土類元素−バリウム−銅酸化物超伝導体からなる第二の層とよりなる複合多層構造物からなる。該超伝導構造物は、希土類元素−バリウム−銅酸化物超伝導体層の厚さの合計が2ミクロン以上であることを特徴とし、さらに、該複合多層構造物と同じ希土類元素を含むほぼ同じ厚さの希土類元素−バリウム−銅酸化物超伝導体の単層の臨界電流よりも、大きな臨界電流を有することを特徴とする。
【0011】
本発明によるさらなる超伝導構造物は、基材と、該基材上の希土類元素−バリウム−銅酸化物超伝導体の薄膜とを含むものであり、該薄膜は、希土類元素−バリウム−銅酸化物超伝導体からなる第一の層(そこにおいて該希土類元素は、イットリウム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、エルビウムおよびイッテルビウムよりなる群から選ばれるものであり、該第一の層の厚さは約0.2ミクロン〜約2ミクロンである)と、第二の希土類元素−バリウム−銅酸化物超伝導体からなる中間層(そこにおいて該希土類元素は、該第一の層の希土類元素と異なり、かつイットリウム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、エルビウムおよびイッテルビウムよりなる群から選ばれるものであり、該中間層の厚さは約0.02ミクロン〜約2ミクロンである)と、希土類元素−バリウム−銅酸化物超伝導体からなる第二の層(そこにおいて該希土類元素は、該中間層の希土類元素と異なり、イットリウム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、エルビウムおよびイッテルビウムよりなる群から選ばれるものであり、該第二の層の厚さは約0.2ミクロン〜約2ミクロンである)とよりなる複合多層構造物からなる。該超伝導構造物は、希土類元素−バリウム−銅酸化物超伝導体層の厚さの合計が2ミクロン以上であることを特徴とし、さらに、該複合多層構造物と同じ一つの希土類元素を含むほぼ同じ厚さの希土類元素−バリウム−銅酸化物超伝導体の単層の臨界電流よりも、大きな臨界電流を有することを特徴とする。
【0012】
[詳細な説明]
本発明は、高温超伝導線または高温超伝導テープおよびそのようなワイヤーまたはテープを形成するための高温超伝導薄膜の使用に関する。本発明において、超伝導材料は一般にYBCOたとえばYBa2Cu37- δ、Y2Ba4Cu714+xまたはYBa2Cu48であるが、この基礎超伝導材料のバリエーションで他の一般性の低いものも使用できる。他の超伝導材料たとえばビスマス系およびタリウム系超伝導材料も使用してもよい。YBa2Cu37- δは好ましい超伝導材料である。
【0013】
本発明の高温超伝導薄膜において、基材は、たとえば任意の多結晶材料とすることができ、たとえば金属、あるいは多結晶酸化アルミニウムまたは多結晶酸化ジルコニウムのようなセラミックスとすることができる。好ましくは、基材は、多結晶金属たとえばニッケル、銅等である。ニッケルを含む合金類たとえば種々のハステロイ金属類は、銅を含む合金類と同様に基材として有用である。最終的に超伝導材料が堆積される金属基材は、得られる製品が可とう性となり、それによって超伝導製品(たとえばコイル、モーターあるいはマグネット)が形成できるようなものが好ましい。他の基材たとえば圧延支援二軸配向基材(rolling assisted biaxially textured substrate)(RABiTS)も同様に使用できる。
【0014】
電流容量の測定単位は「臨界電流」と呼ばれ、Icと省略され、その単位はアンペア(A)であり、「臨界電流密度」はJcと省略され、その単位はアンペア/平方センチメートルである。
【0015】
本発明は、コーティング導体についてYBCO薄膜の全電流容量を高めることに関する。一具体例において、本発明は多層構造物を使用し、それにより、コーティング導体に使用される単層膜の限界(臨界電流が膜厚の増加に応じて直線的に増加しないという限界)を取り除く。
【0016】
本発明により、YBCO薄膜について全電流容量を高めるため図1に示すような構造物を提供する。中間層(絶縁性材料、導電性材料あるいは超伝導材料とすることができる)が、欠陥の増殖を止めるために使用され、さらに、続く超伝導層たとえばYBCO層の成長のための新たなテンプレートとして働く。このプロセスは、必要に応じて何回も繰り返すことができる。この多層アプローチは、表面領域を多くし、表面ピンニングが、超伝導薄膜の臨界電流を高めるのにさらなる役割を果たし得る。この中間層の材料は、化学的および構造的にYBCOと適合するものが望ましく、一般に、たとえば、酸化ストロンチウムルテニウム(SrRuO3)、酸化セリウム(CeO2)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化イットリウム(Y23)、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、酸化ランタンアルミニウム(LaAlO3)、酸化ランタンストロンチウムコバルト(La0.5Sr0.5CoO3)および酸化ネオジムガドリニウム(NdGaO3)から選ばれ得る。中間層材料は、SrRuO3、CeO2またはSrTiO3が好ましく、CeO2がより好ましい。絶縁性材料および導電性材料について、中間層の厚さは、一般に、約20ナノメートル(nm)〜約200nmの範囲である。中間層が超伝導材料の場合、中間層の厚さは、一般に約20nm〜約2ミクロン(μm)の範囲である。YBCOの個々の層は、一般に約0.2μm〜約2μmの範囲の厚さを有し、より好ましくは約0.6μm〜約2μmの範囲の厚さを有する。多層膜全体の厚さは、約1μmより厚く、約10μmまでであり、一般に約2μm〜約5μmである。選択した用途に応じて、多層における種々の層は、異なる厚さを有することができる。
【0017】
異なる層において、希土類元素−バリウム−銅酸化物の種々の組合わせを使用することができる。希土類金属は、一般に、周期律表における任意の適当な希土類金属であり得るが、好ましくは、イットリウム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、エルビウムおよびイッテルビウムの中から選ばれる。三層の例において、第一層と第三層(その中間層は絶縁性材料、導電性材料または超伝導材料である)は、たとえば、両層が単一の希土類元素を有してもよいし、第一層がある希土類元素、第三層がそれと異なる希土類元素を含んでもよい。さらに、第一層と第三層の一方または両方が、単一の層中に複数種の希土類金属を合わせて含んでもよい。三層より多い多層複合物の場合、可能な組合わせはさらに増えるが、当業者により容易になし得る範囲のものである。イットリウムは、周知のYBCOを形成するため好ましい希土類元素である。
【0018】
そのようなデザインを使用することにより、YBCO薄膜の構造欠陥がより少なくなることが見出された。YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCOからなる多層積層物を、LaAlO3基材上に堆積し、YBCOの厚さの合計を約1.2μmとした。同じ条件下で同じ厚さ(全厚)の単層YBCO膜を堆積して比較したところ、そのχminは約55%であった(図4参照)のに対し、多層膜のχminは約20%より低かった(図3参照)。
【0019】
また、そのようなデザインを使用して得られたYBCO薄膜は、断面の透過電子顕微鏡写真(TEM)を観察したところ、高い結晶性および無欠陥構造が維持されていた。多層YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCOの断面TEM写真では、シャープで平滑な界面が認められた。重要なのは、1.2μm厚の薄膜であっても、その最表層の微細構造は、高い質を維持していたことである。最表層のYBCOは、ほぼ完全な結晶構造を有しており、それは、単結晶基材上のYBCO薄膜の結晶構造に非常に近かった。このアプローチは、より高いあるいは最高の臨界電流密度を有する超伝導薄膜を開発するのに有利であり得る。これに対し、単層のYBCO膜は、より薄い膜厚で最高の臨界電流密度に達する。このアプローチの重要な利点は、YBCO薄膜の成長において生じる欠陥を界面で食い止めることができるということである。さもなくば、単一のYBCO薄膜の表層領域では欠陥が伝播する。
【0020】
本デザインを使用することにより、表層(最上層)のYBCO層を良質なものにすることができる。YBCO薄膜の表面抵抗は、多くの因子たとえば表面粗さ、ジョセフソン弱結合(Josephson weak−links)および薄膜に存在する他の欠陥に関係する。多層[YBCO/GeO2n(n=1、2、3…)構造を用いることにより、LaAlO3基材上の厚いYBCO薄膜(約1.0μm〜約1.2μm)の表面抵抗は、単結晶YSZ基材上のより薄いYBCO薄膜(約400nm)に匹敵することが明らかになった。図5では、異なる多層構造を有する複数のYBCO薄膜の表面抵抗が、同じ条件下で堆積された同じ厚さの単層YBCO膜と比較されている。このことは、多層における表層(最上層)のYBCO層が、単結晶基材上のより薄い単層YBCO膜により近い機能を有していることを示唆する。
【0021】
そのような構造を用いることにより、結晶基材上に多層YBCO膜を達成することができる。そのような多層スキームに対し、絶縁性中間層および導電性中間層の両方が使用可能であることがわかった。たとえば、YBCO/SrRuO3/YBCO/SrRuO3/YBCO/SrRuO3/YBCOでYBCOの厚さの合計が1.12μmである構造物の平均臨界電流密度は、75.2Kで2.7×106A/cm2であることが明らかになった。電気的接続は、傾斜をエッチングすることにより、行なわれた。
【0022】
他の実験では、比較的厚い(1200nm)CeO2中間層を最上層YBCOと最下層YBCOとのあいだに挿入した。この場合、最上層と最下層の電流容量を別々に測定した。というのも、当該絶縁性層が、最上層と最下層とを絶縁するのに充分厚かったからである。単結晶YSZ基材上に堆積された多層において、YBCOの最上層(0.7μm)および最下層(約1μm)はそれぞれ、75.2Kで2.1×106A/cm2の臨界電流密度を保持できることが明らかになった。このことは、中間層とYBCO上層を堆積してもYBCO下層が劣化しないことを示している。重要なことは、両層が同様の超伝導特性を示すということである。
【0023】
多層YBCO膜を、イオンビームアシスト蒸着によって堆積させたYSZ(YSZ deposited by ion beam assisted deposition)(IBAD−YSZ)をテンプレートとして使用して、多結晶Ni合金上に堆積させた。IBAD−MgOをテンプレートとして使用することもできる。多層YBCO/CeO2/YBCO構造物を、IBAD−YSZ/Ni合金基材上に堆積させた。そこにおいて、CeO2層の厚さは、約200〜約250nmの範囲であった。YBCOの最上層(1.25μm)は、75.2Kにおいて2mm長ブリッジで2×106A/cm2超、6.5mm長ブリッジで106A/cm2超の臨界電流密度を有していた。
【0024】
YBCO層は、パルスレーザー蒸着、あるいは、同時蒸着、電子ビーム蒸着および活性化反応性蒸着を含む蒸着、マグネトロンスパッタリング、イオンビームスパッタリングおよびイオンアシストスパッタリングを含むスパッタリング、陰極アーク蒸着、化学蒸着(CVD)、有機金属化学蒸着(有機金属CVD)、プラズマアシスト化学蒸着(プラズマCVD)、分子線エピタキシー、ゾル−ゲル法、溶液法および液相エピタキシーのような方法により堆積させることができる。堆積法によっては、必要な超伝導特性を得るため、堆積後のアニールプロセスが必要である。
【0025】
パルスレーザー蒸着では、堆積すべき材料の粉末を、まず高圧下、一般に約1000ポンド/平方インチ(PSI)を超える圧力下でプレスしてディスクまたはペレットにすることができ、ついで、プレスして得られたディスクを酸素雰囲気または酸素含有雰囲気中、約950℃の温度で約1時間以上、好ましくは約12〜約24時間、焼結することができる。レーザーパルス蒸着の適当な装置は、Appl.Phys.Lett.56,578(1990)の「YBa2Cu37- δエキシマレーザー蒸着におけるビームパラメーターの効果」“Effects of Beam Parameters on Excimer Laser Deposition of YBa2Cu37- δ”に示される。この引用により、当該記載がここに開示されているものとする。
【0026】
パルスレーザー蒸着の適当な条件としては、たとえば、エキシマレーザーのようなレーザー(20ナノ秒(ns)、248または308ナノメートル(nm))を、ターゲット材料である回転ペレットに対し、入射角約45°で照射することがある。基材は、約0.5rpmで回転する加熱ホルダー上に置くことができ、それにより、得られる薄膜またはコーティングの厚みのバラツキを最小限に食い止めることができる。堆積中、基材を加熱することができ、その温度は、約600℃〜約950℃、好ましくは約700℃〜約850℃とすることができる。堆積中、堆積チャンバ内を、約0.1ミリトール(mTorr)〜約10トール(Torr)、好ましくは約100〜約250mTorrの酸素雰囲気に保持することができる。基材とペレットとのあいだの距離は、約4センチメートル(cm)〜約10cmにすることができる。
【0027】
薄膜の堆積速度は、レーザー繰り返し回数を約0.1ヘルツ(Hz)〜約200Hzの範囲で変えることにより、約0.1オングストローム/秒(A/s)〜約200A/sの範囲で変えることができる。一般に、レーザービームは、約1ミリメートル(mm)×4mmの大きさとすることができ、約1〜4ジュール/平方センチメートル(J/cm2)の平均エネルギー密度を有することができる。堆積の後、薄膜は、一般に約100Torrより高い圧力の酸素雰囲気内で室温まで冷却される。
【0028】
本発明は、以下の例によってさらに詳細に説明されるが、本発明はそれらに限定されるものではなく、当業者によって多くの修飾および変更が可能なことは明らかである。
【0029】
実施例1
YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCOの多層体を、パルスレーザー蒸着を用いて、通常の製造条件(ジャイア他(Jia et al.),Physica C,v.228,pp.160−164,1994参照)下、単結晶LaAlO3基材上に堆積させた。各YBCO層の厚さは、0.4μmであり、YBCOの合計の厚さは1.2μmであった。各CeO2層は約50nmであった。図3に示すように、この多層積層体のラザフォード後方散乱分光法によるχmin(薄膜における構造欠陥および構造異常の程度を直接示すもの)は約20%を下回っていた。
【0030】
比較のため、厚さ1.2μmの単層YBCOを、同じLaAlO3基材上に、パルスレーザー蒸着を用いて同じ製造条件下で堆積させた。図4に示すとおり、この単層YBCOのラザフォード後方散乱分光法によるχminは約55%であった。
【0031】
これらの結果より、単層構造に比べ、多層構造を用いることによってYBCO薄膜における微細構造異常を大きく減らすことができると結論づけられた。一方、単層YBCO膜では、膜厚が増加するにつれYBCO薄膜に生じる異常または欠陥が増えてくる。
【0032】
実施例2
基材としてインコネル625を使用して、コーティング導体テープを調製した。テープを研磨し、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)の二軸配向層をイオンアシスト銃を用いたイオンビームアシスト蒸着(ion−beam−assisted−deposition)(IBAD)により堆積させた。その方法は、米国特許明細書第5872080号およびフォルチン他(Foltyn et al.),IEEE Trans.Appl.Supercond.,vol.9,pp.1519−1522,1999にしたがった。当該方法は、この引用により、本明細書に開示されているものとする。ついで、パルスレーザー蒸着(PLD)を用い、必要な厚さのYBCO層およびCeO2層をさらに堆積させた。
【0033】
図6は、金属基材上の、(a)厚さ1.1μmの単層YBCO、(b)各YBCO層の厚さが1.1μmである三層YBCO構造物(YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO)、および(c)厚さ3.2μmの単層YBCOについて、(102)YBCOピークのX線回折χスキャンを示す。予想どおり、金属基材上の厚さ1.1μmの単層YBCOは、きれいにc軸配向していた。YBCO薄膜の厚さが3.2μmに増えることにより、図6に示すようにχ角度60°でa軸粒が検出され、一方、a軸のc軸に対する割合は約25%未満であった。これらa軸粒は、分離された1.1μmのYBCOを三層有する多層構造を用いることにより、3.3μmの膜厚になっても検出されなかった。
【0034】
さらに注目すべきことに、多層構造を用いることにより、YBCO(103)ピークのX線回折ファイスキャン(図7参照)から明らかなように、45°回転粒が排除された。各YBCO層の厚さが1.1μmの三層YBCO構造物と厚さが3.2μmの単層YBCOの両方の走査電子顕微鏡写真を観察した。その結果、3.3μm厚の多層YBCO膜ではa軸核形成部位が非常に限られていたのに対し、3.2μm厚の単層YBCOではその表面に多くのa軸核形成部位が認められた。この説明に縛られることは望まないが、YBCOが厚くなるにしたがってa軸粒が成長するのは、YBCO層が厚くなるにつれてYBCO表面が粗くなることに起因すると考えられる。YBCOをSrTiO3基材の(a)よく研磨した表面に堆積した場合と、(b)研磨せず粗い表面に堆積した場合とでは、粗い表面の方がa軸粒の成長が促進されることがわかった。
【0035】
実施例3
多層YBCO膜の超伝導電流を試験するため、YBCO各層からの超伝導電流がそれぞれ別々に試験できるよう電気接続系を設計した。この接続系が必要であったのは、CeO2が絶縁性材料であり、隣合うYBCO層間の超伝導電流の流れを遮蔽できるからである。まず、1.1μm厚のYBCO層をCeO2/IBAD−YSZ/Ni合金基材上に堆積させた。ついでこのYBCO層をブリッジにパターニングした。シャドウマスクを用いて、このパターニングしたYBCO層を局部的に覆った。ついで第二のCeO2/YBCO層をYBCO上に堆積させ、YBCO/CeO2/YBCOの二層構造物を形成した。この例においては、CeO2を意図的に厚くし、たとえば100nmのCeO2中間層とした。これは、YBCOの上層と下層とを電気的に絶縁するのに充分な厚さであった。下層ブリッジの上で、1.1μmの厚さを有するYBCO上層をさらにパターニングしてブリッジにした。臨界電流を測定するため、YBCOの上層と下層の両方に銀電極を堆積させた。この接続スキームを図9に示す。この接続系およびより厚いCeO2中間層を用い、YBCOの上層と下層についてそれぞれ独立に臨界電流を測定した。図8は、YBCOの上層および下層の臨界電流密度を示す。YBCOの上層および下層は、どちらも、75.2Kにおいて、約1.4〜1.5MA/cm2の同様の臨界電流密度を示し、Icは約310A/cm−幅であった。比較として、多結晶Ni合金基材上に形成されたほぼ同じ膜厚2.2μmの単層YBCOは、75.2Kにおいて約0.88MA/cm2の臨界電流密度を有し、そのIcは約194A/cm−幅であった。かくして、多層YBCO構造を用いることにより、臨界電流および臨界電流密度の60%増加が達成された。金属基材上、各YBCO層の厚さが1.2μmである三層YBCO構造物(YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO)において、YBCO最上層は75.2Kで1.4MA/cm2の臨界電流を示した。接続電極を形成するのが困難であったため、YBCOの中間層および最下層からの臨界電流密度は測定されなかった。しかし、積層物において最も低いJcは通常、「最も高い」すなわち「最上」の層で得られることから、「中間」層および「最下」層は、悪くても「最上」層程度であることが予想される。
【0036】
実施例4
IBAD−YSZコーティング金属基材上に、1.1μmYBCO/0.22μmSmBCO/1.1μmYBCO/0.22μmSmBCO/1.1μmYBCOからなる五層構造物を形成した。超伝導体の厚さの合計は、3.8μmであった。特性の比較のため、3.6μmの単層YBCO膜も形成した。
【0037】
他の希土類金属を含む多層物および混合物の両方で典型的なように、Y−Sm多層物のTc(92K)は、純粋なYBCOで典型的に得られるTc(3.6μm単層YBCO膜について89K)よりも高かった。しかし、最も重要なことは、多層物のJcが、単層の対照試料よりも顕著に高いことであった。多層物は1.1MA/cm2のJcおよび413A/cm−幅のIcを有し、一方、単層YBCOは0.45MA/cm2のJcおよび162A/cm−幅のIcを有した。
【0038】
本発明を詳細に説明したが、本発明の技術範囲は、その内容に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基いて定めるべきである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の具体例にかかわる複合多層YBCO膜の一般構造物を示す図である。
【図2】 単層YBCO膜の臨界電流容量(臨界電流および電流密度)を膜厚の関数としてプロットした図である。
【図3】 LaAlO2基材上の多層YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCOについて、ラザフォード後方散乱分光(RBS)スペクトルを示す図であり、そこにおいて、点線および実線はそれぞれチャネリングおよびランダムスペクトルを示し、YBCO層の厚さの合計は1.2μmである。
【図4】 LaAlO3基材上の単層YBCOについて、RBSスペクトルを示す図であり、そこにおいて、点線および実線はそれぞれチャネリングおよびランダムスペクトルを示し、YBCO層の厚さの合計は1.2μmである。
【図5】 LaAlO3基材上、異なる構造を有する複数種のYBCO薄膜(厚さ約1.0〜約1.2μm)の表面抵抗(10GHzでの)を示す図であり、比較のため、単結晶YSZ上の単層YBCO(約400nm)の表面抵抗も示している。
【図6】 金属基材上の、(a)厚さ1.1μmの単層YBCO、(b)各YBCO層の厚さが1.1μmである三層YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO、および(c)厚さ3.2μmの単層YBCOの(102)YBCOピークのX線回折χスキャンを示す図である。
【図7】 金属基材上の、(a)厚さ1.1μmの単層YBCO、(b)各YBCO層の厚さが1.1μmである三層YBCO/CeO2/YBCO/CeO2/YBCO、および(c)厚さ3.2μmの単層YBCOの(103)YBCOピークのX線回折φスキャンを示す図である。
【図8】 IBAD−YSZ−Ni合金基材上の二層YBCO(1.1μm)/CeO2(100nm)/YBCO(1.1μm)について、YBCO上層(白丸)およびYBCO下層(実線)の臨界電流密度(75.2K、ゼロ磁場で測定)を示す図である。
【図9】 (a)〜(d)は、多層YBCO構造物(絶縁性または導電性の材料を中間層として使用)の臨界電流を測定するための接続配置を示す図である。
【図10】 単層YBCO膜および多層Y−Sm−Y−Sm−Y膜について臨界電流を示す図であり、膜厚の合計を整え、かつそれぞれ連続的な臨界電流を測定するにあたってイオンミリングにより薄膜を徐々に薄くしていった。

Claims (7)

  1. 基材と、
    前記基材上の希土類元素−バリウム−銅酸化物超伝導体の薄膜とからなり、
    前記薄膜は、厚さ0.2ミクロン〜2ミクロンの希土類元素−バリウム−銅酸化物超伝導体の第一層と、酸化セリウムからなる絶縁性材料層と、厚さ0.2ミクロン〜2ミクロンの希土類元素−バリウム−銅酸化物超伝導体の第二層とよりなる複合多層構造物からなるものであり、
    希土類元素−バリウム−銅酸化物超伝導体層の厚さの合計が2ミクロン以上であり、かつ
    該複合多層構造物と同じ希土類元素を含むほぼ同じ厚さの、厚さ2ミクロン以上の希土類元素−バリウム−銅酸化物超伝導体の単層の臨界電流よりも、大きな臨界電流を有することを特徴とする超伝導構造物。
  2. 前記絶縁性材料層の厚さが25nm〜100nmである請求項1記載の構造物。
  3. 前記絶縁性材料層の厚さが40nm〜60nmである請求項1記載の構造物。
  4. 前記複合多層構造物の上に、(a)酸化セリウムからなる層と、(b)厚さ0.2ミクロン〜2ミクロンの希土類元素−バリウム−銅酸化物超伝導体からなる層とが交互に積層された積層物が、さらに積層された請求項1記載の構造物。
  5. 前記超伝導体の第一層および前記超伝導体の第二層における前記希土類元素−バリウム−銅酸化物がイットリウム−バリウム−銅酸化物である請求項1記載の構造物。
  6. 前記超伝導体の第一層における前記希土類元素−バリウム−銅酸化物がイットリウム−バリウム−銅酸化物であり、かつ、前記超伝導体の第二層における前記希土類元素−バリウム−銅酸化物がイットリウム−バリウム−銅酸化物以外のものである請求項1記載の構造物。
  7. 前記超伝導体の第一層および前記超伝導体の第二層の少なくとも一方における前記希土類元素−バリウム−銅酸化物が、少なくとも第一の希土類元素−バリウム−銅酸化物と第二の希土類元素−バリウム−銅酸化物との混合物を含むものである請求項1記載の構造物。
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