JP5091831B2 - 鍛造用潤滑皮膜評価方法及び鍛造用潤滑皮膜評価装置 - Google Patents

鍛造用潤滑皮膜評価方法及び鍛造用潤滑皮膜評価装置 Download PDF

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Description

この発明は、鍛造用潤滑皮膜評価方法及び鍛造用潤滑皮膜評価装置に係り、特に、金属の塑性加工の中でも加工度が厳しい冷間鍛造分野にて使用される潤滑皮膜の性能を評価する鍛造用潤滑皮膜評価方法及び鍛造用潤滑皮膜評価装置に関する。
金型との接触面圧が非常に大きな環境下において、被加工材表面が大きな変形を強いられる冷間鍛造用の潤滑皮膜を評価するためには、特に、現実的な塑性加工表面での潤滑状態を表現でき得る鍛造用潤滑皮膜評価方法の適用が重要である。例えばリング圧縮試験では、加工後の試験片形状から加工時表面の摩擦係数履歴を見積もることができ、潤滑皮膜の基礎特性を調査する上で重宝されている。しかし、リング圧縮試験での表面積拡大比は2程度と小さく、また面圧も小さいため、現実の鍛造加工表面には遠く及ばない。そのような中、近年、より現実的な鍛造加工表面を表現しようとする評価方法が提案されるようになってきた。
そのような評価方法の一つとして、特許文献1に、スパイク試験法が開示されている。スパイク試験法は、まず、水平面に対して小さく傾斜した上方ロート部分と大きく傾斜した下方ロート部分とが、アールをつけた移行部分により接続されたロート状の内面形状を有するダイにのせられた円柱状の金属片を潤滑剤の適用下で荷重をかけてこの金属片をダイに押し込んで成形することにより、ダイ形状に従うスパイクを形成する。この後、成形された金属片を押し込み方向と逆の方向から突き出す操作を行ない、一定の押込量を達成するのに要した荷重、形成されたスパイクの高さ及び突き出しに要する荷重の値に基づいて、潤滑剤の性能を決定する。
また、別の評価方法の一つとして、特許文献2に、テーパーカップ試験法が開示されている。テーパーカップ試験法は、先端近傍が前方に絞り込まれた形状になっているパンチを押し込む上面を除く外側が拘束されていて、かつ、評価対象の塑性加工用潤滑剤で表面が被覆されている材料に対して後方押出し加工を行い、そのときの成形荷重またはストリッパ荷重を測定し、測定された成形荷重またはストリッパ荷重の大小で塑性加工用潤滑剤の潤滑性能を評価することを特徴とする。
さらに、別の評価方法の一つとして、特許文献3に、潤滑剤評価方法が開示されている。潤滑剤評価方法は、潤滑剤が外周面に被着されている柱状の金属試験片を塑性変形させることにより、潤滑剤の潤滑性能を評価する潤滑剤評価方法である。金属試験片をその両端面から一定のストロークで挟圧して金属試験片の中間部を外周側へフランジ状に突出させる塑性加工を行い、そのときの金属試験片に対する押圧荷重に基づいて潤滑剤の潤滑性能を評価することを特徴とする。
特許第3227721号公報 特許第3918173号公報 特開2007−51920号公報
近年の鍛造加工においては横型多段式鍛造機(フォーマー)などを用いた、多段工程を経て複雑かつ精密な形状を造りだすものも多くなってきた。そのため潤滑皮膜においても多段加工への適用性が求められるようになり、それらを考慮した潤滑皮膜評価方法が必要とされている。しかし、特許文献1〜3は、いずれも多段加工工程で潤滑皮膜が曝され得る環境を表現したものではなく、理想状態で形成された潤滑皮膜に対して、それぞれ、前方押し出し、後方押し出し、側方押し出しなどの単段加工を行うものであるといった問題点があった。これら一般の加工評価方法での潤滑皮膜の変形は、金型に沿って圧着されるように行われるケースが多く、皮膜は脱落などのダメージを受け難い。一方、現実の鍛造では、金型に接触しない自由表面での皮膜変形が伴うケースも多く、皮膜の密着性能が問われる。密着性に問題があるとその後の多段工程での潤滑状態を維持できなくなるなど、現実の多段式鍛造で潤滑皮膜に求められる性能は複雑である。
この発明はこのような問題点を解決するためになされたもので、多段加工工程で潤滑皮膜が曝され得る環境を表現できる、鍛造用潤滑皮膜評価方法及び鍛造用潤滑皮膜評価装置を提供することを目的とする。
この発明に係る鍛造用潤滑皮膜評価方法は、軸線を有すると共に該軸線に対して軸対称の円柱形状を有した金属製の試験片について、潤滑皮膜の潤滑性能を評価する鍛造用潤滑皮膜評価方法であって、第1金型と、該第1金型の外径と同じ内径の円柱穴を有するサイドダイと、前記円柱穴の内径よりも小さい外径を有する第2金型と、前記試験片とを準備する工程と、前記第1金型が前記円柱穴の一方の端から前記円柱穴に挿入されると共に前記第2金型の外周面が前記円柱穴の内周面に接しないように前記第2金型が前記円柱穴の他方の端から前記円柱穴に挿入され、かつ、前記試験片が前記円柱穴内で前記第1金型及び前記第2金型に挟まれるように、前記試験片を前記サイドダイに設置する工程と、前記第1金型及び前記第2金型が前記試験片を挟圧することにより、前記試験片の側面部が外方に向かって張り出し、該試験片の両端面から該両端面間の中央部分に向かって外方への張り出し度合いが大きくなる形状に前記試験片を塑性変形させる据え込み加工を行う工程と、該据え込み加工後に、前記第1金型及び前記第2金型が前記試験片をさらに挟圧することにより、前記試験片の一部を前記円柱穴の内周面と前記第2金型の外周面との間に押し出す後方押し出し加工を行う工程とを含む。
前記据え込み加工の加工荷重と、前記第1金型及び前記第2金型のストロークとにより、前記試験片の塑性曲線を算出する工程をさらに含んでもよい。
前記試験片の側面部に、円周状の罫書き線が付されており、前記後方押し出し加工後の前記罫書き線の位置に基づいて、潤滑皮膜の潤滑性能を評価してもよい。
この発明に係る鍛造用潤滑皮膜評価装置は、軸線を有すると共に該軸線に対して軸対称の円柱形状を有した金属製の試験片について、潤滑皮膜の潤滑性能を評価する鍛造用潤滑皮膜評価装置であって、第1金型と、該第1金型の外径と同じ内径の円柱穴を有するサイドダイと、前記円柱穴の内径よりも小さい外径を有する第2金型とを備え、前記第1金型が前記円柱穴の一方の端から前記円柱穴に挿入されると共に前記第2金型が前記円柱穴の他方の端から前記円柱穴に挿入され、かつ、前記試験片が前記円柱穴内で前記第1金型及び前記第2金型によって挟まれるように配置され、前記第1金型及び前記第2金型が前記試験片を挟圧することにより、前記試験片の側面部が外方に向かって張り出し、該試験片の両端面から該両端面間の中央部分に向かって外方への張り出し度合いが大きくなる形状に前記試験片を塑性変形させた後、さらに前記試験片を挟圧することにより、前記試験片の一部が前記円柱穴の内周面と前記第2金型の外周面との間に押し出される。
前記第2金型の外周面には、前記試験片に接触する前記第2金型の接触面から、前記円柱穴の内周面に対して0°〜1°の角度をなして前記第2金型の外径が太くなるように延びるランド部が形成されていてもよい。前記ランド部の長さは0.5〜5.0mmが好ましい。
この発明によれば、形態が異なる二つの加工(据え込み加工及び後方押し出し加工)を行うことにより、多段加工工程で潤滑皮膜が曝され得る環境を表現することができる。
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。尚、以下の実施の形態についての説明では、図面は適宜簡易化あるいは変形されており、各部の寸法比及び形状等については、必ずしも正確には描かれていない。
この発明の実施の形態に係る鍛造用潤滑皮膜評価装置の構成を図1に示す。鍛造用潤滑皮膜評価装置10として、上部2軸可動式100ton油圧プレスを使用する。鍛造用潤滑皮膜評価装置10は、サイドダイ3を備えている。サイドダイ3は円柱穴3aを有し、円柱穴3a内には、円柱形状を有する金属製の試験片4が、第1金型である柱状の上側金型1と第2金型である柱状の下側金型2とに挟まれるように配置されている。試験片4の表面には、試験対象の潤滑皮膜が形成されている。上側金型1の外径は円柱穴3aの内径と同じであり、下側金型2の外径は円柱穴3aの内径よりも小さい。すなわち、上側金型1の外周面と円柱穴3aの内周面との間にはクリアランスがなく、下側金型2の外周面と円柱穴3aの内周面との間にはクリアランスが形成されている。また、上側金型1が固定されたプレート6には、図示しないレーザー式変位計が設置され、下側金型2の下方には荷重測定用のロードセル5が設置されている。レーザー式変位計及びロードセル5は、図示しないコンピュータに接続されており、加工ストロークに対する加工荷重のデータを取り込めるようになっている。
図2に示されるように、下側金型2の上端面2aには、その中心部に突起11が設けられ、さらに突起11を中心として同心円状の溝12が複数設けられている。尚、図示しないが、上側金型1の下端面1b(図1参照)にも、同様の突起及び同心円状の複数の溝が設けられている。ここで、下端面1b及び上端面2aはそれぞれ、試験片4と接触する接触面を構成する。また、下側金型2の外周面には、上端面2aから上端面2aに対して垂直に下方に向かって延びるランド部13が設けられている。ランド部13の下端部からは、下側金型2の外径が減少する向きにわずかの角度で傾きながら下方に向かって延びるように外周面が形成されている。ランド部13は、サイドダイ3の円柱穴3a(図1参照)の内周面との間で規定のクリアランスを形成する。また、ランド部13の長さLにより、後述する後方押し出し加工時の高面圧状態での滑り距離を任意に決めることができる。この長さLが長いほど潤滑皮膜に与えるダメージを大きくでき、通常は、L=0.5mm〜5.0mmの範囲で設定する。尚、ランド部13は、上端面2aに対して垂直でなくてもよく、加工後に下側金型2を引き抜く際の焼き付きを防止するために、円柱穴3aの内周面に対して0°〜1°の角度をなして下側金型2の外径が太くなるように上端面2aから下方に向かって延びていてもよい。
図3に示されるように、試験片4には、その下端面4b及び上端面4aの中心部に、下側金型2の上端面2aに設けられた突起11(図2参照)及び上側金型1の下端面1b(図1参照)に設けられた同様の突起がそれぞれ嵌まり込む穴14が設けられている。また、試験片4の側面部4cには、上端面4a及び下端面4bからの距離がそれぞれ等しくなる位置に、すなわち試験片4の軸線方向に関して中央の位置に、側面部4cの周方向に沿って円周状の罫書き線15が付されている。ここで、試験片4の軸線とは、下端面4b及び上端面4aに設けられた穴14,14間を結ぶ仮想線VLである。尚、試験片4の材質については、大変形加工にて割れなどを生じない加工性の良い金属材料であればよく、例えば、低炭素鋼やアルミニウム線材などから切り出したものを使用することができる。
次に、この実施の形態に係る鍛造用潤滑皮膜評価装置の動作、すなわちこの発明の実施の形態に係る鍛造用潤滑皮膜評価方法の手順について説明する。
まず、試験片4を下側金型2の上端面2a上に、上端面2aに設けられた突起11と試験片4の下端面4bに設けられた穴14とが嵌まり込むように配置して、下側金型2をサイドダイ3の円柱穴3aに下方から挿入する。また、上側金型1をサイドダイ3の円柱穴3aに上方から挿入し、上側金型1の下端面1bに設けられた突起を試験片4の上端面4aに設けられた穴14に嵌め込む。これにより、上側金型1と、試験片4と、下側金型2とがそれぞれ芯合わせされながら、試験片4が、サイドダイ3の円柱穴3a内で、上側金型1及び下側金型2に挟まれた状態となる。また、下側金型2の上端面2aに設けられた溝12及び上側金型1の下端面1bに設けられた同様の溝がそれぞれ、試験片4の下端面4b及び上端面4aをしっかりと拘束する。
この後、据え込み加工と後方押し出し加工とが順次行われ、これらの加工の行程中、レーザー式変位計及びロードセル5によって測定された加工ストロークに対する加工荷重のデータをコンピュータが取り込む。
まず、据え込み加工の工程について説明する。プレート6を下方に押し下げることにより、円柱穴3a内で、試験片4が上側金型1及び下側金型2によって挟圧される。すると、図4に示されるように、試験片4は、その側面部4cが円周方向外方に向かって張り出すように圧縮され、樽状に変形する。このとき、試験片4の側面部4cを被覆している潤滑皮膜には、縦方向の圧縮表面ひずみと、横方向の引っ張りひずみが付与され、剥離もしくは構造破壊による皮膜の脱落が促される。このときの据え込み率は、50%以上であることが好ましい。据え込み率が高いほど、上側金型1及び下側金型2に接触しない自由表面、すなわち側面部4cの張り出しが多くなり、密着性が維持できない潤滑皮膜の脱落など、潤滑皮膜のダメージが促される。
据え込み加工が行われた後、段階的もしくは連続的に、後方押し出し加工が行われる。次に、後方押し出し加工の工程について説明する。
図5に示されるように、上側金型1及び下側金型2によって試験片4がさらに挟圧されると、樽状に変形した試験片4の側面部4c(図4参照)は、サイドダイ3の円柱穴3aの内周面に接触し、下側金型2と円柱穴3aの内周面との間に形成されたクリアランスに充填される。その後は、プレート6(図1参照)のストロークと共にクリアランス内を下方に押し出され、規定の底厚にて加工を終了する。後方押し出し加工での局部的な表面積拡大比は大きく、据え込み加工でのダメージが大きかった潤滑皮膜は加工に耐えられず、加工荷重の上昇や焼付きを起す。
後方押し出し加工によって、加工前の円柱形状の試験片4は、図6に示されるようなカップ状の形状の試験片4’に変形される。すなわち、試験片4’は、上端が閉じた上端面4a’であると共に下端に開口部4b’が形成された形状となっている。このカップ状の試験片4’の外側面部4c’及び内側面部4d’は、据え込み加工工程で潤滑皮膜のダメージを付与した試験片4の側面部4c(図4参照)のみで形成されている。
この実施の形態の潤滑皮膜評価方法における潤滑性評価は、試験片4の側面部4cの罫書き線15の加工後の位置と、各ストローク時の加工荷重とから行う。この実施の形態のように、加工前の罫書き線15が試験片4の側面部4cの中央に位置する場合、加工後の罫書き線15の位置は、加工後の試験片4’の外側面部4c’上となる。例えば、加工後の試験片4’の上端面4a’から罫書き線15までの距離は、サイドダイ3の円柱穴3aと試験片4との摩擦状態により変化し、せん断摩擦係数が低いほど罫書き線15の位置が上端面4a’に近くなる。この実施の形態における加工での外側面部4c’は表面積拡大比が数倍と小さく、罫書き線15は、その領域での摩擦状態を示すものである。
このように、先ず、上側金型1の下端面1b及び下側金型2の上端面2aから一定のストロークで円柱形状の金属製の試験片4を狭圧する据え込み加工を行うことにより、試験片4の側面部4cが樽状に大きく張り出す。次いで、段階的もしくは連続的に、一定ストロークで後方押し出し加工を行い、据え込み加工によって張り出した側面部4cを後方に回し込む形での厳しい加工が行われる。すなわち、形態が異なる二つの加工(据え込み加工及び後方押し出し加工)を行うことにより、多段加工工程で潤滑皮膜が曝され得る環境を表現することができる。
また、据え込み加工で得られる加工荷重とストローク値とから、試験片4の塑性曲線を算出し、得られた塑性曲線を用いれば、有限要素法解析により摩擦係数などの潤滑状態による各ストローク時の加工荷重値が正確に予測できるようになるので、試験時の加工荷重カーブから潤滑皮膜の摩擦係数推移などを把握することができる。
さらに、予め試験片4の側面部4cに円周状に罫書き線15を付し、加工後の罫書き線15の位置に基づいて潤滑皮膜の潤滑性能を評価することにより、加工荷重測定が出来ない場合などでも加工時の摩擦状態履歴を評価することができるほか、予め有限要素法解析による解析によって摩擦係数と加工後の線位置との関係を調査しておくことで摩擦係数を見積もることもできる。
尚、潤滑性評価は、各ストロークにおける成形荷重の大小でも評価できる。ストロークによって各部位の表面積拡大比は大きくなり、それぞれの荷重を相対的に比較することで、表面積拡大比毎の潤滑皮膜の摩擦状態を評価できる。通常、この発明に係る評価方法での加工後の試験片4’の内側面部4d’の表面積拡大比は、10以上となる。
また、罫書き線15の位置及びストローク毎の荷重値は、有限要素解析から求めた摩擦係数もしくはせん断摩擦係数による変化を式化して換算することで、摩擦係数もしくはせん断摩擦係数として表現することもできる。なお、この発明に係る評価方法では、据え込み加工の工程までで得られるストロークと荷重との関係から、使用材料の応力−ひずみ曲線(塑性曲線)を求め、その近似式を用いた有限要素解析を行うため、解析精度が高い他、異なった材料間であっても理論的には潤滑皮膜を比較することができる。
また、この実施の形態では、上側金型1を下側金型2に向かって押圧する構成であるが、反対に下側金型2を上側金型1に向かって押圧する構成でもよい。さらに、鍛造用潤滑皮膜評価装置10が上下方向に設置されずに水平方向に設置されて、上側金型1及び下側金型2が水平方向に移動するようにしてもよい。
また、試験片4の形状は円柱形状に限定するものではなく、試験片の軸線に対して軸対称の形状であれば、どのような形状であってもよい。
さらに、上側金型1の下端面1b及び下側金型2の上端面2aに設けられた溝の形状は、同心円状の形状に限定するものではなく、試験片4の上端面4a及び下端面4bをそれぞれ拘束できる形状であればどのようなものでもよく、任意の形状の溝や、溝ではなく複数の凹凸が設けられる構成でもよい。
以下の実施例によって、この発明をさらに詳細に説明する。実施例では、材質がSWRM8、引張り強さが462N/mmであり、直径11.95mmφ、高さ28.0mmの金属製の試験片を使用した。試験片の上下端面には、直径2.5mmφ、高さ1.4mmの芯合わせ穴を加工し、側面部には下端部からの高さが14.0mmの位置に中心線としての罫書き線を加工した。この金属片の表面には、以下の潤滑皮膜1〜3をそれぞれの方法にて形成し、本実施例での試験片とした。
上記金属片に対して、以下の各処理工程にて皮膜形成を行った。なお、潤滑皮膜1は古くから鍛造分野で用いられてきた化成型潤滑皮膜で皮膜性能は良好だが、皮膜処理工程が複雑で産業廃棄物の発生を伴うため、環境保全面で問題視されている。これに対して、潤滑皮膜2及び3は、簡便な皮膜処理が可能で無公害型な一工程型潤滑皮膜である。しかし、高騰している石油製品の配合量が比較的多い潤滑皮膜2の使用は、潤滑皮膜3と比較すると皮膜コストが高くなる。
<潤滑皮膜1の形成>
(1)脱脂:市販の脱脂剤(ファインクリーナー4360(登録商標),日本パーカライジング(株))濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分
(2)水洗:水道水、室温、浸漬30秒
(3)化成処理:市販のリン酸亜鉛化成処理剤(パルボンド181X(登録商標),日本パーカライジング(株))濃度90g/L,温度80℃、浸漬10分
※目標付着質量=5g/m
(4)水洗:水道水、室温、浸漬30秒
(5)石けん処理:市販の反応石けん潤滑剤(パルーブ235(登録商標),日本パーカライジング(株))濃度70g/L、80℃、浸漬3分
※付着質量=5g/m
(6)乾燥:80℃、3分
<潤滑皮膜2の形成>
(1)脱脂:市販の脱脂剤(ファインクリーナー4360(登録商標),日本パーカライジング(株))濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分
(2)水洗:水道水、60℃、浸漬30秒
(3)皮膜処理:試作した一工程型潤滑剤I、60℃、浸漬10秒
※皮膜組成=ケイ酸ナトリウム(60%)、ポリエチレンワックス(40%)
※付着質量=10g/m
(4)乾燥:80℃、3分
<潤滑皮膜3の形成>
(1)脱脂:市販の脱脂剤(ファインクリーナー4360(登録商標),日本パーカライジング(株))濃度20g/L、温度60℃、浸漬10分
(2)水洗:水道水、60℃、浸漬30秒
(3)皮膜処理:試作した一工程型潤滑剤II、60℃、浸漬10秒
※皮膜組成=ケイ酸ナトリウム(80%)、ポリエチレンワックス(20%)
※付着質量=10g/m
(4)乾燥:80℃、3分
この発明の実施の形態に係る、図1に示された鍛造用潤滑皮膜評価装置10において、上側金型1の先端部の外径を23.20mmφ、サイドダイ3の円柱穴3aの内径を23.22mmφ、下側金型2のランド部13部分の外径を19.15mmφとすることで、円柱穴3aの内周面と下側金型2のランド部13との間隔を2.035mmとした。ランド部13の長さは1.0mmとした。尚、下側金型2の上端面2a及び上側金型1の下端面1bにはそれぞれ、高さ1.4mm、直径2.5mmφの芯合わせ用の突起と、高さ0.2mmの端面拘束用の同心円状の溝を0.75mmピッチで付与した。上側金型1の下端面1bに付与された同心円状の溝は、エッジまでの13溝、下側金型2の上端面に付与された同心円状の溝は、エッジまでの8溝とした。下側金型2の上端面2aのエッジの曲率半径は1mmとした。以上の金型の条件により、潤滑皮膜1〜3までの潤滑性評価を行った。
<据え込み加工>
加工速度10mm/secでストローク20mmまでの据え込み加工(据え込み率71.4%)を実施し、潤滑皮膜1〜3のダメージの程度を、試験片の側面部の目視外観にて評価した。尚、評価基準は以下の通りである。
○:加工前後で潤滑皮膜の外観の変化が少ない
△:潤滑皮膜の表面の粉化による皮膜脱落が見られる
×:潤滑皮膜の表面の全面が顕著に粉化し多くの皮膜脱落が見られる
なお、据え込み加工で得られた応力−ひずみ曲線(塑性曲線)は以下の式で近似し、この式を有限要素解析に使用した。
σ=570(ε+0.315)0.2
σ:真応力
ε:真ひずみ
<後方押し出し加工>
据え込み加工に続いて、加工速度10mm/secでストローク25mmまでの後方押し出し加工を行うことで、潤滑皮膜1〜3を評価した。まず、後方押し出し加工後の試験片の外側面部及び内側面部の焼付きの有無及び焼付き程度を目視にて評価し、次いで、有限要素解析により得た図7を用いて、据え込み加工前の試験片の側面部に予め付された罫書き線の試験後の位置から比較的表面積拡大比が小さい領域でのせん断摩擦係数を導いた。後方押し出し加工後の試験片の外側面部での摩擦状態による罫書き線の位置は、本実施例の条件の場合、ストローク22.5mmまでで決定され、それ以降は摩擦の影響を受けない。ストローク22.5mmでの外側面部の表面積拡大比は、最大で約2.7である。
本実施例での加工時のストロークと荷重とは、それぞれレーザー変位計とロードセルとを用いてコンピュータに取り込み、各ストローク時での加工荷重を比較し、順位付けすることで、試験片の表面積拡大による潤滑皮膜1〜3の摩擦状態変化を評価した。尚、評価基準は以下の通りである。
○:水準間で比較した加工荷重が一番低い
△:水準間で比較した加工荷重が二番目に低い
×:水準間で比較した加工荷重が一番高い
潤滑皮膜1〜3の評価結果を表1に示す。
Figure 0005091831
表1の結果から、潤滑皮膜1〜3の潤滑特性が詳細に表現される。潤滑皮膜1は、据え込み加工での皮膜脱落程度が小さく、潤滑皮膜2および3は、皮膜にダメージを強く受けている。続く後方押し出し加工における低表面積拡大比での潤滑状態は、潤滑皮膜3が良好で、潤滑皮膜1、潤滑皮膜2の順で、せん断摩擦係数が高まった。これらの結果から、据え込み加工で受ける皮膜ダメージは多いものの、比較的低い表面積拡大比の軽加工領域では、潤滑皮膜3が良好な潤滑状態を示すものと評価できる。
図8のストロークと荷重との関係図にて、ストローク23.5mm及び24.5mmにおける潤滑皮膜1〜3の潤滑状態を比較した。尚、有限要素解析から求めたストロークが23.5mm時でのランド部上の平均表面積拡大比は約24、当該ストロークが24.5mm時では約32であった。性能比較の結果、低表面積拡大領域でのせん断摩擦係数が特に低かった潤滑皮膜3の荷重は両ストロークで特に高く、表面積拡大とともに加工面のせん断摩擦係数が高まっていったことが分かる。一方、潤滑皮膜1及び2は、表面積拡大比≒24の時点までは同等のせん断摩擦係数であった。しかし、加工が進み、表面積拡大比≒32に向かっては、潤滑皮膜2の荷重が顕著に上昇し、せん断摩擦係数が急激に高まった。
以上、表面積拡大比が2.7までの小さい範囲であれば、環境対策皮膜で安価な潤滑皮膜3の使用が好ましく、表面積拡大がそれを越えて大きくなると、潤滑皮膜2を使用する必要がある。しかし、さらに表面積拡大比が大きくなり24を越えてくると、潤滑皮膜2の加工荷重が増大して金型の寿命低下などの懸念が生じるため、潤滑皮膜1の使用が好ましくなるなど、この発明に係る鍛造用潤滑皮膜評価方法によれば、使用条件に適した潤滑皮膜の選定も容易にできるようになり、鍛造現場などへの工業的な貢献度は大きい。
以上、本発明を詳細に説明したが、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様でも実施することができる。
この発明の実施の形態に係る鍛造用潤滑皮膜評価装置の主要な構成を示す図である。 この実施の形態に係る鍛造用潤滑皮膜評価装置の下側金型の上端面付近の拡大側面図である。 この実施の形態に係る鍛造用潤滑皮膜評価装置による鍛造用潤滑皮膜評価方法に用いられる試験片の側面図である。 この実施の形態に係る鍛造用潤滑皮膜評価装置による鍛造用潤滑皮膜評価方法における据え込み加工の工程を説明するための図である。 この実施の形態に係る鍛造用潤滑皮膜評価装置による鍛造用潤滑皮膜評価方法における後方押し出し加工の工程を説明するための図である。 この実施の形態に係る鍛造用潤滑皮膜評価装置による鍛造用潤滑皮膜評価方法における後方押し出し加工後の試験片の斜視図である。 この実施の形態に係る鍛造用潤滑皮膜評価装置を用いて加工された試験片の罫書き線の位置とせん断摩擦係数との関係及び実施例での評価結果を説明する図である。 この実施の形態に係る鍛造用潤滑皮膜評価装置を用いて加工された試験片のストロークと成形荷重及び表面積拡大比との関係から、実施例での評価結果を説明する図である。
符号の説明
1 上側金型(第1金型)、2 下側金型(第2金型)、2a (下側金型の)上端面(第2金型の接触面)、3 サイドダイ、3a 円柱穴、4 試験片、4c (試験片の)側面部、10 鍛造用潤滑皮膜評価装置、15 罫書き線、VL (試験片の)軸線。

Claims (6)

  1. 軸線を有すると共に該軸線に対して軸対称の円柱形状を有した金属製の試験片について、潤滑皮膜の潤滑性能を評価する鍛造用潤滑皮膜評価方法であって、
    第1金型と、該第1金型の外径と同じ内径の円柱穴を有するサイドダイと、前記円柱穴の内径よりも小さい外径を有する第2金型と、前記試験片とを準備する工程と、
    前記第1金型が前記円柱穴の一方の端から前記円柱穴に挿入されると共に前記第2金型の外周面が前記円柱穴の内周面に接しないように前記第2金型が前記円柱穴の他方の端から前記円柱穴に挿入され、かつ、前記試験片が前記円柱穴内で前記第1金型及び前記第2金型に挟まれるように、前記試験片を前記サイドダイに設置する工程と、
    前記第1金型及び前記第2金型が前記試験片を挟圧することにより、前記試験片の側面部が外方に向かって張り出し、該試験片の両端面から該両端面間の中央部分に向かって外方への張り出し度合いが大きくなる形状に前記試験片を塑性変形させる据え込み加工を行う工程と、
    該据え込み加工後に、前記第1金型及び前記第2金型が前記試験片をさらに挟圧することにより、前記試験片の一部を前記円柱穴の内周面と前記第2金型の外周面との間に押し出す後方押し出し加工を行う工程と
    を含む、鍛造用潤滑皮膜評価方法。
  2. 前記据え込み加工の加工荷重と、前記第1金型及び前記第2金型のストロークとにより、前記試験片の塑性曲線を算出する工程をさらに含む、請求項1に記載の鍛造用潤滑皮膜評価方法。
  3. 前記試験片の側面部に、円周状の罫書き線が付されており、
    前記後方押し出し加工後の前記罫書き線の位置に基づいて、潤滑皮膜の潤滑性能を評価する、請求項1または2に記載の鍛造用潤滑皮膜評価方法。
  4. 軸線を有すると共に該軸線に対して軸対称の円柱形状を有した金属製の試験片について、潤滑皮膜の潤滑性能を評価する鍛造用潤滑皮膜評価装置であって、
    第1金型と、
    該第1金型の外径と同じ内径の円柱穴を有するサイドダイと、
    前記円柱穴の内径よりも小さい外径を有する第2金型と
    を備え、
    前記第1金型が前記円柱穴の一方の端から前記円柱穴に挿入されると共に前記第2金型が前記円柱穴の他方の端から前記円柱穴に挿入され、かつ、前記試験片が前記円柱穴内で前記第1金型及び前記第2金型によって挟まれるように配置され、
    前記第1金型及び前記第2金型が前記試験片を挟圧することにより、前記試験片の側面部が外方に向かって張り出し、該試験片の両端面から該両端面間の中央部分に向かって外方への張り出し度合いが大きくなる形状に前記試験片を塑性変形させた後、さらに前記試験片を挟圧することにより、前記試験片の一部が前記円柱穴の内周面と前記第2金型の外周面との間に押し出される、鍛造用潤滑皮膜評価装置。
  5. 前記第2金型の外周面には、前記試験片に接触する前記第2金型の接触面から、前記円柱穴の内周面に対して0°〜1°の角度をなして前記第2金型の外径が太くなるように延びるランド部が形成されている、請求項4に記載の鍛造用潤滑皮膜評価装置。
  6. 前記ランド部の長さは0.5〜5.0mmである、請求項5に記載の鍛造用潤滑皮膜評価装置。
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