JP5081523B2 - フラーレン誘導体クラスターの生成方法 - Google Patents
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このような有機半導体材料の光電変換素子への応用においては、有機半導体材料を含む薄膜のモルホロジーの制御が、素子特性に重大な影響を与えることが知られている。例えば、非特許文献1及び2には、電子供与体としてフタロシアニンを、電子受容体としてペリレンテトラカルボン酸イミド誘導体をそれぞれ用いた光電変換ナノ構造の設計において、膜厚が5〜10nmの多層薄膜を大面積で作製可能であることが実用レベルの光電変換効率を達成するために重要である旨記載されている。
湿式法を用いて作製されるフラーレン誘導体の薄膜の膜厚をナノメートルレベルで制御するためには、溶液中でフラーレン誘導体の形成するクラスターの直径(サイズ)を制御する必要がある。しかし、溶液中でフラーレン誘導体のクラスターの直径を制御する方法及び所望のクラスターの直径を有するフラーレン誘導体クラスターを形成する方法は、これまで知られていなかった。
本発明に係るフラーレン誘導体クラスターの生成方法において、前記溶液中の前記無置換のフラーレンの濃度が0.01〜10重量%であることが好ましい。
また、前記無置換のフラーレンが、無置換のC60及び無置換のC70のいずれか一方又は双方であることが好ましい。
更に、前記溶液中の前記フラーレン誘導体の濃度が1〜50重量%であることが好ましい。
「フラーレン」とは、炭素のみから構成され、中空状の閉殻構造をなす球殻状又は略球殻状分子をいい、当該閉殻構造を形成する炭素数は、通常60〜130の偶数である。フラーレンの具体例としては、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96のほか、これらよりも多くの炭素を有する球殻状又は略球殻状炭素分子を挙げることができる。
「フラーレン骨格」とは炭素で構成され、中空状の閉殻構造をなす球殻構造又は略球殻状の構造をいう。
なお、上記球殻状又は略球殻状分子及び上記球殻構造又は略球殻状の構造においては、これを構成する炭素の一部が欠損していてもよい。
具体的には、水素化フラーレン、酸化フラーレン、水酸化フラーレン、アミノ化フラーレン、硫化フラーレン、ハロゲン(F、Cl、Br、I)化フラーレン、フレロイド、メタノフラーレン、ピロリジノフラーレン、アルキル化フラーレン類、アリール化フラーレン類等を挙げることができる。これらのフラーレン誘導体において、フラーレン骨格に付加する置換基の数は複数であってもよく、2種類以上の異なる種類の置換基が付加していてもよい。なお、フラーレン誘導体は、1種類を単独で用いても、複数種を任意の割合で混合したものを用いてもよい。
このうち、フラーレン製造時における主生成物であり入手容易な点から、C60及びC70の誘導体が好ましく、これらの混合物の誘導体あるいはC60の誘導体がより好ましい。すなわち、フラーレン骨格がC60又はC70であるものが好ましく、フラーレン骨格がC60とC70であるものの混合物、あるいはC60及びC70のいずれか一方であるものがより好ましい。
例えば、構造式1で表されるC60誘導体のうち、R1=COOR5、R2=COOR6(なお、R5及びR6は、それぞれ独立して任意の置換、又は無置換の炭化水素基を表す)であるものは、DBU等の強塩基の存在下でC60とブロモマロン酸エステル誘導体とを反応(Bingel反応)させることにより合成することができる。
また、構造式1で表されるC60誘導体のうち、R1=C6H5(フェニル基)、R2=(CH2)3COOR7(なお、R7は、炭素数1〜20の直鎖でも分岐していてもよい炭化水素基であり、好ましくは炭素数1〜8の直鎖でも分岐していてもよい炭化水素を表す)であるものは、C60と、対応する4−ベンゾイル酪酸アルキルエステルp−トシルヒドラゾンとの反応により合成することができる。
構造式3で表されるC60誘導体は、C60、窒素原子上に官能基R3を有するグリシン誘導体、及びR4−CHOを原料とするprato反応により合成することができる。
構造式2及び4で表されるC70誘導体についても、出発原料としてC70を用いる以外は、それぞれ対応する置換基を有するC60誘導体と同様の方法を用いて合成することができる。
構造式4で表されるC70誘導体(ピロリジノフラーレン誘導体)の場合も、分子式は省略するが、構造式2で表されるC70誘導体の場合と同様に、3種類の異性体の混合物となる。
「フラーレン骨格を有する化合物」の具体例としては、
(イ) 無置換のフラーレン
(ロ) フラーレン及びフラーレン誘導体のいずれかを有する金属錯体、金属内包フラーレン(メタロフラーレン)等を含むフラーレン誘導体
(ハ) フラーレン骨格を形成する2以上の球殻構造同士が、直接又は少なくとも1つの原子を介して結合したフラーレン多量体、
(ニ) 上記(イ)、(ロ)、(ハ)から選択される2以上の化合物を任意の割合で混合したものを挙げることができる。
これらのフラーレン骨格を有する化合物のうち好ましいものは、無置換のフラーレンであり、価格や入手の容易さを考慮すると、C60及びC70がより好ましい。これらのうちいずれか一方を単独で用いてもよく、両者を任意の割合で混合して用いてもよい。
フラーレン誘導体及びフラーレン骨格を有する化合物が溶解した「溶液」とは、フラーレン誘導体及びフラーレン骨格を有する化合物の両者が溶媒に溶解した均一な混合物をいう。ここで、「均一な混合物」とは、全ての成分が孔直径0.1μmのろ紙を通過する混合物を意味する。
すなわち「溶液」とは、孔直径0.1μmのろ紙を用いてろ過した後、ろ紙上にフラーレン誘導体及びフラーレン骨格を有する化合物の残渣が確認されない均一な混合物をいう。
芳香族ハロゲン化炭化水素類溶媒の具体例としては、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン(ODCB)、m−ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、1,2,4−トリクロロベンゼン等を挙げることができる。
複素環分子系溶媒の具体例としては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロチオフェン、2−メチルチオフェン、ピリジン、キノリン、及びチオフェン等を挙げることができる。
ハロアルカン分子系溶媒の具体例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジブロモエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ジクロロジフルオロエタン、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン、及び1,1,2,2−テトラクロロエタン等を挙げることができる。
1価又は多価のアルコール類溶媒の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ジプロピレングリコール、3−メトキシブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール等を挙げることができる。
エステル類溶媒の具体例としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、乳酸エチル、ピルビン酸エチル、GBL(γ−ブチロラクトン)、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、PGME(プロピレングリコールモノエチルエーテル)、乳酸エチル、ピルビン酸エチル、酢酸ブチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、酢酸tert−ブチル、プロピオン酸tert−ブチル、プロピレングリコールモノtert−ブチルエーテルアセテート等のエステル類を挙げることができる。
用いることができる混合方法としては、スターラー、ブレンダー、ホモジナイザー、バルブホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、超音波分散器、スタティックミキサー、撹拌ミキサー、プラネタリーミキサー等の任意の混合手段を用いて、混合物を撹拌又は混合する方法を挙げることができる。
溶液中のフラーレン骨格を有する化合物の濃度は、好ましくは0.01〜10重量%であり、より好ましくは0.03〜1重量%である。フラーレン骨格を有する化合物の濃度が0.01重量%を下回ると、フラーレン誘導体クラスターの直径の増大やフラーレン誘導体の析出の防止について十分な効果が得られず、10重量%を上回ると、フラーレン誘導体溶液に占めるフラーレン骨格を有する化合物の割合が大きくなり過ぎる。
溶液中の、フラーレン誘導体に対するフラーレン骨格を有する化合物の好ましい重量比は、用いられるフラーレン誘導体及びフラーレン骨格を有する化合物並びに溶液中でのそれらの濃度等に依存するため、一義的に決定することは困難であるが、フラーレン誘導体としてPCBMを、フラーレン骨格を有する化合物としてC60をそれぞれ用いる場合、好ましいC60/PCBM比は、例えば、PCBM濃度が5重量%である場合には、0.01〜0.2であり、より好ましくは0.03〜0.15である。
析出の有無の確認は、例えば、フラーレン誘導体溶液の目視による確認、及び孔直径0.1μmのろ紙を用いてフラーレン誘導体溶液をろ過後、ろ紙上に残留する残渣の目視による確認のいずれかにより行うことができる。
フラーレン誘導体及びフラーレン骨格を有する化合物を溶媒中で共存させた溶液は、フラーレン誘導体クラスターを含むフラーレン誘導体クラスター溶液である。
「フラーレン誘導体クラスター」とは、フラーレン誘導体及びフラーレン骨格を有する化合物が会合して形成され、溶液中に均一に分散した、ほぼ一定の形状及び直径を有する分子集合体をいう。
フラーレン誘導体クラスターの「直径」とは、動的光散乱法により測定される流体力学的直径をいい、好ましくは、10〜100nm(0.1μm)の範囲内に制御されている。
本発明のフラーレン誘導体クラスター及びフラーレン誘導体クラスター溶液は、以下の用途に用いることができる。いくつかの用途の例に関して具体的に説明するが、本発明のフラーレン誘導体クラスターの機能が発揮できる用途に関しては、以下の記載に限定されるものではない。
本発明のフラーレン誘導体クラスター及びフラーレン誘導体クラスター溶液は有機太陽電池への応用が可能である。フラーレン誘導体を光電変換素子とする太陽電池は、シリコン系の無機太陽電池と比較して優位な点が多数あるもののエネルギー変換効率が低く、未だ実用レベルに十分には達していない。この点を克服するためのものとして、最近、電子供与体である導電性高分子と、電子受容体であるフラーレン並びにフラーレン誘導体とを混合した活性層を有するバルクヘテロ接合型有機太陽電池が提案されている。このバルクヘテロ接合型有機太陽電池では、導電性高分子とフラーレン誘導体それぞれとが分子レベルで混じり合い、その結果非常に大きな界面を作り出すことに成功し、変換効率の大幅な向上が実現されている。
更に、この高溶解性を利用し、本発明のフラーレン誘導体クラスター溶液は、導電性高分子等を含有した電子供与体層との層分離制御や、誘導体分子の整列配向性及び細密充填性等のモルホロジー制御を可能にし、これにより特性の向上が実現できる上、デバイス設計において高い柔軟性を与える。また、本発明のフラーレン誘導体クラスター溶液を用いれば製造上も通常の印刷法やインクジェットによる印刷、更にはスプレー法等により、低コストで容易に大面積化を実現する事が可能である。
光センサー、整流素子等への応用が期待できる電界効果トランジスタの有機材料として、フラーレン及びフラーレン誘導体を使用することが研究されている。一般的にフラーレン及びフラーレン誘導体を半導体に用いて電界効果トランジスタを作製した場合、当該電界効果トランジスタはn型のトランジスタとして機能することが知られている。本発明のフラーレン誘導体クラスターは、クラスターの直径がナノメートルサイズで制御されていると共に、n型半導体としてのフラーレンの性質を本質的に保持しているため、ナノメートルサイズでモルホロジーが制御されることから高性能な有機半導体として期待できる。
更に、この高溶解性を利用し、本発明のフラーレン誘導体クラスター溶液を用いれば、通常の印刷法やインクジェットによる印刷、更にはスプレー法等により、低コストで容易にフラーレン誘導体膜の大面積化を実現する事が可能である。
フラーレン誘導体クラスター溶液の基材への塗布は、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法等の、任意の公知の方法により行うことができる。
文献(Jan C.Hummelen,Brian W.Knight,F.LePeq,Fred Wudl;J.Org.Chem.,1995,60,532−538)記載の方法を参考に、PCBMを合成した。
窒素雰囲気下で4−ベンゾイル酪酸メチルp−トシルヒドラゾンをピリジンに溶解させた後、ナトリウムメトキシドを添加して15分撹拌した。o−ジクロロベンゼン(ODCB)に溶解させたC60を添加し、液温を65〜70℃に保持し22時間反応させた。その後、反応液を濃縮し、シリカゲルカラムにより精製を行った。ODCBにより未反応のC60を含むフラクションを溶出後、フェニル−ブトキシカルボニル置換体を含むフラクションを回収した。得られた溶液を濃縮した後、200℃にて10時間真空乾燥を行った。得られた置換体をトルエンに溶解した溶液を500Wランプで30分間照射し、光異性化を行なった。トルエンを濃縮除去し、メタノールで再結晶後真空乾燥して、目的のPCBMを得た。
4−ベンゾイル酪酸メチルp−トシルヒドラゾンの代わりに4−ベンゾイル酪酸n−ブチルp−トシルヒドラゾンを用いて、上記のPCBMと同様の方法により、PCBNBを合成した。
PCBM及びC60をODCB中で共存させたPCBMクラスター溶液を、下記の組成及び方法を用いて調製した(実施例1〜4)。
実施例1
ODCB94.95重量部に対してC600.05重量部を添加し、室温で1時間撹拌した。得られたC60溶液にPCBM5重量部を徐々に添加し、1時間撹拌した。このようにして得られたPCBMクラスター溶液を、孔直径0.1μmのPTFEフィルターでろ過し、動的光散乱計を用いて、後述の方法によりクラスターの直径の測定を行った。
ODCBの使用量を94.85重量部、C60の使用量を0.15重量部としたこと以外は実施例1と同様の条件を用いて、PCBMクラスター溶液の調製及びクラスターの直径の測定を行った。
ODCBの使用量を94.75重量部、C60の使用量を0.25重量部としたこと以外は実施例1と同様の条件を用いて、PCBMクラスター溶液の調製及びクラスターの直径の測定を行った。
ODCBの使用量を89.77重量部、C60の使用量を0.23重量部、PCBMの使用量を10重量部としたこと以外は実施例1と同様の条件を用いて、PCBMクラスター溶液の調製及びクラスターの直径の測定を行った。
比較例1
ODCB99重量部に対してPCBM1重量部を撹拌しながら徐々に添加し、室温で1時間撹拌した。得られたPCBM溶液を孔直径0.1μmのPTFEフィルターでろ過し、動的光散乱計を用いて、後述の方法によりクラスターの直径の測定を行った。
ODCBの使用量を97重量部、PCBMの使用量を3重量部としたこと以外は比較例1と同様の条件を用いて、PCBM溶液の調製及びクラスターの直径の測定を行った。
ODCBの使用量を95重量部、PCBMの使用量を5重量部としたこと以外は比較例1と同様の条件を用いて、PCBM溶液の調製及びクラスターの直径の測定を行った。
ODCBの使用量を90重量部、PCBMの使用量を10重量部としたこと以外は比較例1と同様の条件を用いて、PCBM溶液の調製及びクラスターの直径の測定を行った。
ODCBの使用量を95重量部とし、PCBMの代わりに5重量部のPCBNBを用いたこと以外は比較例1と同様の条件を用いて、PCBM溶液の調製及びクラスターの直径の測定を行った。
実施例1〜4及び比較例1〜5で調製した溶液中に含まれるPCBM又はPCBNBクラスターの直径の測定は、動的光散乱計を用いて、光子相関法により行った。測定条件は、下記に示すとおりである。
装置:大塚電子製 ELS−Z(高感度仕様)
相関チャンネル:440チャンネル
積算回数:70回
測定角度:167°
測定温度:25.0℃
測定波長:660.0nm
解析条件:キュムラント解析
実施例1〜4及び比較例1〜5で調製した溶液中に含まれるPCBM又はPCBNBクラスターの直径(直径)の測定結果は、下記の表1に示すとおりである。
また、比較例4で調製したPCBM溶液を室温で数日間放置すると、再溶解困難なPCBMの結晶が析出し、PCBM濃度は減少した。この事実からも、C60が共存しない場合、PCBMのみから形成されるクラスターは溶液中で不安定であり、生成したクラスターを核にして再溶解困難な結晶が容易に生成することがわかる。
更に、実施例1〜4で調製されたPCBMクラスター溶液は、数日間室温で放置しても析出物が生成することはなく、クラスターの直径の測定値についても有意な変化は観測されなかった。このことから、生成したPCBMクラスターは、共存するC60によって安定化されていることがわかる。
例えば、前記実施の形態のフラーレン誘導体クラスター溶液の調製において、フラーレン誘導体としてPCBM及びPCBNBを用いたが、例えば、他のメタノフラーレン誘導体、フレロイド誘導体、及びピロリジノフラーレンを用いてもよい。
Claims (4)
- 下記の構造式1、2、3、及び4で表されるフラーレン誘導体の少なくとも1種類のフラーレン誘導体が有機溶媒に溶解した溶液中で該フラーレン誘導体のクラスターを生成する方法であって、
先に少なくとも1種類の無置換のフラーレンを前記有機溶媒に添加して溶解させ、その後前記フラーレン誘導体を添加することを特徴とするフラーレン誘導体クラスターの生成方法。
- 請求項1記載のフラーレン誘導体クラスターの生成方法において、前記溶液中の前記無置換のフラーレンの濃度が0.01〜10重量%であることを特徴とするフラーレン誘導体クラスターの生成方法。
- 請求項1又は2記載のフラーレン誘導体クラスターの生成方法において、前記無置換のフラーレンが、無置換のC60及び無置換のC70のいずれか一方又は双方であることを特徴とするフラーレン誘導体クラスターの生成方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載のフラーレン誘導体クラスターの生成方法において、前記溶液中の前記フラーレン誘導体の濃度が1〜50重量%であることを特徴とするフラーレン誘導体クラスターの生成方法。
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