図1は、本発明の制御装置が適用されるハイブリッド車両用動力伝達装置10(以下、「動力伝達装置10」という)を説明する骨子図である。図1において、動力伝達装置10は車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース12(以下、「ケース12」という)内において共通の軸心上に配設された入力回転部材としての入力軸14と、この入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパー(振動減衰装置)などを介して間接に連結された無段変速部としての差動部11と、その差動部11と駆動輪34(図7参照)との間の動力伝達経路で伝達部材(伝動軸)18を介して直列に連結されている動力伝達部としての自動変速部20と、この自動変速部20に連結されている出力回転部材としての出力軸22とを直列に備えている。この動力伝達装置10は、例えば車両において縦置きされるFR(フロントエンジン・リヤドライブ)型車両に好適に用いられるものであり、入力軸14に直接に或いは図示しない脈動吸収ダンパーを介して直接的に連結された走行用の駆動力源として例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であるエンジン8と一対の駆動輪34との間に設けられて、エンジン8からの動力を動力伝達経路の一部を構成する差動歯車装置(終減速機)32(図7参照)および一対の車軸等を順次介して一対の駆動輪34へ伝達する。
このように、本実施例の動力伝達装置10においてはエンジン8と差動部11とは直結されている。この直結にはトルクコンバータやフルードカップリング等の流体式伝動装置を介することなく連結されているということであり、例えば上記脈動吸収ダンパーなどを介する連結はこの直結に含まれる。なお、動力伝達装置10はその軸心に対して対称的に構成されているため、図1の骨子図においてはその下側が省略されている。以下の各実施例についても同様である。
本発明の電気式差動部に対応する差動部11は、第1電動機M1と、入力軸14に入力されたエンジン8の出力を機械的に分配する機械的機構であってエンジン8の出力を第1電動機M1および伝達部材18に分配する差動機構としての動力分配機構16と、伝達部材18と一体的に回転するように作動的に連結されている第2電動機M2と、入力軸14を介しエンジン8に連結された第3電動機M3とを備えている。本実施例の第1電動機M1、第2電動機M2および第3電動機M3は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機M1および第3電動機M3は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機M2は走行用の駆動力源として駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能を少なくとも備える。
本発明の差動機構に対応する動力分配機構16は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ0を有するシングルピニオン型の差動部遊星歯車装置24を主体として構成されている。この差動部遊星歯車装置24は、差動部サンギヤS0、差動部遊星歯車P0、その差動部遊星歯車P0を自転および公転可能に支持する差動部キャリヤCA0、差動部遊星歯車P0を介して差動部サンギヤS0と噛み合う差動部リングギヤR0を回転要素(要素)として備えている。差動部サンギヤS0の歯数をZS0、差動部リングギヤR0の歯数をZR0とすると、上記ギヤ比ρ0はZS0/ZR0である。
この動力分配機構16においては、差動部キャリヤCA0は入力軸14すなわちエンジン8および第3電動機M3に連結され、差動部サンギヤS0は第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0は伝達部材18に連結されている。このように構成された動力分配機構16は、差動部遊星歯車装置24の3要素である差動部サンギヤS0、差動部キャリヤCA0、差動部リングギヤR0がそれぞれ相互に相対回転可能とされて差動作用が作動可能なすなわち差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン8の出力が第1電動機M1と伝達部材18とに分配されるとともに、分配されたエンジン8の出力の一部で第1電動機M1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機M2が回転駆動されるので、差動部11(動力分配機構16)は電気的な差動装置として機能させられて例えば差動部11は所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン8の所定回転に拘わらず伝達部材18の回転が連続的に変化させられる。すなわち、差動部11はその変速比γ0(入力軸14の回転速度NIN/伝達部材18の回転速度N18)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する。このように、動力分配機構16(差動部11)に動力伝達可能に連結された第1電動機M1、第2電動機M2、およびエンジン8の運転状態が制御されることにより、動力分配機構16の差動状態、すなわち入力軸14の回転速度と伝達部材18の回転速度の差動状態が制御される。
本発明の機械式動力伝達部に対応する自動変速部20は、差動部11から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成しており、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置26、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置28、およびシングルピニオン型の第3遊星歯車装置30を備え、有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式の多段変速機である。第1遊星歯車装置26は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ1を有している。第2遊星歯車装置28は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置30は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1、第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3である。
自動変速部20では、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第1キャリヤCA1は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第3リングギヤR3は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第1リングギヤR1と第2キャリヤCA2と第3キャリヤCA3とが一体的に連結されて出力軸22に連結され、第2リングギヤR2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
このように、自動変速部20内と差動部11(伝達部材18)とは自動変速部20の変速段を成立させるために用いられる第1クラッチC1または第2クラッチC2を介して選択的に連結されている。言い換えれば、第1クラッチC1および第2クラッチC2は、伝達部材18と自動変速部20との間の動力伝達経路すなわち差動部11(伝達部材18)から駆動輪34への動力伝達経路を、その動力伝達経路の動力伝達を可能とする動力伝達可能状態と、その動力伝達経路の動力伝達を遮断する動力伝達遮断状態とに選択的に切り換える係合装置として機能している。つまり、第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとの一方が係合されることで上記動力伝達経路が動力伝達可能状態とされ、或いは第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されることで上記動力伝達経路が動力伝達遮断状態とされる。
また、この自動変速部20は、解放側係合装置の解放と係合側係合装置の係合とによりクラッチツウクラッチ変速が実行されて各ギヤ段(変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する変速比γ(=伝達部材18の回転速度N18/出力軸22の回転速度NOUT)が各ギヤ段毎に得られる。例えば、図2の係合作動表に示されるように、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段(後進変速段)が成立させられる。また、第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3の解放によりニュートラル「N」状態とされる。
前記第1クラッチC1、第2クラッチC2、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3(以下、特に区別しない場合はクラッチC、ブレーキBと表す)は、従来の車両用自動変速機においてよく用いられている係合要素としての油圧式摩擦係合装置であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介挿されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
以上のように構成された動力伝達装置10において、無段変速機として機能する差動部11と自動変速部20とで全体として無段変速機が構成される。また、差動部11の変速比を一定となるように制御することにより、差動部11と自動変速部20とで有段変速機と同等の状態を構成することが可能とされる。
具体的には、差動部11が無段変速機として機能し、且つ差動部11に直列の自動変速部20が有段変速機として機能することにより、自動変速部20の少なくとも1つの変速段Mに対して自動変速部20に入力される回転速度(以下、自動変速部20の入力回転速度)すなわち伝達部材18の回転速度(以下、伝達部材回転速度N18)が無段的に変化させられてその変速段Mにおいて無段的な変速比幅が得られる。したがって、動力伝達装置10の総合変速比γT(=入力軸14の回転速度NIN/出力軸22の回転速度NOUT)が無段階に得られ、動力伝達装置10において無段変速機が構成される。この動力伝達装置10の総合変速比γTは、差動部11の変速比γ0と自動変速部20の変速比γとに基づいて形成される動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTである。
例えば、図2の係合作動表に示される自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対し伝達部材回転速度N18が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって、動力伝達装置10全体としてのトータル変速比γTが無段階に得られる。
また、差動部11の変速比が一定となるように制御され、且つクラッチCおよびブレーキBが選択的に係合作動させられて第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)が選択的に成立させられることにより、略等比的に変化する動力伝達装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。したがって、動力伝達装置10において有段変速機と同等の状態が構成される。
例えば、差動部11の変速比γ0が「1」に固定されるように制御されると、図2の係合作動表に示されるように自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段や後進ギヤ段の各ギヤ段に対応する動力伝達装置10のトータル変速比γTが各ギヤ段毎に得られる。また、自動変速部20の第4速ギヤ段において差動部11の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように制御されると、第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.7」程度であるトータル変速比γTが得られる。
図3は、差動部11と自動変速部20とから構成される動力伝達装置10において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転速度の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図3の共線図は、各遊星歯車装置24、26、28、30のギヤ比ρの関係を示す横軸と、相対的回転速度を示す縦軸とから成る二次元座標であり、横線X1が回転速度零を示し、横線X2が回転速度「1.0」すなわち入力軸14に連結されたエンジン8の回転速度NEを示し、横線XGが伝達部材18の回転速度を示している。
また、差動部11を構成する動力分配機構16の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素(第2要素)RE2に対応する差動部サンギヤS0、第1回転要素(第1要素)RE1に対応する差動部キャリヤCA0、第3回転要素(第3要素)RE3に対応する差動部リングギヤR0の相対回転速度を示すものであり、それらの間隔は差動部遊星歯車装置24のギヤ比ρ0に応じて定められている。さらに、自動変速部20の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素(第4要素)RE4に対応し且つ相互に連結された第1サンギヤS1および第2サンギヤS2を、第5回転要素(第5要素)RE5に対応する第1キャリヤCA1を、第6回転要素(第6要素)RE6に対応する第3リングギヤR3を、第7回転要素(第7要素)RE7に対応し且つ相互に連結された第1リングギヤR1、第2キャリヤCA2、第3キャリヤCA3を、第8回転要素(第8要素)RE8に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3サンギヤS3をそれぞれ表し、それらの間隔は第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30のギヤ比ρ1、ρ2、ρ3に応じてそれぞれ定められている。共線図の縦軸間の関係においてサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔とされるとキャリヤとリングギヤとの間が遊星歯車装置のギヤ比ρに対応する間隔とされる。すなわち、差動部11では縦線Y1とY2との縦線間が「1」に対応する間隔に設定され、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ0に対応する間隔に設定される。また、自動変速部20では各第1、第2、第3遊星歯車装置26、28、30毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が「1」に対応する間隔に設定され、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応する間隔に設定される。
上記図3の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置10は、動力分配機構16(差動部11)において、差動部遊星歯車装置24の第1回転要素RE1(差動部キャリヤCA0)が入力軸14すなわちエンジン8および第3電動機M3に連結され、第2回転要素RE2が第1電動機M1に連結され、第3回転要素(差動部リングギヤR0)RE3が伝達部材18および第2電動機M2に連結されて、入力軸14の回転を伝達部材18を介して自動変速部20へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により差動部サンギヤS0の回転速度と差動部リングギヤR0の回転速度との関係が示される。
例えば、差動部11においては、第1回転要素RE1乃至第3回転要素RE3が相互に相対回転可能とされる差動状態とされており、直線L0と縦線Y3との交点で示される差動部リングギヤR0の回転速度が車速Vに拘束されて略一定である場合には、エンジン回転速度NEを制御することによって直線L0と縦線Y2との交点で示される差動部キャリヤCA0の回転速度が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y1との交点で示される差動部サンギヤS0の回転速度すなわち第1電動機M1の回転速度が上昇或いは下降させられる。なお、正常動作では第2電動機M2は一方向にしか回転せず第1電動機M1は正逆両方向に回転し得るので、第2電動機M2の回転方向と同じ第1電動機M1の回転方向を第1電動機M1の正回転方向とする。従って、第1電動機M1が逆回転方向(負回転方向)に回転している場合にその回転速度NM1が零に近付けられることは回転方向(符号の正負)をも考慮すればその値は大きくなるので、第1電動機回転速度NM1が引き上げられるということである。
また、差動部11の変速比γ0が「1」に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動部サンギヤS0の回転がエンジン回転速度NEと同じ回転とされると、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転速度NEと同じ回転で差動部リングギヤR0の回転速度すなわち伝達部材18が回転させられる。或いは、差動部11の変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定されるように第1電動機M1の回転速度を制御することによって差動部サンギヤS0の回転が零とされると、エンジン回転速度NEよりも増速された回転で伝達部材回転速度N18が回転させられる。
また、自動変速部20において第4回転要素RE4は第2クラッチC2を介して伝達部材18に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース12に選択的に連結され、第5回転要素RE5は第2ブレーキB2を介してケース12に選択的に連結され、第6回転要素RE6は第3ブレーキB3を介してケース12に選択的に連結され、第7回転要素RE7は出力軸22に連結され、第8回転要素RE8は第1クラッチC1を介して伝達部材18に選択的に連結されている。
自動変速部20では、差動部11において出力回転部材である伝達部材18(第3回転要素RE3)の回転が第1クラッチC1が係合されることで第8回転要素RE8に入力されると、図3に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転速度を示す縦線Y8と横線XGとの交点と第6回転要素RE6の回転速度を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第1速(1st)の出力軸22の回転速度が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第2速(2nd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第3速(3rd)の出力軸22の回転速度が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸22と連結された第7回転要素RE7の回転速度を示す縦線Y7との交点で第4速(4th)の出力軸22の回転速度が示される。
図4は、本実施例の動力伝達装置10を制御するための電子制御装置80に入力される信号及びその電子制御装置80から出力される信号を例示している。この電子制御装置80は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン8、第1、第2電動機M1、M2に関するハイブリッド駆動制御、自動変速部20の変速制御等の駆動制御を実行する制御装置である。
電子制御装置80には、図4に示すような各センサやスイッチなどから、エンジン水温TEMPWを表す信号、シフトレバー52(図6参照)のシフトポジションPSHや「M」ポジションにおける操作回数等を表す信号、エンジン8の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、ギヤ比列設定値を表す信号、Mモード(手動変速走行モード)を指令する信号、エアコンの作動を表す信号、出力軸22の回転速度NOUT(以下、「出力軸回転速度NOUT」という)に対応する車速Vを表す信号、自動変速部20の作動油温TOILを表す信号、サイドブレーキ操作を表す信号、フットブレーキ操作を表す信号、触媒温度を表す信号、運転者の出力要求量に対応するアクセルペダルの操作量であるアクセル開度Accを表す信号、カム角を表す信号、スノーモード設定を表す信号、車両の前後加速度Gを表す信号、オートクルーズ走行を表す信号、車両の重量(車重)を表す信号、各車輪の車輪速を表す信号、第1電動機M1の回転速度NM1(以下、「第1電動機回転速度NM1」という)を表す信号、第2電動機M2の回転速度NM2(以下、「第2電動機回転速度NM2」という)を表す信号、第3電動機M3の回転速度NM3(以下、「第3電動機回転速度NM3」という)を表す信号、蓄電装置56(図7参照)の充電残量(充電状態)SOCを表す信号などが、それぞれ供給される。
また、上記電子制御装置80からは、エンジン出力を制御するエンジン出力制御装置58(図7参照)への制御信号例えばエンジン8の吸気管60に備えられアクセルペダル操作に電気的に連動して作動する電子スロットル弁62のスロットル弁開度θTHを操作するスロットルアクチュエータ64への駆動信号や燃料噴射装置66による吸気管60或いはエンジン8の筒内への燃料供給量を制御する燃料供給量信号や点火装置68によるエンジン8の点火時期を指令する点火信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、第1電動機M1の作動を指令する指令信号、第2電動機M2の作動を指令する指令信号、第3電動機M3の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、差動部11や自動変速部20の油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを制御するために油圧制御回路70(図7参照)に含まれる電磁弁(リニアソレノイドバルブ)を作動させるバルブ指令信号、この油圧制御回路70に設けられたレギュレータバルブ(調圧弁)によりライン油圧PLを調圧するための信号、そのライン油圧PLが調圧されるための元圧の油圧源である電動油圧ポンプを作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
図5は、油圧制御回路70のうちクラッチC1、C2、およびブレーキB1〜B3の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)AC1、AC2、AB1、AB2、AB3の作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL5に関する回路図である。
図5において、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3には、ライン油圧PLがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1〜SL5により電子制御装置80からの指令信号に応じた係合圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3に調圧されてそれぞれ直接的に供給されるようになっている。このライン油圧PLは、図示しない電動オイルポンプやエンジン8により回転駆動される機械式オイルポンプから発生する油圧を元圧として例えばリリーフ型調圧弁(レギュレータバルブ)によって、アクセル開度或いはスロットル弁開度で表されるエンジン負荷等に応じた値に調圧されるようになっている。
リニアソレノイドバルブSL1〜SL5は、基本的には何れも同じ構成で、電子制御装置80により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータAC1、AC2、AB1、AB2、AB3の油圧が独立に調圧制御されてクラッチC1、C2、ブレーキB1、B2、B3の係合圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3が制御される。そして、自動変速部20は、例えば図2の係合作動表に示すように予め定められた摩擦係合装置が係合されることによって各変速段が成立させられる。また、自動変速部20の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放と係合とが同時に制御される所謂クラッチツウクラッチ変速が実行される。
図6は複数種類のシフトポジションPSHを人為的操作により切り換える切換装置としてのシフト操作装置50の一例を示す図である。このシフト操作装置50は、例えば運転席の横に配設され、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えている。
そのシフトレバー52は、動力伝達装置10内つまり自動変速部20内の動力伝達経路が遮断されたニュートラル状態すなわち中立状態とし且つ自動変速部20の出力軸22をロックするための駐車ポジション「P(パーキング)」、後進走行のための後進走行ポジション「R(リバース)」、動力伝達装置10内の動力伝達経路が遮断された中立状態とするための中立ポジション「N(ニュートラル)」、自動変速モードを成立させて差動部11の無段的な変速比幅と自動変速部20の第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段の範囲で自動変速制御される各ギヤ段とで得られる動力伝達装置10の変速可能なトータル変速比γTの変化範囲内で自動変速制御を実行させる前進自動変速走行ポジション「D(ドライブ)」、または手動変速走行モード(手動モード)を成立させて自動変速部20における高速側の変速段を制限する所謂変速レンジを設定するための前進手動変速走行ポジション「M(マニュアル)」へ手動操作されるように設けられている。
上記シフトレバー52の各シフトポジションPSHへの手動操作に連動して図2の係合作動表に示す後進ギヤ段「R」、ニュートラル「N」、前進ギヤ段「D」における各変速段等が成立するように、例えば油圧制御回路70が電気的に切り換えられる。
上記「P」乃至「M」ポジションに示す各シフトポジションPSHにおいて、「P」ポジションおよび「N」ポジションは、車両を走行させないときに選択される非走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2のいずれもが解放されるような自動変速部20内の動力伝達経路が遮断された車両を駆動不能とする第1クラッチC1および第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達遮断状態へ切換えを選択するための非駆動ポジションである。また、「R」ポジション、「D」ポジションおよび「M」ポジションは、車両を走行させるときに選択される走行ポジションであって、例えば図2の係合作動表に示されるように第1クラッチC1および第2クラッチC2の少なくとも一方が係合されるような自動変速部20内の動力伝達経路が連結された車両を駆動可能とする第1クラッチC1および/または第2クラッチC2による動力伝達経路の動力伝達可能状態への切換えを選択するための駆動ポジションでもある。
具体的には、シフトレバー52が「P」ポジション或いは「N」ポジションから「R」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされ、シフトレバー52が「N」ポジションから「D」ポジションへ手動操作されることで、少なくとも第1クラッチC1が係合されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達遮断状態から動力伝達可能状態とされる。また、シフトレバー52が「R」ポジションから「P」ポジション或いは「N」ポジションへ手動操作されることで、第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされ、シフトレバー52が「D」ポジションから「N」ポジションへ手動操作されることで、第1クラッチC1および第2クラッチC2が解放されて自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされる。
図7は、電子制御装置80による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図7において、有段変速制御手段82は、図8に示すような車速Vと自動変速部20の出力トルクTOUTとを変数として予め記憶されたアップシフト線(実線)およびダウンシフト線(一点鎖線)を有する関係(変速線図、変速マップ)から実際の車速Vおよび自動変速部20の要求出力トルクTOUTで示される車両状態に基づいて、自動変速部20の変速を実行すべきか否かを判断しすなわち自動変速部20の変速すべき変速段を判断し、その判断した変速段が得られるように自動変速部20の自動変速制御を実行する。
このとき、有段変速制御手段82は、例えば図2に示す係合表に従って変速段が達成されるように、自動変速部20の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合および/または解放させる指令(変速出力指令、油圧指令)を、すなわち自動変速部20の変速に関与する解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合することによりクラッチツウクラッチ変速を実行させる指令を油圧制御回路70へ出力する。油圧制御回路70は、その指令に従って、例えば解放側係合装置を解放すると共に係合側係合装置を係合して自動変速部20の変速が実行されるように、油圧制御回路70内のリニアソレノイドバルブを作動させてその変速に関与する油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータを作動させる。
ハイブリッド制御手段84は、エンジン8を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン8と第2電動機M2との駆動力の配分や第1電動機M1の発電による反力を最適になるように変化させて差動部11の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。例えば、そのときの走行車速Vにおいて、運転者の出力要求量としてのアクセル開度Accや車速Vから車両の目標(要求)出力を算出し、その車両の目標出力と充電要求値から必要なトータル目標出力を算出し、そのトータル目標出力が得られるように伝達損失、補機負荷、第2電動機M2のアシストトルク等を考慮して目標エンジン出力を算出し、その目標エンジン出力が得られるエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとなるようにエンジン8を制御するとともに第1電動機M1の発電量を制御する。
例えば、ハイブリッド制御手段84は、その制御を動力性能や燃費向上などのために自動変速部20の変速段を考慮して実行する。このようなハイブリッド制御では、エンジン8を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転速度NEと車速Vおよび自動変速部20の変速段で定まる伝達部材18の回転速度とを整合させるために、差動部11が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段84は、エンジン回転速度NEとエンジン8の出力トルク(エンジントルク)TEとで構成される二次元座標内において無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立するように予め実験的に求められて記憶されたエンジン8の最適燃費率曲線(燃費マップ、関係)に沿ってエンジン8が作動させられるように、例えば目標出力(トータル目標出力、要求駆動力)を充足するために必要なエンジン出力を発生するためのエンジントルクTEとエンジン回転速度NEとなるように、動力伝達装置10のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように自動変速部20の変速段を考慮して差動部11の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内で制御する。
このとき、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1により発電された電気エネルギをインバータ54を通して蓄電装置56や第2電動機M2へ供給するので、エンジン8の動力の主要部は機械的に伝達部材18へ伝達されるが、エンジン8の動力の一部は第1電動機M1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ54を通してその電気エネルギが第2電動機M2へ供給され、その第2電動機M2が駆動されて第2電動機M2から伝達部材18へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機M2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。また必要に応じてハイブリッド制御手段84は、エンジン8の出力軸に連結された第3電動機M3を発電機として機能させてエンジン8の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギはインバータ54に供給される。
また、ハイブリッド制御手段84は、車両の停止中又は走行中に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能によって第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を制御してエンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に回転制御する。言い換えれば、ハイブリッド制御手段84は、エンジン回転速度NEを略一定に維持したり任意の回転速度に制御しつつ第1電動機回転速度NM1および/または第2電動機回転速度NM2を任意の回転速度に回転制御することができる。
例えば、図3の共線図からもわかるようにハイブリッド制御手段84は車両走行中にエンジン回転速度NEを引き上げる場合には、車速V(駆動輪34)に拘束される第2電動機回転速度NM2を略一定に維持しつつ第1電動機回転速度NM1の引き上げを実行する。このときハイブリッド制御手段84は、第1電動機回転速度NM1の引き上げに替えて又はこれと並行して、第3電動機回転速度NM3の引き上げを実行してエンジン回転速度NEを引き上げてもよい。また、ハイブリッド制御手段84は自動変速部20の変速中にエンジン回転速度NEを略一定に維持する場合には、エンジン回転速度NEを略一定に維持しつつ自動変速部20の変速に伴う第2電動機回転速度NM2の変化とは反対方向に第1電動機回転速度NM1を変化させる。
また、ハイブリッド制御手段84は、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御させる他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射量や噴射時期を制御させ、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御させる指令を単独で或いは組み合わせてエンジン出力制御装置58に出力して、必要なエンジン出力を発生するようにエンジン8の出力制御を実行するエンジン出力制御手段を機能的に備えている。
例えば、ハイブリッド制御手段84は、基本的には図示しない予め記憶された関係からアクセル開度Accに基づいてスロットルアクチュエータ64を駆動し、アクセル開度Accが増加するほどスロットル弁開度θTHを増加させるようにスロットル制御を実行する。また、このエンジン出力制御装置58は、ハイブリッド制御手段84による指令に従って、スロットル制御のためにスロットルアクチュエータ64により電子スロットル弁62を開閉制御する他、燃料噴射制御のために燃料噴射装置66による燃料噴射を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ等の点火装置68による点火時期を制御するなどしてエンジントルク制御を実行する。
また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン8の停止又はアイドル状態に拘わらず、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)によって、第2電動機M2を走行用の駆動力源とするモータ走行をさせることができる。例えば、ハイブリッド制御手段84は、一般的にエンジン効率が高トルク域に比較して悪いとされる比較的低出力トルクTOUT域すなわち低エンジントルクTE域、或いは車速Vの比較的低車速域すなわち低負荷域において、モータ走行を実行する。また、ハイブリッド制御手段84は、このモータ走行時には、停止しているエンジン8の引き摺りを抑制して燃費を向上させるために、第1電動機回転速度NM1を負の回転速度で制御して例えば第1電動機M1を無負荷状態とすることにより空転させて、差動部11の電気的CVT機能(差動作用)により必要に応じてエンジン回転速度NEを零乃至略零に維持する。
また、ハイブリッド制御手段84は、エンジン8を走行用の駆動力源とするエンジン走行を行うエンジン走行領域であっても、上述した電気パスによる第1電動機M1からの電気エネルギおよび/または蓄電装置56からの電気エネルギを第2電動機M2へ供給し、その第2電動機M2を駆動して駆動輪34にトルクを付与することにより、エンジン8の動力を補助するための所謂トルクアシストが可能である。よって、本実施例のエンジン走行にはエンジン8を走行用の駆動力源とする場合と、エンジン8及び第2電動機M2の両方を走行用の駆動力源とする場合とがある。そして、本実施例のモータ走行とはエンジン8を停止して第2電動機M2を走行用の駆動力源とする走行である。
また、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1を無負荷状態として自由回転すなわち空転させることにより、差動部11がトルクの伝達を不能な状態すなわち差動部11内の動力伝達経路が遮断された状態と同等の状態であって、且つ差動部11からの出力が発生されない状態とすることが可能である。すなわち、ハイブリッド制御手段84は、第1電動機M1を無負荷状態とすることにより差動部11をその動力伝達経路が電気的に遮断される中立状態(ニュートラル状態)とすることが可能である。
また、ハイブリッド制御手段84は、アクセルオフの惰性走行時(コースト走行時)やフットブレーキによる制動時などには、燃費を向上させるために車両の運動エネルギすなわち駆動輪34からエンジン8側へ伝達される逆駆動力により第2電動機M2を回転駆動させて発電機として作動させ、その電気エネルギすなわち第2電動機発電電流をインバータ54を介して蓄電装置56へ充電する回生制御手段としての機能を有する。この回生制御は、蓄電装置56の充電残量SOCやブレーキペダル操作量に応じた制動力を得るための油圧ブレーキによる制動力の制動力配分等に基づいて決定された回生量となるように制御される。
ここで、エンジン走行中に乗員によりシフトレバー52が「D」ポジションから「N」ポジションへ操作されたり、自動変速部20のクラッチもしくはブレーキに供給される油圧を切り換えるための油圧制御回路70に含まれる電磁弁が異常(フェイル状態)になることで、第1クラッチC1及び第2クラッチC2が解放され第2電動機M2から駆動輪34への動力伝達経路が遮断されるニュートラル状態に自動変速部20がなった場合、エンジン走行中に乗員によるダウンシフトによって自動変速部20の変速比γが急に大きくなった場合、或いは、エンジン走行中に何らかの原因で駆動輪34が空転した場合には、自動変速部20の入力軸であるの伝達部材18の回転速度上昇を抑える方向に働く走行負荷が急に低下し、エンジン8の回転に連動して回転しエンジン8と駆動輪34との間の動力伝達経路に連結された回転要素であるエンジン連動回転要素、例えば、伝達部材18に連結されているクラッチC1,C2、差動部遊星歯車P0、伝達部材18に連結されている第2電動機M2などの回転速度がエンジントルクTEと動力分配機構16の差動作用とによって急速に上昇させられ高速回転となり、それらの耐久性が低下する可能性があった。
そこで、上記クラッチC1,C2、差動部遊星歯車P0、第2電動機M2などで例示される前記エンジン連動回転要素の回転速度NRE(以下、「エンジン連動回転要素回転速度NRE」という)が急速に上昇して高速回転となることを抑制する制御機能の要部について以下に説明する。
図7に戻り、エンジン駆動中つまりエンジン走行中において動力伝達状態判定手段90は、エンジントルクTEに対抗してエンジン8にかかる走行負荷が急速に低下したか否か、つまり、上記走行負荷の単位時間当たりの低下量である走行負荷低下率が予め実験的に設定された走行負荷低下率判定値を超えて上記走行負荷が低下したか否かを判定する。上記走行負荷は、第1電動機M1の駆動電流から求めることができる第1電動機M1の出力トルクTM1(以下、「第1電動機トルクTM1」という)、第2電動機M2の駆動電流から求めることができる第2電動機M2の出力トルクTM2(以下、「第2電動機トルクTM2」という)、エンジントルクTE、ギヤ比ρ0などから算出される。ここで、上記走行負荷の急速低下は専ら、自動変速部20にて動力伝達が遮断された場合に生じ得るので、動力伝達状態判定手段90は、簡便に判定するため上記走行負荷についての判定ではなく、自動変速部20にて動力伝達が遮断されたか否かを判定する。そして、自動変速部20にて動力伝達が遮断された場合には肯定的な判定をする。具体的に動力伝達状態判定手段90は、シフトポジションセンサ110により検出されるシフトポジションPSHが「D」ポジションや「M」ポジションなどの前進走行をするための前進ポジションから「N」ポジションに操作された場合、或いは、第1クラッチC1と第2クラッチC2との少なくとも何れか一方が係合している状態からその両方が解放された状態に変化した場合には、自動変速部20内の動力伝達経路が動力伝達可能状態から動力伝達遮断状態とされたと、すなわち、自動変速部20にて動力伝達が遮断されたと肯定的な判定をする。
また、自動変速部20の変速比γが急速に大きくなった場合にも前記走行負荷の急速低下は生じ得るので、動力伝達状態判定手段90は上記自動変速部20にて動力伝達が遮断されたか否かと併せて、自動変速部20の変速比γの単位時間当たりの増大量である変速比勾配が予め実験的に設定された変速比勾配判定値以上になったか否かを判定し、自動変速部20にて動力伝達が遮断された場合或いは自動変速部20の上記変速比勾配が変速比勾配判定値以上になった場合に肯定的な判定をしてもよい。その判定につき例えば動力伝達状態判定手段90は、上記変速比勾配が変速比勾配判定値以上になる変速パターンを予め記憶しており、自動変速部20の変速前後の変速段を検出することによって上記変速比勾配が変速比勾配判定値以上になったか否かを判定する。
回転状態判定手段92は、エンジン連動回転要素回転速度NRE(例えば、第2電動機回転速度NM2)を検出し、前記エンジン連動回転要素(例えば、第2電動機M2)が、実験等により求められ予め設定された第1回転速度判定値LMT1である高回転速度判定値LMT1を超えて高速回転している高速回転状態、または高回転速度判定値LMT1を超えた高速回転に至ることが予測される高速回転予測状態であるか否かを判定する。要するに回転状態判定手段92は、上記エンジン連動回転要素がその耐久性維持のためにその回転速度NREを低下させるべき実験的に求められ予め設定された回転状態であるか否かを判定する。このとき回転状態判定手段92は、上記エンジン連動回転要素が上記高速回転予測状態であるか否かを、エンジン連動回転要素回転速度NRE及びそのエンジン連動回転要素回転速度NREの単位時間当たりの上昇量であるエンジン連動回転要素の回転加速度ARE(以下、「エンジン連動回転要素回転加速度ARE」という)に基づいて判断する。例えば上記エンジン連動回転要素が第2電動機M2である場合には、回転状態判定手段92は、第2電動機M2が上記高速回転予測状態であるか否かを、第2電動機回転速度NM2及びその第2電動機回転速度NM2の単位時間当たりの上昇量である第2電動機M2の回転加速度AM2(以下、「第2電動機回転加速度AM2」という)に基づいて判断する。詳細に言うと、上記エンジン連動回転要素が上記高速回転状態ではない場合において回転状態判定手段92は、(a)エンジン連動回転要素回転加速度AREが予め実験的に設定された回転加速度判定値N1を超えて上記エンジン連動回転要素の回転速度NREが上昇していること、(b)上記エンジン連動回転要素が、実験等により求められ高回転速度判定値LMT1より低い予め設定された第2回転速度判定値LMT2である高速回転予測判定値LMT2を超えた回転速度NREで回転していること、という2つの条件(a),(b)の両方ともが肯定的である場合にはそのエンジン連動回転要素が前記高速回転予測状態であると判断する。一方、上記条件(a),(b)の少なくとも何れかが否定的である場合にはそのエンジン連動回転要素が上記高速回転予測状態であるとは判断しない。なお、高回転速度判定値(第1回転速度判定値)LMT1は、それ以上高速回転になると上記エンジン連動回転要素の耐久性が低下する可能性のある回転速度であり、高速回転予測判定値(第2回転速度判定値)LMT2及び回転加速度判定値N1は、それらの両方を超えるとエンジン連動回転要素回転加速度AREが高回転速度判定値LMT1を超えた高速回転に至ることが予測される判定値である。また、上記回転加速度判定値N1は一定値であってもよいし、回転状態判定手段92が図9のようにエンジン連動回転要素回転速度NRE(例えば、第2電動機回転速度NM2)に応じてその回転速度NREが高いほど回転加速度判定値N1を小さく設定変更するようにしてもよい。
動力伝達状態判定手段90が肯定的な判定をした場合、具体的に言えば、エンジン駆動中つまりエンジン走行中に自動変速部20にて動力伝達が遮断された場合において、回転抑制手段94は、回転状態判定手段92が肯定的な判定をした場合、すなわち、前記エンジン連動回転要素が前記高速回転状態または高速回転予測状態である場合に、エンジン回転速度NEをそのエンジン連動回転要素の高回転化防止のため実験等により予め設定されたエンジン回転速度制限値LMTE以下に抑制するエンジン回転抑制制御を実行する。回転抑制手段94がエンジン回転速度NEを抑制する方法としては種々考えられる。例えば、回転抑制手段94は、(a)エンジン8の出力軸に連結された第3電動機M3を発電機としてつまりエンジン8の回転負荷として機能させ第3電動機M3の回転速度NM3を低下させること、(b)エンジン8への燃料供給の遮断つまりフューエルカットをすること、例えばフューエルカットを実施するエンジン回転速度NEであるフューエルカット回転速度が5600rpmに設定されていた場合それを4800rpmにまで低下させることによりフューエルカットをすること、(c)電子スロットル弁62をその上限開度として予め設定されたスロットル弁開度(以下、「上限スロットル弁開度」という)まで開かないようにすること、すなわちスロットル弁開度θTHを制限すること等の何れか単独で或いは複数の併用によってエンジン回転速度NEを抑制する。
更に、回転抑制手段94は、前記エンジン回転抑制制御を実行するに際し、そのエンジン回転抑制制御に替えて又はそれと併せて、第1電動機M1の運転状態を制御することによりエンジン連動回転要素回転速度NREを低下させる差動制限制御を実行する。望ましくはエンジン連動回転要素回転速度NREを高回転速度判定値LMT1未満に低下させるように上記差動制限制御を実行する。具体的に回転抑制手段94は、図3の共線図から判るように第1電動機回転速度NM1が上昇するほど動力分配機構16の変速比γ0は大きくなってその増速作用は低下し例えば第2電動機回転速度NM2は低下するので、第1電動機回転速度NM1を上昇させることにより望ましくは第1電動機回転速度NM1を第2電動機回転速度NM2に近付けるようにすることにより上記差動制限制御を実行する。
なお、上記エンジン回転抑制制御におけるエンジン回転速度制限値LMTEは一定値であってもよいが、望ましくは回転抑制手段94が、図10に示されるように前記エンジン連動回転要素の回転速度NREが高いほどエンジン回転速度制限値LMTEを低く設定変更する。
図11は、電子制御装置80の制御作動の要部、すなわち上記エンジン連動回転要素の1つである第2電動機M2が高速回転になることを抑制するための制御作動を説明するフローチャートであり、エンジン走行中に、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。
先ず、動力伝達状態判定手段90に対応するステップ(以下、「ステップ」を省略する)SA1においては、自動変速部20にて動力伝達が遮断されたか否か、具体的には、シフトポジションセンサ110により検出されるシフトポジションPSHが「D」ポジションや「M」ポジションなどの前進走行をするための前進ポジションから「N」ポジションに操作されたか否かが判定される。この判定が肯定的である場合、すなわち、シフトポジションPSHが「D」ポジションや「M」ポジションなどの前進ポジションから「N」ポジションに操作された場合にはSA2に移る。一方、この判定が否定的である場合にはSA7に移る。
SA2においては、具体的には上記エンジン連動回転要素の1つである第2電動機M2が、8000rpm程度に予め設定された高速回転予測判定値LMT2を超えた回転速度NM2で回転していることという前記条件(b)について判断される。この条件(b)が肯定された場合、すなわち、第2電動機回転速度NM2が高速回転予測判定値LMT2を超えている場合にはSA3に移る。一方、この条件(b)が否定された場合にはSA6に移る。
SA3においては、具体的には第2電動機回転加速度AM2が回転加速度判定値N1を超えて第2電動機M2の回転速度NM2が上昇していることという前記条件(a)について判断される。この条件(a)が肯定された場合、すなわち、第2電動機回転加速度AM2が回転加速度判定値N1を超えている場合にはSA5に移る。一方、この条件(a)が否定された場合にはSA4に移る。
SA4においては、第2電動機M2が、10000rpm程度に予め設定された高回転速度判定値LMT1を超えた回転速度NM2で回転しているか否か、すなわち、第2電動機M2が前記高速回転状態であるか否かが判定される。この判定が肯定的である場合、すなわち、第2電動機回転速度NM2が高回転速度判定値LMT1を超えている場合にはSA5に移る。一方、この判定が否定的である場合にはSA6に移る。なお、SA2乃至SA4は回転状態判定手段92に対応する。
回転抑制手段94に対応するSA5においては、エンジン8の出力軸に連結された第3電動機M3が発電機としてつまりエンジン8の回転負荷として機能して、第3電動機M3によりエンジン回転速度NEがエンジン回転速度制限値LMTE以下に抑制される。すなわち、第3電動機M3により前記エンジン回転抑制制御が実行される。換言すると、第3電動機M3によりエンジン回転速度NEを低下させるエンジン回転速度低下制御が実行される。
更にSA5においては、上記エンジン回転抑制制御に替えてまたはそれと併せて、第1電動機回転速度NM1を上昇させ望ましくは第1電動機回転速度NM1を第2電動機回転速度NM2に近付ける前記差動制限制御が実行される。
SA6においては、シフトポジションPSHが「D」ポジションや「M」ポジションなどの前進ポジションから「N」ポジションに操作された場合に実行される通常のエンジン回転速度制御が実行される。例えば、エンジン8のフューエルカットが実施される。
SA7においては、その他の制御、例えば、自動変速部20の変速制御などが実行される。
本実施例には次のような効果がある。
本実施例によれば、電子制御装置80の回転状態判定手段92は、前記エンジン連動回転要素が高回転速度判定値LMT1を超えて高速回転している前記高速回転状態、または高回転速度判定値LMT1を超えた高速回転に至ることが予測される前記高速回転予測状態であるか否かを判定する。そして、回転抑制手段94は、上記エンジン連動回転要素が上記高速回転状態または高速回転予測状態である場合に、エンジン回転速度NEをエンジン回転速度制限値LMTE以下に抑制する前記エンジン回転抑制制御を実行する。従って、エンジン回転速度NE上昇により上記第2電動機M2などのエンジン連動回転要素が高速回転してしまうことが回避され、そのエンジン連動回転要素の高速回転による耐久性低下が抑えられる。
また、上記エンジン連動回転要素の1つである第2電動機M2が高速回転してしまうことが回避された場合には、その第2電動機M2と同期して回転する他のエンジン連動回転要素、例えば、第1クラッチC1、第2クラッチC2などが高速回転してしまうことも併せて回避され、それらのエンジン連動回転要素の高速回転による耐久性低下が抑えられる。
また本実施例によれば、回転抑制手段94は、例えば、エンジン8の出力軸に連結された第3電動機M3をエンジン8の回転負荷として機能させ第3電動機M3によってエンジン回転速度NEを抑制する。そのような場合には、第3電動機M3の電流を制御することにより容易にエンジン回転速度NEを抑制することが可能である。
また本実施例によれば、前記エンジン回転抑制制御におけるエンジン回転速度制限値LMTEは一定値であってもよいが、望ましくは回転抑制手段94が、図10に示されるように前記エンジン連動回転要素の回転速度NREが高いほどエンジン回転速度制限値LMTEを低く設定変更する。その図10に示されるようになされた場合には、上記第2電動機M2などのエンジン連動回転要素の高速回転による耐久性低下を生じさせる可能性が高いほどそのエンジン連動回転要素の回転速度NREはより強く抑制されることになり、そのエンジン連動回転要素の高速回転による耐久性低下がより適切に抑えられる。
また本実施例によれば、図11のフローチャートのSA5においては、前記エンジン回転抑制制御に替えてまたはそれと併せて、第1電動機回転速度NM1を上昇させ望ましくは第1電動機回転速度NM1を第2電動機回転速度NM2に近付けて動力分配機構16の差動作用により第2電動機回転速度NM2を低下させる前記差動制限制御が実行されるので、第2電動機M2が高速回転してしまうことが動力分配機構16の差動作用によって回避され、第2電動機M2の高速回転による耐久性低下が抑えられる。更に、上記差動制限制御において第1電動機回転速度NM1が第2電動機回転速度NM2に近付けられた場合には、第1電動機M1に連結された差動部サンギヤS0と第2電動機M2に連結された差動部リングギヤR0との間の相対回転速度が小さくなり、前記エンジン連動回転要素の1つである差動部遊星歯車P0の高速回転による耐久性低下が抑えられる。
また本実施例によれば、例えば、回転抑制手段94は、エンジン8への燃料供給の遮断つまりフューエルカットをすることと、電子スロットル弁62を予め設定された上限スロットル弁開度まで開かないようにすることすなわちスロットル弁開度θTHを制限することとの何れか単独で或いは併用によってエンジン回転速度NEを抑制する。そのようにしてエンジン回転速度NEが抑制された場合には、エンジン8が第2電動機M2などのエンジン連動回転要素の回転速度NREの上昇に対する回転負荷にされてエンジン連動回転要素回転速度NREが抑制され、上記エンジン連動回転要素の高速回転による耐久性低下が抑えられる。
また本実施例によれば、電子制御装置80の動力伝達状態判定手段90は、エンジントルクTEに対抗してエンジン8にかかる走行負荷が急速に低下したか否か、つまり、前記走行負荷低下率が所定の走行負荷低下率判定値を超えて上記走行負荷が低下したか否かを判定する。そして、動力伝達状態判定手段90が肯定的な判定をした場合において、回転抑制手段94は前記エンジン回転抑制制御を実行する。従って、常にエンジン連動回転要素回転速度NREが監視されていることを要せず、電子制御装置80の制御負荷を軽減することが可能である。
また本実施例によれば、動力伝達状態判定手段90は上記走行負荷についての判定に替えて、自動変速部20にて動力伝達が遮断され或いは自動変速部20の前記変速比勾配が所定の変速比勾配判定値以上で変速比γが増大したか否かを判定してもよく、そのようにした場合には、動力伝達状態判定手段90はその判定を簡単に行うことができる。
また本実施例によれば、回転状態判定手段92は、(a)エンジン連動回転要素回転加速度AREが回転加速度判定値N1を超えて前記エンジン連動回転要素の回転速度NREが上昇していること、(b)上記エンジン連動回転要素が高速回転予測判定値LMT2を超えた回転速度NREで回転していること、という2つの条件(a),(b)の両方ともが肯定的である場合にはそのエンジン連動回転要素が前記高速回転予測状態であると判断する。従って、第2電動機回転速度NM2などのエンジン連動回転要素回転速度NREを検出することにより、そのエンジン連動回転要素が高回転速度判定値LMT1を超えた高速回転に至ることを容易に予測することが可能である。
また本実施例によれば、回転状態判定手段92は、図9のようにエンジン連動回転要素回転速度NREに応じてその回転速度NREが高いほど回転加速度判定値N1を小さく設定変更するようにしてもよく、そのようにした場合には、上記エンジン連動回転要素が高回転速度判定値LMT1を超えた高速回転に至るか否かを一層正確に予測することが可能である。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
例えば、前述の実施例において、例えば回転抑制手段94は第3電動機M3をエンジン8の回転負荷として機能させてエンジン回転速度NEを抑制するが、その場合、上記エンジン8の回転負荷を予め設定された負荷としてもよいし、エンジン回転速度NEに応じてフィードバック制御により変化させてもよい。
また前述の実施例では、前記エンジン連動回転要素の具体例として第2電動機M2を用い、その第2電動機M2の回転速度NM2が急速に上昇して高速回転となることを抑制する制御作動について説明されているが、上記エンジン連動回転要素は第2電動機M2に限られるわけではない。例えば、第1クラッチC1や第2クラッチC2や差動部遊星歯車P0であってもよい。そのように第2電動機M2以外の上記エンジン連動回転要素に前述の実施例に示された制御作動が適用される場合には、その制御作動における高回転速度判定値LMT1、高速回転予測判定値LMT2、回転加速度判定値N1、エンジン回転速度制限値LMTEなどの種々の判定値、制限値等の閾値は第1クラッチC1、第2クラッチC2、差動部遊星歯車P0などの具体的要素に応じて変更される。例えば、上記エンジン連動回転要素の1つである第1クラッチC1または第2クラッチC2に前述の実施例に示された制御作動が適用される場合には、高回転速度判定値LMT1は8000rpm程度に設定され、高速回転予測判定値LMT2は6000rpm程度に設定される。また、差動部遊星歯車P0に前述の実施例に示された制御作動が適用される場合には、例えば、高回転速度判定値LMT1は12000rpm程度に設定され、高速回転予測判定値LMT2は10000rpm程度に設定される。
前述の実施例に示された制御作動が例えば上記エンジン連動回転要素の1つである第1クラッチC1または第2クラッチC2に適用された場合にはそのフローチャートは図12に示されるようになり、差動部遊星歯車P0に適用された場合にはそのフローチャートは図13に示されるようになる。図12は、上記エンジン連動回転要素としての具体的要素を第2電動機M2とした図11とは、その具体的要素を第1クラッチC1または第2クラッチC2とした点が異なり、図13は上記具体的要素を差動部遊星歯車P0とした点が異なる。そのため図12及び図13は、SA2、SA3、SA4の内容が図11と異なる。
図11に対する相違点を主として図12の説明をすると、図12のSA2においては、具体的にはクラッチC1またはC2が高速回転予測判定値LMT2(例えば、6000rpm)を超えた回転速度で回転していることという前記条件(b)について判断される。図12のSA3においては、具体的にはクラッチC1またはC2の回転速度NCの単位時間当たりの上昇量である回転加速度AC(以下、「クラッチ回転加速度AC」という)が回転加速度判定値N1を超えてそのクラッチC1またはC2の回転速度NC(以下、「クラッチ回転速度NC」という)が上昇していることという前記条件(a)について判断される。図12のSA4においては、クラッチC1またはC2が高回転速度判定値LMT1(例えば、8000rpm)を超えた回転速度で回転しているか否か、すなわち、クラッチC1またはC2が前記高速回転状態であるか否かが判定される。
次に図11に対する相違点を主として図13の説明をすると、図13のSA2においては、具体的には差動部遊星歯車P0が高速回転予測判定値LMT2(例えば、10000rpm)を超えた回転速度で回転していることという前記条件(b)について判断される。図13のSA3においては、具体的には差動部遊星歯車P0の回転速度NP0の単位時間当たりの上昇量である回転加速度AP0(以下、「遊星歯車回転加速度AP0」という)が回転加速度判定値N1を超えてその差動部遊星歯車P0の回転速度NP0(以下、「遊星歯車回転速度NP0」という)が上昇していることという前記条件(a)について判断される。図13のSA4においては、差動部遊星歯車P0が高回転速度判定値LMT1(例えば、8000rpm)を超えた回転速度で回転しているか否か、すなわち、差動部遊星歯車P0が前記高速回転状態であるか否かが判定される。なお、遊星歯車回転速度NP0は直接検出されなくても、第1電動機回転速度NM1、第2電動機回転速度NM2、エンジン回転速度NEがそれぞれ検出されるのでそれらから算出できる。
このように例えば、油圧式の係合装置である第1クラッチC1または第2クラッチC2に前述の実施例に示された制御作動が適用された場合には、回転抑制手段94が前記エンジン回転抑制制御を実行することによって、前記エンジン連動回転要素である第1クラッチC1または第2クラッチC2が高速回転してしまうことが回避され、その第1クラッチC1または第2クラッチC2の高速回転による耐久性低下が抑えられる。或いは、差動部遊星歯車P0に上記制御作動が適用された場合には、上記と同様に、回転抑制手段94が上記エンジン回転抑制制御を実行することによって、差動部遊星歯車P0が高速回転してしまうことが回避され、その差動部遊星歯車P0の高速回転による耐久性低下が抑えられる。
前述の実施例では例えば、回転抑制手段94は、エンジン8のフューエルカットをすること、スロットル弁開度θTHを制限すること等によってエンジン回転速度NEを抑制するが、エンジン回転速度NEを抑制するために実施されるエンジン制御であるエンジン出力制限制御はこれらに限定されるわけではない。例えば、点火タイミングを変更したり点火しなかったりしてもよい。
また、前述の実施例において、電子制御装置80は動力伝達状態判定手段90を含んでいるが、動力伝達状態判定手段90が無くても本発明は適用される。
また、前述の実施例において、回転抑制手段94は、前記エンジン回転抑制制御を実行するに際し、そのエンジン回転抑制制御に替えて又はそれと併せて第1電動機M1により前記差動制限制御を実行するが、この差動制限制御の実行が必須というわけではない。
また、前述の実施例の自動変速部20は、その変速比γを変化させることができる有段の自動変速機であるが、変速機能を有さないことも考え得る。例えば、第1クラッチC1または第2クラッチC2だけを有し動力伝達の遮断可能な機械式動力伝達部として機能する場合が考え得る。
また、前述の実施例では、第2電動機M2は伝達部材18に直接連結されているが、第2電動機M2の連結位置はそれに限定されず、エンジン8又は伝達部材18から駆動輪34までの間の動力伝達経路に直接的或いは変速機、遊星歯車装置、係合装置等を介して間接的に連結されていてもよい。
また、前述の実施例では、第1電動機M1の運転状態が制御されることにより、差動部11はその変速比γ0が最小値γ0minから最大値γ0maxまで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能するものであったが、たとえば差動部11の変速比γ0を連続的ではなく差動作用を利用して敢えて段階的に変化させるものであっても本発明は適用することができる。
また、前述の実施例において、差動部11は、動力分配機構16に設けられて差動作用を制限することにより少なくとも前進2段の有段変速機としても作動させられる差動制限装置としての油圧式摩擦係合装置を備えたものであってもよい。
また、前述の実施例の動力分配機構16では、差動部キャリヤCA0がエンジン8及び第3電動機M3に連結され、差動部サンギヤS0が第1電動機M1に連結され、差動部リングギヤR0が伝達部材18に連結されていたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン8及び第3電動機M3、第1電動機M1、伝達部材18は、差動部遊星歯車装置24の3要素CA0、S0、R0のうちのいずれと連結されていても差し支えない。
また、前述の実施例では、エンジン8は入力軸14と直結されていたが、たとえばギヤ、ベルト等を介して作動的に連結されておればよく、共通の軸心上に配置される必要もない。
また、前述の実施例では、第1電動機M1、第2電動機M2及び第3電動機M3は、入力軸14に同心に配置されて第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され第2電動機M2は伝達部材18に連結され第3電動機M3は差動部キャリヤCA0に連結されていたが、必ずしもそのように同心に配置される必要はなく、たとえばギヤ、ベルト、減速機等を介して作動的に第1電動機M1は差動部サンギヤS0に連結され、第2電動機M2は伝達部材18に連結され、第3電動機M3は差動部キャリヤCA0に連結されていてもよい。
また、前述の実施例では、第1クラッチC1や第2クラッチC2などの油圧式摩擦係合装置は、パウダー(磁紛)クラッチ、電磁クラッチ、噛合型のドグクラッチなどの磁紛式、電磁式、機械式係合装置から構成されていてもよい。たとえば電磁クラッチであるような場合には、油圧制御回路70は油路を切り換える弁装置ではなく電磁クラッチへの電気的な指令信号回路を切り換えるスイッチング装置や電磁切換装置等により構成される。
また、前述の実施例では、自動変速部20は伝達部材18を介して差動部11と直列に連結されていたが、入力軸14と平行にカウンタ軸が設けられてそのカウンタ軸上に同心に自動変速部20が配列されていてもよい。この場合には、差動部11と自動変速部20とは、たとえば伝達部材18としてカウンタギヤ対、スプロケットおよびチェーンで構成される1組の伝達部材などを介して動力伝達可能に連結される。
また、前述の実施例の差動機構として動力分配機構16は、たとえばエンジン8によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車が第1電動機M1および伝達部材18(第2電動機M2)に作動的に連結された差動歯車装置であってもよい。
また、前述の実施例ではエンジン8と差動部11とが直接連結されているが、必ずしも直接連結される必要はなく、エンジン8と差動部11との間にクラッチを介して連結されていてもよい。
また、前述の実施例では、差動部11と自動変速部20とが直列接続されたような構成となっているが、特にこのような構成に限定されず、動力伝達装置10全体として電気式差動を行う機能と、動力伝達装置10全体として電気式差動による変速とは異なる原理で変速を行う機能とを備えた構成であれば本発明は適用可能であり、機械的に独立している必要はない。また、これらの配設位置や配設順序も特に限定されない。要するに、自動変速部20は、エンジン8から駆動輪34への動力伝達経路の一部を構成するように設けられておればよい。
また、前述の実施例の動力分配機構16は、1組の遊星歯車装置から構成されていたが2以上の遊星歯車装置から構成されて、非差動状態(定変速状態)では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。また、その遊星歯車装置はシングルピニオン型に限られたものではなくダブルピニオン型の遊星歯車装置であってもよい。また、このような2以上の遊星歯車装置から構成された場合においても、これらの遊星歯車装置の各回転要素にエンジン8、第1および第2電動機M1、M2、伝達部材18、構成によっては出力軸22が動力伝達可能に連結され、さらに遊星歯車装置の各回転要素に接続されたクラッチCおよびブレーキBの制御により有段変速と無段変速とが切り換えられるような構成であっも構わない。
また、前述の実施例のシフト操作装置50は、複数種類のシフトポジションPSHを選択するために操作されるシフトレバー52を備えていたが、そのシフトレバー52に替えて、たとえば押しボタン式のスイッチやスライド式スイッチ等の複数種類のシフトポジションPSHを選択可能なスイッチ、或いは手動操作に因らず運転者の音声に反応して複数種類のシフトポジションPSHを切り換えられる装置や足の操作により複数種類のシフトポジションPSHが切り換えられる装置等であってもよい。また、シフトレバー52が「M」ポジションに操作されることにより、変速レンジが設定されるものであったが、ギヤ段が設定されることすなわち各変速レンジの最高速ギヤ段がギヤ段として設定されてもよい。この場合、自動変速部20ではギヤ段が切り換えられて変速が実行される。たとえば、シフトレバー52が「M」ポジションにおけるアップシフト位置「+」またはダウンシフト位置「−」へ手動操作されると、自動変速部20では第1速ギヤ段乃至第4速ギヤ段のいずれかがシフトレバー52の操作に応じて設定される。
また、動力伝達装置10において第1電動機M1と第2回転要素RE2とは直結されており、第2電動機M2と第3回転要素RE3とは直結されており、第3電動機M3と第1回転要素RE1とは直結されているが、第1電動機M1が第2回転要素RE2にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第2電動機M2が第3回転要素RE3にクラッチ等の係合要素を介して連結され、第3電動機M3が第1回転要素RE1にクラッチ等の係合要素を介して連結されていてもよい。
また、前述の実施例において、第2電動機M2はエンジン8から駆動輪34までの動力伝達経路の一部を構成する伝達部材18に連結されているが、第2電動機M2がその動力伝達経路に連結されていることに加え、クラッチ等の係合要素を介して動力分配機構16にも連結可能とされており、第1電動機M1の代わりに第2電動機M2によって動力分配機構16の差動状態を制御可能とする動力伝達装置10の構成であってもよい。
また、自動変速部20は有段の自動変速機として機能する変速部であるが、無段のCVTであってもよいし、手動変速機として機能する変速部であってもよい。