以下添付図面に従って本発明に係るインクジェット記録方法及び装置並びにインクセットの好ましい実施形態について説明する。
まず、本発明に適したインク組成物(以下、単にインクと称する)について説明する。
<インク>
本発明のインクジェット用インクは、フルカラーの画像形成に用いることができる。フルカラー画像を形成するために、マゼンタ色調インク、シアン色調インク、及びイエロー色調インクを用いることができ、また、色調を整えるために、更にブラック色調インクを用いてもよい。また、イエロー、マゼンタ、シアン色調インク以外のレッド、グリーン、ブルー、白色インクやいわゆる印刷分野における特色インク等を用いることができる。
本発明のインクジェット用インクとしては、水系インクが好ましく、特に水分散性顔料を着色剤として用いることが好ましい。
以下、インク成分について詳述する。
<水分散性顔料>
水分散性顔料の具体例として、下記(1)〜(4)の顔料を挙げることができる。
(1)カプセル化顔料、即ち、ポリマー微粒子に顔料を含有させてなるポリマーエマルジョンであり、より詳しくは、親水性水不溶性の樹脂で顔料を被覆し顔料表面の樹脂層にて親水化することで顔料を水に分散したものである。
(2)自己分散顔料、即ち、表面に少なくとも1種の親水基を有し、分散剤の不存在下で水分散性及び水溶性の少なくともいずれかを示す顔料、より詳しくは、主にカーボンブラックなどを表面酸化処理して親水化し、顔料単体が水に分散するようにしたものである。
(3)樹脂分散顔料、即ち、質量平均分子量50,000以下の水溶性高分子化合物により分散された顔料
(4)界面活性剤分散顔料、即ち、界面活性剤により分散された顔料。
好ましい例として、(1)カプセル化顔料と(2)自己分散顔料を挙げることができ、特に好ましい例として、(1)カプセル化顔料を挙げることができる。
マイクロカプセル化顔料について詳述する。マイクロカプセル化顔料の樹脂は、限定されるものではないが、水と水溶性有機の混合溶媒中で自己分散能または溶解能を有し、かつアニオン性基(酸性)を有する高分子の化合物であるのが好ましい。この樹脂は、通常、数平均分子量が1、000〜100、000範囲程度のものが好ましく、3、000〜50、000範囲程度のものが特に好ましい。また、この樹脂は有機溶剤に溶解して溶液となるものが好ましい。樹脂の数平均分子量がこの範囲であることにより、顔料における被覆膜として、またはインク組成物における塗膜としての機能を十分に発揮することができる。樹脂は、アルカリ金属や有機アミンの塩の形で使用されることが好ましい。
マイクロカプセル化顔料の樹脂の具体例としては、熱可塑性、熱硬化性あるいは変性のアクリル系、エポキシ系、ポリウレタン系、ポリエーテル系、ポリアミド系、不飽和ポリエステル系、フェノール系、シリコーン系、フッ素系高分子化合物、塩化ビニル、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニル系、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等のポリエステル系、メラミン樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、アミノアルキド共縮合樹脂、ユリア樹脂、尿素樹脂等のアミノ系の材料、あるいはそれらの共重合体または混合物などのアニオン性基を有する材料などが挙げられる。
上記樹脂の中、アニオン性アクリル系樹脂は、例えば、アニオン性基を有するアクリルモノマー(以下、アニオン性基含有アクリルモノマーという)と、更に必要に応じてこれらのモノマーと共重合し得る他のモノマーを溶媒中で重合して得られる。アニオン性基含有アクリルモノマーとしては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、ホスホン基からなる群から選ばれる1個以上のアニオン性基を有するアクリルモノマーが挙げられ、これらの中でもカルボキシル基を有するアクリルモノマーが特に好ましい。
カルボキシキル基を有するアクリルモノマーの具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、フマル酸等が挙げられる。これらの中でもアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。
マイクロカプセル化顔料は、上記した成分を用いて、従来の物理的、化学的方法によって製造することができる。本発明の好ましい態様によれば、特開平9−151342号、特開平10−140065号、特開平11−209672号、特開平11−172180号、特開平10−25440号、または特開平11−43636号に開示されている方法によって製造することができる。
本発明において、自己分散型顔料も好ましい例として挙げることができる。自己分散型顔料とは、顔料表面に多数の親水性官能基および/またはその塩(以降、分散性付与基という)を、直接またはアルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合させたもので、分散剤なしに水性媒体中に分散可能な顔料である。ここで「分散剤なしに水性媒体中に分散」とは、顔料を分散させるための分散剤を用いなくても水性媒体中に分散可能な状態をいう。
自己分散型顔料を着色剤として含有するインクは、通常の顔料を分散させるために含有させる前述のような分散剤を含む必要が無いため、分散剤に起因する消泡性の低下による発泡がほとんど無く吐出安定性に優れるインクが調製しやすい。
自己分散型顔料の表面に結合される分散性付与基としては、−COOH、−CO、−OH、−SO3H、−PO3H2及び第4級アンモニウム並びにそれらの塩が例示でき、これらは、原料となる顔料に物理的処理または化学的処理を施すことで、分散性付与基または分散性付与基を有する活性種を顔料の表面に結合(グラフト)させることによって製造される。前記物理的処理としては、例えば真空プラズマ処理等が例示できる。また前記化学的処理としては、例えば水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法や、p−アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシル基を結合させる方法等が例示できる。
本発明においては、次亜ハロゲン酸及び/または次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、またはオゾンによる酸化処理により表面処理される自己分散型顔料を好ましい例として挙げることができる。自己分散型顔料としては市販品を利用することも可能であり、マイクロジェットCW−1(商品名;オリヱント化学工業(株)製)、CAB−O−JET200、CAB−O−JET300(以上商品名;キャボット社製)等が例示できる。
<顔料>
本発明において用いられる顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機顔料、無機顔料のいずれであってもよい。
前記有機顔料としては、例えば、アゾ顔料、多環式顔料、染料キレート、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、多環式顔料などがより好ましい。前記アゾ顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料、などが挙げられる。前記多環式顔料としては、例えば、フタロシアニン顔料、ぺリレン顔料、ぺリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、インジゴ顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料、などが挙げられる。前記染料キレートとしては、例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート、などが挙げられる。
前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、バリウムイエロー、カドミウムレッド、クロムイエロー、カーボンブラック、などが挙げられる。これらの中でも、カーボンブラックが特に好ましい。なお、前記カーボンブラックとしては、例えば、コンタクト法、ファーネス法、サーマル法などの公知の方法によって製造されたものが挙げられる。
黒色系のものとしては、カーボンブラックの具体例は、Raven7000,Raven5750,Raven5250,Raven5000 ULTRAII,Raven 3500,Raven2000,Raven1500,Raven1250,Raven1200,Raven1190 ULTRAII,Raven1170,Raven1255,Raven1080,Raven1060,Raven700(以上コロンビアン・カーボン社製)、Regal400R,Regal330R,Regal660R,Mogul L,Black Pearls L,Monarch 700,Monarch 800,Monarch 880,Monarch 900,Monarch 1000,Monarch 1100,Monarch 1300,Monarch 1400(以上キャボット社製)、Color Black FW1, Color Black FW2,Color Black FW2V,Color Black 18,Color Black FW200,Color Black S150,Color Black S160,Color Black S170,Printex35,Printex U,Printex V,Printex140U,Printex140V,Special Black 6,Special Black 5,Special Black 4A,Special Black4(以上デグッサ社製)、No.25,No.33,No.40,No.45,No.47,No.52,No.900,No.2200B,No.2300,MCF−88,MA600,MA7,MA8,MA100(以上三菱化学社製)等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
本発明において使用可能な有機顔料としては、イエローインクの顔料としては、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、14C、16、17、24、34、35、37、42、53、55、65、73、74、75、81、83、93、95、97、98、100、101、104、108、109、110、114、117、120、128、129、138、150、151、153、154、155、180等が挙げられる。
また、マゼンタインクの顔料としては、C.I.ピグメントレッド1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、39、40、48(Ca)、48(Mn)、48:2、48:3、48:4、49、49:1、50、51、52、52:2、53:1、53、55、57(Ca)、57:1、60、60:1、63:1、63:2、64、64:1、81、83、87、88、89、90、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)、112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、163、166、168、170、172、177、178、179、184、185、190、193、202、209、219、269等、およびC.I.ピグメントバイオレット19が挙げられ、特に、C.I.ピグメントレッド122が好ましい。
また、シアンインクの顔料としては、C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、16、17:1、22、25、56、60、C.I.バットブルー4、60、63等が挙げられ、特に、C.I.ピグメントブルー15:3が好ましい。
上記の顔料は、単独種で使用してもよく、また上記した各群内もしくは各群間より複数種選択してこれらを組み合わせて使用してもよい。
<分散剤>
本発明において、カプセル化顔料あるいは樹脂分散顔料で用いられる分散剤としては、ノニオン性化合物、アニオン性化合物、カチオン性化合物、両性化合物等が使用できる。
例えば、α,β−エチレン性不飽和基を有するモノマーの共重合体等が挙げられる。α,β−エチレン性不飽和基を有するモノマーの例としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、酢酸ビニル、酢酸アリル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、クロトン酸エステル、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、フマル酸、フマル酸モノエステル、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、スルホン化ビニルナフタレン、ビニルアルコール、アクリルアミド、メタクリロキシエチルホスフェート、ビスメタクリロキシエチルホスフェート、メタクリロキシエチルフェニルアシドホスフェート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等のスチレン誘導体、ビニルシクロヘキサン、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、芳香族基を置換してもよいアクリル酸アルキルエステル、アクリル酸フェニルエステル、芳香族基を置換してもよいメタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸フェニルエステル、メタクリル酸シクロアルキルエステル、クロトン酸アルキルエステル、イタコン酸ジアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル、ビニルアルコール、並びに上記化合物の誘導体等が挙げられる。
上記α,β−エチレン性不飽和基を有するモノマーの単独若しくは複数を共重合して得られる共重合体が高分子分散剤として使用される。具体的には、アクリル酸アルキルエステル−アクリル酸共重合体、メタクリル酸アルキルエステル−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸アルキルエステル−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸フェニルエステル−メタクリル酸、スチレン−メタクリル酸シクロヘキシルエステル−メタクリル酸共重合体、スチレン−スチレンスルホン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−メタクリル酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、ポリスチレン、ポリエステル、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
本発明の分散剤は、重量平均分子量で2,000〜60,000のものが好ましい。本発明の分散剤は、顔料に対する添加量比率が、質量比で10%以上100%以下の範囲が好ましい。分散剤添加量としては、20%以上70%以下がより好ましく、更に好ましくは、40%以上50%以下である。
<水溶性溶媒>
本発明に用いられる水溶性溶媒は、好ましくはSP値が28以下の水溶性高沸点有機溶媒である。このような水溶性高沸点有機溶媒には、湿潤剤及び浸透剤が含まれる。
ジエチレングリコールモノエチルエーテル(22.4)
ジエチレングリコールモノブチルエーテル(21.5)
トリエチレングリコールモノブチルエーテル(21.1)
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(21.3)
ジプロピレングリコール(27.2)
1,2ヘキサンシ゛オール (27.4)
また、SP値が低い溶剤のうち、下記の構造が含まれていることが特徴である。
上記の化合物が全有機溶剤中に占める割合は、10%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、更に50%以上が好ましい。
また本発明においては、SP値が28以下の溶剤比率が90%以下にならない範囲で他の溶剤を併用しても良い。
併用する水溶性有機溶媒の例として、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ジプロピレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、4−メチル−1,2−ペンタンジオール等のアルカンジオール(多価アルコール類);ヴルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシトール、(ソルビット)、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオース等の糖類;糖アルコール類;ピアルロン酸類;尿素類等のいわゆる固体湿潤剤;エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの炭素数1〜4のアルキルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、1−メチル−1−メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ−t−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−n−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ−iso−プロピルエーテルなどのグリコールエーテル類;2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルスルポキシド、ソルビット、ソルビタン、アセチン、ジアセチン、トリアセチン、スルホラン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
乾燥防止剤や湿潤剤の目的としては,多価アルコール類が有用であり、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、テトラエチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、ポリエチレングリコール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
浸透剤の目的としては、ポリオール化合物が好ましく、脂肪族ジオールとしては、例えば、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジメチル−2,4−ペンタンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、5−ヘキセン−1,2−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールなどが挙げられる。これらの中でも、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールが好ましい例として挙げることができる。
本発明に使用される水溶性溶媒は、単独で使用しても、2種類以上混合して使用しても構わない。水溶性有機溶媒の含有量としては、1質量%以上60質量%以下、好ましくは、5質量%以上40質量%以下、より好ましくは10質量%以上30質量%以下で使用される。
本発明に使用される水の添加量は特に制限は無いが、好ましくは、10質量%以上99質量%以下であり、より好ましくは、30質量%以上80質量%以下である。更に好ましくは、50質量%以上70質量%以下である。
<界面活性剤>
表面張力調整剤としてはノニオン、カチオン、アニオン、ベタイン界面活性剤が挙げられる。表面張力の調整剤の添加量は、インクジェットで良好に打滴するために、本発明のインクの表面張力を20〜60mN/mに調整する量が好ましく、より好ましくは20〜45mN/m、更に好ましくは25〜40mN/mに調整できる量である。
本発明における界面活性剤としては、分子内に親水部と疎水部を合わせ持つ構造を有する化合物等が有効に使用することができ、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれも使用することができる。更には、上記高分子物質(高分子分散剤)を界面活性剤としても使用することもできる。
アニオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルポコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテ硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸ナトリウム、ジアルキルスルポコハク酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、t−オクチルフェノキシエトキシポリエトキシエチル硫酸ナトリウム塩等が挙げられ、これらの1種、又は2種以上を選択することができる。
ノニオン性界面活性剤の具体例としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー、t−オクチルフェノキシエチルポリエトキシエタノール、ノニルフェノキシエチルポリエトキシエタノール等が挙げられ、これらの1種、又は2種以上を選択することができる。
カチオン性界面活性剤としては、テトラアルキルアンモニウム塩、アルキルアミン塩、ベンザルコニウム塩、アルキルピリジウム塩、イミダゾリウム塩等が挙げられ、具体的には、例えば、ジヒドロキシエチルステアリルアミン、2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、ステアラミドメチルピリジウムクロライド等が挙げられる。
本発明におけるインクジェット用液体組成物に添加する界面活性剤の量は、特に限定されるものではないが、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5〜10質量%、更に好ましくは1〜3質量%である。
<その他成分>
その他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、紫外線吸収剤、褪色防止剤、防黴剤、pH調整剤、防錆剤、酸化防止剤、乳化安定剤、防腐剤、消泡剤、粘度調整剤、分散安定剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、ニッケル錯塩系紫外線吸収剤、などが挙げられる。
褪色防止剤としては、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。有機の褪色防止剤としてはハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類などがあり、金属錯体としてはニッケル錯体、亜鉛錯体などがある。
防黴剤としてはデヒドロ酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ナトリウムピリジンチオン−1−オキシド、p−ヒドロキシ安息香酸エチルエステル、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、ソルビン酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウムなどが挙げられる。これらはインク中に0.02〜1.00質量%使用するのが好ましい。
pH調整剤としては、調合される記録用インクに悪影響を及ぼさずにpHを所望の値に調整できるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、アルコールアミン類(例えば、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−エチル−1,3プロパンジオールなど)、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)、アンモニウム水酸化物(例えば、水酸化アンモニウム、第4級アンモニウム水酸化物)、ホスホニウム水酸化物、アルカリ金属炭酸塩などが挙げられる。
防錆剤としては、例えば、酸性亜硫酸塩、チオ硫酸ナトリウム、チオジグリコール酸アンモン、ジイソプロピルアンモニウムニトライト、四硝酸ペンタエリスリトール、ジシクロヘキシルアンモニウムニトライトなどが挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、りん系酸化防止剤などが挙げられる。
キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸ナトリウム、ウラミル二酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
<樹脂微粒子>
本発明に用いられることができる樹脂微粒子あるいはポリマーラテックスとしては、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、パラフィン系樹脂、フッ素系樹脂等を用いることができる。アクリル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂を好ましい例として挙げることができる。
樹脂微粒子の重量平均分子量は1万以上、20万以下が好ましく、より好ましくは10万以上、20万以下である。
樹脂微粒子の平均粒径は、10nm〜1μmの範囲が好ましく、10〜200nmの範囲がより好ましく、20〜100nmの範囲が更に好ましく、20〜50nmの範囲が特に好ましい。
樹脂微粒子の添加量はインクに対して、0.5〜20質量%が好ましく、3〜20質量%がより好ましく、5〜15質量%がさらに好ましい。
樹脂微粒子のガラス転移温度Tgは30℃以上であることが好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。
また、ポリマー粒子の粒径分布に関しては、特に制限は無く、広い粒径分布を持つもの、又は単分散の粒径分布を持つもの、いずれでもよい。また、単分散の粒径分布を持つポリマー微粒子を、2種以上混合して使用してもよい。
上述のインクは、下記に示す処理液と合わせてインクセットとして使用される。なお、下記に示す処理液は、インクのpH環境を変化させることで水不溶性ポリマー微粒子と乳化剤とから成る分散物のゼータ電位を変化させる処理液とで構成される例であるが、処理液はこれに限定するものではなく、インクを凝集させる凝集成分を含むものであれば良い。
[処理液]
本実施の形態に用いられる処理液のpHは1〜6であることが好ましく、2〜5であることがより好ましく、3〜5であることがさらに好ましい。また、処理液を酸性にする化合物として、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ビリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等の中から選ばれることが好ましい。これらの化合物は、1種類で使用されてもよく、2種類以上併用されてもよい。
また、処理液は、凝集効果を害しない範囲内で、その他の添加剤を含有してもよい。その他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられ、前述のインクに含まれるその他の添加剤(項目5)参照)の具体的な例に示したものが適用できる。
処理液の表面張力は15〜35mN/m、粘度は1〜100cp程度が好ましい。特に記録媒体がコート紙の場合は、表面張力15〜25mN/m、粘度1〜20cpが好ましい。また、記録媒体が非コート紙の場合は、表面張力20〜35mN/m、粘度1〜100cpが好ましい。
上記の処理液を記録媒体に付与する方法としては、たとえばノズル状のヘッドから吐出し、インクの打滴位置に対応する位置に打滴する方法がある。また、塗布ローラーを用いた塗布方式を採用し、記録媒体上のインク滴が着弾する画像領域を含む略全面に処理液を容易に付与することもできる。また、塗布方式の場合には、記録媒体上の処理液の厚みを一定にする手段を設けてもよい。例えば、エアナイフを用いる方法や、尖鋭な角を有する部材を処理剤厚みの規定量のギャップを記録媒体との間に設けて設置する方法がある。
[非反応性の固体粒子]
本発明では、記録媒体の表面に非反応性の固体粒子を付与することが必要になる。非反応性の固体粒子としては、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリル−スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン系樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン系樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン系樹脂、パラフィン系樹脂、フッ素系樹脂等を用いることができる。
非反応性の固体粒子を記録媒体に付与する方法としては、(i)処理液に予め含有させ、処理液とともに記録媒体に付与する方法、(ii)処理液の付与前に記録媒体に付与する方法、がある。
(i)の場合、固体粒子は、その平均粒径が記録媒体の平均細孔径よりも大きいものを用いる。これにより、固体粒子を記録媒体に付与した際に、固体粒子は記録媒体の細孔に入り込まず、記録媒体の表面位置で細孔を閉塞することができる。なお、固体粒子の平均粒径が大き過ぎると、インク付与後の画像膜面に固体粒子が露出して画質を損なうおそれがある。このため、固体粒子の平均粒径は、10μm以下が好ましく、3μmがより好ましい
一方、(ii)の場合、固体粒子は、イオン交換水等の液体に均等に分散させて付与することが好ましい。固体粒子を付与した後は、(処理液を付与する前に)固体粒子をその軟化点温度以上の温度、または、溶融点以上の温度で加熱する。これにより、固体粒子を軟化または溶融させることができ、固体粒子によって記録媒体の微細孔を閉塞または縮小させる効果が得られる。加熱温度は50〜150℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。
なお、(i)の場合にも、処理液を付与した後に固体粒子を加熱することが好ましい。また、(ii)の場合に、固体粒子の平均粒径を(i)の場合と同様に設定することが好ましい。
非反応性とは、凝集剤と混合しても凝集しないことを指す。(i)の場合においては、凝集剤と混合すると凝集してしまうような固体粒子は処理液中でゲル化してしまい、液状態を保てず本発明には適さない。また(ii)の場合においても、固体粒子付与後に凝集剤が付与されるため、凝集反応により固体粒子の分布に偏りが生じ、閉塞または縮小効果が不足する。
次に、本発明を実施するためのインクジェット記録装置について説明する。
[インクジェット記録装置]
図1は、第1の実施形態のインクジェット記録装置の構成を模式的に示している。第1の実施形態は、固体粒子を処理液とともに記録媒体12に付与する方式のインクジェット記録装置である。
図1に示すように、インクジェット記録装置10は主として、記録媒体12に処理液を付与する処理液付与部14と、記録媒体12上の処理液にインクを吐出して付与するインク吐出部16で構成される。
記録媒体12としては、多数の細孔を有し、処理液やインクに対して浸透性を有するものが使用され、たとえば、普通紙またはコート紙が用いられる。記録媒体12は吸着ベルト搬送部20によって搬送される。
吸着ベルト搬送部20は、一対のローラー22、22と、このローラー22、22間に巻き掛けられた無端状のベルト24から成り、一対のローラー22、22の少なくとも一方を不図示のモータ等で駆動することによって、ベルト24が周回走行される。ベルト24の上面は、少なくとも処理液付与部14の吐出面、インク吐出部16の吐出面、溶媒除去部26、画像定着部28に対向する部分が水平面(フラット面)をなすように構成される。
ベルト24は、記録媒体12の幅よりも広い幅を有しており、ベルト24の上面には多数の吸引口(不図示)が形成される。ローラー22、22に掛け渡されたベルト24の内側には不図示の吸着チャンバが設けられる。吸着チャンバは、処理液付与部14、インク吐出部16に対向する位置に設けられており、この吸着チャンバを不図示のポンプ等で吸引して負圧にすることによって、ベルト24上の記録媒体12を吸着保持することができる。
なお、縁無しプリント等を印字する場合には、ベルト24上にもインクが付着するので、ベルト24の外側の所定位置(印字領域以外の適当な位置)にベルト清掃部(不図示)が設けられる。ベルト清掃部(不図示)の構成について詳細は図示しないが、例えば、ブラシ・ロール、吸水ロール等をニップする方式、清浄エアーを吹き掛けるエアーブロー方式、或いはこれらの組み合わせなどがある。清掃用ロールをニップする方式の場合、ベルト線速度とローラー線速度を変えると清掃効果が大きい。
なお、吸着ベルト搬送部20に代えて、ローラー・ニップ搬送機構を用いる態様も考えられるが、印字領域をローラー・ニップ搬送すると、印字直後に用紙の印字面をローラーが接触するので画像が染み易いという問題がある。したがって、本例のように、印字領域では画像面を接触させない吸着ベルト搬送が好ましい。
上記の吸着ベルト搬送部20によって、記録媒体12は、給紙部(不図示)から処理液付与部14に搬送される。処理液付与部14は、ノズル状の記録ヘッド30Sを備え、この記録ヘッド30Sから記録媒体12に向けて処理液を吐出するように構成される。これにより、記録媒体12には処理液が付与されて、処理液層が形成される。
第1の実施形態では、処理液として、非反応性の固体粒子を含有したものが使用される。したがって、処理液を記録媒体12上に付与することによって、非反応性の固体粒子も同時に記録媒体12上に付与される。非反応性の固体粒子としては、その平均粒径が記録媒体の平均細孔径よりも大きいものが用いられる。このような固体粒子を記録媒体12に付与することによって、固体粒子は、記録媒体12の細孔に完全に入り込まず、記録媒体12の細孔に記録媒体12の表面位置で保持される。
なお、処理液付与部14は、ノズル状の記録ヘッド30Sから吐出する方式に限定するものではなく、塗布ローラーを用いた塗布方式を採用することもできる。塗布方式の場合、記録媒体12上のインク滴が着弾する画像領域を含む略全面に処理液を容易に付与することができる。また、塗布方式の場合には、記録媒体12上の処理液の厚みを一定にする手段を設けてもよい。例えば、エアナイフを用いる方法や、尖鋭な角を有する部材を処理剤厚みの規定量のギャップを記録媒体との間に設けて設置する方法がある。
上記の処理液付与部14で処理液が付与された記録媒体12は、乾燥装置32に送られる。乾燥装置32は、記録媒体12の上面に熱風を供給する熱風供給装置32Aと、記録媒体12の下方に配置された加熱パネル32Bとを備え、これらの熱風供給装置32A、加熱パネル32Bによって記録媒体12を加熱する。その際の加熱温度は、固体粒子の軟化点温度以上の温度または溶融点温度以上の温度が好ましい。このような温度で加熱することによって、固体粒子が軟化または溶融されるので、記録媒体12の細孔が閉塞されやすくなり、記録媒体12における処理液の浸透性を確実に低下させることができる。なお、本実施の形態では乾燥装置32を設けたが、乾燥装置32のない態様も可能である。
乾燥装置32で乾燥処理が行われた記録媒体12はインク吐出部16に送られる。インク吐出部16は、処理液が付与された記録媒体12にインクを打滴する装置であり、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンダ(M)、イエロー(Y)の各色インクに対応する記録ヘッド30K、30C、30M、30Yを備える。記録ヘッド30K、30C、30M、30Yはそれぞれ、各色インクを貯留するインク貯留部(不図示)に接続されており、このインク貯留部からインクが供給される。そして、供給されたインクを記録ヘッド30K、30C、30M、30Yから記録媒体12に向けて吐出し、記録媒体12に打滴するように構成される。これにより、記録媒体12上に各色インクが付与される。
上記の処理液用の記録ヘッド30S、及び、インク用の記録ヘッド30K、30C、30M、30Yはいずれも、記録媒体12上に形成される画像の最大記録幅(最大記録幅)に渡って多数の吐出口(ノズル)が形成されたフルラインヘッドとなっている。したがって、記録媒体12の幅方向(図1の紙面表裏方向)に短尺のシャトルヘッドを往復走査しながら記録を行うシリアル型のものに比べて、記録媒体12に対して高速に画像記録を行うことができる。もちろん、シリアル型であっても比較的高速記録が可能な方式、例えば、1回の走査で1ラインを形成するワンパス記録方式に対しても本発明は好適である。なお、本実施形態では、記録ヘッド30S、及び、記録ヘッド30K、30C、30M、30Yは全て同一構造のものが使用されるが、これに限定するものではない。
記録ヘッド30Sから記録媒体12に向かって処理液が吐出されると、記録媒体12の走行によって、処理液が付与された領域は各インク用の記録ヘッド30K、30C、30M、30Yの真下に順次移動し、各インク用の記録ヘッド30K、30C、30M、30Yからそれぞれ対応する各色インクが吐出される。
処理液付与量とインク付与量は必要に応じて調節することが好ましい。
上述したインク吐出部16でインクを打滴することによって、インクは記録媒体12上の処理液に接触して反応し、インクが凝集したインク凝集物が形成される。
インク吐出部16の後段には、溶媒除去部26が設けられる。溶媒除去部26は、各色インクが打滴された記録媒体12上に残留する溶媒成分を除去する装置であり、記録媒体12の上面に熱風を供給する熱風供給装置26Aと、記録媒体12の下方に配置された加熱パネル26Bとを備える。このインク吐出部16で乾燥することによって、記録媒体12上の溶媒が除去される。なお、インク吐出部16の構成は上記のものに限定されるものではなく、溶媒除去ローラーや加熱ローラーで除去することも可能である。
インク吐出部16の後段には画像定着部28が設けられる。画像定着部28は、記録媒体12を挟んで配置され、加熱を行う定着ローラー28A、28Bを備えており、この定着ローラー28A、28Bによって、記録媒体12上の画像が加熱されて記録媒体12に定着される。定着ローラー28A、28Bの少なくとも一方は、固体粒子の軟化点温度以上の温度または溶融点温度以上の温度に加熱することが好ましい。このような温度で定着処理を行うことによって、インク凝集物と記録媒体12との間に介在する固体粒子が軟化または溶融されるので、インク凝集物と記録媒体12との密着を高めることができる。なお、定着ローラー28A、28Bは、1個の加圧・加熱兼用ローラーと1個の加熱ローラーからなる一対のローラー対が好ましいが、これに限定されるものではない。
なお、図1では省略したが、給紙部から送り出された記録媒体12のカールを除去するデカール処理部を設けてもよい。また、長尺の記録媒体(ロール状の記録媒体)を用いる場合には記録媒体12を所定のサイズにカットするカッターを設けてもよい。
次に、上記の如く構成されたインクジェット記録装置10を用いて画像を記録するインクジェット記録方法について説明する。
吸着ベルト搬送部20によって給紙部から搬送された記録媒体12は、まず、処理液付与部14によって処理液が付与される。処理液には非反応性の固体粒子が含まれているので、処理液とともに固体粒子も記録媒体12に付与される。固体粒子はその平均粒径が記録媒体12の平均細孔径よりも大きいので、固体粒子は記録媒体12の細孔に記録媒体12の表面位置で保持される。そして、処理液は、固体粒子間に液架橋力や毛管力効果によって保持され、記録媒体12の表面には必要量の処理液が保持される。
次に記録媒体12は乾燥装置32に送られ、固体粒子の軟化点以上の温度または溶融点以上の温度に乾燥される。これにより、固体粒子は軟化または溶融するので、記録媒体12の細孔を閉塞する効果が高まる。
次に記録媒体12はインク吐出部16に送られ、インクが付与される。その際、記録媒体12の表面には必要量の処理液が保持されているので、インクは処理液に接触して速やかに凝集され、インク凝集物が生成される。これにより、インク凝集物のドット画像が形成される。
次に、記録媒体12は、溶媒除去部26に送られて乾燥される。これにより、記録媒体12に残存するインク組成物の溶媒が除去される。その際、固体粒子の軟化点または溶融点以上の温度に加熱することによって、インク凝集物と記録媒体12との間に介在する固体粒子が軟化または溶融されるので、インク凝集物と記録媒体12との密着を高めることができる。
次に本実施の形態のインクジェット記録装置の作用について図2、図3に従って説明する。図2は従来方法(すなわち固体粒子を付与しない方法)でインクを付与した際の記録媒体12の断面を模式的に示している。図2(A)は処理液が過剰な場合(または記録媒体12の浸透性が低い場合)であり、図2(B)は処理液が不足した場合(または記録媒体12の浸透性が高い場合)である。これらの図に示す記録媒体12には、多数の細孔12A、12A…が不規則に形成されており、この細孔12Aに処理液等が浸透される。
図2(A)に示すように、インクの着弾時に記録媒体12の表面に多量の処理液が存在すると、インクが速やかに凝集する反面、インク凝集物34が縮んで浮遊し、インク凝集物34が所定の位置に定着せずに画像が乱れるなどの問題が発生する。
一方、図2(B)に示すように、インクの着弾時に記録媒体12の表面の処理液が不足すると、インクの凝集反応が記録媒体12の表面でしか行われないため、凝集による画質改善効果が十分に得られない。凝集効果を十分に得るためには、凝集剤の付与量を増加する必要があるが、反応に寄与する凝集剤の割合が低下するという問題や、凝集剤全体の付与量が増えるために記録媒体12に悪影響を及ぼすおそれが発生する。
これに対して、本実施の形態では、処理液に非反応性の固体粒子を含有させ、記録媒体12に処理液を付与した後に乾燥させている。したがって、インクの打滴時は、図3に示すように、固体粒子36が記録媒体12の細孔12Aに記録媒体12の表面位置で保持されており、処理液は固体粒子36の間に液架橋力や毛管力効果によって保持され、必要量の処理液が記録媒体12の表面に保持されている。したがって、インクを打滴することによって、インクが必要量の処理液に接触して速やかに凝集するので、十分な画質改善効果を得ることができる。また、インク打滴時に記録媒体12の表面に過剰な処理液がないので、インク凝集物34が浮遊することがなく、画像の変形を防止することができる。さらに、本実施の形態は、固体粒子が記録媒体12の表面に保持されることによって、記録媒体12の表面は固体粒子によって凹凸が形成されるので、インク打滴時にインク凝集物34が縮んだ場合であっても、固体粒子36による凹凸が抵抗となり、インク凝集物34が所定の位置からずれることを防止できる。
このように本実施の形態によれば、非反応性の固体粒子36を処理液に含有させて記録媒体12に付与するようにしたので、画質低下と画像変形の両方を同時に防止することができる。
また、本実施の形態によれば、処理液を過剰に付与する必要がないので、カール・コックリングが発生することを防止することができる。
次に第2の実施形態のインクジェット記録装置について図4に従って説明する。図4は、第2の実施形態のインクジェット記録装置40の構成を模式的に示す図であり、図1に示した第1のインクジェット記録装置10と同様の構成のものは同じ符号を付して、その説明を省略する。
図4に示すように、第2の実施形態のインクジェット記録装置40は、図1に示した第1の実施形態のインクジェット記録装置10と比較して、処理液付与部46の前段に固体粒子付与部42及び加熱装置44を設けた点と、処理液付与部46で付与する処理液に固体粒子を含有しない点で異なっている。
すなわち、第2の実施形態のインクジェット記録装置40は、記録媒体12の走行方向の上流側から順に、固体粒子付与部42、加熱装置44、処理液付与部46、乾燥装置32、インク吐出部16、溶媒除去部26、画像定着部28が設けられる。
固体粒子付与部42は、ノズル状の記録ヘッド30Tを備え、この記録ヘッド30Tから記録媒体12に向けて、非反応性の固体粒子を含有する液(以下、固体粒子液)を吐出するように構成される。固体粒子の平均粒径は特に限定するものではないが、記録媒体12の平均細孔径よりも大きいものが好ましい。なお、固体粒子付与部42は、ノズル状の記録ヘッド30Tから吐出する方式に限定するものではなく、塗布ローラーを用いた塗布方式を採用することもできる。塗布方式の場合、記録媒体12上の処理液が付与される領域を含む略全面に固体粒子を容易に付与することができる。また、塗布方式の場合には、記録媒体12上の固体粒子液の厚みを一定にする手段を設けてもよい。例えば、エアナイフを用いる方法や、尖鋭な角を有する部材を厚みの規定量のギャップを記録媒体12との間に設けて設置する方法がある。
加熱装置44は、記録媒体12上に供給された固体粒子液を加熱する装置であり、記録媒体12の上面に熱風を供給する熱風供給装置44Aと、記録媒体12の下方に配置された加熱パネル44Bとを備える。加熱装置44は、固体粒子の軟化点温度以上の温度または溶融点以上の温度に加熱する。これにより、固体粒子が軟化または溶融され、記録媒体12の細孔が固体粒子によって確実に閉塞される。
処理液付与部46は、固体粒子を含有しない処理液を記録媒体に付与する。処理液付与部46の構成は第1の実施形態の処理液付与部14と同様に構成される。
なお、第2の実施形態において、処理液の乾燥装置32の設置は任意であり、処理液の乾燥装置32がない態様も可能である。
上記の如く構成された第2の実施形態では、まず、記録媒体12に固体粒子が付与される。次に、加熱装置42によって記録媒体12上の固体粒子が加熱され、軟化または溶融される。これにより、図5に示すように、記録媒体12の細孔が固体粒子によって閉塞される。
次に記録媒体12は処理液付与部46に送られ、処理液が付与される。その際、記録媒体12の細孔が閉塞されているので、処理液は、記録媒体12の内部に浸透し過ぎることがなく、記録媒体12の表面に適切な量の処理液が保持される。
次に記録媒体12はインク付与部16によってインクが付与される。その際、記録媒体12の表面に適切な量のインクが保持されているので、インクは速やかにインク凝集物を生成し、そのインク凝集物は浮遊せずに所定の位置で付着する。さらに、記録媒体12の表面には、固体粒子によって凹凸が形成されているので、インク凝集物が打滴位置からずれるおそれがない。したがって、第2の実施形態のインクジェット記録装置40によれば、画質低下と画像変形の両方を同時に防止することができる。
10…インクジェット記録装置、12…記録媒体、14…処理液付与部、16…インク付与部、20…吸着ベルト搬送部、22…ローラー、24…ベルト、26…溶媒除去部、28…画像定着部、30S、30T、30Y、30C、30K…記録ヘッド、32…乾燥装置、34…インク凝集物、36…固体粒子、40…インクジェット記録装置、42…固体粒子付与部、44…加熱装置、46…処理液塗布部