本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ここでは、本発明に係る液滴吐出装置を、液滴吐出装置の一例であるインクジェットプリンタに適用させて説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
図1に示すように、本実施形態に係るインクジェットプリンタ101は、略直方体形状の筐体102を備えている。筐体102内には、5つのヘッド1を備えたヘッドユニット18、用紙Pをヘッド1の下方において搬送方向99(図1中左から右に向かう方向)に搬送する搬送ユニット16、用紙Pを給紙する給紙ユニット103、およびインク等を貯留するタンクユニット104の各機能ユニットが上方から下方へ順に設けられている。また、筐体102内の上記機能ユニットと干渉しない位置には、各機能ユニットの動作を司る制御装置100が設けられている。さらに、筐体102の上面には、印刷を終えた用紙Pが排出される排紙部15が設けられている。
ヘッドユニット18が具備する5つのヘッド1のうち4つは、インクを吐出する記録ヘッド1aである。本実施形態では、ブラック、シアン、マゼンタおよびイエローの各記録ヘッド1aが設けられている。残りの1つのヘッド1は、処理液を吐出する処理液ヘッド1bである。ここで、顔料インクに対しては顔料色素を凝集させる処理液が使用される。また、染料インクに対しては染料色素を析出させる処理液が使用される。処理液の主材料は、カチオン性化合物、とりわけ、カチオン系高分子、カチオン性界面活性剤、カルシウム塩およびマグネシウム塩等の多価金属塩を含有する液体等のなかからインクの性質に応じて適宜選択される。このような処理液が塗布された用紙Pの領域にインクが着弾すると、処理液中の多価金属塩等がインクの成分(すなわち、着色剤である染料又は顔料)に作用して、不溶性又は難溶性の金属複合体等が凝集又は析出する。その結果、付着したインクの用紙P内への浸透度が低下して、インクが用紙Pの表面に近い領域に定着しやすく(残存しやすく)なる。なお、処理液のインクへの作用には、インクと処理液の化学反応により、インクの成分を凝集又は析出させることも含まれる。また、処理液は、インクの成分と化学反応するものに限定されず、化学反応することなしにインクの成分を凝集又は析出させるものであってもよい。或いは、処理液は、インクの成分を凝縮および析出させるものであってもよい。
処理液ヘッド1bは、5つのヘッド1のうち搬送方向99の最も上流側に配置されている。4つの記録ヘッド1aは、処理液ヘッド1bよりも搬送方向99下流側において、吐出するインクの明度が小さい順に、すなわち、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの順に上流側から下流側へ向けて配置されている。
5つのヘッド1はほぼ同様の構成を有しており、いずれも印字幅方向98に長尺な略直方体形状を有するライン型インクジェットヘッドである。ここで「印字幅方向98」とは搬送方向99と直交する方向であって水平面に沿った方向である。各ヘッド1は、複数の吐出口(不図示)が開口している吐出面2aを有するヘッド本体2を備えている。吐出面2aは、搬送ユニット16により搬送方向99へ搬送される用紙Pと所定間隔を介して上下に対向している。各ヘッド本体2は、後述するヘッド制御部51により制御される複数のアクチュエータ(不図示)を備えている。これらのアクチュエータは、選択的に複数の吐出口から処理液又はインクが吐出されるように、処理液又はインクに吐出エネルギーを付与する。なお、本実施形態においては、印字幅方向98(主走査方向)及び搬送方向99(副走査方向)の解像度はいずれも600dpiとなるよう構成又は設定されており、用紙Pの表面に印字幅方向98および搬送方向99にそれぞれ1/600インチ間隔の格子状に区画された複数の単位領域(画素領域)が仮想的に定められている。
タンクユニット104は、4つのインクタンク17aおよび1つの処理液タンク17bを備えている。インクタンク17aおよび処理液タンク17bは、筐体102に対して着脱可能に装着されている。各インクタンク17aは、ブラック、シアン、マゼンタまたはイエローのインクを貯留している。各インクタンク17aから対応する記録ヘッド1aへチューブ(不図示)を介してインクが供給される。同様に、処理液タンク17bは処理液を貯溜しており、処理液タンク17bから処理液ヘッド1bへチューブを介して処理液が供給される。
給紙ユニット103は、筐体102に対して着脱可能に設けられた給紙トレイ11と、給紙ローラ12とを有している。給紙トレイ11は、上面解放の箱形状をなし、複数枚の用紙Pが積層された状態で収容されている。給紙ローラ12は、給紙トレイ11に収容されている最も上の用紙Pと接触している。そして、給紙ローラ12が制御装置100の制御を受けて動作する給紙モータ31(図3参照)により回転駆動されると、給紙トレイ11にある用紙Pが後述する搬送経路5へ送り出される。
筐体102の内部には、図1に黒矢印で示されるように、給紙トレイ11から排紙部15までの用紙Pの搬送経路5が形成されている。搬送経路5は、複数の搬入ガイド14、搬送ユニット16および複数の搬出ガイド29により、全体として左右が反転したS字形状となるように形成されている。給紙ローラ12により給紙トレイ11から送り出された用紙Pは、複数の送給ローラ対13により搬入ガイド14を通じて搬送ユニット16へと送られる。搬送ユニット16の搬送経路5上流側には、レジストレーションローラ対4が設けられている。用紙Pは、このレジストレーションローラ対4により姿勢が整えられたのち、搬送ユニット16へ突入する。搬送ユニット16は、用紙Pを画像形成可能な位置へ送り込み、画像形成時には搬送方向99に所定の搬送速度で用紙Pを搬送させる。用紙Pが各ヘッド1の下方を通過する際に、用紙Pへ向けて処理液およびインクが吐出され、用紙Pの印刷面(上面)に所望のカラー画像が形成される。画像が形成された用紙Pは、搬送ユニット16から更に搬送経路5の下流側へ送り出され、複数の搬出ローラ対28により搬出ガイド29を通じて上方に搬送され、筐体102の上部に設けられた排出口22から排紙部15へ排出される。
搬送ユニット16は、図1に示すように、用紙Pの搬送方向に沿って配置された複数の搬送ローラ対8と均しローラ対10とを備えている。搬送ローラ対8は、全ヘッド1の搬送方向99の下流側及び上流側と、各記録ヘッド1aの間にそれぞれ配置されている。また、均しローラ対10は、処理液ヘッド1bと搬送方向99最も上流側の記録ヘッド1a(本実施形態では、ブラックの記録ヘッド1a)の間に配置されている。
各搬送ローラ対8は、搬送ローラ8bと歯付ローラ8aとの、上下一対のローラで構成されている。搬送ローラ8bは、その周面と用紙Pの下面とが接触するように配置されている。歯付ローラ8aは、搬送ローラ8bの周面と用紙Pを挟んで対向するように配置されている。歯付ローラ8aは、印字幅方向98に延びる支軸と、支軸上に間隔を開けて設けられた複数の歯付ディスクとを備えている。歯付ディスクは、周面に複数の歯が形成された薄い板状のものであって、この歯の先端で用紙Pと接触することができる。歯付ローラ8aは図示しない付勢手段により搬送ローラ8bへ向けて付勢されており、歯付ローラ8aの周面は搬送ローラ8bの周面に圧接している。そして、搬送ユニット16に含まれる複数の搬送ローラ8bが、搬送モータ33(図3参照)により同期して回転駆動されることにより、用紙Pが歯付ローラ8aと搬送ローラ8bとの間に挟まれて搬送方向99下流側へ搬送される。
均しローラ対10は、上部ローラ10aと下部ローラ10bとの、上下一対のローラで構成されている。下部ローラ10bは、その周面と用紙Pの下面とが接触するように配置されている。上部ローラ10aは、下部ローラ10bの周面と用紙Pを挟んで対向するように配置されている。上部ローラ10aおよび下部ローラ10bの回転軸はいずれも印字幅方向98に延び、これらの回転軸は上下に並んでいる。上部ローラ10aおよび下部ローラ10bは、用紙Pの印字幅方向98の印字範囲と同じかそれ以上の幅を有している。ローラ対10のうち少なくとも上部ローラ10aの周面は凹凸の無い滑らかな曲面となっている。上部ローラ10aは図示しない付勢手段により下部ローラ10bへ向けて付勢されており、上部ローラ10aの周面は下部ローラ10bの周面に圧接している。
下部ローラ10bは、搬送ローラ対8の搬送ローラ8bを駆動している搬送モータ33により駆動される。これにより、下部ローラ10bは搬送ローラ8bと同期して用紙Pを搬送方向99下流側へ送る向きに回転する。そして、下部ローラ10bが回転することにより、用紙Pは下部ローラ10bの周面と上部ローラ10aの周面の間に挟まれて、搬送方向99下流側へ送り出される。均しローラ対10は、用紙Pを搬送方向99下流側へ搬送する機能に加え、当該均しローラ対10よりも搬送方向99上流側において用紙Pに着弾した処理液の液滴を用紙P上で伸ばして広げる機能も備えている。
次に、図3を参照しつつ、制御装置100について説明する。制御装置100は、ヘッド制御部51、搬送制御部59、画像データ記憶部52、インク吐出データ生成部53、インク吐出データ記憶部54、処理液吐出データ生成部56、処理液吐出データ記憶部57、および巻付防止制御部49の各機能部を有している。制御装置100は、CPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行する制御プログラムおよびこれらプログラムに使用されるデータを書き替え可能に記憶する不揮発メモリと、プログラム実行時にデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)とを備えている。本発明の制御プログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM、メモリカード等の各種記録媒体に保存されており、これらの記録媒体から不揮発メモリにインストールされる。そして、この制御プログラムがCPUで実行されることにより、図3に示す制御装置100の各機能部が実現される。
また、制御装置100には、レジストレーションローラ対4の搬送経路5上流側に設けられたレジセンサ41、レジストレーションローラ対4と処理液ヘッド1bの間に設けられた印刷開始センサ47、処理液ヘッド1bと記録ヘッド1aの間に設けられた湿度センサ43、および搬送経路5の終端部分に設けられた排紙センサ44が接続されている。印刷開始センサ47および排紙センサ44は、用紙Pの先端および後端が検出位置を通過したことを検出することができる。印刷開始センサ47の検出信号は、ヘッド制御部51が各ヘッド1からの処理液又はインクの吐出タイミングを決定するために利用される。湿度センサ43の検出信号は、ヘッド1のノズルの詰まりを検出するために利用される。排紙センサ44の検出信号は、搬出ローラ対28の駆動を停止するタイミングを決定するために利用される。レジセンサ41は用紙Pの先端が検出位置を通過したことを検出することができる。レジセンサ41の検出信号は、レジストレーションローラ対4のローラ間隔を狭めて用紙Pを搬送するタイミングと用紙Pの姿勢を整えるタイミングとを決定するために利用される。なお、レジセンサ41に上記印刷開始センサ47としての機能を併せ備えてもよい。
搬送制御部59は、搬送経路5に沿って用紙Pが搬送されるように、給紙ユニット103、各送給ローラ対13、各送りローラ対27、各搬出ローラ対28、レジストレーションローラ対4および搬送ユニット16を制御する。具体的には、搬送制御部59は、給紙ユニット103の給紙ローラ12を駆動する給紙モータ31のモータドライバ131、各送給ローラ対13およびレジストレーションローラ対4を駆動する送給モータ32のモータドライバ132、各搬出ローラ対28を駆動する搬出モータ34のモータドライバ134、ならびに搬送ユニット16の搬送ローラ対8および均しローラ対10を駆動する搬送モータ33のモータドライバ133の駆動を制御する。
ヘッド制御部51は、記録ヘッド1aのアクチュエータを制御する記録ヘッド制御部51aと、処理液ヘッド1bのアクチュエータを制御する処理液ヘッド制御部51bとを有している。記録ヘッド制御部51aは、後で詳述するインク吐出データ記憶部54に記憶されたインク吐出データに基づいて搬送される用紙Pへ向けてインクを吐出するように、ヘッド駆動回路30を介して記録ヘッド1aのインクの吐出動作を制御する。処理液ヘッド制御部51bは、後で詳述する処理液吐出データ記憶部57に記憶された処理液吐出データに基づいて用紙Pにおけるインクの着弾位置と処理液の着弾位置とが対応するように、ヘッド駆動回路30を介して処理液ヘッド1bの処理液の吐出動作を制御する。なお、本実施形態に係るヘッド1は、インク又は処理液をゼロ,小滴,中滴,大滴の4段階の液滴量で吐出することができる。
画像データ記憶部52は、用紙P上に記録される画像に係る画像データを記憶する。画像データは、インクジェットプリンタ101と接続されているPC(Personal Computer)50や、プリンタドライバ等から制御装置100へ転送されてくる。インク吐出データ生成部53は、画像データ記憶部52に記憶された画像データに基づいて、インク吐出データを生成する。インク吐出データ記憶部54は、生成されたインク吐出データを記憶する。インク吐出データは、用紙P上に仮想的に定められた単位領域(画素領域)に形成するドットのドットサイズ(大きさ)を示すデータである。インク吐出データに示されたドットサイズは、すなわち、記録ヘッド1aがその単位領域へ吐出するインクの量(ゼロ,小滴,中滴,大滴の4段階のいずれか)を示している。
図4は或領域のインク吐出データを示す図であり、(a)はブラックのインク吐出データ、(b)はシアンのインク吐出データ、(c)はマゼンタのインク吐出データ、(d)はイエローのインク吐出データである。例えば、図4に示すように、インク吐出データ記憶部54は、4つの記録ヘッド1aに関する4つのインク吐出データを記憶している。なお、図4に示す4つのインク吐出データは、用紙P上の同一領域(1〜6までの6行分およびa〜fまでの6列分の計36個分の単位領域)に形成する画像と対応している。また、図4のS,M,Lとの記載は、用紙P上に仮想的に定められたその単位領域に形成するドットのサイズを示しており、S,M,Lのいずれの記載もない単位領域にはドットを形成しないことを示している。なお、ドットサイズのS,M,Lは、記録ヘッド1aから吐出される小滴,中滴,大滴のインク滴と対応している。
処理液吐出データ生成部56は、インク吐出データ記憶部54に記憶されたインク吐出データに基づいて、処理液吐出データを生成する。ただし、処理液吐出データ生成部56は、画像データ記憶部52に記憶された画像データに基づいて処理液吐出データを生成するように構成されていてもよい。処理液吐出データ記憶部57は、生成された処理液吐出データを記憶する。処理液吐出データは、用紙P上に仮想的に定められた単位領域(画素領域)に形成する処理液のドットのサイズを示すデータである。処理液吐出データに示されたドットサイズは、すなわち、処理液ヘッド1bがその単位領域へ吐出する処理液の量(ゼロ,小滴,中滴,大滴の4段階のいずれか)を示している。
図5は、処理液吐出データの一例として、図4に示すインク吐出データに対応するように生成された処理液吐出データを示している。なお、図5においてSの記載は、用紙P上に仮想的に定められたその単位領域に形成するドットのサイズを示しており、記載のない単位領域にはドットを形成しないことを示している。処理液吐出データのドットサイズのSは、処理液ヘッド1bから吐出される小滴の処理液滴と対応している。処理液吐出データは、原則として、インク吐出データのドットが形成される各単位領域と対応する単位領域にサイズSのドットを形成するように生成される。この結果、処理液吐出データに基づいて処理液の吐出を行う処理液ヘッド1bは、用紙Pのインクの着弾位置と処理液の塗布範囲とが一致するように、用紙Pのインクが吐出される各単位領域に対し選択的に小滴の処理液を吐出する。
ここで、巻付防止制御部49について説明する。図2および図6は、上記構成のインクジェットプリンタ101において、処理液が付着した用紙Pが均しローラ対10の上部ローラ10aと下部ローラ10bの間を通過するときの様子を示している。図2に示すように、回転する上部ローラ10aの周面は、用紙Pに着弾した処理液の液滴が完全に染み込む前に処理液の液滴と接触する。そして、用紙P上に浸透せずに残っている処理液の液滴が上部ローラ10aと下部ローラ10bの間に挟まれて加圧されることにより、液滴が用紙P上で薄く伸ばされて、処理液の塗布範囲が広がる。均しローラ対10を通過した用紙Pは、通常は、搬送ユニット16により搬送方向99下流側へ送られる。ところが、図6に示すように、用紙Pが均しローラ対10のうち上部ローラ10aに巻き付くことがある。この巻き付き現象は、用紙Pの先端部分(搬送方向99下流側端部分)への処理液の付着量が多いときに生じ易い。また、上記巻き付き現象は、上部ローラ10aの周面であって用紙Pの先端部分と接触する部分に多くの処理液が付着しているときにも生じやすい。上部ローラ10aの上記部分に付着している処理液は、用紙Pの先端部分と接触するよりも前(特に、1回転前)に、上記部分と接触した処理液が移り、それが乾燥せずに液体状またはゲル状で残っているものである。さらに、上記巻き付き現象は、用紙Pの厚みが小さいとき、例えば、用紙Pが薄紙であるときに生じやすい。
上記の通り巻き付き現象の生じやすさは、用紙Pの先端部分とここに接触するローラ対10の上部ローラ10aとの間に存在する処理液の量または/および面積、用紙Pの厚みなどの影響を受ける。そこで、巻付防止制御部49は、巻き付き現象の生じ易さ表す指標を求め、この指標が予め設定された閾値を上回る場合に上部ローラ10aと用紙Pとの間に存在する処理液の量を減少させて巻き付き現象を回避するための処置を行う。
用紙Pの先端部分とここに接触するローラ対10の上部ローラ10aとの間に存在する処理液の量または/および面積を用紙Pと上部ローラ10aのそれぞれの立場から見れば、用紙Pの先端部分に付着した処理液の量または/および面積と、上部ローラ10aの周面のうち用紙Pの先端部分と接触する部分に乾燥せずに残っている処理液の量または/および面積とになる。そこで、指標には、用紙Pの先端領域Pbに付着している処理液の量または/および面積を表す第1の指標K1と、上部ローラ10aの周面のうち用紙Pの先端領域Pbと接触する部分に乾燥せずに残っている処理液の量または/および面積を表す第2の指標K2とが規定されている。第1の指標K1と第2の指標K2には、それぞれに対して閾値が設定される。すなわち、第1の指標K1は第1の閾値α1と比較され、第2の指標K2は第2の閾値α2と比較されて、それぞれの指標が評価される。第1の閾値α1および第2の閾値α2は、いずれも制御装置100に予め任意の値が入力されることにより設定されている。なお、これらの閾値α1,α2には調整係数aが設けられており、用紙Pの種類が普通紙であるときは調整係数a=1であり、用紙Pの種類が薄紙であるときは調整係数aは1より小さい任意の値(例えば、0.7〜0.9の範囲の値)である。この結果、用紙Pの種類が薄紙であるときには、閾値α1,α2の1倍よりも小さい値が実質的な閾値α1,α2として用いられる。
第1の指標K1は、用紙Pの先端領域Pbへ向けて吐出される処理液の量とすることができる。ここで「用紙Pの先端領域Pb」とは、図7に示すように、用紙Pの先端Pa(つまり、搬送方向99下流側端)から搬送方向99上流側へ長さL1までの帯状の領域のことをいう。この先端領域Pbに付着している処理液は、上部ローラ10aへの用紙Pの巻き込み易さに影響を与える。用紙Pの先端Paからの長さL1は、例えば、上部ローラ10aの半径をrとして0.5πrである。長さL1は定数とすることもできるし、搬送ユニット16による用紙Pの搬送速度vに応じて変化する変数とすることもできる。
用紙Pの先端領域Pbへ向けて吐出される処理液の量は、用紙Pの先端領域Pbに対応する処理液吐出データにおいてドットが形成される単位領域の数(すなわち、ドット数)をカウントし、ドット数に小滴の液滴量を乗じることで得られる。本実施形態において処理液吐出データの各ドットは小滴(S)であるから、用紙Pの或領域への処理液の吐出量は、その領域と対応する処理液吐出データのドット数と相関している。したがって、処理液吐出データの或領域のドット数が減少すれば、この領域と対応する用紙Pの領域に吐出される処理液が減少することとなる。ただし、処理液吐出データの各ドットのサイズが一様でない場合には、処理液吐出データのドット数の減少は必ずしも用紙Pへ吐出される処理液の量の減少には繋がらない場合がある。例えば、ドット数を減少して、残ったドットのドットサイズを大きくした場合などである。この場合、用紙Pの先端領域Pbに対応する処理液吐出データに含まれる各ドットにつきドットサイズに対応する液滴量を乗じたものを総計することによって、第1の指標K1を算出することができる。
また、上記第1の指標K1に代えて又は加えて、用紙Pの先端領域Pbに対応する処理液吐出データにおいてドットが形成される単位領域の割合を第1の指標K1としてもよい。この場合の第1の指標K1は、用紙Pの先端領域Pbのうち処理液が吐出(又は塗布)される面積の割合を示している。用紙Pの先端領域Pbまたはこれと対応する処理液吐出データにおいてドットが形成される単位領域の割合は、つまり、用紙Pの先端領域Pbの処理液の印字率(印字デューティ)を表している。用紙Pの先端領域Pbの処理液の印字率は、用紙Pの先端領域Pbと対応する処理液吐出データのドット数を、その先端領域Pbに含まれる単位領域の総数で除することで得られる。
用紙Pの先端領域Pbへ吐出される処理液の量が同じであっても、ドットが形成される複数の単位領域が或一カ所に集中しているときと比較して、ドットが形成される複数の単位領域が満遍なく分散しているときのほうが巻き付き現象がより生じやすい。そこで、第1の指標K1に、処理液が吐出される単位領域の分布を加味することもできる。
巻付防止制御部49は、上述のようにして第1の指標K1を求め、得られた第1の指標K1と第1の閾値α1とを比較する。そして、巻付防止制御部49は、第1の指標K1が第1の閾値α1を上回る場合には、用紙Pの先端領域Pbへ吐出される処理液の量を減少させる処置(第1の指標に対する処置)を行い、巻き付き現象を抑制する。この処置では、第1の指標K1が第1の閾値α1以下となるように、用紙Pの先端領域Pbへ吐出される処理液の量が削減される。本実施形態では、用紙Pの或領域へ吐出される処理液の量を減らすことは、用紙Pの或領域に付着する処理液の面積の割合を減らすことにも帰結する。
上記第1の指標に対する処置を実行する手法は幾つか存在し、そのうちのいずれか1つ以上が採用される。その一例として、巻付防止制御部49は、処理液ヘッド制御部51bが取得した処理液吐出データにマスク又はフィルタを作用させて、用紙Pの先端領域Pbと対応する処理液吐出データのドット数を減少させる。この結果、元の処理液吐出データに基づけば動作する予定の処理液ヘッド1bのアクチュエータのうち幾つかは動作せず、用紙Pの先端領域Pbへ吐出される処理液の量および面積の割合が減少する。また、第1の指標に対する処置を実行する手法の一例として、巻付防止制御部49は、用紙Pの先端領域Pbに対応する処理液吐出データのドット数を減少させるように、処理液吐出データ生成部56に処理液吐出データを再生成させる。このように再生成された処理液吐出データに基づいて処理液ヘッド1bから処理液の吐出が行わる結果、用紙Pの先端領域Pbへ向けて吐出される処理液の量および面積の割合が減少する。
なお、上記第1の指標に対する処置において、用紙Pの先端領域Pbに対応する処理液吐出データのドット数を減少させることには、厳密には、ドット数を0にすることと、ドット数を減らすこととが含まれる。用紙Pの先端領域Pbに対応する処理液吐出データのドット数を減らす場合には、例えば、図5に示されるように、ドットが形成される単位領域に囲まれた単位領域(図5において斜線が施された単位領域)を間引く又はマスクすることが望ましい。これによれば、ドット数の減少が用紙Pに形成される画像に与える影響をより小さくすることができる。
第2の指標K2は連続印刷、すなわち、続けて複数枚の用紙に印刷が行われるときにのみ考慮される。第2の指標K2は、上部ローラ10aの周面のうち用紙Pの先端領域Pbと接触する部分に乾燥せずに残っている処理液の量または面積の割合とすることができる。なお、処理液の乾燥に要する時間は、処理液の性質や量により異なることから処理液に応じて適宜設定される。例えば、上部ローラ10aが1回転するうちは用紙Pから上部ローラ10aへ移った処理液が乾燥しないと仮定して、上部ローラ10aの半径をr、搬送ユニット16による用紙Pの搬送速度をvとする。この場合に、用紙Pの先端領域Pbの最も搬送方向99下流側に処理液を吐出するタイミングよりも2πr/v前から(2πr−L1)/v前までの時間に処理液ヘッド1bから吐出された(または、吐出される予定の)処理液の量または面積の割合を第2の指標K2とすることができる。但し、第2の指標K2は上記に限定されるものではない。例えば、用紙Pの先端に処理液を吐出するタイミングの直前から処理液の乾燥に要する時間前までに処理液ヘッド1bより吐出される処理液の量または面積の割合を算出し、これを第2の指標K2とすることもできる。この場合は計算が容易である。
巻付防止制御部49は、上述のようにして求めた第2の指標K2と第2の閾値α2とを比較する。そして、巻付防止制御部49は、第2の指標K2が第2の閾値α2を上回る場合には、上部ローラ10aの周面のうち用紙Pの先端領域Pbと接触する部分に付着する処理液の量を減少させる処置(第2の指標に対する処置)を行い、巻き付き現象を抑制する。本実施形態では、上部ローラ10aの或領域へ付着する処理液の量を減らすことは、上部ローラ10aの或領域へ付着する処理液の面積の割合を減らすことにも帰結する。
上記第2の指標に対する処置を実行する手法は幾つか存在し、そのうちのいずれか1つ以上が採用される。その一例として、巻付防止制御部49は、搬送制御部59に用紙Pの搬送タイミングを遅らせる。具体的には、用紙Pの一つ前に搬送された用紙(以下、「先行用紙」という)の後端と用紙Pの先端との間に上部ローラ10aの外周の長さの1倍以上の間をあけて用紙Pを送り出すように、給紙ユニット103の給紙ローラ12を駆動する給紙モータ31のモータドライバ131を制御する。この結果、上部ローラ10aの周面に処理液が残存していても、上部ローラ10aが用紙Pの先端領域Pbと接触する前に下部ローラ10bと接触することによって処理液が乾いたり分散されたりする。これにより、上部ローラ10aの周面のうち用紙Pの先端領域Pbと接触する部分に付着する処理液の量が減少する。また、第2の指標に対する処置を実行する手法の一例として、巻付防止制御部49は、先行用紙の後端領域への処理液の吐出量を減少させる。具体的には、巻付防止制御部49は、処理液ヘッド制御部51bが取得した先行用紙の処理液吐出データにマスク又はフィルタを作用させて、先行用紙の後端領域へ吐出する処理液の量を減らす。或いは、巻付防止制御部49は、先行用紙の後端領域に対応する処理液吐出データのドット数を減少させるように、処理液吐出データ生成部56に先行用紙の処理液吐出データを再生成させる。ここで、先行用紙の後端領域は、先行用紙の搬送方向99上流側領域である。更に望ましくは、先行用紙の後端領域は、先行用紙の搬送方向99上流側領域のうち、用紙Pの先端領域Pbと接触する上部ローラ10aの周面の領域と接触する領域である。この結果、上部ローラ10aの周面のうち用紙Pの先端領域Pbと接触する部分に付着する処理液の量および面積の割合が減少する。
以上のように、本実施形態のインクジェットプリンタ101は、用紙Pを搬送方向99に搬送する搬送ユニット16と、搬送される用紙Pに向けてインク(第1液)を吐出する1以上の記録ヘッド1a(第1液吐出ヘッド)と、これらの記録ヘッド1aよりも搬送方向99の上流側において処理液(第2液)を吐出する処理液ヘッド1b(第2液吐出ヘッド)と、処理液ヘッド1bと記録ヘッド1aの間に設けられた均しローラ対10と、これらの動作を制御する制御装置100とを備えている。そして、制御装置100は、インク吐出データを記憶するインク吐出データ記憶部54(第1液吐出データ記憶部)と、インク吐出データに基づいて各記録ヘッド1aの動作を制御する記録ヘッド制御部51a(第1液吐出ヘッド制御部)とを備えている。また、制御装置100は、処理液吐出データを記憶する処理液吐出データ記憶部57(第2液吐出データ記憶部)と、処理液吐出データに基づいて用紙Pにおけるインクの着弾位置と処理液の塗布位置が対応するように処理液ヘッド1bの動作を制御する処理液ヘッド制御部51b(第2液吐出ヘッド制御部)とを備えている。さらに、制御装置100は、均しローラ対10の上部ローラ10aへの用紙Pの巻き付きを防止するために、用紙Pの搬送方向99下流端領域である先端領域Pbと、この先端領域Pbに接触する上部ローラ10aの周面との間に存在する処理液の量を調整する巻付防止制御部49を備えている。
上記において、巻付防止制御部49により処理液の量が調整されることには、用紙Pの先端領域Pbと上部ローラ10aとに介在している処理液の量を減少させることと、この処理液の量の減少とともに処理液の面積の割合を減少させることとのうち、いずれかが含まれる。用紙Pの先端領域Pbとここに接触する上部ローラ10aとの間に存在する処理液の量または/および面積を減らす(調整する)ことには、用紙Pの先端領域Pbに付着した処理液の量または/および面積を減らすことと、上部ローラ10aの周面のうち用紙Pの先端領域Pbと接触する部分に乾燥せずに残っている処理液の量または/および面積を減らすこととの一方又は両方が含まれる。このような巻付防止制御部49の作用により、用紙Pの先端領域Pbとここに接触する上部ローラ10aの間に存在する処理液の量が用紙Pの上部ローラ10aへの巻き付き現象が生じにくくなる程度にまで低減されて、巻き付き現象が抑制される。そして、用紙Pの上部ローラ10aへの巻き付き現象が抑制されることによって、インクジェットプリンタ101の故障や紙詰まりの発生を防止することができる。
以上、本発明の好適な一実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて、様々な設計変更を行うことが可能である。
例えば、上述の実施形態において、用紙Pを搬送する搬送ユニット16は、搬送ローラ対8とローラ対10とで構成されているが、搬送ユニット16は搬送ベルトを含んで構成されていてもよい。この場合には、均しローラ対10に代えて、搬送ベルトの上面と接触するように回転ローラを設けて、この回転ローラと搬送ベルトとの間で用紙Pに着弾した処理液を加圧して均すように構成されてよい。
また、上述の実施形態では、単位領域に形成する処理液のドットのドットサイズはSのみとしているが、MやLとすることも可能である。さらに同じ単位領域に吐出されるインクの総液滴量(合計値)に比例して処理液のドットサイズを決定してもよい。この場合、上述の第1の指標に対する処置については、処理液ドットのサイズを小さくすることが含まれることになる。
また、例えば、上述の実施形態において、制御装置100で処理液吐出データ及びインク吐出データを生成するが、これらのデータを制御装置100に接続されたPC50で生成してもよい。この場合には、PC50に画像データ記憶部52、インク吐出データ生成部53および処理液吐出データ生成部56としての機能が備えられ、インクジェットプリンタ101の制御装置100にインク吐出データ記憶部54、処理液吐出データ記憶部57、ヘッド制御部51、搬送制御部59および巻付防止制御部49としての機能が備えられる。
また、例えば、上述の実施形態において、制御装置100は、ヘッド制御部51(処理液ヘッド制御部51b)とインク吐出データ生成部53と巻付防止制御部49とをそれぞれ備えるように記載されているが、ヘッド制御部51に巻付防止制御部49としての機能を併せ備えてもよい。或いは、インク吐出データ生成部53に巻付防止制御部49としての機能を併せ備えてもよい。
なお、本発明は、インク以外の液体を吐出する液体吐出装置にも適用可能である。さらに、本発明はプリンタに限定されず、ファクシミリやコピー機などにも適用可能である。また、上述の実施形態では、ヘッド制御部51が処理液ヘッド1bのアクチュエータや各記録ヘッド1aのアクチュエータを駆動しているが、ヘッド1の駆動構成はこれに限定されない。例えば、処理液ヘッド1bおよび各記録ヘッド1aは発熱素子を備え、この発熱素子を駆動することでヘッドから処理液やインクを吐出する構成のヘッドであってもよい。