JP5058194B2 - 土壌または水の処理方法 - Google Patents

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本発明は、有害な有機化合物を、低コストで効率良く処理できる有機化合物分解材に関する。
トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、キシレン、トルエン等の芳香族類、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類等の高揮発性有機化合物は、溶媒、洗浄剤等として工業的に広く用いられており、有機塩素系、有機リン系等の有機農薬は殺虫剤、殺菌剤、除草剤等として、農業分野で使用されている。ところが、これらの有機化合物の中には人への毒性、発ガン性、動植物への生育障害、奇形誘発等を示すものがあり、製造、使用、廃棄が厳しく規制される方向にある。しかし、前記有機化合物の多くは難分解性であり、それまでの管理が厳重に行われずに投棄されたり漏洩したもの、あるいはDDTやBHCのように規制前に使用されたものが、環境中に残留している。これらが長期的に土壌や地下水を汚染し、更には大気中に放出された高揮発性成分が大気を汚染する等して深刻な社会問題を引き起こしている。また、近年、一部の有機化合物が動植物の生殖機能を阻害する所謂内分泌かく乱物質(あるいは環境ホルモン)として作用することが、報告されている。
土壌中の有機化合物を処理する方法として、土壌を抜気し気体成分を捕集した後、水素を還元剤に用い、白金やパラジウム等を触媒として、還元分解する方法が知られている(例えば非特許文献1参照)。また、汚染された土壌に直接還元剤や酸化剤を投入し、有機化合物を還元分解または酸化分解させる方法、所謂原位置浄化法も知られており、この方法では、例えば、還元剤として金属鉄(例えば特許文献1参照。)やマグネタイトと金属鉄との複合化合物(例えば特許文献2参照。)等が、酸化剤として過マンガン酸カリウムや過酸化水素(例えば特許文献3参照。)等が用いられている。
上甲 勲他著、「環境触媒ハンドブック」、初版、エヌ・ティー・エス社刊、2001年11月20日、P134−138
特許第3079109号公報(第1〜2頁) 特開2002−317202号公報(第1頁) 特開平7−75772号公報(第1頁)
しかし、水素還元法は貴金属を触媒に用いるので、コストが掛かり過ぎる。原位置浄化法は低コストであるが、特許文献1記載の金属鉄は地下水が赤く着色する赤水と呼ばれる現象を引き起こし、また金属鉄や特許文献2記載の複合化合物では、有機化合物の分解能力が十分ではない。特許文献3記載の酸化剤は酸化力が強過ぎ、土壌中の窒素化合物やミネラル類等も酸化するので、土壌の性質まで変えてしまうという問題がある。
本発明者らは、これらの問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、金属と金属酸化物とを含む有機化合物分解材は、有機化合物の分解能力が著しく高くなることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は金属と金属酸化物とを含むことを特徴とする有機化合物分解材である。
本発明の有機化合物分解材は、有害な有機化合物、特に高揮発性有機化合物や有機農薬の分解能力が優れ、二次的な環境汚染や土壌や水質の劣化が生じ難く、しかも金属と金属酸化物といった低コスト材料を用いているため、有害な有機化合物を含む地下水や土壌の浄化材として有用である。
本発明は有機化合物分解材であって、金属と金属酸化物とを含むことを特徴とする。本発明で用いる金属及び金属酸化物は、各々を単独で有機化合物に接触させても有機化合物の分解能力は高くないが、これらを混合して用いることことにより、金属酸化物がある種の触媒的な働きをして、非常に優れた分解能力が発現すると推測される。このため、個々には反応活性の乏しい金属や金属酸化物でも、これらを混合して用いることにより分解能力が高く、また、分解反応が緩やかに進行するので、土壌の性質や水質が変化し難いのではないかと考えられる。
金属としては、それ自体が還元剤として働くものであれば良く、例えば、鉄、アルミニウム、亜鉛、銅、マグネシウム等が挙げられ、これらは単独で用いても良く、2種以上を混合したり、合金にして用いることもできる。金属の形態は微粉末状、粒状、小片状等、特に制限されないが、微粉末状は有機化合物との接触面積が広くなるため好ましい。
金属酸化物としては、鉄、チタン、アルミニウム、亜鉛、マンガン等の酸化物を用いることができ、これらは単独で用いても、2種以上を混合して用いても、それらの複合酸化物を用いても良い。ここで、金属酸化物とは通常の金属酸化物の他、金属水和酸化物、金属水酸化物をも包含するものである。金属酸化物は微粉末状、粒状、小片状等、種々の形態のものを用いることができ、微粉末状のものは接触面積が大きく、反応性が高くなるため好ましい。金属酸化物として酸化鉄及び/又は酸化チタンを用いると、有機化合物の分解能力が高く好ましい。酸化鉄としては、一般式FeO(1≦x≦1.5)で表される化合物であって、具体的には酸化第一鉄FeO(x=1の場合)、酸化第二鉄Fe(x=1.5の場合)、マグネタイトFe(x=1.33の場合)、過還元マグネタイトFeO(1<x<1.33)、及びベルトライドFeO(1.33<x<1.5)が挙げられる。酸化鉄には、硫酸法酸化チタンの製造工程や鉄材の酸洗浄工程で発生する鉄成分を含む廃硫酸を、中和して得られたものを用いることもできる。また、酸化チタンとしては、一般式TiO(1≦x≦2)で表される化合物であって、具体的には一酸化チタンTiO(x=1の場合)、三酸化二チタンTi(x=1.5の場合)、二酸化チタンTiO(x=2の場合)及び非化学量論組成のチタン酸化物(1<x<1.5又は1.5<x<2)がある。
更に、本発明では金属酸化物として、金属成分が有する正常な原子価から算出されるよりも低い比率で酸素を含むもの、所謂下級酸化物を用いると、下級金属金属酸化物の有する還元性と金属の有する還元性との相乗効果により、分解能力が高くなるので好ましい。このようなものとして、鉄、チタン、マンガン等の下級酸化物が挙げられる。なかでもマグネタイト、過還元マグネタイト、ベルトライド、及び非化学量論組成のチタン酸化物は、処理能力により一層優れているため、好ましい下級金属酸化物である。
本発明の有機化合物分解材に含まれる金属と、金属酸化物を構成する金属元素は、異種であっても同種であっても良い。中でも金属鉄と酸化鉄、金属鉄と酸化チタンを用いるのが、効果が高いので好ましく、金属鉄と酸化鉄を用いるのが更に好ましい。金属と金属酸化物との配合割合(金属:金属酸化物)は、重量比で、0.02:1〜9:1の範囲が好ましく、この範囲より金属が多くても少なくても所望の効果が得られ難い。特に、金属鉄と酸化鉄とを用いる場合、配合割合が前記範囲にあれば、金属鉄が含まれているにもかかわらず、赤水の発生が抑制される。より好ましい範囲は、0.05:1〜4:1である。金属と金属酸化物とは単に混合するだけでも良いが、作業性を向上させるために、ベントナイト、タルク、クレー等の粘土鉱物をバインダーとして添加して粒状、ペレット状に成形しても良い。また、粉末状の金属を適宜分散剤を加えたりpHを調整するなどして水に分散させ、金属酸化物を混合してスラリー状にすることもできる。その他に、本発明の効果を高める目的で、活性炭、ゼオライト等の吸着材、亜硫酸ナトリウム等の還元剤を加えても良く、あるいは、本発明の効果を損ねない範囲で過酸化水素水等の酸化剤を加えることもできる。
本発明で分解することのできる有機化合物には特に制限は無く、高揮発性有機化合物、有機農薬、ダイオキシン、PCB、ノニルフェノール、ビスフェノールA、4−ニトロトルエン等にも用いることができる。高揮発性有機化合物としてはトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、パークロロエチレン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、キシレン、トルエン、アセトン等の芳香族類、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等のアルデヒド類等が挙げられる。有機農薬としては、DDT、BHC、エンドリン、ディエルドリン、アルドリン、ヘプタクロール、クロールデン、ペンタクロロベンジルアルコール、アトラジン、ヘキサクロロベンゼン、ヘキサクロロシクロヘキサン、メトキシクロル、ペンタクロロフェノール等の有機塩素系、パラチオン、TEPP、マラチオン等の有機リン系、メソミル等のカーバメイト系、ペルメトリン等の合成ピレスロイド系、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸等のフェノキシ系、あるいはジブロモクロロプロパン、塩化トリブチルスズ、2,4−D等が挙げられ、中でもDDT、BHCへの効果が高い。
本発明の有機化合物分解材は、公知の方法により、水処理や土壌処理に用いることができる。例えば、水処理では、本発明の分解材を工業廃水、農業廃水、生活廃水等の各種排水や揚水した地下水中に投入し、攪拌して有機化合物を分解した後、分解材を濾別しても良く、あるいは活性炭、ゼオライト等の吸着材に担持させ、これを反応塔に充填して用いることもできる。処理後の処理水は海洋、河川、湖沼、地下水等の環境中へリサイクルする。地下水の浄化の場合、例えば、土壌中に本発明の分解材を含む層を形成し、地下水がこの層を透過する際に、地下水に含まれる有機化合物を分解する所謂透過障壁工法に適用できる。
土壌処理では、有機化合物が高揮発性のものであれば、土壌を抜気し、揮発した有機化合物を含む気体成分を捕集した後、この分解材と接触させても良い。あるいは、原位置浄化方法に適用して、土壌中に投入することもできる。原位置浄化法は反応塔等の特別な施設を必要とせず、低コストで土壌を浄化でき、特に有機農薬、PCB、ダイオキシン等の低揮発性有機化合物の処理に用いることもできるので、特に好ましい。土壌に投入する方法には特に制限は無く、固体状の分解材であれば土壌を掘り起こし、分解材と土壌とを混合した後埋め戻したり、分解材をスラリー状にして土壌に注入する等、土壌の性状、地形等に応じて適宜選択できる。
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに制限されるものではない。
実施例1〜3
金属として金属鉄(平均粒子径が5.0μm程度の電解金属鉄粉:特級試薬、関東化学製)、金属酸化物として酸化鉄(平均粒子径が0.1μm程度のベルトライド(FeO1.447)粉末)を用い、これらを重量比で3対1、1対1、0.33対1で混合し、本発明の有機化合物分解材(試料A〜C)を得た。それぞれを実施例1〜3とする。
実施例4〜7
金属として実施例1で用いた金属鉄、金属酸化物として鉄含有廃硫酸を中和・酸化して得られた酸化鉄(平均粒子径が0.07μm程度のベルトライド(FeO1.39)粉末)を用い、これらを重量比で3対1、1対1、0.33対1、0.1対1で混合し、本発明の有機化合物分解材(試料D〜G)を得た。それぞれを実施例4〜7とする。
比較例1〜3
実施例1〜7で用いた電解金属鉄粉、実施例1〜3で用いたベルトライド粉、実施例4〜7で用いたベルトライド粉を、各々比較例とした。(試料H〜J)
評価1
実施例1〜3、比較例1、2で得られた試料A〜C、H、Iを、3ppmトリクロロエチレン水溶液に25g/リットルとなるように添加し、バイヤル瓶に密栓し24時間振盪撹拌して処理した。処理してから1日、7日経過後の水溶液に含まれるトリクロロエチレン濃度を、GC−MSヘッドスペース法にて測定した。また、処理後の水溶液の色を、目視で判定した。
評価結果を表1に示す。金属鉄及び鉄酸化物は各々単独で用いると有機化合物の分解能力は弱いにもかかわらず、これらを混合して得られた本発明の有機化合物分解材はトリクロロエチレンの分解能力が高く、また、処理後も水溶液を着色しないことがわかった。
Figure 0005058194
評価2
蒸留水にγ‐BHCが1ppmの濃度になるように加えた試験液100ミリリットルを調製し、この試験液に実施例4〜7の試料D〜G、比較例1、3の試料H、Jを各々10g添加した後、バイヤル瓶に密栓し24時間振盪撹拌して処理した。また、試験液に試料を加えなかったものを、比較例4とした。次いで、試料全量を100ミリリットル分液漏斗に入れ、塩化メチレン10ミリリットルを加え、10分間混合した後、下層(塩化メチレン層)を採取し、この抽出液を自然濾過した。残った上層(水層)に、更に塩化メチレン10ミリリットルを加え、10分間混合した後、下層(塩化メチレン層)を採取し、この抽出液を自然濾過し、1回目の抽出液と合わせた。得られた抽出液に無水芒硝2gを加えて10分間水分を吸着させ、その後、自然濾過により無水芒硝を分離した。この抽出塩化メチレンに含まれるBHCの濃度を、GC−MSヘッドスペース法にて測定した。
評価結果を表2に示す。本発明の有機化合物分解材は、BHCの分解能力も高いことがわかった。
Figure 0005058194
本発明は、有害な有機化合物を含む地下水や土壌の浄化に有用である。

Claims (4)

  1. 有機化合物分解材を土壌中に投入し土壌中の有機化合物を分解する土壌の処理方法において、(1)該分解材が鉄と酸化鉄との混合物を含み、酸化鉄がマグネタイト、過還元マグネタイト、ベルトライドからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、(2)該有機化合物がダイオキシン、PCB、ハロゲンが塩素であるハロゲン化炭化水素類(但し、トリクロロエチレンを除く)、有機塩素系農薬(但し、γ−BHCを除く)、フェノキシ系有機農薬からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする土壌の処理方法。
  2. 該有機化合物がテトラクロロエチレン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロロメタンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の土壌の処理方法。
  3. 有機化合物分解材を水中に投入し水中の有機化合物を分解した後、該分解材を固液分離する水の処理方法において、(1)該分解材が鉄と酸化鉄との混合物を含み、酸化鉄がマグネタイト、過還元マグネタイト、ベルトライドからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、(2)該有機化合物がダイオキシン、PCB、ハロゲンが塩素であるハロゲン化炭化水素類(但し、トリクロロエチレンを除く)、有機塩素系農薬(但し、γ−BHCは除く)、フェノキシ系有機農薬からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする水の処理方法。
  4. 該有機化合物がテトラクロロエチレン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、ジクロロメタンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3記載の水の処理方法。
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