JP5053697B2 - 漆塗装の下塗剤 - Google Patents
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Description
しかし、漆を塗装する対象の木材はその殆どが広葉樹材であり、また、漆塗装品の殆どは漆器などに代表される伝統工芸品である。即ち、柱、梁、床材、羽目板、手摺り、カウンター、ドア等の建築部材、特にスギやヒノキ等の針葉樹材に漆を塗装することは殆どなかった。
尚、柿渋を用いた技術としては、柿渋及びニカワを用いた塗布剤(特許文献2参照)や、製材した木材に柿渋を塗布した後、火炎で焦げ目を付け、更に柿渋を塗布することにより、木材の表面に、年代を経た古代色を呈するような着色を付ける技術が知られている(特許文献3参照)。
漆の吸い込み量が多いと、塗装面が黒色を呈して木目が見え難くなったり、漆の使用量が多くなるため塗装コストが増大したりする等の問題もある。漆の吸い込み量が多いと、更に、被塗装物の表面に充分な厚みのある漆塗膜が形成されにくく、漆特有の艶も得られにくくなる。
また、本発明の目的は、色むらが少なく、外観に優れた漆塗装物、及びその製造方法を提供することにある。
本発明は、このような知見に基づき、更に研究を重ねて完成されたものである。
また、本発明は、柿渋及び有機金属化合物の混合物からなる下塗剤を被塗装物に塗布して形成した下地及び該下地上に形成された漆塗膜を有する漆塗装物であって、前記有機金属化合物は、配位子が乳酸であるチタンのキレート化合物であることを特徴とする漆塗装物を提供するものである。
更に、本発明は、前記漆塗装物の製造方法であって、前記被塗装物に、前記下塗剤を塗布した後、有機溶剤で希釈した漆を塗布することを特徴とする漆塗装物の製造方法を提供するものである。
本発明の漆塗装物は、色むらが少なく、外観に優れている。
本発明の漆塗装物の製造方法によれば、色むらが少なく、外観に優れた漆塗装物を効率よく製造することができる。
本発明の漆塗装の下塗剤は、柿渋と、使用時に該柿渋に混合される有機金属化合物(但し、金属はチタンである)とからなる。
本発明の漆塗装物は、柿渋及び有機金属化合物(但し、金属はチタンである)が混合された下塗剤を用いて得られる。
好ましく用いられる柿渋の一例としては、品種は天王柿で、発酵年数が半年、タンニン含有量が5%で、酸性度が3〜4のものを挙げることができる。柿渋は、例えば、タンニンの含有割合が0.5〜10重量%、特に1〜5重量%となるように調整して用いることが好ましい。
このような有機金属化合物としては、水溶性のものを用いることができる。
本発明で用いる有機金属化合物は、配位子が乳酸であるチタンのキレート化合物である。有機金属化合物は、水中で安定なもの(分解しにくいもの)が好ましい。
上述した各種の有機金属化合物は、1種を単独で用いても良いし、2種以上を任意に組み合わせて用いることもできる。
上記の有機金属化合物は、柿渋に非水溶液の状態(例えば粉体の状態)で混合しても良いが、水溶液の状態に調製したものを柿渋と混合することが好ましい。有機金属化合物と柿渋とを混合する方法は、各種公知の方法を特に制限なく採用することができる。各種のミキサー(例えば、ハンドミキサー、ペンキミキサー、ロールミル、ボールミル等)を用いることもできるし、柿渋を入れた容器に有機金属化合物の水溶液を加えた後、容器を振っても良い。
モノカルボン酸及びその誘導体としては、ギ酸、酢酸、グルコン酸、プロピオン酸、酪酸及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらは1種を単独で使用しても良く、また2種以上を任意に組み合わせて使用しても良い。
ポリカルボン酸及びその誘導体としては、シュウ酸、リンゴ酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらは1種を単独で使用しても良く、また2種以上を任意に組み合わせて使用しても良い。また、モノカルボン酸及びその誘導体からなる群から選択されるカルボン酸と、ポリカルボン酸及びその誘導体からなる群から選択されるカルボン酸の、いずれか一方のみを用いても良いし、両者を組み合わせて用いても良い。
また、有機金属化合物の水溶液のpHについては、本発明の効果を妨げない限り、特に制限されないが、例えば0.1〜12とすることができ、好ましくは1〜10である。
有機金属化合物の水溶液とカルボン酸との配合割合については、使用する柿渋の種類、濃度や含有物によって異なり、一律に規定することはできないが、一例として、チタンの割合について0.1〜0.2mol/Lであるキレート水溶液1部に対して、クエン酸の総量として0.1mol/Lのクエン酸水溶液をl〜200部、好ましくは2.5〜100部、更に好ましくは5〜50部となる割合を挙げることができる。
なお、有機金属化合物の水溶液又は該水溶液とカルボン酸との混合液は、本発明の効果を妨げないことを限度として、pH調整剤や緩衝剤、乾燥を促進させるアルコール、下地の性能を高める無機充填剤等を含んでいても良い。
また、被塗装物が木材である場合、該木材は、広葉樹材であっても良いが、本発明は、特にスギやヒノキ等の針葉樹材の場合に有益である。針葉樹材は、一般に広葉樹材に比べて液の吸い込み量が多いため、広葉樹材に比べて塗布むらや色むらが生じやすく、本発明の下塗剤で処理するか否かによる色むらの差は、広葉樹材に比べて針葉樹材の場合に特に顕著である。針葉樹材に、柿渋及び上記の有機金属化合物の混合物を下塗剤として塗装することで、一般に、針葉樹材であることの多い建築部材に漆塗装を適用することが容易となる。
尚、広葉樹材、針葉樹材といった木材は、無垢材の他、各種の木質材であっても良い。木質材としては、集成材、合板、単板積層材(LVL)、パーティクルボード、MDF等が挙げられる。
また、下塗剤の塗布量(乾燥後の重量)は、0.01〜10g/m2であることが好ましく、より好ましくは0.1〜5g/m2である。
また、漆の塗布量(乾燥後の重量)は、0.01〜50g/m2であることが好ましく、より好ましくは0.03〜10g/m2である。
漆と有機溶剤との配合割合は、重量比(前者:後者)で100:10〜100:300であることが好ましい。
漆を塗る回数は、1回でも良いが、複数回塗る重ねることが好ましく、特に有機溶剤に溶解した漆を塗布し、更に漆を塗り重ねることが好ましい。
市販の柿渋(株式会社トミヤマ製の「柿渋」、タンニンを5重量%含む液状物)100重量部に、チタンラクテート水溶液(松本製薬工業(株)製の「オルガチックス TC−315」、チタン濃度8〜9重量%)5重量部及びクエン酸水溶液(クエン酸濃度30重量%)8重量部を混合し、この混合物を下塗剤(プライマー)としてヒノキ材に塗布した。そして、余分な塗布液をウエスで拭き取った後、常温にて自然乾燥させた。
次に、乾燥後のヒノキ材の下塗剤塗布面に、漆((有)田島漆店から入手、商品名「上生漆」)を、該漆と同重量(重量比=1:1)のテレビン油で希釈したものを刷毛で塗布し、次いで、余分な漆液をウエスで拭き取った後、温度20℃、相対湿度90%に設定した恒温恒湿槽内に放置して塗布した漆を硬化させた。このようにして、漆塗膜を有する漆塗装物を得た。この漆塗装物は、柿渋及び有機金属化合物の混合物からなる下塗剤が被塗装物に塗布されて形成された下地と該下地上に形成された漆塗膜とを有している。
実施例1において、ヒノキ材に、柿渋及びチタンラクテート水溶液の混合物を塗布しない以外は、実施例1と同様にして漆塗装物を得た。
実施例1において、ヒノキ材に、柿渋及びチタンラクテート水溶液の混合物を塗布したのに代えて、ヒノキ材に、市販の水性アクリル樹脂プライマー(和信ペイント(株)製の「水性サイディングシーラー」)を塗布した以外は、実施例1と同様にして漆塗装物を得た。
実施例1において、ヒノキ材に、柿渋及びチタンラクテート水溶液の混合物を塗布したのに代えて、ヒノキ材に、市販の溶剤型ニトロセルロースラッカー(和信ペイント(株)製の「ネオラックニス」)を塗布した以外は、実施例1と同様にして漆塗装物を得た。
実施例1において、ヒノキ材に、柿渋及びチタンラクテート水溶液の混合物を塗布したのに代えて、ヒノキ材に、市販の溶剤型セラックニス(和信ペイント(株)製の「木のヤニ止めニス」)を塗布した以外は、実施例1と同様にして漆塗装物を得た。
実施例1において、ヒノキ材に、柿渋及びチタンラクテート水溶液の混合物を塗布したのに代えて、ヒノキ材に、チタンラクテート水溶液が混合されていない市販の柿渋(株式会社トミヤマ製の「柿渋」、タンニンを5重量%含む液状物)を塗布した以外は、実施例1と同様にして漆塗装物を得た。
実施例及び比較例で得られた各漆塗装物について、硬化後の漆塗装面の色むらを目視にて観察し、その結果を以下に示した。
実施例1:漆塗装面に色むらは殆ど生じなかった。
比較例1:漆塗装面に顕著な色むらが生じた。
比較例2:水性アクリル樹脂がテレビン油と漆の混合溶液によって溶解し、漆塗装面に顕著な色むらが生じた。
比較例3:ニトロセルローススラッカーがテレビン油と漆の混合溶液によって溶解し、漆塗装面に顕著な色むらが生じた。
比較例4:セラックニスがテレビン油と漆の混合溶液によって溶解し、漆塗装面に顕著な色むらが生じた。
比較例5:比較例1に比べると色むらがやや軽減されたが、実施例1に比較すると、色むらは顕著であった。比較例5の色むらの程度が、比較例1と実施例1の何れに近いかを判断すると、実施例1との差は非常に大きく、比較例1との差はわずかであった。
本発明によれば、このように色むらが低減されるので、従来、適用が困難であった建築用途など、大面積への漆塗装、特に針葉樹材の大面積への漆塗装が可能となる。例えば、塗装面の面積が0.1〜50m2の建築部材等の塗装に漆を用いることができる。
Claims (5)
- 柿渋と使用時に該柿渋に混合される有機金属化合物とからなり、
前記有機金属化合物は、配位子が乳酸であるチタンのキレート化合物であることを特徴とする漆塗装の下塗剤。 - 前記柿渋若しくは前記有機金属化合物に予め該有機金属化合物の一部分を構成しないカルボン酸が混合されているか、又は前記柿渋及び前記有機金属化合物に加えて更にカルボン酸とからなる、請求項1に記載の漆塗装の下塗剤。
- 柿渋及び有機金属化合物の混合物からなる下塗剤を被塗装物に塗布して形成した下地及び該下地上に形成された漆塗膜を有する漆塗装物であって、
前記有機金属化合物は、配位子が乳酸であるチタンのキレート化合物であることを特徴とする漆塗装物。 - 前記被塗装物が、針葉樹材であることを特徴とする請求項3記載の漆塗装物。
- 請求項3又は4記載の漆塗装物の製造方法であって、
前記被塗装物に、前記下塗剤を塗布した後、有機溶剤で希釈した漆を塗布することを特徴とする漆塗装物の製造方法。
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