本発明者は、発光素子の発熱量を最小化することによって、素子に投入された電気エネルギーを高い効率で光エネルギーに変換できるので、有機発光素子の発光効率を向上できるとともに長寿命化ができると考え、発光素子の発熱量を定量的に求め、これを最小化するための素子構成およびその製造方法を検討し、本発明に想到した。
有機発光素子は真空デバイスと異なり、誘電体または有機材料中をキャリアが移動する素子である。シリコン半導体に見られるような半導体素子では、単一元素にキャリア発生不純物を該単一元素と共有結合させ、接合界面を境として不純物濃度が局所的に変化しており、その分布は非平衡状態にあるが、電子のフェルミエネルギーまたは化学ポテンシャルが同一となり、電子は平衡状態にある。一方、有機発光素子では接合面を形成する2つの異なるキャリア輸送層はその輸送層を形成する構成分子が異なる分子材料から構成されている点で、シリコンやガリュウム砒素等の接合を利用した半導体デバイスとは異なる。このような構成を有する有機発光素子は、無機半導体分野における、いわゆるヘテロ接合面を利用する素子に対応付けることができる。
従来の無機半導体を用いたヘテロ接合利用素子では、エピタキシー成長技術を基にヘテロ接合デバイスが作製されるが、エピタキシー成長過程におけるミスフィットパラメータ(格子定数の差)が素子特性および信頼性に重要な影響を及ぼしている。これに対し、有機発光素子においてキャリア輸送層などを化学結合などを介して一次元的に結合した分子で構成すると、無機半導体に見られる三次元的共有結合は利用していないので、有機発光素子の特性や信頼性にとってミスフィットパラメータは重要でない。従って、有機発光素子は、無機半導体素子には期待できないフレキシブル耐性を期待することができる。
有機発光素子は、キャリアタイプの異なるキャリア輸送層の接合面を有し、各輸送層はその層内における特有の空間電荷分布で規定され得る。各輸送層に印加される電界強度が大きくなると、トラップされたキャリアが再放出され、雪崩電流として観察される。これはプール・フレンケル型の電気伝導機構によって理解される。高い電界強度において、電流―電圧曲線が雪崩現象を示す前の低い電界領域において、キャリアの移動速度が電界強度に比例すると仮定する。このキャリアの移動度が固体中では有限であり、これが発熱の原因となっている。このことを理解するため、真空管との比較を示しながら、発光素子における発熱の定量的説明を以下に行う。
真空管では空間電荷制限電流を利用した整流作用や増幅作用を発現させている。まず初めに、真空管の発熱を考察する。ガス放電の影響が無くなる程度の高真空中に、熱陰極(面積S)を置き、距離dだけ離れた陽極(面積S)を置き、熱陰極に対して一定の電圧φ(d)を陽極に印加して、定常電流Iが得られている定常状態を考える。この場合空間電荷制限電流密度としてI/S=(9/8)Sqrt[q/2m](ε0S/d2)φ(d)3/2が導出される。ここで、qとmは電子の電荷の絶対値と質量、ε0は真空の誘電率である。
この式の導出にあたって、境界条件として、陰極における電子の初速度v(0)=0および電位ポテンシャルの勾配dφ(0)/dz=0を用いている。また、出発となる方程式は、電流の定義式I=qρe(z)V(z)S、真空中を流れる電子間のクーロン相互作用としてのポアソン方程式ε0d2(z)/dz2=qρe(z)、およびエネルギー保存則(1/2)mV(z)2=qφ(z)という3つの式である。ここで、ρe(z)は電子の数密度を表し、定常電流が流れることを規定する空間電荷密度である。
この真空管では、電子放出のために陰極が加熱されており、その温度と陰極材料の仕事関数によって決まる熱電子電流が真空に放出される。従って、電極間電圧を昇圧しても、陰極の温度によって決まる飽和電流が流れ、これが温度制限電流と呼ばれていることは周知である。この飽和電流に至るまでは空間電荷制限電流が流れることも知られている。
興味深いことは、空間を流れている電流には電子間のクーロン相互作用があっても、電子の運動エネルギーは静電ポテンシャルに等しいという関係が成立し、電子の運動エネルギーが散逸して熱が発生する不可逆過程が起こらないという点である。一方、陽極電極では電子の運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、陰極電極では、熱電子を真空中に放出するために電極が加熱される。そのため、真空管の電極等は、耐熱性に優れた材料で形成されている。
有機発光素子は、耐熱性の高い素材から構成することができないので、発光素子としての応用を考えるとき、その耐熱性の低い点を十分に考慮しなければならない。まず、誘電体における空間電荷制限電流を求める。これは、有機発光素子における発熱量を定量的に求める上で必要であるからである。
簡単のため、真空管整流素子に対応する素子構成を考える。但し、真空の替わりに誘電率がεε0の有機層が電極間に配置されている。ここでεは有機層の比誘電率であり、キャリアの流れる方向には一様であるとする。ローレンツ力を基にした点電荷系に対するニュートン方程式とマクスウェルの基本方程式を連立させて、空間電荷制限電流を求めることになるが、これは現在でも未解決の問題である。キャリアによって誘電体に生じる分極電荷や分極電流を持ち込むと、真空中におけるマクスウェルの方程式に対応して、誘電体中の方程式を導くことができる(例えば、砂川重信著「理論電磁気学」p61〜67、紀伊国屋書店、1967年)。
一定電圧下で一定の空間電荷電流を与える定常解に関係する方程式として2つ((1)と(2))がある。
E(z)=−dφ(z)/dz (1)
d2φ(z)/dz2=(1/εε0)qρ(z) (2)
I=qρ(z)vq(z)S (3)
式(1)は静電場と電位ポテンシャルを結ぶ通常の関係式であり、式(2)は誘電体中の方程式として比誘電率εを反映しているポアソン方程式である。式(3)は電流の定義
であり、高い電位から低い電位に流れる方向を正としており、真空管で定義したものを用いる。ここで求める物理量は定常解としての電流I、電極間における各点での電界E(z)、電位φ(z)、電子速度V(z)および空間電荷密度関数ρ(z)である。
従って、真空管におけるエネルギー保存則に相当するもう一つの式が無いと、場(E(z)と電位φ(z))と粒子(ρ(z)とV(z))の物理量が同時に求められない。そこで、近似として、誘電体中では各点zにおいて、キャリア(ここでは電子を想定している)の移動速度V(z)=μqE(z)という式(4)を導入する。
比例定数μqは誘電体固有の性質を表現するもう一つの物性物理定数であり、通常、移動度と呼ばれ、その単位はcm2/Vsである。オームの経験則で表現すると電流密度i(z)=σ(z)E(z)という関係となり、電気導伝率σ(z)=qρ(z)μqは電荷密度の空間分布を反映する空間依存性を示す点で、通常のオームの法則でないことは注目に値する。
真空管と同様に境界条件dφ(0)/dz=0を仮定すると、空間電荷制限電流密度の大きさとしてI/S=(9/8)(εε0μq)φ(d)2/d3が導出される。
以上によって、有機発光素子は、室温の陰極を用いるが、真空管と異なり、キャリア輸送過程でその運動エネルギーが散逸する不可逆過程が存在することが明確に解る。この過程の存在に為に発熱が素子内部に発生して、弱い分子間力で凝集していて、熱伝導定数がシリコン(銅の熱伝導率の1/4程度)より低い有機層の物性定数の温度変化、およびヘテロ接合界面を通して相互拡散という現象により、素子の特性劣化や素子寿命の短命化が生じると予測される。
真空中における電磁場のエネルギー保存則に対応して、誘電体における電磁場のエネルギー保存則が与えられている。この保存則を用いると、有機層の体積Sdから発生する熱量Qは(Sd)(4/3)(1/(qμqΔφ))(Id/S)2と求めることができる。ここでΔφ=φ(d)−φ(0)である。
幾何学因子を除くと誘電体の物性値μqが大きいほど発熱量は小さくできると期待できる。従って、有機発光素子の発熱を低減するためには、移動度を高める構成を考慮すべきであることがわかる。
有機層における移動度を高めるためには、キャリアを輸送する共役系分子はその配向が電極平面に垂直になることが望ましい。スピンコート法やインクジェット法で得られる有機層では共役系高分子のモノマユニットがランダムに配向するので、そのパイ電子の移動度は一次元的に伸びきった構造を有する有機層の伸びきった方向の移動度より小さいことは知られている。
次に、発光効率を向上させる有機層の構造を説明する。
まず、電極間に設けられた有機層が、一層の発光層(有機発光層)のみである構成(素子構成1と呼ぶ)および、有機層が電子輸送層とホール輸送層からなる二層(素子構成2と呼ぶ)とする素子構成に対する空間電荷、電位、電界等を以下に算出した。
電極間の有機層を一層とする発光素子(素子構成1)におけるキャリアの空間電荷分布を電子とホールについて求める。出発となる方程式は以下の通りである。
E(z)=−dφ(z)/dz (5)
d2φ(z)/dz2=(q/εnpε0)(ρn(z)−ρp(z)) (6)
I=q(ρn(z)vn(z)+ρh(z)vh(z))S (7)
vn(z)=μnE(z) (8)
vp(z)=μpE(z) (9)
dI/dz=0 (10)
但し、簡単のため、陰極z=0における電子の初速度vn(0)は零、また、陽極z=dにおけるホールの初速度vh(0)は零とする。式(10)は電子とホールの電荷保存則に対して、電荷密度時間変化しない定常解を求めているので、導かれる式である。従って、式(10)は、式(7)の右辺が空間依存性を見かけ上もっているのに対し、空間依存性が生じないことを保証している。
式(7)はI/S=q(μnρn(z)+μpρh(z))E(z)と書けるが、式(10)により、変数分離定数Hを導入して、μnρn(z)+μpρh(z)=(μnρn(0)+μpρh(0))Exp[−Hz]およびE(z)=E(0)Exp[Hz]と表現できる。
注入された電子とホールは、発光センターにおいて再結合することによって消滅するので、電子とホールとが同数存在し、有機層全体に亘る電気的中性が成立するときに、発光効率は最大になると予想される。この時、式(6)の左辺は有機層全体に亘って空間積分すると、零となる。従って、E(0)=−dφ(0)/dz=−dφ(d)/dz=E(d)という式が導かれ、式(5)を用いると、E(d)=E(0)Exp[Hd]、即ち、H=0という関係式が得られる。
従って、ρn(z)=ρn(0)=ρh(z)=ρh(0)が導かれる。この場合、空間電荷制限電流密度はI/S=−q(ρn(0)+ρh(d))(μn+μp)(φ(d)−φ(0))/dとなる。即ち、見かけ上オーミックな挙動を示す。
この素子構成1では有機層中のどこでも、各キャリアの移動度によらず、電子とホールの密度が同じとなることが示唆される。電極近傍での再結合では、再結合サイトは中性の励起状態であり、これが高密度で生成されると、濃度拡散により電極面で失活するので、これを防ぐ手段を講じることが好ましい。電極面における再結合サイトの失活を防止するために、電極と有機層とを共有結合まはた水素結合、好ましくは共有結合で結合させる。素子構成1における電位分布φ(z)、電界強度分布E(z)および各キャリア分布(n(z)とp(z))を図1(a)〜(c)に示す。
次に、素子構成2に相当する素子において電極間に電子輸送層(0<z<dr)とホール輸送層(dr<z<d)が形成される二層構造素子におけるキャリア密度分布等を求める。電子輸送層では以下の方程式が出発点である。
E(z)=−dφ(z)/dz (11)
d2φ(z)/dz2=(q/εnε0)ρn(z) (12)
In=qρn(z)vn(z)S (13)
vn(z)=μnE(z) (14)
dIn/dz=0 (15)
ホール輸送層では以下の方程式が出発点である。
E(z)=−dφ(z)/dz (16)
d2φ(z)/dz2=−(q/εpε0)ρhρ(z) (17)
Ip=qρp(z)vp(z)S (18)
vp(z)=μpE(z) (19)
dIp/dz=0 (20)
但し、簡単のため、陰極z=0における電子の初速度は零、また、陽極z=dにおけるホールの初速度は零とする。位置z=drにおいて、電子とホールの濃度と空間制限電流が等しいという電気的中性の原理を適用すると、drとφ(dr)の値が以下のように求めることができる。
dr/d=μnεn/(μnεn+μpεp) (21)
φ(dr)=(μpεpφ(0)+μnεnφ(d))/(μnεn+μpεp)(22)
従って、二層構造ではnキャリア層(電子輸送層)とpキャリア層(ホール輸送層)の界面で再結合が発生する構成を実現できるので、z=drの位置に発光分子を局在させると、効率よく発光サイトでキャリアの再結合が生じることになる。この場合、ホール輸送層または電子輸送層が蛍光発光すると効率的な発光が期待できる。素子構成2における電位分布φ(z/d)、電界強度分布E(z/d)および各キャリア分布(n(z/d)とp(z/d))を図2(a)〜(c)に示す。
次に、素子構成3について述べる。
素子構成2において、電子輸送層およびホール輸送層が共に発光特性を有しないときは、発光分子(蛍光発光性分子または燐光発光性分子)を含む発光層(有機発光層)を素子構成2における接合面を中心として、すなわち、ホール輸送層と電子輸送層との間に形成することによって、発光素子を構成することが出来る。この発光層において、発光分子が近づき過ぎると消光が生じ、発光効率が低下する場合があるので、発光層中に発光分子を所定の濃度で均一分散させることが好ましい。発光層は、単分子層または単分子層の積層体として構成され得る。このような素子構成3の有機層は、図2(c)に示したようなキャリア分布を有する。
以下に、素子構成1、2および3を有する有機発光素子の具体的な構成およびその製造方法を説明する。
(実施形態1)
図3に実施形態1の有機発光素子30の構造を模式的に示す。有機発光素子30は、上述の素子構成1を有する。
有機発光素子30は、基板(例えばガラス基板)31上に形成されたホール輸送電極(例えばITO電極:第1電極)32と、ホール輸送電極32よりも仕事関数が小さい電子輸送電極(例えばAl電極:第2電極)36と、ホール輸送電極32と電子輸送電極36との間に設けられた有機発光層30aとを有しており、有機発光層30aに輸送されるP型キャリアおよびN型キャリアの空間電荷制限電流を利用して蛍光を発光する。
有機発光層30aは、平面構造を含む共役系炭化水素分子であってP型キャリアを輸送するP型分子(ホール輸送機能分子)34と、N型キャリアを生成するN型分子(電子輸送機能分子)35とが共有結合を介して結合された共役系分子鎖を含んでいる。N型分子35は、P型分子34の共役系を構成するCH(炭素−水素)部位の少なくとも1つを窒素に置換された分子であり、P型分子34またはN型分子35が蛍光発光性を有している。P型分子34は、例えば、ビフェニル基、スチレン基およびフェニルスチレン基からなる群から選択された少なくとも1つの原子団を有していることが好ましく、N型分子は、前記少なくとも1つの原子団におけるSP2炭素の少なくとも1つが窒素に置換された分子であることが好ましい。
例えば、P型分子としては、(化1)に示す両末端にカルボキシル基を有するPC−1からPC−3、(化2)に示す両末端にアミノ基を有するPA−1からPA−3を好適に用いることができる。また、N型分子としては、(化3)に示す両末端にカルボキシル基を有するNC−1からNC−6、(化4)に示す両末端にアミノ基を有するNA−1からNA−5を好適に用いることができる。また、有機発光分子として、(化5)に示すカルボキシル基を有するLC−1〜LC−4およびアミノ基を有するLA−1〜LA−4を用いることができる。
上記共役系分子鎖は、それぞれの分子鎖内にP型分子34とN型分子35を交互に有しており、P型分子34およびN型分子35の有機発光層30aの厚さ方向における分布は実質的に均一であり、図1(c)に示したような均一なキャリア分布を有している。
また、P型分子34およびN型分子35が有する平面構造はホール輸送電極32および電子輸送電極36に平行な面に対して略垂直に配向しており、有機発光層30aは高い移動度を有している。
さらに、有機発光層30aを構成する上記共役系分子鎖は、ホール輸送電極32の表面に、共有結合または水素結合を介して結合されている。ここでは、カップリング剤33から形成された単分子膜状のカップリング剤層を介した共有結合によって結合されている。カップリング剤33として、例えば、シランカップリング剤を好適に用いることができる。
次に、有機発光素子30の具体的な製造方法を説明する。有機発光素子30の製造工程は、後に図8を参照ながら説明する実施形態4の有機発光素子60の製造工程に含まれている。
ここでは、P型分子34とN型分子35とを交互に結合する共有結合として、アミド結合を採用する。アミノ基とカルボキシル基の脱水反応により、分子と分子をアミド結合以外の共有結合で結合しても構わない。脱水反応を利用すると、上述した脱塩酸反応のように電極を腐食したり、あるいは、キャリアとなることがないので好ましい。
有機発光素子30の製造プロセスは、(1)ホール輸送電極形成工程、(2)単分子膜形成工程、(3)有機発光層形成工程、(4)電子輸送電極形成工程を含む。以下に、工程順に説明する。
(I)ホール輸送電極形成工程
研磨したガラス基板上にスパッタ法により膜厚50nmのSiO2膜を形成後、その上に膜厚150nmのITO膜を形成して、シート抵抗約20Ω/□の透明ITO電極32を形成する。このITO電極32をアセトン、クロロホルム、アセトン、純水の順に洗浄して乾燥した後、酸素プラズマ処理(15分間)もしくはKOH水溶液(0.05mol/l)に30分間浸漬することにより、ITO電極32の表面を親水性とし、最表面に水酸基を形成させる。
(II)単分子膜(カップリング剤層)形成工程
純水50mlに酢酸0.5ml、アミノプロピルメトキシシラン0.4gを添加後攪拌した表面処理液(pH4〜4.5)を調製する。この表面処理液に、上記ITO電極32を形成した基板31を浸漬し、室温で30分間放置した後、クリーンオーブン中で120℃で30分間加熱する。次に、アセトン、純水、アセトンの順で洗浄して乾燥する。この操作により、ITO電極32の最表面に、アミノ基を有するシランカップリング剤33からなる単分子膜が形成される。シランカップリグ剤33は、ITO電極32の表面水酸基と水素結合または共有結合(脱水反応による)を介して結合する。上述のように加熱処理等を施し、ITO電極32の表面と安定な共有結合を形成することが好ましい。シランカップリング剤33は、アミノ基が空気側表面に露出された、単分子膜状のカップリング剤層となる。
(III)有機発光層形成工程
有機発光層30aを構成する個々の共役系分子鎖は、P型分子34とN型分子35とが交互に共有結合した構造を有している。有機発光層30aの全体でみると、P型分子34から構成されるP型分子層(P型分子34と同じ参照符号で示す。)34とN型分子35から構成されるN型分子層(N型分子35と同じ参照符号で示す。)の交互積層膜となっている。以下に、この交互積層型の有機発光層30aの形成工程を説明する。
ITO電極32の表面に結合したカップリング剤33のアミノ基と、P型分子(例えば、ベンゼン環を含むπ共役系芳香族炭化水素分子)34の両末端に位置するカルボキシル基の一方とを縮合剤を用いて反応させることによって、アミド結合を介して結合させる。次に、両末端にアミノ基を有するP型分子34を反応させて、先のP型分子34とアミド結合で結合させる。
縮合剤水溶液には、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(100mg/ml)とN−ヒドロキシスクシンイミド(100mg/ml)を等量で混合して調製したものを用いることができる。ITO電極32を形成した基板31を(1)縮合剤水溶液に10分間浸漬し、(2)P型分子ジカルボン酸水溶液(200mg/ml)に10分間浸漬し、超純水で十分に洗浄後乾燥する。次に、(3)縮合剤水溶液に10分間浸漬し、その後に、(4)P型分子ジアミン水溶液(200mg/ml)10分間ずつ浸漬し、超純水で十分に洗浄後乾燥する。その結果、P型分子ジカルボン酸単分子膜、P型分子ジアミン単分子膜の順に積層され、各単分子膜の間はアミド結合で結合される。
次に、N型分子(例えば、ピリジン環を含むπ共役系芳香族炭化水素分子)の両末端に位置するカルボキシル基の一方を反応させて、アミド結合で化学的に結合させる。
次に、両末端にアミノ基を有するN型分子を反応させて、アミド結合を形成して、先のN型分子に結合させる。この工程は例えば以下のように実行される。
上記工程(1)〜(4)を経た基板31を(5)縮合剤水溶液に10分間浸漬し、(6)N型分子ジカルボン酸水溶液(200mg/ml)に10分間浸漬し、超純水で十分に洗浄後乾燥する。次に、(7)縮合剤水溶液に10分間浸漬し、その後に、(8)N型分子ジアミン水溶液(200mg/ml)10分間ずつ浸漬し、超純水で十分に洗浄後乾燥する。
上述の(1)〜(8)の工程を例えば1回から30回順次繰り返することによって交互積層型の有機発光層30aを形成することができる。例えば、上記(1)〜(8)のプロセスを10回順次繰り返すことによって約25nmの有機発光層25が得られる。有機発光層30aの厚さは、例えば、エリプソメトリー法により測定することができる。
なお、有機発光層30aとして、2つのP型分子と2つのN型分子とが交互に配置された構成を例示したが、P型分子とN型分子とを1分子ずつ交互に配置しても良いし、3分子以上ずつ配置しても良いし、P分子とN分子との数の比が異なっても良い。また、P型分子とN型分子とをそれぞれの分子末端の官能基どうしを直接反応させ共有結合させたが、例えば2官能性の第3分子を介して、P型分子とN型分子とを共有結合させてもよい。
(IV)電子輸送電極形成工程
有機発光層30aの上部に、例えば、アルミニウム、MgAg合金、Al:Liを用いて電子輸送電極36を形成する。具体的には、有機発光層30a上に、例えば、真空蒸着法によりシャドウマスクを用いて10mm角のパターンからなる厚さ200nmのリチウムドープアルミニウム金属からなる電子輸送電極36を形成する。
有機発光層30aは、共有結合を介して互いに結合されたP型分子34とN型分子35とを含む共役系分子鎖から形成されており、且つ、共役系分子鎖がカップリング剤33を介してホール輸送電極32の表面と結合しているので、分子間相互作用で凝集したLB膜よりも機械的強度が高く、有機発光層30a上に安定に電子輸送電極36を形成することができる。
このようにして得られる有機発光素子30は、例えば、P型分子のπ電子共役系の骨格がビフェニル環の場合、電圧印加により青色発光が得られる。
(実施形態2)
図4に実施形態2の有機発光素子40の構造を模式的に示す。有機発光素子40は、実施形態1と同様に、上述の素子構成1を有する。
有機発光素子40は、有機発光層40aを構成する共役系分子鎖が、それぞれの分子鎖内にP型分子44とN型分子45とをランダムに有している点において、有機発光素子30と異なり、P型分子44およびN型分子45の有機発光層40aの厚さ方向における分布は実質的に均一であり、図1(c)に示したような均一なキャリア分布を有している点は、有機発光素子30と同じである。
有機発光素子40は、基板41上に形成されたホール輸送電極42と、電子輸送電極46と、ホール輸送電極42と電子輸送電極46との間に設けられた有機発光層40aとを有しており、有機発光層40aに輸送されるP型キャリアおよびN型キャリアの空間電荷制限電流を利用して蛍光を発光する。
以下に、有機発光層40aの形成工程を説明する。有機発光素子40を製造するための他の工程は、実施形態1の有機発光素子30を製造する工程と実質的に同じなので、ここでは説明を省略する。
まず、分子骨格の両末端にカルボキシル基を有するP型分子44とN型分子45を等量ずつ溶解させたカルボン酸系混合水溶液、両末端にアミノ基を有するP型分子44とN型分子45を等量ずつ溶解させたアミノ系混合水溶液を調製する。
ITO電極42の表面にアミノ基を有するカップリング剤層が形成された基板41を縮合剤水溶液に10分間浸漬し、次にカルボン酸系混合水溶液(200mg/ml)に10分間浸漬し、超純水で十分に洗浄する。次に、縮合剤水溶液に10分間浸漬し、その後、アミン系混合水溶液(200mg/ml)10分間ずつ浸漬し、超純水で十分に洗浄後乾燥する。これらの工程を例えば1回〜20回順次繰り返することによって、ランダム混合型の有機発光層40aが形成される。
このようにして得られる有機発光層40aを有する有機発光素子40は、例えば、P型分子のπ電子共役系の骨格がビフェニル環の場合、電圧印加により青色発光が得られる。
(実施形態3)
図5に実施形態3の有機発光素子50の構造を模式的に示す。有機発光素子50は、上述の素子構成2を有する。
有機発光素子50の有機層は、ホール輸送層50pと電子輸送層50nとを有し、図2(c)に示したようなキャリア分布を有している。ホール輸送層50pは、P型分子54が直接互いに共有結合されたP型分子鎖部分から形成されており、電子輸送層50nは、N型分子55が直接互いに共有結合したN型分子鎖部分とから形成されている。P型分子54またはN型分子55が蛍光発光性を有している。
以下に、ホール輸送層50pと電子輸送層50nとから構成される有機層の形成工程を説明する。有機発光素子50を製造するための他の工程は、実施形態1の有機発光素子30を製造する工程と実質的に同じなので、ここでは説明を省略する。
まず、ITO電極52上にホール輸送層50pを形成する工程を説明する。
ITO電極52の表面にアミノ基を有するカップリング剤層53が形成された基板51を(1)縮合剤水溶液に10分間浸漬し、(2)ジカルボン酸P型分子水溶液に10分間浸漬し、(3)超純水で10分間洗浄する。(4)縮合剤水溶液に10分間浸漬し、(5)ジアミンP型分子水溶液に10分間浸漬し、(6)超純水で10分間洗浄し乾燥する。このようなジカルボン酸P型分子54とジアミンP型分子54とを交互に反応させる操作を、例えば1回〜20回順次繰り返すことによって、P型分子鎖から構成されるホール輸送層(p型キャリア層)50pが形成される。
次に、上述のようにして得られたホール輸送層50pの表面のアミノ基と、両末端にカルボキシル基を有するN型分子55とを反応させて、N型分子55をP型分子54とアミド結合で結合する。次に、N型分子のカルボキシル基と、両末端にアミノ基を有するN型分子の一方のアミノ基とを反応させて、アミド結合を形成する。この操作を1回〜10回順次繰り返することによって、ホール輸送層50pに共有結合を介して結合された電子輸送層50nが形成される。
具体的には、アミノ基を表面に有するホール輸送層10pが形成された基板51を(1)縮合剤水溶液に10分間浸漬し、(2)ジカルボン酸N型分子水溶液に10分間浸漬し、(3)超純水で洗浄10分間浸漬し、(4)縮合剤水溶液に10分間浸漬し、(5)ジアミンN型分子水溶液に10分間浸漬し、(6)超純水で10分間洗浄し乾燥する。このようなジカルボン酸N型分子とジアミンN型分子とを交互に反応させる操作を1回〜20回順次繰り返することによって、ホール輸送層50pに共有結合を介して結合された電子輸送層50nが形成される。
例えば、ホール輸送層50pを形成するための交互積層操作を10回、電子輸送層50nを形成するための交互積層操作を10回実施することによって、厚さが20nmの有機層が得られる。この有機層の表面粗さは、例えば、AFM観察によって評価され、平均粗さRaが1.5nm程度の平滑な層を形成することができる。
このようにして得られる有機層を有する有機発光素子50は、例えば、P型分子のπ電子共役系の骨格がビフェニル環の場合、電圧印加により青色発光が得られる。
(実施形態4)
図6に実施形態4の有機発光素子60の構造を模式的に示す。有機発光素子60は、上述の素子構成3を有する。
有機発光素子60の有機層は、ホール輸送層60pと、電子輸送層60nと、ホール輸送層60pと電子輸送層60nとの間に設けられた有機発光層60aとを有し、図2(c)に示したようなキャリア分布を有している。ホール輸送層60pおよび電子輸送層60nは、これらを構成するP型分子64およびN型分子65が蛍光発光性を有しない点を除けば、実施形態3のホール輸送層50pおよび電子輸送層50nと実質的に同じである。
有機発光素子60の有機層は、上記の実施形態の有機層と同様に、カップリング剤63によって、ITO電極62の表面に結合された共役系分子鎖から形成されている。有機発光素子60の有機層を構成する共役系分子鎖は、P型分子64から形成されたP型分子鎖部分と、N型分子65から形成されたN型分子鎖部分と、これらの間に共有結合を介して結合された有機発光分子(蛍光発光性分子もまたは燐光発光性分子)66を含む発光分子鎖部分とを含む。ホール輸送層60pはP型分子鎖部分かれ構成され、電子輸送層60pはN型分子鎖部分から構成され、有機発光層60aは発光分子鎖部分から構成されている。
以下に、有機発光素子60の製造方法について、図8を参照しながら説明する。なお、有機発光素子60の製造方法のうち、先の実施形態の有機発光素子の製造方法と実質的に同じ工程については、その説明を簡略にする。
基板61上に形成されたITO電極62の表面に、アミノ系シランカップリング剤63からなるカップリング剤層を形成する。
両末端にカルボキシル基を有するP型分子64をカップリング剤層の表面に露出したアミノ基と反応させ、アミド結合を形成する。さらに、両末端にアミノ基を有するP型分子64を、先のP型分子64の他端のカルボキシル基と反応させる。この操作を例えば2回から20回順次繰り返すことによって、P型分子が直接結合したP型分子鎖部分を形成する。このP型分子鎖部分がホール輸送層60pを構成する。
次に、ホール輸送層60p上に有機発光層60を形成する。
有機発光層60aは、P型分子64およびN型分子65以外に有機発光分子66を含んでいる。有機発光分子66は、複数のカルボキシル基もしくはアミノ基を有している。有機発光分子66としては、例えば、図8に示したイリジウム錯体(Ir(ppy)3)や、ルテニウム錯体の配位子にカルボキシル基もしくはアミノ基を有する錯体化合物を用いることができる。
分子末端にカルボキシル基を有するP型分子64および発光分子66を準備し、これらの混合系のカルボキシル基をホール輸送層60pの最表面のアミノ基と脱水反応させアミド結合で結合する。次に、分子末端にアミノを有するN型分子65および発光分子66を準備し、これらの混合系を最表面のカルボキシル基と反応させて、アミド結合で結合する。これらの操作を1回から10回順次繰り返すことによって、交互積層型の有機発光層60aが形成される。有機発光素子60の有機層を構成する共役鎖のそれぞれにおいて、有機発光分子66はP型分子鎖部分とN型分子鎖部分の丁度中間に存在することになる。有機発光層60aのこの構造は、実施形態1の有機発光素子30が有する有機発光層30aの構造と実質的に同じである。
有機発光分子(例えば、イリジウム錯体分子)が高濃度で存在すると、発光効率が低下することがあるため、上述したようにP型分子64もしくはN型分子65で有機発光分子66を希釈(例えば数モル%以下)しておくことが好ましい。ランダム混合型の有機発光層40aを用いても良いし、上述の有機発光層60aと組み合わせてもよい。
得られた有機発光層60a上に電子輸送層60nを形成する。両末端にカルボキシル基を有するN型分子65を、有機発光層60aの最表面に露出されたアミノ基と反応させる。次に、両末端にアミノ基を有するN型分子65を先のN型分子65の他端のカルボキシル基と反応させる。この操作を例えば2回から20回順次繰り返すことによって、N型分子が直接結合したN型分子鎖部分を形成する。このN型分子鎖部分が電子輸送層60nを構成する。この電子輸送層60n上に上述したように電子輸送電極67を形成することによって、有機発光素子60が得られる。
(実施形態5)
図7に実施形態5の有機発光素子70の構造を模式的に示す。有機発光素子70は、上述の素子構成3を有する。
有機発光素子70の有機層は、ホール輸送層70pと、電子輸送層70nと、ホール輸送層70pと電子輸送層70nとの間に設けられた有機発光層70aとを有し、図2(c)に示したようなキャリア分布を有している。
有機発光素子70は、有機発光層70aの構造が異なる点を除いて、実施形態4の有機発光素子60と実質的に同じである。有機発光素子70の有機層を構成する共役系分子鎖中における発光分子76の位置がランダム(N型分子鎖の間に位置するものもあれば、P型分子鎖の間に位置するものもある)点において、有機発光素子60の有機層と異なっている。有機発光層70aのこの構造は、実施形態2の有機発光素子40が有する有機発光40aの構造と実質的に同じである。
この有機発光層70aは以下の用にして形成される。
上述の実施形態4と同様にして、表面にアミノ基を有するホール輸送層70pを形成した後、両末端にカルボキシル基を有するP型分子74、N型分子75および有機発光分子76の混合物をホール輸送層70pのアミノ基と反応させる。この後、両末端にアミノ基を有するP型分子74、N型分子75および有機発光分子76の混合物を、先のP型分子74、N型分子75および有機発光分子76のカルボキシル基と反応させ、アミド結合で結合させる。これらの操作を1回から10回順次繰り返すことによって、ランダム積層型の有機発光層70aが形成される。
上述の実施形態1から5で例示した有機発光素子の有機層(有機発光層、ホール輸送層および電子輸送層)は、いずれも電極表面にカップリング剤層を介して結合した共役系分子鎖で構成されており、共役系分子鎖は共有結合を介して互いに結合されたP型分子とN型分子と有している。従って、単分子層の間に共有結合を有しないLB膜などよりも機械的強度が高く、また有機層を構成する分子の相互拡散も起こらないので熱的な安定性(耐熱性)にも優れる。
また、カップリング剤として例示したシランカップング剤(例えば3つのアルコキシ基と1つのアミノ基)のように4官能性以上のカップリング剤は、隣接するカップリング剤分子間にシロキサン結合(共有結合)を形成し、カップリング剤層内に3次元的な網目構造を形成するので、カップリング剤層およびそれに共有結合を介して結合された有機層は熱的安定性、機械的安定性および/または化学的安定性に優れる。このような効果を得るためには4官能性以上のカップリング剤を用いることが好ましいが、3官能性以上のカップリング剤を用いることによって熱的安定性、機械的安定性および/または化学的安定性を向上する効果が得られる。なお、3官能性のカップリング剤と4官能性以上のカップリング剤とを混合して用いても良い。
さらに、本発明の実施形態による有機発光素子の有機層を構成する共役系分子鎖は、その平面構造が電極に対して略垂直に配向しているので、共役系分子鎖方向の高い移動度を効果的が発現され、発光効率が向上するとともに、発光に伴う発熱量が比較的少ない。また、有機層内にキャリアをトラップするサイト(例えばイオン結合)を有しないので、比較的高い移動度を有している。さらに、特に、素子構成2または3を有する実施形態2〜5の有機発光素子では、ホールと電子との再結合をホール輸送層と電子輸送層との境界部で効率的に発生させられるので、さらに発光効率が高く、発熱量も少なくできる。
本発明の実施形態による有機発光素子においては、上述の共役系分子鎖の配向構造が上述のカップリング剤を介した共有結合によって安定化されているので、優れた特性を有するとともに、信頼性に優れる。
(実施形態6)
本実施形態では、図6に示した実施形態4の有機発光素子60と実質的に同じ構造を有し、熱的安定性および機械的安定性にさらに優れた有機発光素子の製造方法を説明する。再び図6を参照するとともに、図9を参照しながら、本実施形態の有機発光素子60の製造方法を説明する。
まず、基板61上に形成されたITO電極62の表面に、アミノ系シランカップリング剤(例えば、アミノプロピルトリメトキシシラン)63からなるカップリング剤層を気相法により形成する(図9参照)。例えば、蓋付きPTFE(例えばテフロン(登録商標))製の容器中に、ITO電極62とアミノプロピルトリメトキシシラン63を入れたガラス製小瓶を入れて、密封する。この容器をクリーンオーブン内に入れて120℃で2時間加熱し、ITO電極表面にアミノシラン単分子層を形成する。このとき、このアミノシランの単分子層は、ITO電極表面に共有結合(または水素結合)を介して結合するとともに、アミノシラン単分子層内に3次元的な網目構造を有しているので、熱的安定性、機械的安定性および/または化学的安定性に優れる。
次に、分子骨格の末端にカルボキシル基と水酸基を有するP型分子64を用意し、カップリング剤層の表面に露出したアミノ基とカルボキシル基を反応させ、アミド結合を形成する。
さらに、アミノ系シランカップリング剤63を、先のP型分子64の他端の水酸基と反応させる。このときにも、隣接するアミノシラン同志がシロキサン結合を生成する(シラノール基の脱水縮合)。
この操作を例えば2回から20回順次繰り返すことによって、P型分子64がシランカップリング剤を含む共有結合を介して直接結合されたP型分子鎖部分が形成される。このP型分子鎖部分がホール輸送層60pを構成する。ここで得られるP型分子鎖部分はアミノカップリング剤63同志の共有結合を介して隣接するP型分子鎖部分と結合されている。
次に、ホール輸送層60p上に有機発光層60aを形成する。
有機発光層60aは、P型分子64およびN型分子65以外に有機発光分子66を含んでいる。有機発光分子66は、複数のカルボキシル基と水酸基を有している。有機発光分子66としては、例えば、図8に示したイリジウム錯体(Ir(ppy)3)や、ルテニウム錯体の配位子にカルボキシル基もしくは水酸基を有する錯体化合物を用いることができる。
ホール輸送層60pの最表面の水酸基とアミノ系シランカップリング剤63を反応させて、カップリング剤層を形成する。このシランカップリング剤層のアミノ基とカルボキシル基を脱水反応させアミド結合で発光分子を結合する。まず、分子骨格末端にカルボキシル基と水酸基を有するP型分子64および発光分子66を準備する。これらの混合系のカルボキシル基を、ホール輸送層60pの最表面の水酸基と脱水反応させアミド結合で結合する。次に、分子末端にアミノを有するN型分子65および発光分子66を準備し、これらの混合系を最表面のカルボキシル基と反応させて、アミド結合で結合する。これらの操作を1回から10回順次繰り返すことによって、交互積層型の有機発光層60aが形成される。有機発光素子60の有機層を構成する共役鎖のそれぞれにおいて、有機発光分子66はP型分子鎖部分とN型分子鎖部分の丁度中間に存在することになる。有機発光層60aのこの構造は、実施形態1の有機発光素子30が有する有機発光層30aの構造と実質的に同じである。
有機発光分子(例えば、イリジウム錯体分子)が高濃度で存在すると、発光効率が低下することがあるため、上述したようにP型分子64もしくはN型分子65で有機発光分子66を希釈(例えば数モル%以下)しておくことが好ましい。また、上述のランダム混合型の有機発光層40aを用いても良いし、ランダム混合型の有機発光層40aと有機発光層60aと組み合わせてもよい。
得られた有機発光層60a上に電子輸送層60nを形成する。末端にカルボキシル基と水酸基を有するN型分子65を用意する。有機発光層60aの最表面に露出されたアミノ基とN型分子65のカルボキシル基を反応させる。次に、アミノ系シランカップリング剤63を先のN型分子65の他端の水酸基と反応させる。このときにも、隣接するアミノシラン同志がシロキサン結合を生成する。
この操作を例えば2回から20回順次繰り返すことによって、N型分子がシランカップリング剤を含む共有結合を介して直接結合されたN型分子鎖部分を形成する。このN型分子鎖部分が電子輸送層60nを構成する。ここで得られるN型分子鎖部分はアミノカップリング剤63同志の共有結合を介して隣接するN型分子鎖部分互いに結合されている。
この電子輸送層60n上に上述したように電子輸送電極67を形成することによって、有機発光素子60が得られる。
この実施形態6で例示した有機発光素子の有機層(有機発光層、ホール輸送層および電子輸送層)は、いずれも電極表面にカップリング剤層を介して結合した共役系分子鎖で構成されており、共役系分子鎖は共有結合を介して互いに結合されたP型分子(P型分子鎖分を構成)とN型分子(P型分子鎖分を構成)と有している。さらに、共役系分子鎖同士がシランカップリングを介した共有結合で結合されているため、横方向(有機層の層面内方向)にも機械的強度が高く、各層毎に積層する際の被覆率はさらに向上する。また、有機層を構成する分子の相互拡散も起こらないので熱的な安定性(耐熱性)をさらに高めることができる。
ここでは、共役系分子鎖を構成するP型分子鎖部分およびN型分子鎖部分のそれぞれにおいてシランカップリング剤を用いて共有結合を形成する例を示したが、シランカップリグ剤を介して隣接する共役系分子鎖同志を結合すれば、有機層の層面内方向における安定性を向上することができるので、共役系分子鎖内の少なくとも一箇所にシランカップリング剤を含む共有結合を導入すればよい。
また、ここでは実施形態4の有機発光素子60が有する有機発光層60aにシランカップリング剤を介して共有結合を導入した例を示したが、他の実施形態の有機発光素子が有する有機発光層にも適用できる。
(実施形態7)
上記の実施形態1から6は本発明を有機発光素子に適用した例であるが、本発明を有機トランジスタに適用することにより、有機層の熱的安定性および機械的安定性を向上することもできる。
図10に実施形態7の有機トランジスタ100の構造を模式的に示す。
有機トランジスタ100は、基板101上のソース電極102と、ドレイン電極105と、ソース電極102とドレイン電極105との間に設けられた有機層100aと、ゲート絶縁膜106と、ゲート絶縁膜106を挟んで有機層100aと対向する位置に設けられたゲート電極107とを有する。有機トランジスタ100は、ソース電極102とドレイン電極105の間に流れる電流の大きさをゲート電極107に印加されるゲート電圧で制御するFET素子である。
有機層100aは、共役系炭化水素分子が直接または間接に共有結合を介して結合された共役系分子鎖によって構成されている。共役系炭化水素分子はP型キャリアを輸送するP型分子(ホール輸送機能分子)とN型キャリアを輸送するN型分子(電子輸送機能分子)、P型キャリアとN型キャリアの両方を輸送する両極性輸送分子(両極性輸送機能分子)のいずれを用いることもできる。
共役系炭化水素分子としては、例えば、(化1)に示す両末端にカルボキシル基を有するP型分子PC−1からPC−3、(化2)に示す両末端にアミノ基を有するP型分子PA−1からPA−3、(化3)に示す両末端にカルボキシル基を有するNC−1からNC−6、(化4)に示す両末端にアミノ基を有するNA−1からNA−5を好適に用いることができる。
有機層100aを構成する共役系分子鎖は、ソース電極102およびドレイン電極105に平行な面に対して略垂直に配向しており、有機層100aは高いキャリア移動度を有している。このため、有機トランジスタ100は高い動作周波数で駆動することができる。例示した化合物を用いて形成される共役系分子鎖は上述したように平面構造を有し、その平面構造がソース電極102およびドレイン電極105に平行な面に対して略垂直に配向するので、特に優れた特性を有する。
また、有機層100aを構成する共役系分子鎖は、共役系炭化水素分子が共有結合を介して結合することにより形成されており、機械的、化学的、熱的耐久性に優れている。
さらに、有機層100aを構成する共役系分子鎖は、ソース電極102の表面に、共有結合または水素結合を介して結合されている。ここでは、カップリング剤103から形成された単分子膜状のカップリング剤層を介した共有結合によって結合されている。このため、有機層100aはソース電極102との密着性が高く、機械的、化学的、熱的耐久性に優れている。カップリング剤103として、例えば、シランカップリング剤を好適に用いることができる。
カップリング剤として上述したシランカップング剤(例えば3つのアルコキシ基と1つのアミノ基)のように4官能性以上のカップリング剤は、隣接するカップリング剤分子間にシロキサン結合(共有結合)を形成し、カップリング剤層内に3次元的な網目構造を形成するので、カップリング剤層およびそれに共有結合を介して結合された有機層は熱的安定性、機械的安定性および/または化学的安定性に優れる。このような効果を得るためには4官能性以上のカップリング剤を用いることが好ましい。
次に、有機トランジスタ100の具体的な製造方法を説明する。
ここでは、共役系炭化水素分子を結合する共有結合として、アミド結合を採用するが、アミド結合以外の共有結合で結合しても構わない。脱水反応を利用すると、脱塩酸反応のように電極を腐食したり、あるいはキャリアとなることがないので好ましい。
有機発光素子100の製造プロセスは、(I)ソース電極形成工程、(II)単分子膜形成工程、(III)有機層形成工程、(IV)ドレイン電極形成工程、(V)ゲート絶縁膜およびゲート電極形成工程、を含む。以下に工程順に説明する。
(I)ソース電極形成工程
研磨したガラス基板上にスパッタ法により膜厚50nmのSiO2膜を形成後、その上に膜厚150nmのITO膜を形成して、シート抵抗約20Ω/□のITO電極102を形成する。このITO電極102をアセトン、クロロホルム、アセトン、純水の順に洗浄して乾燥した後、酸素プラズマ処理(15分間)もしくはKOH水溶液(0.05mol/l)に30分間浸漬することにより、ITO電極102の表面を親水性とし、最表面に水酸基を形成させる。
(II)単分子膜(カップリング剤層)形成工程
純水50mlに酢酸0.5ml、アミノプロピルメトキシシラン0.4gを添加攪拌した表面処理液(pH4〜4.5)を調製する。この表面処理液に、上記ITO電極102を形成した基板101を浸漬し、室温で30分間放置した後、クリーンオーブン中で120℃で30分間加熱する。次に、アセトン、純水、アセトンの順で洗浄して乾燥する。この操作により、ITO電極102の最表面にアミノ基を有するシランカップリング剤からなる単分子層103が形成される。シランカップリング剤からなる単分子層103は、ITO電極102の表面水酸基と水素結合または共有結合を介して結合する。上述のように、ITO電極102の表面と、安定な共有結合を形成する事が望ましい。単分子層103は、アミノ基が空気側表面に露出された、単分子膜状のカップリング剤層となる。
(III)有機層形成工程
ITO電極102の表面に結合した単分子層103のアミノ基と、有機層を構成する第一の共役系炭化水素分子の一方の末端に位置するカルボキシル基とを縮合剤を用いて反応させることによって、アミド結合を介して結合させる。次に、前記第1の共役系炭化水素分子のもう一方の末端に位置するカルボキシル基またはアミノ基と、第2の共役系炭化水素分子の一方の末端に位置するアミノ基またはカルボキシル基とを縮合剤を用いて反応させることにより、アミド結合を介して結合させる。
縮合剤水溶液には、例えば1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(100mg/ml)とN−ヒドロキシスクシンイミド(100mg/ml)を等量で混合して調製したものを用いることができる。
有機層100aは、例えば次の工程により形成される。ITO電極102と単分子層103を形成した基板101を(1)縮合剤水溶液に10分間浸漬し、(2)前記第1の共役系炭化水素分子の水溶液(200mg/ml)に10分間浸漬し、超純水で十分に洗浄後乾燥する。次に、(3)縮合剤水溶液に10分間浸漬し、その後に、(4)前記第2の共役系炭化水素分子の水溶液(200mg/ml)に10分間浸漬し、超純水で十分に洗浄後乾燥する。(1)から(4)の操作を繰り返すことにより、共役系炭化水素分子104がアミド結合を介して結合した有機層100aが得られる。
(IV)ドレイン電極形成工程
有機層100aの上部にドレイン電極を形成する。ドレイン電極材料としては、アルミニウムや金などの金属電極、ITO等の導電性酸化物、有機導電性材料など、導電性を有する材料であればいずれの材料を用いることもできる。
ドレイン電極の形成方法としては、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スピンコート法、めっき法などの方法を用いることができる。また、カップリング剤などを用いて、有機層をドレイン電極の表面に共有結合または水素結合を介して結合することも可能である。
(V)ゲート絶縁膜およびゲート電極形成工程
有機層100aの側面に絶縁膜106を形成する。絶縁膜材料としては、絶縁性を有する材料であれば、有機材料、無機酸化膜などいずれの材料を用いることも可能である。ただし、有機トランジスタを高い動作周波数で駆動するためには高誘電率材料(例えば、SiO2、Al2O3、HfO2、ポリアミド系材料、PVA系材料、フッ化炭素系材料等)を用い、さらに薄膜(例えば、厚さ0.5nm以上2500nm以下)であることが好ましい。
次に、ゲート絶縁膜106を挟んで有機層100aと対向する位置にゲート電極107を形成する。ゲート電極材料としては、アルミニウムや金などの金属電極、ITO等の導電性酸化物、有機導電性材料など、導電性を有する材料であればいずれの材料を用いることもできる。ゲート電極形成方法としては、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スピンコート法、めっき法などの方法を用いることができる。
なお、本実施例では有機層を形成した後にゲート絶縁膜とゲート電極を形成したが、ゲート絶縁膜とゲート電極を形成した後に有機層を形成してもよい。
上述の実施形態7で例示した有機トランジスタの有機層を構成する共役系分子鎖は、ソース電極表面にカップリング剤層を介して共有結合しているので、共有結合を有しないLB膜などよりも機械的、化学的、熱的耐久性に優れている。
また、共役系分子鎖を構成する共役系炭化水素分子は、共有結合を介して互いに結合されているので、機械的、化学的、熱的安定性(耐久性)に優れている。さらに、共役系分子鎖を構成する共役系炭化水素分子は、共有結合を介して互いに結合されているので、共役系分子鎖方向のキャリアの移動度が高く、かつ共役系分子鎖がソース電極表面とドレイン電極とに平行な面に対して略垂直に配向しているので、共役系分子鎖方向の高い移動度が効果的に発現され、ソース電極とドレイン電極の間のキャリア移動度が高い。このため本実施形態に示された有機トランジスタ100は高い動作周波数で駆動することができる。
また、実施形態6の有機発光素子の有機層を例に上述したように、共役系分子鎖を形成する際に、シランカップリング剤を介して共役系炭化水素分子同志を結合してもよい。このような構成を採用すると、隣接する共役系分子鎖同士がシランカップリングを介した共有結合で結合されるため、横方向(有機層の層面内方向)にも機械的強度が高くなり、有機層を構成する分子の相互拡散も起こらないので、熱的な安定性(耐熱性)をさらに高めることができる。