JP5027454B2 - 有機エレクトロルミネッセンス素子 - Google Patents

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Description

本発明は、フラットパネルディスプレイ、液晶表示機用バックライトや照明光源等に用いることのできる有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。
有機エレクトロルミネッセンス素子は、対向する2つの電極の間に少なくとも一層の有機発光層を備えて形成されるものであり、電流注入によって有機発光層からの発光を得ることができる発光デバイスである。有機エレクトロルミネッセンス素子の発光特性及び寿命は、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する材料や素子構造によって大きく変化することが知られている。例えば、発光特性に関しては、発光材料自体の発光効率、素子内に注入される正負キャリアのバランス、素子膜厚および薄膜の屈折率に依存する光学干渉、材料の移動度などが大きく影響を与える。また寿命特性に関しては、例えばキャリアによる有機材料の酸化劣化、電極材料の有機層への拡散、材料間の相互拡散、界面に於けるキャリア蓄積による劣化、界面の密着強度不足などが影響を与えるとされている。これらの観点で、より発光特性の高い材料や、移動度の高い材料、またキャリア再結合エネルギーを効率よく光に変換できる素子構造などが各種開発され、提案されている。
有機エレクトロルミネッセンス素子の寿命向上の検討に関しては、材料の観点から、膜質の安定化を図るための材料の耐熱性向上、異種材料への密着性の高い構造を有する材料の開発などがなされている。材料の耐熱性を上げることにより、顕著な寿命特性の向上を示す例としては、例えば、発光層ホストの耐熱性改良による大幅な寿命向上の例がある。また、通電による劣化の少ない材料系の開発が重要であること、例えば、材料への通電、すなわち酸化還元による材料劣化と素子特性の劣化との関係も知られている。
一方、発光効率に関しては、近年のいわゆるリン光材料の登場が顕著な改善の例である。有機発光分子の励起状態は、一重項励起状態と三重項励起状態の2つに分類されるが、一般にそれらの比は1:3である。これまでの蛍光材料は、前者の一重項励起状態からの発光、いわゆる蛍光発光を利用するものであるため、前記の比率に基づき、励起エネルギーの1/4しか光に変換することができず、残りの3/4は熱エネルギーとして消費されていたが、リン光材料は、三重項励起状態のエネルギーも光に変換できるものであり、結果として励起エネルギーを全て光に変換できる可能性を持つ材料系である。実際、外部量子効率が20〜25%という高効率有機エレクトロルミネッセンス素子が報告されており、光取り出し効率を考慮すると、全ての励起エネルギーを光に変換していると考えられる、高効率発光有機エレクトロルミネッセンス素子が得られている。またリン光発光素子の寿命は、当初あまり良好なものではなかったが、最近の報告によると、蛍光材料の寿命を上回るような値が報告されている。これは発光効率が高いが故に、通電電流を少なくできることがその主たる理由ではないかと推定される。
しかし、上記の改良は、素子膜厚や積層構造に関わるものもあるが、主として材料の特性に大きく依存するものがほとんどであるため、適切なエネルギー準位を有し、かつ、より高発光効率、高移動度、高耐久性の材料を得ること、すなわち材料開発が、有機エレクトロルミネッセンス素子の特性を向上させるためには非常に重要である。
一方、素子構造の観点からは、寿命を向上させることのできる素子構造として、例えばホール輸送層と有機発光層等、異種の機能を備える層の界面または全体を混合させたもの、材料の酸化劣化を抑制することができる位置にドーパントをドープする系、金属電極−有機層界面に、両者の密着性を向上させることができる界面層を導入する系などが知られている。また陽極表面をHNOやハロゲンによって処理することによって仕事関数を増大させることによって、寿命が向上する例が知られている(例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3等参照)。あるいは、表層にプラズマ処理等によってハロゲン元素を含ませることによる方法も知られている(例えば特許文献4等参照)。しかし、これらの方法では、駆動中に駆動電圧が上昇するなどの好ましくない挙動も見られ、結果としての寿命向上は必ずしも満足するものではなかった。
また、キャリアブロック層を有機発光層に隣接させて設け、有機発光層内での再結合割合を向上させる方法、特に低電圧化の観点で、p−ドープ層やn−ドープ層の導入が素子発光効率の向上方法として提案されている。これらの方法は、素子構造の改良により有機エレクトロルミネッセンス素子の特性を向上させる例として有効に使われているものの例であるが、有機エレクトロルミネッセンス素子の寿命特性をさらに向上させ、有機エレクトロルミネッセンス素子の適用用途をさらに拡大するためには、これまでの技術以外にもあらたな寿命向上技術を見いだすことが必要であった。
特開2003−123989号公報 特開2004−063210号公報 特開2001−319777号公報 特開2005−050828号公報
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、寿命特性、発光特性のより優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を提供することを目的とするものである
発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極電極と陰極電極の間に有機発光層を備えて形成される有機エレクトロルミネッセンス素子に於いて、陽極電極は、表面に80℃以上のガラス転移温度を有するか、ガラス転移温度を有さない有機物が存在し、且つ水との接触角が5°以上60°以下である表面に対し、酸または酸化剤で表面処理が施されたものであることを特徴とするものである。
この発明によれば、80℃以上のガラス転移温度を有するか、ガラス転移温度を有さない有機物は耐熱性が高いので、耐熱性に優れた有機エレクトロルミネッセンス素子を得ることができるものである。
また、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極電極と陰極電極の間に有機発光層を備えて形成される有機エレクトロルミネッセンス素子に於いて、陽極電極は、表面に電子供与の可能な有機物が存在し、且つ水との接触角が5°以上60°以下である表面に対し、酸または酸化剤で表面処理が施されたものであることを特徴とするものである。
この発明によれば、陽極電極へのホール注入特性が向上して、発光特性や寿命特性が向上するものである。
また、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子において、陽極電極の表面の有機物の膜厚は50Å以下であることが好ましい。
陽極電極の表面の有機物の膜厚が50Å以下である場合には、酸または酸化剤による表面処理によって過度の反応が起こることを防ぐことができ、発光特性に悪影響を与えることを防ぐことができるものである。
また、本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス素子において、陽極電極の表面の有機物の膜厚は20Å以下であることが好ましい。
陽極電極の表面の有機物の膜厚が20Å以下である場合には、酸または酸化剤による表面処理によって過度の反応が起こることを防ぐことができ、発光特性に悪影響を与えることを防ぐことができるものである。
本発明によれば、有機物が存在し、且つ水との接触角が5°以上60°以下である陽極電極の表面を酸または酸化剤で表面処理することによって、有機物は陽極電極と電荷移動錯体を形成するものであり、陽極電極へのホール注入特性が向上して、発光特性や寿命特性が向上するものである。
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、対向する2つの電極、すなわち陽極電極1と陰極電極2の間に有機発光層3を備えて形成されるものである。図1は有機エレクトロルミネッセンス素子の積層構造の一例を示すものであり、基板4の上に陽極電極1を設け、この上にホール注入層5、ホール輸送層6、有機発光層3、電子輸送層7、電子注入層8をこの順に積層した有機層9を設け、この上に陰極電極2を設けたものである。ホール注入層5、ホール輸送層6、電子輸送層7、電子注入層8は必要に応じて設けられるものである。
そして本発明は、陽極電極として、表面に有機物が存在し、且つ水との接触角が5°以上60°以下である表面に対して、酸または酸化剤で表面処理が施されたものを用いるようにしたものであり、この表面処理した面の側に有機発光層3を形成したものである。
この陽極電極は金属酸化物を電極材料として形成されるものであり、金属酸化物としては特に限定されないが、ITO、IZO、SnO、AZO、GZOなど、比抵抗が小さいものを好ましく用いることができる。陽極電極を構成する金属酸化物の表面状態は、できるだけ平坦であることが好ましい。陽極電極は例えば、これらの電極材料を、基板の表面に真空蒸着法やスパッタリング法等の方法により薄膜に形成することによって作製することができる。また、有機発光層における発光を陽極電極を透過させて外部に照射する場合には、陽極電極の光透過率は70%以上であることが好ましい。さらに、陽極電極のシート抵抗は数百Ω/□以下であることが好ましく、特に好ましくは100Ω/□以下である。ここで、陽極電極の膜厚は、陽極電極の光透過率、シート抵抗等の特性を上記のように制御するために、材料により異なるが、800nm以下、好ましくは10〜500nmの範囲に設定するのがよい。
そしてこの金属酸化物からなる陽極電極は、その表面に有機物が存在する状態にあり、表面における水との接触角が5°以上60°以下である。水の接触角が5°未満である場合、もしくは60°を超える場合、後述する酸あるいは酸化剤で陽極電極を表面処理することによる有機エレクトロルミネッセンス素子の特性向上の効果が得られ難くなるものである。陽極電極の表面に有機物が存在することによって、陽極電極の表面における水の接触角をこの範囲にコントロールすることができるものである。
陽極電極上に存在する有機物の厚みは、50Å以下であることが好ましく、より好ましくは20Å以下である。有機物の厚みが20Åを超えて大きいと、特に50Åを超えて大きいと、後述のように酸または酸化剤によって表面処理する際に過度の反応が起こり、その結果、有機エレクトロルミネッセンス素子の発光特性に悪影響を与えることがあるので好ましくない。
陽極電極の表面に厚み50Å以下の有機物を存在させるための方法としては、例えばアルコール等の有機溶剤の蒸気で陽極電極の表面を処理する方法、有機溶剤中に陽極電極を浸漬する方法、紫外線とオゾンによる処理(UV/O処理)やプラズマ処理を行なった後に大気雰囲気下に陽極電極を放置する方法、陽極電極の表面に有機物を蒸着、塗布、スプレー、コーティング等して気相もしくは液相で成膜する方法などを挙げることができる。陽極電極の表面に化学結合により単分子膜を導入したり、有機物の蒸気に曝したりしてもよい。陽極電極の表面に存在する有機物の厚みの下限は特に限定されるものではないが、単分子膜の厚みの1Å程度が実用上の下限である。
有機物の厚みは、例えば触針式の膜厚計、プローブ顕微鏡によるスクラッチと段差評価、触針式膜厚計による段差量評価、FT−IR(フーリエ変換赤外分光光度計)等による光の吸収量、エリプソメーターや透過/反射式の膜厚計など、光学式の測定手段によって定量的にもしくは半定量的に評価することが可能である。また、有機物の存在は、XPS(X線光電子分光法)やオージェ電子分光法、FT−IR、PL、表面エネルギー測定器等の評価方法によって確認できる。ここで本発明において陽極電極の表面に存在する有機物の膜厚は50Å以下であり、この領域の膜厚を正確に求めることは比較的困難である。よって、膜厚が50Å以上ではないことを膜厚測定手段によって確認し、また0Åではないことを表面に炭素成分が存在することから確認できれば特に問題はない。
陽極電極の上に有機物を成膜して形成する場合、有機物としては、例えば、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられるホール輸送材料や、ホール注入材料、あるいは、Alq3やアントラセン誘導体など有機発光層や電子輸送層に用いられる材料を挙げることができる。ホール輸送材料もしくはホール注入材料として挙げられる有機物は、例えば4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPB又はα−NPD)、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)、2−TNATA、4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(MTDATA)、4,4’−N,N’−ジカルバゾールビフェニル(CBP)、スピロ−NPD、スピロ−TPD、スピロ−TAD、TNBなどを代表例とする、トリアリールアミン系化合物、カルバゾール基を含むアミン化合物、フルオレン誘導体を含むアミン化合物などである。また、有機エレクトロルミネッセンス素子用に用いられる材料以外の、有機光感光体材料(OPC材料)やポリチオフェン、ポリパラフェニレンビニレンなどを始めとする有機半導体材料であってもよく、あるいはポリエチレン、ポリ塩化エチレンなどのポリマー類などや、オレフィン類、脂肪酸類、芳香族化合物など特に有機半導体に属さない材料系であってもよい。
また、陽極電極の表面に存在する有機物は、80℃以上のガラス転移温度を有するか、ガラス転移温度を有さないものが好ましい。80℃未満のガラス転移温度を有する有機物は耐熱性に劣ることがあるために好ましくないものであり、従って、80℃以上のガラス転移温度を有するか、ガラス転移温度を有さない有機物が好ましいのである。ガラス転移温度の上限は特に設定されるものではないが、通常、200℃程度がガラス転移温度の上限である。
また陽極電極の表面に存在する有機物としては、電子供与性を有し、電子供与によりラジカルカチオン化した際にも安定である有機物が好ましく用いられる。上記に例示した有機物では、ホール輸送材料やホール注入材料がこれに相当する。
陽極電極の表面にこれらの有機物を成膜して形成する場合、上記のように陽極電極の上に例えば蒸着によって成膜するようにしても良いし、有機物を溶液化してスピンコートやディップコート、スプレーコートなどでの湿式成膜を行なうようにしても良い。また有機物の溶融体との接触、転写や圧力による転写、その有機物自体のスプレーコートなどの手段によって成膜してもかまわない。これらのなかでも湿式成膜を行った場合、有機物の被膜の有機電極表面に対する被覆率が大きくなり、両者の密着性が向上し、強固な界面を形成できるため好ましい。成膜時には、空気中の水分や酸素が成膜された膜中に極力含有しないように成膜環境や溶液を管理することが好ましい。
そして、上記のように表面に有機物が存在し、水との接触角が5°以上60°以下である陽極電極の表面に、酸または酸化剤を供給することによって陽極電極の表面処理を行なうものである。この表面処理は、特に限定されるものではないが、例えば、O、O、Br、Cl、I、F、アスタチン、NO、NO、ClO、SO、CO、クロロピクリン、HCl、HBr、HI、HF、HNO、BF、酸水溶液、過ハロゲン酸、過酸化水素水、Ca(ClO)、過マンガン酸カリウム、二クロム酸カリウム、塩化鉄、三フッ化臭素、五フッ化臭素、五フッ化ヨウ素等のハロゲン間化合物、ハロゲン酸、ハロゲン酸金属塩などの酸化性ガス、液体、酸化性物質の溶液などと、陽極電極とを、ガス処理、浸漬、スプレーなどで接触させることによって行なうことができる。溶液の溶媒種は特に問わないが、例えば水やアルコール、炭化水素系溶剤等を挙げることができる。この接触は、これらの酸や酸化剤の存在下での熱処理、紫外線照射、電子線照射、プラズマ処理などを伴うものであってもかまわない。これらの酸あるいは酸化剤は、気体、液体、気体の溶解した溶液、固体、固体の溶解した溶液、固体を気化させた気体、プラズマ状態など、本発明の趣旨を損なわない限り任意の形態で用いることが可能である。これらの酸や酸化剤を用いることにより、陽極電極の表面が酸化される場合、酸や酸化剤が吸着する場合、その両者が同時に起こる場合があるが、本発明の趣旨に反しない限り、いずれであってもよい。
また、上記の表面処理に用いられる酸または酸化剤は、ルイス酸の類であることが好ましい。あるいは、常温では十分にルイス酸として機能しないものであっても、熱処理や紫外線処理を伴うことによってルイス酸として機能する酸や酸化剤を使用することも可能である。酸または酸化剤として用いるルイス酸の類として、特に好ましいのは、ハロゲンもしくはハロゲンを含有する化合物である。尚、HSO水溶液等ブレンステッド酸にも属する類の酸化剤を用いた場合、酸の強度にもよるが、陽極電極を構成する金属酸化物が溶解する場合がある。この場合には、処理時間や処理濃度を適正化し、悪影響の出ない処理条件で処理を行う必要がある。また、これらの酸や酸化剤は、陽極電極の表面に化学的に結合していてもかまわない。例えば、ITOなどで形成される陽極電極の表面に存在する水酸基を介して結合している場合、陽極電極を構成する原子の一部を置換している場合などがその例である。
上記のように陽極電極に表面処理を行なった後、必要に応じてベークすることができる。表面処理の方法によって異なるが、ベークに伴い、さらに酸化処理を進ませたり、過剰の酸化剤を除去したり、処理に用いた水分を除去することが可能である。特に陽極電極の表面から水分子を除去するためにベークすることは好ましい。
ここで、上記のように有機層が存在する陽極電極の表面を酸あるいは酸化剤で陽極電極を表面処理することによって、陽極電極上に存在している有機物は陽極電極と電荷移動錯体を形成していると考えられる。これは、有機物の形成方法が気相法、液相法、その他の方法のいずれであっても同じである。このように電荷移動錯体を形成することにより、有機物は比抵抗の低下、キャリア濃度の増大、電荷移動度の増大、エネルギーギャップの変化、エネルギー準位の変化などの電気的特性の変化、および、モルフォロジーの変化、結晶化温度の変化、ガラス転移温度の変化等の耐熱性の変化、陽極電極の界面との密着性の変化等を起こし、結果としてホール注入特性が向上し、寿命特性にも好ましい影響を与えているものと考えられる。
電荷移動錯体が形成されていることは、一般に知られる、薄膜状態の材料の近赤外領域の吸収を測定する方法では検出が難しい。例えば特開2003−272860号公報の段落[0021]には、800〜2000nmの近赤外領域に吸収ピークを示すことが電荷移動錯体形成の確認方法であるとの記載があるが、本発明におけるような陽極電極と陽極電極の上に形成された有機物との電荷移動錯体形成はごく薄い領域の現象であるため、このような方法では反応の有無をとらえることは難しい。
そこで、陽極電極と有機物間での電荷移動錯体の形成を、例えば、プローブ顕微鏡を用い、陽極電極とプローブに微小なバイアス電圧を印加した状態で電流を測定することによって確認するようにしている。電荷移動錯体を形成した有機物が示す電気的特性に関しては、例えば、前記の特開2003−272860号公報の段落[0063][0064]に、電荷移動錯体は10〜10Ωcm程度の比抵抗を有するとの記載、および電荷移動錯体を形成していない有機物は1013Ωcm程度の比抵抗を有するとの記載がある。すなわち、陽極電極上の極薄膜の比抵抗をおおよそ見積もることができれば、もしくは電荷移動錯体の有無の場合の挙動の差違をとらえることができれば、10〜1010オーダーの比抵抗の違いを判断することが可能である。具体的には、15Å程度の有機物の膜厚み、バイアス電圧0.1V以下(電界強度として10V/cm以下)程度の条件での評価が可能である。
また、電荷移動錯体の形成の間接的な確認方法としては、極薄膜の蛍光発光スペクトル、赤外吸収スペクトルによる方法が挙げられる。前者は、膜厚10〜20Å程度の有機物膜を電極上に形成し、その発光スペクトルを検出するものである。そして電極処理を行なわなかった場合の蛍光発光スペクトルに対し、電極処理を行った場合の蛍光発光スペクトルが、例えば、長波長シフト、発光強度低下などの差違を示すかどうかを確認することによって、電荷移動錯体の形成の有無の判断ができる。後者は、同じく膜厚10〜20Å程度の有機物膜を電極上に形成し、その赤外吸収スペクトルをATR法によって検出するものである。電極処理を行なった場合の蛍光発光スペクトルの一部の吸収ピークが、シフトもしくは強度変化などの差違を示すかどうかを確認することによって、電荷移動錯体の形成の有無の判断ができる。
尚、これまでに提案されている電荷移動錯体は、有機物にドナーもしくはアクセプタを混合させて形成するもの(NPDとVとの混合物、BCPとCsとの混合物(上記の特開2003−272860号公報参照)、トリフェニルアミン誘導体とF4TCNQとの混合物などがある)が知られている。この場合、2種の材料を混合するプロセスもしくは、有機物層にドナーもしくはアクセプタをドープする必要があるため、この種の電荷移動錯体の形成方法は、本発明で用いている電荷移動錯体の形成方法とは異なる。また、上記の特開2003−272860号公報には、例えばV層とNPD層の界面に電荷移動錯体が形成されていると考えられるとの旨の記載があるが、この場合にも、V層は層として形成されているため、例えば、金属酸化物からなる電極上にVを成膜した後に有機物を成膜した系は、本発明の意図する系とは異なるものである。
一方、本発明における陽極電極の表面処理は、酸または酸化剤による処理であり、上記のV積層の場合のように、陽極電極上に改めて膜を形成したものではない。陽極電極上に膜が形成されたかどうかは、例えば、プローブ顕微鏡や電子顕微鏡による陽極電極の表面の観察によって確認することができる。本発明の場合、実質的に陽極電極の表面状態は変化しない。ブレンステッド酸の類を用いて処理を行なう場合に条件が強めであるときには若干の形状変化を示すことがあるが、処理条件を違えた場合の表面状態との比較から、膜が形成されたものかどうかの判断を行うことができる。
本発明において、有機エレクトロルミネッセンス素子の素子構成は、本発明の趣旨に反しない限り任意のものを用いることができるものである。そして素子の有機発光層などの有機層に使用できる材料としては、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料として知られる任意の材料が使用可能である。例えばアントラセン、ナフタレン、ピレン、テトラセン、コロネン、ペリレン、フタロペリレン、ナフタロペリレン、ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン、クマリン、オキサジアゾール、ビスベンゾキサゾリン、ビススチリル、シクロペンタジエン、キノリン金属錯体、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、トリス(4−メチル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、トリス(5−フェニル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、アミノキノリン金属錯体、ベンゾキノリン金属錯体、トリ−(p−ターフェニル−4−イル)アミン、1−アリール−2,5−ジ(2−チエニル)ピロール誘導体、ピラン、キナクリドン、ルブレン、ジスチリルベンゼン誘導体、ジスチリルアリーレン誘導体、ジスチリルアミン誘導体及び各種蛍光色素等、前述の材料系およびその誘導体を始めとするものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。またこれらの化合物のうちから選択される発光材料を適宜混合して用いることも好ましい。さらに、前記化合物に代表される蛍光発光を生じる化合物のみならず、スピン多重項からの発光を示す材料系、例えばリン光発光を生じるリン光発光材料、及びこれらからなる部位を分子内の一部に有する化合物も好適に用いることができる。また、これらの材料からなる有機層は、蒸着、転写等乾式プロセスによって成膜しても良いし、スピンコート、スプレーコート、ダイコート、グラビア印刷等、湿式プロセスによって成膜するものであってもよい。
また、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成するその他の部材である、積層された素子を保持する基板や陰極電極等には、従来から使用されているものをそのまま使用することができる。
上記の基板は、有機発光層で発光した光が基板を通して出射される場合には光透過性を有するものであり、無色透明の他に、多少着色されているものであっても、すりガラス状のものであってもよい。例えば、ソーダライムガラスや無アルカリガラスなどの透明ガラス板や、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、エポキシ等の樹脂、フッ素系樹脂等から任意の方法によって作製されたプラスチックフィルムやプラスチック板などを用いることができる。さらに、基板内に基板の母剤と屈折率の異なる粒子、粉体、泡等を含有し、あるいは表面に形状を付与することによって、光拡散効果を有するものも使用可能である。また、有機発光層で発光した光を基板を通さずに出射させる場合、基板は必ずしも光透過性を有するものでなくてもよく、素子の発光特性、寿命特性等を損なわない限り、任意の基板を使うことができる。特に、通電時の素子の発熱による温度上昇を軽減するために、熱伝導性の高い基板を使用することもできる。
また、上記の陰極電極は、有機発光層中に電子を注入するための電極であり、仕事関数の小さい金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物からなる電極材料を用いることが好ましく、仕事関数が5eV以下のものであることが好ましい。このような陰極の電極材料としては、アルカリ金属、アルカリ金属のハロゲン化物、アルカリ金属の酸化物、アルカリ土類金属等、及びこれらと他の金属との合金、例えばナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、リチウム、マグネシウム、マグネシウム−銀混合物、マグネシウム−インジウム混合物、アルミニウム−リチウム合金、Al/LiF混合物を例として挙げることができる。またアルミニウム、Al/Al混合物なども使用可能である。また、アルカリ金属の酸化物、アルカリ金属のハロゲン化物、あるいは金属酸化物を陰極の下地として用い、さらに金属等の導電材料を1層以上積層して用いてもよい。例えば、アルカリ金属/Alの積層、アルカリ金属のハロゲン化物/アルカリ土類金属/Alの積層、アルカリ金属の酸化物/Alの積層などを例として挙げることができる。また、ITO、IZOなどに代表される透明電極を用い、陰極電極の側から光を取り出す構成にしても良い。さらに、陰極電極との界面の有機層にリチウム、ナトリウム、セシウム、カルシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属をドープしても良い。
そして陰極電極は、例えば、これらの電極材料を真空蒸着法やスパッタリング法等の方法により、薄膜に形成することによって作製することができる。有機発光層における発光を陽極電極の側からとりだす場合には、陰極電極の光透過率を10%以下にすることが好ましい。また逆に、陰極電極を透明電極として形成して陰極電極の側から発光を取り出す場合(陽極と陰極の両電極から光を取り出す場合も含む)には、陰極電極の光透過率を70%以上にすることが好ましい。この場合の陰極電極の膜厚は、陰極電極の光透過率等の特性を制御するために、電極材料により異なるが、通常500nm以下、好ましくは100〜200nmの範囲に形成するのがよい。
有機エレクトロルミネッセンス素子の各部材、構造は本発明の趣旨を損ねない範囲で併用することが可能である。
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
(陽極電極付き基板A)
30mm角の大きさのガラス基板の表面に図2のような2mm幅で厚み1100ÅのITOが陽極電極として成膜されたITO付きガラス基板を用意し、この基板を湿式洗浄した(これを陽極電極付き基板Aとする)。そしてこの基板Aにおいて、陽極電極の水との接触角を測定したところ、約6°であった。また、基板表面の炭素元素濃度は約12質量%であり、陽極電極の表面の有機物の存在を示唆していた。そして陽極電極の表面をステンレス製のニードルでスクラッチし、その後の段差を触針式表面形状測定器を用いて評価したが、50Å以上の膜があるという結果は得られなかった。従って、炭素元素濃度測定の結果を併せると、陽極電極の表面には50Å厚以下の有機膜が付着していると考えられる。
尚、水の接触角は、JIS R 3257に基づいて、基板上に蒸留水の水滴を滴下した際の、左右両端と頂点を結ぶ線の固体表面に対する角度から算出した。
また、表面の有機物の評価は、オージェ電子分光装置により表面の炭素元素濃度を測定して行なった。また必要に応じて島津製作所赤外分光器「IRPrestige−21」及び「TRユニットMIRacle」を用いて、表面の有機物の赤外吸収スペクトルを測定して行なった。
(陽極電極付き基板B)
上記の陽極電極付き基板Aをシャーレ中に入れ、基板Aの近傍に1mLの関東化学製臭素水(鹿特級)を滴下した後に速やかにフタをし、5分間Br蒸気に曝すことによって、Brで表面処理した。
このBr処理の前後の陽極電極の表面状態を、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製のプローブ顕微鏡「SPI4000」と「SPA−300HV」を用いて形状評価を行なったところ、図3にみられるように処理の前後で表面形状は変化していないことが確認された。図3(a)は湿式洗浄のみのBr処理の前であり、平均表面粗さは0.4〜0.8nm、最大高低差は8.1〜13.9nm、図3(b)はBr処理後であり、平均表面粗さは0.5〜0.8nm、最大高低差は7.3〜10.0nmである(これらの数値は10点の分布範囲)。
また、水に対する陽極電極の表面の接触角は、処理前と処理後共に約6°であり、変化はなかった。また処理後においても基板表面の炭素元素濃度は約12質量%であり、陽極電極の表面の有機物の存在を示唆していた。
(陽極電極付き基板C)
上記の陽極電極付き基板Aをシャーレ中に入れ、基板Aの近傍に関東化学製臭化水素酸を1mL滴下した後に速やかにフタをし、5分間HBr蒸気に曝すことによって、HBrで表面処理した。このHBr処理後の基板表面の炭素元素濃度は約11質量%であり、陽極電極の表面の有機物の存在を示唆していた。
(陽極電極付き基板D)
上記の陽極電極付き基板Aを、40℃に加温した次亜塩素酸ナトリウムの9質量%水溶液に5分間浸漬した後に純水で洗浄し、さらに大気雰囲気下150℃で20分間ベークして、NaClOで表面処理した。この次亜塩素酸処理及びベークの後の基板表面の炭素元素濃度は約13質量%であり、陽極電極の表面の有機物の存在を示唆していた。
(陽極電極付き基板E)
上記の陽極電極付き基板Aを、過マンガン酸カリウムの2質量%水溶液に2分間浸漬した後に純水で洗浄し、さらに真空雰囲気下150℃で20分間ベークして、KMnOで表面処理した。このKMnO処理及びベーク後の基板表面の炭素元素濃度は約11質量%であり、陽極電極の表面の有機物の存在を示唆していた。
(陽極電極付き基板F)
上記の陽極電極付き基板Aを関東化学製臭素水(鹿特級)に1分間浸漬し、その後真空下120℃で10分間ベーク・乾燥して、Brで表面処理した。このBr処理後の基板表面の炭素元素濃度は約12質量%であり、陽極電極の表面の有機物の存在を示唆していた。
(陽極電極付き基板G)
上記の陽極電極付き基板Aを、15分間UV/O処理した。この処理の後に測定した陽極電極の水との接触角は1°であった。この処理の後の基板表面の炭素元素濃度は1質量%以下であり、陽極電極の上には有機物がほとんど付着していないことを示唆していた。
(陽極電極付き基板H)
上記の陽極電極付き基板Aを、15分間UV/O処理した後、空気中に1時間放置した。このUV/O・空気放置の処理をした後に測定した陽極電極の水との接触角は約6°であった。またこの処理後の基板表面の炭素元素濃度は約9質量%であり、陽極電極の表面の有機物の存在を示唆していた。さらに、この基板を関東化学製臭素水(鹿特級に1分間浸漬し、その後真空下120℃で10分間ベーク・乾燥してHBr処理した。
(陽極電極付き基板I)
上記の陽極電極付き基板Aを、15分間UV/O処理した後、陽極電極の上に膜厚10Åのα−NPB(4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル)(e-Ray Optoelectronics Technology Co., Ltd.製)を成膜した。そしてこれをシャーレ中に入れ、基板の近傍に1mLの関東化学製臭素水(鹿特級)を滴下した後に速やかにフタをし、1分間Br蒸気に曝すことによって、Brで表面処理した。このBr処理後の基板の表面の炭素元素濃度は約80質量%であり、α−NPBが陽極電極を含む基板の表面をかなりの割合で覆っていることを示唆していた。また、FT−IRでの評価により、陽極電極の表面にα−NPBが存在していることを確認した。尚、α−NPBのガラス転移温度は95℃である。
(陽極電極付き基板J)
上記の陽極電極付き基板Aを、15分間UV/O処理した後、これをシャーレ中に入れ、基板の近傍に1mLの関東化学製臭素水(鹿特級)を滴下した後に速やかにフタをし、5分間Br蒸気に曝すことによって、陽極電極をBrで表面処理した。この後、陽極電極の上に膜厚10Åのα−NPBを成膜した。α−NPBの成膜は、α−NPBの1g/L濃度のクロロホルム溶液を基板の表面に8000rpmでスピンコートすることによって行なった。スピンコートを行なった後の陽極電極の水との接触角は約6°であった。そしてこの後、これをシャーレ中に入れ、基板の近傍に1mLの関東化学製臭素水(鹿特級)を滴下した後に速やかにフタをし、1分間Br蒸気に曝すことによって、Brで表面処理した。
(陽極電極付き基板K)
上記の陽極電極付き基板Aを、15分間UV/O処理した後、陽極電極の上に膜厚10ÅのAlqを成膜した。Alqの成膜を行なった後の陽極電極の水との接触角は約6°であった。そしてこれをシャーレ中に入れ、基板の近傍に1mLの関東化学製臭素水(鹿特級)を滴下した後に速やかにフタをし、1分間Br蒸気に曝すことによって、Brで表面処理した。尚、Alq3のガラス転移温度は140℃前後である。
(陽極電極付き基板L)
上記の陽極電極付き基板Gをシャーレ中に入れ、基板の近傍に1mLの関東化学製臭素水(鹿特級)を滴下した後に速やかにフタをし、5分間Br蒸気に曝すことによって、Brで表面処理した。
(陽極電極付き基板M)
上記の陽極電極付き基板Aを、15分間UV/O処理した後、陽極電極の上に膜厚10ÅのTPDを成膜した。TPD成膜後の、陽極電極の水との接触角は約6°であった。そしてこれをシャーレ中に入れ、基板の近傍に1mLの関東化学製臭素水(鹿特級)を滴下した後に速やかにフタをし、1分間Br蒸気に曝すことによって、Brで表面処理した。尚、TPDのガラス転移温度は60℃前後である。
(陽極電極付き基板N)
上記の陽極電極付き基板Aを、15分間UV/O処理した後、陽極電極の上に膜厚10Åのデュポン社製「テフロン(登録商標)−AF」を蒸着して成膜した。「テフロン(登録商標)−AF」を成膜した後の、陽極電極の水との接触角は約160°であった。そしてこれをシャーレ中に入れ、基板の近傍に1mLの関東化学製臭素水(鹿特級)を滴下した後に速やかにフタをし、1分間Br蒸気に曝すことによって、Brで表面処理した。
(陽極電極付き基板の電気的特性の評価)
上記の陽極電極付き基板Bと陽極電極付き基板GのITO面にそれぞれ、α−NPBを真空蒸着機で膜厚15Åに成膜した。
このα−NPBを成膜した両基板B,Gについて、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製のプローブ顕微鏡「SPI4000」と「SPA−300HV」を用いて測定を行なった。このとき、カンチレバーはSI−DF3−Rを用いた。また各基板B,GはITO面と試料台を銀ペーストで導通させた状態にした。そしてターボ分子ポンプによる真空雰囲気下で−0.1Vのバイアスを印加した状態で、形状像を2μm角の領域に対して測定した。また、任意の点に於いて、0〜−0.1Vまでのバイアスを順に印加しながら電流量を測定した。形状像および電流量の測定結果を図4及び図5に示す。図4は基板B、図5は基板Gに関するものであり、各図の(a)は形状像、(b)は電流量を示すものである。図4(a)と図5(a)にみられるように、基板B,Gにおいて成膜された有機物(α−NPB)の形状には、若干の違いしか認められない。一方、電流量には大きな違いが見られた。すなわち、UV/O処理した基板Gの場合には、図5(b)のように電流量は本測定装置のノイズレベルである−60pA近傍であり、電流が流れていることが確認できなかった。一方、基板Bの場合には図4(b)のように数nAの電流が流れることが確認された。よって、両基板B,G上の有機物の電気的特性は明らかに異なり、基板Gの上に成膜された有機物の比抵抗は非常に大きく、基板Bの上に成膜された有機物の比抵抗はかなり小さいことがわかる。単純に電流量を考慮するだけでも10オーダー以上の違いがあると推定できる。また、バイアス電圧を約−2Vまで順に印加した複数回のデータを整理し、縦軸が電流(logスケール)、横軸が電圧のグラフとしたものを図6に示す。2つの系の挙動は特に低電圧領域で大きく異なることがわかる。特に基板Bの系に於いては、バイアス電圧0の補外に於いても比較的大きな電流が流れ、電極からの電流注入障壁が小さいことと、比抵抗が小さいことを確認することができた。
(陽極電極付き基板の発光特性の評価)
上記のα−NPBを成膜した陽極電極付き基板B,Gを、株式会社堀場製作所の蛍光分光装置「Fluorolog−3」を用いて評価した。測定の励起波長は340nmである。この結果、UV/O処理した基板Gの上のα−NPBからは、ピーク波長が434nmのPLスペクトルが、Br処理した基板Bの上のα−NPBからは、ピーク波長が436nmのPLスペクトルが得られた。
(実施例1)
陽極電極付き基板Bを用い、この基板Bを真空蒸着装置にセットし、1×10−4Pa以下の減圧雰囲気下で、ホール輸送層として、α−NPBを500Åの膜厚で蒸着した。次に有機発光層として、Alqにルブレンを7質量%ドープした材料を500Åの膜厚で、電子輸送層としてAlqを200Åの膜厚で、電子注入層としてLiq(化1)を10Åの膜厚で蒸着し、最後に陰極電極としてアルミニウムを800Åの膜厚で形成し、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。有機エレクトロルミネッセンス素子の構造は図2の通りである(実施例2以降も同じ)。
Figure 0005027454
(実施例2)
陽極電極付き基板Bを用い、この基板Bを真空蒸着装置にセットし、1×10−4Pa以下の減圧雰囲気下で、ホール注入層として、DNTPD(化2)を300Åの膜厚で、ホール輸送層として、α−NPBを200Åの膜厚で蒸着した。次に有機発光層として、Alqにルブレンを7質量%ドープした材料を500Åの膜厚で、電子輸送層としてAlqを200Åの膜厚で、電子注入層としてLiqを10Åの膜厚で蒸着し、最後に陰極電極としてアルミニウムを800Åの膜厚に形成し、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
Figure 0005027454
(実施例3)
陽極電極付き基板Cを用いるようにした他は、実施例2と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
(実施例4)
陽極電極付き基板Dを用いるようにした他は、実施例2と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
(実施例5)
陽極電極付き基板Eを用いるようにした他は、実施例2と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
(実施例6)
陽極電極付き基板Fを用いるようにした他は、実施例2と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
(実施例7)
陽極電極付き基板Hを用いるようにした他は、実施例2と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
(実施例8)
陽極電極付き基板Iを用いるようにした他は、実施例2と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
(実施例9)
陽極電極付き基板Jを用いるようにした他は、実施例2と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
(実施例10)
陽極電極付き基板Kを用いるようにした他は、実施例2と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
(実施例11)
陽極電極付き基板Mを用いるようにした他は、実施例2と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
(比較例1)
陽極電極付き基板Gを用いるようにした他は、実施例1と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
(比較例2)
陽極電極付き基板Gを用いるようにした他は、実施例2と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
(比較例3)
陽極電極付き基板Lを用いるようにした他は、実施例2と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
(比較例4)
陽極電極付き基板Nを用いるようにした他は、実施例2と同様にして、有機エレクトロルミネッセンス素子を得た。
上記のようにして実施例1〜11及び比較例1〜4で得た有機エレクトロルミネッセンス素子の効率を測定した。測定は、素子を電源(KEYTHLEY2400)に接続し、27.5mA/cmで定電流駆動した際の輝度・電圧値で比較した。なお、輝度評価にはトプコン株式会社製「BM−9」を使用した。27.5mA/cm通電時の輝度および電圧を表1に示す。
また実施例1〜10及び比較例1〜6で得た有機エレクトロルミネッセンス素子について、寿命を評価した。寿命の評価は、株式会社イーエッチシー社製有機EL発光特性評価装置「PEL−100T」を用い、30mA/cmで通電した際の輝度が初期輝度の80%になるまでの時間を測定することによって行ない、結果を表1に示す。
Figure 0005027454
表1にみられるように、各実施例の有機エレクトロルミネッセンス素子は、比較例の有機エレクトロルミネッセンス素子と比較して、輝度の高さ、駆動電圧の低さ、輝度が80%にまで低下する時間のいずれにおいても優れていることが確認される。尚、実施例11では陽極電極の表面の有機物のガラス転移温度が低いので、他の実施例のものより性能が若干低いものであった。
有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成の一例を示す概略図である。 実施例及び比較例の有機エレクトロルミネッセンス素子の構成を示す平面図である。 プローブ顕微鏡で測定した陽極電極の表面のカラー写真であり、(a)はBr処理前の陽極電極を、(b)Br処理後の陽極電極を示す。 α−NPBを成膜した陽極電極付き基板Bについての、(a)はプローブ顕微鏡で測定した陽極電極の形状像を示すカラー写真、(b)は電流量を示すカラーのグラフである。 α−NPBを成膜した陽極電極付き基板Gについての、(a)はプローブ顕微鏡で測定した陽極電極の形状像を示すカラー写真、(b)は電流量を示すカラーのグラフである。 α−NPBを成膜した陽極電極付き基板Bと陽極電極付き基板Gについての電気的特性を示すグラフである。
符号の説明
1 陽極電極
2 陰極電極
3 有機発光層

Claims (4)

  1. 陽極電極と陰極電極の間に有機発光層を備えて形成される有機エレクトロルミネッセンス素子に於いて、陽極電極は、表面に80℃以上のガラス転移温度を有するか、ガラス転移温度を有さない有機物が存在し、且つ水との接触角が5°以上60°以下である表面に対し、酸または酸化剤で表面処理が施されたものであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
  2. 陽極電極と陰極電極の間に有機発光層を備えて形成される有機エレクトロルミネッセンス素子に於いて、陽極電極は、表面に電子供与の可能な有機物が存在し、且つ水との接触角が5°以上60°以下である表面に対し、酸または酸化剤で表面処理が施されたものであることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
  3. 陽極電極の表面の有機物の膜厚は50Å以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
  4. 陽極電極の表面の有機物の膜厚は20Å以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
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