JP5025666B2 - 窒化処理鋼材 - Google Patents

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Description

本発明は、窒化処理鋼材に関し、詳しくは、例えば自動車の構造部材のように高強度が要求される窒化処理鋼材に関する。
自動車の衝突安全性向上と軽量化のために、種々の高強度鋼材が使用されている。なお、以下の説明において「鋼材」の例として「鋼板」と記載することがある。
高強度鋼板はプレス加工などの成形加工によって所定の形状に加工されることが多い。このため、高強度鋼板には優れた加工性が要求される。しかし、一般に、鋼板の強度が上昇するに伴い延性が低下するため、複雑な形状にプレス成形することが困難になってくる。また、単純な形状であっても、プレス成形後の成形体の弾性回復量(スプリングバック)は、鋼板の高強度化に伴って大きくなり、所定の形状精度を得ることが困難になってくる。
プレス成形性と成形体の高強度化を両立させる方法としては、軟質で延性と深絞り性に優れた鋼板をプレス成形した後に焼入れ又は窒化する技術が知られている。しかし、プレス成形した薄肉の鋼板成形体を焼入れする場合、高温から急速冷却するため焼入れ歪みが大きくなってしまう。一方、焼入れよりも処理温度が低い窒化の場合は、歪みが小さい。
しかし、従来技術における鋼材への窒化処理は、表面に形成される化合物層により耐摩耗性を向上させたり、化合物層の直下に形成される拡散層により疲労強度を向上させることが主たる目的であったため、窒化処理によって鋼材の内部まで強化することはなく、脆性の観点からは内部はむしろ強化しないのが一般的であった。
こうした従来の窒化処理に対して、特許文献1及び特許文献2には、薄鋼板を用いて板厚の中心まで窒化して強化することにより、衝突時の部材の衝撃強度のような、表面だけではなく板厚方向全体の強度に支配される特性を向上させる技術が提案されている。
また、特許文献3には、少量のCrを添加した鋼板を窒化し、表面を硬化させる技術が提案されている。
特開平11−279686号公報 特開2002−20853号公報 特開平10−17988号公報
本発明の目的は、例えば、自動車の構造部材のように高強度と伸び特性との両立が要求され、塗装乾燥のような窒化処理後の加熱を受けても軟化を抑制できる窒化処理鋼材を提供することにある。
一般に、窒化後の鋼板の伸びが小さいと、衝突時に塑性変形によるエネルギー吸収が期待できず、部材が破断してしまう。このため、窒化後の伸び特性を確保しながら高強度化することが必要になる。つまり、窒化による高強度化を実用するためには、窒化後の伸び特性との両立が課題である。
しかしながら、前述の特許文献1及び2は、いずれも単に強度と伸び特性を両立させるための最適条件を明らかにしたものでしかなく、伸び特性を改善し、高強度化を実現するための技術は開示されていない。
特許文献1には、窒化後の強度と伸びで評価される靱性の両立には、固溶Ti量の制御が重要であること、つまり、固溶Ti量が少ないと強度が得られず、固溶Ti量が多いと特に表層のビッカース硬さ(以下、ビッカース硬さをHv硬さと表記する)が300以上の脆性領域に入るため、固溶Ti量に上限があることが記載されているだけである。
同様に、特許文献2には、軽量化の観点からは、板厚方向における平均硬度をHv硬さで300以上とすることが必要で、表面部分と板厚方向における内部中央との硬度差をHv硬さ200以下とすることにより、高強度化に伴う伸び特性の急激な低下を回避することが記載されているだけである。
また、前述の特許文献3は、電気小物部品用の耐摩耗性付与が目的であり、例えば、自動車部品の衝突安全性を向上させる技術ではない。
更に、後述するように、窒化処理後に加熱されると、軟質化してしまうという課題があるが、特許文献1〜3には、このような課題は全く示唆されていない。
本発明者らは、前記の目的を達成するために、種々検討を重ねた。その結果、TiとCrの適量を添加した鋼材では、窒化処理後の低温熱処理において、軟質化を抑制しつつ延性が改善され、結果的に高強度と延性が両立できることが判明した。
以下、上記の知見を得るに到った実験について詳しく説明する。
表1に示す化学組成及び表2に「窒化処理前」として示した引張特性を有する板厚0.8mmの冷間圧延鋼板を通常の方法で溶融塩浴窒化処理し、次いで低温熱処理を施した。
すなわち、上記板厚0.8mmの冷間圧延鋼板を580℃の溶融塩浴に1.5時間浸漬した後、油槽中に浸漬して冷却した。なお、580℃から200℃までの平均冷却速度は、20℃/秒であった。この窒化処理後、更に170℃で20分保持する低温熱処理も施した。
なお、上記表2の「窒化処理前」として示した引張特性は、JIS13号B引張試験片を用いて測定した値である。
Figure 0005025666
Figure 0005025666
上記のようにして得た窒化処理したままの鋼板及び低温熱処理後の鋼板について、引張特性とHv硬さを調査した。
すなわち、各鋼板からJIS13号B引張試験片を採取し常温で引張試験を行って引張特性を調査し、また、試験力9.8Nで板厚中心のHv硬さ測定を行った。
表2に、上記の調査結果を併せて示す。
図1に、
有効Ti=Ti−{(N/14)+(S/32)+(C/12)}×48・・・(1)
式で表される有効TiとCrが鋼板の硬さに及ぼす影響を示す。ここで、破線は窒化処理したままのもの(図では「窒化まま」と表記)であり、実線は170℃で20分の低温熱処理後のものである。
また、図2に、前記 (1)式で表される有効TiとCrが鋼板の伸びに及ぼす影響を示す。図1と同様に、破線は窒化処理したままのもの(図では「窒化まま」と表記)であり、実線は170℃で20分の低温熱処理後のものである。
表1及び表2並びに図1及び図2から、窒化処理のままでは、有効Ti又はCrが多いほど、硬さが高くなるが、逆に伸びは低下することが認められる。
これに対して、窒化処理後に170℃で20分保持する低温熱処理を施した場合は、有効Ti又はCrが多いほど、硬さが高くなるが伸びは低下するとの傾向は変わらないものの、窒化処理のままのものと比較すると硬さは低下するものの伸びは著しく向上することが認められる。すなわち、窒化処理を施されたままの鋼板の延性は低いが、これに低温熱処理を施すことにより、伸び(塑性変形能)が回復することが判明した。このように、塑性変形能が回復した窒化処理鋼材を自動車部品などに適用すれば、衝突時に鋼材が脆性的に破壊することを防ぐことができる。
更に、図1から、Cr量の増加は、窒化処理のままでの硬さをわずかに増加させる効果があると同時に、低温熱処理による硬さの低下量(すなわち、「窒化処理ままでの硬さ」−「低温熱処理後の硬さ」)を小さく抑える効果を持つことが判明した。このことは、例えば、Cr量が少ない鋼板を長時間窒化処理してN量を増やし、これによって強度を上げたとしても、伸びを回復させるために窒化処理に引き続いて低温熱処理を施せば、硬さが著しく低下してしまうことを示すものである。
すなわち、図1及び図2から、高強度と伸び特性との両立のためには、有効Ti又はCrを高くすることが本質的に重要であることが明らかとなった。
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものである。
本発明の要旨は、下記(1)及(2)に記載の窒化処理鋼材にる。
(1)板厚中心から板表面に向かってそれぞれ板厚の40%までの範囲にある板厚中心領域が、質量%で、C:0.03%以下、Si:0.001〜0.5%、Mn:0.01〜0.5%、P:0.001〜0.1%、S:0.015%以下、Al:0.001〜0.5%、Ti:0.01〜0.2%、Cr:0.02〜0.1%、Nb:0〜0.05%、B:0〜0.005%、N:0.08〜0.25%を含み、残部はFe及び不純物からなる平均化学組成で、且つ、板厚中心のビッカース硬さが150以上であり、更に、前記板厚中心領域における長辺が5μm以上の粗大窒化鉄の個数密度が1×10-82当たり10個以下であることを特徴とする窒化処理鋼材。
(2)表面に形成される化合物層の厚さが30μm以下であることを特徴とする上記(1)に記載の窒化処理鋼材。
以下、「窒化処理鋼材」の素材となる鋼、つまり、圧延、鍛造、引抜き又は鋳造など各種の方法で所要の形状に加工され、窒化処理を施される鋼を「窒化処理用鋼材」ということにする
「窒化処理鋼材」とは窒化処理を施された鋼材を指し、これには窒化処理を施された鋼板などの他に、プレス加工などの成形加工によって所定の形状に加工された後で窒化処理を施された部材(部品)が含まれる。
後述の冷間圧延における「%単位」での総圧下率とは、{(冷間圧延前の被圧延材の厚さ−冷間圧延後の被圧延材の厚さ)/(冷間圧延前の被圧延材の厚さ)}×100で表される値をいう。
「粗大窒化鉄」とは、ナイタールでエッチングした前記板厚中心領域の断面を倍率500倍の光学顕微鏡で観察した場合に認められる析出物のうち、長辺が5μm以上のものをいい、必ずしも、純粋な窒化鉄と同定されるものを指すわけではなく、「鉄と窒素とを主成分とする析出物」をいう。
後述の「平均冷却速度」とは、冷却前後の温度差を冷却時間で除したものをいう。
下、上記(1)及(2)の窒化処理鋼材に係る発明をそれぞれ、「(1)の発明」及び(2)の発明」という。また、総称して「本発明」ということがある。
本発明の窒化処理鋼材は高強度と伸び特性とを兼備しているので自動車の構造部材などに利用することができる。
有効Ti及びCrが硬さに及ぼす影響を示す図である。 有効Ti及びCrが伸びに及ぼす影響を示す図である。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
(A)窒化処理用鋼材及び窒化処理鋼材の化学組成
窒化処理を施された窒化処理鋼材の表層には化合物層が形成され、板厚方向に化学組成の不均一が発生するので、窒化処理鋼材の化学組成は、板厚中心から板表面に向かってそれぞれ板厚の40%までの範囲にある板厚中心領域の平均化学組成、すなわち、板厚中心を挟んで板厚の80%に相当する内部の平均化学組成を指すものとする。
なお、窒化処理用鋼材と窒化処理鋼材との含有量を区別する必要がある元素については、窒化処理用鋼材の場合を「窒化処理前」、窒化処理鋼材の場合を「窒化処理後」として説明する。
C(窒化処理前):
良好な深絞り性すなわちr値が高い結晶集合組織を得るためには、Ti及びNbを添加して炭化物を形成させて固溶C量を減少させた、いわゆる「IF鋼」にすることが好ましい。C量が多い場合には、それを固定するのに必要なTi及びNbの量が増加し、それらの炭化物量が増加するため、窒化処理前においては延性を低下させたり、窒化処理後においてはそれらが破壊の起点になる恐れがある。したがって、窒化処理前である窒化処理用鋼材のC含有量0.01%以下とすることが好ましい。窒化処理用鋼材のC含有量の上限は0.005%とすることが更に好ましく、0.003%とすれば一層好ましい。なお、Cの含有量が少ないほど成形性が向上するが、0.0005%未満まで低減しても製鋼コストに見合う効果が期待できないので、下限は0.0005%とするのが好ましい。
C(窒化処理後):
工業的な窒化処理プロセスにおいては、Nと同様にCも富化される場合が多い。窒化処理後のCは、本発明の効果に大きな影響は与えないので、窒化処理において不可避的に富化されるCレベルを含有することに問題はない。但し、窒化処理温度におけるフェライト中へのCの固溶限を大きく超えてCが富化されると、粗大なセメンタイトが析出して脆性的になる恐れがあるので、窒化処理後である窒化処理鋼材のC含有量を0.03%以下とした。
Si:
Siは、固溶強化作用を有する。この効果は窒化による強化量と比較すれば小さいが、部材(部品)の一部分を意図的に窒化処理せず、且つその部分にも強度を確保させたい場合は、Siを添加して強化することは有効である。しかし、Siの多量添加は延性及び深絞り性の低下をきたし、特にその含有量が0.5%を超えると延性及び深絞り性の低下が大きくなる。一方、下限は0%でもよいが、低減に要するコストの観点から0.001%とする。したがって、Siの含有量を0.001〜0.5%とした。なお、強化を必要としない場合には、プレス成形性の観点からSiの含有量の上限を0.1%とすることが好ましい。
Mn:
Mnは、固溶強化作用を有する。この効果は窒化による強化量と比較すれば小さいが、部材(部品)の一部分を意図的に窒化処理せず、且つその部分にも強度を確保させたい場合は、Mnを添加して強化することは有効である。しかし、Mnの多量添加は延性及び深絞り性の低下をきたし、特にその含有量が0.5%を超えると延性及び深絞り性の低下が大きくなる。一方、下限は0%でもよいが、低減に要するコストの観点から0.01%とする。したがって、Mnの含有量を0.01〜0.5%とした。なお、より経済的には0.05%以上とし、窒化を施さない箇所の強化を必要としない場合には、プレス成形性の観点からMnの含有量の上限を0.2%とすることが好ましい。
P:
Pは、固溶強化作用を有する。この効果は窒化による強化量と比較すれば小さいが、部材(部品)の一部分を意図的に窒化処理せず、且つその部分にも強度を確保させたい場合は、Pを添加して強化することは有効である。しかし、Pの多量添加は延性及び深絞り性の低下をきたし、特にその含有量が0.1%を超えると延性及び深絞り性の低下が大きくなる。一方、下限は0%でもよいが、低減に要するコストの観点から0.001%とする。したがって、Pの含有量を0.001〜0.1%とした。なお、強化を必要としない場合にはプレス成形性の観点から、Pの含有量の上限を0.03%とすることが好ましい。
S:
Sは鋼中に不可避的不純物として含有される元素である。本発明のようなTiが高い鋼では、鋼塊又は鋼片においてTiと結合してTiSとして析出する。多量のTiSは延性を劣化させたり、破壊の起点になったりする。また、Sの含有量が多いと後述する有効Tiを確保するためにTiが多量に必要となるため不経済である。更には、Tiの含有量が一定であるならば、Sの含有量が高いほど固溶Tiが減少し、窒化処理後に低温熱処理した場合の強度が低くなる。したがって、Sの含有量を0.015%以下とした。S含有量は0.01%以下とするのが好ましい。一方、製鋼コストの観点からは、S含有量の下限を0.001%とすることが好ましい。
Al:
Alは、製鋼工程で脱酸のために添加される元素である。その含有量が0.001%未満では前記の効果が十分に得られない。AlはNとの親和力が強いので、窒化処理による強度上昇を目的として添加してもよい。しかし、Alの多量添加は窒化処理前の鋼材(すなわち、窒化処理用鋼材)の延性を低下させ、特にその含有量が0.5%を超えると延性の低下が大きくなる。したがって、Alの含有量を0.001〜0.5%とした。なお、Al含有量の上限は0.1%とすることが好ましい。また、Ti添加の歩留まりをよくするために、Al含有量の下限は0.005%とすることが好ましい。
Ti(窒化処理前):
窒化処理前である窒化処理用鋼材において、Tiは、C及びNを固定して深絞り性を向上させるために必須の元素である。しかし、Tiの含有量が0.01%未満では添加効果に乏しい。一方、その含有量が0.2%を超えると、再結晶温度が上昇して窒化処理前の鋼材の延性が低下する。したがって、窒化処理前である窒化処理用鋼材のTiの含有量を0.01〜0.2%とした。窒化処理用鋼材のTiの含有量は0.02〜0.1%とすることが好ましく、0.03〜0.06%とすれば更に好ましい。なお、TiはC、N及びSと結合するので、窒化処理用鋼材の場合にはTiの含有量に加えて前記 (1)式で表される有効Ti量も適正化することが好ましい。このことについては後述する。
Ti(窒化処理後):
窒化処理してもTiの含有量そのものは変動しないので、窒化処理後である窒化処理鋼材におけるTi含有量の考え方は、窒化処理前である窒化処理用鋼材と同じでよい。つまり、深絞り性を向上させるためにTiは0.01%以上の含有量が必要である。しかし、その含有量が0.2%を超えると、窒化処理後の鋼材の延性が低下する。したがって、窒化処理後である窒化処理鋼材のTiの含有量を0.01〜0.2%とした。窒化処理鋼材のTiの含有量は0.02〜0.1%とすることが好ましく、0.03〜0.06%とすれば更に好ましい。なお、窒化処理鋼材の場合にはTiの含有量を適正化する必要があるが、後述する有効Tiに関して制限する必要はない。
N(窒化処理前):
窒化処理前である窒化処理用鋼材において、Nは不可避的不純物として含有される元素である。良好な深絞り性すなわちr値が高い結晶集合組織を得るためには、Tiを添加してTiNを形成させて固溶N量を減少させた、いわゆる「IF鋼」にすることが好ましい。N量が多い場合には、それを固定するのに必要なTiの量が増加し、粗大なTiNの量が増加するため、窒化処理前においては延性を低下させたり、窒化処理後においてはそれが破壊の起点になる恐れがある。したがって、窒化処理前である窒化処理用鋼材のN含有量0.005%以下とすることが好ましい。窒化処理用鋼材のN含有量の上限は0.003%とすることが更に好ましい。なお、製鋼コストの観点からは、N含有量の下限は0.001%とすることが好ましい。
N(窒化処理後):
窒化処理後である窒化処理鋼材において、Nは鋼材の強度を確保するための最も重要な元素である。しかし、過剰に窒化しても、Nは粗大な窒化物の生成に費やされるだけで、強度への寄与は飽和する。このため、窒化処理後である窒化処理鋼材のN含有量の上限を0.25%とした。一方、Nの含有量が少ないと、強度上昇が小さく、窒化処理のコストに見合う効果が得られないので、窒化処理鋼材には0.08%以上のNを含有させるものとした。
Cr:
Crは低温熱処理時の軟化を抑制する作用を持つ元素である。窒化ままの硬さを上昇させる作用はTiより小さいので、窒化処理鋼材を硬くて脆性的にすることなく、低温熱処理時の軟化を抑制することができる。含有量が0.02%未満では、その効果は得られず、0.1%を超えると硬く脆性的になる。したがって、0.02〜0.1%のCrを含有させる。なお、Crは、後述する有効Tiと同様の作用を持つので、その含有量の範囲は有効Ti量との関係により決まる。
Nb:
Nbの添加は任意である。添加すれば、Tiと同様にCを固定して、窒化処理前である窒化処理用鋼材の深絞り性を向上させる作用を有する。なお、NbがCを固定する作用はTiより弱いので、微量の固溶Cを残留させて2次加工脆性を改善する作用も有する。こうした効果を確実に得るには、Nbは0.005%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、Nbを過剰に添加すると再結晶温度が上昇して延性の低下をきたし、特にその含有量が0.05%を超えると延性の低下が大きくなる。したがって、Nbの含有量を0〜0.05%とした。
B:
Bの添加は任意である。添加すれば、粒界に偏析して粒界を強化するため、2次加工脆性を改善する作用を有する。この効果を確実に得るには、Bを0.0002%以上含有させることが好ましい。しかし、Bの含有量が増えると深絞り性が低下し、特に0.005%を超えると深絞り性の低下が著しくなる。したがって、Bの含有量を0〜0.005%とした。
有効Ti:
Tiは、C、N及びSと結合するので、窒化処理用鋼材の場合にはTiの含有量に加えて前記(1)式で表される有効Ti量も適正化することが好ましい。すなわち、延性改善のための低温熱処理における強度の低下を抑制するためには、有効Tiを0.01%以上とすることが好ましい。一方、有効Tiが0.08%を超えると強度が高くなりすぎて脆性的になる。したがって、窒化処理前である窒化処理用鋼材の有効Tiを0.01〜0.08%とすることが好ましい。有効Tiの下限は、0.025%とすることが更に好ましく、0.04%とすれば一層好ましい。有効Tiの上限は、0.065%とすることが更に好ましい。
なお、上述したように、低温熱処理時の軟化抑制には、有効TiだけでなくCrが相加的に作用する。有効TiよりもCrはその作用が強いので、0.4×有効Ti≦0.1−Crの関係を満足させることが好ましい。「0.4×有効Ti」の値が「0.1−Cr」を超えると、低温熱処理後においても鋼材の延性が不足する。
前記(1)の発明に係る窒化処理鋼材が含有するFeと不純物以外の成分元素の規定は、上記のCからBまでである。
上述の化学組成を有する(1)の発明に係る窒化処理鋼材は、通常の方法で溶製された後、鋳型に注入する「造塊法」又は「連続鋳造法」のいずれの手段を用いて鋼塊とされたものを素材としてもよい。
(B)窒化処理鋼材のHv硬さ
窒化処理後の強度が低い場合は、高強度鋼板と比較してわざわざ窒化処理を行う利点が薄れてしまう。本発明の窒化処理前のいわゆる「IF鋼板」は、引張強さが440MPa級以下のものが実用化されており、それより高い引張強さが得られないと利点が小さいので、(1)の発明に係る窒化処理鋼材の板厚中心のHv硬さを150以上とした。この板厚中心のHv硬さが過度に高くなると、伸びが低くなることがあるので、Hv硬さの上限は400とすることが好ましい。
窒化処理の際、Nは鋼材の表面から内部に拡散して行くため、窒化処理時間が短い場合には、化合物層を除いた表面部の硬さが板厚中心の硬さより大きい硬度分布となるが、表面部の硬さが大きすぎると、硬さの差が大きい界面を起点として破壊が生じることがあるので、表面部と板厚中心のHv硬さの差は200以下とすることが好ましい。なお、上記の表面部のHv硬さは、鋼材表面から板厚の10%の深さにおける部位の硬さをいう。
(C)窒化処理鋼材の板厚中心領域の組織中に存在する粗大窒化鉄
粗大窒化鉄が析出すると、素地であるフェライト中の固溶Nが消費されるのでフェライトの硬さが低下する。一方、粗大な析出物は析出強化能が弱いため、析出強化も期待できず、いたずらに強度が低下するばかりである。窒化処理鋼材に高い強度を付与するには、板厚中心領域の組織中に存在する針状の粗大窒化鉄の個数密度を1×10-82当たり10個以下にする必要がある。
このため、(1)の発明に係る窒化処理鋼材では、板厚中心領域の組織中に存在する粗大窒化鉄の個数密度を1×10-82当たり10個以下とした。この粗大窒化鉄は、Nの拡散が速い高温域で析出・成長するものであり、全く存在しないこと(すなわち上記1×10-82当たり0個であること)が好ましい。
なお、既に述べたように、粗大窒化鉄とはナイタールでエッチングした板厚中心領域の断面を倍率500倍の光学顕微鏡で観察した場合に認められる析出物のうち、長辺が5μm以上のものをいい、必ずしも、純粋な窒化鉄と同定されるものを指すわけではなく、「鉄と窒素とを主成分とする析出物」をいう。
(D)窒化処理鋼材の表面に形成される化合物層の厚さ
自動車部品には塗装の下地処理として化成処理が施されるが、化合物層が厚くなると化成処理液と地鉄との電気化学反応が阻害され、化成処理が不十分となって塗装後の耐食性が低下する。また、化合物層は地鉄より硬くて脆いため、化合物層が厚いと剥離しやすくなる。特に、化合物層の厚さが30μmを超えると、化成処理が不十分となって塗装後の耐食性が低下したり、化合物層が剥離したりすることがあるため、化合物層の厚さは30μm以下とするのがよい。化合物層は、地鉄より貴な腐食電位のため、孔食を防ぐためには、化合物層の厚さを15μm以下にすることが好ましい。
したがって、(2)の発明においては、表面に形成される化合物層の厚さを30μm以下とした。なお、表面に形成される化合物層の厚さは15μm以下とすることが一層好ましい。この化合物層の厚さの下限は特に限定しないが、窒化処理によって不可避的に形成されるものであることと、化合物層自体が耐食性を有することから、2μm程度とするのがよい。
なお、窒化処理鋼材の板厚が大きい場合には、板厚中心までNが拡散するのに長時間を要するようになり、それに伴って表面に形成される化合物層も厚くなる。したがって、化合物層の発達を抑制しながら、Nを板厚中心まで拡散させるために、後述する窒化処理に引き続いて、非窒化雰囲気中で等温保持を行ってもよい。
(E)窒化処理用鋼材の熱間圧延、巻き取り、冷間圧延及び焼鈍
上述した(A)項の化学組成を有する窒化処理鋼材の素材となる鋼(窒化処理用鋼材)の鋼塊又は鋼片の熱間圧延条件は特に規定するものではなく、通常の方法でよい。更に、熱間圧延の温度範囲は、オーステナイト域でもフェライト域でも構わない。但し、熱間圧延の仕上げ温度が850℃を下回ると、熱間圧延中にフェライト変態を生じるため、熱間圧延鋼材の組織が粗粒化して好ましい集合組織が得られない。したがって、深絞り性が要求される場合には、熱間圧延の仕上げ温度を850℃以上とすることが好ましい。なお、後述する冷間圧延及び焼鈍の後で、深絞り性に優れた再結晶集合組織を得るためには、熱間圧延した鋼材を細粒化することが有効なため、熱間圧延終了直後から水冷して粒成長を抑制することが好ましい。
熱間圧延後の巻き取りは、TiCの析出を促進して固溶C量を減少させるために500℃以上で行うのがよい。一方、巻き取り温度が高くなり、特に、700℃を超えると、軟質化して巻き姿が崩れたり、スケールが増加したりすることがあるので、巻き取り温度は700℃以下とするのがよい。
記の温度で巻き取った後は、通常の酸洗によって熱間圧延鋼材のスケールを除去し、更に、冷間圧延を行えばよい。後述の焼鈍後に深絞り性に優れた再結晶集合組織を得るためには、冷間圧延の総圧下率を70〜90%とするのがよい。
間圧延後は、通常の方法によって焼鈍処理すればよい。焼鈍方法は、連続焼鈍でも箱焼鈍でもかまわないが、焼鈍後に深絞り性に優れた再結晶集合組織を得るために、焼鈍温度を650〜880℃とするのがよい。
鈍温度は、箱焼鈍の場合には650〜750℃、連続焼鈍の場合には750〜880℃とすることが一層好ましい。
なお、深絞り性が要求されない場合には、上述の冷間圧延及び焼鈍を省略し、熱間圧延後にスケールを除去しただけで、後述の成形及び/又は窒化処理に供してもよい。
(F)成形加工
鋼材から所定形状の部材(部品)を得るための成形加工方法は、プレス成形、曲げ成形といった塑性加工や切削を初めとする機械加工など手段を問わない。塑性加工を行ってから窒化処理して強化することで、優れた成形性と高強度とを両立させることが可能である。
お、窒化処理用鋼材のr値が高い場合には、窒化処理後の窒化処理鋼材も高いr値を示す。このため、窒化処理を行った後に成形する、又は、成形後に窒化処理を行い再度成形する、という工程を採ることも可能である。
お、テーラードブランク技術を用い、板厚の異なる鋼板を組み合わせた成形体や、本発明に係る窒化強化に適した鋼板と一般の鋼板を組み合わせた成形体を作り、強度と軽量化を最適化することが可能である。また、部分的にマスキングを施してから窒化処理を行い、部分的に窒化させないことも可能である。例えば、設計者の意図した部材の強度分布を実現するために部分的に窒化していない軟質な部分を配置したり、溶接性の向上の観点から溶接箇所の窒化を避けるといったことも行える。
(G)窒化処理
窒化処理は、例えば、ガス窒化法、イオン窒化法、ガス軟窒化法や塩浴窒化法など一般に用いられる方法で行えばよい。
窒化処理の温度が高いほどNの拡散が速くなり、窒化処理時間を短縮できる。しかし、窒化処理温度が650℃を超えるとオーステナイトが生成され、窒化処理後の冷却時にオーステナイトからフェライト又はマルテンサイトへの変態が生じ、変態歪みを生じることがある。一方、窒化処理の温度が低いほど鋼中へのNの固溶限が小さくなり、且つ、鋼中でのNの拡散が遅くなる。特に、窒化処理温度が530℃未満では板厚中心まで窒化できず、且つ、表層近傍の窒化された部位の硬さが低くなることがある。このため、窒化処理は530〜650℃で行うのがよい。
お、Nの最大固溶限の温度近傍で窒化処理することが最も効率がよいため、窒化処理の温度は550〜600℃とすることが一層好ましい。
窒化処理後の冷却速度は、できるだけ大きくするのがよい。窒化処理温度からの冷却過程では、Nは過飽和状態にあるので、Nの拡散速度が大きい温度域においては、粗大な窒化鉄が急速に析出し、固溶N量が減少することがあるからである。この固溶N量の減少を防ぐためには、窒化処理温度から200℃までを4.5℃/秒以上の平均冷却速度で冷却するのがよい。
記の平均冷却速度は、10℃/秒以上であれば更によい。
なお、上述の平均冷却速度の上限は特に規定するものではなく、窒化処理鋼材のサイズ及び設備面から得られる最大の冷却速度であっても構わない。
(H)低温熱処理
窒化処理後に100〜200℃の温度域で10分以上保持する低温熱処理を施して析出物の状態を制御すれば伸び特性が大幅に改善されて、窒化処理鋼材に高強度と伸び特性とを兼備させることができる。
すなわち、温度が100℃未満の場合や保持時間が10分未満の場合には、Nの拡散距離が短いため窒化鉄の析出が不十分となって延性改善の効果が得られず、温度が200℃を超えると軟化が顕著となって窒化処理鋼材を強化するという目的が達せられない。
化処理後に施す低温熱処理は、窒化処理された鋼材つまり窒化処理鋼材を一旦室温まで冷却してから再加熱して行ってもよいし、窒化処理後の冷却過程において行ってもよい。なお、窒化処理鋼材、なかでも窒化処理部品を塗装する場合には、上記100〜200℃の温度域で10分以上保持する低温熱処理を塗装の乾燥工程と兼用すれば工程を追加する必要がなく経済的である。
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
表3に示す化学組成を有する鋼を実験室にて溶解し、各鋼塊を通常の方法で熱間鍛造して厚さ20mmの鋼片とした。次いで、上記の各鋼片を1200℃で30分加熱した後、圧延仕上げ温度を920℃とする熱間圧延を行って厚さ4.5mmの鋼板とした。なお、圧延終了後は直ちに水冷を行い、650℃まで冷却した後、その温度で30分保持し、その後20℃/時の平均冷却速度で室温まで徐冷して巻き取り処理を模擬した。
Figure 0005025666
上記のようにして得た熱間圧延鋼板を通常の方法で酸洗してスケールを除去した後、通常の方法で総圧下率が82.2%となる冷間圧延を行って厚さ0.8mmとした。次いで、上記の各冷間圧延鋼板を10℃/秒の平均加熱速度で加熱して820℃で30秒保持した後、10℃/秒の平均冷却速度で室温まで冷却し、連続焼鈍を模擬した。更に、伸び率0.1%の調質圧延を行った後、580℃で3時間のガス軟窒化処理を施した。その後、170℃で20分保持する低温熱処理を行った。なお、ガス軟窒化処理の条件は、NH3ガスとRXガス(吸熱性)との混合ガス(体積比で、NH3ガス:RXガス=1:1)の雰囲気中で行い、窒化処理後は油槽中に浸漬して冷却した。この冷却における580℃から200℃までの平均冷却速度は、20℃/秒であった。
窒化処理前の鋼板及び低温熱処理後の鋼板について引張特性を調査し、低温熱処理後の鋼板についてはHv硬さも調査した。
すなわち、窒化処理前及び低温熱処理後の各鋼板から圧延方向が引張方向となるようにJIS13号B引張試験を採取して常温で引張特性を調査した。また、低温熱処理後の各鋼板の板厚中心と鋼板表面から板厚の10%の深さにおける部位の計2ヶ所のHv硬さを試験力9.8Nで測定した。
表4に、窒化処理前及び低温熱処理後の各鋼板の引張特性及び低温熱処理後の各鋼板の板厚中心のHv硬さを示す。なお、いずれの鋼板においても、板厚中心のHv硬さと鋼板表面から板厚の10%の深さの部位におけるHv硬さの差は50以下であった。このことから、各鋼板はいずれも板厚方向に一様に窒化されていると判断された。
Figure 0005025666
C及びNは、窒化処理によって含有量が変化するので、窒化処理後の鋼板における平均化学組成の分析を行った。なお、分析の際には鋼板の両表面から0.08mm(板厚の10%に相当)ずつを機械研削して、鋼板表面に形成されるN濃度が非常に高い化合物層の影響を除いてから分析に供した。なお、CとN以外の含有量は窒化処理前のものから変化していなかった。
また、低温熱処理後の各鋼板についても鋼板の両表面から0.08mm(板厚の10%に相当)ずつを機械研削した後、鋼板断面を鏡面研磨してナイタールでエッチングし、倍率を500倍として光学顕微鏡で観察した。なお、光学顕微鏡観察では、いずれの鋼板においても長辺が5μm以上の粗大窒化鉄はほとんど認められず、1×10-82当たり1個未満であった。
表4に、窒化処理後におけるC及びNの分析結果を併せて示す。
表4から明らかなように、本発明で定める化学組成を有する鋼J、K、L、O、P、Q、Rの窒化処理前の鋼板は、降伏点及び引張強さが低く、伸びが大きい。
更に、これらを窒化処理後に低温熱処理した鋼板の場合には、高い引張強さと大きな伸びを確保できていることも明らかである。
これに対して、Cr含有量が本発明で規定する条件から外れた鋼Iの鋼板を窒化処理後に低温熱処理した場合には、低温熱処理による軟化が大きく、鋼Jと比較して低い強度しか得られなかった。
が本発明で規定する条件から外れた鋼Mの鋼板を窒化処理後に低温熱処理した場合には、窒化後の平均化学組成におけるS含有量が本発明で規定する条件より多いので固溶Tiが減少してしまい、強度が低かった。
「0.4×有効Ti」の値が「0.1−Cr」を超える鋼Nの鋼板を窒化処理後に低温熱処理した場合には、伸びが著しく小さかった。
実施例1で製造した鋼Kの伸び率0.1%の調質圧延を行った冷間圧延鋼板に、実施例1と同じNH3ガスとRXガスとの混合ガス雰囲気中で580℃で3時間のガス軟窒化処理を施した。その後、170℃で20分保持する低温熱処理を行った。なお、窒化処理後は油槽中に浸漬して冷却したが、油槽に浸漬して冷却するまでの時間を変えることにより、窒化処理温度から200℃までの平均冷却速度を変化させた。
低温熱処理後の各鋼板について、前記実施例1におけると同様にして、引張特性調査、Hv硬さ測定、倍率を500倍とした光学顕微鏡観察を行った。また、窒化処理後の鋼板における平均化学組成の分析も行った。
表5に、低温熱処理後の各鋼板の引張特性、板厚中心のHv硬さ、倍率500倍の光学顕微鏡を用いた長辺が5μm以上の粗大窒化鉄の観察結果を示す。なお、いずれの鋼板においても、板厚中心のHv硬さと鋼板表面から板厚の10%の深さの部位におけるHv硬さの差は50以下であった。このことから、各鋼板はいずれも板厚方向に一様に窒化されていると判断された。
表5には窒化処理後におけるC及びNの分析結果も併記した。なお、CとN以外の含有量は窒化処理前のものから変化していなかった。
Figure 0005025666
表5から、本発明で定める平均化学組成及び粗大窒化鉄の個数密度を満たす試験記号K−1及びK−2の場合には、高い引張強さと大きな伸びを確保できていることが明らかである。
これに対して、本発明で定める平均化学組成を満たしていても、粗大窒化鉄の個数密度が本発明の規定から外れた試験記号K−3及びK−4の場合には、強度の低下が大きい。したがって、窒化処理温度から200℃までの平均冷却速度は4.5℃/秒以上が好ましいことがわかる。
実施例1で製造した鋼Kの伸び率0.1%の調質圧延を行った冷間圧延鋼板に、実施例1と同じNH3ガスとRXガスとの混合ガス雰囲気中で580℃での処理時間を変えてガス軟窒化処理を施した。なお、表面の化合物層に含まれるNを鋼板内部へ拡散させて化合物層を薄くするために、上記のNH3ガスとRXガスとの混合ガス雰囲気中で580℃で3時間の窒化処理を行った後、雰囲気を100%N2ガスに変え、同じ580℃で1時間保持する処理も行った。いずれの条件で窒化処理したものも窒化処理後は油槽中に浸漬して冷却した。この冷却における580℃から200℃までの平均冷却速度は、20℃/秒であった。
更に、175℃で25分間の低温熱処理を施した後に無塗装で複合腐食サイクル試験に供し、耐食性を調査した。
すなわち、「塩水噴霧→乾燥→湿潤」が1サイクル(24時間)となる複合腐食サイクル試験を行い、3サイクル後の腐食深さおよび腐食減量を測定した。なお、複合腐食サイクル試験は、窒化を行わないで低温熱処理を施した鋼板(試験記号K−5)についても行った。
なお、上記複合腐食サイクル試験に供した試験片の調査対象面を10分割して各分割ごとの最大腐食深さを測定した後、上位5点の平均値を腐食深さとした。
また、倍率が500倍の光学顕微鏡で観察して表面に形成された化合物層の厚さの測定を行った。
表6に、複合腐食サイクル試験による耐食性調査結果及び倍率が500倍の光学顕微鏡を用いた化合物層の厚さ測定結果を示す。
Figure 0005025666
表6から、本発明範囲の化合物層厚さを有する鋼板は、腐食深さと腐食減量がともに小さいことが分かる。試験記号K−5のように化合物層が存在しない場合や、K−9、K−10のように化合物層が厚い場合は、腐食減量が大きく、耐食性が劣ることが分かる。
実施例1で製造した鋼Kの伸び率0.1%の調質圧延を行った冷間圧延鋼板を、しわ押さえ圧とダイス肩Rの条件を変えることで縦壁の歪み量を変化させてハット形状にプレス成形した。
プレス成形後に、実施例1と同じNH3ガスとRXガスとの混合ガス雰囲気中で580℃で3時間のガス軟窒化処理を施し、窒化処理後は油槽中に浸漬して冷却した。この冷却における580℃から200℃までの平均冷却速度は、20℃/秒であった。この後は、150℃で20分保持する低温熱処理を行った。なお、プレス成形しないで上記の窒化処理を施した前記冷間圧延鋼板にも150℃で20分保持する低温熱処理を行った。
このようにして得たハット形状部材の縦壁部及び冷間圧延鋼板について、前記実施例1におけると同様にして、Hv硬さ測定を行った。
表7に、低温熱処理後の板厚中心のHv硬さを示す。なお、いずれのハット形状部材と冷間圧延鋼材においても、板厚中心のHv硬さと鋼板表面から板厚の10%の深さの部位におけるHv硬さの差は50以下であった。このことから、各ハット形状部材と冷間圧延鋼板はいずれも板厚方向に一様に窒化されていると判断された。
Figure 0005025666
この結果から、プレス成形した場合にも、プレス成形を行わない鋼板の状態で評価した実施例1〜3と同じ結果が期待できる。
本発明の窒化処理鋼材は高強度と伸び特性とを兼備しているので自動車の構造部材などに利用することができる。

Claims (2)

  1. 板厚中心から板表面に向かってそれぞれ板厚の40%までの範囲にある板厚中心領域が、質量%で、C:0.03%以下、Si:0.001〜0.5%、Mn:0.01〜0.5%、P:0.001〜0.1%、S:0.015%以下、Al:0.001〜0.5%、Ti:0.01〜0.2%、Cr:0.02〜0.1%、Nb:0〜0.05%、B:0〜0.005%、N:0.08〜0.25%を含み、残部はFe及び不純物からなる平均化学組成で、且つ、板厚中心のビッカース硬さが150以上であり、更に、前記板厚中心領域における長辺が5μm以上の粗大窒化鉄の個数密度が1×10-82当たり10個以下であることを特徴とする窒化処理鋼材。
  2. 表面に形成される化合物層の厚さが30μm以下であることを特徴とする請求項に記載の窒化処理鋼材。
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