以下、本発明の実施の形態を、添付の図面に示した本発明の一実施例に基づいて説明する。
図1〜図15は本発明の一実施例を示すものであり、図1は自動二輪車の左側面図、図2はパワーユニットの左側面図、図3はパワーユニットの右側面図、図4は図2の4−4線断面図、図5は図4の5−5線断面図、図6は後部バンク側の図5に対応した断面図、図7は図6の要部拡大断面図、図8は歯車変速機構およびクラッチ装置の縦断面図、図9は図8の要部拡大図、図10は図2の10−10線拡大断面図、図11は図10の11−11線断面図、図12は油圧系の構成を示す系統図、図13は図3の要部拡大図、図14は図13の14−14線断面図、図15は図13の15矢視図である。
先ず図1において、鞍乗り型車両である自動二輪車の車体フレームFは、前輪WFを軸支するフロントフォーク25を操向可能に支承するヘッドパイプ26と、該ヘッドパイプ26から後下がりに延びる左右一対のメインフレーム27…と、両メインフレーム27…の後部に連設されて下方に延びる左右一対のピボットプレート28…とを有しており、ピボットプレート28…に前端が揺動可能に支承されるスイングアーム29の後部に後輪WRが軸支される。しかも前記ピボットプレート28の下部および前記スイングアーム29の前部間にはリンク30が設けられ、前記ピボットプレート28の上部および前記リンク30間にはクッションユニット31が設けられる。
前記メインフレーム27…およびピボットプレート28…にはパワーユニットPが懸架されており、該パワーユニットPから出力される回転動力は前後に延びるドライブシャフト32を介して前記後輪WRに伝達される。
前記パワーユニットPが備えるエンジンEにおけるエンジン本体33もしくは車体フレームFには、サイドスタンド34が取付けられており、この実施例では、前記車体フレームFにおける左側のピボットプレート28の下部にサイドスタンド34が取付けられる。したがってサイドスタンド34を立てて駐車したときに自動二輪車は左側に傾斜した状態となる。
図2および図3において、前記エンジンEのエンジン本体33は、自動二輪車への搭載状態で前方に位置する前部バンクBFと、該前部バンクBFよりも後方に位置する後部バンクBRとを有してV型の水冷式に構成されるものであり、両バンクBF,BRに共通なクランクケース35に、自動二輪車の左右方向に沿うクランクシャフト36が回転自在に支承される。
クランクケース35は、上部ケース半体35aおよび下部ケース半体35bが結合されて成るものであり、V字形をなすようにして前部および後部シリンダブロックBF,BRが上部ケース半体35aに一体に形成され、前記クランクシャフト36の軸線は前記上部ケース半体35aおよび前記下部ケース半体35bの結合面37上に配置される。
前部バンクBFは、前部シリンダブロック38Fと、前部シリンダブロック38Fに結合される前部シリンダヘッド39Fと、前部シリンダヘッド39Fに結合される前部ヘッドカバー40Fとで構成され、後部バンクBRは、後部シリンダブロック38Rと、後部シリンダブロック38Rに結合される後部シリンダヘッド39Rと、後部シリンダヘッド39Rに結合される後部ヘッドカバー40Rとで構成され、前記クランクケース35の下部にはオイルパン41が結合される。
前部シリンダブロック39Fには、前記クランクシャフト36の軸線方向に並ぶ2つのシリンダボア42…が形成されており、前部シリンダブロック39Fは、エンジン本体33の車体フレームFへの懸架状態で前記シリンダボア42…の軸線を前上がりに傾斜させるようにしてクランクケース35に結合される。また後部シリンダブロック39Rには、前記クランクシャフト36の軸線方向に並ぶ2つのシリンダボア42…が形成されており、後部シリンダブロック39Rは、エンジン本体33の車体フレームFへの懸架状態で、各シリンダボア42…の軸線を後上がりに傾斜させるようにしてクランクケース35に結合される。而して前部バンクBFの両シリンダボア42…にそれぞれ摺動可能に嵌合されるピストン43…と、後部バンクBRの両シリンダボア42…にそれぞれ摺動可能に嵌合されるピストン43…とが、前記クランクシャフト36に共通に連接される。
図4および図5において、前部シリンダヘッド39Fには、各シリンダボア42…毎に一対ずつの吸気弁44…が一対ずつの弁ばね46…で閉弁方向に付勢されて開閉作動可能に配設されるとともに、一対ずつの排気弁45…が弁ばね47…で閉弁方向に付勢されて開閉作動可能に配設されており、これらの吸気弁44…および排気弁45…は、前部バンク側動弁装置48Fによって開閉駆動される。
前部バンク側動弁装置48Fは、前記クランクシャフト36と平行な軸線を有して前部シリンダヘッド39Fに回転自在に支承されるとともに吸気弁44…の上方に配置されるカムシャフト49と、該カムシャフト49に設けられた複数(この実施例では4つ)の吸気側カム50…および吸気弁44…間に介装されて前部シリンダヘッド39Fに摺動可能に嵌合される吸気側バルブリフタ51…と、前記カムシャフト49に設けられた複数(この実施例では4つ)の排気側カム52…に転がり接触するローラ53…を一端に有するとともに他端には各排気弁45…のステム45a…の上端に当接するタペットねじ54…が進退位置を調節可能として螺合されるロッカアーム55…とを備え、ロッカアーム55…は、前記カムシャフト49と平行な軸線を有して前部シリンダヘッド39Fに固定配置されるロッカシャフト56で揺動可能に支承される。
図6において、後部シリンダヘッド39Rには、各シリンダボア42…毎に一対ずつの吸気弁43…および一対ずつの排気弁44…が弁ばね280…,281…で閉弁方向に付勢されて開閉作動可能に配設されており、これらの吸気弁43…および排気弁44…は、後部バンク側動弁装置48Rによって開閉駆動される。
後部バンク側動弁装置48Rは、前記クランクシャフト36と平行な軸線を有して後部シリンダヘッド39Rに回転自在に支承されるとともに吸気弁43…の上方に配置される吸気側カムシャフト57と、前記クランクシャフト36と平行な軸線を有して後部シリンダヘッド39Rに回転自在に支承されるとともに排気弁44…の上方に配置される排気側カムシャフト58と、吸気側カムシャフト57に設けられる複数(この実施例では4つ)の吸気側カム59…および吸気弁43…間に介装されて後部シリンダヘッド39Rに摺動可能に嵌合される吸気側バルブリフタ60…と、排気側カムシャフト58に設けられる複数(この実施例では4つ)の排気側カム61…および排気弁44…間に介設されて後部シリンダヘッド39Rに摺動可能に嵌合される排気側バルブリフタ62…とを備える。
しかも後部バンク側動弁装置48Rには、後部バンクBRの2気筒の吸気弁43…の作動態様を開閉作動状態および閉弁休止状態に切換可能とした吸気側弁作動態様変更機構63と、2気筒の排気弁44…の作動態様を開閉作動状態および閉弁休止状態に切換可能とした排気側弁作動態様変更機構64とが付設される。
図7において、吸気側弁作動態様変更機構63は、吸気側バルブリフタ60…に関連して設けられるものであり、吸気側バルブリフタ60に摺動可能に嵌合されるピンホルダ65と、吸気側バルブリフタ60の内面との間に油圧室66を形成してピンホルダ65に摺動可能に嵌合されるスライドピン67と、油圧室66の容積を縮少する方向にスライドピン67を付勢するばね力を発揮してスライドピン67およびピンホルダ65間に設けられる戻しばね68と、スライドピン67の軸線まわりの回転を阻止してピンホルダ65およびスライドピン67間に設けられるストッパピン69とを備える。
ピンホルダ65の外周には環状溝71が設けられており、吸気側バルブリフタ60の軸線と直交する軸線を有して一端を前記環状溝71に開口せしめるとともに他端を閉塞した有底の摺動孔72がピンホルダ65に設けられる。またピンホルダ65には、弁ばね280で閉弁方向に付勢された吸気弁43におけるステム43aの先端部を挿通せしめる挿通孔73と、該挿通孔73との間に摺動孔72を挟む延長孔74とが、吸気弁43におけるステム43aの先端部を収容可能として同軸に設けられる。吸気側バルブリフタ60の閉塞端側で延長孔74の端部を塞ぐ円盤状のシム75がピンホルダ65に嵌合され、このシム75に当接する突部76が吸気側バルブリフタ60の閉塞端内面中央部に一体に設けられる。
ピンホルダ65の摺動孔72にはスライドピン67が摺動自在に嵌合される。このスライドピン67の一端と吸気側バルブリフタ60の内面との間には、環状溝71に通じる油圧室66が形成され、スライドピン67の他端と摺動孔72の閉塞端との間に形成されるばね室77内には戻しばね68が収納される。
スライドピン67の軸方向中間部には、前記挿通孔73および延長孔74に同軸に連なり得る収容孔78が前記ステム43aの先端部を収容可能として設けられ、該収容孔78の挿通孔73側の端部は、挿通孔73に対向してスライドピン67の下部外側面に形成される平坦な当接面79に開口される。而して当接面79はスライドピン67の軸線方向に沿って比較的長く形成されるものであり、収容孔78は、当接面79の油圧室66側の部分に開口される。
このようなスライドピン67は、油圧室66の油圧により該スライドピン67の一端側に作用する油圧力と、戻しばね68によりスライドピン67の他端側に作用するばね力とが均衡するようにして軸方向に摺動するものであり、油圧室66の油圧が低圧であるときの非作動時には、収容孔78を挿通孔73および延長孔74の軸線からずらせて前記ステム43aの先端を当接面79に当接させるように図7の右側に移動し、油圧室66の油圧が高圧になった作動状態では、挿通孔73に挿通されている前記ステム43aの先端部を収容孔78および延長孔74に収容せしめるように図7の左側に移動する。
而してスライドピン67がその収容孔78を挿通孔73および延長孔74に同軸に連ならせる位置に移動したときには、吸気側カム59から作用する押圧力によって吸気側バルブリフタ60が摺動するのに応じてピンホルダ65およびスライドピン67も吸気側バルブリフタ60とともに吸気弁43側に移動するが、前記ステム43aの先端部が収容孔78および延長孔74に収容されるだけで吸気側バルブリフタ60およびピンホルダ65から吸気弁43に開弁方向の押圧力が作用することはなく、吸気弁43は休止したままとなる。またスライドピン67がその当接面79に前記ステム43aの先端部を当接させる位置に移動したときには、吸気側動弁カム59から作用する押圧力によって吸気側バルブリフタ60が摺動するのに応じたピンホルダ65およびスライドピン67の吸気弁43側への移動に伴い吸気弁43に開弁方向の押圧力が作用するので、吸気側カム59の回転に応じて吸気弁43が開閉作動する。
後部シリンダヘッド39Rには吸気側バルブリフタ60…を摺動自在に支承すべく該吸気側バルブリフタ60…を嵌合せしめる支持孔80…が設けられており、この支持孔80…の内面には、吸気側バルブリフタ60…の支持孔80…内での摺動にかかわらずピンホルダ65の環状溝71に連通する環状凹部81…が吸気側バルブリフタ60…を囲繞するようにして設けられる。また吸気側バルブリフタ60…および後部シリンダヘッド39R間には、吸気側バルブリフタ60…を吸気側カム59…に当接させる方向に付勢するばね82…が設けられる。
排気側弁作動態様変更機構64は、吸気側弁作動態様変更機構63と同様に構成されて排気側バルブリフタ62…に関連して設けられるものであり、高圧の油圧が作用したときに排気弁44を閉弁休止させる状態と、作用する油圧が低下したときに排気弁44を開閉作動せしめる状態とを切換可能である。
すなわち後部バンク側動弁装置48Rは、吸気側弁作動態様変更機構63…および排気側弁作動態様変更機構64…の作動制御によって、後部バンクBRにおける2つの気筒の吸気弁43…および排気弁44…を開閉作動せしめる状態と、後部バンクBRにおける2つの気筒の吸気弁43…および排気弁44…を閉弁休止して気筒休止とする状態とを切換えることが可能である。
再び図4において、エンジン本体33の車体フレームFへの搭載状態でのクランクシャフト36の左側端部には、発電機84が連結されるものであり、この発電機84は、クランクシャフト36に固定されるロータ85と、前記ロータ85内に固定配置されるステータ86とで構成され、クランクケース35と、該クランクケース35の左側側面に結合される発電機カバー87とで構成される発電機収容室88に収容され、前記ステータ86は発電機カバー87に固定される。
しかも前記ロータ86には、ロータ86側への動力伝達を可能とした一方向クラッチ89を介して歯車90が連結されており、この歯車90には、図示しない始動モータからの動力が伝達される。
一方、エンジン本体33の車体フレームFへの搭載状態でのクランクケース35の右側側面には、クランクケース35との間にクラッチ室91を形成するクラッチカバー92が結合されるものであり、前記クラッチ室91内で、前記クランクシャフト36には、駆動スプロケット93,94が固設される。一方の駆動スプロケット93は、前部バンク側動弁装置48Fにおけるカムシャフト49に、クランクシャフト36の回転動力を1/2の減速比で伝達する前部バンク側調時伝動機構95の一部を構成するものであり、前部バンク側調時伝動機構95は、前記駆動スプロケット93と、前記カムシャフト49に設けられる被動スプロケット96とに無端状のカムチェーン97が巻き掛けられて成る。また他方の駆動スプロケット94は、後部バンク側動弁装置48Rにおける吸気側および排気側カムシャフト57,58にクランクシャフト36の回転動力を1/2の減速比で伝達する後部バンク側調時伝動機構98の一部を構成するものであり、この後部バンク側調時伝動機構98は、前記駆動スプロケット94と、前記吸気側および排気側カムシャフト57,58にそれぞれ設けられる被動スプロケット(図示せず)とに、無端状のカムチェーン99が巻き掛けられて成る。
而して前部シリンダブロック38Fおよび前部シリンダヘッド39Fには、前記カムチェーン97を走行させるカムチェーン室100が形成され、後部シリンダブロック38Rおよび後部シリンダヘッド39Rには、前記カムチェーン99を走行させるカムチェーン室(図示せず)が形成される。
前記クランクシャフト36および後輪WR間の動力伝達経路は、クランクシャフト36側から順に一次減速装置101、クラッチ装置102、歯車変速機構103およびドライブシャフト32を備えており、一次減速装置101およびクラッチ装置102は前記クラッチ室91に収容され、歯車変速機構103はクランクケース35内に収容される。
図8を併せて参照して、前記歯車変速機構103は、選択的に確立可能な複数変速段の歯車列たとえば第1〜第6速用歯車列G1,G2,G3,G4,G5,G6を備えてクランクケース35内に収納されており、第1メインシャフト105およびカウンタシャフト107間に第2、第4および第6速用歯車列G2,G4,G6が設けられるとともに、第1メインシャフト105を同軸にかつ相対回転自在に貫通する第2メインシャフト106および前記カウンタシャフト107間に第1、第3および第5速用歯車列G1,G3,G5が設けられて成る。
前記クランクケース35は、クランクシャフト36の軸線に沿う方向に間隔をあけて相互に対向する一対の側壁35c,35dを含むものであり、クランクシャフト36と平行な軸線を有して円筒状に形成される第1メインシャフト105の中間部は、前記側壁35cを回転自在に貫通し、側壁35cおよび第1メインシャフト105間にはボールベアリング108が介装される。またクランクシャフト36と平行な軸線を有する第2メインシャフト106は、第1メインシャフト105との軸方向相対位置を一定としつつ第1メインシャフト105を相対回転可能に貫通するものであり、第1メインシャフト105および第2メインシャフト106間には複数のニードルベアリング109…が介装される。また第2メインシャフト106の他端部はクランクケース35の側壁35dにボールベアリング110を介して回転自在に支承される。
クランクシャフト36と平行な軸線を有するクランクシャフト107の一端部はボールベアリング111を介して前記側壁35cに回転自在に支承され、カウンタシャフト107の他端部は、ボールベアリング112および環状のシール部材113を前記側壁35dとの間に介在させて該側壁35dを回転自在に貫通し、側壁35dからのカウンタシャフト107の突出端部には、駆動傘歯車114が固定される。この駆動傘歯車114には自動二輪車の前後方向に延びる回転軸線を有する被動傘歯車115が噛合される。
ところで駆動傘歯車114および被動傘歯車115は、前記クランクケース35の前記側壁35dの一部を覆って前記側壁35dに着脱可能に結合される第1歯車カバー116と、第1歯車カバー116に着脱可能に結合される第2歯車カバー117と、前記側壁35dとで形成される歯車室118内で相互に噛合するものであり、被動傘歯車115が同軸に備える軸部115aは第2歯車カバー117を回転自在に貫通し、前記軸部115aおよび第2歯車カバー117間には、ボールベアリング119と、該ボールベアリング119の外方に位置する環状のシール部材120とが介装される。また被動傘歯車115には支持軸121の一端部が嵌合されており、該支持軸121の他端部は、ローラベアリング122を介して第1歯車カバー116に回転自在に支承される。而して前記軸部115aは、前記ドライブシャフト32に連結される。
図9を併せて参照して、前記クラッチ装置102は、前記歯車変速機構103およびクランクシャフト36間に設けられる第1および第2クラッチ124,125を有してツイン式に構成されるものであり、第1クラッチ124は、前記クランクシャフト36および第1メインシャフト105の一端部間に設けられ、第2クラッチ125は、前記クランクシャフト36および第2メインシャフト106の一端部間に設けられる。而して前記クランクシャフト36からの動力は、第1および第2クラッチ124,125に共通であるクラッチアウタ126に、一次減速装置101およびダンパスプリング127を介して入力される。
一次減速装置101は、前記駆動スプロケット94よりも外方で前記クランクシャフト36に設けられる駆動歯車128と、第1メインシャフト105に相対回転可能に支承されて駆動歯車128に噛合する被動歯車129とから成り、被動歯車129が、前記クラッチアウタ126にダンパスプリング127を介して連結される。
一次減速装置101よりも外方でクランクシャフト36の軸端にはパルサ268が取付けられており、該パルサ268を検出することでクランクシャフト36の回転数を検出する回転数検出器269がクラッチカバー92の内面に取付けられる。またクラッチカバー92には、パルサ268を点検するための点検孔270が設けられるが、この点検孔270は、極力小径化するためにクランクシャフト36の軸線から偏心してクラッチカバー92に設けられ、該点検孔270は着脱可能な蓋部材271で閉じられる。
第1クラッチ124は、前記クラッチアウタ126と、該クラッチアウタ126で同軸に囲繞されるとともに第1メインシャフト105に相対回転不能に結合される第1クラッチインナ131と、前記クラッチアウタ126に相対回転不能に係合される複数枚の第1摩擦板132…と、第1クラッチインナ131に相対回転不能に係合されるとともに第1摩擦板132…と交互に配置される複数枚の第2摩擦板133…と、相互に重なって配置される第1および第2摩擦板132…,133…に対向して第1クラッチインナ131に設けられる第1受圧板134と、第1および第2摩擦板132…,133…を第1受圧板134との間に挟む第1ピストン135と、第1ピストン135を付勢する第1ばね136とを備える。
第1ピストン135の背面を臨ませる第1油圧室137を第1ピストン135との間に形成する端壁部材138が第1クラッチインナ131に固定的に配設されており、第1油圧室137の油圧増大に応じて第1ピストン135は、第1および第2摩擦板132…,133…を第1受圧板134との間に挟圧するように作動し、それにより第1クラッチ124がクラッチアウタ126にクランクシャフト36から伝達される動力を第1メインシャフト105に伝達する接続状態となる。また第1クラッチインナ131および第1ピストン135間には第1ピストン135の前面を臨ませるキャンセラー室139が形成されており、前記第1ばね136は、第1油圧室137の容積を減少する側にばね力を発揮するようにしてキャンセラー室139に収容される。
しかもキャンセラー室139は、歯車変速機構103の各潤滑部ならびに第1および第2メインシャフト105,106間にオイルを供給するために第2メインシャフト106に同軸に設けられた第1オイル通路140に連通される。したがって減圧状態での第1油圧室137のオイルに回転に伴う遠心力が作用して第1ピストン135を押圧する力が生じても、キャンセラー室139のオイルにも同様に遠心力が作用するので、第1ピストン135が、第1および第2摩擦板132…,133…を第1受圧板134との間に挟む側に不所望に移動してしまう状態が生じることが回避される。
第2クラッチ125は、前記第1クラッチ124を前記一次減速装置10との間に挟むようにして、第2メインシャフト106の軸線に沿う方向で第1クラッチ124と並ぶように配置されるものであり、前記クラッチアウタ126と、該クラッチアウタ126で同軸に囲繞されるとともに第2メインシャフト106に相対回転不能に結合される第2クラッチインナ141と、前記クラッチアウタ126に相対回転不能に係合される複数枚の第3摩擦板142…と、第2クラッチインナ141に相対回転不能に係合されるとともに第3摩擦板142…と交互に配置される複数枚の第4摩擦板143…と、相互に重なって配置される第3および第4摩擦板142…,143…に対向して第2クラッチインナ141に設けられる第2受圧板144と、第3および第4摩擦板142…,143…を第2受圧板144との間に挟む第2ピストン145と、第2ピストン145を付勢する第2ばね146とを備える。
第2ピストン145の背面を臨ませる第2油圧室147を第2ピストン145との間に形成する端壁部材148が第2クラッチインナ141に固定的に配設されており、第2油圧室147の油圧増大に応じて第2ピストン145は、第3および第4摩擦板142…,143…を第2受圧板144との間に挟圧するように作動し、それにより第2クラッチ125がクラッチアウタ126にクランクシャフト36から伝達される動力を第2メインシャフト106に伝達する接続状態となる。また第2クラッチインナ141および第2ピストン145間には第2ピストン145の前面を臨ませるキャンセラー室149が形成されており、前記第2ばね146は、第2油圧室147の容積を減少する側にばね力を発揮するようにしてキャンセラー室149に収容される。
しかもキャンセラー室149は後述の第2オイル通路150に連通される。したがって減圧状態での第2油圧室147のオイルに回転に伴う遠心力が作用して第2ピストン145を押圧する力が生じても、キャンセラー室149のオイルにも同様に遠心力が作用するので、第2ピストン145が、第3および第4摩擦板142…,143…を第2受圧板144との間に挟む側に不所望に移動してしまう状態が生じることが回避される。
自動二輪車の進行方向前方に向かって右側から第1および第2クラッチ124,125を覆うクラッチカバー92の内面側には、第1、第2および第3隔壁部材151,152,153が取付けられる。而して第2メインシャフト106および第1隔壁部材151間には、第1クラッチ124の第1油圧室137に通じる第1油路154を形成する第1筒部材155が設けられ、第2メインシャフト106および第2隔壁部材152間には、第2クラッチ125のキャンセラー室149に通じる環状の第2オイル通路150を第1筒部材155との間に形成して第1筒部材155を同軸に囲繞する第2筒部材156が設けられ、第2メインシャフト106および第3隔壁部材153間には、第2油圧室147に通じる環状の第2油路157を第2筒部材156との間に形成して第2筒部材156を同軸に囲繞する第3筒部材158が設けられる。
再び図8において、歯車変速機構103の第1メインシャフト105およびカウンタシャフト107間には、クラッチ装置102とは反対側から順に第4速用歯車列G4、第6速用歯車列G6および第2速用歯車列G2が並ぶようにして設けられる。第2速用歯車列G2は、第1メインシャフト105に一体に設けられる第2速用駆動歯車160と、カウンタシャフト107に相対回転自在に支承されて第2速用駆動歯車160に噛合する第2速用被動歯車161とから成り、第6速用歯車列G6は、第1メインシャフト105に相対回転自在に支承される第6速用駆動歯車162と、カウンタシャフト107に軸方向の移動を可能としつつ相対回転不能に支承されて第6速用駆動歯車162に噛合する第6速用被動歯車163とから成り、第4速用歯車列G4は、第1メインシャフト105に軸方向の移動を可能としつつ相対回転不能に支承される第4速用駆動歯車164と、カウンタシャフト107に相対回転自在に支承されて第4速用駆動歯車164に噛合する第4速用被動歯車165とから成る。
第2速用被動歯車161および第4速用被動歯車165間でカウンタシャフト107には、第2速用被動歯車161に係合する状態、第4速用被動歯車165に係合する状態、ならびに第2速用被動歯車161および第4速用被動歯車165のいずれにも係合しない状態を切換え可能とした第1シフタ166が相対回転不能かつ軸方向移動可能に支承されており、この第1シフタ166に第6速用被動歯車163が一体に設けられる。また第4速用駆動歯車164は、第1メインシャフト105に相対回転不能にかつ軸方向移動可能に支承される第2シフタ167に一体に設けられており、第2シフタ167は、第6速用駆動歯車162への係合および係合解除を切換え可能である。
而して第2シフタ167を第6速用駆動歯車162に係合しない状態で第1シフタ166を第2速用被動歯車161に係合することで第2速用歯車列G2が確立し、第2シフタ167を第6速用駆動歯車162に係合しない状態で第1シフタ166を第4速用被動歯車165に係合することで第4速用歯車列G4が確立し、第1シフタ166を中立状態として第2シフタ167を第6速用駆動歯車162に係合することにより第6速用歯車列G6が確立する。
第1メインシャフト105の他端部からの第2メインシャフト106の突出部およびカウンタシャフト107間には、クラッチ装置102とは反対側から順に第1速用歯車列G1、第5速用歯車列G5および第3速用歯車列G3が並ぶようにして設けられる。第3速用歯車列G3は、第2メインシャフト106に軸方向の移動を可能としつつ相対回転不能に支承される第3速用駆動歯車168と、カウンタシャフト107に相対回転自在に支承されて第3速用駆動歯車168に噛合する第3速用被動歯車169とから成り、第5速用歯車列G5は、第2メインシャフト106に相対回転自在に支承される第5速用駆動歯車170と、カウンタシャフト107に軸方向の移動を可能としつつ相対回転不能に支承されて第5速用駆動歯車170に噛合する第5速用被動歯車171とから成り、第1速用歯車列G1は、第2メインシャフト106に一体に設けられる第1速用駆動歯車172と、カウンタシャフト107に相対回転自在に支承されて第1速用駆動歯車172に噛合する第1速用被動歯車173とから成る。
第3速用駆動歯車168は、第2メインシャフト106に相対回転不能かつ軸方向移動可能に支承される第3シフタ174に一体に設けられており、第3シフタ174は、第5速用駆動歯車への係合および係合解除を切換え可能である。第3速用被動歯車169および第1速用被動歯車173間でカウンタシャフト107には、第3速用被動歯車169に係合する状態、第1速用被動歯車173に係合する状態、ならびに第3速用被動歯車169および第1速用被動歯車173のいずれにも係合しない中立状態を切換え可能とした第4シフタ175が相対回転不能かつ軸方向移動可能に支承されており、この第4シフタ175に第5速用被動歯車が一体に設けられる。
而して第3シフタ174を第5速用駆動歯車に係合しない状態で第4シフタ175を第1速用被動歯車に係合することで第1速用歯車列G1が確立し、第3シフタ174を第5速用駆動歯車に係合しない状態で第4シフタ175を第3速用被動歯車169に係合することで第3速用歯車列G3が確立し、第4シフタ175を中立状態として第3シフタ174を第5速用駆動歯車に係合することにより第5速用歯車列G5が確立する。
第1〜第4シフタ166,167,174,175は、第1〜第4シフトフォーク176,177,178,179で回転自在に保持されており、それらのシフトフォーク176〜179が、両メインシャフト105,106およびカウンタシャフト107の軸線方向に駆動されることにより、第1〜第4シフタ166,167,174,175が軸方向に作動することになる。
図10において、第1〜第4シフトフォーク176〜179は、クランクシャフト36の軸線と平行な軸線を有してクランクケース35に回転自在に支承されるシフトドラム180の外周に係合されており、シフトドラム180と平行な軸線を有してクランクケース35に支持されるシフトフォーク軸205,206にスライド可能に支承され、シフトドラム180の回動に応じて前記各シフトフォーク176〜179がシフトフォーク軸205,206上をスライド作動することになる。
前記シフトドラム180は、シフトアクチュエータであるシフト駆動用電動モータ181が発揮する動力で回動駆動されるものであり、このシフト駆動用電動モータ181は、クランクケース35の側面に取付けられるものであり、この実施例ではエンジン本体33の車体フレームFへの搭載状態でクランクケース35の左右いずれかの側面たとえば左側の側面に取付けられる。しかも前記歯車変速機構103におけるカウンタシャフト107の軸端を覆うようにして第1および第2歯車カバー116,117が前記クランクケース35の左側面に着脱可能に取付けられるのであるが、前記シフト駆動用電動モータ181は第1および第2歯車カバー116,117よりも上方かつ前記カウンタシャフト107の軸線に沿う第1および第2歯車カバー116,117の外端よりも内側に配置される。またクランクケース35の左側面には発電機カバー87が取付けられているが、前記シフト駆動用電動モータ181は、図2で示すように発電機カバー87の後方に配置されるものであり、図10で示すように、シフトドラム180の軸線すなわちクランクシャフト36の軸線に沿う発電機カバー87の外端よりも内側に配置されている。
しかもシフト駆動用電動モータ181は、図2で示すように、その作動軸線すなわち回転軸線C1を、前記歯車変速機構103の軸方向と直交する平面内に配置するとともに、上下方向に傾斜させた状態、この実施例では前上がりに傾斜させた状態でクランクケース35の左側面に取付けられる。
図11を併せて参照して、シフト駆動用電動モータ181が発揮する動力は、減速歯車機構182、バレルカム183、円板状の伝動回転部材184、伝動軸185およびロストモーションばね186を介してシフトドラム180に伝達される。
クランクケース35の左側面には、前記減速歯車機構182、バレルカム183および伝動回転部材184を収容する作動室187をクランクケース35との間に形成するケース部材188が締結されており、そのケース部材188の開口端を塞ぐようにして該ケース部材188に蓋部材189が取付けられる。而して前記シフト駆動用電動モータ181は、モータ軸190を作動室187内に突入するようにして前記ケース部材188に取付けられる。
前記歯車減速機構182は、前記シフト駆動用電動モータ181のモータ軸190に設けられる駆動歯車192と、該駆動歯車192に噛合する第1中間歯車193と、第1中間歯車193とともに回転する第2中間歯車194と、前記バレルカム183に設けられて第2中間歯車194に噛合する被動歯車195とから成る。
第1および第2中間歯車193,194は前記ケース部材188および蓋部材189で両端部が回転自在に支承された回転軸196に設けられており、前記バレルカム183の両端部は、ケース部材188および蓋部材189に回転自在に支承される。
前記バレルカム183の外周には螺旋状のカム溝197が設けられる。一方、伝動回転部材184は、シフトドラム180と同一軸線まわり回転することを可能としてバレルカム183の外周に対向配置されており、この伝動回転部材184に、前記カム溝197に選択的に係合することを可能とした複数の係合ピン198,198…が周方向に等間隔をあけて設けられる。而してバレルカム183の回転に応じて複数の前記係合ピン198,198…が順次カム溝197に係合して送られることにより、伝動回転部材184に回転動力が伝達されることになる。
前記伝動回転部材184には、シフトドラム180を同軸かつ相対回転自在に貫通する伝動軸185の一端部が同軸にかつ相対回転不能に結合されており、この伝動軸185の他端部およびシフトドラム180の他端部間にロストモーションばね186が設けられ、伝動軸185の回動による回動力はロストモーションばね186を介してシフトドラム180に伝達されることになる。
シフトドラム180の回動位置を検出するためにシフトセンサ199がケース部材188に取付けられ、このシフトセンサ199の検出軸200はケース部材188で回転自在に支承される。
而して前記シフトドラム180とともに回転する駆動歯車201に第3中間歯車202が噛合され、第3中間歯車202とともに回転する第4中間歯車203に、前記検出軸145に設けられる被動歯車204が噛合される。
図2に注目して、前記発電機カバー87の下方で前記クランクケース35の左側面にはウォータポンプ208が取付けられており、クランクケース35内には、第1および第2オイルポンプ209,210ならびにスカベンジングポンプ211がウォータポンプ208と同軸にして収容され、第1および第2オイルポンプ209,210ならびにスカベンジングポンプ211は前記ウォータポンプ208とともに回転作動する。而してウォータポンプ208と、第1および第2オイルポンプ209,210ならびにスカベンジングポンプ211には、前記一次減速装置101の被動歯車129からの回転動力が無端状のチェーン212を介して伝達されるものであり、図8および図9で示すように、前記被動歯車129に係合された駆動スプロケット213が第1メインシャフト105で回転自在に支承され、ウォータポンプ208、第1および第2オイルポンプ209,210ならびにスカベンジングポンプ211に共通に連結される被動スプロケット214と、前記駆動スプロケット213とに前記チェーン212が巻き掛けられる。
図12において、第1オイルポンプ209は、クラッチ装置102における第1および第2クラッチ124,125の断・接を切換えるとともに後部バンク側動弁装置48Rにおける吸気側弁作動態様変更機構63および排気側弁作動態様変更機構64の切換作動を行うための油圧を吐出するものであり、オイルパン41から汲み上げて第1オイルポンプ209から吐出されるオイルは油路215を介して第1オイルフィルタ216に接続されており、前記油路215にはリリーフ弁217が接続される。また第1オイルフィルタ216で浄化されたオイルは、2つに分岐した第1および第2分岐油路218,219に分かれて流れ、第1分岐油路218はクラッチ装置102の断・接を切換えるためのクラッチ制御装置220に接続され、第2分岐油路219は後部バンク側動弁装置48Rにおける吸気側弁作動態様変更機構63および排気側弁作動態様変更機構64の切換作動を行う動弁用油圧制御装置221に接続され、第2分岐油路219には減圧弁222が介設される。
また第2オイルポンプ210は、エンジンEの各潤滑部に潤滑用のオイルを供給するためのものであり、オイルパン41から汲み上げて第2オイルポンプ210から吐出されるオイルはオイル通路223を経て第2オイルフィルタ225に接続され、オイル通路223の途中にはリリーフ弁224が接続される。第1オイルフィルタ225で浄化されたオイルはオイルクーラ226が介設されたオイル通路228に導かれ、このオイル通路228には圧力センサ227が接続される。
前記オイル通路228からのオイルは、歯車変速機構103における第1および第2メインシャフト105,106周りの潤滑部229、前記歯車変速機構103におけるカウンタシャフト107周りの潤滑部230、ならびにエンジン本体33における複数の潤滑部231に供給される。しかも第1および第2メインシャフト105,106周りの潤滑部229からのオイルは第1クラッチ124におけるキャンセラー室137に通じている第1オイル通路140に導かれる。また前記潤滑部231からのオイルは、第2クラッチ125におけるキャンセラー室149に通じる第2オイル通路150に絞り232を介して供給されるものであり、キャンセラー室149に速やかにオイルを供給するための電磁開閉弁233が前記絞り232に並列接続される。
図13および図14を併せて参照して、前記クラッチ制御装置220は、第1クラッチ124における第1油圧室137への油圧の作用・解放を切換える第1電磁制御弁235と、第2クラッチ125における第2油圧室147への油圧の作用・解放を切換える第2電磁制御弁236とで構成され、前部バンクBFの前部シリンダブロック38Fの右側方に配置されて前記クラッチカバー92の外面に取付けられ、クラッチ装置102の軸線に沿う方向から見て該クラッチ装置102よりも外方に配置される。すなわちクラッチカバー92には、前記クラッチ装置102に対応する位置で該クラッチ装置102を収容するようにして外側方に突出した突出部92aと、該突出部92aから前部シリンダブロック38Fの右側方まで延びる延長部92bとが設けられており、その延長部92bにクラッチ制御装置220が取付けられる。
しかもクラッチ制御装置220を構成する第1および第2電磁制御弁235,236は、図13で明示するように、前後および上下方向で異なる位置に配置される。しかも第1および第2電磁制御弁235,236のうち第2電磁制御弁236が第1電磁制御弁235よりも上方かつ前記クランクシャフト36よりも上方に配置され、下方に配置される第1電磁制御弁235の少なくとも一部、この実施例では大部分がクランクシャフト36よりも前方に配置される。
また図15で示すように、クラッチ装置102は、クラッチカバー92の最外端すなわち前記突出部92aの先端よりも内側に位置するようにしてクラッチカバー92における前記延出部92bの外面に取付けられる。
前記クラッチカバー92には、第1クラッチ124の第1油圧室137に通じる第1油路154および第1電磁制御弁235間を結ぶ油路237と、第2クラッチ125の第2油圧室147に通じる第2油路157および第2電磁制御弁236間を結ぶ油路238とが設けられる。
図14に注目して、第1オイルフィルタ216は、前記サイドスタンド34とは前記車体フレームFの幅方向で反対側に配置されるものであり、クランクシャフト36の軸線C2および前記クラッチ装置102の軸線C3との間でそれらの軸線C2,C3よりも下方に配置されるようにしてクラッチカバー92に配設される。
第1オイルフィルタ216のフィルタケース239は、エンジン本体33のクランクケース35から外方に突出するものであり、外端を開放した有底の収容孔240を形成する円筒状にしてクラッチカバー92に一体に形成され、前記収容孔240の外端開口部を閉じる蓋部材241が前記フィルタケース239に締結される。
収容孔240の内端閉塞部および前記蓋部材241間に挟持されてフィルタケース239に収容される支持枠242には、円筒状の濾過材243が支持される。而して濾過材243の周囲には環状の未浄化室244が形成され、濾過材243内には浄化室245が形成される。
このような第1オイルフィルタ216は、その構成要素である前記濾過材243の少なくとも一部を前記クランクシャフト36の軸線に沿う方向でクラッチカバー92の外面から外方に突出させるとともにクラッチカバー92における突部92aの最外端よりも内側に位置するようにして、クランクシャフト36の下方かつ前記クラッチ装置102の軸線に沿う方向から見て該クラッチ装置102の外方、この実施例では図3で示すようにクラッチ装置102の前方斜め下方に配置される。
また図13で明示するように、第1オイルフィルタ216は、その一部が側面視で前記ウォータポンプ208、第1および第2オイルポンプ209,210ならびにスカベンジングポンプ211と重なるようにしてクラッチカバー92に設けられる。
ところで、第1オイルフィルタ216は、クランクシャフト36およびクラッチ装置102の軸線に直交する方向で見たときには図14および図15で示すようにクラッチ装置102の軸方向外端102aを通る鉛直線L1よりも内側にあり、またクランクシャフト36およびクラッチ装置102の軸線に沿う方向の側面視では図13で示すようにクラッチ装置102の最前端102bを通る鉛直線L2が第1オイルフィルタ216を通るように配置される。これにより第1オイルフィルタ216は、平面視で前記クラッチ装置102の一部と重なるようにして、前記クラッチ装置102の軸方向外端102aよりも内方に配置されることになる。
第1オイルフィルタ216に対応する部分でクラッチカバー92の内面には、接続部材246が締結される。一方、クラッチ制御装置220の近傍でクラッチカバー92の内面には、油路形成部材247が、クラッチカバー92との間に平板状の隔壁部材248を挟んで締結されており、油路形成部材247および隔壁部材248間には油路249が形成される。而して接続部材246には、第1オイルフィルタ216の浄化室245に通じるように一端をフィルタケース239との接合面に開口させる接続油路250が形成されており、接続油路250の他端には前記油路形成部材247側に延びる接続管251の一端が液密に嵌合される。また接続管251の他端は継ぎ手部材252に嵌合されており、継ぎ手部材252は、前記隔壁部材248に設けられた円筒状の嵌合筒部248aに液密に嵌合される。また前記油路形成部材247および隔壁部材248間の油路249と、第1および第2電磁制御弁235,236とをそれぞれ結ぶ油路253,254がクラッチカバー92に設けられる。
したがって第1オイルフィルタ216の浄化室245は、接続油路250、接続管251、継ぎ手部材252、油路249および前記油路253,254に接続されることになり、接続油路250、接続管251、継ぎ手部材252、油路249および前記油路253,254は、図12を参照して説明した第1分岐油路218を構成することになる。
第1オイルフィルタ216の未浄化室244および第1オイルポンプ209の吐出口間を結ぶ油路215は、第1オイルポンプ209の吐出口に通じてクランクケース35に設けられる油路255と、該油路255および前記未浄化室244間を結ぶ接続管256によって構成されるものであり、接続管256の両端は、前記油路255の端部ならびにクラッチカバー92に液密に嵌合される。
フィルタケース239の軸線の延長上を通り且つ該軸線と直交する方向に長手方向を向けた減圧弁222のバルブハウジング257が、該減圧弁222および第1オイルフィルタ216とは別体に形成された前記接続部材246を、クラッチカバー92におけるフィルタケース239のエンジン本体33側の内側面との間に挟むようにして、該接続部材246とともにクラッチカバー92に結合される。この減圧弁222は、前記バルブハウジング257の一端との間に油室258を形成するようにして弁体259が摺動可能に嵌合され、バルブハウジング257の他端側に設けられたばね受け部材267および弁体259間に前記油室258の容積を縮小する側に弁体259を付勢するばね260が設けられて成る。
而して前記接続部材246には、接続部材246内の油路250および前記油室258間を結んで減圧弁222との接合面に開口する油路261が設けられており、この油路261と接続油路250の上流部分とで本発明の油路が構成される。
前記減圧弁222は、油室258の油圧による油圧力および前記ばね260のばね力が均衡するように弁体259が往復摺動することで油室258の油圧を一定に減圧するものであり、減圧弁222で減圧された油圧が動弁用油圧制御装置221側に導かれる。
このように、フィルタケース239の軸線の延長上を通り且つ該軸線と直交する方向に長手方向を向けた減圧弁222が、接続部材246を間に挟んで第1オイルフィルタ216のフィルタケース239のエンジン本体33側の内側面に隣接配置されることによって、第1オイルフィルタ216の直近に減圧弁222が配置されることになる。しかもこの減圧弁222は、図13で明示するように、パワーユニットPの車両搭載状態において、それの長手方向を車両の前後方向に向けて水平に配置されるものである。
動弁用油圧制御装置221は、後部バンクBRにおける2気筒の各気筒に個別に対応した一対の電磁制御弁262,262で構成されるものであり、後部バンクBRにおける後部シリンダヘッド39Rの左側面に取付けられる。
而して一方の電磁制御弁262は2気筒の一方における吸気側および排気側弁作動態様変更機構63,64の油圧を制御するものであり、他方の電磁制御弁262は他方の気筒における吸気側および排気側弁作動態様変更機構63,64の油圧を制御するものである。
前記減圧弁222で減圧されたオイルは、バルブハウジング257に一端が接続されてクラッチカバー92から離れる側に延びる接続管264と、該接続管264の他端に接続されるとともにクランクケース35の左側面まで延びるようにして該クランクケース35に設けられる油路265と、クランクケース35、後部シリンダブロック38Rおよび後部シリンダヘッド39Rの左側面側に設けられて前記油路265および動弁用油圧制御装置221間を結ぶ油路266とを介して、動弁用油圧制御装置221に導かれるものであり、減圧弁222が介設される第2分岐油路219は、前記接続管264、前記油路265,266で構成される。
なお第2オイルフィルタ225は、第1オイルフィルタ216よりも前方でクランクケース35の右側面に取付けられる。
次にこの実施例の作用について説明すると、歯車変速機構103の変速動作を駆動制御するシフト駆動用電動モータ181は、クランクケース35の左側面に取付けられており、クランクケース35の周囲に配置される機能部品のレイアウト上の自由度を高めることができ、パワーユニットPの外側方からシフト駆動用電動モータ181にアクセスし易くして該シフト駆動用電動モータ181のメンテナンス性を高めることができる。またシフト駆動用電動モータ181の作動軸線C1は、前記歯車変速機構103の軸方向と直交する平面に配置されるので、クランクケース35の前記左側面にシフト駆動用電動モータ181が取り付けられるにもかかわらず、クランクケース35からのシフト駆動用電動モータ181の外方への突出量を極力抑えることができる。
また歯車変速機構103のカウンタシャフト107の軸端が、クランクケース35の左側面に着脱自在に取付けられる第1および第2歯車カバー116,117で覆われており、前記シフト駆動用電動モータ181が、第1および第2歯車カバー116,117の上方かつ前記カウンタシャフト107の軸線に沿う第1および第2歯車カバー116,117内側に位置するようにして前記クランクケース35の左側面に取付けられるので、第1および第2歯車カバー116,117によって下方からの飛び石や泥水等からシフト駆動用電動モータ181アクチュエータを保護することを可能とし、シフト駆動用電動モータ181を保護するための専用部品を不要として部品点数を低減することができる。しかもそれによってシフト駆動用電動モータ181の周囲に保護カバーを取り付けるためのボス等を設けずにすむので、ボス等による他部品のレイアウト上の制約をなくし、他部品のレイアウト上の自由度を高めることができる。
またクランクケース35の左側面には、発電機カバー87が取付けられているのであるが、シフト駆動用電動モータ181が前記発電機カバー87の後方かつ前記クランクシャフト36の軸線に沿う前記発電機カバー87の外端よりも内側に位置するので、クランクケース35の左側面から突出した発電機カバー87の周囲のスペースを有効活用してシフト駆動用電動モータ181を配置することができ、シフト駆動用電動モータ181の配置によってパワーユニットPがクランクシャフト36の軸線に沿う方向で大型化するのを防止することができる。また発電機カバー87によって前方からの飛び石や泥水等からシフト駆動用電動モータ181を保護することができ、シフト駆動用電動モータ181を保護するための専用部品を不要として部品点数を低減することができる。しかもそれによってシフト駆動用電動モータ181の周囲に保護カバーを取り付けるためのボス等を設けずにすむので、ボス等による他部品のレイアウト上の制約をなくし、他部品のレイアウト上の自由度を高めることができる。
またシフト駆動用電動モータ181の作動軸線C1は、上下方向に傾斜しているので、シフト駆動用電動モータ181の脱着作業を行う際に、前方に在る発電機カバー87が邪魔にならないため、メンテナンス性を高めることができる。
クランクケース35の右側面にはクラッチ装置102を収容するクラッチカバー92が結合されており、クラッチ装置102の断・接動作を切換え制御するクラッチ制御装置220が、前部バンクBFにおける前部シリンダブロック38Fの右側方に配置されるようにしてクラッチカバー92の外面に取付けられるので、走行風がクラッチ制御装置220に当たり易く、冷却性を高めることができるとともにエンジン本体33の前後長が大きくなるのを回避することができる。しかもクラッチカバー92の外面に対応する部分には、吸気系の部品や車体フレームF等の車両構成部品が配置されることは比較的少ないので、、クラッチ制御装置220をクラッチカバー92の外面に取り付けることによって、吸気系の部品や車体フレームF等の設計の自由度の向上を図ることができる。
しかもクラッチ装置102は、第1および第2クラッチ124,125を有するツイン式に構成されており、クラッチ制御装置220は、第1および第2クラッチ124,125の断・接を個別に制御する第1および第2電磁制御弁235,236を有するものである。しかも第1および第2電磁制御弁235,236は、前後および上下方向で異なる位置に配置されるので、第1および第2電磁制御弁235,236それぞれが走行風に当たり易く、優れた冷却性を得ることができる。
しかも第1および第2電磁制御弁235,236のうち第2電磁制御弁236が第1電磁制御弁235よりも上方かつ前記クランクシャフト36よりも上方に配置され、第1電磁制御弁235の少なくとも一部(この実施例では大部分)がクランクシャフト36よりも前方に配置されるので、クランクシャフト36およびクラッチ装置102間に比べて大きなスペースがあるクランクシャフト36の上方から前方にかけてのスペースにクラッチ制御装置220を配置するようにし、クランクシャフト36およびクラッチ装置102の軸間を詰めて配置することができるとともに、走行風も第1および第2電磁制御弁235,236に当たり易くすることができる。
クラッチ制御装置220は、クラッチカバー92の最外端よりも内側に配置されるので、クランクケース35の右側へのクラッチ制御装置220の突出を極力抑えることができ、クラッチ制御装置220の配置によるバンク角への配慮をしなくてすむ。
さらにクラッチ制御装置220は、クラッチ装置102の軸線に沿う方向から見て該クラッチ装置102よりも外方に配置されるので、クランクケース35の右側に最も突出するクラッチ装置102を避けてクラッチ制御装置220をクラッチカバー92の外面に取り付けるようにしてパワーユニットPが左右方向に大型化するのを可能な限り抑止することができる。
しかも油圧式であるクラッチ装置102と、該クラッチ装置102に作用せしめる油圧を制御する前記クラッチ制御装置220とを結ぶ油路237,238が、前記クラッチカバー92に設けられるので、油路237,238を短くして簡素化することができるとともに、クラッチ装置102を制御する機構のメンテナンス性の向上を図ることができる。
ところで前記クラッチカバー92には、第1オイルフィルタ216が設けられ、その第1オイルフィルタ216は、クランクシャフト36の軸線および前記クラッチ装置102の軸線C2,C3との間でそれらの軸線C2,C3よりも下方に配置されている。したがってクランクシャフト36およびクラッチ装置102の間でそれらの下方に生じるスペースを有効に利用して第1オイルフィルタ216を配置することができ、クランクシャフト36の上方にあるシリンダボア42の内径や調時伝動機構95,98の配置など、クランクシャフト36の上方にある部品の設計の自由度を確保することができる。しかもクランクシャフト36の軸線C2およびクラッチ装置102の軸線C3間の下方位置はエンジン本体33の内方側にスペース的に余裕があるので、他部品の配置上の自由度に制約を加えることなく、クランクシャフト36の軸線に沿う方向での第1オイルフィルタ216の突出を抑えることができる。また第1オイルフィルタ216がクランクシャフト36よりも下方にあることで、自動二輪車の低重心化を図ることができる。
また第1オイルフィルタ216が、平面視で前記クラッチ装置102の一部と重なるようにして、前記クラッチ装置102の軸方向外端102aよりも内方に配置されるので、第1オイルフィルタ216の取付けによってパワーユニットPがクランクシャフト36の軸方向に大型化することを回避することができ、クラッチカバー92からの第1オイルフィルタ216の突出による影響がバンク角に及ばないようにすることができる。
また第1オイルフィルタ216が、第1オイルフィルタ216の構成要素である濾過材243の少なくとも一部をクランクシャフト36の軸線に沿う方向でクラッチカバー92の外面よりも外方に突出させて該クランクシャフト36の下方かつ前記クラッチ装置102の軸線に沿う方向から見て該クラッチ装置102の外方に配置されるので、第1オイルフィルタ216に走行風が当たり易くなり、第1オイルフィルタ216の冷却性を高めることができる。
しかも第1オイルフィルタ216が、その一部を側面視でウォータポンプ208、第1および第2オイルポンプ209,210ならびにスカベンジングポンプ211と重なるように配置されるので、第1オイルポンプ209および第1オイルフィルタ216を近接配置して第1オイルポンプ209および第1オイルフィルタ216間を結ぶ油路215を短くかつ簡素化することができる。
またクラッチ装置102と、該クラッチ装置102に作用せしめる油圧を制御するクラッチ制御装置220とを結ぶ油路237,238がクラッチカバー92に設けられているので、クラッチ制御装置220と、クラッチ装置102およびクラッチ制御装置220間を結ぶ油路237,238とをクラッチカバー92に集約して配設することにより、油路237,238を短くして簡素化することができるとともに、クラッチ装置102を制御する機構のメンテナンスの作業性を高めることができる。
しかも第1オイルフィルタ216が、サイドスタンド34とは前記車体フレームFの幅方向で反対側に配置されることにより、サイドスタンド34を立てた自動二輪車の駐車状態で第1オイルフィルタ216のメンテナンス等の作業性を高めることができる。
さらに第1オイルフィルタ216および動弁用油圧制御装置221間を結ぶ第2分岐油路219には、フィルタケース239の軸線の延長上を通り且つ該軸線と直交する方向に長手方向を向けた減圧弁222が介設されるのであるが、この減圧弁222が、接続部材246を間に挟んで第1オイルフィルタ216に隣接配置されることにより、減圧弁222がオイルフィルタ216の直近に配置されることになり、必要な油圧を効率良く使うようにしつつ、減圧弁222および第1オイルフィルタ216をコンパクトに配置することができ、パワーユニットPのコンパクト化に寄与することができる。
また第1オイルフィルタ216および前記減圧弁222が、クランクケース35に取付けられるクラッチカバー92に設けられるので、組付け性を高めることができる。また同一のエンジン本体33を用いて、減圧弁222および第1オイルフィルタ216を有するパワーユニットPと、減圧弁およびオイルフィルタを有しないパワーユニットとの作り分けが容易となる。
しかも第1オイルポンプ209の吐出口が、吸気側および排気側弁作動態様変更機構63,64および前記クラッチ装置102に共通に接続されるので、パワーユニットPの嵩の増加を抑制し、吸気側および排気側弁作動態様変更機構63,64およびクラッチ装置102に関連する油圧系をコンパクト化することができ、自動二輪車に適したパワーユニットPとすることができる。
また油圧制御機構であるクラッチ制御装置220および動弁用油圧制御装置221のうち動弁用油圧制御装置221に通じる第2分岐油路219の途中に減圧弁222が介設されるので、クラッチ制御装置220および動弁用油圧制御装置221の油圧を適切かつ効率よく制御することができる。
さらに第1オイルポンプ209から分岐してクラッチ制御装置220および動弁用油圧制御装置221に連なる第1および第2分岐油路218,219のうち第2分岐油路219の途中に前記減圧弁222が介設されるので、クラッチ制御装置220および動弁用油圧制御装置221にそれらに適した油圧を作用せしめるようにして、油圧系を適切かつ効率よく纏めることができる。
しかも吸気側および排気側弁作動態様変更機構63,64は、クラッチ装置102よりも低い油圧で切換作動可能であり、第1オイルポンプ209の吐出油圧を減圧弁222で減圧して供給するようにしているので、吸気側および排気側弁作動態様変更機構63,64およびクラッチ装置102にそれぞれ適した油圧を作用せしめることができる。
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。