JP5020690B2 - 機械構造用高強度鋼管及びその製造方法 - Google Patents

機械構造用高強度鋼管及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、特にシリンダー、ブッシュ、ブーム等の構造部材およびシャフト等の機械用部材に好適な、機械構造用高強度鋼管及びその製造方法に関する。
自動車や産業機械に使用される機械部品は、棒鋼を鍛造、切削加工して所定の形状とした後、調質熱処理により、所定の機械的性質が付与されることが多い。近年では、部品コストのダウンの要請から、中空形状部品に対しては、必要とされる機械的性質を有する鋼管を素材とすることにより、鍛造工程の短縮および熱処理工程の省略を図る場合も増えてきている。しかし、一般に、棒鋼よりも鋼管の方が高価であり、特にシームレス鋼管は製造コストが高いため、中空形状部品の素材を鋼管としてもコストダウンの効果が十分でないことがある。
そこで、製造コストを低減した安価な鋼管の提供が検討されており、熱間製管後の調質熱処理を省略した、いわゆる非調質型の機械部品用鋼管及び構造用鋼管が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に提案されている方法は、熱間圧延を比較的低温で行い、金属組織を微細化し、強度を向上させようとするものである。しかしながら、低温圧延は、厚板圧延では一般的な技術となっているものの、シームレス鋼管の圧延に際しては工具との接触により疵や焼き付きが発生しやすい等の問題があることから、現実には適用範囲が大きく制限されている。
また、鋼管を熱間加工後、加速冷却し、組織をフェライト・パーライトとする技術が提案されている(例えば、特許文献2および3)。しかし、これらの鋼管は、いずれも炭素量が多く、靭性および溶接性を考慮したものではない。
このような課題に対して、本発明者らの一部は、自己焼き戻しマルテンサイトからなる鋼管とその製造方法を提案した(例えば、特許文献4)。しかし、この鋼管は降伏比が低めとなり、降伏強度を高めるには限界があった。
特開2001−247931号公報 特開2006−274310号公報 特開2006−274315号公報 特願2006−087723号
本発明は上記のような現状に鑑みてなされたものであり、特にシリンダー、ブッシュ、ブーム等の構造部材およびシャフト等の機械用部材に好適な高強度、高靭性および溶接性を要求される機械構造部材用シームレス鋼管を提供し、適正な加速冷却と冷却停止後の保持によって安価に製造する方法を提供するものである。
本発明者らは、外表面からのみの加速冷却により、外面、内面の冷却速度の違いが生じる環境であっても、板厚方向全面に渡って、高強度、高靭性を両立できる最適な組織が生成できるような化学成分、加速冷却の冷却速度と停止温度、更に保持時間との組み合わせを検討した。
本発明はこのような検討によって得られた知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下の通りである。
(1)質量%で、C:0.030%〜0.100%未満、Mn:0.80%〜2.50%、Ti:0.005〜0.035%、Nb:0.003〜0.040%、B:0.0003%〜0.0030%を含有し、Si:0.50%以下、Al:0.050%以下、 P:0.015%以下、S:0.008%以下、N:0.0080%以下に制限し、さらに、Ni:0.10%〜1.50%、Cr:0.10%〜1.50%、Cu:0.10%〜1.00%、Mo:0.05%〜0.50%の1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、金属組織が、焼き戻しマルテンサイトと、面積率で1%以下の残留オーステナイトからなる(ただし、自己焼き戻しマルテンサイト単独組織を除く。)ことを特徴とする靭性と溶接性に優れた機械構造用高強度鋼管。
(2)上記(1)に記載の成分組成を有し、金属組織が、焼き戻しマルテンサイト及び下部ベイナイトと、面積率で1%以下の残留オーステナイトからなる(ただし、自己焼き戻しマルテンサイトと下部ベイナイトとの混合組織を除く。)ことを特徴とする靭性と溶接性に優れた機械構造用高強度鋼管。
(3)上記(1)に記載の化学成分を有する鋼管を熱間で延伸し、そのまま、750℃以上の温度から150〜400℃の範囲内の冷却停止温度T[℃]まで、5〜50℃/sの冷却速度V[℃/s]で、円周方向に回転させながら鋼管の外表面から加速冷却した後、350〜600℃の温度域に保持時間t[s]の保持を行うに際し、前記冷却停止温度T[℃]と前記冷却速度V[℃/s]が下記(式1)を満足し、前記冷却停止温度T[℃]と前記保持時間t[s]が下記(式2)満足することを特徴とする靭性と溶接性に優れた機械構造用高強度鋼管の製造方法。
T<821.34×V-0.3112 ・・・ (式1)
t<−3.6×T+3240 ・・・ (式2)
(4) 上記(1)に記載の成分からなる鋼片を、熱間で穿孔、圧延し、延伸工程により造管し、得られた鋼管を、円周方向に回転させながら鋼管の外表面から加速冷却し、保持することを特徴とする上記(3)に記載の機械構造用高強度鋼管の製造方法。
本発明により、機械構造部材、特にシリンダー、ブッシュ、ブーム等の構造部材およびシャフト等の機械用部材に好適な、靭性と溶接性に優れた機械構造用高強度シームレス鋼管を安価に製造する方法の提供が可能になり、産業上の貢献が極めて顕著である。
本発明者らは、鋼管、特にシームレス鋼管を加速冷却し、冷却後に保持して焼き戻す製造工程を想定し、強度及び靭性を共に向上させる金属組織及びそれを得るための製造条件について検討を行った。その結果、鋼の金属組織を、C量と加速冷却及び保持時間の条件を最適化することにより得られる、セメンタイトを粒内に微細に析出させた組織、特に焼き戻しマルテンサイトとすることにより、強度靭性バランスが良好になるという知見を得た。
本発明の最も重要な根幹技術は、加速冷却後の、350〜600℃の温度域での保持である。加速冷却の停止温度が350〜400℃の場合は、そのまま保持するか、更に冷却して350℃以上の温度保持しても良い。また、350℃未満まで加速冷却する場合は、350〜600℃に加熱して保持する。
加速冷却ままではラス境界に薄い残留オーステナイトが存在し、降伏比が低くなり高い降伏強度を得ることが困難である。加速冷却後に350〜600℃に保持すると、残留オーステナイトがフェライトとセメンタイトに分解され、高い降伏強度を得ることが可能になる。
残留オーステナイトを分解するには保持温度を350℃以上とする必要がある。一方、再加熱温度を600℃以上になると母相の回復が著しくなりかえって強度が大きく低下する。したがって、保持温度を350〜600℃に限定する。なお、350〜600℃に到達後、直ちに冷却しても、十分、残留オーステナイトを分解することが可能である。
一方、350〜600℃での保持時間が長くなると、セメンタイトが粗大化し、靭性が劣化する。したがって、強度と靭性のバランスを良好にするには、350〜600℃での保持時間の上限を制限することが重要である。350〜600℃での保持時間の上限は、加速冷却の冷却停止温度にも影響を受ける。セメンタイトの粗大化を抑制するために、冷却停止温度が高い場合には、保持時間を短くする必要がある。
更に、加速冷却の停止温度と冷却速度の関係も重要であり、強度靭性バランスの向上に最も有効な母相内の炭化物析出の挙動に大きく影響を及ぼす。加速冷却の冷却速度、冷却停止温度を適正に行って、マルテンサイト変態させ、その後、350〜600℃の温度範囲で保持すると、微細な炭化物が母相内に析出し、靭性に優れた焼き戻しマルテンサイト組織を得ることができる。
本発明者らは、加速冷却の冷却停止温度及び冷却速度と350〜600℃での保持時間が靭性に及ぼす影響について検討を行った。具体的には、質量%で、C:0.030%〜0.100%未満、Mn:0.80%〜2.50%、Ti:0.005〜0.035%、Nb:0.003〜0.040%、B:0.0003%〜0.0030%を含有し、Si:0.50%以下、Al:0.050%以下、P:0.015%以下、S:0.008%以下、N:0.0080%以下に制限し、さらに、Ni:0.10%〜1.50%、Cr:0.10%〜1.50%、Cu:0.10%〜1.00%、Mo:0.05%〜0.50%の1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼管を熱間で延伸し、750℃以上の温度で延伸を終了して、そのまま、円周方向に回転させながら鋼管の外表面から、冷却速度V[℃/s]で冷却停止温度T[℃]まで加速冷却した後、350〜600℃の温度域に保持時間t[s]の保持を行った。
得られた鋼管から、JIS Z 2242に準拠し、2mmVノッチフルサイズ試験片を用いて−40℃にてシャルピー試験を実施した。測定された吸収エネルギーが200J以上のものを良好と判定した。なお、冷却停止温度を150℃未満にすると、焼き入れ後の割れが生じた。
図1は、冷却停止温度と300〜600℃での保持時間による靭性の変化を示したものである。図1において、○は−40℃における吸収エネルギーが200J以上、●は200J未満であることを意味する。図1の実線は、
t=−3.6×T+3240
であり、実線よりも上では靭性が低下している。このことから、加速冷却後の300〜600℃での保持時間の上限を、
t<−3.6×T+3240 (式2)
T:冷却停止温度(℃)、t:保持時間(秒)
とすることが重要である。
図2は、冷却速度と冷却停止温度による靭性の変化を示したものである。図1と同様、図2において、○は−40℃における吸収エネルギーが200J以上、●は200J未満であることを意味する。図2の破線は、
T=821.34×V-0.3112
であり、破線よりも上では靭性が低下している。このことから、加速冷却の停止温度の上限を、
T<821.34×V-0.3112 (式1)
ここで、T[℃]:加速冷却の冷却停止温度、V[℃/s]:冷却速度
とすることが必要である。
次に金属組織について述べる。本発明の鋼の金属組織は、焼き戻しマルテンサイト単独組織か、又は焼き戻しマルテンサイトと下部ベイナイトの複合組織とする。焼き戻しマルテンサイト、下部ベイナイトは、加速冷却後、350〜600℃に保持して焼き戻すことにより得られる組織であり、強度と靭性のバランスが良好である。
また、焼き戻しマルテンサイトと下部ベイナイトのラス境界には、化学成分と加速冷却条件によって非常に薄い、焼き戻しで分解できなかった残留オーステナイトが、面積率で1%以下存在することがある。しかし面積率1%以下にすれば、降伏強度は十分回復できる。残留γはSEMに付属した電子後方散乱分光分析装置(EBSP)を用いて、相の判定を行うことが可能であり、画像解析によって、面積率を測定することができる。
なお、本発明において、焼き戻しマルテンサイトとは、加速冷却中にオーステナイト相がマルテンサイト変態し、加速冷却停止後の保持でセメンタイトがラス内に析出した組織である。
また、本発明において、下部ベイナイトとは、加速冷却中にラス形態のフェライトが生成しかつラス内に微細な炭化物が一方向に析出した組織と定義される。焼き戻しマルテンサイトと下部ベイナイトは、粒界に粗大なセメンタイトがなく母相内に微細な炭化物を有する点で共通している。
焼き戻しマルテンサイトと下部ベイナイトはいずれもラス状の形態であり、ラス内のセメンタイトの析出形態が異なる。セメンタイトの長軸方向が複数あるのが焼き戻しマルテンサイトであり、下部ベイナイトはセメンタイトの長軸方向がひとつである。焼き戻しマルテンサイト、下部ベイナイトは、SEMを用いて2000倍から50000倍で観察することで判別できる。
なお、上部ベイナイトはラス境界に針状のセメンタイトや粗大なマルテンサイト−オーステナイトの混合組織が生成され、下部ベイナイトと大きく組織はことなる。フェライトはベイナイトのようなラス状ではなく、塊状である点が異なる。パーライトは粒界に板状のセメンタイトが析出するので、粒内に析出する下部ベイナイトと明らかに異なる。
鋼管を外面から加速冷却する場合、内面では外面よりも冷却速度が遅くなるため、高温変態相が生成し易くなる。また、板厚が厚い場合、内面の冷却速度が大きくなるように冷却すると、鋼管が変形することがある。そのため、鋼管が変形しない程度に冷却速度を制御すると、内面側ではベイナイト変態が生じることがあるが、下部ベイナイトであれば強度靭性バランスが確保できるため、特に問題ない。
ただし、機械構造用鋼管において板厚方向全面を下部ベイナイトとするにはMoを多量に添加する必要があり、経済性を損なうことがある。したがって、鋼の金属組織は、焼き戻しマルテンサイト単独組織、又は焼き戻しマルテンサイトと下部ベイナイトの複合組織であることが必要である。
本発明において鋼管の化学成分を限定した理由を述べる。なお、以下に示す「%」は、特段の説明がない限り、「質量%」を意味する。
C:Cは強度向上に極めて有効な元素であり、目標とする強度を得るためには、最低0.030%必要である。しかし、0.100%以上のCを含有すると低温靭性が著しく低下し、また溶接時の割れが問題となる。したがって、Cは0.030〜0.100%未満に限定する。
Si:Siは脱酸元素であるが、過剰に添加すると低温靭性を損なうため上限を0.50%に制限した。脱酸元素としてAlを添加する場合には、Siを添加する必要はなく、下限は0%でも良い。
Mn:Mnは強度と低温靭性のバランスを向上させるためには必須の元素であり、その下限は0.80%である。しかし、2.50%よりも多いとかえって低温靭性が大幅に劣化するので2.50%を上限とした。
P:Pは不純物であり、靭性を低下させるため、その上限を0.015%とした。靭性確保の観点から添加量はできるだけ少ない方が望ましく、0.010%以下がより好適である。
S:Sは不純物であり、靭性を低下させるため、その上限を0.008%とした。靭性確保の観点から添加量はできるだけ少ない方が望ましく、0.005%以下がより好適である。
Al:Alは脱酸元素であるが、過剰添加すると粗大なAl酸化物が生成し低温靭性を招くので、上限を0.050%とした。脱酸元素としてSiを添加する場合には、Alを添加する必要はなく、下限は0%でも良い。
Ti:Tiは微細なTiNを形成し、組織を微細化するだけでなく、焼き入れ性を増大させ、強靱化にも寄与する。0.005%未満ではこの効果が小さいため、下限を0.005%とした。しかしながら、0.035%より多いと粗大なTiNおよびTiCが析出し低温靭性が著しく低下するため、上限を0.035%とした。
Nb:Nbは圧延時のオーステナイトの再結晶を抑制し組織を微細化するだけでなく、焼き入れ性を増大させ、鋼を強靱化する。0.003%未満ではこの効果が小さく、下限を0.003%とした。しかし、0.040%より多いと、粗大なNb析出物の生成によって靭性が劣化するので、上限を0.040%とした。
N:Nは不純物であり、0.0080%より多いと、粗大なTiNの形成で靭性を低下させるので上限を0.0080%とした。なお、Nは、TiN等の微細な窒化物を形成し、組織の微細化に寄与することがあるため、0.0010%以上を添加することが好ましい。
B:Bは焼き入れ性を増大させ強靱化させる元素であり、効果が得られる下限は0.0003%である。一方、0.0030%より多いとかえって焼き入れ性が低下し一部フェライトが生成し目標強度を満足できないので、上限を0.0030%とした。
更に、Ni、Cr、Cu、Moの1種又は2種以上を添加しても良い。
Ni:Niは低温靭性を劣化させることなく強度を向上させる元素であり、0.10%以上添加することが好ましい。しかし、1.50%を超えると、偏析して組織が不均一になり、靭性が劣化することがあるので上限を1.50%とすることが好ましい。
Cr:Crは強度を向上させる元素であり、0.10%以上添加することが好ましい。一方、1.50%を超えるとかえってCr析出物の生成で靭性が劣化することがあるので、上限を1.50%とすることが好ましい。
Cu:Cuは強度を向上させる元素であり、0.10%以上の添加が好ましい。しかし、添加量が1.00%を超えると溶接性が劣化することがあるので上限を1.00%とすることが好ましい。
Mo:Moは焼き入れ性を向上させ、高強度化に寄与する元素であり、その効果を得るには0.05%以上の添加が好ましい。一方、0.50%を超えると溶接性を損なうことがあるため上限を0.50%とすることが好ましい。
次に、製造方法について説明する。
本発明の鋼管は、継ぎ目無し鋼管が好ましく、その造管工程は、熱間での穿孔−圧延−延伸が一般的である。また、冷間または熱間で穿孔し、熱間押し出しプレスにより製造された継ぎ目無し鋼管、ホットコイル等の鋼板を冷間または熱間でロールにて管状に成形した後、両端面を溶接することにより製造された溶接鋼管でも良い。
本発明では上記化学成分を有する鋼管を、延伸工程の後、そのまま750℃以上の温度から冷却する際の条件が重要である。鋼管は、一旦鋼管製造工程を終了した後、加熱炉又は誘導加熱によって昇温しても良く、鋼片を熱間で穿孔、圧延し、延伸工程によって造管した後、鋼管の温度が750℃以上であれば、インラインでそのまま加速冷却することが可能である。
鋼管の加速冷却を開始する温度を750℃以上に限定した理由は、加速冷却開始時の金属組織をオーステナイト単相とするためである。加速冷却を開始する際の鋼管の温度が高すぎるとオーステナイト粒が粗大化し靭性低下を招くことがあるので、950℃以下が好ましい。
次に鋼管の加速冷却の冷却速度について説明する。冷却速度が5℃/秒以下では上部ベイナイト、フェライトが生成し、一方、50℃/秒を超えると均一冷却が困難となり、冷却後、鋼管が大きく変形する。したがって、加速冷却速度を5〜50℃/秒に限定した。
加速冷却の方法は、鋼管を円周方向に回転させながら外表面のみから冷却する方法に限定した。これにより、円周方向、長手方向に渡って均一に冷却することができる。一方、鋼管を回転させなければ鋼管下面が過剰に冷え、また内面側から冷却すると下面に水が貯まり冷却速度が均一にならないという問題がある。冷却方法については、水を鋼管の外表面に直接当てる方法、鋼管外周の接線方向に当てる方法、ミスト冷却など任意に選定できる。
本発明では適用できる鋼管形状を、長さが外径の5倍以上に限定した。これは、長さが外径の5倍未満の場合、外面からの加速冷却を水冷によって行う際、水が内面側にまわりこみ冷却が不均一となって鋼管が曲がるためである。なお、確実に均一に加速冷却するためには、鋼管長さを外径の10倍以上とするのがより好ましい。
表1に示す化学成分の鋼を溶製し、転炉−連続鋳造プロセスにより直径170mmのブルームを鋳造した。これらブルームを1240℃に加熱し、マンネスマン−プラグミル方式により穿孔−圧延した後、950℃に再加熱し縮径圧延した後、直送でリング冷却により外表面側から水冷した。また、一部鋼管は、縮径圧延した鋼管を室温まで冷却した後、950℃に再加熱した後リング冷却により外表面から水冷した。
縮径圧延後の鋼管サイズは3サイズで、外径:126mm、肉厚12.2mm、外径138mm、肉厚16.4mmおよび外径146mm、肉厚20.6mmであった。長さはいずれも6.5mであった。
加速冷却後、高周波誘導加熱装置もしくは炉加熱によって再加熱をした。保持時間を1分以下とするものは高周波誘導加熱装置を使用し、保持時間が1分以上のものは炉加熱を使用した。
以上の製造条件の詳細は、表2に示したとおりであり、プロセス欄の「直送」は、縮径圧延後、そのまま加速冷却を行ったことを意味し、「再加熱」は、縮径圧延後、室温まで冷却し、再加熱後に加速冷却を行ったことを意味する。
製造した鋼管は、目視で形状の良否を判定し、良好なものを○、曲がりなどが生じたものを×とした。更に、鋼管の円周方向および長手方向および肉厚方向の任意の位置について、金属組織を観察し、10kgfにてビッカース硬度を測定した。金属組織は走査型電子顕微鏡及び光学顕微鏡を用い、最大50000倍まで拡大して観察し組織分類を行った。
引張試験はJIS11号管引張試験片を用い、降伏強度と引張強度を測定した。靭性の評価は、JIS Z 2242に準拠し、2mmVノッチフルサイズ試験片を用いて−40℃にてシャルピー試験を実施し、吸収エネルギーを測定した。
溶接性は、鋼管同士を室温にて780MPa級の強度を有する溶接ワイヤーを用いて炭酸ガス溶接して鋼管継ぎ手を作製し、24時間後に目視検査にて割れの有無を検査して割れの無いものを合格とした。
本発明例であるNo.1〜13は適正な加速冷却条件で製造された鋼管であり、適正な金属組織と機械構造用鋼管として必要な強度と靭性に優れていた。一方、No.14〜29は、成分、製法の一方又は双方を本発明の範囲外とした比較例であり、靭性が低下している。
No.14は、C量、B量およびNi量が高く、冷却停止温度が400℃を超えており、上部ベイナイト組織となった例である。No.15は、特に、C量が低く、冷却停止温度が821.34×V-0.3112よりも高いため、一部上部ベイナイト組織が生成した例である。No.16及び17は、特に、P量が高すぎたため、靭性が低下した例である。No.18は、特に、Si量が高すぎて上部ベイナイトが生成し、No.19は、Al量およびNb量が高すぎたため靭性が低下した例である。
No.20は、冷却速度が遅く、No.21は、冷却停止温度が821.34×V-0.3112よりも高いため、上部ベイナイトが生成した例である。No.22及び24は、冷却速度が速く、冷却停止温度も高いため、焼き戻しマルテンサイトと上部ベイナイトの混合組織となり、No.23は、加速冷却の開始温度が低く、フェライトが生成し、靭性が低下した例である。No.25は、冷却温度が高く、上部ベイナイトが生成した例である。
No.26は、保持時間が長く、No.28は保持温度が高く、No.29は保持温度が高く、かつ保持時間が長いため、セメンタイトが粗大化し、靭性が低下した例である。No.27は、保持温度が低く、残留オーステナイトの分解が不十分であった例である。
Figure 0005020690
Figure 0005020690
冷却停止温度と300〜600℃での保持時間による靭性の変化を示す図。 冷却速度と冷却停止温度による靭性の変化を示す図。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C :0.030%〜0.100%未満、
    Mn:0.80%〜2.50%、
    Ti:0.005〜0.035%、
    Nb:0.003〜0.040%、
    B :0.0003%〜0.0030%
    を含有し、
    Si:0.50%以下、
    Al:0.050%以下、
    P :0.015%以下、
    S :0.008%以下、
    N :0.0080%以下
    に制限し、さらに、
    Ni:0.10%〜1.50%、
    Cr:0.10%〜1.50%、
    Cu:0.10%〜1.00%、
    Mo:0.05%〜0.50%
    の1種または2種以上を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、金属組織が、焼き戻しマルテンサイトと、面積率で1%以下の残留オーステナイトからなる(ただし、自己焼き戻しマルテンサイト単独組織を除く。)ことを特徴とする靭性と溶接性に優れた機械構造用高強度鋼管。
  2. 請求項1に記載の成分組成を有し、金属組織が、焼き戻しマルテンサイト及び下部ベイナイトと、面積率で1%以下の残留オーステナイトからなる(ただし、自己焼き戻しマルテンサイトと下部ベイナイトとの混合組織を除く。)ことを特徴とする靭性と溶接性に優れた機械構造用高強度鋼管。
  3. 請求項1に記載の化学成分を有する鋼管を熱間で延伸し、そのまま、750℃以上の温度から150〜400℃の範囲内の冷却停止温度T[℃]まで、5〜50℃/sの冷却速度V[℃/s]で、円周方向に回転させながら鋼管の外表面から加速冷却した後、350〜600℃の温度域に保持時間t[s]の保持を行うに際し、前記冷却停止温度T[℃]と前記冷却速度V[℃/s]が下記(式1)を満足し、前記冷却停止温度T[℃]と前記保持時間t[s]が下記(式2)満足することを特徴とする靭性と溶接性に優れた機械構造用高強度鋼管の製造方法。
    T<821.34×V-0.3112 ・・・ (式1)
    t<−3.6×T+3240 ・・・ (式2)
  4. 請求項1に記載の成分からなる鋼片を、熱間で穿孔、圧延し、延伸工程により造管し、得られた鋼管を、円周方向に回転させながら鋼管の外表面から加速冷却し、保持することを特徴とする請求項3に記載の機械構造用高強度鋼管の製造方法。
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