JP5019206B2 - 神経突起伸長制御タンパク質 - Google Patents

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Description

本発明は、神経突起伸長促進剤に関する。本発明の神経突起伸長促進剤は、中枢神経の再生に利用することができる。
現在の神経再生を目的とした研究動向は、Nogo 受容体や反発性軸索ガイド分子の受容体を介する神経突起伸長阻害作用をブロックするための方法論と、神経栄養因子や神経成長因子といった神経突起伸長作用を促進させるための方法論との双方を攻究し、それらから如何に臨床的効果を引き出すかを模索している段階にある。前者の方法論ではNogo 受容体のアンタゴニストの開発が進んでいるように思われる。例えば、エール大学医学部のStrittmatter らはNogoやNogo 受容体の遺伝子欠損マウスを作製して脊髄損傷を人為的に作ってその神経再生状況を検討したが、予想通り、彼等はNogo やNogo 受容体が欠損する場合は神経再生能が有意に回復するという実験結果を示した(非特許文献1、非特許文献2)。この報告はNogo 受容体のアンタゴニストの開発を勇気付けるものであろう。また、Nogo 受容体に対してアンタゴニストとして働く蛋白質断片や薬剤を用いた彼等自身の実験でも、脊髄損傷における神経再生を誘導したと報告している(非特許文献3、非特許文献4)。このように、Nogo 受容体を介する細胞応答が神経再生を妨げる主要因として考えられ、それに対する検討が数多く行われている。しかし一方、Nogo やNogo 受容体の遺伝子欠損マウスを別のグループが作製して調査すると全く異なる結果が示され、統一的な見解が得られず混沌とした状況にある。カリフォルニア大学のTessier-Lavigne のグループは、Strittmatter らが見たような神経再生能の回復はNogo 受容体の遺伝子欠損マウスでは確認できないとしている(非特許文献5)。幾つかこの矛盾が生じた理由を考えることができよう。例えば、Nogo にはNogo-A〜C までの3 種のサブタイプが存在するため、それら単一の遺伝子欠損では表現型が各々異なってしまう可能性がある。また、その問題を解決するためにNogo 受容体の遺伝子欠損動物が作製されて検討されたのであるが、神経再生を検証する仕方や部位が異なると結果がまちまちであるように見受けられる。実際、Tessier-Lavigne のグループは皮質脊髄投射路における神経再生ではNogo 受容体の欠損は影響がなかったとし(非特許文献5)、Strittmatter らのグループも皮質脊髄投射路では他の部位とは異なって効果がなかったと報告している(非特許文献2)。このように、中枢神経の再生に有効な方法は、現在のところ存在しない。
Kim, J.E., et al., Axon regeneration in young adult mice lacking Nogo-A/B. Neuron 38: 187-199 (2003) Kim, J.E., et al., Nogo-66 receptor revents raphespinal and rubrospinal axon regeneration and limits functional recovery from spinal cord inury. Neuron 44: 439-451 (2004) GrandPre, T. et al., Nogo-66 receptor antagonist peptide promotes axonal regeneration. Nature 417: 547-551 (2002). Fourminer, A.E. et al., Rho kinase inhibition enhances axonal regeneration in the injured CNS. J.Neurosci. 23: 1416-1423 (2003) Zheng, B., et al., Genetic deletion of the Nogo receptor does not reduce neurite inhibition in vitro or promote corticospinal tract regeneration in vivo. Proc.Natl. Acad. Sci. USA 102: 1205-1210 (2005). Surrey, T., et al., Chromophore-assisted light iinactivation and self-organization of microtubules and motors. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95: 4293-4298 (1998). Beck, S., et al., Fluorephore-assisted light inactivation: A high-throughput tool for direct target validation of proteins. Proteomics 2: 247-255 (2002).) Steck et al., Biochem. J. (2001) 353, 169-174)
本発明の目的は、中枢神経の再生を促進することができる、神経突起伸長促進剤を提供することである。
本願発明者らは、鋭意研究の結果、後で詳細に説明する方法により、公知の軟骨性分泌タンパク質(非特許文献8)であるCEP-68タンパク質(Chondrocyte expressed protein 68 kDa)が、中枢神経の神経突起伸長促進活性を有することを実験的に見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、CEP-68タンパク質の中央領域又は該中央領域と90%以上の相同性を有する領域を少なくとも含むポリペプチドであって、神経突起伸長促進活性を有するポリペプチドを有効成分として含み、前記中央領域が前記CEP-68タンパク質の両端の各10%のアミノ酸を除く領域である、神経突起伸長促進剤を提供する。また、本発明は、上記ポリペプチドをコードする核酸を含む、哺乳動物用の組換えベクターを含む神経突起伸長促進用組換えベクターを提供する。
本発明により、神経突起伸長促進活性を有するポリペプチドが初めて見出された。実施例に具体的に記載されるように、このポリペプチドは、中枢神経の神経突起伸長促進活性を有する。従って、本発明の神経突起伸長促進剤は、中枢神経の再生に有効であり、事故等に起因する脳や脊髄の損傷に対する治療として、中枢神経を再生するために利用可能であり、医療に大きく貢献するものと考えられる。
先ず、CEP-68タンパク質及びその部分断片が神経突起伸長促進活性を有することを実験的に見出した過程の概要を説明する。なお、具体的な実験方法は後述の実施例に記載する。
本願発明者らは、FALI(fluorophore-assisted light inactivation)法(非特許文献6、非特許文献7)の改良法を利用し、マウス脳の嗅索神経束(Lateral olfactory tract: LOT)形成に関わる機能分子をスクリーニングした。すなわち、摘出した胎仔マウスの大脳半球を培養下で維持する終脳器官培養系を確立させ、この方法により胎仔マウスの大脳半球を培養し、培養条件下でLOTを形成させた。一方、マウスLOTを免疫原としてモノクローナル抗体を種々作製し、FITCで標識し、それらを胎生12日の終脳器官培養系に作用させ、24時間光を照射して各モノクローナル抗体と特異的に結合した抗原分子の機能を阻害した。その結果、LOTの軸索が神経束から逸脱して背側に迷走する異常な軸索投射を示す表現型を見出した。
この表現型が現れた際に用いたモノクローナル抗体の対応抗原を、既存のLOT発現遺伝子ライブラリーから同定した結果、CEP-68タンパク質と呼ばれる公知の軟骨性分泌タンパク質(非特許文献8)であった。アルカリフォスファターゼ(AP)標識したCEP-68タンパク質を作製し、胎生13日目のマウス終脳器官培養系に添加し、その結合部位を検討したところ、LOTとその周辺領域を含む広い範囲に結合していた。従って、CEP-68タンパク質の受容体がLOT及びその周辺に存在するものと予測された。なお、CEP-68タンパク質のN末端領域又はC末端領域を欠失させたCEP-68タンパク質の部分断片を用いた場合でも同様な結合が観察された。そこで、既存のLOT発現遺伝子クローンライブラリーをスクリーニングしたところ、この受容体は、公知のNogo受容体であった。すなわち、CEP-68タンパク質は、Nogo受容体のリガンドであることが明らかになった。
さらに、マウス後根神経節を、アルカリフォスファターゼ(AP)標識したCEP-68タンパク質の存在下で、ポリL-リジンをコートしたカバーガラス上で24時間培養したところ、AP及びAP標識CEP-68タンパク質の非存在下に比較して顕著な神経突起伸長が観察された。一方、抗Nogo受容体抗体の存在下で同じ実験を行なったところ、CEP-68タンパク質による神経突起伸長促進効果は明らかに抑制された。これらの結果から、CEP-68タンパク質及びその部分断片が、神経突起伸長促進活性を有することが明らかになった。
以上の通り、本願発明者らは、CEP-68タンパク質が神経突起伸長促進活性を有することを実験的に見出した。なお、CEP-68タンパク質は、軟骨酸性タンパク質1(cartilage acidic protein 1 (Crtac1))とも呼ばれている。下記の実施例で用いたマウスCEP-68タンパク質のアミノ酸配列及びそれをコードする核酸の塩基配列を配列番号1に示す。このアミノ酸配列及びそれをコードする核酸の塩基配列は公知であり、GenBank Accession No. NM_145123に記載されている。なお、マウスCEP-68タンパク質は、アミノ酸配列が少し異なる変異体も知られており(非特許文献8)、CEP-68タンパク質としてはそのような天然の変異体を用いることもできる。
CEP-68タンパク質は、神経突起伸長促進作用を有するので、これを神経突起伸長促進剤として用いることができる。従って、本発明は、CEP-68タンパク質を有効成分として含有する神経突起伸長促進剤を提供する。なお、下記実施例に具体的に記載されるように、CEP-68タンパク質のN末端側28アミノ酸(すなわち、N末端から数えて1番目〜28番目のアミノ酸(以下、例えば1番目のアミノ酸を「1a.a.」のように記載することがある)を欠失させたCEP-68タンパク質断片、及びCEP-68タンパク質のC末端の44アミノ酸(すなわち、603a.a.〜646a.a.)を欠失させたCEP-68タンパク質断片もNogo受容体に結合する。下記実施例で実験的に確認されたとおり、CEP-68タンパク質の神経突起成長促進作用は、Nogo受容体に結合することで発揮される。従って、上記したN末端領域又はC末端を欠失したCEP-68タンパク質の部分断片も神経突起成長促進作用を有すると考えられる。さらに、N末端にAPを結合させた融合タンパク質でも、C末端にAPを結合させた融合タンパク質でもNogo受容体に結合する。APは分子量8万のかなり大きな酵素であり、これをタンパク質の末端に結合すればその末端の立体構造が変化し又は酵素による立体障害を受けることに起因して、該タンパク質の末端領域は機能しないと考えられる。従って、CEP-68タンパク質のNogo受容体結合領域、すなわち、神経突起伸長促進作用を有する領域は、CEP-68タンパク質の両末端から離れた領域にあり、少なくともCEP-68タンパク質の両端の各10%のアミノ酸を除く領域内にあると考えられる(本明細書及び特許請求の範囲において、CEP-68タンパク質の両端の各10%のアミノ酸を除く領域を「中央領域」と呼ぶ)。従って、CEP-68タンパク質の中央領域から成る部分断片は神経突起伸長促進作用を有する。さらに、CEP-68タンパク質のN末端又はC末端にAPを結合させた融合タンパク質、さらに、CEP-68タンパク質のN末端側28アミノ酸(小数点以下切り上げて全長の5%)を欠失したCEP-68タンパク質の部分断片及びCEP-68タンパク質のC末端側44アミノ酸(小数点以下切り上げて全長の7%)を欠失したCEP-68タンパク質の部分断片もNogo受容体と結合することから、前記中央領域を含み、その一端又は両端に他のアミノ酸配列が結合されたポリペプチドも通常、神経突起伸長促進作用を有すると考えられる。このような、中央領域に他のアミノ酸配列が付加されたポリペプチドであって、神経突起伸長促進作用を有するポリペプチドも本発明の神経突起伸長促進剤の有効成分として用いることができる。
さらに、一般に、生理活性を有するポリペプチドは、該ポリペプチドを構成するアミノ酸のうち、少数のアミノ酸が置換し、欠失し及び/又は挿入された場合であっても、その生理活性を維持する場合があることは当業者によって広く認められているところである。従って、本発明においても、上記中央領域を構成するアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上の相同性を有する領域を含むポリペプチドであって、神経突起伸長促進活性を有するポリペプチドも本発明の神経突起伸長促進剤の有効成分として用いることができる。ここで、アミノ酸配列の「相同性」とは、両者のアミノ酸配列残基ができるだけ多く一致するように(必要ならばギャップを挿入する)両アミノ酸配列を整列させ、不一致のアミノ酸残基を、全アミノ酸残基数(両者の配列で全アミノ酸残基数が異なる場合には短い方の配列の全アミノ酸残基数)で除したものを百分率で表したものであり、BLASTのような周知のソフトにより容易に算出することができる。なお、天然のタンパク質を構成する20種類のアミノ酸は、低極性側鎖を有する中性アミノ酸(Gly, Ile, Val, Leu, Ala, Met, Pro)、親水性側鎖を有する中性アミノ酸(Asn, Gln, Thr, Ser, Tyr, Cys)、酸性アミノ酸(Asp, Glu)、塩基性アミノ酸(Arg, Lys, His)、芳香族アミノ酸(Phe, Tyr, Trp)のように類似の性質を有するものにグループ分けでき、これらの間での置換であればポリペプチドの性質が変化しないことが多いことが知られている。従って、配列番号2のポリペプチド中のアミノ酸残基を置換する場合には、これらの各グループの間で置換することにより、神経突起伸長促進活性を維持できる可能性が高くなる。なお、CEP-68タンパク質の中央領域と相同な領域のサイズは、該中央領域の90%以上が好ましい。また、CEP-68タンパク質の中央領域と相同な領域は、好ましくは、CEP-68タンパク質の中央領域において1ないし数個のアミノ酸残基が置換され、欠失され、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を有する。
下記実施例においては、マウスを対象としてマウスのCEP-68タンパク質を用いて実験を行なったが、ヒトのCEP-68タンパク質及びそれをコードする核酸の塩基配列も公知である(GenBank Accession No. EAW49892、CAD13394)。GenBank Accession No. CAD13394(以下、「GenBank Accession No.」を省略して番号部分のみを記載することがある)に示されるヒトCEP-68タンパク質遺伝子の塩基配列及びそれによりコードされるアミノ酸配列を配列番号3及び4にそれぞれ示す。EAW49892は、CAD13394のN末端にマウスCEP-68タンパク質の1a.a.〜8a.a.と同一のアミノ酸配列を有する8アミノ酸の領域が付加されていること以外はほぼ完全に同一のアミノ酸配列を有する(CAD13394の81a.a.のGlnに対応するアミノ酸がEAW49892ではHisになっている点のみ相違)ものである。EAW49892は、645アミノ酸から成り、マウスCEP-68タンパク質の646アミノ酸とほぼ同じである。EAW49892のアミノ酸配列をマウスCEP-68タンパク質のアミノ酸配列と整列させたものを図1に示す。図1に示されるように、ヒトCEP-68タンパク質は、マウスCEP-68タンパク質と高い相同性を有している。特に、Nogo受容体との結合に不要であることが実験的に確認されている1a.a.〜28a.a.及び403a.a.〜646a.a.の両末端領域を除いた領域では、アミノ酸配列の相同性が95.5%と非常に高い。ヒトCEP-68タンパク質は、このように、マウスCEP-68タンパク質とサイズもほぼ同一で、Nogo受容体との結合に関与する領域の相同性は極めて高いので、ヒトCEP-68タンパク質もマウスCEP-68タンパク質と同様な生理活性を有するものと考えられ、神経突起伸長促進活性を有するものと考えられる。従って、本発明の神経突起伸長促進剤の有効成分としては、ヒトCEP-68タンパク質の中央領域又は該中央領域と90%以上の相同性を有する領域を少なくとも含むポリペプチドも用いることができ、ヒトに適用する場合にはこちらの方が好ましい。また、ヒトCEP-68タンパク質としては、上記したEAW49892及びCAD13394の他にデータベースUniprotKB/Swiss-PortのAccession No. Q9NQ79-2及びQ9NQ79-3も知られている(Q9NQ79-1はそれらの前駆体である)。これらのうち、Q9NQ79-2は、上記したCAD13394のN末端にマウスCEP-68タンパク質の1a.a.〜8a.a.と同一のアミノ酸配列を有する8アミノ酸の領域が付加されていること以外は完全に同一のアミノ酸配列を有する。Q9NQ79-3(配列番号9)は、Q9NQ79-2の変異体で、その1a.a.〜604a.a. まではQ9NQ79-2と完全に同一であり、N末端領域のみが異なる。このように、ヒトCEP-68タンパク質は天然の変異体がいくつか知られているが、それらはC末端領域に8アミノ酸から成る領域が存在するか否か、及び/又はN末端領域が異なるのみであり、Nogo受容体との結合に関与する領域はほとんど完全に同じであり、それらのいずれをも本発明で言う「CEP-68タンパク質」とすることができる。
ポリペプチドが、神経再生促進活性を有するか否かは、下記実施例に具体的に記載した方法、すなわち、脊髄後根神経節を、AP標識したポリペプチドの存在下で、ポリL-リジンをコートしたカバーガラス上で24時間培養し、AP標識ポリペプチドの非存在下及びAPに比較して神経突起の伸長が促進されているかどうか試験することにより調べることができる。神経突起の伸長が促進されているかどうかは、顕微鏡観察により一見すれば明らかであるが、例えば、長さ約500μm程度以上の神経突起の生成数が対照(被検ポリペプチド非存在下)と比較して5倍以上(下記実施例では少なくとも20倍以上)等の基準を設定することも可能である。ヒトの神経に対する活性を調べる場合、上記のようにマウスでもヒトと相同性が極めて高いので、マウスを用いることもできるし、好ましくはよりヒトに近いサルの神経節を用いることができる。
CEP-68タンパク質は、それをコードする核酸の塩基配列が上記の通り公知であるので、RT-PCRのような常法でcDNAを増幅し、得られた増幅産物を市販の発現ベクターに組み込み、該発現ベクターを宿主細胞に導入して産生させることができる(下記実施例参照)。
本発明の神経突起伸長促進剤は、有効成分である上記したポリペプチドのみから成ることも可能であるが、通常、リン酸緩衝液のような水系緩衝液等の、製剤分野で広く用いられている媒体中に溶解された溶液の形態で用いられる。投与経路は、非経口投与が好ましく、特に、注射等により、再生しようとする神経とポリペプチドを直接接触させることが好ましい。投与量は特に限定されず、症状や神経の損傷部位の状態などに応じて適宜設定されるが、注射により直接接触させる場合の投与量は、有効成分であるポリペプチドの量として、通常、0.1μg〜1g程度、特に0.01mg〜10mg程度である。
また、ポリペプチドを直接投与することに代えて、又は直接投与と共に、該ポリペプチドをコードする核酸を含む哺乳動物用の組換えベクターを用いた遺伝子治療を行なうことも可能である。すなわち、このような組換えベクターを、再生すべき神経近傍の組織に導入し、該組織内で前記ポリペプチドを生産させることにより、該ポリペプチドが神経と接触し、神経突起の再生が促進される。遺伝子治療に用いることができる哺乳動物細胞用ベクター自体は、この分野において周知であり、市販もされており、公知のベクターや市販品をそのまま用いることができる。例えば、Invitrogen社から市販されているpcDNA3.1(+)(catalog No. V790-20)やpcDNA3.1(-)(catalog No. V795-20)等を好ましく用いることができるがこれらに限定されるものではない。周知のとおり、これらの哺乳動物細胞用ベクターは、哺乳動物細胞内での複製を可能にする複製開始点、外来遺伝子の発現を可能にするプロモーター領域、外来遺伝子を挿入するためのマルチクローニング部位等を有する。なお、ベクターは、レトロウイルスやアデノウイルスのような哺乳動物細胞用のベクターとして用いられているウイルス由来のベクターであってもよい。遺伝子治療に用いられる組換えベクターは、このような哺乳動物細胞用のベクターに上記ポリペプチドをコードする核酸を組み込むことにより得ることができる。
哺乳動物への組換えベクターの投与自体は、周知の方法により行うことができる。すなわち、好ましくは、再生させるべき神経の近傍の組織に注射等の非経口投与により投与することができる。組換えベクターをリン酸緩衝液(PBS)等の緩衝液に懸濁したものを投与することができる。投与に際し、細胞内への遺伝子ワクチンの侵入を容易にするために、注射部位に電界パルスを与えてもよい。この場合、電界の強さは、特に限定されないが、通常、10V/cm〜60V/cm程度、好ましくは25V/cm〜35V/cm程度、パルスの持続時間は、通常、20ミリ秒〜100ミリ秒、好ましくは、40ミリ秒〜60ミリ秒程度であり、パルスを通常、1回〜6回、好ましくは2回〜4回程度当てることができる。組換えベクターの投与量は、症状や神経損傷部位の状態等に応じて適宜選択することができるが、通常、組換えベクターの重量で1ng〜10mg程度、特に100ng〜1mg程度である。
本発明の神経突起伸長促進剤は、実施例において具体的に確認されたように、中枢神経からの神経突起伸長促進作用を発揮する。従って、本発明は、これまでに有効な治療方法が存在しなかった、中枢神経の再生を促進することができ、損傷した中枢神経の治療に有用である。
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
1. FALI技術を用いた神経伸長に関与する機能分子の同定
FALI技術(非特許文献6、非特許文献7)は、FITC(フルオレッセインイソチオシアネート)蛍光色素を標識した抗体が抗原分子と結合した状態で光照射を受けるとFITC 色素から一重項酸素が生じ、そのラジカルによって抗原分子の機能が阻害されることを利用して、該抗原分子の機能を特異的に阻害する技術である。
本願発明者らは、FALI技術を駆使してマウス脳のLOT形成に関わる機能分子をスクリーニングした。LOT は、マウス胎生12日〜14日目の2日間に嗅球(Olfactory Bulb:OB)に存在する嗅球神経細胞の軸索が大脳側面を束形成しながら伸長し、大脳皮質嗅覚野へ投射することで形成される。本願発明者らは、この2日間のLOT 形成に関わる機能分子を見出すために、1〜2日間の長期間、標的分子を破壊し続けることができるようにFALI法の新たな改変法を開発した。先ず最初に、摘出した胎仔マウスの大脳半球を培養下で維持する終脳器官培養系を確立させた。本願発明者らはこの器官培養系にFALI 法を適用することを考えた。非特許文献7記載のFALI 法による機能分子のスクリーニングでは、通常の白熱光を1 時間照射する方法が取られている。しかし、本実験においてはもっと長い期間連続的に分子を機能阻害し続ける必要があった。そこで、本願発明者らは24 時間連続的に光照射し続けて、この期間に新に産生された標的分子を次々とずっと破壊し続けることを可能にするFALI 法の実験条件を見出し、しかも非常に簡便に実現できる方法に改変した、Simple, Easy and Long-Term FALI (SELT-FALI法)を開発した。
具体的には、摘出した胎仔マウスの大脳半球を培養下で維持する終脳器官の培養は次のようにして行なった。胎生12日目のマウスの終脳半球を摘出して線条体領域を除き、正中側を下にしてフィルター(Corster社製、カルチャーインサート)の上に静置して2%B-27サプリメント(Invitrogen社製)を含むNeurobasal Medium溶液(Invitrogen社製)中で5%CO2, 37℃に維持して培養した。一方、SELT-FALI法に用いるLOTを抗原とするモノクローナル抗体を常法であるKohlerとMilsteinの方法により作製した。すなわち、LOTを免疫原としてハムスターに注入し、ハムスターからBリンパ球を採取し、これをマウスミエローマ細胞と融合させ、得られたハイブリドーマのうちLOT細胞表面分子を認識するモノクローナル抗体を選別した。30種類のLOTに結合するモノクローナル抗体が得られた。これらのモノクローナル抗体を、常法によりFITC標識した。FITC標識は具体的には次のようにして行なった。シグマ社製ラベリングキットのプロトコールに従って抗体とFITCを混合し、FITCを抗体に結合させた後、過剰のFITCはゲル濾過にて取り除いて標識した。これらのFITC標識モノクローナル抗体を用い、胎生12日目のマウス終脳器官培養系に対してSELT-FALI法を行なった。この操作は具体的には次のようにして行なった。培養開始時より抗体30μg/mlを培地に加え、490nm波長の青色光を2000luxの照度で照射しながら培養を24時間行った。
上記方法により、LOTの軸索が神経束から逸脱して背側に迷走する表現型を示す抗体が見出された。この表現型が得られた際に用いたモノクローナル抗体の抗原分子を、既存の嗅球発現遺伝子ライブラリーから同定した。この操作は具体的に次のようにして行なった。公知のcDNAライブラリー(Kawasaki et al., J. Neurobiol. 62, 330-340, 2005)、即ち、発現ベクターを用いて嗅球より作製されたcDNAライブラリーの遺伝子をFuGENE6(ロッシュ社製)を用いてCOS7細胞に遺伝子導入して強制発現させ、当該モノクローナル抗体で免疫染色して発現細胞を見出し、遺伝子クローンを同定した。
その結果、この抗原分子は、CEP-68タンパク質と呼ばれる軟骨性分泌タンパク質であることが判明した。CEP-68タンパク質は、上記の通り、非特許文献8に記載されており、軟骨細胞のマーカー分子として有用であることが記載されている。また、非特許文献8には、ノーザンブロットにより調べたところ、CEP-68タンパク質が軟骨組織以外に、肺と脳に発現が認められ、特に脳には2.4kbの少し配列が短いmRNAが認められることが報告されている。このCEP-68タンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に、それをコードする核酸の塩基配列を配列番号1に示す。ゲノムデータベースによると、遺伝子座はマウス第19染色体C3領域にあり、また、アミノ酸配列のC末端近傍には構造的に膜貫通領域と思われる場所がある。この遺伝子をHEK293細胞に強制発現させたところ、培養上清中にこの分子が検出されたことから、分泌型と膜貫通型の2種類が存在すると考えられる。なお、C末端近傍の膜貫通領域がなければ分泌型になると考えられ、後述するように、C末端近傍を欠失させたCEP-68タンパク質であってもNogo受容体に結合し、神経突起伸長促進作用を発揮する。なお、CEP-68タンパク質は、その名前(Chondrocyte expressed protein)から明らかなように、軟骨細胞により産生されるタンパク質であるが、本願発明者らは、該タンパク質の神経突起伸長促進作用に着目して該タンパク質をLotus(LOT Unbending Substance (LOTは上記の通りLateral olfactory tract)と命名した。
2. CEP-68タンパク質の発現部位
CEP-68タンパク質の発現部位を検索した。最初に、胎生13〜14日目の脳におけるCEP-68タンパク質の発現についてFALI 法に用いた抗体によって免疫組織化学を行って検討した。Lotusは嗅球、LOTおよびLOT周辺部に強い発現が確認された。LOTの投射先である大脳皮質嗅覚野でも強い発現が認められた。FALI法によるLotusの機能阻害実験では、終脳器官培養系における分布で示されるCEP-68タンパク質を機能阻害した結果、上記表現型が得られたと解釈できる。LOT神経束の中間部や投射先の皮質嗅覚野付近で迷走軸索が多発しており、CEP-68タンパク質の発現量との関連性が見てとれる。
次に、胎生13〜16日目の脳におけるCEP-68タンパク質のmRNAの発現部位をin situ hybridization法で検討した。嗅球腹側部やLOT周辺内側部に発現細胞が認められ、LOT形成に関わるLotusの分泌源であると考えられる。これらの部位以外にもCEP-68タンパク質は発現していた。例えば、大脳皮質層、網膜神経節細胞層、海馬錐体細胞層、脊髄後根神経節など、非常に興味深い脳部位に特異的な発現パターンを示していた。なお、大脳皮質VI層での発現特異性から、CEP-68タンパク質はこの層のマーカー分子になり得る。
3.AP標識CEP-68タンパク質、その部分断片の調製
CEP-68タンパク質のN末端又はC末端にアルカリホスファターゼ(AP)と6xHisタグを結合してAP標識CEP-68タンパク質を調製した。APと6xHisタグの結合は具体的に次のようにして行なった。まずAP融合ベクターはN末端融合用(AP−N)とC末結合用(AP−C)の2種を作製した。AP−NはInvitrogen社製のpcDNA3.1のHindIII部位にGenHunter社製のヒト胎盤APの分泌シグナルを除く翻訳領域(22a.a〜506a.a.)を含むcDNAを導入して作製した(pcDNA3.1AP-N)。AP−CはInvitrogen社製のpcDNA3.1のHindIII, EcoRI部位にGenHunter社製のヒト胎盤APの翻訳領域全長(1a.a〜506a.a.)を含むcDNAを導入して作製した(pcDNA3.1AP-C)。いずれのベクターも6xHisの配列を含んでいる。クローニングされたcDNAよりCEP-68の分泌シグナル領域(1a.a〜28a.a)を除いた翻訳領域(29a.a〜646a.a.)をPCRにて増幅し、増幅産物をpcDNA3.1AP-CのEcoRI部位に挿入した。PCRに用いたプライマーセットは、CRTAC Fw EcoRIプライマー(配列番号5)及びCRTAC Rv EcoRIプライマー(配列番号6)であった。なお、これらのプライマーは、それぞれEcoRI部位を有する。AP融合CEP-68タンパクの部分断片(29a.a〜646a.a)を発現させたHEK293細胞の培養上清をClontech社のTalonレジンに結合させた。このレジンはコバルトイオンを保持し、6xHisタグを含む蛋白質が特異的に結合する。Talonレジンカラムを洗浄後、結合した蛋白質を溶出させて濃縮・精製し、AP融合CEP-68タンパクの部分断片(29a.a〜646a.a)を調製した。更に、配列番号2に示すアミノ酸配列のうち、603a.a.〜646a.a.を欠失した部分断片のN末端及び1a.a.〜28a.a.と603a.a.〜646a.a.の両方を欠失した部分断片のC末端にAPと6xHisタグを結合してAP標識CEP-68部分断片も調製した。これらの部分断片は、上記のAP融合CEP-68タンパクの部分断片(29a.a〜646a.a)と同様に、当該部分のコード領域をPCRにて増幅して、pcDNA3.1AP-NベクターまたはpcDNA3.1AP-Cに挿入して、それぞれN末端またはC末端にAPと6xHisタグを結合させて、Talonレジンカラムにより調製した。すなわち、これらの部分断片は、具体的に次のようにして調製した。1a.a.〜28a.a.と603a.a.〜646a.a.の両方を欠失した部分断片のC末端にAPと6xHisタグを結合してAP標識CEP-68部分断片(CRTAC(29..602))は、クローニングされたcDNAよりCEP-68の1a.a.〜28a.a.と603a.a.〜646a.a.の両方を欠失した領域(29a.a〜602a.a.)を含むcDNAをPCRにて増幅し、増幅産物をpcDNA3.1AP-CのEcoRI, XbaIに挿入した。この増幅に用いたプライマーセットは、CRTAC Fw EcoRIプライマー(配列番号5)と[mCRTAC-602r, XbaI]プライマー(配列番号8)を用いた。それぞれの配列はEcoRIとXbaIの切断部位を有する。該組み換えベクターを発現させて上記と同様に調製した。CEP-68の細胞膜貫通領域(603a.a.〜646a.a.)を欠失した部分断片のC末端にAPと6xHisタグを結合したAP標識CEP-68タンパク質部分断片(CRTAC(1..602))は、クローニングされたcDNAよりCEP-68の603a.a.〜646a.a.を欠失した領域(1a.a〜602a.a.)を含むcDNAをPCRにて増幅し、増幅産物をEcoRI及びXbaIで切断してpcDNA3.1AP-NのEcoRI、XbaI部位に挿入した。この増幅に用いたプライマーセットは、 [mCRTAC-1f, EcoRI](配列番号7)と[mCRTAC-602r, XbaI]プライマー(配列番号8)を用いた。該組み換えベクターを発現させて上記と同様に調製した。以上のようにして作製したAP標識CEP-68タンパク質の部分断片を以下の実験に用いた。
4.CEP-68タンパク質受容体の同定
上記の通り作製したAP標識CEP-68タンパク質を胎生13日目のマウス終脳器官培養系に添加して結合部位(受容体存在部位)を検討したところ、AP-CEP-68タンパク質(N末端にAPを融合させたAP標識CEP-68タンパク質)はLOT とその周辺領域を含む広い範囲に結合していた。AP-CEP-68タンパク質がLOT にも結合していることは、前出の嗅球より作製した発現ライブラリーの中にCEP-68タンパク質受容体分子が含まれる可能性があることを示す。そこで、嗅球発現ライブラリーを同様にスクリーングした。この操作は具体的に次のようにして行った。発現ライブラリーより、Hek細胞にAP-CEP-68タンパク質が結合する発現クローンを選択した。AP-CEP-68タンパク質の結合は、AP活性を指標にした。その結果、CEP-68タンパク質の受容体分子を同定することに成功した。この受容体は、既知のNogo 受容体と同一であった。
Nogo 受容体は、髄鞘ミエリン膜表面に発現するNogo、Myelin glycoprotein (MAG)、OMgp (Oligodendrocyte myelin glycoprotein)の3 種の分子を受容し、何れも神経突起伸長を著しく阻害することで非常に有名な受容体である。このNogo 受容体が中枢神経系の神経細胞表面に発現することから、中枢神経系は神経再生できないと考えられている。本願発明者らは、CEP-68タンパク質が第4のNogo 受容体の新しいリガンド分子になることを見出した。しかも、我々が見出したCEP-68タンパク質の機能は、LOT 形成を促す新規の軸索ガイダンス分子として働くことであるので、突起伸長阻害作用を示すNogo 受容体を介することは想定外の驚愕の事実であった。
LOT発現遺伝子クローンライブラリーの60万クローンから絞り込んだ、AP-CEP-68タンパク質が結合した6クローン細胞の発現遺伝子を確認したところ、全てNogo 受容体であった。また、CEP-68タンパク質のアミノ酸を一部削除した上記部分断片やAPを逆側のC 末端で融合した上記AP標識CEP-68タンパク質についても上記と同様に試験した結果、これらのいずれもがNogo受容体に結合を示した。これらのことは、Nogo受容体はCEP-68タンパク質の受容体であることを強く支持する。CEP-68タンパク質とその受容体との結合能を調べたところ、結合能のIC50はおよそ15nM であった。多くのリガンド・受容体結合では、数nM レベルのIC50を示すものが多いが、CEP-68タンパク質とNogo 受容体の結合能はそれに比較して大きく低親和性結合であった。
5.CEP-68タンパク質受容体の発現部位とLOT形成機能
Nogo 受容体がCEP-68タンパク質受容体であるならば、CEP-68タンパク質はNogo 受容体を介してLOT形成に関わるかどうかを検討する必要がある。そこで、先ず最初にNogo 受容体の発現を免疫組織化学的に検出して調べた。胎生13日目の全脳および終脳器官培養系におけるNogo受容体の発現を検討したところ、双方において、LOTおよびLOT周辺部の広範囲に分布することが分かった。
前述したように、Lotus を標的にしたFALI で見出された迷走する軸索の表現型は、Nogo
受容体を介した情報伝達系を阻害したために起こったかどうかを検証する目的で、今度はNogo受容体に対する抗体を用いてFALI法による機能阻害実験を行った。この操作は具体的に次のようにして行った。Nogo受容体に対する抗体をFITC色素で標識し、前述のように、終脳器官培養系に添加して490nm波長の青色光を24時間照射(照度:2000〜3700Lux)しながら培養を行った。この実験の結果、LOT軸索が背側に迷走する様子が観察され、CEP-68タンパク質を標的にした場合とほぼ同様の表現型を示した。これらのことから、CEP-68タンパク質はNogo受容体を介してLOT 形成に寄与すると考えられた。
6.CEP-68タンパク質の神経突起伸長促進作用
CEP-68タンパク質は、Nogo受容体を介してLOT形成に関わる軸索ガイダンス分子であることが明らかになったが、どのような細胞機能を発揮してLOT形成に寄与するかを調べるべく、その一環として、CEP-68タンパク質が神経細胞の突起伸長に与える影響を調べた。LOT形成に関する細胞機能を調べるには、嗅球神経細胞を培養して検討することが望ましい。しかし、細胞を培養皿底面に生着させるために必要な培養基質ポリ-L-リジン(PLL)を用いると、培養嗅球神経細胞はPLL上で神経突起をよく伸長させ、新たな基質(CEP-68タンパク質)に対する効果を評価しにくい。そこで、マウス脊髄後根神経節(dorsal root ganglion: DRG)細胞における突起伸長において検討した。培養DRG細胞はPLL基質上では培養皿底面に生着するが、あまり顕著に突起伸長しないので他の添加物質による突起伸長活性を検討するのに相応しい。また、培養DRG細胞は神経突起伸長を観察することが容易であることに加え、Nogo 受容体が発現し、前出のNogo やMAG といったNogo 受容体のリガンド分子に対して顕著な突起伸長阻害害を示す。
上記の通り調製したAP-CEP-68タンパク質を予めPLLでコートした培養皿底面にコートし、DRG(細胞塊)をAP-CEP-68タンパク質がコートしてある領域(AP-CEP-68タンパク質 + PLLコートの領域)とそうでない領域(PLLコートのみの領域)との境界面に設置して24時間培養し、AP-CEP-68タンパク質の神経突起伸長に及ぼす効果を調べた。これは具体的に次のようにして行なった。胎生13日目のDRGの細胞塊をマウス胎仔より摘出し、PLL(100μg/ml)とAP-CEP-68タンパク質(10〜50nM)をコートしたガラスボトム培養皿底面に静置し、2%B-27サプリメント(前出)を含むNeurobasal Medium溶液(前出)中で5%CO2, 37℃に維持して24時間培養した。培養後に2nMマグネシウムイオンを含む4%パラホルムアルデヒド-リン酸緩衝液で細胞塊を1時間固定し、リン酸緩衝液で3回洗浄後、AP呈色反応液でAP発色を行った。これによってAP-CEP-68がコートされている培養皿底面の領域を呈色反応で可視化して細胞塊から突出伸長した神経突起とコート剤との関連を明らかにして解析した。
図2に示すように、AP-CEP-68タンパク質の基質コート領域で明らかな神経突起伸長が認められた。対照実験では、APをコートした領域(AP + PLL コート領域)はPLL だけをコートした領域と同様で、神経突起伸長の亢進は見られなかった(図2)。
更に、AP-CEP-68タンパク質基質上でDRGを24時間培養した時に同時にNogo受容体に対する抗体を添加すると、AP-CEP-68タンパク質上での神経突起伸長が阻害された(図3)。これは具体的に次のようにして行なった。前述の同様に、胎生13日目のDRGの細胞塊をマウス胎仔より摘出し、PLL(100μg/ml)とAP-CEP-68タンパク質(10〜50nM)をコートしたガラスボトム培養皿底面に静置し、2%B-27サプリメント(前出)を含むNeurobasal Medium溶液(前出)中で5%CO2, 37℃に維持して24時間培養した。培養後に2nMマグネシウムイオンを含む4%パラホルムアルデヒド-リン酸緩衝液で細胞塊を1時間固定し、リン酸緩衝液で3回洗浄後、AP呈色反応液でAP発色を行った。これによってAP-CEP-68がコートされている培養皿底面の領域を呈色反応で可視化して細胞塊から突出伸長した神経突起とコート剤との関連を明らかにして解析した。
以上から、DRG細胞は、CEP-68タンパク質と接触するとNogo受容体を介する細胞応答として神経突起伸長を促進することが明らかになった。従って、CEP-68タンパク質は、神経突起伸長促進剤の有効成分として利用可能であることが明らかになった。
マウスCEP-68タンパク質とヒトCEP-68タンパク質のアミノ酸配列を整列させて示す図である。 アルカリフォスファターゼ(AP)をN末端に融合したAP標識CEP-68タンパク質の存在下及び非存在下におけるマウス脊髄後根神経節からの神経突起の伸長の状態を示す顕微鏡写真である。左側の写真は、ポリ-L-リジン(PLL)基質上及びPLL基質上にAPをコートした基質上おけるマウス脊髄後根神経節からの神経突起の伸長の状態を示し、右側の写真は、ポリ-L-リジン(PLL)基質上及びAP-CEP-68タンパク質含有PLL基質上におけるマウス脊髄後根神経節からの神経突起の伸長の状態を示す。白線は各基質の境界線であり、スケールバーは500μmである。 マウス脊髄後根神経節を、PLL上にCEP-68タンパク質をコートした培養基質(左側の写真)と、これにさらに抗Nogo受容体抗体を含む培養基質(右側の写真)上で24時間培養した後の状態を示す顕微鏡写真である。

Claims (5)

  1. CEP-68タンパク質の中央領域又は該中央領域と90%以上の相同性を有する領域を少なくとも含むポリペプチドであって、神経突起伸長促進活性を有するポリペプチドを有効成分として含み、前記中央領域が前記CEP-68タンパク質の両端の各10%のアミノ酸を除く領域である、神経突起伸長促進剤。
  2. 前記ポリペプチドは、前記CEP-68タンパク質のN末端側5%以下、C末端側7%以下を除く領域又は該領域と90%以上の相同性を有する領域を少なくとも含む請求項1記載の神経突起伸長促進剤。
  3. 前記CEP-68タンパク質は、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有し、前記ポリペプチドは、配列番号2で示されるアミノ酸配列の29番目〜60番目のアミノ酸から成る領域又は該領域と90%以上の相同性を有する領域を少なくとも含む請求項1記載の神経突起伸長促進剤。
  4. 前記ポリペプチドが、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するCEP-68タンパク質の29番目〜60番目のアミノ酸から成る領域を含む請求項2記載の神経突起伸長促進剤。
  5. 前記神経が中枢神経である請求項1ないし4のいずれか1項に記載の神経突起伸長促進剤。
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