JP5015387B2 - 固体高分子型燃料電池のセパレータ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、固体高分子型燃料電池のセパレータに関する物である。
【0002】
【従来の技術】
近年、クリーンで発電効率の高い次世代の発電装置が望まれており、酸素及び水素の持つ化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する燃料電池(FuelCell)に対する期待が次第に高まってきている。現状における燃料電池の種類としては、リン酸型、アルカリ型、溶融炭酸塩型、固体電解質型、固体高分子型(イオン交換膜型ともいう。)等が知られている。なかでも固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)は、小規模かつポータブルな電源としての用途(例えば電気自動車用電源等)に適すると考えられている。ゆえに、その実用化に向けて、現在精力的に開発が進められている。
【0003】
このタイプの燃料電池は、例えば電解質層としてプロトン導電性を有するイオン交換膜の1つである固体高分子膜(以後プロトン交換膜)の両側に電極を配置してなる膜・電極積層体(単電池)を備えている。このような固体高分子膜は、分子中に水素イオンの交換基を持つため、飽和含水状態とすることによりイオン導電性電解質として機能することができる。これらの電極には白金等の金属触媒が担持されている。一対の電極のうちの一方は水素極(陰極)と呼ばれ、他方は酸素極(陽極)と呼ばれる。膜・電極積層体の両側には一対のセパレータが配置されており、それらセパレータによって両電極及びイオン交換膜の外周部が挟持されている。
【0004】
水素極側のセパレータを介して供給されてきた水素ガス(H2)は、水素極における触媒反応により水素イオン(H+)と電子(e-)とに解離する。水素イオンはプロトン交換膜を通過しながら酸素極に向かって移動し、電子は外部回路を通って酸素極側へ移動する。酸素極側には酸素ガス(O2)が供給されている。
【0005】
従って、酸素極における触媒反応により、水素イオン及び外部回路を経由した電子が酸素ガスと反応し、水(H2O)が生じる。このとき、外部回路を経由した電子は電流となり、負荷に対して電力を供給することができる。別の言い方をすると、酸素ガス及び水素ガスを燃料として、電気分解反応の逆反応により、起電力が得られるようになっている。
【0006】
図6に示すように、固体高分子型燃料電池のセパレータ51は、一軸プレス機にて成形用材料を同セパレータ51の厚さ方向(矢印F1方向)にプレス成形することによって薄板状に形成されたものである。セパレータ51の上面及び下面には、流体流路54が複数箇所に設けられている。図7に示すように、セパレータ51は、熱硬化性樹脂及び鱗片状の炭素粉末53を成分とする樹脂成形体52からなっている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、固体高分子型燃料電池は、膜・電極積層体を一対のセパレータ51で挟持することによって構成されている。そして、このような固体高分子型燃料電池を数十枚から数百枚程積層することによって、燃料電池スタックが構成される。その結果、固体高分子型燃料電池の使用時には、電流がセパレータ51内を矢印F1方向に流れるようになる。そのため、セパレータ51の導通性を向上させるためには、矢印F1方向におけるセパレータ51の電気比抵抗を小さくする必要があった。しかし、結晶が発達した炭素粉末53は鱗片状であるため、樹脂成形体52をプレス成形すると炭素粉末53がセパレータ51の面方向(矢印F2方向)に配向してしまう。そのため、矢印F1方向におけるセパレータ51の電気比抵抗の大きさと矢印F2方向における電気比抵抗の大きさとの差が大きくなる。よって、セパレータ51の電気比抵抗が異方性を示すようになる。その結果、矢印F1方向におけるセパレータ51の電気比抵抗が大きくなってしまい、矢印F1方向におけるセパレータ51の導電性が低下してしまうという問題があった。
【0008】
この問題を解決するために、例えば特開2000−40517号公報では、炭素粉末53として天然黒鉛粉と人造黒鉛粉とを混合したものを用いることが提案されている。しかし、炭素粉末53として2種類の黒鉛を用いなければならなかった。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、作り易さを維持しながら厚さ方向への導電性を向上させることができる固体高分子型燃料電池のセパレータを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、熱硬化性樹脂及び炭素粉末を成分とする樹脂成形体からなり、プレス成形によって形成される固体高分子型燃料電池のセパレータにおいて、前記炭素粉末は、大きさが1〜10μmである微小結晶を用い、50〜200個の前記微小結晶が凝集して熱処理を経た粒状炭素粉末であり、前記粒状炭素粉末の平均粒子径は50〜60μmであり、前記粒状炭素粉末のアスペクト比は2以下であることを要旨とする。
【0012】
以下、本発明の「作用」について説明する。
請求項1に記載の発明によると、炭素粉末は粒状炭素粉末であるため、鱗片状の炭素粉末よりもアスペクト比が小さくなる。よって、粒状炭素粉末は、樹脂成形体をプレス成形したときであっても配向しにくい。そのため、厚さ方向におけるセパレータの電気比抵抗の大きさと面方向におけるセパレータの電気比抵抗の大きさとの差が、鱗片状の炭素粉末を用いた場合に比べて小さくなる。その結果、セパレータの電気比抵抗の等方性が維持される。ゆえに、樹脂成形体がプレスされる方向において電気比抵抗が大きくなってしまうのを防止することができる。また、炭素粉末として天然黒鉛粉と人造黒鉛粉とを混合したものを用いる場合のように、炭素粉末として2種類の黒鉛を用いなくてもよい。ゆえに、天然黒鉛粉と人造黒鉛粉とを混合する工程を省略することができる。よって、セパレータを容易に作製することができる。従って、セパレータの作り易さを維持しながら、同セパレータの厚さ方向への導電性を向上させることができる。また、粒状炭素粉末は、複数の微小結晶を凝集することによって形成されている。そのため、粒状炭素粉末を単結晶によって形成する場合に比べて、同粒状炭素粉末を容易に形成することができる。また、粒状炭素粉末内の導電性を向上させることができる。
【0013】
加えて、粒状炭素粉末の平均粒子径を前記好適範囲内にて設定することにより、粒状炭素粉末を容易に形成することができるとともに、セパレータの導電性を向上させることができる。粒状炭素粉末の平均粒子径が50μm未満であると、粒状炭素粉末の形成が困難になる。一方、粒状炭素粉末の平均粒子径が60μmを超える場合、粒状炭素粉末同士の隙間が大きくなる。
その結果、セパレータの導電性が低下してしまう。
【0014】
しかも、粒状炭素粉末のアスペクト比は2以下であることから、樹脂成形体をプレスしても粒状炭素粉末が配向しにくい。そのため、セパレータの厚さ方向への導電性が低下してしまうのを防止することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を自動車用の固体高分子型燃料電池に具体化したセパレータの一実施形態を図1〜図5に基づき詳細に説明する。
【0016】
図1,図2に示すように、この燃料電池1は、膜・電極積層体L1とセパレータ2とを備えている。
膜・電極積層体L1は、プロトン交換膜3の両側に電極4A,4Bを貼り付けた構造となっている。一方のものは水素極4Aであり、他方のものは酸素極4Bである。プロトン交換膜3は、水素イオンを通過させることができる。本実施形態では、例えばパーフルオロカーボンスルフォン酸からなる膜をプロトン交換膜3として用いている。水素極4A及び酸素極4Bは、炭素繊維等を主成分とする好通気性のマット状物であり、ここでは矩形状に加工されている。このマット状物には、白金及びパラジウムが触媒として担持されている。尚、マット状物には撥水処理のためフッ素樹脂等が添加されていてもよい。
【0017】
膜・電極積層体L1の両側には、一対のセパレータ2が配置されている。本実施形態のセパレータ2は矩形状かつ板状の充実体であって、水素極4A及び酸素極4Bよりも一回り大きく形成されている。そして、プロトン交換膜3の外縁に設けられた肉厚フランジ部3aは、両セパレータ2の内面外周部によって挟持されている。肉厚フランジ部3aとセパレータ2との間には、外部への流体漏れを防止するために、シール部材としてのゴムパッキング5が介在されている。その結果、両セパレータ2間に膜・電極積層体L1が位置ずれ不能に固定されている。
【0018】
図3に示すように、セパレータ2は、樹脂成形体15を同セパレータ2の厚さ方向(矢印A1方向)にプレス成形することによって薄板状に形成されたものである。図1〜図3に示すように、セパレータ2は導電性を有し、基材部11及び複数のリブ12を備えている。各リブ12は、基材部11の上面及び下面において同基材部11と一体に形成されている。各リブ12はそれぞれ等断面形状をなし、基材部11の外周部を除く箇所において平行に形成されている。膜・電極積層体L1をセパレータ2で挟持した場合、各リブ12の上端面は水素極4A及び酸素極4Bに対して当接するようになっている。そして、リブ12同士の間に形成される溝状の領域が、酸素ガス、水素ガス、水、水分等の流体を流通させるための流体流路13となる。
【0019】
また、図4(a)及び図4(b)に示すように、樹脂成形体15は、熱硬化性樹脂及び粒状炭素粉末21をその主成分としている。本実施形態の場合、樹脂成形体15における熱硬化性樹脂の量は、10〜30wt%であることが好ましい。また、樹脂成形体15における粒状炭素粉末21の量は、70〜90wt%であることが好ましい。このような樹脂成形体15は、一軸プレス機によるプレス成形により得ることができる。
【0020】
樹脂成形体15における熱硬化性樹脂の役割は、ガス等の流体を透過させない性質をセパレータ2に与えること、及び好適な成形性を与えることである。使用可能な熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等がある。これらのなかでも、特にフェノール樹脂を選択することが好ましい。フェノール樹脂は、成形性及び流体不透過性に優れるばかりでなく、耐酸性、耐熱性、コスト性にも優れるからである。尚、フェノール樹脂には、ノボラック系のものやレゾール系のもの等がある。ノボラック系フェノール樹脂及びレゾール系フェノール樹脂の混合物を用いても勿論構わない。
【0021】
また、樹脂成形体15における粒状炭素粉末21としては、極力、不純物含有量の少ない高純度炭素粉末を用いることが望ましい。炭素粉末を用いた理由は、カーボンは金属のように、陽イオン溶出によりプロトン交換膜3を被毒化する危険性がないからである。尚、被毒化の確実な防止を図るためには、極力、不純物濃度の低い(具体的には不純物濃度が数百ppm以下の)粒状炭素粉末21を用いることがよい。但し、セパレータ2の形成にあたって、樹脂成形体15に金、銀、白金、パラジウム等から選択される少なくとも1種類の貴金属を含有したものを用いてもよい。なぜなら、貴金属はイオン化傾向が小さいため、当該金属がプロトン交換膜3に接触したとしても、プロトン交換膜3を被毒化させる危険性がないからである。
【0022】
また、樹脂成形体15における粒状炭素粉末21の役割は、電気比抵抗を低減してセパレータ2の導電性を向上させることである。厚さ方向(矢印A1方向)における樹脂成形体15の電気比抵抗の大きさは、面方向(矢印A2方向)における樹脂成形体15の電気比抵抗の大きさの3倍以下、特には1〜3倍の範囲内であることが好ましい。尚、矢印A1方向及び矢印A2方向は互いに直交している。本実施形態において、矢印A1方向における樹脂成形体15の電気比抵抗は5〜30mΩ・cmであることが好ましい。また、矢印A2方向における樹脂成形体15の電気比抵抗は2〜10mΩ・cmであることが好ましい。ここで、粒状炭素粉末21を用いた理由は、樹脂成形体15の電気比抵抗がほぼ等方性を維持する結果、矢印A1方向における樹脂成形体15の電気比抵抗の値が小さくなるからである。つまり、図7に示される炭素粉末53のような天然黒鉛粉及び人造黒鉛粉を用いると、矢印F2方向に向けて炭素粉末53が配向してしまう。そのため、矢印F1方向における樹脂成形体52の電気比抵抗が矢印A1方向における樹脂成形体15の電気比抵抗よりも大きくなってしまうからである。
【0023】
また、粒状炭素粉末21のアスペクト比は2以下、特には1〜2の範囲内であることが好ましい。その理由は、粒状炭素粉末21のアスペクト比が大き過ぎると、粒状炭素粉末21が異方性を示すようになる。その結果、矢印A1方向における樹脂成形体15の電気比抵抗が大きくなってしまうからである。尚、本実施形態において、粒状炭素粉末21の矢印A2方向における長さは55〜75μmであることが好ましく、粒状炭素粉末21の矢印A1方向における長さは35〜45μmであることが好ましい。
【0024】
粒状炭素粉末21の平均粒子径は50〜60μm、特には54〜56μmの範囲内であることが好ましい。その理由は、平均粒子径が小さすぎると、粒状炭素粉末21の形成が困難になるからである。逆に、平均粒子径が大きすぎると、粒状炭素粉末21同士の隙間が大きくなる結果、セパレータ2の導電性が低下してしまうからである。尚、本実施形態において、粒子径とは、粒状炭素粉末21の最も長い部分及び最も短い部分の径の平均値を指し、平均粒子径とは、各粒状炭素粉末21の粒子径の平均値を指す。
【0025】
図4(b)に示すように、粒状炭素粉末21は、複数の微小結晶22を凝集させることによって形成されている。1個の粒状炭素粉末21に凝集させる微小結晶22の数は任意の範囲に設定できるが、特には50〜200個の微小結晶22を凝集させることが好ましい。また、粒状炭素粉末21に凝集させる微小結晶22の種類は任意の範囲に設定できるが、特には3〜10種類の微小結晶22を凝集させることが好ましい。各微小結晶22は塊状をなしている。また、各微小結晶22の形状はほぼ同一になっている。各微小結晶22の大きさは、1〜10μmの範囲に設定されることが好ましい。
【0026】
次に、本実施形態のセパレータ2を製造する手順を説明する。
まず、粒状炭素粉末21及び熱硬化性樹脂を所定割合(粒状炭素粉末21:熱硬化性樹脂=78wt%:22wt%)で配合し、混合物を得る。この混合物をメタノール等の溶剤を添加して適度な粘度に調整するとともに、混練機を用いてよく混練する。メタノールの代わりに、例えばアセトンや、高粘度の高級アルコール類等を溶剤として用いてもよい。得られたフレーク状混合物をミキサ等により粉砕して成形用原料とする。
【0027】
次に、得られた原料を用いて、一軸プレス機により厚さ1〜10mm程度の樹脂成形体15を矢印A1方向にプレス成形する。このとき、樹脂成形体15の上面及び下面には、複数のリブ12が一体に形成される。
【0028】
プレス工程の後、ある程度締まった樹脂成形体15をさらにキュアすべく、樹脂成形体15に対して所定温度・所定時間の加熱を行う。その結果、これまで備えていた柔軟性が失われ、樹脂成形体15が硬化する。
【0029】
このようにして製作されたセパレータ2を、膜・電極積層体L1及びゴムパッキング5とともに組み立てれば、図2等に示す所望の燃料電池1が完成する。十分大きな起電力を得るために、このような燃料電池1を数十枚から数百枚ほど積層し、「燃料電池スタック」を構成しても勿論構わない。
【0030】
次に、図5に基づいて、この燃料電池1における発電原理を説明する。
使用に際し、水素極4Aと酸素極4Bとの間には、モータ等のような負荷が外部回路として電気的に接続される。この状態で、水素極4A側のセパレータ2側に、水分とともに水素ガスを連続的に供給する。このとき、水分及び水素ガスは、リブ12間に位置する流体流路13内を一定方向に向かって流れる。同様に、酸素極4B側のセパレータ2側に、水分とともに酸素ガスを連続的に供給する。このとき、水分及び酸素ガスは、リブ12間に位置する流体流路13内を一定方向に向かって流れる。
【0031】
水素極4A側のセパレータ2を経由して供給されてきた水素ガスは、水素極4Aにおける触媒反応により水素イオンとなる。生成された水素イオンは、プロトン交換膜3を通過しながら酸素極4Bに向かって移動する。酸素極4B側に到った水素イオンは、酸素極4Bにおける触媒反応によって酸素ガスと反応し、水を生成させる。このような反応が起こる過程では、電子が外部回路を通って水素極4Aから酸素極4Bへ移動する。従って、電流は酸素極4Bから水素極4Aへ流れ、結果として起電力を得ることができる。すると、外部回路に直流電流が通電され、負荷であるモータ等が駆動される。
【0032】
【実施例及び比較例】
(サンプルの作製)
炭素粉末として、平均粒子径が55μm、アスペクト比が1.6であって不純物濃度が200ppm〜300ppmの粒状炭素粉末21を選択した。この粒状炭素粉末21を約2100℃の加熱下において、所定時間、塩素ガスで処理することにより、不純物濃度を5ppm以下に低減した。また、熱硬化性樹脂として、固体レゾール系フェノール樹脂を使用した。炭素粉末aと熱硬化性樹脂bとの配合割合は、a:b=78wt%:22wt%に設定した。
【0033】
熱処理を経た高純度の粒状炭素粉末21とフェノール樹脂とを混合した後、この混合物にメタノールを溶剤として添加した。これを混練機を用いてよく混練した後、得られた混練物を粉砕して成形用原料とした。次に、この成形用原料を一般的なホットプレス成形機によってプレス成形することにより、樹脂成形体15を形成した。その結果、得られたサンプル1を実施例のセパレータ2とした。
【0034】
一方、炭素粉末として、平均粒子径が55μm、アスペクト比が8である鱗片状の天然黒鉛粉を用いてサンプル2を作製し、これを比較例1のセパレータとした。また、炭素粉末として、平均粒子径が55μm、アスペクト比が8である鱗片状の人造黒鉛粉を用いてサンプル3を作製し、これを比較例2のセパレータとした。
(比較試験の方法及びその結果)
そして、上記3種のセパレータのサンプルから、厚さ方向及び面方向における樹脂成形体の電気比抵抗を調査して、表1に示した。その結果、比較例1では、厚さ方向における樹脂成形体の電気比抵抗Aは88mΩ・cmになった。また、面方向における樹脂成形体の電気比抵抗Bは4mΩ・cmになった。ゆえに、電気比抵抗Aは電気比抵抗Bの22倍もの大きさになった。また、比較例2では、電気比抵抗Aは60mΩ・cmになり、電気比抵抗Bは10mΩ・cmになった。ゆえに、電気比抵抗Aは電気比抵抗Bの6倍の大きさになった。それに対して、実施例では、厚さ方向における樹脂成形体15の電気比抵抗Aは15mΩ・cmであった。また、面方向における樹脂成形体15の電気比抵抗Bは6mΩ・cmであった。ゆえに、電気比抵抗Aは電気比抵抗Bの2.5倍の大きさであった。ここで、実施例及び比較例1,2において、面方向の電気比抵抗には大きな差がみられなかった。ゆえに、実施例の燃料電池1は、比較例1,2に比べて明らかに厚さ方向における樹脂成形体の導電性に優れていた。
【0035】
【表1】
従って、本実施形態によれば以下のような効果を得ることができる。
【0036】
(1)炭素粉末は粒状炭素粉末21であるため、鱗片状の炭素粉末53よりもアスペクト比が小さくなる。よって、粒状炭素粉末21は、樹脂成形体15をプレス成形したときであっても矢印A2方向に配向することはない。そのため、矢印A1方向におけるセパレータ2の電気比抵抗の大きさと矢印A2方向におけるセパレータ2の電気比抵抗の大きさとの差が、鱗片状の炭素粉末53を用いた場合に比べて小さくなる。その結果、セパレータ2の電気比抵抗の等方性が維持される。ゆえに、樹脂成形体15が矢印A1方向において電気比抵抗が大きくなってしまうのを防止することができる。即ち、矢印A1方向における樹脂成形体15の電気比抵抗は15mΩ・cmになる。
【0037】
また、炭素粉末53として天然黒鉛粉と人造黒鉛粉とを混合したものを用いる場合のように、炭素粉末53として2種類の黒鉛を用いなくてもよい。ゆえに、天然黒鉛粉と人造黒鉛粉とを混合する工程を省略することができる。また、アスペクト比の大きい鱗片状の炭素粉末53を篩い分けして粒径を調節する困難な工程を省略することができる。よって、セパレータ2を容易に作製することができる。
【0038】
従って、セパレータ2の作り易さを維持しながら、同セパレータ2の矢印A1方向への導電性を向上させることができる。ゆえに、セパレータ2の低抵抗化が図られた結果として燃料電池1全体が低抵抗化されるため、燃料電池1の発電効率を向上させることができる。従って、このような燃料電池1を数十枚から数百枚ほど積層して「燃料電池スタック」を構成すれば、モータ等の負荷を作動させる電力を大きくすることができる。
【0039】
(2)粒状炭素粉末21は、複数の微小結晶22を凝集することによって形成されている。例えば、この粒状炭素粉末21を単結晶によって形成した場合、結晶がどうしても平面状になってしまうため、粒状炭素粉末21を好みの形状にするのが困難である。ゆえに、粒状炭素粉末21のアスペクト比を好みの値に設定できなくなる。そのため、粒状炭素粉末21を単結晶によって形成する場合に比べて、同粒状炭素粉末21を容易に形成することができる。また、粒状炭素粉末21には複数の微小結晶22が詰まっている。そのため、粒状炭素粉末21の電気抵抗の大きさは、同粒状炭素粉末21が単結晶で形成された場合の電気抵抗の大きさとほぼ同一になる。よって、粒状炭素粉末21内の導電性を向上させることができる。
【0040】
(3)粒状炭素粉末21の平均粒子径が50〜60μmの範囲内にて設定されている。それにより、粒状炭素粉末21を容易に形成することができるとともに、また、粒状炭素粉末21同士の隙間が大きくなり過ぎないため、セパレータ2内において、粒状炭素粉末21同士の接触部分が増加する。よって、セパレータ2の導電性を向上させることができる。
【0041】
(4)粒状炭素粉末21のアスペクト比は2以下であることから、樹脂成形体15をプレスしても粒状炭素粉末21が矢印A2方向に配向しにくい。そのため、セパレータ2の矢印A2方向への導電性に比べて、セパレータ2の矢印A1方向への導電性が低下してしまうのを防止することができる。
【0042】
(5)矢印A1方向における樹脂成形体15の電気比抵抗の大きさは、矢印A2方向における樹脂成形体15の電気比抵抗の大きさの3倍以内である。よって、粒状炭素粉末21がほぼ等方性に維持されるため、矢印A1方向における樹脂成形体15の電気比抵抗を小さくすることができる。
【0043】
尚、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
・微小結晶22を略球形状、略板状等の形状に変更してもよい。
・セパレータ2の形状は、前記実施形態のような矩形状に限定されるものではなく、円形状、三角形状等の他の形状であってもよい。
【0051】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1に記載の発明によれば、セパレータの作り易さを維持しながら、同セパレータの厚さ方向への導電性を向上させることができる。また、粒状炭素粉末を単結晶によって形成する場合に比べて、同粒状炭素粉末を容易に形成することができる。さらに、粒状炭素粉末内の導電性を向上させることができる。
【0052】
加えて、粒状炭素粉末を容易に形成することができるとともに、セパレータの導電性を向上させることができる。
しかも、セパレータの厚さ方向への導電性が低下してしまうのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明を具体化した固体高分子型燃料電池の分解斜視図。
【図2】 燃料電池の概略断面図。
【図3】 セパレータの概略断面図。
【図4】 (a)は、樹脂成形体の組織を示す概略図、(b)は、粒状炭素粉末を示す概略図。
【図5】 燃料電池の原理説明図。
【図6】 従来技術におけるセパレータの概略断面図。
【図7】 従来技術における樹脂成形体の組織を示す概略図。
【符号の説明】
1…固体高分子型燃料電池、2…セパレータ、15…樹脂成形体、21…炭素粉末としての粒状炭素粉末、22…微小結晶。
Claims (1)
- 熱硬化性樹脂及び炭素粉末を成分とする樹脂成形体からなり、プレス成形によって形成される固体高分子型燃料電池のセパレータにおいて、
前記炭素粉末は、大きさが1〜10μmである微小結晶を用い、50〜200個の前記微小結晶が凝集して熱処理を経た粒状炭素粉末であり、
前記粒状炭素粉末の平均粒子径は50〜60μmであり、
前記粒状炭素粉末のアスペクト比は2以下であることを特徴とする固体高分子型燃料電池のセパレータ。
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