JP5002866B2 - 圧電セラミック振動子の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はセラミックフィルタやセラミック発振子などに用いられる厚み縦振動の第3高調波を利用したチタン酸鉛系圧電セラミック振動子の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、厚み縦振動の3倍波(第3高調波)を利用したセラミック共振子の圧電材料としては、PbTiO3 系の材料が多く使われている。通常、焼結性を高めるため、Qを高くするためなどの理由により、PbTiO3 を主成分とし、PbのSr,La置換、Mn,Crなどの金属酸化物の添加を行った形で、セラミック発振子やセラミックフィルタなどの材料として使われる。
【0003】
このようなチタン酸鉛系の圧電セラミックは、厚み縦振動の基本波をエネルギー閉じ込めできないが、第3高調波であればエネルギー閉じ込めができるという性質がある。この第3高調波を利用することによって、シャープな共振特性を得ることができる。
【0004】
そこで、厚み縦振動の第3高調波を利用したチタン酸鉛系圧電セラミックよりなるセラミック発振子やセラミックフィルタが提供されている。これら素子に対して要求される重要な特性の1つに、共振周波数または中心周波数の温度特性がある。一般的には、この温度特性は30ppm/℃以下が必要であり、できるだけ±0ppm/℃に近いものがよい。
【0005】
圧電セラミック材料の周波数温度特性を改善するため、従来では材料組成比を調整していた。しかしながら、材料組成を変化させた場合、温度特性のほかに、共振抵抗、Q、電気機械結合係数Kなどの他の特性も変化してしまう。そのため、温度特性を向上させた上で、他の特性も規定範囲内に収めるには、多大の労力が必要であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、分極条件(分極時間,分極電圧,分極温度)を選択することによって、厚み縦振動の第3高調波を利用したチタン酸鉛系圧電セラミックの周波数温度特性を制御する方法が、特開昭58−182884号公報で提供されている。
しかしながら、上記のように分極条件を変化させただけでは、必ずしも所望の温度特性が得られない場合があった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、温度特性に優れ、かつ共振特性にも優れた圧電セラミック振動子の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明は、分極条件ではなく、エージング温度に着目した。エージングは、分極後の圧電セラミックを所定温度雰囲気に放置し、分極度を強制的に劣化させることにより、熱的および経時的に安定な圧電体を得るための処理である。そのため、エージング温度は、後工程(例えばリフローはんだ付け)での温度に対応した温度に設定されていた。通常は、160℃以下である。
本発明者は、エージング温度を所定温度以上に高くすると、結晶の分極軸への配向度が低くなり、周波数温度係数が単調減少することを発見した。結晶の分極軸への配向度は、例えば圧電セラミックの〔002〕結晶格子面のX線強度と〔200〕結晶格子面のX線強度との比によって求めることができる。〔002〕結晶格子面とは、c軸が分極方向を向いている面であり、〔200〕結晶格子面とは、a軸が分極方向を向いている面である。X線強度は、分極,エージング後、常温に戻して測定した時の強度であり、X線回析法によって測定できる。
そこで、この特性を利用して、エージング温度を、結晶の分極軸への配向度が低下し始める温度以上にすることにより、周波数温度係数を低く制御できるようになった。
そこで、本発明では、エージング温度を決定するために、圧電セラミックの[002]結晶格子面のX線強度と[200]結晶格子面のX線強度との比によって求められる圧電セラミックの結晶の分極軸への配向度の温度変化を測定する第1のステップと、上記厚み縦振動の第3高調波の反共振周波数faと共振周波数frとの差Δfの温度変化を測定する第2のステップと、エージング温度を上記第1のステップから求められた上記配向度が低下し始める温度以上で、かつ上記第2のステップから求められた上記Δfが減少し始める温度以下である所定温度に設定する第3のステップと、を実施するものである。
【0009】
本発明では、エージング温度を、厚み縦振動の第3高調波の反共振周波数faと共振周波数frとの差トfが減少し始める温度以下としている。
エージング温度を結晶の分極軸への配向度が低下し始める温度以上に高くすると、周波数温度係数が単調減少するが、圧電セラミックの厚み縦振動のトfはある温度までは略一定値を保持する。しかし、エージング温度をさらに高くすると、厚み縦振動のトfも低下し始め、共振特性の劣化(位相,Qの低下、共振抵抗の増大)につながる。
そこで、エージング温度をトfが減少し始める温度以下とすることで、共振特性の劣化を招かずに、温度特性を向上させることができる。
【0010】
本発明では、エージング温度を160℃〜250℃とするのが望ましい。
本発明者の実験によると、チタン酸鉛系の圧電セラミックの場合、エージング温度を160℃〜250℃とすると、厚み縦振動(第3高調波)の共振周波数frの温度係数を18〜14ppm/℃にすることができ、しかもトfを低下させずに済み、良好な周波数温度特性と共振特性(位相,Q,共振抵抗)とを実現できた。
【0011】
【発明の実施の形態】
次に、本発明にかかる温度特性制御方法の一例を、図1〜図3を参照して説明する。
ここで使用する圧電セラミックは、PbTiO3 +MnO2 系の圧電セラミックである。この圧電セラミックを図1の(a)に示すように板状ユニット1に成形,焼成し、その表裏面に電極1a,1bを形成した後、60℃の絶縁オイル2中で8kV/mmの直流電界を印加して分極処理を行った。
次に、図1の(b)のように、ユニット1を恒温槽3内に収容し、20分間エージングを行った。エージング温度は、160℃〜250℃とした。
その後、図1の(c)のように、圧電セラミックユニット1をエレメント状にカットし、このエレメント4の表裏面に電極4a,4b(但し、4bは図示せず)を形成した。
【0012】
図2は、種々のエージング温度で処理したエレメント4について、結晶の分極軸への配向度(X線強度比〔002〕/〔200〕)、共振周波数frの温度係数、反共振周波数faの温度係数を求めたものである。上記共振周波数frおよび反共振周波数faは、厚み縦振動の第3高調波を利用したものである。
図2から明らかなように、エージング温度を上昇させると、配向度が低下するとともに、共振周波数frの温度係数、反共振周波数faの温度係数が単調減少していることがわかる。つまり、配向度と周波数fr,faの温度係数との間には相関関係があり、エージング温度が上昇するにつれて周波数温度特性が向上している。
なお、エージング温度を300℃以下としたのは、300℃が圧電セラミックのキュリー温度であるからである。
【0013】
図3は、ユニット1について、エージング温度と、配向度(〔002〕/〔200〕)、厚み縦振動のΔf(=fa−fr)との関係を求めたものである。なお、Δfは常温戻し時のΔfである。
図3から明らかなように、エージング温度が160℃を越えると、結晶の分極軸への配向度がエージング温度の上昇につれて単調減少しているのに対し、Δfは250℃までは殆ど変化せず、250℃を越えると低下し始めることがわかる。
Δfと結合係数Kとの間には、
K∝√(Δf/fr)
の関係があるので、Δfが低下するということは、結合係数Kの低下を意味し、共振特性の劣化(位相特性の劣化、Qの低下、共振抵抗の増加)をきたす。
【0014】
そこで、エージング温度を160℃〜250℃とすることで、周波数温度特性が良好で、かつ共振特性の劣化もない圧電セラミックを得ることができる。
特に、エージング温度を200℃〜250℃とすれば、Δfが低下しない範囲で、周波数温度係数が非常に低くなり(frの温度係数=15〜14ppm/℃、faの温度係数=13〜12ppm/℃)、最も良好な特性を有する。一般に、セラミックフィルタとして要求される温度係数は30ppm/℃以下であるから、十分に良好な特性を有することがわかる。
なお、Δfが多少低下しても、温度特性を重視する場合には、エージング温度を250℃〜300℃の範囲としてもよい。その場合には、共振周波数frの温度係数を14〜9ppm/℃程度まで小さくできる。
【0015】
一般に、分極温度を高くすると、それだけ温度係数が小さくなることが知られている。しかし、オイル分極の場合には、オイルの特性上、分極温度は100℃が限界であり、高温に対応するのが難しい。また、分極温度より低い温度でエージングを行っても、エージング効果がない。一方、エージングは恒温槽の中に入れるだけであるから、かなりの高温でも設備上問題がない。そこで、エージング温度を分極温度より高くし、かつ高温(配向度が低下し始める温度以上で、かつキュリー温度以下)でエージングを行うことで、温度係数の小さな圧電セラミックを簡単に得ることができる。
【0016】
上記実施例では、分極条件として、60℃の絶縁オイル中で8kV/mmの直流電界を印加したが、これは一例であり、分極条件を変更してもよい。また、液中分極に限るものではなく、気中分極でもよい。
なお、本発明で使用される圧電セラミックは、PbTiO3 +MnO2 系の圧電セラミックに限らない。PbTiO3 を主成分とし、PbのSr,La置換、Crなどの金属酸化物の添加を行った圧電セラミックであってもよい。
【0017】
【発明の効果】
以上の説明で明らかなように、請求項1に記載の発明によれば、厚み縦振動の第3高調波を利用したチタン酸鉛系の圧電セラミックにおいて、分極された圧電セラミックをエージングする温度を、結晶の分極軸への配向度が低下し始める温度以上で、かつキュリー温度以下とすることにより、温度特性の良好な圧電セラミックを得ることができる。
また、エージング温度の設定を変更するだけであるから、特別な装置が不要であり、材料調整による温度特性の変更に比べて制御が簡単である。つまり、圧電セラミックとして既存の材料を使用しながら、温度係数を自在に変えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】圧電セラミックの分極〜エージング〜素子製作までの工程を示す図である。
【図2】圧電セラミックのエージング温度とX線強度比および周波数温度係数との関係を示す図である。
【図3】圧電セラミックのエージング温度とΔfおよびX線強度比の減少率との関係を示す図である。
【符号の説明】
1 圧電セラミック(ユニット)
3 恒温槽(エージング)
4 圧電セラミック(エレメント)
Claims (1)
- チタン酸鉛系の圧電セラミックを使用し、厚み縦振動の第3高調波を利用した圧電セラミック振動子の製造方法において、
上記圧電セラミックを分極した後、この圧電セラミックを所定温度でエージングする工程を含み、
上記エージング工程におけるエージング温度を決定するために、
上記圧電セラミックの[002]結晶格子面のX線強度と[200]結晶格子面のX線強度との比によって求められる圧電セラミックの結晶の分極軸への配向度の温度変化を測定する第1のステップと、上記厚み縦振動の第3高調波の反共振周波数faと共振周波数frとの差Δfの温度変化を測定する第2のステップと、上記エージング温度を上記第1のステップから求められた上記配向度が低下し始める温度以上で、かつ上記第2のステップから求められた上記Δfが減少し始める温度以下である所定温度に決定する第3のステップと、を実施することを特徴とする圧電セラミック振動子の製造方法。
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