近年、画像形成装置は、高精細、高品位及び高画質の他に、さらなる高速、長期にわたる高信頼性が求められている。高解像、高精細の現像方式を達成するためにトナーの小粒径化、粒度分布のシャープ化が進んでいる。しかし、単にトナーを小粒径化すると、結着樹脂への他の内添剤の分散性がトナー性能に影響を及ぼし易くなる。
特に、画像形成装置の小型化にとって有利な一成分現像方式に用いられる磁性トナー粒子を有する磁性トナーの場合には、磁性トナー粒子中に含有される磁性体粒子の分散状態が、現像特性及び耐久性の如き磁性トナーに要求される種々の特性に影響を及ぼすことがある。
磁性トナー粒子中の磁性体粒子の分散が不十分であると、磁性トナー粒子表面に露出する磁性体粒子の総量が、個々の磁性トナー粒子ごとに大きく異なる。磁性トナー粒子の表面に磁性体粒子が少ない場合、帯電付与部材(現像スリーブ)と摩擦帯電する際、磁性トナー粒子の表面の帯電は高くなり、チャージアップしてしまうことがある。
逆に、磁性トナー粒子の表面に磁性体粒子が過剰に存在する場合、電荷がリークしやすく、高帯電量が得られにくくなるだけでなく、この磁性体粒子と結着樹脂との接触で逆極性トナーが発生しやすくなり、帯電分布の幅が拡大し、画質劣化の原因となることがある。
一方で、オゾンを発生するコロナ帯電器を使用せずに、接触帯電部材で感光体を帯電させる接触帯電方式を採用することが多くなっている。磁性体粒子が磁性トナー粒子に均一に分散されていないと、磁性体粒子が表面に過剰に存在する磁性トナーが、接触帯電部材と感光体表面の当接部で機械的圧力や電気的な圧迫をうけて、両部材の表面へ強くこすりつけられ、感光体に傷がつきやすく、画像欠陥の原因となることがある。逆に、磁性体粒子が表面に少なく、表面の粘弾性が見かけ上増加している磁性トナーが、接触帯電部材と感光体の両部材にこすりつけられると、感光体にトナーが融着しやすく、フィルミングの如き感光体の汚染が発生しやすい。
磁性トナーの流動性を向上させるため、磁性トナー粒子に外添剤を添加することは一般的である。しかしながら、長時間にわたるプリント工程の繰り返しにより磁性トナーが劣化すると、外添剤が磁性トナー粒子に埋め込まれ、磁性トナー粒子の表面に露出する磁性体粒子の影響が大きくなってくるため、上述のような問題が顕在化しやすい。
また、上述のような磁性体粒子の分散不良による帯電分布の幅の拡大は、ある範囲の帯電量分布を有するトナーが優先的に消費される、いわゆる選択現像が起こりやすくなると同時に、選択現像が進むことにより、さまざまな問題をさらに助長させやすくなる。
例えば、磁性トナーの帯電特性が環境の影響を受けやすくなるだけでなく、磁性トナーの流動性が低下し、現像スリーブへのトナーの供給不足、現像スリーブ上のトナー層の帯電ムラが生じることにより、非画像部がトナーによって現像される「カブリ」を生じやすくなったり、高温高湿環境においては、画像濃度が帯状に薄くなる「フェーディング」という現象が発生しやすくなる。
さらに、感光体上から転写材にトナーを転写する際、過剰帯電したトナーが存在すると、「飛び散り」といった文字やライン画像の周囲にトナーが飛散する現象が生じる。この飛び散りを抑制するためにトナーの帯電を十分に行わないと、帯電不足なトナーが生じるため、現像性の低下やカブリが発生してしまうことがある。このカブリを減らす目的で、トナーの粒度分布の更なるシャープ化も試みられているが、トナー製造上における収率の低下等によるコストアップの要因となってしまうことがある。
特に、近年の高速化、長寿命化への対応として、プロセススピードを上げたり、現像器内へのトナーの充填量を増加させた大容量プロセスカートリッジを使用することによって、上述の問題がより顕著になりやすく、早急な改善が望まれていた。
磁性トナー粒子中に磁性体粒子を均一に分散させるために、磁性体粒子の粒子径を小さくすること、および粒度分布を狭くすることが、特許文献1及び特許文献2にて開示されている。確かに、これらの処置は磁性トナー粒子中の磁性体粒子の分散を均一化しやすいが、高画質化を達成するために、磁性トナーを小粒径化した場合は、カブリが悪化してしまう。よって、磁性トナー粒子中の磁性体粒子の分散性に改良の余地があった。
また、磁性体粒子を微粒子化することにより、黒色度の低下という問題も生じる。従来から、磁性体粒子の黒色度は、FeO(或いはFe2+)の含有量に依存することが知られている。しかし、磁性体粒子中のFeO(或いはFe2+)の含有量は、製造後の酸化による経時劣化が進むにつれて低下し、その結果、黒色度が低下する。この経時劣化は、磁性体粒子のおかれる環境により大きく依存することは言うまでもないが、磁性体粒子を微粒子化することによっても促進される。
微粒子化された磁性体粒子は、経時変化しやすくなるだけではなく、熱の影響も受けやすくなる。磁性トナーの製造工程において、磁性体粒子を磁性トナー粒子中に均一に分散させるためには溶融混練温度を高温に設定して、溶融して軟らかくなった状態の結着樹脂と混練することが好ましい。特にTHF不溶分のような、硬い成分を含む結着樹脂を用いる場合には、結着樹脂を高温で軟らかくして混練することで磁性体粒子を均一に分散させることが好ましい。そのため、黒色度の高い磁性体粒子でも、その磁性体粒子の粒径と、トナー製造時の溶融混練温度とによっては、磁性体粒子が酸化されてしまい、最終的に赤味がかって見えるトナーとなる場合があった。
一般に、低温定着性の優れたトナーを得るという観点からは、結着樹脂として、スチレン系の樹脂よりもポリエステル樹脂を用いることが好ましい。しかし、ポリエステル樹脂は分子構造に酸性を示す官能基を多く有するために、ポリエステル樹脂中に存在する磁性体粒子は混練時に酸性環境に置かれることになり、磁性体粒子の酸化が特に進行しやすい。
これらの問題を解決すべく、磁性トナー粒子に含有される磁性体粒子に、各種元素を添加する提案が従来から多くなされている。
特許文献3及び4には、Si、Al及びTiからなる群より選ばれる元素を含む被覆層で被覆された磁性体粒子が記載されている。
しかし、これらの磁性トナー粒子中への均一分散を目的とした磁性体粒子は、黒色度の低下防止や耐熱性の向上が不十分である。高温で混練すると酸化してしまったり、添加元素によっては、磁性体粒子の磁気特性に影響を与えるだけでなく、酸価の比較的高い樹脂と併用した場合は特に、磁性体粒子から元素が溶出しやすくなるなど、黒色度以外の現像
に関わる欠陥を生じさせる場合があった。
また、Feに対して、1.7〜4.5原子%のケイ素を含み、かつMn、Zn、Ni、Cu、Al及びTiからなる群より選ばれる一種又は二種以上の金属元素をFeに対して0〜10原子%含む磁性体粒子が知られている(例えば、特許文献5及び6参照。)。この磁性体粒子によれば、磁性トナーの磁気特性及び帯電特性が改良されるが、単に上記金属を添加するだけでは、高速現像システムにおける現像性と画質の両立等の点については改善の余地が残されている。
また、磁性体粒子の中心から表面へ連続的にケイ素成分を含有し、磁性体粒子表面にケイ素成分が露出し、かつケイ素成分と結合したZn、Mn、Cu、Ni、Co、Cr、Cd、Al、Sn、Mg及びTiからなる群から選ばれる少なくとも一種以上の金属成分からなる金属化合物によって粒子の外殻が被覆された磁性体粒子が知られている(例えば、特許文献7参照)。しかしながらこのような磁性体粒子の使用では、耐久初期においては良好な現像性を示すものの、特に高速現像システムにおいて、長期の使用に伴うカブリの悪化等による画質や現像性の低下を改善するには至っておらず、さらに改良すべき点を有している。
さらに、粒子の中心から表面へ連続的にケイ素成分とアルミニウム成分を含有し、粒子表面にそれら成分が露出し、かつケイ素成分及びアルミニウム成分と結合したZn、Mn、Cu、Ni、Co、Cr、Cd、Al、Sn、Mg及びTiからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の金属成分からなる金属化合物によって粒子の外殻が被覆された磁性体粒子が知られている(例えば、特許文献8参照)。しかしながら、この磁性体粒子の使用では、未だ十分な帯電安定性を磁性トナーに付与するまでには至っていない。
特許文献9には、Fe、Al、Ti、Zr及びSiからなる群より選ばれる元素を含む酸化物を表面に有する磁性体粒子が記載されており、特許文献10には、Zn、Mn、Cu、Ni、Co、Mg、Cd、Al、Cr、V、Mo、Ti、及びSnからなる群より選ばれる元素を有する磁性体粒子が記載されており、特許文献11には、Si、Al、Ti、Zr、Mn、Mg及びZnからなる群より選ばれる元素を表面に有する磁性体粒子が記載されている。
さらに、特許文献12には、球状粒子内部に0.10〜1.00質量%のケイ素元素を含有し、かつ、球状粒子表面にシリカとアルミナの共沈物が存在しており、更に前記共沈物上にFe、Ti、Zr、Si及びAlからなる群より選ばれた元素の非磁性酸化物微粒子粉末又は非磁性含水酸化物微粒子粉末の少なくとも1種が0.1〜10重量%固着されている磁性体粒子が開示されている。
特許文献13には、Feに対して0.9原子%以上1.7原子%未満のケイ素を含み、粒子表面にMn、Zn、Ti、Zr、Si及びAlからなる群より選ばれる1種又は二種以上の元素の酸化物、水酸化物、含水酸化物又はこれらの混合物のいずれかからなる被着層を有する、六面体形状の磁性体粒子が開示されている。
また、特許文献14には、等電点が5〜6.5である磁性体粒子、また特許文献15には、等電点が5〜9である磁性体粒子を使用したトナーがそれぞれ開示されている。
さらに、特許文献16には、吸着水分量と平均円形度を規定したトナーが開示されている。
また、粒子の内部もしくは表面にチタン化合物が存在する磁性体の例として、特許文献17〜20が挙げられる。
上記した磁性体粒子を含有するトナーは、それぞれ良好な現像性を示している。しかしながら、いずれもプロセススピードが速く、大容量カートリッジを使用した高速現像システムに適用した場合には、更なる現像性や耐久性の改良が望まれる場合が多い。さらには元素の添加量が多すぎる場合や、磁性体粒子表面の平滑性が失われることにより、吸着水分量が大きくなりすぎた場合には、感光体を傷つけたり、フィルミングを発生させたり、カブリやフェーディング、画像の飛び散りといった磁性トナーの流動性、帯電性に起因する諸問題を発生させる。さらに、トナー粒子の製造過程における耐酸化性や、ポリエステル樹脂等の酸価の比較的高い樹脂との混合についてはまだ改良の余地があった。
また、添加元素の種類や添加量によっては、磁性体粒子の吸着水分量が大きくなりすぎたり、または吸着された水分が脱離しにくくなり、特に高温高湿環境下に放置した後の帯電性が著しく低下してしまう等の問題が生じやすかった。
このように、プロセススピードが速く、大容量カートリッジを使用した高速現像システムに適用した場合にも、耐久安定性と現像性に優れ、同時に黒色度の高い磁性トナーを得るためには、さらなる検討の余地が残されている。
特開平3−101743号公報
特開平3−101744号公報
特開平8−133744号公報
特開平8−133745号公報
特開平9−59024号公報
特開平9−59025号公報
特開平11−157843号公報
特開平11−189420号公報
特開平7−239571号公報
特開平7−267646号公報
特開平10−72218号公報
特開平7−240306号公報
特開平10−171157号公報
特開2003−195560号公報
特開2004−139071号公報
特開2004−78055号公報
特開平8−34617号公報
特開平3−2276号公報
特開2003−192352号公報
特開2003−162089号公報
本発明の磁性トナーは、少なくとも結着樹脂と磁性体粒子とを含有する。
本発明者らは、ある特定の水分の吸着及び脱着の挙動を示す磁性体粒子を用いることにより、本発明の目的を達成することができることを見出した。
ある特定の水分の吸着及び脱着の挙動を示す磁性体粒子とは、具体的には、以下の二点を満たす磁性体粒子を含む。
(1) 温度28℃、かつ相対水蒸気圧50%における磁性体粒子への吸着水分質量が、磁性体粒子質量に対して、0.25〜0.80質量%であること。
(2) 一定温度で相対水蒸気圧を増加させる吸着過程における磁性体粒子への吸着水分質量と、同じ一定温度で相対水蒸気圧を減少させる脱離過程における磁性体粒子への吸着水分質量との、任意の相対水蒸気圧における質量差が、磁性体粒子質量に対して0.10質量%以下であること。ここで「一定温度」とは、28℃であることが好ましく、「任意の相対水蒸気圧」とは、5%〜90%の範囲にあることが好ましい。すなわち、相対蒸気圧5〜90%における前記質量差の最大値が、磁性体粒子質量に対して0.10質量%以下であることが好ましい。
「吸着過程における磁性体粒子への吸着水分質量」と「脱着過程における磁性体粒子への吸着水分質量」との差の値が大きいほど、該磁性体粒子の表面が、一旦吸着した水を脱着しにくい性状、もしくは構造を有することを意味する。
すなわち、(1)相対水蒸気圧50%における磁性体粒子への吸着水分質量の、磁性体粒子質量に対する比率が、0.25〜0.80質量%であって、かつ(2)「吸着過程における磁性体粒子への吸着水分質量」と「脱離過程における磁性体粒子への吸着水分質量」との質量差の、磁性体粒子質量に対する比率が、0.10質量%以下であるということは、磁性体粒子の表面が、吸脱着の自由度の高い水分を適当量保持することができることを示す。
前記(1)および(2)の条件を満たす磁性体粒子を含有する磁性トナーは、非常に良好な環境安定性を有する。すなわち、プロセススピードを上げたり、現像器内へのトナーの充填量を増加させた大容量プロセスカートリッジを使用した場合においても、帯電性の
低下が少なく、選択現像を抑制することが可能になる。
相対水蒸気圧50%における磁性体粒子への吸着水分質量の、磁性体粒子質量に対する比率(以下、比率Aともいう)が、0.25質量%未満の磁性体粒子を含む磁性トナーは、特に低湿環境下における長期耐久後に、カブリや飛び散りが生じやすく、画質劣化の原因となることがある。
一方、a)比率Aが0.80質量%を超える磁性体粒子、またはb)比率Aが0.25質量%〜0.80質量%であっても、「吸着過程における磁性体粒子への吸着水分質量」と「脱離過程における磁性体粒子への吸着水分質量」との差の、磁性体粒子質量に対する比率(以下、比率ΔAともいう)が、0.10質量%を超えてしまう磁性体粒子を含有する磁性トナーは、特に高湿下での帯電特性が悪化しやすく、帯電の立ち上がりが遅く、耐久初期に濃度が出ない等の問題を生じやすい。
相対水蒸気圧50%における磁性体粒子への吸着水分質量は、例えば磁性体粒子の平均粒径やチタン化合物の含有量を調整することによって制御され得る。
また磁性体粒子への、「吸着過程における吸着水分質量」と「脱離過程における吸着水分質量」との差は、例えばチタン化合物の含有量やチタン化合物を含有させる際の懸濁水溶液のpHを調整することによって制御され得る。
本発明における磁性体粒子への吸着水分質量は、対象とする気体(本発明の場合は水蒸気)のみが存在する条件下で固体−気体平衡に到達させ、このときの固体質量と蒸気圧を測定する装置によって求めることができる。このような装置の例には、吸着平衡測定装置(EAM−02;JTトーシ株式会社製)が含まれる。後述する実施例では、この装置によって磁性体粒子の吸着水分質量を求めた。
本発明の磁性体粒子への吸着水分質量は、吸・脱着等温線から求められる。吸着・脱着等温線は、以下に示すa)乾物質量の測定、b)水中の溶存空気の脱気、c)吸着平衡圧の測定、d)各相対蒸気圧における吸着量の測定などを全て自動的に行うことによって得られる。測定の概略は、JTトーシ株式会社発行の操作マニュアルに記載されているが、以下の通りである。
まず、吸着管内の試料容器にトナーを約5g充てんした後、恒温槽温度、試料部温度を28℃に設定する。その後、V1(主バルブ)、V2(排気バルブ)を開いて真空排気部を作動させ、試料容器内を0.01mmHg程度に減圧することにより、試料を乾燥させる。試料の重量が変化しなくなった時点の質量を「乾物質量」とする。
溶媒液(本発明においては水)中には空気が溶解しているため、脱気を行う。まず、溶媒液(以下、水と称する)を液だめに入れ、V1及びV3を閉じ、V2を開いた状態で真空排気部を作動させ、V2を閉じると共にV3を開き、V2〜V3間に空気を導入し、その後、V3を閉じ、続いてV2を開き、脱気したのち、V2を閉じる。このようにV2及びV3の開閉を交互に行う操作を数回繰り返し、水中に気泡が見られなくなった時点で脱気完了とする。
乾物質量の測定、水の脱気に続いて、試料容器内を真空下に保持したままV1(主バルブ)、V2(排気バルブ)を閉じ、V3(液だめバルブ)を開くことによって、液だめから水蒸気をV1〜V3間に導入し、V3(液だめバルブ)を閉める。
ついで、V1(主バルブ)を開くことによって、水蒸気を試料容器内に導入し、その圧力を圧力センサーにより測定する。試料容器内の圧力が設定圧力に達しない場合は、上記
操作を繰り返すことにより試料容器内の圧力を設定圧力にする。平衡に達すると、試料容器内の圧力と質量が一定になるので、そのときの圧力と温度、及び試料質量を平衡データとして測定する。
さらに、水蒸気の圧力を変更することにより、吸・脱着等温線を得ることができる。実際の測定においては、あらかじめ吸着水分質量を測定する相対水蒸気圧を設定しておく。設定圧を、たとえば5%、30%、60%、80%、90%とした場合、「吸着過程」とは、5%から相対水蒸気圧をあげて、各設定圧における吸着水分質量を測定して等温線(吸着等温線)を作成していく過程であり、「脱離過程」とは、吸着過程に引き続いて行われ、吸着過程とは逆に90%から相対水蒸気圧を下げて、各設定圧における吸着水分質量を測定して等温線(脱着等温線)を作成していく過程を意味する。
通常の磁性トナーの吸・脱着等温線は、吸着過程の「吸着等温線」よりも、それに続く脱離過程の「脱着等温線」が、吸着水分質量が多い側へシフトしたようなループとなる、「ヒステリシス」を示すことがある。
本発明の磁性トナーは、その吸・脱着等温線の「吸着等温線」と「脱着等温線」の差異が小さいことを特徴とする。具体的には、任意の相対水蒸気圧における、「吸着等温線」が示す吸着水分質量と、「脱着等温線」が示す吸着水分質量との質量差が、磁性体粒子質量に対して0.10質量%以下であることを特徴とする。ここで、任意の相対水蒸気圧とは、5%〜90%の範囲にあることが好ましい。すなわち、相対水蒸気圧5%〜90%における前記質量差の最大値が、磁性体粒子質量に対して0.10質量%以下であることが好ましい。
本装置では、圧力を相対水蒸気圧(%)で設定し、吸着量(%)と相対水蒸気圧(%)の吸着・脱着等温線を表示する。吸着量と相対水蒸気圧の計算式を以下に示す。
[数1]
M=(Wk−Wc)/Wc×100 (11)
Pk=Q/Q0×100 (12)
式(11)におけるMは吸着量(%)、Wk(mg)は試料質量、Wc(mg)は試料の乾物質量を示す。
式(12)におけるPkは相対水蒸気圧(%)、Q0(mmHg)は吸着・脱着平衡時の温度Tk(℃)からAntoineの式により求められる飽和水蒸気圧、Q(mmHg)は平衡データとして測定した圧力(平衡水蒸気圧)、をそれぞれ示す。
さらに本発明における前記磁性体粒子の等電点は、pH4.1〜8.0の範囲にあることが好ましく、pH4.5〜6.5の範囲にあることがより好ましい。なお、本発明における磁性体粒子の等電点とは、磁性体粒子を水中に分散させたときに測定されるゼータ電位がゼロになるときの水素イオン濃度である。
等電点がpH4.1未満の磁性体粒子は、磁性体粒子表面の吸着水分の吸脱着挙動を、本発明の目的を達成する上で好ましく制御できないことがある。
等電点がpHで8.0より大きい磁性体粒子は、吸着水分の吸着及び脱着の挙動を本発明の目的を達成する上で好ましく制御できないことがあるだけでなく、流動性が低下するために、磁性トナー中への分散性が悪化したり、耐熱性が低下する場合がある。また、プロセススピードを上げた場合や、接触帯電方式を採用した場合においては、感光体傷やフィルミングを発生させやすい。
磁性体粒子の等電点は、例えば磁性体物質の種類や、磁性体粒子に配合される非磁性材料の種類及び配合量、磁性体粒子を被覆する材料の種類及び被覆量や被覆状態の制御によって調整され得る。
磁性体粒子の等電点は、以下の方法により測定され得る。
まず、磁性体粒子を25℃のイオン交換水に溶解あるいは分散させ、試料濃度を1.8vol%に調整する。超音波方式ゼータ電位測定装置DT−1200(Dispersion Technology社製)を使用して、1N HClで滴定し、ゼータ電位を測定する。ゼータ電位が0mVのときのpHを等電点とする。
さらに本発明における磁性体粒子はチタン化合物を含有し、そのチタン化合物のTiO2に換算した質量が、磁性体粒子質量に対して、0.1質量%〜10.0質量%であり、0.5質量%〜9.0質量%であることがより好ましい。
本発明者らは、鋭意検討の結果、a)チタン化合物を上記の範囲で含有し、b)粒子表面の水分が上述のような吸・脱着現象を起こし、かつc)上記範囲の等電点を有するように制御された磁性体粒子は、チタン化合物を磁性体粒子表面に優先的に存在させることを見出した。そしてこのような磁性体粒子が、本発明の目的とする効果を最大限に発揮しうることを見出した。
すなわち、磁性体粒子が、チタン化合物を表面近傍に優先的に有しているので、チタン化合物以外の磁性体粒子の成分(例えば硬度の高い酸化鉄)は磁性体粒子の表面近傍に存在しにくくなる。したがって、長時間にわたる接触帯電方式のプリント工程を繰り返すことにより磁性トナーが劣化した場合でも、磁性トナーの表面に露出している磁性体粒子の、チタン化合物以外の成分が直接感光体に接触する機会が減少し、その結果、感光体は傷つけられにくくなる。
また、チタン化合物を含有する磁性体粒子は流動性に優れ、磁性体粒子同士の凝集性が低いため、トナー粒子中への分散性が優れる。そのため、磁性トナーの表面に露出している適度な量の磁性体粒子が、磁性トナーの感光体へのフィルミングや、高湿環境下でのフェーディングの発生を抑制することができる。
さらに、このようにチタン化合物を表面近傍に優先的に適当量存在させることによって、磁性体粒子本来の磁気特性や帯電性を損なうことなく、耐熱性、耐酸化性を向上させることができる。そのため、このような磁性体粒子は、トナー粒子の製造において高温となる溶融混練過程においても酸化されにくくなる。さらには、酸価の比較的高い樹脂をトナー樹脂として用いることができ、樹脂の特性を活かした黒色度の優れた磁性トナーを得ることが可能になる。
磁性体粒子に含まれるチタン化合物のTiO2に換算した質量の、磁性体粒子質量に対する比率(以下、「比率B」ともいう)が、0.1質量%未満である磁性体粒子は、表面の水分の吸・脱着の挙動、および等電点が適切に制御されにくい。そのため、そのような磁性体粒子を含む磁性トナーはカブリやフィルミングを引き起こしやすい。さらに、そのような磁性体粒子は耐熱性も低いことが多いので、それを含む磁性トナーは黒色度が低下する場合がある。
比率Bが、10.0質量%より高い磁性体粒子は、表面の水分の吸・脱着の挙動が制御されにくいだけでなく、磁気特性が低下してしまう場合があるので、それを含む磁性トナーはカブリ等の画質への弊害を引き起こしやすい。
本発明における磁性体粒子のチタン化合物の含有量は、JIS K0119「蛍光X線
分析通則」に従って、蛍光X線分析を行うことにより測定され得る。測定装置の例には、蛍光X線分析装置SYSTEM3080(理学電機工業社製)が含まれる。
また、本発明における磁性体粒子の平均粒径は、分散性および黒色度、磁気特性等の点から、0.08〜0.25μmであることが好ましい。平均粒径が0.08μm未満である磁性体粒子は、磁性トナー中において再凝集するなどして分散不良となることがあり、また黒色度が低下する場合があるので好ましくない。
平均粒径が0.25μmより大きい磁性体粒子は、優れた黒色度を有するが、トナー粒子中に十分に分散されない場合があるので好ましくない。
ここで、磁性体粒子の平均粒径は、透過電子顕微鏡写真(倍率30,000倍)に写された粒子から100個の粒子を無造作に選び、その粒子径を計測し、その平均値をもって、平均粒径とすることで求めることができる。また磁性体粒子の平均粒径は、例えば、その製造において、初期アルカリ濃度や、酸化反応による粒子生成過程を制御することによって調整され得る。
本発明における磁性体粒子の磁気特性としては、磁場795.8kA/mにおいて、飽和磁化が10〜200Am2/kg(より好ましくは70〜100Am2/kg)、残留磁化が1〜100Am2/kg(より好ましくは2〜20Am2/kg)、抗磁力が1〜30kA/m(より好ましくは2〜15kA/m)であることが好ましい。このような磁気特性を有する磁性体粒子を含む磁性トナーは、画像濃度とカブリのバランスのとれた良好な現像性を有し得る。
磁性体粒子の磁気特性は、例えば「振動試料型磁力計VSM−3S−15」(東英工業社製)を用いて、外部磁場795.8kA/mの下で測定することができる。
また磁性体粒子の磁気特性は、例えば磁性体粒子の種類や平均粒径、磁性体粒子に配合される非磁性材料の種類及び配合量によって調整され得る。
本発明における磁性体粒子の、チタン化合物以外の成分の例には、異種元素を含有するマグネタイト、マグヘマイト、フェライトなどの磁性酸化鉄およびその混合物が含まれるが、好ましくはFeO含有量の高いマグネタイトを主成分とする。マグネタイトの粒子は、一般的に第一鉄塩水溶液とアルカリ溶液とを中和混合して得られる水酸化第一鉄スラリーを酸化することにより得られる。
本発明における磁性体粒子は、母体磁性体粒子、および母体磁性体粒子の表面に付着する化合物とから構成されることが好ましい。
本発明における磁性体粒子の母体となる母体磁性体粒子は、Si元素を含有していることが好ましい。Si元素は、母体磁性体粒子の内部及び表面の両方に存在することが好ましく、表面に優先的に存在することがより好ましい。母体磁性体粒子の製造過程において、Si元素を段階的に添加することにより、Si元素を母体磁性体粒子の表面に優先的に存在させることができる。
母体磁性体粒子の表面にSi元素が存在すると、母体磁性体粒子の表面に多数の細孔が形成されるので、その外殻にチタン化合物を被覆処理すると、母体磁性体粒子の表面にチタン化合物がより強力に固着することができる。
Si元素の含有量は、Fe元素に対して、好ましくは0.1質量%〜1.5質量%、より好ましくは0.2質量%〜1.0質量%である。0.1質量%未満の場合、母体磁性体粒子の表面へのチタン化合物の固着力が不十分となることがあり、1.5質量%より多い場合には、母体磁性体粒子の表面の平滑性が失われやすい。
本発明における磁性体粒子は、一般的なマグネタイト粒子の製造方法を用いて母体磁性体粒子を得たのち、さらに本発明の目的を達成しうる特定の吸着水分質量及び等電点に調整すべく、チタン化合物を含有させることによって得られる。
チタン化合物を含有させる前段階の母体磁性体粒子は、公知の磁性体粒子製造方法を用いて製造されうるが、Si元素を表面に優先的に有する母体磁性体粒子は、例えば下記方法で製造される。
第一鉄塩の水溶液と、前記第一鉄塩の水溶液中のFe2+に対して0.90〜0.99当量の水酸化アルカリ水溶液とを反応させて、水酸化第一鉄コロイドを含む反応水溶液を得る。
ここで、前記水酸化アルカリ水溶液または前記水酸化第一鉄コロイドを含む第一鉄塩のいずれかに、鉄元素に対してSi元素換算で0.1〜1.5質量%の水可溶性ケイ酸塩(全含有量)の50〜99%を添加する。
水可溶性ケイ酸塩を添加された反応水溶液を85〜100℃の温度範囲で加熱しながら、酸素含有ガスを通気して酸化反応することにより、水酸化第一鉄コロイドからSi元素を含有する母体磁性体核晶粒子を生成させる。このときpH6.0〜7.0の条件下で酸化反応させることが好ましい。
酸化反応終了後の懸濁液中に残存するFe2+に対して1.00当量以上の水酸化アルカリ水溶液、および前記水可溶性ケイ酸塩の残り〔全含有量(0.1〜1.5質量%)の1〜50%〕を添加する。さらに85〜100℃の温度範囲で加熱しながら、酸化反応させる。このときpH8.0〜10.5の条件下で酸化反応させることが好ましい。
次いで公知の方法により、濾過、水洗、乾燥および解砕することにより、本発明における母体磁性体粒子を得る。さらに、母体磁性体粒子の平滑度及び比表面積を好ましい範囲に調整するため、「ミックスマーラー」または「らいかい機」などを用いて、圧縮、せん断またはへらなですることが好ましい。
前述の母体磁性体粒子の製造に用いられる水可溶性ケイ酸塩の例には、市販のケイ酸ソーダ等のケイ酸塩類、加水分解等で生じるゾル状ケイ酸等のケイ酸が含まれる。
前述の母体磁性体粒子の製造に用いられる第一鉄塩の例には、一般的に硫酸法による酸化チタン製造で副生する硫酸鉄、鋼板の表面洗浄に伴って副生する硫酸鉄、さらに塩化鉄等が含まれる。
上述の製造方法によれば、主に板状面を有さない曲面で形成された球状の粒子から構成され、八面体粒子を殆ど含まない磁性体粒子を製造することができる。本発明の磁性トナーに含まれる磁性体粒子は、このような粒子形状を有することが好ましい。磁性体粒子の粒子形状は、透過型電子顕微鏡写真(H-7500;日立製作所社製)により観察され得る。
一方、本発明に使用する母体磁性体粒子は、Al、P、S、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn及びMgの総含有量が少ない、例えば1質量%以下であることが好ましい。上記成分は磁性体粒子製造時に原料由来の不可避成分として含有される場合が多い。磁性トナーの黒色度及び磁気特性の維持を考慮した場合、母体磁性粒子における上記成分の総含有量が少ない方が、より本発明の効果が発揮されやすい。
本発明における磁性体粒子はチタン化合物を含むが、チタンは酸化鉄結晶格子の中に取り込まれていてもよく、チタン酸化物として酸化鉄中に取り込まれていても良いが、好ま
しくは磁性体粒子の表面にチタン酸化物あるいはチタン水酸化物として存在している。
特に、以下に示す方法で、母体磁性体粒子をTiO2で被覆することにより、本発明の効果を最大限に発揮することができる。
50〜200g/lの濃度で母体磁性体粒子を含む懸濁水溶液を、60〜80℃に保持する。この懸濁水溶液に、水酸化ナトリウム水溶液あるいは希硫酸を加えてpHを4.0〜6.0とする。この懸濁水溶液を攪拌しながら、これに、TiO2換算で50〜150g/lの濃度の硫酸チタン水溶液を、TiO2/Fe3O4換算で0.1〜10.0質量%相当分、約1時間かけて添加する。この添加の間に、懸濁水溶液のpHが4.0〜6.0に保たれるように、水酸化ナトリウム水溶液を添加する。添加終了後、水酸化ナトリウム水溶液を添加して、懸濁水溶液を中性とする。これを洗浄、ろ別、乾燥、解砕して、チタニア被覆処理磁性体粒子を得る。
本発明の磁性トナーにおける磁性体粒子の含有量は、結着樹脂100質量部に対して、50〜150質量部、好ましくは60〜120質量部であることが好ましい。50質量部未満である場合には、カブリ、飛び散りが悪化するだけでなく、磁性トナーの着色力不足となる場合もあり、好ましくない。前記含有量が150質量部より大きい場合には、現像時における帯電付与部材(現像スリーブ)から感光体への飛翔が十分に行えなくなり、画像濃度低下の原因となる場合もあり、好ましくない。
さらに本発明に含まれる磁性体粒子は、以下の物性を有することが好ましい。
すなわち、相対水蒸気圧50%における磁性体粒子への吸着水分質量の、磁性体粒子質量に対する比率A(質量%)と、磁性体粒子に含まれるチタン化合物のTiO2に換算した質量の、磁性体粒子質量に対する比率Bが、以下の関係を満たすことが好ましい。前記の通り、A(質量%)は0.25〜0.80(質量%)であり、Bは0.1〜10.00(質量%)である。
[数2]
0.50≧A/B≧0.05 (1)
「磁性体粒子質量に対する、チタン化合物の含有質量の比率B」に対する「磁性体粒子質量に対する、吸着水分質量の比率A」の比率A/Bが、0.05〜0.50に制御された磁性体粒子は、チタン化合物によって、その粒子表面が平滑かつ緻密にコート処理されている。その結果、磁性体粒子の磁気特性や帯電性を損なうことなく、耐熱性やトナー粒子への分散性といった、本発明における磁性体粒子の特徴を最大限に発揮することができる。
前記A/Bの値が0.50よりも大きく、かつチタン化合物の含有量が多い場合には、チタン化合物で被覆された磁性体粒子表面の平滑性が低くなるため、吸着水分量が多くなり過ぎたり、磁性体粒子の流動性を低下させてしまう原因となりやすい。また、A/Bの値が0.50よりも大きく、かつチタン化合物の含有量が少ない場合には、チタン化合物に覆われていない部分の面積が多くなるので、それを含む磁性トナーが感光体傷やフィルミングを発生させやすく、特に耐熱性の面で劣ってしまうことがある。
一方、A/Bの値が0.05未満であると、チタン化合物の含有量に対して吸着水分量が不足する磁性体粒子となり、それを含む磁性トナーは、チャージアップをおこしたり、低湿環境においてカブリを引き起こしやすくなることがある。
また、本発明における磁性体粒子におけるFe2+の含有量は、十分な黒色度と磁気特
性を有する磁性体粒子を得る観点から、磁性体粒子の質量に対して17質量%以上であることが好ましい。
さらに、熱処理後の磁性体粒子におけるFe2+の含有量は、熱処理前の磁性体粒子におけるFe2+の含有量に対して60%以上であることが好ましく、70%以上であることがさらに好ましい。以下、「熱処理前の磁性体粒子におけるFe2+の含有量」に対する「熱処理後の磁性体粒子におけるFe2+の含有量」の比率を、「Fe2+の保持率」とも称する。前記熱処理とは、空気中において160℃で1時間熱処理することである。
「Fe2+の保持率」が60%以上である磁性体粒子は、耐熱性に優れるため、トナー製造時の溶融混練過程においても酸化されにくく、最終的に黒色度の高い磁性トナーを得る観点からより一層好ましい。
磁性体粒子におけるFe2+の含有量は、例えば、試料(磁性体粒子)を硫酸にて溶解し、過マンガン酸カリウム標準溶液を使用して、酸化還元滴定することにより測定され得る。
また、磁性体粒子におけるFe2+の含有量は、例えば磁性体粒子の種類や磁性体粒子に配合される非磁性材料の種類及び配合量、磁性体粒子を被覆する材料の種類及び被覆量や被覆状態の制御によって調整することができる。
さらに本発明の目的を達成するために好ましい磁性トナーの構成を以下に詳述する。
本発明の磁性トナーに含まれる結着樹脂は、従来よりトナー結着樹脂として知られている種々の樹脂化合物であればよい。結着樹脂の例には、ビニル系樹脂、フェノール樹脂、天然樹脂変性フェノール樹脂、天然樹脂変性マレイン酸樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリ酢酸ビニール、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリアミド樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、ポリビニルブチラール、テルペン樹脂、クマロインデン樹脂、石油系樹脂等が含まれる。
本発明の磁性トナーに含まれる結着樹脂は酸価を有することが好ましく、より好ましくは1〜50mgKOH/gの酸価を有し、さらに好ましくは4〜40mgKOH/gの酸価を有する。
本発明者らは、磁性トナーの帯電量や帯電安定性は、磁性トナーの表面の電荷量分布に少なからず影響を受け、電荷量分布にムラがあると、局所的に電荷がリークしたり、チャージアップすることにより、磁性トナーの帯電安定性が損なわれやすくなることを見出した。そして、上述の範囲にある酸価を有する結着樹脂を使用することにより、磁性トナーの表面に露出した磁性体粒子部分と、結着樹脂部分の吸着水分量の差を小さくすることができるため、磁性トナーの表面の電荷量分布を均一にすることができ、上述の問題が解決されることを見出した。
結着樹脂の酸価が1mgKOH/g未満の場合、または、50mgKOH/gを超える場合には、磁性トナーの吸着水分量を制御することが困難になるだけでなく、磁性トナーの帯電性の環境変動が大きくなる傾向がある。
また、結着樹脂のOH価(水酸基価)は、60mgKOH/g以下であることが好ましく、45mgKOH/g以下であることがより好ましい。これは、分子鎖の末端基数が増えると磁性トナーの帯電特性の環境依存性が大きくなるので、磁性トナーの流動性、静電付着性、現像剤表面抵抗(吸着水の影響)が変動し、画質の低下を生じる場合があるためである。
本発明のトナーに含まれる結着樹脂は、少なくともポリエステルユニットを有することが好ましい。ポリエステルユニットは樹脂の吸水性を高めるため、ポリエステルユニットを有する樹脂からなるトナー粒子の表面は比較的多くの吸着水分量を保持することができる。ポリエステルユニットを有する樹脂を結着樹脂として含む本発明の磁性トナーは、磁性トナーの表面に露出する磁性体粒子部分と、ポリエステル樹脂部分との吸着水分の量、ならびに吸着および脱着の挙動が、非常に似た挙動を示すため、磁性トナーの表面の電荷量分布をさらに均一にさせやすい。
なお、前記「ポリエステルユニット」とはポリエステルに由来する部分を示す。すなわち、前記「ポリエステルユニットを有する樹脂」とは、少なくともエステル結合を有する繰り返し単位を有する樹脂をいう。
ここで、結着樹脂の水分量が大きくなりすぎると、磁性トナーの物性が環境によって大きく変動してしまう。そこで、上述の酸価の範囲の樹脂(好ましくは、ポリエステルユニットを有する樹脂)を使用して、相対水蒸気圧50%における磁性トナーへの吸着水分質量の、磁性トナー質量に対する比率を0.05質量%〜0.60質量%に調整することが好ましい。
前記磁性トナーへの吸着水分質量の比率が0.05質量%未満の場合、本発明の磁性体粒子を用いても、チャージアップを起こしやすく、カブリや飛び散りといった画質弊害を引き起こしやすい磁性トナーとなることがある。また、前記磁性トナーへの吸着水分質量の比率が0.60質量%を超えると、帯電性が低下しやすく、十分な濃度の画像を形成することができない磁性トナーとなることがある。
前記磁性トナーへの吸着水分質量は、前述の磁性体粒子への吸着水分質量と同様に測定することができる。
また磁性トナーへの前記吸着水分量は、結着樹脂の種類、結着樹脂の酸価及び水酸基価、磁性体粒子の種類、磁性体粒子の吸着水分量等によって調整され得る。
結着樹脂の酸価は、下記1)〜5)の操作により求められる。基本操作はJIS K0070に準ずる。
1)試料はあらかじめ結着樹脂(重合体成分)以外の添加物を除去して使用するか、試料の結着樹脂以外の成分の含有量を求めておく。磁性トナーまたは結着樹脂の粉砕品0.5〜2.0gを精秤する。このときの結着樹脂成分の質量をW(g)とする。
2)300(ml)のビーカーに試料を入れ、トルエン/エタノール(質量比:4/1)の混合液150(ml)を加え溶解する。
3)0.1mol/lのKOHのエタノール溶液で滴定する。この滴定は、例えば、京都電子株式会社の電位差滴定測定装置AT−400(winworkstation)とABP−410電動ビュレットとを用いて自動滴定することができる。
4)この滴定におけるKOH溶液の使用量をS(ml)とする。一方、樹脂を含まないブランクを滴定して、この滴定におけるKOH溶液の使用量をB(ml)とする。
5)下記式により酸価を計算する。なお下記式中のfはKOHのファクターである。
[数3]
酸価(mgKOH/g)={(S−B)×f×5.61}/W
OH価は、下記1)〜8)の操作により求められる。基本操作はJIS K0070に準ずる。
1)試料はあらかじめ結着樹脂(重合体成分)以外の添加物を除去して使用するか、試
料の結着樹脂以外の成分の含有量を求めておく。トナーまたは結着樹脂の粉砕品0.5〜2.0gを200ml平底フラスコに精秤する。
2)これに5mlのアセチル化試薬(無水酢酸25gをフラスコ(100ml)にはかりとり、ピリジンを加えて全量を100mlにして十分攪拌する)を加える。なお試料が溶解しにくい場合は、少量のピリジンを追加するか、キシレン又はトルエンを加えて溶解する。
3)フラスコの口に小さなロートを置き、温度95〜100℃のグリセリン浴中に底部約1cmを浸して加熱する。フラスコの首がグリセリン浴の熱を受けて温度が上がるのを防ぐために、中に丸い穴をあけた厚紙の円板をフラスコの首の付け根に被せる。
4)1時間後、フラスコをグリセリン浴から取り出し、放冷後ロートから水1mlを加えて振り動かし、無水酢酸を分解する。
5)さらに無水酢酸を完全に分解するため、再びフラスコをグリセリン浴中に浸して10分間加熱し、放冷後エタノール5mlでロート及びフラスコ壁を洗う。
6)数滴のフェノールフタレイン溶液を指示薬として加え、0.5kmol/m3の水酸化カリウムエタノール溶液で滴定し、指示薬の薄い紅色が約30秒間続いたときを終点とする。
7)樹脂を入れないで2)〜6)を空試験として行う。
8)下記式によりOH価を計算する。
[数4]
A=[{(B−C)×28.05×f}/S]+D
(但し、Aは水酸基価(mgKOH/g)であり、Bは空試験において用いた0.5kmol/m3水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)であり、Cは滴定に用いた0.5kmol/m3水酸化カリウムエタノール溶液の量(ml)であり、fは0.5kmol/m3水酸化カリウムエタノール溶液のファクターであり、Sは試料中に含まれる結着樹脂の量(g)であり、Dは試料の酸価である。なお式中「28.05」は水酸化カリウムの式量(56.11×1/2)である)。
結着樹脂の酸価及び水酸基価は、例えば結着樹脂を構成するモノマーの種類およびそれらの配合量によって調整することができる。
本発明の磁性トナーに含まれるポリエステル樹脂は、全成分中45〜55mol%がアルコール成分であり、55〜45mol%が酸成分であることが好ましい。
アルコール成分の例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、水素化ビスフェノールA、下記一般式(B)で表されるビスフェノール誘導体;下記一般式(C)で示されるジオール類;又はグリセリン、ソルビット、ソルビタン等の多価アルコール類等が含まれる。
上記一般式(B)中、Rはエチレン又はプロピレン基を示し、xおよびyはそれぞれ1以上の整数であり、かつx+yの平均値は2〜10である。
上記一般式(C)中、R’は下記構造式のいずれかを示し、同一であっても良いし異なっていても良い。
また、酸成分としてはカルボン酸を好ましくは例示することができ、二価のカルボン酸の例にはフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、無水フタル酸の如きベンゼンジカルボン酸類又はその無水物;コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸の如きアルキルジカルボン酸類又はその無水物;フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸の如き不飽和ジカルボン酸又はその無水物等が含まれる。また、三価以上のカルボン酸の例にはトリメリット酸、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸やその無水物等が含まれる。
ポリエステル樹脂の特に好ましいアルコール成分の例には前記(B)式で示されるビスフェノール誘導体が含まれ、特に好ましい酸成分の例には、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸又はその無水物、コハク酸、n−ドデセニルコハク酸又はその無水物、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸の如きジカルボン酸類;トリメリット酸又はその無水物のトリカルボン酸類が含まれる。これらの酸成分及びアルコール成分から得られたポリエステル樹脂を結着樹脂として使用した磁性トナーは、定着性が良好で、耐オフセット性に優れているからである。
本発明の磁性トナーにおいては、以下のようなビニル系樹脂を結着樹脂に使用してもよい。
ビニル系樹脂の例には、例えばスチレン;o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチレンスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレンの如きスチレン誘導体;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンの如きエチレン不飽和モノオレフィン類;ブタジエンの如き不飽和ポリエン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニル、フッ化ビニルの如きハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニルの如きビニルエステル類;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルの如きα−メチレン脂肪族モノカルボン酸エステル類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸−n−オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸−2−クロロエチル、アクリル酸フェニルの如きアクリル酸エステル類;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテルの如きビニルエーテル類;ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトンの如きビニルケトン類;N−ビニルピロール、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドンの如きN−ビニル化合物;ビニルナフタリン類:アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミドの如きアクリル酸又はメタクリル酸誘導体;α、β−不飽和酸のエステル、二塩基酸のジエステル類;アクリル酸、メタクリル酸、α−エチルアクリル酸、クロトン酸、ケイヒ酸、ビニル酢酸、イソクロトン酸、アンゲリカ酸等のアクリル酸及びそのα−又はβ−アルキル誘導体;フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、アルケニルコハク酸、イタコン酸、メサコン酸、ジメチルマレイン酸、ジメチルフマル酸等の不飽和ジカルボン酸及びそのモノエステル誘導体又は無水物等のビニル系モノマーを用いた重合体が含まれる。
上記ビニル系樹脂は、前述したビニル系モノマーの単独又は二種以上の組み合わせから製造される。好ましいビニル系樹脂の例には、スチレン系共重合体、スチレン−アクリル系共重合体が含まれる。
また、本発明の磁性トナーに含まれる結着樹脂は、必要に応じて以下に例示するような架橋性モノマーで架橋された重合体又は共重合体であってもよい。
前記架橋性モノマーとしては、架橋可能な二以上の不飽和結合を有するモノマーを用いることができる。このような架橋性モノマーとしては、以下に示すような種々のモノマーが従来より知られており、本発明の磁性トナーに好適に用いることができる。
前記架橋性モノマーの例には、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等の芳香族ジビニル化合物;エチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,5−ペンタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート及び以上の化合物のアクリレートをメタクリレートに代えたもの等のアルキル鎖で結ばれたジアクリレート化合物;ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール#400ジアクリレート、ポリエチレングリコール#600ジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート及び以上の化合物のアクリレートをメタクリレートに代えたもの等のエーテル結合を含むアルキル鎖で結ばれたジアクリレート化合物類;ポリオキシエチレン(2)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジアクリレート、ポリオキシエチレン(4)−2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロバンジアクリレート及び以上の化合物のアクリレートをメタクリレートに代えたもの等の芳香族基及びエーテル結合を含む鎖で結ばれたジアクリレート化合物類;商品名MANDA(日本化薬)等のポリエステル型ジアクリレート類;などが含まれる。
架橋可能な三以上の不飽和結合を有する多官能の架橋剤の例には、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、オリゴエステルアクリレート及び以上の化合物のアクリレートをメタクリレートに代えたもの;トリアリルシア
ヌレート、トリアリルトリメリテートなどが含まれる。
これらの架橋剤の使用量は、架橋しようとするモノマーの種類や、結着樹脂の所望の物性等によって調整されることが好ましいが、一般に、結着樹脂を構成する他のモノマー成分100質量部に対して、0.01〜10.00質量部(さらに好ましくは0.03〜5.00質量部)の架橋剤を用いることができる。
これらの架橋性モノマーのうち、現像剤の定着性、耐オフセット性の点から好適に用いられる例には、芳香族ジビニル化合物(特にジビニルベンゼン)、芳香族基及びエーテル結合を含む鎖で結ばれたジアクリレート化合物類が含まれる。
本発明の磁性トナーの磁性トナー粒子に含まれる結着樹脂には、必要に応じて、ビニル系モノマーの単重合体または共重合体、ポリエステル、ポリウレタン、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール、ロジン、変性ロジン、テルペン樹脂、フェノール樹脂、脂肪族又は脂環族炭化水素樹脂、芳香族系石油樹脂等の他の樹脂が混合されていてもよい。二種以上の樹脂を混合して結着樹脂として用いる場合、分子量の異なるものを適当な割合で混合するのが好ましい。
さらに本発明に用いられる結着樹脂のガラス転移温度(Tg)は好ましくは45〜80℃、より好ましくは55〜70℃であり、数平均分子量(Mn)は2,500〜50,000、重量平均分子量(Mw)は10,000〜1,000,000であることが好ましい。
結着樹脂の数平均分子量及び重量平均分子量は、結着樹脂をテトラヒドロフラン(THF)に溶かす。この溶液を用いてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による測定する。サンプル(結着樹脂)からの測定値であるカウント数(リテンションタイム)と、数種の単分散ポリスチレン標準試料から作成した検量線の対数値とから、数平均分子量及び重量平均分子量を求めることができる。また、結着樹脂の分子量は、重合条件、架橋剤の使用、結着樹脂の混練等によって調整することができる。
結着樹脂のガラス転移温度は45〜80℃であることが好ましく、ガラス転移温度は結着樹脂の構成物質(重合性単量体)を選択することにより調整することができる。ここでガラス転移温度とは、出版物ポリマーハンドブック第2版III−p139〜192(John Wiley&Sons社製)に記載の理論ガラス転移温度である。
また結着樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量計、例えばパーキンエルマー社製のDSC−7やTAインスツルメンツジャパン社製のDSC2920を用いて、ASTM D3418−82に準じて測定することができる。結着樹脂のガラス転移温度が上記範囲よりも小さいと、磁性トナーの保存安定性が不十分となることがあり、結着樹脂のガラス転移温度が上記範囲よりも大きいと、磁性トナーの定着性が不十分となることがある。
ビニル系重合体又は共重合体からなる結着樹脂を合成する方法は特に限定されず、従来より知られている種々の製法を利用することができ、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法の如き重合法が利用できる。カルボン酸モノマー又は酸無水物モノマーを用いる場合には、モノマーの性質上、塊状重合法又は溶液重合法を利用することが好ましい。
本発明の磁性トナーは、ワックスを含有してもよい。
本発明の磁性トナーに含まれるワックスの例には、低分子量ポリエチレン、低分子量ポリプロピレン、ポリオレフィン共重合物、ポリオレフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックスの如き脂肪族炭化水
素系ワックス;酸化ポリエチレンワックスの如き脂肪族炭化水素系ワックスの酸化物;又は、それらのブロック共重合物;キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ホホバろうの如き植物系ワックス;みつろう、ラノリン、鯨ろうの如き動物系ワックス;オゾケライト、セレシン、ペトロラタムの如き鉱物系ワックス;モンタン酸エステルワックス、カスターワックスの如き脂肪族エステルを主成分とするワックス類;脱酸カルナバワックスの如き脂肪族エステルを一部又は全部を脱酸化したものが含まれる。
さらに、パルミチン酸、ステアリン酸、モンタン酸、或いは更に長鎖のアルキル基を有する長鎖アルキルカルボン酸類の如き飽和直鎖脂肪酸;ブラシジン酸、エレオステアリン酸、パリナリン酸の如き不飽和脂肪酸;ステアリルアルコール、エイコシルアルコール、ベヘニルアルコール、カウナビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール、あるいはさらに長鎖のアルキル基を有するアルキルアルコールの如き飽和アルコール;ソルビトールの如き多価アルコール;リノール酸アミド、オレイン酸アミド、ラウリン酸アミドの如き脂肪族アミド;メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミドの如き飽和脂肪族ビスアミド;エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミドの如き不飽和脂肪酸アミド類;m−キシレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミドの如き芳香族系ビスアミド;ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウムの如き脂肪族金属塩(一般に金属石けんといわれているもの);脂肪族炭化水素系ワックスにスチレンやアクリル酸の如きビニル系モノマーを用いてグラフト化させたワックス;ベヘニン酸モノグリセリドの如き脂肪酸と多価アルコールの部分エステル化物;植物性油脂を水素添加することによって得られるヒドロキシル基を有するメチルエステル化合物が挙げられる。
また、これらのワックスを、プレス発汗法、溶剤法、再結晶法、真空蒸留法、超臨界ガス抽出法又は融液晶析法を用いて分子量分布をシャープにしたものや、低分子量固形脂肪酸、低分子量固形アルコール、低分子量固形化合物、その他の不純物を除去したものも好ましく用いられる。
また、本発明の磁性トナーには、荷電制御剤を添加されていてもよい。
負荷電制御剤の具体例には、特公昭41−20153号公報、特公昭44−6397号公報、特公昭45−26478号公報等に記載されているモノアゾ染料の金属化合物、さらには特開昭50−133838号公報に記載されているニトロフミン酸及びその塩或いはC.I.14645等の染顔料、特公昭55−42752号公報、特公昭58−41508号公報、特公昭59−7385号公報等に記載されているサリチル酸、ナフトエ酸、ダイカルボン酸のZn、Al、Co、Cr、Fe、Zr等の金属化合物、スルホン化した銅フタロシアニン顔料、ニトロ基、ハロゲンを導入したスチレンオリゴマー、塩素化パラフィンなどが含まれる。特に分散性に優れ、画像濃度の安定性やカブリの低減に効果のある、一般式(I)で表されるアゾ系金属化合物や一般式(II)で表される塩基性有機酸金属化合物が好ましい。
一般式(I)中、Mは配位中心金属を表し、Cr、Co、Ni、Mn、Fe、Ti又はAlを示す。Arは、フェニレン基、ナフチレン基の如きアリーレン基であり、置換基を有してもよい。この場合の置換基としては、ニトロ基、ハロゲン基、カルボキシル基、アニリド基及び炭素数1〜18のアルキル基、炭素数1〜18のアルコキシ基がある。X、X’、Y、Y’は−O−、−CO−、−NH−、−NR−(Rは炭素数1〜4のアルキル基)である。A+は水素、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン又は脂肪族アンモニウムイオンを示す。
一般式(II)中、Mは配位中心金属を表し、Cr、Co、Ni、Mn、Fe、Ti、Zr、Zn、Si、B又はAlを示す。(B)はアルキル基等の置換基を有していても良い下記構造式(1)〜(8)のいずれかを表し、同一であっても良いし異なっていても良い。A'+は水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、又
は脂肪族アンモニウムイオンを示す。Zは−O−及び下記構造式(9)のいずれかを表し、それぞれ同一であっても良いし異なっていても良い。
上記一般式(7)及び(8)において、Rは、水素原子、C1〜C18のアルキル基、又はC2〜C18のアルケニル基を表す。
これらの荷電制御剤のうち、上記一般式(I)で表されるアゾ系金属化合物がより好ましく、とりわけ、中心金属がFeである下記一般式(III)あるいは(IV)で表されるアゾ系鉄化合物が最も好ましい。
一般式(III)中、X2及びX3は水素原子、低級アルキル基、低級アルコキシ基、ニトロ基又はハロゲン原子を示す。k及びk’は1〜3の整数を示す。Y1及びY3は水素原子、C1〜C18のアルキル基、C2〜C18のアルケニル基、スルホンアミド基、メシル基、スルホン酸基、カルボキシエステル基、ヒドロキシ基、C1〜C18のアルコキシ基、アセチルアミノ基、ベンゾイル基、アミノ基又はハロゲン原子を示す。l及びl’は1〜3の整数を示す。Y2及びY4は水素原子又はニトロ基を示す。A"+はアンモ
ニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、水素イオン又はそれらの混合イオンを示すが、好ましくは75〜98モル%のアンモニウムイオンを含む混合イオンである。
なお、上記X2とX3、kとk’、Y1とY3、lとl’、及びY2とY4は、それぞれ同一でも異なっていても良い。
一般式(IV)において、R1〜R20は、水素原子、ハロゲン原子またはアルキル基を示し、それぞれ同一でも異なっていても良い。A+はアンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、水素イオンまたはそれらの混合イオンを示す。
次に上記一般式(III)で示されるアゾ系鉄化合物の具体例を示す。
また、上記式(I)、(II)、(IV)で示される構造を有する荷電制御剤の具体例を以下に示す。
これらの金属錯化合物は、単独でも二種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの荷電制御剤の使用量は、磁性トナーの帯電量の点から、結着樹脂100質量部あたり0.1〜5.0質量部であることが好ましい。
負帯電用の荷電制御剤の好ましい例には、Spilon Black TRH、T−77、T−95(保土谷化学社)、BONTRON(登録商標)S−34、S−44、S−54、E−84、E−88、E−89 (オリエント化学社)が含まれる。正帯電用の荷電制御剤の好ましい例には、TP−302、TP−415 (保土谷化学社)、BONTRON(登録商標) N−01、N−04、N−07、P−51(オリエント化学社)、コピーブルーPR(クラリアント社)が含まれる。
一方、トナーを正荷電性に制御する荷電制御剤の例には、ニグロシン及び脂肪酸金属塩等による変性物、トリブチルベンジルアンモニウム−1−ヒドロキシ−4−ナフトスルホン酸塩、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート等の四級アンモニウム塩、及びこれらの類似体であるホスホニウム塩等のオニウム塩及びこれらのレーキ顔料、トリフェニルメタン染料及びこれらのレーキ顔料(レーキ化剤としては、りんタングステン酸、りんモリブデン酸、りんタングステンモリブデン酸、タンニン酸、ラウリン酸、没食子酸、フェリシアン化物、フェロシアン化物等)、高級脂肪酸の金属塩;ジブチルスズオキサイド、ジオクチルスズオキサイド、ジシクロヘキシルスズオキサイド等のジオルガノスズオキサイド;ジブチルスズボレート、ジオクチルスズボレート、ジシクロヘキシルスズボレート等のジオルガノスズボレート類;が含まれる。これらは、単独でまたは二種類以上組み合わせて用いることができる。
また本発明の磁性トナーには、無機微粉体又は疎水性無機微粉体が混合されていることが好ましい。例えば、本発明の磁性トナーに、シリカ微粉末が外添されていることが好ましい。
本発明の磁性トナーに混合される(好ましくは外添される)シリカ微粉体は、ケイ素ハロゲン化合物の蒸気相酸化により生成されたいわゆる乾式法シリカまたはヒュームドシリカと称される乾式シリカ、及び水ガラス等から製造されるいわゆる湿式シリカ、のいずれでもよい。ただし、表面及び内部にあるシラノール基が少なく、製造残渣のない乾式シリカの方が好ましい。
さらに本発明に用いられるシリカ微粉体は疎水化処理されているものが好ましい。シリカ微粉体の疎水化処理は、シリカ微粉体と反応あるいは物理吸着する有機ケイ素化合物等で化学的に処理することによって行われる。好ましい方法の例には、ケイ素ハロゲン化合物の蒸気相酸化により生成された乾式シリカ微粉体をシラン化合物で処理した後、あるいはシラン化合物で処理すると同時に、シリコーンオイルの如き有機ケイ素化合物で処理する方法が含まれる。
疎水化処理に使用されるシラン化合物の例には、ヘキサメチルジシラザン、トリメチルシラン、トリメチルクロロシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、アリルジメチルクロロシラン、アリルフェニルジクロロシラン、ベンジルジメチルクロロシラン、ブロムメチルジメチルクロロシラン、α−クロロエチルトリクロロシラン、β−クロロエチルトリクロロシラン、クロロメチルジメチルクロロシラン、トリオルガノシランメルカプタン、トリメチルシリルメルカプタン、トリオルガノシリルアクリレート、ビニルジメチルアセトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサン、1,3−ジビニルテトラメチルジシロキサン、1,3−ジフェニルテトラメチルジシロキサンが含まれる。
疎水化処理に使用される有機ケイ素化合物の例にはシリコーンオイルが含まれる。好ましいシリコーンオイルの、25℃における粘度は、約3×10−5〜1×10−3m2/sである。好ましいシリコーンオイルの例には、ジメチルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、α−メチルスチレン変性シリコーンオイル、クロロフェニルシリコーンオイル、フッ素変性シリコーンオイルなどが含まれる。
シリコーンオイルによる処理は、例えば、シラン化合物で処理されたシリカ微粉体とシリコーンオイルとを、ヘンシェルミキサー等の混合機を用いて直接混合するか、ベースとなるシリカにシリコーンオイルを噴射することによって行われうる。あるいは、適当な溶剤にシリコーンオイルを溶解あるいは分散せしめた後、ベースのシリカ微粉体を混合し、さらに溶剤を除去することによっても行われうる。
本発明の磁性トナーには、必要に応じてシリカ微粉体以外の外部添加剤が添加されていてもよい。このような他の外添剤としては、例えば帯電補助剤、導電性付与剤、流動性付与剤、ケーキング防止剤、滑剤、研磨剤等の働きをする樹脂微粒子や無機微粒子等が挙げられる。これらを少量用いることができる。
他の外添剤のより具体的な例には、以下のものが含まれる。
ポリフッ化エチレン、ステアリン酸亜鉛、ポリフッ化ビニリデンの如き滑剤、中でもポリフッ化ビニリデン;酸化セリウム、炭化ケイ素、チタン酸ストロンチウム等の研磨剤、なかでもチタン酸ストロンチウム;酸化チタン、酸化アルミニウム等の流動性付与剤、なかでも特に疎水性のもの;ケーキング防止剤;カーボンブラック、酸化亜鉛、酸化アンチモン、酸化スズ等の導電性付与剤;逆極性の白色微粒子及び黒色微粒子などの現像性向上剤。
磁性トナーと混合される無機微粉体または疎水性無機微粉体の量は、磁性トナー100質量部に対して0.1〜5.0質量部(好ましくは、0.1〜3.0質量部)であることが好ましい。
本発明の磁性トナーを作製するには、結着樹脂および磁性体粒子を少なくとも含有する混合物が材料として用いられるが、その他、必要に応じてワックス、荷電制御剤、及び公知の着色剤等のその他の添加剤等が用いられる。
本発明の磁性トナーの製造方法は特に限定されず、公知の方法によって製造することができ、例えば以下のようにして製造することができる。
前述した磁性トナーの材料をヘンシェルミキサー又はボールミルの如き混合機により十分混合してから、ロール、ニーダーおよびエクストルーダーの如き熱混練機を用いて溶融、捏和及び混練して樹脂類を互いに相溶せしめる。得られた相溶物に、磁性体粒子、顔料または染料を分散または溶解せしめ、冷却固化後、粉砕及び分級を行い、必要に応じて無機微粉体等の外添剤を前記混合機により混合することによって、本発明の磁性トナーを得ることができる。
混合機の例には、ヘンシェルミキサー(三井鉱山社製);スーパーミキサー(カワタ社製);リボコーン(大川原製作所社製);ナウターミキサー、タービュライザー、サイクロミックス(ホソカワミクロン社製);スパイラルピンミキサー(太平洋機工社製);レーディゲミキサー(マツボー社製)などが含まれる。
混練機の例には、KRCニーダー(栗本鉄工所社製);ブス・コ・ニーダー(Buss
社製);TEM型押し出し機(東芝機械社製);TEX二軸混練機(日本製鋼所社製);PCM混練機(池貝鉄工所社製);三本ロールミル、ミキシングロールミル、ニーダー(井上製作所社製);ニーデックス(三井鉱山社製);MS式加圧ニーダー、ニダールーダー(森山製作所社製);バンバリーミキサー(神戸製鋼所社製)などが含まれる。
粉砕機の例には、カウンタージェットミル、ミクロンジェット、イノマイザ(ホソカワミクロン社製);IDS型ミル、PJMジェット粉砕機(日本ニューマチック工業社製);クロスジェットミル(栗本鉄工所社製);ウルマックス(日曹エンジニアリング社製);SKジェット・オー・ミル(セイシン企業社製);クリプトロン(川崎重工業社製);ターボミル(ターボ工業社製);スーパーローター(日清エンジニアリング)が含まれる。
分級機の例には、クラッシール、マイクロンクラッシファイアー、スペディッククラシファイアー(セイシン企業社製);ターボクラッシファイアー(日清エンジニアリング社製);ミクロンセパレータ、ターボプレックス(ATP)、TSPセパレータ(ホソカワミクロン社製);エルボージェット(日鉄鉱業社製)、ディスパージョンセパレータ(日本ニューマチック工業社製);YMマイクロカット(安川商事社製)などが含まれる。
粗粒等をふるい分けるために用いられる篩い装置の例には、ウルトラソニック(晃栄産業社製);レゾナシーブ、ジャイロシフター(徳寿工作所社製);バイブラソニックシステム(ダルトン社製);ソニクリーン(新東工業社製);ターボスクリーナー(ターボ工業社製);ミクロシフター(槙野産業社製);円形振動篩いなどが含まれる。
本発明における磁性トナー粒子の重量平均粒径は4.5μm〜10.0μmであることが好ましい。重量平均粒径が10.0μmを上回る磁性トナーは、トナー粒子自体の大きさによる高画質化の面での問題を有するので好ましくない。重量平均粒径が4.5μmを下回る磁性トナーは、本発明の磁性体粒子を使用しても、カブリ、飛び散りを悪化させることがあるので好ましくない。
重量平均粒径は、粒径測定器であるコールターマルチサイザーII(コールター社製、商品名)を用いて測定することができる。例えば、コールターマルチサイザーIIに個数分布、体積分布を出力するインターフェース(日科機製)及びパーソナルコンピューター
PC9801(NEC製、商品名)を接続することができる。
被検試料の調製に使用する電解液として、試薬1級塩化ナトリウムを水に溶解した1%NaCl水溶液を用いることができる。その他、前記電解液として、例えばISOTONR−II(コールターサイエンティフィックジャパン社製、商品名)を使用することができる。
被検試料は、前記電解液100〜150ml中に分散剤として界面活性剤、好ましくはアルキルベンゼンスルホン酸塩を0.1〜5.0ml加え、さらに現像剤試料を2〜20mg加え、超音波分散器で約1〜3分間分散処理を行い調製することができる。
前記コールターマルチサイザーによる重量平均粒径の測定においては、アパーチャーとして、100μmアパーチャーを用いることができる。
各チャンネル(2μm以上の粒子径を有する)に含まれる磁性トナー粒子の個数と、個々の粒子の体積を測定し、体積分布と個数分布を算出する。重量平均粒径は、体積分布から求めた重量基準の重量平均粒径とする。各チャンネルの中心値を各チャンネルの代表値とする。
なお磁性トナー粒子の重量平均粒径は、例えば磁性トナーの粉砕・分級や、適当な粒径の分級品の混合によって調整することができる。
本発明の磁性トナーは、一成分現像剤として好適に用いられる。本発明の磁性トナーは、例えば一成分ジャンピング現像用の現像装置や、感光体への磁性トナーの供給(現像)と感光体からの転写残トナーの回収とを行う現像兼クリーニング装置を有する現像装置などの、一成分現像剤用の公知の画像形成装置による画像形成のために用いられる。また、本発明の磁性トナーは、本発明の磁性トナーが収容される現像装置と、本発明の磁性トナーでトナー像として現像される静電潜像が形成される感光体とを少なくとも有し、画像形成装置本体に一体的に取り付けられるプロセスカートリッジにも好適に用いることができる。
以下、実施例によって本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(磁性体粒子の製造例1)
硫酸第一鉄水溶液中に、Fe2+に対して、0.965当量の水酸化ナトリウム水溶液を混合して、Fe(OH)2を含む第一鉄塩水溶液を生成した。
その後、ケイ酸ソーダをFe元素に対してSi元素換算で0.3質量%となるように添加した。次いで、Fe(OH)2を含む第一鉄塩水溶液に温度90℃において空気を通気して、pH6.5の条件下で酸化反応させた。
さらに、この懸濁液に、0.1質量%のケイ酸ソーダを溶解した水酸化ナトリウム水溶液を添加することにより、懸濁液中に残存するFe2+に対してケイ酸ソーダをSi元素換算で1.05当量加えた。さらに温度90℃で加熱しながら、pH9.0の条件下で酸化反応して、常法により洗浄、ろ過、乾燥し、母体磁性体粒子Aを得た。
次いで、母体磁性体粒子Aを水中に分散させ、100g/lの濃度とした懸濁水溶液を70℃に保持した。水酸化ナトリウム水溶液あるいは希硫酸を加えて懸濁水溶液のpHを5.0に調整した。この懸濁水溶液を攪拌しながら、これに約1時間をかけて、TiO2として80g/lの濃度の硫酸チタン水溶液を、TiO2/Fe3O4として1.0質量%相当分添加した。この際に、懸濁水溶液のpHを5.0に保つように水酸化ナトリウム水溶液を同時に添加した。ついで水酸化ナトリウム水溶液を添加して、懸濁水溶液のpHを中性とした。これを、常法により洗浄、ろ過、乾燥、解砕処理して、TiO2で被覆処理された磁性体粒子1を得た。磁性体粒子1の平均粒径は0.15μmであった。磁性体粒子の物性を表1に示す。
(磁性体粒子の製造例2)
磁性体粒子の製造例1において、硫酸チタン水溶液を、TiO2/Fe3O4として5.3質量%相当分添加した以外は、製造例1と同様にして、TiO2で被覆処理された磁性体粒子2を得た。磁性体粒子2の物性を表1に示す。
(磁性体粒子の製造例3)
磁性体粒子の製造例1において、TiO2で被覆処理される前の母体磁性体粒子の平均粒径を0.12μmとし、硫酸チタン水溶液を、TiO2/Fe3O4として9.0質量%相当分添加した以外は、製造例1と同様にして、平均粒径が0.12μmのTiO2で被覆処理された磁性体粒子3を得た。磁性体粒子3の物性を表1に示す。
(磁性体粒子の製造例4)
磁性体粒子の製造例1において、TiO2で被覆処理される前の母体磁性体粒子の製造過程におけるpHを調整し、平均粒径0.27μmの八面体形状を呈した磁性体粒子とし、硫酸チタン水溶液を、TiO2/Fe3O4として0.5質量%相当分添加した以外は、製造例1と同様にして、TiO2で被覆処理された磁性体粒子4を得た。磁性体粒子4の物性を表1に示す。
(磁性体粒子の製造例5〜7)
磁性体粒子の製造例1において、TiO2で被覆処理される前の母体磁性体粒子の平均粒径を調整し、硫酸チタン水溶液の添加量を変更した以外は、製造例1と同様にして、TiO2で被覆処理された磁性体粒子5〜7を得た。磁性体粒子5〜7の物性を表1に示す。
(比較用磁性体粒子の製造例8、9)
磁性体粒子の製造例1において、TiO2で被覆処理される前の母体磁性体粒子の平均粒径を調整し、硫酸チタン水溶液の添加量を変更した以外は、製造例1と同様にして、TiO2で被覆処理された比較用の磁性体粒子8、9を得た。磁性体粒子8、9の物性を表1に示す。
(比較用磁性体粒子の製造例10)
磁性体粒子の製造例4において、硫酸チタン水溶液を、TiO2/Fe3O4として9.8質量%相当分添加した以外は、製造例4と同様にして、TiO2で被覆処理された比較用の磁性体粒子10を得た。磁性体粒子10の物性を表1に示す。
(比較用磁性体粒子の製造例11)
磁性体粒子の製造例1において、母体磁性体粒子を製造する過程において、ケイ酸ソーダを添加しないこと以外は、製造例1と同様にして、TiO2で被覆処理された比較用の磁性体粒子11を得た。磁性体粒子11の物性を表1に示す。
なお表1において、
「A」は「28℃における相対水蒸気圧50%における吸着水分質量の、磁性体粒子質量に対する比率(質量%)」を表し、
「ΔA」は「相対水蒸気圧5%〜90%における、28℃での吸着過程における吸着水分質量と、28℃での脱離過程における吸着水分質量との質量差の最大値の、磁性体粒子質量に対する比率(質量%)」を表し、
「B」は「磁性体粒子中のチタン化合物のTiO2に換算した質量の、磁性体粒子質量に対する比率(質量%)」を表し、
「Fe2+保持率」は「熱処理前の磁性体粒子におけるFe2+の含有量に対する、熱処理後の磁性体粒子におけるFe2+の含有量の比率」を表す。
(結着樹脂製造例1)
反応槽中に、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド) 2モル付加物40質量部、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド) 2モル付加物30質量部、テレフタル酸25質量部、フマル酸4質量部、無水トリメリット酸5質量部、及びジブチルチンオキサイド0.5質量部を入れ、220℃でこれらを縮合重合し、ポリエステルの結着樹脂1を得た。この樹脂の酸価は22mgKOH/gであり、水酸基価は32mgKOH
/gであり、Tgは59℃であり、重量平均分子量[Mw]は22万であり、THF不溶分は14質量%であった。
なお結着樹脂のTHF不溶分の量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒として結着樹脂をソックスレー抽出器により抽出処理したときの残分から求めた。より具体的には、円筒ろ紙(例えばNo.86Rサイズ28×10mm、東洋ろ紙社製)に秤量した結着樹脂を入れ、溶媒として200mlのTHFを用い、THFの抽出サイクルが約4〜5分に1回になるような還流速度で16時間抽出し、抽出終了後、円筒ろ紙を取り出して秤量し、下記式から結着樹脂におけるTHF不溶分を求めた。
[数5]
THF不溶分(質量%)=W2/W1×100
前記式中、W1は円筒ろ紙に入れた結着樹脂の重量(g)を示し、W2は抽出後の円筒ろ紙中の結着樹脂の重量(g)を示す。
(結着樹脂製造例2)
結着樹脂製造例1において、モノマー構成を、ビスフェノールAのPO2モル付加物40質量部、ビスフェノールAのEO2モル付加物70質量部、テレフタル酸50質量部、無水トリメリット酸1質量部及びジブチルチンオキサイド0.5質量部とした以外は、結着樹脂製造例1と同様に縮合重合し、ポリエステルの結着樹脂2を得た。この樹脂の酸価は3.6mgKOH/gであり、水酸基価は22mgKOH/gであり、Tgは65℃であり、Mwは5万であり、THF不溶分は4質量%であった。
(結着樹脂製造例3)
結着樹脂製造例1において、モノマー構成を、ビスフェノールAのPO2モル付加物100質量部、イソフタル酸32質量部、テレフタル酸12質量部、無水トリメリット酸1質量部及びジブチルチンオキサイド0.5質量部とした以外は、結着樹脂製造例1と同様に縮合重合し、ポリエステルの結着樹脂3を得た。この樹脂の酸価は2.0mgKOH/gであり、水酸基価は54mgKOH/gであり、Mwは6万であり、Tgは52℃であり、THF不溶分は0質量%であった。
(結着樹脂製造例4)
結着樹脂製造例1において、モノマー構成を、ビスフェノールAのEO2モル付加物40質量部、テレフタル酸12質量部、無水トリメリット酸7質量部、ドデセニルコハク酸5質量部、及びジブチルチンオキサイド0.5質量部とした以外は、結着樹脂製造例1と同様に縮合重合し、ポリエステルの結着樹脂4を得た。この樹脂の酸価は42mgKOH/gであり、水酸基価は4.8mgKOH/gであり、Mwは28万であり、Tgは55℃であり、THF不溶分は5質量%であった。
(結着樹脂製造例5)
4つ口フラスコ内にキシレン300質量部を投入し、昇温して還流させ、スチレン80質量部、アクリル酸−n−ブチル20質量部、及びジ−tert−ブチルパーオキサイド2質量部の混合液を5時間かけて滴下して、Mwが1.5万の低分子量重合体(L−1)溶液を得た。
一方、4つ口フラスコ内に脱気水180質量部とポリビニルアルコールの2質量%水溶液20質量部を投入した後、スチレン75質量部、アクリル酸−n−ブチル25質量部、ジビニルベンゼン0.005質量部、及び2,2−ビス(4,4−ジ−tert−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン(半減期10時間温度;92℃)0.1質量部の混
合液を加え、撹拌し懸濁液とした。フラスコ内を十分に窒素で置換した後、85℃まで昇温して重合し、24時間保持した後、ベンゾイルパーオキサイド(半減期10時間温度;72℃)0.1質量部を追加添加し、さらに、12時間保持して高分子量重合体(H−1)の重合を完了した。
上記低分子量重合体(L−1)の均一溶液300質量部に上記高分子量重合体(H−1)25質量部を投入し、還流下で十分に混合した後、有機溶剤を留去して、スチレン系の結着樹脂5を得た。この結着樹脂の酸価は、0mgKOH/gであり、水酸基価は0mgKOH/gであり、Tgは57℃であり、Mwは30万であり、THF不溶分は0質量%であった。
(磁性トナーの製造例1)
・結着樹脂1: 100質量部
・ワックス: 3質量部
(低分子量ポリエチレン、DSC最大ピーク温度:102℃、Mn:850)
・磁性体粒子1: 95質量部
・アゾ系鉄化合物(1): 2質量部
(カウンターイオンはNH4 +)
上記原材料を、混合機であるヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)で予備混合した後、得られた予備混合物を、200rpmに設定した二軸混練押し出し機により、混練物の出口付近における直接温度が150乃至160℃となるように設定温度を調節し、混練した。得られた混練物を冷却し、カッターミルで粗粉砕した後、得られた粗粉砕物を、粉砕機であるターボミル(ターボ工業社製)を用いて微粉砕し、コアンダ効果を利用した多分割分級機を用いて分級し、重量平均粒径(D4)6.3μmの負帯電性磁性トナー粒子1を得た。
この磁性トナー粒子1の100質量部に対し、疎水性シリカ微粒子を1.0質量部添加し、混合機であるヘンシェルミキサー(三井鉱山社製)で外添混合し、磁性トナー1を得た。この磁性トナー1の物性を表2に示す。
(磁性トナーの製造例2〜7)
磁性トナーの製造例1において、表2に示すように、結着樹脂と磁性体粒子を変更し、粉砕、分級過程において、トナー粒子の重量平均粒径を調整した以外は、製造例1と同様にして、磁性トナー2〜7を得た。磁性トナー2〜7の物性を表2に示す。
(比較磁性トナーの製造例8〜11)
磁性トナーの製造例1において、表2に示すように、結着樹脂と磁性体粒子を変更し、粉砕、分級過程において、トナー粒子の重量平均粒径を調整した以外は、製造例1と同様にして、比較磁性トナー8〜11を得た。
〔実施例1〕
(評価1)
市販のLBPプリンタ(Laser Jet 4300、HP社製)を改造して、A4サイズ55枚/分(プロセススピード325mm/sec)とし、トナー充填部の容量を2倍とした改造プロセスカートリッジを搭載させた。
これを画出し試験機として、35℃、85%RHの高温高湿環境で、印字率1%となる横線パターンを2枚/1ジョブとして、ジョブとジョブの間にマシンがいったん停止させるモードでプリント試験を行った。
2万枚の耐久後、画像濃度を測定し、耐久初期の画像濃度と比較した。その結果、耐久前の反射濃度が1.50、耐久後の反射濃度が1.48であり、濃度安定性は良好であった。結果を表3に示す。
画像濃度は、反射濃度計であるマクベス濃度計(マクベス社製)でSPIフィルターを使用して、5mm角のベタ黒画像の反射濃度を測定することにより測定した。画像濃度の評価基準を以下に示す。
A:耐久前後の反射濃度の低下率が2%未満。
B:耐久前後の反射濃度の低下率が2%以上4%未満。
C:耐久前後の反射濃度の低下率が4%以上8%未満。
D:耐久前後の反射濃度の低下率が8%以上。
画像濃度評価後、引き続いて、印字率25%のハーフトーンパターンを10枚出力し、フェーディングの発生状況を確認した。その結果、印字率の高いハーフトーン画像を出力しても、フェーディングの発生はなく、ムラのない画像が得られた。結果を表3に示す。フェーディングの評価基準を以下に示す。
A:発生なし。
B:わずかに薄い部分がある。
C:明らかに帯状に濃度が薄くなる。
上記の評価終了後に、感光体表面の傷やフィルミングの発生状況を目視確認し、画像への影響を確認した。その結果、感光体傷やフィルミングの発生は確認されなかった。結果を表3に示す。評価基準を以下に示す。
A:非常に良好。
B:良好。感光体上に、わずかに傷又はフィルミングの発生が見られるが、画像への影響はほとんどない。
C:実用可。感光体上に、傷又はフィルミングの発生が見られるが、画像への影響は少ない。
D:実用不可。画像欠陥を生じる。
(評価2)
評価1で使用した画出し試験機を、15℃、10%RHの低温低湿環境に移動し、一晩放置した後、印字率1%となる横線パターンを1枚/1ジョブとして、ジョブとジョブの間にマシンをいったん停止させるモードで、さらに1000枚をプリントする試験を行った。その後、カブリと飛び散りを評価した。
カブリは、現像バイアスの交流成分の振幅を1.8kVに設定(よりカブリが悪化する条件。デフォルトは1.6kV)し、べた白を2枚プリントし、2枚目のカブリを以下の方法により測定した。
反射濃度計(リフレクトメーター モデル TC−6DS 東京電色社製)を用いて画像形成前後の転写材を測定し、画像形成後の反射濃度最悪値をDs、画像形成前の転写材の反射平均濃度をDrとし、Ds−Drを求め、これをカブリ量として評価した。数値の少ない方が、カブリが少ないことを示す。その結果、カブリ量は0.2で良好であった。結果を表3に示す。
飛び散りは、厚紙(105g/m2)にプリントした際の文字周辺部へのトナー飛び散りを目視で評価した。その結果、ほとんど飛び散りは見られず、鮮鋭な文字画像を得た。
カブリの評価基準を以下に示す。
A:0.5未満。
B:0.5以上1.0未満。
C:1.0以上2.5未満。
D:2.5以上。
飛び散りの評価基準を以下に示す。
A:ほとんど見られない。
B:飛び散りが見られるが気にならない。
C:飛び散りが著しい。
(評価3)
べた黒画像について色調測定を行い、磁性トナーの黒色度を定量的に評価した。
評価2に引き続き、べた黒画像の透過濃度が1.7となるように現像コントラストを調整後、A4用紙にてべた黒画像1枚を出力し、色調を測定した。透過濃度は、Macbe
th社の透過濃度計RD914型を用いて測定した値である。
色調測定は1976年に国際照明委員会(CIE)で規格された表色系の定義に基づき、定量的に測定した。測定機にはX−Rite社製分光測色計タイプ938を用い、観察用光源はC光源、視野角は2°とした。
その結果、a*が+0.31、b*が−0.37、L*が+20.5であった。
〔実施例2〜3及び参考例4〜7〕
磁性トナー2〜7を用いて、実施例1と同様に評価した。評価結果を表3に示す。
〔比較例1〜4〕
比較磁性トナー8〜11を用いて、実施例1と同様に評価した。評価結果を表3に示す。