JP4982847B2 - Ganpによる癌抑制遺伝子の活性化方法 - Google Patents
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Description
Fischer et al., EMBO J. 21:5843-52, 2002; Lei et al., Mol. Biol. Cell 14:836-47, 2003. Gallardo et al., J. Biol. Chem. 278:24225-32, 2003
すなわち、本発明は、細胞内においてGANP遺伝子の発現を促進することを特徴とする癌抑制遺伝子の活性化方法である。
また、本発明は、細胞内においてGANP遺伝子の発現を促進することを特徴とする、抗体の親和性を増大させる方法である。
さらに、本発明は、細胞内においてGANP遺伝子の発現を促進することを特徴とするDNA修復方法である。
さらに、本発明は、細胞内においてGANP遺伝子の発現を促進することを特徴とするゲノムの安定化方法である。
さらに、本発明は、GANP遺伝子を含む、抗腫瘍剤、抗ウイルス剤、DNA修復剤又はゲノムの安定化剤である。本発明の抗ウイルス剤において、ウイルスとしては、例えばHIV、HCVおよびHBVからなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
本発明は、GANP遺伝子を用いたp53癌抑制遺伝子の活性化方法及び抗体の親和性を増大させる方法である。
末梢B細胞が抗原刺激を受けると、末梢リンパ組織の胚中心において急速に抗体クローンの増大が引き起こされる。胚中心では、(i)V領域の体細胞突然変異が生じ、それに続いて、 (ii) 抗体の親和性成熟、クラススイッチ、メモリーB細胞への分化及びプラズマ細胞への分化が起こる。従って、胚中心では抗原特異的B細胞の増殖及び分化の場として極めて重要である。
GANPは、胚中心結合核タンパク質(Germinal center-associated nuclear protein)と呼ばれており、酵母Sac3タンパク質とホモロジーを有する210kDaの核タンパク質である(WO00/50611号公報)。そして、SAC3はアクチン形成の抑制物質として特徴づけられている。また、GANPは、濾胞樹状細胞(follicular dendritic cells: FDC)により囲まれる胚中心(germinal center, GC)B細胞において選択的にアップレギュレートされ、リン酸化依存性RNA-プライマーゼ活性を有し、B細胞の細胞周期調節に関与しているタンパク質である (Kuwahara, K. et al., (2000) Blood 95, 2321-2328)。
変異遺伝子の詳細並びに取得方法は国際公開WO00/50611号公報にも記載されている。
細胞が分裂・複製する際に娘細胞にゲノムを正しく伝播することは不可欠なことであるが、核内で速やかにゲノムの複製をして2つの娘細胞にゲノムを分配するプロセスではさまざまなゲノム損傷を伴うことは避けがたい。正常では細胞の分裂周期の各時期にチェックポイントをおいてゲノムの複製が正しく行われたか(S期)、遺伝子転写の際の損傷の程度は最小限度に抑えられているか(G2期)、そしてゲノムの分配を正しく行って細胞の分裂を完了したか(M期)についてのセンサーとして機能していると考えられている。このチェック機能によって正しくゲノムを娘細胞に伝えて生体内の恒常性を保っている。生体内では、様々な外界の環境によってゲノムの損傷の著しい場合がある。発ガン性物質、紫外線、放射線、酸化ストレス等のさまざまな細胞刺激によって修復能力を超えたゲノムの損傷が起こった場合には、この細胞を細胞死によって死滅させる働きを有している。ゲノムが安定に娘細胞に伝達されるためにはさまざまな細胞周期、DNA複製、修復、細胞分裂にかかわる分子が機能している。これらの細胞の機能の一部に障害が起こるとゲノムが正しく伝達されない状態となる。これを「ゲノム不安定性」という。ゲノム不安定性は、広義には染色体数の異常が起こることを意味し、狭義には遺伝子の転座、欠失又は変異を意味する。
活性化の対象となる癌抑制遺伝子は、特に限定されるものではないが、p53(多種の癌)であることが好ましい。
抗体分子の親和性亢進は、抗体遺伝子の可変領域(V領域)遺伝子に体細胞突然変異(SHM)が誘導されることによって生じる。抗体の抗原に対する特異性は、抗原を生体に免疫した当初から認められるが、初期の抗体の多くはIgMクラスであり、また抗原に対する結合親和性は高くなく、病原体や異物を除去して不活化する能力は低い。しかし、抗原を生体に投与して数回の追加免疫を行うと抗体の抗原に対する結合親和性が高まる。この際、B細胞はT細胞からの刺激が必要であり、末梢のリンパ組織の胚中心領域でその活性化が行われるとされている。V領域遺伝子の突然変異誘導に必要な分子としては、最近、胚中心で発現するRNAエディティング分子AIDであると報告されている。
そして、Sac3相同領域を有するGANPはHRを抑制するが、C末端MCM3-結合/アセチル化領域単独ではHRを促進することが示された。
また、本発明者は、B細胞においてのみGANP遺伝子をホモ欠損させた条件的ganp遺伝子ノックアウト(B-GANP-/-) マウスのB細胞においてCSRを検討した。
また、AIDの発現は、B細胞においてCSRに必要なDNA切断を制御すると考えられている。そこで、本発明者は、AIDトランスフェクションの影響を調べた。
AIDをコードするcDNAをB細胞に導入することによって、高頻度のDNA組み換えが起きたが、CSRに必要な領域を欠損した変異型AIDは、DNA組み換えを起こさなかった。興味深いことに、全長のGANPは、AIDによって誘導されるDNAの組み換えを抑制した。この結果は、GANPがAIDによって誘導されるDNA組み換えを抑制することを示すものである。この抑制は、DNA切断およびDSB修復の制御と同様のメカニズムによるものと考えられる。
その結果、GANPはDNAの組み換えをI-sceI によるDNA切断後に抑制していることを明確に示した。このことは、GANPはDNA組み換えによるDSB切断後のDNAの修復メカニズムに必要であることを示すものである。
従って、本発明においてはGANP遺伝子の発現を促進することによりDNAを修復させる方法を提供する。発現方法は、前記2.において説明した内容と同様である。
完全長のGANP cDNAは、NIH3T3細胞においてAIDによって生じるDNA組み換えを抑制した。これに対し、切断型の短いGANP(MCM3AP) cDNAは、それ自身によって顕著なDNA組み換えを引き起こしたが、完全長GANPの導入によって組換えが抑制された。なお、Sac3 相同部位、核局在配列及びRNAプライマーゼ領域を有するコンストラクトは、DNA組み換えの抑制活性を示した。
GANPのアミノ末端側のRNA結合必須配列を有する領域が欠損することで、DNAの組み換えにおいてGANPの抑制活性は消失した。
クラススイッチを検出する実験として、脾臓B細胞を、in vitroにおいてリポ多糖およびIL-4によって刺激しS領域およびCSRの胚転写(germinal transcription)の誘導の有無をRT-PCRによって検出する方法が信頼性が高い。
B-GANP-/- B細胞において、抗体のタイプは抗原刺激後にCμからCγ1及びCεに変化し、この変化は、野生型の対照と比較して異なるCSRの特徴を示した。このことは、B-GANP-/- B細胞においてCSRが上昇したことを示す。
このことは、IgV領域の遺伝子の体細胞突然変異(SHM)は、TD-Agで免疫した後のGC-B細胞の増殖および成熟の間においてDSBの誘導と関連することを示す。つまり、TD-Agでマウスを免疫した後は、マウスのGC-B細胞が増殖し、成熟する間にDSBが誘導される。このDSBがIgV領域の遺伝子のSHMの誘導に関連しているのである。
本発明は、GANP遺伝子(その一部の部分配列を含む)を含む、GANPの機能低下に起因する疾患を治療又は予防するための医薬組成物に関する。例えば、GANP遺伝子は、抗腫瘍剤、抗ウイルス剤として使用することができる。また、GANP遺伝子は、DNA修復剤やゲノムの安定化剤として使用される。
上記癌は、原発巣であっても、転移したものであっても、他の疾患と併発したものであってもよい。
デンプン:トウモロコシ、コムギ、イネ、ジャガイモまたは他の植物由来のデンプン
セルロース:メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース又はカルボキシメチルセルロースナトリウム等
ゴム:アラビアゴム、トラガカントゴム等
ゼラチン、コラーゲン等
所望により、架橋されたポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸又はその塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)等の崩壊剤又は可溶化剤を使用することができる。
(1)マウス
全てのマウスは、熊本大学の実験動物センターにおいて、空調下SPFで飼育した。ganp 遺伝子でfloxされた変異マウスおよびCD19-Creノックインマウスは、C57BL/6 バックグラウンドであり、ganp遺伝子プロモーターおよびexonIにおいて、既報(Kuwahara et al., 2004)の通り条件的ターゲティングを行った。
(2) 抗体免疫およびB細胞濃縮
マウス(8-20週齢)は、アルミナとともにニトロフェニル(NP)ニワトリγグロブリンの(CGG)腹腔内投与によって免疫した。一回の注射または二回目の追加免疫後、脾臓のB細胞をマグネティックビーズ(MACS beads, )によって精製し、さらに、PE結合GL7およびFITC結合Fas/CD95でJSANを用いたセルソーターにより濃縮した。細胞の濃縮は95%以上の純度であった。全RNAは、RNA easy kit (QIAGEN)によって抽出した。
(3) LacZベースのダイレクトリピート配列組み換え基質ベクター
LacZベースのダイレクトリピート組み換えDNA基質、pSVbeta-galactosidase 1351+757neoを、既報のコンストラクトを改変して生成した。βガラクトシダーゼ遺伝子の二つのHpaI部位を標的とし、それぞれ、二つの核酸を添加することによってXhoI部位(CTCGTGCC)を作製した。これによりフレームシフトを誘導し、酵素活性を不活性化する。組み換え基質のベクターは、図1に示すようなタンデムに並ぶ二つの異なる変異βガラクトシダーゼ遺伝子によって構築した。5'-側 LacZ'は、255ntの位置のHpaI部位の変異とともにXhoIへ挿入し、3'-側LacZ"は、289ntのHpaI部位における変異とともにXhoIに挿入した。
(4) ダイレクトリピート配列を有する余計な染色体LacZ DNAによるDNA組み換えアッセイ
NIH3T3 cells は、6 cm ディッシュにおいて60%コンフルエントで培養した。DNAトランスフェクションは、組み換え基質のプラスミド(各1μg)、およびI-SceIまたはGANPの発現ベクター、100 μlの無血清Dulbecco's Modified Eagle Medium、および20μlのPolyfect (Quiagen)で行った。βガラクトシダーゼの発現は、0.1Mリン酸ナトリウム(pH 7.0)、1 mM MgCl2および0.25% glutaraldehyde溶液中で固定化し、PBSで二回洗浄し、2μg/mlのX-gal、1 mM MgCl2, 150 mM NaCl, 3.3 mM K4Fe(CN)63H2O, 3.3 mM K3Fe(CN)6, 60 mM Na2HPO4, 40 mM NaH2PO4で染色することによって調べた。細胞は、12時間37℃でインキュベートし、LacZ陽性細胞を計数した。
(5)染色体相同組換えアッセイ
発現ベクターは、全長のganp cDNA、Xpress またはFLAGタグを付加した様々な切断型ganp cDNAを用いて、pCXN2発現ベクターに構築した。HA-tagを有するマウスMCM3 cDNAの発現ベクターおよびMyc-tagを有するマウスMCM5 cDNAは、Dr. H. Kimuraから提供された。マウスAID発現ベクターであるpCMV5amAID-HA-FLAGは既報のものを用いた。AID発現ベクターである、pEFXpress-mAID、およびXpress-mAID C末端欠損変異体(188-198)は、pCMV5amAID-HA-FLAGから改変した。I-sceIエンドヌクレアーゼ発現ベクター(pCAGGS-I-sceI;pcBAsce)は、M. Jasin博士から提供を受けた。本発明者は、pcBAsceを改変し、核局在シグナル(NLS)のHA配列の下流を挿入した。
(6)部位特異的な組み換え
一つの結合基質であるpJH200は、部位特異的なNHEJアッセイに用いた (Lieber et al., 1988)。本発明者は組み換え基質を発現ベクターGST-RAG1, GST-RAG2とともにトランスフェクトした。3日後、細胞をPBSで二回洗浄し、プラスミドDNAはアルカリ溶解法により抽出した。抽出されたプラスミドは全て、DH5αのトランスフォーメーションに使用した。トランスフォーメーションしたDH5αは、Camr/Ampr LBプレート上でインキュベートし、組み換えコロニーを数えた。
(1)方法
(i) マウス
C57BL/6 マウスはCharles River Japan (Yokohama, Japan)から購入した。すべてのマウスは、熊本大学実験動物センター(the Center for Animal Resources and Development (CARD))で飼育した。
抗p53, BRCA1, BRCA2, ATM, MDM2 および Mycウサギ抗体は、それぞれSanta Cruz Laboratories (Santa Cruz, CA)から入手した。抗α-tubulinマウス抗体および抗β-actinマウス抗体は、Sigma社(St. Lois, MO)から購入し、抗pericentrinウサギ抗体はConvance社(Princeton, NJ)から購入した。
マウス細胞株であるFM3A (breast cancer;乳ガン), Hepa 1-6 (hepatoma;肝臓癌)およびC1300 (neuroblastoma神経芽細胞腫)は、大日本製薬(Osaka, Japan)から購入した。FM3AおよびC1300は、10% 非働化 FCS (Biosource International, Camarillo, CA)、2mM L-グルタミン(Cambrex, Baltimore, MD)および5 x 10-5 M 2-mercaptoethanolを添加したRPMI-1640培地(Invitrogen, Carlsbad, CA) で培養した。Hepa 1-6、MEF(mouse embryonic fibroblast)および乳ガン細胞株は、10% FCS.を含有するDMEM 培地 (Invitrogen) で培養した。
ターゲティングベクターは、マウスganpゲノム遺伝子のプロモーター領域(EL-Gazzar et al., 2001)、エクソンIおよびエクソンIIの部分を、ネオマイシン耐性(neo)遺伝子で置換して構築した。TT2 ES細胞を、直線化したターゲティングベクターでトランスフェクトし、続いてコロニーをG418 (Invitrogen)で選択して、相同組み換え体を以下の二つのプライマーを用いたPCRによって選択した。
Neo2; 5'-GCCTGCTTGCCGAATATCATGG TGGAAAAT-3'(配列番号6),
B/B3'-1; 5'-ACCCCCAAGTCTCCCTTCTG-3' (配列番号7)
相同組み換え体は、プローブ2-3を用いたBamHI で消化したESクローンDNAのサザンブロット解析によって確認した。5-kbのバンドを有する陽性クローンを、ICR胚盤胞へのマイクロインジェクションによるキメラ創出マウスの作製に使用した。三つのプライマー(Neo2、ganp0-5'、n-5)を用いた尾部DNAのPCRによってマウスをスクリーニングし、同じ反応において両方のアリールを区別した。Ganp-/- 胎児は、雄と雌のganp+/-マウスを掛け合わせることによって得られた。膣栓を行った日をE0とした。
ganp0-5'; 5'-ATGCACCCGGTGAACCCCTT-3' (配列番号8)
n-5; 5'-CTCCAGACCCG CTACCAAG-3' (配列番号9)
癌試料は、4% パラホルムアルデヒドのPBS溶液で4 °C で 4 時間固定し、パラフィンで包埋し、6μmの厚さの切片に切断した。脱パラフィン化の後、切片を通常の方法でヘマトキシリンおよびエオシン染色した。
雌ganp+/-マウスから摘出した腫瘍を小片に切断し、トリプシン処理した。赤血球を溶血した後、細胞をDMEM/10% FCSを含む培養ディッシュに移した。翌日、浮遊した細胞を吸引により除去した。接着した細胞をDMEM/10% FCSで培養した。
ganp+/+ および ganp+/-マウス由来の乳ガン細胞株およびMEFをLab-Tek (Nalge Nunc International, Rochester, NY)チャンバースライド中で、5% CO2.存在下に37 °Cで一晩培養した。細胞は、3.7%パラフォルムアルデヒドのPBS溶液で3分間固定し、続いて0.2% Triton X-100で3分間透過処理した。3% BSA のPBS溶液でブロッキング後、スライドを1次抗体で1時間インキュベートした。2次抗体として、Alexa488-結合ヤギ抗マウスまたはウサギ抗体 (Invitrogen)を使用した。対比染色をpropidum iodide (PI)で行った。画像は共焦点レーザー顕微鏡(FV300; Olympus, Tokyo, Japan)で解析した。
SKY解析においては、中期の染色体をin vitroで培養したganp+/- マウスの乳ガン細胞から調製し、固定、染色体の染色、及び顕微鏡像の観察を行った。いくつかの細胞株において、中期の染色体をtrypan-Giemsaバンド法を用いて染色した。
細胞溶解物の全タンパク質の10μgをSDS-PAGEで分画した。ニトロセルロースフィルター膜に転写後、ブロットは5% 脱脂粉乳のPBS-0.1% Tween 20 (TBS-T)溶液でブロッキングし、一次抗体でインキュベートした。ブロットを、PBS-Tで数回洗浄し、続いてHRP結合2次抗体でインキュベートした。現像はECLキット(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)によって行った。β-actinの発現をローディング対照とした。
E11.5におけるGanp+/+ 及び ganp+/-胚を小片に切断し、20分間トリプシン処理した。細胞は、培養ディッシュにDMEM/10% FCS とともに蒔き、培地は2日おきに交換した。培養10日後に、SV40を感染させたCV-1 細胞の培養上清をMEF細胞株に添加した。増殖する細胞は、限界希釈によってクローン化した。SV40 large T-antigenの発現は、ウェスタンブロット解析によって確認した。
Ganp+/+ 及びganp+/- MEF 細胞は、ノコダゾールで指示された時間処理し、その後低張PI溶液(Kuwahara et al., 2001)に懸濁させた。4 °Cで2時間インキュベーションした後、サンプルをFACS キャリバー(BD Biosciences, Franklin Lakes, NJ)によりMODFIT LT ソフトウェアを用いて解析した。
Total RNAは、Trizol (Invitrogen)を用いて抽出し、oligo-dTプライマーによってcDNAを合成した。cDNAの量は、β-actin 転写産物によって標準化した。実験に用いたプライマーは、以下の通りである。
m-p53-F, 5'-GTACCTTATGAGCCACCCCGA-3';(配列番号10)
m-p53-R, 5'-CTTCTGTACGGCGGTCTCTC-3'; (配列番号11)
m-mdm2-F, 5'-CGACTATTCCCAACCATCG-3'; (配列番号12)
m-mdm2-R, 5'-CTAGTTGAAGT AACTTAGCACAAT-3'; (配列番号13)
m-Rb-F, 5'-GAAGTGTTTTATCATGATCC-3'; (配列番号14)
m-Rb-R, 5'-ATTAATGGTTCACCTCGAAC-3' (配列番号15)
p53 の最小プロモータを含み、pCXN2-ganp cDNAを含有しまたは含有しないpGV-CベクターでNIH-3T3細胞をPolyfect (QIAGEN, Valencia, CA)を用いてトランスフェクトした。30時間後、細胞をUVに曝露した。48時間後に、細胞のルシフェラーゼ発現をDual Luciferase Reporter System (Progema, Madison, WI)を用いた化学発色として測定した。
In situ RNA hybridizationは、文献に記載の方法で行った(Kondo et al., 1992)。シラン化したスライド上のMEF細胞株の細胞標本は、4%パラホルムアルデヒドで10分間固定し、p53の400bpの核酸プローブと50℃で一晩ハイブリダイズさせた。TNEバッファー(10 mM Tris-HCl, pH 7.6, 500 mM NaCl, and 1 mM EDTA)で37 °Cで洗浄し、1 x SSCで50 °Cで洗浄した後、スライドを、FITC結合抗ジゴキシゲニン抗体(Roche Diagnostics, Basel, Switzerland)で室温で1時間インキュベートした。画像は蛍光顕微鏡(BX51; Olympus)で解析した。
(i) ganp遺伝子の標的破壊
マウスのGANPの機能を調べるために、ターゲッティングコンストラクトを用いた相同組み換えによってganp+/- マウスを作製した。ベクターは、neo遺伝子カセットを用い、300-bp 5'-プロモーター領域(EL-Gazzar et al., 2001)、200-bp エクソン I、700-bp イントロン、およびエクソン IIのKozakコンセンサス配列部位を有する最初のATGコドンを含む100-bp を置換して構築した。
標的とした組み込みを有するESクローンを得た後、マウスを飼育した。そして、C57BL/6マウスと10世代以上交配した。
ホモ接合体ganp-/- マウスは、F2種を得るために300回以上試行しても生まれなかった。ganp遺伝子をターゲットしたマウスは、胎性致死であり、E12.5以上は生き延びることができなかった。この場合、胎児は、全身の臓器で特に胎児肝臓および心臓における大量出血を伴う様々な異常を示した。これらの結果は、GANPの発現は、胎児の成長に必要であることを示すものである。
ヘテロ接合体ノックアウトマウスは、異常なく生まれ、野生型マウスと比較して同じ体重、および似通った行動を示し異常なく成長するように見える。ヘテロ欠損(ganp+/-)マウスを長期に渡って観察すると、高い発生率で乳ガンが発症し(約50週後の雌マウスの35%) (図3)、寿命がわずかに短くなっていた(図4)。雄ganp+/- マウスの寿命は、対照の同腹マウスと比較してほぼ同程度であった。
ヘマトキシリン−エオシン染色によると、乳ガンの組織学的知見として、細胞および核の形状の異形および多様性を有する線腫様型であることが示された(図5)。癌の領域は、部分的にネクローシス(*: No. 2)、筋肉の浸潤 (**: No. 13)、および多くの有糸分裂細胞を伴う(矢頭, No. 2 及び No. 13)領域であった(図5)。
半定量的RT-PCR解析によって、サイクリンD1、サイクリンD2、およびc-mycの転写の増加が示された。乳ガン細胞をさらに特徴付けるために、16の腫瘍から細胞株としてin vitroで保持した。
すべての細胞株は、有糸分裂の間、解体した中心体の複製によって複数の紡錘体極を示した(図6)。その結果、異常な染色体の分離がおきた。これにより、染色体の数が増加した(図7)。大半の細胞株は、マウスの細胞の染色体数である40個をはるかに超え、細胞あたり約76個の染色体を有していた。このことは、細胞はゲノムとして通常2倍体(2N)であるのに対して、これらの細胞株では染色体数が適切に分配されなかった結果通常の倍数の4倍体(4N)を有することを示している。この現象は癌化した細胞で見られる染色体の分配異常からくるaneuploidyであり、ゲノム不安定性の重要な証拠となる。
SKY解析において、ほとんどの細胞が、染色体数の増加、トランスロケーションおよび欠損を生じ、染色体の異常を示した (図8)。腫瘍細胞の分子的および細胞的な異常は、p53の発現異常によって生ずる乳ガン細胞の異常と類似している。p53の欠損は、有糸分裂期の複数の中心体複製を伴う異常な細胞質分裂を引き起こす (Fukasawa et al., 1996)。ganp+/-マウスの乳ガン細胞株は、既に報告されているp53異常による細胞複製障害の際に見られるのと同様の中心体複製異常を示した(図6)。
マウスおよびヒトの乳ガンに関連する様々な分子に対するウェスタンブロット解析によって、p53の発現低下は最も劇的であり(図9)、p53のバンドは乳ガン細胞がプロテアソーム阻害剤であるMG132によって処理されたとしても確認することができないことが示された。これらの結果は、ganp+/-マウスで自然発生した乳ガンが、ゲノム不安定性を伴うp53欠損マウスと同様のメカニズムで発症することを強く示唆している。
ganp+/- 細胞の分子変化およびゲノム不安定性を研究するために、本発明者は、in vitroにおいてSV40 large T-antigen のcDNAでトランスフォーメーションしたMEF細胞株 (ganp+/- SV40-MEF)を樹立した。そして、ganp+/- マウスのMEF-細胞株と野生型(ganp+/+)のMEF-細胞株との間で細胞増殖および細胞周期の移行を比較した。但し、ganp-/- マウスからは、SV40をトランスフォームしたMEF-細胞株を得ることはできなかった。
p53タンパク質の発現は、WT ganp+/+ SV40-MEFまたはプレ-B細胞株 18.81 (対照)と比較して、ganp+/- SV40 MEFにおいて顕著に減少した(図10A)。p53は、ganp+/- SV40-MEFの細胞質においてわずかにスポット状に発現しているが、核においては明らかな発現シグナルは認められなかった (図10B)。
シスプラチンおよびMNNGで処理した場合は、ganp+/+ および ganp+/- SV40-MEF 細胞株間において細胞周期に変化は無かった。しかし、ganp+/- SV40-MEF は、ノコダゾール処理(50 ng/ml)で誘導されるアポトーシスに対して耐性を示したが、細胞周期の進行は維持した。このことは、対照であるWT SV40-MEF 細胞に極めて対照的であった (図11)。
ganp+/- MEF 細胞株におけるp53発現減少の原因を明らかにするために、本発明者はGANPが直接p53に結合するのかを調べた。しかしながら、細胞内におけるこれらのタンパク質の物理的な結合を明らかにすることはできなかった。その代わりに、ganp+/- SV40-MEFにおけるp53の転写産物の発現量は、対照である野生型細胞と比較して減少していた(図12)。β-actin、mdm2 およびRbなどの他の遺伝子の転写産物は、ほぼ正常であった。
さらに、本発明者は、p53遺伝子のプロモーター活性に対するGANPの直接的な影響を試験した。
その結果、最小のp53プロモーター領域を有するルシフェラーゼ発現コンストラクト(400-bp)を用いたレポーターアッセイによって、GANPの発現に関わりなく、p53の発現の転写活性は通常のレベルであることが示された。この領域は、UV照射後に確実にプロモーター活性を示すが、GANPの添加によってプロモーター活性は変化しなかった(図13)。これらの結果は、ganp+/- SV40-MEFにおけるp53の発現減少は、p53遺伝子の転写後に生じることを示している。
GANPの欠損細胞(ganp+/- MEF 細胞株)では、WT ganp+/+ MEF細胞株と比較して、β-actin、Mdm2 およびRbなどの他の遺伝子の転写産物について、mRNAの局在に関し明らかな変化は示されなかった (図15)。
図15において、「+/-」はWT ganp+/+ MEF細胞株、「+/-」はganp+/- MEF 細胞株を表す。「+/-」のパネルにおいて、左はβアクチン、中央はMdm2、右側はRbのmRNA局在を示す。
oligo-dTプローブを用いてポリA+ mRNAを検出した場合は、正常コントロールとして用いたganp+/+ MEF 細胞株と何ら異ならなかった。このことは、mRNA輸送におけるGANPの関与は、p53転写産物に対して選択的であることを示すものである。
ganp+/- SV40-MEFにおいて、p53 mRNAの核から細胞質への輸送に欠陥が生じることをさらに調べるために、本発明者はNIH-3T3細胞におけるp53 mRNAの局在が、siRNA法によりganp mRNAを抑制した後に変化するかどうかを検討した。
これらのデータは、GANPは核からの選択的なmRNAの輸送にとって必要であることを示している。
(1)方法および材料
(i) マウスおよび免疫
本実施例では、rag1/gfpノックインマウス(Kuwata et al., 1999)、B細胞のganp遺伝子を削除したB-GANP-/- マウス(CD19-Cre knock-inを用いた)、floxed ganp-遺伝子マウス(ganp遺伝子のエクソン2をloxP配列で挟んだアレルを有するマウス)、およびC57BL/6Jマウスを使用した(Kuwahara et al., 2004)。8〜12週齢の上記マウスに、Imject Alum (Pierce Biotechnology, Rockford, IL)を結合した100 μg NP28-CGG (Biosearch Technologies, Novato, CA)を腹腔内投与して免疫を行った。
脾臓のB細胞は、マウスB細胞単離キットおよびautoMACS (Miltenyi Biotec GmbH, Gladbach, Germany)を用いて濃縮した。得られたB細胞は、フィコエリトリン(PE)-抗B220 mAb (RA3-6B2; BD Pharmingen, San Diego, CA)およびフルオロセイン イソチオシアネート(FITC)-抗-マウスT- およびB-細胞活性化Ag (GL7, Ly-77; BD Pharmingen)で染色した。細胞は、PE抗Fas mAb (Jo2; BD Pharmingen)およびストレプトアビジン-Cy-ChromeTM (BD Pharmingen)と組み合わせてビオチン化抗-rat IgM (G53-238; BD Pharmingen) で染色した。FACS Vantage (Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ)によるソーティングは、GC-B細胞部分集団を純度>90%で分画した。
5(104 の細胞 (equivalents) から精製したDNAは、250 U のT4 DNA ライゲース (Nippon gene, Tokyo, Japan) を用いて、BWリンカー (0.2μM) と、全ボリューム50μl中16℃ で16 時間結合させた。次に、反応液を希釈し、PCR増幅を二つのPCRラウンド、すなわち、50℃ のアニーリングステップを10回行った後、64℃のアニーリングステップを28回行った。二回目のラウンドの反応は、1回目のラウンドの一定分量(1μl)を、25μlの反応に使用した。増幅反応は、リンカー特異的かつネスティドのプライマーであって遺伝子特異的プライマーのセットを用い、hotstart AmpliTaq Gold (Applied Biosystems, Foster City, CA)により行った。
2%アガロースゲルで分離したPCR産物をブロットし、その後γ-[32P]-ATP標識遺伝子特異的なオリゴヌクレオチドプローブでハイブリダイズさせた。対照として、Cμ領域を同量のDNAから増幅した。LM-PCRにおけるプライマーおよびリンカーのオリゴヌクレオチド配列およびプローブの調製は文献に記載の通りに行った(Papavasiliou and Schatz, 2000)。
AID用のプライマーおよびFAM標識プローブ、並びにGAPDHプライマーは、Applied Biosystemsから入手した。PCRはTaqMan Universal PCR Master Mixを用いて、ABI PRISM 7700 Sequence Detection SystemをSequence Detector version 1.6.3 software (Applied Biosystems)で操作して行った。遺伝子の発現は、ヘテロ接合体GANP+/- マウス由来のGL7+Fas- GC-B 細胞中のGAPDHと比較して定量した。すべての他の値はこの値に比較してプロットした。
(i) 成熟GL7+CD95/Fas+ GC-B cells におけるIgV領域のDSBの選択的な誘導
過去の研究において、TD-Agにより免疫を行うと、RAG1およびRAG2がGC-B細胞に再導入されることが明らかにされている。RAGはIgV領域のDSBに反応し得るかという疑問を解決するために、本発明者は、rag1/gfpノックインマウスを用いて、Green Fluorescent Protein (GFP)で標識したRAG1の再導入を解析した。
NP-CGで免疫したrag1/gfp ノックインマウスの脾臓からCD45R+ B 細胞を得、得られた細胞を、GL7およびRAGシグナルの発現に従って、GL7+ GFP- (G1) およびGL7+ GFP+ (G2) 画分にソートした (図17)。CD95/Fasの発現によって、GL7+ B 細胞をさらに二つの集団、すなわち未成熟移行型のB細胞と成熟GC-B細胞とに分けた。GFP-画分は、GFP+分画よりもCD95/Fasを大量に発現する。G1分画は、CD95/Fasを発現する34.8%の成熟GC-B細胞を含んでいたが、G2分画は、Fas+ 細胞 (13.0%)をほとんど有さず、そしてGL7- GFP- (G3)分画は1.48%であり、より少なかった。
ソートした細胞からゲノムDNAを精製した後、DSBレベルをLM-PCRを用いて検討した。
図18の上パネルで示すように、GL7+GFP- 細胞はDSBのレベルが低いが、GL7+GFP+ 細胞は高く、このことは、IgV領域遺伝子のDSBが、GC-B細胞においてRAGの発現とは無関係に生じていることを示している。DSBは、Cμ領域の測定(中央パネル)により示されるように、同じDNA量においてコントロール(下パネル)と比較して優先的にV領域遺伝子で存在していた。
本発明者は、次に、CD45R+GL7+をCD95/Fas-陽性および陰性の部分集団に分けることにより、IgV領域のDSBを表すB細胞の集団を特徴づけた(図19)。IgV-領域の DSBは、GL7+ CD95/Fas+部分集団に優性的に観察された(図20上パネル; 対照は図20中央パネルおよび下パネル)。このことは、IgV領域のDSBは、成熟GC-B細胞においてのみ生ずることを示している。
本発明者は、次に、抗原由来のB細胞においてIgV領域のDSBが生ずるのか、または増加するのかを調べるため、NP-CG/alumで免疫したマウスおよび alum(ミョウバン)-アジュバントのみで免疫したマウスにおける GC様B細胞のDSBレベルを比較した。
その結果、抗原免疫によって、GL7+ GC-B細胞におけるDSBレベルが増加したことから、NP-CGで刺激したB細胞においてVH-186.2領域でのDSBが生じることが示された(図21)。GL7+ B細胞の抗原非依存的条件では、アジュバント単独の投与によってDSBはほとんど誘導されなかった。この結果は、IgV領域のより多くのDSBがGC領域の抗原由来B細胞において誘導されることを示している。
GC-B細胞の分化におけるIgV領域のDSBの重要性を調べるため、本発明者は、TD-Agに対する高親和性抗体を産生することのできないB-GANP-/-マウスにおけるDSBの生成について検討した。
C57BL/6J と10回以上のバッククロス交配を繰り返してGANP遺伝子の欠損以外はすべてC57BL/6J と遺伝的に同一とした変異マウスをNP-CGで免疫し、IgV領域のDSBの産生を、対照の同腹仔、floxed ganp-遺伝子マウス、または場合によっては野生型C57BL/6Jマウスと比較した。GC-B細胞は、9日目にCD45R+ GL7+の集団にソートした。
その結果、対照との比較において、B-GANP-/- マウスは、GC-B細胞以外(CD45R+ GL7-)の集団では、VH-186.2領域の DSBsに何ら変化は無かった。これに対し、成熟GC-B細胞集団(CD45R+ GL7+ CD95/Fas+)においてDSBが劇的に減少した (図22; 上パネル)。これは、2回目のチャレンジのブースト後にも観察された(すなわち、最初の免疫後18日目)(図22;下パネル.)。これらの結果は、成熟GC-B細胞におけるGANPの発現は、抗原誘導性DNA切断の発生および/または解離後の過程に必要であることを示している。
本発明者は、IgV領域のDSBがGANP-/- GC-B 細胞において増加しているかを確認するため、マーカーとしてDNA修復分子の転写を比較した。Rad51 および Ku80 は、NP-CG で免疫した後にセルソーティングにより精製したGL-7+Fas+ GC-B 細胞を用いてリアルタイムPCRにより定量した。
その結果、DNA相同組み換えに必須であるRad51は、対照(図23、白カラム)と比べてGANP-/- 成熟 GC-B 細胞(図23、黒カラム)において4倍増加していた。この結果は、非相同末端結合修復に重要であるKu80でも同様であった。これらの観察結果は、抗原により刺激されたGC-B細胞に生じるV領域のDSBは、 TD-Agで免疫した後のB-GANP-/- マウスでは低頻度であることを示すものである。
DNAの校正だけでなくDSBの末端の修飾も、GC-B 細胞のAIDによって影響を受けると考えられる。このため本発明者は、AIDの転写が、IgV領域のDSBが生じるのと同じレベルのGC-B細胞集団で起こるかどうかを調べた。
AIDの転写は、GL-7+Fas+ GC-B細胞に制限されているようであり(図24)、このことは、AIDは同じ成熟度のGC-B細胞の母集団において選択的に発現していることを示している。驚くべきことに、B-GANP-/- マウスは、成熟GC-B細胞においてAIDの高い転写レベルを示した。この結果は、AIDの転写の増加だけではV領域のDSBを誘導しないことを示している。V領域のDSBのレベルは、GC-B細胞においてGANPの発現に依存しているというよりは、むしろAIDの発現に依存しているものと考えられる。
本発明によって、IgV領域遺伝子内のDSBは抗原に由来する成熟GC-B細胞において選択的に生じることが確認された。このB細胞はKi-67を発現する。GL-7+Fas+マーカーおよび高いレベルのDSBを有する成熟GC-B細胞は、増殖型の胚中心細胞である。IgV領域のDSBの誘導は、RAG1依存的及び抗原依存的であり、V領域に選択的である。
Jacobs等および Schatz 等は、IgV領域のDSBsの産生は、SHMにおいて不可欠な事項であると予想した。しかしながら、DSBの産生は、AIDの不在によってDSBの頻度が変わらなかったことから、SHMに必ずしも関係しないようである。この観察結果は、DSBがSHMの促進と直接関係する主なタイプのDNA損傷でないことを示唆する。
本発明者は、GANPを欠損すると、抗原に由来するGL7+Fas+ GC-B細胞において選択的に生ずる平滑末端のIgV領域のDSBの減少を引き起こすことを示した (図20)。この知見に対し、いくつかの機序が考えられる。一つは、GANPは抗原由来のB細胞においてDNAの損傷の産生に関与するというものである。もう一つは、GANPはDSB後の過程に関与するというものである。
GANPは、RNAプライマーゼとMCM3-結合/アセチル活性化という二つの機能的な領域を有しており、これらは転写制御分子との相互作用による転写制御に必要である。興味深いことに、B-GANP-/- マウスは、成熟GC-B細胞においてAID転写産物が顕著に増加しているのに対して、GL7+Fas- GC-B 細胞集団では増加は認められない(図24)。GANPは、成熟GC-B細胞において直接的にAIDの転写のレベルを制御しているものと考えられる。あるいは、B-GANP-/- マウスでは親和性抗体の産生が低いことを考慮すると、増加したAIDの転写は、in vivoで高親和性抗体を得るために持続的に刺激されるGC-B細胞の反応を単に示すものかもしれない。
Sac3相同領域を有するGANPは、免疫グロブリンV領域のDNA二本鎖切断(DSB)を制御し、T細胞依存性抗原に対する抗体の親和性成熟に必要である。Sac3の欠損は、Saccharomycesでは過剰なDNA相同組み換え(HR)を引き起こす。この原因については上述したようにまだ解明されていないが、Sac3がTHP1分子とともに遺伝子転写で産生されたRNA分子と複合体を形成し、酵母の核内から細胞質へ輸送する機能を有することが明らかにされている。そのRNA輸送はすべてのRNAに及ぶとされているが、機能の欠損によって核内に過剰のRNAが貯留する。その結果高度に相補的なRNAの存在によるDNAの複製傷害が引き起こされるものと解釈される。ほ乳動物細胞ではゲノム解析からはSac3と全く同一の構造を有する分子は存在しないとされる。GANP分子には中央部分にSac3相同部分があるものの、N末端側にはRNAプライマーゼ領域があり、C末端側にはMCM3結合領域がある。また、GANP欠損細胞では全くすべてのRNAの核外輸送が傷害されているという訳ではない。
本発明者は、ほ乳類細胞に発現しているGANPの機能に関して、特にDNA組み換えに焦点を絞って研究した。研究の手順として、以下の通り行なった。
(i) GANP欠損マウスの繊維芽細胞におけるHRに及ぼす機能を測定する。
(ii) NIH3T3細胞におけるHRに及ぼす機能の解析。これらは外来からHRを測定するためのレポーター遺伝子を挿入して測定した。
(iii) 免疫グロブリンの遺伝子改変における機能の解析としてRAG1とRAG2による遺伝子再構成を検討する。
(iv) V領域遺伝子の体細胞突然変異時における遺伝子修復における機能の検討。
(v) 免疫グロブリンクラススイッチにおける機能の検討。
本発明者は、従来の遺伝子ターゲティングによって3kbの5'プロモーター領域およびATG開始部位を含む200bpのエクソンI領域を除き、変異マウスを作製した(図3)。アリールをホモ接合性に欠損したマウス(ganpd/dマウス)は、胎生致死であった。SV40感染による不死化によって、in vitroで培養可能なMEF細胞株が、ヘテロなganp+/dマウスから作製された(MEFganp+/d)。このMEF細胞株を用いて、本発明者は組み換え基質としてコンストラクトを導入後、HRイベントを測定した(図1)。SV40プロモーター制御下のコンストラクトは、異なる部位におけるストップコドンによる2箇所が変異したβガラクトシダーゼのタンデムな並びによって作製し、MEF細胞株にエレクトロポレーションによりトランスフェクトした。
βガラクトシダーゼを産生するプラスミドは、E. Coli JM109株においてトランスフォーメーションを用いたアッセイによって測定した。HRまたは姉染色分体組み換えによる増殖性のβガラクトシダーゼ遺伝子の形成は、βガラクトシダーゼ活性を有するコロニーの頻度によって測定することができる。MEFganp+/dは、HRレポーターアッセイによって野生型MEFganp+/+よりもさらにHRを示した(4日目に7倍)。HRは、主に、介在性DNAの削除に伴って生じた。
HRの制御におけるGANPの役割を確かめるために、本発明者は、NIH3T3細胞において、同じDNA組み換え基質を用いてganp導入の効果を調べた。その結果、ganp cDNAの導入によって、用量依存的に細胞培養中の自然発生HRを抑制した。HRの阻害に必要な領域を、様々な切断型のganp cDNAを用いて調べた。MCM3AP領域のみを発現する切断型ganp(g-mcm3ap)は、それ自身により3倍のHRのレベルを引き起こし、これは、全長ganpの共導入によっても阻害された。Sac3-相同領域の機能領域、核酸局在配列、およびRNAプライマーゼ領域を有するコンストラクトは、自然に生じるHRの活性を完全に抑制した。HRの阻害活性は、GANPのSac3相同領域に依存し、特に、酵母Sac3と高い相同性を有する200アミノ酸に依存する。これらの結果は、GANPはSac3相同領域を介して、Sac3に似た機序によってDNA切断およびDSB修復の制御に役割を担っていることを示している。
末梢リンパ組織では、抗原刺激を受けたB細胞が、胚中心(GC)において高親和性かつクラススイッチ成熟B細胞を産生するV領域の体細胞突然変異(SHM)とクラススイッチ組み換え(CSR)によるIg遺伝子の遺伝子変化を経て、T細胞依存的な免疫応答を行う。GC-B細胞におけるIg V領域のSHMおよびCSRは、AIDにより開始される。AIDは、RNAエディティング酵素をコードするApobecI遺伝子への相同性によりRNAおよびDNAのデアミネーション活性を有することが知られている。Ig-遺伝子におけるシチジンのデアミネーションに続いて、ウラシル−シチジン核酸グリコシル化がおき、GC-B細胞における転写またはDNA複製の間、DNA切断が生じる。V領域のSHMにはV領域のDSBが挿入されることが明らかにされているものの、実際にSHMとどの程度関係するのかについてはまだ結論が出ていなかった。
本発明者は、V領域のDSBが確かに抗原に反応するGC-B細胞で高頻度におこり、このことがGANP分子によって制御されていること、そしてB細胞のIgV領域SHMと関連することを明らかにした。しかし、そのDSBの修復がNHEJRによるのかそれとも遺伝子相同組み換え(HR)のどちらか一方によって行われるのかに関しては明らかになっていない。Ig CSRにおいて、DSBはC領域の5'末端に位置する転写的に活性なS領域において起き、次に環状DNAとして介在領域を切り出した後、NHEJRにより結合されると考えられている。しかし、最近の研究において、S領域のDSBが、例えば、重症複合免疫不全(SCID)マウスのB細胞のCSRにおけるS領域のマイクロホモロジー配列のHRなどの他の機序によっても修復されることが報告されている。
Ig遺伝子再配列のDNA組み換え機序は、Lieberら(Lieber et al., 1988)によってこれまでに報告されている、二つの異なる由来のRSSのレポーターコンストラクトを用いることによって特に特徴づけられる。ここで、本発明者は、pJH202およびpML110プラスミドを作製し、NIH3T3細胞にRAG1およびRAG2発現ベクターを導入することによって、二つのタイプのIg遺伝子再配列のシグナル結合及びコーディング結合を検出した。RAG1及びRAG2の発現は、組み換えアッセイ前に確認した。再配列の頻度は、同じ量のプラスミドトランスフォーメーション混合液を用いた、アンピシリンおよびクロラムフェニコール選択培地上で生育した総コロニー数からアンピシリン耐性(AmpR)コロニーを抜くことによって選出した。完全長のganp cDNAの導入は、mockトランスフェクト又はg-mcm3ap cDNA(pML110プラスミドによるコーディング結合頻度検出用cDNA)と比較して、RAGを介したRSS再配列の重大な変異を示さなかった。繰り返し実験を行なってみても、GANPはRSSにおいて実行されるIg遺伝子の再配列においては、何ら制御効果を示さなかった。従って、GANPはNHEJRよりもHRによって修復されるDNA傷害に有効であることが明らかになった。
B-ganp-/-マウスのGC-B細胞は、コントロールマウスと比較して、免疫9日後において顕著なVH186.2-Cμのバンドを示した。Cγ3、Cγ2aおよびCγ2bとVH186.2とのクラススイッチしたバンドは、コントロールと類似していた。しかし、それらは、Cγ1クラスでのバンドをより増加させていた。B-ganp+/-およびコントロールマウス両方からのFas-GC-B細胞は、VH186.2-μバンドの同様のレベルを示した。この結果は、CSRおよび環状DNAを検出するゲノムPCR解析によってさらに確認された。
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Claims (3)
- 細胞内においてGANP遺伝子の発現を促進することを特徴とするDNA修復方法であり、前記GANPがDNAの相同組換えを阻害することを含む、前記方法。
- ゲノムが安定化することを含む方法であって、前記ゲノムの安定化が、GANPが損傷DNAを過剰な相同組換えから保護することによるものである、請求項1に記載のDNA修復方法。
- GANP遺伝子を含む、ゲノムの安定化剤であって、前記ゲノムの安定化が、GANPが損傷DNAを過剰な相同組換えから保護することによるものである、前記安定化剤。
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