しかしながら、特許文献1に記載されている動力伝達装置は、環状のダンパーゴム90に薄肉部90a、90bを設け、これらの薄肉部をリベット102、103によってプーリ4と回転伝達部材17に直接結合した構造を採っているため、その結合箇所に応力が集中しダンパーゴム90に亀裂が生じたり破断し易いという問題があった。特に、ダンパーゴム90の薄肉部90bを回転伝達部材17の接続部17nに重ね合わせて、これら2部材をリベット103で結合した構造であると、回転伝達部材17の環状基部17aと接続部17nが連結片17kの弾性復帰力により、ハブ6方向に弾性変形しようとするため、リベット103が傾いたり倒れてしまう。このような状態で動力が伝達されると、応力集中によりダンパーゴム90の薄肉部90bに亀裂が生じたり、回転伝達部材17の接続部17nが破断したりするため、ダンパー機構100の構成部品の耐久性やトルクリミッタ機構7としての作動の信頼性を低下させる。
また、回転伝達部材17の接続部17nをリベット103によりダンパーゴム90の薄肉部90bに連結しているため、動力伝達装置のコンプレッサ2への組立手順は以下のようになる。先ずダンパーゴム90をプーリ4の環状凹部45に組込み、薄肉部90aをプーリ4の円板部4cにリベット102によって固定する。次に、ダンパーゴム90の薄肉部90bに、回転伝達部材17の接続部17nをリベット103によって固定する。そして、プーリ4をハウジング3の円筒部3Aにベアリング9を介して装着してから、ハブ6を回転軸5に装着する。
しかる後、回転伝達部材17の連結片17kをハブ6側に弾性変形させて、被挟持部17cをハブ6と挾持板16の間に差込む。そして、最後にボルト101を締め付けて挾持板16をハブ6に固定し、被挟持部17cをハブ6と挾持板16とで挟持する。しかしながら、このような組立手順では、ダンパーゴム90をプーリ4に組み込んだ後、ハブ6を回転軸5に取付けて回転伝達部材17の被挟持部17cをハブ6と挾持板16によって挟持しなければならないため、作業工程数が多く、コンプレッサ2への動力伝達装置の組立作業が面倒で、その作業時間も長くなるという問題があった。
本発明は、上記した従来の問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、組立作業性を向上させるとともに、ダンパーゴムの捩り変形を制限することにより亀裂、破断等を防止し得るようにした動力伝達装置を提供することにある。
上記目的を達成するために本発明は、駆動側回転部材と、この駆動側回転部材の回転が伝達される従動側回転部材と、この従動側回転部材に取付けられた挟持板と、被挟持部が前記挟持板と前記従動側回転部材によって離脱可能に挟持された回転伝達部材と、この回転伝達部材と前記駆動側回転部材との間に介装されたダンパー機構とを備え、前記ダンパー機構は、前記駆動側回転部材の環状凹部内に配設された駆動側ダンパー保持部材および従動側ダンパー保持部材と、これらのダンパー保持部材間に固着されたダンパーゴムと、前記駆動側ダンパー保持部材を前記駆動側回転部材に固定する固定手段と、前記回転伝達部材の接続部を前記従動側ダンパー保持部材に固定する締結手段とを有し、前記締結手段を前記従動側ダンパー保持部材に一体的に設けられた第1の締結部材と、この第1の締結部材に螺合する第2の締結部材とで構成したものである。
また、本発明は、上記発明において、前記固定手段と前記第1の締結部材が前記駆動側回転部材の周方向において近接して対向するものである。
また、本発明は、上記発明において、ダンパーゴムの捩り変形時の前記ダンパーゴムと第1の締結部材、固定手段との接触を防止する空間部を前記ダンパーゴムに形成したものである。
また、本発明は、上記発明において、前記第1の締結部材と前記固定手段の少なくともいずれか一方を衝撃吸収部材によって被覆したものである。
また、本発明は、駆動側回転部材と、この駆動側回転部材の回転が伝達される従動側回転部材と、この従動側回転部材に取付けられた挟持板と、被挟持部が前記挟持板と前記従動側回転部材によって離脱可能に挟持された回転伝達部材と、この回転伝達部材と前記駆動側回転部材との間に介装されたダンパー機構とを備え、前記ダンパー機構は、前記駆動側回転部材の環状凹部内に配設された駆動側ダンパー保持部材および従動側ダンパー保持部材と、これらのダンパー保持部材間に固着されたダンパーゴムと、前記回転伝達部材の接続部を前記従動側ダンパー保持部材に固定する締結手段とを有し、前記駆動側ダンパー保持部材を前記駆動側回転部材の前記環状凹部内に圧入固定し、回転防止手段によって前記駆動側ダンパー保持部材の回転を防止したものである。
さらに、本発明は、駆動側回転部材と、この駆動側回転部材の回転が伝達される従動側回転部材と、この従動側回転部材に取付けられた挟持板と、被挟持部が前記挟持板と前記従動側回転部材によって離脱可能に挟持された回転伝達部材と、この回転伝達部材と前記駆動側回転部材との間に介装されたダンパー機構とを備え、前記ダンパー機構は、前記駆動側回転部材の環状凹部内に配設されたダンパー保持部材と、前記環状凹部の内壁と前記ダンパー保持部材間に固着されたダンパーゴムと、前記回転伝達部材の接続部を前記ダンパー保持部材に固定する締結手段とを有し、前記締結手段を前記従動側ダンパー保持部材に一体的に設けられた第1の締結部材と、この第1の締結部材に螺合する第2の締結部材とで構成したものである。
従動側ダンパー保持部材を締結手段によって回転伝達部材に固定した発明においては、ダンパーゴムを回転伝達部材に直接固定していないので、ダンパーゴムに応力が集中せず、ダンパーゴムの亀裂、破断等を防止することができる。また、回転軸に駆動側回転部材と従動側回転部材を装着した後で、回転伝達部材と従動側ダンパー保持部材を締結手段によって簡単に連結することができる。締結手段を構成する第1、第2の締結部材としては、ボルトおよびナット等が用いられる。固定手段としては、止めねじ、リベット、ピン、ボルトおよびナット等が用いられる。
固定手段と第1の締結部材を近接して対向させた発明においては、負荷変動によりダンパーゴムの捩り変形量が大きくなると、固定手段と第1の締結部材が当接することで、ダンパーゴムのそれ以上の捩れ変形を抑制する。したがって、ダンパーゴムに亀裂が生じたり破断するのを防止することができる。
負荷変動時にダンパーゴムが捩れ変形して第1の締結部材や固定手段に当接すると、その部分またはその周辺部に応力が集中し、ダンパーゴムに亀裂や破断が生じる。そこで、ダンパーゴムに第1の締結部材と固定手段の周囲を取り囲む空間部を設けておくと、ダンパーゴムが第1の締結部材や固定手段に当たらず、ダンパーゴムの亀裂や破断が防止される。
第1の締結部材と固定手段のうち少なくともいずれか一方を衝撃吸収部材によって被覆した発明においては、負荷変動により第1の締結部材と固定手段が当接したときの衝撃を衝撃吸収部材によって吸収するため、ダンパーゴムの亀裂や破断、回転伝達部材の離脱が抑制される。衝撃吸収部材としては、駆動側ダンパー保持部材と従動側ダンパー保持部材との間に加硫ゴム材料を充填して固化しダンパーゴムを形成するとき、第1の締結部材および/または固定手段もダンパーゴムによって被覆し、その被覆部分を衝撃吸収部材とすれば、ダンパーゴムと衝撃吸収部材を一工程で製作することができる。また、ゴム等の弾性材料からなるキャップを衝撃吸収部材として用い、第1の締結部材および/または固定手段に被冠してもよい。
駆動側ダンパー保持部材を駆動側回転部材の環状凹部内に圧入固定するようにした発明においては、別部材からなる固定手段を必要とせず、部品点数を削減でき、また簡単に組み付けることができる。さらに、回転防止手段によって駆動側ストッパー部材の回転を防止するようにしているので、圧入による結合力が弱かったり、動力伝達時の衝撃やトルク変動によって駆動側ダンパー保持部材が回転するおそれがなく、ダンパーゴムの亀裂、破断等を防止することができる。回転防止手段としては、互いに係合する突起と係合部等が用いられる。
駆動側回転部材の環状凹部の内壁にダンパーゴムを加硫接着した発明においては、部品点数の削減および構造の簡素化を図ることができる。
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係る動力伝達装置の第1の実施の形態を示す正面図、図2は図1のII−II線断面図、図3は駆動側回転部材の正面図、図4は図3のIV−IV線断面図、図5は駆動側回転部材の背面図、図6(a)、(b)は挟持板の正面図および断面図、図7(a)〜(d)は回転伝達部材の正面図、側面図、ハブに回転伝達部材を取付けた状態を示す図および回転伝達部材を駆動側回転部材に連結した状態を示す図である。これらの図において、全体を符号1で示す動力伝達装置は、駆動側回転部材であるプーリ4を備えている。
前記プーリ4は、中心孔4dを有する円板部4aと、この円板部4aの外周縁と内周縁にそれぞれ前方(図2の右方)に向かって一体に突設された外側円筒部4bおよび内側円筒部4cとで構成されることにより、前方に開放する環状凹部11を有している。外側円筒部4bは、外周面に複数のV溝12が形成されており、この外側円筒部4bに駆動側機器としての自動車エンジンの動力が図示を省略したVベルトを介して伝達されるように構成されている。一方、内側円筒部4cは、コンプレッサ2のハウジング3に設けた円筒部3Aにベアリング9を介して回転自在に軸支されている。
コンプレッサ2の回転軸5は、一端部がハウジング3の円筒部3Aより外部に突出し、その突出端部に従動側回転部材としてのハブ6がスプライン結合され、かつ六角穴付きボルト14によって固定されている。
前記ハブ6は、鋼材によって形成され、回転軸5の軸端にスプライン結合されたボス部6Aと、このボス部6Aから半径方向外側に延びる円板状のフランジ部6Bとを一体に備えている。フランジ部6Bの裏面には、挟持板20が3個のリベット21によって固定されている。このため、フランジ部6Bと挟持板20には、前記リベット21が挿通される3個の挿通孔22、23が周方向に等間隔おいてそれぞれ形成されている。リベット21は、挟持板20の後方から挿通孔22、23に挿通され、先端部がフランジ部6Bの前方に突出してかしめられることにより、フランジ部6Bと挟持板20を一体的に結合している。また、フランジ部6Bの外周には、3個の挟持部6C(図1)が周方向に等間隔おいて一体に突設されている。
前記挟持板20は、図6に示すようにばね用鋼板等によって、中心孔20aを有する円板部20Aと、この円板部20Aの外周に周方向に等間隔おいて一体に突設された3つの挟持部20Bとで構成されている。円板部20Aは、ハブ6のフランジ部6Bと略同一の大きさで、前記挿通孔23が前記ハブ6の各挿通孔22に対応して形成されている。各挟持部20Bは、前記ハブ6の挟持部6Cに重ね合わされることにより、回転伝達部材24の被挟持部24Dを前記挟持部6Cとともに離脱可能に挟持する。各挟持部20Bには、係止孔25がそれぞれ形成されている。
前記回転伝達部材24は、図2および図7に示すように、ばね用鋼板等によって全体が略円板状に形成されており、略三角形の中心孔24aを有する環状の本体24Aと、この本体24Aの周囲をスリット24bを介して取り囲む3つの連結片24Bとを備え、前記プーリ4および前記ハブ6とともにトルクリミッタ機構26を構成している。連結片24Bは、本体24Aの外周に周方向に等間隔おいて円弧状に形成され、前端(回転伝達部材24の回転方向側端部)が、本体24Aに接続部24Cを介して連結されることにより、板厚方向に弾性変形自在に片持支持されている。一方、連結片24Bの後端部(回転伝達部材24の反回転方向側端部)は、前記被挟持部24Dを形成しており、前記ハブ6と挟持板20の挟持部6C、20Bによって離脱可能に挟持されている。
また、前記連結片24Bは、前端が図7(a)に示すように連結片24Bの長手方向に対して斜めの折り曲げ線27に沿って折り曲げられることにより、図7(b)に示す自然状態において本体24Aに対して角度γをもって傾斜している。
前記接続部24Cは、本体24Aと連結片24Bとを連結する部分であって、本体24Aと同一の平面を形成している。接続部24Cの中央には、ボルト28が挿通される取付孔29が形成されている。
前記被挟持部24Dは、連結片24Bの中心線に対して直交する折り曲げ線30に沿って図7(b)に示すように裏面側(本体24A側)に所要角度(θ)折り曲げられている。被挟持部24Dの裏面中央には、挟持板20との結合強度を高めるために前記係止孔25に係入される半球状の係合部31が一体に突設されている。そして、被挟持部24Dは、連結片24Bの弾性変形によって前方に変位されハブ6の挟持部6Cと挟持板20の挟持部20Bにより挟持される。
図2〜図4に示すように、前記プーリ4と前記回転伝達部材24は、運転時のトルク変動や衝撃を緩衝するダンパー機構50を介して連結されている。このダンパー機構50は、前記プーリ4の環状凹部11内に組み込まれた駆動側ダンパー保持部材51および従動側ダンパー保持部材52と、前記駆動側ダンパー保持部材51をプーリ4に固定する固定手段としてのリベット53と、駆動側ダンパー保持部材51と従動側ダンパー保持部材52間に固着されたダンパーゴム54と、前記従動側ダンパー保持部材52に回転伝達部材24の接続部24Cを固定する締結手段55等で構成されている。
前記駆動側ダンパー保持部材51は、円筒状の保持部51aと、この保持部51aの後端に周方向に等間隔おいて半径方向内側に折曲げ形成された3つの取付部51bとで構成されている。これらの取付部51bは、プーリ4の円板部4aの内面にそれぞれ密接され、前記リベット53をかしめることによって固定されている。
前記リベット53は、図4に示すように円柱状の頭部53Aと、かしめ部53Bと、頭部53Aとかしめ部53Bを連結する連結部53Cとで構成されている。頭部53Aは駆動側ダンパー保持部材51の内側に位置し、連結部53Cは駆動側ダンパー保持部材51の取付部51bに設けた挿通孔58と、プーリ4の円板部4aに設けた挿通孔59に挿通され、かしめ部53Bがプーリ4の背面側に突出して挿通孔59にかしめ固定されている。
前記従動側ダンパー保持部材52は、駆動側ダンパー保持部材51より小径の円筒状に形成された保持部52aと、この保持部52aの前端に周方向に等間隔おいて半径方向外側に折曲げ形成された3つの取付部52bとからなり、環状凹部11内に非固定状態で配設されている。また、この従動側ダンパー保持部材52は、取付部52bが駆動側ダンパー保持部材51の取付部51bに対してプーリ4の回転方向側に角度α(例えば、20°)だけ離間するように駆動側ダンパー保持部材51に対して配設されている。そして、従動側ダンパー保持部材52の取付部52bには、前記回転伝達部材24の接続部24Cが前記締結手段55によって固定されている。
前記締結手段55は、前記取付部52bの裏面に溶着等によって固定された第1の締結部材としてのナット56と、このナット56のねじ孔64に螺合する第2の締結部材としての前記ボルト28とで構成されている。ナット56は、一端が閉塞した筒状のナットで構成され、前記リベット53の頭部53Aと円周方向において近接して対向している。また、ナット56は、リベット53よりプーリ4の回転方向側に位置している。ボルト28は、接続部24Cの取付孔29および取付部52bの孔57に挿通され、ナット56のねじ孔64にねじ込まれることにより接続部24Cを取付部52aの前面に固定する。
前記ダンパーゴム54は、前記駆動側ダンパー保持部材51の保持部51aと、前記従動側ダンパー保持部材52の保持部52aの対向面間にゴム材料を充填し固着されることにより環状に形成され、これら両保持部51a、52aを互いに連結している。このようなダンパーゴム54は、駆動側ダンパー保持部材51と、締結部材55が取付部52bに一体的に取付けられた従動側ダンパー保持部材52を金型内に対向させて装着し、保持部51aと保持部52aとの間の空間部に加硫ゴム材料を充填して固着させることにより形成される。
また、ダンパーゴム54の成形に際しては、動力伝達装置1の運転時の負荷変動等によりダンパーゴム54が捩り変形したとき、ダンパーゴム54とリベット53、ナット56が接触しないようにするために、ダンパーゴム54にリベット53とナット56の周囲を取り囲む空間部63を形成する。このような空間部63をリベット53とナット56の周囲に形成しておくと、ダンパーゴム54が捩り変形したときリベット53の頭部53Aやナット56が空間部63の壁面に当たらないから、ダンパーゴム54の亀裂や破断を防止することができる。
さらに、ダンパーゴム54の成形に際してナット56を衝撃吸収部材65によって被覆する。衝撃吸収部材65の材質としては、加硫ゴム材料が用いられ、ダンパーゴム54の形成と同時に形成される。すなわち、駆動側ダンパー保持部材51と従動側ダンパー保持部材52との間に加硫ゴム材料を充填して固化しダンパーゴム54を形成するとき、ナット56の表面もダンパーゴム54によって被覆し、その被覆部分を衝撃吸収部材65とする。このようにダンパーゴム54と衝撃吸収部材65を同一材料で同時に形成すれば、一工程で製作することができるため製造が容易である。
このような衝撃吸収部材65によってナット56を覆っておくと、プーリ4の回転変動やコンプレッサ2側の負荷変動等によりリベット53とナット56が互いに当接したときの衝撃を衝撃吸収部材65の弾性変形によって吸収することができる。なお、ナット56に限らずリベット53も衝撃吸収部材65によって被覆してもよい。
このような動力伝達装置1の組立に際しては、先ずナット56が取付けられたダンパー機構50をプーリ4の環状凹部11内に組込み、リベット53の連結部53Cとかしめ部53Bを駆動側ダンパー保持部材51とプーリ4の孔58、59に挿通してかしめ部53Bをプーリ4の後方に突出させる。そして、かしめ部53Bをかしめることにより駆動側ダンパー保持部材51の取付部51bをリベット53によってプーリ4の円板部4aの内面に固定する。
次に、プーリ4をコンプレッサ2の円筒部3Aにベアリング9を介して回転自在に装着してから、トルクリミッタ機構26を回転軸5に装着する。トルクリミッタ機構26は、予め回転伝達部材24の被挟持部24Dをハブ6の挟持部6Cと挟持板20の挟持部20Bとの間に差込み、リベット21によってハブ6のフランジ部6Aと挾持板20の円板部20Aを一体的に結合することによりユニット化されている。したがって、ハブ6を回転軸5にスプライン結合し、ボルト14によってハブ6を回転軸5に固定すれば、トルクリミッタ機構26の回転軸5への取付けが終了する。
回転軸5に対するトルクリミッタ機構26の取付けが終了すると、回転伝達部材24の連結片24Bをプーリ4側に弾性変形させて接続部24Cを従動側ダンパー保持部材52の取付部52bに密接する。そして、ボルト28を接続部24Cの取付孔29および取付部52bの孔57に挿通してナット56のねじ孔64にねじ込むことにより、接続部24Cを取付部52bに固定する。これにより、プーリ4とハブ6がトルクリミッタ機構26を介して分離可能に連結され、動力伝達装置1の組立が完了する。
このような動力伝達装置1において、エンジンからの動力は、プーリ4−リベット53−ダンパーゴム54−ナット56−ボルト28−回転伝達部材24−ハブ6および挟持板20を経て回転軸5に伝達される。
動力伝達中において、ダンパー機構50は、プーリ4からハブ6に伝達されるトルク変動や衝撃をダンパーゴム54の弾性変形によって効果的に緩衝する。したがって、動力伝達時の衝撃や動力伝達中における過負荷に至らない程度のトルク変動によって回転伝達部材24の被挟持部24Dに加わる張力が軽減され、被挟持部24Dがハブ6と挟持板20との間から不必要に抜け出るようなことはない。
何らかの原因、例えばコンプレッサ2に加わる過負荷によって回転軸5が停止すると、自動車エンジンの動力で回転伝達部材24によるプーリ4とハブ6の結合状態が解除される。すなわち、回転軸5が停止した後も、プーリ4は回転し続けているため回転伝達部材24を回転させ続けようとする。このため、回転に伴う引張力がハブ6と挟持板20とによる挟持力に打ち勝つと、被挟持部24Dがハブ6と挟持板20との間から離脱してプーリ4とハブ6の摩擦結合を解除する。回転伝達部材24は、プーリ4とハブ6との摩擦結合が解除されると、連結片24Bの弾性復帰により図7(b)に示す自然な状態に戻るため、被挟持部24Dは挟持板20の後方側に移動する。したがって、トルクリミッタ機構26は、被挟持部24Dが離脱した後は回転伝達部材24がハブ6、挾持板20と干渉するおそれがなく、プーリ4の回転伝達を確実に遮断することができる。
このように本実施の形態においては、ダンパーゴム54を回転伝達部材24に直接固定せず、駆動側ダンパー保持部材51と従動側ダンパー保持部材52および締結手段55を介して固定しているので、ダンパーゴム54に応力が集中せず、ダンパーゴム54の亀裂、破断等を防止することができる。
また、従動側ダンパー保持部材52にナット56を一体的に設けているので、ダンパー機構50が組み込まれたプーリ4をハウジング3の円筒部3Aに取付け、トルクリミッタ機構26が組み込まれたハブ6を回転軸5に装着した後で、回転伝達部材24の接続部24Cを従動側ダンパー保持部材52の取付部52bに重ね合わせ、ボルト28をナット56に螺合することにより、動力伝達装置1を組立てることができ、組立作業が容易である。
また、ダンパーゴム54は、環状に形成されているので、ダンパー効果が大きく、動力伝達中においてプーリ4からハブ6に伝達されるトルク変動や衝撃を効果的に緩衝する。また、ダンパーゴム54が捩り変形したとき、リベット53とナット56が当接してダンパーゴム54の過大な捩れ変形を抑えるため、ダンパーゴム54の亀裂、破断等を未然に防止することができる。
また、ダンパーゴム54に空間部63を形成し、捩れ変形時にリベット53やナット56が空間部63の壁面に接触しないように構成したので、ダンパーゴム54に過大な応力が加わるおそれがなく、ダンパーゴム54の亀裂、破断等を防止することができる。
また、ナット56を衝撃吸収部材65によって被覆しているので、リベット53とナット56が当接したときの衝撃を衝撃吸収部材65によって吸収することができ、ダンパーゴム54の亀裂、破断や回転伝達部材24の被挟持部24Dの離脱等を防止することができる。
さらに、衝撃吸収部材65をダンパーゴム54と同一材料からなる加硫ゴム材料によって一体に形成したので、部品点数および組立工数を削減でき動力伝達装置1の低廉化が図られる。
なお、本実施の形態では、固定手段としてリベット53を用いたが、これに何ら特定されるものではなく、駆動側ダンパー保持部材51の取付部51bにナット56を溶着等により固定することにより、ボルト、止めねじ等を用いてもよい。また、リベット53とナット56が当接して衝撃吸収部材65が圧縮される程度の捩り荷重がダンパーゴム54に作用したとき、回転伝達部材24の被挟持部24Dがハブ6と挾持板20との間から引き抜かれるように設計されている。
図8は本発明の第2の実施の形態を示す断面図である。
この実施の形態においては、円板状に形成され回転軸5の軸線方向において対向する駆動側ダンパー保持部材80および従動側ダンパー保持部材81と、これらのダンパー保持部材80、81間に加硫接着されたダンパーゴム54と、締結手段55とでダンパー機構70を構成している。駆動側ダンパー保持部材80は、外周に一体に設けた円筒部80aを有し、この円筒部80aがプーリ4の環状凹部11内に圧入固定されている。
前記締結手段55は、3個のボルト28とナット56とで構成され、ナット56が従動側ダンパー保持部材81の前面に周方向に等間隔おいて溶着等によって固定されている。回転伝達部材24の接続部24Cは、ナット56の前面にボルト28によって直接固定されている。
駆動側ダンパー保持部材80の円筒部80aを単に環状凹部11に圧入固定しただけでは、結合力が弱かったり、大きな負荷変動により駆動側ダンパー保持部材80が環状凹部11内において回転するおそれがある。このため、本実施の形態においては、回転防止手段83によって駆動側ダンパー保持部材80の回転を防止している。
回転防止手段83は、駆動側ダンパー保持部材80の背面に突設した突起からなる回転防止部83Aと、プーリ4の円板部4aに形成された係合部83Bとで構成され、この係合部83Bに回転防止部83Aが係入することにより、駆動側ダンパー保持部材80の回転を防止するようにしている。係合部83Bとしては、貫通孔または凹部のいずれであってもよい。なお、その他の構造は、上記した第1の実施の形態と略同一であるため、その説明を省略する。
このような構造からなる動力伝達装置においては、駆動側ダンパー保持部材80の円筒部80aをプーリ4の環状凹部11内に圧入固定し、回転防止手段83によって駆動側ダンパー保持部材80の回転を防止するようにしたので、別部材からなるリベット等の固定手段を用いる必要がなく、ダンパー機構50のプーリ4への組込み作業が上記した第1の実施の形態に比べて容易で短時間に行うことができる。
図9は本発明の第3の実施の形態を示す断面図である。この実施の形態においては、プーリ4の環状凹部11内に軸線方向に移動自在に装着された円板状のダンパー保持部材85と、このダンパー保持部材85とプーリ4の円板部4aとの間の空間に加硫接着されたダンパーゴム54と、締結手段55とでダンパー機構88を構成している。すなわち、本実施の形態では、図8に示した駆動側ダンパー保持部80を省略し、プーリ4の円板部4aに駆動側ダンパー保持部材を兼用させたものである。ダンパーゴム54の形成に際しては、プーリ4自体を成型用の金型として用い、ナット56が一体的に設けられたダンパー保持部材85をプーリ4の環状凹部11内に装着して、加硫ゴム材料を環状凹部11内に充填すればよい。ダンパーゴム54は、円板部4aの内面と内側円筒部4cの外周面と、ダンパー保持部材85の後面に接着されている。なお、その他の構成は、上記した第2の実施の形態と略同一であるため、その説明を省略する。
このような構造からなる動力伝達装置によれば、プーリ4の環状凹部11内にダンパーゴム54を加硫接着すればよいので、ダンパー機構88の部品点数および組立作業が省け、製品価格の低廉化が図られる。
なお、上記した第1〜第3の実施の形態では、いずれも第1の締結部材として一端が閉塞する筒状のナット56を用い、従動側ダンパー保持部材52、81、85に溶着等によって固定したが、第1の締結部材56をナットの代わりにボルトまたは止めねじを用い、第2の締結部材28としてボルトの代わりにナットを用いてもよい。
1…動力伝達装置、2…コンプレッサ、3…ハウジング、4…プーリ(駆動側回転部材)、5…回転軸、6…ハブ(従動側回転部材)、11…環状凹部、20…挾持板、24…回転伝達部材、24A…本体、24B…連結片、24C…接続部、24D…被挟持部、28…ボルト(第2の締結部材)、50…ダンパー機構、51…駆動側ダンパー保持部材、52…従動側ダンパー保持部材、53…リベット(固定手段)、54…ダンパーゴム、55…締結手段、56…ナット(第1の締結部材)、63…空間部、65…衝撃吸収部材、70…ダンパー機構、80…駆動側ダンパー保持部材、81…従動側ダンパー保持部材、83…回転防止手段、83A…回転防止部、83B…係合部、85…ダンパー保持部材、88…ダンパー機構。