以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。まず、図2に本発明に係る静油圧式無段変速機を有して構成される自動二輪車の全体外観を示している。図2においては、自動二輪車の側面カバー部材を一部取り除いて内部構造を露出させた状態で示している。この自動二輪車100は、メインフレーム110と、メインフレーム110の前端部に斜め上下に延びる軸を中心として回動自在に取り付けられたフロントフォーク120と、フロントフォーク120の下端に回転自在に取り付けられた前輪101と、メインフレーム110の後部に水平に延びる枢結軸130aを中心として枢結されて上下に揺動自在に取り付けられたスイングアーム130と、スイングアーム130の後端に回転自在に取り付けられた後輪102とを備えて構成される。
メインフレーム110には、燃料タンク111、乗員が座るシート112、停車時に車体を立設状態で保持するメインスタンド113aおよびサブスタンド113b、夜間走行時等において前方を照明するヘッドライト114、エンジン冷却水の冷却を行うラジエータ115、後輪102を駆動する回転駆動力を発生するパワーユニットPU等が取り付けられている。フロントフォーク120には、乗員が操作して転舵操作を行うハンドル(ステアリングハンドル)121、後方視界を得るためのリアビューミラー122等が取り付けられている。スイングアーム130内には、後述するように、パワーユニットPUから発生した回転駆動力を後輪に伝達するためのドライブシャフトが設けられている。
このような構成の自動二輪車100において、パワーユニットPUに本発明に係る静油圧式無段変速機CVTが用いられており、このパワーユニットPUについて以下に説明する。まず、図3にパワーユニットPUの概略構成を示しており、パワーユニットPUは、回転駆動力を発生するエンジンEと、その出力回転を無段階に変速する静油圧式無段変速機CVTと、この静油圧式無段変速機CVTの出力回転の方向切換および伝達を行う伝達ギヤ列GTとを有して構成される。
図2に示すように、エンジンEはVバンクを有するV型気筒エンジンからなり、シリンダ1が斜め前後上方にV字上に延びて配設されている。このエンジンEは、ヘッド部に給排気バルブ1a,1bを有したシリンダ1内にピストン2を配設して構成される。エンジンEにおいては、吸気バルブ1aおよび排気バルブ1bを所定タイミングで開閉し、燃料混合気をシリンダ室内で燃焼させてピストン2を往復動させ、このピストン2の往復運動を連結ロッド2aを介してクランク部3aに伝達し、クランクシャフト3が回転駆動される。クランクシャフト3の端部にはダンパ4aを有した入力駆動ギヤ4が取り付けられており、クランクシャフト3の回転駆動力が入力駆動ギヤ4に伝達される。
クランクシャフト3には駆動スプロケット8aが取り付けられ、チェーン8bを介してポンプ駆動軸9a,9bに取り付けられた従動スプロケット8cに回転駆動力を伝達する。ポンプ駆動軸9a,9bにはオイルポンプOPおよびウォーターポンプWPが図示のように配設されており、エンジンEにより駆動される。オイルポンプOPから吐出された作動油は後述のように静油圧式無段変速機CVTの補充油および潤滑油として供給されるが、図2に示すように、パワーユニットPUの後下部に配設されたオイルクーラ116により冷却され、オイルフィルタ117により濾過される。また、ウォーターポンプWPから吐出された冷却水はエンジンEの冷却に用いられるが、エンジンEにより高温となった冷却水はラジエータ115により冷却される。
静油圧式無段変速機CVTは斜板プランジャ式の油圧ポンプPと斜板プランジャ式の油圧モータMとを有して構成される。斜板プランジャ式の油圧ポンプPを構成するポンプケーシングに結合された入力従動ギヤ5が上記入力駆動ギヤ4と噛合しており、エンジンEの回転駆動力が入力従動ギヤ5に伝達されてポンプケーシングが回転駆動される。なお、油圧ポンプPは斜板角一定の固定容量タイプであり、油圧モータMは斜板角可変の可変容量タイプであり、モータ斜板角を可変調節するためのモータサーボ機構SVを有する。静油圧式無段変速機CVTの詳細は後述するが、この静油圧式無段変速機CVTにより無段階に変速された出力回転は、変速機出力シャフト6に出力される。
変速機出力シャフト6には、伝達ギヤ列GTが繋がっており、変速機出力シャフト6の回転は伝達ギヤ列GTにより前進−中立切換、減速等が行われる。伝達ギヤ列GTは、変速機出力シャフト6と平行に延びたカウンターシャフト10および第1出力駆動シャフト15を有し、変速機出力シャフト6に結合配設された第1ギヤ11と、カウンターシャフト10に軸方向に移動自在且つカウンターシャフト10と一体回転するように配設された第2ギヤ12と、カウンターシャフト10に結合配設された第3ギヤ13と、第3ギヤ13と常時噛合するとともに第1出力駆動シャフト15に結合配設された第4ギヤ14とを有して構成される。第2ギヤ12はドライバーのチェンジ操作に応じてカウンター軸10の上を軸方向に移動され、第1ギヤ11と噛合して前進状態となり、第1ギヤ11から離れて中立状態となる。
一方、第1出力駆動シャフト15の先端には出力駆動ベベルギヤ15aが取り付けられており、この出力駆動ベベルギヤ15aと噛合する出力従動ベベルギヤ16aから第2出力駆動シャフト16に回転駆動力が伝達される。第2出力駆動シャフト16はユニバーサルジョイント17を介してドライブシャフト18に繋がり、上述のように、ドライブシャフト18はスイングアーム130の内部を通って後輪102に繋がっており、後輪102に回転駆動力が伝達されてこれが駆動される。なお、スイングアーム130のメインフレーム110に対する枢結軸130aと同軸にユニバーサルジョイント18が位置する。
次に、上記静油圧式無段変速機CVTについて、図1および図4〜図6を参照して説明する。静油圧式無段変速機CVTは斜板プランジャ式の油圧ポンプPと斜板プランジャ式の油圧モータMとを有して構成され、変速機出力シャフト6がその中心を貫通して延びて配設されている。なお、変速機出力シャフト6は変速機ハウジングHSGに対してボールベアリング7a,7b,7cにより回転自在に支持されている。
油圧ポンプPは、変速機出力シャフト6の上にこれと同軸且つ相対回転自在に配設されたポンプケーシング20と、ポンプケーシング20の内部にポンプケーシング20の回転中心軸に対して所定角度傾いて配設されたポンプ斜板部材21と、このポンプ斜板部材21と対向して配設されたポンプシリンダ22と、ポンプシリンダ22においてその中心軸を囲む環状配列で軸方向に延びて形成された複数のポンププランジャ孔22a内に摺動自在に配設された複数のポンププランジャ23とから構成される。ポンプケーシング20は、変速機出力シャフト6及びポンプシリンダ22の上にベアリング7bおよび22cにより回転自在に支持されるとともに変速機ハウジングHSGに対してベアリング7aにより回転自在支持されている。ポンプ斜板部材21は、ポンプケーシング20に対してベアリング21a,21bにより上記所定角度傾いた軸を中心として回転自在に配設されている。すなわち、ポンプシリンダ22は、ベアリング22cにより、ポンプケーシング20に対して同軸上で相対回転自在に支持されている。
ポンプケーシング20の外周には、ボルト5aにより締結されて入力従動ギヤ5が取り付けられている。また、ポンププランジャ23の外側端部は外方に突出してポンプ斜板部材21の斜板面21cに当接係合され、ポンププランジャ孔22a内に位置する内側端部は後述する分配バルブ50のバルブボディ51と対向してポンププランジャ孔22a内にポンプ油室23aを形成する。なお、ポンププランジャ孔22aの端部にはポンプ吐出口および吸入口として作用するポンプ開口22bが形成されている。上述したように入力従動ギヤ5が回転駆動されるとポンプケーシング20が回転駆動され、その内部に配設されたポンプ斜板部材21がポンプケーシング20の回転に伴って揺動され、ポンププランジャ23は斜板面21cの揺動移動に応じてポンププランジャ孔22a内を往復移動し、ポンプ油室23aの内部の作動油を吐出したり、吸入したりする。
ポンプケーシング20の、図における右端部にポンプ偏心部材20aがボルト5bにより結合されて取り付けられている。このポンプ偏心部材20aの内周面20bはポンプケーシング20の回転軸に対して偏心した円筒状に形成されている。このように偏心した内周面20bを有するポンプ偏心部材20aをポンプケーシング20とは別体に構成したため、その製造が容易である。
油圧モータMは、変速機ハウジングHSGに結合されて固定保持されたモータケーシング30(複数のケーシング30a,30bからなる)と、モータケーシング30(ケーシング30b)の内面に形成された支持円筒面30cに摺接して支持され、変速機出力シャフト6の中心軸に対して直角方向(紙面に垂直な方向)に延びる揺動中心Oを中心として揺動自在に支持されたモータ揺動部材35と、モータ揺動部材35内にベアリング31a,31bにより回転自在に支持されて配設されたモータ斜板部材31と、このモータ斜板部材31と対向するモータシリンダ32と、モータシリンダ32においてその中心軸を囲む環状配列で軸方向に貫通形成された複数のモータプランジャ孔32a内に摺動自在に配設された複数のモータプランジャ33とから構成される。なお、モータシリンダ32はその外周部においてベアリング32cを介してモータケーシング30により回転自在に支持されている。
油圧モータMにおいては、モータケーシング30の、図面における左端部に位置してロックアップ機構90(図15〜図17を参照)が設けられており、このロックアップ機構90を構成するモータ偏心部材91がモータケーシング30の先端に摺接している。ロックアップ機構90については後述するが、モータ偏心部材91に形成された円筒状の内周面91aが、モータシリンダ32と同軸に位置するロックアップ位置と、モータシリンダ32の回転軸に対して偏心した位置に位置する通常位置とで揺動移動されるように構成されている。
モータプランジャ33の外側端部は外方に突出してモータ斜板部材31の斜板面31aに当接係合され、プランジャ孔32a内に位置する内側端部はバルブボディ51と対向してモータプランジャ孔32a内にモータ油室33aを形成する。なお、モータプランジャ孔32aの端部にはモータ吐出口および吸入口として作用するモータ開口32bが形成されている。モータ揺動部材35の端部が外径側に突出して形成されたアーム部35aは径方向外方に突出してモータサーボ機構SVに連結されており、モータサーボ機構SVによりアーム部35aが図1等における左右に移動する制御が行われ、モータ揺動部材35を揺動中心Oを中心として揺動させる制御が行われる。このようにモータ揺動部材35が揺動されると、その内部に回転自在に支持されたモータ斜板部材31も一緒に揺動され、その斜板角度が変化する。
ポンプシリンダ22およびモータシリンダ32の間に分配バルブ50が配設されている。図5および図6にこの部分を拡大して示しており、分配バルブ50のバルブボディ51は、ポンプシリンダ22及びモータシリンダ32の間に挟持されてロー付けにより一体結合され、且つモータシリンダ32が変速機出力シャフト6にスプライン結合されている。このため、ポンプシリンダ22、分配バルブ50、モータシリンダ32および変速機出力シャフト6は一体回転する。
このように一体結合されたポンプシリンダ22、分配バルブ50(のバルブボディ51)およびモータシリンダ32を出力回転体と称するが、この出力回転体を変速機出力シャフト6上に軸方向の所定位置に位置決めして取り付ける構成について説明する。この位置決めのため、変速機出力シャフト6には外周側にフランジ状に突出した規制部6fが形成されており、ポンプシリンダ22の左側端面が規制部6fに当接して左方向の位置決めが行われる。一方、出力回転体の右方向位置決めは、モータシリンダ32の右側端面に対向して変速機出力シャフト6に取り付けられた係止部材80により行われる。
図12〜図14に詳しく示すように、係止部材80の取付のため、変速機出力シャフト6にはそれぞれ環状の第1係止溝6g及び第2係止溝6hが形成されている。第1係止溝6gには、図7に示すようにそれぞれ半円状に分割形成された一対のコッター部材81が内周部81aを第1係止溝6g内に入り込ませて取り付けられる。そして、この上に、図8に示すリテーナリング82が取り付けられ、リテーナリング82の側板部82bがコッター部材81の側面に当接するとともに外周板部82aがコッター部材81の外周面81bに覆い被さってコッター部材81をこのまま保持する。さらに、第2係止溝6hに、図9に示すサークリップ83が取り付けられて、リテーナリング82をこの状態で保持する。この結果、モータシリンダ32の右側端面が係止部材80に当接して右方向の位置決めがなされる。以上の構成から分かるように、出力回転体は規制部6fと係止部材80とに挟まれて変速機出力シャフト6上で位置決めされて取り付けられる。
次に、分配バルブ50を説明する。特に図5および図6に分かりやすく示すように、分配バルブ50を構成するバルブボディ51内には、径方向に延びて円周方向に等間隔で形成された複数のポンプ側スプール孔51aおよび複数のモータ側スプール孔51bが2列に並んで形成されている。ポンプ側スプール孔51a内にポンプ側スプール53が、モータ側スプール孔51b内にモータ側スプール55がそれぞれ摺動自在に配設されている。
ポンプ側スプール孔51aはポンププランジャ孔22aに対応して形成されており、バルブボディ51に、それぞれ対応するポンプ開口22b(ポンプ油室23a)とポンプ側スプール孔51aとを連通する複数のポンプ側連通路51cが形成されている。モータ側スプール孔51bはモータプランジャ孔32aに対応して形成されており、バルブボディ51に、それぞれ対応するモータ開口32b(モータ油室33a)とモータ側スプール孔51bとを連通する複数のモータ側連通路51dが形成されている。
分配バルブ50においてはさらに、ポンプ側スプール53の外周端部を囲む位置にポンプ側カムリング52が配設され、モータ側スプール55の外周端部を囲む位置にモータ側カムリング54が配設されている。ポンプ側カムリング52は、ポンプケーシング20の先端にボルト5bにより結合されたポンプ偏心部材20aの内面にポンプケーシング20の回転中心軸から偏心して形成された内周面20b内に取り付けられており、ポンプケーシング20に回転自在に支持される。モータ側カムリング54はモータケーシング30の先端に摺接して位置するモータ偏心部材91の内周面91a内に取り付けられている。なお、ポンプ側カムリング52の内周面にポンプ側スプール53の外周端が相対回転自在に係止されており、モータ側カムリング54の内周面にモータ側スプール55の外周端が相対回転自在に係止されている。
バルブボディ51の内周面と変速機出力シャフト6の外周面との間に内側通路56が形成されており、ポンプ側スプール孔51aおよびモータ側スプール孔51bの内周端部がこの内側通路56に連通している。また、バルブボディ51内にはポンプ側スプール孔51aとモータ側スプール孔51bとを連通する外側通路57が形成されている。
ここで、上記構成の分配バルブ50の作動について説明する。エンジンEの駆動力が入力従動ギヤ5に伝達されてポンプケーシング20が回転駆動されると、この回転に応じてポンプ斜板部材21が揺動する。このため、ポンプ斜板部材21の斜板面21cに当接係合されたポンププランジャ23は、ポンプ斜板部材21の揺動によってポンププランジャ孔22a内を軸方向に往復移動され、ポンププランジャ23の内方への移動に応じてポンプ油室23aからポンプ開口22bを通って作動油が吐出され、且つ外方への移動に応じてポンプ開口22bを通ってポンプ室23a内に作動油が吸入される。
このとき、ポンプケーシング20の端部に結合されたポンプ偏心部材20aの内周面20bに取り付けられたポンプ側カムリング52はポンプケーシング20とともに回転されるが、ポンプ側カムリング52はポンプケーシング20の回転中心に対して偏心して取り付けられているため、ポンプ側カムリング52の回転に応じてポンプ側スプール53がポンプ側スプール孔51a内を径方向に往復動される。このようにポンプ側スプール53が往復動され、ポンプ側スプール53が図5及び図6に示す状態から内径側に移動されるとスプール溝53aを介してポンプ側連通路51cと外側通路57とが連通し、ポンプ側スプール53が図5及び図6に示す状態から外径側に移動されるとポンプ側通路51cと内側通路56とが連通する。
ここで、ポンプケーシング20の回転に伴って斜板部材21が揺動されてポンププランジャ23が最も外側に押し出された位置(これを下死点と称する)と最も内側に押し込まれた位置(これを上死点と称する)との間で往復動されるのに対応して、ポンプ側カムリング52はポンプ側スプール53を径方向に往復動させるようになっている。この結果、ポンプケーシング20の回転に伴ってポンププランジャ23が下死点から上死点に移動してポンプ油室23a内の作動油がポンプ開口22bから吐出されると、この作動油はポンプ側連通路51cを通って外側通路57内に送出される。一方、ポンプケーシング20の回転に伴ってポンププランジャ23が上死点から下死点に移動するときには、内側通路56内の作動油がポンプ側連通路51cおよびポンプ開口22bを通ってポンプ油室23a内に吸入される。このことから分かるように、ポンプケーシング20が回転駆動されると、外側通路57には油圧ポンプPから吐出された作動油が供給され、内側通路56からは油圧ポンプPに作動油が吸入される。
一方、モータケーシング30の端部に摺接して位置するモータ偏心部材91の内周面91aに取り付けられたモータ側カムリング54は、モータ偏心部材91が通常位置に位置するときにはモータシリンダ32(出力回転体および変速機出力シャフト6)の回転中心に対して偏心して位置するため、モータシリンダ32が回転されるとその回転に応じてモータ側スプール55がモータ側スプール孔51b内を径方向に往復動される。このようにモータ側スプール55が往復動され、モータ側スプール55が図5及び図6に示す状態から内径側に移動されるとスプール溝55aを介してモータ側連通路51dと外側通路57とが連通し、モータ側スプール55が図5及び図6に示す状態から外径側に移動されるとモータ側通路51dと内側通路56とが連通する。なお、モータ偏心部材91がロックアップ位置に位置した場合については後で説明することとし、ここでは通常位置に位置しているとして説明する。
ここで、上述したように、油圧ポンプPから吐出された作動油が外側通路57に送られており、この作動油はモータ側連通路51dからモータ開口32bを通ってモータ油室33a内に供給され、モータプランジャ33は軸方向外方に押圧される。このように軸方向外方への押圧力を受けるモータプランジャ33の外側端部が図1のようにモータ揺動部材35が揺動された状態のモータ斜板部材31における上死点から下死点に至る部分に摺接するように構成されており、この軸方向外方への押圧力によりモータプランジャ33がモータ斜板部材31に沿って上死点から下死点まで移動するようにモータシリンダ32が回転駆動される。
このような回転駆動を行わせるために、モータシリンダ32の回転に伴ってモータプランジャ33が最も外側に押し出された位置(下死点)から最も内側に押し込まれた位置(上死点)までの間で往復動されるのに対応して、モータ側カムリング54はモータ側スプール55を径方向に往復動させるようになっている。このようにしてモータシリンダ32が回転駆動されると、この回転に応じてモータプランジャ33がモータ斜板部材31に沿って下死点から上死点まで移動するときに内方に押されて移動し、モータ油室33a内の作動油がモータ開口32bからモータ側連通路51dを通って内側通路56に送られる。このようにして内側通路56に送られた作動油は、上述したように、ポンプ側連通路51cおよびポンプ開口22bを通ってポンプ油室23a内に吸入される。
以上の説明から分かるように、エンジンEの回転駆動力を受けてポンプケーシング20が回転駆動されると、油圧ポンプPから外側通路57に作動油が吐出され、これが油圧モータMに送られてモータシリンダ32を回転駆動する。モータシリンダ32を回転駆動した作動油は内側通路56に送られ、内側通路56から油圧ポンプPに吸入される。このように油圧ポンプPと油圧モータMとを繋ぐ油圧閉回路が分配バルブ50により構成され、油圧ポンプPの回転に応じて油圧ポンプPから吐出された作動油が油圧閉回路を介して油圧モータMに送られてこれが回転駆動され、さらに油圧モータMの駆動を行って吐出された作動油は油圧閉回路を介して油圧ポンプPに戻される。
この場合に、エンジンEにより油圧ポンプPを駆動し、油圧モータMの回転駆動力が車輪に伝達されて車両が走行する状態のときには、外側通路57が高圧側油路となり、内側通路56が低圧側油路となる。一方、降坂路走行等におけるように車輪の駆動力が油圧モータMに伝達され、油圧ポンプPの回転駆動力がエンジンEに伝達されてエンジンブレーキ作用が生じる状態のときには、内側通路56が高圧側油路となり、外側通路57が低圧側油路となる。
このとき、ポンプシリンダ22とモータシリンダ32は変速機出力シャフト6に結合されて一体回転するため、上記のようにモータシリンダ32が回転駆動されるとポンプシリンダ22も一緒に回転し、ポンプケーシング20とポンプシリンダ22との相対回転速度が小さくなる。このため、ポンプケーシング20の回転速度Niと、変速機出力シャフト6の回転速度No(すなわち、ポンプシリンダ22およびモータシリンダ32の回転速度)との関係は、ポンプ容量Vpおよびモータ容量Vmとに対して次式(1)のようになる。
(数1)
Vp・(Ni−No)=Vm・No (1)
モータ容量Vmは、モータサーボ機構SVによりモータ揺動部材35を揺動させる制御により無段階に変化させることが可能である。すなわち、上記式(1)においてポンプ斜板部材21の回転速度Niが一定とした場合、モータ容量Vmを無段階に変化させる制御を行うと変速機出力シャフト6の回転が無段階に変速するが、このことから分かるようにモータサーボ機構SVによりモータ揺動部材35を揺動させてモータ容量Vmを変化させることにより変速制御が行われる。
ここで、モータ揺動部材35の揺動角度を小さくする制御を行うと、モータ容量Vmは小さくなり、上記式(1)の関係においてポンプ容量Vpは一定で、ポンプ斜板部材21の回転速度Niが一定とした場合、変速機出力シャフト6の回転がポンプ斜板部材21の回転速度Niに近づくように増速される制御、すなわち、トップ変速段への無段階変速制御となる。そして、モータ斜板角度が零、すなわち直立状態となった時点で、理論的にはNi=Noの変速比(トップ変速比)となり、油圧ロック状態となってポンプケーシング20がポンプシリンダ22、モータシリンダ32および変速機出力シャフト6と一体回転して機械的な動力伝達がなされる。
上記のようにモータ容量を無段階に変化させる制御はモータ揺動部材35を揺動させてモータ斜板角度を可変制御することにより行われるが、このようにモータ揺動部材35を揺動させるためのモータサーボ機構SVについて、主として図10を参照して、以下に説明する。
モータサーボ機構SVは、モータ揺動部材35のアーム部35aの近傍に位置して変速機出力シャフト6と平行に延び、ベアリング40a,40bにより変速機ハウジングHSGに対して回転自在に支持されたボールネジシャフト41と、このボールネジシャフト41の外周に形成された雄ネジ41aに螺合して配設されたボールナット40とを有する。なお、ボールナット40の内周にはケージによりネジ状に並んで保持された多数のボールによりボール雌ネジが形成されており、このボール雌ネジが雄ネジ41aに螺合している。ボールナット40はモータ揺動部材35のアーム部35aと連結されており、ボールネジシャフト41を回転駆動するとボールナット40がボールネジシャフト41上を左右に移動され、モータ揺動部材35が揺動される。
このようにボールネジシャフト41を回転駆動するために、変速機ハウジングHSGの外側面に斜板制御モータ(電気モータ)47が取り付けられている。この斜板制御モータ47の駆動軸46と平行に延びてアイドルシャフト43が設けられ、このアイドルシャフト43の上にギヤ44および45を有するアイドルギヤ部材が回転自在に取り付けられている。斜板制御モータ47の駆動軸46の先端にはギヤ46aが形成されており、このギヤ46aは上記ギヤ45と噛合している。一方、上記ボールネジシャフト41の左側部が左方に突出して形成されたシャフト部41bには、ギヤ42が結合して取り付けられており、このギヤ42は上記ギヤ44と噛合している。
このため、斜板制御モータ47の回転駆動制御を行って駆動軸46を回転させると、この回転がギヤ45に伝達され、これと一体回転するギヤ44からギヤ42に伝達されてボールネジシャフト41を回転駆動させる。そして、ボールネジシャフト41の回転に応じてボールナット40がこのシャフト41上を左右に移動され、モータ揺動部材35を揺動させる制御が行われる。このように斜板制御モータ47の回転をギヤ46a,45,44,42を介してボールネジシャフト41に伝達する構成であるため、これらギヤのギヤ比を適宜設定することにより、その伝達レシオを自由に変更設定可能である。
斜板制御モータ47は、図2に示すように、V型気筒エンジンEにおける後側シリンダ1の根本部後側の近傍に外部に露出して配設されている。シリンダ1は変速機ハウジングHSGに一体結合されており、斜板制御モータ47は、後側シリンダ1と変速機ハウジングHSGとに挟まれた空間内に位置して配設されている。このように後側シリンダ1と変速機ハウジングHSGとの挟まれた空間内に斜板制御モータ47を配設することにより、この空間を有効利用でき、図2に示すスイングアーム130の枢結軸130aから離れた位置にあるため、スイングアーム130との干渉を避けるためにスイングアームの形状が制限されることが全く無い。また、走行中に車体下方からの跳ね水や、前方から当たる雨水、埃等に対して斜板制御モータ47を保護することができる。さらに、斜板制御モータ47は、図10に示すように車体左右方向中心より左側に偏って配設されており、走行中に前方から流れる空気流を斜板制御モータ47に効率よく当てて、その冷却を効果的に行うようにしている。
以上のように構成された静油圧式無段変速機CVTにおいて、内側通路56と外側通路57とを連通させると高圧油が発生しなくなり、油圧ポンプPと油圧モータMとの間での動力伝達を遮断できる。すなわち、内側通路56と外側通路57との連通開度制御を行うことによりクラッチ制御が可能となる。このクラッチ制御を行うためのクラッチ装置CLが静油圧式無段変速機CVTに設けられており、このクラッチ装置CLについて、図11〜図14も加えて参照しつつ、以下に説明する。
クラッチ装置CLは、ポンプケーシング20の端部にボルト60bにより結合された回転体60と、この回転体60の内側面に径方向に斜めに延びて形成された複数の受容溝60a内にそれぞれ受容されたウエイト61(ボールないしローラ)と、受容溝60aと対向するアーム部62aを有したディスク状の受圧体62と、アーム部62aがウエイト61を受容溝60a内に押圧するように受圧体62を付勢するバネ63と、受圧体62の一端側の係止部62cに係止されたバルブスプール70とから構成される。
回転体60には回転中心軸を中心とする貫通孔60cが形成されて、受圧体62の円筒部62bがこの貫通孔60c内に移動可能に挿入されており、受圧体62は軸方向に移動可能である。このため、ポンプケーシング20が静止状態で回転体60も回転していない状態では、バネ63が受圧体62に与える付勢力によりアーム部62aがウエイト61を受容溝60a内に押し付ける。このとき、受容溝60aは図示のように斜めに延びて形成されているため、ウエイト61は径方向内方に押し込まれ、受圧体62は図1、図11に示すように左動した状態となる。
この状態からポンプケーシング20が回転駆動されて回転体60が回転すると、遠心力によりウエイト61は受容溝60a内において径方向外方に押し出される。このようにウエイト61が遠心力により外径方向に押し出されると、ウエイト61が受容溝60aに沿って斜め右に移動してアーム部62aを右方向に押し、受圧体62はバネ63の付勢に抗して右動される。受圧体62の右方向への移動量はウエイト61に作用する遠心力、すなわち、ポンプケーシング20の回転速度に応じて変化し、所定回転速度以上のときには図4に示す位置まで右動される。このように軸方向左右に移動する受圧体62の係止部62cに係止されるバルブスプール70は、変速機出力シャフト6の端部に開口して軸方向に延びたスプール孔6d内に嵌入配設されており、受圧体62とともに軸方向左右に移動される。
このことから分かるように、回転体60、ウエイト61および受圧体62により、ポンプケーシング20の回転によりウエイト61に作用する遠心力を用いて、油圧ポンプPの入力回転速度に対応する軸方向のガバナ力を発生させるガバナ機構が構成される。
一方、このスプール孔6dが形成される変速機出力シャフト6には、図5および図6並びに図11〜図14に詳しく示すように、内側通路56から分岐してスプール孔6dに繋がる内側分岐油路6aと、外側通路57から分岐した連通路57aからスプール孔6dに繋がる外側分岐油路6b,6cとが形成されている。図5および図12は図1に対応しており、受圧体62が左動されてバルブスプール70が左動した状態を示しており、この状態においては、バルブスプール70の右溝部72を介して内側分岐油路6aと外側分岐油路6cとが連通し、内側通路56と外側通路57とが連通する。一方、図6および図14は図4に対応しており、受圧体62が右動されてバルブスプール70が右動した状態を示しており、この状態においては、バルブスプール70の中央ランド部73により、内側分岐油路6aと外側分岐油路6cとが遮断され、内側通路56と外側通路57も遮断される。なお、図13は、バルブスプール70が中間位置に位置した状態を示す。
上述したようにポンプケーシング20が回転静止状態ではバルブスプール70が左動されるため、このときには内側分岐油路6aと外側分岐油路6cとが連通して油圧ポンプPと油圧モータMとの間の動力伝達が遮断されて、クラッチ開放状態となる。この状態からポンプケーシング20が回転駆動されると、その回転速度に応じてウエイト61に作用する遠心力により受圧体62が徐々に右動され、バルブスプール70も一緒に右動される。この結果、バルブスプール70の中央ランド部73により内側分岐油路6aと外側分岐油路6cとが徐々に遮断され、クラッチが徐々に接続される。
本実施形態に係る静油圧式無段変速機CVTにおいては、エンジンEによりポンプケーシング20が回転駆動されるときに、エンジン回転速度が低回転時(アイドリング時)ではバルブスプール70が左動されてクラッチ開放状態となり、エンジン回転が上昇するに応じてクラッチが徐々に接続されるようになっている。
なお、バルブスプール70における中央ランド部73の外径d1と左ランド部74の外径d2とが、d1<d2となるように設定されている。このため、バルブスプール70が右動されてクラッチ接続状態となったときに、バルブスプール70の左溝部75内に作用する外側通路57内の油圧がバルブスプール70を左動させる方向に作用する。この左方向の押圧力は左溝部75に作用する油圧の大きさと、上記外径d1,d2の差による受圧面積差に対応する。この受圧面積差は一定であるが、左溝部75に作用する油圧は外側通路57内の油圧であり、駆動力に応じて変化し、駆動力が大きい程、高圧となる。この構成が請求の範囲に規定する油圧力付与手段に対応する。
このことから分かるように、バルブスプール70の移動によるクラッチ接続制御は、ポンプケーシング20の回転速度に対応してウエイト61に作用する遠心力により発生するガバナ力(Fgov)と、バネ63の付勢力(Fspg)と、上記バルブスプール70の左溝部75に作用する油圧による押圧力(Fp)とのバランス(Fgov=Fp+Fspg)に応じて行われる。具体的には、ポンプケーシング20の回転が高くなるに応じてクラッチ接続させる制御を行うとともに、外側通路57の油圧が高くなるに応じて(油圧ポンプPから油圧モータMへの伝達駆動力が大きくなるに応じて)クラッチを開放させる方向の力を付与する制御となる。
このようにしてクラッチ接続および開放制御を行うときの中間段階の状態、すなわち、半クラッチ状態を図13に示している。この状態においては、バルブスプール70の中央ランド部73の右端部73aが外側分岐油路6bと僅かに連通し、内側通路56と外側通路57とが部分的に連通する状態、すなわち半クラッチ状態となる。この半クラッチ状態では、バルブスプール70の軸方向の僅かな動きにより内側通路56と外側通路57とが連通・遮断されるが、バルブスプール70の軸方向の動きは上述のようにガバナ力(Fgov)と付勢力と油圧による押圧力でバランスするので、急なスロットル操作により、油圧による押圧力が急激に上昇すると、バルブスプール70がクラッチ開放側に作動し、内側通路56と外側通路57とが連通遮断を繰り返し、動力を安定して伝達することが難しい。
このため、バルブスプール70があまり敏感に反応して移動することがないようにしてクラッチ性能を安定化させるため、緩衝機構が設けられており、この緩衝機構について図1および図4に図11を加えて参照して説明する。図示のように、バルブスプール70における左ランド部74の左側に変動油室形成溝76を設け、この変動油室形成溝76の左側部に左ランド部74より小径のガイドランド部71を設けている。ガイドランド部71は、スプール孔6dの左端部内に配設されたガイド部材77内に嵌入され、変動油室形成溝76の外周にスプール孔6dとガイド部材77および左ランド部74に囲まれた変動油室78aが形成されている。
さらに、バルブスプール70内に軸方向に延びる油溜形成孔70eが形成されており、油溜形成孔70eの右端部は開放されてモジュレータバルブ150が配設されており、左端部は閉塞されてオリフィス孔70dが形成されている。この結果、油溜形成孔70eがモジュレータバルブ150により閉塞されて油溜油室78bが形成されている。バルブスプール70には変動油室形成溝76と油溜形成孔70eとを連通させる連通孔70cが形成されており、変動油室78aと油溜油室78bとは連通孔70cを介して互いに繋がっている。
このように連通孔70cを介して繋がる変動油室78aおよび油溜油室78bにより緩衝機構が構成されており、その作動を説明する。バルブスプール70が軸方向における左方向に移動されると、ガイド部材77はスプール孔6d内に固定保持されているため、変動油室78a内の容積が小さくなり油室内の作動油が左ランド部74により圧縮される。このとき、油溜油室78b内の容積は変動できないため、この圧縮力が抵抗となってバルブスプール70の移動が抑制されて緩やかとなる。一方バルブスプール70が軸方向における右方向に移動されると、変動油室78a内の容積が大きくなるが、連通孔70cの直径を調整する(小さくする)ことにより、容積を大きくする方向の力に対する抵抗力が作用し、バルブスプール70の移動が抑制されて緩やかとなる。
なお、油溜形成孔70eの左端部は閉塞されているがオリフィス孔70dが形成されており、このオリフィス孔70dを油が流れるため、上記抵抗力の大きさをこのオリフィス孔70dにより調整している。なお、このオリフィス孔70dは受圧体62の係止部62cとバルブスプール70の左端部との係止連結部に開口しており、オリフィス孔70dを通って排出される油により係止連結部の潤滑を行うようになっている。
このような構成の緩衝機構において、変動油室78aおよび油溜油室78b内に作動油を充満させておくために、モジュレータバルブ150が取り付けられており、これについて図12〜図14も参照しつつ説明する。バルブスプール70における右溝部72にモジュレータバルブ150に連通する連通孔70aが形成されており、右溝部72内の作動油が連通孔70aを通りモジュレータバルブ150に流れる。モジュレータバルブ150はいわゆる減圧バルブからなり、油溜油室78b内の油圧をモジュレータバルブ150により設定する所定低圧に保持するように右溝部72内の作動油を油溜油室78b内に供給する。このため、変動油室78aおよび油溜油室78b内にはモジュレータバルブ150により設定される所定低圧の作動油が常に充満される。
ここで、油溜油室78b内の油はオリフィス孔70dを通って常時排出されるため、この排出分の油量がモジュレータバルブ150を介して補充される。この補充油は右溝部72内の油であり、右溝部72はクラッチの接続状態に応じて低圧側の油路である内側通路56および高圧側の油路である外側通路57と連通しているため、内側通路56および外側通路57内の作動油、すなわち油圧閉回路内の作動油が補充油として用いられる。このため、油圧閉回路内の作動油が補充油の量だけ常時排出されて新しい作動油と交換され(なお、この作動油交換システムについては後述する)、閉回路内の作動油が高温となることを防止できる。
さらに、バルブスプール70には油溜油室78b(油溜油室形成孔70e)から左ランド部74の外面に貫通する排出孔70bが形成されており、変速機出力シャフト6にスプール孔6dから外部に繋がる排出孔6eが形成されている。図13に示すように、半クラッチ状態位置にバルブスプール70が位置したときに、バルブスプール70の外周溝70fを介して両排出孔70b,6eが連通するように構成されている。この結果、半クラッチ状態では、油溜油室78b内の作動油が両排出孔70b,6eを介して外部に排出される。
上述のように半クラッチ状態では内側通路56と外側通路57とが部分的に連通する状態となり、この部分的な連通部を通って油圧閉回路内で高圧側油路から低圧側油路に作動油が流れるため、油圧閉回路内の作動油温が上昇し易い状態である。ところが、このように半クラッチ状態で油溜油室78b内の作動油が両排出孔70b,6eを介して外部に排出されると、その排出分がモジュレータバルブ150を介して補充される。この補充油は右溝部72内の油であり、右溝部72はクラッチの接続状態に応じて内側通路56および外側通路57と連通しているため、内側通路56および外側通路57内の作動油、すなわち油圧閉回路内の作動油が補充油として用いられる。このため、油圧閉回路内の作動油が補充油の量だけ常時排出されて新しい作動油と交換され(なお、この作動油交換システムについては後述する)、特に半クラッチ状態において閉回路内の作動油が高温となることを効果的に防止できる。
以上説明したクラッチ装置CLを構成するバルブスプール70は軸方向に延びる長尺円筒状部材であり、ガイド部材77内に嵌入されるガイドランド部71、中央ランド部73および左ランド部74の外形寸法に高い寸法精度が要求されるため、第1スプール部材171と第2スプール部材172とに二分割して構成している。この構成について、図19を参照して説明する。
第1スプール部材171は、受圧体62の係止部62cに係止される被係止部171dを左端側に有し、これに隣接してガイド部材77内に嵌入されるガイドランド部71を有した円筒状部材である。なお、ガイドランド部71は、ガイド部材77内に嵌入されてバルブスプール70の軸方向移動をガイド部としての役割を果たすとともに、この嵌合部が変動油室78aを形成するシール部としての役割を果たすものであり、その外径寸法は高い精度に仕上げることが要求される。
この第1スプール部材171は、ガイドランド部71の右側に変動油室形成溝76が形成され、その右端部には、同心に位置して軸方向内方に延びるとともに右端側に開口した嵌合穴171bが形成された嵌合凹部171aが設けられている。この嵌合凹部171aには軸直角方向に延びる第1連結穴171cが貫通形成されており、第1連結穴171cの外周に周方向に凹んだ環状の保持溝171dが形成されている。
一方、第2スプール部材172は、右溝部72、中央ランド部73、左溝部75および左ランド部74を有し、内側分岐油路6aと外側分岐油路6b,6cとの連通・遮断制御を行ってクラッチ制御を行うバルブ部が形成されている。このバルブ部において、中央ランド部73および左ランド部74は、上述のようにバルブ作用を担う部分であり、その外径寸法は高い精度に仕上げることが要求される。
第2スプール部材172の左端部には、同心に位置して軸方向左側に突出する円筒状の嵌合突起円筒面172bを有する嵌合凸部172aが設けられている。この嵌合突起円筒面172bは上記嵌合穴171bと嵌合する寸法に形成されており、嵌合穴171bと嵌合した状態で上記第1連結穴171cと整合して軸直角方向に延びる第2連結穴172cが貫通形成されている。
このような構成の第1スプール部材171および第2スプール部材172が、嵌合凸部172aを嵌合凹部171aと嵌合させた状態で整合する第1および第2連結穴171c,172cに連結ピン173を挿入し、この連結ピン173を中心として揺動可能に連結され、バルブスプール70が構成される。このようにバルブスプール70を第1および第2スプール部材171,172に分割して構成することにより、高い寸法精度を要求される外径部が、第1スプール部材171はガイドランド部71のみとなり、第2スプール部材172は中央ランド部73および左ランド部74の二カ所のみとなるので、これらスプール部材の製造が容易で外径寸法精度を高くすることも簡単となる。
なお、連結ピン173は第1および第2連結穴171c,172c内に比較的緩やかに挿入されており、連結ピン173が抜け出すのを防止するため、保持溝171d内にリング部材174が取り付けられている。この結果、リング部材174は第1連結穴171cの外周端開口部を覆って取り付けられることになり、連結ピン173の両端側を塞いで、これが抜け出すことがない。
このリング部材174は、断面円形もしくは矩形状の線材を複数回リング状に曲げ加工したコイル状に形成されている。このため、コイル径を拡げるようにしてリンク部材174を保持溝171d内に簡単に取り付けることができる。なお、リンク部材174の両側端面174a,174bは平面状に加工され、図19(C)に示すように、左右幅が全周に亘って等しくなっている。この左右幅は保持溝171dの幅より若干狭く設定されており、リング部材174は保持溝171d内にがたつくことなく取り付けられる。
なお、この実施形態では、線材を複数回リング状に曲げ加工してコイル状に形成してリング部材174を構成しているが、太めの線材を用いて一回のみリング状に曲げ加工したものでも良い。但し、この場合には、端部同士をオーバーラップさせて周方向に隙間が生じ無いように構成するのが望ましい。
以上のように構成される静油圧式無段変速機CVTには、変速比が1.0となった状態、すなわち、油圧ポンプPの入力回転と油圧モータMの出力回転とが同一回転となった状態で油圧閉回路を閉止してロックアップ状態とするロックアップ機構90が設けられている。このロックアップ機構90について、図15〜図17を参照して説明する。ロックアップ機構90は、前述したように、モータケーシング30の先端に摺接して配設されたモータ偏心部材91を有する。モータ偏心部材91は全体がリング状に形成され、その内周面91a内にモータ側カムリング54が配設されている。このモータ偏心部材91の上端には係止部91aが形成されており、この係止部91aが係止ピン92によりモータケーシング30に枢結されており、モータ偏心部材91は係止ピン92を中心としてモータケーシング30に対して揺動可能となっている。
モータ偏心部材91を揺動させるため、モータ偏心部材91の下側に位置してロックアップアクチュエータLAがモータケーシング30に取り付けられている。このロックアップアクチュエータLAは、モータケーシング30に固設されたシリンダ96と、シリンダ96のシリンダ孔内に摺動自在に配設されたピストン94と、シリンダ孔を塞いでシリンダ96に取り付けられた蓋部材95と、ピストン94を蓋部材95の方に付勢するバネ97とから構成される。シリンダ孔内はピストン94により二分割されてロックアップ作動油室96aとロックアップ解放室96bとが形成されており、ロックアップ解放室96b内にバネ97が配設されている。ピストン94の端部はシリンダ96から外方に突出し、その突出部94aが連結ピン93を介してモータ偏心部材91の下部に形成された連結部91bに枢結されている。
このような構成のロックアップ機構90において、ロックアップ作動油室96aの油圧を解放すると、ロックアップ解放室96bに配設したバネ97の付勢力によりピストン94が蓋部材95の側に移動される。このとき、図16に示すように、連結部91bがシリンダ96の外端面96cに当接し、この状態でモータ偏心部材91の内周面91aの中心C2は、変速機出力シャフト6および出力回転体(モータシリンダ32)の中心C1に対して偏心して位置、モータ偏心部材91が通常位置に位置する。
一方、ロックアップ作動油室96aにロックアップ作動油圧を供給すると、この油圧力によりピストン94がバネ97の付勢に抗して図において右動されて突出部94aがさらに突出される。これによりモータ偏心部材91が係止ピン95を中心として図において反時計回りに揺動され、図17に示すように、モータ偏心部材91の側部に形成された当接面91cがモータケーシング30と一体に形成された位置決め突起98の当接面98aと当接する。この状態でモータ偏心部材91の内周面91aの中心C2は、変速機出力シャフト6および出力回転体(モータシリンダ32)の中心C1と重なり、モータ偏心部材91がロックアップ位置に位置する。
ここで前述説明した油圧モータMの構成および分配バルブ50の構成から分かるように、モータ偏心部材91がロックアップ位置に位置すると、その内周面91a内に配設されたモータ側カムリング54の中心がモータシリンダ32の回転中心と一致し、モータシリンダ32が回転してもモータ側スプール55は往復動されなくなり、モータプランジャ33への高圧油の供給が遮断される。この時、内側通路56とは連通する構造となっている。この結果、モータプランジャ33での圧縮損失や作動油漏れの低減、および、モータプランジャ33に高圧が作用しないことによるベアリング等の機械的な動力損失の低減、さらに、モータ側スプール53の摺動抵抗の低減が可能となり、動力伝達効率が向上する。
以上の説明から分かるように、ロックアップ機構90において、ロックアップ作動油室96aにロックアップ作動油圧を供給するとモータ偏心部材91が揺動されてロックアップ位置に位置してロックアップ状態となる。すなわち、静油圧式無段変速機CVTの変速比の如何に拘わらずロックアップ作動油室96aにロックアップ作動油圧を供給すれば油圧的にロックアップ状態を作り出せる構成である。しかしながら、前述のように、変速比が略1.0となったときにロックアップを行わせるべきものであるため、ロックアップ作動油圧の供給を変速比が1.0近傍にならないと行えないようにしている。この構成について、図1、図4および図20を参照して説明する。
ロックアップ作動油室96aにロックアップ作動油圧を供給するロックアップ制御油路131,132,133が、変速機ハウジングHSGおよびモータケーシング30(30a,30b)内に図示のように形成されている。なお、ロックアップ制御油路131は図示しないロックアップ制御油圧供給制御バルブに繋がって、このバルブにより制御されてロックアップ制御油圧の供給を受ける。また、ロックアップ制御油路133は、上記ロックアップ機構90のロックアップ作動油室96aに繋がる。このため、基本的には、ロックアップ制御油圧供給制御バルブによる油圧供給制御を行ってロックアップ作動制御を行えるようになっている。
しかしながら、ロックアップ制御油路132から分岐した分岐油路134が、上述のモータケーシング30の内面に形成された凹球面状の支持球面30cに開口して形成されており、ロックアップ作動油は分岐油路134から開口部134aを通ってケーシング内に排出されるようになっている。ここで、支持球面30cにはモータ斜板部材31を回転自在に支持するモータ揺動部材35の背面側を形成する凸球面状の揺動被支持面35bが摺接しており、図1および図4に示すように、斜板角が比較的大きい状態では、開口部134aは開放されている。一方、図20に示すように、斜板角が零(斜板面が軸直角方向)となる近傍位置においては、揺動被支持面35bが分岐油路134の開口部134aを覆ってこれを閉止させる。
このように、斜板角がほぼ零となる近傍位置、すなわち、変速比がほぼ1.0となる近傍位置のときに、分岐油路134の開口部134aが閉塞される構成である。このため、変速比が1.0となってロックアップが必要となる斜板角位置の近傍においてのみ、ロックアップ制御油路131〜133を介してロックアップ作動油室96aにロックアップ制御油圧を供給可能となる。そして、それ以外の斜板角すなわちロックアップを必要としない斜板角のときには、分岐油路134が開口部134aにおいて開放されるため、ロックアップ制御油路131にロックアップ制御油圧が供給されても分岐油路134を通ってケーシング内に排出され、ロックアップ作動油室96aにロックアップ制御油圧が作用することがない。
次に、油圧閉回路内への作動油の補充システム構成について、図12〜図14および図18を参照して説明する。図18に示すように、作動油の補充はオイルポンプOP(図3参照)により行われるようになっており、エンジンEにより駆動されたオイルポンプOPからの吐出油が変速機ハウジングHSG内の油路を介して変速機出力シャフト6内に軸方向に延びて形成された油路160に供給される。油路160は先端部において変速機出力シャフト6内を径方向に延びて外周に開口して形成された油路161と繋がる。油路161はさらに、出力回転体(モータシリンダ32、バルブボディ51およびポンプシリンダ22)内を軸方向に延びて形成された油路162a,162b,162cと繋がり、油路162cの先端には外部に連通するオリフィス164が形成されており、オリフィス164から外部に流出する作動油により変速機内部の潤滑が行われる。
ポンプシリンダ22内には、外側通路57内に補充油を供給するための第1チェックバルブ170aおよび外側通路57内の油圧が所定高圧を超えるときに作動油をリリーフさせるための第1リリーフバルブ175aが図12〜図14に示すように設けられている。さらに、図12〜図14には示していないが、これらと同様な構成であり、内側通路56内に補充油を供給するための第2チェックバルブ170bおよび外側通路57内の油圧が所定高圧を超えるときに作動油をリリーフさせるための第2リリーフバルブ175bも設けられている。
そして図示のように、ポンプシリンダ22内に油路162cと第1チェックバルブ170aとを繋げる油路163aが形成されており、オイルポンプOPから供給される作動油が必要に応じて(油圧閉回路からのリークに応じて)第1チェックバルブ170aを介して外側通路57内に補充油が供給される。なお、油路162a,162b,162cは複数形成されており、ポンプシリンダ22内に油路162cと第2チェックバルブ170bとを繋げる油路163bが形成されており、オイルポンプOPから供給される作動油が必要に応じて(油圧閉回路からのリークに応じて)第2チェックバルブ170bを介して内側通路56内に補充油が供給される。
一方、外側通路57内の油圧が付勢手段により設定された所定高圧を超えて第1リリーフバルブ175aからリリーフされた作動油は、ポンプシリンダ22内に形成された戻し油路165a内に排出される。この戻し油路165aは変速機出力シャフト6の外周面にリング状に形成されるとともにポンプシリンダ22と嵌合されて囲まれたリング状の油路166と連通している。この油路166は油路163aを介して油路162cに連通しており、このことから分かるように、第1リリーフバルブ175aからリリーフされた作動油は、オイルポンプOPから供給される補充油供給油路内に排出される。なお図示していないが、第2リリーフバルブ175bからリリーフされた作動油も、戻し油路165bからリング状油路166および油路163bを通って油路162c、すなわち、補充油供給油路内に排出される。
このように第1及び第2リリーフバルブ175a,175bからリリーフされた作動油は戻し油路165a,165bを通って補充油供給油路162cに排出される構成であり、リリーフ油が油圧閉回路内に戻されることが無いため、油圧閉回路内の油温上昇を抑えることができる。また、補充油供給油路162c内の油圧は安定した状態を保っているので、高圧側油路内の作動油を効率良くリリーフさせることができる。
なお、補充油供給油路が変速機出力シャフト6から出力回転体内に延び、第1及び第2リリーフバルブ175a,175bおよび戻し油路165a,165bがポンプシリンダ22(出力回転体)内に配設され、戻し油路165a,165bがポンプシリンダ22内において補充油供給油路162cに繋がる構成となっているため、戻し油路165a,165bを短くできるなど、高圧リリーフ構造をポンプシリンダ22内にコンパクトに納めてコンパクトな構成とすることができる。また、戻し油路165a,165bが変速機出力シャフト6の外周面におけるポンプシリンダ22との嵌合部に周方向に延びて形成されたリング状の油路166を介して補充油供給油路162c(および163a,163b)と繋がる構成であり、この部分の油路連結構造が簡単である。
なお、本発明に係る無段変速機を自動二輪車に採用した実施形態を説明したが、本発明は自動二輪車に適用されることに限定されるものではなく、四輪走行車および自動車を含む車両や汎用機等、種々の動力伝達構成機構に採用することが可能である。