空気中に存在する粒子状浮遊物質、すなわち粉塵は喘息などの疾病の原因として知られており従来から除去の対象となる物質であったが、近年の研究において粒子径2.5マイクロメートル以下の粉塵(いわゆるPM2.5)が気管支炎、花粉症、更には肺ガンなどの疾病を誘起する可能性があるとの報告があり、捕集技術の更なる向上が求められている。その中で濾材を用いて作られる集塵フィルタは確実に空気中に含まれる粉塵を捕集することが可能であることから空気中の粉塵を捕集して空気を清浄にすることが必要なあらゆるケースで幅広く使用されている。
集塵フィルタを形成する濾材は繊維からなるシート状のもの、多孔質のメンブレンシート状のもの、スポンジ状のものなどが存在するが、ここでは代表として繊維からなる厚さ1mm以下の濾材(以下濾材シートとする)で作られた集塵フィルタを用いて原理を説明する。濾材シートは無数の繊維を敷き詰めてシート化したものであり、繊維と繊維の間には空気が通過することができる隙間、いわゆる濾過孔が存在する。繊維の繊維径は大きいもので数十μm、小さいものでおよそ0.2μm程度となり、繊維径が小さければ小さいほど濾過孔は小さくなりやすく、また同じ重量で考えた場合に繊維径が小さければ小さいほど繊維の合計した表面積が大きくなる。
粒子径1μm以下の小さな粉塵を捕集できる濾材シートの代表的なものとしてガラス繊維濾材シートとメルトブローン濾材シートが挙げられる。ガラス繊維濾材シートは繊維径が0.5〜数μmの微細なガラス繊維を漉きこんでシートにし、ほぐれないように樹脂製バインダなどでガラス繊維どうしを結合したものである。ガラス繊維濾材シートはガラス繊維の有する繊維径の小ささを生かして非常に高い捕集性能を得ることができる。また、メルトブローン濾材シートは溶融したポリプロピレンなどの樹脂を高温の高速ガス流体の力で吹き飛ばすことで樹脂を細化させて繊維状にし、半分溶融した状態でスクリーン上に吹き付けることでバインダを用いることなく繊維どうしを溶融接着してシートにしたものである。ポリプロピレンなどの樹脂は分極しやすく、また起こした分極を逃がしにくいという特徴を有する。
繊維の機械的濾過作用で粉塵を捕集する場合、粉塵は大きく分けて慣性衝突、さえぎり、拡散の3つの作用によって繊維上に捕集される。慣性衝突とは繊維の近傍で急に変化する空気の流線に粉塵がついていけず、そのまま粉塵が空気の流線を横切るように繊維に衝突して捕集される作用のことをいう。したがって粉塵の粒径や速度が大きいほど粉塵に働く慣性力が大きくなって慣性衝突の作用が大きく働く。さえぎりとは粉塵が空気の流線に沿って運動する際に粉塵の粒子半径以内の距離で粉塵が繊維に近づいた時に粉塵が繊維に衝突して繊維上に捕集される作用のことをいう。したがって粉塵の粒子径が大きいほど、そして繊維の繊維径が小さいほどさえぎりの作用が大きく働く。拡散とは熱運動する空気分子によって粉塵が不規則な軌道を描くブラウン運動を起こし、その軌道上にある繊維と衝突して捕集される作用のことをいう。
したがってブラウン運動を起こすだけの小さい粒径を有する粉塵にのみ動作し、また繊維の合計の表面積が大きい、すなわち繊維径が小さいほど拡散の作用は大きく働く。理論および実験によって構築された計算から、慣性衝突およびさえぎりは粒子径約1μm以上の粉塵に大きく作用し、また、拡散は粒子径約0.05μm以下の粉塵に大きく作用することが明らかになっている。したがって粒子径1μm以上、もしくは0.05μm以下の粉塵は慣性衝突やさえぎり、そして拡散の作用を受けるため捕集されやすいが粒子径が0.05μm以上かつ1μm以下の粉塵は慣性衝突やさえぎりの作用を大きく得るには粒子径が小さく、そして拡散の作用を大きく得るには粒子径が大きいため捕集されにくいことが明らかになっている。
粒子径が0.05μm以上かつ1μm以下の粉塵をよく捕集するにはこの範囲の粒子径の粉塵に作用する拡散およびさえぎりを大きくすることが有効であり、すなわち繊維径の小さい繊維を密に充填することでこの範囲の粒子径の粉塵をよく捕集することができる。主にクリーンルーム用の高性能集塵フィルタとして、日本工業規格によって「定格風量で粒径が0.3μmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率を持ち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルタ」と規定されているHEPAフィルタが存在するが、ガラス繊維による濾材シートで作成されたHEPAフィルタは繊維径が0.5μm前後と非常に小さい。このように非常に繊維径の小さい繊維を用いることで粉塵の捕集性能を高めることができる。
しかしながら繊維の繊維径をより小さく、より密に充填するほど濾過孔が小さくなって空気を通過させる際の通気抵抗、すなわち圧力損失が大きくなる。ここで比較的大きな繊維径を有する繊維からなる濾材シートを用いて圧力損失を低くしながら小さな粉塵をよく捕集できるようにするために電場を利用した集塵フィルタとして、恒常的な電場を設けて繊維と粉塵との間で作用する力(ファンデルワールス力)を高めた集塵フィルタが特許文献1に記載されている。
特許文献1に記載された集塵フィルタを図9に示す。特許文献1に記載された集塵フィルタは、濾材シート101の上流側および下流側に設けた導電性を有する一対の上流側電極102および下流側電極103のうち少なくとも一方の電極と濾材シートとの間に空気層104によるギャップを設け(図9では上流側に空気層104を設けている)、更に必要であれば少なくとも一方の電極を絶縁材料で被覆して絶縁することで一対の電極間で短絡を起こさない構造となっている。そして一対の電極の間に6〜9kVの電位差を与えるように電極に電圧を印加する。こうすることで強力な電場を濾材シート101の中に設け、濾材シート101の有する繊維と粉塵との間で働くファンデルワールス力を高めることで濾過孔よりも小さい粒子径の粉塵をよく捕集することを可能としている。
特許第3388740号公報
特許文献1に記載される集塵フィルタでは短絡を防ぐために上流側もしくは下流側に設けられた電極のうち少なくとも一方の電極と濾材シートとの間に空気層によるギャップを設けており、濾材シートに電場を直接設けることができないため粉塵の捕集性能が低いという課題あり、粉塵の捕集性能をより高めることが要求されている。
また、捕集性能を高めるために6〜9kVと比較的高い電圧が必要であり、空気層を設けるために設けた絶縁スペーサーの表面が絶縁破壊を起こして短絡を生じる、または空気層を介してアークを伴う短絡が生じることで所定の電圧が得られず濾材シートに電場を設けられなくなることが起こりうるため、より低い電圧とすることが要求されている。
また、特許文献1とは異なる構成だが濾材シートと電極の間に空気層を設けない場合は濾材シートに電場を直接設けることが可能となる。しかし濾材シートの厚さは一般的に2mm以下と非常に薄い構造であるため、上流側および下流側の電極に電位差を設けるように電圧を印加すると濾材シートを解して短絡を起こしやすくなり所定の電圧が得られないという課題があり、電極に電圧を印加しても短絡しない構造とすることが要求されている。
また、濾材シートを蛇腹のプリーツ状とした場合には濾材シートおよび電極のプリーツ方向の寸法は集塵フィルタの開口寸法に対して数倍から数十倍の長さとなり、この寸法の長い電極をプリーツ状に加工し、更にプリーツ状に加工された濾材シートとの間に一定の厚さを有する空気層を設けることは非常に困難であり事実上不可能であるため、より作りやすくて実現可能な構造とすることが要求されている。
本発明はこのような従来の課題を解決するものであり、構造が簡単でかつ低い電圧でも高い捕集性能が得られると同時に短絡を生じない集塵フィルタを実現が可能な形で提供することを目的としている。
本発明の請求項1記載の集塵フィルタは上記目的を達成するために、濾材シートからなり空気中の粉塵を捕集する集塵フィルタにおいて、通気性を有し、通過する空気中に含まれる粉塵を捕集する濾材シートの上流側および下流側の両面に半導電性皮膜を形成する半導電性塗料を塗布して乾燥させて半導電性にして両面半導電性濾材シートとし、投影的に重ならないように両面半導電性濾材シートの両面それぞれに導電性の端子を設け、この端子に電圧を印加して両面半導電性濾材シートの両面の間に電位差を与えることを特徴とするものである。
また、請求項2記載の集塵フィルタは、請求項1記載の集塵フィルタにおいて、イオン導電性ポリマーを含む溶液を半導電性塗料として用いることを特徴とする。
また、請求項3記載の集塵フィルタは、請求項1または2記載の集塵フィルタにおいて、両面半導電性濾材シートの上流側および下流側の面の表面抵抗率がともに10の8乗Ω/□以上12乗Ω/□以下であることを特徴とするものである。
また、請求項4記載の集塵フィルタは、請求項1乃至3いずれかに記載の集塵フィルタにおいて、濾材シートがガラス繊維をバインダで結合してシート状にしたガラス繊維濾材シートであることを特徴とするものである。
また、請求項5記載の集塵フィルタは、請求項1乃至3いずれかに記載の集塵フィルタにおいて、濾材シートが溶融した樹脂を高速のガス流体で吹き飛ばして繊維状としたものを交絡させてシート状にしたメルトブローン濾材シートであることを特徴とするものである。
また、請求項6記載の集塵フィルタは、請求項1乃至5いずれかに記載の集塵フィルタにおいて、両面半導電性濾材シートをプリーツ状にすることを特徴とするものである。
また、請求項7記載の集塵フィルタは、請求項6記載の集塵フィルタにおいて、導電性を有する2次元網状構造物を上流側および下流側のプリーツ山の頂点に接触させて設け、上流側および下流側の2次元網状構造物にそれぞれ異なる電圧を印加することを特徴とするものである。
また、請求項8記載の集塵フィルタは、請求項6記載の集塵フィルタにおいて、導電性を有する棒状部材を上流側および下流側のプリーツ山の頂点に接触させて設け、上流側および下流側の棒状部材にそれぞれ異なる電圧を印加することを特徴とするものである。
また、請求項9記載の集塵フィルタは、請求項1乃至8いずれかに記載の集塵フィルタにおいて、濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートが撥水性を有することを特徴とするものである。
また、請求項10記載の集塵フィルタは、請求項9記載の集塵フィルタにおいて、濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートの有する繊維の表面上にオルガノポリシロキサン、フッ素樹脂、ワックスのうち少なくとも1種類以上を含む撥水性の膜を設けることを特徴とするものである。
また、請求項11記載の集塵フィルタは、請求項10記載の集塵フィルタにおいて、濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートの有する繊維の表面上にオルガノポリシロキサンを含む撥水性の膜を設ける方法として、オルガノポリシロキサンおよび水溶性基を有するポリマーを溶かした水溶液を濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートに浸透させた後に乾燥することを特徴とするものである。
また、請求項12記載の集塵フィルタは、請求項10または11記載の集塵フィルタにおいて、濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートの有する繊維の表面上にフッ素樹脂を含む撥水性の膜を設ける方法として、フルオロアルキル基および水溶性基を有するポリマーを溶かした水溶液に濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートに浸透させた後に乾燥することを特徴とするものである。
また、請求項13記載の集塵フィルタは、請求項10乃至12いずれかに記載の集塵フィルタにおいて、濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートの有する繊維の表面上にワックスを含む撥水性の膜を設ける方法として、溶融したワックスに乳化剤と温水を混合して作成したエマルションに濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートを浸透させた後に乾燥することを特徴とするものである。
また、請求項14記載の集塵フィルタは、請求項10記載の集塵フィルタにおいて、濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートの有する繊維の表面上にオルガノポリシロキサンを含む撥水性の膜を設ける方法として、シリコーンの溶液を濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートに浸透させた後に乾燥することを特徴とするものである。
また、請求項15記載の集塵フィルタは、請求項14記載の集塵フィルタにおいて、シリコーンの溶液の溶媒として、無極性の有機溶剤を用いることを特徴とするものである。
また、本発明の集塵装置は請求項16に記載したとおり、請求項1乃至15いずれかに記載の集塵フィルタの上流にイオン化手段を設けることを特徴とするものである。
本発明によれば、濾材シートの上流側および下流側の両面を半導電性にして両面に電位差を与えることで濾材シートに電場を直接設けることが可能となり、そのため比較的低い電圧を用いても高い捕集性能を得ることができると同時に、半導電面が緩衝帯となることで電荷の急激な移動が起こらず短絡を防止することができる集塵フィルタを実現可能な簡単な構造を有するものとして提供することができる。
本発明の請求項1記載の集塵フィルタは上記目的を達成するために、濾材シートからなり空気中の粉塵を捕集する集塵フィルタにおいて、通気性を有し、通過する空気中に含まれる粉塵を捕集する濾材シートの上流側および下流側の両面を半導電性にして両面半導電性濾材シートとし、両面半導電性濾材シートの両面の間に電位差を与え、濾材シートの両面に半導電性皮膜を形成する半導電性塗料を塗布して乾燥させて両面半導電性濾材シートとし、投影的に重ならないように両面半導電性濾材シートの両面それぞれに導電性の端子を設けることを特徴とするものである。半導電性とは導電性と絶縁性の中間程度の電気伝導性を有し電荷を僅かに通す性質のことで、表面抵抗率として表した場合おおよそ10の8乗Ω/□以上10の12乗Ω/□以下の範囲となる。濾材シートの上流側および下流側の面をそれぞれ半導電性にして両面半導電性濾材シートとすることにより上流側および下流側の面それぞれに電荷を僅かに通す性質、すなわち半導電性を与えることができる。そして半導電性が付与された上流側および下流側の面にそれぞれ異なる電圧を印加することで印加する電圧に相当する量の電荷が上流側および下流側の面それぞれの全体に一様に設けられる。こうすることで両面半導電性濾材シートの上流側の面と下流側の面との間に一様な電位差を与えることができる。また、半導電性塗料とは塗布して乾燥することによって塗布面に得られた皮膜が半導電性を有する塗料のことである。半導電性塗料を濾材シートの内部に浸透しないように表面のみに塗布することで濾材シートの両面を簡単かつ低コストで半導電性とすることができる。具体的にはコーティングロールの表面に半導電性塗料をつけてそのまま濾材シートの表面に転写する、または半導電性塗料をスプレーで濾材シートの表面に吹き付けるといった方法が挙げられる。そして要すれば加熱しながら乾燥する。これを濾材シートの両面で行うことで両面半導電性濾材シートとすることができる。また、大型の設備が必要であるが、コーティングロールで転写し、そのままベルト移動型乾燥炉に濾材シートを入れれば作業が全自動となるため大量の両面半導電濾材シートを簡単に作ることができる。また、均一で強い電場を両面半導電性濾材シートの内部に設けるためには上流側および下流側の面それぞれに均一に電荷を設ける必要がある。そのため上流側および下流側の面それぞれに導電性を有し、ある一定の分布を持って設けた端子に電圧を印加することで、端子を通じて上流側および下流側の面それぞれに電荷を供給することが可能となる。端子から近いほど電荷が供給されやすくなるため、端子がない場合に比べて半導電性を有する両面それぞれにより一様な電荷を設けやすくなる。ここで上流側および下流側の面それぞれに設けられた端子が両面半導電性濾材シートを挟んで同じ位置、すなわち投影的に重なる位置に設けられた場合、両面半導電性濾材シートの内部が絶縁破壊を起こして短絡を起こす可能性が高い。そのため両面半導電性濾材シートを挟んで異なる位置、すなわち投影的に重ならない位置に端子を上流側および下流側の面それぞれに設けることによって短絡を防止することが可能となる。
例えば上流側の面に高圧電源によって0kV、下流側の面に2kVを印加した場合、上流側の面には0kV相当の、そして下流側の面には2kV相当の量の電荷を設けることができる。この時導電性を有する端子を濾材シートの上流側および下流側の面にそれぞれ設けると高圧電源から供給される電荷をそれぞれの面に受け渡すことができるため好ましい。両面半導電性濾材シートの内部は絶縁性を有するため上流側および下流側の面それぞれに設けられた電荷は両面半導電性濾材シートの内部を通じて移動することがない。このように上流側および下流側の面それぞれに留まるように一様に設けられた電荷によって両面半導電性濾材シートの内部に一様な電場が形成される。両面半導電性濾材シートが例えば微細な繊維の集合体によって形成されている場合、両面半導電性濾材シートの内部に存在する繊維が電場の作用を受けて分極を起こし、繊維の表面にプラスとマイナスの電荷が偏るように現れる。
このプラスとマイナスの電荷の偏りによって繊維と繊維の間に強い電場が作られ、繊維と繊維の間を通り抜けようとする粉塵はこの電場の作用を受けて分極した状態となり、さらに分極した粉塵が繊維に近づいた時に繊維表面に存在する電荷によって吸引力を受け、繊維表面に付着し捕集される(以下、この捕集作用を繊維の分極捕集作用と呼ぶ)。ここで両面半導電性濾材シートの上流側の面と下流側の面との距離は両面半導電性濾材シートの厚みそのものであり空気層などを挟まないため非常に小さい。すなわち両面半導電性濾材シートの上流側および下流側の面にそれぞれ設けられた電荷の距離が非常に小さいことから両面半導電性濾材シートの内部に非常に強い電場を作ることができる。このため繊維の分極、繊維どうしの形成する電場、粉塵の分極および電荷を帯びた繊維表面が粉塵を引き付ける力といった全ての作用が大きくなり、高い捕集性能を得ることができるという作用を有する。また、仮に導電性の粉塵が付着するなどして両面半導電性濾材シート内部の一部分が導電性になったとしても両面半導電性濾材シートの両面が半導電性であるためその部分およびその近傍の領域のみが電位の降下を起こしその他の部分は電位を維持することができる。そのため捕集性能が低下しにくい。また、導電性になった部分から端子までの導電路は半導電性であるため電流はほとんど流れない。そのため両面導電性濾材シートの両面に電位差を与えても短絡を起こすことがないという作用を有する。
また、請求項2記載の集塵フィルタは、請求項1記載の集塵フィルタにおいて、イオン導電性ポリマーを含む溶液を半導電性塗料として用いることを特徴とする。イオン導電性ポリマーの例として4級アンモニウム塩を分子構造中に有するポリマーが挙げられる。4級アンモニウム塩は中心のアンモニア原子に4つのアルキル基が結合しており、全体としてプラスの電荷を有している。そこに塩素イオンなどの陰イオンがイオン結合した構造となっているためイオン導電性を有することから僅かに電荷を通す性質を有する。また、イオン導電性を有する4級アンモニウム塩をあらかじめその分子中に有しているために湿度依存性が小さく、低湿度の時でも電荷を僅かに通す特性を確保することができるという特徴を有する。イオン導電性ポリマーを形成するには分子構造中に4級アンモニウム塩と不飽和炭素結合を有する単量体を重合する方法があるが、分子構造中に4級アンモニウム塩と不飽和炭素結合とを有する単量体としてジメチルアミノメタアクリレートのクロライド塩などが挙げられる。ジメチルアミノメタアクリレートのクロライド塩の水溶液をアルコールに溶かし、成膜性を確保するために低分子量であるメチルメタアクリレートを加えた後にアゾビスイソブチロニトリルなどの重合開始剤を加えて重合反応させることで4級アンモニウム塩を含むポリマー溶液を得ることができる。また、アクリル酸のようなカルボキシル基と不飽和炭素結合とを分子中に有する単量体を重合して得たポリマーの溶液を加えることで塗布面への接着性を確保することが可能となる。また、塗布面に形成される塗布膜は分子量が大きいポリマーからなるため非水溶性を示す。このようにして作成した半導電性塗料による塗布膜は低湿度時でも電荷を僅かに通し、また、塗布面からはがれることがなく耐水性をも有するという特徴を有する。
また、請求項3記載の集塵フィルタは、請求項1または2記載の集塵フィルタにおいて、両面半導電性濾材シートの上流側および下流側の面の表面抵抗率がともに10の8乗Ω/□以上12乗Ω/□以下であることを特徴とするものである。両面半導電性濾材シートの上流側及び下流側の面それぞれがどれほどの導電性を有するかは表面抵抗率でもって評価することができる。上流側および下流側の面それぞれの表面抵抗率が10の8乗Ω/□未満の場合は導電性が高くて電荷を通しやすくなる。そのため半導電性濾材シート内部を介して上流側の面と下流側の面との間で短絡を起こしやすくなる。また、上流側および下流側の面それぞれの表面抵抗率が10の13乗Ω/□より高い場合は導電性が低くて電荷を通しにくくなる。そのため上流側および下流側の面にそれぞれ一様な電荷を設けることが難しくなり、両面半導電性濾材シートの内部に強い電場を得られにくい。そこで上流側および下流側の面の表面抵抗率をともに10の8乗Ω/□以上12乗Ω/□以下にすることで電荷を程よく通す半導電性を与えることができ、短絡を防止しながら高い捕集性能を得ることができる。
また、請求項4記載の集塵フィルタは、請求項1乃至3いずれかに記載の集塵フィルタにおいて、濾材シートがガラス繊維をバインダで結合してシート状にしたガラス繊維濾材シートであることを特徴とするものである。ガラス繊維濾材シートは二酸化珪素を主成分とするガラス繊維を漉き込んでシート化したものにアクリル系ラテックスなどの合成樹脂バインダをつけて乾燥させることでガラス繊維を結着したものである。ガラス繊維は加熱して溶けたガラスを遠心力または高温高速の炎で吹き飛ばして綿状にしたものであり、繊維径としてコンマ数μ〜数十μmの範囲のものがよく用いられる。ガラス繊維は絶縁性が高く、また、電場の強さに応じて大きく分極しやすいため、ガラス繊維濾材シートの上流側および下流側の面それぞれに半導電性を与え、上流側の面と下流側の面との間に電位差を与えることで両面半導電性濾材シートの内部に強い電場を設けることができ、そして高い捕集性能を得ることが可能となる。
また、請求項5記載の集塵フィルタは、請求項1乃至3いずれかに記載の集塵フィルタにおいて、濾材シートが溶融した樹脂を高速のガス流体で吹き飛ばして繊維状としたものを交絡させてシート状にしたメルトブローン濾材シートであることを特徴とするものである。溶融した樹脂を高速流体と一緒にノズルから吹き出すことで樹脂は細かく繊維状になる。そしてそのまま樹脂の繊維をスクリーン上に吹き付けることで半溶融状態となっている繊維同士を交絡させ、そのまま常温にすることで繊維どうしを結着させることでメルトブローン濾材シートは作成される。原料としてはポリプロピレンがよく用いられる。ポリプロピレンを用いたメルトブローン濾材シートの繊維は分極しやすいと同時に分極した状態を維持する性質を有するため帯電粉塵をよく引き付ける。メルトブローン濾材シートの上流側および下流側の面それぞれに半導電性を与え、上流側の面と下流側の面との間に電位差を与えることで両面半導電性濾材シートの内部に強い電場を設けることができ、そして高い捕集性能が得られると同時にイオン化手段を上流側に設けた場合に更に高い集塵性能を得ることが可能となる。
また、請求項6記載の集塵フィルタは、請求項1乃至5いずれかに記載の集塵フィルタにおいて、両面半導電性濾材シートをプリーツ状にすることを特徴とするものである。プリーツ状にすることによって空気および粉塵が両面半導電性濾材シートを通過する際の速度、すなわち濾材通過速度を低減することが可能となる。濾材通過速度が小さいほど分極した繊維による捕集作用を粉塵が受ける時間は長くなるため粉塵は捕集されやすくなる。また濾材通過速度が小さいほど空気の濾材を通過する速度が小さくなるため両面半導電性濾材シートの通気抵抗すなわち圧力損失を小さくすることが可能となる。
また、請求項7記載の集塵フィルタは、請求項6記載の集塵フィルタにおいて、導電性を有する2次元網状構造物を上流側および下流側のプリーツ山の頂点に接触させて設け、上流側および下流側の2次元網状構造物にそれぞれ異なる電圧を印加することを特徴とするものである。両面半導電性濾材シートのプリーツ山の頂点と2次元網状構造物とは接触点を有することになり、この接触点から上流側および下流側に設けられたそれぞれの網状構造物に印加された電圧に相当する量の電荷が両面半導電性濾材シートの半導電性を有する上流側および下流側の両面にそれぞれ供給され、両面半導電性濾材シートの内部に強い電場を設ける。ここで両面半導電性濾材シートのプリーツ山の頂点と2次元網状構造物とは複数の箇所で接触することからプリーツ山の頂点全体が端子と同等の役割を果たすようになるため両面半導電性濾材シートの上流側および下流側の面それぞれに一様な電荷を設けることが可能となる。また、両面半導電性濾材シートのプリーツ山の山高さ寸法が上流側および下流側にそれぞれ設けられた2次元網状構造物どうしの絶縁距離となるため、両面半導電性濾材シートをプリーツ状にすることでこの絶縁距離は自然と大きくなる。すなわち両面半導電性濾材シートの上流側および下流側の面それぞれに一様な電荷を設けながら上流側および下流側に設けられた2次元網状構造物の絶縁距離を大きくすることができるため短絡がなく、かつ高い捕集性能を有する構造を簡単に得ることが可能となる。
また、請求項8記載の集塵フィルタは、請求項6記載の集塵フィルタにおいて、導電性を有する棒状部材を上流側および下流側のプリーツ山の頂点に接触させて設け、上流側および下流側の2次元網状構造物にそれぞれ異なる電圧を印加することを特徴とするものである。棒状部材は棒状の形状を有するため変形しにくいためプリーツ山との接触を確保しやすい。また、形状が棒状で通気抵抗が小さいため圧力損失を小さくすることが可能となる。
また、請求項9記載の集塵フィルタは、請求項1乃至8いずれかに記載の集塵フィルタにおいて、濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートが撥水性を有することを特徴とするものである。空気中の水分が両面半導電性濾材シートの内部を構成する繊維の表面に付着すると繊維の表面の絶縁性は低下して十分な分極作用が得られなくなり、また、両面半導電性濾材シートの半導電性を有する両面の間の漏れ電流も大きくなって所定の電位差が得られなくなることから粉塵の捕集性能が低下する。濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートが撥水性を有することによって空気中の水分が繊維に連続的に付着することを防止し、電場の低減を抑制して捕集性能の低下を防ぐことが可能となる。
また、請求項10記載の集塵フィルタは、請求項9記載の集塵フィルタにおいて、濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートの有する繊維の表面上にオルガノポリシロキサン、フッ素樹脂、ワックスのうち少なくとも1種類以上を含む撥水性の膜を設けることを特徴とするものである。濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートに撥水性を付与するには撥水性を有する成分を繊維の表面に添着する方法が有効である。具体的にはオルガノポリシロキサン、フッ素樹脂、ワックスが挙げられる。オルガノポリシロキサンはシロキサン結合を主鎖としてその側鎖にアルキル基を有する構造となっている。分子の外側がアルキル基のような水との結合力の弱い疎水基で占められていることから膜の表面は付着した水滴を引っ張らない。そして水滴は自身の表面張力によって凝集するため膜の表面と水滴とは大きな接触角を示す。オルガノポリシロキサンによる膜はそのような理由で高い撥水性を有する。フッ素樹脂、ワックスも分子構造が違えども撥水性の原理は同様であり、表面が疎水基で占められていることから撥水性を示す。これらの成分のうち少なくとも1種類以上を含む撥水性の膜を繊維の表面に設けることによって繊維の表面に撥水性を与え、空気中の水分が繊維に連続的に付着することを防止することで繊維表面の絶縁性の低下を抑制し捕集性能の低下を防ぐことができる。
また、請求項11記載の集塵フィルタは、請求項10記載の集塵フィルタにおいて、濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートの有する繊維の表面上にオルガノポリシロキサンを含む撥水性の膜を設ける方法として、オルガノポリシロキサンおよび水溶性基を有するポリマーを溶かした水溶液を濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートに浸透させた後に乾燥することを特徴とするものである。具体的には片末端ビニル基含有ポリオルガノシロキサン化合物や片末端アクリロキシ基含有ポリオルガノシロキサン化合物などの一分子中に不飽和炭素結合とオルガノポリシロキサンとを有する単量体と、2−カルボキシエチルアクリレートや1−ヒドロキシエチルアクリレートなどの一分子中に不飽和炭素結合とカルボシキシル基や水酸基といった水溶性基とを有する単量体とを有機溶剤中に適量溶解し、アゾビスイソブチロニトリルなどの重合開始剤を混合して重合反応を起こす。反応終了後に有機溶剤を減圧加熱によって除去してアンモニア水溶液および精製水を加えることでオルガノポリシロキサンおよび水溶性基を有するポリマーの水溶液を得ることができる。得たポリマー水溶液は水で希釈することで粘度を調整することができる。適当な粘度に調整したポリマー水溶液を浸漬などの方法で濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートに浸透させた後に乾燥することによって濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートの有する繊維の表面にオルガノポリシロキサンを含む撥水性の膜を設けることが可能となる。このポリマー水溶液は水溶性で水を希釈剤に使えるため低コストであり、また、乾燥時にも有機ガスを発生しないため取扱いがしやすく、有機溶剤を用いないことから環境にもやさしいという利点を有する。
また、請求項12記載の集塵フィルタは、請求項10または11記載の集塵フィルタにおいて、濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートの有する繊維の表面上にフッ素樹脂を含む撥水性の膜を設ける方法として、フルオロアルキル基および水溶性基を有するポリマーを溶かした水溶液に濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートに浸透させた後に乾燥することを特徴とするものである。具体的には2−パーフルオロイソノニルエチルアクリレートなどの一分子中に不飽和炭素結合とフルオロアルキル基とを有する単量体と、2−カルボキシエチルアクリレートや1−ヒドロキシエチルアクリレートなどの一分子中に不飽和炭素結合とカルボシキシル基や水酸基といった水溶性基とを有する単量体とを有機溶剤中に適量溶解し、アゾビスイソブチロニトリルといった重合開始剤を混合して重合反応を起こす。反応終了後に有機溶剤を減圧加熱によって除去しアンモニア水溶液および精製水を加えることでフルオロアルキル基および水溶性基を有するポリマーの水溶液を得ることができる。更に水で希釈して適当な粘度にしたポリマー水溶液を浸漬などの方法で濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートに浸透させた後に乾燥することによって濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートの有する繊維の表面にフルオロアルキル基を含む撥水性の膜を設けることが可能となる。このポリマー水溶液は水溶性で水を希釈剤に使えるため低コストであり、また、乾燥時にも有機ガスを発生しないため取扱いがしやすく、有機溶剤を用いないことから環境にもやさしいという利点を有する。
また、請求項13記載の集塵フィルタは、請求項10乃至12いずれかに記載の集塵フィルタにおいて、濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートの有する繊維の表面上にワックスを含む撥水性の膜を設ける方法として、溶融したワックスに乳化剤と温水を混合して作成したエマルションに濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートを浸透させた後に乾燥することを特徴とするものである。ワックスとは融点がおよそ40℃以上の固体で溶融時に粘度が低くかつ分解しない特徴を有する有機化合物の総称であり、基本的な分子構造が炭素と水素からなる炭化水素であるため撥水性を有する。また、動植物や石油、石炭といった天然材料から得られる天然ワックス、天然材料を合成に用いて得られる半合成ワックス、エチレンやプロピレンなどの化合物を合成に用いて得られる合成ワックスに大別され、その中で合成ワックスであるポリエチレンワックスがよく使われている。ポリエチレンワックスはエチレン単量体の重合やポリエチレンの熱分解などで所定の分子量に制御されたポリエチレンを得ることで作られる。融点はおよそ100℃前後となる。そして溶融したポリエチレンワックスを温水および乳化剤と混合して加圧することでエマルションを得ることができる。この時カルボキシル基や水酸基を分子構造中に付加した高酸化型の変性ポリエチレンワックスを用いると乳化を行いやすくなる。このようにして得られたエマルションを浸漬などによって濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートに浸透させた後に乾燥することによって濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートの有する繊維の表面にワックスを含む撥水性の膜を設けることが可能となる。このワックスを含んだエマルションは水溶性で水を希釈剤に使えるため低コストであり、また、乾燥時にも有機ガスを発生しないため取扱いがしやすく、有機溶剤を用いないため環境にもやさしいという利点を有する。
また、請求項14記載の集塵フィルタは、請求項10記載の集塵フィルタにおいて、濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートの有する繊維の表面上にオルガノポリシロキサンを含む撥水性の膜を設ける方法として、シリコーンの溶液を濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートに浸透させた後に乾燥することを特徴とするものである。シリコーンの主成分はシロキサン結合からなる主鎖を持ち、アルキル基などを側鎖に有するオルガノポリシロキサンであり、シリコーンの代表的なものとして室温で自然硬化するシリコーンRTVゴムが挙げられる。1液縮合硬化型のシリコーンRTVゴムは高粘調な流動体であり、オルガノポリシロキサンを主剤とし、それにケトオキシムシランなどの架橋剤および有機金属化合物などの若干量の触媒とが含まれている。容器に入った使用前の状態では触媒によってオルガノポリシロキサンの末端に架橋剤が結合した状態になっている。そして使用時にオルガノポリシロキサンの末端に結合した架橋剤が空気中の水分と反応し、加水分解反応と縮合反応とを繰り返してオルガノポリシロキサンどうしが結合し分子量の大きなポリマーとなって硬化する。シリコーンを有機溶剤で溶解した溶液を濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートに浸透させた後に乾燥することでほぼすべてがオルガノポリシロキサンで構成される撥水性の非常に高い膜を設けることが可能となる。シリコーンによって作られる膜は高い撥水性を有するとともに高い絶縁性を有するため濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートの内部に存在する繊維表面の絶縁性を向上させるのにも役立つ。すなわち繊維表面の撥水性と絶縁性を高めることができるため、半導電性を有する両面の間を流れる漏れ電流を小さくすることができ、空気中の水分が多い時でも高い捕集性能が得られるという利点を有する。
また、請求項15記載の集塵フィルタは、請求項14記載の集塵フィルタにおいて、シリコーンの溶液の溶媒として、無極性の有機溶剤を用いることを特徴とするものである。前述したシリコーンの主成分はオルガノポリシロキサンであり、オルガノポリシロキサンはシロキサン結合の主鎖をアルキル基の側鎖が囲む構造であることから極性が小さい。したがってシクロヘキサン、トルエンといった無極性の有機溶剤によく溶ける性質を有する。無極性の有機溶剤をシリコーンの溶媒として用いることで溶液中にシリコーンを均一に分散させることができ、この溶液を濾材シート、もしくは両面半導電性濾材シートに浸透させることで繊維の表面に均一に撥水性の膜を設けることが可能となる。
また、本発明の集塵装置は請求項16に記載したとおり、請求項1乃至15いずれかに記載の集塵フィルタの上流にイオン化手段を設けることを特徴とするものである。請求項1乃至15いずれかに記載の集塵フィルタを構成する両面半導電性濾材シートの内部には強い電場が設けられており、帯電していない粉塵も繊維の分極捕集作用を受けるため捕集されやすくなっているが、帯電した粉塵であれば繊維の分極捕集作用をより強く受けることになり更に捕集されやすい。帯電した粉塵は電荷を持っているため、分極した繊維と繊維との間の隙間に設けられた電場からクーロン力を受けて繊維に引き寄せられる。帯電した粉塵には繊維の表面から離れた位置にいてもクーロン力が働くため、帯電した粉塵は無帯電でかつ分極した粉塵よりも大きな捕集作用を受ける。集塵フィルタの上流にイオン化手段を設けることで帯電した粉塵を集塵フィルタに通過させるようになり、集塵フィルタ単体の時と比べて更に高い捕集性能を得ることが可能となる。イオン化手段の代表的なものとして線状や棘状の放電電極と対向電極とで構成されるものが挙げられる。放電電極と対向電極との間に高い電位差を設けることでコロナ放電を起こし、放電電極近傍の空気分子をイオン化することで作られた空気イオンが粉塵に付着するという原理を用いて粉塵を帯電させることができる。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。ちなみにこれら実施の形態は一例を示すものであり、本発明はこれら実施の形態に限定されるものではない。
(実施の形態1)
コンマ数μ〜数十μmの繊維径を有する絶縁性の繊維1によって構成された濾材シートの上流面(以下シート上流面2とする)および下流面(以下シート下流面3とする)を半導電性にして両面半導電性濾材シート4とし、集塵フィルタ用高圧電源5を用いてシート上流面2とシート下流面3に設けた端子7にそれぞれ異なる電圧を印加した集塵フィルタ12の正面図を図1に、側面図を図2に、また、両面半導電性濾材シート内部(以下シート内部6とする)に存在する繊維1の分極の様子を示すために図1のA−B線における側面断面図を図3に示す。
図3の繊維1は模式的な断面形状として円形状を示しているが実際には細長い繊維形状を有する。ちなみに図1にはシート下流面3が隠れているため図示していないが実際には存在する。シート上流面2およびシート下流面3は4級アンモニウム塩を分子の構造中に有するイオン導電性樹脂のポリマーを含む半導電性塗料を濾材シートの両面に塗布し乾燥する、もしくは通気性の高い不織布を半導電性塗料に浸漬して乾燥させたものを濾材シートの両面に貼り付けることによって半導電性が付与されている。この時乾燥温度は濾材シート、半導電性塗料による半導電性皮膜を保護するために100℃以下であることが好ましい。シート内部6には半導電性が与えられていないため絶縁体のままであり、電荷を通しにくい性質を有する。絶縁性の繊維1としては前述したようなガラス繊維やポリプロピレン繊維が好適である。
そして集塵フィルタ用高圧電源5を用いて例えばシート上流面2に設けた端子7に0kV、シート下流面3に設けた端子7に2kVの電圧を印加することでシート上流面2に0kV、シート下流面3に2kVの電圧を印加する。こうすることによってシート上流面2の全体に0kVに相当する電荷を、そしてシート下流面3の全体に2kVに相当する電荷を一様に与え、シート上流面2とシート下流面3の間、すなわちシート内部6に一様な電場を設ける。
シート内部6を構成する繊維1は電場の作用を受けて図3に示すように分極し、繊維1どうしの隙間に電場が形成される。通気方向8の示す空気の流れによって集塵フィルタ12に導入された粉塵は繊維1どうしの隙間を通過する際に電場の作用を受けて分極し、繊維1に近づいた際に繊維1表面の電荷に引き付けられて繊維1に付着するという繊維1の分極捕集作用を受けて捕集される。シート内部6に形成される電場を強いものにするために両面半導電性濾材シート4の厚さは2mm以下とすることが好ましい。
ここでシート上流面2およびシート下流面3が半導電性ではなく高い導電性を有すると両面半導電性濾材シート4の厚さは2mm以下と薄いためシート上流面2とシート下流面3との間で短絡が起こり、所定の電圧を印加できなくなって電場の形成が不可能となる。また、シート上流面2およびシート下流面3が半導電性ではなく高い絶縁性を有すると電荷が広がりにくくなるためシート上流面2およびシート下流面3の全体に一様な電荷を設けることができない。
すなわちシート上流面2およびシート下流面3を半導電性とすることで、短絡を防ぎながらシート上流面2およびシート下流面3の全体にそれぞれ一様に電荷を設ける構造となっている。シート上流面2およびシート下流面3の表面抵抗率を10の8乗Ω/□以上10の12乗Ω/□以下とすることで適切な半導電性を持たせることができる。
(実施の形態2)
線形状の端子7をシート上流面2およびシート下流面3のそれぞれに正面から見て投影的に重ならない位置に設けた集塵フィルタ12の正面図を図4に、側面図を図5に示す。集塵フィルタ用高圧電源5に接続された端子7から半導電性を有するシート上流面2およびシート下流面3に電荷が伝わるが、端子7から近い位置ほど電荷が伝わる速度が大きい。そのため図4に示すように線形状の端子7をシート上流面2およびシート下流面3におよそ等間隔で一様に設けることで、シート上流面2およびシート下流面3に素早くかつより一様に電荷を設けることが可能となり、より均一で強い電場をシート内部6に設けることができることから捕集性能をより高めることができるようになる。
(実施の形態3)
両面半導電性濾材シート4をプリーツ状にし、上流側に設けられたプリーツ山の頂点9に接触するように導電性を有する2次元網状構造物10を、また、下流側に設けられたプリーツ山の頂点9と接触するように導電性を有する別の2次元網状構造物10をそれぞれ設け、集塵フィルタ用高圧電源5を接続して上流側および下流側の2次元網状構造物10それぞれに異なる電圧を印加した集塵フィルタ12の斜視図を図6に、側面図を図7に示す。ちなみに図を分かりやすくするために図6に示した2次元網状構造物10は上流側のプリーツ山の頂点9および下流側のプリーツ山の頂点9から離して描写しているが、実際には接触している。プリーツ状にすることによって両面半導電性シート4の面積が増え、空気および空気中に含まれる粉塵が両面半導電性シート4を通過する速度、すなわち濾材通過速度を小さくすることができる。濾材通過速度が小さいほど繊維1の分極捕集作用が粉塵に働く時間が長くなるため粉塵は捕集されやすくなる。
また、濾材通過速度が小さいほど空気の通過速度は小さくなり、フィルタの通気抵抗すなわち圧力損失を小さくすることができる。また、上流側のプリーツ山の頂点9は上流側に設けられた2次元網状構造物10と複数箇所にわたって接触し、また、下流側のプリーツ山の頂点9は下流側に設けられた2次元網状構造物10と複数箇所にわたって接触する。2次元網状構造物とプリーツ山の頂点9とが接触している箇所は端子7と同様のものとして働くため、上流側および下流側に設けられた2次元網状構造物10それぞれに印加される電圧に相当する電荷がこの接触している箇所を通じてシート上流面2およびシート下流面3それぞれに供給される。そしてプリーツ山の頂点9は2次元網状構造物10と複数箇所にわたって接触していることからプリーツ山の頂点9のほぼ全部が端子7と同じ役割を果たすようになるため、プリーツ山の頂点9が線状の端子7となってシート上流面2およびシート下流面3それぞれに一定の間隔を空けて複数設けられているのと同じ状態になっている。そのためシート上流面2およびシート下流面3により速くかつより一様に電荷を供給することが可能となっており、安定して高い捕集性能が得られるようになっている。
また、図6および図7に示すように両面半導電性濾材シート4に電場を設けるために上流側および下流側の2次元網状構造物10には異なる電圧を印加して電位差を設けているため、上流側および下流側の2次元網状構造物10どうしが短絡しないようにする必要がある。上流側および下流側の2次元網状構造物10どうしの絶縁距離は両面半導電性濾材シート4によって形成されたプリーツ山の高さ寸法と同じであるため大きく、それにより短絡を防ぐことができる。上流側および下流側それぞれの2次元網状構造物に印加される電圧の差、すなわち電位差よって必要な絶縁距離、すなわちプリーツ山の高さ寸法を調整する必要があるが、電位差が2kVであれればプリーツ山の高さ寸法を15mm以上とすることが好ましい。
このように両面半導電性シート4をプリーツ状にして2次元網状構造物10をプリーツ山の頂点9と接触するように設ける構造とすることによって短絡を防ぐと同時に粉塵の捕集性能を高め、圧力損失を小さくした集塵フィルタ12を得ることができる。ここで2次元網状構造物10は通気性を有し、かつ表面が十分な導電性を有していればその形状や材質を限定するものではない。例としては金属板に穴を設けたパンチングメタルやラス網、格子を設けるように金属線を編んだ金属メッシュ、網状に成型した導電性樹脂の成型体などが挙げられる。
(実施の形態4)
両面半導電性濾材シート4をプリーツ状にし、上流側に設けられたプリーツ山の頂点9に接触するように導電性を有する棒状部材11を3個、また、下流側に設けられたプリーツ山の頂点9と接触するように導電性を有する棒状部材11を上流側および下流側ともに3個ずつ設け、集塵フィルタ用高圧電源5を接続して上流側に設けられた棒状部材11および下流側に設けられた棒状部材11にそれぞれ異なる電圧を印加した集塵フィルタ12の斜視図を図6に示す。図6に示すように上流側および下流側に設けられた棒状部材11には集塵フィルタ用高圧電源5によってそれぞれ異なる電圧が印加されている。また、棒状部材11は上流側および下流側のプリーツ山の頂点9と接触しており、この接触している箇所が端子7と同様の役割を果たす。そのため上流側および下流側に設けられた棒状部材11のそれぞれに印加される電圧に相当する電荷がこの接触している箇所を通じてシート上流面2およびシート下流面3それぞれに供給される。
捕集性能を確保しながら集塵フィルタ12の圧力損失を最小限にするためには棒状部材11は細いものであることが好ましく、図6に示した集塵フィルタ12の横の開口寸法が100mmとした場合、例えば棒状部材の太さが4mm以下であれば棒状部材11が上流側と下流側のどちらか片側の横の開口寸法に占める割合は100分の12以下と十分小さくすることができ、集塵フィルタ12の圧力損失を十分に小さくすることができる。また、棒状部材11は曲げ強度が高いため、押し付けるように設けるだけでプリーツ山の頂点9と確実に接触させることができ、確実に両面半導電性濾材シート4のシート内部6に電場を設けることが可能となる。ここで棒状部材11は強度と表面の導電性を十分に有していればその材質や形状を限定するものではない。例えば材質としては金属や、またカーボンを含有する導電性樹脂の成型物、または樹脂成型物の表面に金属めっきやカーボンなどの導電性塗料などによる導電層を設けたものなどが適用できる。また形状としては強度が確保できるのであれば円筒状、角柱状など様々な形状のものを用いることが可能である。
(実施の形態5)
実施の形態3に記載された集塵フィルタ12の上流側に線状放電電極13および板状対向電極14からなるイオン化手段15を設けた集塵装置の斜視図を図8に示す。集塵フィルタ12の構造は実施の形態3に記載されたものと全く同じものである。イオン化手段15は線状放電電極13および線状放電電極13を挟むように設けられた板状対向電極14からなる。線状放電電極13および板状対向電極14はともに導電性を有し、イオン化手段用高圧電源16によってそれぞれ異なる電圧が印加されている。一般的には板状対向電極14には0kVが、また、線状放電電極13にはコロナ放電を起こして空気をイオン化できる電圧が印加される。線状放電電極13に印加する電圧は板状対向電極14との間の距離および線状放電電極13の径の値によって変化するが、一般的には距離が8mmで径が100μmであれば約3.5〜5kV程度が好ましい。
線状放電電極13と板状対向電極14との間には線状放電電極13に近くなるにつれて大きくなるという電場が設けられるため線状放電電極13の近傍には非常に大きな電場が設けられる。空気を構成する窒素や酸素などのガス分子は紫外線や放射線などによって電子とプラスの電荷を有するプラスイオンとに僅かに電離しており、空気中には電子やそれに近い質量を持った電荷を有する成分が僅かな量だけ存在している。線状放電電極近傍の強い電場によって空気中に僅かに存在する電子が加速され、他の電離していないガス分子と衝突し、ガス分子を電離させる。電離したガス分子は電子を外に出してプラスイオンとなり、外に出された電子は最初に加速された電子と同様に加速されて他のガス分子を電離させる。
この繰り返しによって多くのプラスイオンもしくはガス分子が電子と結合したマイナスイオンが作られ、線状放電電極13に印加される電圧と同じ極性のイオンは反発して周囲にある程度の速度を持って拡散し、線状放電電極13と異なる極性のイオンは引力を受けて線状放電電極13に付着してその電荷を吸い取られ、元のガス分子に戻る。このようにして線状放電電極13近傍からプラスイオンもしくはマイナスイオンが作られ、イオン化手段15を通過する空気中の粉塵はイオンと結合してイオンと同極性に帯電する。帯電した粉塵はイオン化手段15の下流に設けられた集塵フィルタ12に導入され、両面半導電性濾材シート4のシート内部6の繊維1と繊維1の隙間を通過する際に繊維1の分極によってその隙間に設けられた電場からクーロン力を受けて繊維1の表面に移動し、捕集される。プラスに分極した繊維1の表面、マイナスに分極した繊維1の表面のどちら側に移動するかは帯電した粉塵の極性による。
また、この電場によるクーロン力は繊維1の表面から離れた位置に帯電した粉塵が存在しても電場の方向に沿って作用するため、繊維1の隙間のどの位置にいてもいずれかの繊維1の表面に向かって引き寄せられる。そのため本発明の集塵フィルタ12の前にイオン化手段15を設けた集塵装置は粉塵の捕集性能が非常に高い。ここではイオン化手段15として線状放電電極13と板状対向電極14からなるものを用いたがこの形式のものに限定するものではなく、粉塵をイオン化できるものであればどのような形式のものでも好適に用いることができる。イオン化手段15の他の形式としては針状電極と対向電極で構成されるものが挙げられる。
ここで、前述の実施の形態3および5に記載された集塵フィルタ12および集塵装置を実際に作成し、捕集性能と圧力損失の測定を行った。実施の形態3に記載した集塵フィルタ12として以下のものを作成した。4級アンモニウム塩を構造中に有するイオン導電性ポリマーからなる半導電性塗料に通気性の高い不織布を浸漬して80℃の温度で乾燥させた半導電性通気シートを適度な通気性を有するガラス濾材シートの両面に貼り付けて両面半導電性濾材シート4とした。両面半導電性濾材シート4を110mm×183mmに切り出し、183mmの寸法方向において30mm強ごとに前後に交互に折り曲げた。
これを90mm×50mmの開口寸法を有するプリーツ固定枠に固定して幅90mm、高さ50mm、プリーツ山どうしの間隔16.7mm、プリーツ山の高さ30mm、上流側および下流側ともにプリーツ山が3個分となるプリーツを得て、上流側および下流側それぞれにプリーツ山の頂点9に接触するように一つの格子の寸法が約2mm角である金属製の2次元網状構造物を設けて集塵フィルタ12とした。これを実施例1の集塵フィルタ12とした。この時両面半導電性濾材シート4の表面抵抗率は温湿度が25℃60%の条件で3.0×10の9乗Ω/□であった。
また、実施例1の集塵フィルタ12と同様だがガラス濾材シートの代わりにポリプロピレン製のメルトブローン濾材シートを用いた集塵フィルタ12を作成し、実施例2の集塵フィルタ12とした。比較例として、実施例1の集塵フィルタ12と全く同じだが、上流側および下流側に設けた2次元網状構造物10に電圧を印加せず、電位差を設けない場合の測定を行い、この結果を比較例1の集塵フィルタ12の結果とした。また、実施例2の集塵フィルタ12と全く同じだが、上流側および下流側に設けた2次元網状構造物10に電圧を印加せず、電位差を設けない場合の測定を行い、この結果を比較例2の集塵フィルタ12の結果とした。また、実施例1の集塵フィルタ12と同様だが両面に半導電性通気シートを貼り付けずにガラス濾材シートのみとした集塵フィルタ12を作成し、これを比較例3の集塵フィルタ12とした。
また、実施例1の集塵フィルタ12とほぼ同様だがカーボンからなる導電性塗料に浸漬して乾燥させた導電性通気シートを半導電性通気シートの代わりにガラス濾材シートの両面に貼り付けた集塵フィルタ12を作成し、これを比較例4の集塵フィルタ12とした。また、実施例1の集塵フィルタ12の形を変え、下流側の面のみに導電性通気シートを貼り付けて上流側の面には何も貼り付けないガラス濾材シートを用い、上流側の2次元網状構造物をガラス濾材シートと同様のプリーツ形状にし、絶縁性の粘土状物質を用いてガラス濾材シートとおよそ一様に2mm離して設けることで図10に示す集塵フィルタ12と同様に空気層104を有するものを作成し、これを比較例5の集塵フィルタ12とした。
なお、図10には下流側に2次元網状構造物10が設けられておらず、また、下流側に設けた導電性シートの電圧が変化することはないため設ける必要はないが、比較例5の集塵フィルタ12には測定の条件を同一にするために実施例1の集塵フィルタ12と同様の2次元網状構造物10が集塵フィルタ12の下流側に設けられている。
また、図9に示すイオン化手段15と同様であり、線径100μmのタングステン線からなる長さ90mmの線状放電電極13を50mm中に等間隔に3本配置し、線状放電電極13どうしの中心に位置するように幅90mm、通気方向の寸法15mm、暑さ1mmの亜鉛鋼板製の板状対向電極14を通気方向に対して水平に4個設けたイオン化手段15を実施例1の集塵フィルタ12の上流側に設けた集塵装置を作成し、これを実施例3の集塵装置とした。また、実施例3の集塵装置と同じイオン化手段15を実施例2の集塵フィルタ12の上流側に設けた集塵装置を作成し、これを実施例4の集塵装置とした。
これら集塵フィルタ12および集塵装置において、集塵フィルタ12の上流側に設けた2次元網状構造物に0kV、下流側に設けた2次元網状構造物に2kVの電圧を印加した。ここで理由を後述するが、比較例5の集塵フィルタ12に関しては下流側に設けた2次元網状構造物に2kVの電圧を印加した結果を示した。
また、実施例3および実施例4の集塵装置のイオン化手段15には放電電流が約1.2μAとなるように線状放電電極13に約3.8kVを、板状対向電極14に0kVをそれぞれ印加して測定を行った。それぞれの集塵フィルタ12および集塵装置に流した空気流量は全て0.081m3/min(50mm×90mmの寸法を有する集塵フィルタ12の開口に対して0.3m/sの通過風速となり、濾材通過速度は8.33cmとなる)に、また、測定時の温度および湿度の条件は測定室の温湿度を制御して25℃60%に統一した。
この条件で集塵フィルタ12の上流側および下流側に設けた2次元網状構造物の間を流れる電流、すなわち漏れ電流を測定した。そしてパーティクルカウンターを用いて上流側および下流側における粒径0.3μm以上の粉塵個数濃度を測定することで集塵効率を算出し、同時に差圧計を用いてこの条件における圧力損失を測定した。結果を表1の、実施例に示す集塵フィルタおよび集塵装置の漏れ電流、集塵効率および圧力損失を示す表に示す。
比較例1の集塵フィルタ12は実施例1の集塵フィルタ12を測定する前の電圧を印加しない時の結果だが、実施例1の集塵フィルタ12は比較例1の集塵フィルタ12に比べて圧力損失の増大なしで集塵効率が44%から96%へと大幅に向上している。また、比較例2の集塵フィルタ12は実施例2の集塵フィルタ12を測定する前の電圧を印加しない時の結果だが、実施例2の集塵フィルタ12は比較例2の集塵フィルタ12に比べて圧力損失の増大なしで集塵効率が46%から84%へと実施例1の集塵フィルタ12ほどではないが向上している。漏れ電流は実施例1および実施例2の集塵フィルタ12でそれぞれ0.3μA、0.2μAとなり、2kVの電圧を印加しても十分に小さい。
それに対して比較例3の集塵フィルタ12の集塵効率は46%と低く、比較例1の集塵フィルタ12と比較してほとんど同じ結果となった。これは濾材シートの両面が半導電性となっていないため、濾材シートの内部に強い電場を形成することができないためと考えられる。濾材シートの両面に導電性通気シートを貼り付けた比較例4の集塵フィルタ12は電圧を印加したところ約1kVで短絡を起こし、濾材シートの両面に2kVの電位差を得ることができなかった。比較例5の集塵フィルタ12には1.5kVの電圧を印加することができたが2kVの電圧を印加すると短絡を起こした。
1.5kVの電圧を印加した時の集塵効率は84%となり比較的高い集塵性能が得られたが、短絡を起こす2kVよりも少し低い電圧である1.5kVではいつ短絡が起こってもおかしくない状態といえるため、安定して高い集塵性能を得ることができない。
また、実施例3の集塵装置の集塵効率は98.9%となり、実施例1の集塵フィルタ12に比べて更に高い集塵効率を得ることができた。また、実施例4の集塵装置の集塵効率は99.9%となり、実施例2の集塵フィルタ12に比べて大幅に集塵効率が向上した。これはメルトブローン濾材シートがポリプロピレン製の繊維1からなることが理由であると考えられる。ポリプロピレンからなる繊維1は一度起こった分極をなくしにくい、すなわち電荷を逃がしにくい性質を有することから、帯電した粉塵に対してより強いクーロン力を与えることが可能であるためと推測できる。これらの実際の評価により本発明の集塵フィルタ12および集塵装置は圧力損失を増大させることなく、また短絡を起こすことなく集塵性能を大幅に高めることが可能であることがわかった。