JP4967420B2 - β−1,3−1,6−D−グルカンを用いた便秘の予防又は改善剤 - Google Patents

β−1,3−1,6−D−グルカンを用いた便秘の予防又は改善剤 Download PDF

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Description

本発明は、便秘の予防又は改善剤、副交感神経の刺激剤、及び便秘の予防又は改善のため、又は副交感神経刺激(若しくはストレス緩和)のために用いられる飲食品組成物に関する。
近年、食習慣の変化、運動不足、過度のストレス、高齢化等の要因により、常習性便秘者が増加している。便秘者が増加していることは、厚生労働省の発表している、平成14年患者調査(厚生労働省大臣官房統計情報部人口動態・保険統計課:平成14年患者調査報告(疾病分類学))からも明らかである。常用性便秘者の中には、市販されている下剤を常用している人も少なくない。しかし、下剤の常用に対する副作用が問題視されている。
このような背景もあり、便通を改善する機能を持った食品素材の開発が盛んに行われており、おなかの調子を整える特定保健用食品も数多く見られる。例えば、乳酸菌類、オリゴ糖類、セルロースなどは、腸内細菌叢を改善することや、保水・膨潤作用により便を軟らかくすることなどによって、腸内環境を整え便秘を改善する。
また、近年の自然志向により、天然成分からなる便秘改善剤が求められている。
例えば、特許文献1は、β−1,3−1,6−グルカンを含むアウレオバシジウム属菌の培養物と乳酸菌とを含む便秘改善剤を開示している(請求項1)。また、アウレオバシジウム属培養物単独では便秘改善効果は認められないが、アウレオバシジウム属培養物は、乳酸菌による便秘改善効果を増強する作用を有することを教えている(段落0041)。
また、特許文献2は、β−1,3−1,6−グルカンとフラクトオリゴ糖とを含むアウレオバシジウム属培養液が便秘防止などの健康維持飲料として利用できることを教えている(第1頁左欄第15行〜同頁右欄第6頁)。
β−1,3−1,6−グルカンに着目すると、特許文献1にはβ−1,3−1,6−グルカン自体には便秘改善効果はないことが記載されている。また、特許文献2には、β−1,3−1,6−グルカンが便秘改善作用を示したというデータは示されていない。
また、便秘は薬剤の使用により引き起こされる場合もあるところ、薬剤の複数投与はできるだけ避ける方がよいことから、天然成分により便秘を改善できることが望まれる。例えば、モルヒネは癌患者の疼痛緩和のために投与されるが、副作用として強い便秘を引き起こす。このような強固な便秘は、一般の便秘治療薬では改善が難しく、特に天然成分からなる穏和な便秘治療薬では改善が難しい。従って、モルヒネを長期反復投与する場合は、強い便秘を長期にわたり抑制できる安全な便秘の予防又は改善剤が求められる。
特開2004−269407号公報 特開昭61−146192号公報
本発明は、天然素材からなる安全な便秘の予防又は改善剤、及び便秘の予防又は改善効果を有する飲食品組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、モルヒネ被投与者の便秘を予防又は改善できる天然素材からなる安全な便秘の予防又は改善剤、及び飲食品組成物を提供することも課題とする。
さらに、本発明は、天然素材からなる安全な副交感神経刺激剤、及び副交感神経を刺激することができる飲食品組成物を提供することも課題とする。
本発明者らは、オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物が産生するβ−1,3−1,6−D−グルカンの健康維持・増進のための有効利用について研究を重ねた結果、このグルカンをアルカリ処理したものは、便秘症状の改善に優れた効果を示し、さらにモルヒネ投与により誘発される強固な便秘の予防ないしは改善にも優れた効果を示すことを見出した。
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の便秘の予防又は改善剤などを提供する。
項1. 以下の(1)〜(3)の性質を有するβ-1,3-1,6-D-グルカンを含む便秘の予防又は改善剤。
(1) オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物に由来する。
(2) 1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする溶液のH NMRスペクトルが4.7ppm及び4.5ppmの2つのシグナルを有する。
(3) 水溶液の30℃、pH5.0、濃度0.5(w/v%)における粘度が200cP(mPa・s)以下である。
項2. オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物がオーレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)である項1に記載の便秘の予防又は改善剤。
項3. 副交感神経刺激により便秘を予防又は改善する項1又は2に記載の便秘の予防又は改善剤。
項4. 便秘がモルヒネ投与による便秘である項1〜3のいずれかに記載の便秘の予防又は改善剤。
項5. 以下の(1)〜(3)の性質を有するβ-1,3-1,6-D-グルカンを含み、便秘を予防又は改善する作用を有するものであることを特徴とし、便秘を予防又は改善するために用いられる旨の表示を付した飲食品組成物。
(1) オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物に由来する。
(2) 1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする溶液のH NMRスペクトルが4.7ppm及び4.5ppmの2つのシグナルを有する。
(3) 水溶液の30℃、pH5.0、濃度0.5(w/v%)における粘度が200cP(mPa・s)以下である。
項6. オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物がオーレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)である項5に記載の飲食品組成物。
項7. 副交感神経刺激により便秘を予防又は改善する項5又は6に記載の飲食品組生物。
項8. 便秘がモルヒネ投与による便秘である項4〜7のいずれかに記載の飲食品組生物。
項9. 以下の(1)〜(3)の性質を有するβ-1,3-1,6-D-グルカンを含む副交感神経刺激剤。
(1) オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物に由来する。
(2) 1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする溶液のH NMRスペクトルが4.7ppm及び4.5ppmの2つのシグナルを有する。
(3) 水溶液の30℃、pH5.0、濃度0.5(w/v%)における粘度が200cP(mPa・s)以下である。
項10. 以下の(1)〜(3)の性質を有するβ-1,3-1,6-D-グルカンを含み、副交感神経を刺激する作用を有するものであることを特徴とし、副交感神経を刺激するために用いられる旨の表示を付した飲食品組成物。
(1) オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物に由来する。
(2) 1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする溶液のH NMRスペクトルが4.7ppm及び4.5ppmの2つのシグナルを有する。
(3) 水溶液の30℃、pH5.0、濃度0.5(w/v%)における粘度が200cP(mPa・s)以下である。
項11. 以下の(1)〜(3)の性質を有するβ-1,3-1,6-D-グルカンを0.01〜5重量%含む飲料組成物。
(1) オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物に由来する。
(2) 1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする溶液のH NMRスペクトルが4.7ppm及び4.5ppmの2つのシグナルを有する。
(3) 水溶液の30℃、pH5.0、濃度0.5(w/v%)における粘度が200cP(mPa・s)以下である。
項12. オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物がオーレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)である項11に記載の飲料組成物。
項13. さらに、乳酸菌を含む項11又は12に記載の飲料組成物。
項14. 以下の(1)〜(3)の性質を有するβ-1,3-1,6-D-グルカンを0.01〜5重量%、又は10〜80重量%含む固形、半固形、又はゲル状食品組成物。
(1) オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物に由来する。
(2) 1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする溶液のH NMRスペクトルが4.7ppm及び4.5ppmの2つのシグナルを有する。
(3) 水溶液の30℃、pH5.0、濃度0.5(w/v%)における粘度が200cP(mPa・s)以下である。
項15. オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物がオーレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)である項14に記載の食品組成物。
項16. さらに、乳酸菌を含む項14又は15に記載の食品組成物。
本発明の便秘の予防又は改善剤は、オーレオバシジウム属に属する微生物に由来するβ-1,3-1,6-D-グルカンであって、オーレオバシジウム属の天然型β-1,3-1,6-D-グルカンに比べて低粘度の水溶液を与えるグルカンを有効成分として含み、便秘の予防、改善、又は治療に有効である。
また、モルヒネは癌患者などの疼痛を緩和するために投与されるところ、モルヒネはオピオイドμ受容体を遮断(ブロック)してアセチルコリンの遊離を低下させ、即ち副交感神経系を遮断ないしは抑制することにより、腸管の輪状筋を収縮させて蠕動運動を低下させる作用や、肛門括約筋の緊張を高める作用を有することから、強い便秘を引き起こす。上記のβ-1,3-1,6-D-グルカンは、モルヒネを投与された患者の強固な便秘をも改善、又は治療することができる。さらに、モルヒネ投与前に投与しておくことにより、便秘の誘発を予防ないしは抑制することができる。このように本発明の便秘予防又は改善剤は、自律神経系、特に副交感神経系を亢進ないしは刺激することから、ストレス緩和との関連が示唆される。
このβ-1,3-1,6-D-グルカンの水溶液は低粘度であるため、摂取や除菌を行い易い点で有用である。
以下、本発明を詳細に説明する。
(I)便秘の予防又は改善剤
本発明の便秘の予防又は改善剤は、オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物に由来するβ-1,3-1,6-D-グルカンを含むものである。このβ-1,3-1,6-D-グルカンは、1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする溶液のH NMRスペクトルが4.7ppm及び4.5ppmの2つのシグナルを有し、かつ水溶液の30℃、pH5.0、濃度0.5(w/v%)における粘度が200cP(mPa・s)以下、好ましくは50cP(mPa・s)以下のものである。上記粘度の下限値は通常20cP(mPa・s)程度である。
本発明の便秘の予防又は改善剤は、特に上記β-1,3-1,6-D-グルカンを有効成分として含む。
オーレオバシジウム属微生物が生産するβ−1,3−1,6−D−グルカン
オーレオバシジウム属の微生物が生産するβ-1,3-1,6-D-グルカンは、菌体外に分泌されるために回収が容易であり、また水溶性である点で好ましいものである。オーレオバシジウム属の微生物は、分子量が100万以上の高分子量のグルカンから分子量が数万程度の低分子のグルカンまでを培養条件に応じて生産する。
中でも、オーレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)が生産するものが好ましく、オーレオバシジウム・プルランスGM-NH-1A1株、又はGM-NH-1A2株(独立行政法人産業技術研究所特許生物寄託センターにそれぞれFERM P-19285及びFERM P-19286として寄託済み)が生産するものが好ましい。GM-NH-1A1株及びGM-NH-1A2株は、オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)K-1株の変異株である。オーレオバシジウム属K-1株は、分子量200万以上と100万程度の2種類のβ-1,3-1,6-D-グルカンを生産することが知られている。
また、オーレオバシジウム属細菌が生産するβ−1,3−1,6−D−グルカンは、通常、硫黄含有基を有するところ、K-1株の生産するβ−グルカンはスルホ酢酸基を有することが知られている(Arg.Biol.Chem.,47,1167-1172(1983)),科学と工業,64,131-135(1990))。GM-NH-1A1株、及びGM-NH-1A2株が生産するβ-1,3-1,6-D-グルカンもスルホ酢酸基を有すると考えられる。オーレオバシジウム属微生物の中には、リン酸基のようなリン含有基、リンゴ酸基などを含むβ-1,3-1,6-D-グルカンを生産する菌種、菌株も存在する。
GM-NH-1A1株及びGM-NH-1A2株は、後に実施例において示すようにメインピークが見かけ上50〜250万の高分子量のβ−グルカン(微粒子グルカン)とメインピークが2〜30万の低分子量のβ−グルカンの両方を生産する菌株である。この微粒子状グルカンは、一次粒子径が0.05〜2μm程度である。
β−1,3−1,6−D−グルカンの溶解度は、pH及び温度に依存する。このβ−1,3−1,6−D−グルカンは、pH3.5、温度25℃の条件で2mg/ml水溶液を調製しようとすると、その50重量%以上が一次粒子径0.05〜2μmの微粒子を形成し、残部は水に溶解する。本発明において粒子径は、レーザー回折散乱法により測定した値である。
β−1,3−1,6−D−グルカンが水溶液として製剤中に含まれている場合は、レシチンのような乳化剤や、環状デキストリンのような安定化剤を水溶液に添加することにより、微粒子をさらに安定化させることができる。
また、β−1,3−1,6−D−グルカンがオーレオバシジウム・プルランス由来のものである場合は、β-1,3結合/β-1,6結合の結合比は、1〜1.5程度、特に1.1〜1.4程度である。
本発明の便秘の予防又は改善剤に含まれるβ-1,3-1,6-D-グルカン
本発明の便秘の予防又は改善剤に含まれるβ−1,3−1,6−D−グルカンは、水溶液にしたときの粘度が、オーレオバシジウム属微生物が生産する天然型β−1,3−1,6−D−グルカンより低い。この低粘度β−1,3−1,6−D−グルカンは、0.5%(w/v)水溶液(pH5.0)の30℃における粘度が50cP(mPa・s)以下であり、好ましくは10cP以下である。本発明において、粘度はBM型回転粘度計で測定した値である。
この低粘度グルカンは、オーレオバシジウム属微生物が生産する天然型β−1,3−1,6−D−グルカンと同じ一次構造を有する。具体的には、1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする溶液のH NMRスペクトルが4.7ppm及び4.5ppmの2つのシグナルを有するものである。
このグルカンがオーレオバシディウム・プルランス(例えばGM-NH-1A1株)由来のものである場合、得られたβ−1,3−1,6−D−グルカンをエキソ型のβ−1,3−グルカナーゼ(キタラーゼ M、ケイアイ化成製)で加水分解処理すると、分解生成物としてグルコースとゲンチオビコースの遊離が確認できた。このこと及びNMRの積算比から、オーレオバシディウム・プルランス由来のβ−1,3−1,6−D−グルカンはβ−1,3結合の主鎖に対し、β−1,6結合でグルコ−スが1分子側鎖に分岐した構造で、1,3−結合主鎖に対する1,6−結合の側鎖分岐度は、50〜100%程度、特に50〜90%と推測された。
本発明の便秘の予防又は改善剤に含まれるβ−1,3−1,6−D−グルカンは、金属イオン濃度が、β−1,3−1,6−D−グルカンの固形分1g当たり0.4g以下であることが好ましく、0.2g以下であることがより好ましく、0.1g以下であることがさらにより好ましい。製剤中にβ−1,3−1,6−D−グルカンが水溶液状態で含まれる場合は、金属イオン濃度は、水溶液の100ml当たり120mg以下であることが好ましく、50mg以下であることがより好ましく、20mg以下であることがさらにより好ましい。
ここでいう金属イオンには、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、第3〜第5族金属イオン、遷移金属イオンなどが含まれるが、混入する可能性のある金属イオンとしては、代表的には、低粘度β−1,3−1,6−D−グルカンの製造において使用されるアルカリ由来のカリウムイオン、ナトリウムイオンなどが挙げられる。金属イオン濃度は、限外ろ過や透析により調整できる。金属イオン濃度が上記範囲であれば、水溶液状態で保存する場合や、水溶液状態で加熱滅菌する際に、β−1,3−1,6−D−グルカンのゲル化、凝集、沈殿が生じ難い。また、固形製剤においても、再溶解させる場合に凝集などが生じ難い。
このような低粘度β−1,3−1,6−D−グルカンは、以下に示す方法で得ることができる。
なお、ここでいう低粘度β−1,3−1,6−D−グルカンは、水溶液としたときの粘度が、天然型β−1,3−1,6−D−グルカンより低いことを意味し、本発明の便秘予防又は改善剤が低粘度β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液を含むことは必ずしも意味していない。本発明の便秘の予防又は改善剤は、低粘度β−1,3−1,6−D−グルカンを固体状態で含んでいてもよく、又は水溶液のような液体ないしは流動状で含んでいてもよい。
オーレオバシジウム属のβ−1,3−1,6−D−グルカンの生産方法
β−1,3−1,6−D−グルカンの製造方法は、周知である。例えば、これを生産する微生物の培養上清に有機溶媒を添加することによりβ−1,3−1,6−D−グルカンを沈殿物として得ることができる。
また、オーレオバシジウム属の微生物を培養して、β−1,3−1,6−D−グルカンを生産させる方法は種々報告されている。使用できる炭素源としては、シュークロース、グルコース、フラクトースなどの炭水化物、ペプトンや酵母エキスなどの有機栄養源を挙げることができる。
窒素源としては、硫酸アンモニウムや硝酸ナトリウム、硝酸カリウムなどの無機窒素源を挙げることができる。場合によってはβ−グルカンの生産量を上昇させるために適宜、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などの無機塩、更には鉄、銅、マンガンなどの微量金属塩やビタミン類を添加するのも有効な方法である。
オーレオバシジウム属微生物を、炭素源としてシュークロースを含むツアペック培地にアスコルビン酸を添加した培地で培養した場合、高濃度のβ−1,3−1,6−D−グルカンを生産することが報告されている(Arg.Biol.Chem.,47,1167-1172(1983));科学と工業,64,131-135(1990);特開平7−51082号公報)。しかし、培地は、微生物が生育し、β−1,3−1,6−D−グルカンを生産するものなら特に限定されない。必要に応じて酵母エキスやペプトンなどの有機栄養源を添加してもよい。
オーレオバシジウム属の微生物を上記培地で好気培養するための条件としては、10〜45℃程度、好ましくは20〜35℃程度の温度条件、3〜7程度、好ましくは3.5〜5程度のpH条件が挙げられる。
効果的に培養pHを制御するためにアルカリ、あるいは酸で培養液のpHを制御するのも得策である。更に培養液の消泡のために適宜、泡消剤を添加してもよい。培養時間は通常1〜10日間程度、好ましくは1〜4日間程度も培養すればβ−グルカンを生産することが可能である。なお、β−グルカンの生産量を測定しながら培養時間を決めてもよい。
上記条件下オーレオバシジウム属の微生物を4〜6日間程度通気攪拌培養すると、培養液にはβ−1,3−1,6−D−グルカンを主成分とするβ−グルカン多糖が0.1%から数%(w/v)含有されており、その培養液の粘度はBM型回転粘度計(東機産業社製)により30℃では数百cP([mPa・s])から数千cP([mPa・s])という非常に高い粘度を有する。この培養を遠心分離して得られる上清に例えば有機溶媒を添加することにより、β−1,3−1,6−D−グルカンを沈殿物として得ることができる。
低粘度β−1,3−1,6−D−グルカンの製造方法
上記の高粘度のβ−1,3−1,6−D−グルカンを含む培養液を、常温で攪拌しながら、これにアルカリを添加すると、急激に粘度が低下する。
アルカリは、水溶性で、かつ医薬品や食品添加物として用いることができるものであればよく、特に限定されない。例えば、炭酸カルシウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸アンモニウム水溶液などの炭酸アルカリ水溶液;水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液などの水酸化アルカリ水溶液;あるいはアンモニア水溶液などを使用できる。アルカリは、培養液のpHが12以上、好ましくは13以上になるように添加すればよい。例えば水酸化ナトリウムを使用して培養液のpHを上げる場合は、水酸化ナトリウムの最終濃度が0.5%(w/v)以上、好ましくは1.25%(w/v)以上になるように添加すればよい。培養液にアルカリを添加し、良く攪拌すると、瞬時に培養液の粘度が低下する。
次いで、アルカリ処理後の培養液から菌体などの不溶性物質を分離する。培養液の粘度が低いため、菌体を自然沈降させて上澄みを回収する方法(デカント法)、遠心分離、ろ紙あるいはろ布を利用した全量ろ過、フィルタープレス、更に膜ろ過(MF膜などの限外ろ過)などの方法で、容易に不溶性物質とグルカンとを分離できる。ろ紙あるいはろ布による全量ろ過の場合は、セライトなどろ過助剤を利用するのも一つの手段である。工業的にはフィルタープレスによる菌体除去が好ましい。
次いで、グルカンを含む溶液に酸を添加して中和する。中和は、不溶物の除去前に行ってもよい。酸は、医薬や食品添加物として使用できるものであればよく、特に限定されない。例えば、塩酸、燐酸、硫酸、クエン酸、リンゴ酸などを使用できる。酸の使用量は、溶液又は培養液の液性が中性(pH5〜8程度)になるような量とすればよい。即ち、中和はpH7に合わせることを必ずしも要さない。
pH12以上のアルカリ処理後、中和して得られるβ−1,3−1,6−D−グルカンは、30℃、pH5.0、濃度0.5(w/v%)における粘度が通常200cP以下、場合によっては50cP以下である。粘度は製造方法ないしは精製方法によって変動する。
アルカリ処理された低粘度のβ−1,3−1,6−D−グルカンは、中和しても粘度が高くなることがない。さらに、常温(15〜35℃)では、液性をpHが4を下回るような酸性にしても、粘度が高くなることがない。
また、培養上清をアルカリ処理、及び中和した後に、菌体などを除去するのに代えて、培養上清から菌体などを除去した後に、アルカリ処理、及び中和を行うこともできる。
得られるグルカン水溶液からグルカンより低分子量の可溶性夾雑物(例えば塩類など)を除去する場合は、例えば限外ろ過を行えばよい。
また、アルカリ処理、除菌した後、中和せずに、アルカリ性条件下で限外ろ過することもでき、これにより透明性、熱安定性、長期保存性に一層優れる精製β−1,3−1,6−D−グルカンが得られる。アルカリ性条件は、pH10以上、好ましくは12以上であり、pHの上限は通常13.5程度である。
このようにして得られる水溶液に含まれるβ−1,3−1,6−D−グルカンは、乾燥させて固形製剤にする場合も、また水溶液のまま製剤として使用する場合も、一旦、水溶液から析出させることができる。β−1,3−1,6−D−グルカンの析出方法は、特に限定されないが、例えば、限外ろ過などにより濃縮してグルカン濃度を1w/w%以上にした水溶液に、エタノールのようなアルコールを、水溶液に対して容積比で等倍以上、好ましくは2倍以上添加することにより、β−1,3−1,6−D−グルカンを析出させることができる。
β−1,3−1,6−D−グルカンを低粘度化することにより、限外ろ過などによる濃縮を容易に行えることから、アルコール沈殿に使用するアルコール量を少なくすることができる。
固形製剤にする場合は、低粘度β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液を直接乾燥させてもよく、析出させたβ−1,3−1,6−D−グルカンを乾燥させてもよい。乾燥は、噴霧乾燥法、凍結乾燥法等公知の方法で行うことができる。
製剤
本発明の便秘の予防又は改善剤において、β−1,3−1,6−D−グルカンは、必要に応じて薬学的に許容される担体とともに適当な製剤とすることができる。このような担体として、賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、付湿剤等が挙げられる。また、酸化防止剤のような慣用の添加剤なども含まれていてよい。
製剤の形態は特に限定されず、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等のどのような形態であってもよい。アルカリ処理された低粘度のβ−1,3−1,6−D−グルカンを使用する場合は、高濃度の水溶液を調製できることから、シロップ剤にする場合にも、1日に無理なく摂取できる量に有効量のβ−1,3−1,6−D−グルカンを含ませることができる。
賦形剤としては、公知のものを広く使用でき、例えば、乳糖、ショ糖、ブドウ糖等の各種の糖類;バレイショデンプン、コムギデンプン、トウモロコシデンプン等の各種デンプン類、;結晶セルロース等の各種セルロース類;無水リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム等の各種無機塩類等が挙げられる。
結合剤としては、公知のものを使用でき、例えば、結晶セルロース、プルラン、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が挙げられる。
崩壊剤としては、公知のものを広く使用でき、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、デンプン、アルギン酸ナトリウム等が挙げられる。
潤沢剤としては、公知のものを広く使用でき、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、硬化油などが挙げられる。
付湿剤としては、公知のものを広く使用でき、例えば、ココナッツ油、オリーブ油、ゴマ油、落花生油、大豆リン脂質、グリセリン、ソルビトール等が挙げられる。
製剤中に含まれるβ−1,3−1,6−D−グルカンの量は、投与対象又は患者の年齢、体重、症状等によって異なり一概に規定できないが、1日摂取量が1〜1000mg程度、特に10〜200mg程度になるような量含まれていればよい。特に、モルヒネ投与により引き起こされる便秘のように強固な便秘の場合は、1日摂取量が1〜1000mg程度、特に10〜500mg程度になるような量含まれていればよい。上記摂取量の範囲であれば、十分に便秘予防又は改善効果が得られるとともに、下痢のような副作用や毒性が現れるということがない。
1日1回投与する製剤である場合は、1日必要量が一つの製剤に含まれていればよく、例えば1日3回投与する製剤である場合は、1日必要量の3分の1が製剤に含まれていればよい。
また、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤のような固形製剤の場合は、製剤中にβ−1,3−1,6−D−グルカンが0.1〜100重量%程度、特に1〜50重量%程度含まれていることが好ましい。特にモルヒネ投与患者の便秘のための固形製剤の場合は、製剤中にβ−1,3−1,6−D−グルカンが0.1〜100重量%程度、特に1〜50重量%程度含まれていることが好ましい。
また、シロップ剤のような液体又は流動状の製剤の場合は、β−1,3−1,6−D−グルカンが0.01〜2重量%程度、特に0.05〜0.5重量%程度含まれていることが好ましい。なお、液体又は流動状の製剤中のグルカンは一部が溶解していない場合もある。
上記範囲であれば、摂取し易い製剤量中に、便秘予防又は改善効果が十分に得られるとともに副作用や毒性が現れない程度のβ−1,3−1,6−D−グルカンが含まれることになる。またシロップ剤の場合は、上記範囲であれば、飲み易い粘度のシロップ剤が得られる。
また、本発明の便秘の予防又は改善剤には、β−1,3−1,6−D−グルカンによる便秘予防又は改善効果を損なわない範囲で、便秘予防剤又は改善剤に通常含まれる成分や添加剤が含まれていてもよい。
投与対象
本発明の便秘予防又は改善剤は、便秘のヒトに好適に投与できる。この中には、便秘である以外は健康なヒトの他に、他の疾患を併発している患者も含まれる。特に、モルヒネを投与されることにより便秘になったヒトは好適な投与対象である。また、本発明の便秘の予防又は改善剤は、モルヒネ投与予定のヒトにも好適に投与することができ、モルヒネによる便秘の誘発を完全に又はある程度抑えることができる。さらに、β−1,3−1,6−D−グルカンは安全な天然成分であることから、便秘になり易い生活環境の健常人も予防的に適時又は常時摂取することができる。
本発明の便秘の予防剤は、便秘を完全に予防する作用の他、便秘の発症をある程度抑える作用も有するものである。また、本発明の便秘の改善剤は、便秘症状を完全に回復する作用の他、便秘症状を緩和する作用も有する。
(II)副交感神経刺激剤・ストレス緩和剤
上記説明したオーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物に由来するβ-1,3-1,6-D-グルカンは、モルヒネ投与による便秘を解消することから、副交感神経を刺激しており、副交感神経刺激剤として使用することができる。また、副交感神経を刺激するためストレスを緩和することができ、ストレス緩和剤としても使用することができる。
前述したように、このβ-1,3-1,6-D-グルカンは、1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする溶液のH NMRスペクトルが4.7ppm及び4.5ppmの2つのシグナルを有し、かつ水溶液の30℃、pH5.0、濃度0.5(w/v%)における粘度が200cP(mPa・s)以下、好ましくは50cP(mPa・s)以下のものである。
投与対象は、交感神経亢進が悪影響を及ぼす種々の疾患に羅患しているヒトの他、ストレスを感じているヒトが好適である。また、上記グルカンは天然の安全な成分であることから、健常人が常時摂取することもできる。
(III)飲食品組成物
本発明の飲食品組成物は、上記説明したβ−1,3−1,6−D−グルカンを含む。この飲食品組成物は、β−1,3−1,6−D−グルカンを含むことから便秘を予防又は改善する作用、及び副交感神経を刺激しストレスを緩和する作用を有するため、栄養機能食品又は特定保健用食品のような保健機能食品として好適に使用できる。
従って、本発明の飲食品組成物は、便秘を予防又は改善するために使用される旨の表示、又は副交感神経を刺激するため、若しくはストレスを緩和するために使用される旨の表示が付されたものとすることができる。
本発明の飲食品組成物に含まれる飲食品の種類は特に限定されない。β−1,3−1,6−D−グルカンを添加できるものであれば、栄養ドリンク、ジュース、茶、スープのような各種飲料品はもちろんのこと、クッキー、飴、ガム、ゼリー、寒天、プリン、グミ、チョコレート、澱粉加工食品などいかなる飲食品でも用いることができる。パン、うどんのような麺類、ヨーグルトやチーズなどの乳製品、ドレッシングやマヨネーズなどの加工食品、嚥下用補助食品等も好適である。各飲食品の特性や目的に応じ、製造工程の適切な段階で配合すればよい。
本発明の飲食品組成物中には、1日摂取量が通常1〜1000mg程度、好ましくは10〜200mg程度になるようにβ−1,3−1,6−グルカンが含まれていればよい。特に、モルヒネ投与により引き起こされる便秘のように強固な便秘の患者に与えるためのものである場合は、1日摂取量が1〜1000mg程度、特に10〜500mg程度になる量のβ−1,3−1,6−グルカンが含まれていればよい。
β−1,3−1,6−D−グルカンは人体に対して無毒性であるから、その添加割合に特に制限はないが、各飲食品の特性、呈味性あるいは経済性等を考慮して、固形、半固形又はゲル状食品の場合、その添加量は組成物全体量に対して通常0.01〜5重量%程度、好ましくは0.01%〜2重量%程度であればよい。ヨーグルトのような半固形状の食品も、食する上で流動性が求められない点で固形状食品に含まれる。上記の範囲であれば、無理なく摂取できる食品量中に、便秘の予防又は改善に有効な1日摂取量のβ−1,3−1,6−グルカンが含まれることになる。また、β−1,3−1,6−D−グルカンの上記含有比率であれば、グルカンの溶解性が良好であり粘度が低く吸収され易い。
また同様の理由で、液体、流動状、又は半流動状の飲料組成物にβ−1,3−1,6−グルカンを含ませる場合のその含有量は、組成物全体に対して、0.01〜5重量%程度が好ましく、0.01〜2重量%程度がより好ましい。上記の範囲であれば、無理なく摂取できる食品量中に便秘の予防又は改善に有効な1日摂取量のβ−1,3−1,6−グルカンが含まれることになる。また、β−1,3−1,6−D−グルカンの含有比率が上記範囲であれば、殺菌などの熱処理によってもゲル化や粘度上昇を起こす恐れがない。なお、飲料組成物中のグルカン濃度が高い場合は一部が溶けずに含まれる場合もある。
本発明の飲食品組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、食品分野で慣用の補助成分が含まれていて良い。このような補助成分として、例えばフラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、大豆オリゴ糖、イソマルトースのようなオリゴ糖;ビフィドバクテリウム、ラクトバチラス、エンテロコッカス属のような乳酸菌;アガリクス、マイタケ、シイタケ、メシマコブ、チャーガ、ハナビラタケのようなキノコ類、またはその抽出物;α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン、γ−シクロデキストリンのようなシクロデキストリンや直鎖デキストリンおよび難消化デキストリン;クエン酸、リンゴ酸、ヒアルロン酸のような有機酸;トリプトファン、メチオニン、テアニン、GABA(γ‐アミノ酪酸)などのアミノ酸、β‐カロテン、ルテイン、アスタキサンチン、フコキサンチンなどのβ‐カロチノイド類、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンEのようなビタミン類;亜鉛、鉄、マグネシウム、セレン、クロム、銅、マンガン、モリブデン、ヨウ素のようなミネラル;ラクトフェリン;ローヤルゼリー;プロポリス;カテキン;ウコン;トレハロース;高麗ニンジン;ショウガ;紅花;イチョウ葉またはイチョウ葉エキス;アロエ;サイリウム;シャンピニオン;黒酢;各種香料などが挙げられる。
特に、β−1,3−1,6−D−グルカン0.01〜5重量%(特に0.01〜2重量%)程度と乳酸菌(中でも、殺菌乳酸菌粉末)、オリゴ糖、又は/及びアミノ酸をそれぞれ0.01〜2重量%程度とを含む飲食品組成物が好ましい。この場合の飲食品組成物は、固形、半固形、ゲル状、液体状、流動状、半流動状のいずれの飲食品組成物であってもよい。
また、本発明の飲食品組成物は、一般の飲食品を主体とするものではなく、賦形剤又は担体等とともにβ−1,3−1,6−グルカンを錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤などの形状に成形した、例えば固形のいわゆるサプリメント製剤(栄養補助製剤)であってもよい。賦形剤は製剤の項目で例示したものを使用できる。この場合のβ−1,3−1,6−グルカンの含有量は、組成物全体に対して、10〜80重量%程度が好ましく、10〜50重量%程度がより好ましい。
特に、β−1,3−1,6−D−グルカン10〜80重量%(特に10〜50重量%)程度と乳酸菌(中でも、殺菌乳酸菌粉末)、オリゴ糖、又は/及びアミノ酸をそれぞれ1〜10重量%程度とを含むものが好ましい。
本発明の飲食品組成物は、便秘又は便秘気味のヒト、ストレスを感じているヒト、交感神経亢進による疾患に羅患しているヒトが必要時、又は日常的に摂取するのに好適である。また、モルヒネ投与患者又はモルヒネ投与予定患者が必要時、又は日常的に摂取することもできる。
実施例
次に実施例及び試験例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)低粘度β−1,3−1,6−グルカンの調製
(1-1)β-グルカンの培養生産
後掲の表1に示す組成を有する液体培地100mlを500ml容量の肩付きフラスコに入れ、121℃で、15分間、加圧蒸気滅菌を行った後、オーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)GM-NH-1A1株(FERM P-19285)を同培地組成のスラントより無菌的に1白金耳植菌し、130rpmの速度で通気攪拌しつつ、30℃で24時間培養することにより種培養液を調製した。
次いで、同じ組成の培地200Lを300L容量の培養装置(丸菱バイオエンジ製)に入れ、121℃で、15分間、加圧蒸気滅菌し、上記のようにして得られた種培養液2Lを無菌的に植菌し、200rpm、27℃、40L/minの通気攪拌培養を行った。なお、培地のpHは水酸化ナトリウム及び塩酸を用いてpH4.2〜4.5の範囲内に制御した。96時間後の菌体濁度はOD660nmで23 ODで、多糖濃度は0.5%(w/v)で、置換スルホ酢酸含量は0.09%であった。
<多糖濃度測定>
多糖濃度は、培養液を数mlサンプリングし、菌体を遠心分離除去した後、その上清に最終濃度が66%(v/v)となるようにエタノールを加えて多糖を沈殿させて回収した後、イオン交換水に溶解し、フェノール硫酸法で定量した。
<置換スルホ含量測定>
同様にして菌体を除去した培養上清にエタノールを最終濃度が66%となるように添加し、β-グルカンを沈殿回収した。その後、再度イオン交換水に溶解し、再度遠心分離後、その上清に最終濃度が0.9%になるように食塩を加えた後、再度66%エタノールでβ−グルカンを回収した。このβ−グルカン回収精製操作を更に2回繰り返し、得られたβ-グルカン水溶液をイオン交換水で透析後、凍結乾燥によりβ−グルカン粉末を得た。
このβ−グルカン粉末を燃焼管式燃焼吸収後、イオンクロマト法で組成分析した結果、S含量は239mg/kgであり、この値から計算される置換スルホ酢酸含量は0.09%であった。
Figure 0004967420
(1−2)アルカリ処理
上記のようにして得られた培養液の濃度をBM型回転粘度計(東京計器製)を用いて、30℃、12rpmで測定したところ、1500cP((mPa・s))であった。測定に用いるロータは粘度にあわせて適当なものを選択した。
この培養液に水酸化ナトリウム最終濃度が2.4%(w/v)となるように25%(w/w)水酸化ナトリウムを添加し攪拌したところ(pH13.6)、瞬時に粘度が低下した。引き続いて50%(w/v)クエン酸水溶液でpH5.0となるように中和してから粘度を測定したところ、そのときの粘度(30℃)は20cP([mPa・s])であった。
次いで、この培養液にろ過助剤としてKCフロック(日本製紙社製)を1wt%添加し、薮田式ろ過圧搾機(薮田機械製)を用いて菌体を除去し、最終的に培養ろ液(約230L)を得た。その多糖濃度は0.5%(w/v)で、ほぼ100%の回収率であった。
(1−3)β−グルカン水溶液の脱塩
上記のβ−グルカン水溶液(培養ろ液)を0.3%に希釈後、限外ろ過(UF)膜(分子量カット5万、日東電工社製)を用いて脱塩を行い、最終的にナトリウムイオン濃度を20mg/100mlに落とした後、50%(w/v)クエン酸水溶液によりpHを3.5に調整した。
引き続いて、ホット充填用加熱ユニット(日阪製作所製)を用いて95℃で、3分間保持することにより殺菌処理を行い、最終製品のβ−グルカン水溶液を得た。この時のβ−グルカンの濃度をフェノール硫酸法により測定したところ0.22%(w/v)であった。また、培養液からのトータル収率は約73%であった。
<硫黄含有量の測定>
また、得られたβ-グルカン水溶液をイオン交換水で透析後、凍結乾燥によりβ-グルカン粉末を得た。本β-グルカンの組成分析結果からS含量は330mg/kgであり、これから計算される置換スルホ酢酸含量は0.12%であった。
<結合状態の確認>
また、脱塩を行った上記培養ろ液について、コンゴーレッド法によって、480nmから525nm付近への波長シフトを確認することができたのでβ−1,3結合を含むグルカンを含有していることが証明された(K. Ogawa, Carbohydrate Research, 67, 527-535 (1978)、今中忠行 監修, 微生物利用の大展開, 1012-1015, エヌ・ティー・エス(2002))。そのときの極大値へのシフト差分はΔ0.48/500μg多糖であった。
上記培養ろ液15mlを取り出し、30mlのエタノールを添加し、4℃、1000rpm、10minで遠心して、沈殿する多糖を回収した。66%エタノールで洗浄し、4℃、1000rpm、10分間遠心して、沈殿する多糖に2mlのイオン交換水と、1mlの1N水酸化ナトリウム水溶液を添加撹拌後、60℃、1時間保温して沈殿を溶解させた。次に-80℃にて凍結後、一晩、真空凍結乾燥を行い、乾燥後の粉末を1mlの1N水酸化ナトリウム重水溶液に溶解させ、2次元NMRに供した。
2次元NMR(13C−H COSY NMR)106ppmと相関関係を有するH NMRスペクトルを図1に示す。このスペクトルにおいて4.7ppmと4.5ppm付近との2つのシグナルが得られた。
この結果、本β−グルカンがβ−1,3−1,6−Dグルカンであることが証明された(今中忠行 監修、微生物利用の大展開、1012-1015、エヌ・ティー・エス(2002))。それぞれのH NMRシグナルの積分比から、β−1,3結合/β−1,6結合の比は1.15であることが判明した。
<粒度測定>
次に、レ−ザ回折/散乱式粒度分布測定装置(HORIBA製LA−920)を用いて培養液の粒度を測定したところ、粒子としては0.3μmと100μm程度の大きさのところにピ−クが見られた。続いて、超音波を照射しながら、粒度測定を行うと、100μmのピ−クはみるみるうちに消失し、0.3μmのピ−クが増え、最終的に0.3μmのみとなった。超音波照射したときの培養液の粒度分布を図2に示す。
0.3μmのピークはβ−1,3−1,6−D−グルカンの一次粒子によるピークであり、100〜200μmのピークはβ−1,3−1,6−D−グルカンの一次粒子が凝集した二次粒子によるピークであると考えられる。
また、二次粒子はマグネチックスタラ−による攪拌、軽い振とうでも同じように消失し、容易に砕けて一次粒子になることが確認された。よって、二次粒子は非常に緩い凝集(緩凝集状態)と考えられる。
<分子量測定>
また、東ソー社製のトーヨーパールHW65(カラムサイズ75cm×φ1cm、排除分子量250万(デキストラン))を用いて、0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液を溶離液としてゲルろ過クロマトグラフィーを行い、溶解β−1,3−1,6−D−グルカンとβ−1,3−1,6−Dグルカンの1次粒子とを含む溶液の分子量を測定したところ、溶解β−1,3−1,6−D−グルカンに由来する2〜30万のピークの低分子画分と、1次粒子に由来する見かけ上50〜250万の高分子画分との二種類が検出された。分子量のマーカーとしてShodex社製のプルランを用いた。
水溶性β−1,3−1,6−D−グルカンと微粒子とを分離するため、上記の微粒子画分と可溶性画分とを含むβ−1,3−1,6−D−グルカン溶液をアドバンテック社製のフィルター(0.2μm)でろ過を行ったところ、50〜250万の高分子画分が消失した。このことから、高分子画分はβ−1,3−1,6−D−グルカンの一次粒子や一次粒子が凝集した二次粒子に相当することが判明した。よって、水溶性β−1,3−1,6−D−グルカンの分子量は2〜30万と考えられる。
(2)粉末化グルカンの調製
(1)において、アルカリ処理および菌体除去処理により調製された微粒子β−1,3−1,6−D−グルカンを含むβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液に、最終濃度が66%(v/v)となるようにエタノールを添加して、多糖グルカンを沈殿させ、遠心分離法により回収した。次いで凍結乾燥法によりエタノールと水分を除去し、乾燥β−1,3−1,6−D−グルカンを得た。そのときの収率はエタノール沈殿前の全糖濃度と比較して95%以上であった。
次いで、得られた乾燥β−1,3−1,6−D−グルカンを最終濃度が0.3%(w/v)となるように水に溶解分散後、前述したと同様にして東ソー社製のトーヨーパールHW65(カラムサイズ 75cm×φ1cm、排除分子量250万(デキストラン))により0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液を溶離液としてゲルクロマトグラフィーを行い、分子量を測定したところ、得られた多糖の分子量は2〜30万のピークの低分子画分と見かけ上50〜250万の高分子画分の二種類からなることが判明した。ここで、分子量のマーカーとしてShodex社製のプルランを用いた。
一方、水溶性β−1,3−1,6−D−グルカンと微粒子を分離するため、本法で調製したβ−1,3−1,6−D−グルカン水溶液(微粒子と可溶化グルカンを含むもの)をアドバンテック社製のフィルター(0.2μm)でろ過を行ったところ、50〜250万の高分子画分が消失した。よって、本法により得られたβ−1,3−1,6−D−グルカンを乾燥させても、再溶解させれば乾燥前のβ−1,3−1,6−D−グルカンと同様の物理的挙動を再現することが実証された。
(3)高純度β−1,3−1,6−D−グルカン粉末の製造
(1)において得られた培養液(多糖濃度0.5%(5mg/ml))90Lを50%クエン酸水溶液9kgで中和後、濾過助剤(日本製紙ケミカル製粉末セルロ−スKCフロック)を1.8kgプレコートした薮田式濾過圧搾機40D-4を通して、菌体を取り除いた。ろ液を限外濾過スパイラルエレメント(日東電工製NTU3150−S4)で9Lまで濃縮した。本濃縮液を攪拌しながら、エタノール18Lを加え、グルカン/エタノール/水スラリーを得た。スラリーの粘度はBM型粘度計で22mPa・s(30℃)であった。室温で3時間静置し、上澄み液(エタノール/水)約17Lを取り除いた。残ったスラリーの粘度は45mPa・s(30℃)であった。本濃縮スラリー10Lを坂本技研型の噴霧乾燥装置R-3を用いて噴霧乾燥し、360gのβ−1,3−1,6−D−グルカン粉末を得た(回収率80%)。得られたβ−1,3−1,6−D−グルカンの純度はNMRスペクトルの解析の結果、90%以上であった。
(4)便秘予防・改善効果の検討
ヒトの便秘に対する効果
1)検体の調整
使用した本発明品のドリンク(検体)は以下のものである。β―1,3−1,6−グルカン水溶液(上記(3)の項目で得た高純度β―1,3−1,6−グルカン粉末0.2%、クエン酸0.8%)1L、アセスルファムK100mg、レモンエッセンス0.5mlからなる水溶液を調製した。この水溶液を加温状態で撹拌混合し、約85℃で加温終了後、20分間放置したものを1μmフィルターを通した。このものを50ml(β―1,3−1,6−グルカン100mg)ずつ充填し、滅菌槽にて90℃で30分間滅菌した。
2)便秘に対する作用
便秘症状を有する他は健康な男女40人(男性29人、女性11人)を対象に、前記検体に相当するドリンクをそれぞれ1回当り50ml((β―1,3−1,6−グルカン100mg)を1日1回、連日14日間服用させた。14日間服用終了後、40%の被験者に便通改善効果が得られた。
ラットのモルヒネ誘導性便秘に対する効果
低粘度化β―1,3−1,6−グルカンが、モルヒネにより誘発される便秘を抑制することを以下のようにして確認した。
1) 使用物質
低粘度化処理グルカンとして、上記(3)の項目で得た高純度β―1,3−1,6−グルカン粉末を蒸留水を用いて6mg/ml濃度の水溶液を調製したものを用いた。
また、未処理グルカンについては、実施例の(1−1)に示したβ−グルカンの培養生産法に従ってβ−グルカン培養液を得た。ついで培養液を遠心分離操作により菌体を除去して、その上清に最終濃度が66%となるようにエタノールを添加して、多糖としてβ−グルカンを沈殿させ後、遠心分離操作により回収した。再度、得られたβ−グルカンを適当な水に溶解させた。上記に従って、エタノールによりβ−グルカンを沈殿させ回収し、凍結乾燥法により低粘度化未処理β−グルカンサンプルを得た。このβ―1,3−1,6−グルカンを蒸留水を用いて60mg/ml濃度の水溶液に調製したものを用いた。
塩酸モルヒネは、三共株式会社製の塩酸モルヒネを蒸留水を用いて2mg/ml濃度の水溶液に調製したものを用いた。
色素のカルミンは、東京化成工業株式会社製カルミンを蒸留水を用いて200mg/ml濃度の水溶液に調製したものを用いた。
2) 使用動物
Slc:SD系の雄ラットを6週齢で日本エスエルシー株式会社より購入し、2週間の検疫馴化飼育後、健康状態に異常の認められなかった動物(体重範囲:302〜347g)を試験に使用した。
ラットはステンレススチール製金網5連ケージ(14 cm×24 cm×16 cm)に個別飼育し、温度:23±2℃、湿度:30〜80%、換気回数:12回/時間以上、照明時間:12時間(明期;午前6時30分〜午後6時30分)の環境の一定した動物飼育室(田辺製薬(株)加島研究2号館616号室)で、固形飼料(CRF-1、オリエンタル酵母工業(株))および水道水の自由摂取下に飼育した。
3) ラットの個体識別および群分け方法
被験物質投与前に、ラットの体重を測定し、体重の平均値が各群でほぼ等しくなるように群分けした。ラットは個別にケージカードで識別した。
4) 試験方法
8週齢ラットを1群3〜10匹からなる9群に分けた。群構成を以下に示す。「n」は1群中のラットの数を示す。また、「mg/kg」はラットの体重1kg当たり単回投与されたβ―1,3−1,6−グルカンの重量を示す。
(群構成):
第1群 無処置対照群 n=10
第2群 モルヒネ対照群 n=7
第3群 未処理グルカン300mg/kg群 n=3
第4群 未処理グルカン30mg/kg +モルヒネ群 n=7
第5群 未処理グルカン300mg/kg +モルヒネ群 n=7
第6群 低粘度化処理グルカン30mg/kg群 n=4
第7群 低粘度化処理グルカン300mg/kg群 n=4
第8群 低粘度化処理グルカン30mg/kg +モルヒネ群 n=7
第9群 低粘度化処理グルカン300mg/kg +モルヒネ群 n=7

ラットへの投与液量はいずれの物質も5 mL/kg/単回とし、ラット用ゾンデを用いて経口投与した。即ち、
第1群(無処置対照群)には、通常の飲料水の摂取に加えて、蒸留水を1日1回連続5日間5 mL/kg/単回経口投与し、最終日には蒸留水投与の1時間後にカルミン5 mL/kgを経口投与した。
第2群(モルヒネ対照群)には、通常の飲料水の摂取に加えて、蒸留水を1日1回連続5日間5 mL/kg/単回経口投与した後、最終日には蒸留水投与の1時間後に、モルヒネ10mg/kgとカルミン5 mL/kgとを同時に経口投与した。
第3群(未処理グルカン300mg/kg群)には、未処理グルカンを1日1回連続5日間300mg /kg/単回となるように経口投与した後、最終日には未処理グルカン投与の1時間後に、蒸留水5 mL/kgとカルミン5 mL/kgとを同時に経口投与した。
第4群(未処理グルカン30mg/kg +モルヒネ群)には、未処理グルカンを1日1回連続5日間30mg/kg/単回となるように経口投与した後、最終日には未処理グルカン投与の1時間後に、モルヒネ10mg/kgとカルミン5 mL/kgとを同時に経口投与した。
第5群(未処理グルカン300mg/kg +モルヒネ群)は、第4群において、未処理グルカン投与量を300mg/kg/単回とした他は第4群と同様にした。
第6群(低粘度化処理グルカン30mg/kg群)は、低粘度化処理グルカンを1日1回連続5日間30mg/kg/単回となるように経口投与した後、最終日には低粘度化処理グルカン投与の1時間後に、蒸留水5 mL/kgとカルミン5 mL/kgとを同時に経口投与した。
第7群(低粘度化処理グルカン300mg/kg群)は、第6群において、未処理グルカン投与量を300mg/kg/単回とした他は第6群と同様にした。
第8群(低粘度化処理グルカン30mg/kg +モルヒネ群)には、低粘度化処理グルカンを1日1回連続5日間30mg/kg/単回となるように経口投与した後、最終日には未処理グルカン投与の1時間後に、モルヒネ10mg/kgとカルミン5 mL/kgとを同時に経口投与した。
第9群(低粘度化処理グルカン300mg/kg+モルヒネ群)は、第8群において、低粘度化処理グルカン投与量を300mg/kg/単回とした他は第8群と同様にした。
各群ラットについて、赤色色素カルミンが便中に排泄されるまでの時間を測定し、第1群(無処置対照群)の糞排泄時間平均値(8.6時間)からの排泄時間の変化量を求めた。
5)結果
<下痢の誘発の有無>
図3に、第1群(無処置対照群)、第3群(未処理グルカン300mg/kg群)、第6群(低粘度化処理グルカン30mg/kg群)、及び第7群(低粘度化処理グルカン300mg/kg群)の糞排泄時間を平均値±標準偏差で示す。有意差検定には、一元配置分散分析後、Dunnett型多重比較検定を用いた(解析ソフト:StatView)。
第1群(無処置対照群)の糞排泄時間は8.6±0.7時間であった。第6群(低粘度化処理グルカン30 mg/kg群)、第7群(低粘度化処理グルカン300mg/kg群)、及び第3群(未処理グルカン300mg/kg群)は、それぞれ9.4±0.8時間、8.1±0.9時間、及び7.7±0.3時間で、いずれも無処置対照群との間に有意差は認められなかった。即ち、低粘度化処理グルカンおよび未処理グルカン投与による糞排泄時間への影響は認められなかった。
このことから、いずれのグルカンも下痢を引き起こさないことが分かる。
<モルヒネによる便秘の予防>
図4に、第2群(モルヒネ対照群)、第4群(未処理グルカン30mg/kg +モルヒネ群)、第5群(未処理グルカン300mg/kg +モルヒネ群)、第8群(低粘度化処理グルカン30mg/kg +モルヒネ群)、第9群(低粘度化処理グルカン300mg/kg +モルヒネ群)について、第1群(無処置対照群)からの糞排泄時間変化量を平均値±標準偏差で示す。有意差検定には、一元配置分散分析後、Dunnett型多重比較検定を用いた(解析ソフト:StatView)。
図4から明らかなように、第2群(モルヒネ対照群)と第4群(未処理グルカン30mg/kg +モルヒネ群)及び第5群(未処理グルカン300mg/kg +モルヒネ群)との間には、有意差は認められなかった。一方、第2群(モルヒネ対照群)に比べて、第8群(低粘度化処理グルカン30mg/kg +モルヒネ群)及び第9群(低粘度化処理グルカン300mg/kg +モルヒネ群)では、排泄時間変化量が有意に小さかった。
詳述すれば、第1群(無処置対照群)の糞排泄時間8.6±0.7時間に対して、モルヒネ10mg/kgの経口投与により第2群(モルヒネ対照群)の糞排泄時間は12.5±0.5時間となり、約4時間の延長がみられた。
このモルヒネによる排泄時間の延長に対して、低粘度化処理グルカンの30 mg/kg/単回および300mg/kg/単回の5日間連続経口投与による糞排泄時間の延長はそれぞれ2.6±0.5時間および2.8±0.4時間となり、ともにモルヒネ単独投与よりも糞排泄時間を有意に短縮した。
一方、未処理グルカンの30 mg/kg/単回および300mg/kg/単回の5日間連続経口投与による糞排泄時間の延長はそれぞれ4.5±0.5時間および4.2±0.4時間となり、モルヒネ単独投与による糞排泄時間の延長と有意差は認められなかった。
モルヒネによる糞排泄時間の延長のメカニズムは、腸管神経叢でのアセチルコリンの遊離抑制(NEW薬理学(改訂第3版)、p355〜357、1997、田中千賀子、加藤隆一編、南江堂;臨床薬理学、麻薬性鎮痛薬および関連薬、p327、1981、笹征史、金芳堂)、腸管壁からのセロトニン遊離促進による腸管平滑筋の緊張亢進(NEW薬理学(改訂第3版)、p440〜451、1997、田中千賀子、加藤隆一編、南江堂)などによる腸管運動の抑制によると考えられている。グルカンを低粘度化することにより、モルヒネの上記作用に拮抗する作用が発現したと考えられる。
この結果、低粘度化処理グルカンはラットのモルヒネ誘発腸管運動抑制に対して拮抗作用を有することが分かる。
以上のヒト及びラットを用いた試験結果から明らかなように、オーレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)由来の細胞外分泌成分であるβ−1,3−1,6−D−グルカンを含む本発明品は便通予防・改善に顕著な効果を示した。
(5)飲食品組成物の処方例
処方例1(クッキー)
粉末β−1,3−1,6−D−グルカン 1重量%
殺菌乳酸菌末 0.2重量%
カテキン 1重量%
クッキー 残量

処方例2(サプリメント)
粉末β−1,3−1,6−D−グルカン 10重量%
コラーゲンペプチド 42重量%
ヒアルロン酸 0.06重量%
殺菌乳酸菌末 1重量%
ビタミンC 10重量%
ビタミンB2 0.03重量%
ビタミンB6 0.03重量%
賦形剤(デンプンなど) 残量

処方例3(サプリメント)
粉末β−1,3−1,6−D−グルカン 1重量%
コラーゲンペプチド 42重量%
ヒアルロン酸 0.06重量%
ビタミンC 10重量%
ビタミンB2 0.03重量%
ビタミンB6 0.03重量%
ナイアシン 0.15重量%
賦形剤(デンプンなど) 残量

処方例4(ドリンク剤)
β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液
(0.2重量%β‐グルカン水溶液) 61.5重量%
殺菌乳酸菌末 0.03重量%
ミルクオリゴ糖 0.8重量%
ラクトフェリン 0.09重量%
甘味料(スクラロース) 0.03重量%
クエン酸 0.22重量%
香料 0.37重量%
水 残部

処方例4(ドリンク剤)
β−1,3−1,6−D−グルカン水溶液
(0.2重量%β‐グルカン水溶液) 61.5重量%
殺菌乳酸菌末 0.03重量%
テアニン 0.8重量%
GABA 0.09重量%
甘味料(スクラロース) 0.03重量%
クエン酸 0.22重量%
香料 0.37重量%
水 残部
β−1,3−1,6−グルカンの2次元NMR(13C−H COSY NMR)スペクトルを示す。 β−1,3−1,6−グルカンの超音波照射後の粒度分布(メジアン径0.23μm)を示す。 β―1,3−1,6−グルカンのラットの糞排泄時間に与える影響を示す図である。 モルヒネにより引き起こされる糞排泄時間の延長に対するβ―1,3−1,6−グルカンの影響を示す図である。

Claims (3)

  1. 以下の(1)〜(3)の性質を有するβ-1,3-1,6-D-グルカンを含む、モルヒネ投与による便秘の予防又は改善製剤
    (1) オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物に由来する。
    (2) 1N水酸化ナトリウム重水溶液を溶媒とする溶液の1H NMRスペクトルが4.7ppm及び4.5ppmの2つのシグナルを有する。
    (3) 水溶液の30℃、pH5.0、濃度0.5(w/v%)における粘度が200cP(mPa・s)以下である。
  2. オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物がオーレオバシジウム・プルランス(Aureobasidium pullulans)である請求項1に記載のモルヒネ投与による便秘の予防又は改善製剤
  3. オーレオバシジウム属(Aureobasidium sp.)に属する微生物がオーレオバシジウム・プルランスGM-NH-1A1株(FERM P-19285)、又はGM-NH-1A2株(FERM P-19286)である請求項1又は2に記載のモルヒネ投与による便秘の予防又は改善製剤。
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