JP4966437B2 - 断熱金型及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、例えば光学素子、精密部品等の樹脂成形のために用いられる断熱金型及びその製造方法に関する。
各種の樹脂成形品は、例えば成形金型である固定型と可動型との間に形成される成形空間に溶融樹脂を射出して成形する樹脂射出成形法等によって製造されている。樹脂成形の代表的な成形方法である射出成形の場合、溶融樹脂が金型の成形空間内に射出されると直ちに溶融樹脂の熱は急速に金型に移動するとともに、金型に接触している溶融樹脂の表面は急速に冷却されて固化し、それが内部まで進んで成形が完了する。
近年では、樹脂成形品に対してより複雑又は微細な形状が求められている。このため、樹脂成形に際しては、複雑又は微細な形状に加工された金型成形面の立体的な微細加工パターンが必要となり、なおかつ、その微細加工パターンが忠実に樹脂成形品に転写される必要がある。ところが、微細な溝加工の金型等では、射出成形の際に溶融樹脂が溝の奥(深部)に到達するまでに溶融樹脂表面の固化が始まり、金型面を正確に転写しきれずに成形が終わることがある。正確な転写の実現のために、樹脂成形の際に、例えば溶融樹脂の射出圧力を高める方法、射出速度を高める方法等の成形条件を改善する方法が考えられるが、転写性を向上させるには限界がある。
このため、次に示す2つのことがより強く要求されるようになっている。すなわち、一つは、金型内において、投入した樹脂に金型成形面が十分に転写できるまでの間、成形に適した樹脂の粘度を保つように、投入された樹脂の温度が下がらないようにすることである。もう一つは、所定の形状が一旦転写できれば、直ちに金型内の溶融樹脂が保持する熱を金型を通して逃がし、固化を起こすようにその樹脂の温度を下げることである。これらに対する技術手段として、射出成形前に金型全体を熱しておいて転写性を向上させた後、直ちに金型全体を急冷して転写した樹脂を固化させて離型する方法も考えられるが、大がかりな金型全体の加熱冷却設備を樹脂成形装置に付加することが必要となり、コスト的にもエネルギー面からも適切ではない。
そこで、樹脂成形時において、金型の温度低下を緩やかに制御するための工夫として、その金型材料に比べて熱伝導性が低い各種の物質からなる断熱層を金型の成形面付近に設けることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
これに対し、特に高精度が必要な光学素子としての樹脂成形品においては、その成形に際して金型に断熱層として機械的強度の高い材料と高い精度の断熱層厚みが必要とされつつある。このため、機械的強度が高いセラミックス系材料を用い、板状にして金型に張り合わせるのではなく、金型母材に直接に膜として形成する方法が提案されている。この膜形成に最適な方法として溶射法が採用されている。溶射法は、コーティング材料をプラズマ等での加熱により溶融又は軟化させ、微粒子状にして高速に加速して吹き付け、被覆対象物表面に衝突させ、扁平に潰れた粒子を凝固・堆積させることにより、皮膜を形成するコーティング技術である。この技術を用いて、従来の金型の断熱膜として、低熱伝導性でかつ機械的強度が高いセラミックス系材料、特にジルコニアを溶射して形成された膜を用いることが提案されている(例えば、特許文献2参照)。図24には、特許文献2に記載された従来の断熱金型を示す。図24において、断熱金型101は、金型母材102、断熱膜(断熱層)105、及び精密加工表面107aを有する金属皮膜層108から構成されている。特に断熱膜105はジルコニア等のセラミックス材料の溶射膜からなる断熱膜であることが特徴である。
特許第3382281号 特許第4135304号
しかしながら、従来技術のような溶射膜からなる断熱膜では、均一な厚みを形成することが困難であり、さらなる改良が必要とされている。一般に、断熱金型において、精密な転写を可能にするため、金型の成形面の断熱性ができる限り均質であることが必要である。そのために、断熱層の厚さが均一であることが必要となる。これに対し、樹脂を用いて従来よりも精密な形状を付与するための金型の断熱膜が溶射法で形成されている場合は溶射膜を均一にすることが困難である。例えば、小型の金型母材の場合、フラットな金型母材表面に断熱膜を形成する際に、その金型母材表面にセラミックス微粒子を吹き付けられて膜成長する溶射膜は、中央部分と外周部分で溶射膜の厚さが異なり易い。そのため、溶射膜表面に金属めっき膜を通常よりかなり厚めに形成し、この厚めのめっき膜を精密に機械加工することにより、溶射膜の形成によって変化した表面を加工により修正し、断熱金型として用いられる。もっとも、この場合であっても、成形面の中央部分と外周部分の断熱膜の厚さが異なるため、厳密には、成形面の表面の場所によって断熱性にバラツキが生じることになってしまう。
他方、金型の断熱性をより均一にするために次のような方法が提案されている。例えば、平面度の高い形状の成形面を有する金型の場合、溶射膜形成の工程で目的の厚みよりも厚めの溶射膜を形成し、次いでこれを研削、切削等の機械加工を行うことで金型母材表面に形成した溶射膜の厚さを均一に加工する工程を採用することによって、成形時の金型成形面の断熱性の均一化を図り、より精度の高い樹脂成形ができるようにしている。
ところが、加わった機械加工の工程は、硬度の高い溶射膜を精密に加工する工程であるため、困難性と労力を伴うことになる。また、溶射膜は、溶射膜形成段階又はその後の加工段階において、溶射膜に内部応力歪みが生じることがある。このような内部応力歪みが生じた場合は、クラック等が溶射膜に発生し、ひいては溶射膜の剥離という致命的な欠陥をもたらすことになり、成形工程に大きな支障を来すことになる。
さらに、成形金型が深い凹部が存在する金型の場合は、断熱膜の下部に位置する金型母材の成形面側に予め成形面に類似の凹部が形成され、その上に均一な厚みの断熱膜の形成が必要となる。しかし、上記のように、溶射法は、溶融微粒子の高い直進飛翔性の高速流体を被形成面に吹き付けて膜形成する工法であるため、上記のような凹部を備える加工物表面には、均一な厚みでコーティングすることはますます困難である。
このように、断熱膜の形成を溶射法に依存している従来技術では、高い精密性を成形に要求される金型に用いる場合、溶射によって形成された膜はそのまま使えずに、その硬度の高い溶射膜を精密な機械加工によって均一な厚みに後加工する工程が必要である。特に複雑な深い凹部を有する成形面の金型の場合、方向性があり高速で飛翔する微粒子が堆積して膜形成される溶射法では、その凹部の形を正確になぞって、かつ、均一厚みになるように膜形成することが困難である。たとえ膜がその凹部をなぞって膜形成ができたとしても、その溶射膜が金型全体で均一な厚みになりにくいために、上記した機械後加工の工程が必要である。その一方、これらの工程で不可欠となる後加工は溶射膜に内部応力歪みを与えるリスクがあり、そのような歪みを与えた場合には溶射膜のクラック、剥離等を引き起こすおそれがある。
従って、本発明の主な目的は、後加工が不要であり、従来技術に比して厚みの均一性が高く、かつ、金型との密着性に優れる断熱層を有する金型を提供することにある。
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、水熱合成反応により形成された金属酸化物を断熱層として採用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、下記の断熱金型及びその製造方法に係る。
1. 金属製金型母材と成形面を構成する金属皮膜との間に断熱層を有する金型であって、前記断熱層は、フェライトの結晶粒子が三次元網目状に連なって形成されている多孔質体からなることを特徴とする断熱金型。
2. フェライトが、下記一般式
Fe3−x(但し、Aはスピネル型酸化鉄の結晶を構成するFeサイトに置換し得る金属元素の少なくとも1種を示し、xは0≦x<1を満たす。)
で示されるスピネル型結晶構造を有する化合物である、前記項1に記載の断熱金型。
3. 前記Aが、Ca、Zn、Mn、Al、Cr、Li及びMgの少なくとも1種である、前記項2に記載の断熱金型。
4. 断熱層の気孔率が5〜75%である、前記項1に記載の断熱金型。
5. 断熱層の厚みが15μm以上である、前記項1に記載の断熱金型。
6. 断熱層のビッカース硬度がHv130〜Hv560である、前記項1に記載の断熱金型。
7. 断熱層が、1)金属製金型母材の表面又は2)その金型母材表面上に予め形成された金属質層の表面を金属成分を含む水溶液又は水分散体と反応させることにより生成させたものである、前記項1に記載の断熱金型。
8. 当該金属皮膜として、少なくとも1)当該断熱層上に形成されためっき触媒を含むシード層及び2)当該シード層上に形成された金属めっき膜を含む、前記項1に記載の断熱金型。
9. 樹脂成分を含む組成物の成形のために用いる、前記項1に記載の断熱金型。
10. 金属製金型母材と成形面を構成する金属皮膜との間に断熱層を有する金型を製造する方法であって、当該断熱層の形成工程として、1)金属製金型母材の表面又は2)その金型母材の表面上に予め形成された金属質層の表面を金属成分を含む水溶液又は水分散体と反応させることにより金属酸化物を生成させる工程を含む、断熱金型の製造方法。
11. 当該金属皮膜の形成工程として、1)当該断熱層上に触媒を含むシード層を形成する工程及び2)当該シード層上に金属めっき膜を形成する工程を含む、前記項10に記載の製造方法。
12. 当該シード層の形成をスパッタリング法又はめっき法により行う、前記項11に記載の製造方法。
13. 前記反応が、1)金属製金型母材表面又は2)その金型母材上に予め形成された金属質層表面が金属塩、アルカリ及び水を混合してなる処理液に接触した状態で85℃以上の温度で熱処理する工程を含む、前記項10に記載の製造方法。
14. 熱処理を100〜200℃の飽和水蒸気圧以上の環境下にて行う、前記項13に記載の製造方法。
15. 当該反応を還元剤の存在下で行う、前記項10に記載の製造方法。
本発明によれば、後加工が不要であり、従来技術に比して厚みの均一性が高く、かつ、金型との密着性に優れる断熱層を有する金型を提供することができる。これにより、特に樹脂成形を行う場合には、複雑な成形面を精度良く転写し、精密な成形体を自由に製造することができる。
特に、本発明金型では、断熱層の下地となる材料を出発原料として湿式反応(特に水熱合成反応)によって断熱層を形成することができる。この場合には、下地である金属製金型等の表面形状に沿って比較的均一な厚みの断熱層を形成することができる。これにより、金型母材の表面形状をより忠実にトレース(再現)することができるので、緻密な構造をもつ成形体を比較的自由に製造することが可能となる。すなわち、成形材料として溶融樹脂を用いる場合、成形時に溶融状態が効果的に保持されるので、成形面の細かな溝部にも溶融樹脂がくまなく行き渡ることができる結果、成形面の表面形状(凹凸形状)を忠実に再現することができる。
しかも、水熱合成反応により金属製金型等と一体的に断熱層が形成されていることから、従来の溶射膜のようなクラック、内部応力等による脱落、剥離等のリスクを大幅に低減することができる結果、樹脂成形体の製造効率をよりいっそう高めることが可能となる。
さらに、上述した樹脂成形の際に、断熱金型において個々の微細領域の断熱層の厚みを意図的に変化させることにより、溶融樹脂が流れる金型成形面の微細領域の保熱性と冷却性を細かく制御することができる。その結果、より一層複雑な凹凸形状をもつ成形物の樹脂成形が期待できる。この場合、断熱層を形成する材料が容易に加工できることが要求されるが、本発明の断熱膜では機械加工性に優れているため、樹脂成形時に金型表面の放熱性の部分制御が必要な場合には、例えば本発明の断熱金型表面の全面に均一な厚みに形成された断熱膜に対して必要部分のみを切削加工して膜厚を変化させることによって、成形時において、注入する樹脂の熱流動又は冷却のコントロールをより精密に行うことが可能になる。
このような本発明金型は、特に樹脂成形体の製造に好適である。従って、例えば光学材料(レンズ、プリズムシート、導光板、CD・DVDディスク等の光ディスク、その他の記録媒体)等の製造にも有用である。
本発明の実施例2における断熱金型の概略断面図である。 本発明の実施例2における断熱金型の作製工程を示す図である。 本発明の実施例2における断熱膜のX線回折パターン図である。 本発明の実施例2における断熱膜を備えた断熱評価用試料の概略断面図である。 従来の断熱膜を備えた断熱評価用試料の概略断面図である。 断熱膜を持たない断熱評価の比較試料の概略断面図である。 本発明の断熱膜の断熱性を評価するための測定装置の概略構成図である。 本発明の実施例2における断熱膜を備えた断熱評価用試料の昇温時の断熱性評価結果を示す図である。 本発明の実施例2における断熱膜を備えた断熱評価用試料の降温時の断熱性評価結果を示す図である。 従来の断熱膜を備えた断熱評価用試料の昇温時の断熱性評価結果を示す図である。 従来の断熱膜を備えた断熱評価用試料の降温時の断熱性評価結果を示す図である。 本発明の実施例3における断熱金型の概略断面図である。 本発明の実施例3における断熱金型の作製工程を示す図である。 本発明の実施例3における断熱金型と同じ構成の断熱評価用試料の概略断面図である。 断熱膜を持たない断熱評価用比較試料の概略断面図である。 本発明の実施例3における断熱膜を備えた断熱評価用試料の昇温時の断熱性評価結果を示す図である。 本発明の実施例3における断熱膜を備えた断熱評価用試料の降温時の断熱性評価結果を示す図である。 本発明の実施例3における断熱膜を備えた断熱評価用試料の昇温時の断熱性評価結果を示す図である。 本発明の実施例3における断熱膜を備えた断熱評価用試料の降温時の断熱性評価結果を示す図である。 本発明の実施例6における断熱金型の概略斜視図である。 本発明の実施例6における金型母材の加工パターンの断面寸法図である。 本発明の実施例5における組成に亜鉛を含む断熱膜のX線回折パターン図である。 本発明の実施例7における断熱金型の概略断面図である。 従来の断熱金型の概略断面図である。 本発明金型を用いて溶融樹脂を成形する場合の工程例を示す図である。 本発明の実施例1における断熱金型の概略断面図である。 本発明の実施例1における断熱金型の作製工程を示す図である。 本発明の実施例1における断熱膜AのX線回折パターン図である。 本発明の実施例1における断熱膜Aの研磨表面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。 本発明の実施例1における断熱膜Aの研磨断面を示す図である。 本発明の実施例1における断熱膜Bの研磨表面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。 本発明の実施例1における断熱金型と同じ構成の断熱評価用試料の概略断面図である。 断熱膜を持たない断熱評価用比較試料の概略断面図である。 本発明の断熱膜の断熱性を評価するための測定装置の概略構成図である。 本発明の実施例1における断熱膜を備えた断熱評価用試料の昇温時の断熱性評価結果を示す図である。 本発明の実施例1における断熱膜を備えた断熱評価用試料の降温時の断熱性評価結果を示す図である。 本発明の実施例4における断熱膜C、D、Eの研磨表面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。 本発明の実施例5における組成にカルシウムを含む断熱膜のX線回折パターン図である。 本発明の実施例5における組成にカルシウムを含む断熱膜の研磨表面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。 本発明の断熱層の気孔率の測定方法を示す図である。 本発明の実施例1における断熱膜A表面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。 本発明の実施例5における組成にカルシウムを含む断熱膜表面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。 本発明の実施例8における断熱金型の概略断面図である。 本発明の実施例8における断熱金型の作製工程を示す図である。 本発明の実施例8で用いた反応容器の概略図である。 本発明の実施例8における断熱膜のX線回折パターン図である。 本発明の実施例8における断熱膜表面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。 本発明の実施例8における断熱膜の研磨表面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。 本発明の実施例9における断熱膜GのX線回折パターン図である。 本発明の実施例9における断熱膜G表面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。 本発明の実施例9における断熱膜Gの研磨表面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。 本発明の実施例9における断熱膜HのX線回折パターン図である。 本発明の実施例9における断熱膜H表面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。 本発明の実施例9における断熱膜IのX線回折パターン図である。 本発明の実施例9における断熱膜I表面の走査型電子顕微鏡像を示す図である。 断熱膜Gを配置した断熱評価用試料の概略断面図である。 本発明の実施例9における断熱膜Gを備えた断熱評価用試料の昇温時の断熱性評価結果を示す図である。 本発明の実施例9における断熱膜Gを備えた断熱評価用試料の降温時の断熱性評価結果を示す図である。 本発明の実施例9における断熱膜Iを備えた断熱評価用試料の昇温時の断熱性評価結果を示す図である。 本発明の実施例9における断熱膜Iを備えた断熱評価用試料の降温時の断熱性評価結果を示す図である。 本発明の実施例10における組成の異なる断熱膜のX線回折パターン図である。
1、31、51、101、201、1001、2001 断熱金型
2、32、52、102、202、1002、1012、2002、2012 金型母材
3、13、203、1003、1013、2003、2013 断熱膜下地層
4、14、34、44、54、104、114、204、1004、2004、2014 断熱膜(断熱層)
5、15、55、115、205、1005、2005、2015 シード層
6、16、36、46、56、116、206、216、246、1006、1016、2006、2016 めっき下地膜
7、37、47、57、207、247、1007、2007 微細加工金属膜
7a、37a、57a、107a、207a、1007a、2007a 精密加工表面
8、18、38、58、108、208、118、218、1008、1018、2008、2018 金属皮膜層
11、41、111、211、241、341、441、1011A、1011B、1211、2011G、2011I 測定試料
12、42、112、212、242、1012 基材
12a、112a、212a、1012a 熱電対取り付け穴
17、117、217、1017 めっき金属膜
18、118、218 熱電対
2021 懸濁液
2022 断熱膜形成装置
2023 アリーン冷却器
2024 反応容器
1.断熱金型
本発明の断熱金型(本発明金型)は、金属製金型母材と成形面を構成する金属皮膜との間に断熱層を有する金型であって、前記断熱層は、フェライトの結晶粒子が三次元網目状に連なって形成されている多孔質体からなることを特徴とする。
本発明金型では、上記のように、a)金属製金型母材/断熱層/金属皮膜あるいはb)金属製金型母材/金属質層/断熱層/金属皮膜という基本構造を有するものであるが、必要に応じて他の層が含まれていても良い。以下、各層の構成について説明する。
なお、本明細書では、特にことわりのない限り、「金属」は、金属単体に加え、合金、金属間化合物も含む意である。
金属製金型母材
金属製金型母材は、金属から構成されていれば良く、公知又は市販の金型で用いられる材質と同じものであっても良い。例えば、鉄、アルミニウム、銅等の金属(金属単体)、炭素鋼、ステンレス鋼、銅合金、チタン合金等の合金等が挙げられる。また、金属製金型母材は、溶製材又は焼結体のいずれであっても良い。特に、本発明では、鉄系金属表面上に直接に断熱層であるフェライト層を形成できるという利点において、金属製金型母材として鉄系金属を用いることが好ましい。すなわち、金属鉄及び鉄合金の少なくとも1種の鉄系金属を用いることが好ましい。鉄合金としては特に限定されず、例えば炭素鋼、ステンレス鋼(SUS)、クロムモリブデン鋼等を好適に用いることができる。
また、金属製金型母材の成形面側は、平面又は曲面のいずれの形状をなしていても良く、また最終成形体に付与すべき微細形状の反転型となっていても良く、目的とする成形体の形状に応じて適宜構成することができる。例えば、特に金型が深い凹部(溝部)を必要とする場合は、金属製金型母材の成形面側に予め成形面に転写すべき形状の反転型又はそれに類似する形状(凹部)が形成されていても良い。
金属皮膜
金属皮膜は、金属から構成されていれば良く、公知又は市販の金型の成形面に採用されている材質と同じものであっても良い。例えば、鉄、ニッケル、銅、クロム等の金属、ニッケルりん合金、ニッケルホウ素、ニッケルタングステンりん合金、ニッケル銅リン合金等の合金等が挙げられる。
また、金属皮膜の構成は、単層であっても良く、また多層であっても良い。例えば、断熱層と金属皮膜との密着性(接合性)をより高めるために、金属皮膜を第1金属皮膜及び第2金属皮膜の2層構成とし、断熱層と第2金属皮膜との層間に接着層(下地層)として第1金属皮膜を介在させる場合がある。より具体的には、1)当該断熱層上に形成されためっき触媒を含むシード層及び2)当該シード層上に形成された金属めっき膜からなる構成を採用することができる。すなわち、シード層として、上層となる金属めっき膜のめっき時の触媒となり得る金属からなる層を採用し、それを触媒として利用しながら金属めっき膜を形成することにより、断熱層上に好適に金属皮膜を形成することができる。この場合は、断熱層を構成する材質によらずに、効果的に強固な金属皮膜を形成することが可能となる。また、前記の場合において、さらに第2金属皮膜の上に、成形面を構成する層として表面に微細加工を施した微細加工金属膜を第3金属皮膜として形成することもできる。
金属皮膜の形成方法も特に限定されず、採用する金属種、下地となる層の組成等に応じて、公知の方法から適宜選択することができる。例えば、電解めっき、無電解めっき等のめっき法(液相成長法);熱CVD、MOCVD、RFプラズマCVD等の化学的気相成長法;スパッタリング法、イオンプレーティング法、MBE法、真空蒸着法等の物理的気相成長法等の各種の公知の薄膜形成方法を1種又は2種以上組み合わせて適宜採用することができる。
金属皮膜が多層構造をとる場合は、各層の形成方法が異なっていても良く、前記で示した薄膜形成方法の中から適宜組み合わせて採用することができる。例えば、前記のように接着層(下地層)としての第1金属皮膜とその上に形成された第2金属皮膜から構成されるような場合は、次のような方法で各層を形成することができる。例えば、1)当該断熱層上にスパッタリング法で形成されためっき触媒(金属触媒)を含むシード層(第1金属皮膜)を形成し、当該触媒を利用するめっき法によって当該シード層上に金属めっき膜(第2金属皮膜)を好適に形成することができる。さらに、第3金属皮膜として微細加工金属膜をさらに有する場合は、前記の第2金属皮膜である金属めっき膜上に微細加工金属膜をめっき法により形成することができる。このような構成をとることにより、断熱層と金属皮膜との接合強度をより高めることができる。
本発明金型における金属皮膜の厚み(多層構造の場合は各層の合計厚み)は特に限定的ではないが、通常は20〜300μm程度とし、特に50〜150μmとすることが好ましい。多層構造の場合の各層の厚みは、層の数、各層の材質等に応じて適宜設定すれば良い。
断熱層
本発明金型における断熱層(「断熱膜」ともいう。)は、金属製金型母材と成形面を構成する金属皮膜との間に形成されている。これにより、溶融している成形材料のもつ熱が金属製金型母材に急速に奪われる現象を効果的に抑制ないしは防止することができる。
本発明では、断熱層は、フェライトの結晶粒子が三次元網目状に連なって形成されている多孔質体から構成されている。断熱層の材質としては、金属酸化物の中でも特にフェライトを採用することにより、より高い断熱性が得られるとともに、その下地である金属製金型又は金属質層との高い密着性を発揮することができる。
多孔質体の構造は、フェライトの結晶粒子が三次元網目状に連なって形成されている。例えば、図42で示すように、丸みを帯びておらず、1又は2以上の角部を有する多面体形状の結晶粒子が複数連なって三次元網目構造から多孔質体が構成されている。また、図42に示すように、多孔質体中には連通孔が形成されていることが好ましい。フェライトの結晶粒子は、双晶であっても良いし、複数の結晶が繋がったものであっても良い。また、多孔質構造を構成するフェライトの結晶粒子は、スピネル型結晶構造であるものが好ましい。
本発明では、フェライトとして、下記一般式
Fe3−x(但し、Aはスピネル型酸化鉄の結晶を構成するFeサイトに置換し得る金属元素の少なくとも1種を示し、xは0≦x<1を満たす。)で示されるスピネル型結晶構造を有する化合物であることが好ましい。
前記xは、0≦x<1であるので、x=0の場合、すなわち鉄フェライト(すなわちスピネル型酸化鉄Fe)である場合が包含されるほか、Feサイトの一部を他の金属元素で置換された組成であっても良い。
前記Aは、前記の通り、スピネル型酸化鉄の結晶を構成するFeサイトに置換し得る金属元素の少なくとも1種であれば限定されないが、特にCa、Zn、Mn、Al、Cr、Li及びMgの少なくとも1種であることが望ましい。従って、本発明では、A成分がCa、Zn、Mn、Al、Cr、Li及びMgの少なくとも1種である組成であっても良い。このような組成自体としては、公知のものであれば良く、例えば、Ca0.5Fe2.5、ZnFe、MnFe、AlFe、CrFe、Li0.5Fe2.5、MgFe等の少なくとも1種を挙げることができる。
断熱層の熱膨張率は特に限定されないが、金属製金型は温度の上昇・降下の激しい苛酷な条件で使われることから、断熱層の熱膨張率は、金属製金型の熱膨張率に近い値であるほど耐久性面で望ましい。従って、断熱層の熱膨張率は、特に200℃以上の高い成形温度で用いる金属製金型の場合、その金型の熱膨張率の90〜110%の範囲内にあることが好ましい。
断熱層の気孔率は限定的ではないが、より高い断熱性能を達成できるという見地より通常5〜75%程度、特に40〜60%の範囲内とすることが好ましい。気孔率は、特に合成温度、原料濃度等の合成条件によって制御することができる。本発明における気孔率の測定方法は、後記の実施例で示す方法による。
また、断熱層の硬度は、成形する材料の種類等に応じて適宜設定することができるが、一般的にはビッカース硬度がHv130〜Hv560、特にHv200〜Hv400とすることが好ましい。
また、本発明では、金属酸化物が導電性を有することが好ましい。導電性を有する断熱層を形成する場合は、成形面の微細加工を施す金属皮膜層を形成するためのめっき下地層を電気めっき法で断熱層上に形成することができる。これにより、比較的簡便にめっき下地層の形成が可能となる。この場合、断熱層を構成する酸化物の導電率は特に限定的ではないが、通常は25℃での導電率が40S/m以上あれば良い。
断熱層中における金属酸化物の含有量は、その断熱性及び密着性の観点より高い値であるほど好ましいが、通常は断熱層中90重量%以上が好ましく、特に98重量%以上であることがより好ましい。
また、断熱層の厚みは、用いる成形材料の種類、所望の断熱性等に応じて適宜設定すれば良いが、一般的には15μm以上の範囲内で設定することができる。特に、15〜1000μmであることが好ましく、さらに30〜150μmであることがより好ましい。断熱層の厚みを上記範囲内に設定することによって、下地となる型形状(基材表面)を均一の膜厚でより効果的にトレースすることができる。
本発明の断熱層は、1)金属製金型母材の表面又は2)その金型母材表面上に予め形成された金属質層の表面を金属成分を含む水溶液又は水分散体(以下「処理液」ともいう。)と反応(湿式反応、特に水熱合成反応)させることにより生成させたものを好適に用いることができる。これにより、従来品の断熱層と同等レベルの断熱性を維持しつつ、優れた膜厚均一性、密着性等を発揮できる結果、下地となる型形状(凹凸形状)を正確に再現(トレース)できるという効果を得ることが可能となる。
処理液との反応は、公知の湿式反応(水熱合成反応)等の条件によっても実施することができる。好ましくは、後記2.に記載の方法に従って実施すれば良い。
金属質層
本発明金型における断熱層は、金属製金型母材の表面上に直接的に形成しても良いが、断熱層の下地層として金属質層(断熱膜下地層)を介在させても良い。この場合、金属質層は、金属製金型母材の表面と断熱層との間に両者に接して形成されることが望ましい。
また、金属質層の組成は、金属から構成されている限り、特に限定されず、前記の金属皮膜で例示した金属等を用いることができる。本発明では、特に、断熱層の組成を構成する金属元素を含むことが好ましい。すなわち、本発明の断熱層は、水熱合成反応によって好適に形成できるので、下地となる金属質層の表面を溶解させながら、その金属質層表面上に断熱層の成長核が形成できることになり、それを核にして均質で密着性の強固な断熱層が形成できる。従って、例えば断熱膜が鉄酸化物であるフェライト層を形成する場合は、金属鉄を含む金属質層(特に金属鉄からなる金属質層)があることが望ましい。
本発明では、金属質層は、単層から構成されていても良いし、多層から構成されていても良い。例えば、金属質層として1)シード層及び金属めっき膜からなる金属質層、2)金属めっき膜の1層又は2層以上からなる金属質層等を採用することができる。
従って、金属質の形成も、金属質層の構成等に応じて、前記の金属皮膜の形成で例示した薄膜形成方法を適宜採用することができる。例えば、1)金属製金型母材の表面をスパッタリングによりシード層を形成する工程及び前記シード層上にめっき法により金属めっき膜を形成する工程を含む方法、2)金属製金型母材の表面にめっき法により金属めっき膜を形成する工程を含む方法等を採用することができる。
金属質層の厚みは、金属質層を構成する金属元素の種類、断熱層の厚み等に応じて適宜設定すれば良いが、通常は1〜5μm程度の範囲内とすれば良い。
成形材料
本発明の断熱金型は、それに用いられる材料(成形材料)は制限されないが、特に樹脂成分を含む組成物(特に樹脂成分を主成分として含む樹脂組成物)の成形に好適である。例えば、樹脂成形にも好適に用いることができる。樹脂成分(特に合成樹脂)としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン等の熱可塑性樹脂のほか、ポリシクロオレフィン等を好ましい例として挙げることができる。その他の成分も、必要に応じて上記組成物中に含まれていても良い。
断熱金型の使用
本発明の断熱金型は、公知又は市販の金型と同様にして用いることができる。また、金型を用いて成形する場合の成形条件等も公知の方法に従って実施することができる。
本発明金型を用いて成形する場合は、金型の成形空間を構成する一部又は全部として本発明金型を用いることができる。例えば、固定型と可動型の2つの型により形成された成形空間に射出成型することにより成形する場合は、固定型及び可動型の少なくとも一方に本発明金型を採用することができる。また、市販の金型(成形装置)の一部又は全部を本発明金型に取り替えるだけでも、本発明金型による成形を実施することができる。
固定型と可動型からなる金型において、可動型として本発明金型を用いて成形する工程例の模式図を図25に示す。図25では、成形装置として固定型301及び可動型401から構成される金型が使用される。固定型と可動型との間の空間(成形空間)に樹脂Rを溶融状態で射出して導入した後、図に示すように保圧したままで、樹脂Rを冷却する。その後、可動型401を下降させて金型を開き、離型した後、所望の成形樹脂を回収すれば良い。この場合、可動型401として本発明金型を採用しており、本発明金型の成形面に所定の形状が付与されている。そして、本発明金型の断熱層により、溶融樹脂が射出され、金型の成形空間に導入された段階でも溶融樹脂の熱が急激に金型に奪われることなく、成形面に付与された凹凸又は溝部に溶融樹脂がくまなく行きわたる結果、その形状が樹脂側に忠実に転写される。これにより、微細な形状が正確に再現された成形品を得ることができる。
2.断熱金型の製造方法
本発明金型は、特に、下記の方法により好適に製造することができる。すなわち、金属製金型母材と成形面を構成する金属皮膜との間に断熱層を有する金型を製造する方法であって、当該断熱層の形成工程として、1)金属製金型母材の表面又は2)その金型母材の表面上に予め形成された金属質層の表面を金属成分を含む水溶液又は水分散体(処理液)と反応させることにより金属酸化物を生成させる工程を含む方法を好適に採用することができる。
上記処理液としては、金属成分を含む水溶液又は水分散体を好適に用いることができる。金属成分としては、フェライト結晶を構成し得る成分を採用すれば良く、特にFe、Ca、Zn、Mn、Al、Cr、Li及びMgの少なくとも1種であることが望ましい。前記の水溶液又は水分散体の調製は、例えば金属成分の供給源となる化合物を用いることができる。例えば、金属塩、金属酸化物、金属水酸化物等を用いることができる。これらは、水可溶性(水溶性)又は水難溶性の金属化合物をいずれも使用することができるが、本発明では特に水溶性の金属化合物をより好適に用いることができる。
また、処理液中の金属成分の濃度は、用いる金属成分の種類、反応条件等に応じて適宜設定することができるが、通常は0.03〜0.35g/mLとすることが好ましい。
前記反応は、公知の湿式反応方法に従って実施することも可能であり、例えば処理液に浸漬する方法、処理液をスプレー等で塗布する方法等のいずれも採用することができる。特に、本発明では、処理液を用いて水熱合成反応により実施することが好ましい。水熱合成反応の条件自体は公知の方法によれば良いが、特に下記の方法で実施することが望ましい。すなわち、当該水熱合成反応として、1)金属製金型母材表面又は2)その金型母材上に予め形成された金属質層表面が金属塩、アルカリ及び水を混合してなる処理液に接触した状態で100〜200℃の飽和水蒸気圧以上の環境下にて熱処理する工程を含む方法を採用することが好ましい。
上記の水熱合成反応では、処理液として、金属塩、アルカリ及び水を混合してなるものを用いることが好ましい。混合方法は特に限定されず、その配合順序も制限されない。
金属塩としては、無機酸塩及び有機酸塩の少なくとも1種を用いることができる。無機酸塩としては、例えば硫酸塩、炭酸塩、塩化物等を用いることができる。また、有機酸塩としては、酢酸塩、シュウ酸塩等を用いることができる。
また、アルカリとしては特に限定的ではなく、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等の少なくとも1種を用いることができる。
処理液は、金属塩又はアルカリは水に溶解していても良いし、あるいは一部溶解したものであっても良い。また、金属塩又はアルカリが溶解せずに分散したもの(懸濁液(水分散体))であっても良い。この場合の金属塩の処理液中の含有量は、用いる金属塩の種類等にもよるが、一般的には0.03〜0.35g/mLとすることが好ましい。また、アルカリは、用いるアルカリの種類等にもよるが、一般的には0.05〜0.18g/mLとすることが好ましい。
また、本発明では、処理液との反応を還元剤の存在下で実施することもできる。還元剤の使用により、反応系において3価の鉄イオンの生成を抑制ないしは防止することにより、よりいっそう確実に優れた断熱膜を形成することができる。従って、還元剤としては、3価の鉄イオンの生成を抑制ないしは防止できるものであれば限定されず、公知の還元剤から適宜選定することができる。例えば、アスコルビン酸、ハイドロキノン類等のように酸化防止剤として知られている化合物を好適に用いることができる。本発明では、還元剤を処理液に含有させておくこと(特に還元剤を処理液に溶解させること)が好ましい。
本発明では、処理液を1)金属製金型母材表面又は2)その金型母材上に予め形成された金属質層表面に接触させる。すなわち、断熱層を形成すべき領域に処理液を付与する。付与する方法は特に限定されず、例えば浸漬、塗布等の公知の方法に従って実施することができる。処理液の使用量としては、所定の断熱層が形成されるのに十分な量を付与すれは良い。従って、本発明では、例えば断熱層を形成すべき部位を処理液に浸漬する方法を好適に採用することができる。
処理液と反応させる際の条件は、フェライトが生成し得る条件であれば特に限定的でない。特に、処理液との反応として水熱合成反応を行う場合、その温度・圧力条件としては、100〜200℃(特に110〜200℃)の飽和水蒸気圧以上の環境下にて熱処理することが好ましい。このような温度・圧力下で熱処理することによって、所定の断熱層を好適に形成することができる。かかる温度・圧力条件の設定は、例えばオートクレーブ装置(密閉系)等の公知の装置を用いて行うことができる。
また、処理液と反応させる時間(水熱合成反応の反応時間)は、所望の断熱層の厚み等に応じて適宜調整することができる。すなわち、前記の好ましい厚みの断熱膜が形成されるまで反応を持続させれば良いが、均一厚みの断熱膜を所望の厚みで得るには、水熱合成反応による場合は通常2〜12時間の範囲内の反応を複数回繰り返す方法で形成すれば良い。
本発明の製造方法では、断熱層として前記1.で述べたフェライトを形成することが好ましいので、前記の金属製母材又は金属質層として鉄系金属を用いることが好ましい。鉄系金属表面を処理液と反応させること(特に水熱合成反応)によって断熱層としてのフェライト層を好適に形成することができる。例えば、鉄フェライト(前記のx=0の場合)を生成させる場合、本発明の水熱合成反応によれば、下記の段階1)〜2)を経て鉄からフェライトを生成させることができる。
1)Fe2++OH→Fe(OH)、2)Fe(OH)→Fe
本発明の製造方法の実施態様としては、その層構成に応じてさまざまなバリエーションがあり、これらはいずれも本発明に包含される。
例えば、水熱合成反応(又は通常の湿式反応)による場合は
1)金属製金型母材の上層に水熱合成反応(湿式反応)によって断熱膜を形成する工程、断熱膜の表面上にスパッタリング法によってシード層を形成する工程、及びシード層の上に接してめっき法によって金属皮膜層を形成する工程を含む方法
2)金属製金型母材の上層にめっき法又はスパッタリング法によって断熱膜下地層を形成する工程、断熱膜下地層の表面上に水熱合成反応(湿式反応)によって断熱膜を形成する工程、断熱膜の表面上にスパッタリング法によってシード層を形成する工程、及びシード層の上に接してめっき法によって金属皮膜層を形成する工程を含む方法、
3)金属製金型母材の上層にめっき法又はスパッタリング法によって断熱膜下地層を形成する工程、断熱膜下地層の上に水熱合成反応(湿式反応)によって断熱膜を形成する工程、断熱膜の上面に接して電気めっき法あるいはスパッタリング法によって金属皮膜層の下地密着膜を形成する工程、及び金属皮膜層の下地膜の上面に接してめっき法によって金属皮膜層を形成する工程を含む方法、
等があり、これらはいずれも本発明の製造方法に包含される。
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
実施例1
図26には、本実施例における断熱金型の層構成の断面図を示す。断熱金型1001は、精密な微細加工形状をもつ樹脂製部品の成型加工に用いられる金型である。これは、金型母材の材料として高い熱伝導性を有する純銅を用い、以下に示す層構成を有する。すなわち、高さ2.5mmのつば形状の部分(直径25.0mm)をもつ底面からの高さが15.0mmで直径20.0mmの金型母材1002の表面上に、硫酸鉄めっき浴を用い、膜厚3μmの鉄膜による断熱膜下地層1003を配置し、さらにその上に厚さ50μmの鉄フェライト(すなわちスピネル型酸化鉄)からなる断熱膜1004が形成され、その上にパラジウムの触媒微粒子膜からなるシード層1005が配置され、その上に金属皮膜層1008が形成されている。この金属皮膜層1008は、ニッケルからなるめっき下地膜1006(厚さ1μm)と、さらにその上に形成された非晶質ニッケル−リン合金膜からなる微細加工金属膜1007(平均厚さ6μm)から構成されている。この微細加工金属膜1007の成形面側は、最大深さ3μmの成型部品のプレス成型用微細パターンが機械加工により形成された精密加工表面1007aになっている。
上記構成によれば、熱伝導率が低い金属酸化物(スピネル型酸化鉄)であり、かつ気孔を有する酸化物材料を断熱層として用いることによって、微細なパターンをもつ良好な樹脂成型が可能になる。換言すれば、従来技術で見られるように、金属製金型の成形面上で成形される高温の溶融樹脂の熱が金型基材を通って逃げる結果、その樹脂が成形中に必要以上に温度降下することによって起こる樹脂成形の不良を効果的に回避することができる。
図27には、本発明の断熱金型1001の製造工程例を示す。金型母材1002の成形面側の表面に硫酸鉄めっき浴を用い、厚み3μmの鉄膜からなる断熱膜下地層1003を形成した(図27(1))。続いて、この表面上に厚さ50μmのスピネル型酸化鉄からなる断熱膜1004を形成した(図27(2))。断熱膜1004は、以下のようにして形成した。すなわち、窒素ガス中で蒸留して作製した水60mlに41.7gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)を溶解した水溶液と、21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液60mlを混合して懸濁液を作製した。内容積200mlのステンレス鋼製のオートクレーブ反応容器の中に上記懸濁液を入れ、その中に断熱下地層1003を形成した金型母材を浸漬し、治具を用いて保持した。金型母材1002は、断熱下地層1003を形成した成形面以外を四フッ化エチレン製のシールテープで予めマスキングしておいた。なお、上記の作業は、窒素ガス雰囲気中で行った。このオートクレーブ反応容器を外部から加熱することによって、150℃で10時間反応させた。反応後、金型母材を治具ごと取り出し、同時に生成した反応残渣の粉体化合物と分離するため、十分に水洗した。オートクレーブ反応容器も、同様に生成した反応残渣を取り除くために内部を水洗し、再度、上記と同量の懸濁液を調合し、再び金型母材を治具ごと取り付けて、同様に150℃で10時間反応させ、膜厚50μmの断熱膜1004を形成した。
このようにして、断熱膜1004が形成された金型は水洗し十分に乾燥した後、パラジウムのターゲットを取り付けた直流スパッタ装置を用いて、断熱膜1004の表面にパラジウム微粒子膜を形成することによりシード層1005を形成した(図27(3))。次に、無電解ニッケルめっき法によって、厚さ1μmのニッケル膜からなるめっき下地膜1006を被覆した。さらに、無電解ニッケルめっき法によって厚み6μmの精密加工用のニッケルりん合金めっき膜からなる微細加工金属膜1007を形成することにより、金属皮膜層1008を作製し、200℃で3時間熱処理した(図27(4))。その後、精密切削加工機を用いて精密加工表面1007aを形成し、微細加工型用の断熱金型1001を得た(図27(5))。
なお、金型母材1002の表面上に形成する鉄膜からなる断熱膜下地層1003の形成方法として本実施例ではめっき法による方法の例を記したが、断熱膜の下地としては、断熱膜の直下にはその断熱膜を形成する金属元素からなる金属膜であれば良い。また、その金属膜の形成方法は、本実施例に記しためっき法に限られるものではない。例えば、この鉄膜を、金型母材の表面に直接的にスパッタリング法で形成する方法でも良い。
上記の工程によれば、本発明の断熱膜は、従来のジルコニア溶射膜を断熱膜に用いた金型と異なり、精密研削加工等の後加工を必要とすることなく、金属金型の成形面側に直接に所望の厚さに形成できることになる。
断熱膜1004について、所望の材質の膜が形成されているかどうかを確認する目的で、別に、金型母材1002と同じ材質(純銅)の長方形状の基板(大きさ:縦50mm、横20mmで厚さ2.0mm)を準備し、この基板を用いて断熱膜を形成した。得られた試料を断熱膜Aとして、詳細に材料評価した。断熱膜Aの作製方法を以下に記す。まず、この基板の表面に、上記した断熱金型1001を作製する工程(図27)と同様にして、同様の断熱膜下地層を形成した。その後、断熱金型1001の断熱膜1004と同様にして、同じ原料を同じ混合比で調製した同じ組成の懸濁液を用い、同じオートクレーブ反応容器を用い、同じ水熱合成条件である150℃で10時間の反応をさらに5回繰り返して(合計6回の繰り返し)、膜厚150μmの断熱膜Aを作製した。ここで、金型に用いる以上に膜厚の厚い膜を形成した理由は、断熱膜の材料を特定するために必要な組成及び結晶構造以外に、後述する気孔率とビッカース硬度を、同じ試料で同時に評価するためである。
このようにして基板上に形成された膜は黒色の膜であった。その膜に関し、蛍光X線装置を用いて組成を調べた。その結果、金属イオンが鉄のみからなる組成の化合物であることがわかった。さらに、X線回折分析により結晶構造を調べた。その結果、格子定数a=8.40Åのスピネル型酸化鉄(=鉄フェライト)、Feであることがわかった。すなわち、断熱膜1004はスピネル型酸化鉄であることが確認できた。そのX線回折パターンを図28に示す。また、断熱膜Aの膜形成後の表面の走査型電子顕微鏡像を図41に示す。角が尖っていて、大きさの異なる結晶粒子が連なって三次元の網目構造的な形態を示す膜構造になっていることがわかる。さらに、よく観察すると、双晶結晶に見える結晶粒が連続して三次元に成長した膜になっていること、その膜の内部に無数の気孔が存在した構造の多孔質な膜になっていることがわかる。
鉄を主成分とする酸化物の一種であるフェライトセラミックス材料は、複雑な形状に切削加工等の機械加工がしやすい材料であり、微細加工されて磁気ヘッドのコア材として使われている材料である。
本発明の断熱膜は、上記のフェライトセラミックス材料と同じスピネル型結晶構造をもつ鉄フェライト材料であり、機械加工が比較的容易である材料である。そこで、本実施例で形成した断熱膜Aについて、表面から徐々に深く研磨した場合、その膜試料を走査型電子顕微鏡で観察すると、いずれも断熱膜には膜表面に開いた気孔ばかりでなく、閉じた気孔が多く存在することがわかった。そこで、断熱膜Aを形成した後、表面研磨によって平滑な表面を形成し、研磨によってできた気孔を含む平滑表面全体に対する気孔の凹部分の存在割合を測定するという簡易的な方法で気孔率を測定した。
まず、気孔率測定を行うために必要な平滑な研磨表面をもつ試料は、次のようにして作製した。1000番の研磨シートを用い、膜表面から30〜50μm程度の深さまで断熱膜Aの表面を粗研磨加工をした。次に、この粗研磨面を酸化アルミニウム微粉体の研磨材からなる4000番のラッピングフィルムシートを用いて手研磨し、気孔率を測定用の研磨表面をもつ試料を作製した。
次に、この断熱膜Aについて、気孔率の測定領域を抽出するために、その平滑研磨表面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、表面粗さの度合いがその試料全体で平均的に見える一辺150μmの正方形領域を、試料表面全体の広い範囲の中から4か所抽出した。
SEM観察によって抽出した4ヶ所の正方形領域のそれぞれに対し、図40(a)に示すように、レーザー顕微鏡を用いた非接触表面粗さ計測の方法を利用して、それぞれ縦150μmで横150μmの正方形領域の深さ方向の凹凸形状の測定を行った。この時のレーザー顕微鏡の倍率は2000倍とした。次に、この正方形領域の上側横辺(長さ150μm)の直線部分の断面の画像を切り出し、得られた断面の凹凸形状の深さプロファイル(図40(b))において、レーザー顕微鏡で凹凸測定した全距離の150μmに対する、表面から深さ5μmの凹部分の水平方向の距離の総和の割合(図40(c))を求め、その百分率をその測定線上に存在する気孔の割合、すなわち気孔率Paとした。
同様にして、縦150μmを25μm間隔に、上記した正方形領域の上側横辺に平行に、両端を結ぶ6本の直線が引けるが、それらの直線部分の断面の凹凸形状のプロファイルから、それぞれの直線部分に対応した気孔率を求め、これら7つの直線部分から求めた各気孔率Pa〜Paの値を相加平均して、上記の正方形領域の気孔率Paとした。
断熱膜Aについて、上記した4ヶ所の一辺150μmの正方形領域の気孔率Pa、Pb、Pc及びPdをそれぞれ求め、それらの相加平均値から断熱膜Aの気孔率Pを算出した。なお、この気孔率については、測定領域のサンプリングにおける測定誤差を考慮して5%刻みの値として表示し、この断熱膜Aの気孔率の値とした。


その結果、断熱膜Aの気孔率は55%であることがわかった。このようにして気孔率が測定された断熱膜Aの研磨表面の走査型電子顕微鏡像を図29に示す。
さらに、ビッカース硬度計を用いて、断熱膜Aのビッカース硬度を測定した。用いたビッカース硬度計は、正四角錐ダイヤモンド圧子を備えており、試験加重50gの条件で硬度を測定した。測定に用いた断熱膜の試料については、断熱膜の下地である基材の硬度の影響を受けにくいように、気孔率の測定に用いたそれぞれの断熱膜試料の膜断面を測定した。それぞれ気孔率測定の場合と同様の方法で断熱膜の断面を研磨し、その平滑な断面をビッカース測定用の表面とした。この断熱膜Aの研磨断面を図30に示す。測定用のダイヤモンド圧子を押し込み評価できる大きさの研磨平滑面領域が多く存在し、ビッカース硬度の測定が可能であった。図30に示した研磨断面の表面内に分散して存在する平滑な面からなる領域の任意の12ヶ所にビッカース圧子を押し込み評価することにより測定を行った。その結果、断熱膜1004と全く同じ反応条件で合成された断熱膜Aは、そのビッカース硬度が最大値Hv407、最小値Hv190、平均値Hv257であった。
次に、上記の気孔率55%の断熱膜試料Aの水熱合成条件と異なる合成条件を選ぶことによって、断熱膜試料Aと異なる気孔率をもつ断熱膜試料Bの作製を試みた。
断熱膜Bの形成は、次のようにして行った。すなわち、窒素ガス中で蒸留して作製した水60mlに10.4gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)を溶解した水溶液と、断熱膜Aの合成に用いたアルカリ水溶液と同様の水溶液である21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液60mlを混合して懸濁液を作製した。この懸濁液を出発原料として、断熱膜Aの合成と同じ反応容器を用い、その中に断熱下地層(断熱金型1001の断熱下地層1003と同様の鉄膜)を形成した試料基材を浸漬し、治具を用いて保持した。なお、上記の作業は、窒素ガス雰囲気中で行った。このオートクレーブ反応容器を外部から加熱することによって140℃で12時間反応させた。反応後、試料基材を治具ごと取り出し、同時に反応残渣の粉体化合物等と分離するため、十分に水洗した。オートクレーブ反応容器も、同様に反応残渣を取り除くために内部を水洗し、再度、上記と同量の懸濁液を調合し、再び金型母材を治具ごと取り付けて、同様に140℃で12時間反応させた。この操作を合計8回繰り返すことによって、膜厚150μmの断熱膜Bを形成した。
このようにして得られた断熱膜Bも黒色の膜であった。その膜について、断熱膜Aと同様にして、組成と結晶構造、及び気孔率を調べた。その結果、断熱膜Bも、断熱膜Aと同様の格子定数a=8.40Åのスピネル型酸化鉄Feであった。また、この断熱膜Bの膜形成後の表面は、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察から、断熱膜Aと同様に、角が尖った双晶結晶に見える結晶粒が連続して三次元に成長した膜になっており、かつ、その膜の内部に無数の気孔が存在する多孔質な膜になっていた。
断熱膜Aの場合と同様にして、断熱膜Bの気孔率とビッカース硬度を測定した結果、気孔率は40%であり、ビッカース硬度は最大値Hv435、最小値Hv239、平均値Hv298であった。気孔率が測定された断熱膜Bの研磨表面の走査型電子顕微鏡像を図31に示す。
断熱性の評価
本発明の断熱金型と同じ層構成について、前記の2種類の断熱膜A及び断熱膜Bの断熱性能を評価した。断熱膜A又はBを含めて同じ材料と同じ構成からなる断熱性評価用の測定試料1011A、1011Bを作製した。断熱膜Aを配置した測定試料1011Aの概略断面構成図を図32に示す。測定試料1011Bは、断熱膜の材料が断熱膜Bであることが異なるのみであり、その他は図32に示す構成と全く同じ構成である。測定試料1011Aは、以下のようにして作製した。まず、直径10.0mmで長さ44.0mmの本実施例の断熱金型1001に用いた金型母材1002と同じ材質の丸棒を準備し、その一方の端面の中心に直径3.5mmで深さ22.0mmの熱電対取り付け穴1012aを形成し、金属丸棒の基材1012を作製した。この基材1012を用い、図27に示す方法と同様の作製方法により、熱電対取り付け穴1012aのある端面と逆の位置にある端面底部から30.0mmの位置まで厚さ3μmの鉄膜からなる断熱膜下地層1013を形成し、その上に厚さ50μmの本発明の断熱膜Aからなる断熱膜1014を形成した。続いて、その上に熱電取り付け穴1012aのある端面から樹脂マスキングを施し、スパッタリング法にて端面底部から23.0mmの位置まで極薄のパラジウムの触媒微粒子膜からなるシード層1015を形成し、その上にニッケルからなるめっき下地膜1016(厚さ1μm)を無電解ニッケルめっき法で形成し、さらにその上に無電解ニッケルめっき法にて厚さ6μmの非晶質ニッケルりん合金膜からなるめっき金属膜1017を形成し、めっき下地膜1016とめっき金属膜1017から構成される金属皮膜層1018を形成した。
測定試料1011Bは、図32に示した測定試料1011Aにおいて、断熱膜Aからなる断熱膜1014の代わりに、断熱膜Bからなる断熱膜を形成して作製された測定試料である。
断熱性の評価の比較のために、全く断熱膜をもたない比較試料1211も作製した。この比較試料の構成を図33に示す。上記の基材1012と全く同じ材質で同じ形状に加工した基材1212を準備し、端面底部から23.0mmの位置までを残し、熱電対取り付け穴1212aのある端面側に樹脂マスキングを施した。その後、ウッドストライク浴でニッケルめっき膜からなる厚さ1μmめっき下地膜1216を形成し、この上に、上記と同様にして無電解ニッケルめっき法により厚さ6μmの非晶質ニッケルりん合金膜からなるめっき金属膜1217を形成して、金属皮膜層1218を形成した。このようにして測定試料1211を作製した。
このようにして作製した3種類の測定試料1011A、1011B、1211について、以下のようにして同時に断熱性の評価を行った。
図34には、本実施例で用いた断熱性評価装置21の概略断面図を示す。この装置はともに透明ガラス製ビーカーからなる同じ大きさの高温水用の恒温水槽22と冷水用の恒温水槽23と3つの測定試料1011A、1011B、1211を保持した硬質発泡スチロール樹脂製であり、それぞれの恒温水槽の上面を覆って蓋にできる大きさ(正方形、大きさ20cm)で厚さ5mmの断熱板1024から構成される。高温水用の恒温水槽22の下部には電熱ヒータ25が配置されており、加熱できる構造になっている。その隣に、冷水用の恒温水槽23が同じ高さになるように台26の上に乗せて配置されている。断熱板1024には、等間隔で直径10.0mmの3つの貫通孔を開け、それぞれの金属皮膜層を形成した部分で測定試料の端面から20mmが断熱板1024から下部に出るように、測定試料1011A、1011B、1211が配置されている。それぞれの測定試料には、もう一方の端面に設けられた熱電対取り付け穴に熱電対18、118、218が取り付けられており、それぞれの温度表示計19、119、219に接続され、それぞれの測定試料を構成する金属丸棒の基材の温度を表示できる構成になっている。なお、温度測定結果に外気温の影響を少なくするために、それぞれの測定試料1011A、1011B、1211において熱電対と接続された上部部分で断熱板24の上側から外に出る部分は完全に隠れるように、全く同じ形状の発泡スチロール樹脂製の断熱カバー27、28、29で覆った。2つの恒温水槽22、23には、それぞれに断熱板24に取り付けられた3種類の測定試料1011A、1011B、1211の下部端面から15mmの部分が浸かるように、高温水と冷水を入れて使用した。測定中は、高温水用の恒温水槽22は電熱ヒータ25を用いて水温が一定になるように調整し、冷水用の恒温水槽23は冷水を交換することによって一定水温に保って使用した。
本発明の断熱膜の断熱性評価は、断熱性評価装置21の恒温水槽22の95℃に保った高温水に、室温に放置して一定に保たれた3つの測定試料1011A、1011B、1211を断熱板1024に取り付けたままで同時に漬け、その温度上昇の速度を測定することにより昇温時の断熱効果を調べた。続いて、温度上昇した測定試料1011A、1011B、1211をそのまま断熱板24に取り付けたまま、同時に恒温水槽23の32℃に保った水に漬け、その温度降下の速度を測定することにより降温時の断熱効果を調べた。
図35には、室温から、同時に95℃に保持した恒温水槽22に漬けた場合の温度上昇の時間変化に関し、断熱膜をもたない測定試料1211に比較して、本発明の断熱膜を設けた測定試料1011A(気孔率55%)、1011B(気孔率40%)の測定結果として、温度上昇の時間変化とそれぞれの二つの測定試料の温度差の時間変化を示す。図36には、いったん温度上昇した測定試料1011A、1011B、1211を同時に32℃に保持した恒温水槽に漬けた場合の温度降下の時間変化の測定結果を示す。
図35及び図36の結果からも明らかなように、本発明の断熱膜は、外部の温度変化に対して基材に熱を伝えにくくする効果があることがわかる。さらに、気孔率の大きな断熱膜を備えた測定試料ほどその断熱効果が高くなることもわかる。
実施例2
図1には、本実施例における断熱金型の積層構成を示す断面図を示す。断熱金型1は、精密な微細加工形状を持つ樹脂製部品の成形加工に用いられるステンレス鋼製金型であり、以下の層構成からなる。すなわち、高さ2.5mmのつば形状(直径25.0mm)の部分をもつ底面からの高さが15.0mmで直径20.0mmの金型母材2の表面上に、厚さ3μmの鉄膜による断熱膜下地層3が形成され、その上に厚さ150μmの鉄フェライト(すなわちスピネル型酸化鉄)からなる断熱膜4が形成され、その上にパラジウムの触媒微粒子膜からなるシード層5が配置され、その上に金属皮膜層8が形成されている。この金属皮膜層8は、ニッケルからなるめっき下地膜6(厚さ2μm)と、さらにその上に形成された非晶質ニッケルーリン合金膜からなる微細加工金属膜7(平均厚さ60μm)から構成されている。この微細加工金属膜7の成形面側は、機械加工によって成形部品のプレス成形用微細パターンが形成された精密加工表面7aになっている。
本実施例の断熱金型の製造は、実施例1と同様にして行った。その製造工程例を図2に示す。金型母材2の成形面側の表面に硫酸鉄めっき浴を用い、厚み3μmの鉄膜からなる断熱膜下地層3を形成した。続いて、この表面上に厚さ150μmのスピネル型酸化鉄からなる断熱膜4を形成した。断熱膜4は、以下のようにして形成した。まず、窒素ガス中で蒸留して作製した水60mlに41.7gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)を溶解した水溶液と、21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液60mlを混合して懸濁液を処理液として調製した。内容積200mlのステンレス鋼製のオートクレーブ反応容器の中に上記懸濁液を入れ、その中に断熱下地層3を形成した金型母材を浸漬し、治具を用いて保持した。この金型母材は、断熱下地層3を形成した成形面以外を四フッ化エチレン製のシールテープで予めマスキングしておいた。なお、上記の作業は、窒素ガス雰囲気中で行った。このオートクレーブ反応容器を外部から加熱することによって、150℃で10時間反応させた。反応後、金型母材を治具ごと取り出し、同時に生成した粉体化合物と分離するため、十分に水洗した。オートクレーブ反応容器も、同様に生成した粉体を取り除くために内部を水洗し、再度、上記と同量の懸濁液を調合し、再び金型母材を治具ごと取り付け、同様に、150℃で10時間反応させた。この操作を合計6回繰り返すことによって、膜厚150μmのスピネル型酸化鉄からなる断熱膜4を形成した。
このようにして、積層膜が形成された金型を水洗し、十分に乾燥した後、パラジウムのターゲットを取り付けた直流スパッタ装置を用い、断熱膜4の表面にパラジウム微粒子膜を形成することにより、シード層5を形成した。次に、無電解ニッケルめっき法によって厚さ2μmのニッケル膜からなるめっき下地膜6を被覆した。さらに、無電解ニッケルめっき法によって厚み150μmの精密加工用のニッケルりん合金めっき膜からなる微細加工金属膜7を形成することにより、金属皮膜層8を作製した後、200℃で3時間熱処理した。次いで、精密切削加工機を用いて精密加工表面7aを形成することによって、微細加工型用の断熱金型1が得られた。
なお、断熱膜4について、所望の材質の膜が形成されているかどうかを確認する目的で、別に金型母材2と同じ材質の正方形状の板(大きさ:18.0mm四方で厚さ2.0mm)を準備し、上記した断熱金型1を作製する工程において、同様の断熱膜下地層を形成した。その後、断熱金型1の断熱膜4を形成する工程において、この断熱金型1と一緒に、この正方形板の試料も同じオートクレーブ反応容器に入れ、断熱膜4と同時に、この正方形板試料へも断熱膜を形成した。前記の正方形板上に形成された膜について、実施例1と同様の材料評価を行った。蛍光X線装置の組成分析の結果とX線回折によって得られたX線回折パターン(図3)の解析の結果から、断熱膜4は、前記の実施例1で示した断熱膜1004と同様の格子定数a=8.40Åのスピネル型酸化鉄Feであることが確認できた。また、この断熱膜4の気孔率は55%であり、ビッカース硬度Hvは最大値410、最小値180で平均値265であった。
断熱性の評価
上記の本発明の構成の断熱金型の断熱性能を評価する目的で、本発明の断熱膜を含めて同じ材料と同じ構成からなる断熱性評価用の測定試料11を作製した。その概略断面構成図を図4に示す。この測定試料11は、以下のようにして作製した。まず、直径9.5mmで長さ45.0mmの本実施例の構成の断熱金型1に用いた金型母材2と同じ材質の丸棒を準備し、その一方の端面の中心に直径3.5mmで深さ22.0mmの熱電対取り付け穴12aを形成した。さらに、上に形成する断熱膜の密着性を良好にする目的で、この丸棒の側面全面にピッチ125μmで深さ15μmの凹凸溝を形成して、金属丸棒の基材12を作製した。この基材12を用いて、本実施例の断熱金型と同様の作製方法にて、熱電対取り付け穴12aのある端面と逆の位置にある端面底部から30.0mmの位置まで厚さ鉄膜からなる断熱膜下地層13を形成し、その上に厚さ150μmの本発明のスピネル型酸化鉄からなる断熱膜14を形成した。続いて、その上に熱電対取り付け穴12aのある端面から樹脂マスキングを施し、端面底部から23.0mmの位置まで、スパッタリング法で極薄のパラジウムの触媒微粒子膜からなるシード層15を形成し、その上に、ニッケルからなるめっき下地膜16(厚さ2μm)を無電解ニッケルめっき法で形成し、さらにその上に、無電解ニッケルめっき法で、厚さ18μmの非晶質ニッケルりん合金膜からなるめっき金属膜17を形成し、めっき下地膜16とめっき金属膜17から構成される金属皮膜層18を形成した。
断熱性の評価の比較のために、図5及び図6に示すような2種類の異なる構成の比較試料も作製した。
一方の比較試料は、ジルコニア溶射膜を断熱膜とする従来の断熱膜を備えた測定試料111であり、その構成を図5に示す。測定試料111は、次のようにして作製した。上記の測定試料11の基材12と全く同じ材質で同じ形状に加工した基材112を準備し、熱電対取り付け穴112aのある端面と逆の位置にある端面底部から30.0mmの位置まで、溶射法によって平均厚さがおおよそ250μmになるように高温度のジルコニア微粒子を均質に溶射し、ジルコニア溶射膜を形成した。この溶射膜を精密に研削加工することによって、厚さ150μmまで薄くして、ジルコニア溶射膜からなる断熱膜114を形成した。その後、端面底部から23.0mmの位置までを残して、その上に熱電取り付け穴112aのある端面から樹脂マスキングを施した。脱脂・酸洗いの前処理工程及び塩酸酸性の塩化第一スズ溶液への浸漬処理と、その後塩化パラジウム液に浸漬処理によってパラジウム触媒のシード層115を形成した。その上にニッケルからなるめっき下地膜116(厚さ2μm)を形成し、さらにその上に無電解ニッケルめっき法による厚さ18μmの非晶質ニッケルりん合金膜からなるめっき金属膜117を形成し、金属皮膜層118を形成した。このようにして測定試料111を作製した。
もう一方の比較試料は全く断熱膜をもたない測定試料211である。その構成を図6に示す。上記の基材12又は112と全く同じ材質で同じ形状に加工した基材212を準備し、端面底部から23.0mmの位置までを残し、熱電対取り付け穴212aのある端面側に樹脂マスキングを施した。その後、ウッドストライク浴でニッケルめっき膜からなる厚さ2μmめっき下地膜216を形成し、この上に上記と同様にして無電解ニッケルめっき法で厚さ18μmの非晶質ニッケルりん合金膜からなるめっき金属膜217を形成し、金属皮膜層218を形成した。このようにして測定試料211を作製した。
上記のようにして作製した3種類の測定試料11、111及び211は、以下のようにして同時に断熱性の評価を行った。
断熱性の評価は、実施例1で用いた図34で示す断熱性評価装置と同じ装置を使い、同様の方法で評価した。ここで、実施例1での測定試料1011A、1011B及び1211の代わりに、それぞれ本実施例の測定試料11、111及び211を断熱性評価装置に設置して測定した。なお、3つの測定試料を保持する断熱板として、図34で用いた断熱板1024の代わりに直径9.5mmの3つの貫通孔が設けられた断熱板24を用いた。この測定評価時の状態を図7に示す。
断熱性の評価は、図7に示す断熱性評価装置21の恒温水槽22の90℃に保った高温水に、室温に放置して一定の温度に保たれた3つの測定試料11、111、211を断熱板24に取り付けたままで同時に漬け、その温度上昇の速度を測定することにより昇温時の断熱効果を調べた。続いて、温度上昇した測定試料11、111、211をそのまま断熱板24に取り付けたまま、同時に恒温水槽23の20℃に保った冷水に浸漬し、その温度降下の速度を測定することにより降温時の断熱効果を調べた。
図8には、室温から、同時に90℃に保持した恒温水槽22に漬けた場合の温度上昇の時間変化に関し、断熱膜をもたない測定試料211に比較して、本発明の断熱膜を設けた測定試料21の測定結果として、温度上昇の時間変化と2つの測定試料の温度差の時間変化を示す。図9には、いったん温度上昇した測定試料11、211を同時に20℃に保持した恒温水槽の漬けた場合の温度降下の時間変化の測定結果を示す。
同様にして、従来の断熱膜を設けた測定試料111に関して、上記の本発明の断熱材の測定試料と同じようにして実施した測定結果を図10及び図11に示す。
図8〜図11の結果からも明らかなように、本発明の断熱膜は、外部の温度変化に対して基材に熱を伝えにくくする効果が明確であることがわかる。また、その断熱効果は、従来のジルコニア溶射膜からなる断熱膜とほぼ同等であることがわかる。
実施例3
図12には、本実施例における断熱金型の積層構成を示す概略断面図を示す。断熱金型31は、精密な微細加工表面をもつ光学素子の樹脂成形に用いられる金型であり、次の層構成からなる。すなわち、光学素子のおおよその成形形状に加工された大きさが直径10.0mmの円筒状で、下部に直径14.0mm×高さ2.0mmのつば形状の部分持つ高さ15.0mmの鉄鋼材からなる金型母材32の成形面側の表面上に、スピネル型酸化鉄からなる膜厚105μmの断熱層34が配置されている。その表面上には膜厚3μmの鉄膜からなる密着層35、さらにその上面には、金属皮膜層38が配置されている。この金属皮膜層38は、膜厚2μmからなるニッケルのめっき下地膜36と、さらにその上に膜厚100μmの非晶質ニッケルりん合金膜からなる微細加工金属膜37とで構成されている。なお、この微細加工金属膜37の表面は、樹脂成形の際の成形転写面であり、被成形物の形状に微細加工された精密加工表面37aになっている。
本実施例の断熱金型の製造方法における工程を図13に示す。まず、鉄が主成分の鋼材からなる棒材を機械加工された金型母材32成形面に厚さ105μmのスピネル型酸化鉄からなる断熱膜34を、実施例2と同じ原料と同じオートクレーブ反応容器を用い、同様の水熱反応を4回繰り返して、形成した(図13(1))。なお、この金型母材は、金型母材32の成形面以外を四フッ化エチレン製のシールテープで予めマスキングしておいた。
このようにして、断熱膜34が形成された金型を水洗した後、クエン酸を用いた有機酸鉄めっき浴の電気めっき法によって、鉄めっき膜からなる密着層35を形成した(図13(2))。次に、無電解ニッケルめっき法によって、厚さ2μmのニッケル膜からなるめっき下地膜36を被覆した。さらに、無電解ニッケルめっき法によって、厚み150μmの精密加工用のニッケルりん合金めっき膜からなる微細加工金属膜37を形成して金属皮膜層38を作製し、200℃で3時間熱処理した(図13(3))。その後、この微細加工金属膜37の表面は、精密切削加工機を用いて機械加工することにより、被成形物の形状の精密加工表面38を形成し、光学素子の樹脂成形に用いられる断熱金型31を作製した(図13(4))。
このように、本実施例の断熱膜を構成するスピネル型酸化鉄は導電性を有する金属酸化物であるため、従来の製造工程で困難とされていたファインセラミックス断熱膜への電気めっき法での金属膜の直接形成が可能になることがわかる。
断熱性の評価
上記の断熱金型の断熱性能を評価する目的で、本発明の断熱膜を含めて同じ材料と同じ構成からなる断熱性評価用の測定試料41を作製した。その概略断面図を図14に示す。この測定試料41は、以下のようにして作製した。まず、直径5.5mmで長さ52.0mmの本実施例の金型母材32と同じ材質の丸棒を準備し、基材の温度測定を行う熱電対を埋め込む目的で、一端から7.0mmの位置の円筒側面に、軸方向と直角に直径2.0mmの熱電対取り付け貫通孔42aを形成し、基材42を作製した。その後、この基材42の一端から、四フッ化エチレン製のシールテープで予めマスキングし、図13の断熱膜34の形成方法と同様にして、もう一方の一端である端面底部から22.0mmに厚み105μmの断熱膜44を形成した。続いて、端面底部から20.0mmの位置までを残し、残りの部分を樹脂シール材でマスキングし、断熱金型31における密着層35の形成方法と同様にして鉄めっき膜からなる密着層45を形成し、さらに、無電解ニッケルめっき法によって厚さ2μmのニッケル膜からなるめっき下地膜46と、同じく無電解ニッケルめっき法にて厚み28μmの精密加工用のニッケルりん合金めっき膜からなる金属膜47を被覆することによって、測定試料41を作製した。
本発明の断熱膜を備えた測定試料41の断熱性評価の比較試料として、断熱膜をもたない測定試料241を以下のようにして作製した。その概略断面図を図15に示す。上記の基材42と全く同じ材質で同じ形状に加工した基材242を準備し、端面底部から20.0mmの位置までを残して、熱電対取り付け穴242aのある端面側に樹脂マスキングを施した。その後、無電解ニッケルめっき法によってニッケルめっき膜からなる厚さ2μmめっき下地膜246を形成し、この上に上記と同様にして無電解ニッケルめっき法によって厚さ28μmの非晶質ニッケルりん合金膜からなるめっき金属膜247を形成した。このようにして測定試料241を作製した。
このようにして作製した測定試料41、241は、断熱板24を、直径6.0mmの貫通孔を設けて測定試料41、241を保持できるように変更した以外は、実施例1で用いた断熱性評価装置21と同様の構成の装置を用い、実施例1と同様にして同時に断熱性の評価を行った。なお、断熱膜24に取り付けられた測定試料41と241の下部端面から15mmの部分が恒温槽に貯めた高温水中及び冷水中に浸かるようにして断熱性の評価を行った。
図16には、室温から、同時に95℃に保持した恒温水槽に漬けた場合の温度上昇の時間変化に関し、断熱膜をもたない測定試料241に比較して、本発明の断熱膜を設けた測定試料41の測定結果を示す。また、図17には、いったん温度上昇した測定試料41、241を、異なる温度のまま、続いて同時に18℃に保持した恒温水槽の漬けた場合の温度降下の時間変化の測定結果を示す。
図16及び図17の結果からも明らかなように、実施例1の結果と同様、本発明の断熱膜は、外部の温度変化に対して基材に熱を伝えにくくする効果が明確であることがわかる。
さらに、上記の測定試料と同様にして、断熱膜の厚みが15μmの測定試料341と断熱膜の厚みが30μmの測定試料441を作製し、断熱膜をもたない測定試料241の3つの試料を上記の断熱性測定と同様にして評価した。但し、3つの測定試料241、341、441の下部端面から19mmの部分が恒温槽に貯めた高温水中及び冷水中に浸かるようにして断熱性の評価を行った。
図18には、室温から、同時に95℃に保持した恒温水槽に漬けた場合の温度上昇の時間変化に関し、断熱膜をもたない測定試料241に比較して、本発明の断熱膜を設けた測定試料341、441の測定結果を示す。図19には、いったん温度上昇した測定試料241、341及び441を、異なる温度のまま、続いて同時に27℃に保持した恒温水槽の漬けた場合の温度降下の時間変化の測定結果を示す。
図18及び図19の結果からも明らかなように、実施例1の結果と同様、本発明の断熱膜は膜厚15μmであっても、外部の温度変化に対して基材に熱を伝えにくくする効果が明確であることがわかる。
実施例4
実施例1に示したように、水熱合成の反応条件を選ぶことによって、断熱性能に大きな影響を及ぼす気孔率が様々に異なる断熱膜に形成できる。本実施例では、水熱合成条件を種々に変えることによって、気孔率が異なる3種類の断熱膜C、D、Eを作製した。なお、水熱合成において、すべての原料溶液の調製には、窒素ガス中で蒸留した水を用いた。
断熱膜形成に用いる下地基材として、鉄製金型を想定して、鉄からなる長方形状の基板(大きさ:縦50mm、幅20mm、厚み2.0mm)を3つ準備し、これらの基板表面にそれぞれの断熱膜を形成した。
断熱膜Cは以下のようにして形成した。水60mlに38.3gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)を溶解した水溶液と、29.7gの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液60mlを混合して懸濁液を作製した。実施例1で用いたものと同じ形状のオートクレーブ反応容器の中に上記懸濁液を入れ、治具を用いて下地基材を保持して浸漬し、反応容器を密閉し、100℃で加熱して保持した。45時間後、反応容器内部の圧力は0.20MPaに上昇していた。その後、加熱を停止し、圧力バルブを開いて内部の圧力を開放し、反応容器を開き、試料基材を治具ごと取り出して、同時に反応残渣と分離するため、十分に水洗した。その後、反応容器も、同様に反応残渣を取り除くために内部を水洗し、再度、上記と同量の懸濁液を調合し、再び水洗後の上記の基材を再び治具に取り付けて、同様に、100℃で45時間反応させた。この操作を合計6回繰り返すことによって、膜厚146μmの断熱膜Cを形成した。
このようにして形成された断熱膜Cについて、実施例1の断熱膜Aの材料評価と同様にして、蛍光X線装置とX線回折装置、レーザー顕微鏡、ビッカース硬度計等を用いて化学組成と結晶構造、気孔率及びビッカース硬度をそれぞれ調べた。その結果、断熱膜Cは、格子定数a=8.40Åのスピネル型酸化鉄であることが確認できた。また、その気孔率は5%であり、ビッカース硬度が最大値Hv314、最小値Hv230で平均値HV278であることがわかった。
断熱膜Dの形成方法は、次の通りである。まず、窒素ガス中で蒸留して作製した水60mlに41.7gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)を溶解した水溶液と、26.0gの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液60mlを混合して懸濁液を作製した。断熱膜Cの形成に用いたものと同形状の反応容器の中に、この懸濁液を入れ、断熱膜Cの場合と同様にして110℃で40時間反応させた。反応後、膜形成された基材を取り出し、十分に水洗し、反応容器中で新規の原料懸濁液に上記基材を浸漬させて容器を密封し同様の110℃で40時間の反応をさせた。この操作を合計4回繰り返すことによって、膜厚150μmの断熱膜Dを形成した。
得られた断熱膜Dを材料評価した結果、格子定数a=8.40Åのスピネル型酸化鉄Feから構成されており、その気孔率は15%であり、ビッカース硬度は最大値Hv560、最小値Hv303、平均値Hv448であった。
断熱膜Eの形成方法は次の通りである。まず、窒素ガス中で蒸留して作製した水60mlに41.7gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)を溶解した水溶液と、21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液60mlを混合して懸濁液を作製した。断熱膜Cの形成に用いたものと同形状の反応容器の中に、この懸濁液を入れ、断熱膜Cの場合と同様にして、145℃で90分間反応させた。反応後、膜形成された基材を取り出し、十分に水洗し、再び反応容器中で新規の原料懸濁液に上記基材を浸漬させて容器を密封し、同様の145℃で90分間反応させた。この操作を合計14回繰り返すことによって、膜厚150μmの断熱膜Eを形成した。
このようにして得られた黒色を呈する断熱膜Eに関し、材料評価の結果、断熱膜Eは格子定数a=8.40Åのスピネル型酸化鉄Feから構成されており、その気孔率は75%であった。しかし、気孔率が75%と大きな気孔率をもつ断熱膜Eは、ビッカース圧子を押しこんで圧痕の凹みを形成できる大きさの平滑な研磨面が得られないためにビッカース硬度は測定することができなかった。これらの気孔率の異なる断熱膜C、D、Eの研磨表面の走査型顕微鏡像を図37に示す。なお、上記の断熱膜C、D、Eともに、形成後の表面は、断熱膜Aと同様に、角が尖った双晶結晶に見える結晶粒が連続して三次元に成長した膜になっており、かつ、その膜の内部に無数の気孔が存在する多孔質な膜になっていた。
従来の断熱性酸化物材料であるジルコニア焼結体又はジルコニア溶射膜は、ビッカース硬度Hvが1200と高く、難加工性材料であることが知られている。それに対し、本発明の断熱膜材料は、気孔率の大きさにかかわらず、硬度が低く、従来のフェライトセラミックスと同様に精密切削、精密研削等の微細加工が比較的容易に行える材料であることがわかる。
実施例5
スピネル型酸化鉄Feを形成する鉄イオンの一部を各種の金属イオンで置換することにより、各種組成の置換フェライトが、水熱合成反応によって基材上に膜形状に作製できるかどうかを検討した。これらのフェライトは、その置換イオンの種類によって、熱伝導率はおおよそ大きな違いはないが、例えば熱膨張率等の別の材料的性質を変えることができることから、金型の断熱膜としての置換フェライトの膜形成は重要である。
各種組成の置換フェライト膜の形成では、原料溶液の調製においては、窒素ガス中で蒸留した水を用いた。
まず、置換イオンとしてカルシウムイオンを含むフェライトであるカルシウムフェライトの成膜を試みた。上記置換フェライト膜の合成は、以下のようにして行った。所望のフェライト膜が、実施例1に示す方法と同様の水熱反応で形成できるかどうかを確認する目的で膜形成に用いた下地基材は、実施例1の断熱膜の材料評価に用いたものと同じ材質(純銅)の長方形状の基板(大きさ:縦50mm×横20mm×厚さ2.0mm)で、かつ、同様の断熱膜下地層(厚さ3μmの鉄めっき膜)を形成したものである。
処理液として、19.9gの塩化第一鉄(FeCl・4HO)と7.4gの塩化カルシウム(CaCl・2HO)を水に溶解した水溶液60mlと、21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液60mlを混合して懸濁液を調製した。実施例1で用いたものと同様の内容積200mlのステンレス鋼製のオートクレーブ反応容器の中に上記懸濁液を入れ、その中に上記の評価用の下地基材を浸漬し、治具を用いて保持した。150℃で2時間反応させた後、基材を治具ごと取り出し、同時に生成した粉体化合物と分離するため、十分に水洗した。オートクレーブ反応容器も、同様に生成した粉体を取り除くために内部を水洗し、再び上記と同量の懸濁液を調合し、再び金型母材を治具ごと取り付けて、同様の反応を9回繰り返した。
このようにして基材上に形成された膜は黒色の膜であり、その厚みが104μmであった。この膜について、蛍光X線装置を用いて組成分析を行った。その結果、鉄とカルシウムの化合物であり、その化学組成(モル比)は鉄:カルシウム=85:15であることがわかった。また、X線回折装置を用いて結晶構造を調べた。そのX線回折パターンを図38に示す。その結果、格子定数a=8.40Åのスピネル型結晶構造を示す化合物からなることが確認された。すなわち、得られた膜はカルシウムフェライトCa0.45Fe2.55であることが確認できた。また、この膜の膜形成後の表面の走査型電子顕微鏡像を図42に示す。実施例1に示した断熱膜Aと同様に、角が尖った双晶結晶に見える結晶粒が連続して三次元に成長した膜になっていること、その膜の内部に無数の気孔が存在した構造の多孔質な膜になっていることがわかる。
さらに、実施例1で示した方法と同様にして、膜表面及び膜断面をそれぞれ研磨して測定面を作製し、気孔率とビッカース硬度をそれぞれ測定した。研磨後の膜表面の走査型顕微鏡像を図39に示す。その結果、気孔率は20%であった。また、ビッカース硬度は最大値がHv339、最小値がHv130であり、それらの平均値はHv220であった。
次に、置換イオンとして亜鉛イオンを含むフェライトである亜鉛フェライトの成膜の可能性について検討した。ただし、ここでは、評価用の基材として、実施例3で用いた金型母材32(鉄鋼材)と同じ材質の正方形状の板(大きさ18.0mm四方で厚さ2.0mm)を用いた。その合成は、以下のようにして行った。処理液として、水60mlに34.7gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)と7.2gの硫酸亜鉛(ZnSO・7HO)を溶解した水溶液と、21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液60mlを混合して懸濁液を調製した。上記のカルシウムフェライトの合成で用いた内容積200mlのステンレス鋼製のオートクレーブ反応容器の中に上記懸濁液を入れ、その中に上記の評価用の基材を浸漬し、治具を用いて保持した。180℃で4時間反応させた後、基材を治具ごと取り出し、同時に生成した粉体化合物と分離するために十分に水洗した。オートクレーブ反応容器についても同様に生成した粉体を取り除くために内部を水洗し、再び上記と同量の懸濁液を調合し、再び金型母材を治具ごと取り付けて、同様の反応を4回繰り返した。
前記の正方形板上に形成された膜について、蛍光X線装置を用いて組成分析を行った。その結果、鉄と亜鉛の化合物であることが確認された。但し、下地の基材が鉄鋼材であることに起因して、蛍光X線組成分析の際に、基材の成分(鉄)も組成分析値として加算されてしまうため、フェライト膜の正確な組成の定量は困難であった。置換金属イオンがフェライト組成に含まれているか否かの組成の定性分析のみを行った。また、X線回折分析によって結晶構造を調べた。そのX線回折パターンを図22に示す。その結果、格子定数a=8.49Åのスピネル型結晶構造の化合物のみからなることが確認された。すなわち、得られた膜は亜鉛フェライトであることが確認できた。
上記の亜鉛フェライトの作製・検討と同様にして、置換イオンがマンガン(Mn)イオンである場合のフェライトの成膜について検討した。処理液として、34.7gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)と6.0gの硫酸マンガン(MnSO・5HO)を水60mlに溶解した水溶液と、21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液60mlを混合して懸濁液を調製して用いた点が異なるのみであり、その他の工程は前述の亜鉛フェライトの成膜性検討の場合と全く同様にして実施した。オートクレーブ反応容器の中に入れた正方形板上に形成された膜について、蛍光X線装置を用いて組成分析を行った。その結果、鉄とマンガンの化合物であることが確認された。また、X線回折分析により結晶構造を調べた。その結果、得られた膜は格子定数a=8.43Åのスピネル型結晶構造の化合物のみからなることが明らかになった。すなわち、得られた膜はマンガンフェライトであることが確認できた。
次に、置換イオンが、マグネシウム(Mg)イオンである場合のフェライトの成膜について検討した。処理液として、水60mlに34.7gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)と6.2gの硫酸マグネシウム(MgSO・7HO)を溶解した水溶液と、21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液60mlを混合して懸濁液を作製して用いた点が異なるのみであり、その他の工程は前述の亜鉛フェライトの成膜性検討の場合と全く同様にして実施した。オートクレーブ反応容器の中に入れた正方形板の上に形成された膜について、蛍光X線装置を用いて組成分析を行った。その結果、鉄とマグネシウムの化合物であることが確認された。また、X線回折分析により結晶構造を調べた。その結果、得られた膜は、格子定数a=8.40Åのスピネル型結晶構造の化合物のみからなることが明らかになった。すなわち、得られた膜はマグネシウムフェライトであることが確認できた。反応温度が異なる条件での膜形成を調べる目的で、上述と同様にして調製した懸濁液をオートクレーブ容器に入れて110℃で4時間の成膜実験を試みた。その結果、上記と同様に、格子定数a=8.40Åのスピネル型結晶構造のマグネシウムフェライトが合成できることが確認できた。
さらに、置換イオンが、アルミニウム(Al)イオンである場合のフェライトの成膜について検討した。処理液として、水60mlに34.7gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)と7.9gの硫酸アルミニウム(AlSO・16HO)を溶解した水溶液と、21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液60mlを混合して作製した懸濁液を用いた点が異なるのみであり、その他の工程は前述の亜鉛フェライトの成膜性検討の場合と全く同様にして実施した。オートクレーブ反応容器の中に入れた正方形板上に形成された膜に関し、蛍光X線装置を用いて組成分析を行った。その結果、鉄とアルミニウムの化合物であることが確認された。また、X線回折分析により結晶構造を調べた。その結果、得られた膜は、格子定数a=8.35Åのスピネル型結晶構造の化合物のみからなることが明らかになった。すなわち、得られた膜はアルミニウムフェライトであることが確認できた。
置換イオンが、クロム(Cr)イオンである場合のフェライトの成膜についても検討した。処理液として、34.7gの硫酸第一鉄(FeSO4・7HO)と5.6gの硫酸クロム(CrSO・3HO)を水60mlに溶解した水溶液と、21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液60mlを混合して作製した懸濁液を用いた点が異なるのみであり、その他の工程は前述の亜鉛フェライトの成膜性検討の場合と全く同様にして実施した。オートクレーブ反応容器の中に入れた正方形板上に形成された膜について、蛍光X線装置を用いて組成分析を行った。その結果、鉄とクロムの化合物であることが確認できた。また、X線回折分析により結晶構造を調べた。その結果、得られた膜は、格子定数a=8.38Åのスピネル型結晶構造の化合物のみからなることが明らかになった。すなわち、得られた膜は、クロムフェライトであることが確認できた。
置換イオンが、リチウム(Li)イオンである場合のフェライトの成膜についても検討した。処理液として、水60mlに34.7gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)と3.2gの硫酸クロム(LiSO・HO)を溶解した水溶液と、21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液60mlを混合して調製した懸濁液を用いた点が異なるのみであり、その他の工程は前述の亜鉛フェライトの成膜性検討の場合と全く同様にして実施した。オートクレーブ反応容器の中に入れた正方形板上に形成された膜に関して、X線回折分析により結晶構造を調べた。その結果、得られた膜は、格子定数a=8.39Åのスピネル型結晶構造の化合物のみからなることが確認された。さらに、得られた膜を塩酸に溶解させ、ICP発光分析法で組成分析を行った結果、鉄とリチウムの化合物であることがわかった。すなわち、得られた膜はリチウムフェライトであることが確認できた。なお、得られた上記の亜鉛からリチウムを含む各種のフェライト膜について走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた膜表面の観察の結果、すべての各膜とも、上記と同様に角が尖った双晶結晶に見える結晶粒が連続して三次元に成長した膜になっており、かつ、その膜の内部に無数の気孔が存在する多孔質な膜になっていた。
以上の結果から、各種の金属イオンで置換された種々のフェライト膜がスピネル型酸化鉄の断熱膜の形成と同様の水熱合成法によって基材上に効果的に形成できることがわかる。
実施例6
図20には、本実施例における断熱金型の層構成の概略斜視図を示す。断熱金型51は、精密な微細加工表面をもつ樹脂成形に用いられる金型であって、短軸6.00mm、長軸9.00mmの長方形の成形面をもつ高さ20.00mmの柱形状であり、次の積層構成を有するものである。まず、金型母材52は、実施例3と同じ組成の鉄鋼材から構成されている。この金型母材52の長方形状の成形面側の表面には、図21に示した寸法の断面形状に微細加工された凹溝パターンが成形面側表面の短軸の中心の位置で、長軸に並行に形成してある。この微細加工面の表面を覆うようにスピネル型酸化鉄からなる膜厚50μmの断熱層54が配置されている。その表面に膜厚3μmの鉄膜からなる密着層55が配置されている。さらにその表面には金属皮膜層58が形成されており、ニッケルからなる膜厚2μmのめっき下地膜56とその上に形成された膜厚65μmの非晶質ニッケルりん合金膜からなる微細加工金属膜57から構成されている。なお、この微細加工金属膜57の表面は、樹脂成形の際の成形転写面であり、図21と同じ寸法に微細加工された精密加工表面57aになっている。
本実施例における断熱金型の製造方法は、断熱膜54の形成条件が異なる点を除き、実施例3と同じ工程を経て実施した。すなわち、微細加工パターンが形成された金型母材52に厚さ50μmのスピネル型酸化鉄からなる断熱膜54を、実施例1と同様の操作にて、同じ原料と同じオートクレーブ反応容器を用い、155℃で7時間の水熱反応を2回繰り返して形成した。また、実施例2と同様にして形成した密着層に被覆しためっき下地膜56の上には、厚み100μmのニッケルりん合金めっき合金の微細加工金属膜57を形成した。
さらに、この微細加工金属膜57の表面は、精密切削加工機を用いて図21で示したものと同じ寸法に機械加工することにより精密加工表面57aを形成し、さらに4つの側面を精密に研削加工して、断熱金型51を作製した。
断熱膜の被覆性の評価
このようにして得られた断熱金型51は、その研削加工した側面に断熱膜を含む積層膜の断面が観察できた。走査型顕微鏡を用いて本発明の断熱膜の厚さを観察した。金型母材52と断熱膜53、及び断熱膜53とその上部の金属積層膜(密着層55とめっき下地膜56と微細加工金属膜57からなる)の被覆性と密着性はともに良好であり、クラックあるいは層間の隙間がないことが観察された。続いて、断熱膜の厚み測定を、図21に示した金型母材の加工パターン断面図に、A、A’、B、B’、C、C’、E、E’、F、F’で示した10箇所の部分について行った。ここで、A、B、C、D、Eの5ヶ所は断熱金型51の長方形状成形面の一方の短軸側側面の金型母材52の5点であり、A’、B’、C’、D’、E’は、もう一方の短軸側側面の金型母材52の5点である。それらの位置は、図21に示した寸法の箇所である。上記した記号で示した箇所の直上に存在する断熱膜の厚さは、それぞれ、A:50μm、A’:50μm、B:50μm、B’:50μm、C:51μm、C’:51μm、E:50μm、E’:50μm、F:50μm、F’:50μmであった。以上の結果から、形成した断熱膜54は、金型母材52に形成された凹溝パターンの上のほぼ均一な膜状態で密着性良く被覆できることがわかる。
本発明の断熱膜の製造方法によれば、水熱合成反応という化学反応によって断熱膜を形成するために、水熱合成反応の原料の処理液に接した金型表面に対して均等にゆっくりと膜成長させることができる。このため、深い溝加工等がされた複雑な形状の金型母材成形面上であっても、回り込み良く断熱膜を形成することができる。さらに、本発明によれば、薄い膜厚も可能であり、後機械加工も必要がなく、断熱膜を効率的に形成できるという特徴もある。
実施例7
非鉄金属製の金型母材からなる断熱金型の作製を行った。図23には、本実施例における断熱金型の層構成を示す。断熱金型201は、深い溝からなる精密な微細加工形状をもつ樹脂製部品の成形加工に用いられる非鉄金属製金型母材と断熱膜から構成される金型であり、以下の層構成からなる。すなわち、熱伝導性が低く、かつ、高温でも強度を失わないチタン合金製であって、直径20.0mm×高さ2.5mmのつば形状の部分(直径25.0mm)をもつ底面からの高さが10.0mmの金型母材202の表面上に、厚さ2μmのニッケルめっき膜による下地層203aが形成され、厚さ3μmの鉄膜による断熱膜下地層203が形成され、その上に厚さ200μmのフェライト材料の一種である亜鉛フェライトからなる断熱膜204が形成され、その上にパラジウムの触媒微粒子膜からなるシード層205が配置され、その上に、金属皮膜層208が形成されている。この金属皮膜層208は、ニッケルからなるめっき下地膜206(厚さ2μm)と、さらにその上に形成された非晶質ニッケルりん合金膜からなる微細加工金属膜207(平均厚さ78μm)から構成されている。この微細加工金属膜207の成形面側は、機械加工によって成形部品のプレス成形用微細パターンが形成された精密加工表面207aになっている。
上記構成によれば、熱伝導性の低いチタン合金製の金型母材とともに熱伝導率が低い亜鉛フェライト膜を断熱膜として採用することによって、深く微細な溝の微細加工を施した成形面をもつ金型での樹脂成形においても、深い微細なパターンを形成することができる。従来技術では、金型の成形表面の上で成形される高温の樹脂の熱が金型基材を通って逃げ、その樹脂が成形中に過度の温度降下が生じる結果、樹脂成形を妨げるという事態が生じる。これに対し、本発明では、そのような事態を効果的に回避できる結果、微細なパターンをより確実に形成することができる。
上記した断熱金型201は以下のようにして作製した。非鉄金属であるチタン合金を機械加工して作られた金型母材202の成形面側の表面に、ウッドストライク浴でニッケルめっき膜からなる厚さ2μmの下地膜203aを形成し、さらにその表面に、硫酸鉄めっき浴を用いて厚み3μmの鉄膜からなる断熱膜下地層203を形成した。続いて、この表面上に厚さ200μmの亜鉛フェライト膜からなる断熱膜204を以下のようにして形成した。すなわち、処理液として、窒素ガス中で蒸留して作製した水60mlに対し、34.7gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)と7.2gの硫酸亜鉛(ZnSO・7HO)を溶解した水溶液と、21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液60mlを混合して懸濁液を調製した。内容積200mlのステンレス鋼製のオートクレーブ反応容器の中に上記懸濁液を入れ、その中に断熱下地層203を形成した金型母材を浸漬し、治具を用いて保持した。この金型母材は、断熱下地層203を形成した成形面以外を四フッ化エチレン製のシールテープで予めマスキングしておいた。なお、上記の作業は、窒素ガス雰囲気中で行った。このオートクレーブ反応容器を外部から加熱することによって180℃で6時間反応させた。反応後、金型母材を治具ごと取り出し、同時に生成した粉体化合物と分離するため、十分に水洗した。オートクレーブ反応容器も、同様に生成した粉体を取り除くために内部を水洗し、再度、上記と同量の懸濁液を調合し、再び金型母材を治具ごと取り付けて、同様に180℃で6時間反応させた。この操作を合計8回繰り返すことによって、膜厚200μmの亜鉛フェライト膜からなる断熱膜204を形成した。
このようにして断熱膜が形成された金型を水洗し、十分に乾燥した後、パラジウムのターゲットを取り付けた直流スパッタ装置を用いて、断熱膜204の表面にパラジウム微粒子膜を形成することにより、シード層205を形成した。次に、無電解ニッケルめっき法によって厚さ2μmのニッケル膜からなるめっき下地膜206を被覆した。さらに、無電解ニッケルめっき法によって厚み100μmの精密加工用のニッケルりん合金めっき膜からなる微細加工金属膜207を形成することにより、金属皮膜層208を作製した。次いで、金属皮膜層208を200℃で3時間熱処理した。その後、精密切削加工機を用いて精密加工表面207aを形成し、微細加工型用の断熱金型201を作製した。
なお、断熱膜204について、所望の材質の膜が形成されているかどうかを確認するため、別に金型母材202と同じチタン合金からなる正方形状の板(大きさ 20.0mm四方で厚さ2.0mm)を準備し、上記した断熱金型201を作製する工程において、同様のニッケルめっき膜からなる厚さ2μmの下地膜を形成し、さらにその表面に厚み3μmの鉄めっき膜からなる断熱膜下地層形成した。その後、断熱金型201の断熱膜204を形成する工程で、この断熱金型201と一緒に、この正方形板の試料も同じオートクレーブ反応容器に入れ、断熱膜204と同時に、この正方形板試料へも断熱膜を形成した。前記の正方形板上に形成された膜について、蛍光X線装置を用いて組成を調べた結果、鉄と亜鉛の組成からなる化合物であることが確認できた。さらに、X線回折を用いて結晶構造を調べた。その結果、格子定数a=8.49Åのスピネル型結晶構造の化合物であることがわかった。すなわち、断熱膜204は亜鉛フェライトであることが確認できた。
ここで、亜鉛フェライト膜からなる断熱膜を形成する水熱合成反応の温度は200℃であっても、上記と同様な組成の亜鉛フェライト膜が形成できる。ただし、1回に成長する膜厚が異なる場合は、必要に応じて水熱合成の条件、処理回数等を適宜変更することによって、上記と同じ厚みの断熱膜を形成することができる。
また、金型母材202の表面上に形成し、断熱膜の下地になる金属層として、本実施例ではニッケルめっき膜である下地層203aと鉄めっき膜である断熱膜下地層203の積層膜の例を記したが、断熱膜の下地としては、断熱膜の直下にはその断熱膜を形成する金属元素からなる金属膜でありさえすれば良く、その金属膜の形成方法は、本実施例の上記の積層膜に限られるものではない。例えば、金型母材の表面に直接的にスパッタリング法で形成された鉄膜でも良い。
本実施例では、断熱膜の表面上にスパッタリング法でシード層を形成する工程を記したが、この方法とは別に、同じスパッタリング法で、金属鉄のタ―ゲットを用いて鉄膜を直接形成する方法でも同様の断熱金型が製造できる。さらには、必要に応じて、この鉄膜も省略して、精密加工用のニッケルりん合金めっき膜からなる微細加工金属膜のめっき下地膜として、ニッケルめっき膜の代わりに、ニッケルのターゲットを用いてスパッタリング法で形成したニッケル膜を用いても良い。
実施例8
実施例8における断熱金型の断面図を図43に示す。断熱金型2001は、精密な鏡面形状を持つ樹脂製部品の成型加工に用いられる金型であり、ここでは、金型母材の材料として高い熱伝導性を有する純銅を用い、以下に示す積層構造の形態で構成されている。高さ2.5mmのつば形状の部分(直径25.0mm)をもつ底面からの高さが15.0mmで直径20.0mmの金型母材2002の表面上に、硫酸鉄めっき浴を用い、膜厚3μmの鉄膜による断熱膜下地層2003を配置し、さらにその上に厚さ50μmの鉄フェライト(すなわちスピネル型酸化鉄)からなる断熱膜2004が形成され、その上にパラジウムの触媒微粒子膜からなるシード層2005が配置され、その上に金属皮膜層2008が形成されている。この金属皮膜層2008は、ニッケルからなるめっき下地膜2006(厚さ1μm)と、さらにその上に形成された非晶質ニッケルーリン合金膜からなる微細加工金属膜2007(厚さ6μm)から構成されている。この微細加工金属膜2007の成形面側は、機械加工によって、鏡面が形成された精密加工表面2007aになっている。すなわち、実施例1の図26に示す積層構成と類似の構成であり、精密加工面が鏡面になっているところが異なっている。この金型の製造方法として、上記の精密加工面は、予め微細加工金属膜を平均厚さ10μmで形成した後に、厚さ6μmまで鏡面に機械加工して、作製される。また、本実施例8を構成するスピネル型酸化鉄からなる断熱膜2004に関しても、その製造方法が、実施例1の断熱膜1004の水熱合成による形成方法と異なり、100℃以下の大気圧下で合成して作られる点に特徴がある。このように、熱伝導率が低い金属酸化物(スピネル型酸化鉄)から構成され、かつ、気孔を有する酸化物材料を断熱層として用いることによって、鏡面性の良好な樹脂成型が可能になる。すなわち、金属製金型の上記の鏡面で成形される高温の溶融樹脂の熱が金型基材を通って逃げ、その樹脂が成形中に必要以上に温度降下することが原因で起こる樹脂成形の不良を避けることができる。
図44には、本発明の断熱金型2001の製造工程を示す。金型母材2002の成形面側の表面に硫酸鉄めっき浴を用い、厚み3μmの鉄膜からなる断熱膜下地層2003を形成した(図44(1))。続いて、この表面上に、厚さ50μmのスピネル型酸化鉄からなる断熱膜2004を形成した(図44(2))。この断熱膜2004の形成は、大気中で、以下のようにして形成した。すなわち、まず、水60mlに、41.7gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)を溶解した水溶液を準備し、さらにこの水溶液に、これと別の水に21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)を溶かして作製した強アルカリ水溶液60mlを混合して懸濁液2021を作製した。なお、ここで用いた水として、すべて窒素ガス中で蒸留した水を使用した。次にこの懸濁液2021を用いて、断熱膜2004を形成した。その際の膜形成には図45に示す断熱膜形成装置2022を用いた。ガラス製のアリーン冷却器2023を上部に取り付け、さらに内部に窒素ガスを流すことができるようにした内容積300mlのステンレス合金製の反応容器2024で構成されている。この反応容器2024の中に、上記の懸濁液2021を入れ、その中に断熱下地層2003を形成した金型母材2002を浸漬し、治具2025を用いて保持した。この金型母材は、断熱下地層2003を形成した成形面以外を四フッ化エチレン製のシールテープで予めマスキングしておいた。この反応容器2024を、98℃に加熱保持したオイルバス2026に入れて加熱することによって、120時間反応させた。なお、反応時間中は、窒素ガスを反応容器2024の内部に流し続けた。反応後、金型母材を治具ごと取り出し、十分に水洗した。
このようにして、膜厚50μmの断熱膜1004が形成された金型は水洗し十分に乾燥した後、パラジウムのターゲットを取り付けた直流スパッタ装置を用いて、断熱膜2004の表面にパラジウム微粒子膜を形成することによりシード層2005を形成した(図44(3))。次に、無電解ニッケルめっき法によって、厚さ1μmのニッケル膜からなるめっき下地膜2006を被覆した。さらに、無電解ニッケルめっき法によって厚み10μmの精密加工用のニッケルりん合金めっき膜からなる微細加工金属膜2007を形成することにより、金属皮膜層2008を作製し、200℃で3時間熱処理した(図44(4))。その後、精密切削加工機を用いて、上記の微細加工金属膜2007を厚み6μmまで研削加工して精密な鏡面1007aを形成し、微細加工型用の断熱金型を得た(図44(5))。
なお、金型母材2002の表面上に形成する鉄膜からなる断熱膜下地層2003の形成方法として、本実施例ではめっき法による方法の例を記したが、実施例1と同様に、断熱膜下地層2003の形成方法は、本実施例に記しためっき法に限られるものではない。例えば、この鉄膜を、金型母材の表面に直接的にスパッタリング法で形成する方法でも良い。
断熱膜2004について、所望の材質の膜が形成されているかどうかを確認する目的で、別に、金型母材2002と同じ材質(純銅)の長方形状の基板(大きさ:縦50mm、横20mmで厚さ2.0mm)を準備し、この基板を用いて断熱膜を形成し、この試料を断熱膜Fとして、詳細に材料評価した。断熱膜Fの作製を以下に記す。まず、この基板の表面に、上記した断熱金型2001を作製する工程(図44(1))と同様にして、同様の断熱膜下地層を形成した。その後、断熱金型2001の断熱膜2004と同様にして、前述の懸濁液2021と同じ組成の懸濁液を用い、図45に示す反応容器を用い、同じ合成条件である98℃で120時間の反応を合計3回の繰り返し(合計360時間)、膜厚約150μmの断熱膜Fを作製した。ここで、金型に用いる以上に膜が厚い膜を作製したのは、実施例1と同様に、断熱膜の材料を特定するために必要な組成や結晶構造以外に、気孔率とビッカース硬度を、同じ試料で同時に評価するためである。
このようにして基板上に形成された断熱膜Fは黒色であり、その膜についての蛍光X線装置を用いた組成分析から、金属イオンが鉄のみからなる組成の化合物であることがわかり、さらに、X線回折から、格子定数a=8.39Åのスピネル型酸化鉄と同定できた。すなわち、断熱膜Fはスピネル型酸化鉄、Feであることが確認できた。そのX線回折パターンを図46に示す。断熱膜Fの膜形成後の表面の走査型電子顕微鏡像を図47に示す。実施例1の断熱膜Aと同様に、角が尖っていて、大きさの異なる結晶粒子が繋がって三次元の網目構造的な形態を示す膜構造になっていることがわかる。さらに、よく観察すると、双晶結晶に見える結晶粒が連続して三次元に成長した膜になっていること及びその膜の内部に上記の網目構造が形成する隙間部分からなる無数の気孔が存在した構造の多孔質な膜になっていることが確認できた。
また、実施例1と同様にして、断熱膜Fの気孔率とビッカース硬度を測定した。その結果、断熱膜Fの気孔率は65%であることがわかった。また、ビッカース硬度は最大値Hv370、最小値Hv180、平均値Hv240であった。上記の気孔率が測定された断熱膜Fの研磨表面の走査型電子顕微鏡像を図48に示す。本実施例から、大気圧下の100℃以下で作製した膜も、実施例1〜7での水熱合成による膜と同様に、多孔質のフェライト膜であることが確認できた。
実施例9
鉄フェライト(Fe)膜の生成は、本発明の湿式合成反応による場合、
1)Fe2+ + OH→ Fe(OH)と 2)Fe(OH)→ Fe
すなわち、
1)2価の鉄イオンから、アルカリ雰囲気で水酸化第一鉄(Fe(OH))が生成、
2)加水分解反応が進行して、この水酸化第一鉄から鉄フェライト(Fe)膜に変化、
の2つの反応を経て鉄イオンからフェライトが生成する。
実施例1〜8では、すべての本発明の断熱膜の作製には、原料を溶解する水として、窒素雰囲気で蒸留した水を用いた。この理由は、上記の1)の反応をスムースに進行させて、フェライト膜を合成する際の中間生成物である高純度で均質な水酸化第一鉄(Fe(OH))を得るためである。つまり、原料である第一鉄塩(例えば、硫酸第一鉄)を溶解に用いる水の中に大気中の酸素が溶存していると、原料がこの水に溶解してできる2価の鉄イオン(Fe2+イオン)の一部分が、その中に存在する溶存酸素により、3価の鉄イオン(Fe3+イオン)に変化して、鉄原料の水溶液中に不純物として混ざって存在してしまうことを防ぐためである。すなわち、本来2価の鉄イオンのみからなる原料液中に、3価の鉄イオンが存在し、かつ、その存在量も、常に変化すると本発明のフェライト膜の生成の再現性にバラツキが生じる原因になる可能性がある。しかしながら、断熱膜を量産する際には、合成に使用する水として、保存等に注意を払う必要がある窒素雰囲気で蒸留した水の代わりに、ハンドリングが容易なイオン交換水を用いることが望まれる。
そこで、断熱膜の合成に用いる水として、上記の窒素雰囲気で蒸留した水の代わりに、イオン交換水に還元剤を添加した水が採用できるかどうかについて、実施例8の断熱膜Fと同様の基板を用いて、試料膜の作製を試みた。
本実施例9では、実施例8の断熱膜Fの合成に用いた原料懸濁液が異なるのみで、それ以外の工程は全く断熱膜Fと同じようにして、試料膜を作製した。すなわち、原料懸濁液の作製において、水として、断熱膜Fの合成の際に使用した窒素雰囲気で蒸留した水の代わりに、イオン交換水に還元剤の一種であるアスコルビン酸を溶解した水を用いた。まず、イオン交換水60mlに、41.7gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)を溶解した水溶液を準備し、さらにこの水溶液に、還元剤であるアスコルビン酸24mgを加えて溶解した。さらに上記の水溶液に、21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)をイオン交換水に溶かして作製した強アルカリ水溶液60mlを混合して原料懸濁液を作製した。この原料懸濁液を用いて、実施例8の断熱膜Fの形成に用いた断熱膜形成装置2022(図45)を用いて、同じ合成条件である98℃で115時間の反応を合計3回の繰り返し、膜厚約150μmの断熱膜Gを作製した。
断熱膜Gについて、所望の材質の膜が形成されているかどうかを確認する目的で、断熱膜Fと全く同じ方法で材料評価した。実施例1と同様に、断熱膜の材料を特定するために必要な組成及び結晶構造のほかにも、気孔率とビッカース硬度も合わせて評価した。
このようにして基板上に形成された断熱膜Gは、蛍光X線装置を用いた組成分析とX線回折から、格子定数a=8.39Åのスピネル型酸化鉄Feであることが確認できた。そのX線回折パターンを図49に示す。断熱膜Gの形成後の表面の膜走査型電子顕微鏡像を図50に示す。実施例1の断熱膜Aと同様に、大きさの異なる結晶粒子が繋がって三次元の網目構造的な形態に成長した膜構造になっていること及び内部に上記の網目構造が形成する隙間部分からなる無数の気孔が存在することがわかる。
また、実施例1と同様にして、断熱膜Gの気孔率とビッカース硬度を測定した。その結果、断熱膜Gの気孔率は65%であった。また、ビッカース硬度は最大値Hv380、最小値Hv180、平均値Hv240であった。上記の気孔率が測定された断熱膜Gの研磨表面の走査型電子顕微鏡像を図51に示す。本実施例から、断熱膜の合成に還元剤を溶解させたイオン交換水を用いても、実施例1〜8での水熱合成による膜と同様に、多孔質のフェライト膜が作製できることがわかる。
次に、上記の断熱膜Gの合成に用いた原料懸濁液の作製において、還元剤として用いたアスコルビン酸(24mg)の代わりに、別の種類の還元剤であるハイドロキノン(24mg)を添加したことのみが異なり、その他は断熱膜Gの形成と同じ合成条件で98℃で88時間反応させて、断熱膜Hの合成を試みた。その結果、基板上に厚み13μmの膜が形成された。この膜について、断熱膜Gと同様に蛍光X線装置による組成分析とX線回折を用いて解析し、断熱膜Hは格子定数a=8.38Åのスピネル型酸化鉄Feであることがわかった。そのX線回折パターンを図52に示す。その膜の形成後の膜表面の走査型電子顕微鏡像を図53に示す。断熱膜Gと粒子の大きさは異なるが同様な形態の多孔質膜であることがわかる。
さらに、上記の断熱膜Gの合成温度条件よりもさらに低温の合成温度条件を選ぶことによって、断熱膜Iの作製を試みた。断熱膜Iの合成は次のように行った。合成温度条件が88℃である以外は断熱膜Gの合成と全く同じ合成条件と合成装置を用い、反応時間を212時間に設定して膜形成した。このようにして得られた断熱膜Hは、その厚みが25μmであった。さらに、断熱膜Gと同様に、組成と結晶構造を調べた。その結果、断熱膜Iは、格子定数a=8.37Åのスピネル型酸化鉄、Feであることがわかった。そのX線回折パターンを図54に示す。また、その膜の形成時の膜表面の走査型電子顕微鏡像を図55に示す。図55より多孔質膜が形成されていることがわかる。
ここで、本実施例では、100℃以下の大気圧下で合成して得られる断熱膜について述べたが、実施例1〜7の示した水熱合成によって得られる断熱膜の原料懸濁液の作製においても、断熱膜の合成に用いる水として、上記の窒素雰囲気で蒸留した水の代わりに、イオン交換水に還元剤を添加した水を用いても、本実施例と同様に、多孔質のフェライトからなる断熱膜が合成できることがわかる。
なお、断熱膜の合成方法において、出発原料の還元剤としてアスコルビン酸、あるいはハイドロキノンを用いる方法の例を記したが、還元剤としては本実施例に記したこれらに限られるものではなく、第一鉄塩(例えば硫酸第一鉄)の水溶液中の2価の鉄イオン(Fe2+イオン)が、強アルカリ水溶液を加えるまで、あるいは強アルカリ水溶液を加えて生成する水酸化鉄懸濁液中ですぐさま酸化されて、3価の鉄イオン(Fe3+イオン)にすることを防ぐ効果のある還元性試薬であればいずれでも良い。例えば、還元剤としてハイドロキノンの各種誘導体の水溶性ハイドロキノン類化合物を用いても良い。
断熱性の評価
本発明の断熱金型と同じ層構成について、上記の二種類の断熱膜G及び断熱膜Iの断熱性能を評価した。本発明の断熱膜G或いは断熱膜Iを含めて同じ材料と同じ構成からなる断熱性評価用の測定試料2011G、2011Iを作製した。断熱膜Gを配置した測定試料2011の概略断面構成図を図56に示す。測定試料2011Iは、断熱膜の材料が膜厚25μmの断熱膜Iであることが異なるのみで、他は図56に示す構成と全く同じ構成である。
測定試料2011Gは、以下のようにして作製した。まず、直径10.0mmで長さ44.0mmの本実施例8の構成の断熱金型2001に用いた金型母材2002と同じ材質の丸棒を準備し、その一方の端面の中心に直径3.5mmで深さ22.0mmの熱電対取り付け穴2012aを形成して、金属丸棒の基材2012を作製した。この基材2012を用いて、図42に示す方法と同様の作製方法で、熱電対取り付け穴2012aのある端面と逆の位置にある端面底部から23.0mmの位置まで厚さ3μmの鉄膜からなる断熱膜下地層2013を形成し、その上に、厚さ50μmの本発明の断熱膜Gからなる断熱膜2014を、前記した断熱膜Gの形成と同様の方法で形成した。続いて、その上に熱電取り付け穴2012aのある端面から樹脂マスキングを施してスパッタリング法で、端面底部から23.0mmの位置まで、極薄のパラジウムの触媒微粒子膜からなるシード層2015を形成し、その上に、ニッケルからなるめっき下地膜2016(厚さ1μm)を無電解ニッケルめっき法で形成し、さらにその上に、無電解ニッケルめっき法で、厚さ6μmの非晶質ニッケルりん合金膜からなるめっき金属膜2017を形成して、めっき下地膜2016とめっき金属膜2017から構成される金属皮膜層2018を形成した。
測定試料2011Iは、図56に示した測定試料2011において、膜厚50μmの断熱膜Gからなる断熱膜2014の代わりに、膜厚25μmの断熱膜Iからなる断熱膜を形成して作製された測定試料である。
断熱性の評価の比較のために、全く断熱膜をもたない構成の比較試料として、実施例1で用いた比較試料1211(図33)を使用した。断熱性の評価は、実施例1で用いた断熱性評価装置21(図34)を使用して、以下のようにして行った。まず、測定試料2011Gと比較試料1211を用いて断熱膜Gの断熱性測定を行った。
本発明の断熱膜Gの断熱性評価は、図7に示す恒温水槽22の高温水に、室温に放置して一定に保たれた2つの測定試料2011Gと1211を断熱板24に取り付けたままで同時に漬け、その温度上昇の速度を測定することで昇温時の断熱効果を調べた。続いて、温度上昇した両測定試料2011Fと1211を断熱板24に取り付けたまま、同時に恒温水槽23の低温水に漬けて、その温度降下の速度を測定することにより降温時の断熱効果を調べた。
図57には、両測定試料2011Gと1211を、室温から、同時に90℃に保持した恒温水槽22に漬けた場合の温度上昇の時間変化に関して、断熱膜をもたない測定試料1211に比較して、本発明の断熱膜を設けた測定試料2011Gの測定結果として、温度上昇の時間変化とそれぞれの二つの測定試料の温度差の時間変化を示す。図58には、一旦、温度上昇した両測定試料2011Gと1211を、同時に28℃に保持した恒温水槽に漬けた場合の温度降下の時間変化の測定結果を示す。
同様にして、測定試料2011Iと比較試料1211を用いて、本発明の断熱膜Iの断熱性評価も行った。図59には、測定試料2011Iと比較試料1211を室温から、同時に92℃に保持した恒温水槽22に漬けた場合の温度上昇の時間変化に関して、断熱膜をもたない測定試料1211に比較して、本発明の断熱膜を設けた測定試料2011Iの測定結果として、温度上昇の時間変化とそれぞれの二つの測定試料の温度差の時間変化を示す。図60には、一旦、温度上昇した両測定試料2011Iと1211を、同時に22℃に保持した恒温水槽に漬けた場合の温度降下の時間変化の測定結果を示す。図57から図60の結果からも明らかなように、本発明の二種類の断熱膜とも、外部の温度変化に対して、基材に熱を伝え難くする効果があることが明確である。
実施例10
実施例5に示すように、水熱合成法による断熱膜の場合、スピネル型酸化鉄Feを形成する鉄イオンの一部を各種の金属イオンで置換することにより、各種組成の置換フェライトが基材上に膜形状に作製できる。実施例5と同様に、実施例8、9に記した断熱膜の合成条件である100℃以下の大気圧下での合成において、各種組成の置換フェライトが基材上に膜形状に作製できるかどうかを検討した。
まず、置換イオンとしてアルミニウムイオンを含むフェライトであるアルミニウムフェライトの成膜を試みた。合成検討は、以下のようにして行った。所望のフェライト膜が、実施例8に示す方法と同様の大気圧下での反応で形成できるかどうかを確認する目的で膜形成に用いた下地基材は、実施例8の断熱膜の材料評価に用いたものと同じ材質(純銅)と同じ形状の基板(大きさ:縦50mm、横20mmで厚さ2.0mm)で、かつ、同様の断熱膜下地層(厚さ3μmの鉄めっき膜)を形成したものである。
処理液として、水60mlに、34.7gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)と7.9gの硫酸アルミニウム(AlSO・16HO)をとアスコルビン酸48mgをイオン交換水に溶解した水溶液60mlと、21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)をイオン交換水に溶かして作製した強アルカリ水溶液60mlを混合して懸濁液を調製した。基材への膜形成は図45に示す断熱膜形成装置2022を用い、内容積300mlのステンレス合金製の反応容器2024の中に、上記の懸濁液を入れ、その中に断熱下地層を形成した基板を浸漬し、治具2025を用いて保持した。98℃で40時間反応させた。反応後、基板を治具ごと取り出し、十分に水洗した。反応終了後、基板上には、厚み47μmの膜が形成されていた。この膜について、蛍光X線装置を用いて組成分析を行った。その結果、鉄とアルミニウムの化合物であることが確認された。また、X線回折を用いて結晶構造を調べた。そのX線回折パターンを図61(a)に示す。解析の結果、得られた膜は格子定数a=8.35Åのスピネル型結晶構造の化合物のみからなることが明らかになった。すなわち、得られた膜はアルミニウムフェライトであることが確認できた。なお、この膜の未加工表面の走査型電子顕微鏡による観察から、この膜が多孔質膜であることがわかった。
次に、置換イオンが、クロム(Cr)イオンである場合のフェライトの成膜について検討した。処理液として、水60mlに、34.7gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)と5.6gの硫酸クロム(CrSO・3HO)とアスコルビン酸48mgを溶解した水溶液と、21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)をイオン交換水に溶かして作製した強アルカリ水溶液60mlを混合して作製した懸濁液を用いた点が異なるのみで、他の工程は前述のアルミニウムフェライトの成膜検討の場合と全く同様にして98℃で40時間反応させて成膜した。基板上には、厚み6μmの膜が形成されていた。この膜について、上記のアルミニウムフェライトの場合と同様に蛍光X線装置による組成分析とX線回折を用いて解析し、化学組成が鉄とクロムで、格子定数a=8.39Åのスピネル型結晶構造の酸化物、つまり、クロムフェライトであることがわかった。そのX線回折パターンを図61(b)に示す。なお、この膜は薄い膜であるにもかかわらず、未加工表面の走査型電子顕微鏡による観察から、この膜が多孔質膜であることがわかった。
置換イオンが、マグネシウム(Mg)イオンである場合のフェライトの成膜について検討した。処理液として、水60mlに、34.7gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)と6.2gの硫酸マグネシウム(MgSO・7HO)とアスコルビン酸48mgを溶解した水溶液と、21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)をイオン交換水に溶かして作製した強アルカリ水溶液60mlを混合して作製した懸濁液を用いた点が異なるのみで、他の工程は上記の成膜検討の場合と全く同様にして98℃で40時間反応させて成膜した。基板上には、厚み11μmの膜が形成されていた。この膜について、上記と同様に蛍光X線装置による組成分析とX線回折を用いて解析し、化学組成が鉄とマグネシウムで、格子定数a=8.36Åのスピネル型結晶構造の酸化物、つまり、マグネシウムフェライトであることがわかった。そのX線回折パターンを図61(c)に示す。また、この膜も同様に多孔質膜であった。
置換イオンが、マンガン(Mn)イオンである場合のフェライトの成膜について検討した。処理液として、水60mlに、34.7gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)と6.0gの硫酸マンガン(MnSO・5HO)とアスコルビン酸48mgを溶解した水溶液と、21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)をイオン交換水に溶かして作製した強アルカリ水溶液60mlを混合して作製した懸濁液を用いた点が異なるのみで、他の工程は上記の成膜検討の場合と全く同様にして98℃で40時間反応させて成膜した。基板上には、厚み18μmの膜が形成されていた。この膜について上記と同様に材料解析した結果、化学組成が鉄とマンガンで、格子定数a=8.43Åのスピネル型結晶構造の化合物のみからなることが明らかになった。すなわち、得られた膜はマンガンフェライトであることが確認できた。そのX線回折パターンを図61(d)に示す。また、この膜も同様に多孔質膜であった。
置換イオンが、亜鉛(Zn)イオンである場合のフェライトの成膜について検討した。処理液として、水60mlに、34.7gの硫酸第一鉄(FeSO・7HO)と7.2gの硫酸亜鉛(ZnSO・7HO)とアスコルビン酸48mgを溶解した水溶液と、21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)をイオン交換水に溶かして作製した強アルカリ水溶液60mlを混合して作製した懸濁液を用いた点が異なるのみで、他の工程は上記の成膜検討の場合と全く同様にして98℃で40時間反応させて成膜した。基板上には、厚み20μmの膜が形成されていた。この膜について、上記と同様に材料解析した結果、化学組成が鉄と亜鉛で、格子定数a=8.45Åのスピネル型結晶構造の酸化物、つまり、亜鉛フェライトであることがわかった。そのX線回折パターンを図61(e)に示す。また、この膜も同様に多孔質膜であった。
置換イオンが、カルシウムイオンである場合のフェライトの成膜について検討した。処理液として、19.9gの塩化第一鉄(FeCl・4HO)と7.4gの塩化カルシウム(CaCl・2HO)とアスコルビン酸48mgをイオン交換水に溶解した水溶液60mlと、21.6gの水酸化ナトリウム(NaOH)をイオン交換水に溶かして作製した強アルカリ水溶液60mlを混合して作製した懸濁液を用いた点が異なるのみで、他の工程は上記の成膜検討の場合と全く同様にして98℃で40時間反応させて成膜した。基板上には、厚み21μmの膜が形成されていた。この膜について、上記と同様に材料解析した結果、化学組成が鉄とカルシウムで、格子定数a=8.36Åのスピネル型結晶構造の酸化物、つまり、カルシウムフェライトであることがわかった。そのX線回折パターンを図61(f)に示す。また、この膜も同様に多孔質膜であった。
以上から、各種の金属イオンで置換された種々のフェライト膜が、実施例5と同様に、100℃以下の大気圧下での合成において、基材上に膜形状に作製できることがわかる。
所定の断熱層を備えた本発明金型は、優れた断熱性に加え、優れた金型基材成形面の形成被覆性を有し、後加工なしに膜厚調整しながら直接形成できることが可能であることから、例えば光学素子、微細パターン形状の成形体等の複雑形状の樹脂成形の断熱金型として有用である。また、ナノインプリント用の成形金型等の用途にも応用できる。

Claims (15)

  1. 金属製金型母材と成形面を構成する金属皮膜との間に断熱層を有する金型であって、前記断熱層は、フェライトの結晶粒子が三次元網目状に連なって形成されている多孔質体からなることを特徴とする断熱金型。
  2. フェライトが、下記一般式
    Fe3−x(但し、Aはスピネル型酸化鉄の結晶を構成するFeサイトに置換し得る金属元素の少なくとも1種を示し、xは0≦x<1を満たす。)
    で示されるスピネル型結晶構造を有する化合物である、請求項1に記載の断熱金型。
  3. 前記Aが、Ca、Zn、Mn、Al、Cr、Li及びMgの少なくとも1種である、請求項2に記載の断熱金型。
  4. 断熱層の気孔率が5〜75%である、請求項1に記載の断熱金型。
  5. 断熱層の厚みが15〜1000μmである、請求項1に記載の断熱金型。
  6. 断熱層のビッカース硬度がHv130〜Hv560である、請求項1に記載の断熱金型。
  7. 断熱層が、1)金属製金型母材の表面又は2)その金型母材表面上に予め形成された金属質層の表面を金属成分を含む水溶液又は水分散体と反応させることにより生成させたものである、請求項1に記載の断熱金型。
  8. 当該金属皮膜として、少なくとも1)当該断熱層上に形成されためっき触媒を含むシード層及び2)当該シード層上に形成された金属めっき膜を含む、請求項1に記載の断熱金型。
  9. 樹脂成分を含む組成物の成形のために用いる、請求項1に記載の断熱金型。
  10. 金属製金型母材と成形面を構成する金属皮膜との間に断熱層を有する金型を製造する方法であって、当該断熱層の形成工程として、1)金属製金型母材の表面又は2)その金型母材の表面上に予め形成された金属質層の表面を金属成分を含む水溶液又は水分散体と反応させることにより金属酸化物を生成させる工程を含む、断熱金型の製造方法。
  11. 当該金属皮膜の形成工程として、1)当該断熱層上に触媒を含むシード層を形成する工程及び2)当該シード層上に金属めっき膜を形成する工程を含む、請求項10に記載の製造方法。
  12. 当該シード層の形成をスパッタリング法又はめっき法により行う、請求項11に記載の製造方法。
  13. 前記反応が、1)金属製金型母材表面又は2)その金型母材上に予め形成された金属質層表面が金属塩、アルカリ及び水を混合してなる処理液に接触した状態で85℃以上の温度で熱処理する工程を含む、請求項10に記載の製造方法。
  14. 熱処理を100〜200℃の飽和水蒸気圧以上の環境下にて行う、請求項13に記載の製造方法。
  15. 当該反応を還元剤の存在下で行う、請求項10に記載の製造方法。
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