以下、本発明を実施するための形態(以下実施形態という)を図面に従って説明する。
「実施形態1」
図1は、本発明の実施形態1に係る超音波計測装置の概略構成を示す図である。本実施形態に係る超音波計測装置は、測定物10の表面10aに超音波27を供給する超音波供給ユニット12と、測定物10の内部を伝播した超音波27を検出する超音波検出ユニット14と、超音波検出ユニット14で検出された超音波信号を演算処理する信号処理ユニット16と、を備える。
超音波供給ユニット12は、レーザ光23を発生させるためのレーザ光発生装置22と、レーザ光発生装置22からのレーザ光23を所定位置11に集光させるための集光レンズ24と、集光レンズ24(レーザ光発生装置22)からのレーザ光23をこの所定位置11へ向けて反射させるためのレーザ光反射器としてのプリズム26と、を含む。集光レンズ24によりレーザ光23のエネルギーを所定位置11に集光させることで、この所定位置11にてブレークダウン(レーザーブレークダウン)が発生してプラズマが発生する。このプラズマの発生により、測定物10の表面10aに超音波27が非接触で供給される。測定物10の表面10aに励振された超音波(弾性波)27は、測定物10の内部をその厚さ方向に沿って(測定物10の裏面10bへ向けて)伝播する。さらに、測定物10の内部の超音波27は、測定物10の裏面10bで反射して、測定物10の表面10aへ向けて伝播する(戻る)。レーザ光発生装置22からは、高パワーのレーザ光23がパルス状に(間欠的に)出力される。そのため、レーザ光23の集光によるブレークダウン(プラズマ)は間欠的に発生し、超音波27は測定物10の表面10aに間欠的に供給される。レーザ光発生装置22からのレーザ光23のパワー及び出力時期は、信号処理ユニット16により制御される。
超音波検出ユニット14は、測定物10の表面10aにおける超音波供給位置またはその付近での振動を検出することで、測定物10の内部を伝播した超音波27を検出する。ここでの超音波検出ユニット14としては、例えば、レーザ光13の干渉を利用して測定物10の表面10aの振動を非接触で検出する光干渉計を用いることができる。ただし、超音波検出ユニット14として、光干渉計以外に、電磁超音波探傷器やレーザー変位計や圧電型センサを用いることも可能である。測定物10の内部を伝播する超音波(弾性波)27の挙動は、測定部10の寸法、欠陥の有無や大きさ、内部組織の状態に応じて変化するため、超音波検出ユニット14で検出される超音波信号も、測定部10の寸法、欠陥の有無や大きさ、内部組織の状態に応じて変化する。そのため、信号処理ユニット16は、超音波検出ユニット14で検出された超音波信号を演算処理することで、超音波27を供給、検出した位置での測定部10の寸法(例えば厚さ)、欠陥の有無や大きさ、もしくは内部組織の状態を計測することが可能である。その際には、超音波検出ユニット14は、プラズマが発生する毎に(レーザ光発生装置22からレーザ光23が出力される毎に)、測定物10の内部を伝播した超音波27を検出する。そして、信号処理ユニット16は、超音波検出ユニット14からの超音波信号に基づいてプラズマが発生する毎に計測した測定部10の寸法、欠陥の有無や大きさ、もしくは内部組織の状態の計測結果を平均化する。さらに、測定部10の計測位置を変更する場合には、測定物10の表面10aにおける超音波27を供給、検出する位置を変更する。その際には、測定物10をその表面10aに平行な方向に移動させることもできるし、超音波供給ユニット12によるプラズマ発生位置(レーザ光23の集光位置)及び超音波検出ユニット14による振動検出位置を測定物10の表面10aに平行な方向に移動させることもできる。
本実施形態では、超音波供給ユニット12は、測定物10の表面10a近傍の空間位置11を起点としてレーザーブレークダウンを発生させてプラズマを発生させる。そして、プラズマの発生に伴うガス温度の急激な上昇で衝撃波(圧力波/超音波)を発生させる。その衝撃波(圧力波/超音波)が測定物10の表面10aをたたくことで、測定物10の表面10aに超音波27が非接触で供給される。そのために、プリズム26は、集光レンズ24(レーザ光発生装置22)からのレーザ光23を、反射後の光軸23bが測定物10の表面10aと平行(あるいはほぼ平行)となる方向で且つ測定物10の表面10aと微小空隙を空けて近接するように反射させる。さらに、集光レンズ24は、レーザ光23のエネルギーを測定物10の表面10a近傍の空間位置11に集光させる。これによって、測定物10の表面10a近傍の空間位置11に集光されるレーザ光23の光軸23bが、測定物10の表面10aと平行(あるいはほぼ平行)であり、測定物10の表面10aと微小空隙を空けて近接配置される。そして、測定物10の表面10a近傍の空間位置11に集光されたレーザ光23のエネルギーにより、この空間位置11を起点としてブレークダウン(空中ブレークダウン)を発生させてプラズマを発生させる。なお、図1に示す例では、レーザ光発生装置22から出力された(プリズム26で反射される前の)レーザ光23の光軸23aが測定物10の表面10aと垂直である。ただし、レーザ光発生装置22から出力されたレーザ光23の光軸23aは、必ずしも測定物10の表面10aと垂直でなくてもよい。また、プリズム26の代わりにミラーを用いてレーザ光23を反射させることも可能である。また、プリズム26やミラーを用いずに、レーザ光発生装置22から出力され測定物10の表面10a近傍の空間位置11に集光されるレーザ光23の光軸を、測定物10の表面10aと平行(あるいはほぼ平行)にし、測定物10の表面10aと微小空隙を空けて近接配置することも可能である。
レーザ光23は、それを絞った点以降で再び拡がる。図2に示すように、測定物10の表面10a近傍の空間位置11に集光されるレーザ光23の光軸23aが測定物10の表面10aと垂直である場合は、この空間位置11以降で拡がったレーザ光23が測定物10の表面10aに照射されることで、測定物10の表面10aにおけるレーザ光23の照射部分が溶融して温度上昇する。そのため、測定物10の表面10a近傍の空間位置11だけでなく、測定物10の表面10a(レーザ光23が照射された位置)でもブレークダウンが発生してプラズマが発生する。その結果、測定物10の表面10a(レーザ光23が照射された位置)に、熱歪みまたはアブレーション(溶融)による損傷が生じる。
これに対して本実施形態では、レーザ光23を測定物10の表面10aに照射させずにその近傍の空間位置11に集光させることができる。そのため、測定物10の表面10aを溶融させずに(ほとんど温度上昇させずに)その近傍の空間位置11を起点として空中ブレークダウンを発生させてプラズマを発生させることができる。空中ブレークダウンにより発生したプラズマを測定物10の表面10aに接触させずに超音波27を測定物10の表面10aに励振することができるので、測定物10の表面10aを損傷させずに超音波27を非接触で測定物10の表面10aに供給することができる。さらに、空中ブレークダウンを発生させる空間位置11と測定物10の表面10aとの距離を短くすることで、高パワーの超音波27を測定物10の表面10aに供給することができ、超音波検出ユニット14で検出される超音波信号のS/Nを向上させることができる。さらに、超音波27を非接触で測定物10の表面10aに供給することで、超音波27を供給する装置を測定物10の表面10a上に接触させて設置する必要がなく、計測時間の短縮及び信頼性向上を図ることができる。そして、高温場、減圧場、濡れ面(塗膜面)、隙間等の特殊環境場への適用が可能となる。
ここで、本願発明者が行った実験結果について説明する。レーザ光23を測定物10の表面10a近傍の空間位置11に集光させて空中ブレークダウン(プラズマ)を発生させた場合に測定物10の内部を伝播した超音波27を検出することで測定物10の寸法(厚さ)を計測する確認実験を行った。測定物10については、厚さ1±0.08mmのアルミニウム板とし、レーザ光23の照射条件については、レーザ光23の波長を532nm、レーザ光23のビーム径をφ1mm以下、レーザ光23のパルス幅を5ns、レーザ光23の入射エネルギーを20mJとした。また、測定物10の内部を伝播した超音波27については、圧電型センサを用いて検出した。
空中ブレークダウンを発生させる(レーザ光23を集光させる)空間位置11と測定物10の表面10aとの距離が1mmである場合において圧電型センサの出力波形を調べた実験結果を図3に示し、空間位置11(ブレークダウン点)と測定物10の表面10aとの距離を変化させた場合において圧電型センサの最大出力(mV)を調べた実験結果を図4に示す。図3に示す圧電型センサの出力波形において、約0.2μs付近の時間での振動がブレークダウンによる振動に相当する。そして、約2μs以降の時間での振動(周期0.3μsの振動)が測定物10の内部を伝播した超音波(縦波)27の振動に相当し、この振動周期は測定物10の厚さに応じて変化する。そこで、この振動周期(図3に示す例では0.3μs)を調べることで、測定物10の表面10aを損傷させずに測定物10の厚さを計測することが可能となる。また、図4に示すように、空間位置11(ブレークダウン点)と測定物10の表面10aとの距離を短くするにつれて、圧電型センサの最大出力も大きくなる。そこで、レーザ光23を集光させる空間位置11と測定物10の表面10aとの距離を短くすることで、測定物10の内部を伝播した超音波27を検出するセンサの出力を大きくすることができ、S/Nを向上させることができる。
「実施形態2」
図5は、本発明の実施形態2に係る超音波計測装置の概略構成を示す図である。以下の実施形態2の説明では、実施形態1と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については実施形態1と同様である。
本実施形態では、超音波供給ユニット12は、高電圧(直流電圧)を発生させる高電圧発生装置32と、高電圧発生装置32からの高電圧(直流電圧)が印加される放電用電極34,36と、を含む。高電圧発生装置32は、直流電源41,42、スイッチング素子(トランジスタ)43、トランス44、及びコンデンサ45を含んで構成される。直流電源41とトランス44との間に設けられたスイッチング素子43をオンにすることで、直流電源41からの直流電圧がトランス44で昇圧されてから放電用電極34に印加される。放電用電極34,36は、測定物10の表面10a近傍の空間位置11に互いに微小間隙を空けて配置されている。放電用電極36は接地されている。放電用電極34,36として、耐久性の高い内燃機関用の点火栓を用いることも可能である。
スイッチング素子43をオンにして高電圧発生装置32からの直流電圧(例えば数kV以上)を放電用電極34,36間に印加することで、放電用電極34,36間の空隙(測定物10の表面10a近傍の空間位置11)にブレークダウン(空気の絶縁破壊)が発生して直流放電が発生する。このブレークダウンの発生に伴い、数μs〜msの間、数A〜数十Aの電流を放電用電極34に供給することで、放電用電極34,36間の空隙(測定物10の表面10a近傍の空間位置11)では、供給電力に応じたプラズマが発生する。そして、プラズマの発生に伴うガス温度の急激な上昇で衝撃波(圧力波/超音波)を発生させる。その衝撃波(圧力波/超音波)が測定物10の表面10aをたたくことで、測定物10の表面10aに超音波27が非接触で供給される。高電圧発生装置32では、スイッチング素子43を間欠的にオンにすることで、放電用電極34,36間には高電圧がパルス状に(間欠的に)印加される。そのため、直流放電によるプラズマは間欠的に発生し、超音波27は測定物10の表面10aに間欠的に供給される。
本実施形態でも、放電用電極34,36間に高電圧を印加することで、測定物10の表面10aを溶融させずに(ほとんど温度上昇させずに)その近傍の空間位置11(放電用電極34,36間)を起点として空中ブレークダウンを発生させてプラズマを発生させることができる。その結果、測定物10の表面10aを損傷させずに超音波27を非接触で測定物10の表面10aに供給することができる。さらに、本実施形態では、レーザ光23を利用する場合と比較してプラズマの生成効率が高いため、高出力な超音波27の供給が容易となる。また、レンズ等の光学部品が不要となり、光軸の調整が不要となる。
「実施形態3」
図6は、本発明の実施形態3に係る超音波計測装置の概略構成を示す図である。以下の実施形態3の説明では、実施形態1,2と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については実施形態1,2と同様である。
本実施形態の超音波供給ユニット12において、マイクロ波発生装置(電磁波発生源)51は、例えば固体素子やマグネトロンや進行波増幅管により構成することができ、マイクロ波(電磁波)を発生、増幅させる役割を果たす。マイクロ波発生装置51は、マイクロ波のゲイン及びパルス幅を制御することで、その出力を制御することができる。マイクロ波発生装置51から出力されたマイクロ波は、方向性結合器52及びスタブチューナ53を介して同軸ケーブル(電磁波伝送路)54に供給される。同軸ケーブル54の先端部には、マイクロ波発生装置51からのマイクロ波を放射するマイクロ波放射器(電磁波放射器)55が設けられている。ここでのマイクロ波放射器55については、例えば同軸ケーブル54の開放した内側導体端部により構成することができる。マイクロ波放射器55(同軸ケーブル54の先端部)は、測定物10の表面10a近傍に配置されており、マイクロ波は、測定物10の表面10a近傍の空間位置11へ放射される。マイクロ波放射器55(同軸ケーブル54の先端部)の周囲には、例えば金網や導電性カバー等の、マイクロ波放射器55から放射されたマイクロ波をシールドすることで周囲部に漏れるのを防ぐためのシールド部材56が設けられている。なお、スタブチューナ53はインピーダンス整合のために設けられており、方向性結合器52は途中で反射したマイクロ波がマイクロ波発生装置51に戻るのを防ぐために設けられている。また、電磁波伝送路として同軸ケーブル54の代わりに導波管を用いることも可能であり、その場合は、例えば導波管の開放した端部によりマイクロ波放射器55を構成することができる。
マイクロ波発生装置51で発生させた高出力のマイクロ波をマイクロ波放射器55から測定物10の表面10a近傍の空間位置11に放射することで、この空間位置11でブレークダウンが発生してマイクロ波放電が発生する。このブレークダウンの発生に伴い、プラズマが発生する。そして、プラズマの発生に伴うガス温度の急激な上昇で衝撃波(圧力波/超音波)を発生させる。その衝撃波(圧力波/超音波)が測定物10の表面10aをたたくことで、測定物10の表面10aに超音波27が非接触で供給される。マイクロ波発生装置51では、マイクロ波をパルス状に(間欠的に)発生させることで、マイクロ波放射器55からは、マイクロ波がパルス状に(間欠的に)放射される。そのため、マイクロ波放電によるプラズマは間欠的に発生し、超音波27は測定物10の表面10aに間欠的に供給される。
本実施形態でも、マイクロ波放射器55から高出力のマイクロ波を放射することで、測定物10の表面10aを溶融させずに(ほとんど温度上昇させずに)その近傍の空間位置11(マイクロ波放射器55)を起点として空中ブレークダウンを発生させてプラズマを発生させることができる。その結果、測定物10の表面10aを損傷させずに超音波27を非接触で測定物10の表面10aに供給することができる。さらに、本実施形態でも、レーザ光23を利用する場合と比較してプラズマの生成効率が高いため、高出力な超音波27の供給が容易となる。また、レンズ等の光学部品が不要となり、光軸の調整が不要となる。
「実施形態4」
図7は、本発明の実施形態4に係る超音波計測装置の概略構成を示す図である。以下の実施形態4の説明では、実施形態1〜3と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については実施形態1〜3と同様である。
本実施形態では実施形態1と比較して、測定部10を覆う(測定物10周囲の)雰囲気の空気より比熱比の高いガス65を蓄えるガスボンベ62と、ガスボンベ62に蓄えられたガス65を噴射するガス供給器64と、が設けられている。ここでのガス供給器64は、空中ブレークダウンによりプラズマを発生させる(レーザ光23を集光させる)、測定物10の表面10a近傍の空間位置11に、空気(雰囲気)より比熱比の高いガス65を供給する。ガス供給器64からのガス65の噴射時期は信号処理ユニット16により制御され、プラズマを発生させる(レーザ光発生装置22からレーザ光23を出力する)ときに、ガス供給器64から測定物10の表面10a近傍の空間位置11へ向けてガス65を噴射する。空気より比熱比の高いガス65としては、例えばヘリウム(He)やアルゴン(Ar)等を用いることができる。また、ガス供給器64からプラズマを発生させる空間位置11に、水蒸気を供給することもできる。
本実施形態では、プラズマを発生させる(レーザ光23を集光させる)空間位置11に、空気(雰囲気)より比熱比の高いガス65を供給することで、空中ブレークダウン発生時のガス温度を上昇させることができるので、より高い強度のプラズマを効率よく発生させることができ、より強い衝撃波(超音波)を発生させることができる。その結果、同一出力の超音波27をより少ないレーザ光23のエネルギーで効率よく供給することができる。さらに、超音波検出ユニット14で検出される超音波信号のS/Nを向上させることができる。
以上の実施形態4の説明では、超音波供給ユニット12がレーザ光23を利用して測定物10の表面10a近傍の空間位置11にプラズマを発生させる場合について説明した。ただし、本実施形態では、実施形態2と同様に、高電圧発生装置32と放電用電極34,36とを含んで超音波供給ユニット12を構成することもでき、放電用電極34,36間に生じる直流放電を利用して測定物10の表面10a近傍の空間位置11にプラズマを発生させることもできる。その場合においても、プラズマを発生させる空間位置11(直流放電が発生する放電用電極34,36間の空隙)に空気(雰囲気)より比熱比の高いガス65を供給することで、より高い強度のプラズマを効率よく発生させることができる。また、実施形態3と同様に、マイクロ波発生装置51と方向性結合器52とスタブチューナ53と同軸ケーブル54(マイクロ波放射器55)とを含んで超音波供給ユニット12を構成することもでき、マイクロ波放射器55からのマイクロ波放電を利用して測定物10の表面10a近傍の空間位置11にプラズマを発生させることもできる。その場合においても、プラズマを発生させる空間位置11(マイクロ波放電が発生するマイクロ波放射器55)に空気(雰囲気)より比熱比の高いガス65を供給することで、より高い強度のプラズマを効率よく発生させることができる。
「実施形態5」
図8は、本発明の実施形態5に係る超音波計測装置の概略構成を示す図である。以下の実施形態5の説明では、実施形態1〜4と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については実施形態1〜4と同様である。
本実施形態では実施形態1と比較して、測定物10の表面10a近傍に、測定部10を覆う(測定物10周囲の)雰囲気の空気より比熱の大きい固体であるターゲット72が測定物10の表面10aと非接触状態で配置されている。図8に示す例では、ターゲット72として金属針を設けており、金属針の先端部が測定物10の表面10aと微小間隙を空けて近接配置されている。ただし、ターゲット72として、金属等の導電性部材以外に、セラミック等の非導電性部材を用いることも可能である。
本実施形態では、超音波供給ユニット12は、測定物10の表面10a近傍に配置されたターゲット72(金属針)の先端部を起点としてブレークダウン(レーザーブレークダウン)を発生させてプラズマを発生させることで、衝撃波(圧力波/超音波)を発生させる。その衝撃波(圧力波/超音波)が測定物10の表面10aをたたくことで、測定物10の表面10aに超音波27が非接触で供給される。そのために、プリズム26は、集光レンズ24(レーザ光発生装置22)からのレーザ光23を、反射後の光軸23bが測定物10の表面10aと平行(あるいはほぼ平行)となり且つターゲット72(金属針)の先端部を通る方向へ反射させる。さらに、集光レンズ24は、レーザ光23のエネルギーをターゲット72の先端部に集光させる。これによって、ターゲット72の先端部に集光されるレーザ光23の光軸23bが、測定物10の表面10aと平行(あるいはほぼ平行)であり、測定物10の表面10aと微小空隙を空けて近接配置される。そして、ターゲット72の先端部に集光されたレーザ光23のエネルギーにより、空気(雰囲気)より比熱の大きいターゲット72の先端部を起点としてブレークダウン(ターゲットブレークダウン)を発生させてプラズマを発生させる。レーザ光発生装置22からは、高パワーのレーザ光23がパルス状に(間欠的に)出力されるため、ターゲット72へのレーザ光23の集光によるターゲットブレークダウン(プラズマ)は間欠的に発生し、超音波27は測定物10の表面10aに間欠的に供給される。
以上説明した本実施形態では、レーザ光23を測定物10の表面10aに照射させずにその近傍に配置されたターゲット72の先端部に集光させることができる。そのため、測定物10の表面10aを溶融させずに(ほとんど温度上昇させずに)その近傍のターゲット72の先端部を起点としてターゲットブレークダウンを発生させてプラズマを発生させることができる。ターゲットブレークダウンにより発生したプラズマを測定物10の表面10aに接触させずに超音波27を測定物10の表面10aに励振することができるので、測定物10の表面10aを損傷させずに超音波27を非接触で測定物10の表面10aに供給することができる。
さらに、本実施形態では、ブレークダウンの発生の際には、空気(雰囲気)より比熱の大きいターゲット72の先端部が溶融して温度上昇することで、より高い強度のプラズマを効率よく発生させることができ、より強い衝撃波(超音波)を発生させることができる。その結果、同一出力の超音波27をより少ないレーザ光のエネルギーで効率よく供給することができる。そして、超音波検出ユニット14で検出される超音波信号のS/Nを向上させることができる。さらに、ブレークダウンを発生させるターゲット72の先端部と測定物10の表面10aとの距離を短くすることで、より高パワーの超音波27を測定物10の表面10aに供給することができ、超音波検出ユニット14で検出される超音波信号のS/Nをさらに向上させることができる。
なお、ブレークダウン発生時に溶融するターゲット72の先端部の形状については、例えば図9に示すように径の小さい鋭利な形状にすることで、熱容量を小さくすることができるので、ブレークダウン発生時の温度上昇を大きくすることができ、高密度プラズマを生成することができる。一方、ターゲット72の先端部を鋭利な形状にせず、例えば図10に示すように曲面形状にすることで、ブレークダウン発生時のターゲット72の消耗を少なくすることができる。また、例えば図11に示すように、レーザ光を測定物10の表面10aへ向けて反射させるための反射面72aをターゲット72の先端部に形成することも可能である。
また、例えばアルミニウムや銅等の融点の低い材料をターゲット72に用いることで、ブレークダウン発生時の温度上昇を大きくすることができ、高密度プラズマを生成することができる。一方、例えばSiCやHfやW等の融点の高い材料をターゲット72に用いることで、ブレークダウン発生時のターゲット72の消耗を少なくすることができる。また、例えばPtやイリジウム等の材料をターゲット72に用いることで、ブレークダウン発生時のターゲット72の消耗を少なくしつつ、高密度プラズマを生成することができる。
ここで、本願発明者が行った実験結果について説明する。レーザ光23をターゲット72の先端部に集光させてターゲットブレークダウン(プラズマ)を発生させた場合に測定物10の内部を伝播した超音波27を検出することで測定物10の寸法(厚さ)を計測する確認実験を行った。実施形態1と同様に、測定物10については、厚さ1±0.08mmのアルミニウム板とし、レーザ光23の照射条件については、レーザ光23の波長を532nm、レーザ光23のビーム径をφ1mm以下、レーザ光23のパルス幅を5ns、レーザ光23の入射エネルギーを20mJとした。また、測定物10の内部を伝播した超音波27については、圧電型センサを用いて検出した。
ターゲットブレークダウンを発生させるターゲット72の先端部と測定物10の表面10aとの距離が1mmである場合において圧電型センサの出力波形を調べた実験結果を実施形態1(ターゲット72無しの空中ブレークダウンの例)と比較して図12に示し、ターゲット72の先端部(ブレークダウン点)と測定物10の表面10aとの距離を変化させた場合において圧電型センサの最大出力(mV)を調べた実験結果を実施形態1と比較して図13に示す。図12に示す圧電型センサの出力波形(ターゲットブレークダウン時)において、約1.2μs以降の時間での振動(周期0.3μsの振動)が測定物10の内部を伝播した超音波(縦波)27に相当し、この振動周期は測定物10の厚さに応じて変化する。図12,13に示すように、ブレークダウン点と測定物10の表面10aとの距離が同じ条件では、本実施形態のターゲットブレークダウン時(ターゲット72有り)の方が実施形態1の空中ブレークダウン時(ターゲット72無し)よりも圧電型センサの出力が大きくなる。そのため、同一の圧電型センサの出力を得る場合には、本実施形態のターゲットブレークダウンの方が実施形態1の空中ブレークダウンよりも少ない超音波27(レーザ光23)のエネルギー供給で済む。
また、圧電型センサの検出信号のスペクトル密度を調べた実験結果を実施形態1(ターゲット72無しの空中ブレークダウンの例)と比較して図14に示す。図14に示すように、本実施形態のターゲットブレークダウン時の方が実施形態1の空中ブレークダウン時よりも同一周波数におけるスペクトル密度が高くなる。そのため、圧電型センサで検出された振動が高い周波数であっても、測定物10の厚さや欠陥を計測することができ、より薄い測定物10の厚さやより小さな欠陥の検出が可能となる。
以上の実施形態5の説明では、超音波供給ユニット12がレーザ光23を利用してターゲット72の先端部にプラズマを発生させる場合について説明した。ただし、本実施形態では、実施形態2と同様に、高電圧発生装置32と放電用電極34,36とを含んで超音波供給ユニット12を構成することもできる。その場合には、例えばターゲット72の先端部が放電用電極34,36間の空隙に位置するように、放電用電極34,36をターゲット72の先端部に近接する位置に配置する。これによって、放電用電極34,36間への直流電圧の印加により生じる直流放電を利用して、ターゲット72の先端部を起点としてプラズマを発生させることができる。また、実施形態3と同様に、マイクロ波発生装置51と方向性結合器52とスタブチューナ53と同軸ケーブル54(マイクロ波放射器55)とを含んで超音波供給ユニット12を構成することもできる。その場合には、同軸ケーブル54の先端部(マイクロ波放射器55)をターゲット72の先端部に近接する位置に配置し、マイクロ波発生装置51で発生させたマイクロ波をマイクロ波放射器55からターゲット72の先端部へ放射する。これによって、マイクロ波放射器55からターゲット72の先端部へのマイクロ波の放射により生じるマイクロ波放電を利用して、ターゲット72の先端部を起点としてプラズマを発生させることができる。その際には、マイクロ波放射器55(同軸ケーブル54の先端部)及びターゲット72の周囲に、例えば金網や導電性カバー等の、マイクロ波放射器55から放射されたマイクロ波をシールドすることで周囲部に漏れるのを防ぐためのシールド部材56を設けることが好ましい。
「実施形態6」
図15は、本発明の実施形態6に係る超音波計測装置の概略構成を示す図である。以下の実施形態6の説明では、実施形態1〜5と同様の構成または対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略する構成については実施形態1〜5と同様である。
本実施形態では実施形態5と比較して、導電性のターゲット72と導電性の測定物10との間に直流電圧を印加する直流電源81が設けられている。さらに、ターゲット72の先端部でプラズマ(ブレークダウン)が発生したときに流れる、ターゲット72と測定物10間の電流(イオン電流)を計測する電流計82が設けられている。図15に示す例では、電流計82を直流電源81とターゲット72との間に配置しているが、直流電源81と測定物10との間に配置することも可能である。信号処理ユニット16は、電流計82で計測されたイオン電流量に基づいて、レーザ光発生装置22から出力されるレーザ光のパワーを制御する。これによって、イオン電流量に基づいて、ターゲット72の先端部で発生するプラズマのパワーを制御し、測定物10の表面10aに供給する超音波27のパワーを制御する。
測定物10の計測環境の変化や、ターゲット72の溶融による消耗や、測定物10の状態変化が生じた場合には、一定パワーのレーザ光23を集光させても、ブレークダウンに伴うプラズマの強度が変化し、測定物10の表面10aに供給される超音波27のパワーも変化する。その場合は、測定物10の計測精度を高めるために、測定物10の計測結果を平均化する回数を増やす必要がある。その結果、測定物10の計測時間の増大やデータ処理量の増大を招くことになる。
これに対して本実施形態では、ターゲット72と測定物10との間に直流電圧が印加された状態で、プラズマが発生したときのイオン電流を電流計82により計測することで、ブレークダウンに伴うプラズマ(ガス電離)の発生状態を把握することができ、プラズマの発生状態に応じて測定物10の表面10aに供給する超音波27のパワーを制御することができる。例えば、信号処理ユニット16は、電流計82で計測されたイオン電流量が所定の一定値になるように、レーザ光発生装置22から出力されるレーザ光23のパワーを増減することで、ブレークダウンに伴うプラズマの強度を一定にすることができ、測定物10の表面10aに供給される超音波27のパワーを一定にすることができる。そのため、測定物10の計測環境の変化や、ターゲット72の溶融による消耗や、測定物10の状態変化に関わらず、一定パワーの超音波27を測定物10の表面10aに非接触で供給することができる。その結果、測定物10の計測精度の低下を招くことなく、測定物10の計測結果を平均化する回数を減らすことができ、測定物10の計測時間の短縮及びデータ処理量の減少を図ることができる。
なお、測定物10が非導電性の場合は、図16に示すように、導電性端子としての探針83を導電性のターゲット72の先端部と微小間隙を空けて近接配置する(ブレークダウン発生領域に挿入する)。そして、直流電源81によりターゲット72と探針83との間に直流電圧を印加する。その状態で、ターゲット72の先端部でプラズマ(ブレークダウン)が発生したときに流れる、ターゲット72と探針83間の電流(イオン電流)を電流計82により計測する。また、測定物10及びターゲット72が非導電性の場合は、一対の探針(導電性端子)をターゲット72の先端部近傍に互いに微小間隙を空けて配置し、直流電源81により一対の探針間に直流電圧を印加する。その状態で、ターゲット72の先端部でプラズマ(ブレークダウン)が発生したときに流れる、一対の探針間の電流(イオン電流)を電流計82により計測する。
以上の実施形態6の説明では、超音波供給ユニット12がレーザ光23を利用してプラズマを発生させる場合について説明した。ただし、本実施形態では、実施形態2と同様に、高電圧発生装置32と放電用電極34,36とを含んで超音波供給ユニット12を構成することもでき、放電用電極34,36間に生じる直流放電を利用してプラズマを発生させることもできる。その場合には、信号処理ユニット16は、電流計82で計測されたイオン電流量に基づいて、スイッチング素子43のオン時間を制御する等、放電用電極34,36への供給電力を制御することで、測定物10の表面10aに供給する超音波27のパワーを制御する。また、実施形態3と同様に、マイクロ波発生装置51と方向性結合器52とスタブチューナ53と同軸ケーブル54(マイクロ波放射器55)とを含んで超音波供給ユニット12を構成することもでき、マイクロ波放射器55からのマイクロ波放電を利用してプラズマを発生させることもできる。その場合には、信号処理ユニット16は、電流計82で計測されたイオン電流量に基づいて、マイクロ波発生装置51から出力されるマイクロ波のパワーを制御することで、測定物10の表面10aに供給する超音波27のパワーを制御する。
また、以上の実施形態6の説明では、ターゲット72の先端部を起点とするターゲットブレークダウンによりプラズマを発生させる場合について説明した。ただし、本実施形態では、実施形態1〜4と同様に、ターゲット72を省略して、測定物10の表面10a近傍の空間位置11を起点とする空中ブレークダウンによりプラズマを発生させることもできる。その際に、測定物10が導電性の場合は、空中ブレークダウンを発生させる空間位置11に探針(導電性端子)を配置し、直流電源81により探針と測定物10との間に直流電圧を印加する。その状態で、測定物10の表面10a近傍の空間位置11でプラズマ(ブレークダウン)が発生したときに流れる、探針と測定物10間の電流(イオン電流)を電流計82により計測する。また、測定物10が非導電性の場合は、空中ブレークダウンを発生させる空間位置11に一対の探針(導電性端子)を互いに微小間隙を空けて配置し、直流電源81により一対の探針間に直流電圧を印加する。その状態で、ターゲット72の先端部でプラズマ(ブレークダウン)が発生したときに流れる、一対の探針間の電流(イオン電流)を電流計82により計測する。
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
10 測定物、10a 表面、10b 裏面、12 超音波供給ユニット、13,23 レーザ光、14 超音波検出ユニット、16 信号処理ユニット、22 レーザ光発生装置、23a,23b 光軸、24 集光レンズ、26 プリズム、27 超音波、32 高電圧発生装置、34,36 放電用電極、41,42,81 直流電源、43 スイッチング素子、44 トランス、45 コンデンサ、51 マイクロ波発生装置、52 方向性結合器、53 スタブチューナ、54 同軸ケーブル、55 マイクロ波放射器、56 シールド部材、62 ガスボンベ、64 ガス供給器、65 ガス、72 ターゲット、82 電流計、83 探針。