以下、添付の図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(本発明を実施するための最良の形態)を具体的に説明する。
図1に示すように、本発明に係る車両W(自動車)の動力生成・伝達機構は、エンジン1と、トルクコンバータ2と、前後進切換機構3と、ベルト式の無段変速機4(以下「CVT4」という。)と、減速歯車機構5と、ディファレンシャル装置6とを備えている。なお、以下では、便宜上、エンジン1とトルクコンバータ2と前後進切換機構3とが並ぶ方向(図1中では左右方向)にみて、エンジン側を「前」といい、前後進切換機構側を「後」という。なお、この便宜的に定義された「前」及び「後」は、車両Wの進行方向(前進及び後進)を意味するものではない。
エンジン1は、4気筒のガソリンエンジンであって、エンジン本体部7に設けられた各気筒の燃焼室8に、1つの共通吸気通路9とこの共通吸気通路9から分岐する4つの分岐吸気通路10とを介して、燃料燃焼用の空気が供給されるようになっている。ここで、共通吸気通路9には、空気の流れ方向にみて上流側から順に、エンジン1の燃焼室8に吸入される空気(以下「吸入空気」という。)からダスト等の異物を除去するエアクリーナ11と、吸入空気量(吸入空気の流量)を検出するエアフローセンサ12と、アクセル(図示せず)の踏込量(アクセル開度)に応じて吸入空気量ひいてはエンジン出力を制御するエレキ式のスロットル弁13と、吸気温度(吸入空気の温度)を検出する吸気温センサ14とが設けられている。さらに、共通吸気通路9(ないしはいずれか1つの分岐吸気通路10)には、吸気圧(吸入空気の圧力)を検出する吸気圧センサ15が設けられている。また、各分岐吸気通路10には、それぞれ、吸入空気中に燃料を噴射して混合気を生成する燃料噴射弁16が設けられている。
各気筒の燃焼室8には、それぞれ、対応する分岐吸気通路10から混合気を吸入され、この混合気は点火プラグ17により点火されて燃焼させられる。混合気の燃焼により生成された熱エネルギは、詳しくは図示していないが、ピストン、コンロッド、クランクアーム、クランクピン等からなる連結機構を介して力学的エネルギに変換され、この力学的エネルギは回転エネルギの形態でクランクシャフト18から取り出される。燃焼室8内の燃焼ガス(排気ガス)は、排気通路19を介して大気中に排出される。クランクシャフト18の回転エネルギないしはトルク(エンジントルク)はトルクコンバータ2に出力される。さらに、エンジン1には、エンジン水温を検出する水温センサ20と、クランク角ないしはエンジン回転数を検出するクランク角センサ21と、ノッキングの有無ないしは状態を検出するノックセンサ22と、排気ガス温度を検出する排気温センサ23とが設けられている。
トルクコンバータ2は、クランクシャフト18からトルク(エンジントルク)が入力される入力軸25と、ポンプカバー26を介して入力軸25に連結されたポンプ27と、連結部材28を介してタービンシャフト29に連結されたタービン30と、ステータ31とを備えている。ここで、タービン30は、ポンプ27から吐出される作動油によって回転駆動される。また、ステータ31は、タービン30からポンプ27に還流する作動油をポンプ27の回転を助勢する方向に整流する。そして、トルクコンバータ2は、入力軸25のトルクを、ポンプ27とタービン30との間の速度比(タービン回転数/ポンプ回転数)に対応する変速比で変速してタービンシャフト29に出力する。なお、ステータ31は、ワンウェイクラッチ32とステータ軸33とを介して、変速機ケース34(固定部)に取り付けられている。
さらに、トルクコンバータ2には、燃費性能を高めるために、所定の運転領域で入力軸25とタービンシャフト29とをロックアップ(直結)させるロックアップクラッチ35が設けられている。このロックアップクラッチ35は、タービンシャフト29に固定されたロックアップピストン36と前記のポンプカバー26の一部とで構成されている。そして、後側油室37に油圧がかけられたときには、ロックアップピストン36とポンプカバー25とが締結され、トルクコンバータ2はロックアップされる。他方、前側油室38に油圧がかけられたときには、ロックアップピストン36とポンプカバー25との締結が解除され、トルクコンバータ2のロックアップが解除される。
前後進切換機構3は、ダブルピニオン式のプラネタリギヤシステムであって、トルクコンバータ2のタービンシャフト29の回転をそのままの状態でCVT4に伝達する前進状態と、回転方向を逆転させた状態でCVT4に伝達する後進状態とを切り換える。この前後進切換機構3においては、タービンシャフト29にスプライン結合されたキャリア40に、第1ピニオンギヤ41と第2ピニオンギヤ42とが回転可能に取り付けられている。第1、第2ピニオンギヤ41、42は、いずれも、サンギヤ43及びリングギヤ44の両ギヤと噛み合っている。ここで、サンギヤ43は、CVT4のプライマリシャフト45にスプライン結合されている。さらに、リングギヤ44とキャリア40との間には、これらを継断するクラッチ46が設けられている。また、リングギヤ44と変速機ケース34との間には、リングギヤ44を変速機ケース34に固定し、又はリングギヤ44を変速機ケース34から解放するブレーキ47が設けられている。
この前後進切換機構3において、クラッチ46を締結してブレーキ47を解放したときには、リングギヤ44とキャリア40とが一体化されるとともに、リングギヤ44が変速機ケース34に対して回転可能となる。したがって、タービンシャフト29の回転はそのままの状態でサンギヤ43からプライマリシャフト45に出力され、車両Wは前進が可能な状態となる。他方、クラッチ46を解放してブレーキ47を締結したときには、リングギヤ44が変速機ケース34に固定されるとともに、リングギヤ44とキャリア40とが互いに相対回転可能となる。したがって、タービンシャフト29の回転は、第1、第2ピニオンギヤ43、44を介して、反転された状態で、サンギヤ43からプライマリシャフト45に出力され、車両Wは後進が可能な状態となる。このようにして、前後進切換機構3は、車両Wの前進と後進とを切り換える。
CVT4は、前後進切換機構3の後方に同軸状に配置されたプライマリプーリ50(駆動プーリ)と、このプライマリプーリ50と平行に配置されたセカンダリプーリ51(従動プーリ)と、両プーリ50、51間に巻き掛けられたベルト52(Vベルト)とを備えている。ここで、プライマリプーリ50は、プライマリシャフト45に固定された固定円錐板53と、プライマリシャフト45に外嵌され該プライマリシャフト45に沿って前後方向に移動することができる可動円錐板54とを備えている。なお、プライマリシャフト45の前端部は、前後進切換機構3のサンギヤ43にスプライン結合されている。そして、固定円錐板53の円錐状摩擦面と可動円錐板54の円錐状摩擦面とは、略V字状の断面を有するベルト受溝55を形成している。
可動円錐板54の後側(外側)には、円筒状のシリンダ56が同軸状に固定して設けられ、このシリンダ56の内部には、ピストン57が密接して嵌挿されている。このピストン57は、プライマリシャフト45の後端部に固定されている。ここで、ピストン57とシリンダ56と可動円錐板54とによってプライマリ油室58が形成されている。このプライマリ油室58には、油圧回路(図示せず)から第1油圧制御弁59を介して作動油が導入されるようになっている。この作動油の油圧(以下「プライマリ油圧」という)を増減することにより、可動円錐板54をプライマリシャフト45に沿って前後方向に移動させることができる。この移動に伴って、可動円錐板54と固定円錐板53との間隔が増減し、これによりベルト52に対するプライマリプーリ50の有効径が変化させられる。また、プライマリ油圧によって固定円錐板53と可動円錐板54とがベルト52を挟圧し、この挟圧力によってベルト52の滑りが防止ないしは抑制される。
セカンダリプーリ51は、基本的には、プライマリプーリ50と同様の構造を有している。具体的には、セカンダリプーリ51には、プライマリシャフト45と平行に配置されたセカンダリシャフト60が設けられ、このセカンダリシャフト60の後端部に固定円錐板61が固定されている。さらに、セカンダリプーリ51は、セカンダリシャフト60に外嵌され該セカンダリシャフト60に沿って前後方向に移動することができる可動円錐板62を備えている。そして、互いに対向する固定円錐板61の円錐状摩擦面と可動円錐板62の円錐状摩擦面とは略V字状断面を有するベルト受溝63を形成している。
また、可動円錐板62の前側(外側)には、円筒状のシリンダ64が同軸状に固定して設けられ、このシリンダ64の内部に、ピストン65が密接して嵌挿されている。このピストン65は、セカンダリシャフト60に固定されている。ここで、ピストン65とシリンダ64と可動円錐板62とによりセカンダリ油室66が形成されている。セカンダリ油室66には、プライマリプーリ50の場合と同様に、油圧回路(図示せず)から第2油圧制御弁67を介して作動油が導入されるようになっている。そして、セカンダリプーリ51も、プライマリプーリ50と同様に、作動油の油圧(以下「セカンダリ油圧」という。)を増減することにより、可動円錐板62をセカンダリシャフト60に沿って前後方向に移動させることができる。この移動に伴って、可動円錐板62と固定円錐板61との間隔が増減し、これによりベルト52に対するセカンダリプーリ51の有効径が変化させられる。また、セカンダリ油圧によって固定円錐板61と可動円錐板62とがベルト52を挟圧し、この挟圧力によってベルト52の滑りが防止ないしは抑制される。
CVT4のセカンダリシャフト60の回転ないしはトルクは、この後、減速歯車機構5とディファレンシャル装置6とを介して駆動輪(図示せず)に伝達される。なお、減速歯車機構5及びディファレンシャル装置6は、一般に用いられている普通のものであるので、その詳しい説明は省略する。なお、車両Wには、アクセル(図示せず)の踏込量すなわちアクセル開度を検出するアクセル開度センサ70と、車速を検出する車速センサ71と、路面勾配を検出するGセンサ72とが設けられている(図2参照)。
以下、車両Wの制御システムを説明する。
図2は、エンジン1とトルクコンバータ2と前後進切換機構3とCVT4とで構成される車両Wのパワートレインを制御するパワートレイン・コントロール・モジュール80(以下「PCM80」という。)の構成を示すブロック図である。PCM80は、車両Wのパワートレインの動作等を総合的に制御する制御モジュールであって、CPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータを有している。そして、PCM80は、ROM又はRAMに記憶されているプログラムをCPUにより実行することによって、パワートレイン各部の動作等を制御する。
まず、PCM80による車両Wないしはそのパワートレインの一般的な制御の制御手法を説明する。図2に示すように、PCM80には、エアフローセンサ12によって検出される吸入空気量と、スロットル開度(エンジン負荷)と、吸気温センサ14によって検出される吸気温度と、吸気圧センサ15によって検出される吸気圧と、水温センサ20によって検出されるエンジン水温と、クランク角センサ21によって検出されるクランク角ないしはエンジン回転数と、ノックセンサ22によって検出されるノッキングの有無ないしは状態と、排気温センサ23によって検出される排気ガス温度と、アクセル開度センサ70によって検出されるアクセル開度と、車速センサ71によって検出される車速と、Gセンサ72によって検出される路面勾配とが、制御情報として入力される。
そして、PCM80は、これらの制御情報に基づいて、エンジン1とトルクコンバータ2と前後進切換機構3とCVT4とを制御する。なお、PCM80は、機能的にみれば、エンジン1を制御するための吸気量制御部81、燃料噴射制御部82及び点火時期制御部83と、トルクコンバータ2を制御するためのロックアップ制御部84と、前後進切換機構3を制御するための前後進切換制御部85と、CVT4を制御するためのプーリ制御部86とに分けられる。なお、プーリ制御部86は、さらに変速比設定部86aと、挟圧力設定部86bと、駆動部86cとに分けられる。
このPCM80において、吸気量制御部81は、エンジン回転数、アクセル開度等の運転状態に基づいて適切な吸入空気量を設定し、この吸入空気量に応じてスロットル弁13の開度ひいてはエンジン出力を調節する。燃料噴射制御部82は、吸入空気量に応じた適切な燃料噴射量を設定し、エンジン1の各気筒に対して適切な噴射時期に、吸入空気量に応じて、各燃料噴射弁16から燃料を噴射させる。点火時期制御部83は、適切な点火時期を設定し、エンジン1の各気筒の点火プラグ17に電気火花を発生させる。ロックアップ制御部84は、ロックアップクラッチ35の継断を制御する。前後進切換部85は、クラッチ46の継断及びブレーキ47の固定・解法を切り換えることにより、車両Wの前進と後進とを切り換える。
プーリ制御部86は、CVT4の変速比を制御する。具体的には、プーリ制御部86は、運転状態に応じた変速比及び挟圧力を設定し、これらを実現するために、プライマリプーリ50の第1油圧制御弁59とセカンダリプーリ51の第2油圧制御弁67とに駆動信号を出力する。
プーリ制御部86の変速比設定部86aは、目標変速比ないしは目標プーリ比を設定する。ここで、プーリ比とは、プライマリシャフト45の回転速度(プライマリ回転速度)とセカンダリシャフト60の回転速度(セカンダリ回転速度)との比である。目標プーリ比の設定にあたり、まず目標プライマリ回転速度が設定される。これは、予め設定された、車速とスロットル開度とをパラメータとする変速マップに基づいて設定される。次に、この目標プライマリ回転速度と現在のセカンダリ回転速度との比として目標プーリ比が演算される。なお、現在のプライマリ回転速度及びセカンダリ回転速度は、プライマリ回転速度センサ(図示せず)及びセカンダリ回転速度センサ(図示せず)によって検出され、PCM80に入力される。
目標プーリ比に対して、現在のプライマリ回転速度と現在のセカンダリ回転速度との比として実プーリ比が演算される。目標プーリ比と実プーリ比とが等しい場合、又は所定の偏差内である場合、変速は行われない。すなわち、現在の実プーリ比が維持される。他方、目標プーリ比と実プーリ比との偏差が所定以上である場合は、実プーリ比が目標プーリ比に追従するように変速が行われる。この場合、必要に応じてプーリ比の変更速度も適宜設定される。
挟圧力設定部86bは、プライマリプーリ50及びセカンダリプーリ51におけるベルト52の挟圧力を設定する。この挟圧力は、エンジントルクに基づいて設定される。なお、エンジントルクが大きいほど大きな挟圧力が設定される。駆動部86cは、プーリ比が変速比設定部86aで設定された目標プーリ比となるように、かつ挟圧力が挟圧力設定部86bで設定された挟圧力となるように、第1油圧制御弁59と第2油圧制御弁67とを駆動制御する。
例えばプーリ比を増加させるには、プライマリ油圧がセカンダリ油圧に対して相対的に低下する方向に第1油圧制御弁59と第2油圧制御弁67とを駆動制御する。この場合、プライマリプーリ50では、可動円錐板54が固定円錐板53から離反する方向(後方)に移動し、ベルト受溝55の溝幅が拡大する。このため、ベルト52のプライマリプ−リ50と係合している部分が、固定円錐板53及び可動円錐板54の円錐状摩擦面に沿って内径側に移動する。すなわち有効径が小さくなり、相対的にプライマリシャフト45の回転速度が増加する。
他方、セカンダリプーリ51では、可動円錐板62が固定円錐板61側(後方)に移勤し、ベルト受溝63の溝幅が狭くなる。このため、ベルト52のセカンダリプーリ51と係合している部分が、固定円錐板61及び可動円錐板62の円錐状摩擦面に沿って外径側に移動する。すなわち有効径が大きくなり、相対的にセカンダリシャフト60の回転速度が低下する。このように、プライマリシャフト45とセカンダリシャフト60との速度差が拡大するので、両輪の速度比であるプーリ比が増大する。プーリ比を低減させる場合は、この逆の制御を行う。
また、挟圧力を増加させる場合は、プライマリ油室58の油圧とセカンダリ油室66の油圧とがともに増加する方向に第1油圧制御弁59と第2油圧制御弁67とを駆動制御する。例えば、変速を伴わず、プーリ比を固定した状態で挟圧力のみを増加させる場合は、まずセカンダリプーリ51を基準としてセカンダリ油圧を増加させる。そして、これに追随させてプーリ比が変動しないようにプライマリプーリ50のプライマリ油圧を増大させる。挟圧力を低減させる場合は、この逆の制御を行う。
以下、図3及び図4に示すフローチャートに従って、本発明の要旨に係る、登板時における排気ガス温度の過上昇を防止するための、エンジン1の点火時期制御とCVT4の変速比制御(ないしはエンジン回転数制御)とを含む車両制御を説明する。
図3及び図4に示すように、この車両制御においては、まずステップS1で、吸入空気量、スロットル開度、吸気温度、吸気圧、エンジン水温、クランク角ないしはエンジン回転数、排気ガス温度、アクセル開度、車速、路面勾配等(各種信号)を制御情報として読み込む。
続いて、ステップS2で基本点火時期を演算する。この基本点火時期は、以下のような手順で設定する。すなわち、エンジン1の通常運転時においては、点火時期は、圧縮上死点よりも所定の進角量だけ早い時期に設定する。この進角量は、時々刻々の運転状態において最も高いエンジントルク(以下「ベストトルク」という。)が得られるように設定する(以下、この進角量を「ベストトルク進角量」という。)。ベストトルク進角量は、予め実験等によって求められ、運転状態に応じたマップデータとして、点火時期制御部83に記憶されている。マップデータは、例えば、エンジン回転数とスロットル開度(エンジン負荷)とをパラメータとする2次元マップの形態で記憶されている。そして、点火時期制御部83は、エンジン回転数とスロットル開度とに基づいて、2次元マップから対応するベストトルク進角量の値を読み込むことにより、時々刻々のベストトルク進角量を演算(設定)する。
そして、点火時期制御部83は、車両Wないしはエンジン1の運転状態に応じて、点火時期を、ベストトルク進角量に対応する点火時期よりも遅角させる。具体的には、エンジン回転数が低いとき(低回転時)には、エンジン回転数が高いとき(高回転時)に比べてノッキング限界が低くなるので、エンジン回転数が低いときほど遅角量を大きくし、ノッキングの発生を防止するようにしている。
また、点火時期制御部83は、冷間時、すなわちエンジン1が十分に暖気されていないときには、温間時に比べて点火時期の遅角量を大きくする。具体的には、例えば、水温センサ20によって検知されるエンジン水温が60℃以下のときには、エンジン水温が低いほど遅角量が大きくなるようにしている。なお、エンジン水温が60℃を超えるときには、エンジン水温に基づく遅角は行わない。冷間時に点火時期を遅角させると、排気ガス温度が上昇するので、エンジン水温(エンジン温度)が適温にまで上昇する時間を短縮することができる。また、排気ガス浄化触媒(図示せず)の温度を迅速に活性化温度まで高めることができる。
さらに、点火時期制御部83は、アクセル(図示せず)が比較的急峻に踏み込まれる加速時、すなわち、アクセル開度センサ70によって検出されるアクセル開度の変化速度が所定の基準値以上のときには、点火時期を遅角させる。この遅角により、エンジントルクの増大速度が適度に抑制され、過渡的変化に伴う振動を緩和することができる。なお、点火時期制御部83は、ノックセンサ22によってノッキングが検知されたときには、ノッキングを抑制するために点火時期を遅角させる。
かくして、点火時期制御部83は、時々刻々のベストトルク進角量と、車両Wないしはエンジン1の運転状態に応じた上記各遅角量とに基づいて、基本点火時期を演算ないしは設定する。なお、点火時期制御部83は、エンジン回転数、エンジン水温、アクセル開度の変化速度等の所定の状態量をパラメータとするマップの形態で点火時期制御部83内に記憶されている数値データを読み取ることにより、上記各遅角量を演算する。
ステップS2で基本点火時期を演算した後、ステップS3で、点火時期の吸気温度補正量(遅角量)を演算する。吸気温度が高いときにはノッキングが発生しやすいので、点火時期を遅角させることによりノッキングの発生を抑制するようにしている。続いて、ステップS4で、ステップS2で演算した基本点火時期とステップS3で演算した点火時期の吸気温度補正量(遅角量)とに基づいて、最終点火時期を演算する。
次に、ステップS5で目標エンジン回転数を演算する。具体的には、例えば車両がDレンジ(ドライブレンジ)で走行しているときには、図5に示すようなアクセル開度と車速とをパラメータとする2次元の目標エンジン回転数マップを用いて、アクセル開度と車速とに基づいて目標エンジン回転数を演算する。なお、目標エンジン回転数マップは、レンジ毎(Rレンジ、2レンジ、1レンジ等)に設けられている。
続いて、ステップS6で、目標エンジン回転数と車速とに基づいて、CVT4の変速比を演算する。車両Wにおいては、基本的には(トルクコンバータ2の変速作用を除外すれば)、駆動輪の回転数はエンジン回転数とCVT4の変速比(プーリ比)とによって決まる。すなわち、車両Wがある時点においてある車速で走行しているときに、目標エンジン回転数が決められると、この時点において車速と目標エンジン回転数とを両立させることができるCVT4の変速比は一義的に決まる。したがって、この目標エンジン回転数を実現するには、CVT4の変速比をこのように一義的に決まる変速比に保持しなければならない。そこで、このステップS6では、このように一義的に決まる変速比を演算する。
このように、目標エンジン回転数とCVT4の変速比とを演算した後、ステップS7〜S11で、車両Wないしはエンジン1の運転状態が、登板時においてエンジン1の排気ガス温度が上昇する運転条件下にあるか否かを判定する。なお、この実施の形態では、Gセンサ72によって検出される路面勾配が、所定時間継続して、予め設定された基準値(以下「基準勾配」という。)以上であれば登板時であると判定するようにし、この基準勾配を4%に設定している。しかしながら、登板基準値は4%に限定されるわけではなく、車両Wないしはエンジン1の仕様に応じて好ましく設定することができる(例えば、3%、5%等)。
また、この実施の形態では、吸気温度が所定の基準値(以下「基準吸気温」という。)以上であり、エンジン水温が所定の基準値(以下「基準水温」という。)以上であり、かつ車速が所定の基準値(以下「基準車速」という。)以上であるときに、エンジン1の排気ガス温度が上昇する運転条件下にあると判定するようにしている。しかしながら、基準吸気温、基準水温及び基準車速のうちの任意の1つ又は2つにより、エンジン1の排気ガス温度が上昇する運転条件下にあるか否かを判定するようにしてもよい。また、この実施の形態では、基準吸気温を40℃に設定し、基準水温を106℃に設定し、基準車速を20km/hに設定している。しかしながら、基準吸気温、基準水温又は基準車速はこれらの値に限定されるわけではなく、車両Wないしはエンジン1の仕様に応じて好ましく設定することができる。
具体的には、ステップS7とステップS8とで、路面勾配が4%以上である状態が所定期間(例えば、30秒、1分、2分等)継続したか否かを判定する。そして、路面勾配が4%以上である状態が所定期間継続していなければ(ステップS7又はステップS8がNO)、登板時ではないと判定し、後で説明するステップS15を実行する。他方、路面勾配が4%以上である状態が所定期間継続していれば(ステップS7及びステップS8がYES)、登板時であると判定し、ステップS9〜S11で、車両Wが、エンジン1の排気ガス温度が上昇する運転条件下にあるか否かを判定する。
そして、ステップS9〜S11で、吸気温度が40℃以上であり、エンジン水温が106℃以上であり、かつ、車速が20km/h以上であれば(ステップS9〜S11がすべてYES)、エンジン1の排気ガス温度が上昇する運転条件下にあると判定し、ステップS12〜S14で、目標エンジン回転数を上昇方向に補正(上昇補正)する。他方、吸気温度が40℃未満であるか、エンジン水温が106℃未満であるか、又は、車速が20km/h未満であれば(ステップS9〜S11のうちの少なくとも1つがNO)、エンジン1の排気ガス温度が上昇する運転条件下にないと判定し、後で説明するステップS15を実行する。
以下、ステップS12〜S14で実行される目標エンジン回転数の上昇補正を説明する。ステップS12〜S14が実行される場合は、エンジン1の排気ガス温度が上昇する運転条件下にあるので、排気ガス温度が過上昇するおそれがある。そこで、CVT4の変速比(プーリ比)を変更することにより、エンジン回転数を上昇方向に補正するようにしている。なお、ここで、変速比(プーリ比)は回転比であり、(駆動側のプライマリプーリ50の有効径)/(被駆動側のセカンダリプーリ51の有効径)であらわされる。つまり、ステップS12〜S14は、CVT4の変速比を小さくすることにより、同一の車速に対してエンジン回転数を上昇させる。このように、エンジン回転数を上昇させると、エンジン回転数に基づく点火時期の遅角量が小さくなり、点火時期は相対的に進角させられることになる。その結果、排気ガス温度の上昇が抑制され、その過上昇が防止される。
具体的には、ステップS12で、例えば図6に示すような路面勾配と車速とをパラメータとする2次元の補正目標エンジン回転数マップを用いて、路面勾配と車速とに基づいて補正目標エンジン回転数を演算する。つまり、前記の図5に示す目標エンジン回転数マップに代えて、図6に示す補正目標エンジン回転数マップを用いる。なお、図6に示す補正目標エンジン回転数マップ中において、「−」は、目標エンジン回転数の上昇補正を行わないことを意味する。すなわち、図6に示す補正目標エンジン回転数マップ中において「−」で示す運転状態では、図5に示す目標エンジン回転数マップを用いて目標エンジン回転数を演算することになる。
さらに、この補正目標エンジン回転数を、例えば図7に示すような路面勾配とアクセル開度とをパラメータとする2次元のアクセル開度補正マップを用いて、路面勾配とアクセル開度とに基づいて補正する。つまり、補正目標エンジン回転数をアクセル開度に応じて補正する。図7に示すアクセル開度補正マップでは、アクセル開度が5%以下のときには、エンジン1が生成する燃焼熱が比較的少ないので、エンジン回転数の上昇補正を100%未満にして、エンジン回転数の上昇補正を緩和するようにしている。なお、図7に示すアクセル開度補正マップ中において、「−」は、目標エンジン回転数の上昇補正を行わないことを意味する。
ステップS13では、ステップS12における目標エンジン回転数の変更に対応して、CVT4の変速比を変更する。すなわち、ステップS12で変更された目標エンジン回転数を実現することができるCVT4の変速比を演算する。続いて、ステップS14で、CVT4の変速比を、変更後の変速比となるまで徐々に変更する。なお、変速比を徐々に変更するのは変速比の急変により車両Wの乗員に違和感が生じるのを防止するためである。この後、制御ルーチンはステップS1に復帰する(リターン)。
前記のステップS7〜S11で、車両Wないしはエンジン1の運転状態が、登板時においてエンジン1の排気ガス温度が上昇する運転条件下にないと判定した場合は(ステップS7〜S11のうちの少なくとも1つがNO)、ステップS15で、CVT4の変速比が変更された状態にあるか否かを判定する。ここで、CVT4の変速比が変更されていれば(YES)、ステップS16〜S18で、変更されている変速比を元の変速比に復帰させる。なお、CVT4の変速比が変更されていなければ(NO)、ステップS16〜S18をスキップして、ステップS1に復帰する(リターン)。
具体的には、ステップS16で、ステップS12において変更された目標エンジン回転数を、元の目標エンジン回転数に変更する(元の状態に復帰させる)。続いて、ステップS17で、ステップS16における目標エンジン回転数の復帰に対応して、CVT4の変速比を変更する(元の状態に復帰させる)。すなわち、ステップS16において変更された(復帰させられた)目標エンジン回転数を実現することができるCVT4の変速比を演算する。続いて、ステップS18で、CVT4の変速比を変更後の変速比まで徐々に変更する(復帰させる)。この後、制御ルーチンはステップS1に復帰する(リターン)。
以上、この車両制御によれば、車両Wの登板時においてエンジン1の排気ガス温度が上昇する運転条件下では、CVT4の変速比を変更することによりエンジン回転数を上昇補正するので、エンジン回転数はノック限界の高い高回転領域側に移行され、これに伴って点火時期が進角される。このため、燃費性能の低下を招くことなく、点火時期の遅角を抑制することができ、排気ガス温度の過上昇を有効に防止又は抑制することができる。
W 車両、1 エンジン、2 トルクコンバータ、3 前後進切換機構、4 CVT、5 減速歯車機構、6 ディファレンシャル装置、7 エンジン本体、8 燃焼室、9 共通吸気通路、10 分岐吸気通路、11 エアクリーナ、12 エアフローセンサ、13 スロットル弁、14 吸気温センサ、15 吸気圧センサ、16 燃料噴射弁、17 点火プラグ、18 クランクシャフト、19 排気通路、20 水温センサ、21 クランク角センサ、22 ノックセンサ、23 排気温センサ、25 入力軸、26 ポンプカバー、27 ポンプ、28 連結部材、29 タービンシャフト、30 タービン、31 ステータ、32 ワンウェイクラッチ、33 ステータ軸、34 変速機ケース、35 ロックアップクラッチ、36 ロックアップピストン、37 後側油室、38 前側油室、40 キャリア、41 第1ピニオンギヤ、42 第2ピニオンギヤ、43 サンギヤ、44 リングギヤ、45 プライマリシャフト、46 クラッチ、47 ブレーキ、50 プライマリプーリ、51 セカンダリプーリ、52 ベルト、53 固定円錐板、54 可動円錐板、55 ベルト受溝、56 シリンダ、57 ピストン、58 プライマリ油室、59 第1油圧制御弁、60 セカンダリシャフト、61 固定円錐板、62 可動円錐板、63 ベルト受溝、64 シリンダ、65 ピストン、66 セカンダリ油室、67 第2油圧制御弁、70 アクセル開度センサ、71 車速センサ、72 Gセンサ、80 PCM、81 吸気量制御部、82 燃料噴射制御部、83 点火時期制御部、84 ロックアップ制御部、85 前後進切換制御部、86 プーリ制御部、86a 変速比設定部、86b 挟圧力設定部、86c 駆動部。