図1に示すように、本発明の実施形態のカメラ1は、レンズユニット2と、カメラ本体4と、を有する。レンズユニット2は、レンズ鏡筒6と、このレンズ鏡筒の中に配置された複数の撮像用レンズ8と、撮像用レンズのうちの像振れ補正用レンズ16を所定の平面内で移動させるアクチュエータ10と、レンズ鏡筒6の振動を検出する振動検出手段であるジャイロ34a、34b(図1には34aのみ図示)と、を有する。
レンズユニット2は、カメラ本体4に取り付けられ、入射した光をフィルム面Fに結像させるように構成されている。
概ね円筒形のレンズ鏡筒6は、内部に複数の撮像用レンズ8を保持しており、一部の撮像用レンズ8を移動させることによりピント調整を可能としている。
本発明の実施形態のカメラ1は、ジャイロ34a、34bによって振動を検出し、検出された振動に基づいてアクチュエータ10を作動させて像振れ補正用レンズ16を移動させ、カメラ本体4内のフィルム面Fに合焦される画像を安定化させている。また、本実施形態のカメラ1は、画像を安定化する像振れ防止制御の他に、第2モードの制御として、像振れ補正用レンズ16を取り付けた移動枠を係止位置に移動させるように構成されている。本実施形態においては、ジャイロ34a、34bとして、圧電振動ジャイロを使用している。なお、本実施形態においては、像振れ補正用レンズ16は、1枚のレンズによって構成されているが、画像を安定させるためのレンズは、複数枚のレンズ群であっても良い。
次に、図2乃至図5を参照して、アクチュエータ10の構成を説明する。図2は、移動枠が像振れ防止制御の位置にあるアクチュエータ10の正面図であり、センサ基板を取り外した状態を示している。また、図3は、移動枠が係止位置にあるアクチュエータ10の正面図である。さらに、図4は図3のIV−IV線側面断面図であり、図5(a)は図2のV−V線側面断面図である。また、図5(b)は、駆動用磁石の着磁の状態を示す斜視図である。
図2乃至図5に示すように、アクチュエータ10は、レンズ鏡筒6内に固定された固定部である固定枠12と、この固定枠12に対して移動可能に支持された可動部である移動枠14と、この移動枠14を支持する可動部支持手段である3つのスチールボール18(図4)と、を有する。さらに、アクチュエータ10は、固定枠12に取り付けられた3つの駆動用コイル20a、20b、20cと、移動枠14の、駆動用コイル20a、20b、20cに夫々対応する位置に取り付けられた3つの駆動用磁石22a、22b、22cと、を有する。
また、図5(a)に示すように、アクチュエータ10は、各駆動用磁石22a、22b、22cの磁力によって移動枠14を固定枠12に吸着させるために、固定枠12に取り付けられた吸着用ヨーク26と、駆動用磁石の磁力を固定枠12の方に効果的に差し向けるように、駆動用磁石の裏側に取り付けられたバックヨーク28と、を有する。さらに、図4に示すように、アクチュエータ10は、スチールボール18を移動枠14に吸着させる吸着用磁石30を有する。なお、駆動用コイル20a、20b、20c、及びこれらに対応する位置に取り付けられた3つの駆動用磁石22a、22b、22cは、移動枠14を、固定枠12に対して並進運動させ、且つ回転運動させることができる駆動手段を構成する。
さらに、図5(a)に示すように、各駆動用コイル20a、20b、20cの巻線の内側には、磁気センサであるホール素子24a、24b、24cが配置されている(図5には24aのみ図示)。各ホール素子24a、24b、24cは、これらと夫々向き合うように配置されている各駆動用磁石22a、22b、22cの磁気を検出して、固定枠12に対する移動枠14の位置を検出するように構成されている。即ち、各ホール素子は、各駆動用磁石の、撮像用レンズの光軸を中心とする円のほぼ円周方向の変位を検出するセンサとして機能する。これらのホール素子24a、24b、24c及び駆動用磁石22a、22b、22cは、位置検出手段を構成する。
また、図1に示すように、アクチュエータ10は、ジャイロ34a、34bによって検出された振動と、ホール素子24a、24b、24cによって検出された移動枠14の位置情報に基づいて、各駆動用コイル20a、20b、20cに流す電流を制御するコントローラ36を有する。コントローラ36の詳細については後述する。
アクチュエータ10は、移動枠14を、レンズ鏡筒6に固定された固定枠12に対して、フィルム面Fに平行な平面内で移動させ、これにより移動枠14に取り付けられた像振れ補正用レンズ16を移動させ、レンズ鏡筒6が振動してもフィルム面Fに結像される像が乱れることがないように駆動される。
固定枠12は、外周に縁を設けた概ねドーナツ板状の形状を有し、その上に3つの駆動用コイル20a、20b、20cが配置されている。図2に示すように、これら3つの駆動用コイル20a、20b、20cは、その中心が、レンズユニット2の光軸を中心とする円周上にそれぞれ配置されている。本実施形態においては、駆動用コイル20aは光軸の鉛直上方に配置され、駆動用コイル20b、20cは、駆動用コイル20aに対して中心角120゜ずつ間隔を隔てて配置されている。即ち、駆動用コイル20a、20b、20cは、光軸を中心とする円周上に等間隔に配置されている。また、駆動用コイル20a、20b、20cは、夫々、その巻線が角の丸い矩形状に巻かれ、この矩形の中心線が円周の半径方向と一致するように配置されている。
移動枠14は、概ねドーナツ板状の形状を有し、固定枠12の中に、固定枠12の縁に取り囲まれるように配置されている。移動枠14の中央の開口には、像振れ補正用レンズ16が取り付けられている。また、移動枠14上の円周の、各駆動用コイル20a、20b、20cに対応する位置には、長方形の駆動用磁石22a、22b、22cが夫々埋め込まれている。なお、本明細書において、駆動用コイルに対応する位置とは、駆動用コイルによって形成される磁界の影響が実質的に及ぶ位置を意味している。また、駆動用磁石の裏側、即ち、各駆動用コイルの反対側には、各駆動用磁石の磁束が、固定枠12の方に効率良く差し向けられるように、長方形のバックヨーク28が夫々取り付けられている。
また、固定枠12の各駆動用コイルの裏側、即ち、移動枠14の反対側には、長方形の吸着用ヨーク26が夫々取り付けられている。移動枠14は、各駆動用磁石22a、22b、22cが、それに対応して取り付けられた吸着用ヨーク26に及ぼす磁力によって、固定枠12に吸着される。本実施形態においては、駆動用磁石の磁力線が、吸着用ヨーク26に効率良く到達するように、固定枠12を非磁性材料で構成している。
次に、図5を参照して、駆動用磁石が及ぼす磁力について説明する。駆動用磁石22a、22b、22c、バックヨーク28及び吸着用ヨーク26は、夫々長方形の形状を有しており、各長辺、短辺が夫々重なり合うように配置されている。また、駆動用コイル20a、20b、20cは、その各辺が、長方形のバックヨーク28の各長辺、短辺と夫々平行になるように配置されている。さらに、各駆動用磁石は、その磁極の境界線である着磁境界線Cが、各駆動用磁石が配置されている円周の半径方向に一致するように向けられている。
これにより、駆動用磁石22a、バックヨーク28及び吸着用ヨーク26は、磁気回路を構成し、図5(a)に矢印で示す磁力線が形成される。駆動用磁石22aは、対応する駆動用コイル20aに電流が流れると、円周の接線方向の駆動力を受ける。他の駆動用コイル20b、20cについても、同様の位置関係で対応する駆動用磁石22b、22c、バックヨーク28及び吸着用ヨーク26が配置されている。
なお、本明細書において、着磁境界線Cとは、駆動用磁石の両端が夫々S極、N極となるように着磁されているとき、その着磁されている磁極の境界線を言うものとする。従って、本実施形態においては、着磁境界線Cは、長方形の駆動用磁石の各長辺の中点を通るように位置する。また、図5(b)に示すように、駆動用磁石22aは、その厚さ方向にも極性が変化しており、図5(b)において左下の角がS極、右下がN極、左上がN極、右上がS極になっている。
次に、図5及び図6を参照して、各駆動用磁石が受ける駆動力を説明する。図6(a)は、駆動用コイルと駆動用磁石の相対位置と、駆動用磁石が受ける駆動力との関係を上段に、相対位置とホール素子24aの出力との関係を下段に示すグラフであり、図6(b)乃至(e)は、グラフ中のb乃至e点における駆動用コイルと駆動用磁石の相対位置を示している。
まず、図5(a)に示すように、駆動用磁石22aの第1磁石部22a1である右半部は、駆動用コイル20aの第1巻線部20a1である右端部に、図5(a)において上方から下方に向かう磁力線を及ぼす。同様に、駆動用磁石22aの第2磁石部22a2である左半部は、駆動用コイル20aの第2巻線部20a2である左端部に、図5(a)において下方から上方に向かう磁力線を及ぼす。
一方、図6(b)に矢印で示す方向の電流が駆動用コイル20aに流れると、駆動用コイル20aの第1巻線部20a1には図5(a)の奥から手前側に向かって電流が流れ、第2巻線部20a2には図5(a)の手前側から奥に向かって電流が流れる。駆動用磁石22aによって形成された磁界中において、このような電流が流れると、駆動用磁石22aを図5(a)における右方向に移動させる駆動力が発生する。
図6(a)に示すように、この駆動力は、駆動用磁石22a及び駆動用コイル20aが図6(b)に示す位置関係にある時、即ち、駆動用磁石22aの着磁境界線Cが駆動用コイル20aの中心に位置するとき最大になる。また、駆動力は、最大の位置から駆動用磁石22aが右又は左にずれるに従って減少する。さらに、駆動用磁石22aが図6(c)に示す位置(図6(a)におけるc点)まで右方向に移動されると、駆動力はゼロになる。駆動用磁石22aをさらに移動させ、図6(d)に示す位置(図6(a)におけるd点)に達すると、駆動力の方向が逆転し、駆動用磁石22aは、左方向の駆動力を受けるようになる。このように、駆動力が逆転した状態では、駆動用磁石22aは、その第2磁石部22a2と駆動用コイル20aの第1巻線部20a1の間で発生する駆動力のみを受ける。従って、駆動力が逆転した領域における駆動力の最大値は、図6(b)の状態における駆動力よりも小さくなる。
一方、駆動用磁石22aが左方向に移動された場合も、駆動力は減少し、図6(e)に示す位置(図6(a)におけるe点)においてゼロとなる。また、駆動用磁石22aがさらに左方向に移動された場合には、駆動力の方向が逆転し、駆動用磁石22aは、左方向の駆動力を受けるようになる。
以上説明した駆動力は、駆動用コイル20aに図6(b)における時計回りの電流が流れた場合のものであり、駆動用コイル20aに反時計回りの電流が流れた場合には、駆動力の方向が全て反転する。即ち、駆動用コイル20aに反時計回りの電流が流れている場合には、図6(a)の点e〜点cの領域で左方向の駆動力が発生し、点eの左側の領域及び点cの右側の領域では右方向の駆動力が発生する。また、上記では、駆動用コイル20aと駆動用磁石22aの間に発生する駆動力について説明したが、他の2組の駆動用コイル及び駆動用磁石の間に発生する駆動力についても全く同様である。
次に、駆動用コイル20aの内側に配置されたホール素子24aの出力は、図6(a)の下段に示すように、駆動用磁石22a及び駆動用コイル20aが図6(b)に示す位置関係にある時、即ち、駆動用磁石22aの着磁境界線Cが駆動用コイル20aの中心に位置するときほぼゼロになる。さらに、ホール素子24aの出力は、図6(b)の位置から駆動用磁石22aが右方向に移動されるに従って増大し、駆動用磁石22aが図6(c)に示す位置で最大となる。逆に、ホール素子24aの出力は、図6(b)の位置から駆動用磁石22aが左方向に移動されるに従って減少し、駆動用磁石22aが図6(e)に示す位置で最小となる。
また、本実施形態によるカメラ1のアクチュエータ10では、駆動用コイルの第1巻線部と駆動用磁石の第1磁石部、及び第2巻線部と第2磁石部が対向し、十分な駆動力が発生する像振れ防止制御領域内において像振れ防止制御が実行される。さらに、移動枠14が係止される係止位置は、像振れ防止制御領域から大きく外れた位置に設定されており、この係止位置においては、ホール素子24aの出力は、像振れ防止制御領域内における出力よりも非常に大きくなる。
次に、図7及び図8を参照して、移動枠14の位置検出を説明する。
図7及び図8は、駆動用磁石22aの移動とホール素子24aから出力される信号との関係を説明する図である。図7に示すように、ホール素子24aの感度中心点Sが、駆動用磁石22aの着磁境界線C上に位置する場合には、ホール素子24aからの出力信号はゼロである。移動枠14と共に駆動用磁石22aが移動され、ホール素子24aの感度中心点が駆動用磁石22aの着磁境界線上から外れると、ホール素子24aの出力信号が変化する。図7に示すように、駆動用磁石22aが着磁境界線Cに直交するX軸方向、即ち円周方向に変位すると、ホール素子24aは、正弦波状の信号を発生する。従って、この移動量が微小である場合には、ホール素子24aは、駆動用磁石22aの移動距離にほぼ比例した信号を出力する。本実施形態において、駆動用磁石22aの移動距離が、駆動用磁石22aの長辺の長さの3%程度以内の場合には、ホール素子24aから出力される信号は、ホール素子24aの感度中心点Sと駆動用磁石22aの着磁境界線Cの間の距離にほぼ比例する。また、本実施形態では、アクチュエータ10は、像振れ補正制御時においては各ホール素子の出力が距離にほぼ比例する範囲内で作動する。
図8(a)乃至(c)に示すように、ホール素子24aの感度中心点S上に駆動用磁石22aの着磁境界線Cが位置する場合には、図8(b)のように駆動用磁石22aが回転移動した場合、図8(c)のように駆動用磁石22が着磁境界線Cの方向に移動した場合とも、ホール素子24aからの出力信号はゼロである。また、図8(d)乃至(f)に示すように、駆動用磁石22aの着磁境界線Cがホール素子24aの感度中心点Sから外れた場合には、感度中心点Sと着磁境界線Cの距離rに比例した信号がホール素子24aから出力される。従って、感度中心点Sから着磁境界線Cまでの距離rが同じであれば、図8(d)のように駆動用磁石22aが着磁境界線Cに直交する方向に移動した場合、図8(e)のように駆動用磁石22aが並進及び回転移動した場合、図8(f)のように任意の方向に並進移動した場合とも、何れも同じ大きさの信号がホール素子24aから出力される。
ここでは、ホール素子24aについて説明したが、他のホール素子24b、24cも、それらに対応する駆動用磁石22b、22cとの位置関係に基づいて同様の信号を出力する。このため、各ホール素子24a、24b、24cによって検出された信号に基づいて、移動枠14が固定枠12に対して並進移動及び回転移動した位置を特定することができる。
次に、図2乃至図4を参照して、移動枠14の係止機構を説明する。
図2及び図3に示すように、固定枠12には、その外周から半径方向内方に延びる3つの位置決め用の係合受け部15が設けられている。各係合受け部15は、固定枠12の円周方向に120゜ずつ間隔を開けて配置されている。また、移動枠14には、各係合受け部15と当接するように、3つの位置決め用の係合部17が、移動枠14の円周方向に120゜ずつ間隔を開けて形成されている。各係合部17は、その当接面17aで各係合受け部15の当接受け面15aと当接するように構成されている。
また、図3に示すように、これら3組の当接面17a及び当接受け面15aは、移動枠14が、像振れ補正用レンズ16の光軸と撮像用レンズ8の光軸が一致した状態で回転されたとき同時に当接するように形成されている。即ち、3組の位置決め当接面17a及び当接受け面15aが夫々同時に当接するように移動枠14を移動させることにより、移動枠14は機械的に図3に示す所定の係止位置に位置決めされる。
ここで、各当接面17a及び当接受け面15aは、光軸を中心とする円の半径方向に向けられた平面として形成されているが、当接する平面には不可避な形状誤差が存在するため、微視的には各当接面17aと当接受け面15aは点接触に近い状態で接触することになる。従って、移動枠14の位置は、2組の当接面17a及び当接受け面15aにより完全に規定されることはなく、もう1組の当接面17a及び当接受け面15aが当接することによって係止位置は一意的に規定されるようになる。また、係止位置においては、像振れ補正用レンズ16の光軸と撮像用レンズ8の光軸が一致する。
さらに、図2及び図3に示すように、固定枠12には、磁力吸着手段である3つの係止用磁性材23a、23b、23cが、固定枠12の円周方向に120゜ずつ間隔を開けて配置されている。各係止用磁性材は、図3に示す係止位置においては、各駆動用磁石との間に働く吸着力により、移動枠14を図3における時計回りに回転させる回転力を作用させる。この回転力により、各当接面17aは各当接受け面15aに押し付けられ、移動枠14は係止位置に係止される。従って、本実施形態においては、駆動用磁石22a、22b、22cは磁力吸着手段の一部としても機能する。また、移動枠14の通常作動領域においては、各駆動用磁石と各係止用磁性材は十分に離れているため、それらの間に作用する吸着力は、ほぼゼロとなる。
次に、図2乃至図4を参照して、スチールボール18による移動枠14の支持機構を説明する。
図2及び図3に示すように、3つのスチールボール18は、固定枠12と移動枠14の間に夫々配置されている。3つのスチールボール18は、夫々、中心角120゜の間隔を隔てて配置され、各スチールボール18が、各駆動用コイルの間に位置するように配置されている。図4に示すように、各スチールボール18は、移動枠14の、各スチールボール18に対応する位置に埋め込まれた吸着用磁石30によって、移動枠14に吸着されている。各スチールボール18は吸着用磁石30によって移動枠14に吸着され、移動枠14は駆動用磁石22によって固定枠12に吸着されるので、各スチールボール18は固定枠12と移動枠14の間に挟持されることになる。これにより、移動枠14は固定枠12に平行な平面上に支持され、各スチールボール18が挟持されながら転がることによって、移動枠14の固定枠12に対する任意の方向の並進運動及び回転運動が許容される。
また、本実施形態においては、スチールボール18として鋼製の球体を使用しているが、スチールボール18は必ずしも球体でなくても良い。即ち、アクチュエータ10の作動中において固定枠12及び移動枠14と接触する部分が概ね球面の形状を有する形態であればスチールボール18として使用することができる。なお、本明細書において、このような形態を球状体という。
次に、図9を参照して、制御手段であるコントローラ36の構成、及びアクチュエータ10による像振れ防止制御を説明する。図9は、コントローラ36における信号処理を示すブロック図である。図9に示すように、コントローラ36には、2つのジャイロ34a、34bによって夫々検出された角速度信号が入力されるバッファーアンプ37a、37bと、レンズ位置指令信号生成手段である演算回路38a、38bと、コイル位置指令信号生成手段である演算回路40a、40b、40cと、駆動回路44a、44b、44cが内蔵されている。
図9に示すように、レンズユニット2の振動は、2つのジャイロ34a、34bによって時々刻々検出され、バッファーアンプ37a、37bを介してレンズ位置指令信号生成手段である演算回路38a、38bに入力される。本実施形態においては、ジャイロ34aはレンズユニット2のヨーイング運動の角速度を、ジャイロ34bはピッチング運動の角速度を夫々検出するように構成され、配置されている。なお、バッファーアンプ37a、37bと演算回路38a、38bの間に設けられた切換スイッチ46は、像振れ防止制御時においては、常に、各バッファーアンプと各演算回路を直結する位置に切り換えられている。
バッファーアンプ37a、37bは、ジャイロ34a、34bによって夫々検出された角速度信号を所定の倍率に増幅するように構成されている。
演算回路38a、38bは、ジャイロ34a、34bからバッファーアンプ37a、37bを介して時々刻々入力される角速度に基づいて、像振れ補正用レンズ16を移動させるべき位置を時系列で指令する位置指令信号であるレンズ位置指令信号を生成する。すなわち、演算回路38aは、ジャイロ34aによって検出されるヨーイング運動の角速度を時間積分し、所定の光学特性補正を行うことによってレンズ位置指令信号の水平方向成分Dxを生成し、同様に、演算回路38bは、ジャイロ34bによって検出されるピッチング運動の角速度に基づいてレンズ位置指令信号の鉛直方向成分Dyを生成するように構成されている。このようにして得られたレンズ位置指令信号に従って、像振れ補正用レンズ16を時々刻々移動させることにより、写真撮影の露光中にレンズユニット2が振動した場合にも、カメラ本体4内のフィルム面Fに合焦される像は乱れることなく安定化される。
コントローラ36に内蔵されたコイル位置指令信号生成手段は、演算回路38a、38bによって生成されたレンズ位置指令信号に基づいて、各駆動用コイルに対する位置指令信号であるコイル位置指令信号を生成するように構成されている。コイル位置指令信号は、像振れ補正用レンズ16をレンズ位置指令信号で指定された位置へ移動させたときの、各駆動用コイル20a、20b、20cとそれに対応した駆動用磁石22a、22b、22cの位置関係を表す信号である。すなわち、各駆動用磁石が、各駆動用コイルに対するコイル位置指令信号によって指令された位置に移動されると、その結果、像振れ補正用レンズ16は、レンズ位置指令信号によって指令された位置へ移動される。本実施形態においては、駆動用コイル20aが光軸の鉛直上方に設けられているので、駆動用コイル20aに対するコイル位置指令信号raは、演算回路38aから出力されるレンズ位置指令信号の水平方向成分Dxと等しくなる。従って、駆動用コイル20aに対するコイル位置指令信号を生成するコイル位置指令信号生成手段である演算回路40aは、演算回路38aから出力をそのまま出力する。一方、駆動用コイル20b、20cに対するコイル位置指令信号rb、rcは、レンズ位置指令信号の水平方向成分Dx及び鉛直方向成分Dyに基づいて、コイル位置指令信号生成手段である演算回路40b、40cによって生成される。
一方、ホール素子24a、24b、24cによって測定された、各駆動用コイルに対する駆動用磁石の移動量は、第2モード制御手段である係止位置移動手段48に内蔵された磁気センサアンプ50によって所定の倍率に増幅される。駆動回路44a、44b、44cは、演算回路40a、40b、40cから出力された各コイル位置指令信号ra、rb、rcと、磁気センサアンプ50から出力された信号との差に比例した電流を各駆動用コイル20a、20b、20cに流す。従って、コイル位置指令信号と各磁気センサアンプからの出力に差がなくなると、即ち、各駆動用磁石がコイル位置指令信号によって指令された位置に到達すると、各駆動用コイルには電流が流れなくなり、駆動用磁石に作用する駆動力がゼロになる。
係止位置移動手段48及び磁気センサアンプ50の構成、作用については後述する。なお、磁気センサアンプ50は、像振れ防止制御時においては、ホール素子24a、24b、24cの出力を単に所定の倍率に増幅するように作用する。
次に、図10を参照して、移動枠14を並進運動させる場合における、レンズ位置指令信号とコイル位置指令信号との関係を説明する。図10は、固定枠12上に配置された駆動用コイル20a、20b、20c、及び移動枠14上に配置された駆動用磁石22a、22b、22cの位置関係を示す図である。まず、3つの駆動用コイル20a、20b、20cは、その中心点が、点Qを原点とする半径Rの円周上の点Sa、Sb、Sc上に夫々配置されている。また、各ホール素子24a、24b、24cも、それらの感度中心点Sが点Sa、Sb、Sc上に位置するように夫々配置されている。さらに、移動枠14が動作中心位置にある場合には、像振れ補正用レンズ16の中心と撮像用レンズ8の光軸が一致し、各駆動用コイルに対応した各駆動用磁石の着磁境界線Cの中点も夫々点Sa、Sb、Sc上に位置し、各着磁境界線Cは、点Qを中心とする円の半径方向に向けられる。移動枠14は、この動作中心位置を中心に並進移動され、像振れ防止制御が実行される。
次に、点Qを原点とする水平軸線をX軸、鉛直軸線をY軸とし、図10に実線で示すように、画像安定化用レンズ16の中心点Q1が、Y軸方向にDy、X軸方向に−Dx並進移動された場合を考える。移動枠14をこのように移動させると、各駆動用磁石22a、22b、22cの着磁境界線Cは、図10に一点鎖線で示された位置に移動される。ここで、駆動用磁石22aの着磁境界線Cと点Saとの間の距離をra、駆動用磁石22bの着磁境界線Cと点Sbとの間の距離をrb、駆動用磁石22cの着磁境界線Cと点Scとの間の距離をrcとする。この距離ra、rb、rcは、画像安定化用レンズ16をY軸方向にDy、X軸方向に−Dx移動させたとき、各ホール素子24a、24b、24cによって検出される移動距離に該当する。これらの距離ra、rb、rcは、X軸方向、Y軸方向の移動距離Dx、Dyに対して一意的に決定されるものである。従って、画像安定化用レンズ16をX軸方向、Y軸方向に夫々Dx、Dy移動させるためには、これに対応した距離ra、rb、rcをコイル位置指令信号として与えればよい。
ここで、各距離ra、rb、rcの正の方向を図10に矢印a、b、cで示すように定義すると、ra、rb、rcと、Dx、Dyの関係は次の(数式1)で与えられる。
図9において説明した演算手段40は、夫々上記数式1に対応する演算を実行して、各コイル位置指令信号を生成している。
次に、移動枠14を回転運動させる場合におけるコイル位置指令信号を説明する。移動枠14を回転運動させるには、各コイル位置指令信号として同一の値を与えればよい。即ち、移動枠14を角度θ[rad]だけ時計回りに回転させるための各コイル位置指令信号は、
によって与えられる。このように、各駆動用磁石が各駆動用コイルに対して同一距離接線方向に移動されることにより、移動枠14は、像振れ補正用レンズ16の光軸と撮像用レンズ8の光軸が一致した状態を保持しながら、光軸を中心に回転される。
次に、図9及び図11を参照して、係止位置移動手段48の構成を説明する。図11は、係止位置移動手段48に内蔵されている磁気センサアンプ50の回路の一例を示す図である。
図9に示すように、第2モード制御手段である係止位置移動手段48は、各ホール素子24a、24b、24cの出力信号が入力される磁気センサアンプ50と、この磁気センサアンプ50の出力をオフセットさせるオフセット信号を出力するD/A変換器52aと、所定のオフセット信号のデータを記憶したデジタルデータ生成手段であるメモリ52bと、を有する。さらに、係止位置移動手段48は、コントローラ36に内蔵された切換スイッチ46を切り換えるスイッチ切換手段54aと、切換スイッチ46の一方の端子に、角速度ゼロに対応する定電圧を供給する定電圧供給手段54bと、を有する。
メモリ52bには、所定のオフセット量を時系列で与えるデジタルデータが格納されており、D/A変換器52aは、このデータを読み出して所定のオフセット電圧波形を出力するように構成されている。
スイッチ切換手段54aは、切換スイッチ46を、バッファーアンプ37a、37bと演算回路38a、38bを直結する位置、又は、定電圧供給手段54bと演算回路38a、38bを接続する位置に切り換えるように構成されている。スイッチ切換手段54aは、切換スイッチ46を、像振れ防止制御時においては、バッファーアンプと演算回路が直結される位置に切り換え、移動枠14の係止位置への移動時においては、定電圧供給手段54bが演算回路に接続される位置に切り換えるように構成されている。
また、定電圧供給手段54bは、ジャイロ34a、34bが角速度ゼロを検出している際の出力電圧に相当する電圧を出力するように構成されている。このため、定電圧供給手段54bと演算回路38a、38bが接続されている場合には、コントローラ36は、レンズユニット2が静止している場合と同様に作用する。即ち、演算回路38a、38bは、レンズ位置指令信号Dx、Dyとして、夫々ゼロを出力し、演算回路40a、40b、40cは、コイル位置指令信号ra、rb、rcとして夫々ゼロを出力する。
図11に示すように、磁気センサアンプ50は、6つのオペアンプOP11〜OP32、及び18本の電気抵抗器R11〜R36を有する。なお、図11においては、電源回路等、磁気センサアンプの付属的な回路は省略されている。また、各ホール素子24a、24b、24cは、1〜4番の4つの端子を有し、1番、3番の端子は、+3Vの電源、GNDに夫々接続されている。さらに、ホール素子の検出信号は、2番、4番端子の間に差信号として出力される。
ホール素子24aの2番端子は、電気抵抗器R11を介してオペアンプOP11のマイナス入力端子に接続されている。一方、ホール素子24aの4番端子は、電気抵抗器R12を介してオペアンプOP11のプラス入力端子に接続されている。また、オペアンプOP11の出力端子は、電気抵抗器R13を介してオペアンプOP11のマイナス入力端子に接続されている。さらに、オペアンプOP11のプラス入力端子は、電気抵抗器R14を介して1.5Vの基準電圧に接続されている。なお、オペアンプOP11には、3Vの電源電圧が印加されている。これらのオペアンプOP11及び電気抵抗器R11〜R14は、初段の作動アンプを構成している。
次に、オペアンプOP11の出力端子は、オペアンプOP12のプラス入力端子に接続されている。また、オペアンプOP12のマイナス入力端子は、電気抵抗器R15を介してD/A変換器52aの出力端子に接続されている。さらに、オペアンプOP12の出力端子は、電気抵抗器R16を介してオペアンプOP12のマイナス入力端子に接続されている。なお、オペアンプOP12には、3Vの電源電圧が印加されている。これらのオペアンプOP12及び電気抵抗器R15、R16は2段目の非反転アンプを構成する。なお、D/A変換器52aは、像振れ防止制御時においては、常に、基準電圧である1.5Vを出力するように構成されており、この場合には、2段目の非反転アンプは初段の作動アンプの出力を更に所定倍率に増幅する。また、移動枠14の係止位置への移動時においては、D/A変換器52aから所定のオフセット電圧波形が出力され、これにより、非反転アンプの出力は、オフセット電圧波形に従ってオフセットされる。
なお、ここでは、ホール素子24aに接続されている作動アンプ及び非反転アンプの構成を説明したが、他のホール素子に接続されている作動アンプ及び非反転アンプも同様に構成されている。
次に、図1及び図9を参照して、本発明の実施形態によるカメラ1の像振れ防止制御時における作用を説明する。まず、カメラ1の手ブレ防止機能の起動スイッチ(図示せず)をオンにすることにより、レンズユニット2に備えられたアクチュエータ10が作動される。レンズユニット2に取り付けられたジャイロ34a、34bは、所定周波数帯域の振動を時々刻々検出し、検出信号をバッファーアンプ37a、37bを介して演算回路38a、38bに出力する。ジャイロ34aはレンズユニット2のヨーイング方向の角速度の信号を演算回路38aに出力し、ジャイロ34bはピッチング方向の角速度の信号を演算回路38bに出力する。演算回路38aは、入力された角速度信号を時間積分して、ヨーイング角度を算出し、これに所定の光学特性補正を加えて水平方向のレンズ位置指令信号Dxを生成する。同様に、演算回路38bは、入力された角速度信号を時間積分して、ピッチング角度を算出し、これに所定の光学特性補正を加えて鉛直方向のレンズ位置指令信号Dyを生成する。演算回路38a、38bによって時系列で出力されるレンズ位置指令信号によって指令される位置に、像振れ補正用レンズ16を時々刻々移動させることによって、カメラ本体4のフィルム面Fに合焦される像が安定化される。
演算回路38aによって出力された水平方向のレンズ位置指令信号Dxは、演算回路40aを介して、駆動用コイル20aに対するコイル位置指令信号raとして出力される。また、演算回路40bには、水平方向のレンズ位置指令信号Dx及び鉛直方向のレンズ位置指令信号Dyが入力され、数式1の中段の式に基づいて駆動用コイル20bに対するコイル位置指令信号rbが生成される。同様に、演算回路40cには、レンズ位置指令信号Dx、Dyが入力され、数式1の下段の式に基づいて駆動用コイル20cに対するコイル位置指令信号rcが生成される。
一方、駆動用コイル20aに対応するホール素子24aは、係止位置移動手段48に内蔵された磁気センサアンプ50に検出信号を出力する。磁気センサアンプ50は、像振れ防止制御時においては、入力された信号を所定倍率に増幅して出力する。磁気センサアンプ50によって増幅された検出信号は、駆動用コイル20aに対するコイル位置指令信号raから差し引かれ、これらの差に比例した電流が、駆動回路44aを介して駆動用コイル20aに出力される。同様に、ホール素子24bの検出信号とコイル位置指令信号rbの差に比例した電流が駆動回路44bを介して駆動用コイル20bに出力され、ホール素子24cの検出信号とコイル位置指令信号rcの差に比例した電流が駆動回路44cを介して駆動用コイル20cに出力される。
上述したように、各駆動用コイルに電流が流れることにより、電流に比例した駆動力が発生する。即ち、各駆動用コイルに電流が流れることにより各駆動用コイルに対応して配置された各駆動用磁石は夫々、コイル位置指令信号ra、rb、rcによって指定された位置に近づく方向の駆動力を受け、移動枠14が移動される。駆動用磁石が、この駆動力によってコイル位置指令信号により指定された位置に到達すると、コイル位置指令信号とホール素子の検出信号が一致するので駆動回路の出力はゼロとなり、駆動力もゼロになる。また、外乱、又は、コイル位置指令信号の変化等により、各駆動用磁石がコイル位置指令信号により指定された位置から外れると、再び各駆動用コイルに電流が流され、各駆動用磁石はコイル位置指令信号によって指定された位置に戻される。
以上の作用が時々刻々繰り返されることにより、各駆動用磁石を有する移動枠14に取り付けられた像振れ補正用レンズ16が、レンズ位置指令信号に追従するように移動される。これにより、カメラ本体4のフィルム面Fに合焦される像が安定化される。
次に、図12乃至図14を更に参照して、アクチュエータ10の移動枠14を係止位置に移動させる作用を説明する。図12は、移動枠14を係止位置に移動させる際の各部の信号を示すタイミングチャートである。即ち、図12の最上段は切換スイッチ46の切り換え状態を示すチャートであり、2段目は像振れ補正用レンズ16の光軸と、他の撮像用レンズ8の光軸との間の距離を表すチャートであり、3段目はホール素子24aからの出力信号を表すチャートであり、4段目はD/A変換器52aからの出力信号を表すチャートであり、最下段は、磁気センサアンプ50からの出力信号を表すチャートである。また、図13は、係止位置における駆動用コイル20a、駆動用磁石22a、及び係止用磁性材23aの位置関係を示す側面断面図であり、図14は正面図である。
まず、レンズユニット2に設けられた係止スイッチ(図示せず)がオンにされると、係止位置移動手段48に内蔵されたスイッチ切換手段54aは、コントローラ36の切換スイッチ46に信号を送る(図9)。これにより、切換スイッチ46は、バッファーアンプ37a、37bと演算回路38a、38bが直結される位置から、定電圧供給手段54bと演算回路38a、38bが接続される位置に切り換えられる。即ち、図12の最上段に示すように、切換スイッチ46は、時刻t1において、係止移動位置に切り換えられる。
定電圧供給手段54bと演算回路38a、38bが接続されると、演算回路38a、38bには、レンズユニット2が静止している場合と同等の信号電圧が入力される。これにより、演算回路38a、38bは、移動枠14を図2に示す像振れ防止制御の動作中心位置に移動させるレンズ位置指令信号Dx、Dyを出力する。コントローラ36は、このレンズ位置指令信号Dx、Dyに従って、移動枠14を像振れ防止制御の動作中心位置に移動させる。即ち、図12の2段目のチャートに示すように、像振れ補正用レンズ16の光軸が他の撮像用レンズ8の光軸と一致するように移動枠14が移動される。
図12に示すように、時刻t1において切換スイッチ46が切り換えられると、移動枠14は像振れ防止制御の動作中心位置に移動され、これに伴いホール素子24aの出力電圧(ホール素子24aの2番端子と4番端子の電位差)はゼロに収束する(図12の3段目のチャート)。一方、D/A変換器52aは、時刻t1から所定時間経過した後の時刻t2までは、基準電圧(1.5V)を出力する(図12の4段目のチャート)。従って、この期間においては、磁気センサアンプ50の出力がオフセットされることはなく、磁気センサアンプ50の出力電圧波形は、ホール素子24aの出力電圧波形と相似形になる(図12の5段目のチャート)。
移動枠14は、時刻t1の所定時間後の時刻t2までには、像振れ防止制御の動作中心位置に移動される。従って、時刻t2においては、像振れ補正用レンズ16の光軸と他の撮像用レンズ8の光軸は一致し、ホール素子24aの出力電圧はゼロとなり、D/A変換器52a及び磁気センサアンプ50の出力電圧は基準電圧となっている。また、図12には図示していないが、時刻t2においては、他のホール素子24b、24cの出力電圧もゼロとなっている。
次に、D/A変換器52aは、時刻t2になると、メモリ52bに記憶されている波形データに基づいて、所定のオフセット電圧波形を出力する(図12の4段目のチャート)。D/A変換器52aからオフセット電圧が出力されると、磁気センサアンプ50の出力は、ホール素子24aの出力電圧がゼロに維持されている場合においても、オフセット電圧分オフセットされる。これにより、磁気センサアンプ50のホール素子24aに対応する出力とコイル位置指令信号raとの間に差が発生し、駆動用コイル20aに電流が流れるようになる。また、磁気センサアンプ50のホール素子24b、24cに対応する出力も同様にオフセットされるので、これらの出力とコイル位置指令信号rb、rcとの間にも差が発生し、駆動用コイル20b、20cにも同様の電流が流れるようになる。
各駆動用コイルに同一の電流が流れることにより、移動枠14を、光軸を中心に回転させる駆動力が発生し、移動枠14が回転移動される。この移動枠14の回転により、ホール素子24a、24b、24cの出力は、D/A変換器52aからのオフセット電圧波形に追従するように変化される(図12の3、4段目のチャート参照)。このように、各ホール素子の出力は、オフセット電圧波形に追従するように変化されるので、磁気センサアンプ50の各出力は、各ホール素子の出力電圧に関わらず基準電圧付近に維持される(図12の最下段のチャート参照)。換言すれば、移動枠14が大きく回転移動されることにより各ホール素子の出力が大きく変化した場合においても、各ホール素子の出力変化は、D/A変換器52aから出力されるオフセット電圧波形によって相殺され、磁気センサアンプ50の各出力は基準電圧付近に維持される。
次いで、時刻t3において、D/A変換器52aの出力は所定の最大オフセット電圧に到達し、以後、その値に維持される。移動枠14は、D/A変換器52aのオフセット電圧波形に追従するように回転移動されることにより、時刻t3において、図3に示す係止位置まで時計回りに回転される。なお、図12に示すように、オフセット電圧とホール素子の出力は比例関係になるが、オフセット電圧と移動枠14の回転移動量は比例関係にはならない。これは、図6(a)を参照して説明したように、移動枠14の回転移動量と各ホール素子の出力が完全には比例しないためである。
移動枠14は、時計回りに図3に示す係止位置まで回転されると、各係合部17の当接面17aと、各係合受け部15の当接受け面15aが夫々当接され、移動枠14が固定枠12に対して係止される。
また、この係止位置においては、図13及び図14に示すように、駆動用磁石22aの第1磁石部22a1と係止用磁性材23aが接近するため、駆動用磁石22aが図13における右方向に引きつけられる。同様に、駆動用磁石22b、22cの第1磁石部22b1、22c1も、係止用磁性材23b、23cに引きつけられ、これらの吸着力により、移動枠14は図3における時計回りの回転力を受ける。この回転力により、各係合部17の当接面17aは、各係合受け部15の当接受け面15aに押し付けられ、移動枠14は係止位置に保持される。
一方、移動枠14を係止位置から像振れ防止制御領域に復帰させる場合には、係止位置移動手段48は、係止位置への移動時とは逆向きのオフセット電圧波形をD/A変換器52aから出力させる。即ち、この場合には、D/A変換器52aは、メモリ52bに予め記憶されている最大オフセット電圧から基準電圧に変化する所定のオフセット電圧波形を出力する。これにより、移動枠14は、各ホール素子からの出力がオフセット電圧波形に追従するように反時計回りに回転移動され、各駆動用磁石が各係止用磁性材引き離される。これにより、移動枠14は、図3に示す係止位置から、図2に示す像振れ防止制御の動作中心位置に復帰される。
移動枠14が動作中心位置に復帰された後、D/A変換器52aの出力は基準電圧に維持されると共に、係止位置移動手段48は、切換スイッチ46を、バッファーアンプ37a、37bと演算回路38a、38bが夫々直結される位置に切り換える。これにより、カメラ1は像振れ防止制御モードに復帰される。
本発明の実施形態のカメラによれば、第2モードの制御時である係止位置への移動時において、移動枠が大きく変位された場合でも、ホール素子から係止位置移動手段を介してコントローラに入力される信号レベルを低く抑えることができる。従って、コントローラに入力可能な位置信号の信号レベルを狭く設計することを可能にしながら、移動枠を広い範囲に移動させることができる。さらに、移動枠の移動可能範囲を広げることによる像振れ防止制御の精度低下や、消費電力の増大を防止することができる。
また、本実施形態のカメラによれば、像振れ補正用レンズの光軸と他の撮像用レンズの光軸が一致する位置に係止位置が設定されているので、移動枠を係止位置に移動させる際、各レンズの光軸がほぼ一致した状態を維持することができる。これにより、係止位置への移動時に、撮像面に形成される像が大きく振れることはなく、使用者に違和感を与えることがない。
さらに、本実施形態のカメラによれば、各ホール素子からの出力信号を同様にオフセットさせることにより移動枠が回転されるので、単純な構成でオフセット電圧信号を生成することができる。
また、本実施形態のカメラによれば、ホール素子が駆動用磁石の磁気を検出して、位置検出するので、駆動用磁石を位置検出にも利用することができる。これにより、アクチュエータの構成を簡単にすることができると共に、アクチュエータを小型化することができる。
また、本実施形態のカメラによれば、ホール素子が撮像用レンズの光軸を中心とする円のほぼ円周方向の変位を検出するので、各ホール素子の出力により移動枠の回転移動を検出することができると共に、各ホール素子の出力を組み合わせて演算することにより移動枠の並進移動を検出することができる。
さらに、本実施形態のカメラによれば、移動枠自体が回転移動され、係止されるので、ロックリング等の特別な部材及びこれを駆動するためのアクチュエータを設けることなく、移動枠を係止することができる。
また、本実施形態のカメラによれば、移動枠の像振れ補正制御領域から十分に離れた位置に係止位置が設定されているので、像振れ補正制御時において、係合部と係合受け部が干渉することがない。
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、上述した実施形態に種々の変更を加えることができる。特に、上述した実施形態では、本発明をフィルムカメラに適用していたが、本発明は、デジタルカメラ、ビデオカメラ等、静止画又は動画撮像用の任意のカメラに適用することができる。また、本発明を、これらのカメラのカメラ本体と共に使用されるレンズユニットに適用することもできる。
また、上述した実施形態では、第2モードの制御により、移動枠は係止位置に移動され、この係止位置において、駆動用磁石と係止用磁性材との間の吸着力により移動枠が係止されていた。しかしながら、係止位置において移動枠の係止を行わず、移動枠を係止位置に単に位置決めするだけでも良い。この場合には、第2モードの制御により、移動枠は所定の位置決め位置に移動され、この機械的に位置決めされた位置決め位置に基づいて、位置検出手段等の較正を行うことができる。
さらに、上述した実施形態では、コントローラは、アナログ回路により各駆動用コイルに流す電流を制御していたが、デジタル処理により制御を実行するように構成することもできる。この場合には、係止位置移動手段を介して入力されるホール素子からの信号が、コントローラに内蔵されたA/D変換器を介して入力されるようにコントローラを構成することができる。コントローラをこのように構成した場合には、移動枠の広範囲の移動を可能にしながら、像振れ防止制御時におけるA/D変換器の高分解能を確保することができる。
また、上述した実施形態では、係止位置移動時において、係止位置移動手段は、角速度=0に相当するレンズ位置指令信号をコントローラに付与していたが、コントローラに付与するレンズ位置指令信号は、任意に設定することができる。或いは、付与するレンズ位置指令信号を所定範囲で変化する任意の信号にすることもできる。この場合には、付与するレンズ位置指令信号に応じてオフセット電圧信号を設定しておき、これらが重畳された信号により移動枠が係止位置へ移動されるように係止位置移動手段を構成することができる。
さらに、上述した実施形態では、オフセット電圧波形を、D/A変換器及びメモリによって生成していたが、変形例として、アナログ回路によりオフセット電圧波形を生成することもできる。図15は、このようなオフセット電圧波形を生成するアナログ回路の一例である時定数回路の回路図であり、図16は、この回路の出力波形を示すグラフである。
図15に示すように、時定数回路60は、オペアンプOP1と、電気抵抗器R1、R2と、コンデンサC1と、を有する。さらに、この時定数回路60には、スイッチ素子であるアナログスイッチ62が接続されている。電気抵抗器R1の一方の端子は3Vの電源に接続され、他方の端子は電気抵抗器R2の一方の端子に接続されている。また、電気抵抗器R2の他方の端子は、アナログスイッチ62を介してアースされている。さらに、コンデンサC1が、電気抵抗器R1と並列に接続されている。なお、本変形例においては、電気抵抗器R1、R2は同一の抵抗値に設定されている。また、オペアンプOP1のプラス入力端子は、電気抵抗器R1とR2が接続されている点に接続され、オペアンプOP1の出力端子は、マイナス入力端子に接続されている。
次に、図16を参照して、時定数回路60の作用を説明する。
まず、図16(a)に示すように、アナログスイッチ62がオンにされている場合には、3Vの電源から電気抵抗器R1、R2及びアナログスイッチ62を介してアースに電流が流れる。これにより、電源電圧は電気抵抗器R1、R2によって分圧され、電気抵抗器R1とR2の接続点の電圧は約1.5Vになる。この電圧はオペアンプOP1に入力され、時定数回路60からそのまま出力される。次に、時刻t0において、アナログスイッチ62がオフにされると、電源からアースへ流れる電流が遮断される。これにより、電気抵抗器R1とR2の接続点の電圧は、電気抵抗器R1とコンデンサC1によって設定される時定数に従い、約3Vまで漸増する。この電圧の変化は、オペアンプOP1を介してそのまま出力される。この時定数回路60の出力波形により、移動枠14は、像振れ防止制御の動作中心位置から、係止位置に移動される。
一方、移動枠14を係止位置から像振れ防止制御の動作中心位置に復帰させる場合には、アナログスイッチ62をオフの状態からオンの状態に切り換える。図16(b)に示すように、アナログスイッチ62がオフにされている場合には、電気抵抗器R1には殆ど電流が流れないため、電気抵抗器R1における電圧降下は発生しない。従って、電気抵抗器R1とR2の接続点の電圧は電源電圧とほぼ等しくなり、この電圧がオペアンプOP1を介して出力される。次に、時刻t0において、アナログスイッチ62がオンにされると、電源からアースに電流が流れる。これにより、電気抵抗器R1とR2の接続点の電圧は、電気抵抗器R1とコンデンサC1によって設定される時定数に従い、約1.5Vまで漸減する。この電圧の変化は、オペアンプOP1を介してそのまま出力される。この時定数回路60の出力波形により、移動枠14は、係止位置から像振れ防止制御の動作中心位置に移動される。