本実施形態に係る2軸角速度センサは、枠体に対して周方向に回動可能に支持されたディスク状の揺動体と、揺動体が含まれる平面内に存在し、且つ、該平面の法線周りに回転する揺動軸周りに揺動体を揺動させる駆動手段と、揺動体に連結され、且つ、揺動体が周方向に回動すると、揺動体と連動して回動する回動体と、回動体に支持された一方の電極、及び、枠体に支持された他方の電極を有する角速度検出電極と、角速度検出電極の一方の電極と他方の電極との間の静電容量の変動量を測定する測定手段と、揺動軸の方向を検出する方向検出手段と、方向検出手段によって検出された揺動軸の方向に基づいて、測定手段によって測定された変動量から、揺動体が含まれる平面と平行な第1軸周りの第1軸角速度に対応する変動量、及び、揺動体が含まれる平面と平行であり、且つ、第1軸方向に垂直な第2軸周りの第2軸角速度に対応する変動量を出力する出力手段とを備える。
駆動手段は、静電力を利用して、揺動体が含まれる平面と平行な第3軸周りに揺動体を揺動させる第1駆動電極と、静電力を利用して、揺動体が含まれる平面と平行であり、且つ、第3軸に垂直な第4軸周りに揺動体を揺動させる第2駆動電極と、揺動体の第3軸周りの揺動と揺動体の第4軸周りの揺動との位相が90°異なるように、第1駆動電極と第2駆動電極とに交流電圧を印加する交流電源とを備える。
方向検出手段は、揺動体に支持された一方の電極、及び、枠体に支持され、揺動体の法線方向に沿った位置が一方の電極と異なる他方の電極を有する方向検出電極と、方向検出電極の一方の電極と他方の電極との間の静電容量に基づいて揺動軸の方向を検出する検出手段とを具備し、出力手段は、検出手段の検出結果に基づいて、測定手段によって測定された変動量から第1軸角速度に対応する変動量を抽出するための第1検波波、及び、第2軸角速度に対応する変動量を抽出するための第1検波波と位相が90°異なる第2検波波を生成する検波波生成手段と、第1検波波に基づいて、測定手段によって測定された変動量から第1軸角速度に対応する変動量を、第2検波波に基づいて、測定手段によって測定された変動量から第2軸角速度に対応する変動量を抽出する抽出手段とを具備する。
図2は、本実施形態に係る2軸角速度センサを構成する上部ガラス層10と、シリコン層20と、下部ガラス層40との積層体の模式図である。前述した本実施形態に係る2軸角速度センサの構成要素のうち、枠体と、揺動体と、駆動手段が備える第1駆動電極及び第2駆動電極と、回動体と、角速度検出電極、方向検出手段が備える方向検出電極とは、シリコン層20に形成されている。かかるシリコン層20には、これらの他、第1ヒンジと、第2ヒンジと、第3ヒンジと、固定部とが形成されている。
シリコン層20は、シリコン層20の材料となるシリコン基板をDeepRIE(Reactive Ion Etching)処理などを含むMEMS技術を用いて加工して形成されたものである。
図3は、シリコン層20の平面図である。図3において、図2のA―A端面は、図3の二点鎖線Aで示す部分に現れる。図3に示すように、シリコン層20に形成される枠体21は、矩形状に形成されてシリコン層20の外周部を形成し、内側に円状の空間21aを有している。枠体21の上面には、上部ガラス層10が積層され、下面には、下部ガラス層40が積層されている。空間21aは、上部ガラス層10と下部ガラス層40とにより低圧の状態で封止されている。
かかる空間21aの中央部には、固定部22が配置されている。図4は、図2のA―A端面図である。図4に示すように、固定部22は、下部ガラス層40に下方から支持され、下部ガラス層40を介して枠体21に支持されている。
図3に示すように、固定部22の周囲には、揺動体23が配置されている。かかる揺動体23は、枠体21に対して周方向に回動可能に支持され、且つ、ディスク状に形成され、中央部には、固定部22が配置される円状の空間23aを有している。揺動体23は、4本の第1ヒンジ24によって、固定部22に対して周方向に回動可能に連結されている。よって、揺動体23は、固定部22を介して、枠体21に支持されている。
揺動体23の周囲には、回動体25が配置されている。かかる回動体25は、揺動体23が配置される円状の空間25aを中央部に有するディスク状に形成されている。回動体25は、揺動体23が周方向に回動すると、揺動体23と連動して周方向に回動するように、120°ずつ異なる位置に配置された3本の第2ヒンジ26によって揺動体23と連結されている。尚、第2ヒンジ26の配置位置及び数は、特に限定されないが、180°異なる2つの位置に配置することは避けるべきである。なぜならば、揺動体23が含まれる平面内に存在し、且つ、この平面の法線周りに回転する揺動軸周りに揺動体23を揺動(後述する図9に示す揺動)させることは、揺動体23が含まれる平面内に存在する直交する2軸それぞれの軸周りの揺動の固有振動数が離れていると実現が困難であるためである。2つの第2ヒンジ26を180°異なる位置に配置した場合、その2つの第2ヒンジ26に沿った方向と重なる軸周りの揺動と、その2つの第2ヒンジ26に沿った方向と直交した軸周りの揺動とでは、揺動体23に発生するねじりモーメントの大きさが大きく異なって、固有振動数が大きく異なり、図9に示す揺動を実現することが困難となる。また、回動体25は、4本の第3ヒンジ27によって、枠体21に対して周方向に回動可能に連結されている。
第1駆動電極28は、静電力を利用して、揺動体23が含まれる平面と平行な第3軸(図3のT軸)周りに揺動体23を揺動させる。一方、第2駆動電極29は、静電力を利用して、揺動体23が含まれる平面と平行であり、且つ、第3軸に垂直な第4軸(図3のU軸)周りに揺動体23を揺動させる。尚、本実施形態では、第3軸周りの揺動体23の固有振動数及び第4軸周りの揺動体23の固有振動数は同一であるとする。
第1駆動電極28は、揺動体23に支持された一方の電極281と枠体21に支持された他方の電極282とを有している。一方の電極281は、揺動体23の内周部に形成されている。かかる一方の電極281は、揺動体23の内周部から径内方向に突出した複数の枝部を備えた櫛歯状に形成されている。一方、他方の電極282は、一方の電極281から第4軸方向に離れるように、揺動体23の径内方向に所定の間隔をおいて空間23aに形成されている。かかる他方の電極282は、揺動体23の径外方向に突出した複数の枝部を備えた櫛歯状に形成されている。他方の電極282の枝部と一方の電極281の枝部とは、揺動体23の周方向(図3に示す矢印W方向)において、交互に配置されている。尚、図4に示すように、他方の電極282は、下部ガラス層40に下方から支持されており、下部ガラス層40を介して枠体21に支持されている。また、本実施形態では、第1駆動電極28は、2つ備えられ、2つの第1駆動電極28は、固定部22を挟んで互いに反対側の第4軸上の位置に形成されている。第2駆動電極29は、第1駆動電極28と形成される位置が90°異なることを除いて、第1駆動電極28と同様の構成である。
方向検出電極30は、揺動体23に支持された一方の電極301と、枠体21に支持された他方の電極302とを備える。一方の電極301は、揺動体23の外周部に形成されている。かかる一方の電極301は、揺動体23の外周部から径外方向に突出した複数の枝部を備えた櫛歯状に形成されている。一方、他方の電極302は、一方の電極301から揺動体23の径外方向に所定の間隔をおいて空間25aに形成されている。かかる他方の電極302は、揺動体23の径内方向に突出した複数の枝部を備えた櫛歯状に形成されている。他方の電極302の枝部と一方の電極301の枝部とは、揺動体23の周方向(図3に示す矢印W方向)において交互に配置されている。尚、図4に示すように、他方の電極302は、下部ガラス層40に下方から支持されており、下部ガラス層40を介して枠体21に支持されている。
図5は、図2の矢印C方向から見た方向検出電極30の側面図である。図5(a)に示すように、方向検出電極30は、一方の電極301と他方の電極302との上下方向(揺動体23が含まれる平面の法線方向(図5の矢印L方向))位置が異なる。一方の電極301及び他方の電極302の上下方向位置とは、一方の電極301及び他方の電極302の枝部の上下方向中央の上下方向位置を言う。本実施形態では、図5に示すように、一方の電極301の枝部を薄く形成することによって、一方の電極301の上下方向位置を他方の電極302の上下方向位置より低く形成している。尚、一方の電極301の上下方向位置を他方の電極302の上下方向位置より低くする他の手段としては、図5(b)に示すように、一方の電極301を全体的に他方の電極302よりも下方に配置する方法を挙げることができる。
角速度検出電極31は、図3に示すように、回動体25に支持された一方の電極311と、枠体21に支持された他方の電極312とを有している。一方の電極311は、回動体25の外周部に形成されている。他方の電極312は、一方の電極311から回動体25の径外方向に所定の間隔をおいた空間21aに形成されている。図4に示すように、他方の電極312は、下部ガラス層40に下方から支持されており、下部ガラス層40を介して枠体21に支持されている。図3に示すように、本実施形態では、このような角速度検出電極30は、90°ずつ異なる位置に4つ設けられている。
図6は図3の点線Pで囲まれた部分の拡大図であり、(a)は本実施形態の場合の、(b)は変形例の場合の点線Pで囲まれた部分の拡大図を示す。図6(a)に示すように、角速度検出電極31の一方の電極311は、回動体25の径外方向に突出した複数の枝部311aを備えた櫛歯状に形成され、同様に、他方の電極312も、回動体25の径内方向に突出した複数の枝部312aを備えた櫛歯状に形成されている。一方の電極311の枝部311aと他方の電極312の枝部312aとは回動体25の周方向に交互に配置されている。図6(a)に示すように、一方の電極311の所定の枝部311aと、当該枝部311aに隣接する他方の電極312の枝部312aとの距離は、一方の電極311の枝部311aの周方向一方側に存在する枝部312aと他方側に存在する枝部312aとで異なる。即ち、図6(a)に示すように、枝部311aの周方向一方側に存在する枝部312aとの距離(図6(a)に示す矢印V)は、周方向他方側に存在する枝部312aとの距離(図6(a)に示す矢印V’)に比べて小さく形成されている。従って、枝部311aと周方向一方側の枝部312aとの間の静電容量は、枝部311aと周方向他方側の枝部312aとの間の静電容量に比べて大きい。よって、角速度検出電極31の静電容量は、枝部311aと周方向一方側の枝部312aとの間の静電容量に大きく依存し、枝部311aと周方向他方側の枝部312aとの間の静電容量の影響を殆ど受けない。
以上の構成のシリコン層20に積層される上部ガラス層10は、シリコン層20の枠体21の上面に陽極接合等によって積層されている。図4に示すように、第1駆動電極28及び角速度検出電極31の他方の電極282、312の上面は上部ガラス層10と当接している。他方の電極282、312が当接している上部ガラス層10の各部分の中央部には、上部ガラス層10を上下に貫通するスルーホール11が形成されている。各スルーホール11は、上部ガラス層10を上下に貫通する貫通孔13を導電性の良い金属12で埋めて形成されたものである。このスルーホール11によって、第1駆動電極28及び角速度検出電極31の他方の電極282、312は、上部ガラス層10の上方と導通している。図示していないが、第2駆動電極29及び方向検出電極30の他方の電極292、302の上面も上部ガラス層10と当接し、スルーホール11によって、上部ガラス層10の上方と導通している。
尚、第1駆動電極28、第2駆動電極29、方向検出電極30及び角速度検出電極31の他方の電極282、292、302、312と上部ガラス層10の上方との導通方法として、第1駆動電極28等の他方の電極282、292、302、312にワイヤを接続して、当該ワイヤを貫通孔13を介して上部ガラス層10の上面まで引き出す方法を挙げることができる。
下部ガラス層40は、シリコン層20の枠体21の下面に陽極接合等によって積層されている。図4に示すように、下部ガラス層40は、枠体21、第1駆動電極28、角速度検出電極31の他方の電極282、312及び固定部22に対応する部分に、上方に突起して、これらを下方から支持するパッド41が形成されている。図示していないが、下部ガラス層40には、第2駆動電極29及び方向検出電極30の他方の電極292、302に対応する部分にもパッド41が形成されている。
図4に示すように、揺動体23及び回動体25と、上部ガラス層10及び下部ガラス層40との間には、空間が設けられている。図示していないが、第1ヒンジ24、第2ヒンジ26、第3ヒンジ27、第1駆動電極28、第2駆動電極29、方向検出電極30及び角速度検出電極31の一方の電極281、291、301、311と上部ガラス層10及び下部ガラス層40との間にも空間が設けられている。空間が設けられることで、揺動体23等が、上部ガラス層10及び下部ガラス層40に邪魔されることなく、動くことができる。
次に、上記したシリコン層20、上部ガラス層10及び下部ガラス層40から構成される積層体の製造方法について説明する。図7は、シリコン層20の製造工程を示したA―A端面図である。まず、図7(a)に示すように、下部ガラス層40の材料であるガラス基板40aにブラスト加工によって、上面にパッド41を形成する。
次いで、図7(b)に示すように、ガラス基板40aをシリコン層20の材料であるシリコン基板20aの下面に陽極接合によって積層する。次いで、図7(c)に示すように、シリコン基板20aのガラス基板40aが接合された面と反対面から、MEMS技術を用いて、枠体21、固定部22、揺動体23、第1ヒンジ24、回動体25、第2ヒンジ26、第3ヒンジ27、第1駆動電極28、第2駆動電極29、方向検出電極30及び角速度検出電極31を形成する。
その後、図7(d)に示すように、シリコン基板20aの枠体21の上面に上部ガラス層10の材料であるガラス基板10aを陽極接合によって積層する。尚、上部ガラス層10の材料であるガラス基板10aは、陽極接合する前に、予め、ブラスト加工等によって貫通孔13を形成しておく。そして、最後に、ガラス基板10aに形成された貫通孔13を導電性の良い金属12で埋めてスルーホール11を形成し、これにより、シリコン層20、上部ガラス層10及び下部ガラス層40から構成される積層体が完成する(図4参照)。
以上のように、枠体21、固定部22、揺動体23、第1ヒンジ24、回動体25、第2ヒンジ26、第3ヒンジ27、第1駆動電極28、第2駆動電極29、方向検出電極30及び角速度検出電極31は、全てシリコン層20に2次元的に形成され、これらが互いに重ならないように配置される。そのため、これらの形成をDeepRIE処理などを含むMEMS技術を用いて同時に且つ容易に形成することができる。
次に、本実施形態に係る2軸角速度センサの電気的な接続状態を説明する。図8は、本実施形態に係る2軸角速度センサの電気的な接続状態を示す模式図である。図8に示すように、本実施形態に係る2軸角速度センサは、直流電源5、交流電源6、第1電流測定手段7、第2電流測定手段8及び出力手段9を備える。
直流電源6は、枠体21と電線などにより電気的に接続されている。枠体21を含むシリコン層20は、導電性を有するため、直流電源6は、枠体21を介して第1駆動電極28、第2駆動電極29、方向検出電極30及び角速度検出電極31の一方の電極281、291、301、311と電気的に接続されている。また、直流電源6は、上部ガラス層10の上面において、方向検出電極30及び角速度検出電極31の他方の電極302、312を上部ガラス層10の上方と導通させるスルーホール11と電線などを介して接続されている。直流電源6は、このスルーホール11を介して方向検出電極30及び角速度検出電極31の他方の電極302、312と電気的に接続されている。
交流電源6は、第1駆動電極28及び第2駆動電極29の他方の電極282、292と電気的に接続されている。具体的には、交流電源6から導出された電線は、上部ガラス層10の上面において、第1駆動電極28及び第2駆動電極29の他方の電極282、292を上部ガラス層10の上方と導通させるスルーホール11に接続されている。よって、交流電源6は、スルーホール11を介して、第1駆動電極28及び第2駆動電極29の他方の電極282、292と電気的に接続されている。本実施形態では、交流電源6が第1駆動電極28及び第2駆動電極29の他方の電極282、292に印加する交流電圧の周波数は、第3軸及び第4軸周りの揺動体23の固有振動数の2倍である。
第1駆動電極28の他方の電極282に交流電圧が、第1駆動電極28の一方の電極281に直流電圧が印加されると、一方の電極281と他方の電極282との間に静電力が生じる。この静電力は、第1駆動電極28の他方の電極282に印加される交流電圧の増減に対応して変動する。この静電力の変動により、揺動体23を第3軸周りに揺動させる力が揺動体23に作用し、揺動体23は、かかる交流電圧の1/2の周波数、即ち、第3軸周りの揺動体23の固有振動数で共振揺動する。
また、第2駆動電極29の他方の電極292に交流電圧が、第2駆動電極29の一方の電極291に直流電圧が印加されると、一方の電極291と他方の電極292との間に静電力が生じる。この静電力は、第2駆動電極29の他方の電極292に印加される交流電圧の増減に対応して変動する。この静電力の変動により、揺動体23を第4軸周りに揺動させる力が揺動体23に作用し、揺動体23は、印加される交流電圧の1/2の周波数、即ち、第4軸周りの揺動体23の固有振動数で共振揺動する。
更に、交流電源6は、第3軸及び第4軸周りの揺動体23の揺動の位相が90°異なるように、第1駆動電極28及び第2駆動電極29の他方の電極281、292に交流電圧を印加する。第3軸及び第4軸周りの揺動体23の揺動の位相に影響を及ぼす要因として、第3軸及び第4軸周りの揺動体23の固有振動数の差と、第1駆動電極28及び第2駆動電極29の他方の電極282、292に印加される交流電圧の位相差とを挙げることができる。本実施形態では、上述のように、第3軸周り及び第4軸周りの揺動体23の固有振動数は同一である。よって、第3軸及び第4軸周りの揺動体23の位相差は、第1駆動電極28及び第2駆動電極29の他方の電極282、292に印加される交流電圧の位相差に影響される。従って、本実施形態では、交流電源6は、第1駆動電極28及び第2駆動電極29の他方の電極282、292に90°位相が異なる交流電圧を印加することで、第3軸周りの揺動体23の揺動及び第4軸周りの揺動体23の揺動の位相を90°ずらすことを実現している。
揺動体23の第3軸周り及び第4軸周りの揺動の位相が90°異なっていると、揺動体23は、励起揺動する。励起揺動とは、図9に示す揺動軸D周りに揺動する運動である(揺動軸Dは、物理的に実在せず、説明を容易とするための仮想の軸である)。図9に示すX−Y平面は、揺動体23が存在する平面である。揺動軸Dは、X−Y平面内に存在しており、揺動体23の中心部を通り、揺動体23の中心部を軸として、揺動体23の法線方向と平行なZ軸周りの一方向Z0に回転するものとする。この励起揺動では、揺動軸DのZ軸周りの回転と、揺動体23の揺動軸D周りの揺動の周期とは同じであり、即ち、揺動軸Dが一回転すると、揺動体23が一揺動する。この励起揺動の周期、即ち、揺動体23の揺動軸D周りの揺動の周期は、交流電源6によって第1駆動電極28及び第2駆動電極29の他方の電極282、292に印加される交流電圧の周期の2倍である。この励起揺動の結果、揺動体23は、図9(a)、(b)、(c)、(d)に示す状態を順番に取り、揺動体23がX―Y平面内に配置されているときに揺動体23の表面からZ軸方向に離れた所定の点Mの周りを揺動体23の法線Nが周回するように揺動する。
以上の交流電源6は、第1駆動電極28と第2駆動電極29と協同して特許請求の範囲の駆動手段を構成している。このように、第1駆動電極28と第2駆動電極29と交流電源6とで駆動手段を構成すると、この3つの構成要素のみで、揺動軸D周りに揺動体23を揺動させることができる。そのため、かかる好ましい構成によれば、本実施形態に係る2軸角速度センサの部品点数を抑えることができる。
第1電流測定手段7は、直流電源6と角速度検出電極31との間の電流を測定する。この電流は、角速度検出電極31の静電容量の変動量(変動速度)に応じた大きさである。第1電流測定手段7は、直流電源6と協同して、特許請求の範囲の測定手段を構成している。
第2電流測定手段8は、方向検出電極30の一方の電極301と他方の電極302との間の静電容量に基づいて揺動軸Dの方向を検出する。具体的には、第2電流測定手段8は、直流電源6と方向検出電極30との間の電流(以下、「変動速度電流」という場合がある)を測定することで揺動軸Dの方向を検出する。変動速度電流は、方向検出電極30の静電容量の変動速度に応じた電流である。方向検出電極30の静電容量は、方向検出電極30の一方の電極301と他方の電極302との位置関係に依存する。一方の電極301は、揺動体23に支持されており、揺動体23が励起揺動すると、励起揺動による揺動軸Dの回転に伴って上下方向に揺動する。
方向検出電極30の静電容量の変動周期は、揺動軸Dの回転周期と同一である。これは、前述のように、本実施形態においては、一方の電極301と他方の電極302との上下方向位置は異なっているためである。一方の電極301は、励起揺動に伴なう揺動の際に、他方の電極302に対して上方側に移動する場合と、下方側に移動する場合とがある。しかし、一方の電極301と他方の電極302との上下方向位置は異なっているため、一方の電極301が上方側に移動する場合と下方側に移動する場合とでは、一方の電極301と他方の電極302との位置関係の変動形態が異なる。そのため、一方の電極301が上方側に移動する場合と下方側に移動する場合とで、方向検出電極30の静電容量の変動形態が同一となることが防がれ、方向検出電極30の静電容量の変動周期が揺動軸Dの回転周期の2倍となることが防止されているためである。このように、方向検出電極30の静電容量の変動周期は、揺動軸Dの回転周期と同一であるため、方向検出電極30の静電容量は、揺動軸Dの方向と対応している。第2電流測定手段8は、方向検出電極30の静電容量に基づいて揺動軸Dの方向を検出している。
図10は本実施形態における一方の電極301の揺動の状態を示す図であり、(a)は一方の電極301が最も上方に位置した(最上位位置に位置した)ときの、(b)は一方の電極301が最も下方に位置した(最下位位置に位置した)ときの状態を示す。図10(a)に示すように、一方の電極301が、最上位位置に位置したとき、一方の電極301と他方の電極302との距離が最小となる。この距離は、一方の電極301が最上位位置から下方に移動するに従い大きくなる。一方の電極301が最下位位置に位置したときに最大となる。このように、本実施形態では、一方の電極301が上方側に移動する場合と、下方側に移動する場合とでは、一方の電極301と他方の電極302との位置関係の変動形態が異なる。図11は揺動軸Dの方向と方向検出電極30の静電容量との関係を示す説明図であり、(a)は揺動軸Dの方向の変動を、(b)は一方の電極301の上下位置の変動を、(c)は、方向検出電極30の静電容量の変動を示す。図11(b)及び(c)に示すように、方向検出電極30の静電容量は、一方の電極301が最上位位置にあるときに最大となり、一方の電極301が下方に移動するに従い減少し、一方の電極301が最下位位置にあるときに最小となる。
尚、前述のように、この変動速度電流は、方向検出電極30の静電容量の変動速度に応じた電流である。従って、変動速度電流は、図11(c)及び(d)に示すように、方向検出電極30の静電容量を微分した値となっている。本実施形態では、この第2電流測定手段8と直流電源6とで、特許請求の範囲の方向検出手段の検出手段が形成されている。
出力手段9は、検波波生成手段91と抽出手段92とを備える。検波波生成手段91は、変動速度電流に基づいて、第1電流測定手段7によって測定された電流値から、第1軸角速度に対応する電流値を抽出するための第1検波波と、第2軸角速度に対応する電流値を抽出するための第2検波波とを生成する。第1軸角速度とは、揺動体23が含まれる平面と平行な第1軸周りの角速度である。図8に示すように、第1軸Qとは、揺動体23が含まれる平面と平行であり、方向検出電極30の一方の電極301と他方の電極302とを結ぶ直線上に位置する軸である。また、第2軸角速度とは、揺動体23が含まれる平面と平行で、且つ、第1軸方向に垂直な第2軸Q周りの角速度である。尚、第1軸Qは、揺動体23が含まれる平面と平行であれば限定されるものでなく、例えば、第3軸T又は第4軸Uと同じ方向であっても良い。
検波波生成手段91には、第2電流測定手段8が測定した変動速度電流の電流値が入力される。かかる検波波生成手段91は、図12に示すように、入力された変動速度電流の電流値に基づいて第1検波波と第2検波波とを生成する。この第1検波波は、第2電流測定手段8が測定した変動速度電流と同一の位相を有し、第2電流測定手段8が測定した変動速度電流そのものであっても、変動速度電流に基づいて生成したものであってもよい。また第2検波波は、第1検波波と位相が90°異なる検波波である。
抽出手段92には、第1電流測定手段7が測定した電流値と、検波波生成手段91から第1検波波と第2検波波とが入力される。抽出手段92は、第1電流測定手段7から入力された電流値から、第1検波波を用いて、第1軸角速度に対応する電流値を、前記第2検波波を用いて、第2軸角速度に対応する電流値を抽出する。抽出手段92は、抽出した第1軸角速度及び第2軸角速度に相当する電流値を所定の出力先に出力する。出力先は、特に限定されず、例えば、電流値に基づいて角速度を算出する機器等とすることができる。尚、本実施形態では、第1電流測定手段7が測定した電流値に対して検波を行っているが、第1電流測定手段7が測定した電流値を電圧値に変換し、当該電圧値に対して検波を行うようにしてもよい。
以上に説明した本実施形態に係る2軸角速度センサを用いて、第1軸角速度及び第2軸角速度に対応した角速度検出電極31の静電容量の変動速度を出力することについて説明する。
まず、第1駆動電極28及び第2駆動電極29の他方の電極282、292に互いに位相が90°異なる交流電圧を印加し、第1駆動電極28及び第2駆動電極29の一方の電極281、291と、方向検出電極30及び角速度検出電極31の一方の電極301、311と他方の電極302、312とに直流電圧を印加する。このように電圧が印加されると、揺動体23が共振現象を利用して図9に示すように励起揺動する。
揺動体23が励起揺動すると、励起揺動に伴って、方向検出電極30の一方の電極301が上下方向に揺動する。方向検出電極30の一方の電極301が上下方向に揺動すると、前述のように、方向検出電極30の静電容量が変動する。方向検出電極30の静電容量が変動すると、変動速度電流が生じる。この変動速度電流は、第2電流測定手段8によって測定され、測定された電流値が第2電流測定手段8から検波波生成手段91に入力される。検波波生成手段91は、入力された変動速度電流に基づいて、第1検波波及び第2検波波を生成する。検波波生成手段91は、生成した第1検波波及び第2検波波を抽出手段92に入力する。
一方、図13に示すように、揺動体23が励起揺動している時に、揺動体23が含まれる平面内に存在する所定軸G周りの角速度gが発生すると、当該軸G周りの角速度gのうち、揺動軸Dと平行な軸周りの角速度成分g’の大きさに対応するコリオリ力P(図9(a)及び図13参照)が揺動体23に生じる。かかるコリオリ力Pの向きは、揺動軸D及びコリオリ力Pが生じる揺動体23の部分における揺動軸D周りの揺動の移動方向と垂直な向きである。揺動軸D周りの揺動での移動方向には、揺動体23の法線方向一方側のZ1方向と他方側のZ2方向とがあり、Z1方向とZ2方向とで、揺動体23に発生するコリオリ力Pの向きが180°異なる。即ち、図9(a)に示すように、Z1方向に移動する揺動体23の部分とZ2方向に移動する揺動体23の部分とでは、180°異なる向きのコリオリ力Pが発生する。このように、180°異なる向きのコリオリ力Pが発生することで、揺動体23は周方向(図9(a)及び図13の矢印W方向)に回転する。
揺動体23の各部分は、揺動軸D周りの揺動によって、Z1方向への移動とZ2方向への移動を繰り返すため、揺動体23の各部分に発生するコリオリ力Pの向きは、揺動軸D周りの揺動により移動する方向がZ1方向及びZ2方向に切り替わるたびに反転する。このようにコリオリ力の向きが反転することで、揺動体23は周方向に回動する。
よって、揺動体23は、励起揺動しているときに、揺動体23が含まれる平面内に含まれる所定軸周りの角速度が与えられると、与えられた角速度の揺動軸D周りの角速度成分に対応する速度で周方向に回動する。
揺動体23が周方向に回動すると、回動体25は、揺動体23と連動して回動する。即ち、回動体25は、角速度成分g’に対応する速度で周方向(図13の矢印W方向)に回動する。このように回動体25が、角速度成分g’に対応する速度で回動するため、角速度検出電極31の一方の電極301は角速度成分g’に対応する速度で回動する。よって、角速度検出電極31の一方の電極301と他方の電極302との距離は、角速度成分g’に対応する速度で変動し、角速度検出電極31の静電容量も、角速度成分g’に対応する速度で変動する。図14に示すように、角速度検出電極31の静電容量が変動すると、直流電源6と角速度検出電極31との間に、角速度検出電極31の静電容量の変動速度に応じた電流が発生する。この電流は、第1電流測定手段7によって測定される。第1電流測定手段7は、測定した電流値を抽出手段92に入力する。
抽出手段92は、第1電流測定手段7から入力された電流値から、検波波生成手段91から入力された第1検波波を用いて、第1軸角速度に対応する電流値を抽出する。また、抽出手段92は、第1電流測定手段7から入力された電流値から、検波波生成手段91から入力された第2検波波を用いて、第2軸角速度に対応する電流値を抽出する。そして、抽出手段92は、抽出した第1軸角速度に対応する電流値と、第2軸角速度に対応する電流値とを所定の出力先に出力する。
以上のように、本実施形態に係る2軸角速度センサにおいては、揺動軸Dが回転するため、揺動体23が含まれる平面内においてどの方向の軸周りの角速度が揺動体23に与えられても、与えられた角速度に対応したコリオリ力Pが生じる。そして、このコリオリ力Pにより、変動する角速度検出電極31の静電容量の変動速度を、第1軸角速度に対応する角速度検出電極31の静電容量の変動速度と第2軸角速度に対応する角速度検出電極31の静電容量の変動速度とに分離することで、どの方向の軸周りの角速度についても、第1軸成分及び第2軸成分の角速度に対応する角速度検出電極の静電容量の変動速度を出力することができる。また、本実施形態に係る2軸角速度センサは、第1軸成分及び第2軸成分の角速度に対応する角速度検出電極31の静電容量の変動速度を1つの角速度検出電極31で出力することができるので、部品点数が少なく、小型化及び低コスト化を図ることができる。
尚、本実施形態では、揺動体23の振動励起に共振現象を利用しているが、揺動体23の振動励起は共振現象を利用せずに実現しても良い。即ち、交流電源6によって第1駆動電極28及び第2駆動電極29の他方の電極282、292に印加される交流電圧の周波数は、第3軸及び第4軸周りの揺動体23の固有振動数の2倍でなくてもよい。共振現象を利用しない場合、揺動体23にコリオリ力が発生するタイミングが、共振現象を利用する場合に対して交流電圧の位相の90°分ずれる。そのため、共振現象を利用しない場合は、検波波生成手段91は、共振現象を利用する場合の第1検波波及び第2検波波に対して、位相が90°ずれた第1検波波及び第2検波波を生成する。
また、本実施形態のように、揺動体23の振動励起に共振現象を利用する場合、第1駆動電極28及び第2駆動電極29の他方の電極282、292に印加する交流電圧の周波数は、好ましくは揺動体23の固有振動数の2倍よりも少し高めとする。2倍より少し高めとすると、第1駆動電極28及び第2駆動電極29の一方の電極281、291と他方の電極282、292との間に発生する静電引力が、ばねの役割をし、揺動体23の固有振動数が高めにシフトするためである。また、この共振系は非線形性を持つために、共振点のピークよりも低周波数側が不安定になることがあり、この観点からも、交流電圧の周波数は高めに設定することが好ましい。
更に、本実施形態では、角速度検出電極31の一方の電極311と他方の電極312との枝部が回動体25の周方向に交互に配置されている。そのため、一方の電極311と他方の電極312との対向面積が大きくされている。対向面積が大きければ、例えば、揺動体23に与えられる角速度が小さく、回動体25の周方向の回動速度が小さくても、角速度検出電極31の静電容量を大きく変動させることができる。よって、小さな角速度が与えられた場合でも、角速度に対応する静電容量の変動速度を精度良く測定することができる。
また、励起揺動の周期は、交流電源6が第1駆動電極28及び第2駆動電極29に印加する交流電圧の2倍である。そのため、方向検出電極の静電容量の変動周期も交流電圧の2倍であり、第1電流測定手段7に測定される電流の変動周期も交流電圧の2倍である。よって、第1電流測定手段7に測定される電流と、交流電源6が交流電圧を印加することで発生する交流電流との間にクロストークが発生しても、ローパスフィルタなどによって容易にこれらの電流を分離できる。
また、角速度検出電極31の一方の電極311と他方の電極312との形状は、互いに対向している限りにおいて、特に限定されるものでなく、例えば、図6(b)に示すような形状でもよい。即ち、一方の電極311は、回動体25の外周部から回動体25の径外方向に延出された幹部311bと、当該幹部311bから回動体25の周方向の一方側に延出された枝部311cとから構成された電極片311dが、回動体25の外周部に沿って複数設けられた形状であってもよい。また、一方の電極311がこの形状を採る場合は、図6(b)に示すように、他方の電極302は、回動体25の径方向と平行な幹部312bと、当該幹部312bから回動体25の周方向の他方側に延出された枝部312cとから構成された電極片312dが複数設けられた形状であってもよい。
また、本実施形態では、方向検出電極30の一方の電極301の上下方向位置は他方の電極302の上下方向位置より低くすることで、揺動軸Dの回転周期と、方向検出電極30の静電容量の変動周期とを同一としている。しかしながら、方向検出電極30の静電容量の変動周期が揺動軸Dの回転周期の2倍となっても、方向検出電極30の静電容量から揺動軸Dの方向を特定できれば、方向検出電極30の一方の電極301と他方の電極302との上下方向位置を同じとしてもよい。方向検出電極30の静電容量の変動周期が揺動軸Dの回転周期の2倍となっても、方向検出電極30の静電容量から揺動軸Dの方向を特定する手段として、例えば、次の手段を挙げることができる。例えば、揺動体23の周方向の一部分の上方に第3の電極を設ける構成を挙げることができる。上方に第3の電極を設けると、揺動体23の周方向の一部分が揺動により上昇すると、第3の電極と揺動体との間の静電容量が大きくなるので、第3の電極と揺動体との間の静電容量から一方の電極301が上方に移動しているのか、下方に移動しているかを判別することができる。もちろん、第3の電極を揺動体23の周方向の一部分の下方に設けても、一方の電極301の移動方向を判別することが可能である。
本実施形態では、方向検出電極30及び角速度検出電極31の一方の電極301、311と他方の電極302、312との間に直流電圧を印加して、一方の電極301、311と他方の電極302、312とに一定の電位差を持たせている。一方の電極301、311と他方の電極302、312とに一定の電位差を持たせる方法として、例えば、シリコン層20をグランドに接続する方法を挙げることができる。
また、本実施形態では、第1駆動電極28及び第2駆動電極29の一方の電極281、291に直流電圧を印加し、第1駆動電極28及び第2駆動電極29の他方の電極282、292に交流電圧を印加して、揺動体23を揺動させる静電力を生じさせている。このように、一方の電極に281、292に直流電圧を、他方の電極282、292に交流電圧を印加すると、生じる静電力は交流電圧の振幅と直流電圧とに比例する。そうすると、第1駆動電極28及び第2駆動電極29の一方の電極281、291に大きな直流電圧を印加すると、第1駆動電極28及び第2駆動電極29の他方の電極282、292に小さな交流電圧を印加した場合であっても、揺動体23を揺動させるために必要な静電力を生じさせることができる。小さな交流電圧を用いると、直流電源6及び角速度検出電極31の他方の電極312の間と、直流電源6及び方向検出電極30の他方の電極302の間とのクロストークを抑えることができるので、角速度検出電極31の静電容量の変動速度の測定及び揺動軸Dの方向の検出を精度良く行うことができる。