JP4941138B2 - 樹脂成形体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
以上の課題に鑑み、本発明の目的は、剛性及び衝撃強度に優れる樹脂成形体及びその製造方法を提供することにある。
即ち、結晶部と非結晶部とを有するプロピレン樹脂からなる樹脂成形体であって、前記プロピレン樹脂は、その小角X線散乱法により155℃〜165℃で測定した散乱プロファイルの散乱ピークを複数個有することを特徴とする樹脂成形体に係るものである。
また、本発明は上記樹脂成形体の製造方法であって、極限粘度が6.0dl/g以上のポリプロピレンを、5質量%〜40質量%含有するプロピレン樹脂を賦形して成形体前駆体を製造する工程と、前記成形体前駆体を150℃〜170℃で熱処理する工程と、を有することを特徴とする樹脂成形体の製造方法に係るものである。
本発明に係る樹脂成形体は、結晶部と非結晶部とを有し、小角X線散乱法により155℃〜165℃で測定した散乱プロファイルのピークを、複数個有するプロピレン樹脂からなることを特徴とする。
このようなプロファイルを示すプロピレン樹脂からなる樹脂成形体では、結晶部と非結晶部の繰返し構造の周期である長周期が、複数算出される。結晶部及び非結晶部の厚みが双方ともに厚い長周期構造を形成することによって、樹脂成形体の剛性及び衝撃強度を従来よりも、より向上させることが可能となる。なお散乱プロファイルのピークの数は、2つであることが好ましい。また、結晶構造の長周期(d)は、散乱プロファイルの散乱ピークに対応する波数(以下、散乱ベクトルと称する)(q)を、d=2π/qの式に代入して求めることができる。
ここで、本発明における「結晶部」とは、樹脂成形体中に結晶として存在する部分をいう。そして「非結晶部」とは結晶以外の部分をいう。また、「散乱プロファイル」とは、後述のように小角X線散乱測定により得られる散乱強度を、散乱ベクトルの関数として表したものであり、「散乱ピーク」とは、上記散乱プロファイルをガウシアン関数で近似したときのピークをいう。
このようなピーク強度の比を有する樹脂成形体は、剛性及び衝撃強度により優れる。
上記強度比が1未満の場合、樹脂成形体の衝撃強度が不十分となる傾向にある。また、強度比が5を超えた場合、剛性が不十分となる傾向にある。
樹脂成形体を加熱する加熱装置としては、X線が通過する窓を有し、少なくとも1℃/分以上の昇温速度で昇温できる加熱装置が用いられる。なお、加熱装置は市販の装置を用いてもよい。
X線検出器は、ミリ秒の単位でX線の散乱を検出できるX線検出器であり、好ましくは、前記散乱を2次元で記録することができる2次元X線CCD検出器である。なお、X線検出器は市販の装置を用いてよい。
そして、上記のような測定方法により得られる測定結果を、散乱強度を縦軸として、また散乱角度あるいは、X線の入射波と散乱波の波数ベクトルの差として定義される散乱ベクトル(q)を横軸としてプロットすることにより、散乱プロファイルが得られる。この散乱プロファイルをガウシアン関数で近似したときの散乱ピーク位置の波数から、長周期を算出することができる。なお、数値解析ソフトウェアは市販のソフトウェアを用いてよい。
散乱ピークの観測精度の観点から、小角X線散乱の測定温度の間隔は、0.1℃〜5℃であることが好ましく、0.1℃〜1℃であることがより好ましい。
なお、波数範囲(i)及び(ii)内におけるピークの数は、それぞれ1つであることが好ましい。
本発明に係る樹脂成形体の製造方法は、成形体前駆体を製造する工程(以下、成形工程ともいう)と、この成形体前駆体を熱処理する工程(以下、熱処理工程ともいう)と、を有する。以下詳細に説明する。
また、樹脂成形体に用いられるポリプロピレンAの含有量は、プロピレン樹脂の全体を100質量%とした場合、5質量%〜40質量%であり、7.5質量%〜35.0質量%であることが好ましく、10質量%〜30質量%であることがより好ましく、12.5質量%〜25.0質量%であることが更に好ましい。含有量が5質量%未満である場合、樹脂成形体の衝撃強度が不十分となることがある。また、含有量が40質量%を超えた場合、樹脂成形体の剛性が低下することがある。
上述のように、ポリプロピレンBの極限粘度は、4.5dl/g以下であり、4.3dl/g以下であることが好ましく、4.0dl/g以下であることがより好ましい。極限粘度が4.5dl/gより大きい場合、衝撃強度の改良効果が不十分となることがある。
また、プロピレン樹脂中のポリプロピレンBの含有量は、プロピレン樹脂の全体を100質量%とした場合、60質量%〜95質量%であり、65質量%〜92.5質量%であることが好ましく、70質量%〜90質量%であることがより好ましく、75質量%〜87.5質量%であることが更に好ましい。
ここで、エチレン及び炭素数4以上のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも一種のオレフィンとプロピレンとの共重合体としては、エチレン及び炭素数4以上のα−オレフィンからなる群から選ばれる少なくとも一種のオレフィンとプロピレンとからなるプロピレン系ランダム共重合体、又は、プロピレン単独重合体とプロピレン−エチレンランダム共重合体部とを含有するプロピレン系ブロック共重合体等が挙げられる。
重合触媒としては、例えば、(a)マグネシウム、チタン、ハロゲン及び電子供与体を必須成分として含有する固体触媒成分と、(b)有機アルミニウム化合物と、(c)電子供与体成分とからなる触媒系が挙げられる。この触媒系としては、例えば、特開平1−319508号公報、特開平7−216017号公報、特開平10−212319号公報等に記載されている触媒系が挙げられる。
ポリプロピレンA及びポリプロピレンB以外の樹脂としては、例えば、エラストマー等が挙げられる。また、添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、造核剤、無機充填剤、有機充填剤等が挙げられる。
保圧時間としては、0.5秒〜60秒であることが好ましく、1秒〜50秒であることがより好ましい。また、保圧時の金型の温度としては10℃〜70℃であることが好ましく、20℃〜60℃であることが好ましい。
保圧時の圧力の測定方法は、所望の樹脂成形体の形状によって異なるが、一般的には、射出成形機に設けられている圧力計を用いて測定する。
そして熱処理時間を10分間よりも長くすることにより、機械的特性、特に衝撃強度を向上させることが可能となる。また熱処理時間を400時間よりも短くすることによりプロピレン樹脂の分解を防ぎ、十分な機械的特性を付与することが可能となる。
本発明で用いるプロピレン樹脂、又は、本発明の樹脂成形体の物性測定方法及び、製造方法を以下に示す。
ウベローデ型粘度計を用いて、溶媒としてテトラリンを用い、濃度0.1g/dl、0.2g/dl及び0.5g/dlの3点について135℃のもと還元粘度を測定した。極限粘度は、「高分子溶液、高分子実験学11」(1982年共立出版株式会社刊)第491頁に記載の計算方法、すなわち、還元粘度を濃度に対しプロットし、濃度をゼロに外挿する外挿法によって求めた。
ASTM D790に準拠し、射出成形により成形された3.2mm厚の試験片を使用して、23℃における曲げ弾性率を測定した。
JIS−K−7110に準拠し、射出成形により成形された3.2mm厚の、成形後にノッチ加工を行った試験片を使用して、23℃におけるアイゾット衝撃強度を測定した。
(4−1)小角X線散乱測定装置の構成
小角X線散乱測定装置の光学系は、光軸上に上流から樹脂成形体の加熱装置と真空パスと2次元X線CCD検出器が設置されてなる構成とした。加熱装置にはジャパンハイテック(社)の小角X線散乱装置用加熱せん断流動場印加ユニット(CSS−450NV)を用いた。2次元X線CCD検出器には浜松ホトニクス(株)の空冷式2次元X線CCD検出器(C7300)及びイメージインテンシファイアを用い、また、2次元X線CCD検出器側の真空パス側面の光軸上に10mmΦの鉛製ビームストップを設置した。
樹脂成形体を、Through View測定に対応した設置となるように加熱装置にセットして、10℃/分の昇温速度で樹脂成形体が完全に融解するまで昇温させながら、6秒毎に76m秒の露光時間にて、樹脂成形体からの小角X線散乱を測定した。
2次元X線CCD検出器で検知される小角X線散乱の散乱強度は、検出器に付属のソフトウェア(商品名:Hi−pic6.3)を用いて解析した。始めに、樹脂成形体を設置せずに、小角X線散乱装置用加熱せん断流動場印加ユニットのみの小角X線の散乱を測定してバックグラウンドを取得した。次に、ユニットに樹脂成形体を設置して、ユニットに設置された樹脂成形体の小角X線の散乱を測定した。そして、測定された小角X線の散乱からバックグラウンドを差し引く処理を行った。さらに、散乱角が既知であるコラーゲンの小角散乱像から2次元画像上の任意の点における散乱ベクトル(q)を決め、樹脂成形体の流動方向の散乱強度を縦軸に、散乱ベクトルを横軸として散乱プロファイルを作成した。
始めに、樹脂成形体を10℃/分の速度で昇温させる過程において、散乱ベクトル0.08nm-1以上0.15nm-1未満及び散乱ベクトル0.15nm-1以上0.30nm-1以下の範囲に散乱ピークの強度の最大値が、それぞれ観測され、かつ、散乱ベクトル0.08nm-1以上0.15nm-1未満の範囲の散乱強度が最大となった160℃〜161℃における散乱プロファイルに対して、下記ガウシアン関数を用いて散乱プロファイルを近似して、散乱プロファイルのパラメータ(m1〜m6)を決定した。
y=m1+m2×exp{−((x−m3)/m4)2}+m5×exp{−((x−m6)/m4)2}
長周期(d)は、m3及びm6の値より、d=2π/qの式を用いて求めた。また、強度比(ピーク強度(1)/ピーク強度(2))は、散乱ピークのピーク強度(1)及びピーク強度(2)の値(m2およびm5)を用いて求めた。
プロピレン樹脂としては、特開平10−212319号公報記載の触媒を用いて製造した。以下のプロピレン−エチレン共重合体(PP−1)及びプロピレン単独重合体(PP−2)を用いた。
PP−1:極限粘度が2.9dl/gで、エチレンを0.3wt%含有し、アイソタクチック・ペンタッド分率が0.965であるプロピレン−エチレン共重合体。
PP−2:極限粘度が7.0dl/gであるプロピレン単独重合体。
熱処理は、ギアオーブン中の、ステンレス製のたて20cm、横20cm、高さ2cmの容器の中に試験片を静置し、縦22cm、横22cm、厚み0.5cmのステンレス製の板で蓋をした後、実施した。
PP−1を90重量部、PP−2を10重量部混合したものを、内径40mmの単軸押出機にて溶融混練し、ペレット状のプロピレン樹脂を得た。このプロピレン樹脂を射出成形機(東芝機械製 IS100EN)を用いシリンダー温度260℃、保圧の圧力を射出成形機の最大射出圧力Pの33%に設定し、試験片を成形した。その試験片をギアオーブンを使用して、表1の条件で熱処理を行った。熱処理後の試験片を用いて、曲げ弾性率、アイゾット衝撃強度を測定した。これらの結果を表1に示した。
また、小角X線散乱の測定から、散乱プロファイルを作成してガウシアン関数にて近似することにより、パラメータm1〜m6、長周期、最大強度及び強度比を求めた。散乱プロファイルを図1、散乱プロファイルの解析結果を表2及び図2に示した。
PP−1を70重量部、PP−2を30重量部混合して調製したプロピレン樹脂を、射出成形し、表1記載の条件で熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様の操作で行った。曲げ弾性率、アイゾット衝撃強度の結果を表1に示した。また、散乱プロファイルを図3に、散乱プロファイルの解析結果を表2及び図4に示した。
PP−1を90重量部、PP−2を10重量部混合して調製したプロピレン樹脂を、射出成形し、表1記載の条件で熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様の操作で行った。曲げ弾性率、アイゾット衝撃強度の結果を表1に示した。また、散乱プロファイルを図5に、散乱プロファイルの解析結果を表2及び図6に示した。
PP−1を70重量部、PP−2を30重量部混合して調製したプロピレン樹脂を、射出成形し、表1記載の条件で熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様の操作で行った。曲げ弾性率、アイゾット衝撃強度の結果を表1に示した。また、散乱プロファイルを図7に、散乱プロファイルの解析結果を表2及び図8に示した。
PP−1のみを用いて射出成形し、表1記載の条件で熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様の操作で行った。曲げ弾性率、アイゾット衝撃強度の結果を表1に示した。また、散乱プロファイルを図9に、散乱プロファイルの解析結果を表2及び図10に示した。
PP−1のみを用いて射出成形し、表1記載の条件で熱処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして行った。曲げ弾性率、アイゾット衝撃強度の結果を表1に示した。また、散乱プロファイルを図11に、散乱プロファイルの解析結果を表2及び図12に示した。
Claims (4)
- 結晶部と非結晶部とを有するプロピレン樹脂からなる樹脂成形体であって、
前記プロピレン樹脂は、その小角X線散乱法により155℃〜165℃で測定した散乱プロファイルの散乱ピークを複数個有し、
極限粘度が6.0dl/g以上のポリプロピレンを、
前記プロピレン樹脂の全量の5質量%〜40質量%含有することを特徴とする樹脂成形体。 - 前記散乱プロファイルにおいて、0.08nm-1以上0.15nm-1未満の波数範囲(i)内に少なくとも1個の散乱ピークが存在し、かつ、0.15nm-1以上0.30nm-1以下の波数範囲(ii)内に少なくとも1個の散乱ピークがそれぞれ存在し、
前記波数範囲(i)内にある前記少なくとも1個の散乱ピークのうち、最大強度を有するピークの強度をピーク強度(1)とし、
前記波数範囲(ii)内にある前記少なくとも1個の散乱ピークのうち、最大強度を有するピークの強度をピーク強度(2)としたときに、前記ピーク強度(1)の前記ピーク強度(2)に対する比が1〜5であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂成形体。 - 前記プロピレン樹脂は、極限粘度が4.5dl/g以下のポリプロピレンを、前記プロピレン樹脂の全量の60質量%〜95質量%更に含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の樹脂成形体。
- 請求項1から3いずれかに記載のプロピレン樹脂からなる樹脂成形体の製造方法であって、
極限粘度が6.0dl/g以上のポリプロピレンを、5質量%〜40質量%含有するプロピレン樹脂を賦形して成形体前駆体を製造する工程と、
前記成形体前駆体を150℃〜170℃で熱処理する工程と、
を有することを特徴とする樹脂成形体の製造方法。
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