JP4935813B2 - スパイクシューズのソール - Google Patents

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Description

本発明は、スパイクシューズのソールに関する。
従来より、スパイクシューズにおいては、種々の目的から、剛性分布を持たせたり、屈曲し易いエリアを持たせたソールが提案されている。かかるソールとしては、下記の特許文献1〜10のソールが挙げられる。なお、特許文献8,9については、本願発明との比較を後述する。
特開昭58-165802 (第1図) 特開昭60-222002 (第6図) 実開昭60-13006(第1図) 特開平8-214910(要約) 特開平11-89605(要約) 特開2004-167069 (要約) 特開2002-248006 (要約) 実公平7-36483 (図1) 特開2001-340101 (要約) 特許第3635006 (図1)
サッカー、ラグビーなどのスポーツにおいては、ダッシュと呼ばれる短時間での加速動作がしばしば競技者に求められる。
本発明は、かかるダッシュに着目してなされたものであり、より効率のよいダッシュを可能とするスパイクシューズのソールを提供することを主目的とする。
また、本発明の別の目的は、等速ランニング中の高い走行効率を可能とするスパイクシューズのソールを提供することである。
本スパイクシューズのソールの発明は、以下の考案に基づくもので、少なくとも前足部を有するソールの樹脂製のベースと、該ベースに一体で、かつ、該ベースから地面に向かって突出する樹脂製の複数のクリートとを備える。
本スパイクシューズのソールには、第1趾趾節間関節を含み足の内側から外側に行くに従い前方に向かうように傾斜した高屈曲エリアが前記ベースに形成されている。前記高屈曲エリアには前記クリートが設けられていない。
前記高屈曲エリアの直前方には前記高屈曲エリアを区画する1以上の第1クリートが設けられ、前記高屈曲エリアの直後方には前記高屈曲エリアを区画する1以上の第2クリートが設けられている。
足の長軸に沿って延びる方向について、前記第1趾趾節間関節における前記高屈曲エリアの第1の幅が4mm〜15mmに設定されている。
前記高屈曲エリアの外側前端から内側後端に向かって、かつ、前記第1クリートの縁および前記第2クリートの縁に接して直線状に延びる第1接線と、前記高屈曲エリアの外側後端から内側前端に向かって、かつ、前記第1クリートの縁および前記第2クリートの縁に接して直線状に延びる第2接線との双方が、内側から外側に行くに従い前方に向かうように傾斜している。前記第1接線と第2接線とがなす角が10°〜30°に設定されている。
上記目的に鑑み、本願発明者は、まず、ダッシュ動作を定量的に評価するために、ダッシュ効率の評価を次のように行うこととした。ダッシュ効率とは、ダッシュし易さの評価指針である。
図1Cは、前足部で着地するダッシュ時における推進方向への床反力の時系列変化を示したグラフである。グラフ中、網掛けを施した面積ΣFdは、被験者が地面を蹴った力(力積)を表している。この面積ΣFdが大きいほど、ランナーがダッシュし易い(ダッシュ効率が高い)シューズと言える。すなわち、面積ΣFdをパラメータとして、この面積ΣFdの大小を基準にダッシュ効率の評価を行った。
一方、走行効率についても、定量的に評価するために、次のように評価を行うこととした。走行効率とは、走りやすさの評価指針である。
図1Dは、踵部から着地する等速ランニング中の推進方向の床反力の時系列変化を表している。ここで、網掛けを施した面積ΣFrは等速走行を維持するために必要なキック力(力積)を表している。この面積ΣFrが小さいほど、ランナーが楽に速度を維持できるシューズ(走行効率が高い)といえる。すなわち、面積ΣFrをパラメータとしてこの面積ΣF rの大小を基準に走行効率の評価を行った。
次に、本願発明者は、ダッシュ時および等速ランニング時における足裏の足圧分布の分析および高速度ビデオを用いた画像解析による足裏の接地状態の分析を行った。この分析の結果を以下に述べる。
足圧分布としては、等速ランニング時には足圧が母指球付近に集中しているのが分かる。これに対し、ダッシュ時には足圧が母指球および第1趾爪先部に集中していることが分かる。
接地状態については、等速ランニング時には図1Bに示す結果が得られ、ダッシュ時には図1Aに示す結果が得られた。
なお、図1A,図1Bは、素足による最大キック力発揮時(推進期)の接地状態を示し、網かけを施した領域は接地エリアである。以下の図において、矢印9は進行方向を示し、矢印INは足の内側を示し、矢印OUTは足の外側を示す。
このように、足裏の足圧分布および接地状態のいずれにおいても、ダッシュ時と等速ランニング時では動作が大きく異なることが分かる。
接地エリアの分析によれば、等速ランニング時には、図1Bに示すように、概ね中足趾節関節に沿ったランニング屈曲軸RLで足が屈曲し、該ランニング屈曲軸RLよりも前方のエリアが接地する。
一方、ダッシュ時には、図1Aに示すように、概ね第1趾中足趾節関節(母指球)を通り、足の長軸Yに対して斜めに傾いたダッシュ屈曲軸DLで足が屈曲する。つまり、母指球を通り足の内側から外側に行くに従い前方に向かうように(外前方に)傾斜したダッシュ屈曲軸DLで足が屈曲し、該ダッシュ屈曲軸DLよりも前方のエリアが接地することが分かった。
更に、離地までの推進力の力積ΣFd(図1C)を大きくするためには、第1趾趾節間関節を通り前記ダッシュ屈曲軸DLに概ね平行なラインDL1で足を屈曲させ、ダッシュ力を路面に伝える力が離地直前まで発揮可能であるようにするのが好ましいことが分かった。
足圧分布の結果から考察すると、ダッシュ時においては母指球から第1趾爪先部までの領域におけるソールの構造がダッシュ効率の向上に深く関係していると考えられる。
さらに、接地状態の結果から考察すると、ダッシュ効率を向上させるには足の屈曲に合わせて屈曲するソールを有するスパイクの使用が効果的と考えられる。
すなわち、前記ダッシュ屈曲軸DLおよびその前方のラインDL1で屈曲し易いソールが効果的と考えられる。なぜなら、ダッシュ時の足の屈曲を実現し得るソールであれば、面積ΣFd(図1C)を増加させ易いからである。
一方、等速ランニング時には前記ランニング屈曲軸RLにおけるソールの曲げ剛性を大きくし(曲がり難くする)、走行時に不必要にソールが屈曲して走行ロスが生じるのを抑制することで、走行効率が向上すると考えられる。つまり、前記ランニング屈曲軸RLにおいて足を曲がり難くすることで走行効率が向上すると推測される。
かかる考察に基づいて、ダッシュ効率および走行効率の向上を検証するために、市販のサッカーシューズを用いて下記の実験を行った。実験にあたり、図2Aに示す5種類の靴Type I〜V を用意した。
Type Iの靴は市販されているサッカーシューズであり、Type II 〜V の靴はType Iの靴のソールに溝を設けることで部分的にソールの曲げ剛性を低減させ曲がり易くしたものである。
Type II の靴は、Type Iの靴のソールに、前記ランニング屈曲軸RL(図1B)に概ね沿った溝G1を設けて中足趾節関節におけるソールの曲げ剛性を低下させたものである。 Type IIIの靴は、Type Iの靴のソールに前記ダッシュ屈曲軸DLに平行なラインDL1(図1A)に概ね沿った溝G2を設けて該ラインDL1におけるソールの曲げ剛性を低下させたものである。
Type IV の靴は、Type Iの靴のソールに前記2つの溝G1,G2を両方設けたものである。
Type Vの靴は、Type Iの靴のソールに前記溝G2と前記ランニング屈曲軸RLの外側部分にのみ延びる溝G3(したがって、中足趾節関節部分には幅方向に剛性分布がある)とを設けたものである。
これらの靴Type I〜V を被験者が装着して、ダッシュ動作および等速ランニング動作を行い、ダッシュ効率のパラメータΣFdおよび走行効率のパラメータΣFrを測定した。図2B,図2Cはこの測定の結果を示している。
図2Bに示すように、ソールに前記溝G2を設けたType III,IV,V において高いダッシュ効率が得られることが分かる(ΣFdが大きくなった)。
このことから、前述したように、ダッシュ時の足の屈曲性を考慮した構造、つまり、前記ラインDL1(図1A)におけるソールの曲げ剛性を低下させることはダッシュ効率の向上に効果的であることが確認できた。
一方、図2Cに示すように、Type II,IVは走行効率の低い(スピードを維持し難い)シューズと云える。これらのシューズは、前記ランニング屈曲軸RL(図1B)に対応した溝G1をソールに有している。このため、走行中にソールの変形が大きくなることとなり、走行効率は低下した(ΣFrは大きくなった)。
このことから、前記ランニング屈曲軸RLの位置においてソールの曲げ剛性を大きくする(曲がり難くする)のが、走行効率の観点からは好ましいことが確認された。
さらに、本願発明者は、5名の被験者がダッシュ動作を行った際の足裏の動画を撮影することにより、前記ダッシュ屈曲軸DLの個人差について検討した。図3A〜図3Eは各被験者のダッシュ動作の際の足裏の接地状態を示し、網かけを施した領域が足裏の接地領域である。
各図に示すように、いずれのダッシュ屈曲軸DLも足の内側から外側に行くに従って前方に傾斜するように、踵中心部と第2趾先端とを結ぶ長軸Yに対して傾いている。
更に、前記長軸Yと前記ダッシュ屈曲軸DLとがなす傾斜角θは被験者毎に異なることが分かった。その傾斜角θは最小で約45°程度、最大で約70°程度であり、約25°程度のバラツキがあることが分かった。
かかる測定結果を考慮すると、前記ダッシュ屈曲軸DLの約25°程度の個人差を許容可能とするのが好ましい。前記ダッシュ屈曲軸DLと前記ラインDL1(図1A)とは互いに平行であるから、前記ラインDL1(図1A)を含む屈曲し易い(剛性の低い)高屈曲エリアは、傾斜角の異なる前記ダッシュ屈曲軸DLでの屈曲を許容するように、約10°〜30°程度の範囲で設定されるのが好ましいと推測される。
また、既存の足形データより、足長に対する第1趾趾節間関節の位置には、個人差があることが判明している。具体的には、同じサイズのシューズを使用する者の間でも、第1趾の爪先から第1趾趾節間関節までの長軸方向の距離には約5mm程度のバラツキがある。
かかるバラツキを考慮して、かかる第1趾趾節間関節の位置のバラツキによる前記ラインDL1(図1A)の位置の個人差を許容するために、前記高屈曲エリアR1には第1趾趾節間関節において長軸方向に約4mm以上の第1の幅Wy1(図6)を持たせるのが好ましいと推測される。
また、前記高屈曲エリアR1の幅Wy1が広すぎると、前記ラインDL1以外の意図しない軸でソールが大きく屈曲してしまうおそれがある。これを避けるために前記幅Wy1は約15mm以下に設定するのが好ましいと推測される。
第1趾趾節間関節の位置のバラツキは前記傾斜角θのバラツキに影響を与えていると考えられる。したがって、必ずしも、前記幅Wy1を前記双方のバラツキを完全に許容する程の値とする必要はない。
ある程度のバラツキのみを許容する範囲の方が大多数の人の足に合ったソールとなり得る。かかる観点から前記幅Wy1の値を設定するのが適切である。
本発明のスパイクシューズのソールの発明は以上の考察に基づいてなされており、図4に示すように、少なくとも前足部を有するソールSの樹脂製のベース1と、該ベース1に一体で、かつ、該ベース1から地面に向かって突出する樹脂製の複数のクリート2とを備える。
図5に示すように、本ソールSは、第1趾趾節間関節J1を含み足の内側INから外側OUTに行くに従い前方に向かうように傾斜した高屈曲エリアR1が前記ベース1に形成されている。前記高屈曲エリアR1には前記クリート2が設けられていない。
図6に示すように、前記高屈曲エリアR1の直前方には前記高屈曲エリアR1と先端エリアR2とを区画する1以上の第1クリート21が設けられている。前記高屈曲エリアR1の直後方には前記高屈曲エリアR1と低屈曲エリアR3とを区画する1以上の第2クリート22が設けられている。前記第1趾趾節間関節J1における前記高屈曲エリアR1の足の長軸Y方向の第1の幅Wy1は4mm〜15mmに設定されている。
図7に示すように、第1接線T1は、前記高屈曲エリアR1の外側前端31から内側後端32に向かって、かつ、外側の前記第1クリート21の縁21aおよび内側の前記第2クリート22の縁22aに接して直線状に延びている。第2接線T2は、前記高屈曲エリアR1の外側後端33から内側前端34に向かって、かつ、内側の前記第1クリート21の縁21aおよび外側の前記第2クリート22の縁22aに接して直線状に延びている。 前記第1接線T1と第2接線T2は、ソールの内側INから外側OUTに行くに従い前方に向かうように傾斜している。前記第1接線T1と第2接線T2とがなす角αは10°〜30°に設定されている。なお、図5〜図7、図9においては、前記高屈曲エリアR1に網かけを施している。
本発明によれば、前記第1接線T1および第2接線T2の双方が、ソールの内側INから外側OUTに行くに従い斜め前方に傾斜している。したがって、これらの2本の接線T1,T2の間においてダッシュ時にソールが容易に屈曲する。
ここで、前記第1接線T1と第2接線T2がなす角α≦30°、かつ、前記第1の幅Wy1≦15mmであるから、前記高屈曲エリアR1における屈曲の領域が広すぎない。そのため、ソールの屈曲が規制され、ダッシュ効率が向上する。
前記第1接線T1と第2接線T2がなす角αが30°を超えたり、あるいは、前記第1の幅Wy1が15mmを超えると、ソールが不必要な部位において屈曲し易い。更に、前記高屈曲エリアR1が広すぎると、前記先端エリアR2に前記クリート2を設けるための領域が小さくなりすぎる。
一方、前記第1接線T1と第2接線T2がなす角α≧10°、かつ、前記第1の幅Wy1≧4mmであるから、種々の着用者の足型や足の屈曲の違いに応じたソール先端部の屈曲が可能となる。
本発明では、前記第1接線T1と第2接線T2とがなす角αの下限を10°としている。この値は、前記ダッシュ屈曲軸DL(図1A)の個人差の計測において得られた前記長軸Yと前記ダッシュ屈曲軸DLとがなす傾斜角のバラツキ約25°よりも小さい。前記角αの下限が前記傾斜角のバラツキ約25°よりも小さい場合であっても、前記クリートが配置されている部位のソールがクリートと共に屈曲することは可能であるため、ソールの屈曲を許容する機能が発揮され得る。
なお、本発明において、クリートとは、3mm以上の高さを有し、かつ、ベース1近傍の基部において20mm2 以上の面積、先端面において10mm2 以上の面積を持つ突起をいう。
また、本発明において、高屈曲エリアR1とは、足の内側INから外側OUTに行くに従い斜め前方に傾斜している略帯状に延びる領域であって、先端エリアR2および低屈曲エリアR3よりもソールが屈曲し易いエリアをいう。
先端エリアR2とは、ソールにおける前記高屈曲エリアR1よりも前方のエリアをいう。
低屈曲エリアR3とは、ソールにおける前足部のうち前記高屈曲エリアR1よりも後方のエリアをいう。
前記高屈曲エリアR1には前記クリート2が配置されていないため、ソールの屈曲が大きくなる。つまり、ソールが屈曲し易い。
一方、前記高屈曲エリアR1よりも後方の前記クリート2が配置された部分では、図10の側面図のように、前記クリート2がリブのように作用して、ソールの断面二次モーメントIzが大きくなる。そのため、長軸方向Yに曲げモーメントMが作用した際の各断面における曲げ剛性が大きくなる。つまり、前記クリート2が配置されている部位では局所的に断面二次モーメントIzが小さい部分がなくなる。したがって、ソールが曲がり難くなる。前記高屈曲エリアR1の後方のエリアには前記クリート2が配置されているので、ソールが曲がり易い部分がない。その結果、前記高屈曲エリアR1でのソールの屈曲が促進される。
また、本発明において、長軸Yとは、図5に示すように、踵の中心部(踵骨74の内側部)と第2趾72の先端とを結ぶ直線状の仮想のラインをいう。長軸Y方向とは該長軸Yに沿った方向をいう。
なお、特に断らないかぎり、前方とは長軸Y方向の前方(爪先側)、後方とは長軸Y方向の後方(踵側)をいう。
ここで、本発明と前記特許文献8,9に開示された靴底とを比較する。
図11Aに示すように、前記特許文献8の靴底ではクリート102に接する2本の接線T11,T12のうちT12が足の内側から外側に行くに従って斜め後方に傾斜している。そのため、不必要な範囲までソールの屈曲エリアが広がっている。その結果、ダッシュ時に前記ラインDL1以外のラインでソールが屈曲してしまう。
また、図11Bに示すように、前記特許文献9の靴底では、クリート102に接する2本の接線T11,T12がなす角が極めて小さい。そのため、前記ダッシュ屈曲軸DLの個人差を殆ど許容できない。
更に、ソールの厚さを考慮してソールを屈曲し易くしようとすると、ソールの底面においては屈曲する領域にある程度の幅が必要となる。しかし、同文献の靴底は2つの接線T11,T12のなす角が極めて小さい。したがって、屈曲する領域の幅は狭く、ソールは殆ど屈曲し易くならないと考えられる。
また、同文献の靴底は、陸上用のスパイクをネジ込むための硬い座金102を前記ダッシュ屈曲軸DLが横断している。そのため、実際にはソールが屈曲し難いと考えられる。
本発明において、図8に示すように、前記第1接線T1と前記長軸Yとがなす先端外側の第1の角β1が40°以上に設定され、かつ、前記第2接線T2と前記長軸Yとがなす先端外側の第2の角β2が80°以下に設定されているのが好ましい。
前記ダッシュ屈曲軸DLの個人差の計測の結果、前記ダッシュ屈曲軸DLの前記長軸Yに対する傾斜角θは45°〜70°程度の範囲に分布している。
測定誤差等を考慮すると、前記第1の角および第2の角が、40°から80°程度の傾斜角θを有する前記ダッシュ屈曲軸DL(図1A)を許容すれば、前記ラインDL1(図1A)は前記ダッシュ屈曲軸DLに平行であるため、前記ラインDL1において前記ダッシュ屈曲軸DLの個人差を十分に許容できると推測される。
なお、前記第1の角β1は40°〜60°程度に設定し、前記第2の角β2は60°〜80°程度に設定するのが更に好ましい。
また、本発明において、図7に示すように、前記第1接線T1は外側の前記第1クリート21Lの縁21aに接している。前記第2接線T2は内側の前記第1クリート21Mの縁21aに接している。
前記高屈曲エリアR1は、前記第2接線T2が前記第1クリート21Mの縁21aを通る足の内側の前記長軸Y方向の第2の幅Wy2よりも、前記第1接線T1が前記第1クリート21Lの縁21aを通る足の外側の前記長軸Y方向の第3の幅Wy3が幅広となっているのが好ましい。
ダッシュ時には足の内側寄りの第1趾趾節間関節J1を中心に前記ダッシュ屈曲軸DLに平行なラインDL1(図1A)において足が屈曲する。そのため、前記ラインDL1は前記第1趾趾節間関節J1を中心に足の外側に行くに従って斜め前方に傾く。したがって、足の内側よりも外側において前記高屈曲エリアR1が幅広となっていることで、前記ラインDL1を足の屈曲に応じて規制することができる。
また、本発明において、図7に示すように、前記第1接線T1と第2接線T2との交点TXが、第1趾71に相当する領域、第1趾71と第2趾72の間の領域または第2趾72に相当する領域のいずれかに位置しているのが好ましい。
このようにすれば、第1趾71から第2趾72にかけての部位における前記高屈曲エリアR1の長軸Y方向の幅を小さくし、かつ、この部位よりも内側および外側の部位における長軸Y方向の幅を大きくすることができる。そのため、前記高屈曲エリアR1が広がり過ぎない。したがって、前記ラインDL1に平行な前記ダッシュ屈曲軸DLの幅広い個人差に対応できる。
また、本発明の好ましい形態においては、図9に示すように、第1仮想ラインK1は、前記高屈曲エリアR1を前後に概ね均等に、かつ、概ね線対称に分割する。
第2仮想ラインK2は、前記仮想ラインK1に直交し、前記高屈曲エリアR1の前方のソールの先端エリアR2を内外に概ね均等に分割する。すなわち、前記第2仮想ラインK2によって、前記先端エリアR2は内側エリアR21と外側エリアR20とに区画される。
第1クリート21は、1以上の内側の第1クリート21Mおよび1以上の外側の第1クリート21Lを含んでいる。
前記内側第1クリート21Mが前記内側エリアR21に配置され、前記外側クリート21Lが前記外側エリアR20に配置されている。
前記内側第1クリート21Mの先端21bと前記外側第1クリート21Lの先端21bは、前記第2仮想ラインK2に沿った方向の概ね同じ位置に配置されている。したがって、前記外側第1クリート21Lの先端21bは前記内側第1クリート21Mの先端21bよりも前記長軸Y方向の前方に配置されている。
この態様によれば、ランナーのダッシュ力を路面に伝える力が離地直前まで発揮され得る。すなわち、ダッシュ時には、足の外側から離地する。そのため、前記外側第1クリート21Lが前記内側第1クリート21Mよりもソールの前方まで延びていることで、ランナーが離地直前までキック力を路面に伝達できる。
本態様では、図9に示すように、前記各第1クリート21M,21Lは前記第2仮想ラインK2に沿った方向に10mm〜25mmの長さD1を有し、かつ、前記各第1クリート21M,21Lの先端21bがソール先端Stから前記第2仮想ラインK2に沿った方向に15mm以内の領域に配置されているのが好ましい。すなわち、前記各第1クリート21M,21Lの先端21bとソール先端Stとの間の前記第2仮想ラインK2に沿った距離D2が15mm以下であるのが好ましい。
このようにすることで、前記第1クリート21M,21Lがソール先端部において十分な長さを有し、かつ、前記第1クリート21M,21Lがソールの前方において内外に存在するのでダッシュ時に安定したダッシュ力を得ることができる。前記距離D2は10mm以下であるのが更に好ましい。
なお、ソール先端とは、前記第2仮想ラインに沿った方向のソールの前端、すなわち、ソールの外周と第2仮想ラインとの前側の交点の意である。
ダッシュ時の蹴り出しにおいては、外側のキック力が内側のキック力に比べて小さくなる。したがって、前記先端エリアR2の第1クリート21の配置については、前記外側第1クリート21Lの第1仮想ラインK1に対する投影長さ(第1仮想ラインK1に沿った方向の長さ)が、前記内側第1クリート21Mの第1仮想ラインK1に対する投影長さよりも長いのが好ましい。
これにより、接地面に対する足の外側のグリップ力が大きくなり、ダッシュ時において更にスムーズな蹴り出しを実現することが可能となる。
また、ダッシュ効率をより向上させるためには、前記第1クリート21の高さをソールの先端に向かって徐々に小さくするのが好ましい。
また、本発明の好ましい態様においては、図7に示すように、前記第2クリート22の後方には多数の樹脂製の第3クリート23が設けられ、1以上の前記第3クリート23が、足の中足趾節関節73を連ねた前記ランニング屈曲軸RL(図1B)と交差するように配置されているのが好ましい。
前述の考察で述べたように、走行効率の観点から、前記ランニング屈曲軸RL(図1B)の位置においてソールが曲がり難くなるのが好ましい。
本態様のように前記ランニング屈曲軸RL上に前記第3クリート23を設けることで、前記第3クリート23がリブのように作用する。そのため、走行時における前記ランニング屈曲軸RLの屈曲が抑制される。その結果、走行効率が向上する。
本態様においては、前記前足部のうちの前記高屈曲エリアR1の後方において、前記前足部を横断する全ての仮想のラインに対して少なくとも1以上の前記第2クリート22または第3クリート23が交差するように配置されているのが好ましい。
このようにすれば、前記高屈曲エリアR1よりも後方において、全てのラインについてソールの屈曲が前記第2クリート22および第3クリート23により抑制される。したがって、走行効率が向上する。
かかるソールの屈曲抑制の観点から、前記各第3クリート23の長軸Y方向の長さは長軸Y方向に直交する横方向の幅よりも大きいのが好ましい。
図1Aはダッシュ時の足裏の接地状態を示す底面図、図1Bは等速ランニング時の足裏の接地状態を示す底面図、図1Cはダッシュ時の床反力の時系列変化を示す特性図、図1Dは等速ランニング時の床反力の時系列変化を示す特性図である。 図2Aはダッシュ効率および走行効率の向上を検証するための実験に用いた靴を示す底面図、図2Bおよび図2Cは、それぞれ、実験の結果を示すグラフである。 図3A、図3B、図3C、図3Dおよび図3Eは、それぞれ、ダッシュ屈曲軸の個人差を示す足裏の底面図である。 本発明の実施例の靴を示す斜視図である。 足の骨を重ねて示したソールの底面図である。 足の骨を重ねて示したソールの部分底面図である。 足の骨を重ねて示したソールの部分底面図である。 ソールの部分底面図である。 ソールの部分底面図である。 ソールの部分縦断面図である。 図11Aおよび図11Bは、それぞれ、従来例を示すソールの底面図である。
符号の説明
1:ベース
2:クリート
21:第1クリート
21M:内側第1クリート
21L:外側第1クリート
21a:縁
21b:先端
22:第2クリート
22a:縁
22b:横長部
23:第3クリート
41:前境界ライン
42:後境界ライン
73:中足趾節関節
T1:第1接線
T2:第2接線
TX:第1接線と第2接線との交点
Y:長軸
DL:ダッシュ屈曲軸
RL:ランニング屈曲軸
K1:第1仮想ライン
K2:第2仮想ライン
S:ソール
St:ソール先端
R1:高屈曲エリア
R2:先端エリア
R21:内側エリア
R20:外側エリア
R3:低屈曲エリア
Wy1:長軸方向の第1の幅
Wy2:長軸方向の第2の幅
Wy3:長軸方向の第3の幅
J1:第1趾趾節間関節
IN:内側
OUT:外側
以下、本発明の実施例を図面に従って説明する。
図4に示すように、本実施例のスパイクシューズのソールSは樹脂製のベース1と、該ベース1に一体で、かつ、該ベース1から地面に向かって突出する樹脂製の複数のクリート2とを備える。ソールSの上方にはアッパーUが配置されている。
図6に示すように、ソールSの前足部には、第1趾趾節間関節J1を通り、足の外側に行くに従い斜め前方に傾斜している略帯状の高屈曲エリアR1と、前記高屈曲エリアR1の前方の先端エリアR2と、前記高屈曲エリアの後方の低屈曲エリアR3とが設けられている。
前記高屈曲エリアR1はクリート2が設けられておらず、かつ、前記先端エリアR2および低屈曲エリアR3よりも柔らかい材料によって構成されている。これにより、該高屈曲エリアR1は前記先端エリアR2および低屈曲エリアR3よりもソールが屈曲し易くなっている。
一方、前記先端エリアR2には複数の第1クリート21が設けられており、前記低屈曲エリアR3には複数の第2クリート22が設けられている。前記第2クリート22の後方には複数の第3クリート23が設けられている。
なお、等速ランニング時およびダッシュ時のいずれにおいても、母指球付近の足圧が大きい。したがって、図5に示すように、いずれかのクリート2が母指球71aの直下の近傍に配置されており、かつ、前記母指球71aを囲うように複数のクリート2が配置されているのが好ましい。
前記高屈曲エリアR1と前記先端エリアR2との間の前境界ライン41(図6)、および、前記高屈曲エリアR1と前記低屈曲エリアR3との間の後境界ライン42(図6)は複数のラインから構成される。すなわち、以下に述べる第1〜第4接線T1〜T4等を繋いだラインが、エリアを区画する前後の境界ライン41,42を構成する。
図7に示すように、第1接線T1は、前記高屈曲エリアR1の外側前端31から内側後端32に向かって、かつ、前記外側第1クリート21Lの縁21aおよび内側の第2クリート22の縁22aに接して直線状に延びる接線である。
第2接線T2は、前記高屈曲エリアR1の外側後端33から内側前端34に向かって、かつ、前記内側第1クリート21Mの縁21aおよび外側の第2クリート22の縁22aに接して直線状に延びる接線である。
図8に示すように、第3接線T3は、全ての第1クリート21に交差せず、かつ、複数の点において第1クリート21に接する1以上の接線からなる。前記第3接線T3は、前記高屈曲エリアR1と前記先端エリアR2とを足の内外の中央部分において区画する。
第4接線T4は、全ての第2クリート22に交差せず、かつ、複数の点において第2クリート22に接する1以上の接線からなる。前記第4接線T4は、前記高屈曲エリアR1と前記低屈曲エリアR3とを足の内外の中央部分において区画する。
なお、本実施例では、前記第3接線T3および第4接線T4は、それぞれ、1本であるが、前記第1クリートおよび第2クリートの配置によっては、2本以上の場合もある。
前記前境界ライン41(図6)は、図8に示すように、前記外側第1クリート21Lの縁21aおよび前記内側第1クリート21Mの縁21aにおいて、第1接線T1、第3接線T3および第2接線T2を滑らかに繋いだラインである。
一方、前記後境界ライン42(図6)は、図8に示すように、前記外側の第2クリート22Lの縁22aおよび前記内側の第2クリート22Mの縁22aにおいて、第2接線T2、第4接線T4および第1接線T1を滑らかに繋いだラインである。
なお、前記低屈曲エリアR3の前記各第2クリート22L,22Mは、長軸Y方向に長い縦長部22cと、前記高屈曲エリアR1の直後方において前記後境界ライン42に沿って左右に長い横長部22bとを有する。これにより、前記第2クリート22L,22Mは略L字型に形成されている。
前記横長部22bは前記後境界ライン42に沿って概ね斜め横方向に、つまり、外側に近づくに従い前方に向かうように傾斜して形成されている。前記横長部22bは、前記長軸Yに直交する横方向に沿って形成されていてもよい。
前記横長部22bを設けることで前記高屈曲エリアR1の直後方が著しく曲がり難くなり、応力が前記高屈曲エリアR1に集中する。そのため、前記高屈曲エリアR1でのソールの屈曲が促進される。その結果、ダッシュ効率が向上する。
以上のとおり、図面を参照しながら好適な実施例を説明したが、当業者であれば、本明細書を見て、自明な範囲で種々の変更および修正を容易に想定するであろう。
たとえば、高屈曲エリアは端部を切欠したり、あるいは、屈曲溝を形成することによりソールの剛性を低くして形成してもよい。
また、クリートの平面形状はひし形やL字型に限られず、たとえば、円形や楕円形としてもよい。
また、第1および第2クリートは必ずしも複数設ける必要はなく、それぞれ1個としてもよい。
したがって、そのような変更および修正は、請求の範囲から定まる本発明の範囲内のものと解釈される。
本発明は、サッカー、ラグビーなどのスポーツに使用するスパイクシューズに適用することができる。

Claims (9)

  1. 少なくとも前足部を有するソールの樹脂製のベースと、該ベースに一体で、かつ、該ベースから地面に向かって突出する樹脂製の複数のクリートとを備えたスパイクシューズのソールにおいて、
    第1趾趾節間関節を含み足の内側から外側に行くに従い前方に向かうように傾斜した高屈曲エリアが前記ベースに形成され、
    前記高屈曲エリアには前記クリートが設けられておらず、かつ、前記高屈曲エリアの直前方には前記高屈曲エリアを区画する1以上の第1クリートが設けられ、前記高屈曲エリアの直後方には前記高屈曲エリアを区画する1以上の第2クリートが設けられ、
    足の長軸に沿って延びる方向について、前記第1趾趾節間関節における前記高屈曲エリアの第1の幅が4mm〜15mmに設定され、
    前記高屈曲エリアの外側前端から内側後端に向かって、かつ、前記第1クリートの縁および前記第2クリートの縁に接して直線状に延びる第1接線と、前記高屈曲エリアの外側後端から内側前端に向かって、かつ、前記第1クリートの縁および前記第2クリートの縁に接して直線状に延びる第2接線との双方が、内側から外側に行くに従い前方に向かうように傾斜しており、
    前記第1接線と第2接線とがなす角が10°〜30°に設定されているスパイクシューズのソール。
  2. 請求項1において、前記第1接線と前記長軸とがなす先端側の第1の角が40°以上に設定され、かつ、前記第2接線と前記長軸とがなす先端側の第2の角が80°以下に設定されているスパイクシューズのソール。
  3. 請求項1において、前記第1接線は前記第1クリートの外側後端において前記縁に接し、
    前記第2接線は前記第1クリートの内側後端において前記縁に接し、
    前記高屈曲エリアは、前記第1クリートの内側後端を通る前記長軸方向の第2の幅よりも前記第1クリートの外側後端を通る前記長軸方向の第3の幅が大きいスパイクシューズのソール。
  4. 請求項1において、前記高屈曲エリアを前後に概ね均等に分割する第1仮想ラインに直交し、かつ、前記高屈曲エリアの前方のソールの先端エリアを内外に概ね均等に分割する第2仮想ラインにより内外に区画された内側エリアおよび外側エリアを更に備え、
    前記第1クリートは1以上の内側の第1クリートおよび1以上の外側の第1クリートを含み、
    前記内側第1クリートが前記内側エリアに配置され、前記外側第1クリートが前記外側エリアに配置され、
    前記内側第1クリートの先端と前記外側第1クリートの先端とが前記第2仮想ラインに沿った方向の概ね同じ位置に配置され、
    このように配置されていることで、前記外側第1クリートの先端が前記内側第1クリートの先端よりも前記長軸方向の前方に配置されているスパイクシューズのソール。
  5. 請求項4において、前記各第1クリートは前記第2仮想ラインに沿った方向に10mm〜25mmの長さを有し、かつ、前記各第1クリートの先端がソール先端から前記第2仮想ラインに沿った方向に15mm以内の領域に配置されているスパイクシューズのソール。
  6. 請求項1において、前記第2クリートの後方には多数の樹脂製の第3クリートが設けられ、
    1以上の前記第3クリートが、足の中足趾節関節を連ねたランニング屈曲軸と交差するように配置されているスパイクシューズのソール。
  7. 請求項6において、前記前足部における前記高屈曲エリアの後方において、前記前足部を横断する全てのラインに対して少なくとも1以上の前記第2クリートまたは前記第3クリートの少なくとも一方が交差するように配置されているスパイクシューズのソール。
  8. 請求項1において、前記第1接線と第2接線との交点が、第1趾に相当する領域、第1趾と第2趾の間の領域または第2趾に相当する領域のいずれかに位置するスパイクシューズのソール。
  9. 請求項1において、前記第2クリートは、前記高屈曲エリアの直後方に、前記高屈曲エリアとその後方の低屈曲エリアとを区画する後境界ラインに沿って延びる横長部を有するスパイクシューズのソール。
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