しかし、金属等の導体や磁性体の影響のないところで用いるように設計された通常の非接触式データキャリアを、金属部分を有する被着体の金属面との間に高透磁率の磁性体シートを介在させて金属面に貼着しても、直ちにその非接触式データキャリアがリーダライタと交信可能になるというものではない。例えば、透磁率が高くかつ厚い磁性体層を積層すると、アンテナコイルのインダクタンスが上昇しすぎることによりアンテナの共振周波数が低下しすぎるため、あらかじめアンテナ自体を高い周波数に設定しておかなければ、13.56MHz帯のリーダライタと交信できない。
そのため、従来は、用いる磁性体シートを変えるたびに、金属部分を有する被着体用の非接触式データキャリア(以下、金属対応の非接触式データキャリアともいう)のアンテナを設計していた。非接触式データキャリアのアンテナの外形が同じ場合であっても、互いにアンテナ及び非接触式データキャリアを共用することができないという問題があった。難しいアンテナ設計を何度も行うことになるので、生産コスト低減及び生産性向上の阻害要因ともなっていた。
そこで、本発明は、上記問題を解消するためになされたもので、金属等の導体や磁性体の影響のないところで使うように設計された通常の非接触式データキャリアに磁性体シートを積層することで金属対応の非接触式データキャリアとして使うことができる磁性体シート、および、この磁性体シートを備えた金属対応の非接触式データキャリアを提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の一態様による非接触式データキャリア用磁性体シートは、13.56MHz帯用のアンテナの形成されたアンテナ基板を有する非接触式データキャリアと前記非接触式データキャリアが装着される金属部分を有する被着体との間に配置して用いられる磁性体シートであって、前記磁性体シートの磁性体層が、前記アンテナを被覆するように前記アンテナの外形と同等もしくはそれより僅かに大きく形成され、かつ、前記被着体の金属部分による前記アンテナの共振周波数の上昇分を実質的に相殺する透磁率及び厚さにされた非接触式データキャリア用磁性体シートが、複数、長尺のシート上に所定間隔で配置され剥離可能に貼着されて、ロール状に巻回されていることを特徴とする。
本発明の非接触式データキャリア用磁性体シートは、外部のリーダライタからの電磁波により13.56MHz帯の信号を受けた際にリーダライタのアンテナ及び/または非接触式データキャリアのアンテナと被着体の金属部分との相互作用により生じる非接触式データキャリアのアンテナの共振周波数の上昇分を相殺する透磁率及び厚さの磁性体層を備えている。すなわち、アンテナ基板のみのときのアンテナの共振周波数と、アンテナ基板に磁性体シートを貼着してその磁性体シート側を被着体の金属面に貼着させたときの共振周波数とが実用的な範囲で同等となるようにしている。したがって、磁性体及び金属に近接させずに用いるためのアンテナ基板またはこのアンテナ基板を備えた非接触式データキャリアに、この磁性体シートを貼着し、貼着した磁性体シート側を金属面側に貼着することで、貼着前と同じように外部のリーダライタと交信することができる。
本発明の基本的な考え方は、磁性体シート毎にアンテナを設計するのではなく、アンテナの外形に合わせて適切に選定された磁性体シートを提供することにある。すなわち、本発明の基本的な考え方は、アンテナ基板のみのときのアンテナの共振周波数と、アンテナ基板に磁性体シートを貼着してその磁性体シート側を被着体の金属面に貼着させたときの共振周波数とが実質的に同等となるように、アンテナの外形に応じて、磁性体層の透磁率及び厚さを適切に選択することによって、磁性体シートを提供しようとすることにある。
磁性体シートを選択するための要素は、磁性体層の透磁率及び厚さのほかにも、表面抵抗率、密度、熱伝導率などいろいろあるが、これらすべての要素を考慮して磁性体シートを選択することは困難であるため、現実的な範囲で要素を限定して選択する必要がある。そこで、本発明者は、アンテナの周波数に影響を与える特性としては、アンテナコイルのインダクタンスに大きな影響を与えるという点で、磁性体層の透磁率と厚さが特に重要であると考えた。
すなわち、本発明者は、アンテナの周波数に影響を与える特性として磁性体層の透磁率と厚さが重要であると考え、実験を重ねた結果、アンテナの外形が実質的に同等の範囲内であれば、アンテナ近傍の金属部分の影響による周波数上昇分と、磁性体シートをアンテナ基板に密着させることによる周波数低下分とを、実質的に相殺する磁性体層の透磁率と厚さを適切に選択することは可能であるとの知見を得た。そこで、本発明に至ったものである。
ここで、「13.56MHz帯用のアンテナ」とは、周波数が13.56MHz帯の信号を送受信するために構成されたアンテナをいう。このアンテナの形成されたアンテナ基板を有する非接触式データキャリアを、金属の影響を受けないところで貼着して利用する場合に、13.56MHz帯の信号を送受信できるように調整されたアンテナを指す。13.56MHz帯においては、電磁誘導方式または電磁結合方式により外部のリーダライタ等と交信するため、アンテナは、コイル状またはループ状とされている。
また、本明細書において、「透磁率」とは、13.56MHz帯の電磁波における比透磁率(初透磁率)μのことである。なお、被着体の「金属面」とは、防錆や装飾等を目的として外面が塗装やフィルム等で被覆されている場合も含む概念である。外面が被覆されていても、その金属の影響により周波数が上昇する場合があるからである。
本明細書において、「アンテナの外形面積」とは、非接触式データキャリアのアンテナを構成するアンテナコイルの導体パターンの最外周の周回パターンで区切られた領域の形状(アンテナの外形)および大きさ(アンテナサイズ)に基づいて算出された面積である。例えば、アンテナの外形が略矩形の場合には、その矩形の縦の長さに横の長さを乗じて算出された面積である。
本発明によれば、非接触式データキャリア用磁性体シートは、磁性体層を有し、その磁性体層は、アンテナを被覆するようにアンテナの外形と同等もしくはそれより僅かに大きく形成されている。これは、アンテナコイルの最内周の内側部分も含めて覆い、かつ、アンテナコイルの最外周の導体パターンが露出しないように確実に覆うことができるが無用に大きくない程度に大きくという趣旨である。磁性体シートをアンテナ基板に重ねたときに、磁性体シートの磁性体層の縁部がアンテナコイルの縁部を越えた幅が、どの場所も、例えば0mm以上2mm以下程度であることが好ましい。磁性体シートの磁性体層の平面外形は、アンテナ面に直行する方向から見たときの非接触式データキャリアのアンテナ基板の平面外形より大きくても小さくてもかまわない。
すなわち、本発明の非接触式データキャリア用磁性体シートは、外形の点でも、その磁性体層の透磁率及び厚さの点でも、この磁性体シートの磁性体層の外形と同等もしくは、それより僅かに小さい外形のアンテナを具備したアンテナ基板に積層させて、この磁性体シート側を管理対象物品等の金属面に載置または貼着して用いるのに好適なように構成されている。
例えば、アンテナの外形面積が880mm2以上2500mm2以下のアンテナ基板に積層して用いる場合には、本発明の磁性体シートの磁性体層は、(a)その大きさが、そのアンテナの外形と同等若しくはそれより僅かに大きく、かつ、(b)その透磁率が33以上47以下で厚さが80μm以上160μm以下であるか、または、その透磁率が15以上28以下で厚さが220μm以上280μm以下であることが好適である。この範囲の透磁率及び厚さの磁性体層を有する磁性体シートは、アンテナの外形面積が880mm2以上2500mm2以下、好ましくは、アンテナの外形面積が880mm2以上1600mm2以下、さらに好ましくは、アンテナの外形が45mm×27mmのアンテナ基板に貼着した場合に、磁性体シートの(磁性体層の)大きさがそのアンテナの外形と同等もしくはそれより僅かに大きく形成されていることを前提として、アンテナ基板のみのときのアンテナの共振周波数と、アンテナ基板に磁性体シートを貼着してその磁性体シート側を金属面に貼着させたときの共振周波数とを、実用的な範囲で同等とすることができる。
外形面積が880mm2以上2500mm2以下の範囲の外形としては、例えば、40mm×22mmの矩形(外形面積は880mm2)、30mm×30mmの正方形(同900mm2)、直径34mmの円形(同907mm2)、45mm×27mmの矩形(同1215mm2)、直径40mmの円形(同1256mm2)、直径44mmの円形(同1520mm2)、50mm×32mmの矩形(同1600mm2)、40mm×40mmの正方形(同1600mm2)、直径50mmの円形(同1962mm2)、55mm×36mmの矩形(同1980mm2)、45mm×45mmの正方形(同2025mm2)、60mm×40mmの矩形(同2400mm2)、直径56mmの円形(同2462mm2)、50mm×50mmの正方形(同2500mm2)などが挙げられる。
本発明の非接触式データキャリアは、金属部分を有する被着体の金属面に貼着するためのもので、前記アンテナ基板と前記磁性体シートとが一体に積層されてなることを特徴とする。
本発明によれば、13.56MHz帯用の非接触式データキャリアまたはそのアンテナ基板に、そのまま磁性体シートを貼着することで、金属対応の非接触式データキャリアとして使うことができる非接触式データキャリア用磁性体シート、及びその磁性体シートを備えた金属対応の非接触式データキャリアを提供することができる。
したがって、本発明によれば、少なくとも所定の外形面積を有するアンテナに関していえば、磁性体シート毎にアンテナ設計をしなくてもよいので、金属対応の非接触式データキャリアの生産コストの低減または生産性向上が可能となる。
以下、本発明の実施形態を図面および表を参照して説明する。同じものには同じ符号を付し、原則として重複する説明を省略する。なお、本発明の実施形態を図面に基づいて記述するが、それらの図面は図解のために提供されるものであり、本発明はそれらの図面に限定されるものではない。
図1は、本実施形態に係る磁性体シートの一例を示す平面図、図2はその断面図である。図1および図2に示すように、磁性体シート10は、基材フィルムP1を基材として、高透磁率の磁性体から構成された所定厚の磁性体層11が積層一体化された所定形状の外形および面積を有するシート状(板状)のものである。磁性体シート10の一方の面には接着層12が積層され、その接着層12の接着力により剥離紙S1に剥離可能に貼着されている。なお、本明細書において、剥離紙に貼着されている状態のものも、剥離紙から剥がされた状態のものも、アンテナ基板や金属面に貼着された状態のものも、いずれも、磁性体シートと呼ぶ。
この磁性体シート10は、例えば、幅48mm×長さ30mmの矩形または略矩形(四隅が丸みを帯びた長方形)とされている。これは、外形が幅45mm×長さ27mmの矩形状のアンテナ(外形面積が1215mm2)面を実質的に覆い、かつ、大きすぎない面積および形状である。このように、この磁性体シート10は、非接触式データキャリアのアンテナの外形を覆うように実質的に同等若しくはそれより僅かに大きく形成されているので、磁性体シート10の外形を改めて切断することなく、非接触式データキャリアのアンテナ基板に貼着することができる。この磁性体シート10を、アンテナ基板と被着体の金属面との間に積層させて金属面に貼着することで、リーダライタからの磁束を金属面に対して遮蔽することができる。
図1および図2に示すように、磁性体シート10の基材フィルムP1とその上に積層一体化された磁性体層11とは、全く重なるように同じ平面形状を有している。すなわち、磁性体シート10の外形と、磁性体シート10の磁性体層11の外形とは同じである。この例に限らず、基材フィルムP1の外形は、磁性体層11の外形よりも僅かに大きく形成されていてもよい。その場合でも、磁性体シート10が電磁的に機能するのは、磁性体層の部分であると考えられる。したがって、以下では、磁性体シートの磁性体層の外形のことを、磁性体シートの外形として説明する。
なお、磁性体シートおよびアンテナの外形は、矩形状に限られず、円形、楕円形、瓢箪形、キャラクター形状その他の形状であってもよい。磁性体シートの形状および大きさは、アンテナの外形サイズに合わせて適宜定められる。すなわち、アンテナの外形を実質的に覆いかつ大きすぎないように磁性体シートの形状及び大きさが定められる。例えば、アンテナの外形が幅45mm×長さ27mm程度の矩形であれば、磁性体シートの外形は、幅と長さがそれぞれ同等かせいぜい4mm程度大きい程度の矩形とするのが好ましい。これは、アンテナの周縁部に0mm〜2mm程度の余裕を持たせることで、確実にアンテナを覆うためである。逆に言うと、磁性体シートの外形が例えば幅48mm×長さ30mmの矩形であれば、アンテナの外形が幅44mm以上48mm以下、長さ26mm以上30mm以下の非接触式データキャリア本体に貼着する場合に好適である。
また、本実施形態において、磁性体シート10の主な構成要素である磁性体層11の厚さおよび透磁率は、金属部分を有する被着体(被着対象物品)の金属部分の影響により生じるアンテナの共振周波数上昇分を実質的に相殺する周波数降下を生じさせるように設定されている。すなわち、非接触式データキャリア本体のみのときのアンテナの共振周波数と、その非接触式データキャリア本体をそのアンテナ面と金属面との間に磁性体シートを積層させて金属面に貼着したときのアンテナの共振周波数とが、実用的な範囲内で同等となるように、磁性体層11の厚さおよび透磁率を設定している。
具体的には、磁性体層11の厚さ及び透磁率は、非接触式データキャリアのアンテナの外形面積に合わせて適した値が選択される。例えば、非接触式データキャリアのアンテナの主要構成部分であるアンテナコイルの最外周の外形が幅45mm×長さ27mmの矩形状の場合など、アンテナの外形面積が880mm2以上2500mm2以下の場合、好ましくは、880mm2以上1600mm2以下の場合には、磁性体シートの磁性層は、透磁率が33以上47以下で厚さが80μm以上160μm以下、または、透磁率が15以上28以下で厚さが220μm以上280μm以下に設定される。これを、磁性体シート10の磁性層11の外形で言い換えれば、磁性体シー10の外形面積が880mm2以上2916mm2以下の場合には、磁性体シートの磁性層は、透磁率が33以上47以下で厚さが80μm以上160μm以下、または、透磁率が15以上28以下で磁性層の厚さが220μm以上280μm以下に設定される。これは、後述する実験結果に基づくものである。
なお、外形面積880mm2を有する外形としては、40mm×22mmの長方形が例示され、外形面積2500mm2を有する外形としては、50mm×50mmの正方形が例示され、外形面積2916mm2を有する外形としては、54mm×54mmの正方形が例示される。また、外形面積1600mm2を有する外形としては、50mm×32mmの長方形や40mm×40mmの正方形が例示される。
この磁性体層11に使用される磁性体としては、このような透磁率を有し、所定厚さに積層できるものであればよく、特に限定されないが、具体的には、Mn−Mg−Znフェライト、Mn−Znフェライト、Ni−Znフェライト、六方晶系フェライトなどの高絶縁性を有する磁性材料が好適である。また、磁性体層11の形成において、上記したフェライトなどの磁性粉末と樹脂バインダを混合したペーストを用いてもよい。この樹脂バインダとしては、熱可塑性樹脂を主体とし、必要により磁性粉末と樹脂との親和力を向上させるシラン系、チタネート系、アルミ系などのカップリング剤、樹脂の流動性を高めるフタル酸系、スルホン酸系、リン酸系、エポキシ系などの可塑剤、混合物の流動性を高めるステアリン酸、ステアリン酸塩、脂肪酸アミド、ワックス類などの滑剤及び充填物の酸化を防止するヒーンダードフェノル系、硫黄系、リン系などの酸化防止剤を適宜添加したものが好適である。
磁性体シート10の基材フィルムP1としては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)などの電気絶縁性かつ可撓性を有する合成樹脂を一定の厚さのフィルム状に構成したものが好適である。その厚さは、基材フィルムとして十分な程度の強度を持ちつつ、不要に厚くならない程度の厚さであればよい。例えば、10μm以上50μm以下が好ましく、20μm以上40μm以下がより好ましい。
このように、磁性体シート10は、比較的高い引張応力や曲げ応力などに耐え得るように、磁性体層11が基材フィルムP1と一体化されて補強された構成となっているので、磁性体シート10の製造に際して、長尺のシートまたはフィルムをロール状に巻回したロールの形態で扱うことが容易となる。これにより、通常の印刷装置やラベル加工装置を用いて、ロールの形態で、接着層(粘着層)の積層や外形抜き加工ができるので、磁性体シートの生産性を高めることができる。また、磁性体シート10の基材フィルムP1は、絶縁性かつ非磁性であるから、この基材フィルムP1面側を金属面に載置すれば、金属面が鉄板などの強磁性体の表面であっても、支障なく、本発明の効果を得ることができる。
図2に示す接着層12は、磁性体シート10を、アンテナ基板を含む非接触式データキャリア本体または、貼着対象の金属面に接着するためのもので、具体的には、アクリル系、ゴム系、シリコン系接着剤を使用した両面テープなどで構成される。また、接着層12をアクリル系接着剤使用の両面テープ、特に、再剥離(弱粘着)タイプのアクリル系接着剤を使用した両面テープなどで形成し、非接触式データキャリア本体または金属面に対して着脱可能に構成してもよい。
接着層12の表面を剥離可能に覆っている剥離紙S1は、磁性体シート10を非接触式データキャリア本体または金属面に接着するまで接着層12を被覆するもので、例えば、クラフト紙、グラシン紙などに剥離剤を塗布して形成される。
なお、図3に示すように、磁性体シート10の他方の面にも、接着層13および剥離紙S2を設けてもよい。接着層13は接着層12と同様に構成することができるが、異なる構成でもよい。剥離紙S2も、剥離紙S1と同様に構成することができるが、異なる構成でもよい。このように、磁性体シート10の両面に接着層12、13を設けることで、磁性体シート10を非接触式データキャリア本体および金属面へ容易に貼着することができる。
磁性体シート10は、非接触式データキャリア本体のみのときのアンテナの共振周波数と、その非接触式データキャリア本体をそのアンテナ面と金属面との間に磁性体シートを積層させて金属面に貼着したときのアンテナの共振周波数とが、実用的な範囲内で同等となるように、磁性体層11の厚さおよび透磁率を設定しているので、金属面の設置に対応しないタイプの非接触式データキャリア本体を、磁性体シート10を接着することで、金属面に取り付けて、正常に作動させることが可能となる。これによって、金属面の設置に対応するタイプのアンテナや非接触式データキャリア本体を、新たに設計する必要がなく、経済的であり、生産性を向上させることができる。
磁性体シート10は、例えばカレンダローラを備えた塗布装置を用いて基材フィルムP1上へ粉末状またはペースト状の磁性材料を全面的に塗布し、厚さ調整装置を用いて磁性体層が所定の厚さとなるように調整し、乾燥した後、所定形状の個片に外形抜き加工することで製造することができる。この場合には、外形抜き加工で個片化するから、磁性体シート10の1個分の基材フィルムP1の外形と磁性体層11の外形とは当然に同一となる。
また、磁性体シート10は、上記磁性粉末及び樹脂バインダを混合した磁性ペーストをインクとして、グラビア印刷やスクリーン印刷等により、磁性体シート10の複数個分を縦横に所定間隔で所定厚さ及び所定形状となるように塗布し、乾燥した後、所定形状の個片に抜き加工することでも製造することができる。この場合でも、磁性体シート10の1個分の基材フィルムP1と磁性体層11の外形を同一にすることはできるが、基材フィルムP1の外形が磁性体層11の外形よりも僅かに大きくなるように抜き加工してもよい。
また、磁性体シート10は、あらかじめ長尺のシート状に構成された磁性材料を用意し、このシート状の磁性材料と基材フィルムP1とを接着剤を介して貼り付けて積層一体化してから、所定形状の個片に外形抜き加工することでも製造することができる。この場合、外形抜き加工で個片化するから、磁性体シート10の1個分の基材フィルムP1と磁性体層11の外形は当然に同一となる。
いずれにしても、可撓性を有する基材フィルムP1を基材とすることで、ロールの形態で扱うことができ、長尺のシートに所定間隔で磁性体シートの複数個分を縦横に配設しロール状に巻き取ることで、磁性体シート10の大量生産が容易となる。
このようにロールの形態で製造され、長尺の剥離シート上に磁性体シート10が複数個所定間隔で配置され剥離可能に貼着された、磁性体シートロール10Rの一例を図4に示す。なお、この図4に示す例では、磁性体シート10は、2列に配置されているが、2列以外に配列されていてもよいことはもちろんである。
次に、上記した磁性体シート10を貼着することで金属面に貼着して使用することが可能となる非接触式データキャリアの構成の一例として、ラベル形の非接触式データキャリア本体100の構成を図5〜図7を参照して説明する。
図5は、ラベル形の非接触式データキャリア本体100の断面を模式的に示した断面図である。図6は、この非接触式データキャリア本体100が具備しているアンテナ基板20の一例を模式的に示す平面図、図7はその断面を模式的に示した断面図である。いずれの断面図も、幅方向に対して厚さ方向を極端に強調して示しており、その縮尺は一律ではない。
図5に示すように、この非接触式データキャリア本体100は、アンテナ基板(非接触式データキャリアインレットともいう)20と、このアンテナ基板20の一方の面に接着層102を介して貼着され、アンテナ基板20を被覆して保護する保護シート101と、このアンテナ基板20の他方の面に積層一体化された接着層103とから構成された積層体である。この積層体である非接触式データキャリア本体100が、保護シート101を表面側として、裏面側に露出した接着層103の接着力により、剥離紙104に貼着されている。非接触式データキャリア本体100は、剥離紙104から剥がす(分離する)ことにより、物品等に貼着できるように構成されている。また、この非接触式データキャリア本体100は、金属及び磁性体の影響のない環境で物品等に貼着した際に13.56MHz帯のリーダライタと電磁誘導方式により交信できるように調整されている。
保護シート101は、例えば、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)などの合成樹脂が混合された合成紙、光沢紙、上質紙など、電気絶縁性で、ラベル表面基材として広く知られているシート状の材料から、適宜選択することができる。
接着層102、103は、具体的には、アクリル系、ゴム系、シリコン系接着剤を使用した両面テープなどで構成される。また、接着層102、103をアクリル系接着剤使用の両面テープ、特に、再剥離(弱粘着)タイプのアクリル系接着剤を使用した両面テープなどで形成し、物品等の貼着面に対して着脱可能に構成してもよい。
この非接触式データキャリア本体100は、例えばラベル加工によって形成される。なお、図5に示す例では、保護シート101はアンテナ基板20の平面外形より一回り大きく形成されている。そうすることで、アンテナ基板20が露出せず保護シート101により確実に覆われるので、はがれにくくなるという効果がある。なお、図示しないが、保護シート101とアンテナ基板20とは、ほぼ同じ大きさであってもよい。保護シート101とアンテナ基板20とを同じ大きさにする場合には、1個ずつ所定の大きさに切断してから積層する必要がなく、複数個分をまとめて製作して積層してから個片に切断することによって、非接触式データキャリア本体100を製造できる。保護シート101とアンテナ基板20とをほぼ同じ大きさにする場合には、保護シート101とアンテナ基板20とを接着する接着層102は、図5の場合と異なり、物品等への貼着面として露出しないので、保護シート101とアンテナ基板20とを接着できるものであればよく、物品等への貼着面に露出する接着層103と同じ構成にする必要はない。なお、図5に示す例では、アンテナ基板20を、ICチップ搭載面を下にして配置しているが、ICチップ搭載面を上にして配置してもよい。
なお、非接触式データキャリア本体の構成は、これに限られるものではなく、一般に使用されている公知の非接触式データキャリア本体の構成でもよい。例えば、ラベル形のほか、アンテナ基板を樹脂シートに挟み込んでパウチ加工処理したものや、ラミネート加工処理したものなどでもよい。また、非接触式データキャリア本体は、アンテナ基板そのものであってもよい。
ここで、アンテナ基板20の構成について説明する。図6および図7に示すように、アンテナ基板20は、基材フィルムP2と、基材フィルムP2上に形成されたアンテナコイル22と、基材フィルムP2上に実装されアンテナコイルと電気的に接続されたICチップ23とを主に備えて構成されている。
基材フィルムP2は、電気絶縁性を有するシート状(板状)の基材であって、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などで構成されるが、この他にも、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンスルフィド、PBT、ポリアリレート、シリコン樹脂、ジアリルフタレート、ポリイミドなどで構成することもできる。基材フィルムP2の厚さは、特に限定されないが、例えば、20μm〜50μmである。
アンテナコイル22は、基材フィルムP2の一方の面上を、基材フィルムP2の外形に沿うように所定回数周回して形成されている。例えば、アンテナの外形(アンテナコイルの最外周の導体パターンの外形)が45mm×27mmの場合、13.56MHz帯用に必要なインダクタンスを確保するため、アンテナコイルの周回数は9回程度とされている。アンテナコイル22の一端部22aは、ICチップ23の接続バンプ24の一方に接続されている。一方、アンテナコイル22の他端部は、基材フィルムP2の他方の面上に配線されるジャンパ線(端子間接続パターン)25の一端部25aに接続され、さらにジャンパ線25の他端部25bは、基材フィルムP2の一方の面上に配線される配線パターンの基端部22bに接続されている。この配線パターンの基端部22bは、ICチップ23の接続バンプ24の他方と接続されている。アンテナコイル22、ジャンパ線25は、基材フィルムP2の面上に形成されたアルミニウムなどの導体からなる導体パターンであり、例えばフォトリソグラフィ技術およびエッチングにより形成されるが、銅その他の導体により形成されてもよい。
ICチップ23には、電源バックアップ不要で、かつ書き換え可能な不揮発性メモリや無線交信のためのRF回路の他、コンデンサなども搭載されている(図示せず)。
このように基材フィルムP2上でそれぞれ接続されるアンテナコイル22、ICチップ23内のコンデンサによって、13.56MHz帯の信号を送受信するためのアンテナ全体の共振回路が構成される。なお、アンテナ全体の共振回路を構成するコンデンサ(キャパシタ)としては、ICチップ23内のコンデンサに限らず、薄型のチップコンデンサや、導体パターン(容量パターン)の印刷によるコンデンサを別途設けてもよい。
リーダライタ等の外界からの13.56MHz帯の信号をアンテナコイル22により受信すると、その磁界によりアンテナコイル22に電流が流れ、それにより、ICチップ23が起動される。すると、ICチップ23は、受信された信号に応答してアンテナコイル22から信号を送信させる。このようにして、アンテナ基板20は13.56MHz帯のリーダライタと交信する。
なお、アンテナ基板(非接触式データキャリアインレットともいう)の構成は、これらに限られるものではなく、13.56MHz帯の信号を送受信するためのアンテナであれば、その他公知のアンテナ基板の構成でもよい。
次に、上記非接触式データキャリア本体100のアンテナ基板20に磁性体シート10を貼着することにより製造した金属対応の非接触式データキャリア300について説明する。
図8は、非接触式データキャリア300を模式的に示す平面図であり、図9はこの非接触式データキャリア300を金属面350に取り付けた状態の断面図である。図8において、破線で記した矩形の領域は、アンテナ基板20の外形を示し、二点鎖線で記した矩形の領域は、磁性体シート10の外形を示している。いずれも、保護シート101に被覆されて、非接触式データキャリア300の表面からは見えないことを示している。また、符号Wm、Lmは、磁性体シート10の外形の幅、長さをそれぞれ示し、符号Wt、Ltは、アンテナ基板20に形成されたアンテナの外形の幅、長さをそれぞれ示している。
図8および図9に示すように、非接触式データキャリア300は、非接触式データキャリア本体100と、磁性体シート10とを具備する。非接触式データキャリア本体100と磁性体シート10とは、非接触式データキャリア本体100の裏面に設けられた接着層103を介して貼着されている。また、非接触式データキャリア300は、磁性体シート10の一方の面に設けられた接着層12を介して金属面5に貼着されている。なお、接着層はこれに限られるものではない。
また、図8および図9に示すように、磁性体シート10は、アンテナ基板20のアンテナを全面的に覆うように、アンテナの外形よりも僅かに大きく形成されている。そして、アンテナ基板20のアンテナが磁性体シート10からはみ出ないように、アンテナ基板20のアンテナは磁性体シート10のほぼ中央に配置されて積層されている。
なお、図9に示すように、この例では、アンテナ基板20のアンテナ22面(ICチップ搭載面)を磁性体シート10側に向けて貼着している。これは、非接触式データキャリア本体100におけるアンテナ基板20の向き(図5参照)に合わせたものである。アンテナ22面を逆側に向けて貼着してもよいことはもちろんである。すなわち、磁性体シート10がアンテナ基板20と金属面5との間に介在するように積層されて、非接触式データキャリア本体100のアンテナ基板20が金属面に貼着される構成であればよい。
また、アンテナ基板20のICチップ搭載面を磁性体シート10側に向けて貼着する場合、あらかじめ、磁性体シート10のICチップ搭載箇所に対応する領域にICチップを陥入できる程度の大きさの穴をあけておくことが好ましい(図示せず)。アンテナ基板のICチップ搭載箇所が他の部分に比べて厚いことにより磁性体シート10との間に歪みや隙間が生じるのを防ぎ、ラベル形非接触式データキャリアとしての平坦性を確保するためである。また、ICチップを磁性体シート10に設けた穴内に陥入させることでICチップを外界からの圧力や衝撃等から防ぐためでもある。
このように、磁性体シート10と、非接触式データキャリア本体100とをそれぞれ別個に構成し、それぞれを、接着層を介して貼着することで、非接触式データキャリア本体100が、金属面の設置に対応しないタイプであっても、金属面に取り付けて、正常に作動させることが可能となる。
次に、磁性体シート10の磁性体層11の透磁率と厚さについて、上記した範囲に設定するのが好適であることを説明する。
磁性体層の透磁率と厚さの適切な値を調べるため、磁性体シート10の磁性体層11の透磁率と厚さを変えて、磁性体及び金属の影響がない場合の非接触式データキャリア本体のみの共振周波数と、この非接触式データキャリア本体に、磁性体シート10を貼着し、その磁性体シート10側を図10にその断面を模式的に示すように金属面に貼着した状態の共振周波数とを計測する実験を行った。
すなわち、被着体の金属面と非接触式データキャリアのアンテナ面とが間隔が、例えば1mm未満、特に0.5mmに満たないほど近接した状況下で、13.56MHz帯のリーダライタと交信しようとすれば、リーダライタのアンテナからの磁界は、金属面にも届くことになり、渦電流が発生して反磁界が生じる結果、非接触式データキャリアのアンテナの共振周波数が上昇することが予想される。一方、金属面と非接触式データキャリアのアンテナ面との間に磁性体層を介在させると、アンテナコイルのインダクタンスが上昇する結果、非接触式データキャリアのアンテナの共振周波数が低下することが予想される。そこで、非接触式データキャリア本体のみのときの共振周波数と、磁性体シートを介して金属面に貼着したときの共振周波数とが、実用的な範囲で同等になった場合には、金属の影響によるアンテナの共振周波数の上昇分を実質的に相殺できたと考えられる。そのような場合の磁性体層の透磁率及び厚さを調べるのが本実験の目的である。
実験に用いた非接触式データキャリア本体は、保護シートを積層しない状態のアンテナ基板そのものである。このアンテナ基板は、上記実施形態で説明したアンテナ基板20と同様の構成のものである。基材フィルムP2としては、厚さ25〜40μmの略一定の厚さのポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた。アンテナコイル22は、アルミニウム箔のエッチングにより、アンテナ基板の外形に沿って、形成した渦巻状の導体パターンである。このアンテナコイルの両端にICチップ23が接続されている。各実施例および比較例のいずれも、アンテナの外形は同じ45mm×27mmの矩形状である。しかし、アンテナコイルの渦巻状の導体パターンの巻き回数は上記の実施形態で一例として示した9回とは異なる場合もある。また、アンテナコイルの渦巻状の導体パターンの内側に、静電容量調整用の導体パターンが表面及び裏面に形成され、アンテナコイルと電気的に並列に接続された場合もある。
磁性体シート10の外形は、このアンテナの外形よりも一辺の長さがそれぞれ3mmずつ長い、48mm×30mmの矩形状とした。これは、磁性体シート10の縁部がアンテナコイル最外周の縁部を越えた幅が、ほぼ均等に1.5mmずつになるように余裕を持たせた外形とし、アンテナを磁性体シート10で確実に被覆できるように配慮したものである。そして、図8および図9に示すように、アンテナを確実に覆うように、アンテナが磁性体シート10の外形のちょうど中央に来るようにして貼着した。
貼着対象(被着体)の金属として、例えば厚さ5mmのアルミニウム板を用いた。なお、ここでは明記しないが、本発明者らは、別途、非接触データキャリアの貼着対象となりそうな物品の表面を構成する材料として一般的な導電性金属材料(例えば、鉄、アルミニウム、銅など)を用いて、貼着対象の金属を変えて共振周波数の差を調べる実験を行い、金属の種類による共振周波数の差は、有意な差ではないことを確認している。
図10に示すように、この実験では、非接触式データキャリア本体のアンテナ面側すなわちICチップ搭載面側を下にして、下側に一定の厚さの接着層N1を介して、磁性体シート10に貼着し、その磁性体シート10の反対側を、一定の厚さの接着層N2を介して金属面5に貼着した。
なお、金属面とアンテナ面との距離は、接着層N1の厚さ40μm、接着層N2の厚さ40μm、および磁性体シート10の基材フィルムP1の厚さ25μmの合計105μmに、磁性体層11の厚さを加えたものとなっている。磁性体層11の厚さは、入手できた磁性シート材料に合わせ、50μm以上300μm以下の範囲で適宜変化させた。すなわち、金属面とアンテナ面との距離は、155μm以上405μm以下となり、0.5mm未満と短くなっている。すなわち、金属面とアンテナ面とは近接している。また、金属面と磁性体面との距離は、接着層N2の厚さ40μmと基材フィルムP1の厚さ25μmの合計であるから65μmである。
このようにして、行った実験結果を表1に示す。表1において、厚さの単位はμm、共振周波数の単位はMHzである。ここで、「透磁率」とは、上記したように、13.56MHz帯の電磁波における比透磁率(初透磁率)のことである。実際には、実験に使用した磁性体シート材料それぞれのメーカのカタログ等による公称値である。
表1において、「可否」の欄は、本発明の磁性体シートとして用いることができるか否かを示したものである。すなわち、非接触式データキャリア本体のみ(アンテナ基板のみ)の状態の共振周波数と、磁性体シートを介して金属面に貼着した状態の共振周波数とが実用的な範囲内で同等(例えば、両共振周波数の差が0〜1MHz未満、好ましくは0〜0.5MHz未満)と判断した場合を「可」、そうでない場合を「否」としている。便宜上、「可」と判断したものを実施例とし、「否」と判断したものを比較例として、区別して示している。
この表1の結果を、「可」の場合を「○」(白丸)で、「否」の場合を「×」でプロットしてグラフ化したものを図11に示す。
表1および図11に示された測定結果から、アンテナサイズが45mm×27mm、磁性体シートのサイズが48mm×30mmで、かつ、磁性体シートでアンテナを確実に覆った場合には、次のことがわかった。
磁性体層の厚さが90μm以上150μm以下で透磁率が35以上43以下の範囲で、本体のみの状態の共振周波数と、磁性体シートを介して金属面に貼着した状態の共振周波数との差が0.1MHz〜0.4MHzであり、好適であることがわかった(実施例1〜4参照)。また、透磁率が35の場合、磁性体層の厚さが100μmなら好適であるが、磁性体層の厚さが50μm、200μm、300μmの場合には、不適(「否」)であることがわかった(実施例3、比較例1、3、6参照)。
実施例1、2と比較例2との違いから、磁性体層の厚さが90μmの場合には、貼着対象の金属面の影響によるアンテナの共振周波数の上昇分を相殺する周波数の低下分を得るのに必要な透磁率は、31では足りないが、42あれば十分であることがわかった。
そこで、磁性体層の製造誤差その他の誤差を考慮して、若干範囲を広げ、磁性体層の厚さが80μm以上160μm以下で透磁率が33以上47以下の範囲で、好適(「可」)になると判断した。図11のグラフでは、この範囲を破線で囲んで示している。
また、磁性体層の厚さが250μmの場合、透磁率が18および23では「可」だが(実施例5、6)、37では「否」となることがわかった(比較例4)。また、磁性体層の厚さが300μmの場合、透磁率が25でも35でも「否」となることがわかった(比較例5、6)。そこで、磁性体層の製造誤差その他の誤差も考慮して、若干範囲を広げ、磁性体層の厚さが220μm以上280μm以下で透磁率が15以上28以下の範囲で、「可」になると判断した。図11のグラフでは、この範囲も破線で囲んで示している。
比較例3、5、6では、磁性体シート10を介して非接触式データキャリア本体を金属面に貼着した場合のアンテナの周波数は、13.56MHz帯用として通信するのに適した周波数になっているのでよいようにも思える。しかし、比較例3、5、6では、アンテナの周波数をあらかじめ2MHz程度高くして、15.5MHz程度としているので、この非接触式データキャリア本体のみでは、13.56MHz帯用として使うことはできない。したがって、比較例3、5、6の磁性体シートは、本発明の磁性体シートとしては不適である。
なお、この例では、アンテナ面を磁性体シート10面側(磁性体層11面側)にして貼着したが、発明者は、別途、アンテナ面を磁性体シート10面側とは反対側にして貼着しても結果において優位な差は得られないことを確認済みである。
上記では接着層N1、N2をそれぞれ40μmに固定して計測した。本発明者が行った別の実験では、接着層N1、N2をそれぞれ25μm以上160μm以下の範囲でいろいろに変更した場合、その共振周波数の変化は、せいぜい数10KHz程度であることがわかった。すなわち、接着層の厚さは、25μm以上160μm以下の範囲であれば、共振周波数に対して多少の影響を与えるが大きな影響を与えない。
なお、この実験は、アンテナコイルの最外周の導体パターンが45mm×27mmの矩形状の外形を有するアンテナ基板について行ったものである。アンテナの共振周波数は、アンテナコイルのインダクタンスの関数であり、アンテナコイルのインダクタンスは、アンテナの外形面積に比例すると考えられるから、この実験結果は、アンテナの外形が異なる場合であっても、アンテナの外形面積が同一の場合、すなわち、45mm×27mm=1215mm2の場合については、適用できると考えられる。実際には、アンテナの外形の各辺の長さがそれぞれ5mm前後異なる場合でも、同等の透磁率および厚さの磁性体層を積層して同等の効果が得られることが経験的に確認できるから、アンテナの外形面積が880mm2以上1600mm2以下の場合にも上記結果は適用できると考えられる。さらに、アンテナサイズが45mm×45mmの場合についての実験結果およびその製造誤差等を考慮すると、アンテナの外形面積が最大2500mm2でも適用できる場合があると考えられる。
したがって、本発明による磁性体シートは、アンテナの外形面積が880mm2以上2500mm2以下、好ましくは、アンテナの外形面積が880mm2以上1600mm2以下の場合には、透磁率が33以上47以下で厚さが80μm以上160μm以下、または、透磁率が15以上28以下で厚さが220μm以上280μm以下であることが好ましい。
言い換えると、本発明の非接触式データキャリア用磁性体シートは、磁性体シートの外形面積が880mm2以上2900mm2以下、好ましくは、880mm2以上1600mm2以下であって、磁性体シートの磁性層は、透磁率が33以上47以下で厚さが80μm以上160μm以下、または、透磁率が15以上28以下で磁性層の厚さが220μm以上280μm以下であることが好ましい。
次に、アンテナサイズが45mm×45mmの場合について、磁性体層の厚さと透磁率を変えて、共振周波数と通信距離を計測する実験を行った結果について説明する。
表2は、それぞれの試料について、非接触式データキャリア本体と磁性体シートと金属板とをそれぞれ接着層を介して貼着した状態と、非接触式データキャリア本体に接着層を介して磁性体シートを貼着した状態と、非接触式データキャリア本体のみの状態の3つの状態について、共振周波数と通信距離を計測した結果を示したものである。接着層の厚さや、アンテナ面の向きなど、貼着の仕方は、表1のところで説明した実験方法の場合と同じである。
なお、通信距離は、リーダライタ(ウェルキャット製ハンディリーダライタ;RCT−200−01、オプションアンテナなし)の位置を変えて測定した。なお、ここでの通信距離とは、リーダライタのアンテナ3の表面とそれに対向する非接触式データキャリア本体のアンテナ基板20の表面との距離dである(図10参照)。
表2に示すとおり、磁性体層の厚さが100μmで透磁率が34〜37の場合(試料2)には、本体のみの共振周波数が13.22MHzで、この本体に磁性体シートを貼着した場合の共振周波数が10.82MHz、この磁性体シート側を接着層を介して金属板に貼着した場合が13.5MHzであることがわかった。したがって、アンテナサイズが45mm×45mm(アンテナの外形面積が2025mm2)の場合においても、磁性体層の厚さが100μmで透磁率が34〜37の場合(試料2)には、本発明の磁性体シートとして好適なことがわかった。
一方、磁性体層の厚さが50μmで透磁率が34〜37の場合(試料1)には、アンテナ基板単体でのアンテナの共振周波数をある程度低く設定しておかないと磁性体シートを積層して金属板に貼着した場合に13.5MHzで交信することができないため、本発明の磁性体シートとしては不適なことが確認できた。磁性体層の厚さが300μmで透磁率が25〜28の場合(試料3)には、磁性体層が厚い分、金属面に貼着した場合の通信距離は他の試料の場合に比べて伸びた。しかし、予想通り、あらかじめ、アンテナ基板単体でのアンテナの共振周波数をある程度高く設定しておかないと磁性体シートを積層して金属板に貼着した場合に13.5MHzで交信することができないため、本発明の磁性体シートとしては不適なことが確認できた。
以上、本発明を実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上記実施形態では、本発明の磁性体シートは、基材フィルムと磁性体層を分けて構成していたが、基材フィルムを必要とせず、磁性体層のみの構成としてもよい。
10…磁性体シート、11…磁性体層、P1…磁性体シートの基材フィルム、20…アンテナ基板、P2…アンテナ基板の基材フィルム、22…アンテナコイル、23…ICチップ、100…非接触式データキャリア本体、300…非接触式データキャリア。