JP4933429B2 - 伏在神経絞扼による膝関節痛の治療のための、ボツリヌス毒素を含む薬学組成物 - Google Patents

伏在神経絞扼による膝関節痛の治療のための、ボツリヌス毒素を含む薬学組成物 Download PDF

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Description

本発明は伏在神経絞扼(entrapment)による膝関節痛を治療するためのボツリヌス毒素及び薬学的に許容される担体を含む薬学組成物に関するものである。使用の際、本発明の薬学組成物は、膝の内側(medial side)上の皮下に注射される。
周知されている通り、膝の関節は、関節内部と周囲の関節外部で構成される。膝痛は一般に関節内部の問題に因るものと考えられている。しかし、痛みを伝達する作用をする受容体は、膝の関節内部より関節周囲により多く存在する。また、オートラジオグラフィー(autoradiography)は膝の損傷の程度が膝内の痛みの程度と直接的に比例しないことを示す。年を取るにつれてヒトは関節内部に損傷が現れるようになり、関節外部にも多様な変化が誘発される。
伏在神経は、膝内側の痛みを伝達する神経である。上記神経の絞扼(entrapment)はまた、膝内の痛みを誘発する。伏在神経絞扼が神経筋電図検査などで確認されることができるとしても、伏在神経が静止状態(rest state)では伏在神経が絞扼されない場合が時々ある。このように、伏在神経が休む状態で実施される神経筋電図検査により伏在神経絞扼を診断することは実質的に不可能である(非特許文献1〜3参照)。伏在神経絞扼は、頻繁に誘発される状態である。しかし、今までこれと関連した痛みを効果的に治療し得る薬物は開発されていない。
嫌気性グラム陽性バクテリアであるクロストリジウム・ボツリヌス(Clostridium botulinum)はボツリヌス毒素を生成する。この毒素は、ヒト及び動物でボツリスムという神経麻痺疾患を引き起こす。ボツリスムの症状は、典型的にクロストリジウム・ボツリヌス胞子に感染した飲食を摂取し、18〜36時間が経過した後に現れる。ボツリヌス毒素は腸内膜を通過して末梢運動神経を攻撃することができるものと見られる。
ボツリヌス毒素は、活動亢進性骨格筋を特徴とする神経筋障害の治療のために臨床に用いられている。ボツリヌス毒素タイプAは、米国食品医薬庁により本態性眼瞼けいれん、斜視及び片側顔面けいれんの治療に用いられることが許可されている。非-タイプAボツリヌス毒素亜型は、ボツリヌス毒素タイプAに比べてさらに低い効果及び/又はさらに短い持続時間を有する。末梢筋肉内に注射されたボツリヌス毒素タイプAの臨床効果は、通常、注射後1週以内に示される。ボツリヌス毒素タイプAの1回の筋肉内注射による症状治療の一般的な持続時間は約3ヶ月である。
現在、ボツリヌス毒素を用いて痛みを治療する技術が開発されているものの、従来の技術で用いられるボツリヌス毒素はアセチルコリン自体に対する上記毒素の効果に焦点を合せている。
例えば、特許文献1は、神経絞扼により引き起こされた痛みを治療するためのボツリヌス毒素タイプBの使用を開示している。特許文献1は、ボツリヌス毒素タイプBが神経絞扼が発生した部位に注射されることを特定している。この領域は、神経侵犯領域自体または神経周囲領域を含み得る。特許文献1において、MYOBLOCTMに反応する患者の効果持続期間は5000ユニット(unit)または10,000ユニットで12〜16週であると観察された。
ボツリヌス毒素タイプAの使用は、特許文献2に記載されている。この文献において、ボツリヌス毒素タイプAは、手根管症候群に起因した痛みを治療するために用いられる。さらに、特許文献2において、ボツリヌス毒素タイプAは、手及び/又は手首筋肉または正中神経(median nerve)に沿う手根管内に注射される。
特許文献3は、ボツリヌス毒素が受容体に直接影響を与えるよりは、アセチルコリン及び/又は神経伝達物質を遮断することにより、痛みを治療することができると記載している。しかし、ボツリヌス毒素の注射部位を特定せずにいる。
また、特許文献4は、非-筋肉障害関連疼痛患者にボツリヌス毒素を末梢投与して疼痛を治療する方法を開示している。しかし、上記方法においてボツリヌス毒素は理学的検査により同定された特定の治療部位に注射されるものではない。反対に、不特定部位に無作為に注射されることにより、アセチルコリンを消耗させ、化学的媒介反応により痛みを調節する。従って、この方法は特定疾患を治療するためのものではない。
このような各先行技術がボツリヌス毒素を用いて痛みを治療することを開示してはいるものの、これらは遥かに少量のボツリヌス毒素の注射を通じて膝関節の痛みを迅速かつ効果的に治療することを教示または提示していない。現在、膝関節の痛み治療に効果的に応用し得る薬品の開発が要求されているのが現状である。
米国特許公開第2003/0224019号 米国特許公開第2004/028704号 米国特許公開第2004/038874号 国際出願公開第WO2001/78760号 Schon LC, Baxter DE. Neuropathies of the foot and ankle in athletes., Clin Sports Med. 1990 Apr; 9(2): 489-509 Mens JM. Pseudo-arthritis of the knee caused by compression neuropathy of the saphenous nerve., Ned Tijdschr Geneeskd, 1987 Jul 11; 131(28): 1215-8 Morganti CM, McFarland EG, Cosgarea AJ. Saphenous neuritis: a poorly understood cause of medial knee pain., J Am Acad Orthop Surg. 2002 Mar-Apr; 10(2):130-7
本発明の目的は、少量の活性成分を含みながらも、より迅速かつ効果的な方式で伏在神経絞扼による膝関節の痛みを治療することができる薬学組成物(Pharmaceutical Composition Comprising Botulinum Toxin for Treating Knee Joint Pain by Saphenous Nerve Entrapment)を提供することである。
本発明は、ボツリヌス毒素及び薬学的に許容される担体を含む、伏在神経絞扼により引き起こされた膝関節の痛みを治療するための、膝内側上の皮下注射用薬学組成物に関する。
本発明において、上記薬学組成物は、約20〜200LD50ユニットのボツリヌス毒素を含むことが好ましい。
本発明において、上記薬学組成物は、膝内側上の伏在神経支配部位に位置する、過敏化した受容体が密集している皮下筋膜に注射されることが好ましい。
本発明において、上記ボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素タイプAであることが好ましい。
本発明において、膝関節痛の治療効果は少なくとも4週持続的に維持されることができる。
ボツリヌス毒素タイプAを含む本発明の薬学組成物は、少ない投与量でも膝関節痛をより速やかに緩和または治療する優れた効果を奏するため、上記薬学組成物は膝関節痛を治療するのに効果的に用いられる。
本発明者は、ボツリヌス毒素及び薬学的に許容される担体を含む本発明の薬学組成物を非正常に過敏化した(hypersensitive)受容体の多い部位に注射することにより、伏在神経絞扼による膝関節痛を非常に効果的に治療することができることを究明した。このような部位は、膝の内側上の皮下筋膜の触診(palpating)により同定され得る。
従って、本発明はボツリヌス毒素及び薬学的に許容される担体を含む、伏在神経絞扼により引き起こされた膝関節内の痛みを治療するための薬学組成物を提供する。
より具体的には、本発明は伏在神経絞扼により引き起こされた膝関節内の痛みを治療するためのボツリヌス毒素及び薬学的に許容される担体を含み、膝の内側上の皮下に注射される薬学組成物を提供する。
望ましくは、本発明の薬学組成物は膝の内側上の伏在神経支配部位に位置し、過敏化した受容体が密集している皮下筋膜に注射される。
本発明によれば、より少量のボツリヌス毒素が膝に注射され、伏在神経絞扼により引き起こされた痛みがより速やかに治療され、治療効果が少なくとも4週、望ましくは少なくとも16週、より望ましくは少なくとも32週維持され得る。
望ましくは、ボツリヌス毒素を含む本発明の組成物は、伏在神経絞扼により引き起こされた膝痛の治療のために膝の内側の手幅尺(hand's breadth)一つ分上に位置した皮下筋膜における複数の地点(multiple points)で注射され得る。上記用語の膝内側の“手幅尺一つ分上、膝内側から約15〜25cm上の距離を意味し、そこにおいて注射される複数の地点が規定され、そしてそれは患者の身長などに依存して変わり得る距離である
本発明の組成物が注射される非正常な受容体の多い部位は、患者を触診する時、皮膚の感じ、患者が訴える圧痛、皮膚の厚さ等により確認することができる。
具体的には、伏在神経が通る部位の皮膚を軽く摘む場合にも激しい痛みが示されれば、動く状況では伏在神経の絞扼により膝内側の痛みが誘発され得ると考えられる。従って、指で伏在神経が通る部位を摘むことを通じて非正常にアセチルコリンなどに過敏に反応する特定部位を見出すことができ、その部位にボツリヌス毒素が注射され得る。従って、ボツリヌス毒素を膝周囲の皮下に注射して痛みを調節する方法は、本発明が開発される前までは知られたことがない。
本発明は、伏在神経絞扼により引き起こされる膝関節痛を治療するためのボツリヌス毒素及び薬学的に許容される担体を含む薬学組成物を提供する。
本願においてボツリヌス神経毒素(またはボツリヌス毒素)は、高純度ボツリヌス神経毒素(タイプA、B、C、D、E、FまたはG)だけでなく、ボツリヌス神経毒素複合体(タイプA、B、C、D、E、FまたはG)を意味する。ボツリヌス毒素タイプAはA1、A2及びA3を含んでボツリヌス毒素タイプAの全ての種類を含む。本発明において、ボツリヌス神経毒素複合体(タイプA、B、C、D、E、FまたはG)は少なくとも他の非毒性タンパク質と結合したボツリヌス神経毒素であると理解されなければならない。
本発明において、高純度ボツリヌス神経毒素(タイプA、B、C、D、E、FまたはG)は少なくとも他のタンパク質を含む複合体から分離されたボツリヌス神経毒素(タイプA、B、C、D、E、FまたはG)を意味する。即ち、高純度ボツリヌス神経毒素(タイプA、B、C、D、E、FまたはG)は、ボツリヌス神経毒素(タイプA、B、C、D、E、FまたはG)以外の任意のクロストリジウム種から由来した有意な量のタンパク質を含まない。
本発明は、関節内部で引き起こされた痛みを治療するものでなく、関節周囲で痛みを誘発する伏在神経の絞扼を除去することにより痛みを調節する方法に関するものである。
上記のように、痛みの治療のために従来用いられたボツリヌス毒素は、アセチルコリンの分泌を抑制することにより筋肉をマヒさせるものと考えられる。これにより、アルファとガンマ運動繊維の運動性が減少し、その結果として痛みが調節される。反面、本発明の組成物に含まれた神経親和性物質であるボツリヌス毒素は即刻に神経反射を誘発する。具体的には、ボツリヌス毒素は絞扼を誘発する神経周囲の筋膜及び筋肉に注射されると共に、上記筋膜及び筋肉に存在する過敏性アセチルコリン受容体及びその他痛み受容体などに対してこのような神経反射を誘発する。これは、過敏化した受容体を正常化させることにより筋肉と筋膜を弛緩させる。さらに、過多な痛み信号を伝達する受容体(C繊維)を正常化させることにより痛みを調節して運動性を好転させる。
本発明ではアセチルコリンが分泌されるのが重要でない。通常、ボツリヌス毒素がアセチルコリンの分泌を抑制するのに3-5日が要される。本発明は、ボツリヌス毒素の神経親和性性質により神経反射を誘発することを目的とする。しかし、本発明は比較的少量のボツリヌス毒素を用いながらも顕著に短時間内に痛みを緩和または取り除くことができる。
本発明の他の長所は、本発明の組成物は筋肉やその他軟部組織のマヒを誘発しない上に正常なアセチルコリンの分泌を妨害しないことである。反面、既存の痛み治療にボツリヌス毒素を用いる場合には、筋肉マヒによるいくつかの副作用(例えば、関節筋肉に毒素注射時に下顎関節の脱骨)を考慮しなければならない。例えば、少量のアセチルコリンが存在する場合にも過敏化した受容体はあたかも多くのアセチルコリンが作用したかのように反応する。
従来のボツリヌス毒素注射剤は、アセチルコリンの分泌を抑制するために筋肉に深く投与され、結局筋肉をマヒさせる。反面、本発明はアセチルコリンの分泌如何を重要なものとして考慮しない。本発明は、正常な受容体が反応しない少量のアセチルコリンの分泌に対する過敏化した受容体の反応を抑制するために毒素注射剤を投与する。従って、本発明は少量のボツリヌス毒素の使用により所期の目的を達成することができ、筋肉をマヒさせる目的で行われる従来のボツリヌス毒素注射剤のように注射を深く刺す必要がない。このような機作と方法は、これまで如何なる刊行物や文書にも提示されたことがない。
前述したように、特許文献1(米国特許公開第2003/0224019号)は、ボツリヌス毒素タイプBが痛み治療に用いられることを開示している。また、特許文献2(米国特許公開第2004/028704号)には、手根管症候群に起因した痛みがボツリヌス毒素タイプAの使用により治療されると記載されている。しかし、これらは伏在神経絞扼により引き起こされた膝関節の痛みに対する如何なる治療も提示していない。
本発明のボツリヌス毒素を含む薬学組成物は、望ましくは膝の内側上の伏在神経支配部位の過敏化した受容体が密集している皮下筋膜に注射される。しかし、先行技術の注射部位は、神経侵犯組織、神経周囲の間隙領域または神経周囲の連結組織である。
本発明の薬学組成物の注射部位は、過敏化した受容体が存在する、神経自体の存在とは関係なく神経により調節される全体領域である。本発明の組成物は、絞扼地点とは関係なく皮下筋膜上の複数の地点に同時に注射されることが望ましい。しかし、特許文献1(米国特許公開第2003/0224019号)は、単に神経絞扼が発生する部位にのみボツリヌス毒素を注射する。
特許文献2(米国特許公開第2004/028704号)に記載されている手及び/又は手首筋肉、または正中神経に沿う手根管の注射部位は本願発明と相違する。これは上記公開文献が本発明の重要な特徴、即ち神経自体の存在とは関係なく神経により調節される、過敏化した受容体が存在する全体領域である注射部位を開示または暗示していないためである。
特許文献3(米国特許公開第2004/038874号)には注射部位が特定されていないが、そうであるとしても、上記公開文献は本発明と相違する。具体的には、上記公開文献は、本発明のように受容体に直接的に影響を及ぼすよりは神経伝達物質であるアセチルコリンを遮断することにより痛みを治療する。
また、特許文献4(国際出願公開第WO2001/78760号)は、ボツリヌス毒素を関節またはその周囲に皮下投与することにより、疼痛を緩和または治療することができると提示した。しかし、上記公開文献は、伏在神経の絞扼により引き起こされた膝痛の治療のためのボツリヌス毒素の使用を開示していない。また、上記方法において、ボツリヌス毒素は理学的検査により同定された特定の治療部位でなく非特定部位内に無作為的に注射される。それにより、アセチルコリンを消耗させ、化学的媒介反応により痛みを調節する。また、過敏化した受容体調節の重要性を提示しておらず、さらに上記過敏化した受容体が密集している部位にボツリヌス毒素が注射されなければならないという言及もない。
具体的には、上記公開文献は理学的検査または装備を用いて注射部位を探す本発明の技術的特徴を教示または暗示していない。また、過敏化した受容体が密集しており、膝内側上の伏在神経により支配される部位を開示してもいない。上記公開文献は、また、少量のボツリヌス毒素が神経反射を誘発するために上記部位の皮下筋膜内の複数地点に同時に注射され、注射後に皮膚を摘むことにより、受容体過敏性が消えたことを確認する本発明の技術内容を全く言及していない。また、先行技術より顕著に少ない投与量のボツリヌス毒素を含む本発明の薬学組成物は、膝内痛みを緩和または治療するのに優れた効果を奏する。
本発明の一実施態様において、本発明の薬学組成物の成分として投与対象に注射されるボツリヌス毒素タイプAは優れた効果を奏すると示される。例えば、このような優れた効果は先行技術に比べて非常に少量である60LD50ユニットの投与量によっても達成される。本願において、ボツリヌス毒素1LD50ユニットは他の説明がない限り、それぞれ体重が約20gである18〜20匹の雌スイス-ウェブスター(Swiss-Webster)マウスの腹腔内への注射時に50%を致死させる算術的平均致死量(LD50)を意味する。
より具体的には、神経絞扼により誘発された痛み治療のためにボツリヌス毒素タイプBを用いる特許文献1(米国特許公開第2003/0224019号)には、MYOBLOCTM治療に反応する患者の効果持続期間が5000ユニットまたは10,000ユニットで12〜16週であると観察されたと記載されている。本発明の一実施態様で用いられるボツリヌス毒素タイプAの20〜200LD50ユニットは、ボツリヌス毒素タイプBの約300〜3,000ユニットに対応する(ボツリヌス毒素タイプB1000ユニットは、本発明のボツリヌス毒素タイプAの約60LD50ユニットに該当する)。従って、上記特許文献1(米国特許公開第2003/0224019号)は、ボツリヌス毒素タイプAの300または600LD50ユニットの注射を伴う。これは、本発明が、特許文献1(米国特許公開第2003/0224019号)に比べて遥かに少量のボツリヌス毒素タイプAを注射することを明確に意味するものである。
さらに、本発明は先行技術に比べて遥かに速やかに痛みを取り除く。先行技術において注射後2〜3日内に痛みが取り除かれるのとは異なり、本発明の組成物は組成物が注射されると共に痛みを取り除くことができる。これは、受容体の過敏性が変わることを意味する。
大部分の患者において、このような過敏性が直ちに消えることが確認された。一部の患者において過敏性を引き起こす原因がより複雑な場合(例えば、2次痛覚過敏(secondary hyperalgesia))、このような受容体過敏性の変化は何ら意味がない。即ち、注射後、数日以内にこのような患者から痛みが再現されれば、受容体過敏性を誘発する2次的な原因が存在する。これは、本発明の組成物が痛みに何ら効果がないことを意味する。これは、次のような理由のためである。少量のボツリヌス毒素は受容体の過敏化を一時的に変化させて受容体を正常化させる。もし、正常化した受容体が2次的な原因により影響を受ければ、正常化した受容体が再び過敏化される。
しかし、このような場合でなければ、受容体の過敏性は相当期間または永久に持続することがある。痛み治療の機作は受容体の過敏性を変化させるものであるため、変化した過敏性を有する受容体は薬物の残留効果や作用期間に影響を受けない。
過敏化したアセチルコリン受容体は、正常な容量の1/1000またはそれ以下のアセチルコリンに対しても反応し、筋肉の拘縮(contracture)を誘発する。本発明の組成物は、このように少量のアセチルコリンに反応する非正常な受容体に対して直接的な変化を引き起こすことを目的とする。即ち、本発明の組成物は、アセチルコリンまたは他の化学物質の分泌を遮断するものでなく、その分泌と関係なく化学的物質に過敏に反応し、少量が分泌された場合にも多量の化学物質が分泌されたものと誤った情報を神経に伝達する過敏化した受容体を正常化させる。従って、筋肉をマヒさせる程の過多容量のボツリヌス毒素を用いる必要がない。
上記のように、ボツリヌス毒素を含む本発明の薬学組成物は、非正常な受容体の過敏性を除去することにより、関節痛を緩和または治療するのに優れた効果を奏する。
伏在神経絞扼による膝関節痛は、伏在神経周囲の筋肉または筋膜が短縮された状態で伏在神経を絞扼することにより引き起こされた神経絞扼によるものである。上記膝内側の痛みは、歩くと現れ、休めば好転する。本発明は、ボツリヌス毒素がアセチルコリン受容体を含む過敏化した種々の受容体に直接影響を及ぼすことにより、これら受容体を正常化させることを究明したものである。これは、神経反射を引き起こし、少量のボツリヌス毒素は伏在神経枝を絞扼または刺激する筋肉と筋膜の収縮を低下させることにより、顕著に短時間内に膝関節の痛みを治療するのに用いられる。
本発明者は、膝関節痛患者にボツリヌス毒素を注射してボツリヌス毒素の痛み緩和効果を調査した。その結果、患者の膝関節痛がボツリヌス毒素注射後、短時間内に顕著に減少することが確認できた。
本発明の薬学組成物は、実際に用いられる時、注射に適した単位投与形態は薬剤学的な分野において通常の方法により剤形化されて投与される。
適した注射剤としては、薬物学的な活性成分であるボツリヌス毒素以外に一つまたはそれ以上の薬剤学的に不活性である通常の担体(例えば、澱粉、ラクトース、カルボキシメチルセルロース、カオリンなどの賦形剤;アルブミン、ゼラチンなどの安定化剤;アルコール、グルコース、アラビアゴム、トラガカンタゴムなどの結合剤;澱粉、デキストリン、ナトリウムアルギネートなどの崩解剤;タルク、ステアリン酸、マグネシウムステアレート、流動パラフィンなどの滑剤)が含まれる。
例えば、本発明の注射剤はクロストリジウム・ボツリヌスの培養物を公知の方法で精製して得たボツリヌス毒素を安定化剤としてのアルブミン溶液と賦形剤としてのラクトースと共に生理食塩水内で混合して製造することができる。
本発明による組成物の活性成分の投与容量は、投与しようとする対象の膝痛の程度、発病時期、年齢などの多様な要因により変わる。しかし、成人を基準とする時、一般には、例えば、組成物内の活性成分としてのボツリヌス毒素タイプAを計約20〜200、望ましくは約30〜100、より望ましくは約40〜70LD50ユニット(例えば、約60または70LD50ユニット)に該当する量を過敏化した受容体が発見される伏在神経の通路周囲の皮下に多発的に注射する。単一治療で痛みを取り除くのに十分な効果を奏する。しかし、指で皮膚を摘んで厚く痛みが激しければ、ボツリヌス毒素が上記に定義されたユニットを逸脱する大容量で注射され得る。
本発明で用いられる多様なタイプのボツリヌス毒素(例えば、B、C、D、E、F及びG)の投与量は、上記のようなボツリヌス毒素タイプAの投与量に基づいて当分野の熟練者により容易に決定され得る。例えば、本発明のボツリヌス毒素タイプAの投与量によりボツリヌス毒素タイプBの適した投与量を決定する時、ボツリヌス毒素タイプBの約300〜3,000LD50ユニットは、ボツリヌス毒素タイプAの約20〜200LD50ユニットに対応する。これは、ボツリヌス毒素タイプBの1,000ユニットが本発明のボツリヌス毒素タイプAの約60LD50ユニットに該当するという事実に基づく。
(1)もし、組成物の注射直後に皮膚を摘み上げた時に痛みが消え、(2)もし、皮膚の厚く摘まれる部位がなくなれば、過敏化した受容体の正常化により患者の痛みが十分に治療されたものと考えることができる。
本発明を下記実施例によりさらに詳しく説明するが、実施例は、本発明を例示しようとするものであり、本発明が実施例により制限されるものではない。
下記実験例において伏在神経絞扼により引き起こされた膝関節痛に対する本発明のボツリヌス薬学組成物の治療効果を調査した。
実施例1:
大韓民国ソウルに位置した江南のチャ病院の慢性痛症センターにおいて、89名の慢性関節痛患者を対象として二重盲検法を行った。これは、生理食塩水とボツリヌス毒素タイプAを注射した効果を比較するためである。
本試験に用いられたボツリヌス毒素タイプA注射剤は、イプセンリミテッド(Ipsen Limited、England)から商業的に入手可能な、ボツリヌス毒素タイプA500ユニットを含むディスポート(Dysport、登録商標)を20%アルブミン溶液0.625μL及びラクトース2.5mgと共に生理食塩水18ccに溶解させて製造された。
注射部位は、伏在神経により支配される皮膚筋膜を手で摘み上げて揉む試験(Pinch-roll test)により確認した。過敏化した受容体を有する特定部位として1患者の膝当たり約5〜12個の部位が発見された。このような特定部位を摘み、その中でもより過敏な部位を探し出し、探し出した部位に上記で製造された注射剤を注射地点当りボツリヌス毒素約5ユニットまたは10ユニットの容量で注射した。治療当りの総投与量はディスポートを基準として約60ユニットであった。
ボツリヌス毒素タイプAが注射されたグループは、注射前に痛みの程度、X線写真上の関節炎の程度などで対照群と有意な差を示さなかった。施術前の痛み点数を10とした10cm-VAS(Visual analogue scale)を基準として、対照群は生理食塩水を注射し、3週後に痛みの程度が約8.1から約6.03と若干低下を示した。反面、ボツリヌス毒素タイプAの注射群では痛みが7.35から4.59と顕著に好転した。また、老人から関節炎と関節痛の主要なパラメータである膝の伸展(knee extension)が有意に好転することが観察された。
Figure 0004933429
Figure 0004933429
上記表2から分かるように、対照群は生理食塩水が注射され、3週後に膝の伸展が観察されなかった。しかし、ボツリヌス毒素タイプAの注射群では統計的に有意な膝の伸展が観察された。
上記実験により立証された通り、本発明によりボツリヌス毒素を含む組成物は、低い投与量でも膝関節痛をより速やかに緩和または治療する優れた効果を奏し、膝関節の痛みを治療するのに効果的に用いられる。

Claims (11)

  1. ボツリヌス毒素及び薬学的に許容される担体を含む、伏在神経絞扼により引き起こされた膝関節の痛みを治療するための薬学組成物であって、過敏化した受容体が存在する部位である、膝内側上の皮下筋膜上における複数の地点への皮下注射用である、前記薬学組成物
  2. 20〜200 LD50ユニットのボツリヌス毒素を含む請求項1に記載の薬学組成物。
  3. 約30〜100LD50ユニットのボツリヌス毒素を含む、請求項1に記載の薬学組成物。
  4. 約40〜70LD50ユニットのボツリヌス毒素を含む、請求項1に記載の薬学組成物。
  5. 前記複数の地点が、1患者の膝当たり5〜12個の地点である、請求項1に記載の薬学組成物。
  6. 注射地点当たりボツリヌス毒素約5 LD 50 ユニットまたは10 LD 50 ユニットの注射用である、請求項5に記載の薬学組成物。
  7. 前記ボツリヌス毒素が高純度ボツリヌス毒素タイプである、請求項1に記載の薬学組成物。
  8. 前記ボツリヌス毒素がボツリヌス毒素タイプAである請求項1に記載の薬学組成物。
  9. 前記ボツリヌス毒素がボツリヌス毒素タイプEである、請求項1に記載の薬学組成物。
  10. 前記ボツリヌス毒素がボツリヌス毒素タイプFである、請求項1に記載の薬学組成物。
  11. 前記膝関節痛の治療効果が少なくとも4週持続的に維持される請求項1に記載の薬学組成物。
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