以下,図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し,本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず,特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
図5は,本実施の形態における地紋画像形成装置を含む印刷システムの構成を示す図である。地紋画像形成装置は,ホストコンピュータ30にインストールされているプリンタドライバプログラム32と,潜像部ディザマトリクス33と,背景部ディザマトリクス34と,カモフラージュ模様データ35と,プリンタ40とで構成される。ホストコンピュータ30は,CPUとRAMとアプリケーションプログラム31とを更に有し,アプリケーションプログラム31を実行して文字,イメージ,グラフィックスなどからなる画像データ(印刷文書画像データ)を生成する。
さらに,ホストコンピュータ30は,ユーザからの要求に応答して,プリンタドライバ32を実行してカモフラージュ模様付き地紋データ37を生成する。そして,アプリケーション31が生成した画像データについて,ユーザから印刷要求を受けると,プリンタドライバ32はプリンタ装置40が解釈可能なプリンタ制御言語に基づき,画像データ36の印刷ジョブデータを生成する。もし,印刷要求に,画像データに対して地紋データを付加することが含まれていた場合には、印刷ジョブデータに地紋データ37を含めてプリンタ40のインターフェースIFに送信する。
画像データ36は,例えば,ページ記述言語で記述されたデータ,プリンタの中間コードに展開されたデータ,または画素に展開したRGBのビットマップデータなど様々な形態をとりうる。また,カモフラージュ模様付き地紋データ37は,多階調のカモフラージュ模様の階調データを地紋の入力階調で補正(または変調)した階調データをディザマトリクス33,34でスクリーニング処理した画像データである。また,カモフラージュ模様付き地紋データ37は,プリンタ40の複数の色材のうち選択された何れかの色の画像データであり,プリンタ40の色材がCMYKの4色の場合は,例えばCMKの何れかの色の画像データが好ましい。本実施の形態では,カモフラージュ模様が多階調(3階調以上)であり,カモフラージュ模様の階調データは2ビット以上のバイナリデータである。
一方,プリンタ40は,画像を生成する印刷エンジン46と,受信した画像データ36と地紋データ37について所定の画像処理を行いさらに印刷エンジン42の制御を行うコントローラ41とを有する。コントローラ41のCPUは,画像形成プログラム42を実行して,受信した画像データ36から画素に展開したビットマップデータを生成する。受信した画像データ36がビットマップデータの形態であればそのビットマップデータがそのまま利用できる。
そして,画像データ36がRGBの階調値データからなる場合は,色変換ユニット43がCMYKの階調値データに色変換する。そして,合成部44が,色変換された画像データ36のCMYKのビットマップデータのうち、地紋の色として選択された色(CMKのいずれか)のビットマップデータと,地紋データ37のドットデータとを合成する。(地紋のドット有り,ドット無しを,各々ビットマップの階調値の濃度最大値,濃度最小値に変換して合成する。)この合成は,例えば地紋データ37の画像に画像データ36の画像を重ねる処理により行われる。さらに,二値化ユニット45が地紋データ合成後の画像データのCMYKの階調値データを画素内のドットのデータに変換し,印刷エンジン46に出力する。その結果,印刷エンジン46は,アプリケーションプログラムにより生成された印刷対象の画像とプリンタドライバ32により生成された地紋画像とを合成した画像を生成する。これが地紋の原本である。
図5の実施の形態では,ホストコンピュータ30のプリンタドライバ32が地紋データ37を生成している。ただし,変型例として,プリンタドライバ32が、コントローラ41に地紋とカモフラージュ模様を生成させるために、地紋とカモフラージュ模様生成の指定をするプリントジョブデータを生成し,プリンタ40のコントローラ41がプリントジョブデータから潜像部ディザマトリクスと背景部ディザマトリクスとを使用してカモフラージュ模様付き地紋データを生成するようにしても良い。地紋生成用のプリントジョブデータは,複写時に消失するもしくは再現される文字やパターンの指定,地紋の濃度の指定、カモフラージュ模様の指定など,カモフラージュ模様付き地紋データ生成するために必要な情報を含むデータである。
[地紋生成手順の概略]
以下,本実施の形態における地紋画像生成装置による地紋生成方法の概略について説明する。なお,地紋画像生成装置とは,プリンタドライバ32により地紋画像が生成される場合はホストコンピュータ,画像形成プログラム42により地紋画像が生成される場合にはプリンタ40をいう。本実施の形態では,図1,図2と同様に,地紋画像生成装置が,ユーザがデフォルトパターンから選択した潜像マスクパターンまたはユーザが独自に生成した潜像マスクパターンに対応して,潜像部と背景部とからなる地紋画像データを生成する。
図6は,本実施の形態における地紋データの生成手順を示すフローチャート図である。まず,地紋画像生成装置は,潜像マスクパターンデータを生成する(S1)。潜像マスクパターンデータは,図1に示した文字「複」の潜像マスクパターン10のデータであり,各画素が潜像部LIか背景部BIかを示すデータ0,1で構成される。そして,地紋画像生成装置は,カラーまたは多階調のカモフラージュ模様データを入力し取得する(S2)。ユーザにより取得されたカラー写真データやカラーイメージデータなどのカラー画像データや,あらかじめホストコンピュータ30内のメモリに格納されている複数のカラーのカモフラージュ模様データ35から選択されたデータが,カラーまたは多階調カモフラージュ模様データとなる。
地紋画像生成装置は,ユーザからの地紋の色の選択入力に応答してカモフラージュ模様の色を設定する(S3)。地紋の色は,プリンタの色材CMYKのうち明度が高いYを除くCMK(シアンC,マゼンタM,ブラックK)のいずれかに選択される。地紋画像生成装置は,さらに,カラーのカモフラージュ模様データに含まれる複数色(例えばRGB)の階調値データから,グレイ階調値データを演算して,モノクロの多階調のカモフラージュ模様データを生成する(S4)。そして,地紋画像生成装置は,ユーザからの登録指令入力に応答してカラーカモフラージュ模様データまたはグレイ階調値からなる多階調カモフラージュ模様データをメモリに記憶して,カモフラージュ模様の登録を行う(S5)。
地紋画像生成装置は,上記のグレイデータからなる多階調カモフラージュ模様データの明度が基準値より高い場合は,適切な明度になるように明度を低下させる調整処理を行う(S6)。ユーザが独自に取得したカラーカモフラージュ模様や多階調カモフラージュ模様の利用を可能にした結果,高い明度の模様を採用する必要が生じる。しかし,模様の明度が高いとカモフラージュ模様付き地紋画像を複写したときに複写物の識別性が低下する。そこで,地紋画像生成装置は,カモフラージュ模様の明度を低下させる調整処理を行う。この調整処理S6では,多階調カモフラージュ模様の明暗を強調するコントラスト強調処理や,カモフラージュ模様のエッジ部分の明暗を強調する先鋭化処理またはアンシャープ処理などが必要に応じて行われる。
多階調のカモフラージュ模様データは,画素毎に例えば8ビットの階調データで構成され,そのカモフラージュ模様は2階調を超える256階調を表現することができる。カモフラージュ模様が多階調化されることで,原本における本来の印刷対象の印刷文書画像の識別性低下を抑制することができ,複写物における潜像の識別性低下も抑制することができる。さらに,多階調のカモフラージュ模様を使用することができるので,意匠性に優れた印刷物を作成することができる。
本実施の形態でのカモフラージュ模様データは,画素毎の8ビット(0:黒〜255:白)の階調値データであり,256階調で表現されるグレイイメージデータである。カモフラージュ模様は,階調値0(黒)に近いほど出力濃度が低く,階調値255(白)に近いほど出力濃度が高く構成されている。そして,カモフラージュ模様の階調値A(A=0〜255)に対して出力される地紋の出力濃度DAは,カモフラージュ模様を付加しない場合の地紋の出力濃度Dmaxに対して,
DA=(A/255)×Dmax (0≦A≦255) (1)
になる。
よって,カモフラージュ模様の階調値が全て白(A=255)では,カモフラージュ模様付き地紋の出力濃度DAは,DA=Dmaxとなり,カモフラージュ模様を付加しない地紋と同じ出力濃度になる。つまり,図2中の16の模様CAM以外の領域の出力になる。また,カモフラージュ模様の階調値が255(白)に近いほど,地紋の出力濃度Dmaxの減少量が小さくなる。一方,カモフラージュ模様の階調値が0(黒)に近いほど,地紋の出力濃度Dmaxの減少量が大きくなる。そして,カモフラージュ模様の階調値が全て黒(A=0)では,カモフラージュ模様付き地紋の出力濃度DAは,DA=0になり,地紋のドットは形成されない。つまり,図2中の16の模様CAM内の出力になる。
上記の通り,多階調のカモフラージュ模様を利用することで,地紋の潜像部と背景部とに多階調のカモフラージュ模様が合成されることになり,1ビットからなる2値のカモフラージュ模様データに比較すると,カモフラージュ模様のコントラストを低下させることができる。
上記のカモフラージュ模様を地紋に反映するために,地紋画像生成装置は,潜像部,背景部の入力階調に基づいて補正カモフラージュ模様階調データを生成する(S7)。潜像部,背景部の入力階調は,地紋画像の出力濃度に対応するものであり,デフォルトで決められた階調値,もしくは,ユーザが任意に選択した地紋画像の出力濃度に対応する階調値である。上記式(1)で示したとおり,カモフラージュ模様付き地紋画像は,潜像部と背景部とからなる地紋画像が多階調のカモフラージュ模様の階調値で変調された画像である。言い換えると,多階調のカモフラージュ模様の階調値が地紋画像の入力階調で変調された画像である。上記の手順S7は,この変調処理を行ってカモフラージュ模様階調データを生成する手順であり,補正カモフラージュ模様階調データが変調処理された階調データである。
最後に,地紋画像生成装置は,補正カモフラージュ模様階調データを,潜像マスクパターンデータに応じて,潜像部ディザマトリクス33か背景部ディザマトリクス34かを参照してスクリーニング処理し,カモフラージュ模様付き偽造抑制地紋データ37を生成する(S8)。つまり,潜像部に対応する領域では,潜像部ディザマトリクス33を参照して地紋の画像データを生成し,背景部に対応する領域では,背景部ディザマトリクス34を参照して地紋の画像データを生成する。
この潜像部,背景部ディザマトリクス33,34は,例えば閾値マトリクス,階調変換マトリクスなどであり,いずれも多階調の画像データに変換可能なディザマトリクスである。ディザマトリクス33,34は,ドット面積で多階調を表現するAMスクリーンでも良いし,ドット密度で多階調を表現するFMスクリーンでもよい。ただし,地紋画像の本来の機能として潜像部と背景部とで複写時に再現される出力濃度が異なる必要があるので,それを実現できるスクリーンであることが求められる。例えば,潜像部、背景部ディザマトリクス33,34は、各々スクリーン線数が異なる。または,ドット集中型マトリクスとドット分散型マトリクスである。
以下,本実施の形態におけるカモフラージュ模様付き地紋データの生成手順について詳述する。
[潜像部ディザマトリクスと背景部ディザマトリクス]
潜像部は潜像部ディザマトリクス33を使用して複数の第1のドットにより所定の出力濃度の画像に形成され,一方,背景部は背景部ディザマトリクス34を使用して複数の第2のドットにより所定の出力濃度の画像に形成される。原本における潜像の隠蔽性を高くするために,潜像部と背景部とは同等の出力濃度の画像になることが望ましい。
図7は,地紋の背景部BIと潜像部LIの画像を生成するためのディザマトリクスの例を示す図である。図7(a)の背景部基本ディザマトリクスDM−BIは,4×4のマトリクスの各要素に閾値1〜8を有するドット分散型ディザマトリクスである。閾値「1」は変位ベクトル(−2,2),(2,2)の位置の要素に割り当てられ,閾値「2」は閾値1の要素と離間した位置に配置され,閾値「3〜8」はそれらの間に配置されている。地紋画像の形成工程で,背景部の入力階調値と背景部基本ディザマトリクスDM−BIの各要素の閾値とが比較され,入力階調値が閾値以上であればその画素にドットが形成される。そして,図7(a)の背景部基本ディザマトリクスDM−BIに対しては,入力階調値が「1」に設定され,閾値「1」の黒い画素の位置に第2のドットD2が形成される。その拡大図が図4(a)の背景部BIに示され,背景部BIは微少ドットD2が網点線数212lpiで形成されている。
一方,図7(b)の潜像部基本ディザマトリクスDM−LIは,32×32のマトリクスの各要素の閾値1〜128を有するドット集中型ディザマトリクスである。閾値「1」は変位ベクトル(−8,8)(8,8)の位置の画素に割り当てられ,第1のドット(網点)D1の中心位置に対応する。また,閾値「2〜128」は第1のドット(網点)D1の中心位置に対応する閾値「1」の画素から順に分配されている。地紋画像の形成工程で,潜像部の入力階調値と潜像部基本ディザマトリクスDM−LIの各画素の閾値が比較され,入力階調値が閾値以上であればその画素にドットが形成される。図7(b)の潜像部基本ディザマトリクスDM−LIに対しては,入力階調値「31」が設定され,閾値「1〜31」の要素の位置にドットが形成され,大きなドット(網点)D1が形成される。その拡大図が図4(a)の潜像部LIに示され,大きなドットD1が網点線数53lpiで形成されている。
前述のとおり,偽造抑止地紋は,原本において背景部と潜像部の出力濃度を等しくして潜像の隠蔽性を高く保つことが求められている。また,複写物においては背景部と潜像部の出力濃度の違いを大きくし且つ潜像部の出力濃度を高くして,潜像の識別性を高くすることが求められる。大きな第1のドットD1は複写物で消失しにくく,一方,小さな第2のドットD2は複写物で消失しやすい。これにより潜像部と背景部とで複写時の出力濃度が異なる。
しかしながら,図7に示すディザマトリクスDM−BI,DM−LIにより形成される画像は,地紋に使われる低い出力濃度領域,例えば10〜15%の出力濃度領域では,出力濃度の階調数(分解能)に限りがある。背景部の基本ディザマトリクスDM−BIでは,閾値「1」の位置に微少ドットD2が形成されるので,それに対応する出力濃度で背景部が形成される。それに対して,潜像部の形成工程では,背景部の出力濃度と同じ出力濃度を生成できる入力階調値が選択され,その入力階調値と潜像部基本ディザマトリクスDM−LIとの比較により潜像部の画像が形成される。しかし,前述のとおり潜像部LIの出力濃度の階調数(分解能)に限りがあるので,かならずしも背景部の出力濃度と一致する出力濃度を潜像部LIに形成することができない場合がある。
図8は,背景部基本ディザマトリクスDM−BI及び潜像部基本ディザマトリクスDM−LIの入力階調と出力濃度の特性を示す図である。図8に示された特性は,簡単のために,基本ディザマトリクスにおいて入力階調以下の閾値の画素に形成されるドットの数と,プリンタエンジンにより生成される地紋画像の出力濃度とが理想的なリニアな関係にあると仮定している。
地紋画像生成装置が,潜像部ディザマトリクス33として図7(b)に示した潜像部基本ディザマトリクスDM−LIを,背景部ディザマトリクス34として図7(a)に示した背景部基本ディザマトリクスDM−BIを使用した場合,入力階調値とそれに対応する潜像部画像データ及び背景部画像データによる出力濃度の特性は,図8に示されるとおりである。すなわち,背景部の場合は,入力階調値IN=0〜7に対して出力濃度OUTは「0」も含めると8つの出力濃度値をとりうる。つまり,全ての画素がドットoffの紙白から全ての画素がドットonの最大出力濃度までの出力濃度の階調数(または分解能)は8である。そして,図7(a)に示したとおり,背景部では入力階調値IN=1に対して,ディザマトリクスDM−BIの閾値「1」の画素の位置に分散した微少の第2ドットD2の画像になる。それに対して,潜像部の場合は,入力階調値IN=0〜127に対して出力濃度OUTは「0」も含めると128の出力濃度値をとりうる。つまり,紙白から最大出力濃度までの出力濃度の階調数(または分解能)は128である。
しかしながら,背景部で入力階調IN=1に対応する出力濃度は,潜像部で入力階調In=12,13に対応する2つの出力濃度の中間に位置している。そのため,背景部と潜像部とで等しい出力濃度にすることができない。
地紋画像として採用される出力濃度の範囲は,最大出力濃度の10%〜15%である。そして,10〜15%の出力濃度の範囲では,潜像部基本ディザマトリクスにより再現可能な出力濃度の階調数は高々20階調程度である。そのため,潜像部の入力階調値を1段階変更することにより調整可能な出力濃度の変化量が一定以上に大きくなるので,潜像部ディザマトリクスの網点線数を低くして潜像部の出力濃度の階調数を多くしたとしても,潜像部の出力濃度を背景部の出力濃度に高精度に一致させることは困難または不可能である。
さらに,背景部基本ディザマトリクスのサイズを2倍または4倍に大きくして背景部の出力濃度の階調数を増加させて,10〜15%の範囲内で地紋画像の出力濃度変更を可能にした場合も,上記と同様の理由により背景部の出力濃度と潜像部の出力濃度とを高精度に一致させることは困難または不可能である。
図9は,原本における潜像の隠蔽性が悪化した例を示す図である。図9(a)の潜像マスクパターン「複写」について,図9(b)は潜像部の入力階調値を「12」にした場合の地紋画像,図9(b)は潜像部の入力階調値を「13」にした場合の地紋画像を示す。図9(b)では,潜像マスクパターンの出力濃度が背景部より低くなり,潜像「複写」の隠蔽性が低下している。同様に,図9(c)では,潜像マスクパターンの出力濃度が背景部より高くなり,同様に潜像「複写」の隠蔽性が低下している。
そこで,本実施の形態では,背景部ディザマトリクスと潜像部ディザマトリクスについて,図7の基本ディザマトリクスをもとに生成され,入力階調値0〜255に対して出力濃度が例えば0〜15%程度の低濃度領域内で増加する特性をもつディザマトリクスを採用する。
図10,図11は,本実施の形態で採用される潜像部の低濃度領域拡張ディザマトリクス33と背景部の低濃度領域拡張ディザマトリクス34を示す図である。そして,図12は,それら潜像部ディザマトリクス33と背景部ディザマトリクス34の入力階調値に対する出力濃度特性を示す図である。
図7の基本ディザマトリクスDM−BI,DM−LIを十分な階調数になるまでサイズを拡大する。例えば,128×128のマトリクスサイズまで拡大する。ただし,図10,図11には,便宜上32×32のマトリクスサイズが示されている。そして,拡大したディザマトリクスの全ての閾値について,入力階調値の増大に対応してドットを生成させる順に全ての閾値が異なるように分散及び拡散して配置する。これを拡散ディザマトリクスと称する。
次に,拡散ディザマトリクスを使用して複数の入力階調値に対する背景部と潜像部とをプリンタにより印刷し,測色器で出力濃度を測定する。この出力濃度の測定結果を基に入力階調0〜255に対して理想的な出力濃度特性,例えばリニアな特性,になるように閾値を補正する。この補正は,通常行われるスクリーンガンマテーブルのキャリブレーション工程で行われる補正と同様である。この結果,補正拡散ディザマトリクスが生成される。
そして,最後に,最大出力濃度の15%程度が最大値になるように,補正拡散ディザマトリクスの閾値を15/100倍して低濃度領域拡張ディザマトリクス33,34を生成する。つまり,低濃度領域拡張ディザマトリクスによりスクリーニング処理を行えば,入力階調0〜255に対して,出力濃度が最大で15%程度までしか増加しない出力濃度特性を有する。
図10の潜像部の低濃度領域拡張ディザマトリクス33では,変位ベクトル(−8,8),(8,8)の位置の要素には閾値1〜7が与えられ,その周りのグレイの要素に閾値8〜254が与えられている。つまり,黒とグレイの画素は,第1のドットD1の最大サイズに対応する。そして,それ以外の要素には閾値255が与えられている。この場合,入力階調0〜254に対してはそれ以下の閾値の画素にドットが生成されるが,便宜上,入力階調255に対してはその閾値の画素はドットoffに制御される。若しくは,背景部において入力階調255が禁止される。
よって,潜像部の低濃度領域拡張ディザマトリクス33を使用することにより,潜像部の画像は,入力階調0〜255に対して,第1のドットD1が変位ベクトル(−8,8),(8,8)の位置の要素による最小サイズから,黒とグレイの要素による最大サイズまで変化する。第1のドットD1が最大サイズでの出力濃度は黒ベタの15%であるので,入力階調0〜255に対して出力濃度は0〜15%と変化する。よって,出力濃度0〜15%の範囲に多くの階調数(254階調)を有する。
図7(b)の潜像部基本ディザマトリクスDM−LIには,最大サイズの第1のドットD1が生成される要素には閾値1〜31が与えられている。それに対して,図10の潜像部の低濃度領域拡張ディザマトリクス33には,最大サイズの第1のドットD1が生成される要素には閾値1〜254が与えられている。つまり,出力濃度の階調数(分解能)が格段に多くなっている。よって,濃度調整における分解能が高くなり潜像部の出力濃度を背景部と同じ出力濃度に高精度に調整することができる。
図11の背景部の低濃度領域拡張ディザマトリクス34は,変位ベクトル(−2,2),(2,2)の位置の要素に閾値1〜254が分散して与えられ,それ以外の要素には閾値255が与えられる。この場合も,入力階調0〜254に対してはそれ以下の閾値の要素に対応する画素にドットが生成されるが,便宜上,入力階調255に対してはその閾値の画素はドットoffに制御される。若しくは,背景部において入力階調255が禁止される。
この背景部の低濃度領域拡張ディザマトリクス34を使用すれば,入力階調値0〜255に対して,変位ベクトル(−2,2),(2,2)の位置の画素にのみ微少ドットD2が順次生成し,それ以外の画素にはドットは生成しない。よって,背景部の画像は,網点線数212lpiの位置に分散された微少ドットD2を有するだけであり,それ以上のドットは形成されない。変位ベクトル(−2,2),(2,2)の位置の画素全てに微少ドットD2が生成された時の出力濃度は黒ベタの約12%である。つまり,背景部の低濃度領域拡張ディザマトリクス34は,入力階調0〜255に対して,出力濃度は0〜約12%の範囲内で増減する。その結果,背景部の特性を最も引き出せるような安定した微少ドットの配置が保証される。
図10,図11の低濃度領域拡張ディザマトリクス33,34の入力階調値に対する出力濃度特性が,図12に示されている。上述したとおり,背景部のディザマトリクス34の入力階調値に対する出力濃度特性は,入力階調0〜255に対して出力濃度は0〜約12%の範囲になる。一方,潜像部のディザマトリクス33の入力階調値に対する出力濃度特性は,入力階調0〜255に対して出力濃度は0〜15%の範囲になる。いずれも,キャリブレーションにより入力階調値に対して出力濃度は単純増加のリニアな関係になっている。
以上が,本実施の形態における背景部と潜像部のディザマトリクス33,34の説明である。
[地紋画像データの生成方法]
以下,本実施の形態における多階調カモフラージュ模様付きの地紋画像データの生成方法について説明する。
図13は,本実施の形態における地紋画像データの生成方法を示すフローチャート図である。プリンタユーザは,ホストコンピュータ30のプリンタドライバ32において,地紋生成メニューを選択し,図13のフローチャートに従って地紋画像データの生成を実行する。
ユーザが独自に潜像マスクパターンを生成する場合、まず,ユーザは,地紋の文言を入力する(S10)。例えば,「複写」「コピー」「社外秘」などの文言であり,この文言が地紋の潜像になる。さらに,48ポイントなどの地紋文言のサイズを入力し(S11),40度などの地紋文言の角度を入力し(S12),地紋効果と配置を選択する(S13)。地紋効果とは,文言が白抜きになるか(文言が白,周囲が黒)浮きだしになるか(文言が黒,周囲が白)のいずれかである。白抜きの場合は文言が背景部に周囲が潜像部になり,浮きだしの場合は文言が潜像部に周囲が背景部になる。また,地紋の配置とは,正方配置,斜交配置,反転配置などである。
図14は,地紋効果の例を示す図である。地紋パターン50,51は,文言が「複写」「コピー」で文言が浮きだしになる地紋効果の例である。地紋パターン52,53は,同じ文言で文言が白抜きになる地紋効果の例である。いずれも文言の角度が40度に設定されている。
図15は,地紋の配置の例を示す図である。いずれも文言が「複写」,角度が40度,地紋効果が浮きだしである。(a)正方配置では,潜像マスクパターンがタイル状に貼り付けられる。(b)斜交配置では,潜像マスクパターンが改行のたびに所定の位相だけずらして配置される。(c)反転配置では,潜像マスクパターンが改行のたびに上下反転して配置される。
工程S10〜S13によりユーザによる入力または選択が終わると,プリンタドライバ32は潜像マスクパターンを生成する(S14)。潜像マスクパターンの例は,図14に示したとおり,潜像部領域と背景部領域とを区別可能な1ビットデータからなる。
ユーザがデフォルトの潜像マスクパターンを使用する場合は、S10〜S14は省略され、ユーザによる潜像マスクパターンの選択がされる。
次に,プリンタドライバ32は,地紋画像の入力階調値を設定する(S16)。図10,図11に示した潜像部ディザマトリクス33,背景部ディザマトリクス34を使用する場合は,背景部は入力階調値を最大値の「255」に,潜像部は背景部の出力濃度(黒ベタの12%)と一致する入力階調値In=170が選ばれる。すなわち,背景部では,入力階調値を「255」にすることで背景部ディザマトリクス34(図11)の変位ベクトル(−2,2),(2,2)の位置の黒い画素全てに微少ドットD2が生成される。この時の出力濃度は黒ベタの12%であり,分散された第2の微少ドットが最大限生成されるので,地紋画像としては最適である。一方,潜像部では,入力階調値In=170にすることで,潜像部ディザマトリクス33(図10)の黒い要素とグレイの要素に対応する画素で構成される網点領域内に,In=170に対応する数のドットが生成される。その結果,入力階調値In=170に対応するサイズの大ドットD1が形成される。
図12の出力濃度特性に示したとおり,図10,11の潜像部ディザマトリクス33,背景部ディザマトリクス34は,入力階調に対する出力濃度特性が異なっている。つまり,潜像部ディザマトリクスのほうが入力階調に対する出力濃度の傾きが大きい。よって,背景部において最適な出力画像を再生できる入力階調「255」を選択した場合,それと出力濃度が一致する入力階調In=170が潜像部において選択される。
プリンタドライバ32は,ユーザの選択要求に応じて,カラーまたは多階調のカモフラージュ模様データを取得する(S17)。ホストコンピュータ内のメモリ,または外付けメモリ内にカラーまたは多階調のカモフラージュ模様データが格納されており,ユーザの選択要求に応じて,カラーまたは多階調のカモフラージュ模様データを取得する。そして,選択されたカラーまたは多階調のカモフラージュ模様データがメモリに記憶され,登録される。
図16は,カモフラージュ模様の一例とそれを採用した地紋画像の例を示す図である。カモフラージュ模様54は,複数の矩形領域の組み合わせからなり,各矩形領域の階調値Aは,図16に示される通りである。このような多階調のカモフラージュ模様を選択した場合の地紋画像55が示されている。この地紋画像55は,前述した式(1)により,地紋画像の出力濃度Dmax(例えばDmax=40%)がA/255倍されている。このように,カモフラージュ模様がより黒い領域では,地紋画像の出力濃度がより低下し,カモフラージュ模様がより白い領域では,地紋画像の出力濃度の低下はより少ない。
図17は,メモリに格納されているカモフラージュ模様の例である。図17には10種類のカモフラージュ模様54が示されている。ただし,(1)は黒べた(階調値=0)であるので,このカモフラージュ模様を採用すると地紋画像は白ベタになる。
カモフラージュ模様の階調値Aは,前述のとおりグレイデータである。カモフラージュ模様がRGBのカラー画像データの場合は,グレイの階調値Aは以下の式(2)により求められる。
A=0.3×R+0.59×G+0.11B (2)
カモフラージュ模様データのグレイ階調値を,黒で「0」,白で「255」と定義した結果,カモフラージュ模様データによるカモフラージュ模様画像と,地紋に反映されるカモフラージュ模様画像とは,白黒が反転した画像になる。よって,ユーザが地紋に反映された状態でカモフラージュ模様を選択可能にするために,プリンタドライバ32は,選択画面において,白黒反転したカモフラージュ模様の画像を表示することが望ましい。白黒反転画像の画像データの階調値Kは,以下の式(3)により求められる。
K=255−A (3)
さらに,プリンタドライバ32は,ユーザの選択要求に応じて,地紋の色(ブラック,シアン,マゼンタなど)の選択を行う(S18)。地紋の色は,単色であることが望ましい。それに伴い,CMKいずれか単色のカモフラージュ模様データの階調値は,前述のとおりグレイデータの階調値Aを反転した式(3)の階調値Kにする。この理由は,加法混色表示のRGBと減法混色表示のCMYKとの違いによる。後述する潜像部や背景部の閾値ディザマトリクスの閾値との比較は,この階調値Kもしくは補正カモフラージュ模様階調の階調値ついて行われる。
次に,プリンタドライバ32は,カモフラージュ模様の調整を行う(S19)。本実施の形態では,ユーザが写真撮影などにより取得した任意のカラーまたは多階調カモフラージュ模様の利用を可能にしている。そのため,それらカモフラージュ模様の明度が高すぎるなど地紋画像と合成するのに適切でない画質の模様も存在する。よって,カモフラージュ模様の明度やコントラストさらにエッジのシャープさを調整する処理が必要になる。調整後のカモフラージュ模様データまたは調整に必要なパラメータのいずれかがメモリに記憶される。調整処理については後に詳述する。
以上のユーザによる入力などS10〜S19が終了すると,プリンタドライバ32は地紋画像生成処理を実行する(S20)。地紋画像生成処理は,図18のフローチャートに従って行われる。
図18は,本実施の形態における地紋画像生成処理のフローチャート図である。つまり,図13の地紋画像生成処理S20が,図18のフローチャートに示されている。まず,潜像部及び背景部の入力階調値に基づいて調整済カモフラージュ模様データの階調値を補正して補正カモフラージュ模様データを生成する(S21)。この手順は,図6の手順S7に対応する。
調整済カモフラージュ模様の階調値A(0≦A≦255),地紋を構成する潜像部と背景部の入力階調値In(1≦In≦254)とする。まず,調整済カモフラージュ模様の階調値Aを減法混色の階調値K(=255−A)に変換する。そして,補正カモフラージュ模様の階調値Kiは,以下の式(4)により演算される。
Ki=(K/255)×In (4)
この演算式は,前述の式(1)に対応している。
図13の地紋画像の入力階調値を設定する工程S16で,背景部では入力階調値を「255」に設定し,潜像部では入力階調値をIn=170と設定した。このように背景部と潜像部とで異なる入力階調値を設定した場合,上記式(4)による補正カモフラージュ模様階調データの演算で,潜像マスクパターンに応じて,潜像部と背景部とで変調すべき入力階調値Inを異ならせることが必要になる。この理由は,図12に示したとおり,潜像部ディザマトリクス33と背景部ディザマトリクス34とが異なる出力濃度特性を有することに起因する。
そこで,本実施の形態では,演算を簡単化するために,潜像部と背景部の両方で入力階調値をIn=170に共通化する。ただし,背景部ディザマトリクス34を入力階調値In=170で最大出力濃度(12%)になるように正規化し,正規化された背景部ディザマトリクスを参照してスクリーニング処理を行う。
もしくは,後述する実施の形態の変形例(図27参照)で説明するように,潜像部と背景部の両方で入力階調値を取りうる階調値の最大値(例えば255)にし,但し,潜像部ディザマトリクス33を入力階調値「255」で入力階調値In=170に対応する出力濃度(12%)になるように正規化する。つまり,図10,12の潜像部ディザマトリクスの入力階調値0〜170とその出力濃度の特性が,入力階調値0〜255に正規化される。正規化された潜像部ディザマトリクスの入出力特性が後述する図27に示されている。
以下は,入力階調値In=170に設定した場合について説明する。工程S21で,入力階調値In=170について式(4)に基づき補正カモフラージュ模様の階調値データが演算される。そして,プリンタドライバ32は,図11,12の背景部ディザマトリクス34を正規化して正規化背景部ディザマトリクスを生成する(S22)。
図19は,正規化背景部ディザマトリクス34Nを示す図である。図11の背景部ディザマトリクス34の変位ベクトル(−2,2),(2,2)の位置の黒い画素内の閾値0〜254を,以下の式(5)により新たな閾値0〜170(=In)に正規化する。
正規化閾値=(閾値/254)×In (5)
よって,図19の正規化背景部ディザマトリクス34Nでは,黒い画素内の閾値は0〜170に置き換えられ,入力階調値が「170」の時に全ての黒い画素にドットが形成され最大出力濃度(黒ベタの12%)になる。
図20は,正規化背景部ディザマトリクスと正規化前の背景部ディザマトリクスと潜像部ディザマトリクスそれぞれの入力・出力濃度特性を示す図である。背景部ディザマトリクス34と潜像部ディザマトリクス33の出力濃度特性は,図12と同じである。前述の例では,背景部では変位ベクトル上の要素に対応する画素全てにドットを生成する入力階調値「255」が採用され,潜像部ではそれと同じ出力濃度を再生できる入力階調値In=170が採用された。そこで,背景部でも入力階調値In=170を採用するために,背景部ディザマトリクス34を入力階調値In=170で正規化して,図20中の破線の特性34Nに示される正規化背景部ディザマトリクス34Nを生成する。上記式(5)による演算により正規化背景ディザマトリクス34Nは簡単に演算することができる。
エンジンの経年変化に応じて,潜像部の入力階調値Inが変動する場合がある。よって,変動時の入力階調値Inを使用して正規化背景ディザマトリクス34Nを生成することで,経年変化を吸収することができる。
図18に戻り,補正カモフラージュ模様階調データについて,潜像マスクパターンに応じて,潜像部ディザマトリクス33または正規化背景部ディザマトリクス34Nを参照して,カモフラージュ模様付き地紋画像データを生成する(S23〜S32)。このカモフラージュ模様付き地紋画像データは,画素毎にドット有りまたはドットなしを示す画像データである。
図21は,図18の地紋画像生成処理を説明する図である。図21(A)には,A4の印刷サイズ60に複数の潜像マスクパターン10が正方配置された地紋画像が示されている。A4サイズの場合は,横方向に4720ドットの画素数,縦方向に6776ドットの画素数になる。図21(B)は,図21(A)の左上の潜像マスクパターン10と,タイル状に配置されたカモフラージュ模様12との位置関係が示されている。潜像マスクパターン10は横方向に2030ドットの画素数,縦方向に2030ドットの画素数を有する正方形のパターンである。それに対して,図21(C)に示されるとおり,カモフラージュ模様12は横方向に215ドット,縦方向に215ドットの画素数を有する正方形パターンである。
図21(D)は,図30(C)の左上端部領域を拡大したものである。潜像部ディザマトリクス33−4及び背景部ディザマトリクス34−5は,共に,32×32のマトリクスであり,左上から順番にタイル状に貼り付けるように画素に対応させる。このように,潜像部と背景部のディザマトリクス33−4,34−5は,同じマトリクスサイズであるので,図21(D)に示されるとおり画素との対応関係は全く一致する。
そして,プリンタドライバは,補正カモフラージュ模様の階調値Kiと,ディザマトリクス33−4,34−5の閾値とを比較し,階調値Kiが閾値以上であれば画素ドットON,階調値Kiが閾値未満であれば画素ドットOFFにする。ただし,補正カモフラージュ模様の階調値Kiは0〜254までしか取りえないように設定されている。若しくは,入力階調値が255の場合は一律画素ドットOFFにする。比較対象のディザマトリクスは,潜像マスクパターンの黒または白に対応して選択される。
図18のフローチャートに戻って,地紋画像生成処理を説明する。画素のインデックスi,jをそれぞれi=0,j=0に初期化する(S23)。そして,画素(i,j)で潜像マスクパターンが黒なら(S28のYES)潜像部ディザマトリクス33の対応する画素の閾値と補正カモフラージュ模様階調値Kiとが比較され(S29),潜像部マスクパターンが黒でないなら(S28のNO)正規化背景部ディザマトリクス34Nの対応する画素の閾値と補正階調値Inとが比較される(S31)。いずれの比較でも補正階調値Kiが閾値以上の場合は出力画像(i,j)はドットONになり(S30),補正階調値Kiが閾値未満の場合は出力画像(i,j)はドットOFFになる(S32)。
これにより,潜像部では補正カモフラージュ模様階調値Kiに対応したサイズの第1のドット(網点)が生成され,背景部では補正階調値Kiに対応した数の第2のドットが対応した位置の画素に生成される。
上記の処理が完了すると,画素の行方向のインデックスjがインクリメント(j=j+1)され(S24),インデックスjが印刷サイズ幅に達するまで(S25)同じ処理が繰り返される。インデックスjが印刷サイズ幅に達すると(S25のYES),列方向のインデックスiがインクリメント(i=i+1)され且つ行方向のインデックスjが0にリセットされ(S26),同じ処理が繰り返される。そして,列方向のインデックスiが印刷サイズ高さに達すると(S27のYES),1頁の地紋画像生成処理が完了する。このように処理対象画素は左上からラスタスキャン方向に移動し,各画素がドットONかOFFにされる。
以上の処理により,多階調のカモフラージュ模様を反映した地紋画像データが生成される。
[具体例]
本実施の形態における多階調カモフラージュ模様付き地紋画像の生成を,具体例を示して説明する。
図22は,潜像マスクパターンの一例を示す図である。32×32のマトリクス内に潜像マスクパターン10が形成されている。パターン10Aが潜像部,パターン10A以外が背景部に対応する。よって,潜像マスクパターンのマトリクスデータは,32×32マトリクスの各画素に「0」(潜像部)または「1」(背景部)の1ビットを有する。
図23は,カモフラージュ模様の一例を示す図である。このカモフラージュ模様12は,32×32のマトリクス内の画素が9つのストライプ状の領域12A〜12Iを有する。各領域12A〜12Iの階調値Kは,図示されるとおりである。つまり,領域12A,12E,12Iが階調値「255」の白の領域であり,領域12B,12Hが階調値「64」と最も黒に近い領域である。
図24は,補正カモフラージュ模様階調値の一例を示す図である。この補正カモフラージュ模様階調値データ120は,前述の式(4)により求められる。この例では,地紋画像の入力階調値In=170に基づいて,図23のカモフラージュ模様を補正して得られた階調値データである。図24中には,潜像マスクパターン10Aをグレイで示し,カモフラージュ模様の領域12A〜12Iが破線で区分して示されている。図23に示したカモフラージュ模様の階調値Kに対して,補正カモフラージュ模様の階調値Kiが図24中に示されている。
図25は,カモフラージュ模様付き地紋画像の一例を示す図である。これは,図24に示した補正カモフラージュ模様の階調値Kiについて,図10,図19,図20の潜像部ディザマトリクス33と正規化背景部ディザマトリクス34Nを参照してスクリーン処理した結果得られた地紋画像16である。図中,カモフラージュ模様の領域12A〜12Iが一点鎖線で示され,潜像マスクパターン10Aが破線で示されている。
潜像マスクパターン10A内においては,領域12Eでは補正階調Ki=170に対する第1のドットD1が,領域12D,12C,12F,12Gでも補正階調Ki=128,85に対する第1のドットD1が形成されている。潜像マスクパターン10Aの外側においては,領域12Aでは補正階調Ki=170に対する第2のドットD2が全ての変位ベクトル上に形成され,それ以外の領域12B,12C,12D,12F,12G,12Hでも,それぞれ補正階調Ki=43,85,128,128,85,43に対する第2のドットD2が形成されている。
図25の地紋画像に示されるとおり,多階調のカモフラージュ模様を採用することにより,地紋画像にカモフラージュ模様の階調値に対応した密度またはサイズのドットが形成されている。
図26は,従来の2階調のカモフラージュ模様の場合の地紋画像の一例を示す。従来の2階調のカモフラージュ模様では,ドット有りの領域12A,12E,12Iと,ドットなしの領域12X,12Yしか存在していない。つまり,中間階調の領域12B,12C,12D,12F,12G,12Hは存在しない。よって,領域12X,12Yでは,ドットが全く形成されていない。
[変型例]
図27は,本実施の形態の変型例における背景部ディザマトリクスと正規化潜像部ディザマトリクスの入力・出力濃度特性を示す図である。前述の実施の形態では,図20に示した正規化背景部ディザマトリクス34Nと潜像部ディザマトリクス33とを参照してスクリーン処理を行った。図27は,背景部ディザマトリクス34は図12と同じであるが,正規化潜像部ディザマトリクス33Nは,入力階調値「170」に対する出力濃度(12%)が最大入力階調値「255」になるように正規化されている。
正規化の演算式は,以下の式(6)(7)の通りである。
正規化閾値=(閾値/In)×254 (1≦閾値≦In) (6)
正規化閾値=255 (if In<閾値) (7)
すなわち,図10の潜像部ディザマトリクス33内の閾値1〜In(=170)は,正規化閾値1〜254に変換され,閾値In〜254は正規化閾値「255」に変換される。これにより,階調値Kiに対して出力濃度が0〜12%の範囲の画像データを生成することになる。
図27の背景部ディザマトリクス34と正規化潜像部ディザマトリクス33Nを使用する場合は,地紋画像の入力階調値InはIn=255に設定される。つまり,地紋画像は背景部と潜像部が共に出力濃度12%になる。その結果,前述の式(4)は,In=255では
Ki=(K/255)×In=K
となり,補正後のカモフラージュ模様の階調値Kiは補正前のカモフラージュ模様の階調値Kと等しくなる。
つまり,補正カモフラージュ模様の階調値を演算する工程(図6のS3,図18のS21)が不要になる。そして,補正後のカモフラージュ模様の階調値Aiは最大の階調レンジ0〜255のいずれかになる。よって,カモフラージュ模様の多階調表現を最大限に生かすことができる。
ただし,潜像部ディザマトリクス33Nと背景部ディザマトリクス34とが,入力階調値の取りうる範囲0〜255に対する出力濃度の特性が一致していて,地紋画像の潜像部及び背景部の入力階調値Inが潜像部ディザマトリクスと背景部ディザマトリクスの入力階調値の取りうる範囲内で最大の入力階調値「255」であることが必要になる。逆に言えば,潜像部と背景部のディザマトリクスを上記のように最大入力階調値In=255で最適な出力濃度になるように設計しておけば,カモフラージュ模様の階調値について潜像マスクパターンに応じてそれらディザマトリクスを参照するハーフトーン処理することで,多階調のカモフラージュ模様付き地紋画像を生成することができる。
図20の正規化ディザマトリクス34N,図27の正規化ディザマトリクス33Nは,工場出荷時のエンジン特性に基づいて生成されたものが採用される。ただし,エンジンの出力濃度特性が経年変化する場合は,適宜のタイミングでもしくは地紋画像を生成するときに,その都度正規化されることが望ましい。
[実験例]
図28は,多階調カモフラージュ模様の実験例を示す図である。この多階調のカモフラージュ模様12は中間階調を有する。ただし,前述のとおり地紋画像に反映されるときは白黒反転したカモフラージュ模様13のようになる。12X,13Xはそれぞれ拡大図である。
図29は,図28の多階調カモフラージュ模様を反映させた地紋画像の原本と複写物の実験例を示す図である。図30はその拡大図16X,20Xをより拡大した図である。図29(a)の原本16に示されるとおり,多階調のカモフラージュ模様はコントラストが抑制されるので,本来の印刷文書画像の判別性を損なうことが少ない。また,図29(b)の複写物20に示されるとおり,多階調のカモフラージュ模様により複写物において潜像「複」がより忠実に再現され,複写物での潜像の識別性を高めることができる。図2の原本16と図3の複写物20と対比することで,上記の効果がより明確に理解できる。
以上説明したとおり,本実施の形態によれば,多階調のカモフラージュ模様を利用することにより,立体的な模様も表現することができ,カモフラージュ模様の表現力と自由度を大幅に向上することができる。また,カモフラージュ模様のコントラストを低下させるように調整することができ,印刷文書画像と合成した場合にカモフラージュ模様により判別性が低下することは少ない。さらに,地紋画像の複写物においては,潜像部と背景部の両方でカモフラージュ模様の階調値に対応してドットを残すことができるので,複写物における潜像「複」の識別性を高めることができる。
[任意のカラーまたは多階調のカモフラージュ模様]
本実施の形態では,ユーザが写真撮影やコンピュータグラフィックスにより任意に取得したカラーまたは多階調のカモフラージュ模様を登録可能にし,それを地紋に合成可能にする。プリンタにこのようなカモフラージュ模様機能を搭載することで,カモフラージュ模様の自由度が上がりユーザの利便性が高くなる。
ただし,カモフラージュ模様の自由度を高くすることに伴って,地紋画像に適さない模様の登録を要求されることがあり,任意のカラーまたは多階調のカモフラージュ模様データを受け入れ可能にするために所定の処理が求められる。以下,任意のカラーのカモフラージュ模様を受け入れ可能にした場合の予想される問題点について説明する。
まず,以下に示すカモフラージュ模様付き地紋画像の生成に用いられた背景部と潜像部のスクリーンに対応するディザマトリクスの一例を説明する。これらの背景部および潜像部のディザマトリクスの入力階調値と出力濃度の特性は,図27に示したディザマトリクス34,33Nと同じであり,地紋画像の入力階調値In=255にし,潜像部ディザマトリクス33Nが正規化された閾値マトリクスである。
図31は,背景部ディザマトリクス34を示す図である。この背景部ディザマトリクス34は,図7(a)と同様に,小さいドットD2−1,D2−2を分散させた高いスクリーン線数(71lpi)のドット分散型ディザマトリクスである。ただし,図7(a)と異なり,背景部ディザマトリクス34は24×24のマトリクスであり,生成される小さいドットには,4画素からなる比較的大きい小ドットD2−1と,1画素からなる比較的小さい小ドットD2−2とがある。小ドットの中に比較的大きい小ドットD2−1を生成可能にすることで,背景部に小ドットを安定的に発生させることが可能になる。ただし,小ドットD2−1,D2−2はいずれも後述する潜像部の大ドットD1に比較すると面積が小さいので,複写時に消失する程度は潜像部の大ドットD1より大きい。
また,この背景部ディザマトリクス34は,図27(a)に示した入力階調値Inに対する出力濃度特性と同じ特性を有している。すなわち,入力階調値In=0〜255に対して,出力濃度が黒べたの0〜12%の濃度範囲になっている。
図32は,潜像部ディザマトリクス33Nを示す図である。この潜像部ディザマトリクス33Nは,大ドットD1を生成する低いスクリーン線数(53lpi)のドット集中型ディザマトリクスである。また,この潜像部ディザマトリクス33Nは,図10に示した低濃度領域拡張ディザマトリクス33を図27(b)に示した正規化して得た閾値マトリクスである。よって,この潜像部ディザマトリクス33Nの入力階調値Inに対する出力濃度特性は,入力階調値In=0〜255に対して,出力濃度が黒ベタの0〜12%になっている。この特性は図31の背景部ディザマトリクス34と同じである。さらに,潜像部ディザマトリクス33Nにより生成される大ドットD1の大きさは,図27(b)のように正規化したことで,図10のドットよりも小さくなっている。ただし,潜像部の大ドットD1は,図31の背景部の小ドットD2−1,D2−2よりも大きいので,背景部と比較すると,地紋画像複写時のドットの消失は少なく濃度変化も少ない。
図33は,任意のカラーカモフラージュ模様を使用した場合の地紋画像例(1)を示す図である。この例では,文字「複写」の潜像パターン101は,黒い部分が潜像部,白い部分が背景部にそれぞれ設定されている。また,カラーカモフラージュ模様121はカラーの風景写真データが採用されている。このカラーカモフラージュ模様121は,空の部分などが比較的明るい画像である。そして,図33には,地紋画像原本161と地紋画像複写物201とが示されている。
本実施の形態では,カラーのカモフラージュ模様データが登録されると,前述の式(2)によりグレイ階調値Aを求め,地紋の入力階調値InをIn=255とし,グレイ階調値Aを反転させた階調値Kから,前述の式(4)により補正階調値Ki(=K)を求め,その階調値Kiを図31,図32のディザマトリクスの閾値と比較してドットの有無を生成し,カモフラージュ模様付き地紋画像データを生成する。
また,モノクロの多階調のカモフラージュ模様データが登録されると,そのグレイ階調値Aを反転させた階調値Kを地紋の入力階調値In=255に基づいて式(4)により補正階調値Kiを求め,その階調値Kiを図31,図32のディザマトリクスの閾値と比較してドットの有無を生成し,カモフラージュ模様付き地紋画像データを生成する。
図33の地紋画像原本161では,カモフラージュ模様を使用しているので潜像「複写」の隠蔽性が高く,多階調のカモフラージュ模様であるのでコントラストは低く,本来の印刷文書画像の判別性は低下しない。しかしながら,カモフラージュ模様の一部の領域の明度が高すぎるため,地紋画像原本161の拡大図161Xに示されるとおり,潜像部と背景部の両方で発生するドットサイズが小さくなっている。つまり,潜像部に大きなドットが発生していない。その結果,地紋画像複写物201の拡大図201Xに示されるとおり,潜像部と背景部のドットの消失の程度が同等になり,潜像部と背景部との間の濃度差が抑制され,複写物201における潜像「複写」の識別性が低下している。
図34は,任意のカラーカモフラージュ模様を使用した場合の地紋画像例(2)を示す図である。この例でも,図34と同じ潜像パターン101が使用されている。ただし,カラーカモフラージュ模様122は,全体的に暗い風景画像であり全体的にコントラストが小さい。明度が低いカモフラージュ模様122であるので,地紋画像原本162では,拡大図162Xに示されるとおり,背景部では多くの小ドットが発生し潜像部では大きなドットが発生している。そのため,地紋画像複写物202では,ドットサイズの違いに応じて,背景部の濃度低下が大きく潜像部の濃度低下は少ない。つまり,地紋画像複写物202の潜像「複写」の識別性が高くなっている。
しかしながら,図34の地紋画像原本161では,カモフラージュ模様122のコントラストが弱いので,地紋画像原本の潜像「複写」の隠蔽性が低下している。さらに,コントラストの弱いカモフラージュ模様は,地紋原本の意匠性の観点からも好ましくない印象を与える。
本実施の形態では,図33,34の問題点を解決するもので,任意のカラーまたは多階調カモフラージュ模様を使用する場合に,地紋原本の高い隠蔽性,カモフラージュ模様の高い意匠性,地紋複写物の高い識別性を備えた最適な地紋画質を提供する。
図6と図13で説明したとおり,本実施の形態では,任意のカラーまたは多階調カモフラージュ模様の使用を許可することに対応して,プリンタドライバ32は,カラーデータをグレイデータに変換する機能(S4)と,カモフラージュ模様の調整機能(S6,S19)を有する。このカモフラージュ模様の調整機能は,(1)カモフラージュ模様の明度が基準値より高い場合に明度を低下させる機能と,(2)カモフラージュ模様の全体のコントラストを高める機能と,(3)カモフラージュ模様のエッジ部分のコントラストを高める機能(または先鋭化機能,アンシャープ機能)とを有する。この機能(2)(3)はカモフラージュ模様の画像種類に応じて選択される。或いはユーザによる調整パラメータの指定により選択される。
図35は,明度の低下と全体のコントラストを高める機能を説明する図である。上記の(1)の機能と(2)の機能の説明である。前述のとおり,カラーまたは多階調のカモフラージュ模様は,最適な地紋画質を得るためには,明度がある程度低いことが望まれる。ただし,明度が低いだけでは地紋原本におけるカモフラージュ模様の明度差が少なくなりがちであり,コントラストが弱くなりがちで,カモフラージュ模様が目立たなくなる。つまり,明度の低下は,地紋原本の意匠性を損ない地紋原本の潜像の隠蔽性を低下させる。そこで,地紋原本の意匠性向上と隠蔽性向上のためには,カモフラージュ模様のコントラストを高める調整が求められる。
地紋画質向上のためのカモフラージュ模様の調整として,以下の式(9)によりコントラスト補正を行い,さらに式(8)により明度低下補正を行う。
図35(a)は,式(8)の明度低下補正テーブルを示し,図35(b)は,式(9)のコントラスト補正テーブルを示す。いずれも,横軸が入力グレイ階調値Gray(前述のグレイ階調値Aと等価),縦軸が変換後の出力グレイ階調値Grayである。上記の式(9)において,グレイ階調値Grayに対して,コントラストパラメータC(0≦C≦50)により定義されるコントラスト指数fa,変曲点x1,x2に基づき,高いグレイ階調値はより高く,低いグレイ階調値はより低く補正される。コントラストパラメータC=50では最も強くコントラスト補正が行われ,コントラストパラメータCが大きいほどより強くコントラストが補正される。また,コントラストパラメータC=0では,入力と出力とがリニアな関係になり,コントラスト補正は行われない。式(9)によれば,入力グレイ階調値Grayが0〜x1では3次曲線により階調値変換が行われ,グレイ階調値Grayがx1〜x2では傾きfaの一次直線により階調値変換が行われ,グレイ階調値Grayがx2〜255では3次曲線により階調値変換が行われる。
式(9)によりコントラスト補正された階調値Gray_Cが,式(8)により明度低下補正され,コントラスト補正と明度補正された階調値Gray_Vが求められる。明度パラメータV=100の時は明度低下補正されず,明度パラメータVが小さいほど明度がより低く補正され,明度パラメータV=40で40%に明度が補正される。
図35(c)は,コントラストパラメータCと明度パラメータVとをある値に設定した場合の,コントラスト補正と明度低下補正を同時に行う合成階調変換テーブルを示す。図中,C=10,V=80の場合の変換テーブルと,C=30,V=55の場合の変換テーブルとが示されている。C=0にすることでコントラスト補正なしに,V=0にすることで明度低下補正なしに,それぞれ設定することができる。
図36は,全体のコントラスト補正と明度補正を行ったカモフラージュ模様データとそれを使用した地紋画像とを示す図である。この例は,図33で登録したカラーカモフラージュ模様データを,図35(c)のC=30,V=55の合成階調変換テーブルで調整して,カモフラージュ模様付き地紋画像を生成している。すなわち,カラーカモフラージュ模様データは,グレイ階調値Grayに変換され,C=30,V=55の合成階調変換テーブルで階調値変換され(Gray_V),調整されたカモフラージュ模様123が生成される。このカモフラージュ模様123は,全体に明度が低く補正され,全体のコントラストが強められている。
このカモフラージュ模様123のグレイ階調値Gray_Vを階調値K(=255−Gray_V)に反転し,階調値Kを地紋画像の入力階調値In=255で補正(Ki=(K/255)×In)し,補正した階調値Kiを図31,32の背景部,潜像部ディザマトリクス34,33Nの閾値と比較して原本の地紋画像163を生成している。
地紋原本163は,カモフラージュ模様123のコントラストが強められているので,全体に暗くても識別性があり,潜像の隠蔽性が高められており,意匠性も優れている。さらに,地紋複写物203は,カモフラージュ模様123の明度が全体的に低く補正されているので,潜像部では背景部の小ドットより大きなドットが形成され,複写時の濃度変化が潜像部と背景部とでより大きく異なり,地紋複写物203での潜像「複写」の識別性が高くなっている。
ただし,地紋原本163でのカモフラージュ模様の意匠性や潜像の隠蔽性は,図34の地紋原本162と同等であり,もっと改良することが望まれる。
そこで,第2のカモフラージュ模様の調整方法は,前述の(1)の明度低下の機能と(3)のカモフラージュ模様のエッジ部分のコントラストを高める機能(または先鋭化機能,アンシャープ機能)とを使用する。
図37は,カモフラージュ模様のエッジ部分のコントラストを高める機能を説明する図である。上記の(3)の機能を説明する図である。前述のカモフラージュ模様全体のコントラスト補正は,処理は簡単ではあるが,補正により明るい領域と暗い領域とで階調数が少なくなり,逆にコントラストを損なってしまう領域が発生する。そこで,(3)の機能により画像の特徴部分であるエッジ部分の明暗コントラストを強調することで,カモフラージュ模様をより適切に調整することができる。
すなわち,人間の目は,画像の明度が大きく変化するエッジ部分に対して感度が高く,明度の変化が平坦な部分に対しては感度が低い特性を持っている。そこで,多階調カモフラージュ模様についてエッジ部分のコントラストを強調すると,人間の目には地紋原本のカモフラージュ模様のコントラストが高く見えて地紋原本における潜像の隠蔽性を高めることができる。さらに,カモフラージュ模様のエッジ部分を強調することは,カモフラージュ模様の特徴をより忠実に再現することになるので,意匠性向上にもつながる。
具体的には,グレイのカモフラージュ模様のある注目画素について,注目画素が周囲の領域に対してどの程度異なっているかを検出し,その差分を強調することで,エッジ領域を強調,すなわち先鋭化する。この先鋭化の演算式は,以下のとおりである。
上記の式(10)によれば,図37(a)に示したとおり,明度低下補正を行った階調値Gray_Vについて,注目画素Gray_V(i,j)の階調値と,その周囲の7×7の画素の階調値の平均meanとの差分を求め,それを強調パラメータSTRENGTHに従って強調(乗算)し,元の階調値Gray_V(i,j)に加算する。また,上記の式(11)は平均値を求める式である。これらの演算により,図37(b)に示したとおり,エッジ部分において,エッジ両側の低い階調値の画素はより低い階調値に,高い階調値の画素はより高い階調値に変換され,エッジの明暗コントラストが強調される。図37(b)の横軸は画像のx,y方向を,縦軸は画像の明度をそれぞれ示している。
上記の演算式において,周囲の領域の大きさを示すパラメータAREAを大きくすることで,エッジの周りの領域をぼかすことができ,強調パラメータSTRENGTHを大きくしなくても自然に先鋭化を実現できる。なお,地紋画像形成で使用されるスクリーン線数は比較的低いので解像度が低く,パラメータAREAを大きくしてエッジの周囲の領域がぼけたとしても地紋画像の画質低下にはならない。
なお,上記の先鋭化処理は,アンシャープ処理とも称されている。例えば,「おはなし カラー画像処理」CQ出版社,洪博哲著には,アンシャープマスキングについて詳述されている。
図38は,エッジ部分のコントラスト強調(先鋭化)と明度補正を行ったカモフラージュ模様データとそれを使用した地紋画像とを示す図である。この例では,図33で登録したカラーカモフラージュ模様データを,図35(c)のV=60,C=0の合成階調変換テーブルで調整して,カモフラージュ模様付き地紋画像を生成している。すなわち,カラーカモフラージュ模様データは,グレイ階調値Grayに変換され,C=0,V=60の合成階調変換テーブルで階調値変換され(Gray_V),AREA=25,STRENGTH=2で先鋭化処理(エッジ部分のコントラスト強調処理)を行って,調整されたカモフラージュ模様124が生成される。このカモフラージュ模様124は,全体に明度が低く補正され,且つエッジ部分のみコントラストが強められている。
このカモフラージュ模様124のグレイ階調値Gray_Vを階調値K(=255−Gray_V)に反転し,階調値Kを地紋画像の入力階調値In=255で補正(Ki=(Gray_V/255)×In)し,補正した階調値Kiを図31,32の背景部,潜像部ディザマトリクス34,33Nの閾値と比較して原本の地紋画像164を生成している。
図38の地紋原本164では,図36と比較すると低階調領域および高階調領域での階調のつぶれ(階調数の低下)がなく意匠性が優れており,カモフラージュ模様のエッジ部分が強調されているので地紋原本164の潜像の隠蔽性が向上している。さらに,明度を低下させているので,地紋の複写物204では潜像の識別性が高くなっている。よって,総合的には,図36よりも優れた地紋画質を提供することができる。
上記の,(1)明度低下補正に加えて,(2)全体のコントラストを強調する補正,または(3)エッジ部分のコントラストを強調する補正のいずれかを選択することが望ましい。その場合,カモフラージュ模様の画像種類に応じて,(2)または(3)のいずれかを選択するとよい。例えば,カモフラージュ模様に人物の顔が含まれる場合や,滑らかな階調をもったコンピュータグラフィックにより生成された画像が含まれる場合は,(3)のエッジ部分のコントラスト強調は好ましくないので,(2)の全体のコントラスト強調が好ましい。一方,上記のようにカモフラージュ模様に風景画像が含まれる場合は,(3)のエッジ部分のコントラスト強調が好ましい。
[カモフラージュ模様の調整工程]
本実施の形態では,ユーザが任意に取得したカラーまたは多階調カモフラージュ模様を登録して地紋画像に合成することを許可する。それに伴い,登録されるカラーまたは多階調カモフラージュ模様について,潜像部と背景部とで構成される地紋画像との整合性を担保することが求められる。カモフラージュ模様の調整工程は,このような整合性を担保するために,自動調整機能とマニュアル調整機能とを有する。
図39は,カモフラージュ模様の調整工程を示すフローチャート図である。図6の工程S6と図13の工程S19の調整工程に対応し,自動調整工程が示されている。さらに,図40は,プリンタドライバの地紋設定画面を示す図であり,図41〜43は,プリンタドライバのカモフラージュ模様調整工程における画面を示す図である。これらの図を参照しながら,図39の調整工程について以下説明する。
図40の地紋設定画面150において,図13の工程S10〜S13に対応して,地紋文言を選択し(図中152または153),地紋文言サイズ,角度,効果,配置などを選択し(図示せず),さらに地紋画像の入力階調値Inを選択し(図中154),地紋の色を選択(図中155)する。その結果,プリンタドライバは,潜像マスクパターンを生成し,選択された入力階調値と地紋の色に基づいて地紋画像を生成し,地紋画像表示部151に表示する。ユーザは,この地紋画像表示部151に表示された地紋画像を目視で確認して,設定を終了する場合は「OK」ボタン157をクリックする。また,ユーザは,カモフラージュ模様を追加する場合は,カモフラージュ模様設定ボタン156をクリックする。それに応答して,プリンタドライバは,図41のカモフラージュ模様の設定画面60を表示する。
図41のカモフラージュ模様の設定画面60において,カラーまたは多階調のカモフラージュ模様が選択される(図中63,64)。プルダウンボックス63には、プリンタドライバにすでに登録ずみのカモフラージュ模様が一覧表示されユーザはこの中からカモフラージュ模様を選択することができる。
さらに、ユーザがあらたにカモフラージュ模様を登録したいときには、図5に示したホストコンピュータ30内のメモリに格納されている模様データファイルから行われる。プルダウンボックス64から模様データファイルが格納されているフォルダ、選択対象の模様データのファイル名を選択することで、登録したいカモフラージュ模様を選択できる。プルダウンボックスで登録したいファイルが選択されたのち、ユーザの登録ボタン67のクリックに応答して,プリンタドライバは選択されたカモフラージュ模様データをプリンタドライバに登録ずみの模様としてメモリに記憶する。このときファイル名に任意の模様名(プルダウンボックス63で表示される名称)をユーザが付けることができるようにしてもよい。
図41では「松本城」が選択されている。この模様の選択に応答して,オリジナル模様画像表示部61に選択されたカラーまたは多階調のカモフラージュ模様が表示される。そして,ユーザの登録ボタン67のクリックに応答して,プリンタドライバは選択されたカモフラージュ模様データをメモリに記憶する。この記憶されるカモフラージュ模様データは,図6の工程S4,S5のように,グレイ階調値データであってもよい。その場合は,プリンタドライバが選択されたカラーのカモフラージュ模様データを式(2)に基づいて,グレイ階調値を演算し,そのグレイ階調値による多階調カモフラージュ模様データを記憶する。
さらに,図41のカモフラージュ模様の設定画面60において,自動調整ボタン65またはマニュアル調整ボタン66のいずれかをクリックすることで,選択されたカモフラージュ模様の明度やコントラストが調整される。
自動調整ボタン65がクリックされると,図42にカモフラージュ模様の自動調整画面80が表示される。図39のフローチャートにしたがい,そして,ユーザはカモフラージュ模様に人物の顔の画像が存在するか否かについて画像種類選択ボタン81で回答し,OKボタン82をクリックする(S41)。これに応答して,プリンタドライバは,自動調整処理を実行する。まず,プリンタドライバは,選択されたカモフラージュ模様のグレイ階調値を演算する(S42)。登録済のカモフラージュ模様データがグレイ階調値の場合はこの演算は不要である。
そして,プリンタドライバは,グレイ階調値データの平均階調値を演算し(S43),明度低下処理が必要な程度明るい模様か否かを判定する(S44)。この平均階調値の演算と判定では,カモフラージュ模様の全ての画素のグレイ階調値の平均値を求め,その平均値が黒ベタの25%濃度(基準値)以上か否かが判定される。または,全ての画素のグレイ階調値が,黒ベタの25%以上の画素の数と25%未満の画素の数とを求め,25%以上の画素数が25%未満の画素数より多いか否かが判定される。明るいと判定された場合は(S44のYES),明度低下処理が必要であるので,明度パラメータVはV=60に設定される。一方,明るいと判定されない場合は(S44のNO),明度低下処理は不要であり,明度パラメータVはV=100に設定される。
さらに,カモフラージュ模様に人物が含まれている場合は(S47のYES),模様画像全体のコントラストを調整する処理が望ましいので,プリンタドライバは,コントラストパラメータCをC=30に設定し(S48),V=60,C=30の階調値変換テーブルを参照して,階調値変換を行う(S49)。これにより,明度低下処理とコントラスト強調処理が行われる。人物画像に対してエッジ部分のコントラストを強調する先鋭化処理を行うことは,人物画像の画質が低下するので好ましくない。
一方,カモフラージュ模様に人物が含まれていない場合は(S47のNO),エッジ部分のコントラストを強調する先鋭化処理を行うことが望ましいので,プリンタドライバは,コントラストパラメータCをC=0に設定し(S50),V=60,C=0の階調変換テーブルを参照して,階調値変換を行う(S51)。これにより,明度低下処理が行われ,全体のコントラスト強調処理は行われない。さらに,プリンタドライバは,先鋭化パラメータをAREA=25,STRENGTH=2に設定し(S52),先鋭化処理を行う(S53)。そして,調整済模様画像表示部62に,調整されたカモフラージュ模様画像が表示される。
図42のカモフラージュ模様の自動調整画面80にてOKボタン82がクリックされると,図41のカモフラージュ模様設定画面60に戻る。その画面60では,調整済模様画像表示部62に調整済のカモフラージュ模様画像が表示されている。その表示状態で,登録ボタン67がクリックされると,それに応答して,プリンタドライバは,調整された多階調カモフラージュ模様データまたは調整工程で使用した調整パラメータを保存する(S54)。
上記のカモフラージュ模様の画像種類の入力は,人物画像が含まれるか否か以外に,滑らかな階調変化をもつコンピュータグラフィックス画像が含まれるか否かであってもよい。いずれにしても,カモフラージュ模様の全ての画素についてコントラスト強調処理をするのに不向きな画像か否かをユーザから入力させることが必要である。
図41のカモフラージュ模様設定画面60でマニュアル調整ボタン66がクリックされると,それに応答して,プリンタドライバは,図43のカモフラージュ模様のマニュアル調整画面90を表示する。マニュアル調整画面90は,明度,コントラスト設定部91と,先鋭化処理設定部92とを有する。ユーザは,明度,コントラスト設定部91で,明度パラメータC,コントラストパラメータVを自由に設定することができる。さらに,ユーザは,先鋭化処理設定部92で,先鋭化処理パラメータAREA,STRENGTHを自由に設定することができる。これらの設定に応答して,プリンタドライバは,調整処理を行い,調整済のカモフラージュ模様画像を表示部62に表示する。ユーザは,この表示部62のカモフラージュ模様画像を確認し,適正と判断すれば,OKボタン93をクリックする。このクリックに応答して,プリンタドライバは,図60のカモフラージュ模様設定画面60に戻り,調整済模様画像表示部62に調整済のカモフラージュ模様画像を表示する。そして,その状態で登録ボタン67がクリックされると,それに応答して,プリンタドライバは,調整された多階調カモフラージュ模様データまたは調整工程で使用した調整パラメータを保存する(S54)。
以上のカモフラージュ模様の調整工程が終わると,図40の地紋設定画面50において,地紋画像表示部51にカモフラージュ模様が反映された地紋画像が表示される。そして,画面50でOKボタン57がクリックされると地紋設定工程が終了する。設定された地紋に加えられたカモフラージュ模様は,明度とコントラストが調整されているので,ユーザが任意に取得したカラーまたは多階調カモフラージュ模様であっても,地紋の原本のカモフラージュ模様による意匠性を高め,地紋の原本の隠蔽性を高め,地紋の複写物の識別性を高めることができる。
以上,本実施の形態をまとめると以下の通りである。
(付記1)複写時に再現される出力濃度が異なる潜像部と背景部とで構成される地紋画像データを生成する地紋画像生成工程をコンピュータに実行させる地紋画像生成プログラムにおいて,
前記地紋画像生成工程は,
多階調のカモフラージュ模様データを入力し,当該入力された多階調カモフラージュ模様データをメモリに記憶するカモフラージュ模様登録工程と,
前記多階調カモフラージュ模様データの階調値について,前記潜像部に対応する領域では潜像部スクリーンに基づいて潜像部画像データを生成し,前記背景部に対応する領域では背景部スクリーンに基づいて背景部画像データを生成する地紋画像データ生成工程とを有する
ことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な地紋画像生成プログラム。
(付記2)複写時に再現される出力濃度が異なる潜像部と背景部とで構成される地紋画像データを生成する地紋画像生成工程をコンピュータに実行させる地紋画像生成プログラムにおいて,
前記地紋画像生成工程は,
カラーのカモフラージュ模様データに含まれる複数色の階調値をグレイ階調値に変換してグレイ階調値データを生成するグレイ階調値生成工程と,
前記グレイ階調値データのグレイ階調値について,前記潜像部に対応する領域では潜像部スクリーンに基づいて潜像部画像データを生成し,前記背景部に対応する領域では背景部スクリーンに基づいて背景部画像データを生成する地紋画像データ生成工程とを有する
ことを特徴とするコンピュータ読み取り可能な地紋画像生成プログラム。
(付記3)複写時に再現される出力濃度が異なる潜像部と背景部とで構成される地紋画像データを生成する地紋画像生成工程をコンピュータに実行させる地紋画像生成プログラムにおいて,
前記地紋画像生成工程は,
多階調カモフラージュ模様データの階調値をより低い明度に調整して調整された多階調カモフラージュ模様データを生成する調整工程と,
前記調整された多階調カモフラージュ模様データの階調値について,前記潜像部に対応する領域では潜像部スクリーンに基づいて潜像部画像データを生成し,前記背景部に対応する領域では背景部スクリーンに基づいて背景部画像データを生成する地紋画像データ生成工程とを
有することを特徴とするコンピュータ読み取り可能な地紋画像生成プログラム。
(付記4)複写時に再現される出力濃度が異なる潜像部と背景部とで構成される地紋画像データを生成する地紋画像生成工程をコンピュータに実行させる地紋画像生成プログラムにおいて,
前記地紋画像生成工程は,
多階調カモフラージュ模様データを入力し,当該多階調カモフラージュ模様データの画像種類の指定に応答して,前記画像種類が第1の画像種類の場合に,多階調カモフラージュ模様データの階調値をより低い明度に調整し当該模様画像の全ての画素で明暗コントラストを強調する第1の調整を行い,前記画像種類が第2の画像種類の場合に,多階調カモフラージュ模様データの階調値をより低い明度に調整し当該模様画像のエッジ部分の明暗コントラストを強調する第2の調整を行い,当該調整された多階調カモフラージュ模様データを生成する調整工程と,
前記調整された多階調カモフラージュ模様データの階調値について,前記潜像部に対応する領域では潜像部スクリーンに基づいて潜像部画像データを生成し,前記背景部に対応する領域では背景部スクリーンに基づいて背景部画像データを生成する地紋画像データ生成工程とを
有することを特徴とするコンピュータ読み取り可能な地紋画像生成プログラム。
(付記5)複写時に再現される出力濃度が異なる潜像部と背景部とで構成される地紋画像データを生成する地紋画像生成工程をコンピュータに実行させる地紋画像生成プログラムにおいて,
前記地紋画像生成工程は,
多階調カモフラージュ模様データを入力し,当該多階調カモフラージュ模様データの明度パラメータ,コントラストパラメータ,先鋭化パラメータのいずれかの設定に応答して,前記明度パラメータに基づいて前記多階調カモフラージュ模様データの階調値の明度を低下させる明度低下処理と,前記コントラストパラメータに基づいて前記多階調カモフラージュ模様データの全体の階調値の明暗コントラストを強調するコントラスト強調処理と,前記先鋭化パラメータに基づいて前記多階調カモフラージュ模様データのエッジ部分の明暗コントラストとを強調する先鋭化処理のいずれかの処理を行い,当該調整された多階調カモフラージュ模様データを生成する調整工程と,
前記調整された多階調カモフラージュ模様データの階調値について,前記潜像部に対応する領域では潜像部スクリーンに基づいて潜像部画像データを生成し,前記背景部に対応する領域では背景部スクリーンに基づいて背景部画像データを生成する地紋画像データ生成工程とを
有することを特徴とするコンピュータ読み取り可能な地紋画像生成プログラム。