本発明は、アンテナの指向性を切り替えることが可能な指向性可変アンテナ及びそのような指向性可変アンテナを有する情報機器に関する。
近年の無線通信技術の飛躍的な発展に伴い、無線技術を利用した製品が広く普及し始め、無線通信路の伝送容量の拡大に大きな期待が寄せられている。特に、最近は、時間や空間、偏波、符号といった多次元にわたる信号の多重化によって、伝送容量の拡大を目的とした研究が活発に行われている。
空間による多重化は、アレイ状に並べられた複数のアンテナと、各アンテナの信号をベクトル合成する回路とから成るアダプティブアレイアンテナで実現されると考えられているが、アダプティブアレイアンテナは各アンテナの大きさ及び/又は間隔が大きいため、その応用先が制限される。特に移動通信機器で使用するためには、アンテナの大きさは可能な限り小さい方が望ましい。
指向性可変アンテナは、通常、一組のアンテナ及び給電回路によりその指向性を変化させることができるので、アダプティブアレイアンテナよりも小さくすることができる可能性を有し、空間による多重化を実現する小型アンテナの候補として期待されるが、指向性可変アンテナの小型化に関しては現在その研究例が少なく、その開発に大きな期待が寄せられている。
指向性可変アンテナに関する従来文献として、例えば、次の文献が挙げられる。
特開平6−350334号公報(特許文献1参照。)には、指向性を特定方向に向けることができる指向性可変アンテナが開示されている。図1は、上記特許文献1の実施例を示す図を引用したものである。
図1に開示された指向性可変アンテナは、放射素子(アンテナ素子)10の周囲に放射素子10と平行に反対素子11が設けられている。反対素子11は、回転駆動部12aと連結アーム12bとから成る指向性制御手段12によって、放射素子10の周りを機械的に周回できるように構成されている。放射素子10及び電源15は、同軸給電線14によって電気的に接続されている。
本構成において、反射素子11の周回角度を変えることによってアンテナの指向性を自由に変化させることが可能であるが、反対素子11が付加されたことにより、アンテナ全体の大きさは格段に大きくなってしまうという問題がある。
また、特開平10−154911号公報(特許文献2参照。)には、指向性を電気的に切り替えることができる指向性可変アンテナの例が開示されている。図2は、上記特許文献2に開示された指向性可変アンテナの原理を説明するための図を引用したものである。
図2に開示された指向性可変アンテナは、円形の接地導体20上の中央に設けられた中央駆動素子22と、それを放射状に取り囲む位置に設けられた複数のパラスティック素子24とから構成されている。本構成では、中央駆動素子22とパラスティック素子24との間隔はλ/4程度の値となり、そのためアンテナ全体では1.6λ以上の大きさを有するようになる。
各パラスティック素子24の下部には、高インピーダンスと低インピーダンスとを切替え可能なインピーダンス負荷26が設けてあり、このインピーダンス負荷26のインピーダンスの切替えにより指向性を切り替えるようにしている。
更に、従来の指向性可変アンテナの同様な例が特開2001−24431号公報(特許文献3参照。)に開示されている。図3は、上記特許文献3の実施例を示す図を引用したものである。
図3に開示された指向性可変アンテナは、円形の接地導体30上に、給電アンテナ素子A0と、給電アンテナA0を放射状に取り囲む位置に設けられた無給電可変リアクタンスA1〜A6とから構成されている。本構成では、給電アンテナ素子A0と無給電可変リアクタンス素子A1〜A6の夫々との間隔dはλ/4程度の値となり、そのためアンテナ全体ではλ程度の大きさを有するようになる。
以上のように、従来の指向性可変アンテナは、放射素子の周辺に無給電素子を配し、放射素子と無給電素子との電磁的な相互結合を利用してアンテナ指向性を制御していた。従来の指向性可変アンテナの構成では、アンテナの等価的な合成開口を大きくすることになるので利得が高くなり、ひいてはアンテナの指向性を制御することが可能となるが、この動作原理上、アンテナの大きさを無指向性アンテナと同じ大きさまで小さくすることは難しい。そこで、本発明者等は、特開2004−304785号公報(特許文献4参照。)に開示されているような、アンテナの合成開口を大きくすることなく、アンテナの指向性を変化させる技術を発明した。図4は、上記特許文献4に開示された発明に基づく指向性可変アンテナの一例を示しており、(a)はその断面図であり、(b)は(a)の破線部を上から見た面図である。
図4の指向性可変アンテナは、内導体411及び外導体412から成る給電用の同軸線路41と、回転体状の放射器42及び円板状の地板43から成り、給電のために同軸線路41と接合されるアンテナ素子とを有し、更に、同軸線路41と放射器42との接合部では4方向に短絡線45及びスイッチ44が接続されている。4つのスイッチ44の全てをオフしている状態では当該アンテナの放射パターンは無指向性であるが、4つのスイッチのうち1つのみをオンした場合は同軸線路41内の電界が乱され、アンテナの放射パターンは指向性を有するようになる。
これは、スイッチ44のいずれか1つがオンし、同軸線路の内導体411と外導体412とが短絡されることにより、同軸線路内で軸対称な電界分布を有するTEMモードに加えて、電界分布が軸対称とならないTE11、TE12、TE21、TE22、・・・のような高次モードが発生していることによる。この高次モードの発生によりアンテナの指向性は変化する。
本構成において、スイッチのオン及びオフを切り替えることにより、アンテナ自体の指向性を切り替えることが可能となるので、上記特許文献1〜3で開示されている指向性可変アンテナのように合成開口を大きくすることがなく、無指向性アンテナと同程度の大きさとすることができる。
また、信学技報AP2003−274(2004年)に掲載された菅原、星、廣居、佐藤著の「同軸短絡構造によるアンテナ指向性制御技術の提案」(非特許文献1)には、特許文献4に開示したアンテナの実現形態の詳細が説明されており、無指向性アンテナと同等な大きさ広い周波数帯域にわたって指向性を変化させることが可能であることが示されている。
特開平6−350334号公報
特開平10−154911号公報
特開2001−24431号公報
特開2004−304785号公報
「同軸短絡構造によるアンテナ指向性制御技術の提案」、信学技報、AP2003−274、2004年
しかし、特許文献4に開示された発明に基づく従来の指向性可変アンテナでは、図5に示すように、指向性変化量が最大で6dB程度しかないという問題がある。図5は、図4の指向性可変アンテナにおいていずれか1つのスイッチをオンした場合の指向性変化量の周波数依存性を表すグラフである。ここで、指向性変化量とは、アンテナのE面指向性において、同軸線路を短絡したことにより利得が低下した側の最大利得に対する、その反対側にある利得が増加した側の最大利得の比のことをいう。指向性変化量は、実用において、6〜10dB程度であることが望ましく、従って、従来の指向性可変アンテナでは十分とは言えない。
本発明は、上記の点に鑑みて、これらの問題を解消するためになされたものであり、無指向性アンテナと同程度の大きさで、広帯域にわたって大きな指向性変化量を有する指向性可変アンテナ及びそのような指向性可変アンテナを使用する情報機器を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の指向性可変アンテナは、ポール状又は回転体状の放射器を有するアンテナ素子と、該アンテナ素子に給電する同軸線路と、前記アンテナ素子と前記同軸線路との接合部に設けられた指向性切替え手段とを有する指向性可変アンテナであって、前記接合部に接する前記同軸線路の外導体の内径及び/又は内導体の直径を変更することにより当該指向性アンテナのゲインを変更することができる。
これによりアンテナ素子と同軸線路との間の接合部において同軸線路部のカットオフ周波数を低下させることができるので、より低い周波数で高次モードの放射モードへの結合量が増大し、無指向性アンテナと同程度の大きさで、広帯域にわたって大きな指向性変化量を有する指向性可変アンテナを提供することが可能となる。
また、上記目的を達成するために、本発明の指向性可変アンテナは、前記外導体の内周に接する円環状の導体及び/又は前記内導体の外周に接する円環状の導体を有することにより当該指向性アンテナのゲインを変更することができる。
これにより、同軸線路とアンテナ素子との接合部において外導体の内径を小さくすること及び/又は内導体の直径を大きくすることができ、無指向性アンテナと同程度の大きさで、広帯域にわたって大きな指向性変化量を有する指向性可変アンテナを提供することが可能となる。
また、上記目的を達成するために、本発明の指向性可変アンテナは、前記アンテナ素子において前記接合部に接する面の径が前記同軸線路の内導体の径よりも大きくなるよう形成されることにより当該指向性アンテナのゲインを変更することができる。
これにより、同軸線路とアンテナ素子との接合部において内導体の直径が大きくなり、無指向性アンテナと同程度の大きさで、広帯域にわたって大きな指向性変化量を有する指向性可変アンテナを提供することが可能となる。
また、上記目的を達成するために、本発明の指向性可変アンテナは、前記放射器の周囲に前記同軸線路の端部に接するように形成された第1の誘電体を有することにより当該指向性アンテナのゲインを変更することができる。
これにより、従来は同軸線路内、即ち、外導体と内導体との間に充填された誘電体の誘電率よりも小さかった指向性切替え手段の上部の放射器周囲の誘電率が、少なくとも同軸線路内と同じか、又はそれよりも大きくなり、指向性切替え手段の上部への高次モードの輻射比率を改善し、指向性変化量を増大させることができるので、無指向性アンテナと同程度の大きさで、広帯域にわたって大きな指向性変化量を有する指向性可変アンテナを提供することが可能となる。
また、上記目的を達成するために、本発明の指向性可変アンテナは、前記同軸線路内の端部に前記同軸線路の外導体と内導体との間の誘電率とは異なる誘電率を有する第2の誘電体を有することにより当該指向性アンテナのゲインを変更することができる。
これにより、同軸線路とアンテナ素子との間の接合部の前後において誘電率の変化が少ない構成とされ、反射損失を低減することができるので、無指向性アンテナと同程度の大きさで、広帯域にわたって大きな指向性変化量を有する指向性可変アンテナを提供することが可能となる。
また、上記目的を達成するために、本発明の指向性可変アンテナにおいて、前記第2の誘電体の誘電率は、前記第1の誘電体の誘電率と等しい。
これにより、同軸線路とアンテナ素子との間の接合部の前後において誘電率の変化がない構成とされ、更なる反射損失の低減が可能である。
また、上記目的を達成するために、本発明の指向性可変アンテナにおいて、前記指向性切替え手段は、前記接合部において前記同軸線路の内導体と外導体との間を短絡するよう形成された線状の短絡手段を有することができる。
これにより、非常に簡単な構成で広帯域に同軸線路の電界分布を変化させ、アンテナの指向性を切り替えることが可能である。
また、上記目的を達成するために、本発明の指向性可変アンテナにおいて、前記短絡手段の全体若しくは一部の幅及び/又は厚さは、所定の大きさを有することができる。
これにより、より低い周波数で高次モードの放射モードへの結合量が増大し、ひいては指向性変化量が増大するので、無指向性アンテナと同程度の大きさで、広帯域にわたって大きな指向性変化量を有する指向性可変アンテナを提供することが可能となる。
また、上記目的を達成するために、本発明の指向性可変アンテナにおいて、前記第1の誘電体の形状は、前記同軸線路と中心軸が一致するように形成された円錐台状とすることができる。
これにより、広帯域にわたって指向性変化量を更に増大させることが可能である。
また、上記目的を達成するために、本発明の指向性可変アンテナは、ポール状又は回転体状の放射器を有するアンテナ素子と、該アンテナ素子に給電する同軸線路と、前記アンテナ素子と前記同軸線路との接合部に設けられた指向性切替え手段とを有する指向性可変アンテナであって、前記放射器の周囲に前記同軸線路の端部に接するように形成された誘電体を有することにより当該指向性アンテナのゲインを変更することができる。
また、上記目的を達成するために、本発明の指向性可変アンテナにおいて、前記誘電体の形状は、前記同軸線路と中心軸が一致するように形成された円錐台状とすることができる。
また、上記目的を達成するために、本発明の指向性可変アンテナは、ポール状又は回転体状の放射器を有するアンテナ素子と、該アンテナ素子に給電する同軸線路と、前記アンテナ素子と前記同軸線路との接合部に設けられた指向性切替え手段とを有する指向性可変アンテナであって、前記指向性切替え手段は、前記接合部において前記同軸線路の内導体と外導体との間を短絡するよう形成された線状の短絡手段を有し、該短絡手段の全体若しくは一部の幅及び/又は厚さは、所定の大きさを有することができる。
また、上記目的を達成するために、本発明の指向性アンテナは、当該指向性アンテナのゲインを変更するために、前記放射器の周囲に前記同軸線路の端部に接するように形成された誘電体を有し、前記第誘電体の形状は、前記同軸線路と中心軸が一致するように形成された円錐台状とすることができる。
また、上記目的を達成するために、本発明の指向性アンテナにおいて、前記アンテナ素子は、前記同軸線路の信号線に接続され、該同軸線路の信号線に接続される頂部から底部に向けて径が増大する回転体状の第1のアンテナ素子と、接地されるよう同軸線路の外周に設けられ、前記第1のアンテナ素子に面する頂部から底部に向けて径が増大する第2のアンテナ素子とを有し、前記第1のアンテナ素子又は前記第2のアンテナ素子のうちの少なくとも一方において、該アンテナ素子の側面と該アンテナ素子の中心軸とが成す角は、該アンテナ素子の頂部から底部に向けて第1の角度から第2の角度へ変化し、前記第1の角度は、前記第2の角度よりも小さくすることができる。
これにより、より広帯域にわたって大きな指向性変化量を有する指向性可変アンテナを提供することが可能となる。
また、上記目的を達成するために、本発明の指向性可変アンテナを有する情報機器が提供されても良い。
本発明により、無指向性アンテナと同程度の大きさで、広帯域にわたって大きな指向性変化量を有する指向性可変アンテナ及びそのような指向性可変アンテナを使用する情報機器を提供することが可能となる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について添付の図面を参照して説明する。
図4を参照して説明したように、従来の指向性可変アンテナでは、同軸線路内に高次モードが発生することによりその指向性が変化する。このような高次モードの夫々は、同軸線路の構造で決まるカットオフ周波数を有する。
例えば図5のグラフにより示したような指向性変化量の周波数依存性は、高次モードのカットオフ周波数と相関があり、カットオフ周波数より低い周波数になると指向性変化量は減少していく。これは、カットオフ周波数以下では、周波数の低下に伴って高次モードの放射モードへの結合量が小さくなるためと考えられる。
従って、アンテナ素子と同軸線路との間の接合部において同軸線路部のカットオフ周波数を低下させる構造を設けるよう従来の指向性可変アンテナを改良することにより、より低い周波数で高次モードの放射モードへの結合量が増大し、指向性変化量を増大させることが可能となる。
図6は、本発明の指向性可変アンテナの第1の実施例を示しており、(a)はその断面図であり、(b)は(a)の破線部を上から見た図である。
図6(a)の指向性可変アンテナは、内導体611及び外導体612から成る給電用の同軸線路61と、回転体形状の放射器62及び円板状の地板63から成り、給電のために同軸線路61の内導体611に接合されたアンテナ素子と、この指向性可変アンテナの指向性を切り替える指向性切替え手段とを有する。指向性切替え手段は、同軸線路61とアンテナ素子(放射器62)との接合部に設けられており、同軸線路61の内導体611と外導体612とを4方向で接続するように形成された短絡手段65と、短絡手段65の途中に設けられた切替え手段64とを有する。
切替え手段64は、PINダイオードを用いたスイッチであり、オン及びオフすることにより同軸線路61の内導体611と外導体612とを短絡手段65を介して電気的に短絡させる機能を有する。短絡手段65は線状であり、その幅及び厚さは無視することができる。
また、放射器62は、同軸線路61と接する下端部の直径を同軸線路61の内導体611の直径よりも大きくなるよう形成される。このような構造とすることにより、図6(b)から明らかなように、同軸線路61の内導体611の直径は、同軸線路61とアンテナ素子との間の接合部において、内導体611の実際の直径よりも大きくなる。
ここで、本実施例の指向性可変アンテナにおいて、同軸線路61の内導体611の直径及び外導体612の内径は、夫々、1.3mm及び2.9mmであり、内導体611と外導体612との間に充填される誘電体は空気(比誘電率1.0)である。また、放射器62の同軸線路61と接する下端部の直径は1.8mmであり、同軸線路61の内導体611の直径1.3mmよりも大きくなっている。
このように、放射器62が同軸線路61とアンテナ素子(放射器62)との間の接合部において同軸線路61の内導体611の直径を大きくすることにより、高次モードのカットオフ周波数を低下させることが可能である。具体的には、高次モードにおいて主要なTE11モードのカットオフ周波数は、同軸線路部ではfc1=46.3GHzであるのに対し、接合部ではfc2=40.0GHzまで低下する。なお、上記のような各構成要素の寸法に関する具体的な数値及びその形状等の種々のパラメータは、最適化設計に基づくものである。
本実施例の指向性可変アンテナの上記のような効果についてより明瞭にするために、本実施例の特徴を適用されない、即ち、放射器の同軸線路と接する下端部の直径が同軸線路の内導体と等しい指向性可変アンテナを図7に示す。図7において、(a)はそのような指向性可変アンテナの断面図であり、(b)は(a)の破線部を上から見た図である。
図7(a)の指向性可変アンテナは、同軸線路611と接する下端部の直径が同軸線路61の内導体611と等しく1.3mmである放射器72を有する点以外、図6(a)と同じように構成されている。このような構造では、同軸線路61とアンテナ素子(放射器72)との間の接合部での高次モードのカットオフ周波数は、同軸線路部のカットオフ周波数fc1=46.3GHzに等しい。
図8は、図6及び7の夫々の指向性可変アンテナについて指向性変化量の周波数依存性を表すグラフである。図8のグラフにおいて、縦軸が指向性変化量(dB)を、横軸が周波数(GHz)を夫々表しており、図6に示した本発明の第1の実施例としての指向性可変アンテナの特性を実線により、図7に示した指向性可変アンテナの特性を破線により夫々示す。
図8から明らかなように、本発明の第1の実施例である図6の指向性可変アンテナは、本発明の第1の実施例の特徴を適用されない図7の指向性可変アンテナと比較して、指向性変化量がピークとなる周波数が低周波側にシフトし、指向性変化量が広い帯域にわたって(主に低周波側において)増大していることが分かる。これは、上述したように、同軸線路とアンテナ素子との間の接合部での高次モードのカットオフ周波数が低下したことによる。
以上のように、同軸線路とアンテナ素子との間の接合部において同軸線路の内導体の直径を大きくすることにより、無指向性アンテナと同程度の大きさを維持しながら、高次モードのカットオフ周波数を低下させ、ひいては、指向性可変帯域が低周波側に拡大されるよう広い帯域にわたって指向性変化量を増大させることが可能である。
一方、同軸線路の高次モードのカットオフ周波数は、同軸線路の内導体の径のみならず、外導体の径及び内導体と外導体との間に充填された誘電体の誘電率によっても決定される。従って、これらの要素のうちの1又はそれ以上を変更することにより、カットオフ周波数を低下させることが可能である。
また、本発明者は、同軸線路の内導体と外導体との間に形成された短絡手段の幅や厚さを変えた場合の指向性変化量の変化に着目し、以下のような検討を行った。
ここで、短絡手段は、同軸線路内を伝播する電磁波の進行方向に垂直な面内に形成されており、短絡手段の幅とは、同軸線路内を伝播する電磁波の進行方向に垂直な面内における寸法のことであり、短絡手段の厚さとは、同軸線路内を伝播する電磁波の進行方向における寸法のことである。
[短絡手段の幅を変えた場合]
図9は、図4に示した従来の指向性可変アンテナにおいて短絡手段の幅を変えた場合の指向性変化量の周波数依存性を示しており、(a)は、図4(a)に示された破線部を上から見た図であり、様々な幅を有する短絡手段が例示され、(b)は、(a)に示したように短絡手段の幅を様々に変えた場合の指向性変化量の周波数依存性を表すグラフであり、縦軸が指向性変化量(dB)を、横軸が周波数(GHz)を夫々表す。
図9(a)には、A:短絡手段45が線状の場合(従来)、B:短絡手段45の全体の幅を0.6mmとした場合、C:同軸線路の内導体側の幅を0.6mmとした場合、及びD:同軸線路の外導体側の幅を0.6mmとした場合の4通りの構成が示されている。このとき、図9(b)のグラフから明らかなように、短絡手段45の全体に幅を持たせたることにより、短絡手段45が線状である場合よりも指向性変化量は増大することが分かる。また、同軸線路の内導体側又は外導体側のみに幅を持たせた場合でも、短絡手段45が線状である場合よりも指向性変化量は増大することが分かる。
また、図10は、図4に示した従来の指向性可変アンテナにおいて短絡手段の開き角度を変えて扇状に幅を変えた場合の指向性変化量の周波数依存性を示す。図10において、(a)は、図4(a)に示された破線部を上から見た図であり、扇状に様々な幅を有する短絡手段が例示され、(b)は、(a)に示したように短絡手段の幅を扇状に様々に変えた場合の指向性変化量の周波数依存性を表すグラフであり、縦軸が指向性変化量(dB)を、横軸が周波数(GHz)を夫々表す。
図10(a)には、短絡手段45の開き角度が0度、30度、60度及び90度である場合の4通りの構成が示されている。このとき、図10(b)のグラフから明らかなように、短絡手段45の幅を扇状に広げることにより指向性変化量が増大することが分かる。
[短絡手段の厚さを変えた場合]
また、図11は、本発明の指向性可変アンテナにおいて短絡手段が同軸線路側に所定の厚さを有する場合の指向性変化量の周波数依存性を示す。図11において、(a)は、同軸線路側に所定の厚さの短絡手段を有する本発明の指向性可変アンテナの構成例を表す断面図であり、(b)は、(a)に示したように同軸線路側で短絡手段の厚さを変えた場合の指向性変化量の周波数依存性を表すグラフであり、縦軸が指向性変化量(dB)を、横軸が周波数(GHz)を夫々表す。
また、図11(a)の指向性可変アンテナは、内導体1111及び外導体1112から成る給電用の同軸線路111と、回転体状の放射器112及び円板状の地板113から成り、給電のために同軸線路111の内導体1111に接合されたアンテナ素子とを有し、更に、同軸線路111の内導体1111と外導体1112とを接続するように形成され、所定の厚さtを有する短絡手段115を有する。このとき、図11(b)のグラフから明らかなように、短絡手段115の厚さを厚くすることにより(本例ではt=0.6mm)、指向性変化量が最大となるピーク周波数は高周波数側にシフトし、更に、指向性変化量の最大値はピーク周波数付近でのみ増大することが分かる。しかし、広い帯域にわたって指向性変化量を増大させる効果はない。
指向性変化量のピーク周波数は、同軸線路の内導体1111と外導体1112との間の短絡部で発生した高次モードが同軸線路内部で共振する際の共振器長と相関がある。留意すべきは、図11(b)のグラフに示されたピーク周波数の変化及びそれに伴う指向性変化量の変化は、短絡手段の厚さを同軸線路側に変化させたことにより同軸線路内部の共振器長が変化したことによるものであり、短絡手段を同軸線路側に厚くすることが特別な効果を有するわけではないことである。
一方、図12は、本発明の指向性可変アンテナにおいて短絡手段がアンテナ素子側に所定の厚さを有する場合の指向性変化量の周波数依存性を示す。図12において、(a)は、アンテナ素子側に所定の厚さの短絡手段を有する本発明の指向性可変アンテナの構成例を表す断面図であり、(b)は、(a)に示したようにアンテナ素子側で短絡手段の厚さを変えた場合の指向性変化量の周波数依存性を表すグラフであり、縦軸が指向性変化量(dB)を、横軸が周波数(GHz)を夫々表す。
図12(a)の指向性可変アンテナは、アンテナ素子(放射器112)側に所定の厚さtを有する短絡手段125を有する点以外、図11(a)に示した指向性可変アンテナと同じように構成されている。このとき、図12(b)のグラフから明らかなように、短絡手段125の厚さtを例えば0.6mm、1.2mm、2.4mmとアンテナ素子側に厚くすることにより広い帯域にわたって指向性変化量が増大することが分かる。
また、図13は、本発明の指向性可変アンテナにおいて同軸線路の内導体側の短絡手段の一部がアンテナ素子側に所定の厚さを有する場合の指向性変化量の周波数依存性を示す。図13において、(a)は、同軸線路の内導体側の短絡手段の一部がアンテナ素子側に所定の厚さを有する本発明の指向性可変アンテナの構成例を表す断面図であり、(b)は、(a)に示したように同軸線路の内導体側の短絡手段の一部の厚さがアンテナ素子側で変えられた場合の指向性変化量の周波数依存性を表すグラフであり、縦軸が指向性変化量(dB)を、横軸が周波数(GHz)を夫々表す。
図13(a)の指向性可変アンテナは、同軸線路の内導体側の一部においてアンテナ素子(放射器112)側に所定の厚さtを有する短絡手段135を有する点以外は、図11(a)と同じように構成されている。このとき、図13(b)のグラフから明らかなように、図12の指向性可変アンテナのように短絡手段全体ではなく短絡手段の一部のみを厚くすることによっても(本例ではt=0.6mm)広い帯域にわたって指向性変化量を増大させる効果があることが分かる。
以上のように、同軸線路の内導体と外導体との間を短絡するよう形成された短絡手段の幅を広くすること及び/又はその厚さをアンテナ素子側に厚くすることにより、広い帯域にわたって指向性変化量を増大させる効果があることが明らかとなった。
図14は、本発明の指向性可変アンテナの第2の実施例を示しており、(a)はその断面図であり、(b)は(a)の破線部を上から見た図である。
図14(a)の指向性可変アンテナは、共通の内導体1411と異なる内径を有する外導体1412及び1414とから成る第1及び第2の同軸線路141a及び141bを有する給電用の同軸線路と、回転体形状の放射器142及び円板状の地板143から成り、給電のために第2の同軸線路141bの内導体1411に接合されたアンテナ素子と、この指向性可変アンテナの指向性を切り替える指向性切替え手段とを有する。指向性切替え手段は、第2の同軸線路141bと放射器142との接合部に設けられており、第2の同軸線路141bの内導体1411と外導体1414とを4方向で接続するように形成された短絡手段145と、短絡手段145の途中に設けられた切替え手段144とを有する。
切替え手段144は、PINダイオードを用いたスイッチであり、オン及びオフすることにより第2の同軸線路141bの内導体1411と外導体1414とを短絡手段145を介して電気的に短絡させる機能を有する。短絡手段145は、所定の厚さ、本実施例では1.2mmを有し、一方、その幅は無視することができる。
ここで、本実施例の指向性可変アンテナにおいて、第1の同軸線路141aの内導体1411の直径及び外導体1412の内径は、夫々、1.3mm及び2.9mmであり、内導体1411と外導体1412との間に充填される誘電体1413は空気(比誘電率1.0)である。また、第2の同軸線路141bの内導体は、第1の同軸線路141aの内導体1411と共通であり、その直径は1.3mmである。一方、その外導体1414の内径は4.2mmであり、第1の同軸線路141aの外導体1412の内径2.9mmよりも大きくなっている。更に、第2の同軸線路141bの内導体1411と外導体1414との間に充填される誘電体1415は、空気ではなくテフロン(登録商標)(比誘電率2.0)である。また、本実施例では、放射器142の第2の同軸線路141bと接する下端部の直径は、第2の同軸線路141bの内導体1411の直径と等しく1.3mmであるが、同軸線路と放射素子との接合部での内導体1411の直径を大きくするよう内導体の実際の直径よりも大きくされても良い。なお、上記のような各構成要素の寸法に関する具体的な数値及びその形状等の種々のパラメータは、最適化設計に基づくものである。
本実施例の指向性可変アンテナの効果について説明するために、本実施例の特徴を適用されない、即ち、短絡手段が線状であってその厚み及び幅を無視することができる指向性可変アンテナを図15に示す。図15において、(a)はそのような指向性可変アンテナの断面図であり、(b)は(a)の破線部を上から見た図である。
図15(a)の指向性可変アンテナは、第2の同軸線路141bの内導体1411と外導体1414との間を短絡するよう形成された線状の短絡手段155を有する点以外、図14(a)と同じように構成されている。
図16は、図14及び15の夫々の指向性可変アンテナについて指向性変化量の周波数依存性を表すグラフである。図16のグラフにおいて、縦軸が指向性変化量(dB)を、横軸が周波数(GHz)を夫々表しており、図15に示した本発明の第2の実施例としての指向性可変アンテナの特性を実線により、図16に示した指向性可変アンテナの特性を破線により夫々示す。
図16から明らかなように、本発明の第2の実施例である図14の指向性可変アンテナは、本発明の第2の実施例の特徴を適用されない図15の指向性可変アンテナと比較して、指向性変化量が最大となるピーク周波数は同じであるが、広い帯域にわたって指向性変化量が1〜2dB程度増大していることが分かる。
以上のように、同軸線路の内導体と外導体とを短絡するよう形成された短絡手段の厚さをアンテナ素子側に厚くすることにより、無指向性アンテナと同程度の大きさを維持しながら、広い帯域にわたって指向性変化量を増大させることが可能である。
図17は、本発明の指向性可変アンテナの第3の実施例を示し、(a)はその断面図であり、(b)は(a)の破線部を上から見た図である。
図17(a)の指向性可変アンテナは、共通の内導体1711と異なる内径を有する外導体1712及び1714とから成る第1及び第2の同軸線路171a及び171bを有する同軸線路と、回転体形状の放射器172及び地板173から成り、給電のために第2の同軸線路171bの内導体1711に接合された無指向性のアンテナ素子と、この指向性可変アンテナの指向性を切り替える指向性切替え手段とを有する。指向性切替え手段は、第2の同軸線路171bと放射器172との接合部に設けられており、第2の同軸線路171bの内導体1711と外導体1714とを4方向で接続するように形成された短絡手段175と、短絡手段175の途中に設けられた切替え手段174とを有する。
切替え手段174は、PINダイオードを用いたスイッチであり、オン及びオフすることにより第2の同軸線路171bの内導体1711と外導体1714とを短絡手段175を介して電気的に短絡する機能を有する。短絡手段175は線状であり、その幅及び厚さは無視することができる。
ここで、本実施例の指向性可変アンテナにおいて、第1の同軸線路171aの内導体1711の直径及び外導体1712の内径は、夫々、1.3mm及び2.9mmであり、内導体1711と外導体1712との間に充填される誘電体1713は空気(比誘電率1.0)である。また、第2の同軸線路171bの内導体は、第1の同軸線路171aの内導体1711と共通であり、その直径は1.3mmである。一方、その外導体1714の内径は4.2mmであり、第1の同軸線路171aの外導体1712の内径2.9mmよりも大きくなっている。更に、第2の同軸線路171bの内導体1711と外導体1714との間に充填される誘電体1715は、空気ではなくテフロン(登録商標)(比誘電率2.0)である。また、本実施例では、放射器172の第2の同軸線路171bと接する下端部の直径は、第2の同軸線路171bの内導体1711の直径と等しく1.3mmである。なお、上記のような各構成要素の寸法に関する具体的な数値及びその形状等の種々のパラメータは、最適化設計に基づくものである。
また、本実施例の指向性可変アンテナは、第2の同軸線路171bと放射器172との接合部に接する第2の同軸線路171bの端部において、第2の同軸線路171bの内導体1711の外周に接するように設けられた円環状の導体176を更に有する。これにより、図17(b)から明らかなように、同軸線路とアンテナ素子との接合部において第2の同軸線路171bの内導体1711の直径が大きくなり、高次モードのカットオフ周波数を低下させることが可能である。具体的には、高次モードにおいて主要なTE11モードのカットオフ周波数は、第2の同軸線路171bではfc1=25.2GHzであるのに対し、接合部ではfc2=20.7GHzまで低下する。
以上のように、同軸線路とアンテナ素子との間の接合部において同軸線路の内導体の直径を大きくすることにより、無指向性アンテナと同程度の大きさを維持しながら、高次モードのカットオフ周波数を低下させ、ひいては、指向性可変帯域が低周波側に拡大されるよう広い帯域にわたって指向性変化量を増大させることが可能である。
更に、本実施例の指向性可変アンテナは、放射器172の周囲に第2の同軸線路171bの端部に接するように形成された誘電体部材177を有する。誘電体部材177は、液晶ポリマーから作られ、その比誘電率は3.0である。このような構造にすることにより、第2の同軸線路171bの内導体1711と外導体1714とが短絡手段175により短絡された場合に、その短絡部上部への高次モード輻射比率を向上させ、広い帯域にわたって指向性変化量を増大させることが可能となる。
図18は、図17の指向性可変アンテナの指向性変化量の周波数依存性を表すグラフである。図18のグラフにおいて、縦軸が指向性変化量(dB)を、横軸が周波数(GHz)を夫々表しており、図17のように円環状の導体176及び誘電体部材177が共に設けられた指向性可変アンテナの特性を実線により、一方、円環状の導体176のみが設けられた指向性可変アンテナの特性を破線により夫々示す。
図18から明らかなように、誘電体部材177を有する指向性可変アンテナの方が、それを有さない指向性可変アンテナに比べ、約29GHz以下の周波数で広い帯域にわたって指向性変化量が増大していることが分かる。また、指向性変化量が8dB以上となる帯域幅に注目すると、誘電体部材177を有さない指向性可変アンテナの比帯域は22.2%であるのに対し、誘電体部材177を有する指向性可変アンテナの比帯域は41.2%と帯域幅が大幅に拡大されていることが分かる。ここで、比帯域とは、指向性変化量が8dB以上となる帯域の中心周波数CFに対するその帯域の幅BWの割合を表す。
以上のように、アンテナ素子の周囲に同軸線路の端部に接するように誘電体部材を装荷することにより、無指向性アンテナと同程度の大きさを維持しながら、より広い帯域にわたって指向性変化量を増大させることが可能である。
図19は、本発明の指向性可変アンテナの第4の実施例を示し、(a)はその断面図であり、(b)は(a)の破線部を上から見た図である。
図19(a)の指向性可変アンテナは、共通の内導体1911と異なる内径を有する外導体1912及び1914とから成る第1及び第2の同軸線路191a及び191bを有する同軸線路と、回転体形状の放射器192及び円板状の地板193から成り、給電のために第2の同軸線路191bの内導体1911に接合された無指向性のアンテナ素子と、この指向性可変アンテナの指向性を切り替える指向性切替え手段とを有する。指向性切替え手段は、第2の同軸線路191bと放射器192との接合部に設けられており、第2の同軸線路191bの内導体1911と外導体1914とを4方向で接続するように形成された短絡手段195と、短絡手段195の途中に設けられた切替え手段194とを有する。
切替え手段194は、PINダイオードを用いたスイッチであり、オン及びオフすることにより第2の同軸線路191bの内導体1911と外導体1914とを短絡手段195を介して電気的に短絡する機能を有する。短絡手段195は、所定の幅、本実施例では0.6mmを有し、一方、その厚さは無視することができる。
ここで、本実施例の指向性可変アンテナにおいて、第1の同軸線路191aの内導体1911の直径及び外導体1912の内径は、夫々、1.3mm及び2.9mmであり、内導体1911と外導体1912との間に充填される誘電体1913は空気(比誘電率1.0)である。また、第2の同軸線路191bの内導体は、第1の同軸線路191aの内導体1911と共通であり、その直径は1.3mmである。一方、その外導体1914の内径は4.2mmであり、第1の同軸線路191aの外導体1912の内径2.9mmよりも大きくなっている。更に、第2の同軸線路191bの内導体1911と外導体1914との間に充填される誘電体1915は、空気ではなくテフロン(登録商標)(比誘電率2.0)である。また、本実施例では、放射器192の第2の同軸線路191bと接する下端部の直径は、第2の同軸線路191bの内導体1911の直径と等しく1.3mmである。なお、上記のような各構成要素の寸法に関する具体的な数値及びその形状等の種々のパラメータは、最適化設計に基づくものである。
また、本実施例の指向性可変アンテナは、第2の同軸線路191bと放射器192との接合部に接する第2の同軸線路191bの端部において、第2の同軸線路191bの内導体1911の外周に接するように設けられた円環状の導体196と、第2の同軸線路191bの外導体1914の内周に接するように設けられた厚さ0.3mmの円環状の導体198とを有する。これにより、図19(b)から明らかなように、同軸線路とアンテナ素子との接合部において、第2の同軸線路191bの内導体1911の直径は大きくなり、一方、第2の同軸線路191bの外導体1914の内径は小さくなり、結果として、高次モードのカットオフ周波数を低下させることが可能である。具体的には、高次モードにおいて主要なTE11モードのカットオフ周波数は、第2の同軸線路191bではfc1=25.2GHzであるのに対し、接合部ではfc2=18.5GHzまで低下する。
以上のように、同軸線路とアンテナ素子との接合部において同軸線路の内導体の直径は大きく、一方、外導体の内径は小さくすることにより、無指向性アンテナと同程度の大きさを維持しながら、高次モードのカットオフ周波数を低下させ、ひいては、指向性可変帯域が低周波側に拡大されるよう広い帯域にわたって指向性変化量を増大させることが可能である。
更に、本実施例の指向性可変アンテナは、放射器192の周囲に第2の同軸線路191bの端部に接するように形成された円錐台状の第1の誘電体部材197を有する。第1の誘電体部材197を円錐台状にすることは最適化設計に基づき、これにより広帯域にわたって指向性変化量を増大させることができる。また、第1の誘電体部材197は、液晶ポリマーから作られ、その比誘電率は3.0である。このような構造にすることにより、第2の同軸線路191bの内導体1911と外導体1914とが短絡手段195により短絡された場合に、その短絡部の上部への高次モード輻射比率を向上させ、指向性変化量を増大させることが可能となる。
更に、本実施例の指向性可変アンテナは、第2の同軸線路191bとアンテナ素子との接合部に接する第2の同軸線路191bの端部において、第1の誘電体部材177と同じ誘電率を有する同じ第2の誘電体199(比誘電率3.0の液晶ポリマー)を有する。本実施例では、図19(a)に示されるように、第2の誘電体199は、第2の同軸線路191bの外導体1914の内周に接するよう設けられた円環状の導体198の内側に設けられている。このような構造にすることにより、第2の同軸線路191bとアンテナ素子との接合部の前後での誘電率の変化がなくなり、同軸線路により伝播される電磁波の反射損失を低減することが可能となる。
以下、図4に示した従来の指向性可変アンテナを比較対象として、本実施例の指向性可変アンテナの効果について説明する。
図20は、図4及び19の夫々の指向性可変アンテナについて指向性変化量の周波数依存性を表すグラフである。図20のグラフにおいて、縦軸が指向性変化量(dB)を、横軸が周波数(GHz)を夫々表しており、図19に示した本発明の第4の実施例としての指向性可変アンテナの特性を実線により、図4に示した従来の指向性可変アンテナの特性を破線により夫々示す。
図20から明らかなように、本実施例の指向性可変アンテナは、従来の指向性可変アンテナと比較して、指向性変化量の最大値が増大すると共に、広い帯域にわたって指向性変化量が増大していることが分かる。
以上のように、同軸線路とアンテナ素子との接合部において同軸線路の内導体の直径及び外導体の内径を夫々変化させ、アンテナ素子の周囲に同軸線路の端部に接するように誘電体部材を設け、更に、同軸線路とアンテナ素子との接合部の前後での誘電率の変化をなくすことにより、無指向性アンテナと同程度の大きさを維持しながら、高次モードのカットオフ周波数を低下させ、ひいては、指向性可変帯域が低周波側に拡大されるよう広い帯域にわたって指向性変化量を増大させることが可能である。
図21は、本発明の指向性可変アンテナの第5の実施例を示し、(a)はその断面図であり、(b)は(a)の破線部を上から見た図である。
図21(a)の指向性可変アンテナは、共通の内導体2111と異なる内径を有する外導体2112及び2114とから成る第1及び第2の同軸線路211a及び211bを有する同軸線路と、給電のために第2の同軸線路211bの内導体2111に接合された無指向性の第1のアンテナ素子212と、接地されるよう第1及び第2の同軸線路211a及び211bの外周に設けられた無指向性の第2のアンテナ素子213と、この指向性可変アンテナの指向性を切り替える指向性切替え手段とを有する。第2のアンテナ素子213は、第1の同軸線路211aの外導体2112及び第2の同軸線路211bの外導体2114に接しており、これにより給電され得る。
第1のアンテナ素子212は、このアンテナ素子212の側面と中心軸とのなす角度が、第2の同軸線路211b、即ち、第2のアンテナ素子213に接合されたアンテナ素子212の頂部から底部に向けてθ1=37°からθ2=83°へと変化するよう構成される。なお、θ2>θ1の関係を有する。同様に、第2のアンテナ素子213は、このアンテナ素子213の側面と中心軸とのなす角度が、第1のアンテナ素子212に接合されたアンテナ素子213の頂部から底部に向けてθ1′=20°からθ2′=36°へと変化するよう構成される。なお、θ2′>θ1′の関係を有する。これらの角度は、本発明者が行った最適化設計に基づくものであり、このような角度の関係が存在する場合に広帯域に亘って指向性変量を増大させることが可能である。
指向性切替え手段は、第1のアンテナ素子212と第2のアンテナ素子213との接合部に設けられており、第2の同軸線路211bの内導体2111と外導体2114とを4方向で接続するように形成された短絡手段215と、短絡手段215の途中に設けられた切替え手段214とを有する。
切替え手段214は、PINダイオードを用いたスイッチであり、オン及びオフすることにより第2の同軸線路211bの内導体2111と外導体2114とを短絡手段215を介して電気的に短絡する機能を有する。短絡手段215は、本実施例では開き角60°で扇状に広がった形状を有する。
ここで、本実施例の指向性可変アンテナにおいて、第1の同軸線路211aの内導体2111の直径及び外導体2112の内径は、夫々、1.3mm及び2.9mmであり、内導体2111と外導体2112との間に充填される誘電体2113は空気(比誘電率1.0)である。また、第2の同軸線路211bの内導体は、第1の同軸線路211aの内導体2111と共通であり、その直径は1.3mmである。一方、その外導体2114の内径は6.0mmであり、第1の同軸線路211aの外導体2112の内径2.9mmよりも大きくなっている。更に、第2の同軸線路211bの内導体2111と外導体2114との間に充填される誘電体2115は、空気ではなくテフロン(登録商標)(比誘電率2.0)である。また、本実施例では、第1のアンテナ素子212の第2の同軸線路211bと接する下端部の直径は、第2の同軸線路211bの内導体2111の直径と等しく1.3mmである。なお、上記のような各構成要素の寸法に関する具体的な数値及びその形状等の種々のパラメータは、やはり最適化設計に基づくものである。
また、本実施例の指向性可変アンテナは、第2の同軸線路211bと第1のアンテナ素子212との接合部に接する第2の同軸線路211bの端部において、第2の同軸線路211bの内導体2111の外周に接するように設けられた円環状の導体216と、第2の同軸線路211bの外導体2114の内周に接するように設けられた厚さ0.3mmの円環状の導体218とを有する。これにより、図21(b)から明らかなように、同軸線路とアンテナ素子との接合部において、第2の同軸線路211bの内導体2111の直径は大きくなり、一方、第2の同軸線路211bの外導体2114の内径は小さくなり、結果として、高次モードのカットオフ周波数を低下させることが可能である。具体的には、高次モードにおいて主要なTE11モードのカットオフ周波数は、第2の同軸線路211bではfc1=19.0GHzであるのに対し、接合部ではfc2=18.5GHzまで低下する。
以上のように、同軸線路とアンテナ素子との接合部において同軸線路の内導体の直径は大きく、一方、外導体の内径は小さくすることにより、無指向性アンテナと同程度の大きさを維持しながら、高次モードのカットオフ周波数を低下させ、ひいては、指向性可変帯域が低周波側に拡大されるよう広い帯域にわたって指向性変化量を増大させることが可能である。
更に、本実施例の指向性可変アンテナは、第1のアンテナ素子212の周囲に第2の同軸線路211bの端部に接するように形成された円錐台状の誘電体部材217を有する。誘電体部材217を円錐台状にすることは最適化設計に基づき、これにより広帯域にわたって指向性変化量を増大させることができる。また、誘電体部材217は、液晶ポリマーから作られ、その比誘電率は4.0である。このような構造にすることにより、第2の同軸線路211bの内導体2111と外導体2114とが短絡手段215により短絡された場合に、その短絡部の上部への高次モード輻射比率を向上させ、指向性変化量を増大させることが可能となる。
以下、図4に示した従来の指向性可変アンテナを比較対象として、本実施例の指向性可変アンテナの効果について説明する。
図22は、図4及び21の夫々の指向性可変アンテナについて指向性変化量の周波数依存性を表すグラフである。図22のグラフにおいて、縦軸が指向性変化量(dB)を、横軸が周波数(GHz)を夫々表しており、図21に示した本発明の第5の実施例としての指向性可変アンテナの特性を実線により、図4に示した従来の指向性可変アンテナの特性を破線により夫々示す。
図22から明らかなように、本実施例の指向性可変アンテナは、従来の指向性可変アンテナと比較して、指向性変化量の最大値が増大すると共に、広い帯域にわたって指向性変化量が増大していることが分かる。
以上のように、同軸線路とアンテナ素子との接合部において同軸線路の内導体の直径及び外導体の内径を夫々変化させ、アンテナ素子の周囲に同軸線路の端部に接するように円錐台状の誘電体部材を設け、更に、アンテナ素子の側面と中心軸とのなす角度がアンテナ素子頂部から底部に向けて第1の角度(θ1)から第1の角度よりも大きい第2の角度(θ2)へと変化させるよう設計することにより、無指向性アンテナと同程度の大きさを維持しながら、高次モードのカットオフ周波数を低下させ、ひいては、指向性可変帯域が低周波側に拡大されるよう広い帯域にわたって指向性変化量を増大させることが可能である。
図23は、上記実施例1〜5で説明したような本発明の指向性可変アンテナを備える情報機器の一例を示す図である。
図23の情報機器200は、持ち運び可能なノート型パーソナルコンピュータ(PC)であり、指向性アンテナ310を有する無線装置300が機器200のいずれかの場所に設けられたスロット210に挿入されている。また、情報機器200は、例えば、デスクトップ型PC並びにパーソナルデジタルアシスタント(PDA)及び携帯電話など移動体通信機器といった情報機器であっても良く、無線装置300及び指向性可変アンテナ310は、情報機器200に組み込まれても良い。
情報機器200は、無線装置300により無線でインターネット及びイントラネットなどのネットワークへ接続され、同様にネットワークへ接続された他の機器との間で情報の送受信をおこなうことができる。あるいは、情報機器200は、ネットワークを介さずに直接的に他の機器と情報の送受信をおこなっても良い。他の機器との間で送受信される情報は、無線装置300に設けられた指向性アンテナ310により電磁波信号の形で送受信される。
本発明の指向性アンテナ310は、その指向性可変帯域が広帯域にわたるので、広帯域無線通信システムで使用可能であり、更に、非常に広い帯域での周波数ホッピングが要求されるようなシステムにおいて、使用される夫々の周波数での通信品質を維持することができる点で有利である。
[変形例]
以上、アンテナ素子と同軸線路との接合部にスイッチを含む指向性切替え手段を設けた指向性可変アンテナについて実施例を示してきた。しかし、本発明は、スイッチを含む指向性切替え手段を設けた場合にのみ適用されるものではなく、例えば、スイッチを含まない短絡手段によって指向性が一方向に固定されたアンテナに適用した場合でも同様の効果を奏することができる。
また、ポール状の放射器を地板面に対して垂直に配置したディスクモノポールアンテナのように、放射器の形状が回転対称でないことにより完全な無指向性ではない場合があっても、本発明を適用することによって本発明を適用していない状態に対して指向性を変化させることが可能であり、本発明を適用することで広い帯域で指向性変化量を増大させることができる。
また、上記実施例に挙げた形状、その他の要素との組合せなど、ここで示した要件に本発明が限定されるものではない。これらの点に関しては、本発明の主旨を損なわない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
特開平6−350334号に開示されたアンテナの構成図である。
特開平10−154911号に開示されたアンテナの構成図である。
特開2001−24431号に開示されたアンテナの構成図である。
(a)は特開2004−304785号に開示された発明に基づく指向性可変アンテナの一例を示す断面図であり、(b)は(a)の破線部を上から見た図である。
図4の指向性可変アンテナにおいていずれか1つのスイッチをオンした場合の指向性変化量の周波数依存性を表すグラフである。
(a)は本発明の指向性可変アンテナの第1の実施例を表す断面図であり、(b)は(a)の破線部を上から見た図である。
(a)は本発明の第1の実施例の特徴を適用されない指向性可変アンテナの断面図であり、(b)は(a)の破線部を上から見た図である。
図6及び7の夫々の指向性可変アンテナについて指向性変化量の周波数依存性を表すグラフである。
(a)は様々な幅の短絡手段を有する図4(a)の指向性可変アンテナの破線部を上から見た図であり(b)は短絡手段の幅を様々に変えた場合の指向性変化量の周波数依存性を表すグラフである。
(a)は扇状に様々な幅の短絡手段を有する図4(a)の指向性可変アンテナの破線部を上から見た図であり、(b)は短絡手段の幅を扇状に様々に変えた場合の指向性変化量の周波数依存性を表すグラフである。
(a)は同軸線路側に所定の厚さの短絡手段を有する本発明の指向性可変アンテナの構成例を表す断面図であり、(b)は同軸線路側で短絡手段の厚さを変えた場合の指向性変化量の周波数依存性を表すグラフである。
(a)はアンテナ素子側に所定の厚さの短絡手段を有する本発明の指向性可変アンテナの構成例を表す断面図であり、(b)はアンテナ素子側で短絡手段の厚さを変えた場合の指向性変化量の周波数依存性を表すグラフである。
(a)は同軸線路の内導体側の短絡手段の一部がアンテナ素子側で所定の厚さを有する本発明の指向性可変アンテナの構成例を表す断面図であり、(b)は同軸線路の内導体側の短絡手段の一部の厚さがアンテナ素子側で変えられた場合の指向性変化量の周波数依存性を表すグラフである。
(a)は本発明の指向性可変アンテナの第2の実施例を表す断面図であり、(b)は(a)の破線部を上から見た図である。
(a)は本発明の第2の実施例の特徴を適用されない指向性可変アンテナの断面図であり、(b)は(a)の破線部を上から見た図である。
図14及び15の夫々の指向性可変アンテナについて指向性変化量の周波数依存性を表すグラフである。
(a)は本発明の指向性可変アンテナの第3の実施例を表す断面図であり、(b)は(a)の破線部を上から見た図である。
図17の指向性可変アンテナの指向性変化量の周波数依存性を表すグラフである。
(a)は本発明の指向性可変アンテナの第4の実施例を表す断面図であり、(b)は(a)の破線部を上から見た図である。
図19の指向性可変アンテナの指向性変化量の周波数依存性を表すグラフである。
(a)は本発明の指向性可変アンテナの第5の実施例を表す断面図であり、(b)は(a)の破線部を上から見た図である。
図21の指向性可変アンテナの指向性変化量の周波数依存性を表すグラフである。
本発明の指向性可変アンテナを備える情報機器の一例を示す図である。
符号の説明
61,141a,141b,171a,171b,191a,191b,211a,211b 同軸線路
611,1411,1711,1911,2111 内導体
612,1412,1414,1712,1714,1912,1914,2112,2114 外導体
62,142,172,192,212 放射器(第1のアンテナ素子)
63,143,173,193,213 地板(第2のアンテナ素子)
64,144,174,194,214 切替え手段
65,145,175,195,215 短絡手段
1413,1713,1913,2113 空気
1415,1715,1915,2115 テフロン(登録商標)
176,196,198,216,218 円環状の導体
177,197,217 誘電体部材
200 情報機器
210 スロット
300 無線装置
310 指向性可変アンテナ