従来から、空気の流れを誘引し、その気流の流れを用いた送風装置が各種分野で用いられているが、この送風装置は、ほとんどの場合において、ファンを用いたものである。送風装置の大きさとしても、多岐にわたっているが、特に、近年においては、半導体デバイスや液晶ディスプレイパネルやプラズマディスプレイパネルといった表示装置の製造プロセスの超微細化が急ピッチで進んでいることや、ナノテクノロジー分野の研究開発が進展したこともあって、局所への送風を実現する送風装置のニーズが高まっている。
局所的な送風が可能な送風装置というのは、直径10mm程度、さらに言えば直径1mm以下の局所の領域にのみ送風を行える精密な送風装置である。したがって、一般家庭で用いられるような、空調機器や換気機器に用いる送風装置とは用途が異なる。
このような状況において、現在に用いられている局所的な送風が可能な送風装置としては、電気エネルギを機械的に送風エネルギに変換するため、プロペラファンやシロッコファンを電気モータで駆動する機構が採られている。図1に、このようなファンとモータを組み合わせた局所的な送風が可能な従来の送風装置の概略を示す。
送風ファン1を装着する筐体2は、細長い形態とされ、中空構造となっている。筐体2の内部に、送風ファン1が取り付けられている。送風ファン1を駆動するための電源も合わせて備えている。筐体2は、両端が開口して送風路を形成する。筐体2は、直線状である必要はなく、使用目的に応じて図1に示すように屈曲した形状でもよい。また、筐体2の断面形状は、特に限定されるものではなく、円、楕円、角形等の任意の形状とされる。風が吹出口である筐体2の先端は、例えばノズル形状とされ、局所的に送風することができる。なお、筐体の長さや外径は任意に設定可能とされる。
このような従来の送風装置において、駆動電源が動作し、送風ファン1を駆動することにより、筐体2の内部に空気の流れが生じる。そして、筐体2の狭まった先端から風が吹き出して、局所的な送風を実現できる。
ところで、図1に示す送風装置には、多くの課題が存在している。その最大の課題としては、筐体の外径に関するものである。この課題について詳述する。すなわち、送風を発生させるための送風発生源である送風ファンが大きいため、筐体の最大外径は送風ファンの大きさに規定される。送風ファンを使用する限り、大きさに制限が存在するという物理的な課題を抱えている。例えば、一般的に小型ファンである軸流型ファンであっても、縦15mm×横15mm×高さ5mmといった大きさを有している。このような送風ファンを中空の筐体に内装するとき、送風方向を筐体の軸線方向に向ける必要があるため、15mm角の領域が必要となる。
例えば筐体の外径が5mmと細い形状の場合、内装された送風ファン自体の大きさによって、筐体の最大外径を15mmよりも小さくすることは物理的に不可能となる。そのため、送風ファンを装着する箇所だけが膨らんだ形状となってしまう。一部分が膨らんだ箇所があることにより、この送風装置の使い勝手は著しく低下する。すなわち、大きさが15mm×15mm×5mmの小型ファンを筐体に内装した場合、風は、基本的に15mm×15mmの領域に発生する。発生した風が筐体内部を流れるとき、5mmの領域に絞り込まれる。筐体内の断面積が急激に小さくなるので、筐体の内壁に衝突する気流の割合が多くなり、乱流の発生や風の流れによる音の発生といった事象が生じる。つまり、このように送風ファンの部分だけが大きくなった形状においては、エネルギのロスが大きい。電気エネルギを送風ファンの回転エネルギに変換し、かつ空気の送風エネルギに変換する過程において、これらのロスの発生により、消費電力が大きくなるという問題が生じる。15mm×15mmの形状を有する小型プロペラファンにおいては、定格動作条件としては5.0Vの直流電圧で電流が40mAであるため、消費電力は0.2Wであった。また、筐体内での乱流の発生により、局所的に送風するために、風速や風量の微調整が必要となり、送風ファンの制御が複雑になるという問題も生じる。
筐体の中間部分に送風ファンを内装することにより、筐体の一部が膨らんだ形状となる。そこで、これを回避するため、図2に示すように、送風ファンを筐体の上流側、例えば吸込口の近傍に装着する。しかし、送風ファンから小径の筐体に風が流れるため、依然として圧力損失が生じる。特に、筐体が曲がりくねった形状の場合、送風路が長くなって、圧力損失の度合いが大きくなる。そのため、送風ファンの送風能力を超過してしまうことがある。したがって、必要な風量を確保するためには、より大きな送風ファンにする必要がある。
局所的な送風を必要とする用途として、医療機器があげられる。人体や動物の内部を外科的手法を用いることなく観察するために、内視鏡システムが医療現場で用いられている。例えば胃カメラは、胃の内部粘膜を観察するとともに、撮影のために用いられる。胃カメラは、別名ボアスコープともいい、中空タイプの金属管の内部に反射鏡を設置し、患部を投影して観察するものである。
電子情報機器が発達する以前の胃カメラでは、まっすぐな管状の中空管の両端にレンズや鏡を取り付け、これらにより光を集める、もしくは反射屈折させることにより、胃の内部を撮影する。したがって、中空管となる筐体の外径は最低でも12mmは必要であった。このような太い筐体を有する内視鏡を用いる場合、人体(患者)への負担が大きく、かなりのダメージを与える。
技術開発の進展により、柔軟性の高いグラスファイバによって、自由に光束を屈曲させて体外に導くことが可能となった。その結果、技師の操作も容易となり、胃や食道といった器官への損傷リスクも小さくなった。さらに、筐体の外径が9mm程度にまで小さくでき、人体(患者)への負担は大きく減少している。また、カメラとして、CCDカメラを用いることにより、使い勝手が向上している。
内視鏡は、単に内部の様子を観察するための光学的部材だけではなく、光学系以外の別の部材を有している。直接治療することを目的として、薬液や気体を注入するための部材である。内視鏡では、気流を発生させるため、軸流型の送風ファンが用いられている。その結果、少なくとも15mmの内径が必要となる。胃カメラの標準的な最大直径が9mmであることを考えると、筐体の中間部分に送風ファンを設置することは不可能である。さらに具体的に詳述すると、人体の食道の直径は、固形の食物を飲み込まない場合は通常12mm程度である。この状態で食道の内壁を刺激しないように、内視鏡を挿入することが必要となる。
現状においては、さらに患者への負担を軽減するため、直径6mm以下の胃カメラ(カテーテル部分を含む。胃カメラのみでは3mm相当)が主流となりつつある。今後も技術開発により、さらに細い径を要求される傾向が高くなる。また、径を細くすると、入射光量が減少し、胃カメラのレンズの汚れによる遮光が画像の低下に直結する。観察機能(病巣の視認性や治療精度確認)の低下を引き起こす。そのため、汚れ除去は必須の要件となり、送風装置が用いられる。充分な送風性能を得るために、送風ファンは相応の大きさとなり、しかも高消費電力になるという問題が生じる。すなわち、筐体を細くすることが要求されるが、そのためには、汚れ除去能力の度合いを高める必要があり、一方で送風ファンを小さくするといった、相矛盾する問題が発生する。
以上のことから、局所への送風性能を発揮できる新しい送風装置が望まれている。また、中空の筐体の外径を3mm程度とするためには、送風装置の大きさを3mm以下としなければならない。
局所的な送風が可能な送風装置の他の用途として、医療現場や精密部品製造現場での使用がある。電子技術を用いた顕微鏡等では、局所的な送風が要求される。例えば、微生物や菌類を顕微鏡で観察する場合、クリーンルームで観察を行ったとしても、空気中の塵埃等が観察すべきサンプルに付着するということがあった。医療分野では、電子顕微鏡といった光学機器が広く用いられているが、顕微鏡が例えば1000倍といった高倍率であるとき、観察目的とする箇所に塵埃が付着することがよくある。このような状況において、局所的に送風できる送風装置を用いて、塵埃を除去する作業が必要となる。この際に、通常の送風装置を使うと、塵埃の巻き上げ等により観察すべきサンプルを損傷してしまうおそれがある。このような状況では、特に風速や風量を微調整できる送風装置が要求される。この事例においては、従来の送風ファンを用いた場合、筐体の膨らみよりも、むしろ例えば1mm×1mmといった局所的な領域に集中して送風することが要求される。すなわち、従来の送風装置では、筐体が縮径した構造や、送風ファンの回転現象により、渦流や乱流が発生するため、精密な送風の制御が困難となる。したがって、サンプルを観察する顕微鏡に、従来の送風装置を用いた場合、送風の制御が難しく、サンプルに付着した塵埃を効率よく除去できないことがある。
同様に、半導体デバイスやディスプレイパネルといった精密部品の製造工程では、製品の歩留まりを高め、不良発生率を低減するために、クリーン環境が不可欠である。細心の注意を払っても、微細な塵埃がデバイスや基板表面に付着するといった現象が発生する。したがって、塵埃を基板上から取り除く工程が必要となる。塵埃を除去する際に、局所的な送風ができる送風装置ではない通常の送風装置を使うと、逆に塵埃を巻上げるといった現象により、逆に塵埃の付着量が増加してしまう。単に強い送風を発生させて、塵埃を吹き飛ばすというだけでは、むしろ周囲に存在する沈着している塵埃を巻き上げてしまったり、あるいは吹き飛ばした塵埃を別の場所に移動するだけとなる。これでは、不良発生の度合いを抑制するといった効果は得られない。そのため、風速や風量を精密に制御した送風を実施することが要求される。
また、医療現場や精密部品製造現場で用いる場合、応答時間の短い局所への送風が要求される。すなわち、送風装置は、サンプル等に付着した塵埃を随時除去するといった目的で用いられるため、連続で作動する必要はない。したがって、必要なときにすぐに作動して、安定した局所的な送風を実現できることが要求される。
しかし、従来の送風ファンを用いた送風装置では、電気エネルギをファンの回転を通じて送風エネルギに変換している。電気エネルギを供給したとしても、ファンが安定して回転し、それによって安定した送風エネルギを得るまでには、一般的に2〜3秒程度を要する。医療現場や精密部品現場では、2〜3秒の時間は極めて長時間に該当する。具体的には、電気エネルギ入力後、1秒以内といった素早い送風が要求される。
さらに、局所的な送風が可能な送風装置は、局所冷却の用途にも適用できる。電子計算機、パソコン、携帯電話といった電子機器の性能が急激に向上し、かつ一般環境での利用度合いが高まっている。電子機器は、CPUやメモリといった半導体集積回路を用いた精密部品が多量に使用されている。半導体集積回路に電流が流れて、電子機器が動作すると、熱が発生する。発熱をそのまま放置すると、処理能力が低下したり、あるいは熱により回路が損傷して、故障するといった事態が発生する。半導体集積回路を強制的に冷却する必要がある。ところが、現在の電子機器では、使い勝手を向上させるために、CPUやメモリの集積度合いを高めて、高性能化を図っている。しかも、部品の小型化や部品配列の高密度化が進展しており、従来に比べて発熱現象は局所的で高発熱量化が進んでいる。
パソコンでは、パソコン本体内部に比較的余裕があり、発熱の発生箇所が分散しているため、従来の送風ファン(軸流型やクロスフローファン)により、放熱が可能であった。
しかし、今後は、小型化、高密度化の進展により、効率よく局所的な送風を実現することが要求されてくる。さらに、電子機器が小型化し、パソコンでも従来のような机上に設置する形態から、ノート型の持ち運びタイプへの移行が進んでいる。PDA等の携帯情報端末や携帯電話でも、発熱する半導体集積回路を冷却する必要性が増す。
このようなハンディタイプの電子機器は電源として二次電池から電気エネルギを供給するので、消費電力の小さな送風ファンが要求される。従来の送風ファンでは、上述の通り、電気エネルギを送風エネルギに変換する効率が小さく、消費電力が大きいという問題がある。したがって、局所的な冷却を行える、低消費電力の送風装置が望まれている。
また、局所的な送風が可能な送風装置は、災害現場で使用する機器にも使用できる。例えば、内部の様子を観察する目的のファイバスコープがあげられる。これは、土砂災害現場やビルの倒壊現場といった災害現場での人命救助に使用される。災害現場においては、ファイバスコープの先端に汚れが付着すると、鮮明な画像が得られず、救助対象の人を見つけ損なうおそれがある。そこで、しばしば先端の汚染を掃除して再挿入を行うことが行われている。このようなファイバスコープの洗浄処理は、一刻一秒を争う人命救助の場面では、極めて時間のロスとなってしまう。先端への汚染物の付着を抑制するために、外気を送風して洗浄する機能の付与が待たれている。従来の送風ファンを筐体内に設置すると、筐体が太くなってしまうため、狭い場所での使い勝手が著しく低下する。
また、別の使用形態として、例えば古墳や洞窟の内部空間を詳細に観察する局所マイクロファイバスコープがある。マイクロファイバスコープの長さは通常3m以内であり、中空の筐体の直径は5mmである。筐体は、アクチュエータによって、蛇がくねるように変形可能とされる。筐体が細い隙間に沿うよう挿入されて、内部の様子を観察することができる。このマイクロファイバスコープでも、先端の汚れを除去し、鮮明な画像を得ることが望まれる。
また、人体に装着可能な小型電子機器であるウェアラブル機器として、最近、携帯音楽再生装置が製品化されている。この機器内部に電子部品が高密度で実装されるので、発熱の抑制や効率のよい放熱が課題となる。そこで、機器内部の換気が図られる。しかし、従来の送風ファンは、小型化が図られているウェアラブル機器には大きすぎ、また消費電力の低減も必要となる。
以上のことより、中空の筐体に内装可能なように、送風装置は、例えば縦5mm×横5mm以下の大きさとする必要がある。そして、送風中に渦流や乱流が発生すると、局所への送風に支障を来たし、送風装置として安定した性能を発揮することができない。したがって、縦5ミリメートル×横5ミリメートル以下の狭い領域においても安定した指向性の強い送風を得ることが望まれる。
また、狭い領域において得るべき送風の特性が、風速、風量に関して安定したものであることが要求される。すなわち、渦流や乱流が発生しない状態で安定した送風性能を発揮することである。しかも、局所的な送風を行える送風装置は、電気エネルギを投入後に速やかに送風を開始することが望まれる。
従来の送風ファンを利用した送風装置における上記の問題を解消できる新たな送風装置として、近年、放電現象により発生するイオン風を用いた送風装置が大きく注目されている。この送風装置は、機械的エネルギによって空気の流れを発生させるのではなく、空気中で電気的な帯電を有する粒子を直接加速することにより、イオンと空間に存在する空気分子との相互作用によって空気の流れを発生させるものである。このような機械的ではない手法により、原理的に高効率な送風装置を実現できる。
放電によりイオン風が発生する原理については、特許文献1に記載されている。円筒管中央にコロナ放電針が配置され、放電針に対向して対向電極が配置されたイオン風発生装置が記載されている。
イオン風を利用した送風装置では、機械的な部品がないので、小型化が容易である。そして、電極に印加する電圧を制御することにより、風速や風量の制御を容易に行える。
米国特許4210847号公報
本発明のイオン風を利用した送風装置の基本的構成を図3に示す。本送風装置は、針電極10と、針電極10に対向して配置された対向電極11と、両電極10、11を保持する筐体12と、両電極10、11間に高電圧を印加する駆動回路13とを備えている。
先端が尖がった形状の針電極10に対向してメッシュ状の対向電極11が配置される。針電極10と対向電極11とは空間的な隔たりを有している。対向電極11の形状としては、メッシュ状以外に、平板状やワイヤ状としてもよい。また、対向電極11は、円形、角形、リング状のように、任意の形状に形成される。
対向電極11および針電極10は、筐体12に内装されて保持されている。針電極10は、対向電極11に対して垂直に配置される。すなわち、針電極10は、イオン風の送風方向と平行とされ、対向電極11は、送風方向に対して垂直に配置される。なお、図中、太い矢印はイオン風の送風方向を示す。
駆動回路13は、回路基板上に形成され、駆動回路13と針電極10および対向電極11がリード線14によって接続される。駆動回路13は、高電圧を発生させるための高圧トランスを有する高電圧発生回路と、高電圧発生回路に所定の範囲内の電圧を供給するスイッチング回路と、交流電源からの交流電圧を直流電圧に変換してスイッチング回路に供給する整流回路と、高電圧発生回路からの出力電圧が一定になるようにスイッチング回路を制御する制御回路とを有する。なお、駆動電源として交流電源あるいは直流電源が使用される。直流電源の場合、整流回路は不要となる。
上記の送風装置における風の発生原理について詳述する。針電極10と対向電極11との形状が大きく異なっているため、針電極10と対向電極11との間に直流電圧または交流電圧を印加すると、双方の電極近傍で電界の分布が不平等になる不平等電界の状態において放電現象、例えばコロナ放電現象が発生する。放電現象が発生することによって、針電極10の先端から対向電極11に向かって、イオンが放出される。針電極10から発生するイオンの極性は、針電極10の極性と同一となる。すなわち、針電極10を正とした場合は正極性イオンが放出され、針電極10を負とした場合は負極性イオンが放出される。針電極10において発生したイオンは、針電極10と対向電極11との間に生じる電界により、針電極10の先端から放出され、対向電極11に向かって加速される。このとき、針電極10と対向電極11との間に存在する多数の中性分子や中性粒子にイオンが頻繁に衝突する。そのため、イオンだけでなく、これらの中性粒子も次第にイオンと同一方向に、すなわち針電極10から対向電極11に向かって動き出し、全体として空気の流れが発生する。これが上述のイオン風である。イオン風は、図中の矢印の方向に流れる。
このように、従来の送風ファンで得られる送風と比較して、極めて高い指向性を有する送風を実現することができる。ファンやモータやエンジンといった機械的部品が存在しないため、騒音の発生がほとんどない。さらに、ファンによる気流生成の際に発生する渦流も、発生しにくい。イオン風を利用した送風装置では、機械的部品における発熱がないため、エネルギ損失が少なくなり、供給された電気エネルギから得られる風エネルギの度合いが向上して、エネルギ効率が向上する。消費電力の抑制につながるといった優れた特徴を有する。
本送風装置では、風速の制御が極めて容易である。送風が発生するのは、電界が集中する針電極10の近傍になる。針電極10の先端の大きさ(先端半径)を30μmといった鋭い形状とすることにより、例えば縦5mm×横5mm、さらに言えば1mm×1mmといった局所への送風を容易に実現することが可能となる。
また、送風装置の大きさは、針電極10の太さと、対向電極11の断面積とによって決まる。針電極10として、直径が0.1mmのワイヤを用いることが可能である。対向電極11として、任意の形状に形成できるので、直径1mmといった円形にすることができる。したがって、針電極10と対向電極11とによって構成される送風部は、中空の細い筐体12に内装可能とされる。
しかも、送風部をコンパクトにできるため、筐体12が屈曲した形状であっても、この屈曲箇所に送風部を設けることが可能である。中空の筐体12が長く、曲がりくねった形状の場合、送風部を屈曲箇所に配することにより、屈曲箇所での乱流や渦流の発生を防止でき、スムーズな送風を実現できる。そして、筐体12が長くなる場合、送風部を送風方向に沿って直列に配置する。これにより、途中で風力が弱まることがなくなり、十分な風速、風量が得られ、局所的な送風が可能となる。
ここで、図4に示すように、筐体12の外径と長さの異なる3種類の送風装置において、風速を測定した。針電極10は、先端の曲率(先端半径)を30μmとした。対向電極11は、ワイヤ径が0.1mmのワイヤを1mmピッチで格子状に配列した金網を用いている。針電極10と対向電極11間の距離は5mmとして配置した。1本の針電極10と対向電極11から構成される送風装置において、針電極10に直流電圧を印加して、風を発生させる。すなわち、針電極10に正極性電圧を印加し、対向電極11をGNDとするように直流電圧を印加した。この駆動電源として、松定プレシジョン株式会社製の直流高圧電源(型番:HEL−10R10)を用いた。本送風風装置から発生するイオン風の風速を測定するための風速測定装置として、日本カノマックス株式会社製のサーマル式風速計(型番:6543)を用いた。測定原理としては、公知手法であるが、風速測定センサが加熱され、このセンサに風が当たると、熱が奪われ、センサの温度が変化する。この温度変化を補うために、通電する電流量が変化する。この電流量から風速を算出する方式となっている。なお、測定範囲としては0.05m/秒〜5.0m/秒である。
図5に各送風装置の特性結果を示す。中空の筐体12の外径や長さがいずれに変化しようとも、針電極10に5kVを印加することにより、風速3m/秒を達成することができる。これにより、筐体12の外径を小さくしたとき、筐体12の長さを長くすれば、十分な風速が得られることがわかる。したがって、筐体12に対して、自由な設計が実施可能となる。
そして、本送風装置の駆動回路13は、針電極10と対向電極11に高電圧を印加する。印加電圧を制御することにより、容易に風速や風量を制御できる。図6に示すように、印加電圧が増えるほど、風速が増す。ここでは、針電極10の近傍で得られる風速を示している。針電極10として、先端半径が30μm、軸の直径が0.5mmのタングステン製の針を用いている。対向電極11として、ワイヤ径0.1mmのワイヤを1mmピッチで格子状に配列した金網を用いている。1本の針電極10と対向電極11とを対向配置し、両電極間の距離は5mmである。このとき、針電極10に正極性もしくは負極性の直流電圧を印加して、送風を発生させる。このように、印加電圧と得られる風速とは、非常に安定した関係が得られる。駆動回路13による運転制御により、風速、風量を調節することができる。
本送風装置において、風速を3m/秒になるように運転したとき、針電極10と対向電極11間に印加される電圧は、5kV程度である。このときに流れる放電に起因する電流値は30μA程度である。したがって、消費電力は0.15Wとなる。一方、従来の送風ファンの場合、同じ風速としたときの消費電力は0.5W程度である。すなわち、本送風装置では、消費電力を従来の1/3以下に低減することが可能となる。ここで、針電極10の先端をさらに鋭くする、別な言い方をすれば、先端半径を小さくすることにより、針電極10の先端での電界集中の度合いがさらに大きくなる。これによって、同じ風速を得るために必要な印加電圧を低減することができる。その結果、消費電力はさらに小さくなり、例えば1/10以下にまで低減することも可能である。
送風の応答特性に関して、本送風装置では、モータやファンといった機械的部品が全くない。送風の発生原理として、両電極10、11間での電界によるイオンの移動を発端としている。電子、イオン、分子、プラズマといった粒子の移動のみを考慮するものであるので、両電極10、11間に高電圧を印加すれば、すぐに放電が発生して、粒子の移動が生じる。このように、応答速度は極めて速い。そのため、1秒未満の応答速度で安定した送風状態に達成することができる。なお、従来の送風装置では、電気エネルギを供給しても、一旦ファンの回転エネルギに変換する必要がある。そのため、安定した送風状態となるまでには、少なくとも2秒から3秒を要する。
次に、局所的な送風が可能な送風装置の実施形態を図7に示す。針電極10と対向電極11とから構成される送風部が、細長い中空の筐体12に内装されている。針電極10は、先端半径が30μmの形状を有する尖った円錐形の金属針である。金属針の材質は、タングステンである。針電極10の直径は、0.5mmである。針電極10の長さは特に限定されない。ただし、電界強度が最も高くなる針電極10の先端から送風が生じるため、針電極10は長すぎないほうがよく、5mmとする。
対向電極11は、ステンレス製の金網からなる。金網は、ワイヤ径0.1mmのワイヤを0.5mmピッチで格子状に配列されて形成されている。対向電極11は、針電極10の先端から所定の間隔、例えば5mmの間隔をおいて配置され、対向電極11の中心を通る軸線上に針電極が位置する。
筐体12は、絶縁性のフレキシブルなテフロン製チューブによって形成される。筐体12の両端は開口しており、一方の開口が空気の吸込口15、他方の開口が吹出口16とされ、筐体12の内部が送風路となる。筐体12は、折り曲げ可能とされ、屈曲した形状となる。筐体12の外径は10mm以下とされ、内径は5mm以下とされる。
送風部は、筐体12の吹出口15の近傍に配置される。対向電極11は、アクリル樹脂等の絶縁材料からなる支持材に支持され、支持材が筐体12の内壁に固定される。針電極10は、銅板等の導電材料からなる支持材に支持され、支持材が筐体12の内壁に固定される。したがって、筐体12は、両電極10、11を所定の間隔を保って保持する。なお、2つの支持材を一体化した構造の保持具とする。筒状の保持具を筐体12内に挿入すれば、送風部を筐体12の内部に容易に配置できる。しかも、針電極10と対向電極11との間隔は、筐体12が変形しても、保持具により常に一定間隔に保持される。
針電極10の支持材にリード線14が接続され、リード線14は、筐体12を貫通して、外部に導き出される。対向電極11にリード線14が接続され、同様にリード線14は筐体12の外部に導き出される。リード線14は、筐体12の外面に沿って配線され、筐体12とは別体の駆動回路13に接続される。リード線14が這わされた筐体12は、ビニールテープ等の保護部材18により被覆される。なお、リード線は、筐体12の内壁に沿って配線してもよいが、筐体12の外部を通すことにより、送風時の障害となることを避けれる。したがって、上記の送風装置では、筐体12の一部が膨らんだ形状とならず、筐体12の最大外径を5mm以下にすることが可能となる。
そして、駆動回路13は、針電極10に5kVの正極性直流電圧を印加する。対向電極11はGNDとする。電源として、松定プレシジョン株式会社製の直流高圧電源(型番:HEL−10R10)を用いる。なお、負極性直流電圧を印加する場合、電源としては、松定プレシジョン株式会社製の直流高圧電源(型番:HJPQ−10P3)を用いる。風速が3m/秒となるように、電圧を印加する。針電極10に印加する電圧の極性による風速特性については、大きな違いはない。極わずかに正極性の電圧を印加する場合の法が高電圧んある。正極性の電圧を印加する場合には、5kVを印加し、負極性の電圧を印加する場合には、4.8kVを印加する。
上記の条件で送風装置を運転したとき、風速3m/秒の良好な送風特性が得られた。そして、筐体12から吹き出された風の送風領域を風速計(日本カノマックス株式会社製のサーマル式風速計(型番:6543))によって測定したところ、4mm×4mmの領域において送風を確認できた。したがって、局所への送風が可能な送風装置として使用可能であることがわかる。
ところで、図8に示すように、筐体12は屈曲した状態に形成される場合がある。すなわち、他の機器に送風装置を使用するとき、機器に応じて筐体12を曲げて、送風装置が配置される。このとき、筐体12に屈曲した箇所である屈曲箇所ができる。例えば、小型電子機器の内部に送風装置を設置するとき、筐体12を屈曲させることにより、狭いスペースであっても送風装置を設けることができる。
そこで、筐体12の吹出口15の近傍だけでなく、筐体12の屈曲箇所にも、送風部を配置する。したがって、筐体12に、複数の送風部が送風方向に沿って直列に配される。屈曲箇所が複数ある場合には、各屈曲箇所にそれぞれ送風部が設けられる。
各送風部は、それぞれリード線14を通じて駆動回路13に接続される。すなわち、各送風部は、電気的に並列に接続される。駆動回路13によって、各送風部に同じ高電圧が印加される。送風部ごとに駆動回路13を設けて、各駆動回路13が個別に送風部を動作させることもできるが、各駆動回路13を同期させる必要があり、制御が複雑になる。また、駆動回路13が複数となるので、部品が増え、送風装置として小型化が困難となる。そこで、1つの駆動回路13によって複数の送風部を同時に動作させることにより、送風の制御を容易に行える。しかも、部品も増えないので、送風装置の小型化に寄与できる。
筐体12内部を風が流れるとき、屈曲箇所において、風が筐体12の内壁に当たり、圧損により風力が弱まる。しかし、屈曲箇所に送風部が配置されているので、風が加速される。また、風が吹出口15から吹き出すとき、吹出口15の近傍にある送風部によって加速される。
したがって、複数の送風部を直列に配置することにより、筐体12が長くなっても、送風途中で風が加速され、筐体12から吹き出すときには、十分な風速、風量が得られる。しかも、筐体12が屈曲していても、屈曲箇所にある送風部によって、風を加速でき、風の減衰を防げる。
また、保持具17を用いて、両電極10、11を所定の間隔に保ったまま保持する。保持具17は、絶縁樹脂等の絶縁材により筒状に形成される。保持具17は屈曲箇所に配置される。保持具17は、折曲されたとき、その形状を保持する程度の剛性を有する。筐体12の屈曲に応じて保持具17が屈曲することにより、保持具17は屈曲箇所でも配置可能となる。これによって、筐体12の屈曲箇所に応力がかかっても、保持具17によって両電極10、11が保護され、両電極10、11の位置関係は変わらない。したがって、安定した放電を維持でき、安定した送風を行える。
次に、上記の送風装置を利用した機器の具体的な実施例を説明する。送風装置は、医療現場で用いる医療機器や精密部品製造現場で用いる光学機器に適用される。図9に示すように、胃カメラ等の内視鏡に送風装置が使用される。
胃カメラは、先端側にCCD、対物レンズ20を備え、他端側に接眼レンズ21が接続された屈曲可能なグラスファイバ製のファイバスコープ22からなる一般的なものである。胃カメラの有効長さは、人体の口から観察すべき患部(胃)までの長さプラス口の外にも20cm程度の長さとされ、60cm(2フィート)程度である。
送風装置の中空の筐体12に、ファイバスコープ22が挿入される。筐体12の外径は10mm程度である。複数の送風部が、ファイバスコープ22に沿って直列に配置される。筐体12の吹出口15は、ファイバスコープ22の先端よりも突出し、先端にある対物レンズ20に風を吹き付けることができるようになっている。
図10、11に示すように、送風装置の保持具17は、柔軟性のある合成樹脂によって形成され、保持具17は、胃カメラの曲がりに応じて曲がる。保持具17は、有底の円筒状に形成され、先端側が開口している。
保持具17の先端側にメッシュ状の対向電極11が嵌め込まれる。対向電極11は、リング状に形成され、ファイバスコープ22が貫通する。保持具17の他端側の底には、中央にファイバスコープ22用の中央孔23が形成される。中央孔23を取り囲むように、複数の通風孔24が同心円上に形成される。隣り合う通風孔24の間に、針電極10用の複数の小孔25が形成される。通風孔24および小孔25は、それぞれ等間隔に位置する。複数の針電極10、ここでは3本の針電極10が導電性のリング26に取り付けられる。リング26が保持具17に装着され、針電極10が小孔25に挿通される。このような構造によって、針電極10と対向電極11とが所定の間隔、例えば5mmに保持される。保持具17は、この間隔を形成できるように、最小限の長さ(約7mm)を有する。保持具17の長さが短いほど、ファイバスコープ22の屈曲性が高まる。
リング26に接続されたリード線14が駆動回路13に接続され、対向電極11に接続されたリード線14も駆動回路13に接続される。各送風部は、電気的に並列に接続される。なお、リード線14は、筐体12の内部を通るように配線される。このように、送風部をユニット化することにより、機器への組み込みと配線が容易になる。
送風装置を運転すると、各送風部で風が発生し、筐体12の吸込口16から吸い込まれた空気が、保持具17の通風孔24を通り、保持具17内を通過するときに加速される。そして、筐体12の吹出口15から対物レンズ20に向かって風が吹き出す。対物レンズ20に付着した異物が除去され、ファイバスコープ22の視界がよくなる。
ここで、送風装置は、必要に応じて運転される。すなわち、対物レンズ22に異物が付着して、視界が悪くなったときに、運転が開始される。通常は、運転が停止している。スタートキーの操作により、運転が開始され、両電極10、11に高電圧が印加されて、すぐに風が発生する。このように、送風装置は応答性がよく、すぐに異物を除去できるので、緊急性を要する医療現場において、本送風装置は好適である。
また、医療現場や精密部品製造現場では、電子技術を用いた顕微鏡等の光学機器を使用して、作業が行われる。このとき、塵埃を取り除くために、局所的な送風が要求される。図12に示すように、顕微鏡30に対して送風装置が設けられる。送風装置の構成は、図8に示したものと同じである。
例えば、微生物や菌類を顕微鏡30で観察する場合、クリーンルームで観察を行ったとしても、空気中の塵埃等が観察すべきサンプル31に塵埃が付着する。すると、送風装置の運転が開始され、サンプル31に向かって風が吹き出す。サンプル31に付着した塵埃等の異物が除去され、観察の妨げがなくなる。
このとき、強い風を吹き付けると、周囲に沈着している異物が巻き上げられ、再び付着したり、あるいは吹き飛ばした異物が他の場所に移動して、他の光学機器の邪魔をすることになる。そこで、本送風装置を使用することにより、1mm×1mmの局所へのピンポイントの送風を行えるとともに、風速、風量を微調整して、的確に目標とする異物めがけて送風することができる。また、必要なときに運転を行って、応答よく送風することができる。
他の実施例として、人体に装着するウェアラブル機器に本送風装置を搭載する。図13に示すように、ウェアラブル装置では、携帯可能なケース32に、正イオンおよび負イオンを発生するイオン発生装置33と、2次電池等の電源34と、制御回路35とが内装されている。ケース32は、縦25mm×横80mm×厚さ20mmとされ、ストラップ36が取り付けられている。ケース32の正面に、吸込口37と吹出口38とが形成されている。
そして、送風装置は、ケース32に内装される。送風部がイオン発生装置33の正面側に配置される。複数の送風部が、吸込口37から吹出口38に至る送風方向に沿って直列に配置される。ここでは、ケース32が筐体12となる。駆動回路13は、制御回路35に実装され、電源34から直流電圧が供給される。
このウェアラブル機器を首に掛けたとき、体温により腹から首に向けて上昇気流が発生し、ケース32の周囲に沿って流れる。送風装置を運転すると、イオン発生装置33によって発生した正負イオンがケース32内の風により吹出口38から送出される。この風に乗って、正負イオンは顔近辺まで届けられる。
このように、送風装置は、一見装身具と見紛うような外観を有し、身体につけたとき煩わしくない程度の小型軽量のウェアラブル機器に搭載可能であり、ウェアラブル機器による局所的な送風を行うときに有用である。また、ウェアラブル機器に搭載された2次電池を電源として利用するとき、低消費電力の送風装置を実現できるので、2次電池の容量を小さくできる。そのため、電源の小型化を図れ、ウェアラブル機器の小型化に寄与する。
また、小型電子機器に対して、冷却のために送風装置を用いる。携帯電話や携帯音楽再生装置といった小型電子機器では、小型化、半導体集積回路の高密度化によって、熱の問題がある。そこで、小型電子機器の内部に、本送風装置を設け、発熱箇所に局所的な送風を行う。このように、直径1mm以下の局所的な領域に送風を集中させることにより、効率的に局所冷却を行える。また、小型電子機器の内部で送風を行って、換気を行う。内部に溜まった熱が排出され、外部から冷たい空気が流入して、冷却効果を高めることができる。したがって、本送風装置によって、小型電子機器の冷却、換気を行え、送風装置の用途が広がる。
ウェアラブル機器にも、半導体集積回路が搭載されている。本送風装置を設けて、発熱箇所に向けて局所的に送風する。集中的に風が当たり、冷却効果が高まる。また、上記と同様に、換気を行うことによっても、冷たい空気の流入により、冷却効果が得られる。したがって、本送風装置によって、ウェアラブル機器の冷却、換気を行える。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で上記実施形態に多くの修正および変更を加え得ることは勿論である。