以下、図面を用いて、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は本発明に係る負圧倍力装置の実施の形態の、ブレーキシステムに用いられるブレーキ倍力装置に適用した例を非作動状態で示す断面図、図2は図1における真空弁および大気弁の部分を拡大して示す部分拡大断面図である。なお、以下の説明において、「前」および「後」はそれぞれ各図において「左」および「右」を示す。
まず、この例の負圧倍力装置において、特許文献1に記載の従来の負圧倍力装置と同じ構成部分および特許文献1に記載の負圧倍力装置と構成が異なるが、本発明に直接関係しない構成部分について簡単に説明する。図1および図2において、1は負圧倍力装置、2はフロントシェル、3はリヤシェル、4はバルブボディ、5はバルブボディ4に取り付けられたパワーピストン部材6とバルブボディ4および両シェル2,3間に設けられたダイヤフラム7とからなるパワーピストン、8は両シェル2,3内の空間をパワーピストン5で区画された2つの室の一方で、通常時負圧が導入される定圧室、9は前述の2つの室の他方で、負圧倍力装置1の作動時大気圧が導入される変圧室、10はバルブプランジャー、11は図示しないブレーキペダルに連結され、かつバルブプランジャー10を作動制御する入力軸、12はバルブボディ4に気密にかつ摺動可能に設けられ、かつ大気弁部12aと真空弁部12bとこれらを一体移動可能に連結する連結具12cとを有する弁体、13は環状の真空弁座、14はバルブプランジャー10に形成された環状の大気弁座、15は真空弁部12bと真空弁座13とにより構成される真空弁、16は大気弁部12aと大気弁座14とにより構成される大気弁、17は互いに直列に配設された真空弁15と大気弁16とからなり、変圧室9を定圧室8と大気とに選択的に切り換え制御する制御弁、18は弁体12を真空弁部12bが真空弁座13に着座する方向に常時付勢する第1弁制御スプリング、19はバルブディ4の外周側通路19aとこれに連通する内周側通路19bとからなる大気導入通路、20はリヤシェル3と入力軸11との間に取り付けられかつ大気導入口20aを有するブーツ、21は大気導入口20aに設けられて制御弁17で発生する音を低減するサイレンサ、22は真空通路、23はバルブボディ4に形成されたキー孔4aに挿通されてこのバルブボディ4に対するバルブプランジャー10の相対移動を、キー孔4aの軸方向幅により規定される所定量に規制し、かつバルブボディ4およびバルブプランジャー10の各後退限を規定するキー部材、24は間隔部材、25はリアクションディスク、26は出力軸、27はリターンスプリング、28は図示しない負圧源からの負圧を定圧室8に導入する負圧導入口である。
なお、負圧倍力装置1の非作動時、この間隔部材24の前端面とこの間隔部材24の前端面に対向するリアクションディスク25の後端面との間には、軸方向の所定の間隙Cが設定されている。
また、図示しないが従来の一般的な負圧倍力装置と同様に、フロントシェル2を貫通してマスタシリンダの後端部が定圧室8内に進入しかつマスタシリンダのピストンが出力軸26で作動されるようになる。なお、マスタシリンダのフロントシェル2貫通部は図示しない適宜のシール手段でシールされていて、定圧室8が大気と気密に遮断される。また従来と同様に、バルブボディ4がリヤシェル3を移動可能に貫通しているとともに、変圧室9がこの貫通部において図示したシール部材29で大気と気密に遮断されている。
次に、この例の負圧倍力装置1の特徴部分の構成について説明する。
図2に示すように、この例の負圧倍力装置1では、バルブボディ4の軸方向の内孔4bに筒状部材である真空弁座部材30が摺動可能に嵌合されており、前述の真空弁座13はこの真空弁座部材30の後端の内周側に設けられている。したがって、真空弁座13もバルブボディ4に対して相対移動可能となっている。
そして、真空弁座部材30の外周面に設けられたカップシール等のシール部材31により、バルブボディ4の内孔4bの内周面と真空弁座部材30の外周面との間が少なくとも真空弁座部材30の前端から後端に向かう空気の流れを阻止するように気密に保持されている。更に、真空弁座部材30の前端面30aは常時変圧室9に連通されていて、これらの前端面30aには常時変圧室9の圧力が作用するようになっている。
また、弁体12の真空弁部12bが真空弁座13に着座した状態において、真空弁座部材30の後端面30bにおける、真空弁部12bの着座位置より外周側の環状の外側後端面部分は常時定圧室8に連通されていて、この外側後端面には常時定圧室8の圧力(負圧)が作用するようになっている。したがって、負圧倍力装置1の作動時、変圧室9の圧力と定圧室8の圧力とに圧力差が生じると、この圧力差による力が真空弁座部材30に後方に向けて加えられるようになる。
更に、真空弁座部材30には延長アーム部30cがこの真空弁座部材30の前端面30aから軸方向前方に延びるようにして設けられている。この延長アーム部30cには、軸方向孔30dが穿設されている。
真空弁座部材30の後端面30bの外周側とバルブボディ4との間には、環状の板ばねからなる第2弁制御スプリング32が真空弁座部材30と直列に縮設されており、この第2弁制御スプリング32により真空弁座部材30が常時前方に付勢されている。
次に、この例の真空弁座部材30の作動について説明する。真空弁座部材30の作動は前述の特許文献1に記載の真空弁座部材と同じであり特許文献1を参照すれば容易に理解できるので、ここでは簡単に説明する。
負圧倍力装置1の非作動時には、真空弁座部材30はその前端面30aがバルブボディ4の段部4cに当接した、図2に示す位置に位置決めされる。このように位置決めされた状態の真空弁座13は、従来の一般的な負圧倍力装置のバルブボディ4に形成された真空弁座と同じ状態になるように設定されている。したがって、負圧倍力装置1の非作動時での真空弁座部材30のこの位置では、真空弁部12bが真空弁座13に着座しなく、真空弁15は開くようになる。
また、ブレーキペダルの踏込みにより入力軸11に入力が加えられて負圧倍力装置1が作動すると、従来の一般的な負圧倍力装置と同様に変圧室9に大気が導入されて、変圧室9と定圧室8との間に圧力差が生じる。このため、真空弁座部材30にもこの圧力差による力が後方に向けて加えられるようになる。この力は、変圧室9と定圧室8との間の圧力差、つまり入力軸11に加えられる入力の大きさに応じた大きさになっている。なお、負圧倍力装置1の作動時は真空弁部12bが真空弁座13に着座している。
そして、この圧力差による力が第2弁制御スプリング32のばね荷重とこのときの弁体12の第1弁制御スプリング18のばね荷重との和以下である(つまり、入力軸11に加えられる入力が予め設定された設定入力F0以下(F0は図4に示す)である)と、真空弁座部材30はバルブボディ4に対して移動しなく、図1および図2に示す非作動位置を保持するようになる。また、圧力差による力が前述の両ばね荷重との和より大きくなる(つまり、入力軸11に加えられる入力が設定入力F0より大きくなる)と、真空弁座部材30が弁体12の真空弁部12bを押しながらバルブボディ4に対して相対的に後方に移動するようになっている。したがって、この真空弁座部材30の後方移動により、真空弁座13が通常時の位置より後方に突出する。
ところで、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して後方へ相対的にストロークすると、大気弁16の大気弁部12aもバルブボディ4に対して真空弁座部材30の相対ストローク量と同じだけ後方へ相対ストロークする。したがって、真空弁15および大気弁16がともに閉じた制御弁17のバランス位置が後方に移動する。このため、大気弁部12aと大気弁座14との間の開弁量が真空弁座部材30の相対ストロークしないと仮定した場合に比べて、入力軸11の入力ストローク量が同じであるとすると、真空弁座部材30の相対ストローク量だけ大きくなる。すなわち、真空弁15と大気弁16とがともに閉じてバランスした中間負荷状態では、入力軸11の入力ストローク量が同じである場合、バルブボディ4およびパワーピストン5のピストン部材6の各ストロークは、真空弁座部材30の相対移動しないと仮定した場合に比べて、真空弁座部材30の相対ストローク量だけ大きくなる。換言すると、真空弁座部材30の相対ストロークした場合と相対ストロークしないと仮定した場合とで、バルブボディ4およびパワーピストン5のピストン部材6の各ストローク量が同じであるとすると、真空弁座部材30の相対ストロークした場合の方が、入力軸11のストロークは真空弁座部材30の相対ストローク量だけ短縮される。
一方、前述の真空弁座部材30の相対ストローク時における出力軸26の出力ストロークも、前述のように入力軸11の入力ストローク量が同じであるとしたときに、バルブボディ4およびパワーピストン5のピストン部材6の各ストロークが増大することで増大する。しかし、中間負荷状態では従来の負圧倍力装置と同様にリアクションディスク25が間隔部材24の方へ膨出してこのリアクションディスク25の軸方向の厚みが薄くなるため、前述のバルブボディ4およびパワーピストン5のピストン部材6の各ストロークの増大した相対ストローク量より小さくなる。
そして、真空弁座部材30が弁体12の真空弁部12bを押しながら後方に突出することから、弁体12が後方に移動し、かつ弁体12の大気弁部12aも後方に移動するようになる。このため、通常ブレーキ作動時の大気弁16が閉じている状態より、大気弁部12aが大気弁座14から更に大きく離座する。つまり、大気弁16の開弁量が大きくなるようにされている。このようにして、真空弁座部材30の作動は変圧室9の圧力と定圧室8の圧力との圧力差により制御される。
この真空弁座部材30の移動について具体的に説明する。真空弁座部材30が移動しかつ真空弁15および大気弁16がともに閉じて制御弁17がバランス状態にある中間負荷状態で、真空弁座部材30に加えられる圧力差による力を考える。この制御弁17のバランス状態は、真空弁座部材30と弁体12とが互いに当接して一体となるため、図3に示すように互いに一体になった真空弁座部材30および弁体12に加えられる力の等価状態としてみなすことができる。
いま、図3において、真空弁座部材30および弁体12に加えられる圧力差による力をFP、定圧室8の圧力をPV0、変圧室9の圧力をPVとすると、真空弁座部材30および弁体12に加えられる圧力差による力FPは、
FP = (PV−PV0)・(真空弁座部材30の有効受圧面積差)
で与えられ、この力FPが真空弁座部材30および弁体12を後方に向けて押圧するようになる。
一方、第2弁制御スプリング32のばね荷重FSおよび第1弁制御スプリング18のばね荷重fSが前方に向けて押圧している。したがって、前述の力FPがこれらのばね荷重の和(FS+fS)以下であると、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して移動しなく、また力FPがばね荷重の和(FS+fS)より大きくなると、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して後方に移動するようになる。ここで、第1弁制御スプリング18のばね荷重fSはその絶対値が小さくしかも第2弁制御スプリング32のばね荷重FSに比べてきわめて小さく(FS≫fS)設定されることで、実質的に力FPがばね荷重FSより大きいとき(FP >FS)に、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して後方に移動し、力FPがばね荷重FS以下であるとき(FP ≦FS)に、真空弁座部材30はバルブボディ4に対して後方に移動しない。すなわち、真空弁座部材30の作動開始は実質的に第2弁制御スプリング32によって決定されるようになる。したがって、変圧室9の圧力が上昇して、力FPがセットばね荷重より大きくなると、真空弁座部材30が後方に移動開始するようになる。
そして、図4に示すように、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して後方に移動しない力FPの領域つまり変圧室9の圧力PVの領域は、入力軸11に加えられる入力が設定入力F0以下の領域である。この領域におけるサーボ比SR1は小さく、したがって負圧倍力装置1の中間負荷状態で出力は図4に実線で示すように比較的小さい。
また、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して後方に移動する力FPの領域つまり変圧室9の圧力PVの領域は、入力軸11に加えられる入力が設定入力F0より大きい領域である。この領域におけるサーボ比SR2は、大気弁16の開弁量が同じ入力で通常ブレーキ作動時より大きくなることから、前述のサーボ比SR1より大きいサーボ比SR2(SR2>SR1)となる。したがって負圧倍力装置1の中間負荷状態で出力は図4に実線で示すようにサーボ比SR1のときより大きくなる。
この例の負圧倍力装置1では、前述のように真空弁座部材30に移動開始を決定する第2弁制御スプリング32のばね定数およびセットばね荷重は、ともに任意に設定可能である。したがって、この例の負圧倍力装置1の図4に示す入出力特性において、小さなサーボ比SR1から大きなサーボ比SR2に変わる変化点(レシオ点)ε、つまりこの変化点εの入力である設定入力F0は、第2弁制御スプリング32のセットばね荷重を変えることで上下させることができる。また、負圧倍力装置1のサーボ比SRは、第2弁制御スプリング32のばね定数を変えることによって大小変化させることが可能となる。
したがって、この例の負圧倍力装置1は、第2制御弁スプリング32のばね定数およびセットばね荷重を搭載される車両に応じて設定することで、1つの形式で種々の車種のブレーキ倍力装置にその車種に応じて容易にかつより的確に適用可能となる。
図1、図2、および図5(a),(b)に示すように、バルブボディ4の軸方向孔内には、本発明の作動アシスト機構であるブレーキアシスト機構(BA機構)36が設けられている。このBA機構36は、バルブボディ4に対して相対摺動可能に配設されたBA用筒状部材33を備えている。このBA用筒状部材33の後端部には、外側に突出する環状のフランジ33aが形成されているとともに、BA用筒状部材33の中央部には軸方向孔33bが穿設され、更にBA用筒状部材33の前端部にも軸方向孔33cが穿設されている。このBA用筒状部材33は、例えばPet材等の樹脂あるいは金属から形成される。
フランジ33aとバルブボディ4との間には、BA作動用スプリング34が縮設されており、このBA作動用スプリング34のばね力によりBA用筒状部材33が常時後方に付勢されている。BA用筒状部材33がバルブボディ4に対して後方に所定ストローク以上ストロークすると、BA用筒状部材33の後端面33eが真空弁座部材30の前端面30aに当接して真空弁座部材30を後方に第2弁制御スプリング32のばね力に抗して押圧することで、BA用筒状部材33は第2弁制御スプリング32を縮小して真空弁座部材30をバルブボディ4に対して後方に移動するようになっている。
そして、キー部材23がBA用筒状部材33の軸方向孔33bおよび延長アーム部30cの軸方向孔30dをも貫通して設けられる。図2に拡大して示すように、負圧倍力装置1の非作動時には、リヤシェル3に当接して後退限に位置決めされたキー部材23に、真空弁座部材30における軸方向孔30dより前方の前端部30eおよびBA用筒状部材33における軸方向孔33cより前方の中間部33dが当接することで、真空弁座部材30およびBA用筒状部材33がともにそれらの後退限に位置決めされる。
更に、通常ブレーキ作動時にBA用筒状部材33をバルブディ4に対して非作動位置に位置決めして保持する筒状部材保持部材35がキー部材23より前方位置に設けられている。この筒状部材保持部材35はバルブボディ4のキー孔4aおよびBA用筒状部材33の軸方向孔33cに貫通された後、バルブボディ4の径方向孔4dに嵌入・固定されている。
図5(b)に示すように、この筒状部材保持部材35は、例えばPom材やPeekの樹脂あるいは金属からなる弾性材でかつ横断面が矩形でかつ全体がほぼU字形に形成されている。その場合、筒状部材保持部材35は、バルブプランジャ10が貫通する湾曲U字状部35aと、バルブボディ4のキー孔4aおよびBA用筒状部材33の軸方向孔33cを貫通する一対の直線係止部35b,35cとからなっている。そして、湾曲U字状部35aの湾曲底部35a1がバルブボディ4の径方向孔4dに嵌入・固定されている。また、通常時には一対の直線係止部35b,35cは互いに平行にまたはほぼ平行にされている。
また、図5(a)に示すようにBA用筒状部材33には、その軸方向孔33cに開口する係止凹部33fが設けられている。この係止凹部33fの前端面を構成する係止部33hには、通常時に筒状部材保持部材35の一方の直線係止部35bが係止されている。なお図示しないが、BA用筒状部材33には、係止凹部33fと同じもう1つの係止凹部がBA用筒状部材33の軸方向に関し係止凹部33fと線対称に設けられている。そして、もう1つの係止凹部の前端面を構成する係止部には、通常時に筒状部材保持部材35の他方の直線係止部35cが係止されている。前述のように、一方の直線係止部35bに関して説明し、他方の直線係止部35cに関しては説明を省略する。
図6(a)に示すように、BA用筒状部材33において、係止部33hの係止面33h1(係止凹部33fの前端面)に隣接する係止凹部33fの底面(33f1には、直線係止部35bが進入可能な保持部材進入凹部33iが設けられている。この保持部材進入凹部33iの前端面33i1は、係止凹部33fの底面33f1の延長線と係止面33h1との交点から後方に傾斜する傾斜面とされている。その場合、この前端面33i1は、直線係止部35bの前端側の内側エッジ部の摩耗面βの形状にほぼ合わされた形状の傾斜面とされている。また、これらの保持部材進入凹部33iの幅WG(軸方向長さ)は、筒状部材保持部材35の直線係止部35bの幅WC(図6(b)に図示)以上に設定されている(WG≧WC)。
したがって、筒状部材保持部材35の直線係止部35bの前端側の内側エッジ部およびBA用筒状部材33の係止部33hの後端側の外側エッジ部が摩耗していない初期状態では、図6(c)に示すようにBA用筒状部材33が筒状部材保持部材35に組み付けられたとき、BA用筒状部材33がBA作動用スプリング34のばね力で方向d(後方)に押圧されて、係止面33h1が直線係止部35bの前面35b1に面接触で係止する。
また、筒状部材保持部材35の直線係止部35bの前端側の内側エッジが、係止面33h1と保持部材進入凹部33iの傾斜した前端面33i1との境界部に位置決めされている。このとき、直線係止部35bの内側面35b2は係止凹部33fの底面33f1とほぼ一直線状になっている。したがって、筒状部材保持部材35の直線係止部35bは保持部材進入凹部33i内に進入しない。
このように、直線係止部35bの前面35b1が係止面33h1に係止することで、BA作動用スプリング34で常時後方に付勢されるBA用筒状部材33は、通常時に図1、図2、図5(a)および図6(c)に示す非作動位置に位置決めされて保持される。そして、通常ブレーキ作動時には、BA用筒状部材33が非作動位置に保持されることで、BA用筒状部材33の後端面33eが真空弁座部材30の前端面30aに当接するのを阻止される。
バルブプランジャー10には、BA用筒状部材33の係止部33hと筒状部材保持部材35の直線係止部35bとの係止を解除するための係止解除部10aが設けられている。この係止解除部10aは截頭円錐台形の側面からなるテーパ状に形成されている。緊急ブレーキ作動のためブレーキペダルが通常ブレーキ作動時より迅速に踏み込まれて、バルブプランジャー10がバルブボディ4に対して通常ブレーキ作動時より所定量以上前方へ移動すると、この係止解除部10aが筒状部材保持部材35における湾曲U字状部35aのエッジ部35a2の2箇所に当接しかつこれらの2箇所のエッジ部35a2を押圧することで、湾曲U字状部35aがBA用筒状部材33の軸方向と直交する平面内で拡開する方向に弾性的に変形する。すると、一対の直線係止部35,35cが図5(a),(b)および図6(c)に示すように拡開方向cに筒状部材保持部材35の弾性力f35bに抗して移動する。このように、湾曲U字状部35aのエッジ部35a2の2箇所がバルブプランジャ10の係止解除部10aによって押圧される被押圧部に相当する。
図6(c)において、直線係止部35bが拡開方向cに所定量移動すると、この直線係止部35bは係止凹部33fから脱出し、BA用筒状部材33と筒状部材保持部材35との係止が解除される。これにより、BA用筒状部材33は、BA作動用スプリング34の付勢力f33で後方dに移動して前述のようにBA用筒状部材33が真空弁座部材30を押圧し、弁体2をバルブボディ4に対して後方へ移動する。このBA用筒状部材33の後方移動は、軸方向孔30cより前方の前端部33gが一対の直線係止部35b,35cに当接したとき終了する。したがって、真空弁座部材30による弁体2のバルブボディ4に対する後方移動量は、所定量に制限される。
また、バルブプランジャ10が後退して、その係止解除部10aが湾曲U字状部35aのエッジ部35a2から離間すると、湾曲U字状部35aが弾性復帰可能状態となる。しかし、一対の直線係止部35b,35cがBA用筒状部材33の軸方向孔33c縁に当接したままであるので、湾曲U字状部35aは弾性変形したままとなる。そして、BA用筒状部材33の前端部33gが一対の直線係止部35b,35cに当接した状態から、BA用筒状部材33がバルブボディ4に対して相対的に前方へ移動し、係止部33hが直線係止部35bに対向する位置となると、湾曲U字状部35aがその弾性復元力で閉じる方向つまり元の形状となるように変形し、一対の直線係止部35b,35cが互いに接近する方向(縮閉方向)に移動して係止凹部33f内に嵌合する。そして、係止部33hが直線係止部35bに軸方向に係止することで、BA用筒状部材3が初期の非作動位置に保持される。
長期にわたって、BA作動が繰り返されると、図6(d)に示すようにBA用筒状部材33の係止部33hの後端側の外側エッジ部および直線係止部35bの前端側の内側エッジ部がそれぞれ次第に摩耗して、これらの外側エッジ部および内側エッジ部に摩耗面α,βが形成されるようになる。このとき、直線係止部35bに摩耗面βが形成されることで、直線係止部35bが縮閉方向eに移動して保持部材進入凹部33i内に進入するようになる。直線係止部35bのこの進入は、摩耗面βの少なくとも一部が保持部材進入凹部33iの前端面33i1の少なくとも一部に当接することで制限される。すなわち直線係止部35bの保持部材進入凹部33i内への進入は、直線係止部35bの前端側の内側エッジ部の摩耗量に応じて制御される。直線係止部35bの保持部材進入凹部33i内への進入は、直線係止部35bの内側面が保持部材進入凹部33iの底面33i2に当接するまで可能である。
そして、BA用筒状部材33の係止部33hの後端側の外側エッジ部および直線係止部35bの前端側の内側エッジ部がそれぞれ摩耗することで、前述の図7(b)に示すように係止部33hの係止面33h1と直線係止部35bの前面35b1との係止代がなくなってくる。しかし、この例では、前述の外側エッジ部および内側エッジ部にそれぞれ摩耗面α,βが形成されても、図6(d)に示すように係止部33hの係止面33h1と直線係止部35bの前面35b1との係止代γが確保される。この係止代γは、直線係止部35b,の内側面が保持部材進入凹部33iの底面33i2に当接するまで、この直線係止部35bが進入した時点でも確保される。
したがって、長期にわたってBA作動が繰り返されても、BA作動が行われない通常時には、筒状部材33は筒状部材保持部材35によって非作動位置に保持される。
そして、BA操作が行われたときは、前述と同様にバルブプランジャー10の係止解除部10aによってBA用筒状部材33と筒状部材保持部材35の一対の直線係止部35b,35cとの係止が解除されることで、BA作動が行われる。
ところで、直線係止部35bが保持部材進入凹部33i内に進入する(他方の直線係止部35cも保持部材進入凹部内に進入する)ことで、一対の直線係止部35b,35cは、互いに接近するようになるが、これに伴って係止解除部10aがBA作動時に当接する筒状部材保持部材35における湾曲U字状部35aの2箇所のエッジ部35a2も互いに接近するようになる。すなわち、図6(e)に示すように直線係止部35bが保持部材進入凹部33i内に進入しない初期状態では、湾曲U字状部35aの後端側の内側エッジ部35a2が係止解除部10aの傾斜面の中間位置に当接するようになる。
一方、直線係止部35bが保持部材進入凹部33i内に進入して、一対の直線係止部35b,35cが互いに接近すると、湾曲U字状部35aの2箇所のエッジ部35a2も互いに接近する(図6(f)に示すように、湾曲U字状部35aがバルブプランジャ10に接近する)。このため、バルブプランジャー10における係止解除部10aがエッジ部35a2に当接する位置は、図6(e)に示す初期状態の場合より後方位置、つまりバルブプランジャー10の前進量が少ない位置となる。その結果、BA作動がバルブプランジャー10のより少ない前進で開始される、つまりBA作動開始のトリガーが早くなる可能性がある。しかし、実際には、図6(f)に示すように、長期にわたるBA作動の繰り返しで湾曲U字状部35aの2箇所のエッジ部35a2も摩耗して、これらの部分に摩耗面δが形成される。これにより、係止解除部10aが摩耗面δの少なくとも一部に当接する位置は後方に移動しなく、図6(e)に示す初期状態の場合の位置とほとんど変化しない。したがって、BA作動開始のトリガーは図6(e)に示す初期状態の場合とほとんど変化しない。
この例の負圧倍力装置1では、直線係止部35bと係止部33hとの係止位置が被押圧部である湾曲U字状部35aのエッジ部35a2の2箇所の位置から軸方向前方の近傍位置となっている。
次に、この例の負圧倍力装置1の作動について説明する。
(負圧倍力装置の非作動時)
負圧倍力装置1の定圧室8には負圧導入口28を通して常時負圧が導入されている。また、図1および図2に示す負圧倍力装置1の非作動状態では、キー部材23がリヤシェル3に当接して後退限となっている。したがって、このキー部材23によってバルブボディ4およびバルブプランジャー6が後退限にされ、更にパワーピストン5、入力軸11および出力軸26も後退限となっている。また、真空弁座部材30の前端面30aが第2弁制御スプリング32のばね力でバルブボディ4の段部4cに当接して真空弁座部材30が図2に示す位置に位置決めされているとともに、BA用筒状部材33の中間部33dがBA作動用スプリング34のばね力でキー部材23に当接してBA用筒状部材33が図2に示す位置に位置決めされている。
この非作動状態では、弁体12の大気弁部12aが大気弁座14に着座して大気弁16が閉じ、かつ弁体12の真空弁部12bが真空弁座13から離座して真空弁15が開いている。したがって、変圧室9は大気から遮断されかつ定圧室8に連通して変圧室9に負圧が導入されており、変圧室9と定圧室8との間に実質的に差圧が生じていない。このため、真空弁座部材30には圧力差による力が後方に向けて加えられていない。
また、BA機構36は、一対の直線係止部35b,35cがBA用筒状部材33の係止部(直線係止部35bに対しては係止部33h)に係止して非作動位置に保持されている。
(負圧倍力装置の設定入力F0以下の入力領域での通常ブレーキ作動時)
通常ブレーキを行うためにブレーキペダルが通常ブレーキ操作時での踏込速度で踏み込まれると、入力軸11が前進してバルブプランジャー10が前進する。バルブプランジャー10の前進により、弁体12の真空弁部12bが真空弁座13に着座して真空弁15が閉じるとともに大気弁座14が弁体12の大気弁部12aから離れて、大気弁16が開く。すなわち、変圧室9が定圧室8から遮断されるとともに大気に連通される。したがって、大気圧の空気が大気導入口20a、外周側通路19a、内周側通路19b、開いている大気弁16、およびキー孔4aを通って変圧室9に導入される。その結果、変圧室9と定圧室8との間に差圧が生じてパワーピストン5が前進し、更にバルブボディ4を介して出力軸26が前進して図示しないマスタシリンダのピストンが前進する。このとき、弁体12、真空弁座部材30、およびBA用筒状部材33等のバルブボディ4に支持されている部材は、バルブボディ4と一体に移動する。
また、バルブプランジャー10の前進で間隔部材24も前進するが、まだ間隔部材24は間隙Cによりリアクションディスク25に当接するまでには至らない。したがって、出力軸26から反力がリアクションディスク25から間隔部材24に伝達されないので、この反力はバルブプランジャー10および入力軸11を介してブレーキペダルにも伝達されない。入力軸11が更に前進すると、パワーピストン5も更に前進し、バルブボディ4および出力軸26を介してマスタシリンダのピストンが更に前進する。
マスタシリンダ以降のブレーキ系のロスストロークが消滅すると、負圧倍力装置1は実質的に出力を発生し、この出力でマスタシリンダがマスタシリンダ圧(液圧)を発生し、このマスタシリンダ圧でホイールシリンダが作動してブレーキ力を発生する。
このとき、マスタシリンダから出力軸26に加えられる反力によってリアクションディスク25が後方に膨出し、間隙Cが消滅してリアクションディスク25が間隔部材24に当接する。これにより、出力軸26からの反力はリアクションディスク25から間隔部材24に伝達され、更にバルブプランジャー10および入力軸11を介してブレーキペダルに伝達されて運転者に感知されるようになる。すなわち、図4に示すように負圧倍力装置1は通常ブレーキ作動時のジャンピング量Jsを有するジャンピング特性を発揮する。
設定入力F0以下の入力で通常ブレーキが作動される場合には、負圧倍力装置1の入力(つまり、ペダル踏力)が比較的小さいため、出力が所定出力以下の出力領域であう。したがって、前述のように変圧室9の圧力PVと定圧室8の圧力PV0との差圧により真空弁座部材30を押圧する力FPが第1および第2弁制御スプリング18,32の各ばね力の和より小さい。
このため、真空弁座部材30はバルブボディ4に対して後方に移動しなく、サーボ比は従来の通常ブレーキ作動時とほぼ同じ比較的小さなサーボ比SR1となる。したがって、負圧倍力装置1の出力がペダル踏力による入力軸11の入力をこの小サーボ比SR1で倍力した大きさになると、大気弁部12aが大気弁座14に着座して大気弁16も閉じて中間負荷でのバランス状態となる(真空弁15は、真空弁部12bが真空弁座13に着座して既に閉じている)。こうして、図4に示すように設定入力F0以下の入力領域においては、通常ブレーキ作動時のペダル踏力をサーボ比SR1で倍力したブレーキ力で通常ブレーキが作動する。
また、ブレーキペダルが通常ブレーキ操作時での踏込速度で踏み込まれることで、バルブプランジャ10が前進しても、その係止解除部10aが筒状部材保持部材35における湾曲U字状部35aの湾曲底部35a1のエッジ部35a2に当接しない。したがって、BA機構36は作動しない。
通常ブレーキ作動時での負圧倍力装置1の大気弁16および真空弁15がともに閉じている状態から、通常ブレーキを解除するために、ブレーキペダルを解放すると、入力軸11およびバルブプランジャー10がともに後退するが、バルブボディ4および真空弁座部材30は変圧室9に空気(大気)が導入されているので、直ぐには後退しない。これにより、バルブプランジャー10の大気弁座14が弁体12の大気弁部12aを後方に押圧するので、真空弁部12bが真空弁座13gから離座し、真空弁15が開く。すると、変圧室9が開いた真空弁15および真空通路22を介して定圧室8に連通するので、変圧室9に導入された空気は、開いた真空弁15、真空通路22、定圧室8および負圧導入口28を介して真空源に排出される。
これにより、変圧室9の圧力が低くなって変圧室9と定圧室8との差圧が小さくなるので、リターンスプリング27のばね力により、パワーピストン5、バルブボディ4および出力軸26が後退する。バルブボディ4の後退に伴い、マスタシリンダのピストンのリターンスプリングのばね力によってマスタシリンダのピストンおよび出力軸26も後退し、通常ブレーキが解除開始される。
キー部材23が図1および図2に示すようにリヤシェル3に当接すると、キー部材23は停止してそれ以上後退しなくなる。しかし、バルブボディ4、バルブプランジャー10および入力軸11が更に後退する。そして、バルブプランジャー10がキー部材23に当接してそれ以上後退しなくなり、更に、バルブボディ4のキー孔4aの前端4a1がキー部材23に当接して、バルブボディ4がそれ以上後退しなくなる。こうして、負圧倍力装置1は図1および図2に示す初期の非作動状態になる。したがって、マスタシリンダが非作動状態になってマスタシリンダ圧が消滅するとともに、ホイールシリンダも非作動状態になってブレーキ力が消滅して、通常ブレーキが解除される。
(負圧倍力装置の設定入力F0より大きな入力領域での通常ブレーキ作動時)
通常ブレーキ操作時でのブレーキペダルの通常の踏込速度でかつ負圧倍力装置1の設定入力F0より大きな入力領域で通常ブレーキ作動を行う場合には、負圧倍力装置1の入力(つまり、ペダル踏力に対応)が大きくなると、出力が所定出力より大きい出力領域となるとともに、変圧室9の圧力PVも大きくなる。
設定入力F0より大きな入力領域では、変圧室9の圧力PVと定圧室8の圧力PV0との差圧により真空弁座部材30を押圧する力FPが第1および第2弁制御スプリング18,32の各ばね力の和より大きくなるので、真空弁座部材30は第1および第2弁制御スプリング18,32を縮小して弁体12を押しながらバルブボディ4に対して後方に移動する。このため、大気弁部12aが大気弁座14から通常時より大きく離間し、大気弁16が大きく開く。したがって、図4に示すようにこの大入力領域においては、前述のようにサーボ比はサーボ比SR1より大きいサーボ比SR2となる。すなわち、負圧倍力装置1の出力が入力軸11の入力をこの大サーボ比SR2で倍力した大きさになると、前述と同様に大気弁部12aが大気弁座14に着座して大気弁16も閉じて制御弁17は中間負荷のバランス位置となる(真空弁15は、真空弁部12bが真空弁座13に着座して既に閉じている)。
したがって、制御弁17のバランス位置は後方に移動する。こうして、このような大入力領域において、ペダル踏力を大サーボ比SR2で倍力した大きなブレーキ力でブレーキが作動する。その場合、負圧倍力装置1は、この大入力領域においては、ペダル踏力つまり負圧倍力装置1の入力が大きいが、小サーボ比SR1の通常ブレーキ作動時での入力と同じ入力で、通常ブレーキ作動時より大きな出力が得られるようになる。
また、この大入力領域の作動時では、真空弁座部材30が小入力領域(設定入力F0以下の入力領域)での作動時よりバルブボディ4に対して後方にストローク量だけ移動することから、出力ストロークがこのストローク量に応じて大きくなる。すなわち、入力軸11のストロークつまりブレーキペダルのストロークが短縮される。なお、この入力軸11のストローク短縮の詳細は、国際公開2004ー101340号公報に開示されていてこの公開公報を参照すれば理解できるので、ここでは省略する。
真空弁座部材30の作動時での負圧倍力装置1の大気弁16および真空弁15がともに閉じている状態から、通常ブレーキを解除するために、ブレーキペダルを解放すると、前述の低入力領域での通常ブレーキ作動の場合と同様にして真空弁15が開き、変圧室9に導入された空気が、開いた真空弁15、真空通路22、定圧室8および負圧導入口28を介して真空源に排出される。
これにより、前述と同様に変圧室9の圧力が低下し、リターンスプリング27のばね力により、パワーピストン5、バルブボディ4および出力軸26が後退する。バルブボディ4の後退に伴い、マスタシリンダのピストンのリターンスプリングのばね力によってマスタシリンダのピストンおよび出力軸26も後退し、ブレーキが解除開始される。
変圧室9と定圧室8との差圧が小さくなって、真空弁座部材30を押圧する力FPが変圧室9の圧力PVが第1および第2弁制御スプリング18,32のばね荷重FS,fSの和より小さくなると、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して前方に相対的に移動して、真空弁座部材30は図2に示す非作動位置になる。これにより、真空弁部12bが真空弁座13gから大きく離座して真空弁15が大きく開くので、変圧室9内の空気は多く排出されて、小入力領域での通常ブレーキ作動状態になる。これ以後、前述の小入力領域での通常ブレーキ作動の場合と同様であり、最終的に負圧倍力装置1の移動した部材はすべて図2に示す非作動位置になり、通常ブレーキが解除される。
真空弁座部材30の非作動位置への戻り過程(真空弁座部材30のバルブボディ4に対する前方移動)で、真空弁座部材30がスティックを起こして第2弁制御スプリング32のばね力では前方へ移動しなくなった場合には、バルブボディ4の後退移動により真空弁座部材30の前端部30eが、リヤシェル3に当接して後退移動しないキー部材23に当接する。したがって、真空弁座部材30も後退移動が阻止される。しかし、バルブボディ4の更なる後退移動で、スティックを起こしている真空弁座部材30はバルブボディ4に対して強制的に前方へ移動するようになる。このため、真空弁座部材30は確実に図2に示す非作動位置となって真空弁が開き、負圧倍力装置1は確実に非作動位置となり、ブレーキが解除される。
(負圧倍力装置のBA作動時)
ブレーキペダルが通常ブレーキ作動時より速い踏込速度で踏み込まれて緊急ブレーキ操作が行われると、バルブボディ4に対する入力軸11およびバルブプランジャー10の前方移動が大きくなる。すると、バルブプランジャー10の係止解除部10aが筒状部材保持部材35のエッジ部35a2に当接して筒状部材保持部材35を押し開くので、前述のように筒状部材保持部材35の一対の直線係止部35b,35cとBA用筒状部材33の係止部との係止が解除される。
すると、前述のようにBA作動用スプリング34の付勢力でBA用筒状部材33が真空弁座部材30を後方に押圧しつつバルブボディ4に対して後方へ所定量移動して停止するので、真空弁座部材30および弁体12も後方に所定量移動して停止する。
このとき、ペダル踏力つまり負圧倍力装置1の入力が設定入力F0以下の小入力領域であると、負圧倍力装置1のサーボ比が小サーボ比SR1となる。また、リアクションディスク25は間隔部材24にまだ当接していないが、その後出力軸26からの反力でリアクションディスク25が膨出して間隔部材24に当接したときには、負圧倍力装置1の出力が大きくなる。したがって、図4に示すようにBA作動時のジャンピング特性のジャンピング量Jeが通常ブレーキ作動時のジャンピング量Jsより大きくなる(Je>Js)。これにより、小さなペダル踏力で大きなブレーキ力が発生する。
前述の通常ブレーキ作動時と同様にして、真空弁15および大気弁16がともに閉じた中間負荷でのバランス状態となる。このときの真空弁15および大気弁16のバランス位置は、前述の設定入力F0以下の小入力領域での通常ブレーキ作動時より、真空弁座部材30および弁体12が移動した所定量だけ後方に移動する。こうして、図4に二点鎖線で示すように設定入力F0以下の小入力領域においては、緊急ブレーキ作動時のペダル踏力を小サーボ比SR1で倍力しかつ大ジャンピング量Jeで大きくなったブレーキ力で緊急ブレーキが作動する。また、大気弁16および真空弁15がともに閉じるバランス位置が後方に移動するので、その分入力軸11のストロークが短縮され、その結果ペダルストロークが短縮する。このようにして、小さなペダル踏力および小さなペダルストロークで大きなブレーキ力が発生する。こうして、緊急ブレーキ作動時においてBA作動が行われる。
また、ブレーキペダルが通常ブレーキ作動時より速い踏込速度で踏み込まれたとき、負圧倍力装置1の入力が設定入力F0より大きな大入力領域であると、前述の設定入力F0以下の小入力領域でのBA作動時の場合と同様にして、BA用筒状部材33がバルブボディ4に対して後方に所定量移動して停止するので、真空弁座部材30および弁体12もバルブボディ4に対して後方に所定量移動して停止する。
そして、設定入力F0より大きな大入力領域では、前述の設定入力F0より大きな大入力領域での通常ブレーキ作動時の場合と同様にして、変圧室9の圧力PVと定圧室8の圧力PV0との差圧により真空弁座部材30を押圧する力FPが第1および第2弁制御スプリング18,32の各ばね力の和より大きくなるので、真空弁座部材30および弁体12がバルブボディ4に対して後方に移動する。このため、大気弁16が更に大きく開く。したがって、図4に二点鎖線で示すようにこの大入力領域においては、前述のようにサーボ比はサーボ比SR1より大きいサーボ比SR2となる。したがって、BA作動により更に大きなブレーキ力で緊急ブレーキが作動する。
(負圧倍力装置のBA作動解除時)
設定入力F0以下の小入力領域におけるBA作動後、ブレーキペダルを解放すると、バルブボディ4、パワーピストン5、バルブプランジャー10,入力軸11,出力軸26等は後退して、前述の通常ブレーキ作動の解除時と同様に図1および図2に示す非作動位置に戻る。その場合、バルブプランジャー10の係止解除部10aが筒状部材保持部材35のエッジ部35a2から離れるので、筒状部材保持部材35の一対の直線係止部35b,35cがBA用筒状部材33の係止部と係止可能な状態となる。一方、BA用筒状部材33はバルブボディ4の後退移動によりBA用筒状部材33の中間部33dがリヤシェル3に当接して後退移動しないキー部材23に当接する。したがって、BA用筒状部材33も後退移動が阻止される。しかし、バルブボディ4の更なる後退移動で、BA用筒状部材33はキー部材23によりバルブボディ4に対して強制的に前方へ移動し、非作動位置に戻る。これにより、一対の直線係止部35b,35cが筒状部材保持部材35の弾性復元力でBA用筒状部材33の係止部に係止し、BA用筒状部材33が非作動位置に保持される。
また、設定入力F0より大きな大入力領域におけるBA作動後、ブレーキペダルを解放すると、前述の設定入力F0より大きな入力領域での通常ブレーキ作動時の場合および前述の設定入力F0以下の小入力領域での緊急ブレーキ作動解除時の場合と同様にして緊急ブレーキが解除される。
そして、長期にわたるBA作動の繰り返しで、BA用筒状部材33の係止部のエッジ部に摩耗面が形成され、また一対の直線係止部35b,35cのエッジ部に摩耗面が形成されても、前述のように通常時(BA非操作時)はBA用筒状部材33が非作動位置に確実に保持されてBA作動が行われない。
このようにブレーキシステムに適用したこの例の負圧倍力装置1によれば、一対の直線係止部35b,35cにそれぞれ係止するBA用筒状部材33の係止部の係止面に隣接して、一対の直線係止部35b,35cがそれぞれそれらの摩耗に応じて進入可能な保持部材進入凹部をBA用筒状部材33に設けている。これにより、長期のBA作動の繰り返しにより筒状部材保持部材35が摩耗しても、BA用筒状部材33の係止部の係止面と直線係止部の前面との係止代を、より一層長期にわたって確保することができる。したがって、BA用筒状部材33と筒状部材保持部材35との係止耐久性が効果的に向上し、長期にわたってBA機構の作動を確実に行うことができるようになる。
なお、前述の例では、筒状部材保持部材35をU字形に形成するものとしているが、筒状部材保持部材35は、横断面が矩形状に形成された筒状部材保持部材35の前面35b1とBA用筒状部材33の係止凹部33fの前端面33f1とが面接触する、つまり、筒状部材保持部材と作動アシスト用筒状部材とが面接触で係止するものであれば、どのような形状にも形成することができる。
また、前述の例では真空弁座部材30を設けているが、この真空弁座部材30は必ずしも必要ではなく、省略できる。その場合には、BA用筒状部材33に、真空弁部12bが着座可能な真空弁座13を設けるとともに、BA非作動時には保持手段で真空弁座13をバルブボディ4に対して相対移動不能にし、またBA作動時には保持手段による保持を解除して真空弁座13をバルブボディ4に対して所定量相対移動させた後バルブボディ4に対して停止させる。この場合は、負圧倍力装置1のサーボ比は小サーボ比SRlのみとなる。
更に、前述の例では、変圧室9の圧力と定圧室の圧力との圧力差により真空弁座部材30の作動制御しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、変圧室9の圧力のみあるいは変圧室9の圧力と他の一定圧力との圧力差により、真空弁座部材30の作動を制御することもできる。更に、変圧室9の圧力に代えて、入力軸11に加えられる入力に応じた圧力により、真空弁座部材30の作動を制御することもできる。
更に、前述の例では、本発明を1つのパワーピストン5を有するシングル型の負圧倍力装置に適用しているが、本発明は複数のパワーピストン5を有するタンデム型の負圧倍力装置に適用することもできる。
更に、前述の例では、本発明の負圧倍力装置をブレーキシステムに適用しているが、負圧倍力装置を用いる他のシステムや装置に適用することができる。
1…負圧倍力装置、2…フロントシェル、3…リヤシェル、4…バルブボディ、5…パワーピストン、8…定圧室、9…変圧室、10…バルブプランジャー、10a…係止解除部、11…入力軸、12…弁体、12a…大気弁部、12b…真空弁部、13…真空弁座、14…大気弁座、15…真空弁、16…大気弁、17…制御弁、18…第1弁制御スプリング、23…キー部材、24…リアクションディスク、25…出力軸、30…真空弁座部材、32…第2弁制御スプリング、33…BA用筒状部材、33h…係止部、33h1…係止面、33i…保持部材進入凹部、33i1…前端面、34…BA作動用スプリング、35…筒状部材保持部材、35a…湾曲U字状部、35a2…エッジ部、35b,35c…直線係止部、35b1…前面、36…ブレーキアシスト機構(BA機構)、α,β,δ…摩耗面