JP4910443B2 - 塗装方法 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車ボディや自動車部品などの被塗物に鱗片状光輝性顔料を含む塗料を吹き付ける塗装方法に関する。
アルミフレークやマイカ箔などの鱗片状光輝性顔料を含む塗料の外観仕上がり性、特にメタリック感と称されるフリップフロップ性を高めるために、塗料粒子の飛行速度を高くする塗装方法が提案されている(特許文献1,2)。
塗料粒子の飛行速度を高めるには、エアー霧化式塗装ガンにあっては霧化エアーまたはパターンエアーの流量を大きくし、回転霧化式塗装ガンにあってはシェーピングエアーの流量を大きくすることで、被塗物に向かう多量の空気流れを形成して塗料粒子に速度を付与する方法が一般的に用いられている。
これは塗料粒子の衝突速度が大きいほど鱗片状光輝性顔料が基材に対して平行に配向し易くなり、これによりフリップフロップ性に優れた塗膜を得やすいという知見に基づいた塗装方法である。
しかしながら、多量のエアーを使用する従来の塗装方法では、被塗物表面に余剰の空気流れが形成され、比較的微細で軽量の塗料粒子が運び去られることにより、塗着効率が低下するといった問題があった。
たとえば、エアー霧化式塗装ガンの塗着効率は約30〜45%であり、塗着効率が高いといわれている回転霧化式塗装ガンにあってもメタリックベース塗料を塗装する場合は約60%であり、鱗片状光輝性顔料を含まないクリヤ塗料やソリッド塗料を塗装する場合の約80%の塗着効率に比べると、未だ改善の余地がある。
こうした塗着効率の低下は環境対応としてのVOC(揮発性有機化合物)削減問題にも大きく影響する。すなわち、塗着効率が低いと塗装ブースから廃棄されるVOC量が増加し、特に原液塗料を希釈するための有機溶剤の使用量が多い上塗りベース塗料の塗着効率の改善が望まれている。
さらに、多量のエアーを用いる塗装方法では、必然的に有効パターン幅が狭くなるので、塗り重ね回数を増やさざるを得ず、限られた塗装時間内に所定面積を塗装するには塗装ガンの移動速度をアップせざるを得なかった。これにより、塗装ガンが装着されたロボットの故障率が高くなるといった問題もあった。
特開2003−93965号公報 特許第2560421号公報
本発明は、鱗片状光輝性顔料含有塗料の塗着効率を高めるとともにハイソリッド化することでVOCを削減できる塗装方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明の塗装方法は、被塗物表面に鱗片状光輝性顔料を含有する塗料を霧化塗装する塗装方法であって、前記被塗物に塗着するときの前記塗料の平均粒径が前記鱗片状光輝性顔料の平均粒径以下となるように前記塗料を霧化して塗装する第1ステージと、前記第1ステージの平均粒径より大きい平均粒径となるように前記塗料を霧化して塗装する第2ステージとを有することを特徴とする。
本発明では、鱗片状光輝性顔料を含有する塗料を塗装するにあたり、第1ステージにて被塗物に塗着するときの塗料の平均粒径が鱗片状光輝性顔料の平均粒径以下となるように塗料を霧化して塗装するので、塗粒の飛行速度に関係なく、被塗物表面において鱗片状光輝性顔料がほぼ平行に配向することになる。これにより、下地隠蔽性が向上し、薄膜であっても良好なメタリック感を呈する塗膜を得ることができる。また、少量のシェーピングエアーで良好なメタリック感を呈する塗膜を得ることができるので、有効パターン幅を大きくすることができ、塗り重ね工程を少なくすることができる。
発明の実施の形態
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明が用いられる塗装工程の一例を示す工程図、図2は本発明が用いられる上塗りブースの一例を示す平面図、図3は本発明の塗装方法により塗装した積層塗膜の一例を示す塗膜断面図、図4は本発明に係る鱗片状光輝性顔料の一例を示す正面図および側面図、図5は本発明に係る塗着メカニズムを説明するための模式図、図6は回転霧化式塗装ガンを用いて鱗片状光輝性顔料を含むベース塗料を塗装したときの塗料粒子の平均粒径とメタリック感(IV値)との関係を示すグラフ、図7は回転霧化式塗装ガンを用いて鱗片状光輝性顔料を含むベース塗料を塗装したときのシェーピングエアー流量と塗着効率との関係を示すグラフ、図8は回転霧化式塗装ガンを用いて塗装したときの膜厚分布を示す図、図9は回転霧化式塗装ガンを用いて鱗片状光輝性顔料を含むベース塗料を塗装したときの塗料粒子の平均粒径と白黒隠蔽膜厚との関係を示すグラフおよび顕微鏡写真、図10は本発明に係る回転霧化式塗装ガンの一例を示す断面図、図11は本発明に係る有効パターン幅を説明するための側面図である。
最初に図1及び図3を参照しながら自動車ボディの塗装ラインとこれにより形成される積層塗膜の概要を説明すると、車体ラインで組み立てられたホワイトボディ11は、まず下塗り塗装工程に搬入される。この下塗り塗装工程では、ホワイトボディに付着した油分や鉄粉などを洗浄したのち表面調整およびリン酸亜鉛などの化成皮膜処理が施され(以上が洗浄・前処理工程)、さらに下塗り塗膜を構成する電着塗装が行われる。ポリアミン樹脂などのエポキシ系樹脂を基体樹脂とする電着塗料が塗布されたボディは、電着乾燥炉に搬入されて、たとえば160〜180℃で15分〜30分焼き付けられ、これによりボディの内外板および袋構造部に、膜厚10μm〜35μmの電着塗膜12が形成される(電着工程)。
電着塗膜12が形成されたボディは、シーリング工程(アンダーコート工程、ストーンガードコート工程を含む。)に送られて、鋼板合わせ目や鋼板エッジ部に防錆または目止めを目的とした塩化ビニル系樹脂製シーリング材が塗布される。また、アンダーコート工程では、タイヤハウスや床裏に塩化ビニル樹脂系の耐チッピング材が塗布され、ストーンガードコート工程では、シルやフェンダなどのボディ外板下部にポリエステル系又はポリウレタン系樹脂製耐チッピング材が塗布される。なお、これらシーリング材や耐チッピング材は専用の乾燥炉または次に述べる中塗り乾燥炉にて硬化することになる。
シーリング材や耐チッピング材が塗布され、内外板に電着塗膜12が形成されたボディは、次に中塗り工程に搬入される。中塗り工程は中塗りブースと中塗り乾燥炉とを有し、中塗りブースでは、ボディの内板部に、その車両の外板色に対応した内板塗装用塗料が塗布されたのち、ウェットオンウェットで外板部に中塗り塗料が塗布される。このボディは中塗り乾燥炉に搬送され、中塗り乾燥炉をたとえば130〜150℃で15分〜30分通過することにより外板部に、膜厚15μm〜35μmの中塗り塗膜13が形成され、内板部に膜厚15μm〜30μmの内板塗装用塗膜が形成される。なお、内板塗装用塗料および中塗り塗料は、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂などを基体樹脂とする塗料である。
なお、上塗り塗料が下地隠蔽力の小さい塗料であるときは、いわゆるセット中塗りとして上塗り塗料と同系色の中塗り塗料を使用したり、明度を調節した中塗り塗料を使用したりすることが従来行われているが、本例では、後述するとおり上塗りベース塗装工程の第1ステージにおける下地隠蔽力が著しく向上するので、上塗り塗料の隠蔽力が小さくてもセット中塗りなどを施さなくても良い。
中塗り塗装を終えたボディは、必要に応じてサンディングを行ったのち上塗り工程に搬送され、上塗りブースにてメタリック系外板色の場合は、上塗りベース塗料とクリヤ塗料とがウェットオンウェットで塗布される。また、ソリッド系外板色の場合は、クリヤ塗装の工程にて上塗りソリッド塗料が塗布される。上塗りベース塗料、クリヤ塗料、上塗りソリッド塗料は、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂などを基体樹脂とする塗料である。
そして、上塗り塗料が塗布されたボディは上塗り乾燥炉へ搬送され、ここでたとえば130〜150℃で15分〜30分焼き付けられ、これにより上塗り塗膜14A,14B,15が形成される。なお、クリヤ塗膜の膜厚15は、たとえば15μm〜30μm、上塗りソリッド塗膜の膜厚は、たとえば15μm〜35μmであるが、後述するとおり本発明の塗装方法を用いると、上塗りベース塗膜14A,14Bの膜厚を、従来の12μm〜15μmから8μm〜12μmに低減することができる。
最後にこの塗完ボディは、検査および手直し工程を経たのち、自動車部品が組み付けられる組立ラインへ搬送される。
以上が自動車ボディの塗装ラインの概要であるが、このうちの上塗り工程の上塗りベース塗装工程に本発明の塗装方法が好適に用いられる。
本例の塗装方法は、鱗片状光輝性顔料を含有する塗料としてアルミフレークを含有したメタリックベース塗料やマイカ箔を含有したパールベース塗料を中塗り塗膜の表面に塗装する方法において、まず第1ステージにおいて、中塗り塗膜表面に塗着するときの塗料の平均粒径が鱗片状光輝性顔料の平均粒径以下となるように塗料を霧化して塗装し、続く第2ステージにおいて、第1ステージの平均粒径より大きい平均粒径となるように塗料を霧化して塗装する。
特に、第1ステージで塗装される上塗りベース塗料の希釈後の固形分濃度が30〜35重量%程度のハイソリッドであることが好ましい。一般的に、塗料原液の固形分は45〜50重量%であるが、このまま塗装すると微粒化が困難であり、また塗着粘度も高くなるので塗膜の平滑性が確保できない。このため、被塗物に塗装する際は塗料原液を有機溶剤(水系塗料の場合は水)で固形分が25〜30重量%になるまで希釈して塗装する。これに対して、本例では、後述するとおりベルカップを高回転させることで超微粒化させて塗装できるので、第1ステージにて塗布する塗料の固形分を30〜35重量%までハイソリッド化することができる。これにより、有機溶剤の含有量が濃度的に減少するので塗装工場から廃棄されるVOC量を低減することができる。なお、第2ステージにて塗布する上塗りベース塗料の固形分は25〜30重量%である。
また、本例の第1ステージで塗装される上塗りベース塗料は、主として中塗り塗膜13に対する下地隠蔽を目的とするので、第1ステージで塗装される上塗りベース塗料に含まれる鱗片状光輝性顔料は、廉価なアルミニウム粉末を用いることが好ましい。
さらに、上塗りベース塗料の塗色(色目)に拘らず、本例の第1ステージで塗装する塗料をシルバー色系の上塗りベース塗料に統一することもできる。ただし、上塗り塗色が濃彩色であるときのように下地隠蔽が困難な場合には、第2ステージにて塗布される本来の上塗りベース塗料を用いてもよい。
また、一般的に上塗りベース塗料を塗装する場合、塗料を霧化するための塗装ガンとして回転霧化式塗装ガンやエアー霧化式塗装ガンの何れも用いることができるが、本例の第1ステージでは、塗料粒径を20μm以下程度まで超微粒化する必要があるので回転霧化式塗装ガンを用いることが好ましい。
また、本例の第1ステージにおいて、中塗り塗膜表面に塗着するときのベース塗料の粒径が鱗片状光輝性顔料の平均粒径とほぼ等しいかそれ以下であれば塗料の飛行速度は特に限定されないが、塗着効率の観点からは塗料の塗着時の飛行速度を5m/秒未満とすることが好ましい。
また、上塗りベース塗膜14A,14Bの総膜厚は8μm〜12μmであることが好ましく、これを第1ステージにて5±1μm、第2ステージで5±1μmとして塗り分けることが好ましい。本例では、第1ステージにて形成される上塗りベース塗膜14Aの下地隠蔽力が大きいので、上塗りベース塗膜14A,14Bの総膜厚は塗膜性能が確保できる最小限まで薄膜化することができる。
なお、メタリック塗料およびパールベース塗料は、有機溶剤系塗料に限定されず水系塗料であっても良い。水系塗料であるときは特に本発明の効果が大きい。有機溶剤系塗料は飛行中に溶剤分が蒸発して塗着直前の粒径がやや小さくなるが、水系塗料はあまり変化しないからである。
ところで、本例に係るベース塗料中に含まれる光輝性顔料1は、図4に示すように鱗片状をなすものであり、平面視における実質面積を円2に換算したときの半径Rを本発明にいう平均粒径と定義する。すなわち、本発明にいう鱗片状光輝性顔料の平均粒径とは、同図に示す厚さtではなく、主面の平均直径Rを意味するものとする。本例に係るベース塗料中に含まれる光輝性顔料の平均粒径Rは一般的には10〜30μm程度であり、厚みは0.2〜1μm程度である。したがって、含有する鱗片状光輝性顔料の主面の平均直径が20μmであるときは、塗料の塗着時の粒径を20μm以下に微粒化して塗装する。
ここで、塗料粒子の平均粒径は、塗料の吐出量と回転霧化塗装ガンのベルカップの周速度によって制御することができるが、塗料の吐出量は目標膜厚により制御範囲に限界があるため、本例ではベルカップの周速度(ベルカップの直径が一定ならばベルカップの回転数)を制御する。
なお、塗着時の粒径は、レーザー光散乱方式の粒子径測定装置を用いて測定することができる。またこの測定と校正をとった画像処理計測システムを用いることもできる。後者の方法では、ガラス板にフッ素系界面活性剤を薄膜に塗布し、その板を1秒くらいの時間、被塗物表面に暴露する。このようにして捕集した塗料粒子を顕微鏡で拡大してその粒子径を測定することによって容易に測定することができる。本発明においては、このようにして測定した塗料粒子径の重量平均粒径を塗料粒子の平均粒径として用いている。
本例によれば、アルミフレークやマイカ箔のような鱗片状光輝性顔料を含むベース塗料を塗装するにあたり、塗着時(もしくは塗着直前)の塗料粒子の平均粒径が光輝性顔料の平均粒径よりも小さくすることにより、多量もしくは高速のエアー流れを形成することなく、光輝性顔料の配向を良好にでき、もって塗膜仕上がり外観を良好にできるとともに、塗着効率を高めることができる。
このように、高速のエアー流れがない場合の、塗料の粒子径と光輝性顔料の配向との関係はこれまで知られていなかったが、塗料粒子径が小さく、特に光輝性顔料の平均粒径と同等もしくはそれ以下の粒子径になった場合に、顕著な効果を発揮することから、本発明者らは、塗料粒子径が小さい場合の光輝性顔料の配向には特別な作用があるとの結論に至った。
すなわち、塗料粒子が塗着したときの表面張力が、光輝性顔料の配向を支配する要因であるとの結論である。つまり、微粒化されて飛行途中にある塗料粒子の内部では、光輝性顔料の方向性は定まらず被塗物に対してランダムになっていると予想される。ところが、塗料粒子が塗着した場合には、既に塗着して被塗物表面を覆っている塗料と融合する際に、表面張力によって表面を平滑にする効果があるが、本例の塗装方法によれば、塗着した塗料粒子にほぼ同程度の大きさの鱗片状光輝性顔料が含まれているため、光輝性顔料は表面張力によって塗料表面と平行に引っ張られると推察される。この表面張力による配向では、塗料粒子の衝突速度を高めることで塗料粒子を被塗物表面で押し潰すのと同程度の力が作用していると考えられる。
これに対し、光輝性顔料の平均粒径よりも大きな平均粒径の塗料粒子で塗装した場合には、塗料粒子が表面張力で平滑になるように流動しても、その塗料粒子の内部で光輝性顔料が配向の自由度をある程度有しているため、被塗物の表面と完全には平行にならないと考えられ、これにより光輝性顔料の配向が不十分になると推察される。
また、塗料粒子の平均粒径が光輝性顔料の平均粒径よりもはるかに小さくなった場合には、光輝材が単独で塗着するのと同視できることから、やはり配向が良好になると考えられる。すなわち光輝性顔料が単独で被塗物に塗着する場合には、光輝性顔料は最も広い面、すなわち鱗片状光輝性顔料の主面(平面部)で被塗物に塗着することが最も安定であると考えられ、これにより鱗片の主面が被塗物と平行に配向することになり、良好なメタリック感を呈する塗膜仕上がり外観を得ることができる。
この様子を図5(A)〜(C)に示す。同図において、符号1が鱗片状光輝性顔料、符号3が塗料粒子、符号4が被塗物であり、同図(A)はそれぞれ鱗片状光輝性顔料1を含有する2つの塗料粒子3が被塗物4に向かって飛行している状態を示す。同図(A)の下側の塗料粒子3が被塗物4の表面に到着すると、同図(B)に示すように塗料粒子3が被塗物4の表面に沿ってその表面張力により平滑になろうと流動して放射状に広がる。このとき、塗料粒子3に含まれた光輝性顔料1は、塗料粒子3の粒径が自分の粒径より小さいので塗料粒子3の内部で自由度をもつことができず、光輝性顔料1の主面が被塗物4の表面に沿って動くことになる。そして、同図(C)に示すように、塗料粒子3が被塗物4の表面に広がると光輝性顔料1も被塗物4の表面に平行に配向した状態で塗料粒子3の内部に包含されることになる。このような塗着メカニズムによって、各塗料粒子3が被塗物4の表面に堆積し塗膜を形成するので、光輝性顔料1が被塗物4の表面に平行に配向した塗膜を得ることができる。
図6は、回転霧化式塗装ガンを用いて平均粒径が22μmの鱗片状光輝性顔料を含むベース塗料を塗装したときの塗料粒子の平均粒径とメタリック感(IV値,IV値が大きいとメタリック感も大きい。)との関係を検証したグラフであり、回転霧化式塗装ガンのシェーピングエアー流量を100〜500NL/分としたものである。これによれば、シェーピングエアー流量が200NL/分であっても塗料粒子の平均粒径を22μm以下にすれば、メタリック感IV値を200以上に高められることが理解される。したがって、本例の第1ステージでは、塗料の種類に応じてシェーピングエアー流量を100〜200NL/分の範囲で制御する。
勿論、シェーピングエアー流量を400NL/分以上にすれば、塗料粒子の平均粒径が30μmと大きくてもIV値が200以上のメタリック感を得ることができるが、シェーピングエアー流量を大きくすると塗着効率が低下するという問題がある。
図7は、回転霧化式塗装ガンを用いて平均粒径が22μmの鱗片状光輝性顔料を含むベース塗料を塗装したときのシェーピングエアー流量と塗着効率との関係を検証したグラフであり、塗料の吐出量を50〜200cc/分としたものである。これによれば、シェーピングエアー流量を200NL/分以下に抑えれば吐出量100〜200cc/分において塗着効率を80%以上に高めることができる。これに対して、上述したシェーピングエアー流量が400NL/分であると吐出量が200cc/分であっても80%未満となる。
このように本例の第1ステージでは、特許文献1,2のようにシェーピングエアー流量を大きくしなくても、メタリック感を容易に現出させることができるため、シェーピングエアー流量を抑制することで高い塗着効率を得ることが容易になり、クリヤ塗装や中塗り塗装とほぼ同等の塗着効率を実現することができる。
さらに、回転霧化静電塗装機で塗装する場合には、光輝性顔料を含む塗料の塗装でありながら任意のシェーピングエアー流量を選択することができ、塗装パターン幅を自由に設定できるという付随効果がある。
さらに、本例の付随的な効果として、回転霧化式塗装ガンのシェーピングエアー流量を少なくすることにより、パターン分布を比較的フラットにすることができる。ここでいうパターン分布とは、塗装ガンを被塗物表面に沿って動かした場合の、塗装ガンの進行方向と直交する方向の膜厚分布のことであるが、通常の回転霧化式塗装ガンでは、図8に点線で示すように膜厚のピークが2つ現れる、いわゆる2コブラクダ型の膜厚分布になることが一般的であり、多量のシェーピングエアー流量を使用するメタリックベース塗装ではその傾向が顕著に現れる。
しかし、本例によれば、同図に実線で示すように、シェーピングエアー流量を200NL/分程度以下に抑制することでパターン分布がほぼ平坦な台形型にすることができるため、部位による膜厚の差異(ムラと称する)に起因するいわゆるメタリックムラの発生がほぼなくなるという効果が得られる。
さらに、本例の別の効果として、既述したとおりメタリックベース塗料を用いた場合には下地隠蔽膜厚を薄くできる。これはアルミフレークのような不透明な光輝性顔料の場合には、微粒化が進んで平均粒径が小さくなるにつれて光輝性顔料の配向性が良くなるだけでなく、被塗物表面に均一に塗着する傾向があるからである。
このことは、塗料粒子の平均粒径が小さくなるほど粒子の個数が増え、塗着回数が増える結果、被塗物表面の部位による塗着量の不均一性がなくなること、すなわち膜厚の均一性が図れることを意味している。この効果を利用すればメタリックベース塗料の吐出量そのものを少なくすることができ、塗装コストを引き下げることができ、またVOC削減も達成できるという効果がある。
図9は、回転霧化式塗装ガンを用いて平均粒径が22μmの鱗片状光輝性顔料を含むベース塗料を塗装したときの塗料粒子の平均粒径と白黒隠蔽膜厚との関係を検証したグラフおよび顕微鏡写真であり、塗料粒子の平均粒径を20μmまで小さくすると、塗料粒子の平均粒径が56μmである場合に比べて、白黒隠蔽膜厚が半分近くまで低減される。
以上の特徴を利用した上塗り工程の一例を図2に示す。また、本実施形態で用いられる回転霧化式塗装ガンの一例を図10に示す。さらに、回転霧化式塗装ガンによる有効パターンの説明を図11に示す。
最初に、本実施形態で用いられる回転霧化式塗装ガンについて説明すると、本実施形態の回転霧化式静電塗装ガン5は、図10に示すように、ハウジング510内に回転軸520がエアーモータ511により回転可能に支持されており、この回転軸520の先端にベルカップ530がベルハブ部534において固定されている。本例のベルカップ530は、直径が50mmとされ、塗装時において、20,000〜90,000rpmの回転数、周速度に換算して約50〜240m/secで回転する。本例の塗装ガン5は、回転数調節器512により、この回転数がたとえば20,000rpm〜90,000rpmの間の所望の回転数で切替可能となっている。この回転数調節器512が本発明に係る周速度調節器に相当する。
また、ベルカップ530の内周面532とベルハブ部534との隙間には、複数の塗料孔536が開設されており、塗料供給系551から圧送されて、回転軸520に挿通された塗料ノズル550の先端からベルハブ部534の裏面に供給された塗料は、これらの塗料孔536を通ってベルカップ530の内周面532に導かれることになる。なお、図示は省略したが、ベルカップ530の内周面532の先端には、内周面532に沿って液膜状に広がった塗料Pを微粒化するための、微細な凹凸が形成されている。また、図示しない印加電圧回路は回転軸520に電気的に接続され、当該回転軸520を介してベルカップ530に例えば−60kV程度の直流電圧が印加される。
本実施形態の回転霧化静電塗装ガン5では、ハウジング510とベルカップ530との間にエアーガイド540が固定されており、このエアーガイド540の外表面に全周にわたってエアー誘導面542が形成されている。このエアーガイド540は、ハウジング510に対してOリング等を介して挿入されるが、このときハウジング510にねじ込むことでハウジング510側に固定される。
ハウジング510とハウジングカバー514との間には環状のエアー通路516が形成され、この環状のエアー通路516は、エアーガイド540に形成された複数のエアー通路544に連通されている。さらにこのエアー通路544は、後述するエアー吹出口546に連通されている。
本実施形態のエアー吹出口546は、エアーガイド540のエアー誘導面542を内周面としハウジングカバー514の内面を外周面とする円環状のスリットで構成されている。すなわち、エアーガイド540をハウジング510にねじ込んだのち、このエアーガイド540の外側にハウジングカバー514をねじ込むことにより、当該ハウジングカバー514とエアーガイド540のエアー誘導面542との間にスリット状のエアー吹出口546を形成し、エアー通路544および516から供給されたシェーピングエアーをこのエアー吹出口546からベルカップ530に向けて環状に吹き出す。
本例では、このエアー吹出口546から吹き出されるシェーピングエアー(shaping air)SAの流量は、エアーレギュレータなどで構成されるシェーピングエアー流量調節器560によって、たとえば50NL/分、100NL/分、150NL/分、200NL/分、250NL/分…のように多段階(ディジタル的)または50〜600NL/分の間を連続的(アナログ的)に調節可能とされている。
さらに、シェーピングエアー流量調節器560と回転数調節器512は制御装置570により制御される。なお、制御装置570に、演算装置と記憶装置とを設け、生産管理システムから送出されてきた自動車ボディの塗色仕様を取り込んで、この塗色の塗料に対応したシェーピングエアー流量とベルカップの回転数を記憶装置から読み出し、シェーピングエアー流量調節器560と回転数調節器512のそれぞれにデータを送出するようにしても良い。
この場合、制御装置570の記憶装置には、塗色の塗料のそれぞれに対応したシェーピングエアー流量とベルカップの回転数のデータがマップ化されており、たとえばその塗料に含まれる鱗片状光輝性顔料の平均粒径及び含有濃度に応じたベルカップの回転数が予め設定され、またその塗色の塗料に応じた有効パターン幅となるようにシェーピングエアー流量が予め設定されている。
なお、生産管理システムから送出される塗色データは塗料供給系551にも送られ、これにより色替え操作が実行される。
以上の説明では、図2の上塗りベース第1ステージに設けられる回転霧化式塗装ガン5と、第2ステージに設けられる回転霧化式塗装ガン5を同じ仕様で説明したが、少なくとも第1ステージに設けられる回転霧化式塗装ガン5は、ベルカップ530の周速度に換算して180〜240m/sec(直径50mmのベルカップの場合は回転数が70,000〜90,000rpm)の範囲で回転制御することができ、またシェーピングエアー流量が100〜200NL/minの範囲で制御可能であることが望ましい。また、第2ステージに設けられる回転霧化式塗装ガン5は、ベルカップ530の周速度に換算して50〜110m/sec(直径50mmのベルカップの場合は回転数が20,000〜40,000rpm)の範囲で回転制御することができ、またシェーピングエアー流量が500〜600NL/minの範囲で制御可能であることが望ましい。
以上の回転霧化式塗装ガン5は、図2に示す塗装ブース6の上塗りベース第1ステージと第2ステージにそれぞれ設置される。同図に示す例では、上塗りベース第1及び第2ステージのそれぞれに左右2基の塗装ロボットRBが配置され、この塗装ロボットRBのハンドに回転霧化式塗装ガン5がそれぞれ設けられている。また、フラッシュオフゾーンを挟んで、クリヤ塗装ステージにも左右2基の塗装ロボットRBが配置され、この塗装ロボットRBにもそれぞれ回転霧化式塗装ガン5が設けられている。
既述したとおり、上塗りベース第1ステージにおいて上塗りベース塗料を塗装する場合、本例の塗装方法によれば、(1) シェーピングエアー流量を大きくしなくても、メタリック感を容易に現出させることができるため、シェーピングエアー流量を抑制することで高い塗着効率を得ることができること、(2) シェーピングエアー流量を少なくすることにより、有効パターン幅を拡大することができること、(3)シェーピングエアー流量を少なくすることによりパターンの膜厚分布を比較的フラットにすることができること、(4)鱗片状光輝性顔料が被塗物表面に平行に配向して下地隠蔽力が高まる結果、上塗りベース塗膜を30%程度薄膜化できること、などの効果があることから、上塗りベース第1ステージにおいて塗り重ね回数を少なくすることができる。
また本例の第1ステージにおいて、シェーピングエアー流量を100〜200NL/分程度に少なくすることで、有効パターン幅を拡大することができる。ここで、有効パターン幅とは、ガン距離を300mmとしたときの回転霧化式塗装ガン5によって塗装したパターン幅のうち、その平均膜厚が50%以上のパターン幅をいうものとする(図11参照)。本例の第1ステージにおいては、各塗装ロボットRBに設けられた塗装ガン5の有効パターン幅を、従来の400mm前後に対して、たとえば800mm±50mmに設定する。
こうすることで、たとえば自動車ボディの水平面(主としてフード、ルーフ、トランクリッドなど)を塗装する場合には、自動車ボディの車幅は1550〜1850mmであるため、車幅ぶんの塗装範囲が2基の塗装ガンで均等に塗装できるように配置すれば、塗装ガンを車両左右方向に往復移動させなくても、車両前後方向に相対移動させるだけで水平面を塗装することができる。また、自動車ボディの垂直面(主としてフロントフェンダ、ドア、リヤフェンダなど)を塗装する場合には、自動車ボディのドアベルトラインからシルアウタまでの高さは700〜900mmであるため、高さ方向の塗装範囲の中心に1基の塗装ガンを配置すれば、塗装ガンを車両上下方向に往復移動させなくても、車両前後方向に相対移動させるだけで垂直面を塗装することができる。
なお、上塗りベース第2ステージにおいては、上塗り塗膜の色彩、平滑性などを目標値以上にするために、固形分が25〜30重量%となるように塗料原液を希釈した希釈塗料を、吐出量が約200cc/min、ベルカップの周速度が50〜110m/sec(直径50mmのベルカップの場合は回転数が20,000〜40,000rpm)、シェーピングエアー流量が500〜600NL/minという条件で、第1ステージによる塗膜の表面にウェットオンウェットで塗装する。
なお、以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
本発明が用いられる塗装工程の一例を示す工程図である。 本発明が用いられる上塗りブースの一例を示す平面図である。 本発明の塗装方法により塗装した積層塗膜の一例を示す塗膜断面図である。 本発明に係る鱗片状光輝性顔料の一例を示す正面図および側面図である。 本発明に係る塗着メカニズムを説明するための模式図である。 回転霧化式塗装ガンを用いて鱗片状光輝性顔料を含むベース塗料を塗装したときの塗料粒子の平均粒径とメタリック感(IV値)との関係を示すグラフである。 回転霧化式塗装ガンを用いて鱗片状光輝性顔料を含むベース塗料を塗装したときのシェーピングエアー流量と塗着効率との関係を示すグラフである。 回転霧化式塗装ガンを用いて塗装したときの膜厚分布を示す図である。 回転霧化式塗装ガンを用いて鱗片状光輝性顔料を含むベース塗料を塗装したときの塗料粒子の平均粒径と白黒隠蔽膜厚との関係を示すグラフおよび顕微鏡写真である。 本発明に係る回転霧化式塗装ガンの一例を示す断面図である。 本発明に係る有効パターン幅を説明するための側面図である。
符号の説明
1…鱗片状光輝性顔料
3…塗料粒子
4…被塗物
5…塗装ガン
512…回転数調節器(周速度調節器)
560…シェーピングエアー流量調節器
570…制御装置(制御手段)

Claims (5)

  1. 被塗物表面に鱗片状光輝性顔料を含有する塗料を霧化塗装する塗装方法であって、
    前記被塗物に塗着するときの前記塗料の平均粒径が前記鱗片状光輝性顔料の平均粒径以下となるように前記塗料を霧化して塗装する第1ステージと、
    前記第1ステージの平均粒径より大きい平均粒径となるように前記塗料を霧化して塗装する第2ステージとを有し、
    前記第1ステージで塗装される塗料の希釈後の固形分濃度が30〜35重量%であることを特徴とする塗装方法。
  2. 被塗物表面に鱗片状光輝性顔料を含有する塗料を霧化塗装する塗装方法であって、
    前記被塗物に塗着するときの前記塗料の平均粒径が前記鱗片状光輝性顔料の平均粒径以下となるように前記塗料を霧化して塗装する第1ステージと、
    前記第1ステージの平均粒径より大きい平均粒径となるように前記塗料を霧化して塗装する第2ステージとを有し、
    前記第1ステージで塗装される塗料に含まれる鱗片状光輝性顔料がアルミニウム粉末であることを特徴とする塗装方法。
  3. 被塗物表面に鱗片状光輝性顔料を含有する塗料を霧化塗装する塗装方法であって、
    前記被塗物に塗着するときの前記塗料の平均粒径が前記鱗片状光輝性顔料の平均粒径以下となるように前記塗料を霧化して塗装する第1ステージと、
    前記第1ステージの平均粒径より大きい平均粒径となるように前記塗料を霧化して塗装する第2ステージとを有し、
    前記第1ステージで塗装される塗料がシルバー色系塗料であることを特徴とする塗装方法。
  4. 被塗物表面に鱗片状光輝性顔料を含有する塗料を霧化塗装する塗装方法であって、
    前記被塗物に塗着するときの前記塗料の平均粒径が前記鱗片状光輝性顔料の平均粒径以下となるように前記塗料を霧化して塗装する第1ステージと、
    前記第1ステージの平均粒径より大きい平均粒径となるように前記塗料を霧化して塗装する第2ステージとを有し、
    前記塗料が上塗りベース塗料であり、前記第1ステージで形成される塗膜の膜厚が5±1μm、前記第2ステージで形成される塗膜の膜厚が5±1μmであることを特徴とする塗装方法。
  5. 被塗物表面に鱗片状光輝性顔料を含有する塗料を霧化塗装する塗装方法であって、
    前記被塗物に塗着するときの前記塗料の平均粒径が前記鱗片状光輝性顔料の平均粒径以下となるように前記塗料を霧化して塗装する第1ステージと、
    前記第1ステージの平均粒径より大きい平均粒径となるように前記塗料を霧化して塗装する第2ステージとを有し、
    前記第1ステージにて上塗りベース塗料を塗装し、ウェットオンウェットで前記第2ステージにて上塗りベース塗料を塗装し、その後、これら第1及び第2ステージで塗装した塗膜を同時に焼き付けることを特徴とする塗装方法。
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