本発明者らは、前記課題に対して、特願2005−60614号を出願した。当該出願に係わる偏光子によれば、高透過率、かつ高偏光度を有し、黒表示の際の透過率のムラを抑えることができる偏光子を提供できる。
本発明は、高透過率、かつ高偏光度を有し、黒表示の際の透過率のムラを抑えることができ、かつ加熱時の長期耐久性が良好な偏光子、その製造方法、偏光板の製造方法を提供することを目的とする。
また本発明は、前記製造方法により得られた偏光子、偏光板、光学フィルムを提供することを目的とする。さらには当該偏光子、偏光板、光学フィルムを用いた画像表示装置を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下に示す各製造方法により前記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、二色性吸収材料を含有する透光性樹脂により形成されるマトリクス中に、エネルギー線で硬化可能な重合性官能基を有し、かつ液晶性を有する複屈折材料により形成され、配向された微小領域が分散された構造のフィルムからなる偏光子の製造方法であって、
透光性樹脂に、エネルギー線で硬化可能な重合性官能基を有し、かつ液晶性を有する複屈折材料が分散された混合溶液を製造する工程(1)、
前記(1)の混合溶液をフィルム化する工程(2)、
前記(2)で得られたフィルムを配向する工程(3)、
前記マトリクスとなる透光性樹脂に、二色性吸収材料を分散させる工程(4)、
および前記工程(3)の後に、フィルムの両面から、前記液晶性を有する複屈折材料の配向を固定化するためのエネルギー線照射工程(5)を含み、かつ、
前記液晶性を有する複屈折材料中の重合性官能基の残存率が1%以下であることを特徴とする偏光子の製造方法、に関する。
上記本発明の偏光子は、透光性樹脂と二色性吸収材料で形成される偏光子をマトリクスとし、また前記マトリクス中に、微小領域を分散させている。配向された微小領域は液晶性を有する複屈折材料により形成されている。このように二色性吸収材料による吸収二色性の機能に加えて、散乱異方性の機能を合わせ持たせることにより、2つの機能の相乗効果によって偏光性能が向上し、透過率と偏光度を両立した視認性の良好な偏光子を得ている。
異方散乱の散乱性能は、マトリクスと微小領域の屈折率差に起因する。微小領域を形成する材料が、たとえば、液晶性材料であれば、マトリクスの透光性樹脂に比べて、Δnの波長分散が高いため、散乱する軸の屈折率差が短波長側ほど大きくなり、短波長ほど散乱量が多い。そのため、短波長ほど偏光性能の向上効果が大きくなり、ヨウ素系偏光子のもつ短波長側の偏光性能の相対的低さを補って、高偏光かつ色相がニュートラルな偏光子を実現できる。
上記偏光子については、特願2003−329744号(ヨウ素系)、特願2003−312239号(染料系)を出願している。上記偏光子では、フィルムのマトリクス部分が配向(延伸)されることにより微小領域を形成する液晶性材料に応力がかかって延伸軸方向に配向するが、マトリクスと液晶性材料の種類や延伸温度、延伸速度などの延伸条件によっては液晶性材料にかかる応力も異なり、延伸等だけでは液晶性材料を完全に配向させることが難しい。液晶性材料の配向が不完全な部分は液晶性材料が等方状態となってしまい、異方性散乱の効果が現れないばかりか、偏光解消が起こり偏光子としての特性が劣ってしまう場合がある。
そこで本発明では、上記偏光子における微小領域として、エネルギー線で硬化可能な液晶性材料を用いた場合に、その配向性をさらに高めるため、エネルギー線照射工程を設けている。前記液晶性材料が、液晶性熱可塑樹脂の場合には、延伸時に配向させた後、室温に冷却させることにより配向が固定化され安定化される。液晶性材料は、配向していれば目的の光学特性が発揮されるため、必ずしも硬化している必要はない。だたし、エネルギー線で硬化可能な液晶性材料で等方転移温度が低いものは、少し温度がかかることにより等方状態になってしまう。こうなると異方散乱でなくなって、逆に偏光性能が悪くなるので、このような場合には硬化させるのが好ましい。またエネルギー線で硬化可能な液晶性材料には室温で放置すると結晶化するものが多くあり、こうなると異方散乱でなくなって、逆に偏光性能が悪くなるので、このような場合にも硬化させるのが好ましい。かかる観点からすれば、配向状態をどのような条件下においても安定に存在させるためには、前記液晶性材料を硬化することが好ましい。
また、配向の固定化は、高温下や加湿したなどの厳しい環境条件でも配向の乱れが発生しないように、液晶性を有する複屈折材料が有するエネルギー線で硬化可能な重合性官能基は、十分に消失していることが好ましい。前記重合性官能基が多数存在する場合には、液晶性材料の運動性が維持されており、一旦配向しても熱や応力の緩和により配向乱れが生じ、本来透過する偏光が散乱し白濁したり、入射偏光が崩れたり、散乱効率が添加するなどの問題が生じるおそれがある。かかる観点から、本発明では、前記液晶性材料の重合性官能基の残存率が1%以下になるように制御している。前記液晶性材料の重合性官能基の残存率は、好ましくは0.6%以下、より好ましくは0.1%以下である。
前記偏光子の微小領域は、微小領域を形成する材料と、透光性樹脂との屈折率差が、最大値を示す軸方向を△n1方向、△n1方向と直交する方向を△n2方向とする場合、△n2方向の長さが0.05〜500μmであることが好ましい。
前記偏光子は、当該偏光子を形成するフィルムが、光重合開始剤を含むことが好ましい。
前記偏光子の製造方法としては、
透光性樹脂に、エネルギー線で硬化可能な重合性官能基を有し、かつ液晶性を有する複屈折材料が分散された混合溶液を製造する工程(1)、
前記(1)の混合溶液をフィルム化する工程(2)、
前記(2)で得られたフィルムを配向する工程(3)、
前記マトリクスとなる透光性樹脂に、二色性吸収材料を分散させる工程(4)、
および前記工程(3)の後に、フィルムの両面から、前記液晶性を有する複屈折材料の配向を固定化するためのエネルギー線照射工程(5)を含む方法があげられる。
前記工程(5)において、フィルムの両面から、前記液晶性材料にエネルギー線照射することで、前記液晶性材料の重合性官能基の残存率を1%以下になるように効率的に制御することができる。なお、フィルムの片面のみから高照射量のエネルギー線照射により、前記液晶性材料を硬化して固定化しても、加熱耐久性を満足させることはできず、かえって、高照射量のエネルギー線照射により、偏光子そのものに影響を及ぼし、クロスニコルの状態において赤変したりするおそれがある。例えば、ヨウ素系吸光体は、熱・外部エネルギーにより変動を受けやすくなる場合がある。またエネルギー線の照射量が多い場合には、内部に発生した熱の影響により、形成されたヨウ素錯体の構造が崩れ、吸収能が変化する可能性がある。
前記偏光子の製造方法において、混合溶液は、光重合開始剤を含むことができる。
また本発明は、前記偏光子の少なくとも片面に、透明保護層を設けた偏光板に関する。さらに本発明は前記偏光子または偏光板が、少なくとも1枚積層されていることを特徴とする光学フィルムに関する。
また本発明は、二色性吸収材料を含有する透光性樹脂により形成されるマトリクス中に、エネルギー線で硬化可能な重合性官能基を有し、かつ液晶性を有する複屈折材料により形成され、配向された微小領域が分散された構造のフィルムからなる偏光子の少なくとも片面に、透明保護層を、接着剤を介して貼り合わせて偏光板を製造する方法であって、
前記貼り合わせ後に、偏光板の両面から、前記液晶性を有する複屈折材料の配向を固定化するためのエネルギー線照射工程を含み、
前記エネルギー線照射された液晶性を有する複屈折材料は、重合性官能基の残存率が1%以下であることを特徴とする偏光板の製造方法、に関する。
上記本発明の偏光子と透明保護層を接着剤を介して貼り合わせて偏光板を製造する際に、貼り合わせ後にエネルギー線照射工程を設けることにより、偏光子の配向性を高めた偏光板を得ることができる。この場合にも、偏光子の両面から、前記液晶性材料にエネルギー線照射することで、前記同様に、前記液晶性材料の重合性官能基の残存率を1%以下になるように効率的に制御して、加熱耐久性を満足させることができる。
また本発明は前記製造方法により得られた偏光板に関する。さらには前記偏光板が、少なくとも1枚積層されていることを特徴とする光学フィルムに関する。
また、二色性吸収材料を含有する透光性樹脂により形成されるマトリクス中に、エネルギー線で硬化可能な重合性官能基を有し、かつ液晶性を有する複屈折材料により形成され、配向された微小領域が分散された構造のフィルムからなる偏光子または当該偏光子の少なくとも片面に透明保護層を設けた偏光板と、光学フィルムとを接着剤または粘着剤を介して貼り合わせて積層光学フィルムを製造する際に、前記貼り合わせ後に、偏光子の両面から、前記液晶性を有する複屈折材料の配向を固定化するためのエネルギー線照射工程を設け、前記エネルギー線照射された液晶性を有する複屈折材料の重合性官能基の残存率が1%以下にすることもできる。
上記のように、偏光子または当該偏光子を用いた偏光板と光学フィルムとを接着剤を介して貼り合わせて積層光学フィルムを製造する際に、貼り合わせ後にエネルギー線照射工程を設けることにより、偏光子の配向性を高めた積層光学フィルムを得ることができる。この場合にも、偏光子の両面から、前記液晶性材料にエネルギー線照射することで、前記同様に、前記液晶性材料の重合性官能基の残存率を1%以下になるように効率的に制御して、加熱耐久性を満足させることができる。
さらに本発明は、前記偏光子、偏光板または光学フィルムが用いられていることを特徴とする画像表示装置、に関する。
(偏光子の特性)
前記偏光子は、微小領域の複屈折が0.02以上であることが好ましい。微小領域に用いる材料は、より大きい異方散乱機能を獲得するという観点から前記複屈折を有するものが好ましく用いられる。
また前記偏光子の微小領域を形成する複屈折材料と、透光性樹脂との各光軸方向に対する屈折率差は、
最大値を示す軸方向における屈折率差(△n1)が0.03以上であり、
かつ△n1方向と直交する二方向の軸方向における屈折率差(△n2)が、前記△n1の50%以下であることが好ましい。
各光軸方向に対する前記屈折率差(△n1)、(△n2)を、前記範囲に制御することで、米国特許第2123902号明細書で提案されるような、△n1方向の直線偏光のみを選択的に散乱させた機能を有する散乱異方性フィルムとすることができる。すなわち、△n1方向では屈折率差が大きいため、直線偏光を散乱させ、一方、△n2方向では屈折率差が小さいため、直線偏光を透過させることができる。なお、△n1方向と直交する二方向の軸方向における屈折率差(△n2)はともに等しいことが好ましい。
散乱異方性を高くするには、△n1方向の屈折率差(△n1)を、0.03以上、好ましくは0.05以上、特に好ましくは0.10以上とするのが好ましい。また△n1方向と直交する二方向の屈折率差(△n2)は、前記△n1の50%以下、さらには30%以下であるのが好ましい。
前記偏光子の二色性吸収材料は、当該材料の吸収軸が、△n1方向に配向していることが好ましい。
マトリクス中の二色性吸収材料を、その材料の吸収軸が前記△n1方向に平行になるように配向させることにより、散乱偏光方向である△n1方向の直線偏光を選択的に吸収させることができる。その結果、入射光のうち△n2方向の直線偏光成分は、異方散乱性能を有しない従来型偏光子と同じく、散乱されることなく透過する。一方、△n1方向の直線偏光成分は散乱され、かつ二色性吸収材料によって吸収される。通常、吸収は、吸収係数と厚みによって決定される。このように光が散乱された場合、散乱がない場合に比べて光路長が飛躍的に長くなる。結果として△n1方向の偏光成分は従来の偏光子と比べ、余分に吸収される。つまり同じ透過率でより高い偏光度が得られる。
以下、理想的なモデルについて詳細に説明する。一般に直線偏光子に用いられる二つの主透過率(第1主透過率k1(透過率最大方位=△n2方向の直線偏光透過率)、第2主透過率k2(透過率最小方向=△n1方向の直線偏光透過率))を用いて以下議論する。
市販のヨウ素系偏光子では二色性吸収材料(ヨウ素系吸光体)が一方向に配向しているとすれば、平行透過率、偏光度はそれぞれ、
平行透過率=0.5×((k1)2+(k2)2)、
偏光度=(k1−k2)/(k1+k2)、で表される。
一方、本発明の偏光子では△n1方向の偏光は散乱され、平均光路長はα(>1)倍になっていると仮定し、散乱による偏光解消は無視できると仮定すると、その場合の主透過率はそれぞれ、k1、k2’=10X(但し、xはαlogk2である)、で表される。
つまり、この場合の平行透過率、偏光度は、
平行透過率=0.5×((k1)2+(k2’)2)、
偏光度=(k1−k2’)/(k1+k2’)、で表される。
例えば、市販のヨウ素系偏光子(平行透過率0.385,偏光度0.965:k1=0.877,k2=0.016)と同条件(染色量、作製手順が同じ)で本発明の偏光子を作成したとすると、計算上ではαが2倍の時、k2=0.0003まで低くなり、結果として平行透過率は0.385のまま、偏光度は0.999に向上する。上記は、計算上であり、もちろん散乱による偏光解消や表面反射および後方散乱の影響などにより幾分機能が低下する。上式から分かるようにαが高い程良く、二色性吸収材料の二色比が高いほど高機能が期待できる。αを高くするには、散乱異方性機能をできるだけ高くし、△n1方向の偏光を選択的に強く散乱させればよい。また、後方散乱は少ない方が良く、入射光強度に対する後方散乱強度の比率は30%以下が好ましく、さらには20%以下が好ましい。
前記の通り、偏光子の微小領域は、微小領域を形成する材料と、透光性樹脂との屈折率差が、最大値を示す軸方向を△n1方向、△n1方向と直交する方向を△n2方向とする場合、△n2方向の長さが0.05〜500μmであることが好ましい。
可視光領域の波長のうち、振動面を△n1方向に有する直線偏光を強く散乱させるためには、分散分布している微小領域は、△n2方向の長さが0.05〜500μm、好ましくは0.5〜100μmとなるように制御されることが好ましい。微小領域の△n2方向の長さが波長に比べて短すぎると十分に散乱が起こらない。一方、微小領域の△n2方向の長さが長すぎるとフィルム強度が低下したり、微小領域を形成する液晶性材料が、微小領域中で十分に配向しないなどの問題が生じるおそれがある。
二色性吸収材料としては、ヨウ素系吸光体、吸収二色性染料等が用いられる。二色性吸収材料は照射するエネルギー線波長を吸収しないものが好ましい。二色性吸収材料の吸収が大きい場合には、重合性官能基に対する入射光(エネルギー線)の反応効率を低下させるためである。かかる観点から、エネルギー線照射工程(5)が施されるフィルムは、重合性官能基の反応波長における透過率が高ければ高いほどエネルギー線の照射量を低減できるため好ましい。エネルギー線の照射量が多すぎると、フィルムがダメージを受けやすくなるため、不具合が生じやすくなる。この透過率は、例えば、厚み1μmで、透過率10%以上であることが好ましく、20%以上、さらには40%以上であることがより好ましい。なお、透過率は、例えば、日立製作所製分光光度計:U‐4100により測定した値である。
前記偏光子(ヨウ素系)の場合には、透過方向の直線偏光に対する透過率が80%以上、かつヘイズ値が5%以下であり、吸収方向の直線偏光に対するヘイズ値が30%以上であることが好ましい。前記偏光子(染料系)の場合には、透過方向の直線偏光に対する透過率が80%以上、かつヘイズ値が10%以下であり、吸収方向の直線偏光に対するヘイズ値が50%以上であることが好ましい。
前記透過率、ヘイズ値を有する本発明の偏光子は、透過方向の直線偏光に対しては高い透過率と良好な視認性を保有し、かつ吸収方向の直線偏光に対しては強い光拡散性を有している。したがって、簡便な方法にて、他の光学特性を犠牲にすることなく、高透過率、かつ高偏光度を有し、黒表示の際の透過率のムラを抑えることができる。
本発明の偏光子は、透過方向の直線偏光、すなわち前記二色性吸収材料の最大吸収方向とは直交する方向の直線偏光に対しては、可及的に高い透過率を有するものが好ましく、入射した直線偏光の光強度を100としたとき80%以上の光線透過率を有することが好ましい。光線透過率は85%以上がより好ましく、さらには光線透過率88%以上であるのが好ましい。ここで光線透過率は、積分球付き分光光度計を用いて測定された380nm〜780nmの分光透過率よりCIE1931 XYZ表色系に基づき算出したY値に相当する。なお、偏光子の表裏面の空気界面により約8%〜10%が反射されるため、理想的極限は100%からこの表面反射分を差し引いたものとなる。
また、偏光子(ヨウ素系)は透過方向の直線偏光は表示画像の視認性の明瞭性の観点より散乱されないことが望ましい。そのため、透過方向の直線偏光に対するヘイズ値は、5%以下であることが好ましい。より好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下、さらには0.2%以下である。一方、偏光子は吸収方向の直線偏光、すなわち前記ヨウ素系吸光体の最大吸収方向の直線偏光は局所的な透過率バラツキによるムラを散乱により隠蔽する観点より強く散乱されることが望ましい。そのため、吸収方向の直線偏光に対するヘイズ値は30%以上であることが好ましい。より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上である。なお、ヘイズ値は、JIS K 7136 (プラスチック−透明材料のへーズの求め方)に基づいて測定した値である。
また、偏光子(染料系)は透過方向の直線偏光は表示画像の視認性の明瞭性の観点より散乱されないことが望ましい。そのため、透過方向の直線偏光に対するヘイズ値は、10%以下であることが好ましい。より好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下である。一方、偏光子は吸収方向の直線偏光、すなわち前記吸収二色性染料の最大吸収方向の直線偏光は局所的な透過率バラツキによるムラを散乱により隠蔽する観点より強く散乱されることが望ましい。そのため、吸収方向の直線偏光に対するヘイズ値は50%以上であることが好ましい。より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。なお、ヘイズ値は、JIS K 7136 (プラスチック−透明材料のへーズの求め方)に基づいて測定した値である。
前記光学特性は、偏光子の吸収二色性の機能に加えて、散乱異方性の機能が複合化されたことによって引き起こされるものである。同様のことが、米国特許第2123902号明細書や、特開平9−274108号公報や特開平9−297204号公報に記載されている、直線偏光のみを選択的に散乱させる機能を有した散乱異方性フィルムと、二色性吸収型偏光子とを散乱最大の軸と吸収最大の軸が平行となるような軸配置にて重畳することによっても達成可能と考えられる。しかし、これらは、別途、散乱異方性フィルムを形成する必要性があることや、重畳の際の軸合わせ精度が問題となること、さらに単に、重ね置いた場合は、前述した吸収される偏光の光路長増大効果が期待できず、高透過、高偏光度が達成されにくい。
まず本発明の偏光子を図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の偏光子の概念図であり、二色性吸収材料2を含有する透光性樹脂1によりフィルムが形成されており、当該フィルムをマトリクスとして、微小領域3が分散された構造を有する。このように本発明の偏光子は、二色性吸収材料2が、マトリクスであるフィルムを形成する透光性樹脂1中により存在するが、二色性吸収材料2は、微小領域3にも光学的に影響を及ぼさない程度に存在させることもできる。
図1は、微小領域3と、透光性樹脂1との屈折率差が最大値を示す軸方向(△n1方向)に、二色性吸収材料2が配向している場合の例である。微小領域3では、△n1方向の偏光成分は散乱している。図1では、フィルム面内の一方向にある△n1方向は吸収軸となっている。フィルム面内において△n1方向に直交する△n2方向は透過軸となっている。なお、△n1方向に直交するもう一つの△n2方向は厚み方向である。
透光性樹脂1は、可視光領域において透光性を有し、二色性吸収材料を分散吸着するものを特に制限なく使用できる。透光性樹脂1としては、透光性の水溶性樹脂があげられる。たとえば、従来より偏光子に用いられているポリビニルアルコールまたはその誘導体があげられる。ポリビニルアルコールの誘導体としては、ポリビニルホルマール、ポリビニルアセタール等があげられる他、エチレン、プロピレン等のオレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の不飽和カルボン酸そのアルキルエステル、アクリルアミド等で変性したものがあげられる。また透光性樹脂1としては、例えばポリビニルピロリドン系樹脂、アミロース系樹脂等があげられる。前記透光性樹脂1は、成形歪み等による配向複屈折を生じにくい等方性を有するものでもよく、配向複屈折を生じやすい異方性を有するものでもよい。
また透光性樹脂1としては、例えばポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系ないしはノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体等のオレフィン系樹脂等があげられる。さらには、塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、塩化ビニリデン系樹脂、ビニルブチラール系樹脂、アリレート系樹脂、ポリオキシメチレン系樹脂、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂等があげられる。これらは1種または2種以上を組み合わせることができる。また、フェノール系、メラミン系、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型または紫外線硬化型の樹脂の硬化物を用いることもできる。
微小領域3を形成する材料は、エネルギー線で硬化可能な重合性官能基を有し、液晶性を有する複屈折材料が用いられる。当該液晶性材料は、ネマチック液晶性、スメクチック液晶性、コレステリック液晶性のいずれでもよく、またリオトロピック液晶性のものでもよい。当該液晶性材料は配合後に、エネルギー線で重合、架橋等により固定した状態で微小領域3を形成する。
微小領域3を形成する前記液晶性材料は、メソゲン基および重合性官能基を有する。メソゲン基となる環状単位としては、たとえば、ビフェニル系、フェニルベンゾエート系、フェニルシクロヘキサン系、アゾキシベンゼン系、アゾメチン系、アゾベンゼン系、フェニルピリミジン系、ジフェニルアセチレン系、ジフェニルベンゾエート系、ビシクロへキサン系、シクロヘキシルベンゼン系、ターフェニル系等があげられる。なお、これら環状単位の末端は、たとえば、シアノ基、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、ハロゲン基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、ハロアルケニル基等の置換基を有していてもよい。またメソゲン基のフェニル基は、ハロゲン基を有するものを用いることができる。
また、いずれのメソゲン基も屈曲性を付与するスペーサー部を介して結合していてもよい。スペーサー部としては、ポリメチレン鎖、ポリオキシメチレン鎖等があげられる。スペーサー部を形成する構造単位の繰り返し数は、メソゲン部の化学構造により適宜に決定されるがポリメチレン鎖の繰り返し単位は0〜20、好ましくは2〜12、ポリオキシメチレン鎖の繰り返し単位は0〜10、好ましくは1〜3である。
重合性官能基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基等の重合性官能基があげられる。また重合性官能基として、アクリロイル基、メタアクリロイル基等を2つ以上有するものを用いて架橋構造を導入して耐久性を向上させることもできる。
二色性吸収材料2としては、ヨウ素系吸光体、吸収二色性染料や顔料があげられる。特に、マトリクス材料である透光性樹脂1としてポリビニルアルコール等の透光性の水溶性樹脂を用いる場合には、ヨウ素系吸光体が高偏光度、高透過率の点から好ましい。
ヨウ素系吸光体は、ヨウ素からなる、可視光を吸収する種のことを意味し、一般には、透光性の水溶性樹脂(特にポリビニルアルコール系樹脂)とポリヨウ素イオン(I3 -,I5 -等)との相互作用によって生じると考えられている。ヨウ素系吸光体はヨウ素錯体ともいわれる。ポリヨウ素イオンは、ヨウ素とヨウ化物イオンから生成させると考えられている。
ヨウ素系吸収体は、少なくとも400〜700nmの波長帯域に吸収領域を有するものが好適に用いられる。
吸収二色性染料としては、耐熱性を有し、複屈折材料の前記液晶性材料を加熱して配向させる場合にも、分解や変質により二色性を喪失しないものが好ましく用いられる。前記の通り、吸収二色性染料は、可視光波長領域に二色比3以上の吸収帯を少なくとも1箇所以上有する染料であることが好ましい。二色比を評価する尺度としては、たとえば、染料を溶解させた適当な液晶材料を用いてホモジニアス配向の液晶セルを作成し、そのセルを用いて測定した偏光吸収スペクトルにおける吸収極大波長での吸収二色比が用いられる。当該評価法において、例えば標準液晶としてメルク社製のE−7を使用した場合には、用いる染料としては、吸収波長での二色比の目安値は3以上、好ましくは6以上、さらに好ましくは9以上である。
かかる高二色比を有する染料としては、染料系偏光子に好ましく用いられているアゾ系、ペリレン系、アントラキノン系の染料があげられる、これら染料は混合系染料などがとして用いることができる。これら染料は、例えば、特開昭54−76171号公報等に詳しい。
なお、カラー偏光子を形成する場合には、その特性に見合った吸収波長を有する染料を用いることができる。また、ニュートラルグレーの偏光子を形成する場合には、可視光全域に吸収が起こるように、二種類以上の染料を適宜混合して用いる。
本発明の偏光子は、二色性吸収材料2を含有する透光性樹脂1によりマトリクスを形成したフィルムを作製するとともに、当該マトリクス中に、微小領域3(たとえば、液晶性材料により形成された、配向された複屈折材料)を分散させる。また、フィルム中において、前記△n1方向の屈折率差(△n1)、△n2方向の屈折率差(△n2)が前記範囲になるように制御する。
上記本発明の偏光子は、前記構造を有し、前記微小領域を形成する前記液晶性材料は、エネルギー線照射により配向が固定化されており、かつ重合性官能基の残存率が1%以下に制御されたものである。かかる偏光子の製造工程は、特に制限されない。
前記本発明の偏光子は、例えば、
透光性樹脂に、エネルギー線で硬化可能な重合性官能基を有し、かつ液晶性を有する複屈折材料が分散された混合溶液を製造する工程(1)、
前記(1)の混合溶液をフィルム化する工程(2)、
前記(2)で得られたフィルムを配向する工程(3)、
前記マトリクスとなる透光性樹脂に、二色性吸収材料を分散させる工程(4)、
および前記工程(3)の後に、フィルムの両面から、前記液晶性を有する複屈折材料の配向を固定化するためのエネルギー線照射工程(5)、を施すことにより得られる。なお、工程(1)乃至(3)はこの順序で施され、工程(5)は、工程(3)の後に施され、その他は適宜に決定できる。
前記工程(1)では、まず、マトリクスを形成する透光性樹脂に、微小領域となる液晶性材料を分散した混合溶液を調製する。当該混合溶液の調製法は、特に制限されないが、前記マトリクス成分(透光性樹脂)と液晶性材料(単量体)の相分離現象を利用する方法があげられる。たとえば、液晶性材料としてマトリクス成分とは相溶しにくい材料を選択し、マトリクス成分の水溶液に液晶性材料を形成する材料の溶液を界面活性剤などの分散剤を介して分散させる方法などあげられる。前記混合溶液の調製において、マトリクスを形成する透光性材料と微小領域となる液晶性材料の組み合わせによっては分散剤を入れなくてもよい。マトリクス中に分散させる液晶性材料の使用量は、特に制限されないが、透光性樹脂100重量部に対して、液晶性材料を0.01〜100重量部、好ましくは0.1〜10重量部である。液晶性材料は溶媒に溶解し、または溶解することなく用いられる。溶媒としては、たとえば、水、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、ジクロロメタン、トリクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル等があげられる。マトリクス成分の溶媒と、液晶性材料の溶媒とは同一でもよく異種でもよい。
混合溶液の調製にあたっては、エネルギー線照射工程(5)において、エネルギー線として、紫外線を使用する場合には、光重合開始剤を含有させることができる。光重合開始剤としては各種のものを特に制限なく使用できる。例えば、チバスペシャルティケミカルズ社製のイルガキュア184、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア651、BASF社製のダロキュアTPO等があげられる。光重合開始剤の配合量は、前記液晶性材料100重量部に対して、10重量部以下が好ましく、より好ましくは0.01〜10重量部程度、さらに好ましくは0.05〜5重量部である。なお、エネルギー線照射工程(5)において、エネルギー線として、電子線、エックス線、ガンマー線などの、紫外線よりも高エネルギーの放射線を使用する場合には、光重合開始剤は用いなくてもよいし、硬化に必要な放射線照射量を低減させる目的で少量添加してもよい。光重合開始剤を用いない場合には、前記液晶性材料の配向性が向上する可能性があり、材料コストも低減できるので好ましい。
エネルギー線照射工程(5)において、エネルギー線として、紫外線を使用する場合には、光増感剤を添加することができる。光増感剤としては、ベンゾイン系光増感剤、アセトフェノン系光増感剤、ベンジルケタール系光増感剤等の光増感剤があげられ。たとえば、アセトフェノン、ベンゾフェノン、4−メトキシベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、2,2−ジメトキシ−2−フェニルジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、ベンジル、ベンゾイル、2−メチルベンゾイン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、トリフェニルホスフィン、2−クロロチオキサントン等が例示される。光増感剤の添加量は、光重合開始剤と同様である。なお、エネルギー線照射工程(5)において、エネルギー線として、電子線、エックス線、ガンマー線などの、紫外線よりも高エネルギーの放射線を使用する場合には、光増感剤は用いなくてもよいし、硬化に必要な放射線照射量を低減させる目的で少量添加してもよい。光重合開始剤および光増感剤を用いない場合には、前記液晶性材料の配向性が向上する可能性があり、材料コストも低減できるので好ましい。
さらに、重合禁止剤を添加することができる。前記重合開始剤を添加すると製膜乾燥時の熱により、重合が開始してしまう場合がある。そのような場合は、重合禁止剤を添加して、適宜調整することが好ましい。重合禁止剤としては各種のものを特に制限なく使用できる。たとえば、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ハイドロキノン、メトキノン、p−ベンゾキノン、フェノチアジン、モノ−t−ブチルハイドロキノン、カテコール、p−t−ブチルカテコール、ベンゾキノン、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、アンスラキノン、2,6-ジ−t−ブチルヒドロキシトルエン、t−ブチルカテコール等があげられる。同様の効果を示すものであればいずれのものを用いても良い。重合禁止剤の添加量は、光重合開始剤と同様である。
前記工程(2)において、フィルム形成後の乾燥工程で発泡を低減させるためには、工程(1)における混合溶液の調製において、微小領域を形成する液晶性材料を溶解するための溶媒を用いない方が好ましい。たとえば、溶媒を用いない場合には、マトリクスを形成する透光性材料の水溶液に液晶性材料を直接添加し、液晶性材料をより小さく均一に分散させるために液晶温度範囲以上で加熱し分散させる方法等などがあげられる。
なお、マトリクス成分の溶液、液晶性材料の溶液、または混合溶液中には、分散剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、難燃剤、酸化防止剤、可塑剤、離型剤、滑剤、着色剤等の各種の添加剤を本発明の目的を阻害しない範囲で含有させることができる。
前記混合溶液をフィルム化する工程(2)では、前記混合溶液を加熱乾燥し、溶媒を除去することにより、マトリクス中に微小領域が分散されたフィルムを作製する。フィルムの形成方法としては、キャスティング法、押出成形法、射出成形法、ロール成形法、流延成形法などの各種の方法を採用できる。フィルム成形にあたっては、フィルム中の微小領域のサイズが、最終的に△n2方向が0.05〜500μmになるように制御する。混合溶液の粘度、混合溶液の溶媒の選択、組み合わせ、分散剤、混合溶媒の熱プロセス(冷却速度)、乾燥速度を調整することにより、微小領域の大きさや分散性を制御することができる。たとえば、マトリクスを形成する高せん断力のかかるような高粘度の透光性樹脂と微小領域となる液晶性材料の混合溶液を液晶温度範囲以上に加熱しながらホモミキサー等の撹拌機により分散させることによって微小領域を、より小さく分散させることができる。
前記フィルムを配向する工程(3)は、フィルムを延伸することにより行なうことができる。延伸は、一軸延伸、二軸延伸、斜め延伸などがあげられるが、通常、一軸延伸を行なう。延伸方法は、空気中での乾式延伸、水系浴中での湿式延伸のいずれでもよい。湿式延伸を採用する場合には、水系浴中に、適宜に添加剤(ホウ酸等のホウ素化合物,二色性吸収材料2としてヨウ素を用いる場合にはアルカリ金属のヨウ化物等)を含有させることができる。染料系の場合には乾式延伸も好適である。延伸倍率は特に制限されないが、通常、2〜10倍程度とするのが好ましい。
かかる延伸により、二色性吸収材料を延伸軸方向に配向させることができる。また、微小領域において複屈折材料となる液晶性材料は、上記延伸により微小領域中で延伸方向に配向され複屈折を発現させる。
微小領域は延伸に応じて変形することが望ましい。この延伸工程では、液晶性を有する微小領域がネマチック層またはスメクチック層等の液晶状態または等方的状態になる温度を選択して行なうのが望ましい。延伸時点で微小領域の配向が不十分な場合には、別途加熱配向処理などの工程を加えるとさらに効果的に配向することができる。
液晶性材料の配向には上記延伸に加え、電場や磁場などの外場を用いてもよい。また液晶性材料にアゾベンゼンなどの光反応性物質を混合したり、液晶性材料にシンナモイル基等の光反応性基を導入したものを用いたりする場合には、エネルギー線照射工程(5)は液晶性材料の配向処理を兼ねることができる。さらには延伸処理と以上に述べた配向処理を併用することもできる。
前記マトリクスとなる透光性樹脂に、二色性吸収材料を分散させる工程(4)は、一般には、二色性吸収材料を溶解させた水系浴に前記フィルムを浸漬する方法があげられる。浸漬させるタイミングとしては、前記延伸工程(3)の前でも後でもよい。二色性吸収材料としてヨウ素を用いる場合には、ヨウ化カリウム等のアルカリ金属のヨウ化物等の助剤を前記水系浴中含有させるのが好ましい。前述したように、マトリクス中に分散されたヨウ素とマトリクス樹脂との相互作用により二色性吸収材料が形成される。なお、ヨウ素系吸光体は、一般に延伸工程を経ることによって著しく形成される。ヨウ素を含有する水系浴の濃度、アルカリ金属のヨウ化物などの助剤の割合は特に制限されず、一般的なヨウ素染色法を採用でき、前記濃度等は任意に変更することができる。
二色性吸収材料としてヨウ素を用いる場合、得られる偏光子中におけるヨウ素の割合は特に制限されないが、透光性樹脂とヨウ素の割合が、透光性樹脂100重量部に対して、ヨウ素が0.05〜50重量部程度、さらには0.1〜10重量部となるように制御するのが好ましい。
二色性吸収材料として吸収二色性染を用いる場合、得られる偏光子中における吸収二色性染料の割合は特に制限されないが、透光性樹脂と吸収二色性染料の割合が、透光性樹脂100重量部に対して、吸収二色性染料が0.01〜100重量部程度、さらには0.05〜50重量部となるように制御するのが好ましい。
エネルギー線照射工程(5)では、フィルム内の微小領域を形成する液晶性材料を硬化させ、配向を固定する。エネルギー線としては、液晶性材料を硬化させて配向を固定することができるものであればよく、例えば、可視光、紫外線、電子線、可視光、レーザー、赤外線、熱線、エックス線、ガンマー線、アルファー線、超音波等があげられる。前記エネルギー線としては、可視光、紫外線または電子線が好ましい。可視光、紫外線は、照射装置が単純で取り扱い易い利点を有する。なお、紫外線を用いる場合には、混合溶液の調製の際に開始剤を用いる必要があり、材料コストが高くなる。また、紫外線を吸収するものがある場合(ここでは、色素や保護フィルム)、長時間照射になる傾向がある。一方、電子線は、開始剤不要、高速処理、材料の色不問(紫外線のように吸収を考える必要はなく、単に材料の厚みで減衰するだけ)などの利点を有する。なお、電子線は、エネルギーが強いため、材料の劣化(材料によっては劣化しないものと、し難いものもある)防止が必要である。特に、光学用途では劣化しないまでも変色することだけでも好ましくないため、材料が劣化や変色しないようにすることが必要である。また、電子線は紫外線に比べて、照射系内で多量の窒素置換が必要になるが、処理速度が速いため、単位面積あたりでは、電子線と紫外線とで処理速度に大差はない。
エネルギー線の照射量は、液晶性材料とマトリクスを形成する透光性の樹脂との組み合わせにより適宜に決定できる。たとえば、エネルギー線として紫外線を照射する高圧水銀紫外ランプを使用した場合には、照射量約1〜3000mJ/cm2程度、好ましくは照射量10〜1000mJ/cm2、さらに好ましくは50〜600mJ/cm2である。紫外線照射の場合には、高圧水銀紫外ランプ以外にも、メタルハライドUVランプ、白熱管、キセノンランプなどの別種ランプを使用することもできる。エネルギー線として電子線を使用した場合には、照射量約1〜500kGy程度、好ましくは照射量3〜300kGyである。照射量が多すぎた場合には、フィルムや液晶性材料にダメージが生じ、光学特性や外観に不具合が生じる可能性があり、好ましくない。電子線照射量は、適宜の開始剤と併用することにより少なくすることもできる。なお、エネルギー線の照射量は、少ない方が、材料自身やコストに与える影響が小さく望ましい。
また照射するエネルギー線は偏光、非偏光のいずれでもよい。偏光のエネルギー線は、液晶性材料の配向を向上させながら固定化することができる。当該エネルギー線としては、例えば、偏光紫外線があげられる。なお、通常の紫外線でも、照射する角度によっては、配向を向上させることができる可能性がある。このほか、紫外線等のエネルギー線と磁力線を同時に照射することによって、配向を向上させることができる。
エネルギー線照射工程(5)は、延伸工程(3)により、液晶性材料を配向した後、いずれかのタイミング(二色性吸収材料による染色前、染色後)において行なう。エネルギー線照射工程(5)は、液晶性材料の配向性がよく異方性散乱硬化が十分に発揮されうる状態になった後に行なうのが好ましい。工程(5)は、フィルムを乾燥した状態で行うのが好ましい。
エネルギー線の照射は、前記工程(3)により、配向した液晶性材料を固定化して、液晶性材料の重合性官能基の残存率が1%以下、さらには0.6%以下、さらには0.1%以下になるように、フィルムの両面から照射を行う。エネルギー線照射工程(5)は、適宜に複数箇所で行なうことができ、またそれぞれ片面に少なくとも1回照射していれば、他の面には複数回照射をしてもよい。両面に複数回照射をしてもよい。通常の室内光によっても硬化する液晶性材料を用いる場合には、工程(3)により微小領域の配向処理工程を経るまでは、光照射により液晶性材料が硬化しないように遮光された条件下で各工程を施すのが好ましい。
なお、二色性染料を含有する偏光子に対してエネルギー線を照射する場合には、二色性染料は照射するエネルギー線の波長を吸収しないものを用いるのが好ましい。二色性染料は照射するエネルギー線の波長を吸収する場合には、適宜、増感剤を添加して吸収する波長と異なるラジカルを発生させて、液晶性材料の配向を硬化するのが好ましい。
偏光子の作製にあたっては、前記工程(1)乃至(5)の他に、様々な目的のための工程(6)を施すことができる。工程(6)としては、たとえば、主にフィルムのヨウ素染色効率を向上させる目的として、水浴にフィルムを浸漬して膨潤させる工程があげられる。また、任意の添加物を溶解させた水浴に浸漬する工程等があげられる。主に水溶性樹脂(マトリクス)に架橋を施す目的のため、ホウ酸、ホウ砂などの添加剤を含有する水溶液にフィルムを浸漬する工程があげられる。なお、二色性吸収材料としてヨウ素を用いる場合には、主に、分散した二色性吸収材料の量バランスを調節し、色相を調節することを目的として、アルカリ金属のヨウ化物などの添加剤を含有する水溶液にフィルムを浸漬する工程があげられる。また、工程(3)が湿式延伸工程等の場合には乾燥工程を設けることができる。
前記フィルムを配向(延伸)延伸する工程(3)、マトリクス樹脂に二色性吸収材料を分散染色する工程(4)、エネルギー線照射工程(5)および上記工程(6)は、工程(3)、(4)、(5)が少なくとも1回ずつあれば、工程の回数、順序、条件(浴温度や浸漬時間など)は任意に選択でき、各工程は別々に行ってもよく、複数の工程を同時に行ってもよい。例えば、工程(6)の架橋工程と延伸工程(3)を同時に行ってもよい。
また、染色に用いる二色性吸収材料や、架橋に用いるホウ酸などは、上記のようにフィルムを水溶液への浸漬させることによって、フィルム中へ浸透させる方法の代わりに、工程(1)において混合溶液を調製前または調製後で、工程(2)のフィルム化前に任意の種類、量を添加する方法を採用することもできる。また両方法を併用してもよい。ただし、工程(3)において、延伸時等に高温(例えば80℃以上)にする必要がある場合であって、二色性吸収材料が該温度で劣化してしまう場合には、二色性吸収材料を分散染色する工程(4)は工程(3)の後にするのが望ましい。
上記偏光子の製造方法では、通常、工程(1)、工程(2)がこの順で行なわれ、次いで工程(3)および工程(4)が任意の順で施される。エネルギー線照射工程(5)は、工程(3)が行なわれた後に施されるが、さらには、工程(3)および工程(4)を施した後に施すのが好ましい。
得られた偏光子(フィルム)の厚さは特に制限されないが、通常、1μmから3mm、好ましくは5μmから1mm、さらに好ましくは10〜500μmである。
このようにして得られた偏光子は、通常、延伸方向において、微小領域を形成する複屈折材料の屈折率とマトリクス樹脂の屈折率の大小関係は特になく、延伸方向が△n1方向になっている。延伸軸と直交する二つの垂直方向は△n2方向となっている。また、二色性吸収材料は延伸方向が、最大吸収を示す方向になっており、吸収+散乱の効果が最大限発現された偏光子になっている。
得られた偏光子は、常法に従って、その少なくとも片面に透明保護層を設けた偏光板とすることができる。また、偏光子、偏光板は、光学フィルムと積層して積層光学フィルムとすることができる。
前記製造方法においてエネルギー線照射工程(5)を行なわずに得られた偏光子については、透明保護層を接着剤を介して貼り合わせて偏光板を製造する際に、前記貼り合わせ後に、前記同様のエネルギー線照射工程を設けることにより、液晶性を有する複屈折材料の配向を固定させることができる。
また前記製造方法においてエネルギー線照射工程(5)を行なわずに得られた偏光子または当該偏光子を用いた偏光板と、光学フィルムとを接着剤を介して貼り合わせて積層光学フィルムを製造する際に、前記貼り合わせ後に、偏光子の両面から、前記同様のエネルギー線照射工程を設けることにより、液晶性を有する複屈折材料の配向を固定させることができる。
前記エネルギー線照射工程(5)において、電子線やエックス線、ガンマー線などの貫通性の高いエネルギー線を用いる場合には、偏光子と透明保護層の貼り合わせに用いる接着剤、および/または偏光板と光学フィルムとの貼り合わせに用いる接着剤もしくは粘着剤として、無溶剤型の電子線硬化型接着剤を用いることで、偏光子中の液晶性材料と接着剤を同時に硬化することができ、熱硬化型接着剤や湿気硬化型接着剤などを使用する場合に比べて生産ラインの短縮やエネルギー効率の点で有利となる。
偏光板に用いられる透明保護層はポリマーによる塗布層として、またはフィルムのラミネート層等として設けることができる。透明保護層を形成する、透明ポリマーまたはフィルム材料としては、適宜な透明材料を用いうるが、透明性や機械的強度、熱安定性や水分遮断性などに優れるものが好ましく用いられる。前記透明保護層を形成する材料としては、例えばポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル系ポリマー、二酢酸セルロースや三酢酸セルロース等のセルロース系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系ポリマー、ポリスチレンやアクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)等のスチレン系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマーなどがあげられる。また、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロ系ないしはノルボルネン構造を有するポリオレフィン、エチレン・プロピレン共重合体の如きポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、ナイロンや芳香族ポリアミド等のアミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ビニルアルコール系ポリマー、塩化ビニリデン系ポリマー、ビニルブチラール系ポリマー、アリレート系ポリマー、ポリオキシメチレン系ポリマー、エポキシ系ポリマー、あるいは前記ポリマーのブレンド物なども前記透明保護層を形成するポリマーの例としてあげられる。
また、特開2001−343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルム、たとえば、(A)側鎖に置換および/または非置換イミド基を有する熱可塑性樹脂と、(B)側鎖に置換および/または非置換フェニルならびにニトリル基を有する熱可塑性樹脂を含有する樹脂組成物があげられる。具体例としてはイソブチレンとN−メチルマレイミドからなる交互共重合体とアクリロニトリル・スチレン共重合体とを含有する樹脂組成物のフィルムがあげられる。フィルムは樹脂組成物の混合押出品などからなるフィルムを用いることができる。
偏光特性や耐久性などの点より、特に好ましく用いることができる透明保護層は、表面をアルカリなどでケン化処理したトリアセチルセルロースフィルムである。透明保護層の厚さは、任意であるが一般には偏光板の薄型化などを目的に500μm以下、さらには1〜300μm、特に5〜300μmが好ましい。なお、偏光子の両側に透明保護層を設ける場合は、その表裏で異なるポリマー等からなる保護フィルムを用いることができる。
また、保護フィルムは、できるだけ色付きがないことが好ましい。したがって、Rth=(nx−nz)・d(ただし、nxはフィルム平面内の遅相軸方位の屈折率、nzはフィルム厚方向の屈折率、dはフィルム厚みである)で表されるフィルム厚み方向の位相差値が−90nm〜+75nmである保護フィルムが好ましく用いられる。かかる厚み方向の位相差値(Rth)が−90nm〜+75nmのものを使用することにより、保護フィルムに起因する偏光板の着色(光学的な着色)をほぼ解消することができる。厚み方向位相差値(Rth)は、さらに好ましくは−80nm〜+60nm、特に−70nm〜+45nmが好ましい。
前記保護フィルムの偏光子を接着させない面には、ハードコート層や反射防止処理、スティッキング防止や、拡散ないしアンチグレアを目的とした処理を施したものであってもよい。
ハードコート処理は偏光板表面の傷付き防止などを目的に施されるものであり、例えばアクリル系、シリコーン系などの適宜な紫外線硬化型樹脂による硬度や滑り特性等に優れる硬化皮膜を保護フィルムの表面に付加する方式などにて形成することができる。反射防止処理は偏光板表面での外光の反射防止を目的に施されるものであり、従来に準じた反射防止膜などの形成により達成することができる。また、スティッキング防止処理は隣接層との密着防止を目的に施される。
またアンチグレア処理は偏光板の表面で外光が反射して偏光板透過光の視認を阻害することの防止等を目的に施されるものであり、例えばサンドブラスト方式やエンボス加工方式による粗面化方式や透明微粒子の配合方式などの適宜な方式にて保護フィルムの表面に微細凹凸構造を付与することにより形成することができる。前記表面微細凹凸構造の形成に含有させる微粒子としては、例えば平均粒径が0.5〜50μmのシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン等からなる導電性のこともある無機系微粒子、架橋又は未架橋のポリマー等からなる有機系微粒子などの透明微粒子が用いられる。表面微細凹凸構造を形成する場合、微粒子の使用量は、表面微細凹凸構造を形成する透明樹脂100重量部に対して一般的に2〜50重量部程度であり、5〜25重量部が好ましい。アンチグレア層は偏光板透過光を拡散して視角などを拡大するための拡散層(視角拡大機能など)を兼ねるものであってもよい。
なお、前記反射防止層、スティッキング防止層、拡散層やアンチグレア層等は、保護フィルムそのものに設けることができるほか、別途光学層として透明保護層とは別体のものとして設けることもできる。
前記偏光子と保護フィルムとの接着処理には、接着剤が用いられる。熱硬化型接着剤としては、イソシアネート系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ゼラチン系接着剤、ビニル系ラテックス系、水系ポリエステル等を例示できる。前記接着剤は、通常、水溶液からなる接着剤として用いられ、通常、0.5〜60重量%の固形分を含有してなる。また、電子線などの高エネルギー線を使用する場合には、無溶剤型の電子線硬化型接着剤を用いることができる。無溶剤型の電子線硬化型接着剤としては、エポキシ系、ウレタン系、アクリル系、シリコーン系などがあげられる。これら無溶剤型の電子線硬化型接着剤を用いて高エネルギー線で硬化させる場合には、エネルギー線照射工程(5)による、偏光子中の液晶性材料の硬化工程と併せて行うことができる。
前記保護フィルムと偏光子とは、前記接着剤を用いて貼り合わせる。接着剤の塗布は、保護フィルム、偏光子のいずれに行ってもよく、両者に行ってもよい。貼り合わせ後には、乾燥工程を施し、塗布乾燥層からなる接着層を形成する。偏光子と保護フィルムの貼り合わせは、ロールラミネーター等により行なうことができる。接着層の厚さは、特に制限されないが、通常0.1〜5μm程度である。
本発明の偏光板は、実用に際して他の光学層と積層した光学フィルムとして用いることができる。その光学層については特に限定はないが、例えば反射板や半透過板、位相差板(1/2や1/4等の波長板を含む)、視角補償フィルムなどの液晶表示装置等の形成に用いられることのある光学層を1層または2層以上用いることができる。特に、本発明の偏光板に更に反射板または半透過反射板が積層されてなる反射型偏光板または半透過型偏光板、偏光板に更に位相差板が積層されてなる楕円偏光板または円偏光板、偏光板に更に視角補償フィルムが積層されてなる広視野角偏光板、あるいは偏光板に更に輝度向上フィルムが積層されてなる偏光板が好ましい。
反射型偏光板は、偏光板に反射層を設けたもので、視認側(表示側)からの入射光を反射させて表示するタイプの液晶表示装置などを形成するためのものであり、バックライト等の光源の内蔵を省略できて液晶表示装置の薄型化を図りやすいなどの利点を有する。反射型偏光板の形成は、必要に応じ透明保護層等を介して偏光板の片面に金属等からなる反射層を付設する方式などの適宜な方式にて行なうことができる。
偏光板に更に位相差板が積層されてなる楕円偏光板または円偏光板について説明する。直線偏光を楕円偏光または円偏光に変えたり、楕円偏光または円偏光を直線偏光に変えたり、あるいは直線偏光の偏光方向を変える場合に、位相差板などが用いられる。特に、直線偏光を円偏光に変えたり、円偏光を直線偏光に変える位相差板としては、いわゆる1/4波長板(λ/4板とも言う)が用いられる。1/2波長板(λ/2板とも言う)は、通常、直線偏光の偏光方向を変える場合に用いられる。
偏光板と輝度向上フィルムを貼り合わせた偏光板は、通常液晶セルの裏側サイドに設けられて使用される。輝度向上フィルムは、液晶表示装置などのバックライトや裏側からの反射などにより自然光が入射すると所定偏光軸の直線偏光または所定方向の円偏光を反射し、他の光は透過する特性を示すもので、輝度向上フィルムを偏光板と積層した偏光板は、バックライト等の光源からの光を入射させて所定偏光状態の透過光を得ると共に、前記所定偏光状態以外の光は透過せずに反射される。この輝度向上フィルム面で反射した光を更にその後ろ側に設けられた反射層等を介し反転させて輝度向上フィルムに再入射させ、その一部又は全部を所定偏光状態の光として透過させて輝度向上フィルムを透過する光の増量を図ると共に、偏光子に吸収させにくい偏光を供給して液晶表示画像表示等に利用しうる光量の増大を図ることにより輝度を向上させうるものである。
また偏光板は、上記の偏光分離型偏光板の如く、偏光板と2層又は3層以上の光学層とを積層したものからなっていてもよい。従って、上記の反射型偏光板や半透過型偏光板と位相差板を組み合わせた反射型楕円偏光板や半透過型楕円偏光板などであってもよい。
偏光板に前記光学層を積層した光学フィルムは、液晶表示装置等の製造過程で順次別個に積層する方式にても形成することができるが、予め積層して光学フィルムとしたものは、品質の安定性や組立作業等に優れていて液晶表示装置などの製造工程を向上させうる利点がある。積層には粘着層等の適宜な接着手段を用いうる。前記の偏光板やその他の光学フィルムの接着に際し、それらの光学軸は目的とする位相差特性などに応じて適宜な配置角度とすることができる。
前述した偏光板や、偏光板を少なくとも1層積層されている光学フィルムには、液晶セル等の他部材と接着するための粘着層を設けることもできる。粘着層を形成する粘着剤は特に制限されないが、例えばアクリル系重合体、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリエーテル、フッ素系やゴム系などのポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、アクリル系粘着剤の如く光学的透明性に優れ、適度な濡れ性と凝集性と接着性の粘着特性を示して、耐候性や耐熱性などに優れるものが好ましく用いうる。
また上記に加えて、吸湿による発泡現象や剥がれ現象の防止、熱膨張差等による光学特性の低下や液晶セルの反り防止、ひいては高品質で耐久性に優れる液晶表示装置の形成性などの点より、吸湿率が低くて耐熱性に優れる粘着層が好ましい。
粘着層は、例えば天然物や合成物の樹脂類、特に、粘着性付与樹脂や、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉、その他の無機粉末等からなる充填剤や顔料、着色剤、酸化防止剤などの粘着層に添加されることの添加剤を含有していてもよい。また微粒子を含有して光拡散性を示す粘着層などであってもよい。
偏光板や光学フィルムの片面又は両面への粘着層の付設は、適宜な方式で行いうる。その例としては、例えばトルエンや酢酸エチル等の適宜な溶剤の単独物又は混合物からなる溶媒にベースポリマーまたはその組成物を溶解又は分散させた10〜40重量%程度の粘着剤溶液を調製し、それを流延方式や塗工方式等の適宜な展開方式で偏光板上または光学フィルム上に直接付設する方式、あるいは前記に準じセパレータ上に粘着層を形成してそれを偏光板上または光学フィルム上に移着する方式などがあげられる。
粘着層は、異なる組成又は種類等のものの重畳層として偏光板や光学フィルムの片面又は両面に設けることもできる。また両面に設ける場合に、偏光板や光学フィルムの表裏において異なる組成や種類や厚さ等の粘着層とすることもできる。粘着層の厚さは、使用目的や接着力などに応じて適宜に決定でき、一般には1〜500μmであり、5〜200μmが好ましく、特に10〜100μmが好ましい。
粘着層の露出面に対しては、実用に供するまでの間、その汚染防止等を目的にセパレータが仮着されてカバーされる。これにより、通例の取扱状態で粘着層に接触することを防止できる。セパレータとしては、上記厚さ条件を除き、例えばプラスチックフィルム、ゴムシート、紙、布、不織布、ネット、発泡シートや金属箔、それらのラミネート体等の適宜な薄葉体を、必要に応じシリコーン系や長鏡アルキル系、フッ素系や硫化モリブデン等の適宜な剥離剤でコート処理したものなどの、従来に準じた適宜なものを用いうる。
なお本発明において、上記した偏光板を形成する偏光子や透明保護フィルムや光学フィルム等、また粘着層などの各層には、例えばサリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物やシアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等の紫外線吸収剤で処理する方式などの方式により紫外線吸収能をもたせたものなどであってもよい。
本発明の偏光板または光学フィルムは液晶表示装置等の各種装置の形成などに好ましく用いることができる。液晶表示装置の形成は、従来に準じて行いうる。すなわち液晶表示装置は一般に、液晶セルと偏光板または光学フィルム、及び必要に応じての照明システム等の構成部品を適宜に組立てて駆動回路を組込むことなどにより形成されるが、本発明においては本発明による偏光板または光学フィルムを用いる点を除いて特に限定はなく、従来に準じうる。液晶セルについても、例えばTN型やSTN型、π型などの任意なタイプのものを用いうる。
液晶セルの片側又は両側に偏光板または光学フィルムを配置した液晶表示装置や、照明システムにバックライトあるいは反射板を用いたものなどの適宜な液晶表示装置を形成することができる。その場合、本発明による偏光板または光学フィルムは液晶セルの片側又は両側に設置することができる。両側に偏光板または光学フィルムを設ける場合、それらは同じものであってもよいし、異なるものであってもよい。さらに、液晶表示装置の形成に際しては、例えば拡散板、アンチグレア層、反射防止膜、保護板、プリズムアレイ、レンズアレイシート、光拡散板、バックライトなどの適宜な部品を適宜な位置に1層又は2層以上配置することができる。
次いで有機エレクトロルミネセンス装置(有機EL表示装置)について説明する。一般に、有機EL表示装置は、透明基板上に透明電極と有機発光層と金属電極とを順に積層して発光体(有機エレクトロルミネセンス発光体)を形成している。ここで、有機発光層は、種々の有機薄膜の積層体であり、例えばトリフェニルアミン誘導体等からなる正孔注入層と、アントラセン等の蛍光性の有機固体からなる発光層との積層体や、あるいはこのような発光層とペリレン誘導体等からなる電子注入層の積層体や、またあるいはこれらの正孔注入層、発光層、および電子注入層の積層体等、種々の組み合わせをもった構成が知られている。
有機EL表示装置は、透明電極と金属電極とに電圧を印加することによって、有機発光層に正孔と電子とが注入され、これら正孔と電子との再結合によって生じるエネルギーが蛍光物資を励起し、励起された蛍光物質が基底状態に戻るときに光を放射する、という原理で発光する。途中の再結合というメカニズムは、一般のダイオードと同様であり、このことからも予想できるように、電流と発光強度は印加電圧に対して整流性を伴う強い非線形性を示す。
電圧の印加によって発光する有機発光層の表面側に透明電極を備えるとともに、有機発光層の裏面側に金属電極を備えてなる有機エレクトロルミネセンス発光体を含む有機EL表示装置において、透明電極の表面側に偏光板を設けるとともに、これら透明電極と偏光板との間に位相差板を設けることができる。
位相差板および偏光板は、外部から入射して金属電極で反射してきた光を偏光する作用を有するため、その偏光作用によって金属電極の鏡面を外部から視認させないという効果がある。特に、位相差板を1/4波長板で構成し、かつ偏光板と位相差板との偏光方向のなす角をπ/4に調整すれば、金属電極の鏡面を完全に遮蔽することができる。
以下に、この発明の実施例を記載してより具体的に説明する。なお、以下において、部とあるのは重量部を意味する。
実施例1
(ヨウ素系偏光子の作成)
重合度2400、ケン化度98.5%のポリビニルアルコール樹脂を溶解した固形分13重量%のポリビニルアルコール水溶液と、メソゲン基の両末端に一つずつアクリロイル基を有する液晶性単量体(ネマチック液晶温度範囲が55〜75℃)とグリセリンと光重合開始剤(BASF社製のダロキュアTPO:長波長側の吸収端420nm)を、ポリビニルアルコール:液晶性単量体:グリセリン:光重合開始剤=100:3:15:0.012(重量比)になるように混合し、液晶温度範囲以上に加熱してホモミキサーにて撹拌して混合溶液を得た。当該混合溶液中に存在している気泡を室温(23℃)で放置することにより脱泡した後に、キャスト法にて塗工、続いて乾燥後に、白濁した厚さ70μmの混合フィルムを得た。この混合フィルムを130℃で10分間熱処理した。
上記混合フィルムに、(イ)30℃の水浴にフィルムを浸漬して膨潤かつ3倍に延伸、(ロ)30℃のヨウ素:ヨウ化カリウム=1:6(重量比)の水溶液(濃度0.32重量%)に浸漬して染色、(ハ)30℃のホウ酸3重量%水溶液に浸漬してフィルムを架橋、(ニ)さらに55℃のホウ酸3.5重量%水溶液に浸漬し、かつ2倍延伸(合計6倍に延伸)、(ホ)30℃のヨウ化カリウム5重量%水溶液浴に浸漬して色相調節、の各工程を施すことにより湿式延伸した。続いて(ヘ)50℃にて5分間乾燥工程を施した後、さらに(ト)高圧水銀紫外ランプを用いて、前記各工程の施されたフィルムの両面にそれぞれ照射量300mJ/cm2で、波長400nm程度の光線を含む近紫外線の照射工程を施して、偏光子を得た。紫外線照射前のフィルムの、波長400nmにおける透過率は25%であった。
(異方散乱発現の確認と屈折率の測定)
また得られた偏光子を偏光顕微鏡観察したところ、ポリビニルアルコールマトリクス中に無数に分散された液晶性単量体の微小領域が形成されていることが確認できた。この液晶性単量体は延伸方向に配向しており、微小領域の△n2方向の平均サイズは1〜2μmであった。
マトリクスと微小領域の屈折率については、各々別々に測定した。測定は20℃で行なった。まず、工程(ロ)の水溶液を水のみにした(染色をなくした)こと以外は、上記湿式延伸と同じ条件で延伸してポリビニルアルコールフィルム単独の延伸フィルムの屈折率をアッベ屈折計(測定光589nm)で測定したところ、延伸方向(△n1方向)の屈折率=1.54,△n2方向の屈折率=1.52であった。また液晶性単量体の屈折率(ne:異常光屈折率およびno:常光屈折率)を測定した。noは、垂直配向処理を施した高屈折率ガラス上に液晶性単量体を配向塗設し、アッベ屈折計(測定光589nm)で測定した。一方、水平配向処理した液晶セルに液晶性単量体を注入し、自動複屈折測定装置(王子計測機器株式会社製,自動複屈折計KOBRA21ADH)にて位相差(Δn×d)を測定し、また別途、光干渉法によりセルギャップを(d)を測定し、位相差/セルギャップからΔnを算出し、このΔnとnoの和をneとした。ne(△n1方向の屈折率に相当)=1.66、no(△n2方向の屈折率に相当)=1.52,であった。従って、△n1=1.66−1.54=0.12、△n2=1.52−1.52=0.00と算出された。以上から所望の異方散乱が発現していることが確認できた。
実施例2
実施例1の工程(ト)において、高圧水銀紫外ランプの代わりに、メタルハライドランプにて、フィルムの両面にそれぞれ照射量300mJ/cm2で紫外線照射工程を施したこと以外は、実施例1と同様にして偏光子を得た。得られた偏光子は、実施例1と同様の異方散乱発現と屈折率を確認した。
実施例3
実施例1において、光重合開始剤を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして偏光子を得た。得られた偏光子の両面に、トリアセチルセルロースフィルムを貼り合わせて偏光板とした。この偏光板の両面に、EB(電子線)照射機((株)岩崎電気製)にて、それぞれ、20kGyのエネルギー線を照射した。
参考例1
実施例1の工程(ト)の代わりに、各工程の施されたフィルムの片面に照射量600mJ/cm2で紫外線照射工程を施したこと以外は、実施例1と同様にして偏光子を得た。得られた偏光子は、実施例1と同様の異方散乱発現と屈折率を確認した。
参考例2
実施例1の工程(ト)の代わりに、各工程の施されたフィルムの片面に照射量2000mJ/cm2で紫外線照射工程を施したこと以外は、実施例1と同様にして偏光子を得た。得られた偏光子は、実施例1と同様の異方散乱発現と屈折率を確認した。
参考例3
実施例1の工程(ト)の代わりに、各工程の施されたフィルムの片面に照射量250mJ/cm2で紫外線照射工程を施したこと以外は、実施例1と同様にして偏光子を得た。得られた偏光子は、実施例1と同様の異方散乱発現と屈折率を確認した。
比較例1
実施例1において、(ト)紫外線照射工程を施さなかったこと以外は、実施例1と同様にして偏光子を得た。得られた偏光子は、実施例1と同様の異方散乱発現と屈折率を確認した。
(評価)
実施例、参考例及び比較例で得られた偏光子または偏光板について下記評価を行った。偏光子は、その両面に、トリアセチルセルロースフィルムを貼り合わせて偏光板としたものについて評価した。結果を表1に示す。
<重合性官能基の残存率>
液晶性単量体における重合性官能基(アクリロイル基)の存在率を、PerkinElmer製のFT−IR Spectrum GXにより、透過法にて求めた。また、前記存在率を、エネルギー線(紫外線)照射前後の値について求め、以下の式により、重合性官能基の残存率を算出した。
重合性官能基の存在率=(重合性官能基由来のピーク面積/液晶性単量体由来のピーク面積)
重合性官能基の残存率=(紫外線照射前の存在率/紫外線照射後の存在率)
実施例、参考例及び比較例で得られた偏光子(サンプル)の光学特性を、積分球付き分光光度計(日立製作所製のU−4100)にて測定した。各直線偏光に対する透過率はグラントムソンプリズム偏光子を通して得られた完全偏光を100%として測定した。なお、透過率は、CIE1931表色系に基づいて算出した、視感度補正したY値で示した。k1は最大透過率方向の直線偏光の透過率、k2はその直交方向の直線偏光の透過率を表す。
偏光度Pは、P={(k1−k2)/(k1+k2)}×100、で算出した。単体透過率Tは、T=(k1+k2)/2、で算出した。
ムラの評価は、暗室において、液晶ディスプレイに用いられるバックライトの上面にサンプル(偏光子)を配置しさらに、市販の偏光板(日東電工社製のNPF−SEG1224DU)を検光子として偏光軸が直交するように積層し、目視にて下記基準にて、そのレベルを確認した。
×:目視にてムラが確認できるレベル。
○:目視にてムラが確認できないレベル。
実施例、参考例及び比較例で得られた偏光子(サンプル)を、耐熱性評価として、90℃の環境下に100時間投入した後に、投入前との外観を目視にて対比評価した。また、投入後の偏光子について、前記同様にして、単体透過率、偏光度を測定した。また、偏光子を、2cm×2cmのサンプルとして切り出し、偏光顕微鏡クロスニコル下で吸収軸が偏光顕微鏡の検光子または偏光子と45°になるように配置して、クロスニコルで観察した場合の外観を目視にて評価した。
へイズ値は、最大透過率方向の直線偏光に対するヘイズ値および吸収方向(その直交方向)の直線偏光に対するへイズ値を測定した。ヘイズ値の測定は、JIS K 7136 (プラスチック−透明材料のへーズの求め方)に従って、へイズメーター(村上色彩研究所製のHM−150)を用いて、市販の偏光板(日東電工社製NPF−SEG1224DU:単体透過率43%,偏光度99.96%)を、サンプルの測定光の入射面側に配置し、市販の偏光板とサンプル(偏光子)の延伸方向を直交させて測定した時のへイズ値を示す。ただし、市販のへイズメーターの光源では直交時の光量が検出器の感度限界以下となってしまうため、別途設けた高光強度のハロゲンランプの光を光ファイバーを用いて入光させ、検出感度内とした後、手動にてシャッター開閉を行い、ヘイズ値を算出した。
上記表1に示す通り、実施例の偏光子は、参考例、比較例に比べて、耐久性が良好であることが分かる。なお、参考例2では、耐熱性評価前からクロスニコルにおいて、赤変していた。単体評価の白濁は液晶の配向乱れ、クロスニコル評価の赤変はエネルギー線照射による二色性吸光体の変化によるものと推測される。