以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において、同一又は同様の要素には同一の符号を付して説明を省略するものとする。
図1は、本発明の第1実施形態に係る乗員保護装置の構成図である。図1に示すように、第1実施形態に係る乗員保護装置1は、車両衝突を検出したときに乗員を拘束保護するものであって、超音波を送信及び受信可能な超音波センサ(送信器、受信器)10を備えている。また、乗員保護装置1は、超音波センサ10からの信号を処理するコントローラ20と、コントローラ20からの信号に基づいて作動し、乗員を拘束する乗員拘束装置30とを備えている。
超音波センサ10は、超音波を車外に向けて発進する機能を有している。また、超音波センサ10は、送信された超音波のうち、車外対象物にて反射して戻ってくる反射波を受信する機能を備えている。ここで、車外対象物とは、例えば車両前方や後方などに存する他車両、人物、及び壁などの障害物を含むものである。
図2は、超音波センサ10の設置状態を示す車両後方図である。図2において、超音波センサ10は車体100の後方外面に取り付けられている。具体的に超音波センサ10は、バンパフェイシア101の中央付近に設けられている。
なお、図2においては、超音波センサ10が車両後方に設けられる例を説明している。しかし、これに限らず、超音波センサ10は車両前方や側方及びコーナー部などに設けられていてもよい。また、超音波センサ10は、リアコンビランプ102内やトランクリッド103等に設置されていてもよい。さらに、超音波センサ10は複数設置されていてもよく、送信機能及び受信機能のいずれか一方のみの機能を有するものであってもよい。さらには、超音波センサ10に代えて、非接触で距離を計測する電波式の測距レーダーなどを用いてもよい。
再度、図1を参照する。上記超音波センサ10は、コントローラ20によって制御される構成となっている。コントローラ20は、超音波センサ10との間で信号の送受信をする入出力部21と、上記乗員拘束装置30に対して作動信号を出力する作動信号出力部22とを有している。入出力部21としては、例えば一般的なA/D変換機能を有する電子装置や、デジタル信号を受波できる通信ポートが含まれる。
また、コントローラ20は、本装置1の全体的制御を行うCPU23と、CPU23の作動のために必要なRAM24及びROM25とを具備している。CPU23は、送受信指令機能と衝突検出機能と種類判別機能(種類判別手段)と拘束判断機能(拘束判断手段)とを有している。
CPU23の送受信指令機能は、超音波センサ10に対し、超音波の送信指令、受信指令をする機能である。このため、超音波センサ10は、CPU23からの指令に基づいて、超音波の送信及び受信する構成となっている。
CPU23の衝突検出機能は、超音波を送信してから受信するまでの時間から車外対象物までの距離などを求め、これに基づいて将来的に車両が車外対象物と衝突するか否かを検出する機能である。そして、衝突が検出された場合、CPU23は、種類判別機能により車外対象物の種類を判別するようになっている。
CPU23の種類判別機能は、超音波センサ10により受信された反射波の波形から車外対象物の種類を判別する機能である。具体的に種類判別機能は、超音波センサ10により受信された反射波の波形の積分値及びひずみから、車外対象物が車両、人及び壁のいずれの種類に該当するかを判別する機能である。なお、種類判別機能は、反射波の波形の積分値及びひずみ以外の要素から、車外対象物の種類を判別するようになっていてもよい。
CPU23の拘束判断機能は、種類判別機能により判別された車外対象物の種類に応じて、乗員を拘束すべきか否かを判断する機能である。具体的に種類判別機能により判別された車外対象物の種類が車両や壁であった場合、CPU23の拘束判断機能は衝突時の衝撃が大きいと考えられるため、乗員を拘束保護すべきと判断する。一方、種類判別機能により判別された車外対象物の種類が車両や壁であった場合、CPU23の拘束判断機能は衝突時の衝撃が比較的小さいと考えられるため、乗員を拘束保護しないと判断する。
また、ROM25にはこれら機能に対応したプログラムが記憶されている。このため、CPU23は、車両の電源が投入されると、ROM25からプログラムを読み込んで、上記4機能を実行するようになっている。さらに、CPU23は、上記4機能のうち、拘束判断機能によって乗員を拘束保護すべきと判断されると、乗員拘束装置30を作動させるべく、作動信号を送信する構成となっている。
上記乗員拘束装置30は、作動信号の受信により作動して乗員を拘束するものである。また、乗員拘束装置30は、エアバッグ、シートベルト、シート、ヘッドレスト等の拘束手段を含んでおり、これらによって、衝突予測時に乗員を拘束等する構成となっている。なお、乗員拘束装置30は、衝突による衝撃を吸収すべく、車体100などの部品を移動させるデバイスであってもよいし、車体100などの部品の衝撃吸収特性を変化させるデバイスであってもよい。
なお、上記コントローラ20は、既存のエアバッグやシートベルト装置のために用いられるコントローラと共用されるようにしてもよい。さらに、コントローラ20は、車外対象物までの距離及び車外対象物の位置情報を運転者に報知するための障害物検出装置や、その距離情報を表示部又は警報器を通じて報知する提示装置などに接続されてもよい。さらに、超音波センサ10は、自車後方の障害物との間の距離を超音波により検出するバックソナーや、コーナー部から所定距離以内に存する車外対象物を超音波により検出するコーナーソナーと共用されてもよい。
次に、第1実施形態に係る乗員保護装置1の動作の概略を図1を参照して説明する。まず、CPU23が送受信指令機能により超音波センサ10に対して送信指令を行い、超音波センサ10は超音波を送信する。その後、CPU23は、超音波センサ10に対して受信指令を行う。このとき、車両の周囲に車外対象物が存在すれば、超音波センサ10は車外対象物にて反射して戻ってくる反射波を受信する。
次いで、CPU23は、受信指令されたセンサからの信号を読み込む。そして、CPU23は、衝突検出機能により、反射波の存在を認識し、以下の処理を実行する。すなわち、CPU23は、反射波が存在しない場合、車両周囲に車外対象物が存在しないことから、将来的に車両衝突が生じないと判断する。一方、反射波が存在する場合、CPU23は、超音波の送信時刻と反射波の受信時刻とから、反射波の到達時間を求める。そして、CPU23は、到達時間を超音波速度(音速)で除する。これによって、CPU23は自車両から車外対象物までの距離を求める。
また、CPU23は、反射波の周波数を読み取り、自車両の車外対象物に対する相対速度を算出する。次いで、CPU23は、自車両から車外対象物までの距離と相対速度とから車両衝突を予測する。ここで、衝突が予測された場合、CPU23は、種類判別機能により、車外対象物の種別を判別する。詳細にCPU23は、受信された反射波の波形の積分値及びひずみから、車外対象物が車両、人及び壁のいずれの種類に該当するかを判別する。
そして、CPU23は、拘束判断機能により、乗員を拘束すべきか否かを判断する。具体的には、車外対象物の種類が車両や壁であった場合、CPU23は乗員を拘束すべきと判断する。一方、車外対象物の種類が車両や壁であった場合、CPU23は乗員を拘束しないと判断する。そして、乗員を拘束すべきと判断した場合、コントローラ20は、作動信号出力部22を通じて、乗員拘束装置30に作動信号を送信する。これにより、乗員拘束装置30は作動して乗員を拘束保護することとなる。このように、本実施形態に係る乗員保護装置1は、衝突対象に応じた乗員保護を行うことができるようになっている。
次に、第1実施形態に係る乗員保護装置1の詳細動作について説明する。図3は、第1実施形態に係る乗員保護装置1の詳細動作の一例を示すフローチャートである。まず、車両の電源が投入、又はエンジンが起動すると、本装置1が起動し、装置1の初期化や自己診断が行われる。そして、初期化及び自己診断が終了すると、図3に示すフローチャートに従って処理が実行される。
そして、CPU23は送受信指令機能により超音波センサ10に対して超音波の送信を指令する。これにより、超音波センサ10は、超音波の送信動作をする(ST1)。その後、CPU23は送受信指令機能により超音波センサ10に対して超音波の受信を指令する。これにより、超音波センサ10は超音波の受信動作を行う(ST2)。このとき、車両の周囲に車外対象物が存在していれば、超音波センサ10は反射波を受信することとなる。
そして、CPU23は、衝突検出機能により、車外対象物までの距離、及び車外対象物との相対速度を算出する(ST3)。具体的に、CPU23は車外対象物までの距離Lを以下の計算式により算出する。
ここで、tは超音波を発進してから受信するまでの時間であり、具体的には図4に示すものである。図4は、超音波センサ10による超音波の送受信を示す説明図である。同図に示すように、時刻t=0において超音波を送信してから時刻t'において反射波を受信したとき、上記数式のtにはt'が代入される。
また、CPU23は、車外対象物との相対速度を以下の計算式により算出する。
次に、CPU23は、乗員拘束装置30の作動判定を行う(ST4)。このとき、CPU23は衝突回避できるか否かと、乗員拘束装置30を作動させてから充分に乗員を拘束保護するまでの時間が確保されているか否かとの観点から、乗員拘束装置30の作動判定を行う。
ここで、車両が衝突回避できるか否か以下の計算式により判断される。
また、乗員拘束装置30を作動させてから充分に乗員を拘束保護するまでの時間が確保されているか否かは、以下の計算式により判断される。
以上の2つ計算式を双方とも満たすとき、CPU23は、乗員を拘束保護する必要性ありと判断し(ST4:YES)、処理をステップST5に進める。他方、以上の2つ計算式のいずれか一方でも満たさない場合、CPU23は、乗員を拘束保護する必要性なしと判断し(ST4:NO)、処理をステップST1に戻す。なお、図3のフローチャートでは衝突回避できるか否かと、乗員を拘束保護するまでの時間が確保されているか否かとの2つの観点から乗員拘束装置30の作動判定を行っているが、これに限らずいずれか1つの観点から作動判定を行ってもよい。また、これら以外の要素を考慮して3つ以上の観点から作動判定を行ってもよい。
ステップST5において、CPU23は、反射波の波形についてエンベロープ処理を施す(ST5)。すなわち、CPU23は、反射波の各波のピークを結んでいく処理を施す。エンベロープ処理について説明する。
図5は、図3に示すエンベロープ処理(ST5)の説明図であり、(a)はエンベロープ処理前の様子を示し、(b)はエンベロープ処理後の様子を示している。図5(a)に示すように、送信波は1波長だけでなく数波長に渡って発信されるため、反射波も同様に数波長に渡って受信されることとなる。CPU23は、受信された数波長の反射波について、1波長ごとにピーク点を検出し、各ピーク点を結んでいくことにより、図5(b)に示す波形を得る。なお、以下の説明において図5(b)に示すエンベロープ処理後の滑らかな波形をエンベロープというものとする。
再度、図3を参照する。エンベロープ処理の後、CPU23は、エンベロープの時間積分値を計算する(ST6)。具体的にCPU23は時間積分値を以下の計算式により求める。
ここで、y(t)はエンベロープを数式化したものである。このように、時刻t=0〜t1で定積分することにより、反射波を受信してから反射波の受信が完了するまでの積分値が得られることとなる。
図6は、車外対象物ごとのエンベロープ処理(ST5)の説明図であり、(a)は車外対象物が車である場合のエンベロープ処理前の波形を示し、(b)は車外対象物が車である場合のエンベロープ処理後の波形を示している。また、(c)は車外対象物が人である場合のエンベロープ処理前の波形を示し、(d)は車外対象物が人である場合のエンベロープ処理後の波形を示している。(e)は車外対象物が壁である場合のエンベロープ処理前の波形を示し、(f)は車外対象物が壁である場合のエンベロープ処理後の波形を示している。また、図7は、積分値と時間との相関を示す説明図である。
まず、図6(a)に示すように、車外対象物が車である場合、反射波の強度は比較的強い状態で長く継続する傾向にある。これは、車両など奥行きがある車外対象物の場合、奥行き方向の複数の反射点からの波が重なり合うためである。このため、図6(b)に示すように、エンベロープ波形の積分値は車外対象物が車である場合、高い値を示すこととなる(図7)。
これに対して、車外対象物が人や壁である場合、図6(c)及び(e)に示すように、反射波の強度は強い状態が継続しにくい傾向にある。これは、奥行きが少なく反射点からの波の重なり合いが殆どないためである。このため、図6(d)及び(f)に示すように、エンベロープ波形の積分値は車外対象物が人や壁である場合、車外対象物が車であるときに比べて低い値を示すこととなる(図7)。
再度、図3を参照する。積分値を求めた後に、CPU23は、得られた積分値が所定の閾値以上であるか否かを判断する(ST7)。ここで、所定の閾値は、図7を参照して説明した車外対象物が車であるときの積分値と、車外対象物が人や壁であるときの積分値との間に設定される。このため、得られた積分値が所定の閾値以上であると判断した場合(ST7:YES)、CPU23の種類判別機能は、車外対象物が車であると判別する。そして、CPU23の拘束判断機能は、車外対象物が車である場合、衝突時の衝撃が大きいと判断して、乗員拘束装置30を作動させる(ST8)。その後、処理は終了する。
他方、得られた積分値が所定の閾値以上でないと判断した場合(ST7:NO)、CPU23の種類判別機能は、ひずみ率を計算する(ST9)。
図8は、図3に示したひずみ率の計算処理(ST9)を示す説明図である。同図に示すように、車外対象物が人、車及び壁のいずれであるかに応じて、受信された反射波の波形のひずみが異なってくる。具体的には、壁など反射率が高い車外対象物からの反射波は強度が強い。このため、例えば受信回路の増幅器を通過した後の信号波形は増幅器の入出力上限値を超えて上限値以上の値がカットされる。よって、図8の車外対象物が壁である場合に示すように、波形は、矩形に近いひずみを有したものとなる。
逆に人や車両など反射率がそれほど大きくない車外対象物からの反射波は強度が低い。このため、増幅器の入出力上限値以上の値がカットされることがなく、図8の車外対象物が人及び車である場合に示すように、波形は正弦波に近いものとなる。
このように、車外対象物が壁である場合にはひずみが大きくなる。ここで、ひずみの大小は、基本周波数に対する高調波成分の割合から求めることができる。すなわち、矩形波はある基準となる周波数に高調波成分を足し合わせることで再現できる。また、反射波の形状は、高調波成分の割合が大きい程矩形状となり、割合が小さいほど正弦波に近くなる。このため、増幅器の上限値以上の値がカットされて矩形に近い形状となった波形は、基準となる周波数に対する高調波成分の割合を求めることで、ひずみの度合い(ひずみ率)を知ることができる。
具体的にCPU23は、ひずみ率を以下の計算式から求める。
ここで、|E1|は基本周波数(送信周波数)の実効値であり、|E2|は第2高調波の実効値であり、|En|は第n高調波(nは3以上の整数)の実効値である。
なお、波形のひずみは、クリッピング以外の要素によって生じることがあることも付け加えておく。すなわち、車外対象物が動くものである場合、車外対象物にて反射波した反射波はドップラー効果により送信時の周波数と異なった周波数を有することとなる。そして、送信時の周波数と異なった周波数が送信時の周波数に合成されることで、ひずみが生じることがある。よって、ひずみは、クリッピング以外の要素によって生じる場合もある。
再度、図3を参照する。ひずみ率を求めた後、CPU23の種類判別機能は、ひずみ率が規定値以上であるか否かを判断する(ST10)。ここで、規定値以上でないと判断した場合(ST10:NO)、CPU23の種類判別機能は、車外対象物が人であると判別する。そして、CPU23の拘束判断機能は、車外対象物が人である場合、衝突時の衝撃が比較的小さいと判断し、乗員拘束装置30を作動させることなく、処理をステップST1に戻す。このように、車外対象物が人である場合、本装置1は不要に乗員拘束しないこととなる。特に、乗員拘束装置30が火薬式などの1回の使用により交換等を要するものである場合には、不要な乗員拘束を抑えることで、交換費などコスト面においても有利となる。
また、ひずみ率が規定値以上であると判断した場合(ST10:YES)、CPU23の種類判別機能は、車外対象物が壁であると判別する。そして、CPU23の拘束判断機能は、車外対象物が壁である場合、衝突時の衝撃が大きいと判断して、乗員拘束装置30を作動させる(ST8)。その後、処理は終了する。
図9は、CPU23の種類判別機能の説明図である。上記フローチャートに示した処理を簡単に説明すると以下のようになる。CPU23の種類判別機能は、図9に示すように、エンベロープの積分値が所定の閾値以上である場合、車外対象物が車であると判別している。また、CPU23の種類判別機能は、エンベロープの積分値が所定の閾値よりも小さい場合、受信波のひずみ率が規定値以上であれば、車外対象物が壁であると判別している。一方、CPU23の種類判別機能は、エンベロープの積分値が所定の閾値よりも小さい場合、受信波のひずみ率が規定値よりも小さければ、車外対象物が人であると判別している。
図10は、CPU23の拘束判断機能の説明図である。図10に示すように、CPU23の拘束判断機能は、エンベロープの積分値が所定の閾値以上である場合、乗員拘束装置30を作動させる。また、CPU23の拘束判断機能は、エンベロープの積分値が所定の閾値よりも小さい場合、受信波のひずみ率が規定値以上であれば、乗員拘束装置30を作動させる。一方、CPU23の拘束判断機能は、エンベロープの積分値が所定の閾値よりも小さい場合、受信波のひずみ率が規定値よりも小さければ、乗員拘束装置30を作動させないこととする。
このようにして、本実施形態に係る乗員保護装置1によれば、車外対象物にて反射して戻ってくる反射波の波形の積分値、及びひずみの少なくとも2つから車外対象物の種類を判別することとしている。ここで、奥行きがある車外対象物からの反射波の強度は比較的強い状態が長く継続する傾向にある。車両など奥行きがある車外対象物の場合、奥行き方向の複数の反射点からの波が重なり合うためである。他方、人や壁など奥行きがない車外対象物からの反射波の強度は高い状態で継続しにくい傾向にある。このため、波形の積分値は車両について高い値を示すという特性を有している。
また、壁など反射率が高い車外対象物からの反射波は強度が高い。このため、例えば受信回路の増幅器を通過した後の信号波形は増幅器の入出力上限値を超えて上限値以上の値がカットされる。よって、壁などからの反射波については、増幅器通過後に矩形に近いひずみを有した波形となる。このように、波形のひずみは壁などについて大きいという特性を有している。
以上、車外対象物からの反射波の波形については積分値及びひずみに車外対象物の種類に応じた特性があり、これらをもとに車外対象物の種類を判別できる。故に、これら種別を判別して、それに応じた乗員拘束を行うことにより、衝突対象に応じた乗員保護を行うことができる。
また、反射波の波形のひずみとして、送信波の周波数を基準周波数とし、この基準周波数に対する高調波の割合を用いることとしている。ここで、矩形波はある基準となる周波数に高調波成分を足し合わせることで再現できる。また、高調波成分の割合が大きい程矩形状となり、割合が小さいほど正弦波に近くなる。このため、増幅器の上限値以上の値がカットされて矩形に近い形状となった波形は、基準となる周波数に対する高調波成分の割合を求めることで、ひずみの度合いを知ることができる。従って、ひずみ度合いに応じて正確に車外対象物の種類を判別することができる。
また、波形の積分値は、波形のエンベロープ処理をした後の積分値を用いることとしている。このため、積分値の計算が容易となり、処理速度の向上を図ることができる。
さらに、第1実施形態では、カメラや画像処理装置などを備えることなく、車外対象物を種類を判別している。このため、これら装置等を設ける設置スペース及びコストの面で優れている。
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態に係る乗員保護装置2は、第1実施形態のものと同様であるが、処理内容の一部が第1実施形態のものと異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
図11は、第2実施形態に係る乗員保護装置2の詳細動作を示すフローチャートである。なお、同図に示すステップST11〜ST17の処理は、図3に示したステップST1〜ST7の処理と同様であるため、説明を省略する。
同図に示すように、第2実施形態に係る乗員保護装置2では、エンベロープの積分値が所定の閾値以上でないと判断した場合(ST17:NO)、CPU23の種類判別機能は、ひずみ率の計算に代えて波形の最大振幅を計算する(ST19)。このとき、CPU23は、反射波の波形からノイズ成分を取り除くフィルター処理をし、フィルター処理した波形を増幅する前の波形信号から、最大振幅を検出する。
図12は、超音波の発信(ST11)及び受信(ST12)の処理の詳細を示すフローチャートである。ノイズ成分を取り除くフィルター処理をし、フィルター処理した波形を増幅する前の波形信号は、図12に示すフローチャートのステップST23の処理とステップST24の処理との間の波形信号である。以下、詳細に説明する。
まず、CPU23は、発信制御を行う(ST21)。すなわち、CPU23は所定の周波数により超音波を発信するように超音波センサ10に指示する。その後、CPU23は、超音波センサ10からの信号をA/D変換して受信する(ST22)。次いで、CPU23は、フィルタリングを行ってノイズ成分を除去する(ST23)。
ここで、超音波センサ10により受信された反射波は微弱となっていることが多い。このため、CPU23は、フィルター処理後の信号を増幅器にて増幅する(ST24)。次いで、CPU23はコンパレータによる比較を行い(ST25)、その後に超音波を送信してから受信するまでの時間を計測する(ST26)。そして、処理は、図11のステップST13に移行する。
なお、これら一連の処理は、全てCPU内部で行うものとして説明しているが、一部の処理をCPU外部に設けたアナログ回路で行うことも可能である。例えば、周波数の生成は外部に設けた発振器を用いることも可能である。
以上のように、超音波の発信(ST11)及び受信(ST12)は行われる。図11のステップST19では、上記のステップST23とステップST24との処理間の信号から、最大振幅を計算する(ST19)。このため、雑音を排除したうえで反射波の振幅を評価でき、且つ増幅することによるクリップ等の現象による最大振幅の変化が起こることが無い。故に、適切に最大振幅を検出することができる。
再度、図11を参照する。CPU23の種類判別機能は、最大振幅が基準値以上であるか否かを判断する(ST20)。ここで、最大振幅は、車外対象物に応じて異なってくる。図13は、図11に示した最大振幅の判断処理(ST20)を示す説明図である。同図に示すように、車外対象物が人、車及び壁のそれぞれによって硬さや面積等が異なり、受信された反射波の最大振幅が異なってくる。具体的には、壁は硬く面積が大きいことから反射率が高い。このため、車外対象物が壁である場合、増幅器を通過する前の反射波は振幅が大きくなる(これを振幅方向にひずんでいると定義する)。
逆に人などは着衣の柔らかい素材によって超音波が吸収されるため、反射率は小さい。このため、反射波の強度が低く振幅が小さくなる。また、車両はバンパーやグリルやフードなど硬い部材が多々あるが壁よりも面積が小さく、反射率は壁よりも小さく人よりも大きい。このため、車外対象物が車両である場合、反射波の振幅は中程度となる。
このように、車外対象物が壁である場合には振幅方向にひずみが大きくなる。このため、最大振幅が基準値以上であるか否かを判断することで、車外対象物の種類を判別できることとなる。
よって、最大振幅が基準値以上でない場合(ST20:NO)、CPU23の種類判別機能は、車外対象物が人であると判別する。そして、CPU23の拘束判断機能は、車外対象物が人である場合、衝突時の衝撃が比較的小さいと判断し、乗員拘束装置30を作動させることなく、処理をステップST11に戻す。
また、最大振幅が基準値以上であると判断した場合(ST20:YES)、CPU23の種類判別機能は、車外対象物が壁であると判断する。そして、CPU23の拘束判断機能は、車外対象物が壁である場合、衝突時の衝撃が大きいと判断して、乗員拘束装置30を作動させる(ST18)。その後、処理は終了する。
図14は、第2実施形態に係るCPU23の種類判別機能の説明図である。上記フローチャートに示した処理を簡単に説明すると以下のようになる。図14に示すように、CPU23の種類判別機能は、エンベロープの積分値が所定の閾値以上である場合、車外対象物が車であると判別する。また、CPU23の種類判別機能は、エンベロープの積分値が所定の閾値よりも小さい場合、受信波の最大振幅が基準値以上であれば、車外対象物が壁であると判別する。一方、CPU23の種類判別機能は、エンベロープの積分値が所定の閾値よりも小さい場合、受信波の最大振幅が基準値よりも小さければ、車外対象物が人であると判別する。
図15は、第2実施形態に係るCPU23の拘束判断機能の説明図である。図15に示すように、CPU23の拘束判断機能は、エンベロープの積分値が所定の閾値以上である場合、乗員拘束装置30を作動させる。また、CPU23の拘束判断機能は、エンベロープの積分値が所定の閾値よりも小さい場合、最大振幅が基準値以上であれば、乗員拘束装置30を作動させる。一方、CPU23の拘束判断機能は、エンベロープの積分値が所定の閾値よりも小さい場合、最大振幅が基準値よりも小さければ、乗員拘束装置30を作動させないこととする。
このようにして、第2実施形態に係る乗員保護装置2によれば、衝突対象に応じた乗員保護を行うことができ、積分値の計算が容易となり、処理速度の向上を図ることができる。
さらに、第2実施形態によれば、反射波の波形のひずみとして、波形の最大振幅を用いるため、ひずみ度合い(振幅方向へのひずみ)を正確に知ることができ、ひずみ度合いに応じて正確に車外対象物の種類を判別することができる。また、ひずみ率の計算するために複雑な処理を要しないため、CPU23の内部メモリ領域を少なくすることもできる。
また、反射波の波形からノイズ成分を取り除くフィルター処理をし、フィルター処理した波形を増幅する前の波形信号から、最大振幅を検出することとしている。このため、雑音を排除したうえで反射波の振幅を評価でき、かつ増幅することによるクリップ等の現象によって最大振幅の変化が起こる可能性が無い。従って、適切に振幅を検出することができる。
次に、本発明の第3実施形態を説明する。第3実施形態に係る乗員保護装置3は、第1実施形態のものと同様であるが、処理内容の一部が第1実施形態のものと異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
図16は、第3実施形態に係る乗員保護装置3の詳細動作を示すフローチャートである。なお、同図に示すステップST32〜ST41の処理は、図3に示したステップST1〜ST10の処理と同様であるため、説明を省略する。
同図に示すように、第3実施形態に係る乗員保護装置3においてCPU23は、超音波センサ10から超音波を発信するまえに、送信時の超音波の強度(振幅)を決定する(ST31)。このとき、CPU23は、発信する送信波の振幅を、前回(過去)の処理において求められた車外対象物までの距離に応じて可変とする。
ここで、車外対象物までの距離が長いと受信時における反射波の強度は弱くなり、車外対象物までの距離が短いと受信時における反射波の強度は強くなる。このため、車外対象物の距離に応じて反射波の積分値やひずみが異なってくる。しかし、過去の車外対象物までの距離から送信波の振幅を可変とすることで、距離による影響を除去することが可能となり、適切に車外対象物の種類を判別することができるようになる。そして、CPU23は、振幅を決定した後、その振幅で超音波を発信し(ST32)、後の処理を実行していくこととなる。
図17は、送信時の超音波の振幅を大きくしたときと小さくしたときとの反射波の違いを示す説明図である。同図に示すように、車外対象物が近くに存在する場合、車外対象物からの反射波の振幅が大きくなり増幅器の入出力上限値を超えてしまい、増幅器からの出力信号が全てクリップした状態となってしまうことがある(送信パワー大を参照)。
この場合、エンベロープの積分値がほぼ同じ値になってしまい、車外対象物が車両なのか人なのかを判別することができなくなる。このため、車外対象物が近くに存在する場合、送信波をのパワーを減して振幅を小さくする。これにより、送信波の振幅の減少度に応じて受信波の振幅も小さくなり、車と人とを判別できる程度に積分値は異なる値となる。このように、前回の処理サイクルにおいて検出された車外対象物までの距離に応じて、送信波の振幅を可変とすることで、車外対象物の種類を適切に判別できるようになる(送信パワー商を参照)。
なお、第3実施形態において、初期処理、すなわち車外対象物からの受信波が観測されていない最初の処理サイクルでは、最大検出距離且つ広範囲に車外対象物からの受信波を受信できるように、最大のパワーで送信波を送信するようになっている。そして、2回目以降の処理サイクルにおいて、CPU23は、車外対象物までの距離に応じて発信する送信波の振幅を可変とする。このとき、CPU23は、車外対象物までの相対距離が特定距離以上の場合、送信波の振幅を減少させず、車外対象物までの相対距離が特定距離未満の場合、距離に比例して送信波の振幅を減少させる。また、減少度合い及び上記特定距離は、超音波センサ10の感度や増幅器の性能に応じて決定される。
特に、第3実施形態においてCPU23は、車外対象物までの距離が一定値以下である場合、増幅器から出力される信号がクリップしない振幅で送信を発信する。これにより、反射波受信後の増幅によってクリップが生じることなく、矩形波による波形のひずみは求められることがない。すなわち、増幅器の入出力上限値を超えることがなく、入出力上限値の製造上のばらつきによって製品毎にひずみが異なって求められることがない。よって、一層車外対象物の種類を適切に判別できるようになる。
このようにして、第3実施形態に係る乗員保護装置3によれば、第1実施形態と同様に、
衝突対象に応じた乗員保護を行うことができる。また、ひずみ度合いに応じて正確に車外対象物の種類を判別することができ、積分値の計算が容易となり、処理速度の向上を図ることができる。
さらに、第3実施形態によれば、発信する送信波の振幅を、過去の処理において求められた車外対象物までの距離に応じて可変としている。ここで、車外対象物までの距離が長いと受信時における反射波の強度は弱くなり、車外対象物までの距離が短いと受信時における反射波の強度は強くなる。このため、車外対象物の距離に応じて反射波の積分値やひずみが異なってくる。しかし、過去の車外対象物までの距離から送信波の振幅を可変とするため、距離による影響を除去することが可能となる。従って、適切に車外対象物の種類を判別することができる。
また、過去の処理において求められた車外対象物までの距離が一定値以下である場合、波形を増幅する増幅器から出力される信号がクリップしない振幅で送信を発信することとしている。このため、反射波受信後の増幅によってクリップが生じることなく、矩形波による波形のひずみは求められることがない。すなわち、増幅器の入出力上限値を超えることがなく、入出力上限値の製造上のばらつきによって製品毎にひずみが異なって求められることがない。従って、適切に車外対象物の種類を判別することに寄与することができる。
次に、本発明の第4実施形態を説明する。第4実施形態に係る乗員保護装置4は、第1実施形態のものと同様であるが、処理内容が第1実施形態のものと一部異なっている。以下、第1実施形態との相違点を説明する。
図18は、第4実施形態に係る乗員保護装置4の詳細動作を示すフローチャートである。なお、同図に示すステップST51〜ST56,ST58〜ST61の処理は、図3に示したステップST1〜ST6,ST7〜ST10の処理と同様であるため、説明を省略する。
同図に示すように、第4実施形態に係る乗員保護装置4においてCPU23は、エンベロープの積分値を計算した後(ST56の後)、所定の閾値を車外対象物との距離に応じて設定する。すなわち、第3実施形態では送信波の強度を調整していたが、本実施形態では積分値の閾値を距離に応じて可変とすることで、距離による影響分を除去するようにしている。具体的にCPU23は、図19に示すように閾値を設定する。
図19は、図18に示したステップST57において設定される閾値を示す説明図である。同図に示すように、CPU23は、所定の閾値を、車外対象物との距離の4乗に反比例する値とする。ここで、反射波の受信時における強度は車外対象物までの距離の4乗に反比例する傾向にある。よって、種類判別用の閾値(所定の閾値)を車外対象物の距離の4乗に反比例させることが望ましい。すなわち、
という関係式に基づいて所定の閾値を設定することが望ましい。ここで、yはしきい値であり、a,bは超音波センサ10の感度性能によって決定される値であり、Lは車外対象物との距離である。このように閾値を設定することにより、閾値を適正なものとし、適切に車外対象物の種類を判別することができることとなる。
そして、所定の閾値を設定した後、図18に示すように、CPU23は車外対象物の種類を判別する処理(ST58〜ST61)を行い、車外対象物の種類に応じた乗員拘束を行うこととなる。
このようにして、第4実施形態に係る乗員保護装置4によれば、第1実施形態と同様に、衝突対象に応じた乗員保護を行うことができる。また、ひずみ度合いに応じて正確に車外対象物の種類を判別することができ、積分値の計算が容易となり、処理速度の向上を図ることができる。
さらに、第4実施形態によれば、波形の積分値から車外対象物の種類を判別するにあたり、積分値と所定の閾値と比較する構成となっており、所定の閾値を車外対象物との距離に応じて可変としてる。ここで、車外対象物までの距離が長いと受信時における反射波の強度は弱くなり、車外対象物までの距離が短いと受信時における反射波の強度は強くなる。このため、車外対象物の距離に応じて反射波の積分値やひずみが異なってくる。しかし、車外対象物の種類判別用の閾値(所定の閾値)を車外対象物の距離に応じて可変とするため、距離による影響を除去することが可能となる。従って、適切に車外対象物の種類を判別することができる。
また、所定の閾値を、車外対象物との距離の4乗に反比例する値としている。ここで、反射波の受信時における強度は車外対象物までの距離の4乗に反比例する。よって、種類判別用の閾値(所定の閾値)を車外対象物の距離の4乗に反比例させることにより、閾値を適正なものとし、適切に車外対象物の種類を判別することができる。
次に、本発明の実施形態を説明する。第5実施形態に係る乗員保護装置5は、第1実施形態のものと同様であるが、処理内容の一部が第1実施形態のものと異なっている。以下、第5実施形態との相違点を説明する。
図20は、第5実施形態に係る乗員保護装置4の詳細動作を示すフローチャートである。なお、同図に示すステップST71〜ST74,ST77の処理は、図3に示したステップST1〜ST4,ST8の処理と同様であるため、説明を省略する。
ST75では、対象物の種類を判定する処理を行う。この対象物種類推定処理については後述する。
ステップST76では、ST75で判断した判断結果を元にして、対象物が壁であると判断された場合には、乗員保護の必要が想定されるシーンであるため、ステップST77において拘束装置を作動させる。作動後、全ての作動を終了する。一方で、ステップST76において対象物が人であると判断された場合には、ステップST71に戻り、初期の動作を繰り返し行う。
図21は、図20のステップST75で実施される対象物種類推定の詳細動作を示すフローチャートである。
まずステップST75−1では、図22にあるように対象物に反射して戻ってきた反射波の絶対値を取りそのピークを結んだエンベロープを計算する。エンベロープ処理された結果は、受信波形の時刻暦に応じたピーク値の履歴を示すプロフィールとなる。エンベロープ処理を行った後、ステップST75−2では、受信波形のエンベロープ波形の時間積分値を計算する。時間積分は、第1実施形態に示した数5の式に則り行う。
なおCPU23上では、上記積分値の計算を離散化して行う。この計算を行うことで、受信波の受信開始から受信途中までの受信波形のパワーが計算される。図23及び図24にあるように、例えば、対象物が人・壁の場合にはエンベロープの形状が異なり、計算されるEの時刻に対するプロフィールが異なる。この値は対象物の種類及に依存して変化する。特に、超音波センサ10から見てレンジ方向に奥行きがある対象物の場合には、奥行き方向の複数の反射点からの反射波が重なり合い、長いエンベロープの形状となるが、対象物が壁のように超音波センサ10から見たレンジ方向に奥行きが無い対象物の場合には、早期にエンベロープの振幅が小さくなる傾向がある。
一方で、人のように音波の反射率が低い対象物の場合には反射波の振幅が弱く、E(t1)の立ち上がりが遅い。壁のように対象物が固く反射率が高い対象物の場合には、反射波の振幅が大きく、E(t1)の立ち上がりから積分値が大きくなる。この性質により、対象物によって取得されたエンベロープの積分値E(t1)は図7に示すように、時刻に対する積分値のプロフィールが異なる。
さらに、図25に示すように、計算されたE(t1)の値に対して積分値閾値を設けて当該閾値をE(t1)が超えた時刻が別に設けた時刻閾値との比較を行い、積分値閾値以下であれば対象物は壁であると判定する作用をステップST75−3にて行う。ここで設けたE(t1)に対する閾値及びt1に対する閾値はそれぞれ、超音波センサ10の特性・超音波センサ10の送受信を司る回路の特性によって異なるため、実験やシミュレーションを行うことで事前に決定しておき、コントローラ20に記憶させておくものとする。
ステップST75−4においては、ステップST75−3でt1に対する時刻閾値を超えなかった場合であり、未だ対象物が人であるか壁であるかの判別ができていない。ステップS75−4では、受信波形全体に対して所定のポイント数でFFTを行い、周波数領域に変換する。
さらに、ステップST75−5では、計算された周波数領域のn倍の周波数のピーク値を取得する。ピーク値取得の方法は既に提案されている方法を用いることが可能であるが、FFTのポイント数、すなわち周波数分解能によりピーク値サーチの幅が異なるため、このピーク値サーチの幅も事前に実験値などにより決定しておき、コントローラ20に記憶させておく。なお、n倍のnは整数値とする。n倍を整数値とすることで、送信された超音波の周波数のn倍高調波の周波数の音圧レベルを取得することが可能である。また、n倍のn値の上限値はコントローラ20の計算能力及び記憶容量などによって事前に決定しておくこととするが、4倍程度の値で十分な結果が得られる。
次にステップST75−6では、各n倍周波数ごとに設けた周波数ピーク閾値Th_f(n)との比較を行う。ピーク閾値Th_f(n)はnをパラメータとする、離散的な数値である。このステップにて行った周波数ピーク閾値Th_f(n)との比較により、当該周波数でのピーク値がピーク閾値Th_f(n)よりも大きい場合には、ステップST75−7へと進み、対象物は壁であると判定する。当該周波数でのピーク値がピーク閾値Th_f(n)よりも小さい場合には、ステップST75−6へと進み、対象物は人であると判定する。なお、このピーク閾値Th_f(n)も事前に実験値などを用いて、決定しておきコントローラ20に記憶させておく。
ステップST75−5及びステップST75−6にて行う計算は、以下の傾向に基づいている。対象物が壁の場合には一般的には金属やコンクリート等の固定対象物からの反射であるため、対象物からの反射時の減衰が少なく、他の対象物と同距離に存在する対象物の中でも、反射波の振幅が大きく、超音波センサにより受信された反射波の振幅が大きい。よって、図26及び図27のように、その後に増幅された場合、アンプにおいてクリップする現象が発生するため、本来送信した正弦波形状とはその形が異なり、振幅の上限下限においてクリップした波形、すなわち矩形波に近いプロフィールが得られる。
図28及び図29にあるように、例えば50kHzの正弦波形状の超音波を送信した場合には、アンプを経由して得られる反射波の形状も50kHzの正弦波となるが、クリップした場合には矩形波となることから、基本周波数50kHz付近に周波数領域でのピークを持つだけでなく、50kHzの整数倍高調波付近にピークを有する。この原理は、離散フーリエ展開において、矩形波を再現する際に、基本周波数の整数倍の周波数を持った正弦波を所定の振幅で加算することによって再現される原理を用いている。よって、対象物が壁等の場合に、クリップした波形が得られた場合に、基本周波数以外のn倍高調波付近にピークが現れる。よって、このn倍高調波のピーク値を所定の閾値Th_f(n)と比較することで、対象物から反射してきた反射波がどれほど矩形波に近い波形となっているかどうかの判定を行うことで対象物が人か壁かを見分けることが可能である。
ステップST75−7及びステップST75−8において、対象物が人か壁かを判定することで、対象物の種類を判定することが可能となる。先に述べたように対象物が壁の場合には、当該対象物との衝突が後に発生した場合には乗員の保護が要されると想定されるシーンである。一方で対象物が人と判定される場合には、乗員の保護は要されないと想定されるシーンである。
このようにして、第5実施形態に係る乗員保護装置5によれば、反射波の積分値到達時間を用いた対象物の種類の判別に加え、反射波の周波数領域でのn倍整数値を用いた対象物の種類を判別を行うため、人と壁のように、反射波の振幅が小さいにもかかわらず、長さが長く、反射波全体のエンベロープの積分値が同一になってしまうような対象物であっても、誤判断を防止して正確な判断が可能となる。
また、反射波の波形をエンベロープ処理した後に得られる波形の積分値を用いているため、積分値の計算が容易となり、処理速度の向上を図ることができる。
第5実施形態によれば、エンベロープの積分値が積分値閾値を超えるまでに要した時間と時刻閾値とを比較して障害物の種類を特定している。このため、対象物の奥行きや電磁波の反射率の影響により異なる対象物からの反射波を同一種類の対象物からの反射波であると誤認識するのを防止でき、正確な対象物の種類特定が可能となる。
また、反射波の基本周波数の整数倍の周波数におけるピーク値が所定の周波数ピーク閾値Th_f(n)を超えたか否かに基づいて、車外対象物の種類を特定している。このため、対象物との角度や距離などに依存すること無く、精度良く対象物の種類判定を行うことが可能となる。
次に、本発明の第6実施形態を説明する。第6実施形態に係る乗員保護装置6は、第5実施形態のものと同様であるが、処理内容の一部が第5実施形態のものと異なっている。以下、第5実施形態との相違点を説明する。
図30は、図20のステップST75で実施される対象物推定の詳細動作を示すフローチャートである。なお、同図に示すステップST81〜ST84,ST88,ST89は、図21に示したステップST75−1〜ST75−4,ST75−7,ST75−8の処理と同様であるため、説明を省略する。
ステップST85では、第5実施形態で行ったn倍の周波数全域に渡ってピーク値をサーチでは無く、基本周波数と3倍の周波数におけるピーク値をサーチする。さらに、ステップST86において、下記の値を計算する。
(代替ひずみ率)=(3倍周波数のピーク値)/(基本周波数ピーク値)
さらに、ステップST87では、ステップST86で計算した代替ひずみ率の値と所定の代替ひずみ率閾値との比較を行い、ステップST86で計算した代替ひずみ率の値が、代替ひずみ率閾値以上の場合には、ステップST88へと進み、対象物は壁であると判断される。一方で代替ひずみ率閾値以下の場合には、ステップST89へと進み、対象物は人であると判断される。
第5実施形態で述べた通り、送信している超音波は正弦波形状を有しているが、受信波がアンプでクリップした場合には、反射波の形状が矩形波に近くなる。正弦波形状が矩形波形状となるためには、1周期の立ち上がり部分が急峻になっている必要がある。そのためには、1周期の初期に立ち上がりを持つ周期の正弦波成分が合成されている必要がある。高調波の最も低次の成分の中で基本周波数の1/4周期の位相部分で立ち上がりを持つ高調波は3次の高調波成分である。
これは、図31及び図32に示す通りである。基本周波数を持った図31及び図32の上段のデータに対して、図31及び図32の中段にあるデータを同時刻で加算したものが、図31及び図32の下段にあるグラフである。図31の中段は基本周波数の2倍の高調波であり、図32の中段は基本周波数の3倍の高調波である。これを見ると、図32の下段にあるグラフが矩形波特有の基本周波数の立ち上がり付近で急峻な立ち上がりを持ちながら、基本周波数と同じ周波数でプラス方向及びマイナス方向への振幅を有している。この結果から、矩形波の周波数成分として顕著に傾向が表れるのは3倍の高調波であることが分かる。各対象物の場合に、計算した代替ひずみ率の結果を図33に示すが、この結果からも3倍の高調波で比較することにより顕著な違いが出ることが分かる。
このようにして、第6実施形態に係る乗員保護装置6によれば、反射波の基本周波数におけるピーク値と、基本周波数の整数倍の周波数におけるピーク値との比の大きさに基づいて、車外対象物の種類を特定している。このため、誤認識無く精度の良い対象物の種類判定が可能であると同時に、より高速に対象物判定が可能となるため、単位時間当たりのデータ密度を上げることができ、高精度の衝突判定が可能となる。
さらに、第6実施形態によれば、基本周波数の整数倍を、3倍に設定しているため、全ての整数倍の周波数成分をサーチして閾値と比較した第5実施形態と比較して、計算が容易になり素早い判断が可能となる。よって、送信から次の送信までの間の計算時間を短縮できるため、単位時間当たりの計測判断サイクルを多くすることができる。この結果、単位時間当たりのデータ密度が上昇し、より信頼性の高い判断が可能となる。
次に、本発明の第7実施形態を説明する。第7実施形態に係る乗員保護装置7は、第5実施形態のものと同様であるが、処理内容の一部が第5実施形態のものと異なっている。以下、第5実施形態との相違点を説明する。
図34は、図20のステップST75で実施される対象物推定の詳細動作を示すフローチャートである。なお、同図に示すステップST91〜ST94,ST97,ST98は、図21に示したステップST75−1〜ST75−4,ST75−7,ST75−8の処理と同様であるため、説明を省略する。
ステップST95では、基本周波数の3倍高調波成分のピーク半減周波数を計算する。すなわち、3倍高調波成分のピーク値に対して、3dB低下した部分の周波数幅を計算する。さらに、ステップST96では、ステップST95で計算したピーク半減周波数と予め実験値等により設定したピーク半減周波数閾値を比較し、当該閾値以下の場合には、ステップST97へと進み、対象物が壁であると認識される。一方で当該閾値以上の場合には、ステップST98へと進み、対象物が人であると認識する。
図35に示したグラフは、ステップST94において計算された反射波の周波数領域信号であるが、この周波数領域信号から基本周波数成分の3倍高調波付近の領域の周波数成分を拡大したグラフを図36及び図37に示す。図36は対象物が壁の場合であり、図37は対象物が人の場合である。
第6実施形態で示した通り、正弦波を元にして矩形波を生成するためには、正確に3倍周波数成分が含まれることが好ましいが、実際的にはアンプを通過して得られる反射波の信号は正確に3倍高調波のみが得られるわけではなく、様々な周波数帯の信号が重畳している。しかしながら、正確な矩形波に近づくに連れて3倍高調波の成分が立ち始めて、3倍付近の周波数特性が鋭いピークを持ち始める。第7実施形態では、この性質を活かして、対象物の種類を見分ける手法を提案している。
このようにして、第7実施形態に係る乗員保護装置7によれば、反射波の基本周波数の整数倍の周波数におけるピーク値から所定のパワー低下したパワー値となる周波数幅の大きさに基づいて、車外対象物の種類を特定している。このため、障害物の種類判定の精度と計測サイクルの高速化による精度向上のバランスを取ることが可能となる。
さらに、第7実施形態によれば、基本周波数の整数倍を、3倍に設定しているため、送信から次の送信までの間の計算時間を短縮できるため、単位時間当たりの計測判断サイクルを多くすることができる。この結果、単位時間当たりのデータ密度が上昇し、より信頼性の高い判断が可能となる。
次に、本発明の第8実施形態を説明する。第8実施形態に係る乗員保護装置8は、第5実施形態のものと同様であるが、処理内容の一部が第5実施形態のものと異なっている。以下、第5実施形態との相違点を説明する。
図38は、図20のステップST75で実施される対象物推定の詳細動作を示すフローチャートである。なお、同図に示すステップST101,ST102,ST104,ST105,ST108,ST109は、図21に示したステップST75−1,ST75−2,ST75−3,ST75−4,ST75−8,ST75−9の処理と同様であり、図38に示すステップST106,ST107は、図34に示したステップST95,ST96の処理と同様であるため、説明を省略する。
ステップST103では、自車と対象物との距離に応じてステップST104の積分値判断を行うルーチンをスキップするか否かを判別する。ステップST104では、閾値との比較を行うが、対象物との距離が遠距離にある場合には、衝突までの余裕時間が十分にあるため、第7実施形態と同様の対象物認識ステップ(ST105〜ST107)を実行するが、対象物がより近くに存在する場合には、衝突までの余裕時間が少ないため、極力早い処理を行って次の計測判断サイクルに移行することが望ましい。
そこで、ステップST103において、対象障害物との距離が予め設定した距離閾値未満である場合には、ステップ(ST104)をスキップし、処理を早く終了させるロジックとする。
このようにして、第8実施形態に係る乗員保護装置によれば、車外対象物との距離に応じて、反射波の波形の積分値を用いた車外対象物の判別している。このため、反射波の周波数のピーク値を用いた高速な種類の判別と、反射波のエンベロープの積分値を用いたより正確な種類の判別とを、車外対象物との距離に応じて選択することが可能となる。
さらに、第8実施形態では、車外対象物との距離が所定の距離閾値未満の場合には、波形の周波数のみを用いて車外対象物を判別している。このため、対象物との衝突が差し迫っている状況下では、エンベロープの積分値を用いた判別を省略することで、処理速度の短縮化を図ることができる。一方、対象物との距離が遠い場合には、エンベロープの積分値を用いたより精度の高い判別が可能となる。
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、各実施形態を組み合わせてもよい。また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよい。
例えば、上記実施形態では、カメラや画像処理装置などを備えることなく、車外対象物を種類を判別している。しかし、これに限らず、カメラや画像処理装置などを備え、これらと本装置の種類判別機能とにより車外対象物の種類を精度良く判別するようにしてもよい。