まず、本発明の一つの実施の形態としての電気接点材が組み込まれたブレーカの構成について説明する。
図1と図2に示すように、ブレーカ10は、固定側接点部材30と、固定側接点部材30に接触することができるように、または、固定側接点部材30から離隔することができるように、繰り返して移動可能に配置された可動側接点部材20とを備えている。固定側接点部材30は電気接点材31と台金32との接合体からなる。可動側接点部材20は電気接点材21と台金22との接合体からなる。本発明の実施形態による電気接点材31はブレーカ10の固定側接点部材30の一部分に使用される。なお、図1と図2に示される電気接点材31は、本発明に従った「電気接点材」の一例である。
固定側接点部材30においては、電気接点材31と台金32とが、台金32側に一体的に形成された接合部32aの上面を接合面として、ろう材4を介して互いに接合されている。可動側接点部材20においては、電気接点材21と台金22とが、台金22側に一体的に形成された接合部の上面を接合面として、ろう材4を介して互いに接合されている。
このようにして、可動側接点部材20と固定側接点部材30が構成されているので、図1に示すように固定側接点部材30の電気接点材31に対して可動側接点部材20の電気接点材21が接触した状態(閉状態)から、ブレーカ10の許容電流値を超える電流が所定時間流れた場合に、内蔵された接点引き外し装置(図示せず)が作動することによって、図2に示すように可動側接点部材20の電気接点材21が固定側接点部材30の電気接点材31から矢印Q方向に瞬時に引き離された状態に移行して、電流を遮断するように構成されている。なお、図1と図2に示すように、固定側接点部材30のうち、電気接点材31が設けられていない台金32の端部側が、ブレーカ10の1次側(電源側)端子に接続されているとともに、可動側接点部材20のうち、電気接点材21が設けられていない台金22の端部は、ブレーカ10の2次側(負荷側)端子に接続されている。
上記の実施の形態では、ブレーカ10に組み込まれる可動側の電気接点材21は銀−炭化タングステン(Ag−WC)系の材料からなり、固定側の電気接点材31は、本発明の電気接点材として、銀−炭化タングステン−グラファイト(Ag−WC−Gr)系の材料からなり、炭化タングステン(WC)を10質量%以上30質量%以下、グラファイト(Gr)を2質量%以上5質量%以下含み、残部が銀(Ag)と不可避的不純物を含み、相対密度が98.0%以上、酸素含有量が350ppm以下、導電率が60%IACS以上、抗折力が330MPa以上である。
本発明の電気接点材において、まず、耐火物である耐熱性非酸化物としての炭化タングステンが10質量%以上30質量%以下含まれていることにより、耐アーク性、耐溶着性、耐消耗性を一定以上向上させるという利点が得られる。炭化タングステンの含有量が10質量%未満では、上記の利点を得ることができないだけでなく、銀の溶出を抑制することができないので耐溶着性が低下するおそれがある。炭化タングステンの含有量が30質量%を超えると、電気導電性が低下するので、当該材料がブレーカ用、電磁開閉器用等の接点として機能しない。具体的には、炭化タングステンの含有量が30質量%を超えると、導電率が60%IACS未満になるおそれがある。炭化タングステンの含有量は10質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
また、本発明の電気接点材において、グラファイトが2質量%以上5質量%以下含まれることにより、遮断時の高熱下において耐熱性非酸化物としての炭化タングステンの酸化を防止し、また耐溶着性を向上させるという利点を得ることができる。グラファイトの含有量が2質量%未満では、上記の利点を得ることができない。グラファイトの含有量が5質量%を超えると、材料を成形することができない。グラファイトの含有量は2質量%以上4質量%以下であることが好ましい。
さらに、本発明の電気接点材において、残部は銀と不可避的不純物を含むが、接点の電気伝導性を確保するためには、銀は65質量%以上88質量%以下含まれることが好ましい。銀の含有量が65質量%未満では、電気導電性が低下し、当該材料がブレーカ用、電磁開閉器用等の電気接点材に適さない。銀の含有量が88質量%を超えると、耐火物である耐熱性非酸化物としての炭化タングステンの含有量が少量になるので、耐アーク性、耐溶着性、耐消耗性を一定以上向上させることができない。銀の含有量は70質量%以上85質量%以下であることが好ましい。
本発明の電気接点材において、残部として、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)、タンタル(Ta)、バナジウム(V)、マグネシウム(Mg)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、および、これらの炭化物などからなる群より選ばれた少なくとも1種類の元素または炭化物が、0質量%以上3質量%以下の範囲で含まれていてもよい。上記の元素または炭化物の含有量が3質量%を超えると、導電率が60%IACS未満になる恐れがある。上記の元素または炭化物の含有量は1質量%以下であることが好ましい。
本発明の電気接点材において、相対密度が98.0%以上であることにより、優れた耐溶着性と耐消耗性を得ることができる。相対密度が98.0%未満では、導電率が60%IACS未満になる恐れがあるので、電気接点材が耐溶着性と耐消耗性に劣る。相対密度は99.0%以上100%以下であることが好ましい。
本発明の電気接点材において、酸素含有量が350ppm以下であるので、優れた耐消耗性を得ることができる。酸素含有量が350ppmを超えると、電気接点材に残存する酸素が遮断時に急激に開放され、接点消耗が大きくなる恐れがある。具体的には、酸素含有量が350ppmを超えると、短絡試験時に生じる数千度の高熱により、材料中に存在する酸素が気体になるので、電気接点材の基材の一部分を飛散させる。これにより、電気接点材が消耗する割合が増大する。酸素含有量は280ppm以下が好ましい。なお、過負荷試験においては、接点負荷が小さいので、電気接点材が消耗する割合は酸素含有量による影響をほとんど受けない。ただし、製造上困難という理由により、酸素含有量は80ppm以上であることが好ましい。ここで、「製造上困難」ということは、酸素含有量をどれだけ小さくしようとしても80ppmが製造上の限界という意味である。
本発明の電気接点材において、導電率が60%IACS以上であるので、優れた耐溶着性と耐消耗性と温度性能を得ることができる。導電率が60%IACS未満であると、耐溶着性と耐消耗性と温度性能が悪くなる。ただし、製造上困難という理由により、導電率は75%IACS以下であることが好ましい。ここで、「製造上困難」ということは、導電率をどれだけ大きくしようとしても75%IACSが製造上の限界という意味である。
大電流用途の短絡試験では衝撃が大きいので、その衝撃に耐えるために、本発明の電気接点材における抗折力は330MPa以上である。抗折力が330MPa未満では、接点負荷の大きな短絡試験において、材料の機械的強度不足により、電気接点材が破壊する。抗折力は350MPa以上が好ましい。なお、過負荷試験においては、接点負荷が小さいので、抗折力による影響をほとんど受けない。ただし、製造上困難という理由により、抗折力は450MPa以下であることが好ましい。ここで、「製造上困難」ということは、抗折力をどれだけ大きくしようとしても450MPaが製造上の限界という意味である。
本発明の電気接点材において、炭化タングステンの平均粒径は0.2μm以上5μm以下であることが好ましい。炭化タングステンの平均粒径が0.2μm未満では、材料を成形することができない。炭化タングステンの平均粒径が5μmを超えると、電気接点材の箇所によって強度のばらつきが生じる。強度の低い箇所がつながるようになると、短絡試験後に電気接点材が選択的に消耗する。その結果、耐アーク性、耐溶着性、耐消耗性が悪くなる恐れがある。
また、本発明の電気接点材において、グラファイトの平均粒径は1μm以上50μm以下であることが好ましい。グラファイトの平均粒径が1μm未満では、材料を成形することができない。また、グラファイトの平均粒径が50μmを超えると、電気接点材の箇所によって強度のばらつきが生じる。強度の低い箇所がつながるようになると、短絡試験後に電気接点材が選択的に消耗する。その結果、耐アーク性、耐溶着性、耐消耗性が悪くなる恐れがある。
なお、本発明の銀−炭化タングステン−グラファイト(Ag−WC−Gr)系の材料からなる電気接点材は次のようにして製造される。
(粉末の準備)
準備される銀(Ag)粉末の平均粒径は0.5μm以上10μm以下、炭化タングステン(WC)粉末の平均粒径は0.2μm以上5μm以下、グラファイト(Gr)粉末の平均粒径は1μm以上50μm以下である。各粉末の平均粒径が下限値未満では、粉末の凝集が激しくなり、各粒子が均一に分散できないので、電気接点材の表面に溶出する銀の面積が大きくなる。その結果、電気接点材の溶着性能が悪くなる恐れがある。各粉末の平均粒径が上限値を超えると、粉末において粒子間距離が大きくなり、各粒子が微細に分散できないので、電気接点材の表面に溶出する銀の面積が大きくなる。その結果、電気接点材の溶着性能が悪くなる恐れがある。好ましくは、銀(Ag)粉末の平均粒径は1μm以上5μm以下、炭化タングステン(WC)粉末の平均粒径は0.4μm以上3μm以下、グラファイト(Gr)粉末の平均粒径は3μm以上10μm以下である。
銀(Ag)粉末、炭化タングステン(WC)粉末、および、グラファイト(Gr)粉末の各粉末の純度は99.5%以上であることが好ましい。各粉末の純度が99.5%未満では、粉末の粒界に存在する酸素(O)、炭素(C)などの不純物が多くなるので、電気接点材の導電率が低くなる恐れがある。
(混合工程)
次に、所定の組成に従って銀粉末と炭化タングステン粉末とグラファイト粉末とを、たとえば、乾式ボールミル内にて、80Pa以上150Pa以下の真空中で、たとえば、30分間以上60分間以下、混合する。このように原料粉末を真空中で混合することにより、微細な原料粉末を均一に混合して、各粒子を均一に分散させることができる。これにより、電気接点材の抗折力等の機械的強度を高めて、接点負荷の大きな短絡試験に対する耐性を向上させることができる。混合雰囲気の圧力が80Pa未満では、高真空にするためのコストが高くなる恐れがある。混合雰囲気の圧力が150Paを超えると、真空度が不十分となり、比重差の大きい原料粉末の各粒子を均一に分散させることができない恐れがある。混合時間が30分間未満では、混合が不十分となり、原料粉末の各粒子を均一に分散させることができない恐れがある。混合時間が60分間を超えると、生産性が悪くなる恐れがある。
(圧縮成形工程)
その後、混合粉末に、たとえば、250MPa以上350MPa以下の圧力を加えることにより、圧縮成形体を形成する。この工程は、後工程であるコイニング工程と押出工程によって、より高い相対密度の電気接点材を得ることができるようにするために行われる。プレス圧力が250MPa未満では、コイニング工程における変形量が大きくなってしまうので、一度のコイニング工程で相対密度が93%以上になるように加圧することができない恐れがある。プレス圧力が350MPaを超えると、プレス体の相対密度が85%を超えてしまうので、プレス体中の隙間が小さくなる。その結果、後工程である焼結工程において材料内部の還元が不十分となり、酸素が残留する恐れがある。
(焼結工程)
得られた圧縮成形体を、たとえば、850℃以上950℃以下の温度の、たとえば、水素ガス等の還元性ガス雰囲気中で、たとえば、1時間以上2時間以下、保持することにより、焼結する。このように圧縮成形体を還元性ガス雰囲気中で焼結することにより、電気接点材の内部に吸着している不純物としての酸素の量を低減することができる。焼結温度が850℃未満では、焼結が完了しない。焼結温度が950℃を超えると、銀の融点を超えるので、材料が発泡する恐れがある。焼結時間が1時間未満では、焼結が完了しない。焼結時間が2時間を超えると、生産性が悪くなる恐れがある。
(コイニング工程)
得られた焼結体を、相対密度が、たとえば、93%以上99%以下になるように、たとえば、1000MPa以上1200MPa以下の加圧下でコイニング加工する。この工程は、後工程である押出工程によって、より高い相対密度の電気接点材を得ることができるようにするために行われる。また、この工程は、押出工程における予備加熱時に材料中に入り込む不純物としての酸素の量を低減するために行われる。コイニング圧力が1000MPa未満では、材料の相対密度が90%程度になってしまう恐れがある。コイニング圧力が1200MPaを超えると、用いられる金型の耐久性が悪くなる恐れがある。コイニング工程後の相対密度が93%未満では、押出工程における予備加熱時に材料中に入り込む不純物としての酸素の量が多くなる恐れがある。コイニング工程後の相対密度が99%を超えると、これ以上加圧してもスプリングバックにより相対密度が向上せず、生産性が悪くなる恐れがある。
(押出工程)
コイニング加工された焼結体を、たとえば、750℃以上850℃以下の温度の、水素ガス等の還元性ガス雰囲気中で、または、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で、たとえば、1時間以上2時間以下、保持することにより、予備加熱した後、150GPa以上250GPa以下の押出圧力を加えることにより、所定の形状になるように押出加工する。
以上のようにして、本発明の銀−炭化タングステン−グラファイト(Ag−WC−Gr)系の材料からなる電気接点材は製造される。
従来のプレス加工と焼結とを組み合わせた製造方法によれば、相対密度を高めることが困難である。また、従来の製造方法では、酸素、炭素などの不純物が多く存在する原材料粉末における旧粉末粒界が焼結後にも維持されやすい。このため、焼結後の電気接点材の粒界に酸素、炭素などの不純物が集中して残存する。この残存した不純物が材料の導電率と抗折力を低下させる。
これに対して、上記のようにコイニング加工された焼結体を押出加工することにより、相対密度を高めることができるとともに、旧粉末粒界が引き延ばされ、高純度の銀粒子同士が接触し、原材料粉末における旧粉末粒界の影響は極めて小さくなる。その結果、98%以上の相対密度を得ることができるとともに、粒界に残留する不純物の量を少なくすることができるので、電気接点材の導電率と抗折力が向上する。
予備加熱温度が750℃未満では、押出材の変形抵抗が大きくなってしまうので、押し出しできない恐れがある。予備加熱温度が850℃を超えると、押出時の温度が銀の融点を超えてしまうので、押出材の表面が発泡してしまう恐れがある。予備加熱時間が1時間未満では、材料の内部まで加熱されないので、変形抵抗が大きくなってしまい、押し出しできない恐れがある。予備加熱時間が2時間を超えると、材料が十分に均一に加熱されているので、生産性が悪くなってしまう恐れがある。
押出圧力が150GPa未満では、押出材の相対密度が低くなってしまう恐れがある。押出圧力が250GPaを超えると、押出ダイスが破損してしまう恐れがある。
なお、特許文献1と特許文献2に記載の電気接点材の製造方法では、焼結体を再加圧することにより、相対密度を向上させている。しかしながら、上述のように、焼結後の電気接点材の粒界には、酸素、炭素などの不純物が集中して残存する。この残存した不純物が材料の導電率と抗折力を低下させるという問題がある。また、焼結体を再加圧する場合、焼結体の外周方向を隙間なく拘束しなければならない。このため、焼結体を一個ずつ金型にセットし、加圧する必要がある。その結果、生産コストが高くなるという問題がある。
これに対して、上述した本発明の銀−炭化タングステン−グラファイト(Ag−WC−Gr)系の材料から電気接点材を製造するためには、押出加工法が採用される。このため、量産性の高い方法で98%以上の相対密度を有する電気接点材を製造することができる。その結果、生産コストを低下させることができる。
要約すれば、本発明の電気接点材では、耐火物である炭化タングステンを10質量%以上30質量%以下含む材料において高い導電率を得ることができる。これにより、遮断時の発熱を低下させることができるので、耐溶着性、耐消耗性、温度性能を向上させることができる。また、従来の電気接点材に比べて本発明の電気接点材では、抗折力が高いので、接点負荷の大きな短絡試験において接点の破壊を低減することができる。
以下、上述の実施形態の効果を確認するために行った実施例と比較例とによる比較実験について以下に説明する。
[実施例]
本実施例では、上述の実施形態に対応する実施例として、以下の実施例1〜15による固定側の電気接点材31を作製した。また、従来の製造方法を用いた比較例として、以下の比較例1〜4による固定側の電気接点材31を作製した。これらの電気接点材31の各々を組み込んで構成された定格電流値が60Aの大電流用ブレーカの各々を用いて過負荷試験と短絡試験による遮断試験を行った。なお、可動側の電気接点材21は、銀を50質量%含み、残部が炭化タングステンからなる材料を用いた。
本発明の実施例と比較例において電気接点材31を作製するために用いられた(グラファイト(Gr)粉末の平均粒径、作製された電気接点材31におけるグラファイト(Gr)の含有量、炭化タングステン(WC)粉末の平均粒径、作製された電気接点材31における炭化タングステン(WC)の含有量、電気接点材31の相対密度、酸素含有量、導電率、および、抗折力を以下の表1に示す。また、過負荷試験後の電気接点材31の消耗率、短絡試験後の電気接点材31の消耗率、および、温度試験についての評価結果も表1に示す。なお、表1において下線が付されている数値は、本発明の範囲外であることを示す。
なお、電気接点材31の相対密度、酸素含有量、導電率、および、抗折力の測定方法、大電流用ブレーカの過負荷試験と短絡試験による遮断試験の方法、これらの遮断試験後の消耗率の評価、および、温度試験の方法と評価については後述する。
(実施例1〜15)
実施例1〜15では、表1に示す含有量でグラファイト(Gr)と炭化タングステン(WC)を含む銀−炭化タングステン−グラファイト(Ag−WC−Gr)系材料の電気接点材31を次のようにして作製した。
表1に示す平均粒径のグラファイト(Gr)粉末および炭化タングステン(WC)粉末と、平均粒径が3μmの銀(Ag)粉末とを、表1に示すGr含有量およびWC含有量になるように乾式ボールミルを用いて真空中(100Pa)で45分間混合した。得られた混合粉末にプレスで圧力300MPaを加えることにより、厚みが300mm、外径が80mmの円盤状の圧縮成形体を形成した。この圧縮成形体を還元性ガス雰囲気である900℃の温度の水素ガス中で1.5時間保持することにより、焼結した。この焼結体を、真密度が97%以上になるように、1100MPaの加圧下でコイニング加工した。コイニング加工された焼結体を、還元性ガス雰囲気である800℃の温度の水素ガス中で1.5時間保持することにより、予備加熱した後、押出圧力200GPaを加えることにより、断面が10mm角の棒状体になるように押出加工した。得られた棒状体を1mmの厚みに切断することにより、電気接点材31を作製した。
(比較例1)
比較例1では、表1に示す含有量でグラファイト(Gr)と炭化タングステン(WC)を含む銀−炭化タングステン−グラファイト(Ag−WC−Gr)系材料の電気接点材31を次のようにして作製した。
表1に示す平均粒径のグラファイト(Gr)粉末および炭化タングステン(WC)粉末と、平均粒径が3μmの銀(Ag)粉末とを、表1に示すGr含有量およびWC含有量になるように大気中で30分間、手作業で混合した。得られた混合粉末にプレスで圧力300MPaを加えることにより、平面形状が10mm角で厚みが1mmの板状の圧縮成形体を形成した。この圧縮成形体を900℃の温度の真空中で1時間保持することにより、焼結した。この焼結体を、真密度が97%以上になるように、500MPaの加圧下でコイニング加工した。このようにして、電気接点材31が得られた。
(比較例2)
比較例2では、焼結体をコイニング加工する工程を行わない点を除いては、上記の実施例1〜15と同様の工程に従って、表1に示すように実施例1と同じ平均粒径と含有量でグラファイト(Gr)と炭化タングステン(WC)を含む銀−炭化タングステン−グラファイト(Ag−WC−Gr)系材料の電気接点材31を作製した。
(比較例3)
比較例3では、圧縮成形体を保護ガス雰囲気である950℃の温度の窒素ガス中で1時間保持することにより焼結した点を除いては、上記の実施例1〜15と同様の工程に従って、表1に示すように実施例1と同じ平均粒径と含有量でグラファイト(Gr)と炭化タングステン(WC)を含む銀−グラファイト−炭化タングステン(Ag−Gr−WC)系材料の電気接点材31を作製した。
(比較例4)
比較例4では、銀粉末とグラファイト粉末と炭化タングステン粉末を大気中で混合した点を除いては、上記の実施例1〜15と同様の工程に従って、表1に示すように実施例1と同じ平均粒径と含有量でグラファイト(Gr)と炭化タングステン(WC)を含む銀−グラファイト−炭化タングステン(Ag−Gr−WC)系材料の電気接点材31を作製した。
(相対密度)
作製された電気接点材の相対密度[%]は、電気接点材の重量を電気接点材の体積(縦寸法×横寸法×厚み寸法の積で得られる算出値)で除することによって算出された密度を、各材質の理論密度で除することによって算出した。
(酸素含有量)
作製された電気接点材に残留する酸素含有量[ppm]の測定は、株式会社堀場製作所製の酸素分析機器(機種BMGA520)を用いて赤外線吸収法によって行った。
(導電率)
断面形状が10mm角の電気接点材の試料を用いて、シグマテスター(FOERSTER INSTRUMENTS製、品番:SIGMATEST D)で導電率[%IACS]を測定した。
(抗折力)
作製された電気接点材と同じ素材から5mm×2mm×30mmの大きさの抗折試験用の試料を作製した。この試料を用いて、支点間距離15mm、ヘッド速度1mm/minの条件で抗折力[MPa]を測定した。
(大電流用ブレーカの遮断試験(過負荷試験))
過負荷試験は、220Vの負荷電圧で600Aの遮断電流を設定した。試験方法としては、CO責務(負荷電圧220Vで600Aの遮断電流が流れる回路にブレーカをセットし、スイッチOFF状態で強制的にスイッチをON投入して瞬時に電流を遮断させる試験)を50回行った。そして、過負荷試験後の電気接点材31の消耗率を次の式によって算出した。表1には、消耗率の評価として、算出された消耗率が5%以下であるとき「◎」、10%以下であるとき「○」、10%を超えるとき「×」で示す。
(電気接点材の消耗率)=[[(試験前の電気接点材の厚み)−(試験後の電気接点材の厚み)]/(試験前の電気接点材の厚み)]×100(%)・・・(式1)
(大電流用ブレーカの遮断試験(短絡試験))
短絡試験は、220Vの負荷電圧で5000Aの遮断電流を設定した。試験方法としては、O責務(ブレーカのスイッチON状態で遮断電流を流し、電流を遮断させる試験)とCO責務(負荷電圧220Vで5000Aの遮断電流が流れる回路にブレーカをセットし、スイッチOFF状態で強制的にスイッチをON投入して瞬時に電流を遮断させる試験)を次の手順で行った。すなわち、この短絡試験では、動作責務として1回のO責務と3回のCO責務をこの順で行った。そして、短絡試験後の電気接点材31の消耗率を上記の(式1)によって算出した。表1には、消耗率の評価として、算出された消耗率が10%以下であるとき「◎」、40%以下であるとき「○」、40%を超えるとき「×」で示す。
(大電流用ブレーカの溶着試験)
溶着試験は、265Vの負荷電圧で5000Aの遮断電流を設定した。試験方法としては、O責務(ブレーカのスイッチON状態で遮断電流を流し、電流を遮断させる試験)とCO責務(負荷電圧265Vで5000Aの遮断電流が流れる回路にブレーカをセットし、スイッチOFF状態で強制的にスイッチをON投入して瞬時に電流を遮断させる試験)を次の手順で行った。すなわち、この溶着試験では、動作責務として1回のO責務と5回のCO責務をこの順で行った。そして、溶着試験中または溶着試験後の電気接点材31の溶着具合を評価した。表1には、溶着具合の評価として、接点が全く溶着しないとき「◎」、ブレーカのON/OFFで簡単に溶着が外れる場合(軽溶着)「○」、ブレーカのON/OFFで簡単に溶着が外れない場合(重溶着)「×」で示す。
(温度試験)
過負荷試験後および遮断試験後に定格電流を流し、温度が安定したときのブレーカの端子の温度を測定した。表1には、温度上昇が75K未満のとき「◎」、75K以上80K未満のとき「○」、80K以上のとき「×」で示す。
表1から、銀−炭化タングステン−グラファイト(Ag−WC−Gr)系材料の電気接点材31を用いた、定格電流値が60Aの大電流用ブレーカにおいて、炭化タングステンを10質量%以上30質量%以下、グラファイトを2質量%以上5質量%以下含み、残部が銀と不可避的不純物を含み、相対密度が98.0%以上、酸素含有量が350ppm以下、導電率が60%IACS以上、抗折力が330MPa以上であるように、電気接点材31(実施例1〜15)を構成することにより、過負荷試験後の消耗率だけでなく、短絡試験後の消耗量をも低減でき、また、短絡試験による遮断試験後における溶着を防止でき、さらに、過負荷試験後および遮断試験後における温度上昇を抑制することができたことがわかる。
今回開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態と実施例ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。
たとえば、上記の実施形態と実施例では、ブレーカ10の固定側接点部材30に本発明の電気接点材31を適用した例について示したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、ブレーカ10の可動側接点部材20または固定側接点部材30のいずれかに本発明の電気接点材を用いてもよい。なお、本発明の電気接点材は、定格電流値が1A〜250A程度のブレーカ10に組み込まれることが好ましく、定格電流値が1A以上100A未満のブレーカ10に組み込まれることがより好ましい。
また、上記の実施形態と実施例では、開閉器の一例としてのブレーカ10に本発明の電気接点材31を用いた例について示したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、たとえば、電磁開閉器などのブレーカ以外の開閉器(スイッチ機器)に本発明の電気接点材を用いてもよい。