JP4893178B2 - 導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子、電波吸収材料及び電波吸収体 - Google Patents

導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子、電波吸収材料及び電波吸収体 Download PDF

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Description

本発明は、導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子、より詳しくは、粒子内部が好適にはケイ素、炭素、チタンまたはジルコニウム及び酸素から構成され、粒子表面に炭素を主体とする導電性無機物質層をもつ構造からなり、粒子内部から表面に向かって導電性無機物質の存在割合が傾斜的に増大し、その厚さが1〜500nmであり、且つ真球度が高い微粒子である導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子、該導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子からなる電波吸収材料、及び該電波吸収材料と絶縁性マトリックスとからなる電波吸収体に関する。
本発明では、電波を吸収する素材を電波吸収材料、特定の波長を吸収するために設計された電波吸収材から構成されたもの(製品)を電波吸収体と定義する。
電波吸収材料に関する研究で実用的なものは非特許文献1に発表されたものが初めてとされている。それ以来多くの研究がなされ、様々な電波吸収材料が報告されている。
カーボン含有材料はカーボン粒子を発泡ウレタン、発泡スチロールやゴム等に含有させた材料であり、カーボンの導電損失を利用した電波吸収材料である。比較的高周波数帯域で電波を吸収できるため、電波暗室等の用途で使用される。しかし、カーボンは導電性粒子であるために粒子表面での反射が避けられない。そこで、ピラミッド型にしたり、粒子の含有密度の違う材料を層状に重ね合わせたりして、電波入射面を空気に近い組成にして電波の呼び込み層を形成する方法がとられている。そのため、カーボン微粒子を使う場合には、例えば比較的薄い1GHz用のピラミッド型の電波吸収材料でも200mm以上の厚さになり、使用場所が限られてしまう等の問題点がある。
フェライトは、磁性損失を利用した電波吸収材料である。これも発泡スチロールやゴム等に含有させて使用するが、比較的低周波数帯域(100MHz〜1GHz)の狭帯域においてのみ電波吸収をするため、将来的な高周波数帯域用電波吸収材料には適していない。また、鉄を主成分としているため、密度が5〜10g/cm2であり、重量が他の電波吸収材料に比べて重くなってしまうという問題点をもっている。
λ/4型電波吸収体は、金属板で裏打ちした無損失誘電体の表面に抵抗膜をつけたものである。無損失誘電体の厚さは波長の1/4であり、対象周波数以外の帯域の電波は吸収しないため、非常に狭帯域の電波吸収体である。
既存の電波吸収材料の周波数帯域幅と厚さの関係は、一般に周波数帯域幅が広くなると材料は厚く、材料が薄くなると周波数帯域幅が狭くなる傾向であり、薄型でかつ吸収帯域幅が広い電波吸収材料はまだ開発されていない。
これらを解決する策として、特許文献1には炭化ケイ素質と導電性無機物質との複合相からなる繊維であって、繊維の表層に向かって導電性無機物質の存在割合が傾斜的に増大しており、導電性無機物質の傾斜層の厚さが1〜500nmである導電性無機物質含有無機繊維と絶縁性マトリックスとの複合材料からなる電波吸収材が記載されており、1〜300GHzの電波を選択的に広帯域で吸収することができると記載されている。電波吸収帯域及び帯域幅は、電波吸収材の繊維含有率、厚さ及びこれに使用する繊維の表面導電層厚さ、配向を選択すること及び/または、入射する面に積層する電波透過材の繊維含有率、厚さ及びこれに使用する繊維の比抵抗、配向を選択することで任意に制御できると記載している。
特許文献1に記載の電波吸収材料は、繊維形状物を用いるため構造材料としても機能する等の利点もあるが、繊維形状という特殊な用途でしか用いられないものであるため、材料自身が非常に高価であることが問題である。さらには、複合化の際には繊維を織物形状にしなくてはいけないことや均質に且つきれいに配向させなければならないこと等の電波吸収体製造の工程が非常に複雑であることや特殊な技術が必要となること等が電波吸収体のコストを押し上げる要因となっている。また、繊維形状物は、複雑形状物への対応が困難である。さらには繊維形状物から構成される電波吸収体は、表面平滑性や力学的等方性、電波吸収材料のリサイクル性等にも問題がある。
電波吸収材料を微粒子形状にすることができれば、繊維形状にする工程が必要でなくなることから電波吸収材料の製造コストを低くすることができる。微粒子形状の電波吸収材料は樹脂やセラミックス等のマトリックス材料との混練が容易であり、一般的な成型手法で複雑形状物に成型することができるので、電波吸収体の製造コストを低くすることが可能になる。さらには、電波吸収体の表面平滑性や力学的当方性が得られることや、電波吸収材料のリサイクルも容易になるなどの利点がある。
特開2003−133782号公報 A. J. Simmons, W. H. Emerson, I. R. E., National Conv. Record, 1953
本発明者らは上記問題を鑑み、電波吸収材料を微粒子形状にするための研究を鋭意実施した結果、粒子内部が好ましくはケイ素、炭素、チタンまたはジルコニウム及び酸素から構成され、粒子表面に炭素を主体とする導電性無機物質層をもつ構造からなり、粒子内部から表面に向かって導電性無機物質の存在割合が傾斜的に増大し、その厚さが1〜500nmであり、且つ真球度が高い導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子電波吸収材料を開発するに至った。本発明は、真球度が高く樹脂等との混練性に優れており、広帯域にわたって電波吸収特性に優れ、好ましくはケイ素、炭素、チタンまたはジルコニウム、及び酸素から構成された粒子内層をもち、粒子表面に炭素を主体とする導電性無機物質に富む層を有する炭化ケイ素質微粒子と絶縁性マトリックスとからなる電波吸収材料と、その製造方法を提供し、複雑形状対応の電波吸収体を提供する。
本発明は、粒子内部が炭化ケイ素質、特にケイ素、炭素、チタンまたはジルコニウム及び酸素から構成される炭化ケイ素質であり、粒子表面に炭素を主体とする導電性無機物質層をもつ構造からなり、粒子内部から表面に向かって導電性無機物質の存在割合が傾斜的に増大し、その厚さが1〜500nmであり、且つ真球度が高い微粒子である導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子、該導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子である電波吸収材料、及び該電波吸収材料と絶縁性マトリックスとからなる電波吸収体に関するものである。本発明によれば、広帯域に渡って電波吸収特性をもち、薄型で複雑形状対応の電波吸収体を低コストで製造することができる。
すなわち、本発明によれば下記が提供される。
(1)炭化ケイ素質の粒子内部と、粒子の表面全体を覆う炭素を主体とする導電性無機物質の表面層とからなる微粒子であって、表面層は粒子の表層に向かって導電性無機物質の存在割合が傾斜的に増大した導電性無機物質の傾斜層を成し、導電性無機物質の傾斜層の厚さが1〜500nmであることを特徴とする導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
(2)炭化ケイ素質微粒子がさらにチタンおよびジルコニウムの少なくとも1種を含む上記(1)に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
(3)炭化ケイ素質粒子内部の元素組成が、20〜60質量%のSi、0.5〜10質量%のTiおよびZrの少なくとも1種、25〜65質量%のC,5〜30質量%のOからなる上記(2)に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
(4)炭化ケイ素質粒子内部の元素組成が、25〜50質量%のSi、0.5〜8質量%のTiおよびZrの少なくとも1種、30〜55質量%のC,5〜20質量%のOからなる上記(2)に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
(5)表面層の元素組成が、0〜40質量%のSi、0〜12質量%のTiおよびZrの少なくとも1種、50〜100質量%のC,0〜25質量%のOからなる上記(2)〜(4)のいずれか1項に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
(6)表面層において、粒子の表層に向かって炭素の存在割合が傾斜的に増大し、Siの存在割合が傾斜的に減少している上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
(7)平均粒径が0.5〜20μmである、上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
(8)下記の工程から製造される上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
(a)主として一般式
(但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)
で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランをチタン又はジルコニウムを含む有機金属化合物で修飾した構造を有する変性ポリカルボシランからなる前駆体高分子を提供する工程。
(b)前駆体高分子を微粒子化する工程。
(c)前駆体高分子微粒子を、酸素を含む雰囲気中で予備加熱を行い、不融化処理を行う工程。
(d)不融化された前駆体高分子微粒子を不活性ガス雰囲気中で焼成して炭化ケイ素質微粒子を得る工程。
(e)炭化ケイ素質微粒子を、還元性ガス雰囲気或いは極微量の酸素を含む不活性ガス雰囲気等で高温処理して、炭化ケイ素質微粒子の表層部において内部から表層に向かって導電性無機物質の存在割合を傾斜的に増大させる工程。
(9)前記前駆体高分子の微粒子化工程を、前駆体高分子を前駆体高分子の貧溶媒に混合し加熱して溶解させた後、該溶液を冷却して前駆体高分子の微粒子を析出させる冷却晶析法で行なう上記(8)に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
(10)前記前駆体高分子の微粒子化工程を、前駆体高分子を前駆体高分子の貧溶媒に混合し加熱して溶解させた後、該溶液を噴霧し熱風で乾燥して前駆体高分子の微粒子を得る噴霧乾燥法で行なう上記(8)に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
(11)上記(1)〜(10)のいずれか1項に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子からなる電波吸収材料。
(12)上記(11)に記載の電波吸収材料と絶縁性マトリックスから構成される電波吸収体。
(13)上記(11)に記載の電波吸収材料と絶縁性バインダーとからなる塗布型電波吸収体。
本発明の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子からなる電波吸収材料は1〜300GHzの電波を選択的に広帯域で吸収することができる。電波吸収帯域および帯域幅は、電波吸収材の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子の含有率、厚さ及びこれに使用する微粒子の表面導電層の厚さを選択すること、及び/又は、入射する面に積層する電波透過層の微粒子含有率、厚さ等を選択することで任意に制御することができる。
本発明の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子あるいは電波吸収材料は、炭化ケイ素質の粒子内部と粒子の表面全体を覆う炭素を主体とする導電性無機物質の表面層とからなる微粒子であって、粒子の表層に向かって導電性無機物質の存在割合が傾斜的に増大した導電性無機物質の傾斜層を有し、導電性無機物質の傾斜層の厚さが1〜500nmであることを特徴とする。
本発明の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子あるいは電波吸収材料は、微粒子形状である。微粒子であることで、従来技術の繊維状の電波吸収材料と比べて、繊維では使用できない用途で使用でき、複雑形状にも対応が容易であり、また、材料が繊維と比べて安価であり、織物形状にする必要がなく、樹脂等に均質に分散させるなどの製造工程も容易であるなどのほか、電波吸収体の表面平滑性や力学的等方性が得られる、リサイクルも容易であるなどの利点がある。
また、導電性無機物質含有炭化ケイ素質繊維を粉砕すると、一旦無機繊維を製造してから粉砕して微粒子にするので製造の工程が複雑でかつ無駄があり、また製造コストが高くなるほか、微粒子の表面の一部だけに導電性無機物質が存在するために電波吸収性能が劣るが、本発明の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子あるいは電波吸収材料は、炭化ケイ素質粒子の表面全体を覆う炭素を主体とする導電性無機物質の表面層を有するものであり、上記の欠点が解決されている。
この導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子は、炭化ケイ素質相(第1相)と導電性無機物質(第2相)との複合相からなる微粒子であって、粒子の表面全体を覆う表層部において、粒子の内部側から微粒子表面に向かって導電性無機物質層(第2相)の存在割合が傾斜的に増大している。
炭化ケイ素質相(第1相)は、非晶質であっても結晶質であっても良く、導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子の内部相を形成している。微粒子全体に対する第1相の存在割合は70.00〜99.98体積%の範囲内に制御することが好ましい。このような存在割合であると、所望の電波吸収性能を発現させることができる。
本発明の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子あるいは電波吸収材料の粒子内部は炭化ケイ素質からなる。炭化ケイ素質であることで、後記の製法で微粒子に炭素を主体とする導電性無機物質の表面層を形成することを可能とするとともに、軽量でかつ所望の強度等の物性を有することが可能である。
炭化ケイ素質の粒子内部は、ケイ素および炭素以外に、酸素、さらにチタン、ジルコニウムのような金属元素を含むことができ、炭化ケイ素のほか、酸化ケイ素、炭化チタンおよび炭化ジルコニウムのような金属化合物が存在することができるが、好適にはケイ素、炭素、チタンおよびジルコニウムの少なくとも1種、および酸素からなる。炭化ケイ素質粒子内部の元素組成が、20〜60質量%のSi、0.5〜10質量%のTiおよびZrの少なくとも1種、25〜65質量%のC,5〜30質量%のOからなることが好ましい。さらに好ましくは、炭化ケイ素質粒子内部の元素組成が、25〜50質量%のSi、0.5〜8質量%のTiおよびZrの少なくとも1種、30〜55質量%のC,5〜20質量%のOからなることがより好ましい。Siが20質量%より少ない場合は製法上Cが多くなるということであり、この場合粒子の導電率が高くなりすぎて良好な電波吸収特性を得ることができなくなる場合がある。一方、Siが60質量%より多いと逆に粒子の導電性が低くなりすぎて良好な電波吸収特性を得ることができなくなる場合がある。TiおよびZrの少なくとも1種が0.5質量%から10質量%の範囲外の場合、前駆体高分子の特性が好ましくなくなり微粒子化工程において良好な微粒子形状を得ることが困難になるおそれがある。Cが25質量%より少ない場合は前述のように製法上Siが多くなるということであり、この場合粒子の導電率が低くなりすぎて良好な電波吸収特性を得ることができなくなったり、Cが65質量%より多い場合は粒子の導電率が高くなりすぎて良好な電波吸収特性を得ることができなくなる場合がある。Oが5質量%より少ないと焼成工程での分解が進みすぎて粒子形状を保つことができなくなったり、Oが30質量%より多いと粒子の導電率が低くなりすぎて良好な電波吸収特性を得ることができなくなる場合がある。
一方、第2相を構成する導電性無機物質は、本発明では目的とする機能を発現させる上で重要な役割を演じるものであるが、非晶質でも結晶質でも良い。この第2相の存在割合は、微粒子の表層部において、微粒子の表面に向かって傾斜的に増大している。導電性無機物質の存在割合が粒子の表層に向かって傾斜的に増大していることで、良好な電波吸収特性を発現できるとともに、例えば炭化ケイ素質微粒子表面にCVD法などの手法で導電層をコーティングしたものに比べてコーティングによる微粒子の凝集や取扱い時の導電層の剥がれなどの劣化がなくなる。
傾斜領域の厚さは1〜500nmに制御することが好ましい。傾斜領域の厚さが1nm未満の場合、電波の微粒子表面導電が生じないために電波吸収特性が得られない。他方、傾斜層の厚さが500nmを超える場合、微粒子表面で電波反射が生じ、電波吸収性能が低下する。これらのことにより、その組成の傾斜が明らかに認められる領域の厚さは1〜500nmの範囲に制御することが好ましい。より好ましくは10〜100nmの範囲である。
炭素を主体とする導電性無機物質の表面層は、電波吸収の機能を担う部分である。炭化ケイ素質粒子内部の表層部に炭素を主体とする導電性無機物質の表面層を形成し、その層の厚さを調整することで吸収帯域幅の広い電波吸収材料を提供することが可能にされる。導電性無機物質は炭素を主体とするが、そのほかにTi、Zr等の炭化物などの導電性無機物質を含むことができる。導電性無機物質は結晶質および非晶質のいずれでもよい。炭素は導電性であればよく、遊離の炭素、グラファイト等のいずれでもよい。導電性無機物質が炭素を主体とするとは、導電性無機物質を基準として炭素が少なくとも30質量%であることを意味し、50質量以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。
微粒子の表層部を構成する第2相の存在割合は、0.02〜30体積%が好ましく、1〜20体積%がより好ましい。尚、上記第2相の「存在割合」とは、微粒子全体に含有されている割合を意味している。0.02体積%がより少ないと電波の微粒子表面導電が生じないため良好な電波吸収特性が得られないし、30体積%より多いと微粒子表面で電波反射が生じ、電波吸収性能が低下する。導電性無機物質の存在割合は、炭素を主体とする導電性無機物質の合計量の存在割合であり、導電性無機物質を構成する導電性物質のすべての物質の存在割合が増加する必要はない。典型的には、炭素の存在割合が明らかに増加し、チタンやジルコニウムなどの炭化物の存在割合にはあまり顕著な増加はみられない。極端な場合、チタンやジルコニウムの炭化物など炭素以外の導電性無機物質の存在割合は増加せず、あるいは減少していてもよい。
1つの好ましい態様において、表面層の元素組成は、0〜40質量%のSi、0〜12質量%のTiおよびZrの少なくとも1種、50〜100質量%のC,0〜25質量%のOからなる。Siが40質量%より多いと粒子表層部の導電率が低くなり良好な電波吸収特性を得ることができにくくなる。TiおよびZrの少なくとも1種が12質量%より多い場合は、前駆体高分子の特性が好ましくなくなり微粒子化工程において良好な微粒子形状を得ることが困難になる。Cが50質量%より少ないと粒子表層部の導電率が低くなりすぎて良好な電波吸収特性を得ることができにくくなる。Oが25質量%より多いと粒子表層部の導電率が低くなりすぎて良好な電波吸収特性を得ることができにくくなる。
本発明の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子あるいは電波吸収材料は、以下の工程で好ましく製造できる。
(a)主として一般式
(但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランをチタン又はジルコニウムを含む有機金属化合物で修飾した構造を有する変性ポリカルボシランからなる前駆体高分子を提供する工程。
(b)前駆体高分子を微粒子化する工程。
(c)前駆体高分子微粒子を、酸素を含む雰囲気中で予備加熱を行い、不融化処理を行う工程。
(d)不融化された前駆体高分子の微粒子を不活性ガス雰囲気中で焼成して、炭化ケイ素質粒子を得る工程。
(e)炭化ケイ素質粒子を、還元性ガス雰囲気或いは極微量の酸素を含む不活性ガス雰囲気等で高温処理して、炭化ケイ素質微粒子の表層部において内部から表層に向かって導電性無機物質の存在割合を傾斜的に増大させる工程。
本発明の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子あるいは電波吸収材料の製造の第1工程(a)は、導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子を製造するための前駆体高分子として使用する数平均分子量が1,000〜50,000の変性ポリカルボシランを製造する工程である。上記変性ポリカルボシランの基本的な製造方法は、特開昭56−74126号公報)に記載の方法に従って調製することができる。特開昭56−74126号公報の開示は参照して本願明細書に含める。
出発原料である変性ポリカルボシランは、主として一般式
(但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基またはフェニル基を示す。)で表される主鎖骨格を有する数平均分子量200〜10,000のポリカルボシランと、チタンアルコキシドTi(OR)4またはジルコニウムアルコキシドZr(OR)4の少なくとも1種とを不活性雰囲気下に加熱反応させて、ポリカルボシランのケイ素原子の少なくとも一部を上記アルコキシドのチタンまたはジルコニウムと酸素原子を介して結合させることにより、数平均分子量が1,000〜50,000のポリチタノカルボシラン或いはポリジルコノカルボシラン或いはその複合物を生成させる。
チタンアルコキシドTi(OR)4またはジルコニウムアルコキシドZr(OR)4の有機基Rは第3工程で分解除去されるものであれば特に限定されないが、それぞれ独立に水素原子、アルキル基(炭素数1〜20、より好ましくは1〜4であるが、少なくとも1つのRは水素原子ではない。)が好ましい。
生成するポリチタノカルボシラン或いはポリジルコノカルボシランは、上記一般式のポリカルボシランのSi原子にチタンアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの酸素原子を介してチタンあるいはジルコニウム原子が結合した構造を有する。このSi原子に酸素原子を介して結合したチタンあるいはジルコニウム原子の残りの結合手はアルコキシド基のままであるか、一部又は全部が再び酸素原子を介して他のSi原子に結合してポリカルボシランの架橋構造を形成することができる。ポリチタノカルボシラン或いはポリジルコノカルボシランにおける-Si-CH2-の構造単位の全数対-Ti-O-および-Zr-O-の少なくとも1方の構造単位の全数の比率は2:1〜200:1が好ましい。ポリカルボシランとチタンアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの間の上記反応は公知であり、特開昭56−74126号公報に記載されている。特開昭56−74126号公報はポリチタノカルボシランおよびその製造方法を開示するものであるが、ポリジルコノカルボシランおよびその製造方法は全く同様であることができる。
本発明の製造の第2工程(b)は、前駆体高分子を微粒子化する工程である。
本発明では、前駆体高分子を微粒子化した後に、その前駆体高分子微粒子を不融化および焼成を行なって導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子を製造することにより、微粒子表面の全体に炭素を主体とする導電性無機物質を含有する表面層を形成することができ、したがって、電波吸収材料としての性能に優れた、利用しやすい微粒子状の材料を得ることができる。
微粒子化の手法は、特殊な設備を必要としない一般的な溶液法を適用することができる。従って、低コストで製造が可能である。例えば、上記の微粒子化原料溶液を変性ポリカルボシランの貧溶媒に添加し晶析させる冷却晶析法で微粒子化することができる。以下に、冷却晶析法について説明する。
冷却晶析法では、前駆体高分子を貧溶媒と混合し加熱することで溶解させた後、この溶液を冷却することで前駆体高分子を析出させ、析出物を濾別することで球状前駆体高分子の微粒子を得る。冷却晶析法では、界面張力から真球度の高い微粒子を得ることができるし、晶析条件を制御すれば単分散の微粒子を得ることができる。
冷却晶析法で使用できる貧溶媒は、室温付近では前駆体高分子を溶解できないが、貧溶媒の沸点付近に加熱することによって溶解することができるという特性をもつ溶媒である。つまり、加熱−冷却を繰り返すことにより、前駆体高分子を溶解−析出できる溶媒であれば良い。好ましい溶媒としては、n−ブタノール、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N,N−ジメチルアセトアミド、酢酸エチル、メチルエチルケトン、炭酸ジエチル、メタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、メタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、酢酸ブチル、アセトン、イソプロピルエーテル、アセトニトリル、炭酸ジメチル等がある。または、これらの2種以上を組み合わせたものも使用できる。しかし、本発明で使用される溶媒は、ここの列挙した溶媒に限定されるものではない。
冷却晶析により得られる前駆体高分子微粒子の粒径は、前駆体高分子溶液の冷却速度により制御することができる。晶析現象は極簡単に言えば、過飽和溶液中での核発生現象と核成長現象の組合せである。小さな微粒子を得る場合には、冷却速度を速くすると過飽和度が大きくなり核発生数が大きくなって粒子の成長が抑制されることで小粒子が得られる。一方、大粒径の微粒子を得る場合には、冷却速度を小さくすることで過飽和度が小さくなり核発生数が小さくなって粒子の成長が促進されることで大粒子が得られる。また、核が発生する時点において溶液の温度を一定に保つ操作を加えることにより、過飽和度を小さくする方法も有効である。温度を一定にする保持する時間は通常1〜100分間である。保持時間は1分程度でも効果があるが、より効果的に粒子径を大きくするためには保持時間を30分以上にすることが好ましい。冷却晶析法では0.05〜10μmの前駆体高分子微粒子を得ることができる。
また、前駆体高分子の貧溶媒溶液から微粒子化する方法としてマイクロリアクタ法も採用することができる。マイクロリアクタにも種々のタイプがあるが、ここでは一例として二重管マイクロリアクタ法について説明する。
二重管マイクロリアクタとは内径2mm程度の外管の内部に内径0.5mm程度の内管を挿入したもので、内管から前駆体高分子の良溶媒溶液を外管から貧溶媒を流すことにより、両液の混合部分で前駆体高分子の微粒子を析出させるものである。両液の混合部分を層流混合状態に保つことにより、単分散で真球状の微粒子を得ることができる。前駆体溶液と貧溶媒の比で制御することにより、0.1〜100μmの前駆体高分子微粒子を得ることができる。
前駆体高分子微粒子の濾過は、公知の手法を採用することができる。例えば、濾過膜を使用する方法では濾過膜の公称孔径は0.1〜1μm、好ましくは0.2〜0.5μmであり、濾過膜の材質は、特に制限されるものではないが、例えばコロジオン、セロファン、アセチルセルロース、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリビニリデンフロライド等の有機系の膜、あるいは黒鉛、セラミックス、多孔質ガラス等の無機系の膜が挙げられる。また、実験室規模であればPTFEメンブランフィルター等の濾過材が使用できる。この濾過操作は、減圧または加圧下でおこなうこともできるが、特に制限されるものではない。
濾過操作で回収された前駆体高分子微粒子は乾燥することで残留溶媒を除去するが、乾燥方法は特に限定されるものではない。例えば、自然乾燥、熱風乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥、超臨界乾燥等を採用することができる。
さらには、微粒子化の手法として噴霧乾燥法も適用することができる。噴霧乾燥法では、変性ポリカルボシランの上記貧溶媒溶液をノズルから噴霧し、溶媒を乾燥することができる数十〜250℃程度の熱風で乾燥することで微粒子を得ることができる。噴霧乾燥法では、噴霧液の固形分濃度、噴霧速度や熱風温度を制御することにより、0.1〜30μmの微粒子を得ることができる。
本発明の製造の第3工程(c)は、前駆体高分子微粒子を、酸素等の酸化剤を含む雰囲気中で予備加熱を行い、不融化処理を行う工程である。この工程は、後工程の焼成の際に微粒子が溶融せず、且つ隣接の微粒子と接着しないこと目的として行うものである。処理温度並びに処理時間は組成により異なり、特に規定しないが、一般に50〜400℃の範囲で数時間〜30時間の処理条件が選択される。また、上記酸化雰囲気中には、水分、窒素酸化物、オゾン等微粒子の酸化力を高めるものが含まれていてもよく、酸素分圧を意図的に変えても良い。
本発明の製造の第4工程(d)は、前記第3工程で得た不融化した微粒子を1000〜1500℃の温度範囲でアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中において焼成し、炭化ケイ素質微粒子を得る。不活性ガス雰囲気とは、ポリチタノあるいはジルコノシラザンを焼成して炭化ケイ素質微粒子を得ることに対して不活性であればよく、不活性ガスはアルゴン、ヘリウム等の希ガスのほか窒素等でもよい。
本発明の製造の第5工程(e)は、第4工程(d)で生成した炭化ケイ素質微粒子をさらに1000〜1500℃の温度範囲で一酸化炭素雰囲気などの還元性ガス雰囲気中或いは微量の酸素を含有するアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気等において焼成し、繊維表面の炭化ケイ素のアクティブ酸化により目的とする炭化ケイ素質相(第1相)と炭素を主体とする導電性物質層(第2相)との複合相とからなり、表層に向かって炭素を主体とする導電性物質層(第2相)の存在割合が傾斜的に増大する炭素を主体とする導電性物質相含有炭化ケイ素質微粒子を得る工程である。
炭化ケイ素質微粒子、たとえば、好適なケイ素、炭素、チタンまたはジルコニウムなどの金属、および酸素からなる微粒子を、一酸化炭素雰囲気などの還元性ガス雰囲気中で焼成することにより、微粒子表面で下記式の熱分解反応を起こすことで、微粒子中からSiOが失われて表層に向かって炭素を主体とする導電性物質層(第2相)の存在割合が傾斜的に増大する炭素を主体とする導電性物質相含有炭化ケイ素質微粒子を得ることができる。
SiMxCyOz → SiC(s) + MC(s) + SiO(g) + C(s)
(式中、Mはチタンまたはジルコニウムなどの金属、x,y,zはモル比で表した存在量、sは固体、gは気体を表す。)
不活性ガス中で焼成する場合には、下記式のように一酸化炭素の脱離を伴う分解となるが、一酸化炭素雰囲気となることで分解が抑制されるので、微粒子中に炭素を残すことができる。この分解反応は炭素の拡散律速なので条件を制御することで傾斜構造を形成することができる。
SiMxCyOz → SiC(s) + MC(s) + SiO(g) + CO(g)
(式中、Mはチタンまたはジルコニウムなどの金属、x,y,zはモル比で表した存在量、sは固体、gは気体を表す。)
ここで、微量の酸素を含有する不活性ガス雰囲気とは、微粒子表面にSiO2を形成させないで、SiO(g)を形成させる条件(アクティブ酸化を起こさせる条件)を満たすような微量の酸素を含有する不活性ガス雰囲気をいう。酸素の量は一概ではないが、たとえば、分圧で50ppmの酸素を含むアルゴンガス雰囲気である。
本発明の電波吸収材料の粒径は、特に制限しないが、平均粒子径0.5〜20μmの範囲であることが、電波吸収特性の良好な電波吸収体を製造する上で好ましい。より好ましくは、平均粒子径1〜10μmの範囲である。粒子形状は電波吸収という機能の点からみると特に真球形に限られるわけではないが、プラスチックのような絶縁性マトリックスと混練する上では真球度が高いことが好ましい。
本発明の電波吸収体は、上記の導電性物質相含有炭化ケイ素微粒子と絶縁性マトリックスを複合することによって製造することができる。
絶縁性マトリックスとして使用できるプラスチックの具体例としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリコン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリフェニルレンサルファイド樹脂、フッソ樹脂、炭化水素樹脂、含ハロゲン樹脂、アクリル酸系樹脂およびアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、超高分子量ポリエチレン、ポリスチレン等が挙げられる。これらのプラスチックマトリックスの中でもエポキシ樹脂とポリイミド樹脂が好んで使用される。
また、セラミックスも絶縁性マトリックスとして使用できる。セラミックスマトリックスの具体例としては、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ハフニウムのような窒化物セラミックス;アルミナ、マグネシア、ムライト、コージエライトのような酸化物セラミックス;石英ガラス、結晶化ガラスのようなガラス材料が挙げられる。
本発明の電波吸収体は、それ自体公知の方法に従って調製することができる。熱可塑性プラスチックをマトリックスとする場合には、一般に実用されている溶融混練機が使用される。例えば、一軸押出機、多軸押出機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダープラストグラム等が挙げられる。成型手法は一般に実用化されている真空成型、圧空成型、プレス成型、射出成型等を使用することができる。マトリックスがセラミックスの場合には、セラミックス粉末と本発明の微粒子を公知の手法で混合し、粉末を成形した後、焼結させて電波吸収体を得ることができる。
本発明の電波吸収体は、導電性無機物質相含有炭化ケイ素質微粒子と絶縁性マトリックスとからなる複合材料であるが、電波吸収特性を発現させるためには、電波吸収材料である導電性無機物質相含有炭化ケイ素質微粒子が電波を吸収することによって発生する電流を微粒子同士の接触点を通して伝播させること、いわゆる電流をパーコレーションさせることが必須である。電波吸収材の微粒子含有量はパーコレーションのシキイ値以上に含有させることが必要であり、粒子形状や粒度分布に依存するが15体積%以上であることが好ましい。
本発明の電波吸収体は、導電性無機物質相含有炭化ケイ素質微粒子と絶縁性バインダーとからなる塗布型電波吸収体として構成してもよい。塗布型電波吸収体に使用する微粒子の粒径は、特に制限しないが、平均粒子径1〜20μmの範囲であることが、電波吸収特性の良好な電波吸収体を得る上で好ましい。粒子形状は電波吸収という機能の点からみると特に真球形に限られるわけではないが、塗料の流動性や塗布後の充填性を考慮すると真球形であることが好ましい。
絶縁性バインダーには樹脂を使用することができるが、絶縁性樹脂の具体例としては、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢ビ共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリウレタン、ポリビニルホルマール、エポキシ、フェノール、ユリア、シリコン等の高分子、或いはアクリルゴム(ACR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)等のゴム系高分子を用いることができるが、これらに限ったものではない。
また、高温での用途については絶縁性無機バインダーを使用することができる。絶縁性無機バインダーの具体例としては、シリカゾル、アルミナゾル、セメント、石膏、水ガラスなどを挙げることができる。
溶媒は絶縁性樹脂を溶解或いは分散することができればよく、一般的な有機溶媒や水を使用することができる。
導電性無機物質相含有炭化ケイ素質微粒子と絶縁性バインダー及び溶媒からなる塗料はそれ自体公知の方法に従って調製することができる。これら成分を混合するには、遊星ミル、ホモジナイザー、ボールミル、3本ロール、ニーダー、超音波処理等の分散処理方法等の方法を採用できる。無機バインダーの場合には、上記微粒子と無機バインダーを含有した溶媒を上記の手法で混合し、塗布した後、焼結させて電波吸収層を得ることができる。
本発明の1つの態様の塗布型電波吸収体は上述の導電性無機物質相含有炭化ケイ素質微粒子と絶縁性バインダー及び溶媒とからなるが、電波吸収特性を発現させるためには、電波を吸収することによって発生する電流が微粒子同士の接触点を通して伝播すること、いわゆる電流がパーコレーションすることが必須である。パーコレーションが起こるためには塗布膜成分100体積%に対して微粒子が20体積%以上の割合で含まれていればよい。
本発明の1つの態様の塗布型電波吸収体は、公知の手法によって塗布することができる。例えば、スプレーガン、ロールコーター、カーテンフローコーター、ローラーまたはハケを用いて塗布することができる。
特開平1−157598号公報には、電波吸収体は電波が入射する面に電波透過材料が積層された構造で電波吸収性能を向上できていることが示されている。本発明の電波吸収体においても同様に、電波が入射する面に電波透過材料が積層された構造で電波吸収特性を向上させることができる。本発明の電波吸収体と組み合わせて使用することができる電波透過材の具体例としては、ガラス微粒子等が挙げられる。
以下に、本発明の実施例を示す。
参考例1:
5リットルの三ッ口フラスコに無水トルエン2.5リットルと金属ナトリウム400gとを入れ窒素ガス気流下でトルエンの沸点まで加熱し、ジメチルジクロロシラン1リットルを1時間かけて滴下した。滴下終了後、10時間加熱還流し沈殿物を生成させた。この沈殿を濾過し、まずメタノールで洗浄した後、水で洗浄して、白色粉末のポリジメチルシラン420gを得た。ポリジメチルシラン250gを、水冷還流器を備えた三ッ口フラスコ中に仕込み、窒素気流下、420℃で30時間加熱反応させて数平均分子量1,200のポリカルボシランを得た。
上記のポリカルボシラン16gにトルエン100gとテトラブトキシジルコニウム64gを加え、100℃で1時間予備加熱させた後、150℃までゆっくり昇温してトルエンを留去させてそのまま5時間反応させ、さらに340℃まで昇温して5時間反応して変性ポリカルボシランを合成した。
この変性ポリカルボシランをキシレンに溶解させ固形分濃度50重量%のキシレン溶液を調製した。この変性ポリカルボシラン溶液60gを125℃に加熱した300gの1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンに滴下し、静置した状態で1時間で25℃まで冷却し、さらに攪拌しながら1時間で5℃まで冷却した。生成した懸濁液を濾過し、約30gの変性ポリカルボシラン微粒子を得た。変性ポリカルボシラン微粒子を空気中で段階的に150℃まで加熱し不融化させた後、1300℃のアルゴンガス中で1時間焼成し、炭化ケイ素質微粒子を得た。X線回折の結果、非晶質の炭化ケイ素、炭化ジルコニウム及び炭素からなっていた。また、AESによる構成原子の分布状態を調べたところ、最外周部から内部にかけてケイ素、チタン、炭素、酸素の各成分は一定値を示していた(図1)。この微粒子は真球形で平均粒子径が2μmであった(図2)。
実施例1:
参考例1で得られた炭化ケイ素質微粒子を1500℃のCOガス雰囲気中で3時間熱処理し、導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子を得た。導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子は、X線回折の結果、非晶質の炭化ケイ素、炭化ジルコニウム及び炭素からなっていた。また、AESによる構成原子の分布状態を調べたところ、最外周部から2nmの領域で炭素が90モル%、最外周から2nmから30nmの深さ領域で炭素が90モル%から60モル%に傾斜的に減少し、最外周から30nm以上で中心部まで炭素は約60モル%の一定値を示し、表面に向かって炭素が増大する傾斜組成となっていることを確認した(図3)。この微粒子は真球形で平均粒子径が2μmであった(図4)。
電波吸収材の電波透過減衰量は、ネットワークアナライザー(HP8722D、アジレントテクノロジー社製)より、ホーンアンテナから照射した電波を焦点距離170mmで、フッ素樹脂製レンズで波長の2〜3倍に絞込み、測定試験片に入射させ、その透過量を計測することにより測定した。分解能は、周波数で1Hz、電力で0.01dBである。測定周波数帯域は18〜75GHzの範囲とし、25℃で測定した。
実施例1で得られた導電性無機物質相含有炭化ケイ素質微粒子30体積%とエポキシ樹脂70体積%を自転公転型混練機で混合し、型に鋳込んで硬化させ、50×50×4mm厚の試験片を作製した。この試験片の電波吸収特性を測定したところ、18〜75GHzの範囲で20dB以上の透過減衰量を示した。
実施例2:
実施例1で得られた導電性無機物質相含有炭化ケイ素微粒子40体積%とエポキシ樹脂60体積%を自公転型混練機で混合し、型に鋳込んで硬化させ、50×50×4mm厚の試験片を作製した。この試験片の電波吸収特性を測定したところ、18〜75GHzの範囲で40dB以上の透過減衰量を示した。
実施例3:
実施例1で使用した導電性無機物質相含有炭化ケイ素微粒子を用い、微粒子50重量%とポリビニルアルコール5重量%と水45重量%をニーダーで混練して、電波吸収塗料を調製した。これを50×50×5mm厚のエポキシ樹脂板にスピンコートで塗布し、乾燥させて、厚さ100μmの塗膜を持つ試験片を得た。この試験片の電波吸収特性を測定したところ、18〜75GHzの範囲で10dB以上の透過減衰量を示した。
比較例1:
参考例1で得られた炭化ケイ素質微粒子30体積%とエポキシ樹脂70体積%を自転公転型混練機で混合し、型に鋳込んで硬化させ、50×50×4mm厚の試験片を作製した。この電波吸収材に電波を入射したが、18〜75GHzの範囲での透過減衰量は2dB以下で有効な電波吸収特性は得られなかった。
上記の実施例では、変性ポリカルボノシランの例としてポリジルコノカルボノシランを用いたが、ポリチタノカルボノシランを用いても全く同様に本発明の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子および電波吸収材料並びに電波吸収体が製造できることは明らかである。
本発明の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子からなる電波吸収材料は1〜300GHzの電波を選択的に広帯域で吸収することができかつ微粒子状であるので、広範な用途において電波吸収材料として利用可能である。
参考例1で製造した炭化ケイ素質粒子のAESによる構成原子の分布状態を示す。 参考例1で製造した炭化ケイ素質粒子のSEM写真である。 実施例1で製造した炭化ケイ素質粒子のAESによる構成原子の分布状態を示す。 実施例1で製造した炭化ケイ素質粒子のSEM写真である。

Claims (13)

  1. 炭化ケイ素質の粒子内部と、粒子の表面全体を覆う炭素を主体とする導電性無機物質の表面層とからなる微粒子であって、表面層は粒子の表層に向かって導電性無機物質の存在割合が傾斜的に増大した導電性無機物質の傾斜層を成し、導電性無機物質の傾斜層の厚さが1〜500nmであることを特徴とする導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
  2. 炭化ケイ素質微粒子がさらにチタンおよびジルコニウムの少なくとも1種を含む請求項1に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
  3. 炭化ケイ素質粒子内部の元素組成が、20〜60質量%のSi、0.5〜10質量%のTiおよびZrの少なくとも1種、25〜65質量%のC,5〜30質量%のOからなる請求項2に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
  4. 炭化ケイ素質粒子内部の元素組成が、25〜50質量%のSi、0.5〜8質量%のTiおよびZrの少なくとも1種、30〜55質量%のC,5〜20質量%のOからなる請求項2に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
  5. 表面層の元素組成が、0〜40質量%のSi、0〜12質量%のTiおよびZrの少なくとも1種、50〜100質量%のC,0〜25質量%のOからなる請求項2〜4のいずれか1項に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
  6. 表面層において、粒子の表層に向かって炭素の存在割合が傾斜的に増大し、Siの存在割合が傾斜的に減少している請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
  7. 平均粒径が0.5〜20μmの範囲である請求項1〜6のいずれか1項に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
  8. 下記の工程から製造される請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
    (a)主として一般式
    (但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)
    で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランをチタン又はジルコニウムを含む有機金属化合物で修飾した構造を有する変性ポリカルボシランからなる前駆体高分子を提供する工程。
    (b)前駆体高分子を微粒子化する工程。
    (c)前駆体高分子微粒子を、酸素を含む雰囲気中で予備加熱を行い、不融化処理を行う工程。
    (d)不融化された前駆体高分子の微粒子を不活性ガス雰囲気中で焼成して炭化ケイ素質微粒子を得る工程。
    (e)炭化ケイ素質微粒子を還元性ガス雰囲気或いは極微量の酸素を含む不活性ガス雰囲気等で高温処理して、炭化ケイ素質微粒子の表層部において内部から表層に向かって導電性無機物質の存在割合を傾斜的に増大させる工程。
  9. 前記前駆体高分子の微粒子化工程を、前駆体高分子を前駆体高分子の貧溶媒に混合し加熱して溶解させた後、該溶液を冷却して前駆体高分子の微粒子を析出させる冷却晶析法で行なう請求項8に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
  10. 前記前駆体高分子の微粒子化工程を、前駆体高分子を前駆体高分子の貧溶媒に混合し加熱して溶解させた後、該溶液を噴霧し熱風で乾燥して前駆体高分子の微粒子を得る噴霧乾燥法で行なう請求項8に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子。
  11. 請求項1〜10のいずれか1項に記載の導電性無機物質含有炭化ケイ素質微粒子からなる電波吸収材料。
  12. 請求項11に記載の電波吸収材料と絶縁性マトリックスから構成される電波吸収体。
  13. 請求項11に記載の電波吸収材料と絶縁性バインダーとからなる塗布型電波吸収体。
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