本発明は、鋼材同士を拡散接合して得た拡散接合部材及びその製造方法に関し、特に、銅をインサート材として使用した拡散接合部材及びその製造方法に関する。
拡散接合は、複数の材料を密着させた状態で融点以下の温度条件下で加圧し、それらの接合界面間に生じる原子の拡散を利用する接合方法である。この拡散接合は、1960年以降、Be、Ti、Ni又はこれらの合金からなる原子力部品及び航空宇宙部品等の製作に利用されており、鉄鋼材料にも応用がなされている。
各種拡散接合の中でも液相拡散接合は、鉄鋼材料に適用した場合に材質劣化の原因となる溶接熱影響部を発生させないことから、鋼管等の接合への利用が検討されている。また、従来は切削加工していた複雑な形状の部品についても、液相拡散接合の適用による製造コストの削減が期待されている。
液相拡散接合法は、母材の間に母材よりも融点の低いインサート材を挿入した後、その接合部をインサート材の融点以上の温度で保持し、インサート材の構成元素を母材中に拡散させて等温凝固させる方法である。従来、母材間にインサート材を挟んだ接合体に関する技術が開示されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。また、インサート材に関しては、Feベースのアモルファス箔を使用する技術(例えば、特許文献3及び4参照。)、及びNiベースのアモルファス箔を使用する技術(例えば、特許文献5参照。)が提案されている。
更に、上述した技術以外に、Cuからなるインサート材を使用する技術も報告されている(非特許文献1参照)。この非特許文献1には、オーステナイトとフェライトとの2相ステンレス鋼からなる母材に、厚さが22μmの銅箔を挟み、1×10−3Paの真空下で拡散接合することにより、接合体の引張破断強度が母材の強度の95〜97%となることが記載されている。このように、Cuからなるインサート材を使用して液相拡散接合する際は、通常、接合時の雰囲気中の酸素分圧を1×10−3Pa以下としている。
特開昭52−77854号公報
特開昭52−77855号公報
特開昭59−56991号公報
特開平4−81282号公報
特開昭62−34685号公報
T. I. Kahn,M. J. Kabir,R. Bulpett、「Effect of transient liquid-phase bonding variables on the properties of a micro-duplex stainless steel」、Materials Science and Engineering、2004年、A372、p.290−295
しかしながら、前述の従来の技術には以下に示す問題点がある。即ち、特許文献3〜5に記載されているFeベース又はNiベースのアモルファス箔は、接合強度を高める効果があることが報告されてはいるが、高価な元素を含んでいるため、インサート材に使用するとコストが高くなるという問題点がある。一方、非特許文献1に記載の技術は、インサート材のコストは安価であるが、非特許文献1に記載されている条件で拡散接合すると、接合体の強度が母材の強度よりも低くなるという問題点がある。更に、従来、非特許文献1に記載の技術のようにCuからなるインサート材を使用した液相拡散接合では、母材の強度以上の接合強度は得られていない。
本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、従来よりも安価なインサート材で液相拡散接合し、母材の強度以上の接合強度が得られる拡散接合部材及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
本願第1発明に係る拡散接合部材は、鋼材同士を拡散接合してなる拡散接合部材であって、前記鋼材の銅含有量(質量%)を[CuS]としたとき、前記鋼材の接合界面における酸素濃度[OI](質量%)及び銅濃度[CuI](質量%)が夫々下記数式(1)及び数式(2)を満足することを特徴とする。
本願第2発明に係る拡散接合部材は、接合界面の銅濃度[CuI]が下記数式(3)を更に満足し、かつ、接合界面に析出している銅の析出物の平均粒径が1nm以上、20nm以下であることを特徴とする本願第1発明に記載する拡散接合部材。
本願第3発明に係る拡散接合部材の製造方法は、拡散接合部材を製造する方法であって、銅材をインサート材として使用し、鋼材同士を拡散接合する工程を有し、前記拡散接合の際に雰囲気中の酸素圧PO(Pa)を下記数式(4)の範囲内にすることを特徴とする。
本願請求項1に係る発明によれば、鋼材を拡散接合に関して、銅からなるインサート材を使用し、接合界面の酸素濃度及び銅濃度を適正化しているため、従来よりも安価なインサート材で、接合界面の強度を母材である鋼材の強度以上にすることができる。
また、本願請求項2に係る発明においては、接合部の銅濃度を更に限定し、拡散接合後に銅の析出熱処理を施して、接合部に1〜20nmの銅の析出物を分散させることにより、上述の効果に加えて、接合界面の疲労強度を母材である鋼材の疲労強度以上にすることができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。本願発明者は、液相のCuを介して鋼材同士を液相拡散接合する方法について検討を行い、接合界面における酸素濃度及び銅濃度を制御することにより、接合部材の接合強度を母材以上にすることができることを見出し、本発明に至った。具体的には、本発明の特徴は、Cuからなるインサート材を使用して鋼材同士を拡散接合するにあたって、接合界面の酸素濃度及び銅濃度を制御することにより、接合して得られる接合部材の接合強度を改善した点にある。なお、本発明においては、母材(鋼材)の接合面(接触面)に対して、その法線方向に±2μmの領域内の酸素濃度及び銅濃度の平均値を、夫々接合界面の銅濃度及び酸素濃度と定義する。また、本発明の効果を得るために必要な銅濃度及び酸素濃度は、この接合界面における濃度により決まる。そして、この接合界面に存在する元素は、酸素、銅、鉄鋼の構成元素及び不可避不純物である。
以下、本発明に係る拡散接合部材について詳細に説明する。本発明の拡散接合部材は、鋼材同士を拡散接合したものであり、その接合界面における酸素濃度[OI](質量%)が下記数式(5)を満足し、かつ接合界面における銅濃度[CuI](質量%)が下記数式(6)を満足するものである。なお、下記数式(6)における[CuS]は、母材である鋼材の銅含有量(質量%)である。
先ず、母材(被接合材)について説明する。本発明の拡散接合部材の母材である鉄鋼材料は、固相であり、オーステナイト、フェライト及びセメンタイトのうちの少なくとも1つを含むものである。また、鉄鋼材料中のCu含有量は、5質量%未満であることが好ましい。また、その形状は、例えば、形鋼、棒鋼、線材、厚板、薄板及び鋼管等が挙げられる。更に、本発明の拡散接合部材は、母材の形状及び大きさが同一である必要はなく、拡散接合される母材の形状及び大きさが相互に異なっていてもよい。
次に、接合界面の酸素濃度について説明する。Cuからなるインサート材を使用した拡散接合部材の接合強度を、母材の強度以上にするためには、接合界面の酸素濃度を制御することにより、接合界面の銅濃度を調整することが有効である。具体的には、接合界面における酸素濃度([OI])を、上記数式(5)に示す範囲、即ち、0.1質量%を超え、3質量%未満の範囲内にする。接合界面の酸素濃度([OI])が0.1質量%以下の場合、酸素濃度が低く、インサートしたCuの拡散が促進されるため、接合界面における銅濃度([CuI])が低くなり、接合強度を母材強度以上にすることができない。一方、接合界面における酸素濃度([OI])が3質量%以上場合、接合界面における銅濃度([CuI])が高くなり、脆化を招くため、接合強度が母材の強度よりも低くなる。
次に、接合界面における銅濃度([CuI])について説明する。本発明の拡散接合部材においては、接合界面における酸素濃度([OI])を上述した範囲にすることによって、初めて接合界面における銅濃度([CuI])を適正な範囲に制御することが可能となる。そして、この接合界面における銅濃度([CuI])が上記数式(6)に示す範囲から外れていると、接合強度が母材の強度以上にはならない。即ち、接合界面における銅濃度([CuI])を、接合前の母材のCu含有量([CuS])に0.05質量%を加えた値を超え、かつ40質量%未満の範囲にすることにより、接合界面の強度を母材の強度以上にすることができる。ここで、接合界面における銅濃度([CuI])と母材のCu含有量([CuS])との差([CuI]−[CuS])が0.05質量%以下の場合、接合強度が母材の強度以上とならず、接合界面で破断してしまう。一方、接合界面における銅濃度([CuI])が40質量%以上の場合、脆化が著しく、接合界面で破断してしまう。
上述の如く、本発明の拡散接合部材は、オーステナイト、フェライト及びセメンタイトのうちの少なくとも1種を含む鋼材を母材とし、接合界面における酸素濃度([OI])を上記数式(5)の範囲にすると共に、接合界面における銅濃度([CuI])を上記数式(6)の範囲にしているため、母材の強度以上の接合強度が得られる。
上述した拡散接合部材は、銅からなるインサート材を使用し、雰囲気中の酸素圧PO(Pa)を下記数式(7)の範囲内にして拡散接合することにより製造することができる。以下、本発明の拡散接合部材の製造方法について説明する。
拡散接合部材の接合界面における酸素濃度([OI])を上記数式(5)の範囲にするためには、接合時の雰囲気中の酸素分圧(PO)を1×10−3Paよりも高く、かつ1×104Paよりも低くしなければならない。雰囲気中の酸素分圧(PO)が1×10−3Pa以下の場合、接合界面における酸素濃度([OI])が0.1質量%以下となり、接合界面における銅濃度([CuI])と母材のCu含有量([CuS])との差([CuI]−[CuS])が0.05質量%以下となる。その結果、接合強度が母材の強度よりも低くなる。
また、雰囲気中の酸素分圧(PO)が1×104Pa以上の場合、接合界面における酸素濃度([OI])が3質量%以上となり、接合界面における銅濃度([CuI])が40質量%以上となる。その結果、接合強度が母材の強度よりも低くなる。
以上のように、銅からなるインサート材を使用して、接合界面の酸素濃度([OI])が0.1質量%を超え3質量%未満で、かつ接合界面における銅濃度([CuI])が、母材のCu含有量([CuS])に0.05質量%を加えた値を超え、40質量%未満である拡散接合部材を得るためには、接合時の雰囲気中の酸素分圧(PO)を1×10−3Paよりも高く、かつ1×104Paよりも低くしなければならない。これにより、接合強度が母材の強度以上である拡散接合部材が得られる。
次に、酸素分圧(PO)を上記数式(7)の範囲内にして拡散接合する際の好ましい条件について説明する。接合前に、鋼材(母材)間に銅(インサート材)を挿入する方法は、以下に示す3種の方法に分類することができる。その1つ目は銅箔を挿入する方法であり、2つ目は銅粉末を用いる場合であり、3つ目は母材である鋼材の表面に密着性のよい銅層を形成する方法である。なお、銅は、工業的に用いられている純度99.8質量%以上のもの使用することが好ましい。
先ず、銅箔を用いる場合について説明する。銅箔の厚さは、1μm以上であることが好ましい。銅箔の厚さが1μm未満の場合、液相拡散接合時に溶融Cuが接合界面全体に広がらずに、接合界面におけるCuの濃度([CuI])にばらつきが生じ、接合強度が母材強度よりも低くなることがある。また、銅箔の厚さの上限は、母材の形態によって異なるが、2mm以下であることが好ましい。銅箔の厚さが2mmを超えると、接合に寄与しない余分なCuが、接合時の溶融状態のときに接合界面よりも外側に排出されることがあり、経済的に好ましくない。また、銅箔を用いた拡散接合では、上述した厚さの銅箔を母材である鋼材の間に挿入して、銅の融点以上でかつ鋼材の融点未満の温度で加熱し、鋼材が塑性変形する応力以上の荷重で母材を加圧することが好ましい。その際、加熱温度が銅の融点未満であると、Cuが固相となり、鋼材との相互の拡散が遅くなり、接合効率が低下することがある。一方、加熱温度の上限は、母材を溶融させないために、鋼材の融点未満とすることが望ましい。また、拡散接合時の加圧は、鋼材が塑性変形する応力以上であることが好ましい。弾性変形内の応力では、挿入した銅が溶融した後、接合界面全体に広がるのに時間がかかることがある。これに対して、塑性変形する応力以上の圧力をかけた場合、溶融した銅のCu原子が鋼材中に拡散すると共に、鋼材内の元素が溶融銅中に拡散する相互拡散が生じやすくなる。
なお、加圧時の圧力の上限は、構造材(接合部材)にした場合の許容値によるが、以下に述べる圧縮率で表現できる範囲内であることが望ましい。拡散接合時のより好ましい圧力は、母材の強度、温度及び保持時間によって異なるため、それぞれのパラメーターに合わせた圧力にすることが望ましい。そこで、本発明者は、本発明において規定している接合時の酸素分圧の範囲における接合圧力の大きさの目安を明らかにするために、母材の圧縮率と接合強度との関係を調べた。その結果、接合による圧縮率を母材の長さの0.1%以上にすることにより、優れた接合強度が得られることを見出した。この場合の圧縮率の定義は、母材の接合面から、この接合面に対して垂直方向、つまり、圧力がかかる方向にそれぞれ10mmの範囲、合計20mmの部分が、液相拡散接合によって圧縮方向に変形した割合である。即ち、圧縮率(%)=(接合界面から20mmの部位における圧縮方向への変形量/20)×100である。この圧縮率が、0.1%未満の場合、溶融銅が接合面内に広がり難いので、接合界面における銅濃度が不均一になることがある。そして、接合界面における銅濃度が不均一になると、接合強度が被接合材よりも小さくなる。一方、圧縮率が15%以上の場合、母材の変形量が大きくなるため、構造材として使用する場合には、接合部を切削する等して除去する必要がある。
次に、銅粉末を用いる場合について述べる。銅粉末を用いる方法は、二重管構造の鋼管等のような中空構造材の接合に有効である。その際使用する粉末のサイズは、母材の中空のサイズによって適宜選択することができるが、上述した箔を使用する場合と同様に、直径が1μm以上であることが好ましい。それは、銅粉末のサイズが1μm未満の場合、粉末の製造コストが高くなるためである。また、銅粉末のサイズの上限は、2mmであることが望ましい。直径が2mmを超える大きなサイズの銅粉末を用いても、接合に寄与する効果は変わらず、また、充填する際に銅粉末の密度分布が不均一になることもある。なお、母材間に銅粉末を充填する場合は、銅粉末を分散した塗布液を使用することにより、接合面に銅粉末を均一に並べることができる。その際使用する塗布液は、接合の昇温過程で気化して接合面に悪影響を与えないものがよい。例えば、潜在性硬化剤、アクリル変成エポキシ樹脂エマルジョン及びメチルエチルケトンに銅粉末を配合したもの、又は水と潜在性硬化剤、アクリル変成エポキシ樹脂エマルジョン及びメチルエチルケトンとの混合物に銅粉末を配合したものが好ましい。そして、その好ましい接合条件は、銅箔を用いた場合と同じである。
次に、接合前に予め表面処理によって母材の接合面に銅層を形成する方法について述べる。この方法は、被接合材の表面に、厚さが1μm以上で密着性がよい銅層を形成する方法であり、二重鋼管の拡散接合、異型材の拡散接合及び丸棒同士の接合のように接合面の芯を揃えて接合する場合でも、均一で精密に接合することができる。その際、銅箔の厚さについての説明で述べた理由と同様の理由から、母材の表面に形成する銅層の厚さの上限は、2mmとすることが望ましい。
また、母材の表面に密着性がよい銅層を予め形成する方法としては、めっき法が有効である。金属材料にめっきする方法としては、一般に、無電解めっき又は電解めっきが知られており、本発明はどちらの方法も適用することができるが、先ず、母材表面に密着性がよい銅めっき層を形成することができる無電解めっきによって、被接合材の表面に銅層を形成した後、その上に、銅めっき層を効率良く形成できる電解めっきにより更に銅層を形成することが好ましい。このように、電解めっきで形成された銅層は、本発明において必要な溶融銅の体積を補充するのに適している。なお、接合面に銅層を形成する方法としては、前述しためっき法以外に、PVD(Physical Vapor Deposition:物理蒸着)法、CVD(Chemical Vapor Deposition:化学蒸着)法及び溶射法等を適用することができる。また、この方法での好ましい接合条件は、前述した銅箔を使用する場合と同じである。
また、発明者らは、上記の拡散接合材の接合界面の銅濃度を更に限定して、拡散接合後に熱処理を施すことにより、上記発明を適用した接合部材の接合強度が母材以上に向上するとともに、疲労強度も母材以上に向上することを明らかにした。
具体的には、接合部材の接合強度と疲労強度とを母材の強度以上にするためには、拡散接合材の接合界面の銅濃度[CuI]が下記数式(8)を満足し、更に接合界面におけるCuの存在状態が所定の平均粒径からなる析出物である必要がある。
先ず、接合界面における銅濃度([CuI])について説明する。接合界面における銅濃度([CuI])は、接合前の母材のCu含有量([CuS])に0.5質量%を加えた値を超え、かつ5質量%未満の範囲にすることにより、接合部材の接合強度と疲労強度が母材以上に向上する。ここで、接合界面における銅濃度([CuI])と母材のCu含有量([CuS])との差([CuI]−[CuS])が0.5質量%以下の場合は、接合界面におけるCu析出物の平均粒径が小さくなり、疲労強度が向上しない。一方、接合界面における銅濃度([CuI])が5質量%以上の場合は、接合界面におけるCu析出物の平均粒径が大きくなり、疲労強度が向上しない。
次に、接合界面におけるCu析出物の平均粒径について説明する。拡散接合部材の疲労強度は、接合界面におけるCu析出物の平均粒径と相関関係がある。接合部材の疲労強度を向上させるためには、有効なCu析出物の平均粒径があり、このCu析出物の平均粒径は、1nm以上、20nm以下であることが好ましい。Cu析出物の平均粒径が1nm未満あるいは20nmを超える場合、接合部材の接合強度は母材強度より高い値を示すが、接合部材の疲労強度は、母材の疲労強度より顕著に向上する効果が得られない。因みに、接合部材中のCu析出物の結晶構造は、体心立方構造でも、面心立方構造等でも母材よりも高い疲労強度を有する接合部材が得られる。
なお、ここでいう析出物の平均粒径とは、後述する観察方法により一視野において観察される各析出物の粒径をそれぞれ測定し、得られた各測定値をその一視野で平均した値である。また、この測定される析出物の粒径とは、析出物の形態に関わらず、析出物の体積を球の体積に換算した時の直径の長さを示す。
次に、本発明の拡散接合部材について上述したCu析出物を得る方法について説明する。上述のCu析出物を得るには、接合界面のCu濃度([CuI])が上記(8)式の範囲になるような拡散接合を行うことが必須であり、かつ、拡散接合後に400〜600℃の温度範囲で10〜120分間のCu析出熱処理を行うことで実現できる。具体的には、接合界面のCu濃度([CuI])を上記(8)式の範囲内となるように拡散接合した後に、拡散接合して得られた拡散接合材を所定の温度となるよう冷却し、その後に時効熱処理を施すことによりCu析出物を得ることができる。
まず、拡散接合後に得られた拡散接合材を冷却する工程について説明する。フェライトを含むステンレス鋼で、室温から拡散接合温度範囲までにα鉄が全て相変態しない場合、拡散接合後の冷却速度は、Cu析出物サイズに影響が少ないので、冷却速度は水冷でも炉冷でも良い。
一方、Ar3変態点、Ar1変態点を含む鋼種では、時効熱処理前の熱処理あるいは冷却速度を以下のように制御する必要がある。(1)拡散接合後に得られた拡散接合材を室温まで冷却した後に750℃以上の温度に再加熱するか、(2)拡散接合後に得られた拡散接合材を、10℃/秒以上の冷却速度で冷却するか、この(1)か(2)のいずれかの熱処理を施した後に400〜600℃の温度域で10〜120分間の時効処理を行えば、1nm〜20nmの析出物が得られる。拡散接合後に室温まで冷却した後に750℃以上に再加熱する理由は、α−鉄中にCuを固溶させて、Cu析出物を析出させやすくするためである。また、拡散接合後に得られた拡散接合材を10℃/秒以上の冷却速度で冷却するのは、冷却速度が10℃/秒未満であると、パーライトが出現することによりフェライト中に十分量のCuを固溶させることができず、疲労強度を向上させることができる程度のCu析出物を得ることができないためである。
次に、時効熱処理の条件について説明する。時効熱処理条件は、母材の鋼種によって異なるが、Cuが固溶するフェライトが存在する温度域で熱処理し、更に400〜600℃で10〜120分間の時効熱処理を行えば、1nm〜20nmのCu析出物が得られる。400℃未満での温度での時効熱処理では、1nm〜20nmのCu析出物を得るために時間がかかるので好ましくない。600℃より高い温度での時効熱処理では、Cu析出物の平均粒径が20nmより大きくなるので好ましくない。また、時効熱処理の保持時間は、10分間より短い場合、Cu析出物の平均粒径が1nm未満になるので好ましくない。時効熱処理の保持時間を120分より長くすると、Cu析出物の平均粒径が20nmより大きくなるので好ましくない。上記の時効熱処理は、1段時効熱処理の場合を述べたが、400〜600℃の温度域で10〜120分間の時効処理時前に、250℃以上400℃未満で20分以上の時効処理を行うとより好ましい。この2段時効処理を行うと、1nm〜20nmのCu析出物を高密度で形成する効果があり、疲労強度をより高めることができる。
以下、本発明の実施例の効果について、本発明の範囲から外れる比較例と比較して具体的に説明する。先ず、本発明の実施例1について説明する。本実施例においては、銅からなるインサート材を使用して、フェライトを主相とする炭素鋼(Fe−0.53C−0.7Mn−0.2Si−0.07Cu)と、SUS304オーステナイト系ステンレス(Fe−19Cr−9Ni−0.05Cu)の2種類の鋼材を、直径が22mm、長さ70mmの円柱状に加工した後、下記表1に示す条件で液相拡散接合した。その際、引張試験用及び接合界面の分析用として、同じものを2組ずつ接合した。なお、下記表1に示す鋼種は、S1及びF1が炭素鋼であり、S2及びF2がステンレスである。
具体的には、上記表1に示す厚さで、直径が22.5mmの円形状の銅箔をインサート材として使用し、これを母材の接合面間に挿入した。このとき、使用した銅箔の純度は99.9質量%であった。また、各実施例における接合時の雰囲気中の酸素分圧は、2×10−3〜9×103Paの間で変化させた。液相拡散接合する際は、先ず、高周波により、母材を上記表1に示す温度まで加熱した後、上記表1に示す圧縮率になるように圧力を付加し、その状態で、上記表1に示す所定の時間保持した。なお、圧力の付加は母材を加熱する前から行うが、その際付加する圧力は、所定の温度で保持するまでに母材が変形しないような値に設定した。一方、比較例1,2,8及び9は、インサート材を使用せずに拡散接合した比較例であり、接合時の雰囲気中の酸素分圧は2×104Paとした。また、比較例3〜7及び比較例10〜14は、前述の実施例1〜24と同様に、銅箔をインサート材として使用し、接合時の雰囲気中の酸素分圧を1×10−3Pa又は2×104Paとして拡散接合したものである。
次に、上述した方法で接合した各部材の接合界面の酸素濃度及び銅濃度の測定を行った。具体的には、接合部材を接合面の法線方向に対して平行に切断し、その切断面を鏡面研磨した後、EPMA(Electron Probe X-ray Microanalyzer:電子線プローブX線マイクロアナライザー)で分析した。そして、酸素濃度及び銅濃度を変えて作製し、予め化学分析によって定量化した鋼材をEPMA測定して、EPMAのシグナルと実際の酸素濃度及び銅濃度との関係を求めることにより作成した検量線に基づき、各実施例及び比較例の測定値を定量化した。その際、EPMAの測定領域分解能は1μmとした。また、接合界面の酸素濃度及び銅濃度は、接合面を中心とし、その法線方向2μmずつ合計4μmの幅で、長さが300μmの領域を、測定領域分解能が1μmのピッチでEPMA測定して求めた値の平均値である。ここで、EPMA測定の測定値から示される接合面とは、母材の接合面に対して接合部材を法線方向にEPMA測定した場合に、銅濃度が最も高い値で測定される所を意味する。その結果を上記表1に示す。なお、上記表1には化学分析により求めた母材の銅含有量及び酸素含有量も併せて示す。
上記表1に示すように、実施例1〜24の接合部材はいずれも、接合界面の酸素濃度が母材の酸素含有量よりも高くなっており、その範囲は0.2〜2.8質量%であった。また、接合界面の銅濃度は、0.06〜37質量%であった。これに対して、インサート材を使用していない比較例1,2,8及び9の接合部材はいずれも、接合界面の酸素濃度が0.8〜1.6質量%であった。また、比較例3,4,10及び11の接合部は、接合界面における酸素濃度が、0.08質量%以下となり、その結果、接合界面の銅濃度と母材である鋼材の銅濃度との差が0.005質量%未満となった。また、比較例5〜7及び比較例12〜14の接合部材は、接合界面の酸素濃度が3.0〜3.8質量%となり、その結果、接合界面における銅濃度が40質量%以上となった。
次に、実施例及び比較例の各接合部材から、JIS規定型4号丸棒試験片(直径14mm、平行部60mm、肩部R20)を切り出し、常温で引張試験を行って、その接合強度を評価した。その際、接合界面には、JIS規格Z2242(金属材料衝撃試験片)で規定されている2mmVノッチを入れた。また、比較例として、液相拡散接合する場合と同じ条件で熱サイクルを施した未接合の鋼材から、前述した接合部材と同様の形状の試験片を切り出し、常温で引張試験を行った。その際、接合面に対して垂直方向に引張り、歪速度は0.5/秒とした。そして、接合部材の破断強度と母材である鋼材の破断強度とを比較するため、母材の破断強度に対する接合部材の破断強度の割合を百分率で示し、この値を破断強度比とした。その結果を上記表1に示す。なお、破断強度比が100以上の場合は、接合部材の強度が母材である鋼材の強度よりも高いことを示す。
上記表1に示すように、実施例の接合部材はいずれも、破断強度比が100以上であった。この結果から、接合界面における酸素濃度及び銅濃度を本発明の範囲内にすることにより、接合強度が母材強度以上となることが確認された。これに対して、インサート材を使用していない比較例1,2,8及び9の接合部材はいずれも、破断強度比が100よりも小さかった。即ち、比較例1,2,8及び9の接合部材では、接合強度が母材強度よりも劣っていた。また、比較例3〜7及び比較例10〜14の接合部材はいずれも、破断強度比が100よりも小さく、接合強度が母材強度よりも劣っていた。この結果から、接合界面の酸素濃度及び銅濃度が本発明の範囲外である場合は、接合界面の強度が母材の強度よりも低くなることが確認された。
さらに、上述した本実施例1で用いた各接合部材の疲労強度を調べるために疲労試験を行った。この疲労試験においては、母材である炭素鋼(Fe−0.53C−0.7Mn−0.2Si−0.07Cu)に対して、上述したような上記表1の条件で液相拡散接合した後、所定の時間冷却し、更にCu析出のための時効熱処理を施した拡散接合部材を用いた。下記表2は、接合界面のCu濃度、拡散接合後の冷却速度、時効析出熱処理条件を示す。
疲労試験に用いた接合部材は、上記表1の実施例1、2、3、4、9の接合部材を使用し、これら接合部材について、それぞれ種々の時効熱処理を施した。この熱処理では、実施例4−H6のみ、時効前の熱処理を行った。また、母材に対しても拡散接合条件と同じ熱処理、かつ、時効熱処理条件の処理を施した。時効析出後の各接合部材の接合界面における銅の濃度は、接合界面の銅濃度を定義した領域と同じ接合面を含む幅4μm、長さ300μmをEPMAで分析した結果、時効熱処理前後で変化しなかった。
このような時効熱処理を施した各接合部材は、その接合界面に析出した析出物を観察、組成分析するため、EPMAで分析した領域の接合界面から、透過型電子顕微鏡用サンプルを採取した。この析出物の観察、組成分析には、エネルギー分散型X線分光、電子エネルギー損失分光の組成分析機能を備えた400kVの加速電圧の電解放射型電子銃を搭載した透過型電子顕微鏡を用いた。分析の結果、時効熱処理を施した接合部にある析出物の組成は、Cu単独であることを確認した。本発明で規定するCu単独で構成される析出物の平均粒径は、一視野において観察される各析出物の粒径をそれぞれ測定し、得られた各測定値をその一視野で平均した値である。また、この測定される析出物の粒径とは、析出物の形態に関わらず、析出物の体積を球の体積に換算した時の直径の長さを示す。尚、顕微鏡で観察できる析出物の粒径の分解能は、1nmであった。
上記のような熱処理を施して得られた各接合部材から、図1に示すような形状の疲労試験片1を切り出した。疲労試験片10の形状は、長さLaが98mm、幅W1が18mm、最小断面部の幅W2が10mm、切り欠き11の曲率半径R1が30mmである平面曲げ疲労試験片である。また、この疲労試験片10は、4隅に設けられた孔12の半径R2が4mm、長さ方向に間隔をあけて位置する各孔12の中心間の長さLbが80mm、幅方向に間隔をあけて位置する各孔12の中心間の幅W3が12mmで構成される。このような疲労試験片10に対しては、破断疲労強度について調べるため、常温で完全両振り、繰り返し速度が正弦波15Hz、破断繰り返し数が2×106回の平面曲げ試験を行った。また、接合条件と同じ熱処理及び時効熱処理と同じ処理を施した母材についても同様な疲労試験を行った。ここで、時効析出熱処理を施した接合部材の破断疲労強度を母材の破断疲労強度で除した値を破断疲労強度比と定義した。この破断疲労強度比が1より大きい場合、時効熱処理した接合部材の疲労強度が、母材よりも高いことを示す。このようにして得られたCu析出物の平均粒径、破断疲労強度比について上記表2に示す。
上記表2に示すように、実施例1−H1、2−H1、4−H1、4−H2、4−H3は、破断疲労強度比が1.1以上となり、明らかに接合部材の疲労強度が母材よりも高い値となった。これら実施例の接合界面のCu濃度は、母材に含まれるCu含有量より0.5質量%加えた値よりも高く、5質量%よりも低い値であり、また接合界面のCu析出物の平均粒径は、1nm以上、20nm以下であった。
実施例4−H6は、接合界面のCu濃度及びCu析出物の平均粒径が本発明の範囲内であり、更に時効熱処理前に300℃で30分間の熱処理を施したものである。破断疲労強度比は、時効熱処理前の熱処理を加えない実施例4−H1よりも高い値となった。
これに対して、実施例3−H1は、接合界面のCu濃度が0.5質量%より低いため、Cu析出物の平均粒径が1nm未満となり、接合部材の破断強度は母材とほぼ同程度であった。実施例9−H1は、接合界面のCu濃度が5質量%より高いいため、Cu析出物の平均粒径が20nmより大きくなり、接合部材の破断強度は母材とほぼ同程度であった。
実施例1−H2、4−H4、4−H5では、接合部材の破断強度は母材とほぼ同程度であった。いずれの実施例も、接合界面のCu濃度が0.5質量%より大きく、5質量%以下であった。しかし、実施例1−H2は、時効熱処理の温度が600℃を超えていたため、実施例4−H4は、時効熱処理の時間が10分より短かったため、実施例4−H5は、時効熱処理の時間が120分より長かったために、接合界面のCu析出物の平均粒径が1nm〜20nmの範囲とならなかった。
実施例4−H7では、接合部材の破断強度は母材とほぼ同程度であった。接合後の冷却速度が、10℃/秒未満であったため、接合界面のCu析出物の平均粒径が、20nmよりも大きい値となっていた。
以上の結果から、接合界面における酸素濃度及び銅濃度を本発明の範囲内にすれば、接合部材の接合強度が母材よりも高くなることが明らかになった。さらに、接合界面の銅濃度を限定し、銅の時効析出熱処理を施し、接合界面のCu析出物の平均粒径を本発明の範囲内とすることにより、接合部材の接合強度が母材よりも高くなるのに加えて、高い疲労強度も得られることが明らかになった。
次に、本発明の実施例2について説明する。本実施例においては、前述の実施例1と同様に、フェライトを主相とする炭素鋼(Fe−0.53C−0.7Mn−0.2Si−0.07Cu)と、SUS304オーステナイト系ステンレス(Fe−19Cr−9Ni−0.05Cu)の2種類の鋼材を、直径が22mm、長さ70mmの円柱状に加工した後、めっき法により接合面に銅層を形成し、この銅層をインサート材として下記表3に示す条件で液相拡散接合した。その際、引張試験用及び接合界面の分析用として、同じものを2組ずつ接合した。
また、めっきの条件は、母材の種類(炭素鋼,ステンレス)に応じて変更した。具体的には、炭素鋼(S1)を使用した実施例25及び26の接合部材では、先ず、直径22mm、高さ70mmの大きさに加工した鋼材(母材)を、65℃に温めた濃硝酸1部:濃塩酸1.5部:水2.5部の混合溶液に2分間浸漬した後、30秒間水洗した。その後、予め調整しておいた55℃の温度の無電解銅めっき液に、攪拌しながら3時間浸漬した。この無電解銅めっき液は、銅塩、ホルムアルデヒド及び錯化剤を含む水溶液である。このとき、母材と共に、同じ組成の炭素鋼を浸漬し、そのめっきの厚みを測定したところ9μmであった。
一方、ステンレス(S2)を使用した実施例29及び30の接合部材では、先ず、直径22mm、高さ70mmの大きさに加工した鋼材を、水1リットルに対して、硝酸100g及び弗酸40gを含有する水溶液に浸漬した後、水洗した。その後、予め調整しておいた55℃の温度の無電解銅めっき液に、攪拌しながら3時間浸漬した。この無電解銅めっき液は、銅塩、ホルムアルデヒド及び錯化剤を含む水溶液である。そして、母材と共に、同じ組成のステンレスを浸漬し、そのめっきの厚みを測定したところ9μmであった。
そして、上述の方法で銅層を形成した母材の接合面の同士を、上記表3に示す条件で接合した。具体的には、上記表2に示すように、雰囲気中の酸素分圧は92Pa、又は1.4×102Paとした。また、その他の接合条件は、高周波により2分間加熱して母材を所定の温度にした後、圧縮率が1%になるように圧力を付加し、その状態で所定時間保持した。その際、圧力の付加は、温度を上げる前から行うが、その圧力は試験材が変形しない値にした。
次に、上述の方法で接合した各接合部材の接合界面における酸素濃度及び銅濃度を、前述の実施例1と同様の方法で測定した。その結果を上記表3に示す。上記表2に示すように、実施例実施例25,26,29,30の接合部材の接合界面は、酸素濃度が1.31〜1.6質量%であり、銅濃度が1.5〜2.5質量%であった。
また、実施例25,26,29,30の各接合部材からVノッチを平行部に含む定型4号丸棒引張試験片を切り出し、常温で引張試験を行った。その際、接合面に対して垂直方向に引張り、歪速度は0.5/秒とした。その結果を上記表3に示す。上記表2に示すように、実施例25,26,29,30の各接合部材は、接合強度が母材の強度より高かった。
以上の結果から、接合界面における酸素濃度及び銅濃度を本発明の範囲内にすることにより、接合強度が母材強度以上となることが確認された。また、めっきによって母材の接合面に銅層を形成する方法でも、接合界面強度を母材の強度以上とすることができた。
次に、本発明の実施例3について説明する。本実施例においては、前述の実施例1と同様に、炭素鋼(S1)及びステンレス(S2)を、直径が22mm、長さ70mmの円柱状に加工した後、直径が20μmの銅粉をインサート材として下記表4に示す条件で液相拡散接合した。その際、引張試験用及び接合界面の分析用として、同じものを2組ずつ接合した。その際、接合面への銅粉末の固定は、塗布液を用いて行った。塗布液の配合は、水100質量部、アクリル樹脂エマルジョン40質量部、エポキシ樹脂エマルジョン40質量部及びアミン系エポキシ硬化剤4質量部とした。
上記表4に示すように、接合は、雰囲気中の酸素分圧を92Pa又は1.4×102Paとし、高周波加熱により、母材を所定の温度にした後、圧縮率が1%になるように圧力を付加し、その状態で所定時間保持した。その際、圧力の付加は、温度を上げる前から行うが、その圧力は試験材が変形しない値にした。
そして、上述の方法で接合した各接合部材の接合界面における酸素濃度及び銅濃度を、前述の実施例1と同様の方法で測定した。その結果を上記表3に併せて示す。上記表4に示すように、実施例27,28,31,32の接合部材の接合界面は、酸素濃度が1.28〜1.8質量%であり、銅濃度が1.4〜2.9質量%であった。
次に、実施例27,28,31,32の各接合部材からVノッチを平行部に含む定型4号丸棒引張試験片を切り出し、常温で引張試験を行った。その際、接合面に対して垂直方向に引張り、歪速度は0.5/秒とした。その結果を上記表4に示す。上記表4に示すように、実施例27,28,31,32の各接合部材は、接合強度が母材の強度より高かった。
以上の結果から、接合界面における酸素濃度及び銅濃度を本発明の範囲内にすることにより、インサート材として母材間に銅粉末を充填する方法でも、接合強度が母材強度以上となることが確認された。
次に、本発明の実施例4の効果について説明する。本実施例においては、銅からなるインサート材を使用して、フェライト系ステンレス鋼(Fe−0.02C−18Cr−2Mo−0.7Mn−0.8Si−0.03P−0.02S−0.1Cu、酸素20ppm)を、直径が120mm、長さ200mmの円柱状に加工した後、2本を一組として、下記表5に示す条件で液相拡散接合した。各条件の接合部材から、接合界面の分析材、引張試験材及び疲労試験材を採取した。引張試験材には、接合強度と接合後の熱処理の強度を比較するために、接合後何も処理しない試験材と、接合後に表5の条件で熱処理した試験材を供した。疲労試験材も同様に、接合後何も処理しない試験材と、接合後に表5の条件で熱処理した試験材を供した。
上記表5に示すように、拡散接合は、厚さ20μmで、直径が121mmの円形状の銅箔をインサート材として使用し、これを母材の接合面間に挿入した。このとき、使用した銅箔の純度は99.9質量%であった。また、各実施例における接合時の雰囲気中の酸素分圧は、2×10−3〜8×103Paの間で変化させた。液相拡散接合する際は、先ず、高周波により、母材を上記表5に示す接合条件の温度まで加熱した後、上記表5に示す圧縮率になるように圧力を付加し、その状態で、上記表5に示す所定の時間保持した。なお、圧力の付加は母材を加熱する前から行うが、その際付加する圧力は、所定の温度で保持するまでに母材が変形しないような値に設定した。
そして、上述の方法で接合した各接合部材の接合界面における酸素濃度及び銅濃度を、前述の実施例1と同様の方法でEPMA測定した。その結果を表5に併せて示す。実施例41〜47の接合部材の接合界面は、酸素濃度が0.6〜2.8質量%であり、銅濃度が0.4〜35質量%であった。
次に、実施例41〜47の各接合部材からVノッチを平行部に含む定型4号丸棒引張試験片を切り出し、常温で引張試験を行った。その際、接合面に対して垂直方向に引張り、歪速度は0.5/秒とした。その結果を表4に示す。上記表5に示すように、実施例41〜47の各接合部材は、接合強度が母材の強度より高かった。
さらに実施例41〜47の接合材について疲労強度を調べた。疲労試験には、母材であるフェライト系ステンレス鋼とCu析出のための時効熱処理を施した拡散接合部材を用いた。接合界面のCu濃度、拡散接合後の冷却速度、時効析出熱処理条件を表6に示す。
疲労試験に用いた接合部材は、上記表5の実施例41〜46の接合材について、それぞれ時効熱処理を施した。なお、上記表6の接合部材の番号が上記表5の実施例の番号に対応する。熱処理は実施例43−H6のみ、時効前の熱処理を行った。更に母材にも拡散接合条件と同じ熱処理、かつ、時効熱処理条件の処理を施した。時効析出後の各接合部材の接合界面における銅の濃度は、EPMAで分析した結果、時効熱処理前後で変化しなかった。
このような時効熱処理を施した各接合部材は、その接合界面に析出した析出物を観察、組成分析するため、EPMAで分析した領域の接合界面から、透過型電子顕微鏡用サンプルを採取した。この析出物の観察、組成分析の手法には、実施例1と同じ透過型電子顕微鏡を用いた。分析の結果、時効熱処理を施した接合部にある析出物の組成は、Cu単独であることを確認した。本発明で規定するCu単独で構成される析出物の平均粒径は、観察される析出物の平均粒径をそれぞれ測定したもののその一視野での平均値である。
また、上記のような時効熱処理を施して得られた各接合部材には、実施例1と同じ条件の疲労試験を行なった。この疲労試験における疲労試験片形状は、実施例1と同じである。接合条件と同じ熱処理及び時効熱処理と同じ処理を施した母材についても同様な疲労試験を行った。ここで、実施例1と同様に、時効析出熱処理を施した接合部材の破断疲労強度を母材の破断疲労強度で除した値と破断疲労強度比と定義した。この破断疲労強度比が1より大きい場合、時効熱処理した接合材の疲労強度が、母材よりも高いことを示す。このようにして得られたCu析出物の平均粒径、破断疲労強度比について上記表6に示す。
上記表6に示すように、実施例42−H1、43−H1、43−H2、43−H3、44−H1、45−H1は、破断疲労強度比が1.1以上となり、明らかに疲労強度が母材よりも高い値となった。これら実施例の接合界面のCu濃度は、母材に含まれるCu含有量より0.5質量%加えた値よりも高く、5質量%以下の値であり、また接合界面のCu析出物の平均粒径が1nm以上で20nm以下であった。
実施例43−H6は、接合界面のCu濃度及びCu析出物の平均粒径が本発明の範囲内であり、更に時効熱処理前に300℃で30分間の熱処理を施したものである。破断疲労強度比は、時効熱処理前の熱処理を加えない実施例43−H1よりも高い値となった。
これに対して、実施例41−H1は、接合界面のCu濃度が0.5質量%より低いため、Cu析出物の平均粒径が1nm未満となり、接合部材の破断強度は母材とほぼ同程度であった。実施例46−H1は、接合界面のCu濃度が5質量%より高いいため、Cu析出物の平均粒径が20nmより大きくなり、接合材の破断強度は母材とほぼ同程度であった。
実施例43−H4、43−H5、45−H2では、接合材の破断強度は母材とほぼ同程度であった。いずれの実施例も、接合界面のCu濃度が0.5質量%より大きく、5質量%以下であった。しかし、実施例43−H4は、時効熱処理の時間が10分より短かったため、実施例43−H5は、時効熱処理の時間が120分より長かったため、実施例45−H2は、時効熱処理の温度が600℃を超えていたために、接合界面のCu析出物の平均粒径が1nm〜20nmの範囲以外であった。
以上の結果から、接合界面における酸素濃度及び銅濃度を本発明の範囲内にすれば、接合部材の接合強度が母材よりも高くなることが明らかになった。さらに、接合界面の銅濃度を限定し、銅の時効析出熱処理を施し、接合界面のCu析出物の平均粒径を本発明の範囲内とすることにより、接合部材の接合強度が母材よりも高くなることに加えて、高い疲労強度が得られることが明らかになった。
疲労試験片の形状を説明する図である。
符号の説明
10 疲労試験片
11 切り欠き
12 孔