JP4885044B2 - 湿式多板クラッチの寿命評価方法及び装置 - Google Patents
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Description
このような湿式多板クラッチを備えたオートマチックトランスミッションの寿命を評価する場合、その手法は構成部品別に異なる。ギヤ、シャフト等の金属疲労により破壊する部品に関しては、材料のS−N線図(応力頻度データ)からマイナー則を用いて寿命を算出することが行われている。これは、一定振幅の正弦波状繰り返し応力を疲労破壊するまで加えたときの応力振幅と破損までの繰り返し数の関係を示すS−N線図を用い、フィールドにおける実測データから得られた実働波形から、疲労寿命に関係する有効な成分を分析し、これを用いて疲労寿命を計算する。このとき、以下のマイナー則を用いて、niを1時間当たりの繰り返し数とすると、寿命時間LHは以下の式(2)で求められる。
このように、各構成部品毎に夫々寿命予測の手法は挙げられるが、オートマチックトランスミッションの寿命、使用限界を考えた場合、湿式多板クラッチの磨耗や焼付で決まる場合が多い。
また、従来用いられてきた湿式多板クラッチの寿命評価方法として、使用条件での吸収エネルギ、吸収エネルギ率を計算し、これがクラッチ摩擦材の焼付き限界内に入っているかを判断する方法があるが、これは瞬時のクラッチ板の測定データのみを用いる方法であり、負荷頻度を考慮しているものではないため正確な寿命を把握することはできなかった。
特許文献1に記載される寿命評価では、多板摩擦クラッチのクラッチフェーシング温度を各種測定値からシミュレーションにより演算しているが、この演算により得られる値は精度に不安が残り、この演算制度が適切な寿命評価結果に影響を及ぼす惧れがある。
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、簡単に且つ適切な湿式多板クラッチの寿命評価を可能とした湿式多板クラッチの寿命評価方法及び装置を提供することを目的とする。
クラッチ単体要素試験において、吸収エネルギのレベルをパラメータとして、クラッチ板表面温度Tを変えて、クラッチが寿命に至るまでの臨界係合回数Nを求めると、図3の関係があることが知られている。このT−N線図を、金属疲労でのS−N線図のように捉えると、実機でのクラッチ板表面温度Tの頻度が把握できれば、マイナー則を用いて金属疲労と同様な手法で湿式多板クラッチの寿命を評価できると考えた。
予め変速機台上試験により前記湿式多板クラッチを備えた変速機の変速条件及び前記湿式多板クラッチの単位時間当たりの係合頻度毎に前記湿式多板クラッチのクラッチ板表面温度Tと吸収エネルギ若しくは吸収エネルギ率の相関関係であるT予測線図を求めるとともに、クラッチ単体耐久試験により前記クラッチ板表面温度Tとクラッチ板の劣化が生じる臨界係合回数Nの相関関係であるT−N線図を求めておき、
前記変速機を含む車体から測定された実測データに基づいて吸収エネルギ若しくは吸収エネルギ率を算出し、
前記算出した吸収エネルギ若しくは吸収エネルギ率、並びに、前記各種実測データの測定時における変速条件及び係合頻度から前記T予測線図に基づいて前記クラッチ板表面温度Tを推定し、
該推定したクラッチ板表面温度Tの各値について、前記T−N線図に基づいて対応する臨界係合回数Nを求め、前記クラッチ板表面温度Tの頻度と前記求めた臨界係合回数Nの積算値からマイナー則を用いて前記クラッチ板の寿命を算出することを特徴とする。
このように、吸収エネルギ若しくは吸収エネルギ率とクラッチ板との相関関係を試験により求めるようにしたため、シミュレーション等の演算のみを用いる場合に比べて精度が高い値が得られ、寿命評価の精度が向上する。
尚、前記T−N線図は、クラッチ板単体要素試験により得られた前記クラッチ温度の頻度に基づき確認試験を行うことが好ましい。
さらに、前記クラッチ板の劣化が認められる臨界係合回数Nは、前記クラッチ板の動摩擦係数が20%以上低下した場合若しくは該クラッチ板が焼き付いた時のサイクル数であることを特徴とする。
予め変速機台上試験により前記湿式多板クラッチを備えた変速機の変速条件及び前記湿式多板クラッチの単位時間当たりの係合頻度毎に前記湿式多板クラッチのクラッチ板表面温度Tと吸収エネルギ若しくは吸収エネルギ率の相関関係であるT予測線図と、クラッチ単体耐久試験により前記クラッチ板表面温度Tとクラッチ板の劣化が生じる臨界係合回数Nの相関関係であるT−N線図とが格納された記憶手段と、
前記変速機を含む車体から実測データを検出する実測データ検出手段と、
前記実測データ検出手段によって検出された実測データに基づいて吸収エネルギ若しくは吸収エネルギ率を算出する吸収エネルギ算出手段と、
前記算出した吸収エネルギ若しくは吸収エネルギ率、並びに、前記各種実測データの測定時における変速条件及び係合頻度から前記T予測線図に基づいて前記クラッチ板表面温度Tを推定するクラッチ板表面温度算出手段と、
該推定したクラッチ板表面温度Tの各値について、前記T−N線図に基づいて対応する臨界係合回数Nを求め、前記クラッチ板表面温度Tの頻度と前記求めた臨界係合回数Nの積算値からマイナー則を用いて前記クラッチ板の寿命を算出する寿命算出手段と、を備えたことを特徴とする。
さらにまた、前記クラッチ板の劣化が認められる臨界係合回数Nは、前記クラッチ板の動摩擦係数が20%以上低下した場合若しくは該クラッチ板が焼き付いた時のサイクル数であることを特徴とする。
図1は本発明の実施例に係る処理フローを示す図、図2は本発明の実施例に係る装置構成を示すブロック図、図3はT−N線図を示すグラフ、図4はトランスミッションの駆動系モデルを示す図、図5は実施例1におけるT−N線図を示すグラフ、図6は実施例1での台上試験の結果を示す表、図7はフィールドでのクラッチ板表面温度の頻度を示す表、図8は実施例1にて寿命評価を行った結果を示す表、図9は寿命予測と台上試験における寿命とを比較する表、図10はフィールドでの寿命評価結果を示す表である。
この装置は、実測データ検出手段10と、吸収エネルギ算出手段11と、クラッチ板表面温度推定手段12と、寿命算出手段13と、記憶手段14とを備える。
前記実測データ検出手段10は、吸収エネルギ若しくは吸収エネルギ率を求めるための各種データを湿式多板クラッチを含む車体から検出する手段である。この実測データは、トランスミッションを含む車体の各種データを含む。実測データとしては、例えば、トランスミッション出力軸側慣性モーメント、タイヤ半径、トランスミッション出力軸−タイヤ間減速比、トランスミッション出力軸回転数、エンジン回転数、エンジン側のトルク、車体側慣性モーメント等が挙げられる。
前記寿命算出手段13は、前記クラッチ板表面温度推定手段12にて求められたと吸収エネルギ若しくは吸収エネルギ率を用い、予め記憶手段14に格納されたクラッチ板表面温度Tとクラッチ板の劣化が認められる臨界係合回数Nの相関関係であるT−N線図に基づいてクラッチ板の寿命を算出する手段である。
前記記憶手段14には、トランスミッションの台上試験にて求められた前記湿式多板クラッチのクラッチ板表面温度Tと吸収エネルギ若しくは吸収エネルギ率の相関関係であるT予測線図と、クラッチ単体要素試験にて求められた前記クラッチ板表面温度Tとクラッチ板の劣化が認められる臨界係合回数Nの相関関係であるT−N線図とが格納されている。
予め、クラッチ単体要素試験により上記したT−N線図を取得しておく。T−N線図の導出方法の一例として、まずクラッチ単体要素試験によりクラッチ板の吸収エネルギと摩擦表面温度の相関関係を求めておき、吸収エネルギのレベル、即ち摩擦表面温度の違いをパラメータとして係合回数と動摩擦係数変化の関係を取得する。そして、TG分析によって炭化度を把握し、吸収エネルギのレベルをパラメータとして炭化度と動摩擦係数変化の関係を把握する。ここから、炭化度の臨界値DCを定義し、把握する。この臨界値DCを、上記炭化度と動摩擦係数変化の関係に当てはめることによって、異なった吸収エネルギ(摩擦表面温度)での臨界係合回数を得て、ここから摩擦表面温度(クラッチ板表面温度)Tと臨界係合回数NCとの関係であるT−N線図を求める。このクラッチ板表面温度Tと臨界係合回数NCとの関係は、例えば図3のように表される。
ここで求められたT−N線図は、記憶手段14に格納される。
まず、トランスミッション台上試験にて、台上負荷パターンの各条件にて台上T/M負荷頻度データとしての各種実測データからクラッチ板単位面積当たりの吸収エネルギe若しくは吸収エネルギ率εを計算し、その時のクラッチ板表面温度Tの実測値から、e−T線図及び/又はε−T線図(T予測線図)を作成しておく。
そして、クラッチ板表面温度Tの頻度から、記憶装置14に格納されたT−N線図に基づきマイナー則を用いてクラッチ板の寿命を算出する。具体的な寿命評価の算出方法については、以下の実施例1に詳述する。
これは、台上試験サイクルでのクラッチ板表面温度Tの頻度を把握し、記憶装置14に格納されたT−N線図に基づいて台上試験でのクラッチ板の寿命評価を行い、得られた評価結果をフィールド負荷での寿命評価結果と付き合わせることにより行う。
まず、T−N線図の作成のために、クラッチ単体耐久試験を行った。試験は、A材、B材の二種類の摩擦材について行った。摩擦試験機により一定のエネルギを吸収させながら繰り返し耐久を行い、その時のクラッチ板表面温度Tを縦軸に、動摩擦係数μdが20%低下または焼き付いた時のサイクル数Nを横軸にとった。その結果、作成されたT−N線図を図5に示す。
各条件でのクラッチ板単位面積当たりの吸収エネルギe、吸収エネルギ率εを上記した計算によって求め、1時間当たりの頻度とクラッチ板表面温度Tの実測値を図6の表に示す。図6において、条件の欄には変速条件を示してある。
さらに、図6の吸収エネルギe若しくは吸収エネルギ率εとクラッチ板表面温度Tの実測値から、吸収エネルギeのレベル毎にe−T線図(T予測線図)を作成した。このとき、吸収エネルギeの代わりに吸収エネルギ率εを用いてε−T線図(T予測線図)を用いてもよい。
niを1時間当たりの繰り返し数とすると、寿命時間LHは式(4)で求められる。
さらに、この計算結果を実際のトランスミッション台上耐久試験でのクラッチ板耐久性の結果と比較し、図9の表に示す。
これによれば、計算値は実機台上での耐久結果とほぼ一致しており、本実施例の寿命評価方法が適切であることがわかる。さらにまた、図7のフィールドでのクラッチ板表面温度Tの頻度から寿命を計算した結果を図10の表に示す。
Claims (4)
- 湿式多板クラッチにて測定された実測データに基づいてその寿命評価を行うようにした湿式多板クラッチの寿命評価方法において、
予め変速機台上試験により前記湿式多板クラッチを備えた変速機の変速条件及び前記湿式多板クラッチの単位時間当たりの係合頻度毎に前記湿式多板クラッチのクラッチ板表面温度Tと吸収エネルギ若しくは吸収エネルギ率の相関関係であるT予測線図を求めるとともに、クラッチ単体耐久試験により前記クラッチ板表面温度Tとクラッチ板の劣化が生じる臨界係合回数Nの相関関係であるT−N線図を求めておき、
前記変速機を含む車体から測定された実測データに基づいて吸収エネルギ若しくは吸収エネルギ率を算出し、
前記算出した吸収エネルギ若しくは吸収エネルギ率、並びに、前記各種実測データの測定時における変速条件及び係合頻度から前記T予測線図に基づいて前記クラッチ板表面温度Tを推定し、
該推定したクラッチ板表面温度Tの各値について、前記T−N線図に基づいて対応する臨界係合回数Nを求め、前記クラッチ板表面温度Tの頻度と前記求めた臨界係合回数Nの積算値からマイナー則を用いて前記クラッチ板の寿命を算出することを特徴とする湿式多板クラッチの寿命評価方法。 - 前記クラッチ板の劣化が認められる臨界係合回数Nは、前記クラッチ板の動摩擦係数が20%以上低下した場合若しくは該クラッチ板が焼き付いた時のサイクル数であることを特徴とする請求項1記載の湿式多板クラッチの寿命評価方法。
- 湿式多板クラッチにて測定された実測データに基づいてその寿命評価を行うようにした湿式多板クラッチの寿命評価装置において、
予め変速機台上試験により前記湿式多板クラッチを備えた変速機の変速条件及び前記湿式多板クラッチの単位時間当たりの係合頻度毎に前記湿式多板クラッチのクラッチ板表面温度Tと吸収エネルギ若しくは吸収エネルギ率の相関関係であるT予測線図と、クラッチ単体耐久試験により前記クラッチ板表面温度Tとクラッチ板の劣化が生じる臨界係合回数Nの相関関係であるT−N線図とが格納された記憶手段と、
前記変速機を含む車体から実測データを検出する実測データ検出手段と、
前記実測データ検出手段によって検出された実測データに基づいて吸収エネルギ若しくは吸収エネルギ率を算出する吸収エネルギ算出手段と、
前記算出した吸収エネルギ若しくは吸収エネルギ率、並びに、前記各種実測データの測定時における変速条件及び係合頻度から前記T予測線図に基づいて前記クラッチ板表面温度Tを推定するクラッチ板表面温度算出手段と、
該推定したクラッチ板表面温度Tの各値について、前記T−N線図に基づいて対応する臨界係合回数Nを求め、前記クラッチ板表面温度Tの頻度と前記求めた臨界係合回数Nの積算値からマイナー則を用いて前記クラッチ板の寿命を算出する寿命算出手段と、を備えたことを特徴とする湿式多板クラッチの寿命評価装置。 - 前記クラッチ板の劣化が認められる臨界係合回数Nは、前記クラッチ板の動摩擦係数が20%以上低下した場合若しくは該クラッチ板が焼き付いた時のサイクル数であることを特徴とする請求項3記載の湿式多板クラッチの寿命評価装置。
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