JP4881116B2 - 繊維紡糸用ノズルの洗浄方法 - Google Patents

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Description

本発明は、有機物が付着した繊維紡糸用ノズルの洗浄方法に関する。
従来より、様々な繊維または繊維状の製品は、貫通孔の開いた繊維紡糸用ノズルより原材料を吐出する方法によって得られることが多い。この方法は、繊維状の製品が連続して得られる等の生産効率の観点や、微細な断面形状であっても均一な形状の製品が得られる等の品質安定性の観点から、繊維または繊維状の製品の製造方法として工業的に広く利用されている。
ところで、繊維紡糸用ノズルは、ノズル孔の内側に何らかの原因で異物が付着すると、ノズル孔の形状が変形し、直接的に製品の形態に影響を及ぼす場合があった。特に、高分子を溶融または溶解して紡糸する工程に用いる繊維紡糸用ノズルでは、原材料である高分子が変質し固化したものが、ノズル孔内に付着するなどして工程障害、品質低下の一因となることがあった。
そこで、多くの繊維紡糸用ノズルの洗浄方法が検討されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
特許文献1には、ノズルをカリウムの硝酸塩と亜硝酸塩の融解混合物で処理した後、80℃以下のリン酸で処理する手法が提案されている。これは、付着物が溶解する溶液にノズルを浸すことによりノズルを洗浄する方法として、最も簡便な方法の1つである。
特許文献2には、ノズルに対して加圧した流体を噴射し、ノズルの洗浄を行う手法が提案されている。
特許文献3には、洗浄槽に超音波振動子を内設し、洗浄液中に浸漬したノズルを前記超音波振動子から超音波を放射して洗浄する超音波洗浄方法が提案されている。
特公昭55−17126号公報 特開平8−27615号公報 特開平9−314078号公報
ところで、ノズルは合成繊維を溶液紡糸法や溶融紡糸法で製造する際に、孔径が50μm以下のノズルもよく使用されている。
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、孔径が0.3mm以上のノズルには有効であるが、孔径が50μm以下のノズルでは溶液が孔内まで拡散し難く洗浄が困難であった。
また、特許文献2に記載の手法においても、孔径が0.3mm以上のノズルであれば効果はあるが、孔径が50μm以下のノズルに対しては、十分な洗浄効果が得られなかった。
さらに、特許文献3に記載の洗浄方法では、メッキ等でコーティングしたノズルを処理した場合、超音波の衝撃によりコーティングが壊落する等の問題があった。また、孔径が50μm以下のノズルに対しては、十分な洗浄効果が得られないこともあった。
このように、従来技術によるノズルの洗浄方法では、特に孔径が50μm以下の細孔を有するノズルにおいては、十分な洗浄効果が得られにくく、ノズル自体に損傷を与えることもあった。
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、繊維紡糸用ノズルに付着した有機物、特に孔径が50μm以下の細孔を有するノズルに付着した有機物を、ノズルに損傷を与えることなく、効率よく除去できる繊維紡糸用ノズルの洗浄方法の提供を課題とする。
かかる課題を解決するために、本発明の繊維紡糸用ノズルの洗浄方法は、対向する電極間の放電空間を通過するガスをプラズマ化し、得られたプラズマガスを孔径が30〜60μmである繊維紡糸用ノズルに接触させる工程を有することを特徴とする。
また、対向する電極が備わる密閉された処理室にて、電極間の放電空間にガスを一方向に通過させながらプラズマ化し、得られたプラズマガスを電極間に配置した繊維紡糸用ノズルに接触させることが好ましい。
さらに、前記繊維紡糸用ノズルを、そのノズル孔が前記ガスの通過方向と平行になるように、配置することが好ましい。
また、一方の電極面に形成されたガス導入孔より処理室内にガスを導入し、発生したプラズマガスにより繊維紡糸用ノズルに付着した有機物をガス化し、生成したガスを他方の電極面に形成されたガス排出孔から処理室の外へ排出することが好ましい。
本発明によれば、繊維紡糸用ノズルに付着した有機物、特に孔径が50μm以下の細孔を有するノズルに付着した有機物を、ノズルに損傷を与えることなく、効率よく除去できる繊維紡糸用ノズルの洗浄方法を提供できる。
以下、図面に基いて本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の繊維紡糸用ノズルの洗浄方法に用いる洗浄装置の一例を示す概略図である。本発明においては、図示例の洗浄装置10に具備される処理室11内に設けられた、対向する電極12間の放電空間を通過するガスを、プラズマ発生手段13により、プラズマ化し、得られたプラズマガスを用いて、繊維紡糸用ノズル(以下、「ノズル」という。)14に付着した有機物をガス化して除去することにより、ノズル14を洗浄する。
洗浄装置10は、処理室11内に反応ガスを効率的に導入し、処理室11から生成ガスを効率的に排気できるものが好ましく、その為には、処理室11内に一定流量の反応ガスを導入でき、かつ処理室11内の生成ガスを吸引減圧できる構造であることが望ましい。
なお、本発明において、反応ガスとは、プラズマ発生手段13によりプラズマ化される前の、処理室11内に導入されるガスのことである。一方、生成ガスとは、プラズマガスによりノズル14に付着した有機物がガス化したものをいう。
処理室11は密閉された状態が好ましい。また、処理室11内の圧力は100torr以下が好ましく、非平衡プラズマ(低圧プラズマ)状態であるとノズル14に付着した有機物が効果的に除去されるので、望ましい。圧力は0.01〜10torrがより好ましく、0.1〜1torrが特に好ましい。圧力が上記範囲より高圧になると、電子の平均自由行程が小さくなり電子が十分に加速されず、結果、電子の運動エネルギーは熱エネルギーとしてガス分子に吸収されて反応ガスの温度が高くなり、ノズル基盤に損傷を与える可能性がある。
処理室11内の温度はノズル基盤の素材に因って異なるが、ステンレス鋼の場合、500℃以下が好ましく、より好ましくは200℃以下である。温度が上記値を超えるとノズル14が変形する可能性がある。
プラズマ発生手段13としては、プラズマをノズル14に照射することが可能であれば、特に制限されないが、同時に複数のノズル14を処理する為には、平行平板型の電極12を有することが好ましい。
プラズマ発生手段13の高周波電源には、一般的に用いられている周波数13.56MHzのRF電源15を使用することが出来る。さらに高密度のプラズマを必要とする場合には、30〜300MHzのVHF帯域、300〜3000MHzのUHF帯域の高周波電源を使用することもできる。但し、ノズルに付着した有機物を除去することを目的とした場合、プラズマ密度は低い方が除去効果は高い傾向にあるため、RF電源15が最適である。
前記RF電源15の出力は500〜1000Wが好ましく、より好ましくは700〜900Wである。出力が上記範囲より低いとノズル14の洗浄効果が低下する。一方、高いと処理室内の温度が上昇し、ノズル基盤に損傷を与える可能性がある。
本発明使用される反応ガスとしては、様々な気体を用いることができる。例えば、酸素、アルゴン、四フッ化炭素、六フッ化硫黄が挙げられ、中でも酸素が好ましい。反応ガスは、上述した気体を混合気体として用いることもできる。
反応ガスの導入量は、処理室11の内容積1000cm当たり1〜20ml/分(1atm、0℃)が好ましく、より好ましくは3〜10ml/分である。反応ガスの導入量が上記範囲より少ないと処理室11内の反応ガス量が少なく、洗浄効率が悪くなる。一方、導入量が上記範囲より多くなると処理室11内を低圧で安定させることが困難となる。
なお、反応ガスは、図1に示すように一方の電極12a面に形成されたガス導入孔12a’より上記範囲内において一定の速度で処理室11に導入されるのが望ましい。
処理室11内に導入された反応ガスは、対向する電極12間の放電空間を通過する際に、プラズマ発生手段13によりプラズマガスとなる。得られたプラズマガスが処理室11内に配置されたノズル14と接触すると、ノズル14に付着した有機物がガス化して生成ガスとなる。生成ガスは、その後処理室11内から排出され、ノズル14の洗浄が完了する。なお、反応ガスは、電極12間の放電空間を一方向に通過しながらプラズマ化されるのが好ましい。
ノズル14は、放電空間内であれば配置の仕方に制限はないが、ノズル14が導電材料からなる場合は、電極12との同化を防ぐ目的で、図1に示すように他方の電極12b上にセラミックス等の絶縁体の台座16を設置、その上にノズル14が配置されるのが望ましい。また、ノズル14の孔内にプラズマガスを効率よく通過させるためにノズル14のノズル孔が、反応ガスの通過方向と平行になるように配置されるのが好ましい。
ノズル14とプラズマガスとの接触時間(処理時間)は、ノズル14の表面に付着する異物(有機物)の種類、付着量や状態により異なるが、汚れの度合いが高いものほど処理時間を長くする方が好ましい。生産効率を高めるためには、RF電源15の出力を高くすることで処理時間を短縮することも可能であるが、出力を高くするとノズル基盤を損傷する可能性も高まるため、RF電源15の出力は上述した500〜1000Wの範囲内とし、処理時間を長くする方が好ましい。
生成ガスは、処理室11内を吸引減圧することにより処理室11から排出される。排出量は、処理室11の内容積1000cm当たり1〜20ml/分(1atm、0℃)が好ましく、より好ましくは3〜10ml/分である。生成ガスの排出量が上記範囲より少ないと生成ガスを効率よく処理室11より排出できなくなる。一方、排出量が上記範囲より多くなると処理室11内の圧力を上述した範囲内で安定させることが困難となる。
なお、ノズル14の孔内にプラズマガスを効率よく通過させるために、生成ガスは他方の電極12b面に形成されたガス排出孔12b’から上記範囲内の速度で排出されるのが望ましい。
本発明の繊維紡糸用ノズルの洗浄方法によれば、プラズマガスを用いてノズルを洗浄するので、従来技術では洗浄が困難であった小孔径の細孔を有するノズルにおいても、細孔の中に付着した有機物を効果的に除去できる。
従って、繊維または繊維状の製品を製造する過程で、従来技術と比較してノズル洗浄の精度、効率が向上するので、製品の品質や生産性に寄与できる。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1−1>
アクリル繊維の製造に使用した後のノズル(孔径Φ:30μm)を紡糸機から取り外し、水洗いした後に水分を拭き取り、乾燥空気を吹きつけてノズル孔内の水を除去した。光学顕微鏡にて異物が付着しているノズル孔(異物付着孔)の数をカウントした。
次いで、洗浄装置としてプラズマ装置(ヤマト科学株式会社製、「V1000」)を用いて、下記の洗浄条件に基き、ノズルの洗浄を行った。洗浄後のノズルを光学顕微鏡にて観察し、異物付着孔の数をカウントした。結果を表1に示す。
また、洗浄前(水洗いのみの場合)の観察で異物が確認された孔の総数に対する、洗浄後に異物が除去された孔の割合を異物除去率(%)として、表1に合わせて示す。
反応ガス:酸素
反応ガス導入量:6.6ml/分(処理室の内容積1000cm当たりの量)
RF電源の出力:800W
処理時間:180分
<実施例1−2、1−3>
孔径が50μmと60μmのノズルを使用した以外は実施例1−1と同様にしてノズルの洗浄を行い、洗浄前後での異物付着孔の数をカウントした。結果を表1に示す。
<比較例1−1〜1−3>
アクリル繊維の製造に使用した後のノズル(孔径Φ:30μm、50μm、60μm)を紡糸機から取り外し、水洗いした後に水分を拭き取り、乾燥空気を吹きつけてノズル孔内の水を除去した。
次いで、ジメチルアセトアミド中にノズルを浸漬し、100℃で180分間熱して、ノズルの洗浄を行った。
洗浄前後における、異物付着孔の数を光学顕微鏡にてカウントし、異物除去率を求めた。結果を表1に示す。
<比較例2−1〜2−3>
アクリル繊維の製造に使用した後のノズル(孔径Φ:30μm、50μm、60μm)を紡糸機から取り外し、水洗いした後に水分を拭き取り、乾燥空気を吹きつけてノズル孔内の水を除去した。
次いで、水を張った超音波洗浄機中にノズルを浸漬し、180分間超音波洗浄を行った。
洗浄前後における、異物付着孔の数を光学顕微鏡にてカウントし、異物除去率を求めた。結果を表1に示す。
Figure 0004881116
表1から明らかなように、水洗いのみの場合(洗浄前)は、孔径が30μmのノズルが最も多くの異物付着孔を有していた。これは、孔径が小さいノズルほど洗浄性が悪いことを示唆している。
実施例によるノズルの洗浄方法にて洗浄したノズルは、孔径が50μmおよび60μmの場合、異物は観察されず、本発明のノズルの洗浄方法により完全に異物を除去することができた。さらに、孔径が30μmのノズルであっても、2箇所の孔で異物が観察されたものの、大部分の孔では異物が除去されていた。従って、本発明のノズルの洗浄方法は、洗浄性が悪い孔径が30μmのノズルにおいても効果を発揮することができる。
一方、比較例1の洗浄方法にて洗浄したノズルは、孔径がいずれの大きさの場合でも、多くの孔に異物が見られ、さらに、閉鎖孔も多数観察された。特に孔径が30μmのノズルにおいては異物除去率が低く、洗浄性が悪かった。
また、比較例2の洗浄方法にて洗浄したノズルは、比較例1よりは異物除去率が高いものの、実施例と比べると異物が残存している孔が多数あり、異物除去率も低かった。
本発明の繊維紡糸用ノズルの洗浄方法に用いる洗浄装置の一例を示す概略図である。
符号の説明
10 洗浄装置
11 処理室
12 電極
12a 電極
12b 電極
12a’ ガス導入孔
12b’ ガス排出孔
13 プラズマ発生手段
14 繊維紡糸用ノズル
15 RF電源
16 台座

Claims (4)

  1. 対向する電極間の放電空間を通過するガスをプラズマ化し、得られたプラズマガスを孔径が30〜60μmである繊維紡糸用ノズルに接触させる工程を有することを特徴とする繊維紡糸用ノズルの洗浄方法。
  2. 対向する電極が備わる密閉された処理室にて、電極間の放電空間にガスを一方向に通過させながらプラズマ化し、得られたプラズマガスを電極間に配置した繊維紡糸用ノズルに接触させることを特徴とする請求項1に記載の繊維紡糸用ノズルの洗浄方法。
  3. 前記繊維紡糸用ノズルを、そのノズル孔が前記ガスの通過方向と平行になるように、配置することを特徴とする請求項1または2に記載の繊維紡糸用ノズルの洗浄方法。
  4. 一方の電極面に形成されたガス導入孔より処理室内にガスを導入し、発生したプラズマガスにより繊維紡糸用ノズルに付着した有機物をガス化し、生成したガスを他方の電極面に形成されたガス排出孔から処理室の外へ排出することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の繊維紡糸用ノズルの洗浄方法。
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