JP4878998B2 - 安定同位体濃度の分析方法 - Google Patents

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Description

本発明は、安定同位体濃度の分析方法に関し、詳しくは、高純度安定同位体標識アミノ酸等の難揮発性であり、かつ、分子内の炭素、水素、窒素及び酸素の内、一種類の元素が13C,H,15N及び17O又は18Oにて高濃度に標識された化合物に対し、その標識された元素の同位体濃度を決定するための安定同位体濃度の分析方法に関する。
現在、タンパクの立体構造を解明し、その情報を創薬産業へ利用する研究が活発化する状況下、タンパク質の構成要素であるアミノ酸に対しては、特定の元素の同位体を高純度に1種の同位体へ置き換えたアミノ酸である安定同位体標識アミノ酸の需要が高まってきている。すなわち、タンパク質のNMR構造解析において、不要なシグナルの消去や近接シグナルの先鋭化にはH標識アミノ酸と解析対象タンパク質内の特定部位の非標識アミノ酸との置き換えを、必要なシグナルの増大化には13C、15N標識アミノ酸との同様の置き換えを行うことで、より高分子量のタンパク質のNMR解析を可能としたり、得られる構造情報を格段に改善するなどの工夫がなされている。(例えば、特許文献1参照。)。
タンパク質内の非標識アミノ酸と置き換える標識アミノ酸の同位体標識が不完全であると、不要シグナルの除去が不完全となるほか、必要シグナルの先鋭化、増大化が不充分になるなどの不都合が生じ、より正確な構造解析の妨げとなるため、使用する標識アミノ酸に対しては、その同位体標識率は、より完全であることやその値が高精度に決定されていることが望まれている。
一方、化合物中の特定の元素の同位体標識率を求めるには、質量分析や赤外分光が利用されている。具体的には、質量分析では、前処理した試料あるいは未処理のままの試料をGCMS(Gas Chromatography Mass Spectrometry)、LCMS(Liquid Chromatography Mass Spectrometry)、IRMS(Isotope Ratio Mass Spectrometry) 等の質量分析装置で測定し、分子イオンピークと質量数+α(αは、互いに同位体である2つの核種の質量数の差)とのピーク比、あるいは、特定のフラグメントイオンと質量数+αとのピーク比が、互いに同位体である核種の存在比に等しいことから同位体純度(同位体標識率)が求められる。GCあるいはLCと組み合わせて質量分析を行うことで、混合物中の特定の化合物の同位体純度を求めることもできる。
特にIRMSの場合は、ガスサンプル:CO,N,O,SOに特化した質量分析を行い、それぞれの元素の同位体純度を求める。サンプルがCO,N,O,SO以外の場合は、まず、CO,N,O,SOへのガス化が必要である。ガス化の方法は、IRMSに接続された燃焼器での燃焼によりCO,NO,O,SOを、さらに還元によりNOからNを得る燃焼法や、脱炭酸等の化学的な前処理によりCO,NO,O,SOを得る方法などがある。IRMSはGCとの組み合わせが可能であり、さらに前述のガス化:燃焼法と組み合わせた方法はGC−C−IRMS(GC-Combustion Isotope Ratio Mass Spectrometry)と呼ばれている。
赤外分光では、CO、CHの炭素同位体の分析についてのみ、既存技術が存在する。例えば、COの場合、12CO及び13COのそれぞれの固有波長の光吸収の強度比を測定することで同位体比を分析する(例えば、特許文献1参照。)。
また、同位体分析、特に水素、炭素、窒素、酸素等の軽元素の同位体分析では、装置内での質量分別効果(装置内での質量分別効果を特に質量差別効果という。)が大きく、同位体組成の絶対値を決定するのが難しい。このため、同位体比をある標準物質からの相対偏差で議論する場合が多い(相対法)。また、安定同位体質量分析法では、質量分析時だけでなく、試料処理及び分析元素の抽出、さらには妨害元素の除去の際に分析元素が同位体分別を受ける。したがって、未知試料と標準物質とを可能な限り同じ条件下で分析することが重要となる。未知試料と同位体標準との分析条件をできるだけそろえるために、同一形状・サイズの試料導入系が2対備わった装置、いわゆるデュアルインレット方式が用いられ、また試料と標準試料は交互に測定される(例えば、非特許文献2参照。)。
軽元素の高精度同位体分析は、このデュアルインレット方式での相対法と前述のIRMSとの組み合わせで行うことが多く、特に試料がアミノ酸等難揮発性物質の場合には、前処理として燃焼法を併用したIRMSが利用されている。
一方、アミノ酸等の熱分解性・難揮発性物質の質量分析としてイオン化方法にFAB法(Fast Atom Bombardment=高速原子衝撃法)を使用する方法が知られている。FAB法では、試料をグリセロール等の粘性のある有機化合物(マトリクス)と混合し、その溶液にキセノンやアルゴン等の原子を衝突させイオン化を行う。マトリックスとしは、グリセロール、チオグリセリン、3−ニトロベンジルアルコール等が実用的なマトリックスとして知られており、試料の性質に合わせてマトリックスを選定することが質の高いマススペクトルを得る上で、非常に重要な要因であると言える(例えば、非特許文献3参照。)。
しかし、いずれのマトリックスも非常に粘性の高い物質であり、試料が固体試料の場合、それを直接マトリックスと混合しても、均一な試料溶液を得ることは困難であるため、通常、試料とマトリックスとの混合は、両者が溶解する溶媒を介して行われることが多い。以下、試料及びマトリックスが溶解する溶媒とマトリックスを混合したものをマトリックス溶液という。また、FAB法は、最も一般的なイオン化方法であるEI法(Electron Ionization)と比較するとイオン化の機構がソフトであり、分子イオン(正確にはプロトン化分子:[M+H]や脱プロトン化分子:[M−H]。以下同様)が出現しやすいといった特徴がある。イオン化により生成するイオンの内、フラグメントイオンは、分子内の特定の部位に関する情報のみを与える。一方、分子イオンは、分子全体にわたる情報を与えてくれる。つまり、分子イオンでは、分子内のどの部分の元素を特定の同位体に標識しても、その情報が反映される。このためFAB法は、同位体標識率が不明な物質に対し、その同位体標識率を求めるための手段としては、汎用性があり、優れた方法であるといえる。
このように、アミノ酸等の難揮発性物質の同位体分析では、燃焼法を併用したIRMSが用いられることが一般的ではあるものの、IRMSでは、以下のような問題点も存在していた。
(1)質量分析の前段に燃焼や還元装置を組み込むため装置が複雑化する。
(2)最終的に酸素ガス、窒素ガス及び炭酸ガス等の環境大気中に存在する物質に変換してから質量分析を行うため、環境大気からの汚染による分析誤差を生じる可能性が高い。特に環境大気中では極めて僅かにしか存在しない13C,15N,17O及び18Oにて高濃度に同位体標識された試料の測定においては、この汚染による悪影響が顕著である。
(3)CO,N,O,SOに特化した質量分析であるため、水素の同位体純度の測定ができない。
また、高精度な軽元素同位体分析においては、質量差別効果の影響を除くため、「標準物質と試料との比較相対法」が実施されているものの、これにおいても、以下のような問題がある。
(4)同位体存在比が略天然存在比と等しい試料に対する標準物質は、国際的にも整備されてはいるものの、同位体濃度が天然存在比から非常に乖離した試料に対する標準物質は国際的にも整備されておらず、入手することができない。
さらに、相対法で利用されているデュアルインレット方式にも、同位体濃度が天然存在比から非常に乖離した試料に対する標準物質は国際的にも整備されていない現状を踏まえると、以下のような問題がある。
(5)標準物質と試料との同位体組成が僅かしか異ならない場合は、高精度の同位体分析において非常に優れた方式であるものの、標準物質と試料との同位体組成が非常に乖離した場合には、装置の共用する部分(質量分析にデュアルインレット方式を採用する場合、試料導入系は標準物質と試料とでそれぞれ独立しているものの、イオン源以降の部分は共用となる。)へのメモリー効果(イオン源以降への他方の残留)により高精度な同位体分析ができない。
さらに、上記の問題を解決する可能性を有するFABMSにおいては、
(6)分子イオンピークが出現するものの、試料及びマトリックス中の微量不純物、装置由来のノイズピーク等が多く(前記非特許文献3参照)、互いに同位体である核種の濃度が同等でなく、一方のピークが他方のピークより非常に小さなケースにおいては、そのピークが前述のノイズピークに埋もれてしまうため、高精度な同位体濃度の決定に要求される質の高い、つまりは、目的とする分子イオンピークのみの強度が非常に大きく、他の不要なピークが極力抑制されたマススペクトルを得ることが困難である。
といった問題があった。
最後に、分子イオンピークの強度のみを増大させ、他の不要なピークが極力抑制されたマススペクトルを得るための手段として、新規なマトリックスを用いてFABMSを測定する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。ただし、この方法を利用すると、分子イオンピークの増大化は見られるものの、
(7)そのピークより高精度に同位体濃度を算出することに耐えうるまでの効果は得られてはいない。
以上のようにアミノ酸等の難揮発性物質であり、かつ、その同位体組成が天然存在比から大きく乖離した物質に対し、その同位体濃度を正確に求めるには数々の問題があり、これまでは、その前駆体、中間体あるいは原料の分析を行い、これらの同位体濃度をもってアミノ酸等の同位体濃度とすることが、しばしば行われているのが現状であった。
特開2005−30186号公報 特開平9−113485号公報。) 寺内,小野、安定同位体標識アミノ酸を利用したタンパク質の高次構造解析、化学と工業、2005年、58巻12号1426〜1429頁 平田、同位体比を測るための分析法、ぶんせき、2002年第4号、152〜160頁 YOKUDEL−FAB−Matrix[FAB測定用マトリックス]〜FAB測定のノウハウ、日本電子データム株式会社、2004年7月1日(第2版)
そこで本発明者は、多くの問題を抱えるIRMSを使用することなく、また、標準物質との比較分析も実施することなく、難揮発性を有する試料を質量分析する際のイオン化方法としてFAB法を採用したFABMSによって安定同位体濃度の分析を行うにあたり、試料中の目的物由来のピークを格段に増大させ、かつ、不要ピークの出現を極力抑制することで、得られるマススペクトルの質を向上させ、高精度な同位体濃度の決定に有用なものとすることが、高度に標識されたアミノ酸等の難揮発性物質の同位体濃度の決定に非常に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の安定同位体濃度の分析方法は、試料を質量分析することによって試料中の安定同位体濃度を分析する方法において、質量分析する際の試料のイオン化方法としてFAB法を採用するとともに、該FAB法で使用するマトリックスを溶媒に溶解したマトリックス溶液に強酸を添加し、前記マトリックス溶液に前記試料を混合して質量分析を行い、該質量分析で得られたピークの中で、最も存在確率が高い分子イオンのピークとその次に存在確率が高い分子イオンのピークとの強度比から安定同位体濃度を算出することを特徴としている。
さらに、本発明の安定同位体濃度の分析方法は、前記ピークの強度比からの安定同位体濃度の算出を、前記試料の質量分析から得られたピークのみを用いた絶対測定で行うことを特徴としている。
また、上述の安定同位体濃度の分析方法において、前記マトリックスには、グリセリン、チオグリセリン、3−ニトロベンジルアルコール、ジチオスレイトール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンの少なくともいずれか一種を主成分とするものが好適に使用でき、前記溶媒には、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ベンゼン、N,N’−ジメトルホルムアミドの少なくともいずれか一種を主成分とするものが好適である。
さらに、前記マトリックス溶液のマトリックス濃度が10体積%であり、特に、前記マトリックス溶液がグリセロールを10体積%含む水溶液であることが好ましく、前記強酸が塩酸、硝酸、硫酸のいずれかであること、特に前記酸が塩酸水溶液であり、塩酸水溶液の濃度を1Nとしたときの体積比の添加量が前記マトリックス溶液の6に対して前記1Nの塩酸水溶液が1の割合で酸を添加することが更に好ましい。
本発明の安定同位体濃度の分析方法によれば、燃焼装置や還元装置を質量分析計の前段に組み込む必要がなく、装置の簡略化を図ることができる。また、標識アミノ酸等を酸素、窒素、炭酸ガス等へ変換しないので、これらが環境大気から混入することによる分析誤差が生じる可能性もない。さらに、分子にプロトンを付加しただけの分子情報を含む分子イオンピークを用いた同位体純度の決定であるため、H濃度の情報を得ることができ、水素の同位体分析も可能である。
しかも、サンプルのみの測定で濃度を算出できるので、デュアルインレット方式のようなメモリー効果による分析精度の低下のおそれもない。加えて、一方のピークが他方のピークより非常に小さなケースであっても、試料及びマトリックス中の微量不純物、装置由来のノイズピーク等に小さなピークが埋もれてしまうことがなく、高精度な同位体濃度の決定に充分に利用可能なマススペクトルの取得が可能であり、様々な問題を抱える難揮発性物質の高精度な同位体濃度の決定が可能となる。
なお、本発明は、構成元素の内、1つの元素の同位体濃度が不明な場合に利用されるものではある。しかし、複数の元素の同位体濃度が不明な場合であっても、その濃度を別の手段、例えばIRMSやIR、NMR等を用いて決定し、同位体濃度が不明な元素を1つとした状態で、本発明を利用することにより、複数の元素の同位体濃度が不明な場合であっても、それらをすべて決定することが可能である。
まず、本発明方法を実施するためには、例えばアミノ酸等の難揮発性物質の同位体濃度を分析する際には、FABMS分析において、マトリックス溶液を適切に調合することが非常に重要となる。具体的には、マトリックスを溶媒に溶解し、マトリックス溶液とする際、マトリックス濃度を適切に設定する必要がある。マトリックス濃度は、マトリックス及び溶媒の種類に応じて調整可能であるが、通常は、体積比で10vol/vol%となるように調製することが最も望ましい。
本発明で用いるマトリックスとしては、一般的に使用されているものを用いることが可能であり、具体的には、グリセリン(グリセロール)、チオグリセリン、3−ニトロベンジルアルコール、ジチオスレイトール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が使用可能であり、前記特許文献2に記載されているような特殊なマトリックスも使用可能である。これらのマトリックスの中では、グリセロールを選定した場合が本発明の効果が最も顕著となる。
前記溶媒には、前述のマトリックスと、測定対象となる試料とが共に溶解するものであれば任意の物質を選択することができ、具体的には、純水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ベンゼン、N,N’−ジメトルホルムアミド等を使用することが可能であるが、本発明の効果が最も顕著に現れるマトリックスと溶媒との組み合わせは、グリセロールと純水との組み合わせである。
さらに、上述のように調製したマトリックス溶液に微量の酸を添加することにより、その効果を飛躍的に向上させることができる。具体的には、1Nの塩酸水溶液を前記マトリックス溶液に、体積比でマトリックス溶液:塩酸水溶液=6:1になるように混合したマトリックス溶液とすることにより、本発明の効果が最も顕著になる。なお、酸の種類及び濃度の厳密さは特に限定するものではなく、効果の程度差はあるものの、酸の種類としては硝酸や硫酸等であってもよく、濃度としても厳密に1Nである必要ない。
実施例1
まず、マトリックス溶液として、次の3種を調製した。
溶液A:高純度のグリセロール及び超純水製造装置にて製造した超純水を、室温にて体積比がグリセロール:超純水=1:9となるように混合した後、良く攪拌して均一なマトリックス溶液を調製した。
溶液B:前記溶液Aと1N塩酸水溶液(中和滴定用に市販されている一般的なもの)を、室温にて体積比が溶液A:1N塩酸水溶液=6:1となるように混合した後、良く攪拌して均一なマトリックス溶液を調製した。
溶液C:高純度のグリセロール及び超純水製造装置にて製造した超純水を、室温にて体積比がグリセロール:超純水=1:1となるように混合した後、良く攪拌して均一なマトリックス溶液を調製した。
また、試料には、グリシン、セリン、システイン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、メチオニン、ヒスチジン及びトリプトファンの10種のアミノ酸を使用した。これらのアミノ酸は、いずれも分子内の全ての炭素原子を高度に13Cにて標識した濃縮品である。
各試料1mgと各マトリックス溶液30μLとをそれぞれ混合したものを対象として質量分析を行い、各試料及び各マトリックス溶液を組み合わせた30個のマススペクトルを取得した。質量分析におけるスペクトル取得条件は、衝突ガスはキセノン、加速電圧は1kV、質量走査範囲は50〜250、質量分解能は低分解能測定(M/ΔM=500)とし、一つのアミノ酸に対するスペクトル取得条件は、マトリックス溶液の種類が異なること以外は細部にわたるまですべて同一とした。
このようにして行ったFABMS分析の結果を、同位体濃度算出に使用するピークである分子イオンピークの強度と、マトリックス由来ピーク等の前記分子イオンピーク以外のピークの状態との2点により評価し、得られたマススペクトルが高精度な同位体分析に有用であるかどうかを判定した。
各マトリックス溶液を使用して測定した30個のマススペクトルから各スペクトルにおける分子イオンピーク([M+H])の絶対強度をそれぞれ抽出したものを表1に示す。
Figure 0004878998
表1から、10種のアミノ酸の内、メチオニン以外の9種のアミノ酸で溶液C、溶液A及び溶液Bの順で分子イオンピークの絶対強度が大きくなっており、溶液A及び溶液Bは、高精度な同位体分析に有用なマトリックス溶液であることがわかる。また、メチオニンの測定においても、分子イオンピークの絶対強度がもっとも大きいものは溶液Bであり、溶液Bは溶液Aより更に汎用性があることが分かる。
一方、前記分子イオンピーク以外のピークの状態に関しては、マトリックス由来ピーク等の前記分子イオンピーク以外のピークの代表例として、今回使用したマトリックスであるグリセロールのメインピーク(最も強度が強く出現するピーク:M/Z=93)が挙げられる。そこで、各スペクトルから同ピークに対する前記分子イオンピークの割合、すなわち、マトリックスのメインピークに対する分子イオンピークの相対強度を算出した。その結果を表2に示す。
Figure 0004878998
表2の数値は、大きいほどマトリックス溶液由来のピークが小さく抑えられ、高精度な同位体分析に有用なマトリックス溶液であるといえる。したがって、表2からは10種のアミノ酸の内、グルタミン以外の9種のアミノ酸で溶液Bが最も優れたマトリックス溶液であり、その次は溶液Aであることが分かる。また、この評価においても、前記同様にグルタミンも含めた10種のアミノ酸で最も数値が大きいものは溶液Bであることから、溶液Bは非常に優れたマトリックス溶液であるといえる。
実施例2
マトリックス溶液として、グリセロールと超純水との混合比を、グリセロールの体積濃度が5、10、25及び50の各体積%になるようにした4種を調製した。また、試料には、いずれも分子内のすべての炭素原子及び窒素原子を13C、15Nにて高度に標識した濃縮品であるセリン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン酸、ヒスチジン及びトリプトファンの6種を用意した。
実施例1と同じ条件で24個のマススペクトルを取得した。その結果得られた各マススペクトルから、各アミノ酸に対する分子イオンの絶対強度を抽出し、マトリックス溶液として10体積%グリセロール水溶液の絶対強度を1とした場合の各グリセロール濃度に対する各アミノ酸の分子イオンピークの絶対強度を比較した。その結果を図1に示す。図1から、いずれのアミノ酸においてもマトリックス溶液としてグリセロール濃度が10体積%の際の分子イオン強度が最大となっており、この溶液が最も有用であることが伺える。
さらに、実施例1と同様にして相対強度を比較した結果を図2に示す。図2からも、いずれのアミノ酸においてもマトリクス溶液としてグリセロール濃度が10体積%の際の分子イオンの相対強度が最大となっていることがわかる。
実施例3
実施例1における溶液Bを使用し、実施例1で試料とした10種のアミノ酸に対して再現性の確認を行った。このデータ取得においては、1日1データを取得することを5日間行い、得られたマススペクトルから13C同位体濃度を算出した。なお、濃度算出に当たっては、炭素以外の元素の同位体は天然存在比とした。計算結果を表3に示す。
Figure 0004878998
表3に示す結果から、10種のアミノ酸すべてに対する再現精度(相対標準偏差)は、すべて0.1%以内という高精度な結果が得られたことが分かる。
実施例4
マトリックスをグリセロールからチオグリセリンに代えた以外は実施例1と同じ操作を行い、同様の比較を実施した。各マトリックス溶液におけるグリシン及びセリンの分子イオンピークの絶対強度を表4に、相対強度を表5にそれぞれ示す。
Figure 0004878998
Figure 0004878998
実施例5
マトリックスをグリセロールからジエタノールアミンに代えた以外は実施例1と同じ操作を行い、同様の比較を実施した。各マトリックス溶液におけるシステイン及びアスパラギン酸の分子イオンピークの絶対強度を表6に、相対強度を表7にそれぞれ示す。
Figure 0004878998
Figure 0004878998
実施例4及び実施例5の結果から、マトリックスがグリセロール以外であっても有効であることが分かる。
実施例6
試料として疎水性物質であるヒポキサンチン及びFmoc−ロイシンを使用するとともに、溶媒を超純水からN,N’−ジメトルホルムアミドに代えた以外は実施例1と同じ操作を行い、同様の比較を実施した。各マトリックス溶液におけるヒポキサンチン及びFmoc−ロイシンの分子イオンピークの絶対強度を表8に、相対強度を表9にそれぞれ示す。
Figure 0004878998
Figure 0004878998
表8及び表9から、溶媒を適切に選定することにより、アミノ酸等の親水性物質に対して有効であるに留まらず、疎水性物質に対しても有効であることが分かる。
実施例7
マトリックス溶液に添加する酸を1N塩酸水溶液から1N硝酸水溶液に代えた以外は実施例1と同じ操作を行い、同様の比較を実施した。各マトリックス溶液におけるグルタミン酸及びトリプトファンの分子イオンピークの絶対強度を表10に、相対強度を表11にそれぞれ示す。
Figure 0004878998
Figure 0004878998
表10及び表11から、程度の差はあるものの酸の種類によらず有効であることが分かる。
実施例8
実施例1における溶液Aに添加する塩酸水溶液の濃度を、0.1、0.5、1、3及び6の各規定の4種の塩酸水溶液とした以外は、実施例2と同様の比較を実施した。さらに、比較のために酸を添加しないもののデータも取得した。その結果を図3及び図4に示す。
図3及び図4から、いずれのアミノ酸においても酸溶液として1N塩酸水溶液を添加した際の効果が最大ではあるものの、酸添加を全く行わなかったもの(図中の塩酸濃度:0Nの点)と比較するといずれの酸濃度においても、すべてのアミノ酸に対し、絶対強度及び相対強度が共に増大しており、微量の酸添加は、厳密な濃度によらず、広範囲の濃度で有用であることが伺える。
実施例9
分子内の窒素原子をすべて15Nにて高濃度に標識したグリシンを試料とし、マトリックス溶液として前記溶液Bを使用して試料中の安定同位体濃度を分析した。試料1mgを、30μLの10%グリセロール水溶液と5μLの1N塩酸水溶液とからなるマトリックス溶液に混合して均一な試料溶液とした。この試料溶液を質量分析計のイオン源に挿入してマススペクトルを取得した。マススペクトルの測定条件は、実施例1と同じとした。取得したマススペクトルを図5に示す。
このマススペクトルには、分子由来の最大ピークとしてM/Z=77に強度:2660428のピークが得られ、かつ、その次に大きな分子由来のピークとしてM/Z=76に強度:11367のピークが得られた。これらの強度比は、それぞれのピークを与える分子の存在比に等しいことから、これらの強度を用いて15N濃度を算出すると、15N濃度は99.6atom%となった。
また、同じ試料を従来法であるN変換IRMS法にて測定したところ、15N濃度は83.1atom%となり、前処理及び測定室における環境大気中の窒素ガスの影響で正確さに欠ける結果となった。さらに、グリセロール濃度が50%であるマトリックス溶液(塩酸添加無し)を使用したときの15N濃度は92.1atom%であった。
実施例10
分子内の窒素原子を高純度に15Nで標識したセリンを試料とし、実施例9と同じ操作を行ってマススペクトルを取得した。取得したマススペクトルを図6に示す。このマススペクトルには、分子由来の最大ピークとしてM/Z=107に強度:2467433のピークが得られ、かつ、その次に大きな分子由来のピークとしてM/Z=106に強度:17601のピークが得られた。これらの強度比から15N濃度を算出したところ、15N濃度は99.3atom%となった。
グリセロール濃度と分子イオンピークの絶対強度との関係を示す図である。 グリセロール濃度と分子イオンピークの相対強度との関係を示す図である。 塩酸水溶液濃度と分子イオンピークの絶対強度との関係を示す図である。 塩酸水溶液濃度と分子イオンピークの相対強度との関係を示す図である。 実施例9で取得したマススペクトルである。 実施例10で取得したマススペクトルである。

Claims (8)

  1. 試料を質量分析することによって試料中の安定同位体濃度を分析する方法において、質量分析する際の試料のイオン化方法としてFAB法を採用するとともに、該FAB法で使用するマトリックスを溶媒に溶解したマトリックス溶液に強酸を添加し、前記マトリックス溶液に前記試料を混合して質量分析を行い、該質量分析で得られたピークの中で、最も存在確率が高い分子イオンのピークとその次に存在確率が高い分子イオンのピークとの強度比から安定同位体濃度を算出することを特徴とする安定同位体濃度の分析方法。
  2. 前記ピークの強度比からの安定同位体濃度の算出は、前記試料の質量分析から得られたピークのみを用いた絶対測定で行うことを特徴とする請求項1記載の安定同位体濃度の分析方法。
  3. 前記マトリックスは、グリセリン、チオグリセリン、3−ニトロベンジルアルコール、ジチオスレイトール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンの少なくともいずれか一種を主成分とするものであることを特徴とする請求項1又は2記載の安定同位体濃度の分析方法。
  4. 前記溶媒は、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ベンゼン、N,N’−ジメトルホルムアミドの少なくともいずれか一種を主成分とするものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の安定同位体濃度の分析方法。
  5. 前記マトリックス溶液のマトリックス濃度が10体積%であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の安定同位体濃度の分析方法。
  6. 前記マトリックス溶液は、グリセロールを10体積%含む水溶液であることを特徴とする請求項1又は2記載の安定同位体濃度の分析方法。
  7. 前記強酸が塩酸、硝酸、硫酸のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の安定同位体濃度の分析方法。
  8. 前記酸が塩酸水溶液であり、該塩酸水溶液の濃度を1Nとしたときの体積比の添加量が前記マトリックス溶液の6に対して前記1Nの塩酸水溶液が1であることを特徴とする請求項1乃至6記載の安定同位体濃度の分析方法。
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